4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:09:46.17 ID:XN7wPiiTP

コンキスタドール
==============

ブラゲ語で「征服者 (Conquistador)」を意味するが、とくに新大陸征服者、探検家を指す。
彼らは新大陸文明を完膚ないまでに粉砕し、その偉大さに全く理解を及ぼさなかった。

     ――ラウンジ人の思想家、革命家 サンゴ・アザピー伯







   川 ゚ -゚)は探しているようです  第十五話
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:12:51.22 ID:XN7wPiiTP
一.


(-@∀@)「原住民たちは野蛮だ。それは確かなことです」

 士官用食堂で、アザピーは高級なクラレットのグラスを太陽光にすかして、言った。
 ドクオたちパートレム組の士官は紅茶のカップを前に、アザピーの話に耳を傾けた。

(-@∀@)「彼らは太陽を崇拝しているんです。そして、太陽は生贄の血がなければ昇らないと考えている。
      これが何を意味するか、おわかりですかな。
      彼らは毎朝、彼らの祭壇で、生贄の人間を一人殺すのです。太陽を昇らせるためにね」

 血の色をした赤ワインを、アザピーはグラスの中で回した。

ζ(゚、゚*ζ「うそつき! 捏造アザピー! 私達、そんなことしてなかったよ!」

(-@∀@)「はは、デレちゃんは今日も可愛いねえ。この生贄の風習は南の部族だけなんだ。
      ほら、北の部族は古くからリーグを結んで、お互い戦争を避けてるでしょ。
      だから生贄の確保も難しくなったのか、人身御供の制度はなくなったんだ。

      君たちはそのかわり、丸太で作った等身大の人形を飾るだろ。あれは太陽神崇拝の名残さ。
      北の部族は穏やかで文化的になったけど、南の部族はまだまだ血なまぐさいんだ」
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:15:01.70 ID:XN7wPiiTP

川 ゚ -゚)「でもさあ、だからといって、ブラゲのあれはないよ…」

 クーはブラゲタウン郊外で見た景色を思い出していた。
 沿道に並ぶ十字架。むごたらしく殺されていた、百人ではきかない数の人間。

(-@∀@)「ははあ、大弾圧の話ですね。
      ブラゲの昨年の大弾圧により、おおよそ十万人ほどいたと思われる南部の先住民が、
      わずか一年の間に、一万人ほどに減ってしまったのだそうです。十分の一です。
      この残った一万人も、ほとんどが奴隷なんですけどね」

 一同が息を呑んだ。

('A`)「ほとんど全滅じゃないか」

(-@∀@)「ええ、全滅です。南部ヴィップの原住民は、いなくなったと言っても過言ではないでしょう」


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:18:11.92 ID:XN7wPiiTP

(-@∀@)「ブラゲ人は皆狂信的なキリスト教徒です。離婚を嫌うなど、宗教的には極めて非寛容です。
      ですから、先住民の社会が持っていた人身供犠などの野蛮な側面を、許すことができなかったのでしょう」

川 ゚ -゚)「そんな。野蛮なのは、ブラゲのほうじゃないか!」

(-@∀@)「ええ、滑稽な話ですね。ブラゲ人は、先住民の風習を野蛮で未開と断じる一方で、
      自らの傲慢さや残忍さに気付くものは、ほとんどいなかったのです。
      彼らは、先住民を大量虐殺したのみならず、多くの先住民女性を集め、強姦しました。
      改宗、民族浄化、という名目でね」

ミ,,゚Д゚彡「うえぇ…ひでえな…」

(-@∀@)「その結果、たしかに「野蛮」な人身供犠などの習慣は、廃止されました。部族間戦争もなくなりました。
      でもその先にあったのは、新たな隷属と搾取だったのですがね…。
      これがまあ、南部の現状です」

 一座はしんとした。
 デレは最初ぷりぷり怒っていたが、だんだん悲しそうな顔になって、奥にひっこんでしまった。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:20:20.04 ID:XN7wPiiTP

 街の鐘楼から、昼の五点鐘が鳴った。午後二時半だ。

('A`)「じゃ、そろそろ行くか」

 ドクオが言って、席を立った。

 パートレム士官組は、午後三時から開かれる植民地会議に、全員が呼び出されていた。
 タンブルストンが持ち帰った報告を元に、今後のニューソク植民地の対応を決めるための会議だ。

(-@∀@)「正確な判断を頼みますよ、皆さん」

 アザピーは気障りなしぐさで、赤ワインのグラスをすっと持ち上げて、言った。

(-@∀@)「我々ラウンジ系住民の安全も、あなたがたの決断いかんにかかってるんですからねえ」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:23:42.59 ID:XN7wPiiTP

 会議はニューソクタウンに新しく作られた公会堂で行われた。
 まだらの灰色の石で作られた、小さいながらも壮麗な外観の建物だった。

 小ホールには直径七メートルの円卓が置かれ、20脚ほどの椅子がその周りを囲んでいた。
 パートレム組が部屋に入ったとき、アーネムとタンブルストンは、すでに隣り合って腰掛けていた。

 ほどなくして出席者が揃い、会議が始まった。


(´<_` )「正直言って、ブラゲとは、いずれ砲火を交えることになるでしょう」

 細々とした報告の後、タンブルストンはそう切り出した。

(´<_` )「私は中立条約の締結を打診しましたが、どうやらクックル氏には、その意思は無いようでした。
      これはとりもなおさず、彼らはすでに、我々と戦争をするつもりである、ということでしょうな」
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:26:16.47 ID:XN7wPiiTP

(  ・ω・)「うむ、戦争じつにけっこう」

 陸軍を率いるカラマロス大佐が言った。

(  ・ω・)「いずれ戦いが避けられぬとあれば、これはこちらから先制攻撃をすべきですな。
      聞くところによると、ブラゲどもは原住民に対する虐殺や奴隷化など、
      ありとあらゆる神と聖書の教えに反する悪逆非道を行っておるそうです。
      これを討ち果たす戦争は、正義の戦争だ。彼らとは倶に天を戴くべきではない」

( ´∀`)「いや、あなたは簡単に戦争とおっしゃるが…」

 植民地の商人階級を代表する議員モナーが、反論した。

( ´∀`)「わが植民地はいまだ、軍需物資を自給できる状態ではないのですぞ。
      となると、戦争になれば、必然的に武器や衣類は本国から調達することになり、
      それに対する支払いで植民地経済は疲弊してしまいます。戦争は人も金もかかるのですぞ」

(  ・ω・)「金がかかるからといって、あなたは正義を為すのを躊躇うのか!」

( ´∀`)「いまは植民地立ち上げの大事な時期です。いたずらに若者を戦地に駆り立て、
      消耗を加速し、市民の財産を戦火に晒すことが、得策とは思えませんな」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:30:16.38 ID:XN7wPiiTP

 飛び交う議論を聞きながら、クーは円卓に肘をついて、考え込んでいた。

 たしかにブラゲはひどい。
 このままクックル政権が続けば、原住民はますます虐げられ、殺され、搾取され続けるだろう。
 この暴虐の統治を終わらせてやりたい、という気持ちは、クーにもある。

 でもそれを、いきなり戦争という手段に訴えるのは、政治としてはどうだろうか。
 大義ばかりを掲げて他国に軍隊を進めるのでは、やっていることはブラゲと変わらないのではないか。

 クーが小さい脳みそをフル回転させて考え事をしている間にも、円卓の議論は進んでいった。

 開戦に反対するモナーの旗色は悪く、主戦派が優勢だった。
 開戦を推し進める理由としては、ブラゲを相手とした戦争には原住民と奴隷解放という大義があること、
 それから広大で豊かな南部のブラゲ支配地域を奪えることなどが上げられていた。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:32:10.32 ID:XN7wPiiTP

 クーが驚いたのは、タンブルストンが積極的に開戦を主張していたことだった。
 それは、ニューソク植民地としての利益を求めてのものというよりはむしろ、
 この世に悪をのさばらせてはならないとする、強い正義感から発しているように見受けられた。

 彼は言葉の底に静かな怒りを秘めて、ブラゲの奴隷政策と征服について批難した。

(´<_` )「人は神の定めたもうた善良な分別を超えるべきではない。
     改宗は剣によってではなく、我ら白人の言葉と態度をもってなされるべきなのだ」

 そんな彼の言葉に、クーは、曲がったことが許せない彼の生真面目な性格を見たような気がした。


 一方でドクオは、どちらかといえば開戦に消極的だった。
 いきなり戦争という強硬手段に訴えるのは、やはり、どうも釈然としないものが残るようだった。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:34:29.43 ID:XN7wPiiTP

 会議は紛糾した。
 下級将校であるクーやフサにまで、意見を問われる機会が回ってきた。

ミ,,゚Д゚彡「難しいことは俺にはわかんねえですけど…
      兵隊たちとしては、ブラゲとは戦(や)りたくねえってのが、本音のようですぜ」

 フサはお偉いご歴々を前に、しゃちほこばって変な敬語を駆使して、言った。

ミ,,゚Д゚彡「ブラゲといやあ、あの恐ろしいテルシオ歩兵の本場です。
      丸盾剣士ロデレロの勇名は旧大陸じゅうに轟いてるし、
      コンキスタドール、ドラクーンといった、アンダルシア騎兵の優秀さも、みんなよく知ってまさ。
      海の上なら俺達ニューソクは無敵だけど、陸の上では、ブラゲとやりあうのはちょっと…」

(´<_` )「それは、君の意見か」

ミ,,゚Д゚彡「いんや、兵隊みんなの気持ちでさ。
      まあ、やれっていわれりゃ、そりゃやらんでは無いですけど」

(´<_` )「士気は高くない、ということか。ふむ…」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:38:35.04 ID:XN7wPiiTP

 外が暗くなり、議論も煮詰まってきた。
 これ以上の議論も無駄だろうということで、対ブラゲ開戦案が投票にかけられた。

 投票箱が回され、各議員は賛否をあらわすコインを一枚ずつ投じていった。


 賛成の銀貨16枚、反対の銅貨3枚。
 圧倒的多数の賛成を持って、対ブラゲ戦の開戦は、ニューソク植民地議会で可決された。

( ´_ゝ`)「もうちょっと反対も多いかとは思ったがな。
      植民地内の意見がまとまったことに、私は総督として諸君に謝意を述べよう」

 アーネムが言った。
 あれだけ紛糾した会議だったのに、反対の数が極めて少ないのは、たしかに不思議なことだった。
 「どちらかといえば賛成」という立場の人物が、この会議には多かったのだろう。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:40:46.01 ID:XN7wPiiTP

 会議が終わってまもなく、練兵場にニューソク軍の全兵士が集められた。
 重大発表があるというので、民間人も練兵場に詰めかけ、兵隊たちの周りを取り囲んだ。

 カラマロフ大佐が満足げに、びしっと整列した陸軍の赤服たちの間を歩き回っていた。
 対照的に海軍兵は、ばらばらの水兵服にばらばらの私物の帽子をかぶって、
 前後の仲間たちと雑談したり、退屈そうに鼻毛を抜いたりして並んでいた。


 タンブルストンが演壇の上に立った。アーネムの姿は無かった。
 人前で演説をするのが苦手なアーネムは、今回も演説役をタンブルストンに押し付けて、
 どこかに雲隠れしてしまったのだろう。

 あちこちで焚かれているかがり火にゆらゆらと照らし出される練兵場。
 集まった人々の目が、壇上のタンブルストンの上に、一斉に注がれた。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:44:38.56 ID:XN7wPiiTP

 タンブルストンが演説を始めた。
 彼の演説は要点を的確に捉えたもので、対ブラゲ開戦に到った議会の経緯を、簡潔にわかりやすく述べた。

 聴衆の兵士たちは、はじめは不満顔だった。
 やはり精強なブラゲ兵と戦うと考えることは、実際に戦場に立つ兵士たちにとって、気が重くなる話だったのだ。


 タンブルストンは壇上で兵士たちを見渡して、言った。

(´<_` )「たしかにブラゲは強大だ。そんな敵と対峙しようという兵士諸君に、私は最大限の敬意を払う。
     正義は我々の側にある。我々は神の御前に、聖天使たちの助力の下、暴虐を終わらせに行くのだ。
     ところで…」

 ここで意味ありげに、彼はいったん言葉を切った。

(´<_` )「やつらの本拠地、ブラゲタウンには、黄金が溢れている。みな、原住民から収奪したものだ。
      これらはすべて盗品であり、ブラゲ人にこれを保持する正当な権原は無い。
      といって、それを返すべき原住民も、残念ながらすでにブラゲが殺してしまっているようだ。
      では、これら財宝は、いったい誰の手にゆだねられることが、神の御心に適うことだろうか?」

 兵士たちが少しざわめいて、それから、水を打ったように静かになった。
 タンブルストンの言葉の続きを、兵士たちは見守った。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:48:10.20 ID:XN7wPiiTP

(´<_` )「私は、暴虐の政治をその肉弾で終わらせ、殺された原住民の仇を討つ諸君らニューソク兵士にこそ、
      それら黄金の正当な所有権があるものと考える!」

 ちょっとあった。
 それから、兵士たちの間からいっせいに喚声が上がり、拳が空に突き出された。

 タンブルストンの言葉は、事実上、都市からの略奪を容認するものだったのだ。

 タンブルストンの言葉は、兵士たちの熱狂を持って迎えられた。
 正義、名声、栄誉、それに金までもが同時に手に入るチャンスとあって、
 練兵上には、兵士も民間人もそろって「ブラゲ討つべし!」の声が高く上がっていた。

 盛り上がる兵士たちを前に、さらに演説が続けられた。

 彼の声には音楽的な響きがあった。
 炎に照らし出される、冷徹な表情の中にも熱気に溢れた美しい金髪の姿とあいまって、
 タンブルストンの演説には、聴衆を陶然と引き込む魔力のようなものがあった。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:49:42.87 ID:XN7wPiiTP

 演壇脇に並んでいたドクオは、苦い顔をしていた。

川 ゚ -゚)「やっぱり、気に食わない?」

('A`)「ああ。略奪で兵士たちを釣るなんて、いただけねえやり方だな。
   目的のためには手段を選ばないなんて、いかにもあいつらしいんだが」

(-@∀@)「マキャベリズムですな」

 いつのまにか議員たちの間に混じっていたアザピーが、いつものように薀蓄を垂れた。

川 ゚ -゚)「真…キャベ…?」

 アザピーはクーを無視して、長弁舌の準備に、喉を鳴らした。

(-@∀@)「『いかなる事業も、それに参加する全員が、
      内容はそれぞれちがったとしても、いずれも自分にとって利益になると納得しないかぎり、
      成功できないし、その成功を永続させることもできない』。
      思想家マキャベリ氏の言葉です。タンブルストン氏は、それをよくわかってらっしゃる」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:52:41.80 ID:XN7wPiiTP

('A`)「なるほどな。兵士たち一人ひとりのモチベーションを、タンブルストンは高めたってわけか」

(-@∀@)「そうですな。つまり…
      タンブルストン氏はご自身の理想を実現するために、ブラゲを討ちたい。
      兵士たちは黄金を略奪するために、ブラゲを討ちたい。
      ここに、全員の利害が一致するわけです」

川 ゚ -゚)「なるほどなあ…」

 クーは腕組みをして、大人たちがするようにうんうんと頷いた。
 士官服を着ているとはいえ、十五歳の少女がそれをやると、まるきり背伸びをした子供のしぐさだった。

川 ゚ -゚)「大人って、汚いね」

 ドクオが振り向いた。アザピーは馬鹿にしたような顔つきで、前を向いた。


 練兵上では、熱気に当てられた人々が夜空に拳を突き上げて、
 自分たちの正義と国王とニューソク国をたたえ、口々に声を張り上げ続けていた。

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:54:53.77 ID:XN7wPiiTP
二.


 クーは自分の家のドアをあけた。
 久しぶりの自宅のにおいに、安堵の気持ちがこみ上げた。

(´・ω・`)「あっ、クーじゃないか。おかえり」

 ショボンは出かける準備をしているところだった。
 僧衣を肩から羽織ろうとしていたショボンは、すね毛でいっぱいの足を露出していた。

川 ゚ -゚)「うわ、帰るなり、嫌なものを見た…」

 クーは言って、手近な食卓の椅子に腰掛けた。

(´・ω・`)「久しぶりに見ると、なかなかいいもんだろ?」

 ショボンは冗談を言って、筋肉をぴくぴくさせて、クーに見せ付けた。

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 22:58:34.85 ID:XN7wPiiTP

(´・ω・`)「ご飯は?」

川 ゚ -゚)「そういや食ってないな。おなかすいた。何かあるか?」

(´・ω・`)「白身魚のフリッターがあるよ。昼に市場で買ってきたんだ」

 魚に小麦粉を溶いた衣をつけ、油で揚げた料理だ。

川 ゚ -゚)「おっ、いいね」

 ショボンが戸棚をがさがさやって、新聞紙に包まれたフリッターを取り出した。

 クーは魚の背のほうから食いついた。
 すっかり冷めてふやけてはいたが、香ばしく揚がった白身魚はうまかった。

川 ゚ -゚)「もぐもぐ…。
     このニューソクタウンでも、うまいものが食えるようになったなあ」

(´・ω・`)「うん、やっぱり、文明っていいね」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:00:40.06 ID:XN7wPiiTP

 猫のように一心に魚にくらいついているクーを、ショボンは微笑みを浮かべて見つめていた。

(´・ω・`)「ブラゲタウンは、どうだった?」

 クーは口をもぐもぐさせ、答えた。

川 ゚ -゚)「うん、そうだなあ。ブラゲはひどいやつで、クックルは鳥みたいな顔してて、
     それでツンさんには子供がいて…あっ」

 思いついたように一声上げて、クーは魚を下ろした。

川 ゚ -゚)「ねえショボン、『ホライゾン』って何だっけ?
     どこかで聞いたような気がするんだけど…」

(´・ω・`)「ホライゾン?」

川 ゚ -゚)「人の名前だと、思うんだけど」

(´・ω・`)「ホライゾン、ねえ…」

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:04:45.93 ID:XN7wPiiTP

 ショボンはしばらく考え込むようだったが、すぐに思いついて、膝を叩いた。

(´・ω・`)「そうだ、僕たちが乗っていた分捕り船のパートレム号…
      あれの、僕たちの部屋にいた人物の名前じゃないか?」

 クーもちょっと上を向いて考え、思い出した。

川 ゚ -゚)「ああ、ああ、確かにそうだったな。私たちが部屋に行ったら、ホライゾン氏が死んでたんだ」

(´・ω・`)「うん、あれはむごかったねえ…。
     それで、そのホライゾンさんがどうかしたのかい?」

川 ゚ -゚)「その人、ツンさんの夫で、ブラゲ植民地の総督なんだってさ」

(´・ω・`)「えっ」

 ショボンは驚いたように声を上げた。

(´・ω・`)「じゃあ、僕らはブラゲ総督を、しかもツンさんの夫を、殺しちゃったってことか」

川 ゚ -゚)「そうなるなあ…。いまとなっちゃ、悪いことしたな」


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:06:47.00 ID:XN7wPiiTP

(´・ω・`)「それ、誰かに言った?」

川 ゚ -゚)「いや、まだ。だって今思い出したんだもん。
     …ドクオか誰かに、言っといたほうがいいかな」

(´・ω・`)「うーん、そうだね。少なくとも、ホライゾンという名前の死体がパートレム号にあった、
     くらいは報告しておいてもいいかもね」

川 ゚ -゚)「そうだな。よし、ちょっと行ってくる」

(´・ω・`)「あ、待って。僕も一緒に出るよ」

川 ゚ -゚)「そっか、お前も出かけるところだったな」

 二人は家を出た。
 デレはもう寝ていたので、音を立てないように、そっと扉を閉じた。

 ショボンの行き先はクーと反対方向らしく、二人は家の前で別れ、歩み去った。

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:09:19.49 ID:XN7wPiiTP
三.


 時間も遅かったので、町はずれの家々の窓には明かりが消えていた。
 ショボンはそんなニューソクタウンの中を、港に向かって歩いていた。

 街灯の無い波止場に着くと、黒い僧衣を着た彼の姿は、闇に溶け込んだ。


 樽修理工場―。
 波止場の一角のレンガ作りの建物、その二階に、モララーの居室はあった。

 モララーはデスクについたままショボンを迎え、慇懃無礼に彼を立たせておいた。

(´・ω・`)「呼び出しを受け、参上しましたが」

 ショボンは言った。
 卓上ランプの光が、モララーのふざけたような顔を下から照らし出していた。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:12:17.20 ID:XN7wPiiTP

( ・∀・)「来たか。
      …これを見てくれ。こいつをどう思う?」

 モララーはショボンに新聞を突きだして、銀の指輪がはまった指で、とある記事を突いた。
 それは植民地で発行されたニューソク・トリビューン紙で、日付はつい昨日のものになっていた。

 ショボンの目が、みるみる丸く、大きく見開かれた。
 そこには一面見出しで「クー」の名前が躍り出ていた。

 記事の内容は、クーの活躍を海上時代にまで遡って、物語調にセンセーショナルに描いたもので、
 読むものの心を躍らせ、冒険心を刺激されるような文章に仕上がっていた。

( ・∀・)「植民地を駆ける愛らしい女士官クーは、なんと今年で十五歳の小さな女神である…か」

 モララーは声を出して読み上げ、新聞の束をばさりとデスクに落とした。
 にやにや顔の中の瞳は、鋭かった。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:16:27.82 ID:XN7wPiiTP

( ・∀・)「この『コロニアル・ニューソク・トリビューン紙』は、植民地での出来事を本国に伝える新聞として、
      毎号が貿易船に積まれて本国に運ばれているんだ。
      ということはつまり、遅くとも一ヵ月後には、本国の民衆がこの記事に触れることになるね」

 ショボンの体が固くなっていた。
 モララーの言葉の意味は、痛いくらいに理解できた。

( ・∀・)「ところで…。
     キミの仕事は、遅々として進んでいないようだね?」

 ダメ押しの言葉で、モララーはショボンに迫った。

( ・∀・)「その理由を伺ってもいいかね?
     君が国家の要請に逆らう、そのわけを」


 ショボンはしばらく黙り込んでいたが、やがて覚悟を決めたように、いくぶん挑戦的に言葉を発した。

(´・ω・`)「…国家の要請? 兄王の要請ではないのですか?
     弟アーネムに力をつけさせない、というのは」

( ・∀・)「同じことだよ。王とは、イコール国家なんだよ」
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:18:44.27 ID:XN7wPiiTP

( ・∀・)「…どうやら、君の任務は、残念な失敗に終わってしまったようだね」

 ショボンは唇を噛んだ。
 スパイにとっての任務失敗は、死を意味する。
 いままでそうやって、行方不明になった知人は数知れない。


 樽修理工場の二階に、沈黙が訪れた。


 やがてショボンは、とある肯定的な考えに行き着いた。

(´・ω・`)(そうだ。もし僕が死んだら、それでもう、クーを殺さなくても済むじゃないか)

 事態がこうなった以上、もうモララーも、クーの暗殺という手段に訴えることはないだろう。
 本国にその名前が知られた後なら、クーが死んでも、それはそれで英雄性を高めることになるからだ。

(´・ω・`)(うん、僕が死ねば、クーは助かる)

 ショボンの頬が、緩んだ。
 まるで、肩に背負わされていた重荷から、解き放たれたように。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:21:18.16 ID:XN7wPiiTP

( ・∀・)「残念だけど、僕はキミを、われわれの仕事には不適な人物として、扱わなければならないね」

(´・ω・`)「そうですね、それは仕方の無いことです…」

( ・∀・)「わかる?」

(´・ω・`)「…はい」

( ・∀・)「いや、キミはわかってないね。わかってたら、そんな態度は取れないさ」

(´・ω・`)「いえ。僕の命で、任務の失敗を償えるなら、それは…」

( ・∀・)「ほうら、何もわかってない!」

(´・ω・`)「?」

 ショボンはけげんな顔をして、モララーの顔を眺め返した。

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:25:00.43 ID:XN7wPiiTP

( ・∀・)「僕は、キミの存在を消す、と言ったんだよ」

(´・ω・`)「はあ…」

( ・∀・)「消す。すなわち、キミを知る者…。キミは確か、田舎に年老いた両親がいたね?」

(´・ω・`)「はあ…。え、あっ!?」

 まさか、といった顔で、ショボンは凍りついた。

( ・∀・)「ご両親とは僕も話したことがあったね。二人とも信心深い、良いキリスト者だ。
      キミが聖職者になったと聞いて、涙を流して喜んでいたねえ」

 ショボンの脇を、冷たいものが流れた。

( ・∀・)「ほかにもキミの地元には、友人も、親戚も…。
      キミは村のみんなの人気者だったから、みんなと仲良くしていたね?
      そういったたぐいの、キミがこの世にいた「痕跡」を消す、と、僕は言ったんだ」
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:28:45.31 ID:XN7wPiiTP

(´・ω・`)(みんなを、殺す…?!)

 ショボンはすでに袖口に毒針を用意していた。
 それをモララーの喉元に突き立てたい欲求にかられながらも、理性がそれを押しとどめていた。

 ショボンも腕のいい暗殺者だが、モララーという男はもっと、昔は恐れられていた工作員だった。
 一対一で戦っても、この底知れぬ恐ろしさを持つ男を倒す自身は、ショボンにはない。


 葛藤をあざ笑うように、モララーはさらに言葉を続けた。

( ・∀・)「ついでだから、近況をお伝えしようか。キミの妹さんは結婚して、子を授かったばかりだそうだね。
      せっかく、一族の血を後生に伝える子ができたばかりだというのに、
      キミは、キミの失敗によって、そんな妹さんも…」

 脂汗を流すショボンを、モララーは椅子に座ったまま、面白そうに眺めていた。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:31:22.29 ID:XN7wPiiTP

 モララーはこともなげに、言った。

( ・∀・)「どう? よかったら最後のチャンスを、キミにあげてもいいんだけど…?」

 涼しい夜だったが、ショボンの僧服は冷たい汗で濡れていた。
 目は堅く閉じられ、口元がかみ締められ、歪んだ。

 クーか、親か。


 長い逡巡の後、ショボンは目を開けた。
 そして、モララーに、頷きかけた。

( ・∀・)「あ、やってくれるんだ。それじゃ頼んだよ、クーの暗殺。
      …今日中に、ね」

 ショボンはうめき声を上げた。搾り出すような、小さな声だった。

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:33:56.16 ID:XN7wPiiTP
四.


 ニューソクタウンの中心部に程近いところに、礼拝堂があった。


 大扉を開けて、ショボンは中に入った。
 深夜の小さな教会に、人の姿は無かった。

 冷たい石造りの建物は天井が高く取られており、
 ドアのきしみの音が反響して、教会内に音楽的な響きを立てた。
 
 ステンドグラスを通した月の光が、色とりどりのモザイク模様を、教会の床に投げていた。

 ショボンはゆっくりと歩き、ベンチの間を、正面の十字架像へと向かった。
 そしてその前に膝をつき、両手を組み、祈った。

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:36:06.54 ID:XN7wPiiTP

(´・ω・`) 主よ…

 ショボンは顔を上げた。
 十字架にかけられたイエスの気高い顔は、ショボンのほうを見ずに、ただ天だけを眺めていた。

(´・ω・`) 私は罪深い存在です。何人もの人間を、闇のなかの死へと葬り去りました。
      私は人殺しです。聖職者の皮を被った、汚い罪人です。
      でも…

 ショボンはもう一度、イエス像を見た。

(´・ω・`) でも、せめて一度くらい、わたしのほうを向いてくださっても、良いではありませんか。
      主よ…

 すがりつくような声で、ショボンは祈りを唱えていた。
 あいかわらずイエス像は、そっぽを向いていた。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:37:54.46 ID:XN7wPiiTP

(´・ω・`) ああ主よ、罪人の戯言をお許しください。
      十字架の上の気高い死を受け入れた主イエスよ。
      あなたがそんなに気高くあられるから、
      私のような罪人は、あなたの救いを諦めねばならないのですか。
      神の国に入ることを諦めねばならず、罪人はますます低く地を這いずり回る…

 しがらみは断ち切れない。
 モララーのような男とつながりを持ってしまったら、もう…

 祈るショボンの脳裏に、クーの顔が浮かんできた。
 人の温かみを知らなかった少女。骨と皮だけにやせ細り、人を傷つけることしか知らなかった彼女が、
 今では、ショボンとデレと家族のように同居して、いっぱいの仲間に囲まれ、笑っている。

 ショボンはそんな明るいクーが好きだし、おそらくクーも、
 ショボンのことを家族のようにかけがえのない人間だと思っているはずだ。

 家族…。
 ふいに、里に残してきた、自分の老いた両親の笑顔が浮かんだ。

(´;ω;`) ああっ!

 混乱した頭を激しく振って、ショボンは叫んで、十字架の下に身を投げ出した。

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/09(木) 23:39:58.66 ID:XN7wPiiTP

 聖堂の中に、ショボンの祈りの声が響いた。


    主よ、できることなら、この苦い杯を私の前から退けてください――










第十五話 ここまで―――

戻る

inserted by FC2 system