4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 21:58:38.57 ID:WV2cwiHJP


 信じられない思いだった。

 半年ほど前には、この机の高さくらいの背丈しかなかったクー。
 そのときのやせ細り、骨に皮を貼り付けたような貧相な姿を、覚えている。


 アーネムはもう一度、事務机の前に立つクーの姿を眺めた。

 上背が伸びて、椅子に座るアーネムを見下ろすようにして、しゃんと立っている。
 海賊がやるように赤いバンダナを頭に巻いて黒髪をまとめ、屈託の無い顔でにこにこと笑っている。
 日焼けした健康的な少女の肌が、水色の水兵服からのぞいている。

( ´_ゝ`)「きみ…? 本当にあのときの子供…?」

 クーは問いかけに返事をしなかった。
 ただアーネムのほうを見て、水兵流の人懐こい笑顔でひとつ、にっかりと笑った。



   川 ゚ -゚)は探しているようです  第十二話


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:00:41.26 ID:WV2cwiHJP
一.


 朝のやわらかな光を浴びて、フサが青空に向かって腕を突き出し、大きく伸びをしていた。


 船の難破と厳しい気候、それに二度にわたる戦争を乗り越えて、
 急ごしらえのニューソク植民地に暮らす避難民たちは、いまようやく、無事に雪解けの季節を迎えることが出来た。

 生き延びたパートレム号水兵のニューソク人はわずかに三十人ほどだったが、
 ただし、植民地全体の人口は大きく拡大していた。
 ラウンジ人の生き残りを、ニューソク植民地は住人として受け入れていたのである。


 ここですこし、ニューソク植民地の冬のあいだの出来事を、振り返ってみよう。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:02:59.82 ID:WV2cwiHJP

 ラウンジ砦の元外交官サンゴ・アザピー伯が、どこからともなく姿をあらわして、
 ニューソク植民地の門を叩いたのは、恐ろしいラウンジ砦での戦いから一週間ほどがたってからだった。

 中央広場に通された彼は、居並ぶニューソク人の前で、まずはドクオから質問を受けた。

('A`)「ラウンジ砦に民間人はいなかったようだが、みんな、どこへ行っていたのだ」

 ニューソク人の皆がアザピーの答えに注目した。
 特に、総督の館で人肉スープを食わされたロマネスクたちは、彼の答えにいっとう注意して耳を傾けていた。

(-@∀@)「戦いがあるというので、非戦闘員はみんなで森の奥に隠れていました、ドクオ総督」

 アザピーは流暢なニューソク語で答えた。
 意外にまともな内容の答えだったので、一同はとりあえず、ほっと胸をなでおろした。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:06:08.79 ID:WV2cwiHJP

 アザピーはここで、なぜかおおげさにため息をついて、語を継いだ。

(-@∀@)「それにしても、まったくあなたは、大胆なことをやりなさる。
      まさか、伝統と権威ある我々ラウンジの要塞に対し、たったの三十人ぽっちで攻撃を仕掛けてくるとは。
      我々ラウンジは、あなたがたをシマウマのように小心で弱い草食動物かと思っていましたが、どっこい、
      その正体は小柄ながらも、恐ろしい狼だったというわけですな。
      あなたがたを少し脅せば、おびえて食料の半分くらいはすぐに差し出すかと思っていたのですが、
      それはどうも、とんでもない誤りだったようです」

 ドクオは黙ってアザピーの言葉を待った。

(-@∀@)「おまけにあなたは我が砦を攻め落とすだけでなく、我らが総督、歯車王アランソン公まで廃してしまった。
      いやはや、暴虐の鋼鉄が、ここまでやってくださるとは…」

 うらみがましく肩をすぼめるアザピーを見て、ドクオはおもわず苦笑した。

('A`)「で、貴卿はここに、何をしに来られたのかな。
   ラウンジ貴族として、我々の所作に対し慇懃かつ断固として、抗議の意思を表明しに来られたのか?」

(-@∀@)「いえ…降伏の使節です。ラウンジ砦を代表して、私はここにいます。
      当然のことながら、正式な捕虜に対しての人道的処遇を、
      我々は神の名の下に、あなたがた勝者に要求する権利がありますからな」

 胸を張り、優雅な姿勢で右手を下ろして、アザピーは言った。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:08:17.90 ID:WV2cwiHJP

 こうして、森に隠れていた百人あまりのラウンジ人が、以後はニューソク植民地で生活をすることになった。

 彼らに際立っていた特徴は、貧富の差だった。
 貴族たちは血色も良く健康的だったが、市民階級の者は皆、やせ衰えていた。
 ラウンジ砦の物資は、まず貴族に、それから次に軍人にとまわされていたので、
 不足しがちな食料が市民にまでまわってくることは、ほとんど無かったのだ。

 そんな彼らを、ドクオは階級の別なく平等に処遇した。
 食料は豊富に支給された。ワイルド・ライスを炊いたものを猪の背脂で香ばしく炒めたシナーの得意料理が、
 集まったラウンジ人たちの間に大好評を博し、飢えを癒していった。


 最初のうち、アザピーはラウンジ貴族らしく、プライドに拘った尊大な態度でまわりに接していたが、
 ドクオが市民たちに至るまでみな平等に人々を取り扱う方針であるのを見て、彼はすぐに態度を変えた。

 彼はまず、一筋の汚れも無い豪奢な貴族の胴衣を脱ぎ捨てて、簡素で丈夫な市民服に身を包み、
 思い上がった傲慢な口調のラウンジ語をやめて、くだけた調子のニューソク語を口にし始めたのだ。

 今やアザピーは、質素な市民服の胸のボタンを開けてゆるく着こなし、
 ため口でニューソク水夫たちの雑談の輪に加わったり、煮炊きする女たちに冗談を投げかけたりしている。

 元ラウンジ貴族のあまりのかわり身の速さに、ドクオは苦笑せざるを得なかった。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:11:29.21 ID:WV2cwiHJP

 やがて大雪が降りだした。新大陸の雪は深かった。

 ニューソク植民地に暮らす人々は家の中に閉じこもりがちになり、
 暖炉のそばで一日中を過ごすような日が続いた。

 こうなると、人々はたがいに顔をつきあわせて、たくさんの話をするようになる。
 それ以外にやることが無くなるからだ。


 クーの家では、ショボンが二人の少女を相手に、信仰を説く日々が続いていた。
 デレはあいかわらず無口だったが、ショボンが話をする時には、それに真面目に耳を傾けた。
 一方クーのほうは、熱心に伝道をするショボンの言葉を、半ばからかいの気持ちで受け流すことが多かった。

川 ゚ -゚) 「信じる? おろかな話だ。いったい何を信じるんだ?」

(´・ω・`)「それはたとえば、神の存在とか」

川 ゚ -゚)「そんなの信じられないよ。だって私は、見たこと無いもの」

(´・ω・`)「でも、神を見たって人は、たくさんいるよ」

川 ゚ -゚)「自分の頭で考えず、人の言うことを盲目的に信じるなど、おろかなことだ」
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:14:27.44 ID:WV2cwiHJP

(´・ω・`)「疑り深いのは、ある種の知性の証明だね。
     でも、それでも、信じるのです。それが救いに到る、唯一の道なのだから」

川 ゚ -゚)「やだよそんなの。信じたら騙されるんだ。人の言うことなんて、絶対に信じちゃだめなんだ。
     みーんな、私を騙すんだもん」

 椅子から足をぷらぷらさせて、クーは言った。

 言葉とは裏腹に、それはそう悲痛な響きを伴う口ぶりではなかった。
 心からの言葉というよりもむしろ、ショボンに対するからかいという意味合いが強いのだろう。

川 ゚ -゚)「でも、なにか証拠でもあるんだったら、信じてやってもいいかな。
     神様は本当にいるんだって証拠がさ」

(´・ω・`)「だめだよ。神に証拠を求めるのは、聖書の教えに反する、いけないことなんだよ」

川 ゚ -゚)「なんだ。やっぱり、いんちきだなあ」

 それみたことかと、クーは笑った。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:16:01.40 ID:WV2cwiHJP

 ショボンは苦笑した。
 それから、黒い僧服の懐に手を入れて、二つの、銀で作られた十字架を取り出した。

 本物の銀が放つ魅惑的な光沢に、クーはどきりとして、目を奪われた。

(´・ω・`)「証拠…ではないけれど…。誰だって、自分の信仰のよりどころを持つことはできる。
     それは何であってもいい。一本の枯れ草だって、ひょっとしたら誰かのお守りになっているかもしれない。
     そこで、僕は君たちにこれをプレゼントするよ。これなら信仰の象徴に、うってつけだからね」

 ショボンはまずデレに、銀の十字架をあしらったネックレスを渡し、続いてもう一つをクーに差し出した。

(´・ω・`)「クー、君はたしかに、人を信じることができなくなるような経験をしてきている。
     その点については僕も大いに同情するよ。
     でも、信じることそれ自体は、悪いことじゃないんだ。
     人の心にたしかな平穏をもたらす、良い方法なんだよ」

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:18:29.32 ID:WV2cwiHJP

(´・ω・`)「誰も信じられないから、全てを疑う。
     うん、そうすればたしかに、騙されることはなくなるかもしれない。
     でもそんなふうに生きていては、いつかは、君の心が疲れ果ててしまうんだ。
     知性はしょせん道具だ。ならば、その道具は、自分の役に立つように使えばいいんだ」

 ショボンはネックレスの鎖の部分を持ち、十字架をぷらぷらと左右に揺らせた。
 きらきらと白い光を放つ貴金属の輝きは、クーの原始的な物欲を大いに刺激した。

川 ゚ -゚)「ま、まあ、くれるというものは、もらっておくか」

 クーはひったくるようにショボンの手から十字架を取ると、それをそそくさと水兵服の胸ポケットに仕舞った。
 それからじっと自分を見つめるショボンの視線に気づいて、気まずくなって、あてもなく部屋の中に目を走らせた。

 ショボンの視線に込められた確かな優しさの光が、クーにとってはこそばゆくて、まぶしかったのだ。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:20:46.20 ID:WV2cwiHJP

 デレが自分の手の中にある十字架を見つめていた。
 その顔にはいつしか、かすかな微笑みが浮かんでいた。

 彼女はいま、十字架を見つめながら、大いなる存在のもたらす愛について、思いを馳せているのだろうか。
 人は、自らに向けられた愛がこの世に確かに存在すると信じることができたとき、
 そういった笑顔を浮かべるのかもしれない。

川 ゚ -゚)(あのデレが、笑ってる)

 クーは自分の胸ポケットを上から触って、十字架の感触を確かめた。

川 ゚ -゚)(なるほどな。もしも、信仰によって心の安らぎがもたらされるのだとすれば、
     坊主どもの言う嘘だらけの世迷言も、まったくの無価値というわけでは、ないのかもしれないな)

 自分が神と教会を信じるつもりはさらさらなかったが、
 デレに笑顔をもたらしてくれたこの十字架に対してなら、少しくらいは、愛着を持つことができそうだ。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:22:52.62 ID:WV2cwiHJP

 時が経つにつれ、デレは少しずつ言葉を話すようになり、元気を取り戻していっているように見えた。
 そこでクーは、いままで家に閉じこもりっぱなしだった彼女に、新しい居場所を見つけることを考えた。

川 ゚ -゚)「やることが無いと、気がくさるんだ。居場所が無いもんね。
     だから、何か仕事をしようよ、デレ」

 暖炉のそばに座るデレを、クーはなかば無理矢理に手を引いて、自分の仕事場へと連れて行った。


 クーは少年兵の仕事として、配膳や清掃といった、植民地の軽作業全般を任されていた。
 それらは奇しくも、赤薔薇亭でフォックスたちに殴られながらこなしていた仕事と同じ内容のものだったので、
 クーにとってはお手のものの得意仕事だった。

 デレを食堂に連れて行ったクーは、ひとつひとつ仕事を具体的に指示して、二人で分担して作業を進めた。
 体を動かしていると、デレのふさいだ気も、少しは紛れていくようだった。

( `ハ´)「デレ、次はこの皿を運ぶアル」

 いつのまにか植民地の料理長になっていた主計長シナーが、
 てきぱきと料理を作り上げて、配膳の指示を出す。

 配給酒の入った桶を抱えて走り回るクーといっしょに、デレはトレイを抱えて、食堂の中を駆け回っていた。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:24:33.78 ID:WV2cwiHJP

 いつまでも原住民の皮の服だけというのも何だ、ということで、ラウンジ人のとある商人が、
 ラウンジ風の洗練された女給仕の衣装一式を、デレにプレゼントした。

 レースや白いフリルのついた華やかなメイド服を広げて見て、デレは最初、戸惑った。
 着慣れない洋服に、何をどう身につけていいかわからず、あれこれ試していたデレだったが、
 ちゃんと全身に着てみると、褐色の美しい娘の顔立ちに、その黒と白の衣装はじつによく映えた。

 その格好で食堂に出るデレは、水兵たち皆からおおいに好評を博した。

( ФωФ)「デレは可愛いなあ、クー。おめえと違ってチチもあるしな、がっはっは」

川 ゚ -゚)「黙れ、殺すぞ。お前の今日の配給酒は四分の一パイントの増し水だ」

( ФωФ)「あっ。ウソウソ、ごめんなさいクー様」

 水兵たちが用も無いのに、あれこれとデレに話しかけるようになった。
 笑顔をデレにむけて、給仕の礼を述べたりした。
 デレもいつしか、人々から向けられた笑顔に対し、笑顔で返して接するようになっていた。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:26:13.52 ID:WV2cwiHJP

 元気になったといえば、普段は無気力なドクオも、このところは精力的に活動していた。

 元ラウンジ貴族のアザピーは、ときどきドクオの家を訪問し、面会を求めてきた。
 特に用があってのことではなく、彼も植民地ではすることがなくて暇なので、話し相手が欲しかったようだ。

 この嫌味で尊大な男を、ドクオは最初は警戒し、避けていた。
 しかし、いやいやながらも雑談に応じているうちに、アザピーという男はその人間性はともかく、
 知識や頭脳の面では大変にすぐれたものを持っている、ということも、明らかになってきた。

(-@∀@)「するとやはり、あなたは貴族…ならびにそれを支える貴族制度には、反対なのですね」

('A`)「ええ。反対といいますか、大嫌いですね、泥棒貴族どもは」

(-@∀@)「けっこう。じつに先進的な考えをお持ちだ」

 アザピーは布張りの椅子に姿勢を崩して座り、足を組んでパイプを咥え、ドクオと正対していた。
 それは、敗戦国の捕虜とは思えない、また訪問先の主人をないがしろにするような傲慢な態度だった。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:28:01.70 ID:WV2cwiHJP

('A`)「先進的?
   といっても、あなたも貴族でしょう、アザピー伯爵?」

(-@∀@)「その伯爵というのは、やめていただけませんかな。ミスタ・ドクオ」

('A`)「へえ。…あなたは古い体制と身分にこだわる人物だと、思ってたのですがね。ムッシュ・アザピー」

(-@∀@)「あははは、そう見えましたか。
      それは、今までラウンジ植民地の総督が、古い身分制度に拘るアランソン公だったからですよ。
      現在のトップはミスタ・ドクオ、あなたですから、私も主義主張を変更することにします」

('A`)「は?」

(-@∀@)「私は貴族制支持を捨て、あなたと同じ、平等主義者になります。
      私は別に、特定の制度にこだわりなんてありません。
      主義主張なんてのは、しょせん、生きていくための方便ですからね」

('A`)「はあ」

 あきれた、という顔をして、ドクオは手元の本のページをめくった。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:30:48.70 ID:WV2cwiHJP

(-@∀@)「ミスタ・ドクオ、あなたは本がお好きなのですね。いつお尋ねしても、一人で本を読んでいらっしゃる。
      そうだ、私はあなたに、本を一冊お貸ししましょう。あなたにぴったりの、面白い本ですよ」

 アザピーはそう言って、ふところから小さな革表紙を取り出した。

(-@∀@)「あなたは貴族に対する漠然とした反感をお持ちのようだが、
      失礼ながら、それをうまく言葉にすることができていないようだ。
      これをお読みなさい。あなたの知りたかったことが、書いてあります」

 ドクオはアザピーの手元にある本に目をやって、金文字で掘り込まれたタイトルと著者名を見た。
 
('A`)「ジョン・ロック…」

(-@∀@)「無知な軍人でも…おっと失礼、ロック氏の名前くらいは聞いたことがあるでしょう。
      共和主義者たちが掲げる、いわゆる社会契約説と呼ばれる学説ですよ。
      ま、お読みになられても、あなたにはまだ理解は難しいでしょうから、私が解説をしてさしあげましょう」

 はははは、とアザピーは気障りに笑った。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:32:39.44 ID:WV2cwiHJP

 アザピーはたびたびドクオの家を訪れ、そのたびに新しい本を持ってきた。

 彼の態度と口ぶりはいちいち癪に障るものだったが、その持ってくる本は、
 まさにドクオの好みと考え方にぴったりと合った、興味を引かれる内容のものばかりだった。

 ドクオがかつてから持っていた貴族への嫌悪に、アザピーが持ってきた本たちは、たしかな形を与えてくれた。
 本を読み、またその内容についてアザピーと議論を重ねたりすることによって、
 ドクオは漠然と持っていた「身分」というものへの疑問を、頭の中でどんどん生きた形に作り上げていった。

 なぜ「上」の命令には従わなければならないのか?
 なぜ「ルール」に従わなくてはならないのか?
 なぜ、人々は「義務」を負うのか?

 そうした疑問に対し、アザピーの提示する解答は、たしかにいちいち筋の通った、納得のできるものだった。




 新大陸で過ごすニューソク人の冬は、こんなふうにして過ぎていった――

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:37:09.22 ID:WV2cwiHJP
二.


 いっぽう、ニューソク本国に戻ったアーネムとタンブルストンは、冬の間、王宮の内を駆けずり回っていた。
 植民地設置の許可と支援を求めていたのだ。

 アーネムは、現王の弟という身分はあれど、公式の官職は一介の海軍提督にすぎない。
 自由に動かすことのできる兵力は、指揮下の二十隻ほどの艦船だけだ。

 植民地開発などという大事業を行うためには、それだけの人間と兵力では、到底不足だ。
 彼の計画を確実に遂行するためには、ニューソク国家よりの全面的な支援を得る必要があったのだ。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:39:00.84 ID:WV2cwiHJP

 アーネムはぐるりと会議テーブルを見渡した。
 王宮の暖炉はあかあかと燃えていたが、それでも広い会議の間のすべてを十分に暖めるには、不足だった。

 この一件は、兄王がいないあいだに処理してしまおう。
 兄王はたぶんいまごろ、外遊のために暖かい南の地方の同盟国を訪問しているところだろう。

 アーネムの後ろで、控えて立っているタンブルストン伯が、軽く咳払いをした。
 大きな音ではなかったが、それだけで部屋の雑談の話し声はすぐに止んだ。
 居並ぶ陸軍と海軍の高官たちは、恐れと敬意の入り混じった目で、真ん中に腰掛けるアーネムを眺めやった。

( ´_ゝ`)「…諸君はすでに、お手元にある資料のとおり、私の立案した植民地設立計画については
      ご理解いただけているものと思う。この件に関しては迅速に、しかも確実に計画を進めることが、
      ニューソクの国益にとってもっとも資すると、私は確信している」

 テーブルに居並ぶ貴族たちが、ぱらぱらと、おざなりに資料をめくって目を落としている。

( ´_ゝ`)「まずは陸軍兵一個師団と砲を数門、それから職人、商人、地質学者といった民間人。
      これだけを、春の訪れと同時に、ただちに大西洋を渡らせて新大陸ヴィップに派遣する。
      この計画について異なる意見のある者は、どうか、この席で自由に発言していただきたい」

 アーネムが言うと同時に、後ろ手を組んだタンブルストンが、じろりと列席の大臣を鳶色の瞳で嘗め回した。
 陸軍官房長がわずかに右手を上げかけたが、ためらって下ろし、結局、意見を言うものはいなかった。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:40:51.17 ID:WV2cwiHJP

 アーネムとタンブルストンは、冬の間じゅうをかけて、議会や大臣たちの間に根回しを行っていた。
 その成果がこの会議の席上で立派に確認され、二人は満足げに、かすかに目顔を交し合った。

 ほっとしたように背もたれに身を預けると、アーネムは緊張の解けた声で言った。

( ´_ゝ`)「賢明なる国防委員諸氏にご理解をいただけたことに、謝意を表明する。
      植民地建設に必要な資材、軍、人員については、以下は事務方の選定に任せるものとする。
      諸君に忘れないで頂きたいのは…、
      本計画は、ニューソク王国が挙げて行う国家的プロジェクトであるということである。
      つまり、以後、本計画に対し反対意見を述べるものは、大ニューソク国家に属するすべての国民と、
      それを神の意思で統べる王陛下に対する反乱となる。
      この点を、しっかりとご留意いただきたく思う」

 会議の席は静まり返っていた。アーネムは自分の言葉がもたらした成果に納得し、ひとつ頷いた。


 こうして冬の間に必要な準備をなしおえたアーネムとタンブルストンは、
 春の航海に適した季節がくるや、物資と人員を満載した指揮下の艦隊を率いて、
 意気揚々と、新大陸へと向けて帆を張ったのである。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:43:38.14 ID:WV2cwiHJP
三.


 いまや新大陸ヴィップは春だった。

 アーネムの率いる二十隻ほどの軍艦が、ニューソク植民地沖の湾に錨を下ろし、停泊していた。
 彼らを迎える準備で、小さなニューソク植民地は大忙しだった。

ミ,,゚Д゚彡「コラそっちだよ、樽、樽の列を優先しろって」

 すっかり傷の癒えたフサが、補給品の積み下ろしの列を監督していた。
 バターの小さい樽や、塩漬け牛肉、そして固パンといった海軍伝統の食料を、
 船倉の天井を塞いでいる格子を取り除けて、積み下ろしする作業が行われていた。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:44:54.88 ID:WV2cwiHJP

 勇壮な笛とドラムの音が響いている。
 陸軍兵が上陸したのだ。

 赤い上着に統一されて、二列縦隊を組んだ陸軍兵たちが、
 「擲弾兵行進曲」のリズムに合わせて、規則正しく軍靴の音を立てている。


( ФωФ)「大層なことになったもんだなあ…」

 腰に手を当てて、ロマネスクが入り江の騒がしい光景を眺めていた。
 これまでは三十人ほどの水兵と、百名ほどの民間人しかいなかったこの植民地が、
 いっきに数千人の人と物で溢れかえっているのだ。

 急ごしらえの粗末なニューソク植民地は、本国からやってきた土木職人たちの手で、大きく変わろうとしていた。
 石切職人とレンガ職人がはやくも仕事を始め、大工たちは陸軍兵を受け入れる、仮設の兵舎を造り始めていた。


 ひさしぶりに嗅ぐ文明と繁栄のにおいに、冬を生き抜いたパートレム組は、まぶしそうに目を細めていた。

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:48:21.62 ID:WV2cwiHJP

 そんな陸でのあわただしい景色を、海上から丸い船窓を通して眺めている、二つの薄青色の瞳があった。


 艦隊旗艦ティベリウス号の艦尾楼、センスよく整えられた緑色の士官室の中に、アーネムとタンブルストンの姿があった。
 二人は机に向かい、新しい停泊地に着くにあたっての、さまざまな細かい事務作業を行っている。

 …ように、見える。
 が、実際にせわしなく書類に羽根ペンを走らせているのはタンブルストンだけであり、
 アーネムは重そうな書類束を両手に捧げているものの、その目はさっきからずっと船窓の外に向けられている。


 ニューソク植民地…その新しい町は、いまや誰からともなくニューソクタウンと呼ばれていた…は、
 ゆるやかな春の日差しを受けて、遠く立ち上る陽炎にゆれていた。

 湾を囲む景色は美しかった。
 真っ白な白樺の幹と新緑、そしてやわらかな草の揺れる草原に点在する、名も知れぬ黄色く小さな花。
 群青の凪いだ海の色とあいまって、それらは完璧な自然の調和の姿を見せていた。

 まるでこの新大陸の大地の女神が、海を渡ってやってきた我々を歓迎しているようだ。
 そんなふうにも思い、アーネムは思わず、頬を緩ませた。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:51:22.57 ID:WV2cwiHJP

 が、そんなアーネムのおだやかで幸せな気持ちは、
 後ろから飛んできた冷酷で棘のある言葉によって、たちまちに吹き飛ばされた。

(´<_` )「兄者、ちょっと階下の倉庫に行って、インクを持ってきて頂けませんか。無くなりそうです」

(;´_ゝ`)「いやときに待て弟者。そんな雑用を私にさせる気か」

(´<_` )「申し訳ありません。…ですが、私は手が離せませんので」

 タンブルストンの鳶色の目が、わずかに書類から上げられて、
 ぼんやりと船窓を眺めていたアーネムの緩んだ顔を、一瞬だけちらりと睨み付けた。

(;´_ゝ`)「あ…はい」

 アーネムは椅子から立ち上がった。
 タンブルストンの声が、またも背中から飛んだ。

(´<_` )「そうだ、ついでに兄者、紅茶を淹れてきて下さい」

(;´_ゝ`)「あの…わたし海軍提督なんですけど」

(´<_` )「それは妙な話ですな。海軍提督とは、一般に書類仕事にもその有能性を発揮するものであり、
      子供のように船窓からぼーっと外を眺めているようなことは無いと思われるものですが?」

 書類から目を離さず、平板にタンブルストンは言った。

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:53:54.82 ID:WV2cwiHJP

 揺れの無い凪の船上で、ティベリウス号士官室には、かぐわしい茶葉の香りが漂っていた。
 タンブルストンはカップの中の湯気を立てる茶色い液体にまず鼻を近づけ、それから一口を口の中に含んだ。

(´<_` )「ん。まあ、いいでしょう」

(;´_ゝ`)「不満があるなら自分で淹れろよ、弟者」

(´<_` )「失礼。たしかに…私のほうが兄者より、はるかにティーポットの使い方が上手いのは事実です。
      ですが最近では兄者も、なかなかのものになってきましたよ。褒めてあげます」

 アーネムは肩に引っ掛けていただけの上着を脱いで、椅子の背に投げ、掛けた。
 対照的にタンブルストンは上着のすべてのボタンを締めて、きゅうくつな襟止めまでしっかりと着けている。

 廊下から足音が聞こえてきた。数人が士官室に向かって歩いてきているようだ。
 アーネムは頭を巡らせて、ドアのほうを見た。

( ´_ゝ`)「なんだ?」

(´<_` )「ああ、パートレム号の連中をここに呼んであるんですよ。
      冬の間はどんな状況だったのか、報告させるためにね」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:56:00.91 ID:WV2cwiHJP

 ややあってノックの音がした。
 「入れ」アーネムが言った。


 現れたドクオは正装だった。その後ろに従うクーは、ゆるゆるの気楽な白いシャツと水兵服姿だった。

('A`)「ドクオ一等海尉、ならびに従卒クーです、提督」

 言って、ドクオとクーは、アーネムの座る事務机の前に並び立った。


 アーネムは信じられない思いだった。

 半年ほど前には、この黒檀の机くらいの低い背丈しかなかったクー。
 やせ細り、骨に皮を貼り付けたような貧相な腕をしていた姿を、覚えている。

 アーネムはもう一度、事務机の前に立つクーの姿を眺めた。

 上背が伸びて、いまでは椅子に座るアーネムを見下ろすようにして、しゃんと立っている。
 海賊がやるように赤いバンダナを頭に巻いて黒髪をまとめ、屈託の無い顔でにこにこと笑っている。
 日焼けした健康的な少女の肌が、水色の水兵服からのぞいている。

( ´_ゝ`)「きみ…? 本当にあのときの子供…?」

 クーは問いかけに返事をしなかった。
 ただアーネムのほうを見て、人懐こい笑顔でひとつ、にっかりと笑った。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 22:59:08.40 ID:WV2cwiHJP

 アーネムとタンブルストンは、留守中の出来事について、あれこれと細かくドクオに尋ねた。
 ドクオがわからない、あるいは直接に見聞きしていない部分については、クーが補足した。

 クーは見違えるように成長していた。
 体つきに変化があっただけではなく、声も、かつてのがらがら声は影を潜めていた。
 粗野で率直な水兵たちの物言いを真似て、はつらつとした少女らしい早口で、クーは喋った。


( ´_ゝ`)「よろしい、よくわかった」

 ひととおりのことを聞き終えると、アーネムはもったいをつけて、言った。

( ´_ゝ`)「キャラベル船パートレム号の乗員たちは、過酷な環境にも耐え抜き、
      ニューソク国植民地建設の先鞭をつけるという困難な任務を、みごとに達成したと、私は認める。
      このニュースはただちに本国に報告され、国王と国民に驚愕と賞賛をもって迎えられることになろう。
      よく、やってくれた」

('A`)「ええ、大変な事業でしたよ。提督が冬の間、本国でぬくぬくと過ごしている間にね」

 ドクオがさらりと言った。
 その言葉で、アーネムの動きが止まった。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:00:16.41 ID:WV2cwiHJP

 ややあって、アーネムが口を開いた。

( ´_ゝ`)「ところでドクオ海尉、君は…
      私の記憶が正しければ、君はたしか、罪人として拘禁されている筈だったように思うんだが。
      いったい、私以上に権威のある裁判所が、君の拘禁を解いたという事実はあるのかね?」

('A`)「いえ、ありません、提督」

( ´_ゝ`)「なるほど。では君は、法的には依然囚人の地位である、ということになるね。
      君はニューソク植民地の事実上のリーダーとして行動していたようだが、
      これは拘禁命令に背いて勝手に行動した、新たな重大な軍規違反と見なす余地がある」

 アーネムは立ち上がり、ドクオに近づき、金髪の下の青い瞳に力を込めてその顔を睨み付けた。
 ドクオはまっすぐに立って、しゃちほこばって前だけを見ている。

 緊迫した雰囲気が両者の間に流れ、クーははらはらしながら、黙り込む二人を眺めていた。


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:02:09.50 ID:WV2cwiHJP

( ´_ゝ`)「…だが、その重大な罪は、この冬に君が植民地で上げた功績を考慮することにより、
      今回だけは特別に許されることとなろう。
      ドクオ海尉、私は君の重拘禁を解き、元の一等海尉の地位に戻し、植民地の管理を任せようと思う。
      これは君の功績に報いる恩恵的措置であり、これ以外には、君に対し褒賞が与えられることはない」

('A`)「アイ・サー」

 平板に、ドクオは言った。

 アーネムは気を落ち着かせるようにひとつ息を吸うと、こんどはクーのほうに向き直った。

( ´_ゝ`)「続いてクー君。君は、君のたぐいまれなる勇気と功績に、いまこそ顕彰を受けるべきだと思う。
      私は本日より、君を士官候補生として処遇しようと考えているのだが、どうだろう」

('A`)「えっ」

(´<_` )「えっ」

川 ゚ -゚) ?

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:04:09.57 ID:WV2cwiHJP

 とがめるようなタンブルストンの視線をわざと無視して、アーネムは先を続けた。

( ´_ゝ`)「クー君、君の新大陸での活躍は私も聞いている。
      先の艦隊戦での活躍などのことを総合的に考え合わせるに、君にはこの先、士官として
      我が軍の屋台骨を共に担っていただきたい、と考えるようになったのだ」

川 ゚ -゚)「しかん?」

 クーは首をひねった。

川 ゚ -゚)「それって、ドクオたちとおんなじになるってこと? …ですか?」

( ´_ゝ`)「そうだ。君には、軍規違反で拘禁されるような愚かな将校ではない、素晴らしい立派な士官となる素質がある。
      異存は? ない? よろしい、昇進おめでとうクー君。今日から君は士官候補生だ」

川 ゚ -゚)「しかん…」

(´<_` )「失礼、ミスタ…」

 声を上げかけたタンブルストンを遮るように、アーネムはさらに続けた。

( ´_ゝ`)「私からの話は以上だ。両名、退室してよろしい」

 ドクオは形式的に額に拳を当てて敬礼し、
 状況を理解できずに立ちすくんでいるクーの腕をつかんで引きずり、さっさと部屋を出ていった。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:06:37.34 ID:WV2cwiHJP

 ドアが閉まり、二人の足音が廊下を遠ざかっていった。
 批難顔のタンブルストンが口を開く前に、アーネムは振り返り、早口に語りかけた。

( ´_ゝ`)「わかってる、わかってるって。これはあくまで、儀礼的な昇進だよ」

(´<_` )「…理由を聞いても? ミスタ・アーネム」

( ´_ゝ`)「宣伝だよ」

 アーネムは椅子に戻り、ゆっくりと腰掛けた。

( ´_ゝ`)「新大陸開発には膨大な資金と軍事力が必要だ。だが、それだけでは入植は成功しない。
      入植には、入植者が必要だ。本国から移民を募る必要があるんだよ。
      そして入植者を集めるには、植民地に魅力がなければならない。
      だから私は、あの少女を、新大陸の客寄せ女神に祭り上げることにしたんだ」

 タンブルストンは口を閉じて、じっとアーネムを見つめていた。

( ´_ゝ`)「新大陸ヴィップには、ニューソクの旗を掲げて、開拓の最前線に立つ少女がいる。
      彼女はときには勇猛な戦士になり、ときには可愛げのあるしぐさで入植者をいたわる…
      そんな新聞記事が本国の新聞に掲載されるんだ。これは、入植者集めの格好の餌だよ」

(´<_` )「…なるほど。
      まあ、それはそれで、良いでしょう」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:09:39.38 ID:WV2cwiHJP

(´<_` )「それより私が心配なのは、兄者が植民地総督に任命された、あのドクオという士官です。
     いいのですか? あの反抗的な男を信用して」

( ´_ゝ`)「信用? 何の話だ。私が人を信用したことがあったか?」

 ドクオの話題となると、アーネムの言葉はやや怒気を孕んだ。

( ´_ゝ`)「だが、私には物事を客観的に見る責任がある。
      植民地総督としてあの男が有用であり、最適任であることは、もはや疑い得ない事実だ。
      殴ってやりたいほど腹立たしい事実だがな」

 アーネムは憮然として腕を組んだ。
 ドクオを高く評価するアーネムの言葉に、タンブルストンは一瞬、内心にざわつくような気持ちを覚えたが、
 それはあくまで私的な感情のように思われたので、黙っていた。

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:12:42.89 ID:WV2cwiHJP

( ´_ゝ`)「ったく…なんでもわかってるといいたげな澄ました態度に、孤高気取りの反抗的な口ぶりだ。
      ああいうやつは、いったい何が楽しくて生きているんだろうな」

 なおも不機嫌そうに、アーネムは言い募った。

(´<_` )「なに、うまく使ってやればいいのです。
      ああいうのは理屈で動きますから、手なずければ、扱いやすい忠犬になりますよ」

( ´_ゝ`)「なるほど…理屈で動く、か。
      あいつの根拠の無い自信満々の顔は、つまりは、自分で捏ねた理屈を根拠にしてたってわけか」

 アーネムは怒ってその言葉を言ったが、タンブルストンはアーネムに見つからないように、少し笑った。
 可笑しかった。

 「根拠の無い自信満々の顔」なんてのは、まさにアーネム自身も、それに当てはまる人物だったからだ。
 タンブルストンはそう思ったけど、それはとりあえず、黙っていた。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:14:59.00 ID:WV2cwiHJP
四.


 ティベリウス号の艦尾楼下、第一下層甲板の区画には、狭い個室がひとつあった。

 そのキャビンの船窓にはきっちりと蓋がされていて、
 昼間だというのに、明かりは壁に吊るされた小さなカンテラ一つだけだった。

 暗く狭い部屋の中には、二人の男がいた。


( ・∀・)「やあ、久しぶりだねえ」

 黒い僧衣に身を包んだモララーが、ドアのそばに立っている人物に声を掛けた。

( ・∀・)「君の任務は、進んでいるかい?」

「…報告は、随時送っているかと思いますが」

 人影は押し殺した声で答えた。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/01(水) 23:16:56.52 ID:WV2cwiHJP

( ・∀・)「ふふふ。あいかわらずつれないねえ」

 モララーは机から離れ、ゆっくりと入り口ドアのほうに近づいた。
 闇の中に、黒いフードに顔を目深く包んだ、一人の聖職者の姿が浮かんできた。

( ・∀・)「僕は君の直属の上司なんだ。君の口から、報告を直接聞く権利があると思うんだが…」

 モララーはそう言って右手を上げ、立ち尽くす人物のフードをゆっくりと開けて、
 顔をカンテラの明かりの下に暴き出した。

( ・∀・)「どうかね、……ショボン牧師?」

 ショボンはいつものように、困惑したように眉毛を下げた顔で、モララーと向き合って立っていた。




第十二話 ここまで―――

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