9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:08:51.71 ID:Fp5t0HeUP

 赤薔薇亭の一階は酒場になっている。
 客が、女たちの品定めをするための場所だ。

 暗く、狭く、さわがしく、人でいっぱいの場所だった。

 娼婦たちの甘えた声と、男たちの馬鹿笑いがけたたましく響くその足元で、
 痩せこけたクーが、素手で床にはいつくばって、真っ黒な床に雑巾をかけている。




   川 ゚ -゚)は探しているようです  第四話
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:10:54.07 ID:Fp5t0HeUP

 人いきれで部屋の中は蒸し暑かった。
 魚を焼く煙と、不潔な男たちのくゆらす煙草のせいで、空気はひどく濁っていた。

 だれかが杯を床に落とした。
 酒の飛び散る水音と、酔っ払いの笑い声がそれにかぶさった。


「おい、クー」

 突然、背後から自分の名を呼ぶ声をかけられ、クーはびくりと身を縮こまらせた。
 床に手をついたまま恐る恐る首をめぐらせ、振り返る。

 はたして悪い予感は当たっていた。
 満面に笑みを浮かべたフォックスが、エプロンで両手を拭きながら、クーの背後に立っていた。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:14:45.27 ID:Fp5t0HeUP

爪'ー`)「ご苦労さん。もうホールはいいから、次は厨房の床掃除を頼むよ」

 猫なで声で言うフォックスに、クーは恐怖に見開かれた目を向ける。

爪'ー`)「さあさあ、はやく行っとくれ」

 柔和な笑顔でそういうと、フォックスは厨房の奥に姿を消した。


川 ゚ -゚)(……今度は、何をされるんだろう)

 クーはフォックスの意図がわからなかったが、
 それがわかろうとわかるまいと、どうせ彼女の命令に逆らうことなどできないのは、確かだ。

 ゴミの浮かぶ水がいっぱいに入ったバケツを持って、
 クーはフォックスの後を追い、厨房へと入っていった。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:17:24.81 ID:Fp5t0HeUP

 ホールの喧騒から壁一枚を隔てて、厨房は比較的静かだった。
 人々の笑い声が、くぐもった響きとなって、ときおり伝わってくる。


 フォックスはにまにましながら腕組みをして、厨房に入ってくるクーを眺めていた。


 この時点でクーは悟った。
 これからの自分を待ち受ける運命を。

 だが、フォックスの言葉に逆らっていま厨房を出て行くことなど、どうせできやしない。

 クーが厨房のドアを閉めると同時に、「それ」は始まった。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:20:33.69 ID:Fp5t0HeUP

爪'ー`)「おい蝙蝠、厨房の掃除はしっかりしたのかい?」

 釣りあがったフォックスの口角から言葉が漏れる。
 クーはその問いに、小さな頭を懸命に縦に振り、大きく何度も頷いて、返事する。

爪'ー`)「ふうん。
     …それにしては、ちょっと水周りが臭くないかねえ。んん?」

 クーの額に小さな汗の粒が浮いた。
 急いで洗い台の排水溝を指差して、口を二、三度ぱくぱくさせて、何かを言おうとする。

爪'ー`)「ん?なんだい? 何かいいたそうだね。
     いいよ、言ってごらん。ほら、遠慮せずに言っていいんだよ?」

川 ゚ -゚)「あ、あ、こ…」

 きゅっ、と心臓の弁が痛くなる。
 極度の緊張で心拍数が上がり、顔に赤みが差す。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:23:34.91 ID:Fp5t0HeUP

川 ゚ -゚)「こ、これは、下水のにおいで…
     は、配水管から、あがって…」

 クーの言葉はここまでだった。
 口を開けたクーの顔面を、フォックスの蹴りが、まともに捉えた。

 壁際に積まれた空き樽の山の中に、クーの小さな体は吹き飛んだ。


爪'ー`)「なんだ!! 口答えする気か! この卑しい家畜が!!」

 フォックスは手近に置いてあった木製の皿をひとつ手に取り、
 倒れこむクーに向かって勢いよく投げつけた。

 とっさにクーは腕を上げて、飛んでくる皿から顔を守ろうとする。

 その動作は、フォックスの何かに障ったらしい。
 たちまち悪鬼のように顔を歪めたフォックスは、洗い場に積み上げてある木皿やコップを、
 つぎつぎとクーに向かって投げつけてきた。

 クーは樽の山の中に倒れながら、両腕を上げて顔を覆うのが精一杯だった。
 食べ残しの野菜くずや、底に呑み残しや男たちの痰唾が溜まったコップが、いくつもいくつもクーの上に叩きつけられた。

 顔を覆う両手の隙間から、恐怖に見開かれ、おびえきった少女の二つの瞳が、
 対照的に嗜虐の愉悦にほころぶフォックスの顔を見上げていた。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:25:40.64 ID:Fp5t0HeUP

 洗い場にあった食器をすべて投げつけ終わると、フォックスはぜえぜえと肩で息をしながら、
 満足げににやりとひとつ笑うと、その場を立ち去ろうとした。

 が、すぐに思い直したように立ち止まると、
 先ほどの笑い顔よりよほど気味悪いやりかたで、にまあ、と笑う。

爪'ー`)「…そうだ、くさい原因がわかったよ」

 フォックスはクーのほうに足を進めた。
 そして、クーが床掃除に使っていたバケツを手に持って、倒れこむクーの前に立った。

爪'ー`)「こおんなに汚い家畜がいたんじゃ、ここが臭くなるのも無理は無いねえ」

 フォックスはゆっくりとバケツを持ち上げると、中に溜まった汚水を、正確にクーの頭に注ぎかけた。
 ばしゃばしゃばしゃ、とゆっくり時間をかけて、フォックスはそれをやった。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:29:54.99 ID:Fp5t0HeUP

爪'ー`)「ラクダよりもひどい悪臭を放つ蝙蝠め。ほら、これで体を洗いなさい」

 シャワーのようにクーの体に汚水を注ぎながら、フォックスは言う。
 汚水の中に溜まっていた髪の毛やゴミが落ちて、クーの青白い頬に張り付いた。

爪'ー`)「どうせ口の中も汚いんだろ。ほれ、注いであげるから上を向いて口を開けな」

 木の靴先で頬をこつこつと蹴られて、クーは上を向き、口を開けた。

 バケツの中が空になってから、フォックスは二、三度上下にゆすって最後までクーの体に注ぎきってから、
 手に持っていたバケツを力一杯クーの体にたたきつけた。

爪'ー`)「どうだい、ちょっとは綺麗になったかい?」

 汚水に張っていた、悪臭を持った油の膜が、クーの鼻のあたりに虹彩を作り出していた。
 フォックスは笑いながら厨房のドアを開けて出て行った。

 ホールの笑い声が、わっと厨房に入り込んできた。
 クーは放心したように、崩れた空き樽の中に、ゴミまみれになって倒れこんでいた。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:31:41.83 ID:Fp5t0HeUP

 そして、場面が変わった。
 どこだろう。背景の無い、見たことも無いような場所だった。


 フォックスが目の前に倒れていた。
 背中に大量の血の染みを作って、真っ赤な血溜りの中に倒れている。

 クーははっとして自分の右手を見た。
 細長いナイフを握って、ぶるぶると大きく震えている。

 自分の右半身がべったりと赤い血に染まっていることに、クーはそのときに気づいた。

川;゚ -゚)「ころ…した…?」

 クーはつぶやいた。

 その世界には、音が無かった。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:34:02.19 ID:Fp5t0HeUP

川;゚ -゚)「え?
     わたしが…ころ…た…?」

 市中見回りの衛兵の姿が見えた。
 武装した三人が、クーを指差して、赤い口を開けている。

 牢獄と、フォーラムにある裁判台と、それからいつか見た残虐な公開処刑の様子が、夢の背景を覆い始めた。

 冷たい鉄の鎖。刑場を取り囲み、口々に「殺せ」と叫びたてる群衆。
 十字架上のクーを見上げ、棍棒を振り回す殺気だった警吏。

川; - )「わた……は…?」

 クーは右手を見た。
 その小さな手には、しっかりと、血にまみれたナイフを握っている。


 まばゆいばかりの光とともに「神」が現れた。
 それはゆっくりと広がっていき、ゆっくりゆっくり、夢の背景を真っ白に塗りつぶしていった―――

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:35:34.05 ID:Fp5t0HeUP
一.


 がばり、と身を起こした。
 真っ暗な部屋の中で、クーの荒い息遣いが響いていた。

 やがて闇に目が慣れてきた。
 小さな三つの舷窓からは、青白い月明かりが差し込んでいた。

 不規則に乱れる海の音と、外洋の高い波を超えるときの水音が、じょじょにクーの感覚を冷ましていった。

川;゚ -゚)(…夢、だったか)

 はっきりと頭が起き始めたとき、クーはほっとため息をついた。


 背中に冷たい布が当たっていた。
 ふと気がついて自分の腕を触ってみると、汗でびっしょりとぬれていた。

 胸元の蒸し暑い感覚も、きっと汗で服が張り付いているせいなんだろう。

 少しの逡巡の後、クーは思い切って上衣を脱ぎ放った。
 深夜の心地よい冷気が、直接、クーの真っ白な肌を撫でた。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:38:03.67 ID:Fp5t0HeUP

(´・ω・`)「どうした、悪い夢でも見たのかい?」

 部屋の対極から男の声がした。
 クーはとっさに、跳ね上げていた毛布を手繰り寄せ、胸元を隠す。

川 ゚ -゚)「…起きていたのか、坊主」

(´・ω・`)「寝られないよ。だって、隣で君がずっと、うんうんうなされていたからね」

 クーの顔が険しくなった。


(´・ω・`)「でぃのことを思い出していたのかい?」

川 ゚ -゚)「でぃ?」

 クーは首をひねった。
 そして、しばらくしてから頷いた。

川 ゚ -゚)「ああ…。
     いたな、そんなのも」

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:40:06.29 ID:Fp5t0HeUP

 闇の中で衣擦れの音がした。
 ショボンが寝台から身を起こしたようだ。

(´・ω・`)「そんなのも、って…」

川 ゚ -゚)「すっかり忘れていた」

(´・ω・`)「忘れてたは無いだろう。
      君は昨日、でぃの命を奪った悪に対し、怒りを覚えていたのじゃなかったかな。
      それは、でぃと君の境遇が似ていたからだと思ったんだが…」

川 ゚ -゚)「似ていた、だと?
     ばかな。あんなのと一緒にするな」

 吐き捨てるような嫌悪感を持って、クーは言った。
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:42:33.60 ID:Fp5t0HeUP

(´・ω・`)「じゃあ君は、どうして昨日、あんな大それた真似をしたんだ。
     アーネム公に刃を向けるなんて…。
     君は、悪を憎む心が強かったからこそ、あの行動に出たんじゃないのかい」

川 ゚ -゚)「いや、それは」

 言いかけてクーは口を閉じ、視線を舷窓のほうに戻した。


川 ゚ -゚)「悪…ね」

 クーは自嘲気味に小さく呟くと、すっと視線を膝に落とす。

川 ゚ -゚)「…命を奪うものが悪だと言うのなら、じゃあ、弱さは悪だろう。
     でぃは弱いから死んだ。弱さは、人の命を奪うんだからな」

 クーは膝の上に置いた拳を握って、もう一度言った。

川 ゚ -゚)「そうだ、弱さは悪だ。
     弱さは、それ自体が罪なのだ」

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:44:37.70 ID:Fp5t0HeUP

 ショボンは部屋の反対側の寝台に座っているクーを眺めた。
 その生白い体は痩せ細り、衣服をつけない上体には、無数の青痣と傷がつけられている。


 わずかな月明かりに照らされて、クーは寝台の上でうつむき、
 拳を握って、肩を小刻みにぶるぶると震わせていた。

 それは、一人で軍艦一隻を相手に戦おうとしていた獰猛な戦士でもなく、
 昼間にあれだけ気炎を上げていた大それた暗殺者と同じとは、到底思えない。


 ただ小さな、小さな一人の女の子の姿だった。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:45:30.14 ID:Fp5t0HeUP

(´・ω・`)「…怖いのかい?」

 返事は無かった。
 ショボンはかまわず呼びかけた。

(´・ω・`)「怖いなら、こっちに来るかい?
      僕のベッドでいっしょに休まないか」
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:49:06.99 ID:Fp5t0HeUP

 クーは目を見開いた。
 そして、見下すような侮蔑的な視線を、ショボンに投げつけた。

(´・ω・`)「い、いや、そんなおかしな意味じゃなくて、その。
     ぼ、僕は女に興味は無いよ」

川 ゚ -゚)「…坊主だから女には手を出さない、とでも言うのか? 生臭め」

(´・ω・`)「ち、違う。違うんだ」

川 ゚ -゚)「何が違うんだ。お前も男だろう。
     坊主だろうが王様だろうが、男など、一皮剥けばみな同じだ。
     これは私が売春宿で得た、数少ない正確な知識だ」

(´・ω・`)「いやだから…
     僕が女に手を出さないのは、坊主だからってわけじゃなくって、その」

川 ゚ -゚)「……?」

 クーはしばらくショボンをにらみつけていたが、
 彼の言葉の意味をはたと悟り、息を呑んだ。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:51:47.15 ID:Fp5t0HeUP

川 ゚ -゚)「…お前…そうなの?」

(´・ω・`)「う、うん」

川 ゚ -゚)「坊主にはそういうの、多いって言うけど…
     そうか…うん、そうか…」

(´・ω・`)「だからさ、その、夜が怖いのなら、僕のベッドで一緒に寝てもいいんだよ。
      僕が安心できる男だってことは、わかっただろう?」

川;゚ -゚)「う、うん…まあ…。
     でもまあ、それはそれで…」

 ショボンはしばらく毛布の端をめくってクーのほうに開けていたが、
 クーが動かないのを見て、やがて自分も、舷窓に向いて座りなおした。
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:54:21.55 ID:Fp5t0HeUP

(´・ω・`)「君がふさぎこんでしまうのも、わかる。
     君はつい最近まで、陸の上で、君自身の生活を営んでいたんだ。
     それがいきなり、運命の歯車に乗せられて、気がつけばこんな軍艦暮らしをさせられてるんだから」

川 ゚ -゚)「わかる、だと?
     他人のお前に、私の何がわかるってんだ?」

(´・ω・`)「君がいまふさぎの虫に苦しんでるってことはわかるさ。
     それすら判らないようじゃ、僕は坊主としてより、人間として失格――」

川 ゚ -゚)「うるせえ!」

 小さく、しかし鋭く、クーは言った。
 クーの目はじっと目の前で握られた自分の拳を見つめていた。

川 ゚ -゚)「うるせえ…黙ってろ…」

 上体を震わせながら、クーは罵りの言葉を、ぶつぶつとつぶやいた。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 22:58:48.28 ID:Fp5t0HeUP

川 ゚ -゚)「…正直なとこ、せいせいしてるのさ。
     陸の上での私の生活を知っているのか? 毎日私を待つのは、地獄ばかりだった。
     これから先、どんな不幸な未来が待っていようと、まああそこよりひどいってことは無いだろうよ」

 言ってからクーは、ハインの顔が浮かんできた。
 そういえばこれは彼女の言葉だった。

 姉のように慕っていたハイン。
 金で売られたときに、最後にクーにかけた言葉が、これだった。


(´・ω・`)「すると君は、ここに来れて、よかったと思ってる?」

川 ゚ -゚)「む」

 それも、クーは返答に詰まった。
 腐りかけの豚肉と豆だけを与えられて、不潔で粗暴な水兵に混じって、
 砲弾の飛び交う軍艦で敵兵相手に斬り合いをするなんて場所は、気に入らないなんてもんじゃない。

川 ゚ -゚)「…どっちも、いやだな」

 クーは手を頭の後ろで組み、そのままベッドにごろんと寝転がった。

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:01:42.22 ID:Fp5t0HeUP

川 ゚ -゚)「坊主、教えろ。
     どこに行っても、なにをしても、ただひたすらに辛いことしか無い場合、
     いったい、人が生きていることに、その……」

(´・ω・`)「意味?」

川 ゚ -゚)「そう、それ。
     陸の上も地獄、船の上も地獄。どう生きていても、この世のすべてがどうせ地獄。
     ならいっそ、私はもう、生きるのを止めにしたいって思うよ」

(´・ω・`)「…死にたいってこと?」

川 ゚ -゚)「なにもかも、もう、いやだってこと」

 クーはごろんと転がって、ショボンに背を向けた。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:04:10.36 ID:Fp5t0HeUP

(´・ω・`)「まあ、そう言うなよ、クー。こう考えるんだ。
     僕が見たところ、君には道は二つしかない。
     四六時中ふさぎの虫に取り付かれていらいらしているか、それとも未来に歩き出すかだ。
     僕の言ってるのはつまり、どうせ君がこの艦でずっと暮らすことになるのなら、
     いっそのこと、ここを居場所にしてしまえばいいってことだ」

川 ゚ -゚)「…居場所?」

(´・ω・`)「そうだ、居場所だ。
     人間には居場所が必要なんだ。自分のことを認めてくれる人たちがいて、
     自分がその場所で頑張ることを、誇りに思えるような居場所が」

川 ゚ -゚)「居場所、ね…」

 しばらくショボンの言葉を考えた後、クーは、力なく笑った。

川 ゚ -゚)「だめだめ。どうせ、どいつもこいつも、人間なんて自分のことしか考えてないんだ。
     だからいつも最後には必ず裏切り、騙しあうんだ。
     安心できる居場所なんて、あるわけないだろう」

 姉のように慕っていたハインの顔が浮かんできた。
 すぐ後に、ギコを騙し、そして最後は自身が国に裏切られたフサの顔も、それに重なった。

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:06:44.94 ID:Fp5t0HeUP

(´・ω・`)「…まあ、すぐに見つかるものでは、ないのかもしれないね」

 ショボンも寝台に身を横たえた。
 狭い二人用の士官室に静寂が戻り、波のざわめきの音が入り込み始めた。

川 ゚ -゚)「あるわけないさ、そんな場所。
     存在しないものを探すほど、私も物好きじゃないんでね」

(´・ω・`)「いや、君なら見つけられるさ、クー。
     君は感情を抑え、殺し、いつだって冷静で、表情の変化もない。
     それは、押し寄せる悲しみの波から君の繊細で優雅な心を守るために、
     君の知性が編み出した方法なんだよ」

 船胴を波頭が叩く。
 クーは寝台に横たわりながら、ただ、揺れる天井の一点を眺めていた。

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:09:20.26 ID:Fp5t0HeUP

 クーは漠然とながら気づいていた。
 ショボン。どうやらこの男は、本心から、私の境遇に自分の心を痛めているようだ。

 他人の人生にわざわざかかわりを持ちたがるなんて、バカなやつだ、と思う。

 でも、そのおせっかいが嬉しくないか、と問われれば、
 なんともいえないもやもやとした、ほの暖かい煙のような感情が、胸の内に持ち上がる。
 こんなことは、初めてのことだ。


 クーはベッドに転がりながら、ショボンにどう言葉を返そうか考えていた。
 だが、突然の慣れない感情の動きに、どうにも良い言葉が浮かばなかった。


 そのうちにクーは、闇の中で、小さな寝息を立てていた。
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:10:54.57 ID:Fp5t0HeUP
二.


 海上はよく晴れていた。
 昨日からその国旗をニューソク海軍のものに塗り替えたキャラベル船パートレム号は、
 艦隊のほかの大型戦艦の後について、快調に海の上を進んでいた。


 甲板の舷側にもたれて、クーは何をするでもなく、ぼーっと海面の波を眺めていた。

 さしあたりこの船には、何の任務も与えられていない。
 そして、水兵ではないクーは、船を動かすために帆を張ったり綱を巻いたりする仕事も無い。

 甲板のそこかしこには、同じように暇をもてあました水夫たちが、
 煙草を吸ったり、ナイフで細工物をこしらえたり、思い思いに手持ち無沙汰な時間をつぶしていた。
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:12:19.05 ID:Fp5t0HeUP

 右舷側のほうで号笛が吹き鳴らされた。
 皆の視線がそちらに向いた。

「艦長のご着任だぜ」
 だれかがそう言った。


 クーは笛の音がしたあたりに目をやった。

 不動の姿勢で敬礼をしている二人の士官の間を通って、
 舷側のタラップをゆっくりと上がってくる青年の姿が見えた。

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:13:36.42 ID:Fp5t0HeUP

川 ゚ -゚)(あれが艦長か)

 クーは目を細めて、遠くに見える細身の青年を、なんとはなしに観察した。

 石みたいに不動の姿勢で敬礼を送る士官に対し、
 その青年はおざなりに軽く額に手を触れる敬礼を返し、
 すぐに三角帽を脱いで、あろうことか、そのままそれでぱたぱたと自分を扇ぎ、風を送っている。

 それが無作法な行為であることは、まったくの素人であるクーでさえ、はっきりとわかる。

 帽子を脱いだ艦長のむき出しの髪を見て、クーは驚いた。
 太陽の光を受けて銀色に輝いていたのだ。


95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:15:29.78 ID:Fp5t0HeUP

 青年は舷側通路を歩いて、クーのいる艦尾楼の方向に向かって進み始めた。
 二名の士官はその後ろにしたがって歩いた。

 すらりとした細身の長身の艦長は、銀色の髪を海風になびかせてすたすたと足を進め、
 後ろをついてくる二人の士官の歩調など気にせず自分勝手に艦尾楼に向かって歩いていく。


 近づくにつれて、青年の声がクーの耳にも届き始めた。
 それはやや怒りの色彩を帯びた口調だった。

('A`)「…どうせ、俺たちのことなんて、寄せ集め所帯の捨て駒程度にしか考えていないんだ、
   司令部のやつらは」

 あからさまな上層部批判を聞かされて、付き従う二人の士官は、どう返事をしたものか、
 言葉を返しあぐねている。

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:17:32.07 ID:Fp5t0HeUP

 クーは近くまで来た新任艦長の姿をもう一度観察した。

 金モール付きの紺色の海軍制服に包まれた、すらりと細身で長い体。
 思ったより年は若そうだ。

 銀色に見えた髪は、実際は黒髪にたくさんの若白髪が混じっていることから、
 太陽の加減で輝くと、そう見えているようだ。


 彼は後ろを歩く人間に対し何の気遣いも見せず、ひたすら自分だけの調子で歩き、喋っている。

('A`)「アーネム公は何て言ったと思う? 本隊に先行しておれたちだけ単艦で新大陸に行って、
   根拠地に良い土地を探し出し、周辺の土地の地図を作っておけ、だとよ」

「ほう、それは斥候ですな。全軍の先鋒を担う、名誉ある役割で――」

('A`)「ふざけんじゃねえよ、俺は断ったさ。
   どうせ司令部は俺たち寄せ集め所帯を使い捨てにするつもりだ。
   考えてみろよ、向かう先は新大陸なんだ。まだ海路図すら無えんだぜ?
   もし暗礁に乗り上げでもしてみろ。単艦だと、それを助けてくれる船も無えんだ」

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:19:33.14 ID:Fp5t0HeUP

 後ろにつき従う士官は、若い艦長の歯に衣着せぬ司令部批判に、苦りきったような顔をしている。

('A`)「右も左もわからないクソ新大陸に、おれたちだけ単艦で送り込んで、
   うまく基地を作れれば御の字、失敗すればどうせ、補給も送らずに見捨てるつもりなんだろう」

「艦長、そういった発言は、声高になさるのは不適切で……」

 ついに、といった感じで、後ろにつき従う士官の一人が言った。
 が、艦長はそれに耳を貸す様子もなく、艦尾楼に向かってすたすたと歩いていく。


 舷側通路をクーの前まで歩いて来たとき、艦長ははたと足を止めた。
 細いまぶたの隙間から、冷たい二つの目が、通路にたたずむクーの体に注がれた。

 クーは思わずたじろぎ、一歩通路から下がり、わずかに頭を下げた。

 邪魔だ、といわんばかりの視線を投げかけたあと、
 艦長はそのまま通路を通り抜けて、後姿だけを見せて歩み去っていった。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:21:35.70 ID:Fp5t0HeUP
三.


 日暮れ頃、昇降はしごのてっぺんに掌帆手が現れて、号笛を吹き鳴らした。

「そういーん、夕食!」
 彼はトップ台の上から何度かそれを繰り返した。

 クーはその声で、自分がはらぺこであることに、はっきりと気がついた。
 思い返せばここでは、ショボンに与えられたすこしの硬パンをかじっただけで、
 いまだ食事らしい食事をとっていなかったのだ。

 甲板にいた水夫たちが人波を作って、下甲板に向かって次々に梯子段を下りて行っていた。
 クーもわけのわからないまま、その人波に乗って、後を付いていった。
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:24:01.62 ID:Fp5t0HeUP

 階下に下りてみて、人波の動きに納得した。
 昼間はただがらんとしているだけの砲列甲板が、
 壁掛け式のテーブルとベンチが出されて、夕食のための食堂になっている。

 それぞれのテーブルの上にすばやくカンテラが配られて、最初に席についたものがそれに灯を入れる。

 クーは「食堂」の真ん中あたりでうろうろしながら、水兵仲間どうしが挨拶をしたり、
 配膳係が食器を配ったりして立ち回るさまを、なすすべもなく、ただおろおろと見守っていた。


 夕食のいいにおいが、クーの鼻腔に漂ってきた。

 クーはもういてもたってもいられなかった。
 救いを求めるように、すぐそばの食卓におずおずと近寄っていった。

 その食卓には六人の水夫たちが座っていた。
 騒々しく大声で会話していた彼らは、近づいてくる小さな女の子を見つけて、みんないぶかしげにクーを見つめた。

 狭い食卓にたくましい大男が六人も腰掛けているから、そこにはもうクーの入る余地は無いようだった。

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:28:01.20 ID:Fp5t0HeUP

 六人の鋭い視線を受けて、なにを言おうか途方に暮れているところに、
 少し離れた場所のテーブルから、のんきな大声がかかった。

ミ,,゚Д゚彡「おーい、蝙蝠、こっちに来ーい!」

 振り返ったクーの目に、フサの姿が入った。
 真ん中のほうの食卓に腰掛けたままクーのほうを向き、手を大きく振っている。


 まず最初に湧き上がった感情は、血が逆流しそうなほどの激しい怒りだった。

川 ゚ -゚)(生きていたのか、あいつ!)

 クーを誘拐した張本人。
 クーの体目当てに、彼女を陸から引き剥がして、こんな海の上の船に乗せた誘拐犯人。

 そいつがいけしゃあしゃあと、悪びれることもなく、クーに声をかけてきたのだ。

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:30:01.86 ID:Fp5t0HeUP

 だが空腹の力は、その怒りに打ち勝つほどに大きかった。
 広い食堂には他に空いた席も無く、それに、うまそうな食事のにおいを嗅いだクーは、
 もう一歩たりとも前に歩けないほどになっていた。

 怒ることに疲れたクーは、ため息をひとつつくと、ふらふらとフサのいる食卓に向かって歩みを進めた。


 その食卓にも、前のテーブルと同じような六人の男たちが座っていた。

ミ,,゚Д゚彡「おい、ヒッキー、向こうへずれろ。そいつを座らせてやれ」

 フサがテーブルの端に座っていた水夫を指差して、言った。
 ヒッキーとよばれた水夫は尻を動かして、大人半分くらいのスペースを、クーのために空けた。

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:32:34.15 ID:Fp5t0HeUP

 クーは立ったまま、自分をじっと注視している食卓の六人を見回し、おずおずと口を開いた。

川 ゚ -゚)「あ、あの…私は…」

( ФωФ)「こいつが例の『英雄』かい?」

 クーの言葉を待たずに、向かいに座った険しい顔つきの男が、よく通る大声で言った。
 少し小馬鹿にしたような調子で。

ミ,,゚Д゚彡「ああ、すっげえんだぜ。こいつのナイフさばきと、ジャンプ力は!」

 フサは大笑いして、隣に立つクーの背中を、なれなれしく叩こうとした。

 クーは眉をしかめ、汚いものでも触れたみたいに、とっさにその手を払いのける。
 それで、食卓の空気が少し、変わった。

 会話がとぎれ、潮風でごつくなった男たちの六つの顔が、クーを見つめた。


川 ゚ -゚)「よくもぬけぬけと、フサ。
     無理やりこんなところに連れてきたのはお前だぞ。
     私は恨みを忘れたわけじゃない。なれなれしくするな!」

 クーはフサを睨みつけて、言った。

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:34:02.91 ID:Fp5t0HeUP

 クーの言葉に、食卓はどっと笑いに包まれた。

 クーはびっくりして男たちを見た。
 彼らはおかしくてたまらないと言った様子で、ある者は額に手をやって、ある者は腹をかかえて、
 食卓を揺らせて笑い転げている。

ミ,,゚Д゚彡「なんだ。なんだ、まだ――」

 ひーひーと息をしながら、フサが途絶え途絶えに言う。

ミ,,゚Д゚彡「まだそんなことを根に持ってやがったのか。わは、は、はは…
      おい、この中で、自分から進んで海軍に入ったってやつはいるか?」

 フサ以外の五人の水夫全員がにやにやと笑い、息のつった腹を抱えながら、首を横に振る。

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:36:36.45 ID:Fp5t0HeUP

 向かいに座っていた目に傷のある男が、ぐいっとクーのほうに乗り出して、言った。

( ФωФ)「お嬢さん、覚えておくといい。海軍のメンバーなんてのは、ほとんど全部が強制徴募だ。
       つまり、陸の上でお楽しみの最中に、無理やりひっ括られて連れて来られたやつらばっかりってことだ。
       いまさらここに来て恨みだの何だの言うようなやつは、海の上じゃ、一人もいねえもんさ!」

(-_-)「そ…そう…みんな…いっしょ…」

 目に傷を持った水夫は、ヒッキーと呼ばれた水夫の首根っこを捕まえて、ゆさゆさとゆすぶった。

( ФωФ)「おい、確かおめえは、この俺様が直接勧誘してやったんだっけな。がはは」

(-_-)「む…あ…あれは…勧誘なんかじゃ…。
    ぼ…僕が酒場でビール…飲んでたら…あんたが無理やり…」

( ФωФ)「ちぇっ、なーにが酒場だ、格好つけやがって。
       いいか、ああいう場所は、売春宿って言う名前なんだ、覚えとけ!」

 食卓がまた、野太い男たちの爆笑に包まれた。

133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:39:36.07 ID:Fp5t0HeUP

( ФωФ)「お嬢さん、もうひとつ覚えておくといい。
       この食卓で気をつけなきゃならんのは、フサよりもむしろこのヒッキーって変態野郎だよ。
       こいつは誰がなんと言おうと筋金入りのスケベでな、
       女とみれば何でもいい。どんな顔でもばあさんでも、
       とにかくスケベなことをしなきゃ気がすまない、ってタチの困った野郎でな」

(-_-)「ちょ、そ、それ、ひ、ひど…」

ミ,,゚Д゚彡「いんや、大事な忠告だ。
      だってよ、ロマネスクは嘘は一つも言っていねえ」

 どっとみんなが笑った。
 こんどはフサがヒッキーの首筋を捕まえて、ゆさゆさと左右にゆする。


 そのときちょうど、夕食がたっぷりと盛り込まれた木皿の配膳が、配膳係の手によって始まった。

 目の前で交わされる男たちの会話の光景に、口を開けて呆然としていたクーだったが、
 食卓に人数分の木鉢が置かれると、素早くそのうちの一つにとびついて、その中身をむさぼり始めた。

 そんなクーを見て、また食卓が大きな笑いに包まれた。

136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:42:14.31 ID:Fp5t0HeUP

 木皿に入っていたのは小麦粉でとろみをつけたスープのようだった。
 ジャガイモと、肉のような塊がいくつか入っているのが、カンテラの明かりでわかった。

 クーはむさぼるように木鉢の中身を掻きこんだ。
 スープ自体は悪くない味だったが、肉はひどいものだった。
 腐ったような臭いがするし、正体不明の小さな黒いものがいくつも浮かんでいた。

ミ,,゚Д゚彡「…海軍名物、腐りかけの豚肉スープを、初めて食べて飲み込めるとは、
      このお嬢様はなかなか海軍根性がお出来になられるな!」

 ヒッキーがスプーンを動かしながら、うんうんと頷いた。

 クーは配られた木皿の中身をまたたくまに平らげた。
 胸のむかつくような食事でも、クーの体には元気がよみがえってきた。
 赤薔薇亭で食べていたものに比べれば、この腐った肉のスープのほうが、幾倍もましな食べ物だった。

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:43:52.98 ID:Fp5t0HeUP

 皿まで綺麗に舐めあげているクーに、またフサがなれなれしく声をかけてくる。

ミ,,゚Д゚彡「どうでえ。強制徴募っても、悪いことばっかじゃねえだろ?」

 クーは皿を両手で持ちながらも、やっぱり無言で、フサにとげとげしい視線を返した。

ミ,,゚Д゚彡「ちぇっ。なんでえ、可愛げのねえ。いいかげんわかんねえか?
      だいたいよ、だいたいだぜ、無理やり連れてくるのが悪いことなんだとするよ、
      じゃあ、人間の人生自体が、神様の強制徴募みたいなもんだと思わねえか?」

川 ゚ -゚)「…?」

ミ,,゚Д゚彡「つまりよ、頼みもしねえのに、無理やりこの世に命なんか与えてくれちゃったりしてさ。
      まったく余計なお世話だぜ。
      生きるって大変だぜ、辛いことばかりだからな。
      だけどもよ、この世におぎゃあと生まれてきちまった以上、なんとかして生きていくしかねえだろ?
      それと同じだってことよ、俺の言いたいのはよ」

( ФωФ)「けっ、キリスト坊主みてえに知ったような口をききやがる」

 食卓にまた、笑い声が沸いた。

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:46:42.30 ID:Fp5t0HeUP

ミ,,゚Д゚彡「ま、これからはお前はこの食卓でメシにありつけば良いよ。今日からお前は食卓仲間だ。
      ほれ、みんなに挨拶しな、クー」

( ФωФ)「おい待てよフサ。俺はその案、気にいらねえな。
       こいつはチビのガキじゃねえか。しかも女だと? こんなのに海兵隊が勤まるわけねえよ。
       俺はそんなやつ、俺の仲間とは認めねえぞ」

 クーはロマネスクの言葉を聞いて、含み笑いを漏らす。

( ФωФ)「…何がおかしい?」

川 ゚ -゚)「『認めない』、か。
     じゃあ、私は一応、フサの仲間だったってわけか?」

ミ,,゚Д゚彡「何言ってんだクー。一緒にブラゲとやりあった戦友じゃねえか」

 間髪いれず、フサは言った。
 クーはそれもおかしくて、また噴き出した。

145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:49:45.99 ID:Fp5t0HeUP

ミ,,゚Д゚彡「なあロマネスク、同じ船に乗る仲間だよ、そんなにつんつんするなや」

( ФωФ)「…けっ。ガキに頼るようになっちゃあ、我が国王陛下の海軍もおしまいだな」

 そうは言いつつも、ロマネスクもそれ以上は言わず、自分の木皿をスプーンで掻き始めた。

 ふたたび食卓に会話が始まった。
 クーは聞くともなしに、彼らの会話に耳を傾けていたが、
 そのうちにだんだん上の空となり、自分の考えの中に没頭していった。

 クーはだんだんと、フサという男のことがわかり始めていた。

 こいつは腹の底から悪人なんじゃない。

 こいつはこいつなりに、私をかばおうとしている。
 食卓に呼んでくれたり、ロマネスクを説得したり…

 ただ粗野で、素朴で、豪快で、馬鹿なだけの、
 悪事を行う善良な精神を持つ、一人の人間なのだ。
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:51:46.77 ID:Fp5t0HeUP

川;゚ -゚)「わっ!」

 突然、クーは椅子から飛び上がった。
 隣に座るヒッキーがひそかに手を伸ばして、クーの尻を触ろうとしていたのだ。

 男たちはまた腹を抱えて大笑いしている。

( ФωФ)「あーあ、ほら、言ってるそばから」

ミ,,゚Д゚彡「ヒッキー…お前、こんな痩せっぽちのガキでもいいのか? バッカじゃねえの?」

 クーはヒッキーと距離を取って、汚いものを見る目つきで睨み付け、警戒している。

(-_-)「フヒヒ…すみません…!」

 低い声でグフグフと笑っているヒッキーを、クーは心底キモいと思った。
 幸いにして自分の食事は全部たいらげてあったので、クーはもう食卓に戻る気を失っていた。

 クーはそのまま小走りに食卓を離れて、昇降はしごを上り、甲板の上に出た。

155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:55:59.08 ID:Fp5t0HeUP
四.


 潮風が、クーの長い黒髪を撫でていった。

 外は夜闇が迫ってきていた。
 頭の上で白い帆がいっぱいに風をはらみ、膨らんでいる。

 すぐそばでシューシュー、と、船体が波を切る音が聞こえてくる。
 両側に星がきらめく夜空が広がり、水面ではときどき白波が闇を破る。

 挨拶を交わす水兵たちに混じって、クーは舷側通路をゆっくりと歩いていた。


 索具のあちこちにカンテラがぶらさげられていた。
 それらが投げかける金色の明かりの輪が、縦横に張り巡らされたロープに、複雑な影を落としていた。
 海面のかなたには、点々とほかの艦船のともす灯が見える。

 まともな暖かい食事を腹に入れたこともあって、クーは、自分がほのかな幸福感に包まれつつあることを感じていた。

157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:58:06.75 ID:Fp5t0HeUP

川 ゚ -゚)(居場所…か)

 クーは昨晩に見た悪夢を思い返してみた。
 そして、赤薔薇亭での生活と、ここでの食事の風景を対比する。

 赤薔薇亭での生活は、悪夢そのものだった。
 クーはいつも一人ぼっち。
 クーは楽しそうに笑い交わす娼婦たちの仲間ではなく、それよりもっと下の立場、下働きの孤児だったからだ。

 食卓でふつうの会話に仲間入りさせてもらったのは、思い返せば、クーにとって初めての体験だった。

159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/21(木) 23:59:45.33 ID:Fp5t0HeUP

 クーは舷側に両肘を置いて、真っ暗な海の向こうを眺めていた。

 ここは不潔で粗暴で危険な職場だが、少なくとも私の人生で身をおいて来た場所の中では、最良の場所だ。
 そう、考えざるを得なかった。

ミ,,゚Д゚彡「食卓仲間だ――」

 気持ちの悪いヒッキーや、粗暴だが豪快なフサ、いけすかないが真っ直ぐな男ロマネスク。

 彼らは、今日、私を仲間に迎え入れてくれた。
 私はこれから毎日、夕食を同じテーブルで、同じ仲間たちとともに食べるのだ。


 オレンジ色の光を放つカンテラの明かりに照らされた甲板で、クーは考え込んでいた。

 運命の荒波に翻弄されて、いつのまにかこんな場所に紛れ込んでしまっているが、
 どうやらここは、そんなに悪い場所ではないようだ。




第四話 ここまで―――

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