66 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:15:11.28 ID:OyaHFYQv0
ブーンとでぃの会話を聞きながら、ドクオは扉の向こうへと走る。
扉の向こうは暗く細い一本道だった。

後ろの戦いを気にしつつも、ドクオはその道を走った。

('A`)「あ……」

道は二手に別れていた。
片方は階段に。もう片方は閉ざされた扉に繋がっている。

おそらく階段は外に繋がっているのだろう。
ここがどこかはわからないが、外にさえ出ることができれば助けを呼ぶことも可能だろう。

だが、どうしても扉が気になった。
閉ざされた扉の向こう側から異様な空気が流れてくる。

('A`)「あの人、本当にブーンの姉さんなのかな」

小さく呟いた。
あの目は何かを確信していた。ドクオを逃がすための嘘でもないだろうし、間違いでもないだろう。
だとすれば、彼女の様子は明らかにおかしい。
王と別れたときに現れた兵士と同じ目をしていた。

('A`)「…………」

髪の長い女からは異様な雰囲気がかもし出されていた。

これは直感だが、彼女は呪術師だ。
68 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:17:36.16 ID:OyaHFYQv0

('A`)「行くか」

ドクオはドアノブに手をかける。
思った以上に重たい扉が音をたてて開く。

川д川「あら」

わりと広い部屋で、大きな祭壇を見ていた女がゆっくりと振り向く。
長い髪が揺れ、不気味さがより増す。

川д川「でぃから逃げれたの? それにしたって、目の前に階段があったでしょうに」

焦った様子もなく、ただ口元を歪めている。
赤い唇に背筋が粟立つ。

('A`)「あんたの後ろにあるその祭壇」

川д川「ああ、美しいでしょ?」

確かにその祭壇は美しかった。
黒を基調とし、金やオパールが組み込まれており、売り払えば一生楽に暮らせるだろう。
そして、美しさの中には禍々しさがあった。

('A`)「呪いの中心だな」

川д川「よくわかったわね」

('A`)「呪術にはわりと詳しくてね」


69 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:19:52.07 ID:OyaHFYQv0
女は祭壇に乗せられている壺を指差す。

川д川 「なら、この呪いが何かわかる?」

('A`)「『壷毒の呪い』と『孤独の呪い』か」

川д川「正解」

('A`)「誰からの依頼か知らないけど、そんな危険な術をよく使えるな」

川д川「……依頼?」

('A`)「偽の王に依頼されたんだろ? それとも、あんたも騙されたのか?」

川ー川「変なことを言うのね」

女は優しげな声で言う。
あまりにも優しい声に、ドクオは思わず胸が鳴った。

川ー川「これは私の意思。あの人とは互いに協力しあってるだけよ」

思わず息を呑んだ。
つばを飲み込み、震える口で言葉を紡ぐ。

('A`)「本気、か?」

川ー川

静かに頷く。

70 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:21:21.89 ID:OyaHFYQv0

('A`)「それがどういうことを招くかわかってるのか」

川д川「ええ。もちろん」

ドクオも呪術師の家系に生まれた人間だ。
家系のことについては多少の知識がある。

('A`)「私情での呪いを認めるほどこの国は優しくない」

川д川「でも呪術師を見捨てるほど非情でもないわ」

長い年月を呪術と共に生きてきた家系の者達に、今さらそれらをやめろとは言えない。
この国は呪術師に対して、一つの法を与えた。

川д川「でも面倒よね。私達が私情で呪いを使わないように、依頼者のサイン、印鑑、血印」

('A`)「だがそれが呪術師を守る」

川д川「罪に問われるのは呪術師でなく、依頼者」

('A`)「お前は自らその守りを捨てたのか」

川д川「私自身がやらなければ意味がないの」

二人はただ言葉を交わす。
戦う素振りも見せず、冷たい空気を部屋の中に充満させていく。

川д川「これは復讐だもの」

72 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:23:27.09 ID:OyaHFYQv0

川ー川「それに何か気づかない?」

女が笑う。
思い当たることがなくて、ドクオは口を閉ざす。
頭の中で女が指しているであろうことを考える。

(;'A`)「まてよ……」

川ー川「気づいた?」

楽しそうな声だ。

(;'A`)「一年、近く?」

この政策は一年近く前から始まっている。
つまり、女は一年前から呪いをかけ続けているのだ。

(;'A`)「そんな馬鹿な!」

川д川「あら、どうして?」

(;'A`)「呪術師が私情で誰かを呪うか何て、一々調査するわけにもいかない」

だから、とドクオは息をゆっくりと吐き出す。


(;'A`)「国の下で千里家が全ての呪術師を監視している……」

74 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:25:20.92 ID:OyaHFYQv0

女は笑う。
赤い唇が開かれ、真っ赤な舌が見えた。

川д川「あの目だけが私は怖かった。
    私情で人を呪うことは許されていない。もしも、その禁を犯せば」

病的に白い手が壺を撫でる。
冷たい金属が暗い部屋の中で不気味に光る。

川д川「呪いを返され、体が腐る呪いまでかけられる。
    死刑の方が軽いとまで思えるわ」

(;'A`)「何で」

川д川「気になるの?」

(;'A`)「何で、あの家が、お前を見逃してるんだよ!」

思わず叫ぶような声を上げた。
あの家がどれほど厳格で、冷たく、己の仕事と家系に誇りを持っているかドクオはよく知っている。
知りたくないほど知っているのだ。そのちっぽけな誇りのためにドクオは捨てられたのだ。
劣等性というレッテルを貼られた。

川д川「誰にだって、どこにだって弱点はあるのよ」

女は祭壇の横にかけられていた鏡を手に取る。
それをドクオの方へ向ける。

鏡は本来の役割を放棄していた。

75 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:27:21.66 ID:OyaHFYQv0

川д川「見て」

(;'A`)「あ……」

そこに映っていたのは女の子の姿だった。
ただ、その女の子は体の半分が石になっている。

川д川「この子は千里家の跡継ぎ」

ドクオは知っている。
自分の妹だ。長い間顔も見ていないが、どこか昔の面影を残したその姿を見間違うはずがない。

川д川「あの家、いつもある程度呪いに耐性がつくまで跡継ぎは家の中に閉じ込めているの。
    でも馬鹿なあの子は毎日のように外に出ていた」

(;'A`)「嘘だろ」

川д川「どうして嘘だと思うの?」

答えることはできなかった。

川д川「だって、彼女のお兄さんは家を追い出されたのよ。
    妹として、お兄さんのことは気になるでしょ」

('A`)「え」

鏡に映っている女の子の兄は自分だ。
ドクオは今度こそ言葉を失う。


76 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:29:25.77 ID:OyaHFYQv0

川д川「この鏡であの家の弱味を探していたら、偶然あの子を見つけたの。
    本当にいい鴨だったわ。あの子をちょっと呪って、千里家を脅すだけでいいんですもの」

( A )「お前が石化の呪いをかけたのか」

川д川「そうよ。私達に逆らえば、彼女を石にする。
    あの目は一子相伝らしいじゃない。千里家は頼むから彼女を殺さないでくれって言ってきたわ」

( A )「そうか」

呪文が唱えられる。氷のつぶてが彼女へ向かう。

川д川「祭壇が傷つくじゃない」

女の手から数枚の紙が飛び出す。
呪術師お得意の式神というものだ。
式神はドクオの生み出した氷を受け、地面に落ちる。

('A`)「お前はオレが倒す」

川д川「可哀想な女の子に同情でもした?」

('A`)「ああ、したね。
    オレみたいな兄貴を持ったがために、のーはあんな目にあうんだ」

川д川「……オレみたいな?」

ドクオは再び呪文を唱える。
土砂が女に向かって降り注ぐ。
79 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:31:20.49 ID:OyaHFYQv0

川д川「もー。服が汚れちゃう」

紙の束が女を守る。

('A`)「呪いの返しかたを教えてやろうか」

暗い瞳が女を映している。
ゆっくりとドクオが口を動かす。

川д川「あら? 不発かしら」

何も起こらないことに女が笑う。

川д川「さすが千里家の木偶の坊ね」

女は何かに気づいたような声を上げ、背筋を伸ばして頭を下げる。
恭しいその態度はまるで使用人のようだ。

川д川「私、呪音家の貞子と申します。
    千里家の一派でございました。以後……はありませんが、お見知りおきを」

再び上げられた顔はやはり大部分が髪で隠れている。

('A`)「……元千里家、ドクオだ。あんたと今日以外会うつもりはない」

部屋の端により、貞子と距離を取る。
先ほどの不発は魔力が不足していたのか、少し休憩することにしたらしい。

川д川「私が休憩なんて許すはずないじゃない」

80 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:33:13.40 ID:OyaHFYQv0

('A`)「だがあんたは魔術師じゃない」

魔術師と呪術師は似ている。
いや、根本的な部分では同じといってもいい。

だが二つを同時に使うことはできない。
魔法を使うか、呪術を使うか。子供は自分でその道を選ぶ。
とは言っても、才能に全てを委ねる魔法と違い、呪術は学ぶことで大きな力を発するものだ。
才能のある魔術師は呪術師にはならない。

('A`)「呪術は発動に時間がかかる。実戦向きじゃないよ」

川д川「そうね」

式神を使うとしても、所詮彼らは紙だ。
氷や土でダメージを与えるだけで元の姿に戻る。
圧倒的にドクオが有利だった。

川д川「でも大丈夫よ」

貞子は壺の蓋を少しだけあける。

('A`)「っ!」

目には見えぬ何かがドクオを圧迫する。
死んだ者達の悲鳴が聞こえたような気がした。

82 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:34:43.17 ID:OyaHFYQv0

生き物を一つのところに閉じ込め、殺しあいをさせる。
そこに生まれる憎しみや悲しみが呪いの素となる。
今まで集められたそれらが、あの小さな壺の中に溜まっているのだろう。

川д川「ちょっとだけこれを使わせてもらうから」

蓋が閉じられる。
圧迫感は多少マシにはなったものの、貞子からは未だにあの圧迫感が感じられる。

('A`)「術式省略に使っていいのかよ」

強大な力をもって、小さな呪いを発動させやすくしているのだ。

('A`)「それで復讐とやらをするんじゃなかったのか?」

川д川「心配してくれるなんて優しいのね。でも大丈夫よ」

これくらい大したことない量だからと言う。
今感じている圧迫感がほんの少しの呪いだ。あの壺にこめられている呪いはどれほどのものなのだろうか。

('A`)「とんでもない憎しみだこと」

川д川「当然よ」

彼女のポケットから一体のわら人形が取り出される。


83 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:36:28.82 ID:OyaHFYQv0

川д川「古典的だけど、威力は確かでしょ」

('A`)「まったくだ」

貞子の手がわら人形を傷つける前に、ドクオが彼女へ向かって氷のつぶてを放つ。
たった一度の呪文で息が切れる。

だが呆然と立っている暇はない。
式神をつかい、つぶてを避けた貞子のもとへ向かって全速力で駆け抜ける。
女に触れたことなど、生まれてこのかた母親と妹にくらいしかない。

('A`)「色気のない始めてだよなあ!」

彼女がわら人形を刺す前に、ドクオがその細い腰に飛びかかる。
せっかくの柔らかく細い腰にも何の興奮もわかない。

川д川「セクハラで訴えましょうか!」

地面に押し倒された格好で、貞子は叫ぶ。
その手にはしっかりとわら人形が掴まれている。

('A`)「させるかよ」

川д川「大人しく呪われなさい」

頭の上でわら人形に釘を刺そうとする。
ドクオはその腕を掴み、さらに地面へと押し付ける。

85 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:38:29.09 ID:OyaHFYQv0

('A`)「そういやあ、呪いの返し方。まだ教えてなかったな」

川д川「必要ないわ」

('A`)「そう言うなよ」

貞子の腕をさらに強く握る。

川д川「痛っ」

仮にも相手は女だ。
ひ弱なドクオとはいえ、貞子の力を緩めることはできる。
わら人形を掴んでいた手が緩み、その隙に人形を奪い取る。

('A`)「一つ。呪いを切る道具がいる」

川д川「……それを使おうっていうの?」

('A`)「その通り。
    呪力があれば何でもいいからな」

貞子から離れ、わら人形をしっかりと握る。
この戦いに勝つためには、この人形が全てなのだ。

87 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:40:29.52 ID:OyaHFYQv0

('A`)「二つ。呪いの形を目に映し、それを断ち切る」

川д川「呪いを返すときに一番大事なのはそこ」

ニコリと笑う。
優しくすら見えた。

川ー川「でも、それが一番難しく、準備に時間がかかるのよ」

もう一体わら人形を取り出す。
次こそは仕留めるつもりだ。

対するドクオも笑った。
彼にはとある能力がある。今までの人生で役にたったことなどない忌むべき能力だ。
今、この瞬間だけはその能力に感謝した。

( A )

静かに目を閉じ、深呼吸をする。
今から見る世界はどれほどおぞましいものなのだろうか。
自分の精神は持つのだろうか。

疑問は山のようにある。それでも見ずにはいられなかった。
長い時間会っていない妹のためにも。

88 :今思い出したけど、ちょっとグロはいるかも ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:42:16.05 ID:OyaHFYQv0

('A`)

ゆっくりと目を開く。

川д川「さあ、これで終わりよ」

わら人形に釘を刺そうと手を振り上げる。

('A`)「気持ち悪い」

それだけ呟くと、ドクオは手を振り上げ目を閉じる。
上げられた手を勢いよく振り下ろす。その手の中にはわら人形が握られている。

川д川「……あ、ああ」

小さな声を上げ、その場に膝をつく。
手が震え、足には力が入らない。
呆然とした瞳でドクオの姿を映す。

( A )

威圧感など欠片もなく、ドクオはただそこに立っていた。
先ほど開かれた瞳は再び閉じられている。

91 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:44:06.89 ID:OyaHFYQv0

川д川「どういう……こと」

('A`)「まだ終わらない」

再度目を開ける。
そして先ほどと同じようにわら人形を振り下ろす。
何かが切れる音が聞こえたような気がした。

川д川「――――」

甲高い悲鳴が部屋に響き、貞子の体は軽い痙攣を起こす。もはや立つことはできないだろう。

( A )「オレだって千里家だ」

目蓋の向こう側にある眼球が貞子を睨んでいる。
恐ろしい。貞子は思わず視線をそらす。

( A )「感情が色で見える。呪いの線も色で見える」

川д川「で、たら、めを」

('A`)「でたらめだと思うか?」

歯を食いしばり、目を開ける。


92 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:46:10.51 ID:OyaHFYQv0

映る世界はひどく醜い。

憎しみや孤独や悲しみ。そんなものが混ざり合い、黒い霧がかかっている。
目に映すたび、それらがドクオの心までも侵食してきそうだ。

そんな世界の中で、嬉々と動く色がある。
黒ではなく、赤でもない。ドクオはあの色をなんと呼ぶのかを知らない。
もしもその色に名をつけることができるのならば『呪い色』とでもいうのだろうか。

('A`)「ほら、また一つ。お前に呪いが返る」

切り裂かれた色は貞子の中へと返る。
行き場を失くした力が彼女の体を蝕む。

('A`)「お前が孤独の呪いで人を操るならば、その体は自由が効かなくなるだろう」

('A`)「お前が命を奪う呪いを扱うのならば、その心臓を徐々に蝕んでいくだろう」

('A`)「お前が壷毒の呪いを溜めるのならば、オレはお前を殺してそれを浄化する」

そうやって苦しみの中で命を奪うだろう。
ブーンがいたのならば、ドクオを止めただろう。

こんな酷い光景がこの世にあるだろうか。
か弱い女を一方的に苦しめるだけ。
94 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:48:16.47 ID:OyaHFYQv0

川д川「わ、たしは……」

ドクオの中に罪悪感がないわけではない。
誰かをこれから殺すのだ。

('A`)「でも、呪術師の家系に生まれた宿命とでも思うよ」

どうせ彼女は罰を受ける運命だ。
妹のために、今まで呪いの糧になってきた者達のために、今ここでそれを下す。
事実を知ってしまった呪術師の責任だ。

川д川「負けない!」

ろくに動かない手が式神を放つ。
先ほどまでの弱いものではない。

( ФωФ)

強い眼光がドクオを睨む。

(;'A`)「どこにそんな力が」

一度呪いを見るのをやめる。
あの深い霧の中ではろくに動くこともできない。

97 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:50:25.96 ID:OyaHFYQv0

川д川「この力が、負けるわけない……どんな、人にだって」

唇から血が出ていた。

川д川「そいつを殺して!」

貞子の叫び声に式神が動く。

( ФωФ)

強く握られた拳がドクオに向かって振り下ろされる。
それをどうにか避けるが、背後にあった壁が拳によってわずかに砕かれた。

(;'A`)「おいおい、シャレにならねぇって」

川д川「負けない、わた、しは!」

必死に叫んではいるが、呪いが体の中で暴れているのだろう。
死を招くほどのものではないが、着実に彼女の体を破壊している。

苦しみに耐えてまで式神を放つ彼女がドクオにはわからない。
もはや動くことすらできないはずなのに。

川д川「この力は……!」

99 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:52:22.33 ID:OyaHFYQv0


川#゚д川「ヒッキーの力は誰にも負けない!」



( ФωФ)

怒声にも似た叫びを受け、式神の目が光を持つ。
先ほどよりも早く、強い拳を振りかざす。

('A`)「氷よ壁となれ!」

ドクオを守るようにそびえ立った氷の壁。
式神の拳はそれを容易く打ち砕いた。

(;'A`)「けっこう薄かったけど、それでもそんな簡単に砕けるものじゃねーぞ!」

目の前にいる式神は脅威だ。
けれど先ほど貞子が叫んだ言葉も気になった。

ヒッキーとは誰なのだろうか。
彼の力とはどういう意味なのだろうか。

真っ先に思い出したのは兄者と弟者だった。
彼らは双子故にその力を片割れに送ることができた。
貞子にも双子がいたのだろうか。

102 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:54:36.95 ID:OyaHFYQv0

('A`)「土よ彼者を押しつぶせ!」

ヒッキーとやらも気にはなるが、今はそれどころではない。
土が式神を上から押しつぶす。

( ФωФ)

一息つく暇もなく、式神は土の中から姿を現した。
生きているわけではない彼らは土の中でも窒息することはない。

川д川「まけ、ない。あいつ、らに復讐するまで」

('A`)「何だよ! そこまでして……手から血が出るほど強く握って、意識保って。
    それでも復讐したいのかよ!」

川#゚д川「あんたにはわからないでしょうね!」

式神がドクオの腹に拳を叩きこもうとする。

('A`)「つ、土よ壁となれ!」

小さな壁だった。だがそれはドクオの腹に与えられる衝撃をわずかに和らげた。

( A )「ごほっ……うっ」

川#゚д川「大切で、優秀で、愛おしい弟が殺された気持ちなんて!」


103 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:56:46.63 ID:OyaHFYQv0

怒りが溢れている。

( A )「殺され……た?」

川#゚д川「そう、よ。あの子は、とても優秀で、いい子だったのに」

貞子の怒りと同調するかのように、式神の威圧感が増す。
恐怖を植えつけようとしているのか、式神はゆっくりと足を進める。

川#゚д川「くだらない呪術師の誇りに殺された!」

許さないと何度も呟く。
じりじりと近づいてくる式神をドクオは目に映す。

魔力はあとわずかしかない。
たいした魔法も使えないだろう。
手にあるのは呪いを断ち切るためのわら人形。
呪いを断つことはできても、式神を断つことはできない。

( A )

必死に頭の中で考える。
この状況を打開するための何かを得ようとする。

川#゚д川「可哀想なヒッキー。馬鹿なお父様!」
106 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 20:58:45.97 ID:OyaHFYQv0

貞子が叫ぶたびに強くなる威圧感。
全てをあの式神に注いでいる証拠だろう。

それでも負けられない。幼い頃、自分を見てニコニコしていたあの子が苦しんでいるのだ。
彼女が弟を愛したように、ドクオも妹を愛している。

('A`)「……よし」

地面に手をつける。

('A`)「土よ彼者の足を止めよ」

土が動き、式神の足を奪う。
大量の土を動かすわけではないので、その分の魔力を使い式神の動きを封じる。

((( ФωФ)))

動こうとしているが、そう簡単に動かれてはドクオも困る。
目の感覚を変え、呪いを見る。形容しがたい色が蠢いていた。

そこへ向かって再びわら人形を振り下ろす。

川д川「ああっ!」

貞子の体が痙攣する。
ドクオの目はそれを映さない。
黒い世界に吐き気がしたが、それでもドクオは一心不乱にわら人形を振り下ろす。


107 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 21:00:16.20 ID:OyaHFYQv0

あの式神が再び動く前に、貞子を倒す。
呪力を使えなくなる程度までには呪いを返す。
胃の中から何かが這い上がってきたが、それを飲み込む。
生きたい。死にたくない。そのためにできることはこれしかない。

('A`)「もう一本」

呪いがまた一つ貞子に返る。
気持ちの悪い世界を見続けるのは辛い。

それでも見続ける。
多くの呪いを切り、見える呪いはわずかになった。

('A`)「……」

霧の世界から抜け、貞子を見る。
式神はすでに紙に戻っていた。

川д川

貞子は地面に突っ伏したまま少しも動かない。
呪い返しの影響で死ぬことは多いが、じわじわと体を蝕むのでまだ死んではいないだろう。

109 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 21:02:33.94 ID:OyaHFYQv0

川д川「な……ん、で」

口元からは赤い血が流れていた。

川д川「あの、子……ヒッキーの、ちか、ら」

('A`)「弟さんだっけか」

川д川「に、くい」

呪いの言葉が吐かれる。
ドロドロとした汚い色だろう。

川д川「あの、子を殺した人が、げん、いんを作った人が、世界が」

川д川「憎い」

痛みを訴える体を動かす。
手を伸ばし、這いずるように前へ進む。

川д川「ここで、負ける、なら……。死んで、しまうなら……」

顔が上げられる。
ドクオの顔を見上げた顔は苦悶の表情だった。


川;д川「私は何のためにあの子を食べたのよ!」
112 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 21:04:23.39 ID:OyaHFYQv0

食べた。
その言葉の意味をよく考える。

そのままの意味だとするならば、それこそ異常だ。


川;д川「肉の、髪の一筋までええ……」


ドクオはゆっくりと首を振る。
信じられなかった。兄弟の肉を食べるなど。理由がわからない。

川;д川「ね、え……わたし、なん、で」

力ない手でドクオの足を掴む。
弱々しいその姿は神に許しを乞うているようにも見えた。

('A`)「……オレにはわかんねぇ」

彼女にどのような悲しみが降り注がれたのかはわからない。
だが、人を呪う気持ちも兄弟を食べる気持ちもわからない。

わかるのはただ一つ、これで自分の妹が救われるということだけだ。

115 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 21:06:28.54 ID:OyaHFYQv0

ここにいるのが自分だけでよかった。
ドクオは心の底から思った。

今、貞子を見ている目はきっと冷たいだろう。
誰にもこんな姿を見られたくはない。

川;ー川「あなた、も……ひど、い、人、ね」

呪術師らしいと言いたかったのだろう。
人を呪うために人として大切な心をどこかに放ってきた。

('A`)「……そうかもな」

貞子の腕が力なく落ちる。
全ての呪いは彼女の死体へと帰る。
けっして安らかな表情ではなかった。

一抹の罪悪感とともに、歩きだす。
手にするのはあの壺だ。

('A`)「これはオレにはどうしようもねぇな」

実家に持っていくか、それでなくとも実力と信用のある呪術師に頼むしかない。
豪華な壺を撫でると呪力を感じた。

('A`)「……ちょっと、疲れたな」

117 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 21:08:40.57 ID:OyaHFYQv0

壺を抱きかかえたまま、ドクオはその場に座り込む。
視界の端に貞子の死体が見えたが、気にならなかった。
祭壇に背を預け、静かに目を閉じる。

あまりにも暗いものを見すぎた。
身体的にも精神的にも疲れてしまった。


(-A-)


目を閉じると闇がある。
黒い霧とは違い、穏やかな暗さだ。
何の音も聞こえない静かな部屋でドクオは静かに呼吸をする。
119 : ◆UJEaB9eZsVvR :2010/11/14(日) 21:10:16.54 ID:OyaHFYQv0

(#゚;;-゚)「あ、この人は確か……」

開いていた扉から部屋の中を覗くと、一人の男が眠っていた。
呼吸はしているので生きてはいるようだ。

(#゚;;-゚)「ブーンのお友達、だよね」

(-A-)

見たところ彼は勝ったようだ。
でぃからしてみれば貞子は恐怖の対象でしかない。
呪いという対処不可能なものを使われてはひとたまりないのだ。

自分にかけられていた呪いが解けた時点で、貞子に何かあったことはわかっていた。

(#゚;;-゚)「彼が私を解放してくれたのね」

しぃは少し考える。
自分の体力的にも、ブーンを支えるので精一杯だ。
小柄とはいえ男をもう一人外へ連れて行くのは難しい。

(#゚;;-゚)「見たところ大した怪我もないし」

ここで待っててねとしぃは告げた。



第10話 完

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