69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:14:42.39 ID:75ow04D+0

しげみの向こう側から現れたのは、一人の女だった。


(゚、゚トソン「あなた方が不穏な動きをするから、あたしが働かないといけなくなったじゃないですか」


現れた女の手には、胴体と切り離された首があった。女は首の髪を掴んでいるが、そこにも血がついている。
先ほどから感じる鉄の匂いはそれが原因だろう。


( ;^ω^)「うっ……」


ブーンは思わず口を抑えた。
本物の死体を見るのは始めてだ。
他の三人は青ざめてはいるものの、ブーンのような反応は示さない。


(゚、゚トソン「死んでくださいね」


首を地面に落とし、切先を四人へ向ける。
兄者はブーンの腕を掴み、素早く後ろへさがる。

逆に、弟者は前へ踊り出た。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:18:54.00 ID:75ow04D+0

(゚、゚トソン「ほう。勇気がありますね。それとも無謀?」


振られた剣をしゃがんで避ける。
そのまま開いた腰に向かって地を蹴った。

地面に押し倒してやろうかと思っていたが、相手も馬鹿ではない。
後ろへさがり、突くように剣を前へ出す。
弟者は顔をそらせ、何とか避けるが、目の前にまできた切先に冷汗を流す。

一息つきたいところではあったが、相手がそれを許してくれるとは思えない。
すぐさま後ろに手をつき、真上にある女の顎を蹴り上げる。


(゚、゚トソン「あなた、本当に魔術師ですか? 格闘家じゃなくて?」

(´<_` )「うちの母者はもっと強いからな」


女は口元の血を拭う。
そこで始めて気がついた。

先ほどまでいた三人がいない。


('A`)「氷よ、彼者と地面を繋げ!」


呪文が聞こえた。
足元を見ると、氷が地面から迫ってきている。


(゚、゚トソン「危ないですね」

( ^ω^)「そうはさせないお!」

地を蹴り、上へ逃げようとしたが、突如真上から現れたブーンによってそれは阻止された。
どこから現れたのかと上を見渡すが木もなく、金属の天井が見えるだけだ。


('A`)「ナイス!」

( ´_ゝ`)「ブーン離すなよ!」


女がブーンを振り落とそうともがくが、体格の差もあってか振り落とすことができない。
そうこうしている間にも、氷は女の足を覆っていく。
何とかブーンを引き剥がしたころには、膝の辺りまで氷が侵食していた。


(゚、゚トソン「炎よ、その業火で氷を溶かせ!」

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:21:19.52 ID:75ow04D+0

女の魔法が発動する。
ドクオが作り出した氷を炎が覆い、ただの水へと変えていく。
再び自由の身になった女は、地面に転がっているブーンを標的にした。


( ^ω^)「やめるお! ボクはただ生きて帰りたいだけなんだお!」


剣筋を何とか避け、言葉を発する。
こんなことを言っても無駄だということはわかっていたが、言わずにはいられなかった。


(゚、゚トソン「そうですか。あたしも生きたかったです」


剣が振られる。避けきれないと、ブーンは覚悟を決める。もはや、指を動かす時間さえない。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:24:18.88 ID:75ow04D+0

自分の死ぬ瞬間をしっかり目に収めようと、必死にまぶたを開けていたブーンには見えた。
女の剣に向かって、拳ほどの大きさを持った石が飛んでいくのが。その石は女の剣を弾き、ブーンの命を助けた。

それだけではない。弾かれ、女の手が緩んだ隙を狙ったかのように、剣は宙へ浮かんだのだ。


( ´_ゝ`)「大丈夫か?」


兄者の魔法だということはすぐにわかった。


( ^ω^)「ありがとうだお!」


礼を言っている隣を弟者が駆ける。
己の持っていた剣が宙へ浮かぶという異常事態に、呆然としている女を狙っているのだ。

一撃目は鳩尾に。
思わず腹を抱えた女の顔面を容赦なく殴る。
後ろに吹き飛ばされ、地面に背中を預けることとなった女の腕を踏みつける。


(´<_` )「魔法は手が使えないと発動できない。知ってたか?」


まさに悪人面だ。

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:27:23.79 ID:75ow04D+0

(゚、゚トソン「知ってるさ」


今、女の両腕は弟者に踏みつけられている。
これでは魔法は使えない。


('A`)「なあ、どうやったらここから出れるんだ?」


それだけ答えてくれれば、解放するとドクオは言う。
しかし女は薄ら笑いを浮かべるだけで、答えようとはしない。


(´<_` )「殺してやろうか」


足を乗せている腕に、タバコの火を消す要領で負荷を与える。


(´<_` )「お前は王側の人間なんだろ? なら、ここの地図くらいは持ってるんじゃないのか?」


身ぐるみを剥がしてやると告げる。

83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:30:55.01 ID:75ow04D+0

弟者は良い人間とはいいがたい。
しかし、極悪非道というには普通の人間だった。
劣等性を嫌い、無視をする程度で、他人へ殺すなどと簡単に言う人間ではないはずだ。


('A`)(……ああ、わかった)


今のドクオには他の人と同じものしか見えていない。だが、ここへくる前に見たあの黒さが忘れられない。
あの黒さは人の心にも影響するのだろう。

人が平気で人を殺せるように。

弟者だけがその影響を受けているのは、彼が一番普通の人間だったというだけの話だ。
死を受け入れてここへきた兄者と、他人を傷つけることを強く否定するブーン。彼らの心には他人を傷つける種がないのだろう。
ドクオの場合は、家系的にも呪いや心への干渉に対する耐性がついている。


( ^ω^)「弟者やめるお」

( ´_ゝ`)「殺す必要はないだろ」


二人が女を庇う。
そのことが弟者の心をさらに波をたてる。
85 :>>83 変な改行入った 気にしないで欲しい:2010/09/12(日) 23:33:31.89 ID:75ow04D+0

( ´_ゝ`)「それよりも、あんたはさっき「生きたかった」と言ったな?」


女は確かに「あたしも生きたかったです」と言っていた。
その言葉の意味するところは、王側の人間とて安全を保障されているわけではないということだ。


(゚、゚トソン「……そうですよ。生きたかった。生きて、妹に会いたかった」


薄ら笑いを浮かべていた顔は、目を伏せ寂しそうな表情へと変わる。


(゚、゚トソン「あたしもあなた方と同じ。この出入り口もない、密室に閉じ込められた人間なんですよ」


出入り口もない密室。聞きたくない言葉だった。
移動用の魔法陣によって連れてこられたので、頭の隅ではその可能性も考えていた。
考えているだけで、口にしなかったのは認めたくなかったからにすぎない。


( ^ω^)「か、帰るための魔法陣は?!」

(゚、゚トソン「最後の一人になったとき、王の使いが持ってきますよ。
     精々殺し合ってください。あたしもそうしてきました」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:36:29.58 ID:75ow04D+0

この空間にいる誰もが、命を保障されていない。
生き延びたければ殺さなければいけない。
王側の人間も、最後まで生き残るしかここを抜ける術がないようだ。


( ´_ゝ`)「なんで、こんなところに……」


拒否権はなかったのだろうか。
ただの殺人鬼という可能性も否めないが、殺人鬼が生きたいや妹となどという言葉を口にするとは思えない。


(;、;トソン「あなたに何がわかると言うのです!
      私が死ねば、私が殺せば、妹は助かるというのに!
      どうしてこれを拒否しなければならないのですか!」


吐き気がした。
この国は腐っている。

身内を人質に、死んで欲しいと頼む王がどこにいるというのだ。


(;、;トソン「さあ殺してくださいよ! もうこんな場所ごめんです!」



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:39:21.96 ID:75ow04D+0

涙を流し、懇願するように叫ぶ。
生きたいのではないのか。そんな言葉を口にする気にもなれない。


( ´_ゝ`)「……弟者」

(´<_` )「指示すんな」


女の胸倉を掴み上げる。未だに女は殺せと言い続けていた。
言葉がやんだのは弟者が手刀を女の首に入れたときだった。


('A`)「……流石」

( ^ω^)「弟者怖いお」


伊達に母者の息子ではない。女を一人気絶させるていど、朝飯前のことだ。

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:42:29.98 ID:75ow04D+0

女をその場に寝かせ、四人は移動することにした。
先ほどの騒ぎを聞きつけた人間と鉢合わせるのは遠慮したい。

森の中へ入り、人の気配がないところで腰を降ろす。
体力のない兄者はすでに息が上がっている。


('A`)「で、これからどうするよ」


壁を一周してみれば何かが見つかるかもしれない。そんな案はあの女の口から聞かされた言葉によって消え去った。

( ^ω^)「うーん。壁は特殊金属。出入り口なし」

( ´_ゝ`)「……絶望的だな」


移動用魔法陣があればともらすと、弟者が殺気のこもった目を向けてくる。


(´<_` )「ここに来るまでに、移動用魔法陣を回収する時間があったわけねーだろうが」


クズ。と最後につけて顔を背ける。
言葉を投げられた兄者は少し困ったような顔をしたものの、何も言い返さない。


92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:45:28.50 ID:75ow04D+0

('A`)「ま、あと少しでここへの魔法陣が消されるところだったしな」


何かのフォローになればいいと思い言ってみたが、場の雰囲気は改善されない。
弟者と兄者からすれば、いつも通りの空気なのだろうが、ドクオやブーンからしてみれば重すぎる空気だ。


('A`)「あ、そういえば、ブーンはどんな魔法を使うんだ?」


ドクオや弟者の魔法については兄者が説明していたが、ブーンの魔法については何も聞かされていない。
今の戦力を考えるのと同時に、空気も変えることができるのではないかという期待も込められている。


( ^ω^)「ボクは土系と吸収、放出系が使えるお」

('A`)「また珍しい魔法だな」


暇つぶしにと読んでいた本にそんな魔法が記されていたと、記憶を掘り起こす。


('A`)「魔法を混ぜてることもできるらしいな」

( ^ω^)「よく知ってるおね」
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:48:26.85 ID:75ow04D+0

ブーン自身、自分の力を完璧に使いこなせているわけではないらしく、魔法の合成は不得意らしい。
二人の会話を聞いていたのか、弟者が立ち上がりブーンの方へ近づく。


( ;^ω^)「な、な、何だお?」


先ほどの戦いで、弟者の強さも非道さも見せつけられた。
出会ってわずかな時間しか経っていないブーンからすれば、弟者は恐怖の塊だ。


(´<_` )「合成、できないわけじゃないんだな」

( ^ω^)「……お、でも、問題があるお」

(´<_` )「問題?」


力を使いこなせていないブーンには制限があった。


( ^ω^)「同じ波長の魔力しか合成できないんだお」


魔力の波長は人によって大きく変わる。
まれに同じ波長を持つ人間がいるが、そういった人物と出会える可能性は0に等しい。


95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:51:28.32 ID:75ow04D+0


(´<_` )「……まあ、問題ない」


苦虫を噛み潰したような口調だった。
問題ないと言いつつも、魔力の波長が同じでない合成できないというデメリットは大きい。

目の前でブツブツと何かを呟いている弟者に、ブーンはすぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
不安と恐怖から兄者の方へ視線を向けるが、助けの手は伸びてこない。
兄者は一度だけ弟者の方を見て、大丈夫だと言いたげな瞳を向けてきた。


現時点で大丈夫でないのはブーンの心だ。このまま真っ二つに裂けてしまうような気さえする。


一刻も早く弟者の中で結論が出るようにと、冷汗を出しきってしまったブーンは神に祈る。
いくら何でもこの状態は酷い。酷く恐ろしい。



神に祈りが通じたのか、弟者はようやく口を開いた。



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:54:35.79 ID:75ow04D+0

(´<_` )「逆行用移動魔法陣なら、作れるかもしれない」



('A`)

( ´_ゝ`)

( ^ω^)


しかし、誰も賞賛の声を上げない。
むしろ首を傾げている。


(´<_`# )


弟者の眉間にしわが入ったところで、ブーンが落ち着いてその言葉の意味を説明して欲しいと述べる。
ひたすらに低姿勢を心がけたかいがあったのか、弟者は落ち着きを取り戻し、説明に移ってくれた。


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/12(日) 23:57:31.95 ID:75ow04D+0

移動用の魔法陣は二つの魔法を合成した魔力を使っている。
具体的に言うならば、浮遊系と電気系だ。
この二つの魔力を合成用の機械に投入すれば、移動用の魔力が作られる。

そのため、魔法を合成する人間がいれば移動用の魔力は作ることができる。
どちらの魔法も珍しいものではなく、お手軽に作ることができる。

問題を上げるならば、合成するための機械の値が張ることと、浮遊系の魔力を放出するのが難しいという点だ。


('A`)「五大元素とかは外への力だけど、浮遊系は内への力だからな」

(´<_` )「でも、できるんだろ」

( ´_ゝ`)「できるよ」


幸運なことに、兄者は浮遊系が得意だった。
内へ向ける力を外へ向けることができる。


( ^ω^)「でも、兄者は浮遊系しか使えないお」


同じ波長の魔力が必要だ。
都合よく、同じ波長の人物がいるとは思えない。
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/13(月) 00:00:18.08 ID:ox/57IeC0

(´<_` )「魔力の波長が同じ双子ってのはかなり多い」


特に一卵性の双子ならば魔力の波長が同じ確率は上がる。
兄者と弟者はそっくりな顔から見てもわかるように、一卵性の双子だ。


('A`)「なるほど」


魔力の波長が合っているかわからないための不快感。兄者と協力しなければならない嫌悪感。
眉間にしわがよるわけだ。


(´<_` )「逆行用なら場所指定の小難しい陣もいらない」

( ^ω^)「逆行用ってなんだお」

(´<_` )「簡単に言うと、前の場所に戻れる」


移動用魔法陣を使うと、一週間ほどは移動前の場所と自分を魔力の欠片が繋いでいる。
逆行用はそれをさかのぼるためのものだ。
戻ることしかできないので、使い道はあまりないが、陣を組むのは簡単だ。


101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/13(月) 00:03:27.21 ID:ox/57IeC0

('A`)「いける。これならいける!」


希望の光が見えてきた。
戻ったところで、城の内部であることに変わりはないが、ずっとここにいるよりは未来があるだろう。


( ´_ゝ`)「ブーン。すぐできるか?」

( ;^ω^)「うーん。たぶんできると思うお」

(´<_` )「ならオレが先に電気系を使うぞ」


手をブーンにむけて呪文を唱える。


(´<_` )「電流よ彼者へ向かって進め」


電気が音をたてながらブーンへと向かう。
まともにくらえば火傷ではすまないだろう威力に、避けたい気持ちに襲われる。


( ^ω^)「…………」


しかしやらなければいけない。


102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/13(月) 00:06:36.32 ID:ox/57IeC0


( ^ω^)「魔法よ、我が身へ吸収されよ」



弟者の魔法がブーンに吸収される。
光が収まり、辺りには静けさが戻る。


('A`)「本当に吸収した……」


小さく呟く。
いくら吸収、放出系について知っていたとしても、所詮は文章で見ただけだ。
実際に見たときの感動とは天と地ほどの差がある。


( ^ω^)「次は兄者の番だお」

( ´_ゝ`)「おう」


兄者が手を伸ばす。
浮遊系の魔力が外へ放出されても人の目には見えない。
発動している本人がそれを感じる程度にしかならないのだ。

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/13(月) 00:09:21.71 ID:ox/57IeC0

どのタイミングで呪文を唱えればいいのか迷っていると兄者が今だと言ってくれた。


( ^ω^)「魔法よ、我が身へ――」



( <●><●>) 「生き残るのは私です」


兄者の後ろに誰かがいた。
手には炎をまとわせた剣を握っている。

声に気づいて兄者が振り返るがもう遅い。


('A`)「兄者!」


ドクオが駆けた。
しかし、あの速度では間に合わない。
呪文すらもう間に合わないだろう。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/13(月) 00:12:21.10 ID:ox/57IeC0



( ´_ゝ`)「あ…………」



肉の焼ける匂いと、赤い血が地面に落ちる音がした。



( <_  )




( ´_ゝ`)「あ、あ……」


地面から見上げる。
そこに見えるのはよく似た顔の死にそうな姿。


('A`)「う、そ……だろ」




107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/13(月) 00:15:30.83 ID:ox/57IeC0



( ´_ゝ`)「弟者…………」



目を見開き、その姿を視界に収める。
どれだけ見ても変わらない。



( ´_ゝ`)「弟者!」




( <_  )





第六話 完

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