- 59
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:38:38.49 ID:3C+Ps/fx0
- このカウンターが前半戦最大の見せ場となった。
ブーンの鋭い切れ込みを見せつけられた相手チームは
危険を冒して攻めることができなくなり、
UVにしてもこれといった手を取ることができずに時間ばかりが経過する。
(´・ω・`)「なんだか、つまらないね」
ショボンさんは自分の感想を素直に言った。
そうですね、とわたしは頷く。
川 ゚ -゚)「でも、なかなか面白いところもありますよ」
(´・ω・`)「どこが」
川 ゚ -゚)「ブーンのプレッシャーのかけ方は、
おそらく指示されているのでしょうが、面白い動きをしています」
良い按配に敵のボールとなったため、わたしはショボンさんに解説をはじめた。
川 ゚ -゚)「見たところ、敵チームのディフェンダーは
左サイドを除いてパスが下手ですね。
だからブーンは、
敵の右サイドにボールがいくよう、囲い込むように動きます」
わたしが指さしながら説明すると、ショボンさんは曖昧に頷いた。
十分に理解はしていない様子だったので説明を重ねようとしていると、
前半終了の笛が鳴った。どうやら30分ハーフのようである。
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:41:16.12 ID:3C+Ps/fx0
- (´・ω・`)「これからハーフタイムってやつなのかな」
川 ゚ -゚)「そうですね。何分間かはわかりませんけど」
(´・ω・`)「じゃあこれを食べよう」
ショボンさんはそう言うと、鞄からアルミホイルに包まれたものを取り出した。
手にとって開けてみると、サンドイッチだった。
ライ麦のパンにハム、トマト、チーズにレタスなどが挟まれている。
川 ゚ -゚)「わあ。ありがとうございます」
わたしがショボンさんに礼を言うと、ショボンさんは首を横に数回振った。
(´・ω・`)「お金は取るよ。500円だ」
川 ゚ -゚)「取るんですか」
(´・ω・`)「僕は一応プロだからね」
そのかわりコーヒーもつくよ、とショボンさんは水筒を取り出した。
わたしは素直に金を払った。
- 63
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:46:00.09 ID:3C+Ps/fx0
- サンドイッチは旨かった。これが500円なら2日に1個は買っても良い。
その旨をショボンさんに伝えると、彼は微笑みながらも肩をすくめる。
(´・ω・`)「定期的にやったら採算あわないよ。
これを500円で出すなら、質を落とさなきゃできない。
僕はそんなことはしたくない」
ショボンさんは笑ってそう言った。
わたしもつられて少し笑った。
後半開始の笛が吹かれ、ブーンは前半と同じく右フォワードの位置に入った。
相手のボールで試合が再開し、相手ディフェンダーたちがボールを回す。
ブーンはその左サイドバックにプレッシャーをかけた。
川 ゚ -゚)「ブーンのプレスにより、左サイドは、ボールをもつと
すぐセンターバックに戻したくなります」
わたしはブーンを指さしそう言った。
川 ゚ -゚)「そしてセンターにボールがいくと、
ブーンはそのまま左サイドにボールがわたらないようマークします。
相方フォワードは俊敏な動きはできませんが、
それでもプレスの真似事はします」
すると、パスの下手なディフェンダーはボールを持ちたくなくなる。
ボランチへのパスは出せず、中距離パスを出す技術はない。
必然的に彼らはフォワードへロングボールを蹴ることになり、
それはUVディフェンダーによって跳ね返された。
- 64
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:49:00.97 ID:3C+Ps/fx0
- しかし、UVはディフェンダーの跳ね返したボールを
有効利用することはできなかった。
おそらく彼らにとって最大の武器は
ブーンのスピードを活かしたカウンターなのだろうが、
そのブーンは左サイドバックをマークするためその近くにおり、
そのままケアされるとなかなかフリーで抜け出せない。
そこで、一見フリーであるように見える相方フォワードにボールが集まる。
しかし彼はその体躯とプレースタイルにもかかわらず
ポストプレイがあまり上手くなく、攻撃の基点になりきれない。
たまにブーンにボールがわたるが、
前半のカウンターで警戒されているのかスピードに乗る前に潰されてしまう。
もどかしさに抵抗するようにブーンがピッチを駆け回るが、
時間ばかりが経っていた。
(´・ω・`)「残り15分か。引き分けかもね」
ショボンさんはさほど残念そうな素振りもなくそう言った。
最前列の金髪少女はブーンが潰される度に声をあげ、
UVのシュートが外れる度に憤る。
川 ゚ -゚)「忙しい女の子だな」
わたしはそう思いながら、しかしあのくらいの方が
男性受けするのかな、とも考えた。
- 66
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:51:16.12 ID:3C+Ps/fx0
- 残り時間が10分となったが、
依然として両チームとも得点を決められていなかった。
川 ゚ -゚)「アピールはできていると思うがな」
この時間帯にして、ブーンの運動量は衰えない。
彼は自分の仕事を勤勉にこなしている。
しかし、とわたしは考える。
ブーンはこの程度のアピールなら、
これまでのプレーにおいても見せてきている筈だ。
川 ゚ -゚)「それでフルタイム契約を勝ち取れていないということは、
それだけ目に見える数字で表すことが大事なのだろう」
契約には金銭的な問題が発生する。
クラブ側がシビアに数字を求めるとしても、責めることはわたしにはできない。
川 ゚ -゚)「ブーンは魔法を使うのだろうか」
わたしの魔法を使うには、いくつかの条件が必要となる。
これまでその条件を満たし得る状況になったことは何回もあったが、
ブーンがそのため行動することはなかった。
(´・ω・`)「ロスタイムは5分か」
ライン際に掲げられた板にそう表示されている。
あわせて残り10分となったところで、UVがコーナーキックを獲得した。
- 68
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:53:50.11 ID:3C+Ps/fx0
- キッカーが、コーナーフラグのそばにボールを置いた。
わたしはブーンの姿を目で追いその行動に注目する。
ブーンより長身の選手が何人もいることもあり、
彼はそれまでコーナーキックの競り合いに参加してはいなかった。
ペナルティエリアを少し出たところでこぼれ球を拾う役割に徹していたのだ。
しかし、今回ばかりはそうではなかった。
ブーンはそろそろとペナルティエリア内に侵入し、
しかし特別なマークをつけられてはいなかった。
川 ゚ -゚)「点が入りますよ」
その様子を見たわたしはショボンさんにそう言った。
え、とショボンさんがこちらを向く。
川 ゚ -゚)「ブーンが入れます。見ててください」
(´・ω・`)「こういうのって、でっかい方が有利でしょ。
彼が得点するのは難しいんじゃないのかな」
川 ゚ -゚)「それが、そうでもないんですよ」
魔法をかけましたから、とわたしは笑った。
川 ゚ -゚)「これから点が入ります」
- 71
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:56:17.75 ID:3C+Ps/fx0
- コーナーキッカーが助走のための距離をとり、
右手を大きく挙げてこれから蹴るぞとアピールした。
相手ゴールキーパーはゴールマウスをわずかに離れ、
キッカーがへたくそなボールを蹴ってきたらキャッチしてやろうと構えている。
ブーンはそんなキーパーの後ろにぴったりとくっついていた。
そんなところに立っていても、キーパー越しにボールに触れることはできないため、
ブーンに対するマークをしようとする者はどこにもいない。
集中し、身を少しかがませて臨戦体勢をとるキーパーの腰に、
ブーンの腕が押すわけではなく乗っている。
キッカーが助走をはじめた。
それに伴い、攻守共に、ペナルティエリア内をあわただしく駆け回る。
その混沌の中で動かないのは
蹴られたボールに反応してポジショニングを変えるキーパーと、
その後ろに貼りつくブーンのふたりのみである。
キッカーがボールを蹴った。
蹴った瞬間それとわかるミスキックだった。
キッカーの蹴ったボールは、まっすぐキーパーに向かって進んでいく。
ブーンは微動だにせず、ただそのまま立っていた。
- 72
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:58:23.16 ID:3C+Ps/fx0
- 次の瞬間、わたしとブーン以外の誰もがその目を疑った。
タイミングを計ったキーパーは飛びつくことなくバランスを崩し、
よろよろと数歩あるいただけだった。
そのバランスの崩し方はとても自然で、
何らかの外力が働いたようには誰にも見えない。
キーパーのバランス感覚はすぐにそれを修正し、再びボールに飛びつくが、
既にタイミングを外したその手はボールにかすることもできなかった。
キーパーに向かってまっすぐ進んでいたボールは、
そのままの軌道でまっすぐブーンに向かって飛んでいく。
川 ゚ -゚)「1回だけしか使えない魔法だ」
外すなよ、と念じたわたしに応えるように、
ブーンの頭は丁寧にボールをヒットした。
ゴール前1メートルから放たれたヘディングシュートは
当然ゴールに突き刺さり、誰もがあっけにとられる中、
ブーンはペナルティエリアから駆け出した。
- 75
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:00:23.52 ID:3C+Ps/fx0
- えええ、とショボンさんが声をあげた。
(;´・ω・`)「なに今の! 押したの!?」
川 ゚ -゚)「押してませんよ」
見てたでしょ、とわたしは言った。
ショボンさんは必要以上に激しく頷いた。
(;´・ω・`)「見てた。ブーンは押してない。
というか、何もしていない。なんでキーパー転んだのさ」
川 ゚ -゚)「転んでませんよ。ちょっとよろめいてましたけど」
(;´・ω・`)「一緒だよ!」
川 ゚ -゚)「そうですね。一緒です。
点が入るって言ったでしょ」
(;´・ω・`)「だから、あれ、どうやって入ったんだよ」
川 ゚ -゚)「ヘディングですよ。上手かったですね」
(;´・ω・`)「そうじゃなくて!」
たまらずわたしは吹き出した。
川 ゚ -゚)「だから、魔法ですよ。これから説明いたしましょう」
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:03:13.93 ID:3C+Ps/fx0
- ブーンはキーパーを押していません、とわたしは言った。
川 ゚ -゚)「ただ、触っていました。
腕をキーパーの腰に置いていたのです」
(´・ω・`)「腰に?」
川 ゚ -゚)「そう、腰に。
少し前かがみになり、傾いている、キーパーの腰に」
(´・ω・`)「それで?」
川 ゚ -゚)「それだけです」
(´・ω・`)「それだけな筈ないだろ」
それだけですよ、とわたしは笑った。
川 ゚ -゚)「あとは少し踏ん張っただけです。
そのままの体勢を維持し、動かないように」
魔法を使うためにブーンがすべきことのすべては唯一、
あの形のまま微動だにせず、ただキーパーがよろめくのを待つことだけだった。
- 79
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 18:05:12.92 ID:3C+Ps/fx0
- わたしは得点の数秒前を思い出す。
ブーンの手が、キーパーの腰に乗っていた。
キーパーはやや前かがみになり、上半身が傾いていた。
その傾きにそってブーンの腕は固定され、
彼はそのまま待っていた。
やがてボールが蹴りこまれる。
キーパーはタイミングを計り、ボールに飛びつく。
ブーンはそれを押してはいないため、キーパーにその腕の効果は察せられない。
キーパーはジャンプの最高到達点でキャッチするようしつけられている。
そのため彼らは、鉛直上向きにジャンプする。
彼らの脚力に蓄えられたエネルギーは、
すべて真上に向かった運動をするのに使われる。
しかし、そこにはブーンの腕がある。
斜めに固定されたブーンの腕は、鉛直上向きの力積をわずかにそらす。
わずかにそれた運動は、キーパーのバランスを容易に崩すのだ。
期せず前方向への運動を強制されたキーパーは混乱する。
彼はよろめき、ジャンプすることあたわない。
彼にできることは、何も考えられないまま数歩よろめくことのみであり、
それだけで彼らはボールに触れられなくなる。
川 ゚ -゚)「1センチ届かなかろうと5メートル届かなかろうと、
同様にゴールを阻止できないというのは残酷ですね」
わたしは説明の締めくくりにそう言った。
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