106 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:16:29.37 ID:G506Z6sj0

呪術師の家系に生まれた。
それはもはや呪いのようだった。

呪音家に生まれた貞子はずっとそう思っていた。
他人を呪うために生まれ、呪いを返されて死ぬ。
日常的にそんな話を聞かされれば気持ちも落ち込む。

住んでいた場所が山奥なこともあって、貞子は呪術師でない人間との関わりが薄かった。

川д川「お父様、お母様の様子は?」

幼い貞子は問いかける。
彼女の母の腹には、子供がいた。

【+  】ゞ゚)「大丈夫だ。お前が心配するようなことは何もない」

父は優しく返した。
けれど、貞子は心配など何もしていなかった。

新たに生まれくる妹か弟に同情しているだけだ。
こんな暗い地の底のような場所に生まれるなんて、不幸でしかないだろう。

【+  】ゞ゚)「そろそろお客様がくる時間だな」

そう言って父は応接間へ向かう。
彼にとっても出産などどうでもいいのだろう。


107 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:21:54.23 ID:G506Z6sj0

川д川「いってらっしゃい」

父の背中を見る。
いつも見ている背中には、大掛かりな呪術用の道具が背負われている。

普通の子供はあの背中に背負われるらしい。
時折、呪術師にさせてくれと言ってくる人から聞いたことがある。
羨ましいとは思わない。背負われてどうするのだろうという疑問がある程度だ。

今日も父は人を呪うために人と会う。
殺すのだろうか。病にかけるのだろうか。

川д川「今日は何の本を読もうかな」

家にある本は呪術関係のものばかりだ。
それを読み、自分もいつかはと考える。


いつかは、人を殺すのだ。

109 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:28:16.28 ID:G506Z6sj0

【+  】ゞ゚)「貞子、こっちへきなさい」

ある日、本を読んでると父に呼ばれた。
手を繋ぐこともなく、貞子は黙って父の後ろを歩く。
どこへ行くのか。何の用なのか。それすら聞かない。

【+  】ゞ゚)「入りなさい」

とある部屋の前で父が止まる。
彼は入らないのだろう。

川д川「はい」

貞子は障子を開け、部屋の中へと入っていく。

从 ゚∀从「貞子」

川д川「お母様。どうかなさいましたか」

从 ゚∀从「こちらへ」

手招かれるままに母に近づく。
よく見れば、母の手には何かがいた。
よほど大切なものなのだろう。新しい呪具なのかもしれない。

从 ゚∀从「ほら、ごらんなさい」

母が手に持っていたものを貞子へ差し出す。


110 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:31:58.29 ID:G506Z6sj0

覗きこむと、そこには赤ん坊がいた。
それを見て、貞子はようやくそれが自分の兄弟なのだと認識した。

从 ゚∀从「あなたの弟よ」

川д川「弟」

母の言葉を繰りかえす。
可哀想な子。と心の中で呟いた。
幸せそうに眠っているこの子が、悲しみに潰れるのはいつなのだろう。

从 ゚∀从「守ってあげてね」

川д川「守る?」

从 ゚∀从「そう。悪い呪いから、悪い人から」

川д川「……私が?」

从 ゚∀从「ええ、お姉さんでしょ?」

川д川「……私が、守る」

生まれたばかりのこの子は呪いを返す術も、呪いから身を守る術も持たない。
守られるべき弱い存在なのだ。

从 ゚∀从「抱っこしてみる?」

川д川「……ううん。今はいい」
112 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:37:11.10 ID:G506Z6sj0

从 ゚∀从「あら、どうして?」

川д川「守らなきゃだから」

从 ゚∀从?

貞子は母に背を向け、部屋を出た。
廊下にはもう父はいなかった。

川д川「私が守る?」

こんな地の底で、どうやって守ればいいのだろうか。
知識がない。貞子は本を手に取った。
守るための知識を求めた。

川д川「私が守る」

悲しさに潰れてしまわぬように、楽しいことを見つけてあげた。
人里離れた山奥にも、探してみれば楽しみはたくさんあった。
弟のために楽しいことを探し、貞子は自分にこびりついた闇を落とそうとした。
深い闇の中で、心が麻痺してきた自分では弟の心を守れない。

触れることすら許されないのではないか。

从 ゚∀从「おかえり。今日もお姉ちゃんは遅かったねー」

母は弟をあやしながら、家に帰ってきた貞子を出迎える。
それが貞子は少し嬉しかった。


113 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:43:01.73 ID:G506Z6sj0

貞子は自分の世界が狭かったと気づいた。
山を探索し、広さをしり始めてから母の優しさに気づいた。
周りが呪いと関わり、悲惨な死を遂げながらも母は凛としている。

綺麗だと思った。
それが例え人殺しでも。

川д川「お母様、ヒッキーは元気ですか?」

从 ゚∀从「ああ、元気だぞ」

生まれた弟はヒッキーと名づけられた。
まだ言葉も話さず、泣くことでしか自己を表現できなかったがとても愛らしいと感じた。

彼がはいはいを始めると、貞子は山へ行かずに家に篭るようになった。

川д川「ほら、こちらへおいで」

(-_-)「うー?」

以前のように、本を読み人を呪うことだけを考えているわけではない。
あちらへこちらへと動き回るようになったヒッキーの面倒を見ているのだ。
母はすでに本職へと戻っており、ヒッキーと共にいるのは危険だという。

川д川「ヒッキー。お母様もお父様も忙しい人なの。
    でも、私達を愛してくださっているわ」

自分と同じ間違いをさせないために、貞子は何度も言って聞かせた。

115 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:53:08.70 ID:G506Z6sj0

ヒッキーは言葉を話すようになっても、あまり口を開かなかった。
無口ではあったが、貞子の望んだ通り、心の優しい人間へと育っていた。

川д川「あら、小鳥……?」

(-_-)「……」

ヒッキーは黙って上を指差す。
木の上には鳥の巣があった。

川д川「可哀想に。落ちてしまったのね」

同情はするが、どうしようもできない。
貞子もヒッキーも木登りはできない。
魔法が使えれば話は別なのだろうが、彼らは呪術師だ。

(-_-)「……ボク、頑張ってみるよ」

小さな声でそう宣言すると、ヒッキー服のポケットに小鳥をそっといれ、木を登り始めた。
体力もなく、木登りなどしたこともないはずなのに、ヒッキーは一生懸命上を目指す。

川д川「危ないわよ!」

(-_-)「大丈夫」

聞こえるか聞こえないかの大きさで言い、再び手を伸ばす。


116 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 17:56:52.27 ID:G506Z6sj0

しかし、努力だけでどうにかなるものでもない。

(-_-)「……あ」

川д川「ヒッキー!」

手を滑らせ、重力に従い落ちて行く。
貞子はヒッキーを助けようと、落下地点へ移動する。
自分のことよりも弟のことの方が大切だ。

从 ゚∀从「下がりなさい」

そんなとき、貞子を後ろに下がらせ、ヒッキーを受け止めてくれたのは母だった。

从 ゚∀从「どこに行ったのかと思えば……。危ないでしょ」

(-_-)「……」

川д川「お母様、ヒッキーは小鳥を……」

从 ゚∀从「小鳥?」

ヒッキーがポケットから小鳥を取り出すと、母は小さく微笑んだ。

从 ゚∀从「そうか。だけど、危ないだろ」

(-_-)「ごめんなさい」


117 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 18:01:05.32 ID:G506Z6sj0

从 ゚∀从「次からは気をつけなさい」

川д川「お母様、小鳥をどうするんです?」

母は小鳥を手に乗せたまま帰ろうとする。
貞子が尋ねると、母は明るく笑った。

从 ゚∀从「もう人間の匂いがついてるだろうし、家で飼いましょう」

(-_-)「いいの?」

从 ゚∀从「別に鳥の一羽や二羽、問題ないわ」

さあ、と母は手を差し出してくれた。
ヒッキーがその手を握り、貞子はヒッキーの手を握った。

川д川「ヒッキー」

(-_-)?

川д川「絶対にこの手は離さないからね」

(-_-)「お家に帰っても?」

川ー川「そういうことじゃなくて、
    ずっと、ずーっと一緒ってことよ」

(-_-)「……嬉しい」

119 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 18:09:38.28 ID:G506Z6sj0

ヒッキーに呪いのことを教えていた貞子は薄々わかっていた。
自分の弟は天才だ。
教えたばかりの術式をすぐにマスターしてしまう。
すぐに自分は追い越されるだろう。

川д川「凄いわヒッキー!」

(*-_-)

ヒッキーからしてみれば、この程度のことはできて当然だった。
けれど、大好きな姉が喜んでくれる。ならばそれは素晴らしいことなのだろう。
貞子もヒッキーの才能を喜んでいた。

【+  】ゞ゚)「ヒッキー。お前は自慢の息子だ」

父も褒めてくれた。
けれど、母だけはいつも心配そうな目を向けていた。
彼女は知っていたのだ。
恵まれた才能が運んでくるのは、幸せだけでないことを。

从 ゚∀从「貞子、今日はお母さんとお話をしましょう」

ある日、母は貞子を自室へと招いた。
正座をし、貞子は母の言葉を待つ。

121 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 18:15:21.65 ID:G506Z6sj0

从 ゚∀从「呪術は人の命を奪います」

川д川「はい」

从 ゚∀从「それは、誰かの大切な人を奪うということよ」

川д川「わかってます」

从 ゚∀从「ときに、それは私達にも降りかかってきます」

川д川「……はい」

貞子はまだ誰かに呪いを向けたことはない。
しかし、呪いを返された者や、別の呪術師に呪いをかけられた者を何度も見たことがある。
それらの姿は悲惨なものだ。
自分達はそのことをしっかり刻み込んでおかなければならない。

从 ゚∀从「あなた達は生まれてからずっと、呪術師として育てられたわね」

母は呪音家に嫁いできた人だった。
元々は普通の家庭に生まれ、父に惚れて呪術師の世界へやってきたのだ。

从 ゚∀从「私には想像もできないような思いを、幼いながらにしてきたでしょう」

川д川「いいえ……」

貞子は自分と同じ年の子供が、どのような気持ちを抱えているかなどよくわからない。

从 ゚∀从「ヒッキーは幸せでしょう」

122 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 18:20:35.38 ID:G506Z6sj0

从 ゚∀从「あなたのような姉がいて、健やかに育っています。
     呪術師としての才能にも恵まれているようですしね」

そこまで言って、母は悲しそうに顔をうつ向けた。

从 ゚∀从「けれど、覚えていて欲しいのです」

川д川「お母様?」

貞子はただ嬉しかった。
弟が優秀で、誰よりも素晴らしい呪術師になれるであろうことが誇りだった。
だが、母は悲しそうにしている。

从 ゚∀从「この家はそれほど大きな家ではありません」

敷地のことを言っているのではないことは察することができた。
呪音家は、千里家と呼ばれる家系の一派でしかない。
呪術師の家系の中では千里家は郡を抜いている。

その家系の一派ということもあり、生活には困らない程度に依頼はやってくる。
しかし、弱小と呼ばれてもおかしくないほどこの家は小さかった。

川д川「でも、ヒッキーがいれば」

千里家の上を行くこともできるのではないか。
貞子はそう主張した。

124 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 18:24:46.27 ID:G506Z6sj0

从 ゚∀从「ええ、あの子がこのまま育てば、それも可能かもしれません」

川д川「……誰かが、あの子の才能を妬むとでも?」

从 ゚∀从「その可能性も十分にあります」

川д川「大丈夫です。あの子は、ヒッキーは私が必ず守りぬきます」

从 ゚∀从「ごめんなさいね」

母はそっと貞子に近づき、優しく抱きしめた。
人肌の温もりと、母の心音が貞子に伝わる。

从 ゚∀从「あなたには苦労をかけるかもしれない」

もちろん、私も努力する。と母は言った。

川д川「お母様が楽をできるように、私も頑張ります」

从 ゚∀从「ええ、そうね」

力強い貞子の声を聞いて、母は少しだけ落ち着いたようだ。
固い表情にわずかながら笑みが浮かんでいた。

从 ゚∀从「……きっと、大丈夫よ」

それでも、悪寒がやまないのは何故だったのだろうか。

128 名前:再開 ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:13:23.74 ID:G506Z6sj0

【+  】ゞ゚)「はい、ええ、そうですか」

呪いを望む人間にろくな人間はいない。
貞子は後に痛感することになった。

从 ゚∀从「あんた、正気かい?」

【+  】ゞ゚)「正気だ」

从 ゚∀从「自分の子供よ?」

【+  】ゞ゚)「ああ、あの子を生んでくれてありがとう」

从 ゚∀从「やめてよ」

【+  】ゞ゚)「もう決まったことだ」

从 ゚∀从「あなたの中ではね」

二人は睨みあう。
静かで、冷たい空間だ。
そこには誰一人として入ることは許されない。

从#゚∀从「あなたは父親失格よ」

【+  】ゞ゚)「私は呪術師だ」

从#゚∀从「っ!」


129 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:18:11.71 ID:G506Z6sj0

从#゚∀从「この……わからずや!」

【+  】ゞ゚)「わかっていないのはお前の方だ」

感情的に言葉を吐く母と、冷静に言葉を紡いでいく父。
二人は対極的な様子を描いている。

【+  】ゞ゚)「今さら引き返すことはできないのだ」

从 ゚∀从「……この家のために?」

【+  】ゞ゚)「そうだ」

从 ゚∀从「……」

母は俯き、拳を握る。
何かを決心したような目をした母、父に背を向けた。
部屋から出ようと、襖を開ける。

【+  】ゞ゚)「どこへ?」

从 ゚∀从「出て行きます」

愛した人はこんな人だったのか。
昔は優しかったような気がする。
ごく普通の女であった自分を、呪術の世界に惹きこむほどに。

【+  】ゞ゚)「子供を連れてか?」


130 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:22:40.89 ID:G506Z6sj0

从 ゚∀从「さてね」

【+  】ゞ゚)「許さんぞ」

父は彼女の腕を掴み、再び部屋へ引き入れる。

从 ゚∀从「離して」

【+  】ゞ゚)「離さん」

从 ゚∀从「あんたが今引き止めてるのは何?」

【+  】ゞ゚)「何だと?」

眉間にしわをよせ、聞き返す。
母の目には決意が映っていた。
言葉では止められないだろう。

从 ゚∀从「あたし? 子供? それとも道具?」

口を開く。
父は言葉を返さない。
ただ黙って母を見下している。

从 ゚∀从「あんたは変わったね」

【+  】ゞ゚)「お前も歳を取った」

从 ゚∀从「ああ」
133 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:30:10.34 ID:G506Z6sj0

【+  】ゞ゚)「頭が固くなったな」

从 ゚∀从「そうか」

母は笑う。
父が力任せに彼女を床に叩きつけた。

从 ゚∀从「本当に変わったんだな」

【+  】ゞ゚)「ああ」

父はいつも背中に担いでいた道具を降ろす。

从 ゚∀从「本気?」

【+  】ゞ゚)「残念ながらな」

从 -∀从「そう」

( メゞ゚)「ずいぶんとあっさりしているんだな」

从 ゚∀从「まあね。覚悟していたし」

小さく笑った母を目に映す。
始めてあったときのように美しい笑みだった。

从 ゚∀从「愛していたわ」

( メゞ゚)「オレもだよ」

134 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:35:34.44 ID:G506Z6sj0

川д川「お母様が……?」

【+  】ゞ゚)「泣くんじゃないよ。この世界にいる者は、いずれああなる運命なんだ」

(-_-)「そんな……」

翌朝、二人が聞いたのは母の死だった。
何者かに呪われ、体を腐らせながら死んでいったという。

【+  】ゞ゚)「私がもっと早くに見つけていればよかったのだが……」

(-_-)「……」

川д川「お父様は悪くないわ」

貞子はギュッとヒッキーの手を握る。
思い知らされる。自分達はいつ死んでもおかしくない場所にいるのだ。

川д川「私が、守ってあげるからね」

(-_-)「…………」

ヒッキーもそれに返すように、貞子の手を強く握った。

【+  】ゞ゚)「お前達は強いな」

強く育ってくれて嬉しいと、父は言った。

136 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:40:32.30 ID:G506Z6sj0

【+  】ゞ゚)「……こんなことをお前達に言うのは心苦しい」

川д川「何ですか?」

【+  】ゞ゚)「本来、彼女がするはずだった仕事があるのだよ」

残念ながら、今他の者達は長期的な呪術にかかりきりだという。

【+  】ゞ゚)「今さら依頼を反故にはできない」

川д川「ええ、わかっています」

ここは小さな家だ。
一度受けた依頼を反故にすれば、たちまち依頼は消えてなくなるだろう。
幼いながらに、貞子は自分の置かれている状況をしっかり把握していた。

【+  】ゞ゚)「そこでだ、ヒッキーに頼みたいことがあるのだ」

川д川「ヒッキーに……?」

(-_-)

確かに、ヒッキーはもう貞子を越えていた。
簡単な呪術ならば、彼にもできるだろう。
だが、まだ幼い身だ。いくら術式が上手くとも、呪いの反動を受けないとは言いきれない。

【+  】ゞ゚)「恐ろしいだろう。その気持ち、よくわかる」

父はヒッキーと貞子を見下ろしながら言葉を続ける。

137 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:45:34.11 ID:G506Z6sj0

【+  】ゞ゚)「やってはくれないだろうか」

川д川「お父様、無茶です……!」

【+  】ゞ゚)「貞子。お前は先ほど何と言った?」

川д川「え……」

【+  】ゞ゚)「依頼を反故にすれば、この家がどうなるか……わかっているのだろ?」

川д川「そ、それは……」

(-_-)「お姉ちゃん、困る?」

川д川「え?」

(-_-)「ボクがお父様の言うことを聞いたら、お姉ちゃんは幸せ?」

川д川「ヒッキー……」

手を握る力が強くなる。
貞子を見るヒッキーの目はただ優しいものだった。

川д川「あなたの好きなようになさい」

父の言うことに逆らってもいい。そうは言えなかった。
自分達の生活が失われることが恐ろしかった。
情けないとも思ったが、貞子もまだ子供なのだ。


138 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:49:01.28 ID:G506Z6sj0

(-_-)「お父様、ボクするよ」

【+  】ゞ゚)「そうか……すまんな」

ならばこちらへ、と父はヒッキーを誘う。

川д川「あ、私は……」

【+  】ゞ゚)「お前は待っていなさい」

(-_-)「お姉ちゃん」

ヒッキーは貞子の耳元で囁く。
もしもの話だった。
けれど、そんなもしもは考えるのも嫌だった。

川д川「待って!」

(-_-)「お願い、だよ」

川д川「どういうこと? ねえ!」

貞子の質問に返事はなかった。
返ってきたのはヒッキーの笑顔だけだった。


139 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:54:04.59 ID:G506Z6sj0


もしも、ボクが戻ってこなかったら――。


川д川「そんな……そんなっ……」

貞子は一人、部屋で泣いていた。
彼女の耳に届いたのはまたしても訃報だった。

【+  】ゞ゚)「貞子。いつまで泣いているのだ?」

川д川「だって……あの子がっ……」

守ると約束したはずだった。
なのに、自分の生活のためにヒッキーを売ってしまった。
あの時止めていればよかった。
貞子の中には悲しみと自己嫌悪だけが渦巻く。

【+  】ゞ゚)「……明日はあの子の死体を燃やす」

川д川「うっ……うう……」

布団に顔を押し付け、涙を流す。
このまま体中の水分が流れてしまうのではないかというほどだった。

141 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 19:59:53.52 ID:G506Z6sj0

川д川「……」

夜、貞子は起き上がる。
もう涙は流しつくした。

川д川「あの子が言っていた本……」

  (-_-)「もしも、ボクが戻ってこなかったら、部屋にある黒い本を読んで」

川д川「ヒッキー……」

ふらふらした足取りでヒッキーの部屋へ向かう。
何となく、誰にも知られたくなかった。足音をたてないように静かに足を進めていく。

ヒッキーの部屋の前で、立ち尽くす。この襖を開ければ、いつも通りヒッキーが寝ているのではないだろうか。
そんな幻想を抱いて襖を開けた。

川д川「……そう、よね」

そこには誰もいない。
主を失った空虚な空間があるだけだ。

貞子はそっと本棚をなぞる。
電気はつけない。代わりに持ってきたロウソクに火を灯す。

川д川「あ、これ……?」


142 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:04:33.81 ID:G506Z6sj0

たった一冊だけ、黒い本があった。
題名もなにも書かれていない。

川д川「こんな本、あったかしら?」

ロウソクを机に置き、本を開く。
そこには印刷された文字ではなく、よく知っている字体があった。

川д川「ヒッキー?」

間違いないく、ヒッキーの字体だった。
丁重で、小さな字。
貞子は再び溢れでそうになる涙を抑えて、文字を読んでいく。

川д川「どういう、こと……?」

そこに書かれていたのは、貞子も知らない禁呪だった。
禁じられていることが相応しいと思えるほど、それはおぞましいものだった。

川д川「どうして、あの子はこんなものを知っているの?」

最後のページには、ただ一行だけ文字が書かれていた。


ボクを、食べて。

144 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:07:32.77 ID:G506Z6sj0

吐き出しそうになる。
思わず本を投げ捨て、ロウソクの火を消して静かに部屋を離れる。

川д川「う……」

口元を抑えながら、自分の部屋へ帰ろうとする。
だが、錯乱していたのか、歩いていた方向は自室とは逆方向だった。

川д川(あ、こっちはお父様の……。
    こんな時間に起きてたら怒られるかもしれない)

貞子は体を反転させ、今度こそ自分の部屋に帰ろうとした。

「――――」

だが、不意に聞こえてきた声に足を止める。
よく見れば、父の部屋には明かりが灯っている。
人影の数はニ。
誰かがいるのは間違いないようだ。

川д川?

貞子は誘われるがままに足を進める。
自分の影が映らぬように、四つんばいになって声を盗み聞きする。

146 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:26:53.95 ID:G506Z6sj0

(・∀ ・)「いやっ、ありがとーございます」

【+  】ゞ゚)「いいえ。私共の仕事ですから」

(・∀ ・)「本当、あの忌々しい奴の訃報を聞いたときの喜びといったら!」

【+  】ゞ゚)「ええ、わかりますよ」

(・∀ ・)「でも、あの呪術、難しいって聞きましたよ」

【+  】ゞ゚)「そうですね。呪力のある人間が必要ですしね」

(・∀ ・)「なんでしたっけ? あのー」

川д川(……え?)

依頼人の口から聞こえてきた呪術の名前は、聞き覚えがあった。
確かに、その呪術は難しい。
かなりの呪力を持った人間が行わなければならない。しかも、反動が大きいために、術者の死亡率は高い。

川д川(そんな呪力を持った人、いたかしら……)

思い浮かべる。
浮かんだのは、ただ一人だった。

川д川「ま、さか……」

149 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:37:38.54 ID:G506Z6sj0

(・∀ ・)「そういえば、以前きたときにいた美しい奥さんは?」

【+  】ゞ゚)「ああ、彼女は死にました」

(・∀ ・)「え、それは残念だなあ……」

【+  】ゞ゚)「彼女はあなたの依頼を反故にしようとしたので」

(・∀ ・)「え、やっちゃったんですか」

【+  】ゞ゚)「それはあなた様のお心の中に」

(・∀ ・)「うわー、うわー。怖いなぁ」

【+  】ゞ゚)「ここでのことは他言無用ですよ」

(・∀ ・)「……わかってるよ。ボクだって罪に問われたいわけじゃないしね」

川д川「…………」

もう流れないと思ってた涙がポロポロと溢れだした。
何も言うことなく、静かにその場を去る。

向かうのは自分の部屋ではない。
父の部屋の先にある広間だ。
あそこにヒッキーの死体がある。
151 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:40:43.94 ID:G506Z6sj0

川д川「ヒッキー」

(-_-)

死体は綺麗だ。
腐ってもないし、石化しているわけでもない。

川д川「あなたはどこまで知っていたの?」

あるいは何も知らなかった?
ただの直感であの本のことを伝えた?

川д川「……私、あなたのことが大切だったわ」

(-_-)

川д川「あなたが望むことは何でも叶えてあげたい」

(-_-)

死体は言葉を口にしない。
言葉を使うのは生者だけだ。

川д川「復讐、してあげるからね」

優しい子だった。
呪術師とは思えないほど暖かい心を持った子だった。


152 名前:この辺りグロ注意 ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:45:13.45 ID:G506Z6sj0

大切な家族だった。

川д川「ヒッキー。あなたは生きるの。私の中で」

彼が残した本に記されていたのは、能力を他人へ受け渡すものだった。
そのおぞましさのあまり、方法は『禁呪』として記されていた。

川;д川「……」

最後に、一筋の涙を流す。

口に含んだのは、細い指だった。
少し力を入れてみても、それは千切れない。
さらに力を入れると、悲しみの味が広がった。

部屋には嫌な匂いが充満していた。
死臭と、血の匂い。かすかな呪いの香り。

貞子は黙々と口に含む。
よく噛み、肉を飲み込む。

胃がそれを拒否し、吐き出そうとしても、貞子はそれを止める。

川д川(よく考えたら、今日は何も食べていなかったわね……)

ぼんやりとした頭でそんなことを考える。


153 名前:この辺りグロ注意 ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:48:45.35 ID:G506Z6sj0

ヒッキーの体は小さい。
貞子の体も小さい。

胃がいっぱいになってもまだ貞子は食べた。
食べなければならない。
彼がそれを望んでいるのだから。

ある程度食べ終わったころ、貞子は自分の変化に気づいた。
一口含み、飲み込むたびに力がわく。
頭が冴えてくる。

川д川(あの子はいつもこんな感覚だったのかしら)

(-_-)

少しも触れていない、まだ綺麗なままの顔を見る。

川д川「もう、お腹いっぱい……」

でも、まだまだ肉は残っている。
このままでは、朝がきてしまう。

貞子はボロボロになったヒッキーの体を抱きかかえた。
始めて抱っこしたときのことを思い出す。
あれからずいぶん大きくなったような気がしていたが、とても軽かった。

川д川「山に、行こうね」


154 名前:この辺りグロ注意 ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 20:51:49.80 ID:G506Z6sj0

貞子はヒッキーの死体を洞窟へ運び込んだ。
洞窟からは、いつだったか小鳥を拾った木が見えた。

川д川「懐かしいわね」

あのころは幸せだった。
母がいて、弟がいて、暖かい気持ちでいっぱいだったことを覚えている。

川д川「……ヒッキー」

彼女は何度もヒッキーに言って聞かせていた。
母も、父も、自分達のことを愛しているのだと。

母は愛してくれていただろう。いつも暖かかった。
だが、父はどうだろうか。
あの人はヒッキーを殺した。母も殺した。
そこに、愛はあったのだろうか。

貞子はヒッキーを抱き締め、目を閉じる。
嫌な匂いにはもう慣れてしまっていた。

川д川(ああ、血の匂いに誘われて獣がくるかもしれない。
    私はもう目覚めないかもしれない。でも、それでもいいかも)

ゆっくりと貞子は闇に落ちた。

160 名前:再開 この辺りグロ注意 ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 21:31:57.80 ID:G506Z6sj0

目を覚ましたとき、ヒッキーの体は変わらずにそこにあった。
獣の姿は見えない。

川д川「……呪いの、匂いかな」

野生動物は呪いの匂いに敏感だ。
それが自分達の害になるとよく知っているのだろう。
朝一番にお腹がなった。
昨日吐きそうなほど食べたというのに、おかしなことだ。

川д川「いただきます」

手をあわせ、再びヒッキーを食べていく。
美味しいとは感じない。一般的に人肉は不味いと聞いていたが、それほど不味くもない。

足を食べる。
心なしか硬かった。
お腹の柔らかさが懐かしい。

どれほど血の匂いを出しても、獣が寄ってくる気配すらない。
好都合だと貞子は笑う。

川д川「ヒッキーは私のものだから。
    私が全部、全部食べるの」


161 名前:この辺りグロ注意 ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 21:48:54.84 ID:G506Z6sj0

もう一度眠って、起きて、ヒッキーを食べた。
髪の一筋まで残さずに、綺麗に。

川д川「……ヒッキー。これから、どうしようか」

お腹をさする。
ここにあの愛しい子はいるのだ。

川д川「うん。うん。そうね」

貞子は立ち上がり、洞窟から出て行く。
背を伸ばし、迷うことなく足を進めて行く。
向かうのは我が家だ。

見れば、家の中はバタバタと騒がしい。
それもそうだろう。
娘と死体が消えたのだ。騒ぎにならない方がおかしい。

川д川「お父様」

玄関を通り、父に会う。

【+  】ゞ゚)「貞子?! お前、今までどこに!」

駆け寄ってきた父を見て笑う。
心配そうに見えるが、どこまでが本心なのだろう。
こう見てみると滑稽だ。


162 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 21:53:30.83 ID:G506Z6sj0

川д川「お父様、私、知ってしまいました」

【+  】ゞ゚)「何をだ?」

首を傾げる父。
不思議そうな父。

憎い父。

川д川「人を、呪うということです」

貞子が呪具を取り出し、父へ投げつける。
ここへくるまでの道中で、仕掛けは万全だ。

【+  】ゞ゚)「さだ……」

川ー川「さようなら」

【+  】ゞ )「あ、ああああああ!」

指先から電流が走るような痛みが父を襲う。
これが呪いだということはすぐにわかった。
同時に、自分がすぐにでも死んでしまうということも察しがついた。

川ー川「さて、ここをぜーんぶ失くしちゃいましょ」

164 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2011/01/10(月) 21:56:01.22 ID:G506Z6sj0

呪いが蔓延する場所で、貞子はケラケラと笑う。
これはヒッキーと、自分の力だ。
兄弟の力だ。

川д川「さあ、ヒッキー次は世界を失くしましょう」

母と彼を奪った世界に復讐を。
彼女はふらりと足を進める。

どのような呪いを使おうか。
どのような絶望を作り出そうか。

それを愛しの弟が望んでいたかどうかはわからない。



( ´_ゝ`)は劣等性のようです
    番外編 川д川が復讐を考えるようです 完

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