81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:08:27.16 ID:3C+Ps/fx0
 これでブーンは数字を残せたわけだ。

 数字に残らないプレーは、これまでにアピールできている。
彼はおそらくBチームに昇格できることだろう。

 しかし、とわたしは考える。

川 ゚ -゚)「この程度のステージで小手先に頼る者は、
     クラックにはなれないだろうな」

 クラック。『叩き割る』。
凍りついた局面を叩き割るような名選手のことを、
サッカーにおいてわたしたちはそう呼ぶ。

 クラックはその溢れる能力によってあらゆる局面を打開する。
わたしたちは、自分の理論や予想が彼らの超人的な能力でもって
粉々に打ち砕かれるとき、言葉ではあらわせない快感を得るのだ。

川 ゚ -゚)「そんな怪物がちょくちょく現れるわけがないのだけれど」

 わたしは大きくひとつ息を吐いた。
ブーンに魔法を与えたのはわたしであり、
その目論見が成果となったにもかかわらず、わたしの胸はこれ以上は躍らない。

(´・ω・`)「あ。ボールを取ったよ」

 わたしがよそ見をしていると、ショボンさんがそう言った。
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:10:38.97 ID:3C+Ps/fx0
 再びピッチに目をやると、ブーンがボールを受けるところだった。

 前半のカウンターと同じような局面だ。
彼はハーフライン上でトラップし、ボールを前方に蹴りだした。
前半のカウンターと違うのは、
既にそれを見せているので実感をもって警戒されていることである。

 これまでのブーンはトップスピードになる前に潰されていた。
それはファウルになることもあり、
ブーンへのチャージでこれまで2人にイエローカードが出されている。

 今回もそうであろうと思われた。
ブーンが2タッチ目を触れる前に、彼は誰かに引き倒される。
実際相手チームの左サイドハーフの選手がブーンに並走していて、
彼の手はブーンのシャツに伸びようとしている。

 ブーンはシャツを掴まれた。

 そう思った次の瞬間、ブーンはひとりで飛び出していた。
ブーンの急激な加速についていけず、手を伸ばした選手はその場に転倒した。
当然笛は吹かれない。

 ブーンは、2ステップの距離でトップスピードに乗った。
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:12:51.18 ID:3C+Ps/fx0
 じきにロスタイムに突入する時間帯であるにもかかわらず、
ブーンのスピードは少しも衰える様子を見せなかった。

 周りの動きは衰えている。
つまり、相対的にブーンのスピードが上がっている状態だった。

 ブーンは単純なスピードで寄ってきた一人を抜き去ると、
その次の選手を体で抑え、足腰の強さとボディバランスで弾き飛ばした。
ブーンは手を出していないため、
彼らがいくら転倒しようと笛が吹かれることはない。

 ブーンはなおもドリブルを続けた。
相手ボランチが彼の前に立ちふさがると、
トップスピードに乗ったままボールを跨いでフェイントをかけ、
ボールをその選手の左から、自身はその選手の右から抜け出した。

 スピードに乗ったブーンに対して
反転した後追いかけなければならないボランチの選手は、
いくらボールまでの距離がその段階で近かろうとも
ブーンに追いすがることさえできはしない。

 そのことを頭より先に体が理解して、
混乱した彼の下半身は、彼に尻餅をつかせてしまった。
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:14:45.97 ID:3C+Ps/fx0
 左サイドバックの選手がブーンの死角から追っている。

 そのまま進めば彼がブーンに追いつくことはないけれど、
彼の姿を認めた瞬間ブーンの頭がパニックを起こし、
ボールコントロールを誤ることは十分に考えられる。

 彼はそれを狙いとし、ブーンのことを追っている。

 しかし、それがブーンに影響を及ぼすことはなかった。

 ブーンは再びボールを支配下に収めると、
ドリブルを進めながら首を素早く振る。
左サイドバックの姿が目視された。

( ^ω^)「お前の姿は見えているお」

 その行動は、彼にそんなメッセージを伝えるためのものである。
自分の狙いが奏功しないことを知った彼は、
そこで走るのを諦めてしまう。

 ブーンはなおもドリブルで進んだ。
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:16:40.50 ID:3C+Ps/fx0
 ブーンがひとり抜くたびわたしの隣でショボンさんが声をあげ、
最前列にいる金髪の少女が腕を振って興奮する。
わたしは手に汗握っているのに気がついた。

 ブーンはついに、ペナルティエリアの角に差し掛かろうとしている。

 センターバックのひとりがブーンに対峙した。
ブーンはそれを視界に入れると進路を調節し、
彼に向かって真っ直ぐつっかけていく。

 その動きは彼にとって想定外のことだったのだろう。
あわてた様子でブーンと適切な距離を取ろうとする。

 ブーンはそれを許さなかった。
十分な守備体勢を取られる前に素早く距離を詰め、
ぽっかりと空いた彼の股下のスペースにボールを転がす。

 自身はその脇を通ってペナルティエリアに侵入した。
股を抜かれるなど久しぶりのことなのだろう。
完全に虚をつかれた様子のセンターバックは
ブーンがペナルティエリアに侵入する前に手を伸ばすことさえしなかった。

 ブーンの体がペナルティエリアに達した瞬間、
わたしは席から立ち上がった。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:19:17.06 ID:3C+Ps/fx0
 1対2の局面だった。

 ブーンはディフェンダーのひとりをキーパーとの間に残している。

 ブーンのキックフェイントにディフェンダーが飛びかかることはなかったが、
その直後の鋭い切り返しについていくことはできなかった。
ブーンはディフェンダーを置き去りにし、
キーパーとの1対1に持ち込んだ。

 そのとき既に、ブーンの勝利は確定していた。
1プレイ前に行ったキックフェイントにゴールキーパーは引っかかっており、
ブーンがディフェンダーを抜き去ったとき、
その前に待っているのは大きく口を開いたゴールだけだったのだ。

 ブーンは、これまでの試合でゴールを挙げられなかった鬱憤を晴らすように、
渾身の力を込めて至近距離からボールをゴールに蹴り込んだ。

 キックの勢いのままブーンの体が宙を舞い、
その左足から放たれたシュートは破らんばかりにネットに突き刺さる。
空中でその光景を目にするブーンは
ゴールした者のみが得られる圧倒的な快感の海に潜り込んでいることだろう。

 着陸したブーンはその場で激しく吠え、両手を大きく広げて走りだした。
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:21:45.76 ID:3C+Ps/fx0
 思わず拳を握って腰を叩いたわたしの隣では、
ショボンさんがすっかり興奮した様子で飛び跳ねていた。

(*´・ω・`)「すごいねー! あのコ、すごいねー!」

 ショボンさんは、手を広げたままピッチを走りまわるブーンを指さした。
わたしの口元には笑みが貼りついて離れず、
顔の筋肉が他の表情の作り方を忘れてしまったのかとさえ疑われる。

 最前列に目をやると、
金髪の少女が安全柵から身を乗り出すようにして腕を振っていた。

 わたしは手のひらの汗を拭って時計に目をやった。
どうやら既にロスタイムに突入していて、残された時間は2分ほどのようだった。

 リードが2点に広げられた状況においても再び試合は続けられる。

 キックオフからディフェンダーに送られたボールが左サイドに渡ろうとする。
飛び出たブーンがそれをカットした。

 ブーンの左足アウトサイドが
完璧なタッチでボールをコントロールするのを見た瞬間、
まさか、とわたしの口から言葉が小さく漏れ出した。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:23:58.78 ID:3C+Ps/fx0
 センターバックのひとりが泡を食ってブーンにつっかかってくる。
冷静なプレーからは程遠い動きだった。

 その様子とは対照的に、ブーンは冷静にボールを切り返す。
完全なフリーの状態になったブーンは、
ペナルティエリアをやや出たところ、右45度の位置にいた。

 ブーンの周りの時間が止まっているかのようだった。
彼はワンステップ分の距離を正確にボールからとっており、
その一連の動作に干渉できる者はその場に居合わせていなかった。

 一目でキーパーの位置を把握したブーンは
そのワンステップを踏み込み、
左足インサイドではするようにボールを蹴り上げた。

 クロスを入れたのか、と一瞬思った。
そうではなかった。
ブーンの蹴ったボールは芸術的な弧を描き、
キーパーに飛びつく気など起こさせない軌道でゴール左隅に吸い込まれた。

 回転のかかったボールがサイドネットを滑り落ちる音が、
わたしの耳には確かに聞こえた。

 そんな馬鹿な、とわたしは拳を握りしめ、自分の予想を
はるか超越したところにあるプレーを見せつけられる快感に身をよじる。

 ピッチ上では、10分間でハットトリックを成し遂げたフォワードが、
いつまでも飽きることなく羽ばたいていた。
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:26:00.04 ID:3C+Ps/fx0
 編まれた毛糸たちの隙間を潜り抜け、1月末の寒さがわたしの首を撫でてくる。

 それをなんとか拒もうと顎先をマフラーに押し付けながら、
わたしは『バーボンハウス』のドアを押し開けた。
カランカラン、とステレオタイプな音が鳴り、
店長のショボンさんがにっこりと微笑みかけてくる。

(´・ω・`)「いらっしゃい。とりあえずコーヒー?」

 ブラックで、とわたしは頷き、カウンター席に腰掛けた。

(´・ω・`)「あれ。今日はお仕事じゃないの?」

川 ゚ -゚)「じゃ、ないんですよ」

 わたしはそう言い、ピッツァ・マルガリータを注文する。

 わたしは鞄から一冊の雑誌を取り出した。
わたしが関わっている雑誌のユナイテッドヴィッパーズ特集号で、
来シーズンを睨んだチーム考察や移籍情報、
そして、今シーズン中にプロ契約を結んだ新人たちの情報が載っている。

 わたしはドッグイアーのついているページを大きく開き、
ショボンさんに掲げて見せた。
そこにはブーンの名前が載せられている。

 好物欄とラッキーアイテム欄に、ピザまんの4文字が踊っていた。


                                            おしまい

 

 

 

113 名前: ◆U9DzAk.Ppg :2008/01/26(土) 18:29:33.34 ID:3C+Ps/fx0
投下は以上です。ありがとうございました。

書き終わってから気づいたのですが、
このタイトル、大富豪さんの大喜利投下のものだったのですね。
読んでいた筈なのに思い出せなく、このような形になってしまいました。
この場を借りて失礼をお詫びいたします。

質問とかある人はどうぞ。
ふたなりではありません
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:32:39.31 ID:BxXKNwEI0
実際>>1は記者とかやってるの?
118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:40:37.94 ID:3C+Ps/fx0
怒られるかも! と思ったので一応書いておくと、
コーナーキックのときキーパーの背中に手を置いてバランスを崩させるのは
スペインのラウルという選手が何年か前にやってたプレーです。

>>117
いや、ただのサカオタです。
たぶんちゃんとした人が見ると色々ツッコミどころあると思います

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