6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:06:49.86 ID:B5pJZhTB0


 紅葉の中、タンブルストンを乗せた馬車は走っていた。


 ニューソクタウンに向かう最後の宿場町で、彼は義兄アーネムからの手紙を受け取っていた。

(´<_` )「手紙? 兄者から私にか」

 街道駅長の差し出した封書は、その場では開かなかった。
 馬車が走り出し、一人きりになった今、彼はようやくその手紙の封蝋を壊した。




   川 ゚ -゚)は探しているようです  第二十三話

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:09:00.88 ID:B5pJZhTB0

 手紙の枚数は多くなかった。
 上質の紙に、アーネムの手による、流れるような筆記体が記されている。

 手紙の文字を追い始める前に、タンブルストンは、ふっと笑みを浮かべた。

(´<_` )(そういえばいつだったか。
      同じような秋の日に、兄者と、手紙の話をしたことがあったな)

 手紙が欲しければ書いてやる、といったのはタンブルストンのほうだったが、
 あの当事は、「手紙のやりとりをする」という言葉が冗談として成り立つほどに、
 二人は常に一緒にいたのだった。

(´<_` )(それが、今や)

 アーネムからの手紙に、彼は視線を落とした。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:15:08.72 ID:B5pJZhTB0

 この一年ほどの間、タンブルストンは、広大なヴィップ大陸の各地を転々としていた。
 旧ブラゲ領を中心に、ニューソク支配地域すべてを視察する旅をしていたのだ。


 ブラゲ植民地を攻め滅ぼし、思わぬ広大な土地を手に入れたニューソク植民地。
 だが、それはそれで、新たな問題も引き起こしていた。

 ヴィップ大陸は広い。島国ニューソクなどとは比較にならないくらいに。
 ニューソク植民地が新大陸唯一の覇者となり、大陸全部への支配権を手に入れたとしても、
 それはあくまで、形式面での話だった。

 実際の支配は、というと、ことに首都から遠い大陸の奥地にある街や村に対しては、
 全くといっていいほど及んでいないという現実があった。


 支配がゆるむと、乱れる。
 広い大陸のあちこちに点在する街や街道には盗賊が跋扈し、
 海には頻繁に海賊が出るようになった。

 これを是正するために派遣されたのが、タンブルストンだった。


 タンブルストンは総督アーネムの全権特使として、大陸じゅうの街を実際にその足で訪れた。
 旧ブラゲ領ではブラゲの支配の終焉を宣言し、もともとのニューソク領では綱紀を引き締め、
 ニューソクの行政を始める足がかりを作るという任務を行っていた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:18:56.80 ID:B5pJZhTB0

 …と、いうのは、表向きの話だった。
 タンブルストンの全国行脚の、本当の目的は、「雲隠れ」だった。


 雲隠れをしなければならない理由の元は、ブラゲ戦役での彼の、ある一つの行動にあった。
 クックル殺し、である。

 ブラゲタウン攻略戦の最後の局面。
 両軍の兵士が居並ぶ公式の会談の場で、敵の代表として出てきていたクックルを、
 タンブルストンはその場で宣戦布告することなく、射殺した。


 この行為は、現場にいて状況の流れをよく知るニューソク軍兵士たちには、喝采をもって受け止められた。
 それまではタンブルストンをただの冷血漢だと嫌っていた兵士も、この一件以降は彼を見直し、
 兵営ですれ違ったときなどには敬意のこもった敬礼を送ったりするようになっていた。


 が、軍営以外の場所で聞かれる評判は、必ずしも彼に好意的なものばかりではなかった。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:23:29.69 ID:B5pJZhTB0

 このタンブルストンの行為は、本国の貴族たちや大臣たちの間で、特に評判が悪かった。
 国際交渉を担当することの多い彼らは、タンブルストンの行動から生まれた国家規模の悪評の影響を、
 まともにかぶることになる人々なのだ。

 タンブルストンの行為はしばしば、貴族たちの晩餐会の席で、「現場の独断による蛮行」として弾劾された。
 ニューソク本国の議会においても、問題行動として議題に取り上げようとする動きまであった。


 実際、国際関係への影響は大きかった。

 ニューソクを攻撃する材料を探していたラウンジ国などは、ここぞとばかりにタンブルストンの行為を非難した。
 卑怯な暗殺行為、戦争で勝てないからといって、敵の元首を呼び出してピストルで撃ち殺すような国、と。
 ラウンジ語で書かれた新聞はみな、タンブルストンを非難する文言で埋まり、
 旧大陸の大衆劇場ではこの事件をおもしろおかしくアレンジした喜劇が大ヒットを飛ばしていた。

 各国駐在のニューソク外交官たちは、諸国の政府から呼び出しを受け、厳しい追及を受けていた。
 ことに東洋の専制君主たちは、元首暗殺というこの事件を恐れ、嫌った。
 トルコ駐在のニューソク大使は、スルタンの主席補佐官から長時間に渡り、威圧的に責められ続けた。
 中には「ニューソク人は危険分子だ」として、大使を公邸に監禁するような、中東の小国まで出てくる始末だった。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:29:20.42 ID:B5pJZhTB0

 こうなってはニューソク政府としても、タンブルストンの責任を追及しないわけにはいかない。

 本国から査問団が新大陸に派遣されるというニュースが、
 ニューソク国内の新聞のみならず、ラウンジ国の新聞によっても大々的に報じられた。
 これは、多分に国際的なアピールという意味も含んでいたのだろう。

 噂はまたたくまに国内から海外へと広がり、
 それは快速郵便船によって、海を隔てた新大陸ヴィップにも届けられた。


 タンブルストンは当初、査問を正面から受けるつもりだった。
 自らの行為が国際法上問題があったことは、彼自身も認めており、
 その罪は正しい手続きによって処罰、是正される必要がある、と考えていたからだ。

 そんな彼を止め、
 大陸各地を視察という名の「雲隠れ」に派遣する命令を出したのは、アーネムだった。

(´<_` )「なぜです兄者。私は罰を受けなければならない。
      規則は守られるべきだ。上が範を示さなければ、軍の規律全体も危うくなる」

( ´_ゝ`)「まあ待て。どうもこれは、くさい」

(´<_` )「…臭い?」

( ´_ゝ`)「蛇の巣のような王宮の中を知る俺だからこそ、こんなことを考えるのかもしれないが…。
     どうも今回の査問団の人選には、嫌な空気を感じる」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:33:22.06 ID:B5pJZhTB0

( ´_ゝ`)「私は思うのだが、今回の査問、これは兄王の陰謀だ」

(´<_` )「王の?
      この査問団は、王の意を受けて動いている、と…?」

( ´_ゝ`)「そうだ。王の腹は、だいたい読める。お前の処罰の件はただの口実だ。
      王の査問団派遣の狙いは私と、それからこの新大陸の支配権そのものだ。
      お前の件を理由にして、王は私を、総督の座から引き摺り下ろすつもりなのだ」

(´<_` )「…なるほど。
      そして、兄者の後釜には誰か兄王派の無難な貴族を総督に据えて、
      植民地を王の直轄領にしてしまう…」

( ´_ゝ`)「おそらく、そのとおりだ」

 アーネムにしては珍しく、その声には怒気をはらんでいだ。

( ´_ゝ`)「兄王め。
      あいつはどこまでも、私の邪魔をする気なのだ…」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:37:03.16 ID:B5pJZhTB0

 こうしてタンブルストンは、査問団の面々を乗せた船が新大陸に着くより前に、
 ヴィップ大陸各地を視察する旅へと発っていった。

 彼は長い時間をかけて大陸中の主要な都市を回り、ニューソクによる支配の確立に力を注いだ。
 そして一年のあいだに、ニューソクによる支配と行政は、各地に確実に行き渡るようになっていた。


 大きな成果を残した彼は、いま、久しぶりに植民地首都ニューソクタウンに帰り来たり、
 首都の石畳の上に馬車の轍をしるしている。

 揺れる馬車の中で、彼は改めてアーネムの筆跡を追った。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:40:37.97 ID:B5pJZhTB0
二.


 馬車は総督の公邸の前に、直接に横付けされた。

 植民地の民衆には、その容貌もあって人気の高いタンブルストンだが、
 一年ぶりの帰京を祝う、出迎えの民衆の姿は無い。

 彼の到着は民衆はおろか、植民地政府の高官にすら知らされず、極秘のうちに行われていた。
 これは、本国から派遣された査問団の団長であるニダー伯の命令だった。

<ヽ`∀´>「タンブルストンは問題の渦中の人物ニダ。
      彼の身柄は危険にさらされているので、警護の万全を期す必要があるニダ!」

 というのが、極秘の帰還を命じた趣旨だ、と伯は説明した。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:44:37.89 ID:B5pJZhTB0

 そしてこれまた保安上の必要という名目から、
 馬車から地面に一歩足を下ろしたタンブルストンは、
 その場で武装した赤服たちに、周囲をぐるりと囲まれることになった。

「お帰りなさいませ、タンブルストン卿」

 と、赤服の衛兵隊長はタンブルストンに敬礼し、言った。


( ´_ゝ`)「おい、何が身の安全だ。
      こりゃどう好意的に解釈しても、軟禁じゃねえか」

 タンブルストンを公邸の玄関まで出迎えに出ていたアーネムは、
 聞こえよがしにそう言って毒づいた。

 が、それで赤服の列になにがしかの影響を与えることは、できなかったよう。

 赤服たちは長いマスケット銃に着け剣をし、帽子はあご紐をしっかりとかけていた。
 実戦装備なのである。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:47:31.80 ID:B5pJZhTB0

 タンブルストンは、つとめて冷静に振舞った。
 周りを赤服に囲まれながらも、懐かしい我が家である公邸へと足を運びかけた。

 が、衛兵隊長がそれを制止した。

「我々と一緒においでください」

(´<_` )「どこへだ」

「郊外の軍営です。本国よりおいでの査問団の面々は、そちらでお待ちです」

( ´_ゝ`)「おい。タンブルストン卿は、たったいま長旅から帰ったところなんだぞ。
      すぐに査問とやらに引っ張るとは、お前らはどういう…」

「宿舎は、あちらに用意してあります。
 お帰りになられたらすぐにお連れしろという、査問団長ニダー伯よりの厳命ですので」

 武装した赤服たちを背景に、衛兵隊長は胸を張って言った。

 ニダー伯は国王の全権を受けた特使だ。王の代理である。
 形式的な命令権は、植民地総督であるアーネムよりも上位にあることになる。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 22:57:33.82 ID:B5pJZhTB0

(´<_` )「わかった、私は旅装を解いたらすぐに向かおう。待っていてくれ」

「旅装を解く? それは、軍営でもできますな。
 ご心配なさらず。必要なものは、すべて向こうに用意しております」

 衛兵隊長は頑なだった。

 彼は普通の赤服とは違い、特徴的な高い黒色の軍帽を被っている。 
 これは本国の近衛兵団の軍装だ。
 おそらく査問団の貴族たちが引き連れてきた、彼ら子飼いの兵士たちなのだろう。


 押し問答の末、タンブルストンは衛兵団長が用意した馬車に乗せられた。
 二十分ほど走って、ニューソクタウン郊外にある軍営で、馬車は止まった。


 衛兵隊長はタンブルストンを軍営の一室に案内した。

 狭くは無く、また部屋にしつらえられた調度の室も悪いものではなかったが、
 軍営らしく窓は少なく、機能性重視の殺風景といっていい部屋だった。

 タンブルストンはため息をついて、腰のレイピアをはずして壁に立てかけると、
 手近なソファにその長身の体を投げ込んだ。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:00:06.99 ID:B5pJZhTB0

 深々とソファの背に身を預けながら、
 タンブルストンは懐から、さきのアーネムの手紙を取り出した。


 親愛なる弟へ

本国から来た査問団の連中は未だに帰らない。
ここに来てもう一年になるというのに、やつらは未だにお前の行為の証拠を探し回り、
必ず査問会を開くのだと言って鼻息を荒くしている。
まるで悪霊に取り付かれた狂人のようだ。
もうこれ以上首都入りを引き伸ばせないというお前の判断には、私は懸念を表する。
が、私が何を言おうと、お前はお前の判断で行動するのだろう。
くれぐれも注意をしてくれ。
お前の身は、お前一人の考えで処断できると思うな。
お前がいなくなったら、私はどうやってこの山積する事務書類の標高を減らしていけばよいのだ。
お前の所信には、私の命運も共にかかっているのだ。

         お前の兄 アーネム

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:02:52.74 ID:B5pJZhTB0

 読み終わり、タンブルストンはふたたび手紙を注意深く畳むと、内ポケットへとしまった。

(´<_` )(…やはり、首都入りは、迂闊だったか?)

 一年が経ったいまも査問団が居座り続けていることは、この義兄からの手紙によって知っていた。
 だが、まさか帰着早々に兵士たちに取り囲まれて連行されるというところまでは、
 正直いって、予測の範囲を超えていた。

 今になって考えてみれば、
 査問団長が一年もの長きにわたってあきらめずに執念深く居座り続けたというのは、
 どれだけ本気で彼らがタンブルストンとアーネムを陥れようとしていたか、
 わかろうというものだったと言えるが…。

(´<_` )(査問団長のニダー伯という男、よほどしつこいやつなのかな…)

 タンブルストンは本国にいたころの記憶をまさぐって、
 ニダー伯なる男がどんな人物であったのか、思い出してみようと試みた。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:04:51.90 ID:B5pJZhTB0

 が、その試みがいくらも進まないうちに、ドアを力強くノックする音が彼の思考を中断した。

「タンブルストン卿。まもなく査問会が開催されるようです。
 査問委員の皆様が到着し次第の開始となりますので、ご準備をお願いします」

 衛兵隊長のどら声が、ドアの外からそう告げた。

(´<_` )(すぐさま、査問とやらを始める気なのか?)

 まだこの軍営に来てから一時間も経っていない。
 ニューソクタウンに帰ってからでも、二時間経ったかどうか。

 タンブルストンは憮然とした顔になり、

(´<_` )「ワインを、という贅沢は言わん。
      ニューソクタウンに帰ってから、せめて水くらいは飲みたかったんだがな」

 大きな声でそう言ったが、ドアの外からは何の応答も得られなかった。
 ため息をつき、タンブルストンはソファから立ち上がった。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:08:02.46 ID:B5pJZhTB0
三.


 さすがのタンブルストンも、無表情を保っていることはできなかった。

「ここです。委員の皆様がお待ちです」

 と衛兵隊長に案内された査問の場所は、軍営の最も奥まったところにある、
 普段は軍法会議などに使われるコート(法廷室)だったのである。

(´<_` )(まるっきり、罪人扱いか…)

 査問、などという比較的穏やかな言葉に騙されたわけではないが、
 これほどまでに被告にプレッシャーをかけてくるとは思っていなかったのも確かだ。

 衛兵隊長がドアの前で直立し、タンブルストンの入室を促している。
 少し待ったが、ドアが従卒や誰かの手により開けられる気配は無かったので、
 タンブルストンは自分で、重い両開きの木のドアを開け、中に入った。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:11:09.86 ID:B5pJZhTB0

 石造りの部屋に高い天井。
 まばらな配置の明かり取りの窓、うすら寒い空気。

 法廷の室内は、威圧的な空気で満ち溢れていた。
 そもそもが人を暖かく迎えるための場所ではないから、当然といえば当然だが。


(´<_` )(査問委員とやらは、八人か)

 部屋のほぼ中央にタンブルストンのための小さな椅子が用意されている。
 その三方を囲むように、査問官の長いテーブルが、
 高い位置にコの字型に配置されている。

 正面の一段高い場所に、査問団長のニダー伯が、
 豪奢な金筋入りのローブを羽織って、でんと偉そうに座っている。
 団長というだけあって、査問団員のなかでも最も位階が高いようだ。

 …もっとも、彼はただの傀儡にすぎず、
 真にこの査問会の悪意に満ちたたくらみを操っているのは、また別の誰かなのであろうが。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:13:50.13 ID:B5pJZhTB0

 ざっと見渡して、タンブルストンは査問委員の面々を確認した。

 正面は貴族、文民政治家たちの席。
 ニダー伯を真ん中に、いずれも太り気味の、飾り立てた中高年が座っている。

 右側は軍人代表のようだ。
 真ん中に着座している陸軍の老フィレンクト将軍のことは、タンブルストンも知っている。

(´<_` )(…フィレンクト将軍?)

 その人選に、タンブルストンは意外な感を受けた。
 この実直な老将軍は、こんなばかげた査問会の席にいるには似つかわしくない人物だった。
 陰謀や策略といったことからは遠い場所にいる、無骨な軍人らしい軍人だったはずだ。

 彼が査問官の一員に選ばれたのは、査問団は中立であるというふうに、体裁だけでも整えるためだろう。
 こずるい兄王派の宰相あたりが、無理やりにこの老将軍を、毒蛇の群れの中にねじ込んだに違いない。

 タンブルストンの考えは正しいと証明するかのように、
 老将軍はいかにも査問になど興味は無いとばかりに姿勢を崩して椅子に座り、
 鼻毛を抜くなどして、暇つぶしをしている。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:17:42.94 ID:B5pJZhTB0

 左側の二人には、タンブルストンの見知った顔は無かったが、
 着ている物から、彼らが聖職者の代表であることはわかった。

 真ん中に緋色のガウンを纏った主教。
 その脇には司祭。
 もう一方の脇は空席になっている。

(´<_` )(…空席?)

 三つずつ用意された席の一つが空席というのは、違和感を覚える光景だった。
 欠席なのか、それとも査問団は全員で八人なのか。


 どんな人間にも言えることだが、聖職者の中にも二種類の人間がいる。
 いいやつと、悪いやつだ。

 ここに集まったのは、よりにもよってその悪いやつらの中からさらに、
 厳重な選抜を経てよりによりぬいた悪者揃いの二人のようだ。

 タンブルストンは、二人の権力欲と選民意識に満ち歪んだ面相を見るや、
 そう判断し、確信した。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:20:45.16 ID:B5pJZhTB0

 タンブルストンが中央の椅子につくと、ニダー伯が重々しく、査問の開始を宣言した。

 長々とした人定質問の後、査問は、
 植民地で起こった出来事を一つ一つ確認していく作業から始まった。

 パートレム号の難破から漂着。
 小さな砦の建設。
 原住民との衝突。
 ラウンジ植民地との戦い。
 本国からの救援と、アーネムによる統治の開始。
 植民地の本格的な始動。
 そして、先のブラゲ植民地との大戦争。

<ヽ`∀´>「これらの歴史的事実については、タンブルストン君、別論、異議は無いね?」

(´<_` )「はい」

 ふんぞり返って質問するニダーに、タンブルストンは無表情にそれだけを答え続けた。

 タンブルストンは現在、植民地総督の副官であるが、それはあくまで職務上の役職であり、
 国家の公的な地位、階級では無い。

 位階という面で言えば、伯爵であるニダーは、
 一介の平民出身の軍人であるタンブルストンをはるかに超越していることになる。
 それでどうしてもニダーの言動は、高みから見下ろすようにして質問するという調子になる。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:26:09.24 ID:B5pJZhTB0

<ヽ`∀´>「…では以降は、これら事実を前提として、
      君にいくつかの疑問点について質してみたいと思うニダ」

 舌なめずりでもしそうないやらしい笑顔で、ニダーはそう告げた。

(´<_` )(さあ、来るぞ)

 査問本番だ。
 居並ぶ委員の面々が、いくらか居住まいを正した。

<ヽ`∀´>「まずは前提的な質問だが…。
      タンブルストン君。君が査問会開催の知らせを知ったのは、いつのことだったニカ?」

(´<_` )「おおむね一年ほど前でしたかな」

<ヽ`∀´>「一年。そう、一年も前のことニダ。君が、自分に対する査問会が開かれると知ったのはな。
      一年もの間、我々の前から姿を消していたとは、いったい君はどういうつもりだったニカ?」

(´<_` )「公務で、首都を留守にしておりましたので」

<ヽ`∀´>「公務? それは、我々査問団を一年もこの辺境の地に待たせておいてまで、
      そちらを優先しなければならないほど重要なものだったニカ?」

(´<_` )「…はっ。植民地はまだ立ち上げたばかりなので、
     処置に一刻の猶予もおけない火急の課題が、各地に山積しておりましたので」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:31:12.32 ID:B5pJZhTB0

<ヽ`∀´>「ほう…聞こうではないか。
      国王の勅使たる査問団を差し置いてまで処理することが必要だった、
      火急の公務とやらの内容について」

「我々高貴なる査問委員を一年間も待ちぼうけにさせる重要性が、
 はたしてその公務にはあったのかな、ミスタ・タンブルストン?」

 聖職者の一人が、横からニダーに便乗して言った。
 誰かをいたぶるのが楽しくて仕方が無い、という種類の下劣な響きが、その声にはあった。

 タンブルストンは、自分のぐるりを囲む列席の委員から投げかけられる瘴気に、
 気分が悪くなりそうだった。
 それでつい、皮肉の一つも言ってやろうかと、口を開きかけた。


 が、その時。
 右側の席からフィレンクト将軍が、鷹揚な調子で発言を行った。

(‘_L’)「もう良いではないか、それは。
    わしらはタンブルストン君の「遅刻」を査問するために派遣されたのではないだろう?」

 委員たちの目が、一斉に老将軍に注がれた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:36:04.00 ID:B5pJZhTB0

「…ごほん。将軍、これは国家の重大な審理なのですぞ。
 外交上緊急性の高い案件であるにもかかわらず、それをことさらに無視したタンブルストンは…」

 聖職者が言ったが、将軍はそれを、のんびりした大声で遮った。

(‘_L’)「なーにが緊急か。
    一年もぼーっと審理を待っていられるんじゃから、よっぽど時間に余裕のある案件なんじゃろ、これは」

 老将軍の言葉に、どん、と拳でテーブルを叩き、ニダーが言った。

<ヽ`A´>「我々は決して余裕があったわけではないニダ!
     一年間も待ち続けたのは、この問題自体が一年の長きにわたって今日に至るまで、
     いまだ国際関係の舞台において長引いているのニダ!
     徒に解決を引き延ばし、国家に損害を与えた責任は、タンブルストンにこそあるニダ!」

 が、老将軍はそんな査問団長の怒りも柳に風と、軽く肩をすくめてなおも呟いた。

(‘_L’)「責任()笑。あんたら、こんな会議で外交の何かが変わると思っしゃるか。
    それとも真実追求がこの会議の目的だというなら、さっさと話を先に進めてくれんかのう?」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:38:45.12 ID:B5pJZhTB0

 査問は紛糾した。

 老将軍は、悪意に満ちたこの査問会の中で、ある種の換気装置の役割を果たしてくれていた。
 そのおかげで、対話は委員とタンブルストンの間だけでなく、委員どうしの間においてすら荒れ、
 本題であるはずの、タンブルストンの射殺行為には、なかなか話が及ばなかった。

 が、それでも会議が二時間をすぎ、四時間を過ぎる頃、
 話の内容は少しずつ少しずつ、タンブルストンの非違行為についての内容に近づいていった。

 会議が本題に入るや、団長ニダーは嬉々として、次々と用意された質問の束をぶつけてきた。
 それらはどれも一様に悪意と曲解と誘導に満ち、
 まるでタンブルストンを陥れるためだけに考えられているとしか思えないような、
 不公平で一面的な質問だった。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:43:07.04 ID:B5pJZhTB0

(´<_` )(どうあっても、俺を有罪にするつもりなんだな)

 彼は、個々の質問には正確に答えつつ、頭の中で考えた。

 自分のした行為の責任はとるつもりだ。
 だが、いま目の前のニダー伯が繰り出し続けるおかしな質問の数々を見ていると、
 どう考えても、彼ら査問団は、真実を明らかにするということ以上の意図を持っているとしか思えない。

(´<_` )(やはりこれは、兄者の言っていたことが正しかったのか。
      兄王と本国政府は、植民地を接収するつもりなのか。
      今回の事件を口実として、な…)

<ヽ`∀´>「…では内心的意思としては、君はクックルに対し個人的な憎悪と悪意を抱いており、
      君が彼を撃ったのは、けっして突発的な激昂によるものではなく、
      以前から君が心に抱いていた他国人に対する悪意を今こそ実行するときと考えて、
      冷静に、計画的に、確定的な殺意を持って殺害を実行した。
      引き金を引いたときの君の気持ちは、こう言って構わないね?」

 人を陥れようとする暗い情熱に満ちたニダーの言葉を聴きながら、タンブルストンは考えていた。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:46:50.47 ID:B5pJZhTB0
四.


 ようやく、一日目の査問が終わった。
 タンブルストンは一人、軍営の廊下を、あてがわれた自室へと向かって歩いていた。

 ばかげた、しかし暗い方面には異常に情熱的な査問会からタンブルストンが開放されたのは、
 席についてからおおよそ七時間が経過してからのことだった。

 そのあいだ短い休憩を一回挟みはしたものの、
 全体としてはねちねちとした精神攻撃や、幼稚な委員同士の言い争いに始終した会議だったため、
 流石のタンブルストンでも、顔に浮かぶ疲労の色は覆い隠せなかった。

 それでも彼は長身の背筋を張り、しっかりとした足取りで軍営の中を歩いた。

 既に日は落ちており、寒々とした軍営の廊下は、
 壁側に並べられた小さいランタンにより照らされている。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:49:31.97 ID:B5pJZhTB0

 はじめ、その人物には気づかなかった。
 闇に隠れて、目には見えない。だが、気配だけはあった。

 薄暗い廊下に、黒い僧衣を全身に纏った人物が立っていると気づいたのは、
 その人物がふいにタンブルストンに向かって手を挙げ、歩み寄ってきたからだ。

 思わず、タンブルストンは身構えた。
 なんともいえない嫌な気配を、その人物は纏っていたからだった。

 だがそんな警戒にかかわらず、黒衣の人物は親しげにタンブルストンに声をかけてきた。

( ・∀・)「やあ、お久しぶりです。タンブルストン卿」

(´<_` )(お久しぶり?)

 タンブルストンは自分の記憶を急いで掘り返し、
 そして、見つけた。

(´<_` )「君は確か…。司祭モララー、か?」
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:54:39.61 ID:B5pJZhTB0

( ・∀・)「あっ、覚えててくださったんですね。光栄です。
      旗艦ティベリウス号甲板で、一度お会いしましたね」

 それで、タンブルストンははっきりと思い出した。

 新大陸に向かう前に乗っていた旗艦で、軍法会議の際、クーとドクオを有罪にする決め手となった証人だ。
 今まで忘れてはいたが、その妙に余裕ぶったにやにや顔には、確かに覚えがある。

(´<_` )「うむ、そうだったな。
     …では」

 タンブルストンは短く言うと、再び歩き出そうとした。
 別にこの聖職者に用は無かったし、なにより彼は、疲れていた。

( ・∀・)「査問はいかがでしたか?」

 平然とした、モララーの声。
 横から掛けられたその声に、タンブルストンの歩みは再び、止まった。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 23:58:47.92 ID:B5pJZhTB0

( ・∀・)「罪人として査問されるのは大変でしょう。ことに、あの査問委員の面々が相手ではね。
     でも、あのメンバーの中にも救いはある。
     フィレンクト将軍はどうでした? あの方はきっと…」

 饒舌に話し始めたモララー。
 タンブルストンはいらいらして、その言葉を遮るように、鋭く言った。

(´<_` )「口を閉じろ。君には関係の無いことだ」

 査問に関する話は、今は誰の口からも聞きたくなかったのだ。

( ・∀・)「関係無い? あははははっ。
      …ところが、そうではないのです」

(´<_` )「…?」

( ・∀・)「あの査問会は、私にもおおいに関わりがあることなのです。
      それというのも、じつは私、査問委員の一人でしてね」

(´<_` )「なに…?」

 タンブルストンの脳裏に、聖職者の三つの席に一つだけあった空席の映像が浮かんだ。
 するとあれが、このモララーとかいう司祭の席だったのか。


 タンブルストンの長身がランプの光の影を作り、モララーの黒衣はますます闇と溶け合った。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/20(火) 00:01:05.36 ID:S4YrTK3C0

 闇を通して、二人は向き合った。

 モララーは始終にやにや顔を崩さなかった。
 一方でタンブルストンはモララーに、睨みつけるような視線を放っていた。
 いつもの冷たい視線のうえに、長い査問で疲れて落ち窪んだ眼窩が、凄味を添えていた。

(´<_` )「なぜ、あの場に出席していなかった?」

( ・∀・)「ばからしいからですよ。あなたもそう、お思いでしょ?」

 本音。

 査問がばからしい、というモララーの言葉に、タンブルストンの眉が、動いた。

 査問委員自らの口から、自分たちの存在意義を否定するような言葉が飛び出した。
 それがこの黒衣の聖職者の何を意味するのか、タンブルストンは図りかねていたが、
 モララーは少なくとも、表面上だけの会話をしたいのではないことは確かだ。

( ・∀・)「あんな会議、最初から結論が決まっているんだから。
     あれの目的は、あなたの射殺行為を論じることなんかじゃなくて、
     もっと別のところにあるんですもんね。…言ってる意味、お分かりですか?」

 そう言ってモララーは、挑戦的にタンブルストンを見上げた。

(´<_` )「ああ。兄王はよっぽど、この新大陸を自分のものにしたいようだな」

 じっとモララーの瞳を見据えたまま、タンブルストンは言った。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/20(火) 00:04:06.76 ID:S4YrTK3C0

( ・∀・)「おや、あなたはわかってらっしゃらない」

(´<_` )「む…?」

( ・∀・)「そりゃ確かに、新大陸を自分のものにすることは、兄王だって考えているでしょうよ。
      でもね、それはもっともっと先の話。まずは…」

 どこから取り出したものか、モララーは一通の書類を、その片手に持っていた。
 書記の手による、まるで印刷のようにきっちりとした文字が並んだ、大判の書類だった。

( ・∀・)「タンブルストンさん。
      これね、あなたの罪を赦す、っていう、国王直筆署名入りのワラント(証明書)なんですよ」

(´<_`;)「なっ…?」

 タンブルストンの表情に、初めて驚きの色が浮かんだ。
 国王からの赦免状?
 そんなものは、そうおいそれと発行されるものではない筈だが…。

(´<_`;)「何だそれは。恩赦ワラントだと?
      本物なのか…?」


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/20(火) 00:06:35.16 ID:S4YrTK3C0

( ・∀・)「もちろん。ほら、印も封も、ばっちり国王陛下のものでしょう。
      実は私、国王様じきじきの命を受けて動く、情報部の人間でしてね。
      それで、こんなものも手に入る…」

 モララーは大判の書類を片手で持って、タンブルストンのほうに突き出して見せた。

 タンブルストンは困惑した。
 疑問が、彼の頭の中で渦を巻いていた。

 どういうことだ。
 なぜ国王は、議会や貴族たちに逆らって、俺に恩赦のワラントなんかを出すんだ。

 黙り込んだタンブルストンを、モララーはあいかわらずのにやにや笑いで見つめて、言った。

( ・∀・)「いろいろ聞きたい、って顔、してますね。タンブルストンさん。
      そりゃあ私も、聞かれたことには答えないでもないですよ。
      でもその前にちょっとここ。ここを見てください」

 モララーは書類の一箇所を指で示し、タンブルストンに提示した。

( ・∀・)「ここです。この小さい字…ここにつらつらと、恩赦の条件が書いてありましてね。
      行状を慎む云々…は置いといて、意味のあるところだけをとりあげると、
      『以後ハ本国近衛兵団ノ士官トシテ勤務スヘシ』、という、この部分」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/20(火) 00:09:13.87 ID:S4YrTK3C0

(´<_` )「近衛兵団士官、だと?
      この俺に本国勤務をしろというのか?」

( ・∀・)「おお、国王はなんと慈悲深いのでしょう。そう思われませんか?
      あなたがもし本国に帰り、近衛兵団に入るという条件に同意するならば、
      国王はあなたの罪を不問にすることを約束する、とおっしゃっているのです。
      近衛兵団!
      このワラントの条件に従いさえすれば、あなたは罪を許されるのみならず、
      こんな田舎での軍務より何倍も素晴らしい、本国勤務という栄転を賜るのですぞ!」

 モララーがここまで言った段階で、タンブルストンははたと、あることに思い至った。

(´<_` )(…そうか。
      兄王は、俺という存在を、新大陸から、
      そしてアーネム公から引き剥がそうとしているのだな!)

( ・∀・)「おわかりになられましたか? どうも、その様子だと…」

 気味の悪いにやにや笑いは、張り付いたようにモララーの顔から消えなかった。





第二十三話 ここまで―――

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