1 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 21:40:05.00 ID:tU5te/DG0



 女といっても、その頃、私は14歳くらいだったと思う。
 黒髪と黒い瞳。
 そんな私の風貌は、金髪ばかりのこの国の中では、さぞかし目立っていただろうと思う。

 自分がどういう経緯でこの店に来たのか、私は知らない。
 物心ついた時から私は店で働いていた。

 おおかた金に困ったロクデナシの親に売られでもしたのだろう。
 この、売春宿に。
5 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 21:43:22.77 ID:tU5te/DG0

 娘を売春宿に売るなんて、とんでもない背徳行為だ。
 と、教会で説教をしている神父さんなら言うだろう。

 でも、そういうことをしそうな者は、この町にいくらでもいる。


 いや、むしろこの狭くごみごみした港町には、
 そういうことをしそうなやつらしかいないと言っても言いすぎじゃない。


 大航海時代と呼ばれるこの時代。
 しょっちゅう海の上で戦争が起こって、船乗りたちはバカみたいにお酒ばっかり飲んで、
 港という港が、明日をも知れぬ、粗暴で自暴自棄な水兵たちで埋まっていた時代。

 私みたいな境遇の子供は、国中どこに言ってもごろごろしていたに違いない。



6 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 21:46:46.58 ID:tU5te/DG0
一.

 ごみだらけの騒がしい歓楽街。
 月が夜空に高く上る時間になっても、人通りが絶えることはない。

 その日もまた、いつものとおりの夜がやってきた。


 テーブルを拭いていた私に汚い雑巾が投げつけられてきた。
 私は自分の顔に張り付いた雑巾を剥がして、すぐ隣に立つ、雑巾の主の顔を見上げた。

爪'ー`)「いつまでテーブル拭きに時間かけてんだい。
     早くしな、蝙蝠」

 バカにしきったような口調で、皺だらけのでっぷり太った中年女が、私に話しかけてくる。

 この売春宿の雇われ女主人であるフォックス。
 いわゆる「遣手ババア」だ。

9 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 21:50:03.23 ID:tU5te/DG0

川 ゚ -゚)(…ヒマだから、私を虐めに来たんだな)

 私はそう思った。
 いつものことだった。

爪'ー`)「なんだいその目は。気に入らないね」

 気に入らないという言葉とは裏腹に、フォックスの口角が、にまあ、と上がる。

川 ゚ -゚)(今日はどうやってこのメスガキをいたぶってやろうか。
     なんて、考えてるんだろうな…)


爪'ー`)「あいかわらず無表情なやつだね、気味が悪い…。
     おい蝙蝠! 黙ってないでなんとか言え!
     お前がそこにいるだけでうちの店が陰気臭くなるんだよ、この疫病神!」

 フォックスはそう叫んで、私のわき腹をおもいきり蹴った。
 痩せこけた私の体は簡単に宙を舞い、何脚かの椅子を倒し、そのまま床に倒れこむ。


10 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 21:53:24.00 ID:tU5te/DG0

爪'ー`)「お前のその墨みたいに黒い髪… 穴ぼこみたいな黒い瞳…
     おまけに氷みたいに冷たく張り付いて動かないその表情…」

 倒れこむ私の傍にフォックスはしゃがみこみ、私の髪を鷲づかみにして、顔をぐいっと上げさせた。
 
爪'ー`)「ちったあ陰気なお前の周りで働く私らの身にもなってみろよ! ええ?
     まったく、お前は笑えないのかい? どこか怪我でもして笑えなくなっちまったのかい?
     ちがうだろ! ただ笑うのを怠けてるだけだろ!! ほら、笑ってみろ!」

 自分の顔を私の鼻先に寄せ、たくさんの唾を飛ばしながら、フォックスは怒鳴り続ける。


 仕方なく私は頬骨を持ち上げて、笑い顔をつくろうとやってみた。
 とたんにフォックスの拳が私の左頬に飛んだ。

爪'ー`)「なんだその顔は!! あたしを馬鹿にしてるのか?!
     汚いボロを纏った、臭い孤児のお前を、お情けで雇ってやっている私を馬鹿にするのかい!
     ふざけんじゃねえよ!」

 フォックスの拳が音を立てて、二、三度私の頬を往復した。
12 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 21:57:48.03 ID:tU5te/DG0

 店の中には客待ち中の売春婦が何人かいたが、みなフォックスと私のほうからはわざと視線を逸らして、
 何も見ないように、係わり合いを持たないように、とがんばっている。


 売春婦たちは雑談もやめて黙り込んでいる。
 狭く薄暗い店内にはフォックスの金切り声と肉を打つ音だけが聞こえている。

川 ゚ -゚)(こんなときは、誰も私を助けてはくれないんだな)

 クーはいつも、どんなときでも、冷静で客観的だった。
 フォックスにしたたかに殴られ続けながらも、クーの頭は冷静に働いている。

 クーとフォックスは普段から犬猿の仲…というよりフォックスはクーを完全な虐めの対象としているのだが、
 この店に所属する売春婦たちは、下女であるクーに対しても比較的暖かな態度で接してくれる。

 だが、立場の弱い売春婦達は、上司であるフォックスに逆らうことなど、絶対にできない。
 だから彼女達がクーに対し優しい言葉で話しかけてくるのは、フォックスの目の届かないところでだけだった。


川 ゚ -゚)(弱い者どうしの連帯など、真に強い敵を前にしたときには、虚しいものだ。
     つまり「全員で束になっても敵わない」というやつだな)

 フォックスのねちねちとした陰湿ないじめは、時折の暴力を伴いながら、
 執拗に間断なくクーの肉体と精神をいたぶり続ける。


13 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:00:20.53 ID:tU5te/DG0

 『赤薔薇亭』のドアがあいて、一人の男が入ってきた。

爪'ー`)「いらっしゃい。一人?」

 フォックスが、つかんでいたクーの胸倉をぱっと離し、入ってきた客に愛想よく声を掛けた。
 宙吊りの状態から突然手を離されたため、クーは木張りの床にしたたかに体を打ち付けた。


 酔っ払っているらしい客の男とフォックスとの会話が聞こえる。

 たてつけの悪い入り口ドアからは表通りの喧騒が漏れ聞こえてくる。
 もうすっかり夜も更けているというのに、通りには街灯があかあかと灯っていた。

 クーは口元の血を拭い、よろよろと立ち上がった。


14 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:02:06.57 ID:tU5te/DG0

爪'ー`)「ハインちゃん、ご指名〜!」

 客の「相手」をする売春婦が決まったようだ。

 クーはフォックスの声を聞くやいなや、その場を離れ、カウンターの裏に回り、厨房へと向かう。
 客に出す料理と酒を用意するためだ。

 クーが急いでその場を離れた理由は二つあった。
 一つは、少しでも料理が遅れれば、それをネタにフォックスはまたクーを虐めるであろうから。
 もう一つは、一刻も早くフォックスの傍を離れないと、
 客が「二階」に上がってから、ふたたびフォックスによる虐めが再開されるだろうから。
16 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:06:00.99 ID:tU5te/DG0

 クーは厨房に作り置かれた胡瓜や魚の料理を手早く皿に盛り、酒を小さな壷に満たして、
 それらを盆の上に並べて、厨房を駆け出た。

 ぐずぐずしてたら、いつまたフォックスが厨房にやってくるかわからない。
 この『赤薔薇亭』には、どこにもクーの安心できる居場所なんてないのだ。


 盆を両手に持ち、狭い階段を駆け上がる。

 二階廊下の床板をきしませて、クーは真っ暗な中を歩く。

 ハインの部屋の入り口ドアは開け放たれていた。
 オレンジ色の明かりが漏れてくるその部屋に、クーはひとつせきばらいをして、入っていった。

19 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:09:18.41 ID:tU5te/DG0

 ハインの部屋。
 壁紙も何も無く、ただ安物の木のベッドと、鏡台と、長椅子。
 この売春宿の「仕事」に必要な設備が整っただけの、それは小部屋だった。


ミ,,゚Д゚彡「まったく。海軍の船乗りにだけは、なりたくなかったんだがな」

 男が大きな声でハインと話していた。
 がさつで下卑た声。

川 ゚ -゚)(…始めて見る客だな)

 クーはベッドに腰掛ける男のほうを見た。
 赤銅色に焼けた肌、筋肉の盛り上がった太い腕。

 男は、どこからどう見ても海兵そのものだった。
 見覚えが無いところをみると、新しく入港した船の乗組員ででもあるのだろう。
22 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:13:56.63 ID:tU5te/DG0

 クーは部屋に入り、捧げ持った料理の盆を、ベッド脇の小さなテーブルに置いた。

从 ゚∀从「はいはい。ご苦労さん、クー」

 男の隣に座っていたハインが手を伸ばし、クーの頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。

ミ,,゚Д゚彡「ん、何だそのガキ。珍しいな、黒髪か」

从 ゚∀从「ああ、こいつはこの店の下女なんだがね」

ミ,,゚Д゚彡「ふうん…」

 男は真っ赤に日焼けした顔をクーに向け、無遠慮な視線を投げかけてくる。
 無教養の人間がよくやるように、口を半開きにあけながら、クーの全身を嘗めるように眺め回す。

ミ,,゚Д゚彡「蝙蝠みてえに真っ黒だな。目も、髪も」

从 ゚∀从「綺麗な色だろ。黒髪ってさ」

ミ,,゚Д゚彡「それはいいが、骨と皮ばりに痩せてるなあ、こいつ。
      そんな様子じゃあ客はつかねえぞ」

从 ゚∀从「いいんだ。こいつは遊女じゃない。雑用に使ってる下女だ。客はとらせねえんだ。
      それに、こんなのを買う物好きもいないだろ」

 ハインはそう言ってクーの頭をぽんぽんと叩いた。


23 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:18:44.66 ID:tU5te/DG0

 ハインは男の腕にしなだれかかり、声に艶を作って、言った。

从 ゚∀从「ねえあんた、可哀想に思うんなら、こいつに何か食べ物を恵んでやりなよ。
      こいつは普段からろくに食わせてもらってないんだ」

 男は視線をクーのほうに向けたままで、ハインの肩に手を回した。

ミ,,゚Д゚彡「ああ、ああ、いいとも」

 男は気のなさそうにそう言って、料理の皿から焼いた魚をつまみあげると
 大きな口をあけて、魚の頭のほうからかぶりとかぶりついた。

 そのまま骨を噛み砕く音をばりばりと立てながら、尻尾に向かってどんどん食べ進む。


从 ゚∀从「…ねえ、あんたってば」

ミ,,゚Д゚彡「ん? おお、あとでたっぷりと恵んでやるさ。もぐもぐ」

从 ゚∀从「もう。胡瓜くらいはやってもいいだろ?」

 男はハインの言葉が聞こえているのかいないのか、大きな音を立てて魚を噛み続けている。
 ハインは、皿から漬物のようにしなびた胡瓜をつまんで、クーのほうに投げてよこした。

从 ゚∀从「食べなよ、クー」

 クーはその胡瓜を空中でキャッチすると、がっつくようにそれを口に運んだ。
25 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:23:02.97 ID:tU5te/DG0

 去年の冬の始まり頃から、このハインと言う売春婦の部屋に、クーは居候していた。
 一回りほども年が離れているハインは、売春婦たちの中でも、とくにクーに優しくしてくれる一人なのだ。


 去年の十一月だっただろうか。クーは昔を思い返す。

 いつものように営業が終わった売春宿から蹴り出されたクー。
 路地裏に雪のかからない場所を見つけ、ぼろきれのようになった外套にくるまって、小さくなって眠っていた。

 いっぽう、深夜、「仕事」を終えて自分の部屋の窓から顔を出したハイン。
 路地の壁にもたれるように座っていたクーの姿を、偶然にも目にしたのだ。

从 ゚∀从「…おい、何してんだ、蝙蝠」

 寒くて眠ることもできずに、歯を打ち鳴らして路地にうずくまっていたクーに、
 ハインは二階から声を掛けた。

从 ゚∀从「店の裏路地なんかでお前…。もしかして、行くところが無いのか?」

 こくこく、とクーは窓を見上げ、頷いた。


26 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:24:43.01 ID:tU5te/DG0

 以来、クーはこの売春宿の二階にあるハインの部屋に居候している。

 ハインに限らず、売春婦たちはみな、クーには比較的優しくしてくれる。

 最底辺の職業…という境遇が似ているからだろうか。
 それとも、最底辺の彼女たちは、自分たちよりさらに底辺の境遇にあるクーを哀れむことによって、
 少しばかりの優越感を覚えたいのだろうか。

川 ゚ -゚)(うん。
     弱い者は、自分よりさらに弱い者に対してしか、優しくはなれないのだ)

 クーはハインに投げてもらった胡瓜をかじりながら、そんなふうに考えていた。


27 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:26:50.45 ID:tU5te/DG0

ミ,,゚Д゚彡「なんだ胡瓜なんかにがっつきやがって。ったくよお。
      ほれ、食えよ」

 男はテーブルの上の料理を、一皿丸ごとクーに突き出してきた。

川;゚ -゚)(…え?)

 クーはめんくらって男の顔を見る。

ミ,,゚Д゚彡「ほれ、食え食え」

 男はにっこりと満面の笑顔だった。
 赤く潮に焼けた髭面には、屈託のない、少年のような笑顔が浮かんでいた。

从 ゚∀从「あら、優しい人だね。この店は始めてなんだろ?」

ミ,,゚Д゚彡「ああ。俺の船はつい先週に入港したばかりだからな」

从 ゚∀从「そう。馴染みの女でもない下女に食い物をやるなんて、やっぱりあんた、いい男だよ」

29 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:29:13.79 ID:tU5te/DG0

 男はハインと会話しながらも、目はじっとクーのほうに向けられていた。
 ハインはそれに気づき、少しむっとしたような声で、男に話しかける。

从 ゚∀从「…どうしたのさ?」

ミ,,゚Д゚彡「気に入った!」

 男はクーを抱き寄せた。
 料理の皿に夢中になっていたクーは、突然体を抱きかかえ持ち上げられ、
 びっくりして小さく声を上げる。

从 ゚∀从「気に入った…って…。
      あんたまさか、そんなガキを…」

ミ,,゚Д゚彡「たまにゃ変わった女も抱いてみたいのさ。船の連中へのいい土産話にならあ。
      それにおれは、女は若ければ若いほどいいって主義でね」

从 ゚∀从「ばかおっしゃい、そんな蝙蝠みたいな子供を。やめときなさいよ」

ミ,,゚Д゚彡「金は払うよ。それでいいんだろ?」

31 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:33:37.43 ID:tU5te/DG0

从 ゚∀从「ふん、この田舎者。『水揚げ』するのにはいくらお金がかかると思ってるのよ」

ミ,,゚Д゚彡「は? 『水揚げ』…?」

从 ゚∀从「つまりね、そいつはまだ生娘だってわけ。
      生娘を買おうと思ったら、あんたみたいな下っ端船員なんかにゃ、
      逆立ちしたってとうてい払えないようなでっかい金がいるんだよ」

ミ,,゚Д゚彡「…ちぇっ」

 男はクーの体を離して、床に放り出した。

从 ゚∀从「ざーんねんだったね、ロリコンさん」

 そういってハインは、男の後ろから両手を回し、肩に抱きつく。
 そして男に見えないようにわずかに手を動かして、クーに「さっさと部屋を出ろ」と合図を送ってきた。


32 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:35:30.12 ID:tU5te/DG0

 クーは口いっぱいに食べ物をつめたまま、いそいで部屋を出て、ドアを閉めた。

 ばたん。
 建て付けの悪い扉が、大きな音を立てて閉まる。

 これでこの部屋は「使用中」となる。
 つまりハインの「仕事」が始まるのだ。


33 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:37:22.50 ID:tU5te/DG0

 廊下の暗闇の中で、クーは握り締めていた左拳を開いた。
 三枚の銅貨がちゃらりと音を立てる。

 男に抱き寄せられたとき、とっさに男の懐から盗んだ銅貨だった。


川 ゚ -゚)(…銅貨三枚か。しけてるなあ)

 クーはもう一度掌の上の銅貨を眺めた。


 ハインの部屋から物音が聞こえる。
 男が何事か囁いている声が、薄い戸板越しに漏れ聞こえてくる。

 ハインのベッドと床のきしむ音が聞こえる。


 クーは再び左手を握りこむと、向きを変えて、ハインの部屋の前を離れ、
 素早い足取りで真っ暗な階段を駆け下りていった。


34 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:42:07.89 ID:tU5te/DG0
ニ.


 一階は真っ暗だった。
 待機していたすべての売春婦に客がついたので、油代の節約のために、すべてのランプを消してしまったのだろう。

川 ゚ -゚)(「満室」の日は、いつもこうだ)

 ドケチなフォックスのやりそうなことだった。


 クーは赤薔薇亭の裏口から外に飛び出した。

 この時間、いつもならクーはもう寝ている時間だった。
 でも今夜はハインの「仕事」が始まってしまっているから、彼女の部屋で眠ることができない。

 それで、「仕事」が終わるまでの数時間のあいだ、
 クーは街に出て時間をつぶし、盗んだ銅貨で食べ物を買いに行くことにしたのだ。
38 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:45:25.60 ID:tU5te/DG0

 食べ物のことを考えたら、ぐうと一つ、おなかが鳴った。


 クーはいつもおなかが空いていた。
 女主人フォックスは、クーに給金をまともに支払ったことなど、一度もない。

 クーがフォックスから貰うことができるものといえは、
 客の余り物を大鍋で煮込み、わずかに塩味をつけただけの、毎日の薄いスープだけ。

 だから、クーはいつもおなかが空いていた。

40 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:47:11.97 ID:tU5te/DG0

 夜の街はごったがえしていた。
 船員や外国人が多くいるこの港町では、退廃的で享楽的な雰囲気が強いため、
 夜の街も昼と同じように、いや、むしろそれ以上に栄えているのが常だった。

 夜遅い時間だというのに通りの居酒屋からは相変わらず騒がしい声が聞こえていて、
 通りにはごみが散乱し、酔っ払いが大声で歌いながら、道幅いっぱいにふらふらと歩いている。

 体格の大きな水兵や派手ないでたちの女たちの横――というより下を、クーは小走りにすり抜けていった。
42 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:49:32.72 ID:tU5te/DG0

 クーは夜が好きだった。
 だって、クーの顔に絶えることなく付けられる痛々しい痣や生傷も、
 夜の闇の中では目立たなくなるんだから。

川 ゚ -゚)(ふむ、日陰者が夜を好むのは、自分のことを醜いと思っているからなんだな。
     つまり、醜い自分の姿を人目に晒すのが、恥ずかしいんだ)

 なによりクーは自分が嫌いだ。
 殴られて痣だらけの醜い顔と、伸び放題の不潔な髪、といった外見的なことはもとより、
 売春宿の下女というみじめな境遇にいる、身寄りもない孤児、といった内面的な地位も、
 クーの自尊心を破壊し、コンプレックスをなおさら増悪させる原因になっていた。

 やせ細った小さな体。
 わずかな街灯の明かりがクーを容赦なく照らし出し、石畳の上にひょろりとした影を映す。

 クーはすれ違う人々の目から逃れるようにして、ただ、駆けた。
44 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:52:22.60 ID:tU5te/DG0

 通りの端の安酒場の前に、一見して不良少年とわかる、少年たちの一団があった。
 五人ほどが、街路に寝そべったり、座り込んだりしている。

 ニメートルほどの道幅いっぱいに、少年たちは思い思いの格好で広がっていた。


 道を塞がれたような格好になっていたので、
 クーは少年たちの手前で立ち止まった。

 それが、いけなかった。


 少年たちはいっせいに顔をクーのほうに向けた。
 一回り体の大きなリーダー格の少年が、のっそりと壁際から立ち上がった。
47 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:55:36.26 ID:tU5te/DG0

 クーも少年たちを見た。

 十歳くらいだろうか。みんな小汚い格好をしている。
 クーも少女といっていい年齢だったが、少年たちは、それよりももっともっと子供だった。
 背も小柄なクーよりさらに一回りは小さい。

 少年たちはにやにやして一人、また一人と立ち上がり、
 いつのまにかクーの周りを囲むようにして、五人が立っていた。


 ひさしぶりに声を出すので、クーはいくつか咳払いをして、それから喋った。

川 ゚ -゚)「…あー」

 がらがらとした、しわがれた声が出た。

川 ゚ -゚)「君たち、どいてくれないか。私はそこを通るんだ」


 リーダー格の少年が、クーを睨みつけて胸をそらしながら、ゆっくりと腕を組んだ。
 ひょろりと背の高い少年が、その長い腕を建物の壁について、道を塞いだ。

52 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 22:57:24.19 ID:tU5te/DG0

「そう急ぐなよ、おジョーサマ。ひひひ…」

 少年らしい甲高い声で、だれかが言った。

「へへへ…。ここを通るためには、通行料を支払う必要があってねえ…」

 リーダー格の少年がにやにやと笑いながら言う。


 太った少年がじりじりと足を動かしてクーの背後に回りこんでいる。
 少年たちはクーを囲う輪を、だんだんと狭めてくる。


 クーはもう一度咳払いをした。

川 ゚ -゚)「…あー、その。私はトラブルを望まないのだが…」

 少年たちは面白い話でも聞いたかのようににっと笑い、互いに顔を見合わせた。

54 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:00:17.39 ID:tU5te/DG0

「あ? 逆らおうっての? 生意気だよおばさん?」

 ひょろ長い少年が、言いながら、クーの顔を下から覗き込んできた。

「こいつ、通行料を踏み倒すつもりらしいぜ。まったくよお。
 ここまで舐められたんじゃあ、俺達としても、しょうがねえよなあ」

 リーダー格の少年が片刃の短刀を懐から取り出す。

 それが合図になった。

 少年たちは思い思いの武器を手に取った。
 赤くさび付いた肉斬り包丁、銅製の細長い短剣、看板の切れ端と思われる角材など。

「自分から支払わないなら、無理矢理にでも取るしかないよなあ…」

 ひひひひ、と含み笑いを漏らして、少年たちはじりじりとクーのほうに迫ってくる。

「ああ… ついでに手間賃もちょいと頂くことになるかもなあ…」

 クーの腰のあたりに視線を送りながら、リーダー格の少年は下卑た笑みを浮かべる。

56 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:03:17.43 ID:tU5te/DG0

 クーはひとつため息をついた。

川 ゚ -゚)「警告は、したぞ」

「あ? 何を言って……」

 言い終わらないうちに、リーダー格の少年の袖口を、何かが切り裂いた。
 少年の持っていた短刀が、乾いた音を立てて、街路の石畳の上に落ちた。

 ぷしゃっ、と音を立てて、その上に鮮血が降り注いだ。

「あ………?」


 振り上げたクーの右手には、銀色に輝く細身の刃物が握られている。
 少年は勢いよく真っ赤な血を噴き出す自分の手首を見て、
 白痴のように口をぽっかりと開けていた。


57 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:04:59.83 ID:tU5te/DG0

「てめえ!!!」

 角材を持った別の少年がクーに打ちかかってきた。
 棒の長さを生かして、円を描き、思い切り振りかぶってクーに打ち下ろす。

 だが、棒はただ虚しく宙を切っただけだった。
 さっきまで立っていたはずの場所に、既にクーはいなかった。

 少年たちはあわててきょろきょろとあたりを見渡した。
 いない。どこにもいない。

 はっ、と一人の少年が気づき、上を見上げた時には、既に遅かった。
 空から降ってきたクーは、手にした刃物を一閃させ、上を見上げた少年の顔面を切りつける。

 額から唇にかけての皮膚がぱっかりと割れ、血が噴き出した。

 クーはそのまま少年の体に両足で着地し、思い切り頭部を蹴飛ばす。
 跳ね返るように石畳に倒れた少年は、後頭部を地面にぶつけて、白眼を剥いて伸びてしまった。


58 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:06:58.09 ID:tU5te/DG0

 手首を斬られたリーダー格の少年が、ようやくわが身に何が起こったかに気づき、
 叫び声を上げた。

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ」

 つんざくような大声を上げて少年は泣き叫ぶ。
 顔をくしゃくしゃにして、涙と鼻水を溢れさせ、血を噴き出す自分の手首を、ただ、眺めている。

 あまりに大きな泣き声が間近で突然湧き上がったので、そばに立っていたクーは思わず眉をしかめた。

川 ゚ -゚)「うるさい」

 クーは手に持った刃物を横一文字に切りつけ、少年の喉を勢いよく掻き切った。
 手首とは比べ物にならない量の鮮血が瞬時に噴出して、少年はごぼり、と喉から音を出して、倒れた。
63 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:09:05.10 ID:tU5te/DG0

 少年たちは一気に青ざめた。

「あ、あ、あ……」

 クーは黙って刃物を構えなおし、残る三人の少年と向き直った。

 大量に浴びた返り血がクーの顔半分を覆っている。
 それが、街路の明かりを受けて、てらてらと光っている。


川 ゚ -゚)「まだ、やるか?」

 押し殺したがらがら声でクーは言った。

 背の高い少年はがたがたと振るえ、股間を濡らし、失禁した。
 短剣を持った少年は腰が抜けて、うすら笑いを浮かべたまま、その場にぺたんと座り込んだ。
 角材を持っていた少年は、恐怖に頬を引きつらせ、獲物を捨てて、じりじりと後ろ向きに後ずさって行った。
66 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:11:20.65 ID:tU5te/DG0

 逃げようと後ずさりしていた少年の背中に、誰かがぶつかった。
 少年はびっくりして後ろを振り向く。

 闇の中に一人の男が立っている。


 クーはふたたびナイフを身構えて、男の顔を見る。
 がっしりとした体つきはしているが、大人――とは言えない。

 年のころは16、7歳だろうか。

(,,゚Д゚)「…おう、お前ら、どうした」

「あっギコさん!!」

 三人の少年たちの顔がぱあっと明るくなる。
 何事かを口々に叫びながら、不良少年たちは、ギコと呼ばれた男の周りにわっと集まっていく。

「ギコさん!」
「ここここ、このアマが…、ジョニーのアニキを…!」
「助けてくださいギコさん!!」
69 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:13:11.92 ID:tU5te/DG0

(,,゚Д゚)「ふうん……」

 ギコは、街路に横たわりびくんびくんと痙攣している、喉を切られた少年の姿を眺めている。
 そしてクーのほうを一瞥すると、

(,,゚Д゚)「お前ら…こいつがクーだと、知っててケンカを売ったのか?」

 ギコはまっすぐにクーを指差して、少年たちに言った。

「えっ!」
「そ、それじゃ、こいつがあの、噂の、蝙蝠…」

 「蝙蝠」と言いかけた少年の肩口に銀色の筋が突き刺さる。
 クーが手に持っていたナイフを投げたのだ。

 夜の街に、またひとつ金属的な悲鳴が響き渡った。

71 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:14:53.10 ID:tU5te/DG0

川 ゚ -゚)「…私のことをその名前で呼ぶなと言ったはずだぞ、ギコ」

(,,゚Д゚)「は? 俺が呼んだんじゃねえよ」

 クーは自分の袖口に手をやり、新たなナイフを取り出して、構える。

(,,゚Д゚)「おっとっと! すまんすまん、お前と争う気はないんだ。
    どうだ、いいかげんに売春宿の下女なんかやめて、俺達のグループに入らないか?
    お前なら最初から幹部待遇…」
74 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:16:24.97 ID:tU5te/DG0

川 ゚ -゚)「断る。子供のギャング遊びに付き合う気はない」

(,,゚Д゚)「だって、お前ほどの腕を持ちながら、どうしてくだらない表の仕事を…」

川 ゚ -゚)「私は、おまえらが気に入らないんだ。
     裏切りばかりの汚いガキどもの組織がな」

 クーはそれだけ言って、足を前に出し、ギコに向かって歩き始める。
 さっ、と少年たちはギコの周りを離れ、ギコは身を硬くした。


 通り過ぎざま、クーはぼそりと呟いた。

川 ゚ -゚)「そんな組織に、私の居場所など、あるものか」


 そのまま二人はすれ違った。

 こつ、こつ、こつ。
 ギコの背中から、石畳を歩くクーの足音が聞こえてくる。

 脇腹を冷たいものが流れている。
 ギコは振り返ることができず、ただ、クーが歩み去る足音だけを背中に聞いていた。


75 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:18:02.31 ID:tU5te/DG0



 路上に横たわった少年は、もう動かなくなっていた。

「ち、ちくしょう、蝙蝠の野郎…!」
「ジョニーさんを、こんな…!!」

 少年たちが拳を握り締めて口々に呪いの言葉を吐く。
 顔面を切られた少年は、いつのまにか気絶から覚めてどこかに走り去ってしまっていたようで、
 既にここにはいなかった。

(,,゚Д゚)「まあ相手が悪かったな。蝙蝠にケンカを売るとはなあ…」

「蝙蝠蝙蝠って…。ギコさん! あいつは一体何者なんですか!」

(,,゚Д゚)「孤児さ。ただの」

「…えっ?」
「ただの孤児があんなに強いわけ…」

(,,゚Д゚)「あいつは物心ついた時から、ずっとこの街で孤児として生きてきた。
    この街で一人っきりで生きるってことは、そして、あの年まで生き延びてきたってことは、
    つまりは無茶苦茶に強くなるってわけだ。わかるな」


76 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:18:44.18 ID:tU5te/DG0

 周りが騒がしくなってきた。
 ケンカ騒ぎなど日常茶飯事であるこの港町でも、ここまでの派手な流血沙汰となるとさすがに珍しい。

 通行人や沿道の住民たちが野次馬として続々と集まり始めていた。

(,,゚Д゚)「…おい、おまえら、面倒なことになっちゃあいけねえ。
    ひとまずこの場を離れるぞ」

 ギコは言って、集まってくる人の流れとは逆のほうに歩き始める。

「あっ、まってくださいよギコさん!」

 少年たちがその後を小走りに着いていく。
78 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:22:00.21 ID:tU5te/DG0
三.


 人波に逆らい歩くギコたち。
 しばらく歩くうち、一本の毛むくじゃらの太い腕が、ギコの肩を捕まえた。

 ギコは怪訝そうに振り返る。


「よう…なつかしいねえ、ギコじゃあねえか」

 野太い声が上から降り注ぐ。


(,,゚Д゚)「…あっ! フサのアニキ! フサさんじゃあないですか!」

ミ,,゚Д゚彡「覚えていてくれたかい」


79 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:23:45.97 ID:tU5te/DG0

「ギコさん、誰ですか、この人は」

 少年の一人が後ろからギコに耳打ちした。

(,,゚Д゚)「おお、お前ら新入りは知らねえわな。
    この人はフサってお方だ。俺達のチームの大先輩だぜ」

「あ、チームの先輩っしたか、サーセン」
「で、いまはどこのヤクザの組にいてらっしゃるんで…」

(,,゚Д゚)「えーと、先輩はたしか海軍に入ったんすよね」

ミ,,゚Д゚彡「ああ。海軍なら食いっぱぐれが無いって聞いたからな」

「すげえ…軍隊っすか、かっこいいっすね」
「立派な軍艦とかに乗ってるんすよね」

ミ,,゚Д゚彡「あ、ああ…まあな…」

 フサは口をもごもごさせる。


80 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:25:31.73 ID:tU5te/DG0

ミ,,゚Д゚彡「そ、それよりお前らどうした、服に血がついてるぞ」

「あ、これは」

ミ,,゚Д゚彡「ケンカか。誰にやられたんだ」

(,,゚Д゚)「蝙蝠の野郎っす。えーと、先輩は「蝙蝠」を知ってましたっけ?」

ミ,,゚Д゚彡「蝙蝠?」

(,,゚Д゚)「あ、ご存知無いっすよね。
    たしかあいつの名が売れ始めたのは先輩が引退した後…」

ミ,,゚Д゚彡「いや、蝙蝠って名前、どこかで…」

 フサは腕組みをして考え込む。


 さっきの売春宿での出来事…
 ハインの部屋で、雑用をしていた、黒髪のガキ…
 ハインがあのガキを呼ぶとき、たしか…


ミ,,゚Д゚彡「…ひょっとして、その蝙蝠ってやつ、クーって名前じゃないか?」

82 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:27:39.99 ID:tU5te/DG0

(,,゚Д゚)「あっ! ご存知なんですか! さすがフサ先輩だ!」

ミ,,゚Д゚彡「ああまあ、ちょっとな…。
      そうか、あいつにやられたのか…」

 フサは腕組みをしたまま、ハインの部屋で見たクーのことを思い出す。
 やせ細って背は小さくて、到底強そうには見えなかったものだが…

 フサはひとつ鼻をならして、かぶりを振った。

ミ,,゚Д゚彡「なさけねえ。実になさけねえな、お前ら。あんなガキにやられたのか。
      いいか、やられっぱなしにしとくんじゃねえぞ。この世界は舐められたらおしまいなんだ。
      しっかり人数を集めて、後でちゃんとお礼参りをしとけよ!」

「えっ、その…」
「し、しかし…」

 少年たちは煮え切らない態度をとる。

(,;゚Д゚)「か、カンベンしてくださいよ先輩。蝙蝠のやつ、あれで無茶苦茶に強いんすよ。
     あの細身でびゅんびゅん街中を飛び回って、刃物で容赦なく相手を殺しちまうような人間なんですよ、あいつは」

 ギコの言葉に、少年たちがぶんぶんと頭を縦に振って、せわしなく頷く。

84 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:31:18.66 ID:tU5te/DG0
   _ (m) _
      |ミ|
   /  .`´  \
     ∧_∧
    <`∀´ ∩
    (つ  丿
    <__ ノ
      レ
「そ、そうだ! フサ先輩も復讐を手伝ってくださいよ!
 うちのチームのOBなんっしょ?」

 少年の一人がフサに向かって言った。

(;,゚Д゚)「お、おいバカ、気安くフサ先輩に話しかけ…」

 ギコは制止しようとしたが、もう一人の少年もフサのほうに身を乗り出して、言った。

「お願いします! あの蝙蝠の野郎はジョニーのアニキの仇なんです!
 あいつをぶっ殺さないと俺達のメンツは丸潰れなんすよ!!」

(,,゚Д゚)「バ、バカおまえら… フサ先輩、失礼なことしてすんません!
     こいつら新入りなもんで、あ、あとでよく教育しときますんで!!」

 ギコは言って、少年たちの襟首を掴んでぐいっと引っ張り、路上に引き倒した。

 フサは腕組みをしたまま、無表情に黙って、立っていた。


85 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:33:06.39 ID:tU5te/DG0

ミ,,゚Д゚彡「…そうか、それもいいな」

 フサはにんまりと笑った。

(,,゚Д゚)「え、…え?」


ミ,,゚Д゚彡「俺はな、ギコ、黒髪の女が好きなんだよ。
      あの蝙蝠ってメスガキを攫っちまって、船に連れてって、船底にでもぶち込んどいて、
      航海中ずっとみんなで、慰み者にしてやるとするか…」

(,,゚Д゚)「は、はぁ…」

「マジすか!」
「やった! ナイスアイデアっすねフサ先輩!! あのふざけたアマに思い知らせてやりましょう!」
88 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:34:44.51 ID:tU5te/DG0

(,,゚Д゚)「え、先輩あいつ攫っちまうんすか。マジでやるんすか?」

ミ,,゚Д゚彡「ふっふっふ…我ながら名案だぜ。
      そう思わねえかギコ?」

(,,゚Д゚)「いや、でも、あいつ強いっスよ?」

ミ,,゚Д゚彡「は? なにお前、俺があんなガキに負けると思ってんの?」

(,,゚Д゚)「い、いや! そんなことは無いっす! 無いっすけど…その、アニキに万が一のことがあったら…」

ミ,,゚Д゚彡「ふうん、そんなに強いのか、あいつ…。
      んじゃ船のやつらに声かけて人を集めるわ。女を攫うって言ったらすぐ人が集まるぜ。
      強いったって所詮ガキだろ。大人の力にはかなうはずねえさ」

「すげー!」
「かっけーっす!」

(,,゚Д゚)「はあ……」


89 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:36:33.38 ID:tU5te/DG0
四.


 冷たい運河から上がり、クーはびしょぬれの服を着た。
 黒髪から水が滴り落ちる。

 服に血の跡が残っていないかどうか、月明かりで丹念に調べてから、
 クーは階段を上って河岸通りに上がっていく。

川 ゚ -゚)(水浴をしたのは、さて、何日ぶりだったかな)


 少年の返り血を落とすために運河で洗濯と水浴をしたのだが、
 それは同時に、クーの体にたまった汚れを落とすことにもなった。


90 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:38:50.50 ID:tU5te/DG0

 自分の汚れを落とすと、周りの臭いに敏感になる。

 見慣れた港町。
 いつもとかわらない夜、腐りきった街の匂い。

 街頭には下級の売春婦たちが立ち、下級船員たちが居酒屋で好き放題に騒ぎまわる。
 だれもがこの街では意味の無い刹那的な快楽を貪り、溺れている。

 そして、私の仕事はといえば、
 それら意味の無い刹那的な快楽を補助する、もっともっと意味の無い行為。

 そう、私には意味がない。
 私の居場所なんて、この街にはどこにも、ない。


 クーは通りをすたすたと歩いて、『赤薔薇亭』への道を急ぐ。

 少年たちとのいざこざを済ませ、運河で体を洗って、食べ物を買って。
 ずいぶんと時間を浪費してしまった。

 もうハインの「仕事」も終わっているだろう。
 さすがに今日は疲れた。
 もう、眠りたい。 

 道はすいていて歩きやすかった。
 深夜ともなると、いかに歓楽街といっても、人通りもまばらになる。

 服もいつしか乾いていた。
93 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:40:39.22 ID:tU5te/DG0

 ほどなくしてクーは『赤薔薇亭』に帰り着いた。
 明かりの消えた一階を手探りで進み、階段を駆け上がる。


 ハインの部屋のドアは開いていた。
 「仕事」は終わっていたのだ。

 クーはほんの少しだけ嬉しい気持ちになって、開いたドアから、部屋の中へと飛び込んだ。

从 ゚∀从「ああ、クーじゃないか。今日も一日ごくろうさん」

 ハインは鏡台に座って、背筋を伸ばし、髪を掻き揚げていた。
 入ってきたクーの姿を鏡越しに見て、声をかける。

 部屋中に充満した生々しい匂いは気にしないことにして、
 クーはとことこと長椅子に駆け寄り、ちょこんと腰掛けた。

 ここがクーのいつもの寝床だった。


94 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:42:16.18 ID:tU5te/DG0

从 ゚∀从「クー、メシは食ったのか?」

 クーはハインの問いかけに対し、こくりと頷いた。

从 ゚∀从「えっ、今日はもうメシ食ったのか…。なーんだ。
      豪華な余り物が出たから、お前にやろうと思ってとっといたんだがな」

 ハインは鏡台の引き出しを開けて、白い皿を取り出した。
 煮込んだ牛肉のかたまりと、緑色の野菜で作ったサラダが乗っている。

 クーはその皿に盛られた豪華な料理を見て、思わずごくりと生唾を飲み込んだ。

 きししし、といたずらっぽく笑って、ハインが皿をクーのほうに差し出してくる。

从 ゚∀从「やっぱり食うか?」

 クーは少しはにかみながらも、こくこく、と頷いた。
96 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:43:58.99 ID:tU5te/DG0

 長椅子に腰掛けて牛肉にかぶりついているクー。
 ハインはそんなクーの様子を、目を細めて、まるで母親が子供を見守るように、じっと眺めている。


川 ゚ -゚)(気の毒な孤児に食べ物を与えるの図、か。
     …これが、ハインが「優越感」という感情を味わうことのできる、唯一の瞬間なのだな)

 クーは牛肉を咀嚼しながら、ハインの目を見返して、思った。

川 ゚ -゚)(私を見るハインの目つきは、まるで路傍の野良猫を見るもののようじゃないか。
     与えるということは、すなわち施すこと。相手を格下の地位に下げ、自分の優位を保つ行為なのだ)


 そんなクーの思考を知るはずも無いハインは、満足そうに頷くと、
 ひとつ大きくあくびをして、鏡台から立ち上がった。

从 ゚∀从「…さて、あたしはそろそろ寝るかね。
      あんたもそれ食べたらさっさと寝なよー」
99 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:45:42.97 ID:tU5te/DG0

从 ゚∀从「水、飲むかい?」

 ハインの問いかけに、クーは牛肉を両手で捧げ持ったまま、頷いた。
 ハインは水差しからコップに水を注ぎ、クーのほうに差し出した。

 クーはそれを受け取ろうと手を伸ばす。


川 ゚ -゚)(…あれ?)

 手が、思うように動かない。


从 ゚∀从「どうした? 眠いのか?」

 ハインが微笑み、コップをさらにクーのほうに突き出してくる。
 彼女のののんびりした声がやたらと遠くに聞こえる。


100 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:47:36.61 ID:tU5te/DG0

 視界の端で何かが動いたような気がした。


 ハインの視線が入り口ドアのほうに向いた。
 クーもその視線の先を追おうとする。

 だが、頭が動かない。


「よう… どうだい、首尾のほうは」

 どこかで聞いたような男の声だ。

从 ゚∀从「まあね。ちゃんと効いてるみたいだよ」



 クーは苦労して、緩慢な動作で、体全体を入り口ドアのほうに向ける。



 入り口に立っていたのは、さっきハインの客として来ていた髭の海兵。
 そして何人かの大人。

(,,゚Д゚)「よう。また会ったな」

 そして、ギコ。

103 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:49:38.31 ID:tU5te/DG0

 とっさにクーは袖口に隠したナイフを取り出そうとする。
 だが、体が思うように動かない。

 からん、と音を立てて、クーの袖口から抜きそこなったナイフが床に落ちる。

ミ,,゚Д゚彡「すげえ、本当に効いてるよ。さすが船医様のくれた薬は効くなあ」

 フサが後ろを振り返り、船員らしい男に語りかけている。

「だろ? 俺すげえだろ? 今回の女さらいは俺が一番の武勲だろ?
 だから船まで運んだら、その後のお楽しみ会では俺が一番乗りを貰うぜ、いいだろ?」

ミ,,゚Д゚彡「バカそれとこれとは話が違うよ」

从 ゚∀从「はいはい、そーいう話は他所でやっとくれ」

ミ,,゚Д゚彡「おう! うまくやってくれたな、ネーちゃん」

从 ゚∀从「とりあえず、妙なことがおこる前に、貰うものは貰っときましょうかねー」

 フサはハインの手をとって、何枚かの金貨を握らせた。

川 ゚ -゚)(…何……を…?)

106 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:53:38.36 ID:tU5te/DG0

 一人のいやらしい顔つきをした海兵が、麻袋と縄を持って、ハインの部屋に入ってきた。
 頭の回転の鈍くなっていたクーも、ここにきてようやく、事態を把握した。

川 ゚ -゚)(…!)

 咄嗟に長椅子から立ち上がろうとする。
 が、実際には緩慢な動作で腰を上げた段階で、足をもつれさせて椅子から転げ落ちただけだった。

ミ,,゚Д゚彡「おー、こりゃ効いてる効いてる」

 髭面をゆさゆさと動かして、嬉しそうにフサが言った。


「フサのアニキ! こ、蝙蝠の野郎はもう大丈夫ですかい!」
「てめえ、ジョニーさんを…!」

 廊下で声がした。さっきのチンピラ少年たちだ。
 何人かの少年がドアから駆け込んできて、拳を振り上げてクーのほうに走りよる。

川 ゚ -゚)(…さっきの不良少年たちか。まずい、この船員どもとグルだったか)

 が、クーに殴りかかろうとする少年たちを、ギコは制止した。

 ギコはゆっくりとクーのほうに歩み寄ってきた。
 クーは床に這いつくばりながら、顔だけを上げて、ギコをにらみつける。

(,,゚Д゚)「…かわいそうにな」

 ほとんど聞き取れないくらいの小さな声で、ギコはそう言った。
108 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:55:52.07 ID:tU5te/DG0

 一人の海兵がクーの後ろに回り、荒縄で手を縛り始めた。


 クーは顔を動かしてハインを探す。

 ハインはじっとクーのほうを見ていた。
 眼が、合った。

 あきらめにも似た表情でため息をつき、ハインはクーに語りかけた。

从 ゚∀从「バイバイ、クー。
      心配するな。この赤薔薇亭よりひどい場所なんか、この世の中のどこを探したって無いだろうぜ」

 哀れみの色と、勝者の優越の色。
 ハインの瞳の中には「罪悪感」の色は入っていない。


 手と全身を荒縄で縛られたクーは、さらに頭から麻袋をかぶせられ、その上からさらに縄でぐるぐるに巻かれた。


109 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:57:55.53 ID:tU5te/DG0

 寸分の身動きもできず、視界すら奪われたクー。
 それでなくても薬のせいで息苦しいのに、縄で縛られたせいでよけいに呼吸が苦しくなっていた。

 だんだんと意識が遠のいていく中、
 男達の会話が、麻袋越しに聞こえてくる。


ミ,,゚Д゚彡「さてと、じゃあお前らガキどもも一緒に来い」

「…えっ?」

ミ,,゚Д゚彡「えっじゃねえ。一緒に船まで来いってんだよ。全員な」

 沈黙。
 少年たちが凍り付いているのが、視界を奪われていても、雰囲気でわかる。

(,,゚Д゚)「ど、どういうことだ、フサのアニキ?!」

 ギコの声がしたと思った途端、拳で人を殴ったときの音がして、壁に人がぶつかるような音がそれに続いた。

111 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月) 23:59:21.42 ID:tU5te/DG0

ミ,,゚Д゚彡「船のやつらと相談したらよ、ガキどももついでにつれて行こうってことになったのさ。
      だってさあ、奴隷船員はいくらいても足りねえんだよ。
      激務と危険な作業のせいで、どいつもこいつもすぐに死んじまうんだからな!」

「ど、奴隷船員?!」

 少年たちが頓狂な声を上げる。
 その声を掻き消すように、海兵たちが一斉に下品に大笑いする。

从 ゚∀从「ちょっとあんたら、あんまり夜中に大声を出さないどくれよ。
      みんなが起きちまうじゃないか」

ミ,,゚Д゚彡「おお、おお、すまねえすまねえ」

「い、いやだ、そん―― 拳で肉を打つ音。
「やめ――がたがたがた
「おとなしくし――――

  ―――――――――――

   ―― ―― ―――

115 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火) 00:02:16.34 ID:2mPRbfaC0
五.


 朝焼けの運河を、一艘の小船がのんびりと進んでいた。
 十ほどの麻袋が船尾に積まれていて、その後ろで船頭が櫂を操っていた。


 小船は朝もやに蔽われた港湾の中を、一隻の軍用帆船に近づいていく。


「おおーーい」

 船べりのタラップ下につくと、船頭ははるか上の甲板を見上げて、軍船にむかって声をかける。
117 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火) 00:03:36.10 ID:2mPRbfaC0

 ややあって、軍船の船べりに、痩せた海兵が姿を見せた。

「よう、積荷は小麦かい?」

「ああ。シチリア産のファッロ小麦さ」

「シチリア産、だな?」

 痩せた海兵が、確認するようにゆっくりと一語一語区切りながら発音する。
 小船の船頭は満面の笑みで頷いた。

「そうだ」

 痩せた海兵もにんまりと笑って、それに答える。

「よし、フサから話は聞いている。小麦を積み込め。
 急げ、すぐに出航だぞ。

 今度の航海は、長いらしい――




第一話 ここまで

戻る

inserted by FC2 system