6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:00:27.54 ID:djJd0FGIP


 夜の甲板は幻想的だった。
 闇の中にゆらゆらと揺れるカンテラが、あらゆるものにぼんやりとしたオレンジの光を投げかける。
 
 夕食を終えた水兵たちがぶらぶらと甲板に姿を現しはじめた。
 ひとりの見知らぬ水兵がクーのそばを通り過ぎるとき、彼はクーに向かって親しげに笑いかけてきた。

 それでクーは、とても驚いたような顔をした。




   川 ゚ -゚)は探しているようです  第五話
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:03:05.08 ID:djJd0FGIP
一.



 水兵は何ということもなしに、そのままクーのそばを通り抜け、船首楼のほうに歩み去っていった。

川;゚ -゚) ……

 見知らぬ人から気さくに笑いかけられるなど、
 クーにとって、ひょっとして始めての経験だったのかもしれない。

 汚い身なりとぐしゃぐしゃの髪をしていた陸の上では、
 クーに対する人々の反応は、二通りあった。

 一つは、汚いものを見るように侮蔑と嫌悪の視線を遠慮なく浴びせるというもの。
 もう一つは、そこに何もなかったかのように無視をすること。

 人々のそんな酷い扱いに、クーはもう、慣れきっていた。


10 名前:>>8ぬお 後で試すです:2009/05/25(月) 22:06:09.12 ID:djJd0FGIP

 だが今のクーは違う。
 少なくとも、通りすがりの見知らぬ男から挨拶の笑顔を受け取ることができるくらいには、
 その外見と服装はちゃんとしたものになっていた。

 服装は水兵たちが着ているものと同じ水兵服がクーに与えられていた。
 ただし、横幅も背丈も半分ほどのサイズの、少年兵用のものだが。

 青と白の縞模様のオープンシャツに、白いキャンバス地のズボンと幅広の黒い皮ベルト。
 いわゆる「セーラー服」の形に、大きな襟が背中に作られた上衣。

 やせっぽちで小さくて、青白い肌をしていても、そのまっさらのごわごわした服装を身にまとっていると、
 それなりの少年水兵のように見えてくるんだから不思議なものだ。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:07:57.92 ID:djJd0FGIP

 また一人、男が舷側通路を歩いてきた。
 今度はクーは、自分から、男に向かって笑いかけてみた。

 男はびっくりしたように一瞬足を止めると、にかっとヤニだらけの歯を見せて破顔し、
 少女クーの頭にぽんぽんと左手を載せ、その手を二、三度振って歩み去っていった。

 暖かい気持ちが心に満ちてくるのを、クーは感じていた。


 甲板の反対舷にほかのグループが輪になっていた。
 12ポンド砲に腰掛けたヴァイオリン弾きが、時々調子をはずしながら、楽しげな曲を演奏していた。
 腹を満たし、配給の水割りラム酒で顔を赤くした男たちが、
 夕食後の憩いのひと時を、思い思いに、好きなように過ごしていた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:11:21.19 ID:djJd0FGIP

 艦尾楼のほうからまた一人の男が歩いてきた。
 クーは舷側通路の脇に立ち、
 彼の顔が見える距離に来たら、また他の皆と同じように笑顔で迎えようと思った。


 近づくにつれよく見ると、どうもその男は水兵ではないようだった。

 真っ黒なローブを羽織って、金色の髪も短く切りそろえている。
 首から金属のネックレスをぶら下げて、
 胸元にはショボンがしていたのと同じ、十字架の聖像を掲げている。

川 ゚ -゚) …?

 彼は他の水兵たちと違い、真っ直ぐにクーのほうに向かって歩いてきているようだ。


 クーの表情から笑顔が消えた。
 近づきつつあるその男に対し、なぜか、わずかな警戒の念を抱いた。

 といって歩き方、表情、態度など、外見にこれといって不審な点があるわけではない。
 野生の勘、としかいいようのない感覚で、クーは男にどこか危険なものを感じていた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:16:13.12 ID:djJd0FGIP

 顔の見える距離にまで近づくと、牧師の格好をしたその男は親しげにクーに声をかけてきた。

( ・∀・)「やあ、きみ。
      本国では売春宿で働いてたんだって?」

川 ゚ -゚)(…!!)

 突然の挨拶は、この上もなく非礼なもので始まった。
 クーの警戒は決定的なものとなった。

川 ゚ -゚)(この男、私を知っているのか?)

 さっきまでののんびりとした暖かい気持ちは、男の下賎な挨拶で一瞬にして吹き飛んだ。


 クーはじっくりと、この横柄で無礼な男の姿を観察した。
 全身を覆う黒いローブは国教会の下位の牧師がよく着ているものだった。
 首のロザリオはショボンと同じ物。

 すると、この男は、ショボンと同じく軍艦に派遣された聖職者なのだろうか。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:19:08.62 ID:djJd0FGIP

 クーのいぶかしむような動作を見て、男はふふっと笑った。

( ・∀・)「つれないなあ。何を警戒しているんだい?」

 男は一歩、クーのほうに踏み出してきた。
 クーはそれを脅威に感じたので、正確に一歩後ろに下がって、男との距離を保った。

 男はにやけたような、ふざけたような表情のまま、クーに向かって語りかけてくる。

( ・∀・)「そんなに怖がらなくていいじゃないか。僕は悪い男じゃないよ。
      きみ、売春宿では、嫌らしい男どもの「お相手」をいっぱいしてきてたんだろ?」

 二度目の侮辱に、クーは牙を剥くことにした。
 男の目をにらみ付けたまま黙って袖口に手を入れた。

 いつもの場所に、ナイフはちゃんと縫い付けてある。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:21:00.08 ID:djJd0FGIP

 クーの動作を見て、男はあわてて言い添えた。

( ・∀・)「おっとっと待って。そいつを抜くのは勘弁してくれ。
      その袖口には、陸で何人もの少年ギャングたちの血を吸い続けてきた、
      きみ愛用のナイフが仕舞ってあるんだろ?」

川;゚ -゚)(…!)

 自分の隠し武器の存在を知られていることに、クーは衝撃を受けた。

( ・∀・)「もっとも、いかに恐ろしいそのナイフといえど、フサだけは殺し損ねたみたいだけどねえ」

 人をばかにしたような笑顔の中で、
 男はクーの度肝を抜くようなことを、すらすらと喋り続けた。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:25:42.76 ID:djJd0FGIP

 内心の動揺を悟られないように、クーは静かに男に語りかけた。

川 ゚ -゚)「お前は…何者だ」

( ・∀・)「僕は何でも知ってるよ、クー」

 優越感を前面に出した言葉遣いで、牧師は返答した。

 私が知らないこの男は、私のことを何でも知っている。
 クーは男の態度に、こんどこそあからさまな危険を感じた。

 そして危険はクーの小さな心臓を鷲掴みにして、恐怖を生んだ。
 その恐怖心は、クーをして危険の除去のための行動――すなわち相手の無力化、殺害――へと駆り立てていく。


 それを察したのか、男は両手を前につきだし、クーを牽制するそぶりを見せる。

( ・∀・)「あ、待って、待って。いま僕を殺しちゃったら、君は大損することになるよ。
      せっかく君にとって役に立つ話を持ってきてあげたのに」

川 ゚ -゚)「…? 私に役に立つ話、だと」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:27:58.11 ID:djJd0FGIP

 ちょうどそのとき一人の水兵が舷側通路を歩いてきて、
 クーと怪しい牧師の会話している隣を通り過ぎていった。

「よう、モララー」

 顔を夕食の配給酒で真っ赤にした水兵は、緊迫した二人の雰囲気に気づくことなく、
 普段とかわらぬ様子で、すれ違いざまに親しげに牧師に声を掛けた。
 牧師は上品に手を上げて、水夫の挨拶に答えた。

 クーは思わぬ第三者の出現によって、警戒心と緊張が緩和され、
 気持ちの落ち着きをいくぶん取り戻した。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:30:58.72 ID:djJd0FGIP

 酔っぱらい水夫が十分に遠ざかってから、牧師はふたたびクーに語りかけた。

( ・∀・)「ふー。こんなところじゃゆっくり話も出来ないね。
      どう? 僕の話を詳しく聞いてみない?
      きっと君は喜んでくれると思うんだけど」

川 ゚ -゚)「……」

 男はそう言うと、クーの返事も待たず、まるで彼女が後を付いてくることはわかっていると言わんばかりに、
 舷側通路の真下にある甲板の暗がり、索止め栓座の影になっているところに移動していった。

川 ゚ -゚)(罠か…いや…)

川 ゚ -゚)(この男が私に罠を仕掛ける理由が無い。
     それに、私に利益のある話なら、聞く価値があるな。
     聞くだけなら、私に不利益は無い)

 少しの逡巡の後、クーも男の後ろを追った。
 警戒し、十分な距離をとりながら。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:35:35.18 ID:djJd0FGIP

 棍棒のような形をした索止め栓がいくつも止められている栓座は、人の背丈ほどの高さがあるので、
 その奥の陰は甲板にいる他のどの水夫たちからも死角になっていた。

 カンテラの明かりもここまでは届かず、また頭上は舷側通路に覆われて光が遮られ、
 牧師の黒いローブは闇に溶け込み、白い顔と金色の髪だけが、うすぼんやりと浮かんでいる。
 それが、牧師の怪しさをより?き立てていた。

 モララーと呼ばれた牧師とクーは、しばらく暗闇の中で、無言で向き合っていた。


 クーは少し喉を鳴らすと、問いかけた。

川 ゚ -゚)「話とは、何だ」

 クーの言葉に牧師は頬を吊り上げて笑うと、右手を持ち上げる動作をした。

 クーは反射的に飛び退き、袖口からナイフを抜き、構えた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:40:52.89 ID:djJd0FGIP

 だが怪僧はそれ以上の変な動きには出なかった。
 どうやら彼は、喋りだす前に少しもったいをつけたかっただけのようだ。

( ・∀・)「…まったく、行動力のある子供だね、君は。感嘆に値するよ。
      僕のわずかな動きに反応してそんなに素早く武器を構えるなんて」

 牧師が話し始めてもクーはまだ警戒を解かず、注意深くモララーの四肢の動きを注視している。
 モララーはあきれたように肩をすくめ、クーの態度は無視して、話を続けた。

( ・∀・)「で、僕は、君のその猛烈な行動力の源は何だろうかと考えていたんだけど、
      きみ、ひょっとして、陸の上に恨みに思っている人物を残してきてはいないかい?」

川 ゚ -゚)(恨み?)

 モララーの言葉にクーは、とっさに二つの女の顔が浮かび上がってきた。

川 ゚ -゚)(恨み、ね…)

 だがその名を口に出すことはなく、やはりかわらず無言でモララーの動きに注視した。
 牧師はクーが何も言わないのに、さも得心したかのように大きくひとつ頷いた。

( ・∀・)「うんうん、そうだろうそうだろう。やっぱりね。
      僕が持ってきた「君に役に立つ話」ってのは、じつにこのへんのところに関係がある話なんだけどね」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:44:25.11 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)「おい待て。私は何も――」

( ・∀・)「つまり僕は、君の恨み――復讐の手伝いを、することができるって話だ。
      僕はこうみえても聖職者だ。気に食わない相手に異端の汚名を被せて、
      教会の名の下に、誰だって投獄でも首吊りでも、…なんなら火あぶりにだってする権限を持っているのさ」

 得意げに言い募るモララー。

 クーの脳裏にもやもやと映像が浮かんできた。
 忘れ得ぬ忌まわしい過去の記憶。

川 ゚ -゚)(復讐…)

 考えたこともなかったが、それはたしかに、クーにとって最高の爽快感をもたらしてくれる、甘美な想像ではあった。

 その妄想は、同牢の囚人たちに苛め抜かれてぼろくずのようになったハインや、
 十字架の上で、焼け爛れた唇で慈悲を乞い、泣き叫びながら炎に包まれるフォックスの姿だった。

( ・∀・)「ね? 素敵だろう?
      若い女のほうは、なんなら終身刑男囚の牢に放り込む刑罰なんてどうだい?
      彼らはいろいろなものに飢えているからねえ。きっと心地よい悲鳴が聞けると思うよ」

 自分の心中を見透かされているような気がして、クーはまた、嫌な気分になった。

 クーは認めざるを得なかった。この交渉の主導権は、相手にある。
 どうやら話し相手の役者は、この牧師のほうが一枚も二枚も上手のようだ。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:48:14.81 ID:djJd0FGIP

 クーはゆっくりと息を吸い込んだ。
 そして目を閉じて、大きなため息をひとつつき、ナイフを袖口の隠しポケットに戻した。

 下ろした腕にぎゅっと拳を握り、モララーの目を見つめながら、クーは低く唸った。

川 ゚ -゚)「…で、お前は、何が望みなんだ?」

( ・∀・)「おっと、さすが孤児として生き抜いてきた君は、世の中のことを正しく知っているんだね。
      利益を与えてもらえるときは、必ず相手も自分自身の利益を狙って――」

 長弁舌を振るいかけていたモララーだが、クーの刺すように冷たい視線を受けて、
 だんだんと言葉が尻すぼみになっていった。

( ・∀・)「あーいや、別に望みなんて。ただ、君とは仲良くしておいたほうがいいと思ってさ。それで――」

川 ゚ -゚)「どう『仲良く』なればいいのか、と聞いている」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:50:31.37 ID:djJd0FGIP

( ・∀・)「どう、ってねえ…。
      あ、申し送れました。私はニューソク国教会の牧師、モララーと申します。
      ――と、言うのは世を忍ぶ仮の姿でして、
      じつは国王陛下の秘密の勅命を受けて情報収集の任に当たっております、
      陰ながら国家のために働く国士でありまして」

川 ゚ -゚)「ああ、お前、スパイだったのか」

( ・∀・)「身も蓋も無い言い方をすれば」

川 ゚ -゚)「スパイか、なるほど――うん、それでわかったよ」

 クーは得心したように頷いた。

川 ゚ -゚)「つまり、陸に身寄りも、海軍に所属も無い私を、スパイとして使おうという話かな」

( ・∀・)「スパイだなんて大げさな。
      ただ、何か大きな事業を行うために人々の意思を統一しようとするときには、
      ときには猿芝居のひとつも必要になってくるってことは、統治に当たる指導的立場――」

川 ゚ -゚)「ああもう、わかったわかった」

 この牧師は、いついかなるときでも実に舌がよく回るようだ。
 クーは両手を振って、モララーの長演説を遮った。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:54:16.93 ID:djJd0FGIP

( ・∀・)「わかってくれましたか」

川 ゚ -゚)「わかったから、ひとつだけ答えろ」

( ・∀・)「なんなりと」

川 ゚ -゚)「お前は私にスパイになれと言うが、ここは『国王陛下の海軍』の軍船の中だろ?
     敵国の地でもないのに、そんなところでどうして国王陛下のスパイが必要なんだ?」

( ・∀・)「あー、そのことですか…」

 モララーは首元の居住まいを直し、長弁舌の準備をした。
 それを見てクーは、「またか」、と嫌な顔をする。

( ・∀・)「この国には二人の王族がいます。王兄レオ・ロマネスク二世と、王弟アーネム公。
      そして、この艦隊の総司令官は、あなたも知ってのとおり、私生児アーネム公です。
      現王であられるロマネスク二世が、無冠の弟アーネム公の動きに神経過敏になられても、
      この状況では無理も無いと思いませんか」

川 ゚ -゚)「なるほどな。兄王が弟と兄弟喧嘩してるから、弟の持つ軍事力に探りを入れてるのか」

( ・∀・)「いやお二人は、ケンカはしてませんけどね。
      …まだ、ね」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 22:58:11.02 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)「スパイか…。
     するとお前の言うとおり私がスパイになるとしたら、
     これから私は王弟派を裏切り、王兄派のほうについて、働くことになるんだな」

( ・∀・)「いやいや、働くなんて大げさな。君には、僕らの手伝いをちょこっとしてもらうだけでいいんだ。
      それで君は、僕らの立派な仲間、王兄陛下のために共に働く同志になるんだ。
      じっさいのところ、プランはすでに僕の頭の中に浮かんでいるんだからね」

川 ゚ -゚)「プラン?」

( ・∀・)「そう、プラン。既に舞台とシナリオは出来ているんです。
     これからこの艦で起こる『出来事』に、君にも一枚、かんでもらいます。
     なに、感じの良い仕事だよ。ちょい役の役者のようなもんでね、たったひとつのセリフを言うだけさ」

川 ゚ -゚)「……」

 黙りこんだクーに、モララーは右手を差し出してきた。

( ・∀・)「さあクー、僕の手を取って。
      僕は、君に居場所を与えようというんだよ。
      誰からも必要とはされない孤独な生は、生きるに値しないと思わないかい?」

 にやりと、いやらしい笑みを見せながら。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:00:02.09 ID:djJd0FGIP
二.


 クーが自室のドアを開けると、既にショボンは寝る準備を整えて、ベッドに腰掛けていた。

(´・ω・`)「やあクー、おかえり」

 入ってきたクーのほうを振り返り、ショボンが親しげに声を掛けてくる。

 クーはショボンを一瞥した。
 だが何も言葉を返さず、そのまま自分のベッドに潜り込んだ。

(´・ω・`)「おなかは空いてないかい? 夕食にはちゃんとありつけたかい?
     夕食はね、砲列甲板を使った食堂で、食卓ごとに…」

 ショボンは横になったクーに話しかけたが、
 クーはうるさそうにごろんと寝返りを打ち、ショボンに背中を向けてしまった。


 会話を拒絶されたショボンはしばらくその背中を眺めていたが、
 やがてしょぼんとして自分も毛布をめくり、寝台に横になった。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:02:10.20 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)(ふん、クソ坊主め)

 モララーと同じ聖職者の証であるロザリオを首に掛けているショボン。
 二人はおそらく、同じ王兄派のスパイとしての任務を帯びて、この艦隊に潜り込んでいるのだろう。

川 ゚ -゚)(結局はこいつも、スパイだったんだな)

 クーは、今ではそう確信していた。

川 ゚ -゚)(そう、ショボンはモララーと同じスパイだ。私の推理を根拠づける理由は、たくさんあるぞ…。
     さっき、モララーはどうしてあんなに私の胸の内について詳しかったんだ?
     昨日の夜、私はうかつにも、この同室のクソ坊主に、自分の胸のうちを明かしてしまっていた。
     ショボンめ、それをしっかりとお仲間のモララーに伝えていたんだろう。
     「スパイにうってつけのヤツが見つかったぜ」って具合にな)

 自分の心がもてあそばれたような気がして、
 クーの心中に怒りの火が、ぽっと燃え上がった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:04:34.87 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)(あるいは、このスパイども、コンビかもしれないな。
     モララーが私に冷酷な命令を下し、ショボンがやさしく私の心のケアをして信頼を得る、
     そういう二段構えの罠を考えているのかもしれないな)

 クーの内心の怒りは、最初は一本の枯れ草についた火のようなものだったが、
 自分の妄想という燃料を次々に投下され、じょじょに大きく燃え上がりつつあった。

川 ゚ -゚)(…人の心を、弄びやがって……)

 悔しさでかみ締めたクーの歯が、偶然に大きな音を立てた。
 ショボンはびっくりして体を起こした。

(´・ω・`)「ど、どうしたんだい、クー」

 その声すらしらじらしいものに感じて、クーは返事のかわりに拳で壁を叩いた。
 どん、という重い音がした。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:05:58.08 ID:djJd0FGIP

 部屋はしんとなった。
 波の音ばかりが打ち寄せる沈黙の中に、クーの怒りの気配が充満していた。

 ショボンはうろたえた。

(´・ω・`)「何か…あったのかい。何かあったのなら、僕に話しておくれよ」

川 ゚ -゚)「黙れ。もう、その手には乗らん」

 クーは言って、毛布を引き上げ、それを頭からかぶって体を丸めてしまった。

 掛ける言葉を捜していたショボンも、せむしのように丸くなって毛布に入ってしまったクーに、
 やがて話しかけることを諦めて、自分のベッドに寝転んだ。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:10:26.06 ID:djJd0FGIP

 士官室の二人部屋の中には再び静寂が戻っていた。

 クーはイライラしていた気分を沈めるために、
 毛布の作り出す暖かい闇の空間の中で、怪僧モララーの言っていた「プラン」を、もう一度確認することにした。


川 ゚ -゚)「…クーデター?」

( ・∀・)「そんな大層なもんじゃない。言ってみれば、ストライキさ。
      君らの新しい艦長ドクオは、どうにも軍人としての忠誠心に欠ける人間でね。
      新大陸に先行して調査を行うという栄光ある任務を、どうしても受諾しようとしないんだ」

川 ゚ -゚)「ああ…」

 クーはいつか見た銀髪の艦長の姿を思い出した。
 その容貌は悪いものではなかったが、その鼻の高い整った顔にはありありと厭世の相が浮かんでいたし、
 真っ直ぐに立つ背中からは、なにやら人を寄せ付けない、硬い石壁のような何かを感じさせた。

 確かにあの新任艦長には、新大陸行きを言葉でいくら説得したところで、
 自分の決めたことに対しては頑として譲らないだろう。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:14:44.62 ID:djJd0FGIP

( ・∀・)「で、軍としてはどうしても彼を解任したいんだけど、
      さすがに我がニューソクは文明国なんでね。理由もなくいきなり更迭するなんてことは、
      できれば避けたいと思うんだ」

川 ゚ -゚)「なるほど…」

 説得に耳を貸さない者を従わせようと思ったら、無理やりその地位を奪い取る措置が、必要になるだろう。
 しかしいくら司令官に人事権があるからといっても、何の咎も無い者をむやみやたらに処罰していては、
 他の者の士気もおおいに落ちてしまう。

 艦長の地位を正式に奪うには、たとえ見せかけだけでも、公平で公開された軍法会議が必要だった。

川 ゚ -゚)「そこで、反乱、か」

( ・∀・)「と言うより、部下たちによる何らかの騒ぎを起こしてくれればいいのさ。
      我々とて、厳正であるべき軍の秩序が反乱で失われることは本意ではない。
      ただ、艦長ドクオが指導者失格の烙印さえ押されてくれれば、目的は達成できる」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:16:18.85 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)「わかった。で、私は何をすればいい?」

( ・∀・)「君には騒ぎのきっかけをつくってもらうよ」

 モララーはここでぐいっとクーに体を寄せ、声を落とした。

( ・∀・)「つまりこうだ。明日の夕食に、君の皿には腐った豚肉を使ったスープが盛られる。
      いつもみたいな「腐りかけた」なんてもんじゃない、完全に腐りきったものを入れておく。
      それで君は抗議の声を上げるんだ。食堂じゅうに聞こえるような、大きな声でね。
      それだけだ。それだけでいい。あとは僕の仲間たちが、万事良いように進めてくれる」

川 ゚ -゚)「仲間? この船には、他にもお前の手下が乗り組んでいるのか」

( ・∀・)「手下じゃない、志を同じくする仲間だよ。そして僕の仲間であり、君の仲間でもあるんだ。
      大丈夫、君が声を上げたあとは、その仲間たちがうまく働いてくれるからね」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:18:44.04 ID:djJd0FGIP


 …下にしていた右腕が痛くなってきたので、クーは寝返りを打った。
 ショボンのいびきが聞こえてきた。

川 ゚ -゚)(けっきょく、人間のいるところはどんな場所であっても、
     騙しあいと裏切りの芽はあるってことなんだな)

 親しそうに挨拶を交し合っていた水夫たち。
 彼らとて、その中には、腹のうちに一物も二物も抱えたスパイの手下どもが、
 たくさんまぎれていたということになる。

川 ゚ -゚)(表面では仲良しヅラをして、心の中では…か)


 毛布の中が息苦しくなってきたので、クーは顔を出した。
 新鮮な空気が火照った顔にひんやりと心地よかった。

川 ゚ -゚)(…私はもう、騙されない)

 ぎゅっ、と毛布の裾を握った。
 明日の夜の食堂での動きを、クーは何度も、頭の中で反芻し、確認しつづけていた。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:20:20.75 ID:djJd0FGIP
三.


 夜が明けた。

 パートレム号の新しい住人たちは、それぞれが新しい職分を与えられ、
 起床のラッパと同時に水夫はマストに登り、船大工はその日の修理が必要な砲弾穴に配置についた。

 クーは海兵隊に編入されていた。
 中央甲板に集合の号令がかかり、クーは行きかう人に道を教えてもらいながら、集合場所へと駆け込んだ。

 集まった海兵隊員の男たちを前に、フサが長い木箱の上に乗って、熱弁を振るっていた。

ミ,,゚Д゚彡「おめえらはこのアーネム公閣下が率いる大艦隊の、
      栄光あるニューソク海軍各艦から引き抜かれたより抜きのエリート達だ。
      つまり、お国での価値は下から数えたほうが早いほど地位の低い、ゲスな厄介者どもってこったな」

 誰も笑わなかった。かまわずフサは続けた。

ミ,,゚Д゚彡「海兵隊が編成されたって聞くから駆けつけてみれば、なんのことはない、
      マストの上じゃ使い物にならないからって理由でこっちに流されてきた、陸者の集団じゃねえか。
      お前らは陸でも除け者なら、船の上でも役立たずだったってわけだ」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:22:01.27 ID:djJd0FGIP

 クーは集まった男たちを見渡してみた。
 たしかにその場に集められた男たちは、クーの目から見ても、ひ弱で貧相な男たちだった。
 懲罰船で見た『本物』の海兵隊員たちとはその顔つきからして違っている。
 ここの連中は体躯も小さく、足取りも鈍重で、どこかおびえた小動物のような態度でフサの言葉を聞いていた。

ミ,,゚Д゚彡「俺の役割は、俺の下で戦う2ダースのおまえらを、
      立派に敵艦に切り込んで国のために敵の息の根を止めてくる、真の海兵隊員にすることだ。
      そのためには、武器を見たことも無いおまえら陸者どもに、まずこいつらの説明をするところから始めないとな」

 フサは自分が乗っていた木の箱から下りて、その蓋を持ち上げた。
 中にはさまざまな武器が、鋼の金属部分を朝の太陽にぎらつかせて、納められていた。

ミ,,゚Д゚彡「まず槍」

 フサは、箱の中から一本の槍を取り出して、手近な海兵隊員に放り投げた。

ミ,,゚Д゚彡「つぎに斧」

 つづいて小ぶりな斧を取り出して、同じように別の海兵隊員に投げた。
 斧を投げ渡された男は、小さく悲鳴を上げて、両手でささげ持つようにして受け止めた。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:24:13.25 ID:djJd0FGIP

 フサは立ち上がり、槍を持った男の手から、その長い獲物を奪い取った。

ミ,,゚Д゚彡「槍は、敵が渡し板をかける前後の頃に役に立つ。敵艦とまだ距離が開いているときは、
      舷側に並ぶ敵さんをこいつで突いてやるんだ」

 槍を元の男に押し付け、つぎにフサは、斧を手に取った。

ミ,,゚Д゚彡「斧は鎧を着込んだ相手に有効だ。軟弱なラウンジのやつらは華美な軍服を好むが、
     卑怯なブラゲのやつらはぴかぴかの鋼の鎧と丸盾のほうを好む。そういうやつには、斧が効く」

 続いてフサは、腰のベルトに挿していた二丁のピストルを両手に持ち、言った。

ミ,,゚Д゚彡「白兵戦のときはピストルを二丁ずつ持つ。ピストルは役にはたたない」

 フサは一丁を海兵に押し付けて、話を続けた。

ミ,,゚Д゚彡「射程距離は数メートルしかない。威力だけは十分にあるが、かんじんの精度のほうはいいかげんだ。
      不発も多い。それに、一発撃ったら、もう戦闘中に再装填している暇はない。
      だから、こいつはさっさとほうり捨てて――」


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:26:14.69 ID:djJd0FGIP

 残るもう一丁も別の海兵に押し付けて、フサは腰に釣っていたカトラスを抜き放った。

ミ,,゚Д゚彡「これだ」

 言うが早いか、フサは手にした抜き身のカトラスを、見事な動きで上に、下に、左右に、
 そして円を描いて切り上げ、そのままの軌跡で反対に流して斬りつける。

 フサの腕の実用的に鍛えられた筋肉が華麗に躍動し、
 幅広の刃が風を切る音が、男たちを圧倒した。

ミ,,゚Д゚彡「これが海兵隊員にとっていちばん大事な武器だ。お前たちはいまからこの使い方を絶えず練習し、
      つねに技の向上に努めなければならねえ。棺桶に入りたくねえんならな。
      命がけの戦いでも、こいつはお前らの命を守ってくれる。
      カトラスさえあれば生き残れる。そう思えるようになるまで、徹底的にこいつの訓練をしろ」

 フサは抜き放ったときと同じくらいの速さと正確さで、抜き身を鞘の中に戻した。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:27:58.11 ID:djJd0FGIP

 武器箱の中から一人一刀ずつカトラスを取るように言われた。
 寄せ集められた新入りの海兵隊員たちは、おそるおそるそれを手にとって、眺めた。

 クーも一本を手に取った。
 カトラスはずっしりと重く、婉曲した鋼鉄の刀身には薄く油が塗られ、鋭く研ぎあげられていた。

ミ,,゚Д゚彡「よし、いいかヒヨッコども、刀を取ったか。取ったら甲板に一列に並べ!」

 フサの号令に海兵隊員が反応する。
 互いにぶつかりあいながらも、男たちは列を伸ばしていった。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:30:24.56 ID:djJd0FGIP

 それからしばらく、クーたちはカトラスを手に、剣の基本の動きを繰り返し練習した。
 受けの六つの姿勢、構えの四つの姿勢、突き、小手打ち、胴打ち、足払い…と、
 男たちはフサの動きと号令にあわせて、それぞれ虚空にカトラスを振り回し、稽古を重ねた。

 クーはフサから動きを教わるたびに、いちいち感心することしきりだった。
 自分がいかに今まで自己流でナイフを使っていたのかをまざまざと思い知らされたのだ。
 ストリートで経験と感覚からつかんでいたさまざまな動きが、フサにかかると実にしっかりとしたやりかたで整理され、
 システマチックな攻撃と防御に組み立てられていくかを、体ではなく、頭で実感しつつあった。

川 ゚ -゚)(これは、良い)

 クーはうきうきしていた。
 重い大人用のカトラスを両手で動かしながら、ひとつひとつの動作を、着実にこなすように動いていった。

 もっともっと動いて、できれば自由に振り回して、
 自分がどこまでこのカトラスを使えるのか試してみたい――

 フサの号令に従いながら、クーはそう思うようになっていた。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:32:52.92 ID:djJd0FGIP
四.


 夕食時がやってきた。

 クーが食堂に下りていくと、六人の食卓仲間はもうすでにいつもの椅子についていて、
 何やかやと騒がしく雑談して、時に笑い声を上げている。

 混雑した食堂は、背も体格も立派な水兵たちが忙しげに立ち歩いているため、
 その半分くらいの身長しかないクーは、いかに体を伸び上がらせてもなかなか前が見渡せず、
 人波を掻き分けるのに苦労していた。


 そんなクーの姿を、六人の食卓仲間で真っ先に見つけたのは、ヒッキーだった。
 ヒッキーはクーの黒髪を人波の中に見つけたとたん、それまでの死人のような無表情を一変させて、
 顔中に気味の悪いにやにや笑いを浮かべ始めた。

 クーはぞっと背筋が冷たくなった。
 それで、できるだけ彼からは遠くに離れて座ろうと、
 昨日とは反対側になる場所へと、人波を掻き分け進んでいった。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:34:50.40 ID:djJd0FGIP

 ベンチは片側三人がけのもので、大柄な男たちが三人しっかりと尻を下ろしていたため、余分な隙間は無かった。
 クーは端に座っていた男に声をかけた。

川 ゚ -゚)「あ、あの…」

 男が振り返った。目が細く、長い口ひげをたらしたアジア人だった。

川;゚ -゚)(…言葉、通じるのかな?)

( `ハ´)「?」

川 ゚ -゚)「あ、あの… セキ ドケテ ワタシ イレテ」

( `ハ´)「アイヤ、言葉わかるアルよ」

川;゚ -゚)「あ……ごめん」

 訛の強いニューソク語ながら、クーの言葉は通じたようだ。
 男はすこしずれて、クーのためのスペースを用意してくれた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:37:06.23 ID:djJd0FGIP

ミ,,゚Д゚彡「よう蝙蝠、おめえ今日は、ずいぶん熱心に訓練してたなあ」

 正面に座っているフサが、クーに声を掛けてきた。
 クーはフサの顔を眺め返した。

( ФωФ)「訓練? 何のだい?」

ミ,,゚Д゚彡「白兵戦訓練だ。今日はカトラスをやった」

( ФωФ)「ふーん。お嬢様はおめえの班になったってわけだ、フサ」

ミ,,゚Д゚彡「ああ。新兵やら陸者やら可愛いお嬢様やらでにぎやかさ、うちの班は」

 フサとロマネスクは何やらかんやらの雑談を始め、
 クーは手持ち無沙汰にベンチにちょこんと腰掛けて、足をぶらぶらさせ、両手をテーブルに置いていた。

 そして、自分の思考に没入しはじめた。
 モララーの言っていた手順を、もう一度確認しておくために。


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:39:01.58 ID:djJd0FGIP

ミ,,゚Д゚彡「…でよ、艦長、やっぱり新大陸行きを断ったらしいぜ」

 しばらく食卓の会話を聞き流していたクーだったが、
 フサの「新大陸」という言葉に、クーはぴくんと反応した。

( ФωФ)「マジかよ、んだよあの腰抜け野郎め…。
        艦長って新任のあの青二才だろ?」

(-_-)「ド…ドクオとか…いった…」

( ФωФ)「せっかく俺たちに単艦で行けっていう素晴らしい命令が出てるのによ。
       大財宝を独り占めするまたとないチャンスだってのに、断るなんてどうかしてるぜ、あの銀髪野郎」

ミ,,゚Д゚彡「いやロマネスク、そうはいうがな、俺はあの青二才の判断は正解だと思うんだぜ」

( ФωФ)「は? 何をバカなこ――」

( `ハ´)「アー わたしもそう思うアル」

 アジア人もフサに賛意を示し、フサはうんうんと頷いた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:41:18.51 ID:djJd0FGIP

( ФωФ)「…ほう。理由を聞こうかい」

ミ,,゚Д゚彡「つまり、艦隊総司令部のアーネム公閣下なんてのは、全く信用のおけるやつじゃないってことさ。
      よく考えろよ、なぜ俺たちのパートレム号が艦隊の一番槍を命じられたのか、その理由を。
      俺たちは半端者の寄せ集めなんだ。沈没した懲罰船の生き残りを中心として、
      艦隊各艦から余分な人員をかき集めて、それを敵からの分捕り船に乗せて一丁あがりと作り上げた、
      即席の寄せ集め部隊なんだ。
      …そんなやつらなら、使い捨てにしたところで、総司令官閣下の懐は痛まないって次第だろ。
      つまりそれだけこの任務は、危険で益の少ない役割だってことだ」

( `ハ´)「お上はいつだって 下の者の命など 便利なチリ紙くらいにしか思ってないものアル。
     この話は断るのが正解アル」

 ロマネスクは憮然とした表情になった。

( ФωФ)「そりゃあシナー、あんたの国の皇帝さんはそうかもしれないけどよ…」

(-_-)「か…考えすぎだって…フサさんもシナーも」

 ヒッキーはまた低い声でグフグフと笑う。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:43:58.12 ID:djJd0FGIP

ミ,,゚Д゚彡「考えすぎじゃあねえと思うがな。
      うーん、とにかく、何かひっかかるんだよ、今回の命令はよ。
      なあ蝙蝠、お前もそう思うだろ?」

 突然話を振られて、クーはめんくらった。

 だが、クーも思う。
 フサが感じているのと同じ種類の「ひっかかり」を、クーもこの話を聞いた時から感じていた。
 その点ではフサの意見に同意できる。

 退廃と暴力の渦巻く町で生き抜いてきたクー。
 牢獄のような忌まわしい人間関係に縛られ、懲罰船で過ごしてきたフサ。

 環境こそ違えど、裏切られ続け、人の悪意にとりわけ敏感になっている者だけが持っている特殊な嗅覚が、
 クーをしてフサと同じ「ひっかかり」を捕らえさせていたのかもしれなかった。


 だからクーは、フサの問いかけに対し、こくりと頷いた。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:45:59.77 ID:djJd0FGIP

ミ,,゚Д゚彡「ほらよ。お嬢様も同じご意見だとよ」

( ФωФ)「…けっ。恥ずかしくねえのかよ、女と同じ意見でよ」

(-_-)「ざ…財宝…ほしい…」

( `ハ´)「む、財宝は確かにほしいアル。そうでないと海軍に入った意味が無いアルよ」

ミ,,゚Д゚彡「アルアルって、あるのかないのかどっちだよ」

( ФωФ)「このブラゲ船を分捕ったとき、めったやたらに財宝が積んであっただろ。
       あれが新大陸の財宝だ。あれが丸まる俺達のものになるんだぜ…」

 そのあとの食卓の会話は、「財宝が手に入ったらあれがほしい」「俺は何がほしい」といった、
 他愛無い雑談へと流れていった。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:48:49.35 ID:djJd0FGIP

 クーは考える。
 おそらくフサやドクオの懸念は、正しい。
 単艦で新大陸に向かう…というのはすなわち、「半端者たちの切り捨て」なのだろう。

 クーはいま一度、自分がモララーから命じられたことを思い返した。
 騒ぎを起こす。
 この食堂で、水夫たちを焚きつける。

 ここでクーがモララーの言うとおりにして騒ぎを起こし、ドクオを陥れれば、
 彼はおそらく、艦を預かる艦長としての「監督不行き届き」の罪で軍法会議行きだろう。

 司令部に歯向かう彼に、軍法会議の裁判官たるアーネム公の態度は、冷酷なものになるだろう。
 ドクオは不公平な出来レースの軍法会議により地位を奪われ、悪くすると――殺される。


川 ゚ -゚)(私は何を、やろうとしているのだ?)

 そうだ。あの銀髪の艦長は、部下を正しく安全な方向に導こうと頑張っているのだ。
 なのに、自分のこれからしようとしている行動は、その艦長を陥れることになる……

 ドクオ艦長がいなくなったら、新しく任命される艦長は、司令部の傀儡、操り人形のような人物が選ばれるに違いない。
 そしてこの船は、無邪気に財宝のことだけを考える乗組員の賛同のもと、危険に満ち溢れた新大陸に向かうことになるだろう。
 司令部の、アーネム公の捨て駒として、単艦で。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:50:15.13 ID:djJd0FGIP

 配膳係が食事用バケツと木皿を持ってきた。
 七個の木皿それぞれに、大きなひしゃくでどろりとしたスープを、手際よく盛り付けていく。


 配膳係が、クーにだけわかるように、わずかにウィンクをした。


 そして木皿のうち一つを、わざとクーのそばに置きなおして、食卓を離れた。

 カンテラのぼんやりとした明かりに照らされた木皿の中、
 真ん中に頭を出している灰色の塊が、おそらくモララーの言う「腐りきった豚肉」なのだろう。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:52:05.82 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)(居場所、か。)

 暗闇での会談、索止め栓座の脇で、握手の右手を伸ばしてきたモララーの姿が思い起こされた。
 あのときは結局彼の手をとらなかったが、だがそれは、いずれは決断しなければならないことだった。

川 ゚ -゚)(つまりは、スパイとして役割を与えられた裏の居場所と、
     このなんでもない日常の海兵たちの、食卓仲間たちとの居場所と。
     どちらかを選べってことなんだな)

 クーはフサの顔を眺めた。
 それは、だれかの顔に似ているような気がした。

 おぼろげな記憶が、ながめ続けるうちにだんだんとはっきりした形を持ってきた。

 ギコ。
 港町に生きていた、孤独な少年ギャングの姿だった。


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:55:01.63 ID:djJd0FGIP

 唇がほころぶのを、クーは感じた。

川 ゚ -゚)(いけないいけない。
     あやうく、あったかい食事に釣られ、うわべだけの仲間付き合いに騙されるところだった)

川 ゚ -゚)(仲間だと? 笑わせる。
     人はみな自分のために生きている。
     ということは、こんな食卓での仲間ごっこをいくらしていても、最後にはすべてひっくり返されるってことだ。
     行き着く先は、誰もが誰もを相手どって戦い、自分だけの利益を追求する、はてしない戦いなんだからな)

 クーはギコに感謝した。
 先輩に尽くしたあげくに嘘をつかれて暴力的に連れ去られ、
 足首に鎖を繋がれたまま、燃えさかる船から外洋の荒海に追い落とされた、哀れな孤児に。

川 ゚ -゚)(そうだ。思い出せクー。
     騙され、裏切られ、憎しみあって生きてきた、私の人生を)

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:58:19.54 ID:djJd0FGIP

川 ゚ -゚)(信頼なんてするもんじゃない。信頼さえしなければ、それを裏切られることはないのだから。
     信頼すれば裏切られる。それを証明する例に、私の人生は事欠かなかった。
     もう騙されないぞ。
     私はもう、騙されるのは嫌なんだ)

 スプーンを雑に握って木皿の中身をすくっていたフサが、
 黙りこんだまま自分の皿を見つめてぴくりとも動かないクーを不審に思って、声をかけた。

ミ,,゚Д゚彡「どうした、蝙蝠」


川 ゚ -゚)(…だから、騙す)


 クーはフサの声が聞こえていないかのように、じっと下ばかりを向いている。

川 ゚ -゚)(だって、自分が騙すほうになれば、もう…もう、騙されないんだろ?
     なあ…)

ミ,,゚Д゚彡「食わねえのか? …その…クー?」

 よほどクーの様子がおかしかったのか、
 最初は横柄だったフサの口調が、だんだんと心配の色を帯びて、丁寧になってくる。

川  - )(…ギコ。)


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/25(月) 23:59:05.44 ID:djJd0FGIP






   叩きつけられた木皿の割れる甲高い音が、食堂中に響き渡った。








第五話 ここまで―――

戻る

inserted by FC2 system