5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:04:40.61 ID:Dhb8B2AFP


    主よ、できることなら、この苦い杯を私の前から退けてください。



                           ――ルカの福音書22:42







   川 ゚ -゚)は探しているようです  第十六話
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:07:10.49 ID:Dhb8B2AFP
一.


 クーは杯を傾けた。水で割っていない強いラム酒が、喉を焼いた。

 耳まで真っ赤にした彼女は、酔っ払い、上機嫌だった。
 が、眠るデレの邪魔をしないように、できるだけ静かに飲んでいた。


 街は眠りの中にあった。
 家の中で、小さなランプひとつだけをともして、クーは一人酒を飲んでいた。


 士官用のラム原酒が入ったボトルが、テーブルに立てられている。
 その透明なダークブラウンの傍らに、流麗な細工の施されたロケットが置いてある。

 それは、死んだホライゾン氏が身に着けていた、ツンの肖像画が収められたロケットだ。
 デレと共同で使っている私物入れをひっくり返して、さっき見つけておいたのだ。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:09:49.03 ID:Dhb8B2AFP

 ボタンを操作し、ロケットの蓋を開けた。
 とげとげしい顔つきのツンの肖像が、クーの目に飛び込んでくる。

 ホライゾン氏の遺品であるロケット。死の間際まで氏が堅く握り締めていたもの。
 できることなら、ちゃんと妻であるツンに返してあげたかった。


川 ゚ -゚)「…でももう、渡せないな。戦争が始まっちゃったから」

 ひとりごちて、クーはロケットの蓋を閉じた。


 ネックレスの部分に血の跡があった。
 ホライゾン氏は頭から大量に出血しながら、最後には医者にすら見離されて、死んでいた。

 でも死の瞬間は、孤独ではなかった。彼の心は妻であるツンと共にあった。
 この血に塗れたロケットは、ホライゾン氏と、遠く離れた地で彼の帰りを待つ妻とを、結び付けていたのだ。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:11:29.98 ID:Dhb8B2AFP

 クーはもう一度杯をあおった。
 ふと、自分の士官服の胸には、ショボンにもらった十字架が収められていたことに気がついた。

 少しおぼつかなくなった手元をポケットにすべりこませ、中に入っていた銀色の鎖を引き出した。
 十字架に磔にされたイエスの浮き彫りが、綺麗な白い銀の鎖につながれていた。


川 ゚ -゚)「ショボン…」

 あらためて考えてみると、ショボンはずいぶん、クーによくしてくれている。
 反抗的で生意気なクーに、嫌な顔もせず、辛抱強く世間の常識というものを教えてくれている。

 親、というものをクーは知らないが、
 もし自分に親がいるとすれば、無私の愛を注いでくれる、彼のような人物なんだろう。クーはそう思った。


 気づけば、銀の鎖を、クーは首から提げていた。
 本来は服の中に着けるものなのだろう。士官服の上にキリスト像が垂れているのは、おかしかった。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:15:18.67 ID:Dhb8B2AFP

 入り口ドアが音も無く開いた。

 ドアに向かって座っていたクーは、入ってくる黒い人影が、ショボンであることに気づいた。
 彼の顔を見ると、クーは自分が銀鎖を身につけたことが、とたんに恥ずかしくなった。


川 ゚ -゚)「あっ、シ、ショボン」

 顔はすでに強い酒で真っ赤だったが、それ以上に動揺は声に現れていた。

(´・ω・`)「あれ? クー、まだ起きてたの」

川 ゚ -゚)「お、お前こそ、ずいぶんと遅いお帰りだな。女遊びもほどほどにしろ」

(´・ω・`)「…お酒くさい」

 ショボンは言って、テーブルにあった酒瓶を持ち上げた。

(´・ω・`)「あっ、これ原酒じゃないか。どうしたんだ、どこでこんなものを手に入れて…」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:17:31.77 ID:Dhb8B2AFP

川 ゚ -゚)「どうだ、すごいだろう。水兵用の水割りラムじゃなくて、それは士官用の原酒だぞ」

(´・ω・`)「士官?」

川 ゚ -゚)「そうだ、ついに私は、正式に士官になったんだ。
     さっき聞いたんだけど、私、今度のブラゲ戦争で、部隊を一つ任されることになったみたい。それで…」

(´・ω・`)「へえ、それはすごい…大昇進じゃないか」


     (( ・∀・)「英雄は、芽のうちに摘む」)

 モララーの言葉が、ショボンの頭の中にフラッシュバックした。


 芽のうちに…。
 その芽は、いま青々と本葉を出し、大きく成長をはじめようとしている。

(´・ω・`)(正式に士官になって、部隊を率いて戦ったりしたら、きっとこの子は大きな手柄を立てる。
      話題性とあいまって、彼女が植民地の英雄になるのは、そう遠い日じゃないだろう…)


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:19:50.50 ID:Dhb8B2AFP

 はっとして、ショボンは振り返った。
 クーがにやにやと笑いながらショボンのほうを見ていた。

(´・ω・`)「な、何だい、人のことを見て笑ったりして!」

 自分の嫌な考えを見通されたかと恐れて、ショボンは怒った。
 そして、次の瞬間、ショボンはクーの胸元に揺れる銀の十字架に気づいた。

(´・ω・`)「あっ、それ」

川 ゚ -゚)「ん、これは…」

 クーは気恥ずかしそうにしたが、覚悟を決めてそれを手に乗せると、ショボンによく見えるように突き出した。
 そして、酒で赤くした顔で、にっこりと笑った。

川 ゚ -゚)「座れよ、一緒に飲もうぜ、ショボン」

 クーは言った。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:22:33.99 ID:Dhb8B2AFP

 ショボンは逡巡した。
 袖口には、すでに人殺し用の毒針が、すぐに使えるよう用意されてあった。
 彼の計画では、それで寝ているクーを刺し殺すつもりだったのだ。

 だが…

(´・ω・`)(最後の一献だ、付き合おう)

 少しでも暗殺を先延ばしにできるなら、という気持ちがショボンに無かったといえば、嘘になる。


 ショボンはクーの向かいに腰を下ろした。
 クーはうれしそうに、ショボンのマグカップに原酒のラムを注いだ。

川 ゚ー゚)「こんな夜も、たまにはいいな。
     考えてみれば、お前とは毎日顔を合わせてるが、
     こんなふうにゆっくり酒を飲むのは、初めてかもな」

(´・ω・`)「なあにを…。君はまだ十五歳だぞ。強い原酒なんか飲んで、背伸びして…」

 クーは上機嫌だった。
 ショボンの説教めいた言葉も、この夜はにこにこして受け流した。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:26:43.10 ID:Dhb8B2AFP

(´・ω・`)「その十字架、かけてくれたんだね、クー」

川 ゚ -゚)「ん」

 クーは胸元に下がっている銀のイエス像を、そっと握った。

川 ゚ -゚)「い、いや、私は神の愛など信じちゃいないぞ。おまえら坊主はうそつき揃いだからな。
     でもショボン、その…お前がいつも、私のことをわが子のように考えてくれてるのは、わかるよ。
     照れちゃって、いままではいえなかったんだけど…」

 酒で―それ以外の理由もあったかもしれないが―真っ赤な顔を、クーは伏せた。
 黒髪がぱさりと前に落ちて、その表情を覆い隠した。

川 - )「その、いつも、ありがとうな。…ショボン」

 ろれつのうまく回らない様子で、クーは言った。

 ショボンはマグカップを強く握り締めた。
 陶器のきしむ音が、かすかにした。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:30:38.41 ID:Dhb8B2AFP

 クーは髪を掻き上げ、一口より少し多い目にラムをあおった。
 ぷはっと酒臭い息を吐いて、また言った。

川 ゚ -゚)「ときどき、夢をみてるんじゃないかって思うんだ。
     ここでこうして、立派な服を着た私が生きている、ということが信じられなくて。
     おかえりと言ってくれる人たちに囲まれて、あたたかい家の中に、この私がいるなんて…」

(´・ω・`)「な、なるほど。
     つ、つい半年ほど前までは、君は…」

 蝙蝠、と呼ばれていた頃のクーの姿を、ショボンは知っている。
 それに比べると、たしかに目の前の少女は、もはや別人と言ってもいい。

 少女らしいしなやかな体つき、大人といえる程度には伸びた身長、
 そして、立派な士官服に身を包み、活発で、楽しげに振舞う物言い…


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:32:56.04 ID:Dhb8B2AFP

 ショボンはいたたまれなくなって、話題を変えた。

(´・ω・`)「そ、それで、ホライゾン氏の死体の件だけど…。
     ドクオはどう言ってた?」

川 ゚ -゚)「ん。その件は話したけど、それは今は公にせず、伏せておきたい、だってさ」

(´・ω・`)「え。ホライゾン氏が死んだこと、秘密にするのかい?」

川 ゚ -゚)「そうみたい。今はブラゲと開戦が決まったところだからね。
     この微妙な時期に、そんなことをブラゲに伝えたら、絶対にブラゲ側の感情を害する、って…」

(´・ω・`)「いまさらそんなこと考えなくても、うちとブラゲは戦争するんじゃないの?」

川 ゚ -゚)「そうだけど、ドクオはなるべくなら、ブラゲとは話し合いで事態を解決したいんだってさ。
     だから交渉の芽だけは残しておきたい、って」

(´・ω・`)「へえ…」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:37:12.85 ID:Dhb8B2AFP

川 ゚ -゚)「私もドクオの気持ち、分かるよ。
     タンブルストンなんかは今回の戦争を正義の戦争なんて言ってるけど、どうだかね…。
     だいたい、正義って何さ」

(´・ω・`)「なにを言ってるんだ。正義は、正義だろう」

川 ゚ -゚)「何が正義かなんて、結局はその人の考え方次第、人によってばらばらなんじゃないの。
     現にブラゲたちは、じぶんたちのやってる原住民弾圧を、正義だと思ってるよ」

(´・ω・`)「…それはたしかに、正義は人によって違うものかもしれないね。
      ブラゲにはブラゲの正義、ニューソクにはニューソクの正義。
      でも、…誰かと戦うことは、ためらうべきじゃないよ。
      人はみな、自分の意思を貫くために行動すべきなんだ。
      そのためには他者を殺すことも厭うべきではないんだ」

 自分の言葉が話の本筋から逸れていることに、ショボンは気づいていなかった。
 いつのまにかショボンの言葉は、暗殺を自己正当化するためのものに、摩り替わっていた。

(´・ω・`)「『人間誰でも話し合えば分かり合える』なんてのは、甘っちょろい幻想だ。
      不屈の意思を持つ人間なら、殺しは避けるべきではない。
      人殺しという行為につきまとう後ろめたさに縛られて何も行動できないよりは、
      人を殺して自分の意思を貫いたほうが、はるかにいい生き方だよ」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:39:34.57 ID:Dhb8B2AFP

 白熱した議論に、クーは勢い込んで言った。

川 ゚ -゚)「でも、それじゃ、神は何のために人間に言葉を与えたんだ。
     言葉が和解を生むのなら、それは尊いことじゃないか」

 ショボンはマグカップを傾けた。原酒のとろみが、口の中に華やかな香りを広げた。
 それは彼の口をより滑らかにした。

(´・ω・`)「温情だね。君は変わったよ、蝙蝠。昔の冷たい性格は影を潜め、今はとても暖かく、明るくなった。
     でもそれは、やっぱり幻想さ。
     現実という寒風に吹かれていない、ぬくぬくとした家の中で育ったお嬢さんの言葉だ」

川 ゚ -゚)「…ショボン……?」

 クーは不思議そうにショボンを見た。
 ショボンは何かに憑かれたように、口角に泡を溜めて喋り続けていた。


 気のせいか、窓の外が白み始めている。夜明けが近いのだろう。

     (( ・∀・)「頼んだよ、クーの暗殺。…今日中にね」)

 憑きまとう亡霊のようなモララーの顔と声が、ショボンの脳内に再生された。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:44:54.53 ID:Dhb8B2AFP

(´・ω・`)「言葉。言葉ね、はははは。貴族のボンボンのドクオが言いそうなことだ。
     話し合えば分かり合えるなんてのは絶対に、絶対に幻想なんだ! …ばかがっ!」

川 ゚ -゚)「おいショボン、お前…」

(´・ω・`)「信じられないならいい。僕はいまから、それを証明してみせるよ。よく聞くんだ。
      なぜ人は言葉で分かり合えないか。簡単なことだ。正義とは、奪い合いだからだ。
      人を生かすには食料がいるだろ。では、二人の人間がいる場所で、食料が一人ぶんしかなかったら、どうだ?
      そう。どちらにも食料を獲る権利はある。すると、正義と正義の戦いが起きるんだ」

 ショボンは椅子から立ち上がり、クーのほうに上体を寄せて、唾を飛ばして激しく語りかけた。

川 ゚ -゚)「ど、どうしたんだよ。今日のお前は何か変だぞ。お前、酔うと、そうなるのか?」

 ショボンの目は血走っていた。

 それは、異常な興奮状態にあるためか、それとも、瞳の端に浮かんだ涙の粒のせいなのか、
 クーは困惑しながらショボンの視線を受け止めていた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:47:47.96 ID:Dhb8B2AFP

(´・ω・`)「いいか、今日こそはっきり言うぞ。今の君の生ぬるい考え方は…間違っている!」

川 ゚ -゚)「なんだと? …おい。
     酔いに任せた放言だとしても、いい加減にしないと怒るぞ。ショボン」

 二人は睨み合った。
 クーは椅子から立ち上がり、ショボンと向き合って立った。

 クーの身長は、いつのまにかショボンの肩くらいにまでは達していた。

(´・ω・`)「これは君のためを思って言うんだ。
      今の君のやり方を貫けば、君は、きっとこの先生きのこれない!
      昔の君に戻るんだ!
      生ぬるい考えは捨てろ! 友情ごっこは終わりにしろ! 恨みは、いつまでも忘れるな!」

川 ゚ -゚)「私を怒らせるつもりで、そんなことを言ってるのか?
     恨みに、猜疑心…そんなものは、もう私には必要なくなったんだ。
     フォックスやハインと違って、水兵仲間はいいやつだし、それにショボン、もとはといえば、
     お前が献身的に私に良くしてくれたから、私は人の良心というものを感じるように…」

(´・ω・`)「だめだっ!!
     もっと他人を疑え! 誰も信じるな!
     君がいちばん信頼を置いて、君がいちばん心を許した人間は、
     いま君にいちばん害をなそうと考えているのかもしれないんだぞ!」

川 ゚ -゚)「?? ショボン、お前はさっきから何を…」


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:49:45.39 ID:Dhb8B2AFP

 外で、一番鶏が甲高く鳴く声がした。
 夜明けだ。

 日が変わる。







 それで、太陽に打ち消される影のように、ショボンは動いた。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:53:00.67 ID:Dhb8B2AFP

 右腕が伸びた。
 クーの胸に、ショボンの右肩がぶつかった。

 どん、と音がして、クーの間の抜けた顔が揺れた。
 とっさの出来事に、クーは全く反応できなかった。

 あらわになった毒針が、クーの胸元に、垂直に立っていた。


川 ゚ -゚)「…あ………?」

(´;ω;`)「……」


 不思議に、痛みは無かった。


 毒針は、クーの体を刺してはいなかった。

 それは胸元の銀のイエス像に突き立っていた。
 偶然に当たるようなものではない。
 ショボンは、暗殺者としての高度な技術で、正確に銀の十字架を狙って刺したのだ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/13(月) 23:57:15.64 ID:Dhb8B2AFP

(´;ω;`)「これでわかっただろう。僕が、何者か」

川 ゚ -゚)「えっ、あっ、ショボン、お前、これ…?」

(´;ω;`)「それ以上喋るな。どこかでモララーの手の者が見てるかもしれない」

 ショボンはすばやく、小声で言った。
 だがクーは、ショボンの行動の意味も言葉の意味もわからず、呆然と立ちすくんでいた。
 まさか、ショボンが自分を殺そうとしているなんて、夢にも思っていないのだ。…毒針が見えた、今でも。

(´;ω;`)「クー、僕を殺せ」

川;゚ -゚)「…は? 何を」

(´;ω;`)「頼む、殺してくれ。僕が死なないと、僕の両親がモララーに殺されるんだ」

川 ゚ -゚)「両親?! …と、突然そんなことを言われても、私には何が何だか?」

(´゚ω゚`)「黙れ、早く刺せ。水兵ナイフでやれ、僕の胸を刺せ。急げ!」

 ショボンは突然、見たことも無いほど恐ろしく威圧的な目をして、クーに命令を下した。

 なかば無意識にクーの手は動き、粗末な水兵ナイフを引き抜き、それを機械的にショボンの胸に差し込んだ。
 人を刃物で刺す動作。その一連の動作は、クーにとっては手が覚えている、慣れ親しんだ作業だった。

 ナイフは肋骨の間を通って肉を貫き、ショボンの心臓の強い筋肉の鼓動が、クーの手のひらに伝わってきた。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:00:33.41 ID:tLCwULi2P

 遅れて、クーの手を生暖かいものが伝った。
 ナイフを通じて、ショボンの胸から真っ赤な血が垂れ始めていた。

 クーの手の力が抜けた。
 からんと、ナイフが床に落ちた。そして、血がこぼれ出た。

(´・ω・`)「ああ…クー……」

 ショボンは一仕事終えたような満足げな顔をして、そして、ゆっくりと床にくずおれた。


川 ゚ -゚)「シ…」

 ショボンの心臓が、噴水のように動脈血を噴き上げた。

川 ゚ -゚)「ショボン!! 血が!」

 クーは床に膝をついてショボンを抱きかかえた。
 鼓動ごとに噴き出す血が、かがみこむクーの顔にかかり、赤く染めた。

川 ゚ -゚)「ショボン! ショボン! おい!」

 真新しいのりの効いた士官服が血で汚れるのもかまわず、クーはショボンの胸元を押さえた。
 傷口を押さえるクーをあざ笑うように、血は、クーの細い指の隙間から、とめどなくあふれ出していた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:04:48.00 ID:tLCwULi2P

川 ゚ -゚)「い、医者、医者だ!」

 クーは抱えたショボンを持ち上げようとしたが、筋肉の鎧に包まれた巨体は、重たかった。
 涙の粒がショボンの顔に落ちた。あふれ出る血よりも、それは温かかった。

 ショボンは首を横に振って、ゆっくりと手を持ち上げ、泣いているクーの前髪をかき上げた。

(´・ω・`)「クー。生きろ」

川 ; -;)「えっ、何」

(´・ω・`)「僕は死ぬ。でも、君は生きろ。
     誰も信じるな、疑うんだ。皆を騙すんだ。正義を振りかざし、周りを攻撃するんだ。
     そうすれば、生きていける。そうやって、生きろ。クー」

川 ; -;)「う、うん…? 私は死なないよ、生きるよ。
     でもショボン、お前も、お前も死んじゃだめだ、ショボン」

(´・ω・`)「よかった。君が、生きてくれて…」

 ショボンがにっこりと微笑んだ。

 そして、ショボンの両の瞼が、ゆっくりと閉じられていった。
 クーは、自分が掻き抱く牧師の体から、命が急速に抜け出ていくのを感じた。 

川 ; -;)「お、おい!? ショボン!? やめろ、死ぬな…だめ…死なないで……」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:07:22.35 ID:tLCwULi2P

 びくんびくんと、ショボンの全身は痙攣した。
 わずかに開いた唇の隙間から、細い声が漏れた。

(´-ω-`)「ああ…僕は死ぬんだ…。
      生きて、お願い、クー、ありがとう…」

 そして、ショボンの震えていた右手が、床に落ちた。


 朝まだきのニューソクタウンの白い朝靄に、ショボンの名を呼ぶ涙声が響いていた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:10:05.12 ID:tLCwULi2P
二.


 樽修理工場の二階は、朝日がもう上がっているというのに、
 雨戸をぴっちりと閉め切って外の光の一切を遮断していた。

 二つの人影が、ランプの明かりに揺れていた。


( ・∀・)「そっか、ショボンはやっぱり失敗したの」

 デスクに腰掛けるモララーが、壁際に立つ人物と会話していた。
 ランプの明かりは十分に届かず、部屋の四隅は暗かった。

( ゚ ゚)「しかも、どうもありゃ、わざと失敗したような感じもしますぜ、師匠…」

( ・∀・)「あー。彼ならそれも十分、ありうる話だね」

( ゚ ゚)「ってことは師匠、俺の次の任務は、あいつの一族の皆殺しで?」

( ・∀・)「まさか。そんな面倒なこと、我々がやるわけないじゃないか。
      ま、もしショボンが生きているなら、見せしめにやったかもしんないけどね…」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:12:08.38 ID:tLCwULi2P

 壁際の人物は、顔を白い包帯で覆い隠していた。
 隙間からのぞかせる二つの鋭い目だけが、金色の光の中で不気味に光っていた。

( ・∀・)「とりあえず、偵察任務ごくろうさん。家の中を覗くのは難しかっただろ。
     いやあ、キミはさすが、私が工作員の才能を見込んだだけあるよ。
     海から拾い上げて、ここまで鍛えあげたかいがあった」

( ゚ ゚)「…そりゃどうも」

 大人にしてはやや小柄なその人物は、ぶっきらぼうに言った。

( ゚ ゚)「で、あのガキは、この後どうするんで?」

( ・∀・)「ああ。クー殺し作戦はもうおしまい。今から暗殺を狙っていては、もう手遅れだ。
      次からはもっと違うやり方で、クーを潰す」

( ゚ ゚)「はあ、そっすか」


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:14:13.69 ID:tLCwULi2P

( ・∀・)「で、それがキミの次の仕事なんだけど…やってくれるね?」

 モララーは上目遣いにたずねた。

( ゚ ゚)「はあ、まあ、どっちにしろ、俺に選択肢は無いっすから」

 人物は言った。
 モララーはにやにや顔のまま、頷いた。

( ・∀・)「それじゃキミを、次のクー潰し役に任命するよ。頑張ってくれたまえ。
      前任者のような無能の死を遂げることだけはやめてくれよ?」

( ゚ ゚)「…ま、見ててくださいや。
    俺は、工作員の才能うんぬんはともかく、あのクーとはちょっとした縁がありましてね。
    やつのことはよく知っているんで、きっとお役に立てると思うっすよ、師匠」

 包帯の下の顔が、にやりと笑ったようだった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:18:43.43 ID:tLCwULi2P
三.


 練兵場の片隅の士官控え室で、クーは一人、座っていた。
 テーブルに置かれた紅茶は、全く手付かずのまま冷め切っていた。

 午後から彼女は、自分が受け持つことになる部隊と、顔合わせをする。
 クーは士官になって初めて、というよりも生まれて初めて、「自分の部下」を持つのだ。

 それまでの間、クーはこの控え室で、時間をすごしている。


 部屋の中に他の士官はいなかった。
 ドクオやフサは既に自分の部下を持っているので、出兵の準備に忙しい。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:21:35.50 ID:tLCwULi2P

 一人でいると、頭の中はショボンのことでいっぱいだった。

 あの件は内々に処理された。
 ショボンを刺し殺したのはクーだが、発見された毒針や、
 途中から目を覚まして事件を目撃していたデレの証言により、クーの正当防衛は証明された。
 それで、秘密会の軍法会議により、この件に関しては緘口令が敷かれていた。
 身内のスパイ騒ぎのごたごたなど、醜聞以外の何物でもないからだ。


 クーはショボンの死について、もう何度と無く、考えを巡らせていた。

 ショボンは闇の任務についていた。
 それで、誰か―おそらくモララー―に、家族を殺すという脅しのもとで、任務と死を強制された。

 苦悩に満ちたショボンの顔を思い出すたび、クーは思う。
 あんなふうに死ぬのはいやだ。私は、生きたい。

 でも、どう生きるべきなのか。
 この残酷な世界で生き残るためには、すべてを疑い、感情を消した昔の私に戻らなければならないのか。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:24:43.37 ID:tLCwULi2P

 外の練兵場では、クーの部下となる予定の兵士たちが集まりつつあった。
 クーは水兵をまとめあげて、マスケット銃を扱う銃士隊を編成することになっていた。

 三々五々ばらばらに、中庭には兵士たちの話の輪ができている。

 ほとんどの兵士がパートレム号の顔なじみだったり、他の乗艦での知り合いだったりするから、
 隊にはほどよく気安い雰囲気が流れていた。


 そのなかでもひときわ目立つのは、顔中に包帯を巻いた新入りがいる輪だった。
 皆はものめずらしそうに包帯の男を取り囲んでいた。

「よう、新入り。
 もしお前さえよければなんだが、そのお前さんの包帯のわけってやつを、聞かせてくんねえかな」

( ゚ ゚)「ああ、ああ、そりゃあいつかは、じっくりと長え話ができるときに、こいつの話はちゃんと聞いてもらうさ。
    でもわけあって、今はこいつを取りたくねえんだ。気になるだろうが、勘弁してくれよ、みんな」

 男の使う言葉は立派な水兵言葉だったが、声の調子はまだまだ年若いものだった。
 皆は、少年といってもいいその若さで男の身に何が起こったのか、興味津々といった様子だった。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:27:54.73 ID:tLCwULi2P

 二点鐘が鳴った。定められていた集合時間だ。
 時をおかず、士官控え室からクーが出てきた。

 クーは兵士がたむろする練兵場にゆっくり歩み寄った。


 パートレム号の顔なじみたちが、クーを見かけて、水兵らしい笑顔で親しみをこめて微笑みかけた。
 だが、クーはそれを見ても、何の反応も返さなかった。

 水兵たちは面食らった。
 彼女は厳しく唇を結んで、無言のまま、指揮官用の演台に立った。


 水兵たちはクーに漂うただならぬ雰囲気を、敏感に読み取った。
 練兵場の兵士たちのざわめきが、潮の引くように小さくなっていった。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:29:08.48 ID:tLCwULi2P

 ミルナ憲兵伍長が敬礼し、クーに隊員名簿を差し出した。

 クーは受け取って、リストの先頭から一人一人、その名前を読み上げていった。
 呼ばれた者は返事をして、クーの前に並び、隊列を作っていった。


川 ゚ -゚)「ビロード。パートレム号二等水兵、ビロード」

 水兵たちが顔を見合わせた。その名前に返事はなかった。
 クーは続きを読み上げた。

川 ゚ -゚)「ワカッテマス。パートレム号二等水兵、ワカッテマス」

 今度も、返事は無かった。

 わずかなざわめきが、水兵たちのあいだから起こった。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:31:00.08 ID:tLCwULi2P

 隊員名簿の読み上げが終わった。
 練兵場には整列した水兵の隊が二つできていた。

 ただし、片方の隊には、いるべき場所に兵士のいない箇所が、ぽっかりと二つの空白になって残っていた。


川 ゚ -゚)「憲兵伍長、前へ」

 すぐさま憲兵伍長が進み出て、緊張した面持ちで彼はクーに敬礼した。

( ゚д゚ )「海尉?」

川 ゚ -゚)「ミスタ・ミルナ、私のそばに待機しておいてくれたまえ」

( ゚д゚ )「はっ」

川 ゚ -゚)「猫鞭は用意してあるな?」

 水兵たちにさっと緊張が走った。
 憲兵伍長が、重々しく頷いた。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:34:00.02 ID:tLCwULi2P

 長くはかからなかった。練兵場の隅から歩いてきたのは、ビロードとワカッテマスだった。
 彼らは気恥ずかしそうな顔をしていたが、開き直ったように、わざとゆっくりと隊列の場所まで歩を進めた。

川 ゚ -゚)「ミルナ伍長、その二人を逮捕しろ!」

 静まり返った練兵場に、クーの蛮声が轟いた。
 ミルナが部下の憲兵隊に指示を出すと、彼らはワカッテマスとビロードを後ろ手にねじりあげ、
 隊列の前に引きずり出した。

 クーは演台を降り、突き出された二人の前に立った。

 ビロードとワカッテマスは、二人ともへらへらと笑っている。顔が赤かった。

川 ゚ -゚)「貴様ら、さぼっていたな」

( <●><●>)「い、いえ、その私たちは腹具合が、ちょっと…」

 酒臭い息が、ワカッテマスの口から漏れた。

川 ゚ -゚)「集合時間は午後一時。それは知っていたな、二人とも?」

( ><)「いえ、腹が、それで…へへへ……」

川 ゚ -゚)「酔っ払っていたんだな。どこの妓楼帰りだ? ん?
     こんな時間までお泊りか、二人とも髪から女のにおいをぷんぷんさせて、な」
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:36:15.86 ID:tLCwULi2P

 クーは士官服の胸ポケットから一冊の薄い冊子を取り出した。
 戦時懲罰規定、と、その表紙には金文字で描かれていた。

 ビロードとワカッテマスは背中をぴんと張った。目には恐怖が浮かんでいた。

( ><)「な、なあクー、そんな固っくるしい他人行儀はやめようや。同じパートレム号の仲間なんです!
      ほ、ほら、ラウンジ戦では、城壁の上で君の背中を守ったのは僕なんです、だから…」

 クーは腰の藤ムチを引き抜くと、横殴りにぴしゃっと、ビロードの頬を打った。
 高い音が鳴った。ビロードの頬に、赤い血の筋が浮かんだ。

 ビロードは信じられないといった目で、頬の傷を押さえて、クーを見た。
 クーは涼しい顔をして藤ムチをしまい、戦時懲罰規定の冊子をぱらぱらとめくった。

川 ゚ -゚)「第十五条、いかなる者であろうと、脱走し、あるいは軍務として定められた時間に…」

 条文の朗読が始まった。ワカッテマスが敵意のこもった目で、クーを睨んだ。


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:39:11.07 ID:tLCwULi2P

川 ゚ -゚)「…者は、軍法会議ののち死罪となるか、もしくはその場で情状に応じた処罰を受ける」

 言葉が終わった。一座はしんと静まり返っていた。

川 ゚ -゚)「軍法会議を受けたいか?」

 クーは尋ねたが、これはほとんど意味の無い質問だった。
 軍法会議で有罪が決まれば、遅刻は脱走であり、死刑だ。そして、二人の遅刻は明らかなことだった。

川 ゚ -゚)「受けたくない?」

 侮蔑したように見下した視線で、クーは二人の姿を眺め回した。
 ビロードとワカッテマスは唇をかみ締め、来るべき恐ろしい懲罰を予期していた。

川 ゚ -゚)「ミルナ伍長、一人につき十二回だ。やれ」

 冷酷にクーは宣言した。
 水兵たちはざわめいた。単純な遅刻に対して鞭打ち十二回は、厳しすぎる処罰だった。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:41:37.65 ID:tLCwULi2P

 その後は憲兵隊の仕事だった。
 ワカッテマスとビロードはシャツを脱がされて、練兵場わきの木にその両手を縛り付けられた。
 ミルナ伍長が九尾の猫と呼ばれる皮ムチを用意して、何度かためし振りをした。

 クーが軽く頷いた。
 海兵隊の太鼓係がドラム・ロールを鳴らし、止まった。
 それと同時に、ワカッテマスの背中に最初の鞭が落ちた。

 痛さのあまり、絞り出すようにあえぐ声がした。


 二度、三度とムチは往復した。うめき声と悲鳴が、交互に繰り返された。

 六度打ったところで、ミルナは鞭を左手に持ち替えた。
 これで鞭の痕がワカッテマスの背中に交錯することになる。
 同じところばかりを打つと肉がはがれて死んでしまうので、それを避けるための措置だったが、
 斜め十字に打たれた傷は、一本の傷よりはるかに痛くて、治りが遅い。

 八度目の鞭打ちで、ワカッテマスはぎゃあと悲鳴を上げて、よだれの糸を地面まで垂らして、気絶した。

 それで、次はビロードが、同じ責め苦にさらされることになった。


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:44:46.07 ID:tLCwULi2P

 ぐずぐずの赤い肉屑だらけの九尾の猫をミルナが洗っているあいだ、
 ビロードは目の前で白眼をむいているワカッテマスの姿に恐怖して、声を上げて嗚咽していた。

( ><)「えぐっ、えぐっ、クー、お願いなんです、もう遅刻しないんです、許してくれなんです…」

川 ゚ -゚)「ビロード二等水兵、不規則発言は許されていない。
     これ以上余計なことを言えば、鞭打ちはさらに回数を増すことになる」

 ミルナ伍長がクーのほうをちらりと見た。クーは彼に頷き返した。
 ドラム・ロールが始まった。

 太鼓の音が止まった瞬間、ビロードの白い背中に、鞭が落ちた。
 ミルナ憲兵伍長が力いっぱい皮を叩きつける情け容赦ない音が、練兵場じゅうに響いた。
 ビロードは悲鳴を我慢しなかった。すさまじい音量で、彼は喉の奥から高い声を絞り出した。

 クーは思わず目を閉じかけたが、思い直して見開き、ビロードの背中についた傷跡を眺めた。

川 ゚ -゚)(これでいいのだ。これで…)

 クーは唇を噛み、拳を握り締めた。
 鞭打ちは続いた。長くいやな悲鳴が、ビロードの口から断続的に漏れていた。


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:47:05.23 ID:tLCwULi2P

 気絶した二人は、その場に放置された。

川 ゚ -゚)「夕食前には二人のロープを切ってやれ」

 クーはミルナ憲兵伍長にそういい残して、演台を降り、士官控え室へと帰っていった。

 水兵たちは誰も、何も言わなかった。
 静かな敵意のこもった目で、立ち去るクーの背中を眺めていただけだった。


 一人になるなり、クーは三角帽を投げ捨て、頭を抱えた。
 ビロードの恐ろしい悲鳴と、ワカッテマスのぐしゃぐしゃになった背中の血の色を、忘れられなかった。

 クーは椅子に腰掛けた。
 卓上に残してあった冷めた紅茶のカップをわしづかみにして飲もうとしたが、
 手が震えていたので多くがこぼれて、士官服の胸元を濡らしただけになった。

川 ゚ -゚)(…私は、無理をしているのだろうか?)

 ちらりと、そう思った。

川 ゚ -゚)(いや、そんなことはない。昔の私に戻るだけだ、簡単なことだ…)

 クーはもう一度頭を抱えて、机の上に突っ伏した。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:49:24.67 ID:tLCwULi2P
四.


( ゚ ゚)「ったく、どうでえあの悪辣さは。三十分ほどの遅刻に対して、鞭打ち十二回だってよ」

 夕食の席で包帯の男は、食卓仲間たちに語っていた。

 ワカッテマスとビロードの姿はなかった。こういうときはだいたい高熱が出て、二、三日は物を食べられなくなる。
 今頃は軍医スカルチノフの手にかかっていることだろう。

 水兵たちは鞭打たれた二人に同情的だった。
 酔っ払って遅刻したのはいただけないが、それにしても十二回はきつすぎる。

 包帯の男はさらに演説を続けた。
 彼は声を落とし、食卓仲間たちに顔を近づけて、注意深く言った。

( ゚ ゚)「ま、支配者なんて、権力を握るとみんなああなるんだ。おれ知ってんだ。
     あのクーとかいうメスガキは士官になったばっかなんだろ? 権力を振り回したくてうずうずしてるんだ」

 露骨な上官批判に、さすがに食卓の一同は眉をひそめた。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/14(火) 00:51:38.08 ID:tLCwULi2P

( `ハ´)「アイヤ、クーはそんな子じゃないアル。
     ただ、初めて士官になったから、手加減ってものがわからずに…」

 シナーが言った。その言葉を、包帯の男は手で遮った。

( ゚ ゚)「まあ、まずはこいつを見てくれ」

 男は顔を覆っていた包帯を取った。

 それは恐ろしい面相だった。顔中がやけど痕で爛れ、皮膚が奇妙に赤黒く盛り上がっている。
 かろうじて損傷を避けた右頬にも、深くささくれた傷跡が口をあけている。

(,#,゚;Д゚)「おれの顔がどうしてこんなふうに二目と見れない相になったか、教えてやろうか?」

 食卓の水兵たちはごくりと唾を飲み込んで、タカラと名乗る若い水兵の言葉の、続きを待った。




第十六話 ここまで―――

戻る

inserted by FC2 system