- 34
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:02:35.80 ID:3C+Ps/fx0
- 明くる土曜日、わたしはブーンとデートをすることにした。
行き先はVIP市立公園で、緑豊かなこの公園には、
去年から有料の予約式で利用できるスポーツ区間が設置されている。
わたしはフットサルコートを一面予約し、
そこでブーンと会うことにした。
わたしの意見を聞いたからといって彼の助けになるとは思えないけれど、
わたしは彼に興味があったし、彼のプレーにも興味があった。
つまり、わたしの興味を満たすために彼の休日を奪ったのだ。
申し訳ないことに、あまりわたしは罪悪感にさいなまれてはいない。
長袖長ズボンのジャージに身を包んだわたしとは違って、
ブーンは半袖半ズボンの気合の入った格好をしていた。
ハーフパンツから突き出た両足が、しっかりとした筋肉を伴っている。
わたしたちは柔軟体操を十分に行い、
お互いの足元にパスを送る運動を開始した。
腰の高さの受けにくい位置にボールをコントロールしたわたしは、
すぐにブーンの有能さに気がついた。
彼はこともなげにそれを受け、
ワントラップで一番蹴りやすい位置にボールを置く。
川 ゚ -゚)「左利きか」
わたしがそう呟くと、わたしの右足に吸い付くようなボールが送られてきた。
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:05:03.60 ID:3C+Ps/fx0
- ブーンは体の届く位置に送られる、あらゆるボールに対応した。
時に太ももや胸を使い、わたしの送るパスたちを、
すべて左足手前の一番蹴りやすいところにコントロールする。
ブーンから送られるパスたちは、そのすべてが
右利きのわたしにとって一番トラップしやすい場所に集められた。
川 ゚ -゚)「わたしにアピールしてるのか」
わたしは小さく微笑んだ。
トラップの方向を変え、ゴールのひとつに向かってゆっくり歩く。
わたしのの意図を汲んだブーンは、そのゴールに向かって駆けだした。
川 ゚ -゚)「瞬発力も悪くない」
頭も悪くはなさそうだ。
わたしは彼の走る速さを頭に入れ、良い按配の場所にボールを蹴った。
ブーンは走り込んでパスを受け、ワンタッチでゴールに蹴り込んだ。
- 38
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:07:13.58 ID:3C+Ps/fx0
- フットサルコートのふたつのゴールを往復し、
わたしは様々なアシストパスをブーンに送った。
速いグラウンダーや難しいバウンドにもブーンは合わせられ、
ボールを受ける前の動きにも大きな欠点は見当たらない。
サイドから放り込まれる高いクロスに頭で合わせてゴールしたのをきっかけに、
わたしたちは短い休憩をとることにした。
( ^ω^)「どうですかお?」
水を頭からかぶりながら、ブーンはわたしにそう訊いた。
流れた汗が水と混ざり、湯気となって彼の体を包んでいる。
上半身に着ているジャージを脱ぎさると、
Tシャツ姿になったわたしは裾をズボンから引っ張り出した。
突き刺すような寒さの中を火照った体でいることは、
たまらない快感だ。
川 ゚ -゚)「悪くない。というか、年齢やカテゴリーを考えると、
とても良い方だと思う」
わたしは思ったままを口にした。
実際ブーンの技術は確かなもので、
Bチームの実戦で鍛えられていないのが不思議なほどである。
1対1に難があるのかもしれないな、と思ったわたしは休憩を終え、
ボールをもったブーンと対峙した。
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:09:13.91 ID:3C+Ps/fx0
- ハーフライン付近からつっかかってくるブーンを迎え、
わたしは彼の周囲に注意を払った。
股を抜かれないよう足は大きく開かず、
左右の動きに対応できるよう極端な半身にもならない。
わたしの防御姿勢を見たブーンは感心したようにステップを変え、
肩を揺すってわたしを幻惑しようとした。
川 ゚ -゚)「そんなフェイントはわたしには効かないよ」
わたしはスピードに乗って迫り来るブーンと適切な距離を取るように、
やや後ずさりながら彼の行動を見守った。
ブーンがボールを素早く跨ぐ。わたしはそれにつられない。
わたしは彼の足捌きに集中し、またボールの動向にも集中しながらも、
彼の体全体を眺めるように注意を払う。
プロになっていてもおかしくないほどの能力をもつブーンに対して
積極的にボールを取りに行けるような技術はわたしにはないので、
わたしは抜かれないことを第一に心がけた。
再びブーンがボールを跨ぐ。わたしはそれにつられない。
そう思った次の瞬間、ブーンは爆発したように加速した。
わたしの足の届かない位置をボールが走り、彼はそれについていく。
それでも伸ばしたわたしの足をものともせず、
ブーンはわたしを完全に抜いた形でボールをコントロールし、
腹が立つほど丁寧に、ボールをゴールに蹴り込んだ。
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:11:13.59 ID:3C+Ps/fx0
- 何度試してもわたしは抜かれた。
ブーンはスピードを利用したフィジカルな抜き方でゴールし、
細かなフェイントを駆使したテクニカルな抜き方でゴールした。
川 ゚ -゚)「まいった。降参だ」
やがてわたしは完全に息が上がってしまい、
流れる汗を袖で拭いながら両手を挙げた。
ブーンは1対1にも弱くない。
わたしの技術はプロレベルには遠く及ばないが、
ひとつの物差しとして利用することはできる。
少なくとも、それを理由に受け入れられないことはない筈だ。
川 ゚ -゚)「なんでユースチームなんだ?」
水を飲みながらそう訊くと、
点が入らないんですお、とブーンは答えた。
( ^ω^)「フォワードは、点を取れなければ評価されませんお。
僕は最近めっきり点が取れなくて、
何が原因なのかわからないんですお」
ピザまんに頼りたくなるほどですお、とブーンは苦笑混じりに呟いた。
- 43
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:14:01.37 ID:3C+Ps/fx0
- ピザまんは好きか、とわたしは訊いた。
( ^ω^)「好きですお」
でもどうして、とブーンは訊いた。
わたしはそれに答えず、質問を続ける。
川 ゚ -゚)「点を取るのは好きか?」
( ^ω^)「好きですお」
川 ゚ -゚)「それが、どのような得点であっても?」
( ^ω^)「もちろんですお。
泥臭い得点もPKでの得点も、1点は1点ですお」
その答えを聞いたわたしは大きくひとつ息を吐いた。
ブーンは純粋な目でわたしの言葉を待っている。
川 ゚ -゚)「シャワーを浴びようか」
このままでは風邪をひいてしまう、とわたしは言った。
拍子抜けした様子のブーンは不満げながらもわたしの言葉に従って、
わたしたちはシャワー室で身をすすぎ、普通の服に着替えなおした。
川 ゚ -゚)「君に魔法をひとつ与えよう」
これも何かの縁だから、と、わたしはブーンにそう言った。
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:16:08.24 ID:3C+Ps/fx0
- フォワードにとって、点の取れない時期は避けられないものである。
まずもってわたしは、ブーンにそのような前置きを話した。
川 ゚ -゚)「君のように能力は十分にある場合でも、
なぜだか点が入らない、ということは珍しくない。
1点入れば呪いは解かれ、次々にゴールが生まれるものだ」
( ^ω^)「わかってますお。
でも、今の僕には、その1点が遠いんですお」
川 ゚ -゚)「これからわたしが授ける魔法は、その1点を生み出すものだ。
それ以上でも以下でもないし、
ゴールが続かない場合、君の評価はむしろ落ちるかもしれない」
それでも良いか、とわたしは訊いた。
ブーンは少し迷いながらもはっきりと頷いた。
川 ゚ -゚)「それでは教えよう。
なに、反則ではないよ。反則だと点が入らないからな。
それでも君のような若い選手は小手先ではない技術を伸ばすべきで、
わたしはこのような方法を取るべきではないと思っている」
使うかどうかは君の意思だ、とわたしは言った。
川 ゚ -゚)「ご利用は計画的に」
わたしはブーンに、何をすれば良いのか説明をした。
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:18:20.31 ID:3C+Ps/fx0
- 説明を聞いたブーンは感心のため息をつきながら、
大きく何度も頷いた。
( ^ω^)「なるほどー。こんな方法があるんですかお」
川 ゚ -゚)「あまり上品なやり方とは言えないな。
こういう点の取り方をどう思う?」
( ^ω^)「あまり好きではありませんお」
川 ゚ -゚)「だろうな。おそらく君は、性格が良いのだろう。
わたしはこういうのも好きなんだ。だから知っている」
きっとわたしは性格が悪いのだろうな、とわたしは言った。
川 ゚ -゚)「試合は明日か?」
( ^ω^)「観に来てくれるんですかお?」
川 ゚ -゚)「行くよ」
( ^ω^)「じゃあ、賭けをしましょうお」
川 ゚ -゚)「賭け?」
わたしがブーンにそう訊くと、彼は大きく頷いた。
( ^ω^)「僕が魔法を使わず得点したら、ピザまんをおごってくださいお」
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:21:16.68 ID:3C+Ps/fx0
- ピザまんか、とわたしは呟いた。
川 ゚ -゚)「そんなにピザまんが好きなのか?」
( ^ω^)「そういうわけじゃありませんお。
あの店のピザまんはすごく美味しかったけど」
ピザまんは縁起が良いんですお、とブーンは言った。
( ^ω^)「クーさんとの思い出になったら、いっそう縁起が良くなりますお」
川 ゚ -゚)「そんなことでがんばれるのか?」
わたしが少し笑ってそう言うと、ブーンは力強く頷いた。
( ^ω^)「がんばれますお」
そうか、とわたしは小さく呟いた。
ブーンに近寄り、右手で作った拳で彼の胸部を軽く突く。
川 ゚ -゚)「それならがんばれ」
見ててやる、とわたしは言った。
ブーンは、やはり大きく頷いた。
- 49
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:24:16.59 ID:3C+Ps/fx0
- 日曜日は晴れだった。
川 ゚ -゚)「試合日和だ」
わたしは欠伸交じりにそう呟き、ブーンに教えられた場所に足を運んだ。
それは小さな、スタジアムと呼ぶのは気が引けるような試合場だった。
川 ゚ -゚)「それでも、試合場なのか」
まがりなりにも芝の敷かれたフィールドは、見ていてうらやましくなるほどだった。
どうやら無料で見られるらしい。
わたしは観客席に登ると、一番高い位置にある席に向かった。
選手を間近には見られないかわりにフィールド全体を見渡せるので、
わたしが最前列で観戦することはほとんどない。
無料とはいえ、若い、相対的に見てテクニックの劣る選手たちの試合を
観戦する者はほとんどおらず、狭い観客席にも人はまばらだった。
いるのはわたしのような物好きか、あるいは選手たちの身内くらいだ。
試合がはじまる時間になると、選手たちが入場してきた。
ブーンの姿が現れるや、観客席から黄色い声援が飛ぶ。
ξ゚听)ξ「ブーン! 点取るのよー!」
ブーンの家族か友人か、あるいは恋人なのかもしれない。
川 ゚ -゚)「やれやれだ。わたしというものがありながら」
わたしが勝手なことを呟いていると、試合開始のホイッスルが鳴った。
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:26:29.71 ID:3C+Ps/fx0
- ブーンは2人いるフォワードの、右側にポジションをとっていた。
相方を組むのは長身の選手で、
やや小柄なブーンとは相性の良い組み合わせなのかもしれない。
相手のボールになると勤勉にプレスをかけ、
味方のボールになると一度中盤付近まで降りていってパス回しを楽にする。
相方フォワードがどっしりとペナルティエリア付近に収まるのとは対照的に、
ブーンはフィールド内を所狭しと駆け回っていた。
川 ゚ -゚)「どうやら思った通りだな」
わたしが頬杖をついてそう呟くと、
何がった通りなんだい、と声をかけられた。
声のした方に目を向けると、ショボンさんが立っていた。
川 ゚ -゚)「何してるんですか」
(´・ω・`)「まだ何も。これから試合を見るつもりだけど」
川 ゚ -゚)「そうじゃなくて。店はどうしたのですか」
(´・ω・`)「バイトに任せたよ。
僕だって、なにもオルウェイズ店にいるわけじゃない」
川 ゚ -゚)「そうなのですか」
バイトがいるとは知らなかった。
- 53
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:29:07.65 ID:3C+Ps/fx0
- (´・ω・`)「実は僕、サッカー見るのはじめてなんだ」
わたしの横に腰を下ろし、ショボンさんはそう言った。
川 ゚ -゚)「じゃあなんで来たのですか?」
(´・ω・`)「いやー、クーさんの指導の成果が見たくって」
手ごたえとしてはどうですか、と
ショボンさんはインタビュアーっぽい口調を作って訊いてきた。
川 ゚ -゚)「わたしは何もしていませんよ」
(´・ω・`)「あ。そうなんだ?」
川 ゚ -゚)「そうですよ。
というか、一日で劇的に変わるのだとしたら、
逆に憂慮すべき事態ですよ」
(´・ω・`)「あ。そうなんだ」
つまんないの、とショボンさんが呟く。
ピッチ上では、UVのカウンターの形になっていた。
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:32:20.83 ID:3C+Ps/fx0
- 中盤右サイド付近でブーンにボールが繋がった。
精度の高いパスではなかったが、ブーンのトラップ技術は見事なもので、
彼は正確にボールをコントロールした。
すかさずチェックをかけてくる相手選手をヒラリとかわし、
ブーンはドリブルを開始する。
2ステップの間にトップスピードまで加速した。
ブーンは右サイドを駆け上がる。
左サイドにフリーの味方が一人走り込んでいて、
チラリとそちらを目で追うと、
相手プレイヤーの何人かがそれに向かってケアをする。
その隙を逃さず、ブーンはなおもドリブルで、敵陣深くまで切れ込んだ。
中盤の選手が左側からスライディングをかけてきた。
一瞬早く察知していたブーンはそれと平行になるように
真横にボールを切り返していて、
矢のようなスライディングが横切った後ろにボールを蹴って突破した。
その動きで中央に踊り出たブーンには、無数の道が開かれている。
その中から彼はパスを選び、
敵ディフェンダーを背負う形を取っている相方フォワードにボールを任せた。
すかさずブーンは走り込み、
壁から跳ね返ってくるボールを、右サイドに流れながらトラップした。
- 55
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/26(土) 17:35:39.39 ID:3C+Ps/fx0
- ワントラップで縦に走ったブーンの前には、敵サイドバックが待っていた。
ブーンは細かくステップのリズムを変え、
変則的な動きでその相手を幻惑する。
餌のようにブーンの少し前に出されたボールに飛び込むや、
その寸前で軌道を変えられ、敵サイドバックは軽やかに抜き去られた。
ゴールライン付近まで深く切り裂いたブーンは
相方フォワードの走り込みを確認し、
マイナスの角度に高いクロスを放り込む。
それに向かって長身のフォワードが勢いよく飛び込んだ。
ディフェンダーに貼りつかれながらのジャンプとなったため完全にはヒットせず、
ヘディングのシュートはバーを叩いて跳ね返える。
その跳ね返りのボールを、UVの中盤選手がボレーで蹴った。
十分な抑えを効かせられなかったシュートはゴールのはるか上空を過ぎていく。
ξ゚听)ξ「こらー! 決めんか!」
先ほどブーンに声援を送っていた金髪の少女が、
最前列で野次を飛ばす。
(´・ω・`)「へー。なかなか面白いね」
ショボンさんの様子を伺うと、それなりに楽しんでいるようだった。
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