- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:14:47.93 ID:8ORNDpRu0
魔法を使うことは簡単だった。
生まれ持っての才能が必要ではあったが、
それさえあれば何の問題もない。
逆に言えば、才能がなければ何をしても無駄だった。
(´<_` )「あまり意識したことはないな」
从'ー'从「えー。そうなんですかぁ」
才能があれば誰でもよってくる。
弟者はそのことをよく理解していた。
- 3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:17:31.00 ID:8ORNDpRu0
一般的に、三つ以上の魔法を使えれば天才と呼ばれる。
一つしか使えない者は、よほど珍しい魔法でなければ、
魔術師の中ではクズ扱いされる。
从'ー'从「でもでも、七種類も使える人なんて、弟者さんくらいですよ!」
(´<_` )「まあ、そうだろうね」
自分の価値はよく理解している。
明らかに反則的な才能を持っていた。
使える魔法の数だけではない。珍しい『回復系』の魔法も使うことができる。
学校でも一目を置かれている。
卒業時には様々な方面からスカウトがくるだろう。
从'ー'从「……あ」
(´<_` )「ん?」
( ´_ゝ`)
- 4
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:20:37.90 ID:8ORNDpRu0
(´<_` )「っち」
从'ー'从「あ、あの! やっぱり七種類も使えたら、
魔力のコントロールとか難しいですよねー」
(´<_` )「……いや、何度も言ってるけど、これは才能だからね。
生まれてからずっとこうだから。難しいとかはないよ」
使える魔法の種類だけは努力ではどうにもならない。
生まれ持っての才能でしかないのだ。
だからこそ、魔法を使える者は尊敬される。
尊敬されるのが当然だと思うから、
クズを見下すのも当然だった。
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:23:29.66 ID:8ORNDpRu0
弟者は双子の兄が嫌いだった。
いや、何かしらの感情を向けることさえ、
奴にはもったいないとさえ考えていた。
同じ父母の間、同じ時間に生まれたというのに、
二人の間には絶対的な差があった。
つまり、どれだけの魔法が使えるかということ。
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:26:31.42 ID:8ORNDpRu0
('A`)「よ、兄者」
( ´_ゝ`)「ん? どうかしたのか」
('A`)「いや、面白い話を聞いたから、
兄者にも教えてやろうと思ってさ」
( ´_ゝ`)「お前、オレ以外と話す相手なんていたのか」
('A`)「噂なんて別に話す相手がいなくても聞けるよ」
( ´_ゝ`)「うわー。ぼっちの考えだぁ」
(;'A`)「嫌な言い方するなよ。てか兄者も同じだろ」
( ´_ゝ`)「そんなことはないぞ!」
('A`)そ「えっ、兄者の方がぼっちじゃん」
( ;´_ゝ`)「お前失礼じゃね?」
('A`)「で、誰なんだよ。お前と話すなんて奇特な奴」
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:29:37.50 ID:8ORNDpRu0
( ´_ゝ`)「鏡の中のオレ」
('A`)「…………」
( ´_ゝ`)「……すまん。今のなしで」
('A`)「おk」
('A`)「正直、とうとう壊れたかと」
( ´_ゝ`)「うるせぇ」
( ´_ゝ`)「まあいいや。で、話って?」
('A`)「切り替えはやいな」
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:33:10.68 ID:8ORNDpRu0
(´<_` )「じゃあね」
从'ー'从「ありがとうねー」
兄者は劣等生だった。
たった一つの魔法しか使えない。
体も弱く、体術も会得している弟者から見れば、
何もできないのと変わらない。
これが他人であったならば、見下すだけですんだ。
他人でないから性質が悪い。
双子の兄が劣等など、
できのいい弟者からすれば汚点でしかない。
弟者のそんな気持ちは周りの誰もが知っている。
そのため、誰も兄者に近づこうとしない。
唯一の例外は同じ劣等のドクオくらいのものだ。
名家の者らしいが、劣等故に家を追われたらしい。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:36:29.57 ID:8ORNDpRu0
(;´_ゝ`)「え、それマジ?」
('A`)「マジだよ。オレも始めは信じられなかったけど」
( ´_ゝ`)「うーん。ドクオはそういうことに関しては
信憑性があるからなぁ」
兄者は複雑そうな表情をする。
('A`)「ま、オレ達みたいな劣等生には関係ねーよ」
( ´_ゝ`)「そうだな」
二人は噂話を綺麗に忘れ、適当な話に花を咲かせた。
周りから人を馬鹿にしたような笑い声が聞こえてくるのは無視する。
学校はすでに終了しているが、真っ直ぐ家に帰る気にはなれない。
片や一人っきりの家。
片や己を嫌っている兄弟と二人だけの家。
居心地はけっしてよくない。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:39:24.95 ID:8ORNDpRu0
('A`)「早くお袋さん達帰ってくるといいな」
( ´_ゝ`)「後一年くらいは帰ってこない気がするなぁ」
(;'A`)「えー。もう三年くらい旅に出たままだろ?
親父さんは役所の偉いさんだろ」
( ´_ゝ`)「うん。でも二人とも自由だからな」
(;'A`)「そう言う問題か……?」
( ´_ゝ`)「ま、月一の手紙を見る限りは元気そうだよ」
('A`)「あのお袋さんが元気じゃないところが想像できない」
( ´_ゝ`)「だなww」
('A`)「たしか、元最強だろ?」
( ´_ゝ`)「寿引退だから、今でも最強じゃないかな」
('A`)「姉さんはお袋さんの後を追って、
ファイターになるんだっけ?」
( ´_ゝ`)「うん。妹者はまだ考え中」
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:42:21.55 ID:8ORNDpRu0
('A`)「旅から帰ってきたら、ムキムキになってたりして」
( ;´_ゝ`)「ありえないと言いきれないから困る」
弟者も、姉者も母者に似て体格がいい。
いつでもファイターとしてやっていける。
対して兄者は貧弱だ。
父者の遺伝かとも思われたが、
母者と比べることが間違いなだけで、ごく普通の体格である。
('A`)「これで妹者ちゃんもムキムキに……」
( ;´_ゝ`)「やめてー。妹者は天使なのよー!」
('A`)「天使な妹者ちゃんはオレがもらった」
( ´_ゝ`)「貴様には絶対にやらん」
('A`)「義兄さん、そこをなんとかっ……!」
( ´_ゝ`)「誰が義兄さんだ!」
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:44:40.48 ID:8ORNDpRu0
そんな寸劇をしながら学校を出る。
学校の敷地を出てしまえば、誰も二人を見ても笑わない。
二人は通行人A、Bになれた。
( ´_ゝ`)「あ」
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:47:36.69 ID:8ORNDpRu0
兄者の視線の先には小さな女の子がいた。
('A`)「おいおい。さすがに犯罪だぞ」
( ;´_ゝ`)「馬鹿! 違うわ!」
アレを見ろと指差した先には赤い風船が木に引っかかっていた。
女の子はあれを取ろうと必死にジャンプを繰りかえしている。
( ´_ゝ`)「…………」
兄者は一歩足を踏み出す。
足は地面につかず、空中を踏みしめた。
まるで階段を登るように、兄者はだんだん高く昇っていく。
('A`)「さっすがー」
( ´_ゝ`)b+「だろ?」
赤い風船を手に、親指を立てる。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:50:49.93 ID:8ORNDpRu0
兄者はたった一つの魔法が使えた。
その魔法だけは誰にも負けない。
『浮遊系』
初歩的なものでは己を浮かせることしかできない。
上級者になれば、自分以外のものを浮かせることができるようになる。
( ´_ゝ`)「はい」
川*` ゥ´)「ありがとう!」
女の子は赤い風船を手に、嬉しそうに笑う。
('A`)「もう離しちゃダメだぞ」
川*` ゥ´)「はーい!」
元気な返事を残し、道の向こう側へ駆けて行く。
ゆれるスカートが愛らしい。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:53:08.77 ID:8ORNDpRu0
( *´_ゝ`)「可愛いな」
(*'A`)「まったくだ」
( ´_ゝ`)「あーあ。早く妹者が帰ってこないかな」
('A`)「リアル妹が好きな兄者君」
( ´_ゝ`)「何だよ。オレはシスコンだぞ?」
('A`)「一度、弟者にガツンと言ってみたらどうだ?」
( ´_ゝ`)「……そんな必要ない」
('A`)「…………ごめん」
( ´_ゝ`)「謝ることないさ」
('A`)「うん。ごめんな」
( ´_ゝ`)「……ま、そのうちな」
- 30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:56:30.12 ID:8ORNDpRu0
太陽が沈み始めていた。
お互い親がいないとはいえ、そろそろ帰る時間だ。
( ´_ゝ`)「そろそろ帰らなきゃな」
('A`)「オレん家くるか?」
( ´_ゝ`)「いや。いい」
('A`)「……いつも通りの色してるぞ」
( ´_ゝ`)「そうか。安心した」
お互いだけでわかる言葉で最後の会話を終わらせる。
( ´_ゝ`)ノシ「んじゃーな」
('A`)ノシ「また明日」
分かれ道で手を振る。
- 34
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 14:58:25.54 ID:8ORNDpRu0
( ´_ゝ`)「ただいまー」
返事はない。
夕食を食べた跡はあるが、用意はない。
( ´_ゝ`)「今日は目玉焼き〜」
冷蔵庫を空け、卵を一つ取り出す。
手慣れた仕草で目玉焼きを作り、ご飯を盛る。
いつもならばもっと手の込んだものを作るのだが、
今日は何故かそんな気分にはなれなかった。
( ´_ゝ`)「うーん。デリシャス」
簡素の食事を終えると食器を片付ける。
ついでにと放置されていた弟者の食器も片付けた。
礼の一つもないだろうとわかっているが、
兄弟は助けあって生きるものだ。
( ´_ゝ`)「おやすみ」
小さく呟いて布団にはいる。
- 38
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:00:00.54 ID:8ORNDpRu0
( ´∀`)「次は、この町にするモナ」
( ´ー`)「わかりました」
( ´∀`)「今度はどんな魔術師が集まるかモナ」
( ∀ )「本当に、楽しみモナ」
- 44
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:02:28.53 ID:8ORNDpRu0
朝、いつものように目が覚め、学校へ行く。
登校する時間はいつも弟者の方が早い。
寝ぼけた目を覚ますため、顔を洗い適当に用意をして家を出る。
('A`)「おはよ」
( ´_ゝ`)「おー」
同期で話せる相手というのがお互いしかいないため、
毎日二人は顔をあわせている。
嫌になろうが、他に話せる人がいないのだからしかたがない。
学校へ近づくにつれ、人が多くなっている。
それはいつものことなのだが、今日は異常に多かった。
('A`)「何かあったのかな?」
( ´_ゝ`)「休校になったらいいな」
('A`)「同意」
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:04:25.97 ID:8ORNDpRu0
学校の門をくぐると、人の会話から
似たような単語が飛びかっていた。
「とうとう、ここにもきた」
「誰が選ばれるんだろ」
「やっぱり弟者だろ」
「憧れだよね」
( ;´_ゝ`)「ま、さか……な」
(;'A`)「ああ、そんなまさか」
二人は駆け出した。
- 49
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:07:36.94 ID:8ORNDpRu0
人波をかき分け、中心部へ出る。
そこには一人の男が立っていた。
( ´ー`)「この町で最も優秀な魔術師を出すがいーよ」
王家の紋章を胸につけた男は声を高くして叫ぶ。
( ´ー`)「我らの王は、優秀な魔術師に
更なるレベルアップの場を設けてくださった」
(;'A`)「ヤベェ。他人事だと思ってたが……」
( ´_ゝ`)「…………」
- 55
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:09:39.17 ID:8ORNDpRu0
王は魔術師を集めていた。
優秀な魔術師達を集めていた。
才能があるにも関わらず、地方であるが故に
その力を開花させることができない者達のために、
最高の環境を用意すると言った。
いくら王といえども、無限の資金があるわけではない。
選ばれる魔術師はほんの一握りだろうと言われていた。
だからこそ魔術師達は夢を抱いた。
自分の元へ王の使いがやってきて、
新たな世界が開かれるのではないかと。
- 57
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:11:34.60 ID:8ORNDpRu0
一部の者達の間ではこんな噂があった。
王がおかしくなった。
友好関係を結んでいる隣国に戦争をしかける気だ。
そのために優秀な魔術師を集めている。
集められた魔術師は殺しあいをさせられ、
最後に残った一人を教育していく。
あれは訓練でも、修行でもない。
呪いの儀式だ。
- 66
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:13:35.27 ID:8ORNDpRu0
( ´_ゝ`)「弟者……」
関係ないと笑っていたが、兄者からしてみれば
多いに関係のあることだった。
この町で一番優秀な魔術師と言えば誰もが一人を思い浮かべる。
(´<_` )「オレが行ってもいいだろうか?」
周りが歓声に包まれた。
この声が全てを物語っている。
( ´ー`)「この町で反対がないなら、誰でもいーよ。
ま、相談も用意もあるだろう。出発は明日だーよ」
それだけ言い残し、騎士は町の宿屋の方へと向かって歩き出した。
- 74
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:15:37.03 ID:8ORNDpRu0
*(‘‘)*「やっぱり弟者君で決まりよね!」
从'ー'从「頑張ってね」
(=゚ω゚)「お前しかいないよう」
(´<_` )「ありがとう。
明日までに準備をしなきゃいけないらしいから、
今日は家に帰るよ」
(=゚ω゚)「授業は?」
(´<_` )「この様子だと、休校になるんじゃないか?」
王からの使者がきたと、学校の周りには人が集まっていた。
教師達も授業どころではなく、あの騎士に失礼のないようにと、
他の大人達と一緒に町中を駆け回るのに忙しそうだ。
(=゚ω゚)「……だなww」
(´<_` )「明日は見送りにきてくれるのか?」
*(‘‘)*「当たり前じゃない!」
(=゚ω゚)「盛大に見送ってやるよう!」
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:17:50.10 ID:8ORNDpRu0
('A`)「おい、兄者……」
( ´_ゝ`)「ドクオ」
(;'A`)「な、何だ?」
( ´_ゝ`)「……弟者のこと、よろしく頼むぞ」
('A`)「はあ?」
兄者は何も答えず、静かに家への道を歩いて行った。
残されたドクオは人並みの中、兄者の背中を見つめる。
('A`)「そんな色……。何する気だよ」
呟いた声は誰にも聞こえなかった。
- 80
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:19:31.59 ID:8ORNDpRu0
( ´_ゝ`)「弟者」
(´<_` )「…………」
( ´_ゝ`)「なあ」
(´<_` )「…………」
( ´_ゝ`)「本当に、行くのか」
(´<_` )「あんたと別れられて嬉しいよ」
( ´_ゝ`)「母者達、寂しがるぞ」
(´<_` )「立派になって帰ってくればいいだろ」
(´<_` )「オレはあんたと違って優秀だからな」
( ´_ゝ`)「……ああ、そうだな」
- 83
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:22:43.26 ID:8ORNDpRu0
朝になり、広場は騒がしくなっていた。
すでに騎士はやってきており、弟者の到着を待っている。
(´く_` )「待たせた」
( ´ー`)「別にいいヨ」
いつもと違う服を着ていた弟者に、友人達が近づく。
(=゚ω゚)「長いローブだな」
从'ー'从「弟者君、そういうの好きだっけ?」
普段、弟者は動きやすい服を好んで着ていた。
今着ている長いローブはお世辞にも動きやすそうとは言えない。
(´く_` )「王様に会うかもしれないだろ。
このローブは礼服代わりになるやつだから」
(=゚ω゚)「なるほど」
*(‘‘)*「さすが弟者君」
- 87
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:24:38.67 ID:8ORNDpRu0
別れの挨拶を交わす。
そこに涙や悲しみは見られない。
いつかは立派になって帰ってくるのだ。
悲しむ必要がどこにあるのだろう。
( ´ー`)「そろそろ行くヨ」
(´く_` )「ああ」
(=゚ω゚)「頑張れよ!」
从'ー'从「待ってるからね」
騎士の隣で弟者は手を振る。
足元には騎士が張り付けた大きなシールがある。
描かれているのは移動の魔方陣だ。
シールに描かれた魔方陣が光り、二人の体を包み込む。
(´く_` )「じゃあな」
- 90
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:27:19.21 ID:8ORNDpRu0
二人の姿は消え、張られていたシールは燃え尽きた。
(=゚ω゚)「行っちゃったよう」
从'ー'从「寂しくなるね」
*(‘‘)*「すぐ帰ってくるって」
見送りにきていた者や、野次馬達がそれぞれの場所へ帰っていく。
('A`)「あ、行っちまったか」
遅れてやってきたのはドクオだった。
昨日の兄者の様子が心配で、広場に来る前に流石家に寄っていたのだ。
ノックをしても返事がなかったので、兄者もいるのだろうとやってきたのだが、
少々のんびりしすぎてしまったらしい。
('A`)「まあいいけど」
ドクオとしては弟者のことを好きになれないので、見送る気もなかった。
('A`)「もう一度、兄者の家に行ってみるか」
- 94
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:29:39.88 ID:8ORNDpRu0
すっかりいつもの風景に戻ってしまった道を歩きながら、
流石家へ向かう。弟者が行ったあと兄者も帰ってきているだろう。
('A`)「おーい、兄者?」
ノックをしてみるが返事はない。
試しにドアノブをまわしてみると、意外なほどあっさりと扉が開く。
('A`)「おいおい。不用心だな」
と言いつつも、他人の家に勝手に上がりこむ。
('A`)「弟者を説得できなかったのは残念だけどさ、
そんなに落ち込むなって」
どこかで兄者が落ち込んでいるのを想像しながら
家の奥へと足を進める。
('A`)「おい、あに――――」
- 96
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:31:47.43 ID:8ORNDpRu0
居間へ入ってみると、そこに誰かが倒れていた。
(;'A`)「あ、兄者!」
慌てて近づき、顔を見て気づく。
('A`)「……弟者?」
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:33:49.61 ID:8ORNDpRu0
肩を揺さぶり、気絶していた弟者を叩き起す。
(´<_` )「……痛ぇ、何すんだよ」
不機嫌そうな瞳が返ってくるが、それに怯えている暇はない。
('A`)「お前、なんでこんなところに!」
(´<_` )「あ?
えーと、確か……兄者だ」
眉間に深いしわがよせられる。
(´<_`# )「あいつ、魔法で何か硬いものをオレの頭にぶつけやがったんだ」
弟者が家を出ようと、荷物を手に取ったところでやられたらしい。
よくみれば、額がわずかに腫れている。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:36:06.18 ID:8ORNDpRu0
(´<_`; )「っ時間! 今何時だ! 騎士は?」
('A`)「……行ったよ。たぶん、兄者と」
(´<_` )「は? 意味わかんねーこと言ってんじゃねーよ!」
ドクオの胸倉を掴みあげ、どういうことなのかを問いただす。
('A`)「兄者は、お前の代わりに……」
(´<_`# )「あんな奴にオレの代わりが務まるものか!」
確かに、二人の間には絶望的な差がある。
弟者の代わりに兄者が教育を受けられるわけがない。
('A`)「行ったら死ぬぞ!」
(´<_` )「……何言ってんだ」
ドクオの叫び声に、思わず手を離す。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:39:58.73 ID:8ORNDpRu0
('A`)「今まで集められた魔術師達は、みんな戦わされ、死んでいる」
(´<_` )「噂だろ」
('A`)「本当に教育を受けるだけなら、兄者はすぐに劣等生だとバレて
戻ってくるはずだ。そしたらお前が行けばいい」
(´<_` )「おい」
('A`)「でも、戻ってこなかったら、お袋さん達に死んだって言え」
(´<_`# )「おい!」
淡々と言葉を紡ぐドクオを怒鳴りつける。
(´<_` )「そんな信憑性もない話が信じられるわけないだろ!」
('A`)「…………オレは家を追い出された」
(´<_` )「それがどうした。今はそんなこと関係ないだろ」
('A`)「千里家って知ってるよな」
(´<_` )「あの、すべてを見通す眼を持った一族だろ」
('A`)「オレ、千里家の長男だ」
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:42:31.24 ID:8ORNDpRu0
(´<_`; )「嘘もそのくらいにしろよ」
('A`)「嘘じゃねーよ」
千里家といえば、知らぬ者はいない名家だ。
すべてを見通す眼は、他人の心まで覗くと言われている。
弟者は一歩後ずさる。
ドクオが名家の生まれであるとは聞いていたが、
噂程度にしか考えていなかった。
('A`)「安心しろよ。
オレは劣等性だから、心は見えねぇよ」
(´<_` )「……そういうことか」
千里家の跡を継ぐのは最も生まれの早い者だ。
しかし、肝心のドクオが眼を受け継がなかった。
新たに生まれる優秀な子供に期待し、
劣等性のドクオを田舎に追いやったのだろう。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:44:54.91 ID:8ORNDpRu0
('A`)「でも、オレだって千里家の端くれだ。
少しだけ、見えるものがあるんだよ」
(´<_` )「何が見えるんだ」
('A`)「呪いと負の感情」
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:47:28.06 ID:8ORNDpRu0
告げられた言葉に、体が冷たくなる。
('A`)「あの噂からは、少しだけど呪いの色が見えた」
笑い飛ばすことができないのは、場の雰囲気のためだ。
重く、冗談を言えるような状態ではない。
('A`)「だから、兄者は行ったんだ」
ドクオの眼に映る兄者は、いつも悲しみと罪悪感の色を持っていた。
最後にみたあの色は死を決めた色だったのだろう。
(´<_` )「…………」
弟者は静かに歩きだす。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/24(土) 15:48:58.92 ID:8ORNDpRu0
('A`)「どこへ行くんだ」
(´<_` )「決まってるだろ」
押し入れからカバンを取り出し、適当なものをつめていく。
(´<_` )「城へ行く」
第一話 完
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