241 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:03:36.31 ID:TpKUzG8h0

( # ω )「クソ、クソッ! アンノウン、僕はお前を許さない!」

 ブーンは悪態を吐きながらバイクで宙と陸、屋根と壁とを走り、
 行く手を妨害するセカンド達を――市民の生命とウィルスの活動を断っていった。
 赤と蒼の機械の双眸から今にも涙が零れそうなくらい、ブーンの人工の顔は歪になっている。

 慈悲を与えるなら、死でなくてはならない。
 彼等は肉親であろうが恋人であろうが食料と見なし、容赦なく喰らう化物なのだ。
 人として生きている「非感染者」の事を思えば、化物となった肉親や恋人を
 殺してやるべきだと、ブーンは考える。

 アンノウンの魔力を断てば、この疑似的なウィルス活動は停止するだろう。
 だけれども、今はそれが出来ない。時期も、場所も、それを許さないのだ。
 そう、この現状においては、これ以上の『アウトブレイク』を抑えるには「死」が唯一手段なのである。

( # ω )「お前だけは僕が絶対に倒す……アンノウン!!」

 爆音が連続する。
 弾丸と化したブルーエネルギーは市民を液状に溶かし、
 あるいは灰塵にして、生命ごとウィルスを消滅させてゆく。
 前後左右、続く道も来た道も全てを市民の血で深紅に染め、ブーンは暴君の下へ急ぐ。
246 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:10:56.72 ID:TpKUzG8h0

(#^ω^)『オッサン! 市民の避難誘導はどうなってる!?』

 通信圏外。そのざらついたノイズを聞き、ブーンはここが異世界である事に気づいた。
 スネークの全身をスキャニングしていないが、仮にしていたとしても
 自分と共通の通信機は存在していないはずだ。

( ^ω^)(オッサンなら上手くやってくれているはずだお)

 思わず無声通信を飛ばしたのも、心底から彼を信頼するのも、
 あまりにも自分の知る「ソリッド・スネーク」だったからなのだろう。
 スネークなら、セカンドに淘汰される事無く、最小の被害で市民を避難させるに違いない。
 超巨大セカンド「イトーイ王」は自分が何とかする、だから市民を頼む。
 そう言ったのは他でもない自分だ。

 周囲のセカンドの数は少ない。ブーンは意識を正対する王に集中し始める。
 “王”の変異は未だ途上にある……王は、変異が齎す激痛に耐え切れないようだ。
 苦しみに悶え、破壊と栄養摂取にはまだ踏み込んでいない……チャンスだ。

(;^ω^)(攻撃は今しかないお!)

 これまでの狩りの経験に基づき、最適な攻撃方法を脳でシミュレートした後、
 BLACK DOGUのサイドボディに隠された武器庫を展開する。
 取り出したのは「砲」――――最大火力のBlueLazerCannon。

 邪魔なロングコートを脱ぐ。砲を背のホルダーに装着し、
 ブーンは王から離れた高層ビルの壁に沿ってバイクを上昇させた。
 “王”の目の位置まで上昇し、ガラスを破って屋内に侵入する。
 そこに人もセカンドもいない。気を使う必要が無い事を知ると、ブーンとBLACK DOGは乱雑に
 デスクやパソコン、コピー機に似た機器を蹴散らして“王”の見える窓際に立った。

247 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:14:02.71 ID:TpKUzG8h0
 3秒を費やし、“王”の全身をスキャンし終える。
 全長200メートル超という非生物的な巨体だが、臓器配列が人間と同じなのが救いだ。
 ならば狙うべきは頭部。ウィルスに冒されようが神経に信号を走らせるのは脳である。
 即ち脳さえ破壊すれば、ウィルスが死滅してなかろうが一時的に活動停止させる事は可能だ。

 その隙に徹底して抗体を撃ち込んで弱体化を進め、ウィルスと生命を完全に断つ。
 長年の戦闘で培った大型セカンド狩りのセオリーだ。

(;^ω^)(奴が変異を完了させるまでに抗体を撃ち込む!)

 窓際で“王”を覗き見つつ、ブーンはBlueLazerCannonの準備を進めていた。
 右手を包むように広がっているトリガー部に右手を突っ込み、
 左手でトリガー部に埋め込まれたスイッチを押し込むと、
 するとそこが裏返り、タッチパネルが展開される。

 次にブーンは指を素早く動かし、タッチパネルで無数の打音を打ち鳴らした。
 その操作に合わせ、Blue Lazer Cannonは本来の姿へと変貌してゆく。
 トリガー部が更に開き、すると極太のコードが現れた。

 変形は進む。
 銃身の上部が開き、そこから2つの極大銃身が左右に展開。
 中心となっている銃身からエネルギーが放出され、それが左右の銃身を空中で繋ぎ止める。

 その間に、ブーンはトリガー部から伸びるコードを掴み、
 長い後ろ髪を掻き分けて後頭部のサイバーウェアに接続する。
 頭の奥でゴツゴツとした異物感を覚え、ガチりと鳴った後、左視界にモニターが表示された。
 【システム・ディレイクとの接続完了。BlueLazerCannon全システム正常運転中。
 全コントロールをB00N-D1に譲渡し、安全装置を解除】
249 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:20:21.58 ID:TpKUzG8h0

( ^ω^)(出力は……)

 ブーンはメモリーから“王”とセントラルの画像を呼び出し、交互に見やる。
 “王”の頭部を破壊した上で、セントラルへの被害を最小限に抑えるには――

(;^ω^)(出力は30%ってところが限界かお……!)

 例えば“王”の頭部を貫き、内壁にレーザーが及ぶとなると、
 セントラルの都市機能を維持する機器を破壊する可能性だってある。
 内壁に何が埋め込まれているのかは不明だが、ここが『セントラル』であるからこそ、慎重にいきたい。

 しかし最大出力での砲撃を思い返せば三割での砲撃は心もとなく、舌を打つ。
 されど指の動きは淀みなく、早々に出力を決定し、右腕部強化プログラムBoosterを起動した。
 右腕が、目の覚めるような蒼色とモーター音に包まれる。
 これにより砲撃が齎す身体へのダメージは緩和される。
 エネルギー補給は出来ないといえど、このブースターカートリッジ消費は
 後のアンノウン戦を見越した行動と言えよう。

 出力上昇に伴い機関は鳴動し、三つの砲が蒼を纏う。
 砲撃の準備は整った。
 ブーンは身を翻し、窓から蒼く煌く砲と己を覗かせる。
252 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:27:54.20 ID:TpKUzG8h0



( ゚ω゚)「喰らえ!!」


 射出コントロールはブーンの意思。
 発声と同時、その意思は頭部に突き刺さったコードを伝い、
 砲の機関へ入力され――


   三つの巨大な蒼の帯が、音を置き去りにして奔った。

_____
\|||||||||||||/
 以; 益 以 《イイットトトオオオオオオオオ―――――イイ!?》


 高出力のブルーエネルギーは王の眉間を突き、醜い口の奥から痛烈な絶叫を昇らせた。
 穿たれた眉間から血液が噴出する事は無い。
 超高温のエネルギーが尽く蒸発させるのだ。
255 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:34:36.13 ID:TpKUzG8h0

 ( ゚ω゚)「どうだ!?」

 着撃と共にスキャン――――CG補正された拡大映像を見、ブーンは唇を強く噛んだ。
 レーザーは脳を貫いていない。
 皮膚と肉は柔だ。だが、ウィルスが構築した頭蓋が異様に硬く、
 「脳を損傷させるまで数十秒の時間を要してしまう」と、情報システムは予測する。

 この数十秒は、ブーンのセンサーが感知する「対象の体温」……
 つまり抗体の効き=弱体化の進行率を鑑みた数十秒である。
 あのような大型セカンドには抗体を打ち込み、弱体化させて戦闘を徐々に有利に
 展開させてゆくのがセオリーなのだが……“王”は途方も無く巨大で、そして硬かったのだ。

( ;゚ω゚)(抗体の量が足りていない……いや、抗体が上手く流れて行ってないのかお!?)

 件の頑強な頭蓋を突貫するには予想以上に時間を要するとブーンは悟る。
 情報システムも戦闘データを更新。すぐに出力上昇を推奨したが、
 ブーンはそれよりも早く、己の判断で出力の上昇を始めていた。

 が、“王”は右腕を振り上げ、レーザーを遮る。
 レーザーを遮ったのは、腕を突き破って現れた三日月状の刃であった。

 ブーンには突如、白塗りの壁が現れたように見えた。巨大な白壁が接近する。
 レーザーの出力を一気に上昇させて刃を突破させたいが、やはり硬い。
 “王”は刃を盾として利用して間合いを一気に詰め、新たに左腕に作った刃でこのフロアを正確に斬りつけた。
257 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:42:54.70 ID:TpKUzG8h0

( ;゚ω゚)「うおッ!!」

 厚さ5m超の巨大な刃が高層ビル群を両断してブーンにせまる。
 連続的に発生する破壊音がブーンの耳をなぶる――回避行動を取らなければ
 2.3秒で奴の刀身が僕の全身を叩く!
 ブーンは咄嗟に砲身を上に持ち上げ、ビルに大きな亀裂を作り上げた。
 急発進させたBLACK DOGに半ば強引に飛び乗って文字通り紙一重で刃をかわし、
 作り上げた亀裂からビルを脱出した。

 上昇。
 “王”と都市を見下ろし、再びBlueLazerCannonを発射――しようとした。
 “王”の平らな頭部が……いや、「髪」が蠢き、幾万の頭髪がミサイルの如く発射されたのだ。

 頭髪が骨であると判断したブーンは、BLACK DOGを急旋回させつつ、
 フリーの左腕でグレネード弾を射出して頭髪を防ぐ。

 その間、狡猾な“王”はセントラルの出入り口に「尾」を伸ばしたのだ。

_____
\|||||||||||||/
 以`゚益゚以 《イイイイwwwwイットーイwwwwwトトーイwwwwww
        イトトトイットイイットwwwwwwwイトーイイトーイwwwwwwイトーイwwwwww》

 尾の先にいるのは脱出途中の人々であった。
 尾の先端が割れ、まるで大蛇のように地を這い、避難途中の市民と兵士を
 一人残らず丸呑みしてしまった。

 “王”は理解しているのだ。
 有機物、そして人の知恵を取り込めば取り込む程、己が成長する事を。
259 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:48:42.00 ID:TpKUzG8h0

_____
\|||||||||||||/
 以` 益 以 《――トトーイッ》

 セカンドらしかぬ冷淡な声で呟いた時。
 “王”は残すの三つの尾を無数の糸と変え、ブーンを――
 ――「食事を妨害する」最大の敵を、追撃する。

( ;゚ω゚)(この糸は……!!)

 BlueLazerCannonの出力は50%に達しているが、
 全方位から迫るこの攻撃を全てを撃ち落すには、時間とレンジがそれを許さなかった。
 更に無視できぬ問題が一つ。
 スキャンの結果、“王”は糸に骨成分を織り交ぜて耐久性を飛躍的に向上させている事が判明。

 最大出力に達するまでは時間が掛かりすぎる。
 今は出力半分のBlueLazerCannonを一点照射し、突破するしかない。
 この状況下においては、己の脳で考える間など存在しないのだ。瞬きほどの時間すら惜しい。
 情報処理システムが下した判断の通り、ブーンは迎撃を開始する。

260 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 18:54:42.61 ID:TpKUzG8h0
 無数の赤黒い触手で作られた壁が、凄まじい速度で押し迫る。
 小さな牢のように形を成し、逃げ場を閉ざされる。
 その一辺にレーザーを集中放射し、逃げ場となる穴すぐに生じるが、

( ;゚ω゚)「はっ――――」

 そこで目を疑う。
 セントラルの赤茶色の内壁を見ていたはずが、突如白塗りの壁が目前に現れたのを。

 “王”は圧死させる事を目的としていなかったのだ。
 ……敏捷な敵の足を数秒封じれば良い。
 触手の肉壁に空けられた穴から外に飛び出した瞬間であったのだ。
 白色の鈍い光を放つ、分厚い剣を振るったのは――。

( ;゚ω゚)「まずいッ!」

 肉壁から脱出した時点でBlueLazerCannonがリロード状態に移行する事は分かっていた。
 役立たずの重火器を投げ捨て、咄嗟に左腕のBoosterを起動し一瞬で抜刀を終える。
 そしてBLACK DOGの座席を思い切り蹴って飛び出し、BLACK DOGには刃の軌道から逃げるよう指示を飛ばした。

 5mの壁に対し、この蒼刃のなんと細い事だろうか。
 数多のセカンドを斬り殺したBBBladeが今ほど頼りなく思った事は無い。
 それでもと、刃を振るって迫る壁に抵抗する。

 火花が飛び散る。
 それは交差した刃同士が生み出したものなのか、
 それとも衝撃を受けた脳が見せた光なのか、あるいはその両方か――。
264 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:00:15.65 ID:TpKUzG8h0
 一気に周囲の風景が線状に変わる。
 それは自分の金髪と混じり、光線を連想させられる光景である。

 “王”の斬撃を受けきるには自分自身の力がまるで足りていないのは分かっていた。
 それでもBBBladeの切れ味に賭けたが、ウィルスが強化した骨の刃と
 高出力ブルーエネルギーの衝突は、ブーンの予想を裏切って拮抗してしまったのだ。


( ; ω )「がっ!?」


 左腕が肩から派手に弾け飛ぶ。
 繊維の代わりに配線が、肉の代わりにパーツが、血の代わりに別の液体が飛び散った。

 “王”の一撃でブーンはセントラル外周の壁まで吹っ飛ばされ、
 埋め込まれる形で壁と同化してしまった。
 残る腕と両足は固定され、首だけをだらりと垂らし、
 傷めた臓器が流し出した多量の黒い血を口から零した。
 左肩からは配線の数々がだらしなく垂れて、切り口から電流を迸らせている。
 そこに血の飛沫は無ければ、痛みも無い。

265 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:04:31.62 ID:TpKUzG8h0


( ; ω )(ぶ、BLACK DOGに大事は無いお!)

 身体データが更新され、視界に表示される。
 左半身の幾つかのプレートに亀裂が入っているのを確認。
 しかし深刻なダメージではないらしく、足腰の間接機構は問題なく動作出来るようだ。
 それにインパクトの瞬間こそ気が狂うような痛みを感じたが、生命維持装置がすぐに緩和させてくれた。

 腕の一本がなんだ!
 自分はまだ十分戦える状態だ!

 ぶっ飛ばされた自分を追って来た、従順なるBLACK DOGUを見やる――
 愛機には傷一つとて付いていない。
 BLACK DOGUを失えば攻撃手段の9割を失うのだ、身を挺して庇う必要があった。

 故に、エネルギー消費は甚大であるが唯一有効な攻撃手段は残っている。

 “王”のフレキシブルかつスピーディな攻撃の数々を捌き、
 致命的な抗体量を確実に撃ち込む唯一の方法が。

 暴君は確実に自分を殺しにかかってきている。
 アンノウンとの戦いを見越して、エネルギーの残存量を気にしていても
 死んでしまったのなら努力の甲斐だって残らないのだ。
 こいつを倒すには、「アーマーシステム」で自分の限界を越えた攻撃を繰り出す他無い!

267 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:08:53.66 ID:TpKUzG8h0


( ;゚ω゚)「アーマーシステム!」


 ブーンは、右手と両足を壁から引き離し、BLACK DOGとのドッキング開始を宣言した。
 BLACK DOGの変形機構が作動し、全パーツは飛散しながら鎧各部へと姿を変える。
 着装まで2秒。

  しかし、王はその一瞬を隙と見て、
_____
\|||||||||||||/
 以`゚益゚以 《ソニックトーイ!!》

 先ほどの斬撃で得た反動を利用して返す左刀を「左腕から切り離し」、
 チャクラムの如く、刃を硬直状態のブーンに飛ばしたのだ。


( ;゚ω゚)「なッ――――」


 予想外の追撃。奴の攻撃が速過ぎる、着装は間に合わない。
 着装を終えて回避するのも、着装をキャンセルして回避するのも間に合わない。
 刃を撃ち落す手立ても、無い。

 直撃は必至。
 漆黒のボディがヘルムに変形し、ブーンの視界を黒く覆ってゆく中、
 その暗黒の世界でブーンがイメージしているのは「死」、のみ。
 死にたくない、と思う思考力すら刃の放つ威圧が奪い、ブーンに
 免れようの無い変えようの無い死という未来をに植えつける。
270 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:13:53.42 ID:TpKUzG8h0

_____
\|||||||||||||/
 以`゚益゚以 《……イトイトイットーイ?》


 だが、高音と共に暗闇は切裂かれる。
 どういう訳か変形を無事に終え、ブーンは夢見心地、不可解な気分のせいで、
 自分が見ている光景も、システムが提示するあらゆる情報も理解出来なかった。


「え……あ、あれ? い、生きてんのかお?」


 その光景は、幾百もの赤い粒子線が王と自分を隔てているような。
 ブーンは足腰に形成されたバーニアンを使う事も忘れ、王が放った刃が灰塵と
 なってゆく様を、地球と同じ1Gという重力に引かれつつ呆然と見ている。

「ど、どうなってんだお……?」

 そのまま地面に落下して、尻餅をついたままの状態でブーンは呟いた。
 状況を把握できない。何が起こったというのだ?
 ……そもそもツンという少女に出会った時から、この夢は始まったのではないか?

271 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:18:53.65 ID:TpKUzG8h0


 などという逃避に走った矢先、拡声された男の声がブーンを現実に呼び戻した。


スネーク『待たせたな!』


「お、オッサン!?」


スネーク『生きてるなら王から離れろ! 巻き込まれるぞ!』


 遠く離れた位置から物々しい音聞こえる――エネルギーの充填音、歩行音のように聞こえる。

 冷静さを取り戻したブーンは、情報システムが提示する「初検出の熱量」を警戒し、
 両足のバーニアンを噴射させてセントラル上空へ飛翔した。
 今にも崩れそうなビルの間に見えたのは、“王”と――

  ――“王”と同等の巨躯を持つ、巨大な二足歩行の兵器であった。

272 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:23:06.70 ID:TpKUzG8h0
 ※  数分前、開発区画内第3格納庫にて。


スネーク「オタコン……」


 血生臭い街道を疾駆して、油の臭い充満する頑丈な質感に
 覆われた研究プラントに彼等は到着していた。
 道中、異形と化した市民や動物の妨害があったが、
 ブーンがくれた銃器のおかげで切り抜ける事が出来た。

 予備電源で辛うじて灯されてる薄暗い格納庫で
 スネークとツンを待ち構えていたのは、オタコンだけでなかった。
 漆黒の金属装甲に覆われた、四肢を持つ超巨大兵器が、一機。
 “王”と比較しても遜色無く、全長は200メートルを超え、
 遠目に見ていようがその重量感、重厚感が損なわれる事は無いだろう。


ξ;゚听)ξ「な、何このバカでかい鉄の巨人!」


オタコン「メタルギア・VIP。皇帝が他国への侵略の為に作らせた
     セントラル最高の軍事兵器さ」


ξ;゚听)ξ「他国への侵略の為に作った……軍事兵器……」
276 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:26:21.79 ID:TpKUzG8h0


スネーク「“王”と対抗するにはコイツしか無い……それは理解できるが、」


オタコン「何故君を選んだか、だったね……いいかい、スネーク」



オタコン「君は……いや、君もまた、異界からやってきた人間なんだ。
     あのブーンという青年の世界からやってきた、ね……」


ξ;゚听)ξ「え、ええええええっ!?」



スネーク「お、俺が……!? バカな、俺がセントラルの人間だと言ったのは、
     他でもないお前だろう、オタコン!?」

277 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:30:23.15 ID:TpKUzG8h0

ξ;゚听)ξ「第一、ここには召喚士なんていないんでしょう?」

オタコン「他の世界の召喚士に順ずる存在がスネークをここに連れて来た、
     なんていう可能性も考えられるだろう?」

ξ;゚听)ξ「考えられなくは……ないわよね」

スネーク「推測はどうだっていい。
     お前は一体、何を根拠にそんな馬鹿げた事を言っている?」

 オタコンは抱えていた一枚のモニターをスネークに見せる。
 内容は2つのデータを比較したもの。しかし、比較というよりは、

スネーク「一つは……ブーンが持っていた銃の材質か。
      もう一つは何だ? 酷似しているが……」

オタコン「酷似しているんじゃない。全く同じ金属なのさ。
     もう一つは、スネーク、君の人口骨格を形成していた金属だ」

 同等、同一を証明する内容であった。

 スネークは驚きの余り声も出せなかった。
 そんな彼に追い討ちは切り出し難いのか、オタコンは視線を地に落として言う。

オタコン「……君の身体は、作りかえられてるんだよ……僕の手によってね」

スネーク「話が見えんぞ、オタコン」

オタコン「ご、ごめん、一から説明するよ」

278 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:35:12.90 ID:TpKUzG8h0
オタコン「……迷いの森で瀕死の君を発見した時、君の身体が異質な物であると
     一目で分かったんだ。僕は好奇心故に誰にもその事を話さず、そして
     君が記憶喪失だったのを利用し、異質の物質の研究に没頭したんだ……」

スネーク「オタコン……お前……じゃあ俺がセントラルの戦士だって事も……」

オタコン「ああ、僕がついた嘘さ……君のIDも経歴も、全て僕のでっちあげだ。
     すまなかった、スネーク……話す必要は無いと思って、黙っていた。
     セントラル以外に高度な科学技術が存在すると知って、僕は好奇に溺れていたんだ」

オタコン「だけど、彼と彼女の登場は……正確には異界から来たというブーンの銃を調べて、
     僕は心底驚いた。彼の銃の材質が君の身体の物と一致するんだからね」

 オタコンは間を置き、一度スネークの顔を見ると、唖然としているのに気づいた。
 ここまでの発言に寓意があると改めたオタコンは、深く呼吸をしてから、

オタコン「よ、要するにだ……君もあちらの世界から来たんだ。
     ツンの言うとおり召喚士もいなければ手段も不明だが、
     とにかく君はあちらの、ブーンの世界からやってきたんだ」
282 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:41:00.69 ID:TpKUzG8h0



オタコン「頼む、スネーク、奴を倒してくれ……人々を救ってくれ!」



スネーク「…………」

 スネークはメタルギアを見上げ、思う。

 オタコンという素晴らしい男の期待と信頼に、今の俺が応えられるのだろうか、と。
 今、信じることが出来ないのは何より自分。

 それでも、スネークは煙草を吐き捨て、メタルギアに向う。
 彼の足を動かすのは友の信頼に応えようとする使命感であり、
 失われた時間と、自分自身を取り戻せるという期待感である。


 漆黒の兵器を繰り、スネークは出撃する。


 あの男、ブーンと共に戦えば、全てを取り戻せると予感して――――。
289 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:54:11.91 ID:TpKUzG8h0
  ※

_____
\|||||||||||||/
 以#゚益゚以 《フーッ! フーッ! イトーイッ!》

 “王”は息を荒くしている。醜い顔面を更に醜く歪めて。
 恐らく、攻撃を阻止されたので酷く腹を立てているのだろう。
 反撃の意思と見て間違い無い。ブーンは「逃げろ!」と
 届きもしないが大型兵器に向って叫ぶも、“王”は素早く身体を回転させて
 背後の兵器目掛けて尾を奔らせた。

 思わず目を瞑って視界を遮断するブーンだが、
 強烈な衝撃音はどうしても機械仕掛けの耳に入ってしまう。
 嫌な反響音をマイクが拾った。情報処理システムの予想によれば、どうやら胴体に直撃してしまったようだ。

「お、オッサン……」

 だめだ、万に一つ生きていても、無事ではないだろう……。
 どんな建造物とて“王”の前では土塊も同然、戦闘用兵器であろうとも
 致命的な損傷に至っているはずだ。

 恐る恐る目を開けると、赤光が目に飛び込んだ。
 赤光はセントラル天蓋を照らしていた。炎が燃え盛るような色であった。
294 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 19:57:55.33 ID:TpKUzG8h0
 それは機体大破が生む爆炎ではなく、機動により産み出された閃光であった。
 機体の全装甲が赤光に覆われていた。
 ピポザルの赤水晶の光だろう、とブーンですら予想がついた。
 事実、兵器のエネルギーも担う赤水晶の魔力に装甲は被膜され、耐久力を向上させているのだ。

スネーク「これがメタルギア・VIP……これなら奴を倒せる!!」

 右手のサブモニターが表示する損傷率はゼロに等しい。
 反して、上昇したのはエネルギー消費量。
 最大出力でシールドを展開しなければ一撃でやられる……スネークは、
 短気決戦に持ち込む事を瞬間的に意思決定し、

スネーク『おおおおおおおおッ!』

 フットペダルを踏み込み、操縦桿を一気に前へ。
 足裏と背後のバーニアンが白熱し、機体は右肩を“王”の胸に叩き付けた。
 “王”がよろめいたその隙に、頭部に搭載されたバルカンが“王”の全身に隈なく穴を空けた。
_____
\|||||||||||||/
 以,@益。以 《イ、イト―――ッ!?》

 鼻、耳、両眼、声帯を奪う赤光の弾丸。
 飛び散る肉片は周囲のビルや地面を汚し、“王”の肉体は血を噴いてメタルギアに降り掛かる。
297 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:01:29.19 ID:TpKUzG8h0
 機体がオーバーヒートする直前でバルカンを撃ち止め、
 本来は物を掴むなどの役割を担うマニピュレーターである右手に拳の形を作らせ、
 “王”の顔面にぶちかました。頭蓋を割り、裂傷から脳漿が飛び出す事をスネークは期待していたが、
 顔の厚皮がずるりと剥けただけで、頭蓋の変形は見受けられない。

スネーク「硬いな……これならどうだ!?」

 機体頭部に搭載された一撃必殺の破壊力を持つビーム砲の運転を開始させる。
 展開から発射まで時間は十数秒、この間機体は他の行動を取る事が出来ないという
 制約を受けるが、現状況下においては「たったの十数秒」と言える。
 外傷は甚大、致命的だ――――ウィルスを知らぬスネークには好機と判断する他無かった。
_____
\|||||||||||||/
 以,@益。以 《オオオオオオオオオオッ!!》

 死に体と思われた“王”が叫び声を上げ、撓む体を正す。

 攻守が転じる。
 王は股の間から尾を走らせ、機体の胸部を狙う。
 偶然にもそこはコクピット。“王”がコクピットを狙ったとすれば、
 それはウィルスが遺伝子か或いは宿主の微かな記憶――メタルギアに関する――を
 リーディングして繰り出した本能的な攻撃であろう。

スネーク「なっ……しかし!」

 コマ送りのように、ゆっくりと尾の先端がスクリーンに近づいてくる。
 常人ならば死を覚悟するだろうが、スネークは生を乞わぬばかりか、
 レーザー砲の起動準備を冷静に進めていた。
300 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:06:06.15 ID:TpKUzG8h0
   信じているからだ――――


ξ#゚听)ξ「ThunderBlaaaaaaaade――――!!」


               ――――魔を繰る少女と

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7 「オッサン!」


_____
\|||||||||||||/
 以,@益。以 《イドッ―――――!?》

               ――――蒼い光が援護してくれると。


 肌を焼くような、夢から醒めるような熱き蒼い閃光が、
 スネークの目に、脳に、深層心理を力強く撫ぜた。

スネーク(……ああ、思い出したぞ、ホライゾン・ナイトウ――)

 意識は遠のき、再び“見覚えのある映像”がフィードバックされ、
 デイビッド・スネークは失われた己の時間と記憶を取り戻したのである。

   ――お前は、頼れるんだか頼れないんだか分からん、俺の戦闘パートナーだ!
305 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:10:15.32 ID:TpKUzG8h0
 メタルギアの攻撃は、確かに隙を作っていた。
 “王”が怯んでいた間、遅れて格納庫から出てきたツンは
 魔力を高めながら空中を闊歩して魔法攻撃の射程距離まで移動。
 ブーンもまた同様に、両肩に搭載されたBlueLazerCannonのエネルギー装填を行っていた。

 そうして天蓋に発生した暗雲より出でた雷剣が“王”の尾を斬り、
 機械仕掛けの黒い狼人が双肩のキャノンから放った
 巨大な蒼い光は、“王”の頭の右半分を消滅させたのだ。

 にも、関わらず。“王”の胴体は未だ動いている。
 とはいえ動きは鈍い――勝機、今度こそ紛れもない勝機だ。

スネーク『お互い、随分と物々しくなったな。その姿はなんだ?』

 声は落ち着いているが、機械仕掛けの人狼を見やってスネークは驚いていた。
 ボストンでの戦闘では見なかった兵器であるからだ。

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7 「BLACK DOGUの戦闘形態、アーマーシステム。
      エネルギー喰うからあんまり使いたくなかったけど、そうも言ってられねーお」

 BLACK DOGUに搭載された戦闘用プログラム、「アーマーシステム」を起動すると、
 その名が示す通りバイクは“鎧”へと変貌し、ブーンに着装する。
 バイク武器庫に積載された夥しい銃器とエネルギーカートリッジを全身の
 適所に配備し、それらを高速でオルタネードする事により攻撃バリエーションを飛躍させる。
 更に、バイクのバーニアンを脚部に回した為、超高速飛行も可能にさせている。

 欠点を挙げるとするならば、エネルギー消費が甚大だという事。
 武器の命たるブルーエネルギーを惜しみなく使用出来るとも言える。、
 故に、使いようによってはブーンの肉体に致命的なダメージを及ぼしかねない、という事である。
309 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:13:51.52 ID:TpKUzG8h0

 それでも躊躇していられない。
 目の前の脅威を滅するには、ある程度のダメージを覚悟する必要があるようだ。
 超高出力レーザーを使用した後のダメージは、魔術師ツンの魔法に期待しよう。
 その信頼は無意識なもので、「ツンはツン」という固定概念を知らず内に覚えてしまった為であろう。

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「……オッサン、この化物は倒せるはずだお。
      でも、倒せたとしても恐らく街にも致命傷を与える事になるお」

スネーク『むしろ街ごと破壊するつもりで攻撃するぞ』

 すぐにスネークの意図にピンと来たブーンは、眼下に広がる荒廃した街を見回した。
 ビルと呼ぶべき建造物。そこに等間隔で並ぶ窓の一つ一つに、数多の化物がへばりついている。
 怯えた目で、街の中心で暴れる巨大な二つの存在を見ているのだ。

 ツンの雷剣が切り落とした“王”の尾に群がる“彼等”もいる。
 その尾を巡っては凄惨な共食いが勃発し、一方では尾に目もくれずひたすら暴欲と食欲を
 発散し続けるセカンドも数多くいた。

 この世界の人類の叡智の結晶たる街、セントラル。
 街はその本来の姿と機能を失い、代わりに、地獄だとか絶望といった言葉を体現していた。

スネーク『街などいい。人間が意思を残せれば……後世にな』
311 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:19:00.90 ID:TpKUzG8h0

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「……同感だお。こいつらは人を喰らう化物だ!
      ウィルス蔓延を防ぐ為にも殺す……!」

 ギコ・アモットとの戦闘の時のように、ブーンは“殺人”を躊躇うと踏んでいたスネークだが、

スネーク(なるほど……少しは成長したようだな)

 ブーンの見違えるような口ぶりに、スネークは思わず破顔した。
 ギコ・アモットという男が我々の目の前でセカンド化した為に――ギコに
 明確な意思と理性が残っていた為もあるが――、ギコをセカンドと見なせず、
 戦いと殺害を躊躇していたあのブーンとは、まるで別人のようである。

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7(……オッサン、世界は違えど、アンタはやっぱり
      僕が尊敬するデイビッド・スネークだお)

 ブーンのスネークに対する印象は対照的で、スネークという男はどこまでもスネークであるのだ。
 無限の可能性があろうとも、デイビット・スネークというキャラクターは揺るがないのだろう。
 聖剣に尋ねずとも元よりブーンにはその自信があり、彼をとことん信頼していた。
313 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:24:55.91 ID:TpKUzG8h0

スネーク『若いの! 抗体で奴を弱体化させろ!』

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7 「了解。トドメはオッサンに任せたお!」

 ブーンの視界に、メタルギアのスクリーンに、エネルギーが上昇する様が描かれる。
 メタルギアの全身が左右に開かれ、内部から何機もの巨大な砲が出現する。

 一方、ブーンの右腕全体が意思を持った一つの生物の如く蠢き、
 彼の全長にも及ぶ長さに達する銃身へと姿を変えた。
 ブーン、メタルギア、それぞれのレーザー砲がエネルギー装填によって鳴動する。
 高鳴り、更に高鳴り、絶頂に達した瞬間、

ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7 (さしずめBlueLazerBladeってとこかお! 喰らえ!)

 まず、蒼光が王の鳩尾を貫いた。ブーンは足腰のバーニアンを噴射させて無理矢理
 射線を安定させつつ、Boosterを起動した左腕を使って右腕を強引に持ち上げた。
 蒼光は腹と背の肉を裂き、背骨を穿ち、緩慢な速度で上昇して喉元に達した。

 “王”は全身を痙攣させて赤く濁った泡を吐き出し、白目を剥き、表現する。
 ウィルスに蝕まれた身体が、抗体によって浄化されてゆく灼熱の痛みを。

《ゴ、ゴオ、ウゴボ、ェ、イドッ》

 傷口から液状になった肉と内臓が零れ出るのを、“王”は震える右手で必死に押さえようとした。
 “王”は左手で、自分の頭を裂こうとする蒼い光条を止めようとするが、
 やがて脆くなった肉体ではそれが叶わず、左手もドロドロの液体と化して都市に落ちた。
315 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:29:23.82 ID:TpKUzG8h0
 そこで蒼光は止んだ。“王”の姿を憐れんで止めたのではない。
 サーモグラフィを通して見る“王”のウィルス活動を鑑み、
 単にエネルギーの節約をしたくブーンが停止させたのだ。

 抗体による弱体化は成功した。“王”の全身は脆くなっている!

(; ω )「よし……オッサン……先に、一服させて、もらうお……」

 アーマーをパージしたブーンは、震えた手で煙草を咥えた。
 アーマーシステムでの超高圧レーザー照射をバーニアンで無理矢理制御させた為、
 ブーンの臓器や毛細血管は破裂に至ったのだ。

 元のバイクの姿に戻ったBLACK DOGが、重力に引かれてゆくブーンを拾って降下した。
 ブーンは座席でぐったりと項垂れ、咥える煙草は見る間に血で真っ赤に染まっていった。

ξ;゚听)ξ「ブーン!!」

 全身から色鮮やかな光を放出させて、ツンが急いでブーンに近づく。
 力無く座席に身を預けるブーン。彼の胸元は血で酷く汚れていたが、
 ツンは意に介さず両手を当てた。
317 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:33:48.25 ID:TpKUzG8h0

ξ;゚听)ξ「Bafarin(バファリン)!!」

 ぽう、と白い光がツンの手から生まれ、ゆっくりとブーンの全身を覆う。
 朦朧としていた意識は回復し、脳と光学兵器の接続状況が安定すると、
 今にも泣きそうな顔のツンを映し出した。

(;^ω^)「お……さすが、ツン。言わなくても、僕のやって欲しい事を、やってくれるお……」

ξ;゚ー゚)ξ「そんなんじゃないわよ。今アンタに死なれたら困るだけ。
      アンタの世界のツンみたいにアタシは優しくないはずよ?」

(;^ω^)「ふふ、そーでもねえお。君とツンは、どこまでもそっくりだお」


 「アンタもね」。

 そう言いたかったが、恥ずかしくなったのでツンは飲み込んだ。
 ただ、何故聖剣が彼を選んだのか、ようやく理由が分かった。
 この冷たく硬い身体の内には、確かに正義の心が埋め込まれている。
 それは少し不安定で、しかし時に自分を省みようとしない愚直さを発揮する……。

 アタシの世界のブーンとよく似ている。
 主人公格とは、こういった人種がそうなのかもしれない。
321 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:38:31.20 ID:TpKUzG8h0

 ツンがブーンを救出したところを見届け、
 スネークは双眸の形を鋭く変えてメインモニターに映る“王”を睨みつけた。
 原型無く破壊された“王”は激痛に悶えている。
 顔面の亀裂から止め処なく溢れる液化した血肉を必死に手で押さえ、
 しかしその努力の甲斐無く、果ては脳髄まで流れ出ると、身を捩じらせて絶叫した。


《いどおおおおおおおおああああああああああああああ!!》


スネーク『王よ……』

 深い哀れみを覚えるからこそ、殺らねばならないのだ。


スネーク『さよならだ』


 煙草を咥えた口で呟き……、砲の発射トリガーを引いた。


_____
\|||||||||||||/
 以,@益。以 《イ、》
_____
\|||||||||||||/
 以,@益。以 《イ、い、いい――――》
325 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:41:47.18 ID:TpKUzG8h0

_____
\|||||||||||||/
 以,@益。以 《イチマツニンギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!》


 全てを飲み込まんとする、途方も無く巨大な赤い光。
 それと正対した王は瞬時に死を悟り、断末魔をあげた。
 その言葉は本能が声帯を振るわせただけの意味の無い、
 あるいは“王”だけが知る“王”だけの言葉は、セントラルを大きく振るわせた……。

 赤光は“王”に消し炭となる事も許さず、完全にこの世から消失させた。
 直後にレーザーはセントラルの内壁を貫く。
 土色の金属壁は高い破砕音を奏でながら街に降り注ぎ、多くの建造物と衝突した。

 更にレーザー攻撃は街中の魔導機に悪影響を及ぼしていた。
 レーザーが放つ強力な魔力を受けた為、魔力の流れを狂わされた魔導機は
 次々と独りでに爆発を起こしていったのだ。

 連鎖し、積み重なり、魔力の爆発は規模を益す。
 街の至る所で炎が生まれては蠢き、街はセカンドを燃やしながら死を迎えた。
330 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:44:43.95 ID:TpKUzG8h0


スネーク『若いの、セカンドウィルスの反応は?』


(;^ω^)「もうこの街にはウィルスは存在しない……街と呼べるかわかんないけど……」


 炎上する街を一望し、沈んだ声で返した。

 街中の魔力が暴走したといってよいほどの爆発だった。
 無事に立ったままの建物はほとんど存在せず、道も瓦礫によって埋められている。
 地下でありながら天災に遭ったかのような光景である。

 ありとあらゆる感知センサーを最高レベルで機能させた結果、
 ただし熱量を感知しづらい箇所を除き、セカンドの反応が無いと確信する。
 同時に、この街に人間の気配が消えうせた事も……市民の多くが喰われ、
 もしくは霧に飲み込まれたのではなく、避難したものだと、ブーンは願った。

 勝利と呼ぶには代償と犠牲が大きいと思うのは、スネークも同感であった。
 ブーンが罪悪感に苛まれているのは自分の事の様に分かる。
335 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:49:43.29 ID:TpKUzG8h0
 スネークがそれでも毅然としていられるのは、
 セカンドウィルスを災害の一種と捉えている他ならない。
 地震、竜巻、落雷……自然が時として人に牙を剥くのと同じで、
 ウィルスも決して人為的に発生した存在ではないと認識している。

 この考え方は、アンノウンの誕生にもそっくり当てはまるとスネークは思う。
 偶発的に生まれたアンノウンはまさに自然災害の一種であり、
 奴が作り出した擬似セカンドウィルスも同じカテゴリに分類される災害なのである。

 一度そう整理し、スネークは諭すように言う。

スネーク『なにも始めからセントラルが存在したんじゃあない。
      人がいたからこそ出来た街だ』

 悪夢のような災害から、可能な限り人々は助けられた……と、
 そう考えねば、永遠に希望を見出す事など出来ないはず。

スネーク『人の意思は残った。セントラルは再び復興するさ』

 人の意思、人の可能性。それこそが希望だとスネークは考える。
 今一度無に等しくなったこの空間に、希望は再び街という形となって
 間違いなく復活する。そう信じるスネークは、揺ぎ無い思いでブーンに言ったのだった。
338 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:54:01.90 ID:TpKUzG8h0

(;^ω^)「オッサン……」

( ^ω^)(人の意思、かお……。そうだお、セカンドウィルスだったり、
      聖剣だったり、強大で超常的な力に依存するのは間違いなんだお。
      機械も、魔導機も、人の意思と知恵が生み出した産物なんだお)

(#^ω^)(人が持つ可能性……それを訳のわからん力で潰そうなんて、許せないお……!)

(#^ω^)(アンノウン……お前だけは絶対、一発この手でぶん殴ってやる!)

ξ;゚听)ξ「……でも、アタシ達のせいでセントラルがめちゃくちゃになった、ていうか……
      アタシ達が来なければこんな事にならなかったのも事実よね」

( ^ω^)「ツン……」

(;^ω^)「……だお、君の言うとおり、僕らに非が無いとは言えないお」


スネーク『鍵の落とし場所がたまたまここだった、ってだけだろう。
     どこにしろお前達の行く先が戦場となる可能性は高かった。
     そうでなくとも、アンノウンが無差別的な破壊行為に及ぶとも考えられる。
     この街だったからこそ、被害を最小限に留められたと考えな、お嬢ちゃん』

ξ;゚听)ξ「……これ、最小限って言うかなぁ?」

 ポジティブにも程がある。もはや呆れてツンはそう呟いた。

スネーク『多くの人が外に脱出できたんだ。それで良いだろう』
341 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 20:58:44.36 ID:TpKUzG8h0

( ;゚ω゚)「そうだ! ツン! 鍵は!? まさかぶっ飛ばしちまったかお!?」

ξ゚听)ξ「え? 鍵? 家の鍵ならちゃんと身に付けて……」


ξ;゚听)ξ「あ、あ、ああああ――――――――――ッ!!!
       ちょちょちょちょちょっと待って! 波動を探ってみるから!」

ξ(゚听;三;゚∀゚)ξ「あばばばばばばばば鍵は何処じゃーい!」


(;^ω^)「おおおちつけ!取り乱してねーでさっさと探せお!」


ピキ――ξ´゚听)ξ――ン!!


ξ;゚∀゚)ξ「あ、あった! 波動を感じる! 王宮よ! 王宮に埋もれてるわ!
       おらブーン! さっさと掘り起こしに行くわよ!!」

(;^ω^)「ふー、マジで焦ったお……んじゃ、掘り起こしに行きますかお」

 __
345 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 21:04:07.87 ID:TpKUzG8h0
  ※

 魔導兵器用ドッグを通ってニューヨークマウンテンの山頂から外界に出た一行。
 再び見る日の光が、ツンとオタコンに強烈な生を実感させた。
 山の麓から広がる草原には、路頭に迷う人々の姿が見える。
 軍隊が市民を囲って陣を敷き、セカンドを含むモンスターを撃退しようと懸命に抵抗していた。
 そんな戦場に突如大きな影が現れたものだから、
 人々はこぞって絶望の眼差しを上空に向けたのだが、

「み、見ろ! メタルギアだ!」 「あのバイクは何だ!? 見たこと無いモデルだ!」

 それが新手の化物ではなく強力な援軍だと分かると、人々は一斉に歓喜した。
 メタルギアは陣の前を目標にゆっくりと降下し、一方ブーンは先走って敵に突っ込んでいった。
 見たことも無い蒼く煌く銃を操り、怒涛の勢いで化物を殲滅してゆく謎の男。
 「あのイケメンは誰なんだ!?」 「でもだおだお言ってるぞ!?」と、あらゆる推測が一時飛び交うが、
 その内どうでもよくなり謎の金髪男の活躍を「だおだお!」と歓声をあげて応援し始める。

 それまで良い様に人間を蹂躙していたセカンドとモンスター達。
 だが突如闖入してきた男と、何より上空から徐々に降下してくる巨大な塊に異様な威圧感を抱き、
 形勢逆転の危険を本能的に感じ取ると潔いまでに走り去っていった。

スネーク『セントラル市民よ、化物と化した“王”は倒した』

 そうして綺麗に片がついた草原にメタルギアが高らかに言った。
 人々は諸手を上げてメタルギアのヴォリュームに優る歓声で呼応するも、

スネーク『だが、同時に街を失った』

 次の一言を聞き、人々は声を沈める。
 この落胆を想定していたスネークはすぐ諭すように言った。
349 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 21:08:06.55 ID:TpKUzG8h0
スネーク『なに、そう落胆する事じゃないさ。街なんてまた一から作ればいいだけだ。
      しばらく迷いの森辺りで生活するのも悪くないだろう』

(;^ω^)(っつってもなぁ……)

 妙に饒舌に聞こえるのは“王”との戦闘を終えて頭が冷めたからだろうか。
 よくよく考えれば街を作り直すだなんて相当の労力が必要な訳で、
 安々と言えるような事とはブーンには思えないのだ。
 が、そんなブーンを余所に、「その通りだ!」と総意を表す怒声が草原に広がった。

 スネークは、気休めのつもりでもそう語りかけたが、街を再興する気持ちは本気である。
 ともかく、市民を安心させたく、このようなアナウンスを流したのだ。


 スネークは彼の頭部に搭載された通信機器を利用し、ブーンと無声通信を開始する。

スネーク『聞こえるな?』

( ^ω^)(おっ、聞こえるお)

スネーク『それで、どうだ? 市民の中に感染者はいるか?』

(;^ω^)(いるお……まだ変異してないけど、いずれは…………いや、待ておスネーク!)

スネーク『何だ? っ、何だ!? 市民とセカンドの身体から、赤い霧が!?』

 毒気が抜ける。その言葉を可視化した現象が、疑似セカンド達の身体で起こっている。


ξ;゚听)ξ『ブーン……多分なんだけど、アンノウンが魔法を解いたんだわ』

350 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 21:58:49.03 ID:sbfvD0WY0
  ※


爪 ゚W〉《高度な科学技術を持つ世界から召喚された戦士、B00N-D1、か。
     なるほどな……一時は迷ったが、異形と化した人々を躊躇無く殺していった貴様の心は、
     強いようで弱く、実に不安定だった》

爪 ゚W〉《だからこそ、安定した時の精神は鋼の如く強靭なのだろう。
     確かに貴様は、聖剣の糧に相応しき主人公格と言えよう……クク、ククククッ》

爪 ゚W〉《ククク……クッ……ああ! 貴様を見ているとヘドが出そうになる……!
     B00N-D1! スネークとか言う男もだ!》

爪 ゚W〉《人の意思? 可能性? 実にくだらん!
     我という存在が誕生して希望など世から消えた事を教えてやる!
     B00N-D1! 貴様の首を切り離して貴様の世界に届けてやる!
     人間どもが絶望する中で全てを消滅させてやるぞ!!》

 左腕を挙げると何処からとも無く赤い霧が現れ、手首の無い其処に集約する。
 霧は不自然な速度で動いて手の形を象り、受肉し、アンノウンは左手を取り戻した。
 アンノウンは、こうして魔法を解いたのだ。

爪 ゚W〉《全力の貴様をこの手で捻り潰してこそ、我という存在が意味を成すだろう》


爪 ゚W〉《そう、我の存在理由は希望を永遠の闇に落とす事なり。
     さあ、早く我が城に来るがいい……》

  __
354 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:03:57.95 ID:sbfvD0WY0
  ※

 人々は疲れ果て、途方も無くだだっ広い草原に座り込んでいた。
 遥か遠方では石の巨人が練り歩いているが、こちらの巨人を警戒しているのか、
 近づこうとする気配は無い。

 感染した人間は「毒気が抜けた為か」何事も無かったように、生きている。
 しかしながらセカンド化してしまった人間は化物の身体のまま絶命してしまった。
 これはアンノウンの強力な魔力を直接受けた為であろうとツンは考えたが、裏付ける根拠は無い。
 自分の来訪により、人々が不条理に死んでしまったという事実を受け入れたくないツンが、
 自分の為に見つけた逃げ道に過ぎないのだ。邪な考えであるとは自覚して……。

ξ;゚ー゚)ξ「Bafarin(バファリン)! ……はい、これでいいわよ」

 そんな後ろめたい罪悪感を忘れようと、ツンは人々の手当てに奔走していた。
 休み無く魔法を使用して酷い疲れを感じていたが、これが今の自分に出来る精一杯の贖罪だった。
 ブーンは武器やBLACK DOG、自分の身体のメンテをしていた最中だったが、
 そんなツンを見ていられなくなり、止めようと声を掛ける。

( ^ω^)「ツン、ちょっと来てくれお」

 まだ手当てを受けるべき人は多く残っていたが、
 ツンは素直にブーンに連れられて人から離れた場所へと歩いた。
 正直なところ、限界だった。

( ^ω^)「そんなに魔力を消費して平気かお?
      そろそろ日が暮れる。君もアンノウンとの戦いに備えるべきだお」

ξ;゚听)ξ「……いいのよ。アタシに出来る事って、これくらいだから」
356 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:06:47.22 ID:sbfvD0WY0

( ^ω^)「そんな事は無いお。君の魔法は十分過ぎるほど強力だお。
      アンノウンとの戦いでも絶対に必要になるはずだお」

 自信を欠いているツンをフォローするつもりはない。本心である。
 けれど、ツンはもう一度「いいのよ」と言って、踵を返した。

ξ゚听)ξ「あ、それよりアンタさ」

 ツンがブーンから離れようとした時、思い出したように振り返って、

ξ゚听)ξ「スネークさんと話してきなさいよ」

( ^ω^)「オッサンと? どうして?」

ξ゚听)ξ「アンタ達、出会うべくして出会ったのかもしれない。
      聖剣のお導きだなんて迷いの森で言ったけど、本当にそうなのかも」
358 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:09:04.93 ID:sbfvD0WY0

( ^ω^)「言ってる意味が……」

 よくわからんお、と言い掛けて、飲み込む。

 ――スネークの言葉が脳裏に走った。


   『若いの、セカンドウィルスの反応は?』

   『何だ? っ、何だ!? 市民とセカンドの身体から、赤い霧が!?』


(;^ω^)「僕は一度もツンとスネークの前で……
      病原体をセカンドウィルスと、感染者をセカンドと呼んでないお……」

ξ;゚听)ξ「アンタだけしか知らない言葉を知っている……ってことはやっぱり……」

 第一、先ほどの無声通信……あれは、僕の世界の技術だ。
 同じ技術で作られた機械同士でなければ通信など成立しないはず……!

 彼が余りにも彼だから、何の疑問も持たずに通信に応じてしまっていた!

(;^ω^)「――確かめてくるお!」
361 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:13:13.78 ID:sbfvD0WY0

 薄い紅色を帯び始め、日は落ちてゆこうとしていた。
 夕暮れと呼ぶには些か早い時頃、今更ながらアンノウンの襲撃を受けたと
 理解し始めた人々は、自然とオタコンの下に集まっていた。

 此度、秘密都市セントラルがアンノウンの攻撃を受けた事実を、
 オタコンはブーンとツンについては「たまたま他国から来ていた客人」であると上手く誤魔化した。
 高度な技術を持つ国と、魔法使いの国から技術提供にやって来た使者、と説明すると、
 人々は一抹の疑問を持たず納得してくれた。

 誤魔化し方も上手い事ながら、人々の信用を買ったのはオタコンだから、というのが大きい。
 前皇帝イトーイ増井に信頼されていたオタコンだからこそ、人々の前に立っても不満が出ないのだ。
 王に媚を売って出世したガイル執務官では、こうはいかなかっただろう。

 そうして人々の注目をオタコンが集めている一方で、
 今回の功労者の一人たるスネークは、離れた場所でメタルギアの整備に努めていた。
 整備とは言っても、大掛かりな設備がなければ修復は不可能で、
 損傷箇所のチェックをしているだけに過ぎないし、修復作業の役割は本来オタコンが担うものである。



スネーク「ふー」




 やる事が無くなったスネークはメタルギアの右肩に腰を下ろし、遠くを見ながら煙を昇らせている。
 要するに、暇を持て余しているだけなのだ。
364 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:16:27.49 ID:sbfvD0WY0


(;^ω^)「オッサン! 聞きたい事があるお!!」


 そこに、血相を変えたブーンが前触れ無く飛び乗ってきた。
 咄嗟の事にスネークは煙を吸い込んで激しく咳き込んだ。

(;^ω^)「オッサン、アンタ、さっきセカンドって言ったお?
     僕は一度も感染者をセカンドと呼んでないお。
     何でセカンドって呼称を知っているんだお!?」

スネーク「ッ……」

 問い詰められて、ようやくスネークは口を滑らせていた事に気づいた。
 そしてつい無声通信を飛ばしてしまった事も思い出す。


スネーク「それはだな、」

(;^ω^)「僕はツンにもオタコンさんにも、セカンドなんて言葉を使っていないお。
     何よりさっきの無声通信。あれは僕の世界の技術だから成立したんだお」

 先に唯一の退路を断たれてしまうと、スネークは観念して、

365 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:19:16.28 ID:sbfvD0WY0


スネーク「若いの。俺はな、
      どういう訳か知らんが、どうやらボストンから飛ばされてきたらしい」


( ^ω^)「じゃあ……!」



スネーク「ビロードは元気か? あいつはどうしてる?」



( ^ω^)「ビロード? ビロードかお! ビロードは……」


(  ω )「ビロードは……ビロードは元気だお、オッサン」


 これが聖剣の仕業かどうかは定かではない。だが、聖剣という存在に感謝したい気分だった。
 二度と会えないと思っていた男との再会に感極まったブーンは、
 泣きじゃくったように震えた声で返した。ツンに作られた機械の顔も、くしゃくしゃにして。

 強い喜びと、罪悪感を感じて。
367 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:23:21.46 ID:sbfvD0WY0

  ※


スネーク「そうか、ギコ=アモットは生きていたか……」

 ブーンは同郷の世界で起こった事を全てスネークに話した。
 ギコが生きていたという事実は、スネークにとってもやはりショックだったらしく、
 珍しく彼が落ち込んでいるように見えた。

( ^ω^)「僕の仲間がアーマーシステムを完成させてなければ、
      人類は根絶やしにされていたはずだお。
      ギコさん以上のセカンドが出てきたら、今度こそやばいかも……」

( ^ω^)「でもオッサン、アンタが生きていて良かったお」

スネーク「どういう意味だ?」

( ^ω^)「アンタがいれば対セカンド戦がずっと楽になる。
      勿論、あっちの『セントラル』に行けばツンが僕と同じ仕様まで
      バージョンアップさせてくれるだろうから、その点では全く心配する事は無いお」

スネーク「若いの、俺にどうして欲しいのか、ハッキリ言ってみろ」

 声こそ落としているものの、得も知れぬ高圧感がビリビリと伝わる。
 言い回しが回りくどかったのか、スネークを怒らせてしまったようだ。
 恐る恐る、ブーンは尋ねてみる。
368 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:28:27.46 ID:sbfvD0WY0

(;^ω^)「……オッサン、もしかしてアンタ、戻る気は無いのかお?
     ビロードに会いたくないのかお?」

スネーク「どうやってあちらの世界に戻るつもりだ?」

( ^ω^)「ツンが戻してくれると約束してくれたお」


スネーク「どうやって?」

(;^ω^)「それは……方法は聞いてないお」

スネーク「戻れる保証も無しにのこのこ来てしまったのか。
      お前らしいと言えばお前らしいが」


 この一言にはさすがにムッとした。
 今となっては信用信頼しているツンを侮辱されたような気がしたからだ。
 が、相手は他ならぬ皮肉屋スネーク。
 この程度で一々怒っていては時間がいくらあっても足りないというもの。
371 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:30:43.26 ID:sbfvD0WY0

スネーク「冗談だ。こちらの世界に連れて来れたんだから、戻る事も出来るんだろう」

 案の定、冗談であったらしい。
 安堵したのは彼が本気だったのだけでなく、「連れて来れたのだから
 戻る事も当然出来る」というその発想に気づかせてくれたからである。

スネーク「だけどな、若いの、俺は戻る気は無い」

(;^ω^)「な、ど、どうしてだお……?」


スネーク「ここでやらなければならない事が出来た」


 そう言いながらスネークの視線が下がる。
 彼の見つめる方を追うと、そこには路頭に迷う人々で一杯であった。

スネーク「彼等を守らなければならない。この世界も実に過酷だ。
     メタルギアのパーソナルは当分書き換えられないから
     代わりをやれるパイロットもいない」

(;^ω^)「それは……でも、それは本来アンタの役割じゃない。
     アンタはこの世界の住人じゃない。本当はあっちの世界の人間なんだお」

スネーク「だからこそだ。若いの、俺はボストンで確かに死んだんだ。
     俺は亡霊も同然だ。自然の摂理に反している。
     記憶と心を保っていようが、ここにいる俺は別のデイビッド・スネークだ」

372 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:34:18.46 ID:sbfvD0WY0

(;^ω^)「どうしてだお……」

 どうして、そんなに寂しい事を言うんだお!?

(;^ω^)「な、なら、せめて一緒にアンノウンを倒して欲しいお!
     アンタがいれば心強いお! アンタさえいればきっと――」

スネーク「ブーン。俺とお前の戦闘能力は、今となっては歴然の差がある。
     そんな俺が行っても足手まといになるだけだろう」

 そんな事は無い! いや、違う! そんな事はどうでもいいんだ!

スネーク「それに、聖剣が選んだのはお前だ。俺は違う。
      お前はお前の役割を果たせ。俺はお前が世界を救うと信じて、
      俺の役割をここで果たすさ」

( ; ω )(そんな……なんでそんな……せっかくまたこうして……)


スネーク「そうだ、それ、なかなか似合ってるぞ」

 スネークは、ブーンの額に巻かれたバンダナを指して言った。


スネーク「お前にはもう、俺は必要じゃなかろう。そのバンダナもな。
     今日の戦いぶりを観て、そう確信した」
375 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:38:06.38 ID:sbfvD0WY0


スネーク「行け、もう迷うんじゃない。これで俺の講義も終わりだ。
      さあ直に日が落ちるぞ。ほら、下でお嬢ちゃんが呼んでるぞ」


( ; ω )「オッサン……」


スネーク「…………」


 真っ直ぐと見つめてくる視線が何故か堪らなく、項垂れて
 長髪をカーテンのようにして視線を遮った。落ち込んでいるように見えているだろうか。
 そんな素振りを見せていても、一向に声をかけてくれる気配が無く、
 こちらから切り出さなければ心地悪い沈黙はずっと続くだろう。

 無言の静寂の中で何度もスネークの言葉を反芻した。

 『俺は亡霊も同然だ。自然の摂理に反している』。

 言葉を思い返す内に思い出す……ボストンの空を赤く照らした核の光。
 光と共に途絶えた通信を示す耳障りなノイズを……。
379 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:44:10.44 ID:sbfvD0WY0
 あの時のデイビッド・スネークの死は確かな物であったと、
 他の誰でもない自分がよく理解しているはずだった。

 スネークは、居てはいけない人間だ。
 何故この世界に居るのかは想像がつかないが、しかし目の前の彼は亡霊なのだ……。

( ^ω^)「……」

 観念し、意を決してスネークに視線を戻す。
 まだ彼は厳しい視線でこちらを見ていた――ああ、きっとオッサンは
 僕が理解してくれると信じてくれているのだろう。

スネーク「……」

 もう亡霊に我儘を言うつもりはない。
 それに、聞いちゃくれないだろうから、

( ^ω^)「悪かったお。行ってくるお。あと、バンダナは貰っておくお。
     無くしたらビロードが悲しむから」
381 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:47:38.01 ID:sbfvD0WY0

スネーク「……そうだな。そうするといい」

 スネークは視線を間逆に逸らした。
 沈み始めている夕陽を目を細めて眺め、新しい煙草に火をつけた。


( ^ω^)「……」


 これ以上、話す事は無い……か。


 ブーンは数秒、スネークの背中を一瞥してから、メタルギアの肩から飛び降りた。


(  ω )(そうだお。僕はオッサンの分まで頑張らなきゃいけないんだお)

 受け継いだ遺志を再び確認できた。
 同時に、ボストンで得た例えようの無い喪失感も、ブーンは再び実感したのだった。


   黒いバンダナが風を強かに受けて、うるさいほど靡いている。


 __
383 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:52:21.88 ID:sbfvD0WY0


ξ゚听)ξ「あれ? スネークさんは来ないの?」


 聞かれるであろうと想定はしていたが、
 気持ちの整理がついたようでついていなく、中々に辛い質問だ。
 それでもブーンは出来るだけ平然を装って応えた。

( ^ω^)「おっ。オッサンはこっちの世界の人間だったお。
     オッサンにはセントラルの人達を守るって使命があるから、戦いには連れて行けない。
     それにアンノウンを倒すのは、僕の役割だお」

 この返答は嘘とも真実とも言える、とブーンは思う。

ξ゚听)ξ「……そう。じゃ、行きましょう。夕陽をいっぱい浴びれる丘がいいわ。
      綺麗なところ。昨日見た星の海より綺麗な景色のところがいいわね」

(;^ω^)「ハア? なんでそんな所? 魔法と関係あんのかお?」

ξ;゚听)ξ「お、大アリよ! 綺麗さで成功率が上がると言って過言じゃないわ!
      四の五の言ってないでさっさと連れてけってば!!」

 喚きながらツンはブーンの手を引き、BLACK DOGの方へと走る。

( ^ω^)「ハイハイ。まあ、最後の戦いの前に景色を見て落ち着くのもいいかもだお。
      どこか夕陽の綺麗な場所を探してみよう」
387 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 22:57:28.59 ID:sbfvD0WY0


ξ゚听)ξ「……うん。ま、実は本当言うと、そんな理由なんだけどね」

 ツンは急に立ち止まり、振り返って小さくそう言った。
 この時ブーンは、ツンは綺麗な景色を見たいだけ、としか思えなかった。


(;^ω^)「なんだよ……まあいいや。僕もちょっと傷心に浸りたい気分だから」

ξ゚听)ξ「何よ、そんなにショックだったわけ? スネークさんが別人だって事に?」

( ^ω^)「ショックだお。死んだと思ってた人間が
      こっちで生きてたと期待しちゃったんだから、ショックだお」

ξ゚听)ξ「……そっか。あっちのスネークさんは亡くなってたんだもんね……ごめん」

( ^ω^)「いや、いいお。死んだ人間が生きてるはずないんだから。
      僕もどうかしてたお。……行こう、ツン」

 2人が乗り込むと、BLACK DOGは人々の瞬く間に遠ざかっていった。
 主人に従順なBLACK DOGは、主人の意に沿って走り去ったのだ。
 悲しみと寂しさに戦意が削がれる前に、暖かな日の光を浴びたいという、その意に。

 その一心だったせいで、ブーンは気づけなかった。
 これまで見た事が無い程、ツンが辛い表情をしているのを。
389 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:02:20.94 ID:sbfvD0WY0


オタコン「スネーク……彼と行かなくて本当に良かったのかい?」


スネーク「ああ。俺はあいつと共に行く資格も無ければ、
      元の世界に戻る事も許されない人間なのさ」

オタコン「……そうか。彼には悪いけど、正直に言えば僕は嬉しい。
     君が居てくれるのは本当に心強いからね」

スネーク「そいつは光栄だ」

オタコン「…………彼等は、勝てるだろうか。“アンノウン”に」

スネーク「当たり前だ!」

オタコン「はは、君が言うなら、そんな気がしてきたよ」


スネーク「だからオタコン。お前は安心して街の復興だけを考えるんだ。
      ブーンが奴を倒しても、お前の戦いはこの先ずっと続くんだからな」

オタコン「そうだね。僕らは僕らで、頑張らないと」

スネーク「その意気だ。……すまんが、少し一人にさせてくれ」

オタコン「ああ、わかった。君は特に疲れているだろうからね。
     今はゆっくり休んでくれ。じゃ、僕は戻るよ」
392 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:06:02.81 ID:sbfvD0WY0


スネーク「オタコン」


オタコン「なんだい?」


スネーク「頑張れよ」


オタコン「ん? 急に変な事を言うね……まるで――」

スネーク「いや……何でもない。引き止めて済まなかった」


オタコン「あ、あぁ……それじゃ、また後で」
395 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:08:53.10 ID:sbfvD0WY0
  ※


ξ゚听)ξ「綺麗ね」

( ^ω^)「綺麗だお」

 そこは、何処までも広がる海が見える、高い丘の上。
 2人はこれまでしてきたように、BLACK DOGのコクピットに座って夕陽を見ていた。

 どんなに目を細めようとも、ズームを機能させても、小さな島の影一つすら
 見えないまっ平らな海の上に、紅く染まった日が沈もうとしている。
 夕陽は紅色を強かに空と海の両方に射し、どちらの青色にも混じり合って
 淡く美しい紫を作り上げていた。

 夕陽の光は通り過ぎる雲も射抜く。
 群青色の空を透かして青く色を変えていた雲は、日の光を受けると
 やはり紫に色を変え、それから再び何処かへ流れる旅に戻る……。

 大自然の作り出す美麗の中、大鳥は歓喜の歌を唄いながら優雅に舞っている。
 夕陽を一度見ようと魚達が海面で跳ねている。

 自然は別世界でも変わらず美しいもののようだ。
 ……この素晴らしき世界を破壊しようとする者がいる。
 悲しみで落ち込んだ心に熱が入る。沸々とアンノウンへの怒りが込み上げてきた。
397 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:11:13.30 ID:sbfvD0WY0


( ^ω^)「ツン、その、なんていうか、
      こんな事言うのは不謹慎だけど、楽しかったお」


 だが、不思議と落ち着いてもいた。
 すぐに穏やかな気持ちになれる。
 まだ戦いの前だ。最後の幕が上がるまで、思い出に浸るのも良いだろう。


ξ;゚听)ξ「え、何が?」

( ^ω^)「旅だお、この旅。魔法に満ち溢れた世界を旅できるなんて、
      夢の中の話だったから、本当に楽しかったお」


ξ゚ー゚)ξ「……アタシも楽しかったわ! 特に黄金の海!
      あんなに美しい光景を目の当たりに出来たんだもの!」


( ^ω^)「おっ。また見に行きたいお。いや! また見に行くお!
     アンノウンを倒したら皆で見に行こうお!」
399 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:14:11.29 ID:sbfvD0WY0


ξ )ξ「……そうね」


(;^ω^)「あれ? 何か癇に障ること言ったかお?」

(;^ω^)「そういえば、君は皆に会おうとかって話題になると、
     なんだか思い詰めたような顔をするお。何かあるんなら話してくれお」


ξ )ξ「何でもないわよ!」


(;^ω^)「……ツン?」

ξ゚听)ξ「……そういう話はアンノウンを倒した後にしたいだけ。
      これがしたい、あれをしよう。なんてのは事を終えて『あれすんぞ!』って
      気持ちよくやりたいのよね! 今はアンノウンを倒す事だけ考えたいの!」

( ^ω^)「……お、それもそうだお。いい心構えだお」
401 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:17:06.28 ID:sbfvD0WY0

ξ゚听)ξ「日が落ちるわ」

 夕陽が水平線に触れる。
 ツンは、胸元に下げた水晶を外し、日に向けた。
 すると水晶に強い輝きが現れ、ツンはそれを合図に水晶から手を離した。
 水晶は独りでに宙に浮き、夕陽と水平線の接触面に向って輝きを伸ばしていった。

 水晶と日没を結ぶ輝きが刻々と幅を広げる。
 まるで太陽に続く道のように、ブーンには見えた。


ξ゚听)ξ「行きましょう」


 光の道の先を見つめてツンが力強く言った。
 ブーンは無言で頷き、自分の胸元に置かれているツンの右手を取ろうとするが、

ξ゚听)ξ「あ、その前に、ちょっと」

 慌てて手をひっこめる。
 何だ?と見ていると、ツンは髪を結っているリボンを解いて、
404 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:19:48.87 ID:sbfvD0WY0
ξ;///)ξ「こ、ここここれ! ああああ、あげるわ!!
      何も言わずにつべこべ言わず! あああ有り難く受けとんなさい!!」

 顔を真っ赤にして、有無を言わさず乱暴な手付きで右腕に巻きつけた。
 このプレゼントの意図は分からないが、是非とも受け取らなければ恐ろしいパンチが
 飛んできそうなので、ブーンは素直に受け取った。

(;^ω^)「う、受け取ったお!」

ξ;゚听)ξ「よし、オッケーよ! それでいいのよ! 用は済んだ! さあ行くわよ!」

 「ほらっ!」と強引に手を握るツン。
 次に、光の道の先を見つめながらブツブツと呪文を唱えた。
 呪文が終わると、自分とツンの身体が足元から光になって、
 一緒くたにゆっくりと水晶に引き込まれていった。

 不思議な感覚だ。自分がツンと、BLACK DOGも同化したかのような。
 全身を構成する人工の皮膚や骨格、間接機構が無くなって、風のように柔らかくなったような。
 それと重力を感じなくなったかのように身体は軽く、でも水晶に引かれる軽い引力を感じて。
407 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:24:38.75 ID:sbfvD0WY0


( ^ω^::..

 首から上が消える前に、ふと、ツンの顔を見ようと目線を下げる。
 彼女もこちらを見ていたようで、目が合うなり彼女は口を動かして、




..:::゚ー゚)ξ『……アンタと一緒に旅が出来て、本当に良かったと思うわ。
      だからそのリボン、ずっと持っててよね。アタシが生きていた証だから』


( ^ω:::..『えっ』


 「どういう意味だお?」と、口から出たのか出なかったのか。
 それすら理解する間も無いくらい突然、周りの景色が高速で流れて行き、
 気づけば目の前に途方も無く巨大な紅い壁が――ああ、夕陽だ――迫る。


 夕陽と衝突した瞬間、視界がプツンと暗転した。


                       【Single part:Virus Buster⇒END】

                       【Next⇒Single part:???】

 

 

 

 

 

410 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:28:52.44 ID:sbfvD0WY0
  ※

 俺は人目を盗んで迷いの森へ来ていた。
 人々と街の復興の為に赤水晶を採ろう、などという誇らしい目的は無く、
 何故か迷いの森に来なければならない気がしたのだ。

 しかしソリトンレーダーを見ようとする気は起きず、当てもなくフラフラと森を歩き続ける。
 まるで亡霊のようだな。胸中で皮肉り、我ながら亡霊とはよく言ったものだなと
 自虐的な笑みを浮かべてみる……こうしている方がよっぽど自分を誇らしく思うものだ。
 まだ俺は、俺のようだ。

 彷徨う内に開けた場所に出る――知らぬまに森の中のオアシスまで来ていた。
 狩りの中継地点として、よく利用していた場所だ。
 おぼろげだが、この世界で初めて見た光景がここだと記憶している。そのせいか、妙に落ち着く。
 だから足が覚えていたのだろうか。それとも何かに導かれて……どうだっていいか。

 異常な疲労感を感じて切り株に腰を下ろす。煙草を吸いたくてたまらない。

  (今なら分かる。俺は、役割を終えたのだ)

 本能的に“それ”を理解しているような感覚だが、確かな感覚なのだ。
 聖剣とやらが俺の命を引き伸ばしたのだろう? だがそれももう、今度こそ終わりらしい。
 俺は死ぬ。もはや亡霊である事も許されないらしい。

  (聖剣だか何だか知らんが、人の命を都合の良いように使いやがって)

 咥えた煙草に着火する。
 煙がゆっくりと昇る一方、脳裏では走馬灯が駆けている。
 いよいよ最期を迎えたという事か。
415 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:32:14.67 ID:sbfvD0WY0

  (だが感謝しよう。最期にオタコンとブーンに会わせてくれた事を。
  最期に、あいつのパートナーとして再び戦わせてくれた事を……)

  (異世界の友たちよ、すまんが、俺はこの先お前達を手伝うことはできない。
  お前達はお前達で、役割を果たせ)


 胸いっぱいに煙を吸い込み、咀嚼するようにゆっくりと吐き出して味わう。
 美味いな、この上無く。 思わず顔が綻んでしまう。


 あいつとの通信コードを通信機構に入力してみる。


  「こちらスネーク……聞こえるか……?」

 通信圏外、通信不成立を示す砂嵐のようなノイズに話し掛ける。


  「ふっ、らしくないな……何を期待して、こんな馬鹿げた真似を……」


 口から吐かれる紫煙が風に溶けてゆく。


 ―――――――そして、
417 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/26(金) 23:35:13.15 ID:sbfvD0WY0




スネーク『パートナーは休止だ、若いの』




 彼の声も、姿も。
 風と共に、終わりへと続く旅に出た。


 あるいは、新たな物語を願って――――。



                    『本当の功労者は公にされない』
                       メタルギアソリッド3より

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