7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 21:59:44.44 ID:RiteuvSyP



 日は重なって週となり、新大陸ヴィップに冬が来た。


 薪を運んできたクーが入り口の戸板を閉めた。
 デレはいつものように部屋の隅で足を抱えてうずくまっている。

川 ゚ -゚)「寒いね。ついに雪が降り出したよ」

 誰にともなくクーは言って、薪を暖炉の火のなかに放り込んだ。
 ?きたてられた炎が一瞬大きくなり、クーの背後の壁に大きくゆらめく陰を作り出した。




   川 ゚ -゚)は探しているようです  第十話

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:03:21.72 ID:RiteuvSyP
一.


 ショボンは外出していた。
 先の原住民との戦いで死んだニューソク人を弔うミサがあったからだ。

 激しい戦いだった。
 平原に放置された原住民の死体は五十体ほど。うち戦いのさなかに死んだものは十数名で、
 おおくは、怪我をしてうずくまっていたところを、戦いの後にとどめを刺されたものだった。

 その一方でニューソク人も十三名の死者を出した。
 全部で五十名弱しかいないニューソク植民地にとって、十三名の死者は大きすぎる痛手だった。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:05:56.12 ID:RiteuvSyP

 デレはあの日以来、固く口を閉ざしてしまった。
 話しかけても一切押し黙ったままで、誰とも口をきこうとはしなかった。


 いったい、原住民の間で何が起こったのか。
 さまざまな憶測や推論がささやき交わされたが、それらはあくまで部外者の想像に過ぎなかった。
 出来事を目撃した原住民は、全員が崖の下に消えていた。

 ドクオは一人生き残ったデレの扱いに困惑した。
 この野蛮な荒れ野に一人でほったらかしにしておいたら、デレは一晩で森の狼の餌になってしまう。

 それでドクオは、とりあえずデレを植民地に連れ帰り、クーの家に預けることにしたのだ。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:08:16.42 ID:RiteuvSyP

 クーはデレの身上に心を痛めていた。

 家の中では、デレはいつも無表情に部屋の隅に座っていた。
 なにを話しかけても上の空だった。
 時折冷たく、生気の無い、ガラス玉のような目で、デレはクーを見つめてくる。


 クーはデレの目が放つある種の冷たさに、覚えがあった。

川 ゚ -゚)(まるで、つい半年前までの私じゃないか…)

 この地にはもう、デレに近しい身寄りはおろか、同族すらもいない。
 ニューソク人は白人だが、デレの肌は褐色だ。
 居場所は無い。今やデレは、異人に保護され、ただ飼われるだけの身だ。


 哀しみに対抗する方法は二つある。
 ひとつは正面から立ち向かい、戦うこと。もうひとつは、心を閉ざしてしまうこと。

 クーがかつて取っていたのは後者の方法だった。
 そして今、デレは、かつてのクーとおなじやり方を採用しているように見える。

 クーは彼女をなんとか元気付けたいと思った。
 しかし、どうすればそれができるのか、クーには方法がさっぱり思い浮かばなかった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:10:53.00 ID:RiteuvSyP

 ショボンと二人きりのときに、クーは聞いてみたことがある。

川 ゚ -゚)「おい坊主、デレを元気にする方法は、何かないかな。
     いい方法があったら教えろ」

 ショボンはだまって首を横に振るだけだった。

川 ゚ -゚)「なあ頼むよ、無責任なことを言うな。お前、坊主だろ。なんとかしろよ」

 くってかかるクーに、ショボンは静かに言った。

(´・ω・`)「元気になるのは、僕らじゃなく、デレ自身だよ。
     いいかい、元気に「する」んじゃない。元気に「なる」んだ。彼女が、自分でね」

川 ゚ -゚)「…っち。
     まぁた、わけのわからんことを…」

 クーはショボンに聞くことを諦めて、小さく毒づいた。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:12:46.52 ID:RiteuvSyP

 クーはなんとかデレの気を引こうと、あれこれと方策を考えて、それをせっせと実行に移した。
 だが当然ながら、人慣れのしていない子供のクーが立てたそれら方策がうまくいくはずもなく、
 かえって空回りするばかりだった。

 仲間が集まっての夕食に誘っても、デレは何の反応も返さなかった。
 黙り込むデレに無理に雑談を持ちかけても、興味すら示さない。

 我ながら失敗したとクーが思っていたのは、足踏みの遊びを仕掛けてみたことだった。
 デレはあの楽しかった日々を思い出してしまったのか、そのときと今との落差に改めて気づかされたのか、
 目を哀しみに見開き、しばらくは部屋の隅に固く小さく座り込んでしまった。

川 ゚ -゚)(なーにをやってんだ、私は…)

 いままでとは違った感じで、クーは小さな自分の力の無さを実感していた。
 それは、暴力で押さえつけられていたときの無力感よりも、いっそうクーの心をざわざわと掻き乱すものだった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:14:32.50 ID:RiteuvSyP

川 ゚ -゚)「そんなところにいないで、火のそばに来なよ」

 この日も、無駄とはわかっていても、クーはデレに言葉をかけてみた。
 思ったとおり、返事はなかった。

 デレは足を抱えて壁際に座り、うなだれて頭を伏せている。
 顔は見えない。黒髪が膝から下に流れて、顔を隠しているからだ。

川 ゚ -゚)「寒いよ、風邪ひくよ。外にはもう雪が…」

 言って、クーは窓の木戸を少し開いた。
 ぼたん雪がいくつも、ひらひらと宙を舞っていた。

川 ゚ -゚)「ほらごらん。こんなに降ってきたんだ。
     やあ、ヴィップに降る雪も、やっぱり白いんだな」

 クーは饒舌に喋り続けた。
 いつのまにか、この家の中でいちばん喋る人物は、クーになっていた。

 でも、デレはやっぱり、無反応だった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:16:39.54 ID:RiteuvSyP

川 ゚ -゚)「あっそうだ、そういえばデレ、君は狼を飼っていたのか?」

 やや間があった。
 デレの顔が、ゆっくりと上がってきた。

 褐色の顔の中の、二つの底知れぬ深さを持った目が、クーのたじろぎ泳ぐ目と、合った。

川 ゚ -゚)「わ、私を助け出してくれたとき、君は狼を連れてたじゃないか。思い出したよ。
     あ、あれは君の飼い犬…いや、飼い狼かい? それとも、部族の…」

 デレはじっとクーを見つめていた。
 クーはどぎまぎしながらもさらに続けた。

川 ゚ -゚)「き、綺麗な銀色だったな、あの狼は。そう、雪の色を見て思い出したんだ。
     きらきらと光を反射するさまは綺麗だったよ。なんていう名前なんだい、あの狼は?」

 二人は見つめあい、沈黙した。
 答えはやはり無かった。


 だが、デレはかすかに笑った。クーにはそう感じられた。


 それきりデレは、また顔を伏せてしまった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:18:05.49 ID:RiteuvSyP

 遠くで点鐘が八つ鳴った。
 正午を示す八点鐘だ。

川 ゚ -゚)「あっ、もうこんな時間か」

 クーは午後からの当直任務を命じられていた。
 あわてて壁に掛けてあった外套代わりの毛布を体に巻いて、外出の準備をした。

川 ゚ -゚)「じゃあデレ、行って来る。昼食はショボンが持ってくると思う」

 クーは出掛けに家の中に声を掛けた。
 デレからの返事は、やはり無かった。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:20:10.56 ID:RiteuvSyP
二.


 歩哨詰所で簡単な昼食が始まっていた。
 クーの食卓にはいつもの見慣れた顔が並んでいたが、
 端の一名の席が、ぽっかりと空いている。

 本国から遠く離れたこの新大陸では、欠員を補充するあては無い。
 だから、空きがでたポストは、どこも空きのまま放置されている。


 空席の存在にも、食卓仲間の皆はもう、慣れた。

 ヒッキーの悲惨な最期の姿は脳裏に焼きついて離れないが、
 仲間がいないという喪失感にも哀しみにも、いつかは慣れてしまうものなのだ。

 だから、今日の法要に参加していたフサが葬式の話を始めても、皆はそれを冷静に受け止めていた。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:23:14.48 ID:RiteuvSyP

ミ,,゚Д゚彡「いやはや、坊さんが生き残ってくれててよかったよ。
     坊主がいなきゃ、俺達キリスト教徒は死んでも死に切れんからな」

( ФωФ)「ああ。あの嵐で海に死んだやつらにくらべりゃ、原住民に殺されたやつらはまだ幸せだな。
       死体がちゃんと残ってるから、しっかりミサで天国に連れて行ってもらえるんだ」

 クーが食事桶を食卓に運んできた。
 ワイルド・ライスと干し肉を粥に煮たものだ。
 腹を空かせた皆の期待の視線が、クーの持ってきた桶に注がれた。

 シナーが脇の棚から皆の食器を取り出して配った。


 原住民が一人もいなくなったおかげで、ニューソク人たちは、
 彼らの村に蓄えてあった冬越し用の大量の食料を手に入れることができていた。

 三百人近い村人が一冬過ごすためのワイルドライスやとうもろこし、干し肉などの備蓄をまるまる手に入れて、
 この植民地では、食糧問題だけはすっかり解決していた。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:24:56.36 ID:RiteuvSyP

 木の鉢に盛られた粥を、皆はしばらく無言で食べた。
 ぷちぷちした食感のワイルドライスと、香草で味付けした干し肉の粥は、美味しかった。

 半分かた食べ終えて食欲のほうを満足させたフサが、話を続けた。

ミ,,゚Д゚彡「あっそうだ、ミサっていえばよ、もうすぐクリスマスじゃね?」

( ФωФ)「ん、もうそんな時期か…」

 ロマネスクが一瞬手を止めて、遠い目をした。
 労働だけで日々が過ぎていく、単純で単調なこの植民地生活の中で、
 久しぶりに季節感を感じさせてくれる行事を思い出したのだ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:27:07.19 ID:RiteuvSyP

( ФωФ)「また何か、祭りでもやんのかな」

 祭り。

 ロマネスクの一言で、食卓はしばし凍りついた。
 楽しい思い出であるはずの「祭り」は、
 いまのニューソク植民地では、やや微妙な問題をともなう言葉になっていた。

ミ,,゚Д゚彡「…さすがに、今はねえだろ」

 食卓には沈黙が戻った。
 皆がまた木皿をスプーンでさらい始めた。

 外は雪が降っており、静かだった。
 食器の触れ合うかちゃかちゃという音が、やけに大きく歩哨詰所に響いた。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:29:53.59 ID:RiteuvSyP
三.



 三点鐘が鳴る頃、ニューソク植民地砦の前に、見知らぬ人間がやってきた。

 近づいてくる人物を門楼の上からぼんやりと眺めていたフサとクーは、
 それらがフサもクーも知らない人間、つまりニューソク植民地の者ではないと分かったとき、
 二人は警戒の色で顔を見合わせた。

 望遠鏡で確認したところ、一行は四人連れで、青色の軍服のようなものに身を固めていた。

ミ,,゚Д゚彡「驚いた。あいつら、ラウンジ人だ」

川 ゚ -゚)「なんだって? なぜわかる?」

ミ,,゚Д゚彡「ラウンジのやつらは何にでも青い色を使うんだよ。
      あの青と白の四つ割上着は、ラウンジ陸軍の正装だ」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:32:59.65 ID:RiteuvSyP

川 ゚ -゚)「ラウンジか。ここから三日ほど北に行ったところにある、例のラウンジ砦の連中かな。
     何をしに来たんだろう?」

ミ,,゚Д゚彡「さあ…。たった四人だから、少なくとも攻撃に来たんじゃないとは思うが」


 相手の白目がはっきりとわかる距離に来た時、フサは門楼の上からラウンジの四人組に声を掛けた。

ミ,,゚Д゚彡「おーい、そこの四人組、何の用だ?」

 呼びかけに男たちは足を止めた。
 最後尾にいた男がぎくしゃくとしゃちほこばって歩を進め、他の三人の前に出た。
 その男だけは、他のラウンジ人より体格も良く、立派な格好をしていた。

 男は大声で何か言った。
 だが、フサにはその言葉の意味が分からなかった。

ミ,,゚Д゚彡「何だあれ。ラウンジ語か?」

川 ゚ -゚)「そうみたいだ。でも意味はわかんない」


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:35:43.21 ID:RiteuvSyP

 青服の一行はさらに砦に近づいた。
 先頭の男はあいかわらず何事かを門楼の上にむけて喋り続けている。

川 ゚ -゚)「使節か何かかな?」

ミ,,゚Д゚彡「そうかもな。あのカエル野郎を砦に入れてもいいと、俺達は許可すべきなんだろうな」

 フサがめんどくさそうに言って、門楼員に指示を出した。
 大扉がきしみ音を立てながらゆっくりと開いた。


 ラウンジの四人組はずかずかと砦の中に入ってきた。
 フサが彼らの前に立つと、先頭の正装をした男が大げさな身振りでお辞儀した。
 そしてラウンジ語と思われる言葉で、何事かを早口で語り始めた。

ミ,,゚Д゚彡「あの、何言ってるかわかんねえんで。ニューソク語は喋れないんですかい?」

 フサが言うと、ラウンジの男は、軽蔑したように無遠慮な視線をフサに送った。

(-@∀@)「おや、これは失礼。
      まさか国際共通語であるラウンジ語すら解さぬ人間が、門楼警備に当たっているとはねえ」

 彼は流暢なニューソク語で言った。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:38:03.12 ID:RiteuvSyP

(-@∀@)「総督はいずこにいらっしゃいますか?」

川 ゚ -゚)「総督?」

ミ,,゚Д゚彡「たぶん、ドクオ艦長のことじゃねえかな」

(-@∀@)「誰でもよろしいのですが、この植民地の最高責任者を連れてきてください」

 相手の横柄で傲慢な態度に、フサは苛立って言った。

ミ,,゚Д゚彡「失礼ですが、あんたさんはどちらさんで?」

(-@∀@)「その質問に対しては、あなたがたの総督にお返事申し上げる予定ですが?」

 相手はふんぞりかえって、言った。
 フサは黙ったまま、クーにドクオを呼んでくるよう、身振りで示した。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:40:02.31 ID:RiteuvSyP

 しばらくして、門楼下までドクオ艦長がやってきた。

(-@∀@)<あなたがこの植民地の総督ですか?>

 男がラウンジ語でドクオに話しかけた。

('A`)「なんだね、こいつは?」

 ドクオはフサに聞いた。

ミ,,゚Д゚彡「はあ、この男は…」

(-@∀@)<アザピーです。サンゴ・アザピー。この名前、ご存知でしょうな>

('A`)<…ラウンジ国の名門貴族家名としてのアザピーなら、聞きおぼえがありますが>

(-@∀@)<そうですか。よかった、あなたが話をするに足りる人物で>

 男はようやく帽子を取って、大仰すぎる動作で礼をした。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:41:59.20 ID:RiteuvSyP

(-@∀@)<それで…ええと…>

('A`)<ドクオ。ウツダ・ドクオです>

(-@∀@)<おお、あなたはニューソク貴族、ドクオ家のお方でしたか>

('A`)<ええ、まあ>

(-@∀@)<ならば、この招待状を受け取る資格も、あなたにはきっとおありでしょうな>

 男はわざともったいをつけてから、一通の封筒をドクオに差し出した。
 蝋印は百合と剣の背景、ラウンジ王家の紋章を基礎にしたものだ。

 ドクオはけげんな顔でそれを受け取り、中身を取り出し、読んだ。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:44:45.22 ID:RiteuvSyP

('A`)<ふむ…。この書面から判断しますに、つまりあなたがたラウンジ植民地では、
   我々ニューソク人をクリスマス・パーティに招きたい、と、そういうことですかな?>

(-@∀@)<さよう。わが国と貴国は、現在のところ不幸にも戦争状態にありますが、
      本来は神の下に平等、すなわち同じキリスト教国どうし、友愛の精神で接すべき隣人です。
      そこで、来るクリスマスを共に祝うことが、神の御心に適った所作ではないか、と考えます>

('A`)<なるほど>

 ドクオは書面を封筒に仕舞って、片手を背中に回し、背筋をぴんと張った。

(-@∀@)<言うまでもありませんが、パーティには正装にてお越しくださいませ。
      我が伝統と格式のラウンジ国に相応しい気高く高潔な人間のみが、
      貴族の社交場の門をくぐることを許されるでしょう。
      すなわち、このパーティは我が偉大なる総督閣下のご主催なさる、由緒正しいものなのです>

 尊大な調子でアザピーは語る。
 その態度と喋り方に、フサは隣で聞いているだけでも苛々している。

('A`)<一週間後ですな。よろしい、結構なことだ。ご招待、お受けしましょう>

 ドクオもわざともってまわった言い方をして、胸を張り、身長差のあるアザピーをみおろして、言った。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:48:25.20 ID:RiteuvSyP

 アザピーは大げさな別れの礼をして、始終ふんぞり返りながら帰っていった。
 砦の門が閉められた直後、ふう、と気が抜けたようにドクオの背筋は曲がった。

('A`)「由緒正しいクリスマス・パーティにご招待だとよ。
   ったく、なんだってラウンジのやつらは、格式だの血筋だのを煩く言いやがる…」

 手に持った招待状を弄びながら、ドクオは疲れた声で言った。

川 ゚ -゚)「パーティに招待? …それ罠じゃないの?
    あいつらドクオを呼び出して、殺そうとしてるんじゃ…」

('A`)「いや、それはないだろ」

川 ゚ -゚)「どうしてさ。戦争だったら、ドクオを殺して、うちを乗っ取るつもりかもしれないじゃん」

('A`)「本国ならそうかもしれん。だが、ここは新大陸だ。お互い本国からは遠く離れてるんだ。
   植民地の人間どうしでは、普通は、派手な戦争を避けようとするもんなんだ。
   どこの砦も、人間の頭数は貴重だ。無駄なドンパチで数を減らすようなことは、
   よほどのことがないかぎり、できればしたくないと考えてるんだ」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:52:00.31 ID:RiteuvSyP

川 ゚ -゚)「…じゃあ、なんのためにあいつら、私達をパーティになんか招待するんだろう?」

('A`)「そうだなあ…きっと…
   豪勢な趣向や料理を見せつけて、『俺達すごいだろ』って自慢したいんだろうさ。
   ラウンジ貴族のやりそうなこった。あいつらは、何にでも対抗心を燃やすんだ」

川 ゚ -゚)「ふーん。変なの」

('A`)「正装で格式ばったパーティなんざ、行っても気苦労が増えるだけなんだが、
   変に断っても関係がぎぐしゃくするしな。よそとうまくやっていくためには、しょうがないさ」

ミ,,゚Д゚彡「で、誰が行くんで?
     正装って言うけど、うちの砦にゃ、そんなにお行儀の良いやつなんざ…」

('A`)「どうもこうもねえよ。士官は全員参加だ。五、六人は行かないと、示しがつかん」

ミ,,゚Д゚彡「いっ。俺も…」

 フサは自分を指差して固まった。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:54:13.81 ID:RiteuvSyP

ミ,,゚Д゚彡「やですよそんな…何? パーチーなんて。
      固っ苦しいし、第一そんな席での振舞い方も俺、知らねえし…」

('A`)「わかってるよ。けど誰かが行かなきゃしょうがないだろ。
   今日から士官は俺と食卓を共にしろ。一週間でテーブルマナーを叩き込んでやる」

ミ,,゚Д゚彡「そ、そんな、めんどくせえ…」

('A`)「めんどくせえのは俺だよ。ったく」

 がっくりうなだれるフサを、クーは気の毒そうに眺めていた。
 そんなクーに、ドクオはじろりと目を流した。

('A`)「クー、お前もだぞ」

川 ゚ -゚)

川 ゚ -゚)

川;゚ -゚) ヤダ

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 22:58:29.56 ID:RiteuvSyP

('A`)「やだじゃない。こういうパーティに男だけで行くと、野暮だって見られるもんなんだ」

川;゚ -゚)「馬鹿言え。わ、私なんか連れて行っても役に立たんぞ。
     チビだしガリガリだし、女には見えないし」

('A`)「ガリガリ? 別にそんなことは無いぞ、お前」

川 ゚ -゚) ?

 ガリガリじゃない?

 言われてクーは、自分の左腕を上げて、まじまじと見た。
 二の腕には適度な筋肉とやわらかな脂肪が乗っていた。

 たしかに骨と皮だけだった昔とは違って、ずいぶんと人間らしい体つきになっている気がする。

ミ,,゚Д゚彡「ああおめえ、この半年ですっかりまともな体型になってきてるぜ。
     初めて会ったときとは見違えるみたいに血色も良いしなあ」

川 ゚ -゚)

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:03:14.29 ID:RiteuvSyP

 パーティまでの一週間の間、士官たちはドクオの元で「お行儀」の特訓を受けた。
 士官たち、といっても、正式な士官は嵐の夜にみんな海の底に沈んでしまっていたから、
 実際には臨時の海尉を勤めているフサとロマネスクの二人だったのだが。

 いっぽうクーは、自分の家で、ショボンからテーブルマナーの手ほどきを受けていた。
 ショボンは僧職という身分のおかげだろうか、そういったことに通じていたからだ。


 植民地内の手先の器用な者に針仕事が回された。
 水兵用の、頑丈だが無骨な衣装を解体して、五着の正装に縫い直された。
 生地の関係で、女の衣装だけはどうしても作ることができなかったので、
 クーには海兵用の正装を小さくしたものが特別に作られた。


 こうして急造の士官たちは、不平をたらたら言いながらも、
 正式な場での一通りの振舞い方だけは、なんとか身に着けていった。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:06:48.40 ID:RiteuvSyP
三.


 クリスマス当日の朝がやってきた。
 空は朝から冬らしい、どんよりとした曇り模様だった。


 ラウンジ植民地から青服に身を固めた迎えの使節が来た。
 ニューソク一行の五人は、使節に先導されて、海岸に泊められた迎えのボートに向かった。

<沿岸を船で上り、その後上陸した場所からは馬車で移動します>

 使節はそう説明した。
 この手順なら、徒歩で三日かかるラウンジ砦へも、およそ半日でたどり着くのだそうだ。

ミ,,゚Д゚彡「馬車があるのか。やっぱ、ちゃんとした植民地ってのは、うちの砦とは違うなあ」

( ФωФ)「いや植民地ってか、そもそも俺らはただの難破船の生き残りだからな」

 この日、格好だけはめかしこんでいた二人だが、
 口から飛び出るのはいつもの水兵言葉だった。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:10:27.18 ID:RiteuvSyP

 冬空は厚い雲で翳り、いまにもまた雪が降り出してきそうな天気だった。

 ニューソク一行は、沖合いに用意されていた小さなスループ船で、沿岸をき
 見渡す外洋は荒れており、沿岸を離れることは危険だった。

 お客さんとして船に乗っている間も、フサとロマネスクは水兵魂を丸出しにしていた。

ミ,,゚Д゚彡「あっ、何やってんだバカ、今の当て舵はねえだろ」

( ФωФ)「メインスルの裾がばたついてるぞ。誰だあの固縛やったの。俺達がやってやろうか?」

 ニューソク語で好き放題言う二人に、使節は苦い顔をしている。
 きょとんとした顔をしているラウンジの商船乗りたちはともかく、使節はニューソク語を解するのだろう。

 午前中いっぱいで船旅は終わり、あとは陸路だった。

 馬車に乗ってから水兵の二人はおとなしくなった。
 二頭立ての狭い馬車に、ニューソク人の五人は詰めあって座っていた。

川 ゚ -゚)「馬車って揺れるんだな。始めて乗ったんだけど…いて!」

 クーが言った。馬車は大揺れに揺れて、ラウンジ砦までの道を走っていった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:13:56.08 ID:RiteuvSyP

川 ゚ -゚)「なあドクオ、私達は大丈夫かな?」

('A`)「何が?」

川 ゚ -゚)「その…マナーとか、そういうのだ。実はまだ、よくわかってないのだが…」

('A`)「ああ…」

 ドクオはあきらめ顔で馬車の窓から外を眺めていた。

('A`)「もう無理だ。諦めろ」

ミ,,゚Д゚彡「そ、そんな」

('A`)「よく考えたら、社交界の細かい複雑なマナーやら約束ごとなんか、
   生まれ育ったときからそれにどっぷりつかっているような泥棒貴族ども以外の人間には、
   伝授することは不可能だ。おまえら、もう諦めて、好きに振舞え」

 フサとクーが天を仰いだ。

( ФωФ)「…貴族様ってのも、面倒くせえんですなあ」

('A`)「貴族なんてな、何を守るかもわかんねえカビの生えたものを守り続けてるだけだ。
   そんな世界が嫌だから俺は軍人になったってのに。なんでまたこんな、くそー…」

 ドクオはぶつくさと口の中でつぶやいた。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:14:59.92 ID:RiteuvSyP

 日暮れ頃、何気なく馬車の窓を開けたクーは、驚いた。

 馬車はいつのまにか街のような場所を走っていた。
 石造りの家が立ち並ぶ、ヨーロッパの小さな田舎都市のような風景だ。

 この未開の新大陸の地に、こんな場所があるなんて、信じられない思いだった。


 沿道の家にはどれも明かりが灯され、クリスマスの飾りがされていた。
 緑色の蔦を這わせ、きらきらした金属の飾りで覆われている。

 馬車の小さな窓から見えるラウンジ植民地は、木と土壁で作られた粗末なニューソク植民地とは違い、
 通りにはしっかりとした敷石が敷かれ、立派な街の形をつくっていた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:18:52.34 ID:RiteuvSyP

 しばらく走って馬車が止まった。ラウンジ人の召使の手により、外から戸が開けられた。
 正面には、左右に一対の豪華な燭台が飾られた、立派な屋敷への入り口がある。

 屋敷の中から陽気な騒ぎ声や、さまざまな種類の楽器の音が聞こえている。


 ドクオは馬車の中から真っ先にひらりと地面に飛び降りて、馬車のドアの前に立ち、
 クーに向かって、すっと手を差し出した。

 びっくりして固まっているクーに、ドクオは咎めるように、小声のニューソク語で話しかけた。

('A`)「早く俺の手を取れ。こういうふうにするしきたりなんだ」

 クーはぎこちなくドクオの片手を取った。掌から暖かさが伝わった。
 それから身構えると、舷側を飛び超えるときのように素早く馬車から飛び降り、両足で着地した。
 ラウンジ人の召使が眉をしかめた。

 つづいて飾り気の無い黒の僧服を着たショボンが、優雅な足取りで地面に足をつける。
 最後にフサとショボンが棒人間のようにかちかちの動きで馬車から出てきた。


 ドクオは濃紺の礼装の襟を正すと、ラウンジ人の召使に向かって、静かな声で言った。

('A`)「ニューソク砦総督、ウツダ・ドクオ。司祭ショボン。並びにニューソク人三名だ」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:21:21.78 ID:RiteuvSyP

 召使が五人を邸宅の中に案内し、クリスマス・パーティの行われている大広間に通した。
 天井には大きなシャンデリアが吊られており、たくさんのロウソクの炎が、部屋全体を明るく照らしていた。

 会場は華やいでいた。
 各テーブルに凝った彫金の燭台が置かれ、着飾った男女に金色の明かりを投げかけている。
 片隅に小編成のカルテットがいて、陽気で落ち着いた室内楽を奏でている。

 大広間にはラウンジ語が満ち溢れており、ニューソク一行にとっては外国に来たという感を味わわせるものだった。
 ことに、海兵の二人にとっては全く理解できない聞きなれない言語だったので、
 ロマネスクとフサはすっかり萎縮してしまって、かちこちに体をこわばらせていた。

 たくさんの薪が燃やされている暖炉のおかげで、冬だというのに部屋の中は人いきれで暑いくらいだった。

 部屋の中央にもみの木と大きなケーキがあった。
 何人かのメイドが人々の間を行き来して、酒やケーキを配って回っている。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:23:46.84 ID:RiteuvSyP

(-@∀@)「おお、これはドクオ殿」

 一行の姿に気づいたアザピーが声を上げ、ドクオのほうにやってきた。

 ドクオは帽子を胸に片足を引き、その場で完璧なお辞儀をした。ショボンは帽子を取って目礼した。
 フサとロマネスクはぺこぺこと頭を下げ、クーはあせり顔のままじっと盛装のアザピーを見つめていた。

 アザピーはドクオに対してだけ返礼をして、
 残りの者については、まるでそこに誰もいないかのような態度を取った。

(-@∀@)「遠いところを、ようこそラウンジ砦へ。
      ささ、まずはどうぞパーティをお楽しみください。ワイン、砂糖菓子、ケーキ、肉料理…
      このラウンジ植民地には何でもありますよ。あなたがたニューソク植民地では、
      こんなふんだんな食べ物には不足しているでしょう。存分に食べて行ってください」

 アザピーは召使を呼び、酒がたくさん載ったトレイを持ってこさせた。

(-@∀@)「何にします?」

ミ,,゚Д゚彡「俺、ラムかビールが…」

 フサの言葉をあわてて遮って、ドクオが言った。

('A`)「ボルドーが何かあれば、それを人数分。わが国ではマディラを好む習慣はありませんので」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:25:49.55 ID:RiteuvSyP

 立派なお仕着せを着た召使がニューソク人たちに酒を手渡した。
 アザピーは手を後ろで組んで、満足げにそれを見守っていた。

(-@∀@)「では、ごゆっくり。後ほど我らがラウンジ植民地総督閣下もお見えになられます。
      それまでは、しばし、ラウンジの文化の粋をご堪能下さい」

 アザピーは言って、ドクオの前を去っていった。


 ドクオはふぅと一息ついて、あらためて大広間を眺め回した。

 フロアは楽しそうにおしゃべりしている盛装した男女でいっぱいだった。
 彼らの整えられた表情や顔立ちから、みながしっかりした家柄のものであると思われた。

 壁にはラウンジ王室の旗である、青地に白い百合の染め抜かれた幟がかかっている。
 その下に懸架台があって、一本の古びた立派な馬上槍(ランス)が、誇らしげに横たえられている。

 それは、この館の主が、ラウンジ王家に使える騎士としての歴史と伝統を持つ家柄であることを、
 集まった客たちに示すものだった。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:30:07.52 ID:RiteuvSyP

 クーは熱にうかされたように、ぼんやりと大広間の光景を眺めていた。

 この華やかな世界を前に、クーの気持ちはこれまで感じたこともないほどに浮ついていた。
 目の前に広がる光景は、彼女にとって、まったくの夢の世界だったのだ。

 素敵な王子様のように立派な身なりをした男たち。
 やわらかそうな薄布で作られたドレスを身にまとい、きらびやかな宝石で飾り立てられた女たち。
 誰かが作ったおとぎ話に出てくる世界のような光景に、クーはしばし陶然として、立ち竦んでいた。


 だが、すぐにクーは我に返った。
 そんなパーティ会場に立つ「自分」の、なんと場違いなことか。

 なかには、チビで素朴な外見のクーに、もの珍しげな視線を投げかけるラウンジ人もいた。
 クーはその視線を受けて、自分の着ているものを思い、みじめな気持ちになった。

 クーは宝石のひとつも身につけていない。優雅な人々の間でどう振舞っていいかもわからない。
 大広間に詰め掛けた大人たちのだれも知らないし、言葉すらわからない。

 自分のなにもかもを恥ずかしく思えてきて、クーは顔を真っ赤にして、壁際の椅子に座り込んでしまった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:34:25.17 ID:RiteuvSyP

 どれほど時間がたったのだろう。
 まわりの気取ったような笑い声は、絶えることなく続いていた。


 椅子に座り込むクーの前に、いつのまにかドクオが立っていた。

('A`)「どうした、気分が悪くなったか?」

 一人ぼっちのところに声を掛けてくれたドクオに、クーは嬉しくて、少し笑顔を作りかけた。
 が、すぐにそれを打ち消すように下を向き、俯いた。

川 ゚ -゚)「もういやだ。帰りたい」

('A`)「なに? そういうわけにはいかん。パーティの主催者であるラウンジ総督に挨拶もなく、
   さっさと帰ってしまうわけにはいかないんだ。これは半ば、仕事…」

 周りの騒がしい声が、二人の声を聞き取りにくくする。
 みんなが楽しげであればあるほど、クーはますます気が塞いでいくようだった。

('A`)「…しょうがねえな」

 ドクオは言って、クーの手をすこし乱暴に引き、椅子から立ち上がらせた。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:37:08.34 ID:RiteuvSyP

 驚いたクーが口をきく暇もなく、ドクオはクーを大広間の中央に引っ張っていった。
 弦楽器のカルテットがロンドを奏でている。

 ドクオはクーの耳に顔を近づけると、小声で言った。

('A`)「黙って、俺の動く通りに動け。訓練と同じだ」

川 ゚ -゚)「え、えっ?」

 広間中央ではテーブルが片付けられ、数組のカップルが円舞曲に合わせて踊っていた。
 ドクオはクーの片手を取り、踊りの輪の隙間に滑り込んだ。

川 ゚ -゚)「お、おい。私は」

 ドクオが足を前に進めた。クーはとっさに反応して、自分の足を同じだけ引いた。
 そのまま続いて一連の動きが始まった。

 最初は簡単なステップだった。それをドクオは、何度も繰り返した。
 クーもそれくらいなら、見よう見まねでついていくことができた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:39:01.84 ID:RiteuvSyP

 早すぎもせず遅すぎもしない舞踏曲のテンポに合わせ、ドクオとクーは前進しては引き返し、
 手を組んだり離したりしながら、ゆっくりと人々の間で、舞った。

('A`)「こうして動いてりゃ、時間が勝手に過ぎていくさ」

 ドクオがまた小声で言った。
 彼は傍目に目立つほどの長身で、無駄の無い優美な動きで、踊りはみごとな足取りだった。


 円舞を囲む貴婦人がたがドクオを見ている。
 憧れの眼差しを送り、ひそひそと囁き交わす姿もある。

 だがクーは、床をすべるようなドクオの動きについていくのが精一杯だったから、
 周りのギャラリーに見られていることを、全く意識することができなかった。

 彼の言うとおり体を動かすと、確かに、腐っていた気持ちも少しは晴れた。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:41:22.24 ID:RiteuvSyP
四.


 大広間の窓から見える外はすっかり暗くなった。
 クリスマスパーティは終盤に入り、大いに盛り上がっていた。


 クーは踊りを終えてからもずっとドクオの隣にいた。
 彼についてまわることが、この場所で恥をかかずにすむいちばんいい方法だ、と気づいたのだ。
 食べ物のとり方と食べ方は、まるまるドクオの真似をした。
 貴婦人がたがドクオを取り囲み話しかけてきたときには、クーはずっと押し黙って、待っていた。

 ショボンはラウンジ人の男性たちと交流していた。
 僧侶という性質からだろうか、ショボンはどの話の輪に行ってもあまり違和感を与えず溶け込んでいき、
 商人や軍人といったさまざまな階層の人たちと話に花を咲かせていた。

 フサとロマネスクはあきらめていた。というか、開き直っていた。
 彼らは大量に飲んだ酒で真っ赤な顔をしていた。
 これと目をつけた婦人のところに近寄っていってはニューソク語で話しかけて、懸命に仲良くなろうとしていた。
 もちろんその試みは、ことごとく失敗に終わっていたのだが。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:44:46.87 ID:RiteuvSyP

 貴婦人に囲まれていたドクオのところに、ラウンジ人の召使が近寄り、そっと声を掛けた。

<お楽しみのところ恐縮ですが、我がラウンジ総督閣下が、貴卿にお会いになるそうです。
 お越しくださいますか?>

('A`)<わかった。案内してくれ>

 ドクオはやっと煩い貴婦人方から逃れられると思い、
 ほっとした表情で召使にラウンジ語で返事し、振り返ってクーに言った。

('A`)「クー、俺はちょっとやつらの総督に挨拶してくる。お前はもう少しパーティを楽しんでおけ」

川 ゚ -゚)「えっ」

 ドクオは召使を促して、大広間を出ようとした。
 クーはその後を追ってついてきた。

('A`)「なんでついてくるんだよ」

川 ゚ -゚)「あんなところで一人になるのはいやだ」

('A`)「ちえっ」

 ドクオは言って、廊下に向かって足を踏み出した。

('A`)「まあいいか。総督に挨拶ったって、どうせ形式的に招待のお礼を言うだけだろう。
   お前も一緒に礼を言いに来たってことにするか」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:46:25.29 ID:RiteuvSyP

 大広間のすぐ隣にある扉を開けると、その奥には静かな一室があった。
 いくつかの重厚な木製テーブルと椅子が、両サイドにずらりと並べられてあった。
 謁見の間、といったところだろうか。

 先ほどのにぎやかな大広間とはうってかわった雰囲気の、天井の高い、寒々しい部屋だった。


<閣下。ドクオ総督をお連れしました>

 召使は部屋の奥にそう声を掛けて、さがった。

 ドクオとクーの後ろでドアが閉められると、パーティの雑然とした喧騒は遮断され、
 盛り上がる人々の話し声は、この部屋ではただのくぐもった雑音となった。


 正面の一段高くなったところに玉座のような椅子があり、そこには大きな人影が腰掛けていた。

 卓上のろうそくで照らされたその姿を見て、ドクオとクーは少し面食らった。
 その人物は、ぴかぴかと銀色に光る鋼鉄のプレート・メイルを、全身に着込んでいたのだ。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:47:47.88 ID:RiteuvSyP

 鉄兜の面甲の奥から、重々しい声が響いた。

|::━◎┥<ようこそ、ニューソク総督よ。パーティは楽しんでいただけたかね?>

 戸惑いながらもドクオは前に進み出ると、大仰な動作で帽子を取り礼をして、口を開いた。

('A`)<このような立派なパーティにお招きいただき、感謝を申し上げます、総督閣下。
   私はニューソク王国海軍所属パートレム号艦長、ドクオ。ウツダ・ドクオです>

 ラウンジ総督は軽く手を上げて、ドクオの礼に答えた。

 総督は分厚いマントを羽織っていた。青色の生地に白い百合が刷り込まれたものだ。
 その下で鋼が触れ合う金属質の音がしている。

|::━◎┥<…私はアランソン。人は、歯車王などと呼ぶが、な>

('A`)<歯車王アランソン公…?
   あの、ラウンジ王位継承権を持つ、名門の?>

|::━◎┥<さよう。貴卿はラウンジの尊い血筋についての、一通りの知識があるようだな>

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:51:00.55 ID:RiteuvSyP

|::━◎┥<私はラウンジ王家より勅令を賜り、このヴィップ大陸ラウンジ植民地の統治を任されておる。
      この新大陸ヴィップでのすべてのラウンジ国の権限は、私が行使するのだ>

 歯車王は一息置いた。
 ドクオは王の言葉の続きを待った。

 重々しい声で、公は続けた。

|::━◎┥<そして、この豊穣なる新大陸の地のすべては、大ラウンジ王国の領土であるぞ>

 半ば宣言めいた口調で、総督はドクオに言った。

('A`)<…それは?>

|::━◎┥<すなわちドクオ総督よ、貴卿の海軍部隊はいま現在、わが領土を侵略しているということだ>

 ドクオの眉間に皺が寄った。

|::━◎┥<これの意味するところを理解できるかね?
      …我がラウンジ国は、わが国の領土に対するいかなる侵略であっても、
      決してこれを放置することはないだろう>

 突然の思わぬ挑戦的な言葉に、ドクオは驚いていた。

 会見の場に緊迫感が増していた。
 言葉は分からないクーでも、にらみ合いの雰囲気は、それとわかった。


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/13(土) 23:53:40.06 ID:RiteuvSyP

('A`)<待って下さい、アランソン公。我々は船が嵐に遭い難破したので、この地に避難しているだけです。
    決して、侵略の意図は――>

|::━◎┥<直ちに、この地より去れ>

 有無を言わせぬ厳しい調子で、公は言った。

|::━◎┥<ラウンジの領土を侵した罪の重さを、貴卿は本当に理解しているのか?
      我々は必要とあらば、いつでも軍を用意する。これだけの壮麗な都市を作りパーティを開く力を持つ我々が、
      その力を軍事力に振り向ければ、一体どのくらい精強なる兵が作れるか。お解りだろう?>

 ドクオは黙った。返す言葉を捜して、彼は必死に頭を働かせた。

|::━◎┥<だが私は、諸君にキリストの慈悲を与えようと思う。
      君たちが現在保有するすべての食料と資材を我々に譲渡するなら、命だけは助けてやろう。
      よくよく考えることだ。命も物資もすべてを失うか、それとも命だけは保障されてこの地から去るか>

 ここに至って、ドクオは言葉を返すことを諦めた。
 歯車王の言葉は冷徹で、有無を言わせぬ調子があった。
 はじめから「交渉」をするつもりは全く無かったのだろう。

 冷たい汗がドクオの額に浮かんだ。
 対照的に、歯車王の表情は、銀色の冷たい鋼鉄の兜に隠されて、一切が隠され、分からなかった。




第十話 ここまで―――

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