5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:10:20.91 ID:nP2feQXR0

奇妙な感覚から解き放たれ、目を開けてみる。


( ´_ゝ`)「おお……」


目の前に見えた光景は、今まで見たこともないような絢爛豪華な大広間だった。
壁には大きな絵画が飾られており、所々に見るからに高そうなツボがある。
大理石の床には黒い線が引かれており、上から見れば一つの紋様になっているのだろう。

そんなところに集められている人間は、誰も彼も地味で、大広間には不釣合いであった。


( ´_ゝ`)「ま、オレもか」


皆、地方から集められた優秀で、将来有望な人達なのだろう。
年齢も皆似たようなものだと予想できる。本当に教育のためだけに集められたのならば、
仲良くなれたのかもしれない。


( ´_ゝ`)「そのときは弟者に変わってもらうけど」


一人呟く。
教育のためならば、自分こそが一番ここの場に不釣合いだ。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:13:16.14 ID:nP2feQXR0


( ´ー`)「みんな、同じように集められた人間だーよ」


隣にいた騎士が言う。


( ´_ゝ`)「これからどうするんですか?」

( ´ー`)「もうすぐ王様が来て、説明してくれる。
      それまで待ってるがいーよ」


それだけ言うと、騎士は背を向けて去っていく。
兄者にはドクオのような目はないが、彼がこれ以上関わることを嫌がっているのはわかった。

無理に引き止めることもないと思い、兄者は適当に辺りを見回す。

こんなことでもなければ、見ることもなかったような物。
楽しげに交流を深めている人達。

この空間で、兄者は自分だけが異質のように感じた。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:16:50.81 ID:nP2feQXR0


( ^ω^)「おっおっ! 何でそんなに暗い顔してるんだお?」


ぼんやりしていると、少し太っている男が声をかけてきた。
能天気そうな顔をしている。きっと、殺しあいなど考えもしていないのだろう。


( ´_ゝ`)「いや……別に」

( ^ω^)「別にって風には――」


彼の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
視界が歪んだ。ここへきたときと同じような感覚だ。

白い光りに包まれながら、兄者は足元に見えた線が移動用の魔法陣になっていたのだろうと気づいた。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:19:15.48 ID:nP2feQXR0

光りが収まり、目を開ける。


( ´_ゝ`)「ここは?」


ありきたりな言葉だったが、それ以外の言葉は思いつかなかった。

周りは鬱蒼としげる木々と草花。
上を見上げてみると、灰色の金属でできた天井がある。


『有望な魔術師の諸君。集まってくれてありがとうモナ。私はモナー王モナ』


どこからともなく、声が聞こえてきた。


『今、キミ達がいるのは城の地下にある部屋モナ。
 特殊合金でできた壁で、そうそうのことでは壊れないから安心するモナ』


何が安心できるのかはわからないが、こちらが口を挟めるとは思えない。


『キミ達が最後の一人になるまで、そこからは出れないモナ』

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:22:09.54 ID:nP2feQXR0

( ´_ゝ`)「やっぱりか」


ドクオの言葉が正しかったと証明された。
近くには誰もいないが、歩いていれば誰かと出会い、殺されてしまうのだろう。


『あと、協力を防止するためにこちらからのスパイも送らせてもらってるモナ。
 キミ達の中には、殺意を持っている人間がいることを忘れないようにしてほしいモナ。
 死にたくなければ、殺すしかないモナよ』


( ´_ゝ`)「悪趣味だな……」


眉をよせる。
そこまでして殺しあわせたい理由がわからない。

隣国と戦争をするにしても、もっとまともなやり方があるはずだ。


( ´_ゝ`)「関係ないか」


優秀な魔術師の中に、一人放り込まれた劣等性。
生き残る確率など、万に一つもないだろう。


( ´_ゝ`)「どうせなら苦しまずにサックリといきたいな」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:25:09.78 ID:nP2feQXR0

適当に歩いていると、草むらから音がした。
スパイだろうと、集められた者だろうと、関係ない。


( ´_ゝ`)


兄者は黙って音の方を見る。
一応、抵抗する姿勢を見せていないと、怪しまれるかもしれない。

腰を低くし、呪文を唱える準備をする。
使える魔法など、一種類しかないが。



( ;ω;)「うおおおおん!」


草むらから出てきたのは、どの予想とも違った。
出てきたのは情けなく涙を流している男だった。


( ´_ゝ`)そ「うおっ!」


突撃してきた男に、兄者は呪文を唱えることもできず地面に叩きつけられた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:28:13.83 ID:nP2feQXR0


( ;ω;)「殺さないでほしいお!
       ボクも絶対にキミを殺さないお!」


兄者を地面に抑えつけながら、男は涙を流している。
小石が素肌に刺さって痛い。地味な痛みに兄者は呻く。


( ;´_ゝ`)「わかった! わかったから離してくれ!」


このままの姿勢でいるくらいならば、さっさと殺してもらったほうがマシだ。
必死の声に、男はハッとしたように兄者から離れる。


( ;^ω^)「す、すみませんお」

( ´_ゝ`)「大丈夫だ。ちょっと痛かったが」


ローブについた土を払い、目の前にいる男と向きあう。
見れば、魔法陣が発動する寸前に話していた男だ。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:31:15.24 ID:nP2feQXR0


( ^ω^)「ボク、内藤ホライゾンっていうんだお」


右手が差し出される。
一瞬迷ったが、兄者はそれを掴む。


( ´_ゝ`)「……流石、弟者だ」


どこかに隠しカメラや盗聴器があるかもしれない。
騎士は誰でもいいと言っていたので、劣等性だとばれたところで、
弟者が連れてこられるわけではないだろうが、念のためだ。


( ^ω^)「あ、ブーンって呼んでほしいお」


握った手を上下に振りながら、ブーンは笑っている。
今の状況に似つかわしくない光景だ。


( ´_ゝ`)「お前、殺さないって言ってたよな」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:34:07.38 ID:nP2feQXR0

兄者の言葉に、ブーンの動きが止まる。


( ^ω^)「誰も殺したくないお……」

( ´_ゝ`)「そりゃそうだろうが、殺されるだけだぞ」


スパイを送りこむことにより、誰も信じることができないようにされている。
話し合いが通用する相手が見つかるとは思えない。


( ^ω^)「でも……。ボクは殺したくないお」

( ´_ゝ`)「誰だってそうだろう」



殺したくない。だが、殺さなければ殺される。
ただそれだけの話だ。割り切るしかない。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:37:18.71 ID:nP2feQXR0

( ^ω^)「……弟者はどうして、そうも冷静にいられるんだお?」


問われて、兄者は顎をさする。
誰でも、突然このような状態に放りこまれれば混乱するだろう。
すぐに頭を切り替えられる人間などいない。

結論を述べるのであれば、兄者は覚悟をしてきているからだ。
いい加減、あの町で暮らすのは疲れたというのもあるのだろう。


( ´_ゝ`)「答えかねるな」


理由はどれも言えないことばかりだ。


( ^ω^)「でも、きっと、ボクよりかは、今の状況について知ってるんだお?」


真っ直ぐな瞳が兄者を射抜く。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:40:08.39 ID:nP2feQXR0


( ´_ゝ`)「……まあ、そうだろうな」


この程度のことならば、答えても問題ないだろう。
兄者は頷いた。


( ^ω^)「なら、一つだけ、一つだけ教えて欲しいお」

( ´_ゝ`)「何だ?」

( ^ω^)「これは、前から続けられているのかお?」

( ´_ゝ`)「そうだろうな」


言葉が返された後、ブーンは目を見開く。
その後、大粒の涙をこぼし始めた。

先ほどのような、混乱の涙とは違う。悲しみの涙だ。


( ;ω;)



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:43:07.55 ID:nP2feQXR0

声を上げることもなく、ただただ涙を流す。
その光景があまりにも悲しげで、兄者は不安にかられる。


( ;´_ゝ`)「お、おい……。泣きやめよ」

( ;ω;)「むっ、無理、だ、お」


二人がいる場所は開けた場所だ。このまま泣いていれば、
覚悟を決めた者やスパイの餌食となるしかないだろう。


死が怖いとは思わないが、このまま死んでしまうのは嫌だ。


兄者はブーンの手を引いて茂みへと入って行った。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:47:03.62 ID:nP2feQXR0

( ´_ゝ`)「とりあえず落ち着け。話くらいなら聞いてやるから」


泣いている人間の慰め方など、話を聞いてやるくらいしかわからない。


( ;ω;)「あ、ありがとう……だ、お」


涙を服の袖で拭く。
だが、すぐに涙が溢れ、頬には涙が流れ続けている。


( ;ω;)「ボクの、ボクの姉さん」

( ´_ゝ`)「姉さん?」


兄者の頭に浮かんだのは、一年ほど顔を見ていない姉の姿だ。
少々強引なところはあったが、優しい姉だった。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:50:10.98 ID:nP2feQXR0



( ;ω;)「婚約者と一緒に、ここにきたんだお」



( ´_ゝ`)



かける言葉が見つからない。



( ;ω;)「別の町で住んでいたけど、騎士に連れられて、
       城へ行ったって、婚約者の家から手紙がきたんだお」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:53:13.29 ID:nP2feQXR0

王が魔術師を集め始めたのは、一年ほど前からだ。
丁度、王の息子が城を離れ、視察に行ったころのことで、
息子の代わりに魔術師を育てるのだとまで言われていた。


( ´_ゝ`)「……本人から、連絡は?」

( ;ω;)「い、ちども……ない、お」

( ´_ゝ`)「……そうか」


生きてはいないだろう。
ブーンの姉がどれほどの実力を持っていたのかはわからない。
だが、連絡がないということは、そういうことなのだろう。


( ;ω;)「とても、優しくて……」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:56:18.53 ID:nP2feQXR0

姉は優しかったそうだ。
ときに厳しく、ときに優しく。
喧嘩をしたこともあったが、大好きな姉だったと言う。

彼女は城から帰ったら結婚すると、婚約者の両親に言っていたのだそうだ。


( ;ω;)「ボクは、そのときに告白するつもりだったんだお」

( ´_ゝ`)「告白?」

( ;ω;)「故郷に、好きな人がいるんだお」


その子はブーンの住む町でも人気のある子だった。
厳しい言葉を吐きながらも、優しく手を差し伸べてくれる。


( ;ω;)「人を殺してしまったら、ツンに触れないお」


まるで漫画のようだと兄者は思った。
血で濡れた手では大切な人に触れることができない。
そんなことを気にする意味が理解できない。

死んでしまっては意味がないだろうに。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 23:59:08.77 ID:nP2feQXR0


( ;ω;)


けれど、それを気にするのだ。
彼は心優しい人間なのだろう。

姉を失い、大切な人に触れることができない。
ここで死んでしまうということも多いにありえる。
悲しいことだ。


( ´_ゝ`)


死ぬ覚悟ならある。
ならば、殺す覚悟もできるだろう。

彼の覚悟が決まるまで、あるいは自分が死ぬまで、
手助けをするのは悪いことではない。


( ´_ゝ`)「とりあえず、オレと脱出方法を探さないか?」

( ;ω;)「おっ?」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:01:55.27 ID:8jsZP5DN0

どうにか生きる術を探そうと誘う。

この状況に長時間漬かっていれば、いずれ覚悟もできるだろう。
一先ず、ブーンに現実と希望を見せる。


( ´_ゝ`)「敵に会ったら逃げる。ここから逃げる方法を探す」

( ^ω^)「……弟者、いいのかお?」


ブーンは涙を拭う。
自分がどれほどの醜態をさらしていたのかは理解している。
理解しつつも、感情を抑えることができなかった。


( ´_ゝ`)「どういう意味だ?」


何故、いいのかと聞かれたのだろうか。
兄者は首を傾げる。
逃げたいと、生きたいと思うのは当然のことだ。


( ^ω^)「このことを知っててきたってことは、
       死ぬことも、殺すことも了承していたってことだお?」



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:04:18.46 ID:8jsZP5DN0

正直なところ、兄者は目の前にいる男のことを見くびっていた。
優しくはあるが、臆病で、勘の鈍そうな男だと認識していた。

だが、彼は兄者の心を見抜いていた。


( ´_ゝ`)「……いいさ」

( ^ω^)「さっき、握手したお」

( ´_ゝ`)「ん? ああ、したな」

( ^ω^)「だから、ボクらは友達だお」


何を言いたいのか見当もつかない。


( ^ω^)「ボクは弟者と一緒に、生きてここから逃げるお」

( ´_ゝ`)「…………盗聴器とかあったら、どうするんだ」


ブーンは口を抑え、辺りを見回す。

そんなブーンを見ながら、兄者は小さく笑っていた。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:07:11.47 ID:8jsZP5DN0

( ´_ゝ`)「ま、むこうもこのくらいは想定済みだろう」


スパイとやらがやってきて、二人を襲うというのならば、そいつを殺せばいい。
無理ならば、ブーンだけでも逃がす。


( ^ω^)「ところで、弟者は何の魔法が得意なんだお?」

( ´_ゝ`)「え」

( ^ω^)「これから協力していかなきゃなんだから、
       お互いのことを知っておくべきだと思うお」


正論だ。
正論すぎて、兄者は冷汗が流れた。

残念なことだが、彼は劣等性だ。
姿こそ弟者と瓜二つであるが、魔法の面では到底及ばない。


( ;´_ゝ`)「あー、基本元素五つと、回復、んで浮遊系だ。
       一番得意なのは浮遊系な」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:10:08.87 ID:8jsZP5DN0

いくつかの嘘をつく。
本当のことは浮遊系が得意というところだけだ。


( ^ω^)「七つも使えるのかお! すごいお!」


尊敬の眼差しを向けられ、兄者は居心地が悪くなる。
優秀な弟を騙るというのはどうにも気持ちが悪い。


( ^ω^)「ブーンは土系と、吸収、放出系だお」

( ´_ゝ`)「吸収、放出系?」


基本元素の魔法でない特殊魔法なのだろう。
ブーンの言った魔法について兄者は知識がなかった。

特殊魔法は家系や突然変異で生まれる。
その珍しさから、記述も基本元素と比べると少ない。


( ^ω^)「他人の魔法を吸収して、自分の魔法として放出できるんだお」


手が近くに落ちていた枝に向けられる。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:13:17.46 ID:8jsZP5DN0

( ^ω^)「吸収されし魔法よ、落ちし枝へわずかな炎を灯せ」


呪文が終わると同時に、落ちていた枝へ小さな炎が灯る。


( ^ω^)「これはボクが町の友人にもらった魔法だお」

( ´_ゝ`)「便利だな。どんな魔法でも吸収できるのか?」


どのような魔法でも吸収できるのだとすれば、
下手な防御魔法よりも、魔法を防ぐ効果があるだろおう。


( ^ω^)「攻撃魔法は簡単に吸収できるお。でも、制限があるんだお」

( ´_ゝ`)「制限?」

( ^ω^)「魔法を吸収すると、その威力や特殊さに応じて
       満腹感が得られるんだお」


膨れた腹を撫でながら言葉を続ける。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:16:13.10 ID:8jsZP5DN0

( ^ω^)「魔法を吸収し過ぎると、気持ち悪くて魔法ごと吐いてしまうんだお。
       しかも、満腹感が続くと、ご飯が食べれなくなるから、衰弱してしまうお」


ブーンが太っているのは、魔法の影響もあるのだろう。
胃を大きくしておけば、それだけ魔法を吸収することができる。


( ´_ゝ`)「それにしても便利だな」

( ^ω^)「七種類も魔法を使える弟者の方が凄いお!」


褒められることは嬉しいことのはずだ。
だが、弟者を騙っている兄者からしてみれば、曖昧な笑みを返すことしかできない。


( ^ω^)「そうだお。兄者、何でもいいから、魔法を一つ吸収させて欲しいお」

( ;´_ゝ`)「え、いや、いざってときに吸収できなかったら困るだろ?」

( ^ω^)「さっき少し出したし、大丈夫だお!」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:19:09.78 ID:8jsZP5DN0

ブーンのことを考えての発言ではない。
兄者が使えるのは浮遊系だけだからだ。

浮遊系も使い方によれば、吸収させることができるだろう。
しかし、それを吸収したところで頼りになるとは思えない。


( ^ω^)「お? 迷ってるのかお? 何でもいいお」


待っているブーン。
焦る兄者。

どうすればいいのかと、そう良くもない頭を回転させる。


( ´_ゝ`)「えっと、だな……」


頭を掻いていると、耳に誰かの足音が聞こえた。
誰か来たのかと、振り向いた瞬間、兄者は殺気に圧倒される。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:22:17.94 ID:8jsZP5DN0

\(^o^)/「敵ハッケーン!
      オワタにしてやるよ!」


顔に浮かんでいるのは笑みだが、明らかに通常の精神状態ではない。
持参してきたのであろう杖を振り回している。


( ;^ω^)「ボクらは戦う気はないお! だからやめて欲しいお!」

( ;´_ゝ`)「馬鹿! 言葉が通じそうかくらい判断しろ!」


話し合いの姿勢を取ろうとするブーンを殴り、敵に背を向ける。


\(^o^)/「逃がさないよ!
      電流よ駆け、彼らを捉えよ」


背後から電気の音が聞こえてくる。
逃げ切れるわけがない。


( ^ω^)「魔法よ、我が身へ吸収されよ」


兄者を押しのけ、ブーンが両の手を突き出す。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:25:11.76 ID:8jsZP5DN0

( ´_ゝ`)「お、おお」


見れば、ブーンの両手に電流が吸い込まれていく。
二人を敵と認識していた者も目を丸くして驚いている。


( ^ω^)「ふう……」


全ての電流を吸い込んだ後、ブーンは腹をさする。
放出しようとしないのは、相手を殺しかねないからだろう。


( ´_ゝ`)


兄者はブーンに助けられた。
彼の手助けをしようと思っていたにも関わらずだ。


( ´_ゝ`)「ブーン!」


手をむける。


( ´_ゝ`)「逃げるぞ!」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:28:14.66 ID:8jsZP5DN0


( ´_ゝ`)「我意思により、彼者を浮かせよ」

( ^ω^)「おっ、おおおおお?!」


勢いよくブーンが宙へ浮く。


( ´_ゝ`)「行くぞ」


隣を見ると、宙を走る兄者がいた。


\(^o^)/


下に見える男は、驚きの連続で動くことさえできないようだ。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:32:18.58 ID:8jsZP5DN0


( ^ω^)「他人を浮かすこともできるのかお?」

( ´_ゝ`)「少しだけならな!」


無機物ならばともなく、生き物を浮遊させることは難しい。
それも、人間ほどの質量を持つとなればなおさらだ。


( ^ω^)「すごいお! ボク、今飛んでるおー!」

( ;´_ゝ`)「こら、他の奴に見つかったら意味がないんだぞ」


鬱蒼と茂る木々によって、宙に浮かぶ二人の姿は見えにくくなっているとはいえ、
大きな声を出せば気づかれるだろう。


( ;^ω^)「すまんお」

( ´_ゝ`)「まったく……。とりあえず、適当なところに降りるか」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:36:14.81 ID:8jsZP5DN0

枝に邪魔をされながらも、適当な場所に降りる。
見晴らしはよくないが、人の気配はない。


( ^ω^)「ありがとうだお」

( ´_ゝ`)「いや、オレの方こそ助けてもらった」

( ^ω^)「ボク一人じゃ戦えても、逃げることはできなかったお」


お互いに礼を言いあい、無事を喜んだ。


( ´_ゝ`)「あー。いつまで逃げりゃいいんだろうな」

( ^ω^)「ここから脱出する方法がわかれば……」

( ´_ゝ`)「壁はかなり特殊な金属らしいが」

( ^ω^)「と、とにかく、壁のあるところまで行ってみるお」

( ´_ゝ`)「賛成だ」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:39:09.17 ID:8jsZP5DN0


二人は周りを警戒しながら歩き始めた。
一度、兄者が浮遊して周りを見渡してみると、この場所は予想以上の広さがあった。

始めに集められた大広間よりも、一回り以上大きい。
幸い、二人がいたのは中心部ではなかった。少し歩けば壁にたどり着くだろう。


( ^ω^)「弟者? 大丈夫かお?」

( ;´_ゝ`)「お、おう……」


兄者は見かけ通り体力がない。
辺りに注意を払いながら歩いているうえに、道は平坦ではない。

小高い丘もあれば川もある。
よくもまあここまで自然を再現できたものだと感心した。


( ^ω^)「ちょっと休むかお?」

( ´_ゝ`)「すまんが、そうさせてくれ」

( ^ω^)「いいお。助け合いは必要だお」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:42:29.24 ID:8jsZP5DN0


地面に腰を降ろし、空を見上げる。
鉄の天井からぶら下がっている電気が、部屋を照らしている。

時間の感覚が狂っていくのを感じる。


( ´_ゝ`)「敵は人間だけじゃないってわけか」


こんなところで何日も過ごしていれば、通常の生活など送れなくなってしまうだろう。


( ^ω^)「弟者ー。木の実見つけたお!」

( ´_ゝ`)「水やら食料やらは安心ってわけか」


休憩している兄者に、ブーンが木の実を運んできた。
見たことのある木の実ばかりで、食用には問題ないだろう。


( ´_ゝ`)「毒があるものもあるかもしれんな」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:45:12.92 ID:8jsZP5DN0

( ^ω^)「大丈夫だお。
       ボク、食べることは好きだから毒があるかわかるお」

( ´_ゝ`)「おお、伊達に食いしん坊じゃないんだな」

( ^ω^)「体形を見て判断した結果なら、容赦しないお」


辺りに人の気配もなく、二人は気を楽にして言葉を交わした。

いつ死ぬかもわからないという状況が二人の口を饒舌にさせる。
少しばかりのからかいは容易であった。


( ^ω^)「早くツンに会いたいおー」

( ´_ゝ`)「ツンって、お前が告白するって言ってた子か?」

( *^ω^)「そうだお。とっても優しい子なんだお!」

( ´_ゝ`)「へー。いいじゃん」

( ^ω^)「弟者は好きな子いないのかお?」

( ´_ゝ`)「うーん。いないかな」



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:48:36.42 ID:8jsZP5DN0

町では嫌われていた。
相手が明らかな嫌悪感を持っているのに、こちらが好意を寄せるのは難しい。


( ^ω^)「好きな子一人もいないとかwww
       若いくせに枯れてるおwww」

( ´_ゝ`)「うるせーww」


年相応に、どんな女性が好きなのかを話す。
見た目は明るいが、時間的にはもう夜なのかもしれない。


( −ω−)「うーん。ちょっと眠くなってきたお」

( ´_ゝ`)「両方寝たら危ないかもしれんから、
       交互で見張りでもしておくか」

( −ω−)「じゃあ、先に寝てもいいかお?」

( ´_ゝ`)「おう。寝とけ、寝とけ」


( −ω−)zzz


( ´_ゝ`)「早っ」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 00:51:19.98 ID:8jsZP5DN0

どこでも眠ることができるタイプなのか、ブーンは地面に直で寝ている。


( ´_ゝ`)「眩しそうだな」


どことなく眠りにくそうなブーンを見て、
兄者は辺りを見回す。適当な大きさの葉を見つけ、引きちぎる。


( ´_ゝ`)「これでどうかな」


ブーンの顔に葉を被せ、光りを遮ってやる。
視界が暗くなり、眠りやすくなったのか、大人しくなる。
ついでに、ローブを脱いで布団のようにかけてやった。


まぶたをこすりながら、見張りをする。
交代のタイミングなどを決めていなかったので、いつ起こせばいいのかなどを考える。


( ´_ゝ`)「ま、オレが限界になってからでいいか」


同じくらいの年のはずだが、兄者からしてみればブーンは弟のような存在になっていた。


第三話 完

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