3 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:31:53.06 ID:OyaHFYQv0

気がつけば見知らぬ場所にいた。
薄暗く無駄に広い。

('A`)「カビくせぇ」

警戒しつつ、足を踏み出す。
階段にしかけられた罠にひかかってしまったことはわかっている。

( ^ω^)「ここどこだお?」

('A`)「わかんね。でも、出口ないと不味いよな」

もしも、出口がない場所に送られたのだとすれば、二人はここで餓死するしかない。
ある程度の死は覚悟していたものの、餓死などという最期は想定の範囲外すぎる。

とりあえず壁際に近寄り、部屋を一周する。
人骨も気味の悪い文字もない。あるのは湿気った空気とカビ臭い匂いだけだ。

( ^ω^)「アレ扉じゃないかお?」

('A`)「んー?」

暗い部屋の中で目を凝らす。

('A`)「お、本当だ」

5 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:33:53.63 ID:OyaHFYQv0

早足で扉に近づいていく。

('A`)「……どう思う」

( ^ω^)「早く開けてみればいいお」

ドクオに尋ねられた意味がわからないのか、首を傾げながらブーンが言う。

('A`)「……罠って可能性もあるだろ」

( ^ω^)ハッ!

('A`)「……はあ」

ため息をついてみるが、この扉に罠がしかけられているかをしる術はない。
何か陣が刻まれていないかを確認してみるが、特に何かが刻まれている様子はない。

('A`)「腹括るか」

手を伸ばす。
ドクオの手がノブを手に取る前に、それが右に回転した。

( ^ω^)「誰かくるお!」

伸ばしていた手を引き、後ろへ下がる。
こんなところにくる人物が味方であるなどという、楽観的な考え方は到底できない。

7 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:36:02.88 ID:OyaHFYQv0

川д川「はじめまして」

暗闇の中から現れたのは髪の長い女だった。

川д川「あら、二人? 本当は四人とも殺すつもりだったのだけれど」

ため息を一つ。
髪に隠れて見えぬ目が光る。

川д川「まあ良いわ。死んでくださいね」

女の手が上げられる。
魔法を警戒し、二人が反撃の呪文を唱える準備をする。

川д川 「行きなさい。でぃ」

手が振り降ろされるのと同時に、何かが二人の前に現れる。


(#゚;;-゚)


ボロボロの顔をした女だった。
感情のない瞳を二人に向け、腰にある剣を手にとる。

髪の長い女はその様子を満足気に見て、扉の向こうへと去って行く。

12 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:38:17.09 ID:OyaHFYQv0

('A`)「くるぞ!」

でぃと呼ばれていた女が剣を振る。
女の華奢な腕が振るっているとは思えないほどの早さで剣がドクオの頬を掠めた。
薄く流れる血に、体中の血の気が引く。

('A`)「距離を取って、魔法で牽制するか」

足の速さには自信がないが、精一杯の早さで後ろへと足を動かす。

(#゚;;-゚)「……風よ、斬撃になれ」

聞こえてきた呪文に目を見開く。
風が空気を切り、見えぬ斬撃がドクオに向かう。

(;'A`)「氷よ、そびえたて!」

ドクオの前に氷の壁が作られる。
氷がドクオの背の高さになったとき、削れるような音が響いた。
厚い氷が削られ、でぃの姿が見える。

('A`)「冗談、だろ?」

魔法剣士という者が存在しているのは知っている。
ただ魔法を剣に纏わせるという単純なことをするだけならばドクオにもできる。
問題は、魔法と剣術を同時にここまで極めるのは難しいということだ。

15 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:40:29.78 ID:OyaHFYQv0

('A`)「あんた何であんな奴の言うこと聞いてんだよ!」

人に従うような実力ではない。あの髪の長い女にはそれ以上の力があるとでもいうのだろうか。

(#゚;;-゚)

でぃは答えない。
腰を低くしてドクオのもとへと駆ける。

(#゚;;-゚)「炎よ剣に纏え」

小さく呪文を呟き、炎の剣を生み出す。
弟者を突き刺した男が生み出していたようなちんけなものではない。
炎を集中させ、剣の形に沿うように纏わせている。

あの熱気と力ならばドクオの作り出す氷など一瞬で溶かしてしまうだろう。
風で吹き消せないかと考えるが、あの炎を消せるほどの風を生み出せる気がしない。

('A`)「とにかく……氷よ厚い壁になれ」

気休め程度でないと知っていても、こうするしか他になかった。
身体能力も相手の方が上で、魔法の力も上。勝機が見当たらない。

ふと、ブーンのことを思い出した。
先ほどから声が聞こえていないが、どうしたのだろうかと横を見る。

その一瞬後に、厚い氷が溶かされていく音が聞こえた。

17 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:42:43.98 ID:OyaHFYQv0

('A`)「ブーン!」

せめて逃げてくれ。
そんな気持ちをこめて叫ぶように声を上げた。

(#゚;;-゚)

無機質な目と視線があう。
最期に見るのがこんなにも冷たいものだとは思いたくなかった。

( A )(あー。死んだ。絶対、死んだ)

目を閉じ、死を迎える。
炎の熱を感じる。

( ^ω^)「させないお」

(#゚;;-゚)「いつの間に……!」

でぃがドクオの氷を裂いている間に、ブーンが真後ろに迫っていた。
剣を引こうとするが、氷がそれを邪魔する。

( ^ω^)「土よ彼者の足を取れ!」


18 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:44:57.87 ID:OyaHFYQv0

コンクリートの床を破り、土がでぃの足を固めていく。

('A`)「ブーン!」

( ^ω^)「ドクオ、彼女はボクに任せてほしいお」

('A`)「何言ってんだ。二人で戦うべきだ。あいつの強さは尋常じゃない!」

( ^ω^)「ドクオ」

でぃが土から抜け出す。

(#゚;;-゚)「二人ともまとめて相手する。こい」

冷たい声が耳に届く。
振られた剣は相変わらず熱い炎を纏っている。

('A`)「オレとお前で協力して戦う。じゃなけりゃ勝てねぇよ」

低い声で言う。
ブーンは静かに首を振った。

(#゚;;-゚)「私が逃がすとでも?」

でぃが剣を振り上げる。
ブーンがドクオを突き飛ばし、でぃの剣から互いに逃れる。


19 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:46:51.70 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「ここから本気」

呪文を唱え、風を呼び出す。

( ^ω^)「っ!」

ブーンの頬を風が刺す。
これ以上の攻撃を許さないために、ブーンも呪文を唱えでぃの魔法を吸い込む。

('A`)「風よ彼者を閉じ込めろ」

魔法が効かぬならと、足を動かすでぃを風の中に閉じ込める。

(#゚;;-゚)「鬱陶しい」

でぃが剣を振る。
ドクオの作り出した風はあっさりと払われ、でぃは腰を低くしてブーンを狙う。

( ^ω^)「吸収されし斬撃よ再び舞え」

(#゚;;-゚)「風よ私を守れ」

風を纏い、見えぬ斬撃から身を守る。
剣が届く距離にくると、下から振りあげるように剣が線を描く。


20 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:48:37.46 ID:OyaHFYQv0
( ^ω^)「セーフ、だお……」

でぃの剣は空気を切っただけだった。
一歩下がっていたブーンはでぃの顔に向かって拳を振るう。

('A`)「ブーン?」

ブーンの拳はでぃの顔に叩きつけられることがなかった。

(#゚;;-゚)「女の顔は殴れない? 甘い」

剣が再び横に振られる。
それは確実にブーンの胴体を真っ二つにしようとしていた。

('A`)「土よ二人の間にそび、えろ……」

一瞬、呪文を唱える声が詰まる。
大きなものを短時間でいくつも作ったので、体が魔力の放出をやめるように叫んでいる。
その声に耳を傾けている暇はなかった。

(#゚;;-゚)「風よ、斬撃となれ」

(;'A`)「うおっ」

体を低くする。
斬撃をどうにか避け、顔を上げるとそこには傷だらけの顔があった。

(#゚;;-゚)「終わり?」

血の気が引くのは何度目だろうか。

21 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:50:43.48 ID:OyaHFYQv0

( ^ω^)「おりゃっ」

でぃの足をブーンが払う。
彼女が体勢を崩している間に、ドクオも立ち上がり距離を取る。

( ^ω^)「ドクオ、やっぱりボクに任せてくれないかお」

('A`)「だから何でそんなことを」

先ほどのブーンを見ていると余計に一人にはできない。
女だからといって攻撃の手を緩めるような人間に、でぃの相手は務まらない。
あっさりと負けてしまうのが目に見えていた。

( ^ω^)「……ボクには彼女を倒せないお」

('A`)「なら」

( ^ω^)「でも、ドクオが彼女を倒すのも許せないお」

でぃが足を進めながら呪文を唱える。
風が二人を閉じ込めようと渦巻く。

( ^ω^)「土よ風を押しつぶせ!」

下から高く土が噴出し、二人の周りに落ちる。

('A`)「うわっ。口に土が入った」

( ^ω^)「ドクオ」

22 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:52:39.09 ID:OyaHFYQv0
土が降り注ぐ中、でぃの足が遅くなる。
ブーンは腰を低くし、彼女を迎え撃つ準備をした。
その瞳は真剣そのものだったが、やはり彼女を倒す気はないようだった。

('A`)「いい加減にしろよ!」

殺されるとわかっているのに、ブーンを置いていくことなどできない。

(#゚;;-゚)「剣に纏いし炎よその身を増せ」

炎がわずかに大きくなる。
剣が届く範囲が広がり、熱気が二人の頬を掠める。

(#゚;;-゚)「風よ彼者達を押しつぶせ」

( ^ω^)「魔法よ、我が身へ吸収されよ」

ブーンを押しつぶそうとしていた風が吸収される。

( ^ω^)「彼者にかかる魔法よ我が身へ吸収されよ」

自由の身になったブーンは素早くドクオを押しつぶしている風を吸収する。

(#゚;;-゚)「その魔法、面倒だ」

でぃは先にブーンを片付けることに決めたらしい。
剣をブーンに向かって振る。

( ^ω^)「今のうちに逃げるお」


23 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:54:55.52 ID:OyaHFYQv0
何を言っているんだとドクオは叫ぶ。
でぃの剣撃を避けながらブーンは笑った。


( ^ω^)「ただの兄弟喧嘩だお」


('A`)「……兄弟?」

( ^ω^)「早く行ってくれお」

目はでぃの方を向いている。
対する彼女は相変わらず無感情だ。

( ^ω^)「姉ちゃんがこうなったのにはきっと何か原因があるお」

放たれる魔法を吸い込み、足払いをする。
決定的なダメージを与えるのではなく、あくまでも自分の身を守るための攻撃をする。

( ^ω^)「ドクオならきっと見つけられるお」

('A`)「付き合いが長いわけでもないオレを信じていいのか?」

もちろんだとブーンは言った。

(#゚;;-゚)「逃がさな――」

( ^ω^)「姉ちゃんの相手はボクだお」

背を向け、あの扉へ向かうドクオ。それを追うでぃをブーンが引き止める。
25 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:56:12.43 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「私はお前の姉とやらではないぞ」

( ^ω^)「姉ちゃんだお。顔が傷だらけになっててもわかるお」

風が舞い、剣が振られる。

(#゚;;-゚)「私はでぃだ。あの方に名づけてもらった」

( ^ω^)「しぃ姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「誰だそれは」

( ^ω^)「姉ちゃんの名前だお」

(#゚;;-゚)「知らん」

でぃは何度かドクオを追いかけようとしたが、その度にブーンがそれを防ぐ。
同じことを繰りかえしているうちに、先にブーンを倒した方が効率がいいと気づいたでぃは彼だけをその目に入れた。

(#゚;;-゚)「風よ――」

( ^ω^)「吸収させてもらうお!」

27 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 18:58:38.71 ID:OyaHFYQv0

二人がぶつかり合う。
彼女が風を出すならば、ブーンはそれを吸収し、また吐き出す。

(#゚;;-゚)「面倒」

剣を振るうが、素早いブーンには中々当たらない。
それでなくとも、土を操るブーンにより、炎が消されてしまうというのだ。

( ^ω^)「姉ちゃん。もうやめるお」

吸収した風を放出しながら言う。
けれどでぃは答えない。
炎をまとわぬ剣でブーンを狙う。

剣が空を切る。
ブーンは背をそらし、剣筋を避けると背を戻す反動ででぃを後ろに突き飛ばす。
予想もしていなかった反撃に、でぃは思わず地面に背をつけることとなった。

( ^ω^)「土よ、彼女の動きを封じよ」

(#゚;;-゚)「くっ」

土砂がでぃの腕や足にのしかかる。
いくら彼女でも、その重さから逃れることは簡単ではない。

暴れるでぃを見下ろし、ブーンは一息つく。

31 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:01:10.95 ID:OyaHFYQv0

殺されるのは嫌だが、殺すのも嫌だ。
気絶させるのが一番なのだろうが、そんな器用なことをブーンはできない。
弟者のように気絶させれたら格好良かっただろうとは思う。

(#゚;;-゚)「本当に馬鹿」

( ^ω^)「……お?」

体勢を立て直し、膝を地につけていたでぃがバネのように飛んだ。

(#゚;;-゚)「これで、どう」

上から串刺しにしようというのだろうか。
黙って受けるはずがない。ブーンも横に避けようと足を動かす。

(#゚;;-゚)「風よ彼者を閉じ込めよ」

( ^ω^)「魔法よ、我が身へ吸収されよ!」

慌てて壁を吸収する。
だが時間は多くない。

(#゚;;-゚)「無駄」

( ^ω^)「大丈夫、だお」


32 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:03:38.82 ID:OyaHFYQv0

壁を吸収しきったわけではなかったが、ずいぶんと薄くはなった。
ブーンは風を破壊するつもりで体を食い込ませる。
舞う風が体に当たり、小さな切り傷がいくつもできる。

(#゚;;-゚)「なっ」

それでもブーンは壁を抜けた。
的を失くしたでぃの剣は地面にぶつかる。
先ほどから使われている土系の魔法により、いくぶんか衝撃は緩和された。

( ^ω^)「痛かったお」

小さな傷口からはわずかに血がにじみ出ている。

(#゚;;-゚)「あのままなら、一瞬で楽になれた」

( ^ω^)「死にたくはないお」

(#゚;;-゚)「なら私を殺してみる?」

( ^ω^)「それも却下の方向でお願いしたいお」

(#゚;;-゚)「ダメ」
34 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:05:59.44 ID:OyaHFYQv0

でぃは剣に風をまとわせた。
風はうねり、先ほどブーンが味わった風の鋭さよりも数段上の鋭さがある。

( ^ω^)「土よ壁になれ」

(#゚;;-゚)「風よ圧力となり壁を崩せ」

壁が崩れ、向こう側にでぃの姿が見えた。
新たに呪文を紡ぐだけの時間はなかった。

魔法が使えないのならば、体を動かして避ければいい。
屈むか、横へ行くか。
一瞬考える。

( ^ω^)「横だお!」

屈めばブーンを串刺しにしそうだ。
先ほどの攻撃を見た後なので余計にそう感じる。
剣が左から右へと振られるので、左後ろへと足を置く。

(#゚;;-゚)「動かないで」

剣はブーンの服を少し切り裂いただけだ。
血も出ていない。


35 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:07:36.58 ID:OyaHFYQv0

( ^ω^)「……」

ブーンには一つ懸念していることがあった。
自分の中にある魔力が尽きてしまいそうになっている。
吸収や放出にもわずかながら魔力が必要だ。

戦い始めたばかりのでぃはまだ魔力に余裕があるだろう。
だが、ブーンは移動用の魔力を合成、放出もしている。

(#゚;;-゚)「魔力もうすぐなくなる?」

( ^ω^)「よくご存知で」

(#゚;;-゚)「死ぬ?」

( ^ω^)「死なないお」

でぃがブーンに向かって突っ込む。
少しでも魔力を温存しようと、ブーンは剣を避ける。

彼女が剣を振ると、ブーンは避ける。
壁際に追い詰められないように、適度に左右へ足を進める。


36 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:09:48.26 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「しつこい」

( ^ω^)「姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「その呼び方嫌い」

無表情だった顔が少しだけ怒りを帯びる。
眉間に寄ったしわを見て、ブーンは昔を思い出した。

( ^ω^)「姉ちゃんは相変わらず怒りっぽいお」

剣を避け、少し微笑む。

(#゚;;-゚)「呼ぶなと言ったはず」

再び左から右へと振られた剣を後ろへ飛び退き避ける。
かかったな。と、でぃの声が耳に届いた。

まだ壁際ではないはず。と、ブーンは地に足をつける前に思う。
空を切る音が聞こえた。

とっさに首を傾ける。

(#゚;;-゚)「勘のいい奴め」

( ;^ω^)「剣から風の斬撃?」

38 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:11:37.84 ID:OyaHFYQv0

ブーンが真後ろに飛ぶのを待っていたのだろう。
かすってしまった頬から一筋の血が流れた。

( ^ω^)「あと少しで死ぬところだったお」

(#゚;;-゚)「死んで欲しかった」

淡白な声と一緒に足音が響く。
真後ろに飛ぶまで待っていたということは、風の斬撃を飛ばせる方向は決まっているのだろう。
もう後ろには飛べない。だがでぃもただ剣を振り回すだけではない。

魔力を惜しみなく使い始めた。
ブーンが右へ避けるのならば、右に壁を作る。
左に避けるのならば左に壁を作る。

体力までもが底をつき始める。
息を荒くし、疲れでぼやけ始めた目ででぃを映す。

(#゚;;-゚)「そろそろ死ぬね」

( ;^ω^)「かも、しれないお」

これが現実だ。
奇跡なんて起こりはしない。殺らなければ殺られる。
嫌なものが見えてくる。


39 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:14:22.15 ID:OyaHFYQv0

( ^ω^)「なら、言っておきたいことがあるお」

(#゚;;-゚)「聞きたいことはない」

ブーンの言葉を聞こうともしない。
剣が振り下ろされる。

( ^ω^)「姉ちゃん」

右手に剣がわずかに食い込む。
血が流れるが、それ以上は食い込まない。

(#゚;;-゚)「離して」

( ^ω^)「ヤダお」

ボロボロになっているでぃの腕をしっかりと掴む。
剣は抜くことも刺すこともできない。

こうして近い距離で向かい合い、ブーンは姉の身長を抜いたのはいつだっただろうかと考える。
幼いころは強くて、大きな姉だった。
身長を抜いてもそれは変わらなかったはずだ。

( ^ω^)「小さいお」

(#゚;;-゚)「うるさい」

42 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:16:52.87 ID:OyaHFYQv0

目の前にいる姉の何と小さいことか。
抱き締めれば粉々になってしまうのではないか。

( ^ω^)「姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「呼ぶなと……」

( ^ω^)「姉ちゃん」

言いたいことがあった。

( ^ω^)「ここにきて、この政策のことを知って、ボクはとてもショックだったお。
       騙されたとか、死んでしまうとか、もちろんそれも怖かったけど、
       それよりももっと怖いことがあったんだお」

温和な表情が悲しみに彩られていく。
殺しあいを強要されたときを思う。

( ^ω^)「もう、姉ちゃんには二度と会えないんだって、思ったお」

でぃの腕を握る力が強くなる。

(#゚;;-゚)「痛い」

( ^ω^)「いつか、いつか言おうって。
       結婚式のスピーチとかで言おうって」

( ;ω;)「先延ばしに、しちゃって……」

44 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:18:38.86 ID:OyaHFYQv0

涙が零れ落ちる。
姉は将来を約束した恋人とここへ来た。
彼女が生きているということは、つまり彼は。

( ;ω;)「きっと生きて帰っても辛いお。
       でも、ボクは姉ちゃんが生きててくれて、本当に、嬉しかったお」

(#゚;;-゚)「泣くな。離せ」

( ;ω;)「ボクが死ぬにしても、姉ちゃんが死ぬにしても、
       一つだけ言っておきたいことがあるんだお」

涙をこぼしながらも口元をあげ、笑みを作る。


( ;ω;)「あの時はありがとう。ごめんね」


(#゚;;-゚)「あの時? 知らない」

( ;ω;)「覚えてないかお。ボクが小さいころ、魔法を使い始めたばかりのときだお」

静かにブーンは言葉を紡いでいく。
47 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:20:38.77 ID:OyaHFYQv0

( ;ω;)「ボクはよくみんなから虐められてたお」

他人の魔法を吸収し、放出するブーンは他人の力を使う卑怯者と言われていた。
よく虐められては涙を流し、剣士としての鍛錬をしていた姉に泣きついた。

( ;ω;)「そのたびに姉ちゃんはボクのことを叱ったお」

男のくせに弱虫だと言われた。
その言葉にブーンはまた泣き、姉はまた怒る。
繰りかえされる毎日の中で、ブーンは悲しみでいっぱいになった。

( ;ω;)「でも、だんだんボクのことを悪く言う人は減っていったんだお」

ブーンはその理由を知らなかった。
知らないフリをしていた。

( ;ω;)「本当は、何で減っていったか知ってるんだお」

(#゚;;-゚)「……何、を」

( ;ω;)「姉ちゃんが影でボクを助けてくれてたって」

でぃの腕からわずかに力が抜けた。

49 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:22:31.77 ID:OyaHFYQv0

( ;ω;)「時々、怪我をして帰ってくるから変だとは思ってたんだお」

いつも彼女は特訓の成果だと笑っていたが、それにしては怪我のしかたがおかしかった。
幼いながらにも疑問に思ったブーンは、ある日影から姉を見ていた。

「うちの弟を虐めてるのは誰よ!」

そんな風に叫んでいるのを聞いた。
強い姉ではあったが、所詮は女の子だ。複数の男子に囲まれれば無傷ではいられない。
彼らが泣き帰るころには姉の体は傷だらけだった。

( ;ω;)「みんなのお母さんやお父さんが怒ってうちに来たとき、姉ちゃんはボクを追い払ったお。
       全部、全部姉ちゃんの優しさだったお」

ありがとう、と素直に言えなかったのは、幼い男の子のプライドだった。
姉ちゃんも隠したがっていると自分に言い分けもした。
そうして大きくなってきた。いつか言ってやろうと心の端に感情を寄せていた。

(#゚;;-゚)「……黙れ」

( ;ω;)「ありがとう。本当に、姉ちゃん」

(# ;;- )「うるさい!」

でぃが剣を離し、ブーンを突き飛ばす。

51 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:24:46.84 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「……お前は何を言っている?」

( ^ω^)「姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「私の何を知っている?」

( ^ω^)「姉ちゃんは優しいままだお」

(#゚;;-゚)「死の恐怖と孤独の冷たさ」

( ^ω^)「だって、さっきも」

(#゚;;-゚)「目の前でただの肉になっていく人々」

( ^ω^)「ボクに魔法を使わなかったお」

(#゚;;-゚)

魔法は片手が使えれば放つことができる。
ブーンに腕を抑えられているとは言っても、片方だけだ。風を使い、ブーンを突き放すこともできた。

なのにでぃはブーンの話を聞いてくれた。
懺悔と感謝の吐露を聞いてくれた。

53 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:26:35.59 ID:OyaHFYQv0


( ^ω^)「大好きだお。しぃ姉ちゃん」


一歩前へ進み、でぃへ近づく。
でぃは一歩退いた。

何か恐ろしいものでも見ているかのようにゆっくりと首を左右に振る。

(#゚;;-゚)「……こないで」

( ^ω^)「姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「どうしてくるの」

その手にもう剣はない。
彼女に先ほどまでの威圧感はない。
目の前にいるのは弱々しい女の子だ。

( ^ω^)「ボクも覚悟するお」

死ぬ覚悟か、殺す覚悟か。

(#゚;;-゚)

小さな口が開かれる。
55 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:29:04.09 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「ブーン」

優しい声だ。
昔と少しも変わらない声だった。

( ^ω^)「ね、姉ちゃん!」

(#゚;;-゚)「その名前は覚えておく」

声とは裏腹に冷たい目がブーンを射抜く。
一瞬ひるみ、退いたところにでぃが駆ける。
固く握られた拳を鳩尾に叩きこむ。

(  ゚ω゚)そ

腹を抑え、地面に膝をつく。
その横ででぃは自分の剣を手にしていた。

(#゚;;-゚)「殺してあげる」

剣が振られる。
ブーンは転がるようにそれを避ける。
追いかけるようにでぃが剣を上から下へと刺していく。

( ^ω^)「ごほっ……あ、危ないお」

(#゚;;-゚)「死んでほしいから」


56 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:31:55.66 ID:OyaHFYQv0

( ^ω^)「……姉ちゃん」

地面に手をついたままでぃを見上げる。

(#゚;;-゚)「さようなら」

( ^ω^)「……さようなら」

別れを告げる。
でぃは剣を振り下ろし、ブーンは呪文を唱えた。

剣がブーンを貫こうとする。
魔力を受けた土が鋭く尖りでぃを狙う。

二つが交差した。

58 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:34:05.85 ID:OyaHFYQv0

(  ω )

(# ;;- )


ドサリ、と倒れる音がした。
赤い血が流れていく。

後に残ったのは一瞬の静寂と、小さな嗚咽だった。

頬を伝う涙が下へ落ち、シミを作っていく。
一つ、また一つとシミが増えていく。
同時に嗚咽が大きくなっていった。

愛していた兄弟を手にかけてしまった。
許されることではない。どのように罪を償えばいいのかもわからない。
一人頭を抱えるしかできない。
進む時間の中、孤独と戦っていると、嗚咽が響く部屋の中にあるもう一つの音に気づいた。

それは呼吸だった。
生きようとする行為だった。

慌てて倒れている体に耳を寄せる。
確かに音はそこから出ていた。
よく見れば胸も上下に動いている。


59 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 19:37:11.73 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「ブーン、あなたは私が守るから」

涙を拭い、しぃは弟の腕を肩に回し立ち上がらせる。
幸い、この場所についての記憶はよく残っている。
階段を登れば城の庭に通じている。
外にさえ出ることができれば医者に会うこともできるだろう。

ブーンには剣が未だ刺さっている。
抜いてやりたい気持ちはあるが、それによりさらなる出血をもたらすのではとでぃは触れられない。
傷口に気をつかいながら一歩ずつ慎重に歩みを進める。

(#゚;;-゚)「本当、あんたも大きくなって……」

(#゚;;-゚)「あんたに泣かされる日がくるなんて、思ってもみなかったわよ」

ありがとうもごめんなさいもしぃの心に深く染み込んだ。
呪いの檻の中でしぃは泣いていた。早く殺してくれと叫んでいた。

(#゚;;-゚)「こっちこそありがとう」

ブーンはでぃの胸に鋭い土が刺さる直前、魔法を解除したのだ。
覚悟が足りなかったのか、元々殺されるつもりだったのかは計りかねる。

(#゚;;-゚)「早く家に帰りたいね」


第九話 完

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