10 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:19:16.93 ID:u4tH23zq0
 2人が目を開けて見たのは朝日ではなく、木々が発する緑色の光であった。
 スネークは既に起きておリ、レーションのような携帯食料をまずそうに咀嚼している。
 神秘的な光景を一望するツンとブーン。
 森全体が、透明感のある薄い緑色を発光している。

 スネークに聞いてみると、迷いの森とはピポザルなど魔力を有する動物達の培養プラントであり、
 朝日を浴びることで木々が動物達の為に必要な魔力を放出する、との事。
 この魔力がコンパスなどの器具に影響を齎すという仕組みらしい。

 森は美しく輝いている。
 朝日の代わりに森の住民は緑色の光を浴びてそれを夜明けとし、活発的に
 高らかな鳴き声を響かせる。憎たらしいあの猿の声も聞こえれば、鳥の声も聞こえてくる。
 特に小鳥の囀りは美しい。
 これで湿気さえ無ければ、最高の朝と森林浴を楽しめるだろう。
 と、ブーンとツンは、液体化食料を啜りながら口々にする。

スネーク「そろそろ出発する」

 遅れて2人が朝食を摂っている間にテントを畳み終えたスネークが、
 バイクを動かして言った。エンジンは空気が抜けるような音を静かに鳴らしている。

( ^ω^)「了解。おーいツン、さっさと乗れお。食べながら行こう」

 ブーンも自分のバイクに飛び乗った。
 ドアを開き、ツンに手を差し伸べようとするが、ツンはふわりと宙に舞って
 すっかり定位置になってしまったブーンの膝に降りた。

( ^ω^)「あれ、今日は文句言わないのかお」

ξ゚听)ξ「いい加減慣れたわい。行きましょう!」
15 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:26:43.58 ID:u4tH23zq0
 二機の黒いバイクが森を駆ける。
 昨夜とは打って変わり、今日のBLACK DOGは鬱憤を晴らすように甲高く吼えた。
 スネークのバイクも同様に快音を鳴らしている。
 森の住民からすれば、まるで二匹の獰猛な生物が暴れているように聞こえるだろう。

 現に恐れをなしているのか、ピポザルや他の動物が襲ってくる気配は無い。
 「お腹が減ってないんじゃない?」とツンは言うが、
 ブーンの聴覚と熱察知の能力では動物達は自ら遠ざかっている様子だ。

 そのせいもあって走行は順調そのもの。
 先導するスネークのレーダーは確かなようで、一度も止まる事無く走り続けている。

 道中、ブーンとツンは時間潰しも兼ねて、互いの世界の事を教えあった。
 ブーンは魔法の利便性について、ツンは機械の利便性について、
 驚き羨ましがった。それから、互いの世界の人間について話題が上る。

( ^ω^)「この世界のブーンってのは僕みたいに良い奴でイケメンなのかお?」

ξ゚听)ξ「はあああ? アンタ性格悪いわよ? ええ、捻じ曲がってるわね。
      皮肉っぽいし理屈っぽいし口悪いし無神経だし、良い所見つからない。
      っつーか長髪似合ってないし。長すぎてウザったいわよ、それ」
19 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:31:57.41 ID:u4tH23zq0

( ^ω^)「そういうお前は胸がまるで無いお」

   ……ξ´゚听)三○)ω^)すぐ殴るしいいいいいいいいい

(;^ω^)「ったく、自分はボロクソ言ったくせにコレかお。
      まぁ、こうやってからかうのが面白かったりするんだけど」

ξ#゚听)ξ「面白半分に身体の事言うなんて、ホント無神経な奴!」

( ^ω^)「いやーそれにしても。君を僕の世界のツンと会わせてみたいもんだお。
      殆ど同じ性格してるもんだから、一緒にさせるとどうなる事やら」

( ^ω^)「僕も早く僕に会ってみたいお! どんな奴なんだろ?」

( ^ω^)「って、ツン、聞いてんのかお?」

ξ;゚听)ξ「え、あ、うん。そうでしょうね、会ってみたいわよね」

( ^ω^)「……どうかしたかお?」

ξ;゚听)ξ「別に……」

( ^ω^)「……」

 ツンの心拍数が急に上がった。
 そういえば、ミスリルマウンテンで同じ話題をしていた時も、様子が変だったような……。
 何か隠し事をしているのだろうか?
21 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:36:28.48 ID:u4tH23zq0

( ^ω^)「会わせたくない理由でもあるのかお?」

ξ;゚听)ξ「えっ……別にそんな事無いわよ」

( ^ω^)「……ならいいけど」

 どうも、何か隠しているような気がしてならなかったが、
 ブーンはこれ以上言及するのを止しておいた。

 言いたくないのなら、それでいい。
 ブーンは、ツンが思っているより無神経ではなかった。

スネーク「そろそろ森を抜ける」

 と、スネークがバイクを横につけて来た。

 大分前に深部抜けていたのだが、ブーンの機能は回復せず、
 ツンも鍵の波動を察知出来ないままでいた。
 これは、森が完全に「方向に関する機能や能力」を剥奪しているからである。
 こうして、森は徹底して「迷いの森」という役柄を果たし、
 他国の人間が乱獲せぬように、また、魔導と呼ばれる技術の漏洩を防いでいるらしい。

 ――外の光が見えてきた。

22 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:41:40.57 ID:u4tH23zq0

ξ*゚听)ξ「鍵の波動を感じる! BLACK DOGで行けば近くだわ!」

( ^ω^)「僕もダウンしてたシステムが復帰したお」

 森を抜けての開口一番は、森の陰鬱な雰囲気よりも魔力からの解放を喜ぶものだった。
 本来在るべき物が在るという感覚がこうまで充足したものだと、ブーンは知らなかった。

 忘れていたというべきか。便利な機能に生かされているのだと、身を思って思い知る。
 システムを剥奪されれば自分は単なる人間。
 貧弱な人間の時の感覚など6年も覚えていられなかったようだ。
 少し省みるべき事なのかもしれない。

スネーク「世話になったな」

 わざわざ、スネークはバイクから降りて来て言った。
 基本的に皮肉屋な性分であるが、気持ちが良いほど
 義理堅い部分を併せ持っているのをブーンは知っている。

( ^ω^)「オッサン……」

ξ゚ー゚)ξ「こちらこそお世話になりました!」

 ブーンはもどかしい気分であった。
 別人とはいえど、もう少しの間、スネークと話していたかったのである。
24 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:45:20.41 ID:u4tH23zq0

ξ゚听)ξ「ところで、スネークさんはどちらに?」

スネーク「閉鎖都市ゆえに詳しくは言えないが、北だ」

 スネークは指を示して言う。
 それに対して、ツンは表情を明るくして返した。

ξ゚ー゚)ξ「あら、一緒の方角なんですね。
      折角だし、もうしばらくご一緒させてもらっていいですか?」

スネーク「まあ……いいだろう」

ξ゚ー゚)ξ「よかった! 旅は仲間が多いほうが楽しいし心強いですもん!
      スネークさんって何だか頼りになるし。ね、ブーン?」

 同意を求められた瞬間にブーンは緩んでいた表情を正す。
 またホモと思われるのは気分が悪い。

( ^ω^)「そりゃ頼りになるお。なんたって伝説の傭兵なんだお?」

スネーク「それはお前の世界の俺なんだろう?
      そんな伝説的な人物と一緒にするんじゃない」

ξ;゚听)ξ「え! ブーンはあっちの世界のスネークさんと会ってたんだ!?」

( ^ω^)「言ってなかったっけ? そうだお、だから昨日、あれだけ戸惑ったんだお。
      それはいいとして、早く先に進むお」
28 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:49:50.20 ID:u4tH23zq0
 森を抜けた先は、草原がどこまでも広がっていた。
 草原は人の手が一切入れられてないらしく、街道などの道らしき道は無い。
 遠目には山が見えるが、山肌は深い緑色である。
 このくらいの自然なら自分の世界にも存在していた事があると、
 ブーンは昔受けた歴史か何かの授業を思い出した。

 しかし、ここはやはりファンタジーの世界だった。
 凶暴そうな外形を持った四足の獣の群れは、虎などとは懸け離れた外形を持つ。
 全身が岩石のような物で出来ている牛は、NYのビルよりも大きい。
 更に、それよりもずっと大きな植物的な巨人は、頭と肩に化物鳥の巣すら持っている。

ξ;゚听)ξ「ここ、凄いわねえ……」

( ^ω^)「あれ? てっきりああいう化物は見慣れてるのかと思ってたお」

ξ;゚听)ξ「あんな馬鹿でかいモンスターがいる所に人なんか住めないわよ。
      エスカルの冒険記で知っただけで、アタシも実際に見るのは初めて」

ξ゚听)ξ「この辺りに街なんて本当にあるんですか?」

スネーク「だから地下にあるんだ」

ξ;゚听)ξ「あ、そっか!」
35 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 18:55:53.26 ID:u4tH23zq0

スネーク「しかしお前ら」

( ^ω^)「なんだお?」


スネーク「どこまで着いてくる気だ?」


 再出発してから30分は経った頃。
 閉鎖都市を知られたくないスネークは露骨に嫌がった。

( ^ω^)「だとよツンさん」

ξ゚听)ξ「んな事言われても、こっちなんだから仕方ないじゃない」

( ^ω^)「だとよオッサン」

スネーク「鍵を落とすにしても場所を選んで欲しいもんだ」

( ^ω^)「まったくですな」

  アンタはお黙り!ξ#゚听)三○)ω^) お前ほんとに別のツンかおおおお!?

(;^ω^)「うう、頭に響くお……まあ僕は異世界の人間だし、
      ツンはこことは裏側に位置する場所に住んでるみたいだし、別に
      街の場所を知られたっていいじゃないかお」

スネーク「ううむ……まあ、いいだろう……」
37 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:01:59.07 ID:u4tH23zq0
 鍵に近づくにつれ、それまで漠然と北だと認識していたツンの感覚が一新される。
 遂に特定の場所を把握する事が出来ると、ツンはとある山を指さした。
 長い鍵捜索もいよいよ終わりか。
 しかし、そう喜んだのはブーン唯一人であった。

スネーク「……まさかと思うがお嬢ちゃん、鍵はどの辺りに感じている?」

ξ;゚听)ξ「山の下……ブーン、アンタの武器で山って掘れる?」

( ^ω^)「あの山の下か……出来るけど鍵ごとぶっ飛ばすかも」

ξ;゚听)ξ「でもそうしないと鍵取れないわよね……ちょっとやそっとじゃ
       壊れないけど、アンタの力だと不安かも……」


スネーク「……あの下だ、俺の街は」


ξ;゚听)ξ「え!?」(^ω^;)


スネーク「あのマウンテンニューヨークの下に隠れているんだ、セントラルは。
      まさかと思ったんだが……仕方ない、俺から入国を頼んでやる」
39 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:08:37.61 ID:u4tH23zq0
 麓まで辿り着くと、スネークは山の入り口前でバイクを停止した。
 入り口は人が上りやすいように道が整備されているが、
 あまり人間が歩いた様子は無い。
 万が一に来訪者が来た時の為のフェイクだろう、とブーンは察する。

 スネークは腰にぶら下げたバックパックから小さな魔導機を取り出し、
 それを右耳にあてがった。

スネーク「こちらスネーク、エレベータを上げてくれ」

 数十秒の後、物々しい作動音と共に山の入り口に穴が生じた。
 穴から覗けるのは、勾配が緩やかな下り坂だ。
 そこを下った先に幾つかの輝点を放つ床を確認できる――あれがエレベータだろう。

スネーク「これから国のお偉いさん方に事情を説明する事になるだろうが、
      お前達2人なら問題なかろう」

( ^ω^)「どういう意味だお?」

スネーク「来れば分かる」

 そう言ってスネークは先に下りて行った。
 ブーンとツンは顔を合わせて首を傾げてから、スネークに続いた。
42 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:13:37.24 ID:u4tH23zq0
 エレベータの発着場まで下りると、スネークがバイクを降りて待っていた。
 スネークにならってブーンとツンはバイクを降りる。
 慣れた手付きでスネークは操作盤らしき物を操作すると、
 それに備えてあるテレビジョンにメガネをかけた男が映った。

『やあスネーク! 魔力採取の任、お疲れ様……って、スネーク!?
 後ろの2人は誰なんだい!? 一人はウチの戦士に見えなくもないが、
 もう一人は明らかに異国の人間じゃないか!』

スネーク「そう慌てるなオタコン。俺もここのルールは遵守しているつもりだ。
      今回は複雑な事情があって入国させざるを得なかったんだ」

 オタコンと呼ばれたメガネの男は、見るからにツンを怪しんでいる。

オタコン『しかしだねえ……』

スネーク「この男は魔導戦士に準ずる存在でな。
      魔導機に似た武器や技術を持っているんだが、見てみたいとは思わんか?」

オタコン『そうなのかい? そりゃ……見てみたいけど』

スネーク「とにかく、陛下との謁見を設けてくれまいか、友よ」

オタコン『君がそうまで言うなら……分かった、陛下にはうまく言っておく』
45 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:16:16.73 ID:u4tH23zq0

ξ;゚听)ξ「わっ!? 床が動いた!?」

 エレベータが動き出すと、ツンは驚いた。
 ブーンは笑いながら得意気に彼女に話しかけた。

( ^ω^)「こんなの僕の世界じゃ日常茶飯事だお。
      ここは、僕の世界と少し似ているみたいだお」

ξ;゚听)ξ「ふーん……凄いわね。動く床かぁ、便利そうねぇ」

( ^ω^)「でも、ツンも魔法で色々出来るんだお?」

ξ゚听)ξ「このくらいの事は出来るけど、一々床動かしてたんじゃ疲れちゃうわよ」

ξ゚听)ξ「それにしても、世界って広いのね。
       自分の世界のはずなのに、別の世界に来てるみたい」

( ^ω^)「アンノウンを倒したら、皆で旅行にでも行くといいお」

ξ゚听)ξ「……そうね」
47 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:20:54.23 ID:u4tH23zq0

スネーク「これからセントラルの皇帝陛下に謁見する」

 エレベータが3人を地下深くまで運び終えると、スネークが緊張した面持ちでそう告げた。

ξ゚听)ξ「王様に? わざわざそんな事しなくても、こっちは
       鍵見つけたらとっとと出て行くのに。勿論ここの事は口外しませんし」

スネーク「そうもいかん、ここの決まりだ。
      外部からの人間を無断で入れたのがバレれば俺は当分の間減給、
      君達は侵入者と見なされ銃殺される。それはお互い良くないだろう?」

スネーク「もっとも、陛下は謁見の最中に銃殺を命じるかもしれないがな」

ξ;゚听)ξ「そ、そんな!」

スネーク「なんとか事情を飲み込ませて了承してもらおうじゃないか。
      陛下こそ傲慢で癖があるというか自由奔放というか……でも住民の方は人間が出来ている。
      科学者の間じゃ偉い友人に進言してもらうし、何とかなるさ」

( ^ω^)「色々すまないお、オッサン」

スネーク「成り行きだ、仕方あるまい」
51 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:29:17.63 ID:u4tH23zq0
 一同はバイクでエレベータの発着場を出て、広大な駐車場へ。
 そこには何台ものバイクの姿があったが、スネークは
 バイクを停めずにそのまま奥へと進んだ。

 駐車場の出入り口を抜けると、
 とてもここが地下だとは思えないくらい巨大な空間に出た。
 金属的な物質で作られた道路や建物が存在し、
 道路には車やバイクが走り、歩道にはスネークと近い服装をした人間が歩いている。
 信号機に似た表示で交通は整理されている……本当に、地下都市だ。

 ここまで自分の世界に似通っていると、ブーンは驚きながらも
 自分の世界に帰ってきたかのような感覚に陥るのだった。

「何あの子? もしかして外から来た子なのぉ?」

「だっさーい、何あの格好。どこの田舎から来たのよ」

ξ;///)ξ「なによ……あっちの方が変な格好じゃない……」

 嬌声を上げている女性や子供も、スネークと似たような格好をしている。
 ツンはすぐに視線の的になってしまった。
 彼女は恥ずかしさから、顔を深く俯かせた。

(;^ω^)「そんなもんだって。文化の違いだお」

( ^ω^)「それにしても凄い街だお。僕の世界とも引けをとらないお」
53 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:33:02.45 ID:u4tH23zq0

ξ゚听)ξ「やっぱりブーンの住んでいる所と似てるの?」

( ^ω^)「よく似てるお。笑っちゃうくらいだお」

 スネークの背を追う事を忘れないが、ブーンは街によく目を奪われた。
 街頭テレビ付きの高層ビル、ブティック、飲食店。
 ディティールと様式はブーンの世界とは懸け離れているが、
 いずれも洗練されてある以上、“現代的”か“近未来的”と言う他無い。

 例えばテレビジョンの解像度は非常に高く、美しい映像を提供している。
 その映像自体――今見ている物は音楽のビデオを流している――、
 特殊な撮影方法と処理で作られているのではないか、とブーンが想像できる程だ。
 本当にもう一つの『セントラル』なんだ、とブーンはようやく実感した。

 大きなスクランブルに差し掛かると、
 「←第一研究プラント、↑王宮、→セントラルパーク」
 と、光の文字でそう描かれた看板を発見する。
 スネークはそのまま直進して王宮へと向う。王との対面は近いようだ。

( ^ω^)(王……傲慢で癖のある王かお……)

 事を構えなければ良いのだが……。
 不安を覚えたブーンは、何となくバイクをスネークの横に付けた。
57 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:37:08.19 ID:u4tH23zq0
 セントラルは実に広く、機械仕掛けの王宮が見えてきたのは
 看板を確認してから20分の事だった。
 信号機と速度制限で交通整理されている為もあるが、それを差し置いても長い道のりであった。

 渋滞は無かったがかなりの数の車両が走っており、
 歩道では所狭しと人々が歩いていた。
 中央エレベータを幹に幾つかの層を持つ……という構造ではないが、
 この『セントラル』も恐らく何十万何百万という人間を抱えているのだろう。

 王宮は魔導機を搭載しているものの、全体像はブーンの知る中世の城に似ている。
 大理石を思わせる純白の壁と柱に、光を放つ点や管、公務を知らせる
 光の掲示板などが埋め込まれている。

 十字路を左へ、王宮の入り口へ通ずる道に。
 しかし、その道は中程で遮断されていたのだ――武装した大勢の兵士だ。

 急停止する3人。
 スネークはバイクを降り、兵士達の先頭に立つ白衣の男の方へ歩み寄った。
 その男とはエレベータのテレビジョンで見た人物、オタコンである。

オタコン「すまない。王宮には入れたくないって言うもんで……陛下もここに来る」

スネーク「ふん、こちらとしても有難い。あの悪趣味な王宮には入りたくないからな」
59 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:40:20.25 ID:u4tH23zq0
 ブーン達2人はバイクを下りようとしなかった。
 いつでもこの場から逃げ出せる為にだ。
 エンジンも切ろうとしないのは、彼等が銃口を向けているからである。

( ^ω^)(ツン、鍵はどこだお?)ボソボソ

ξ゚听)ξ(この近く……いえ、近づいて――)ボソボソ


「皇帝陛下の御成ぁぁぁりぃぃぃぃぃ!!」


『ジーク・カイザー! ジーク・カイザー!』

 ツンの言葉を、男達の野太い叫び和声が掻き消した。


『ジーク・カイザー! ジーク・カイザー!
 ジーク・カイザー! ジーク・カイザー!』
63 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:45:07.34 ID:u4tH23zq0

「あいつらが外界の人間かお!!」

オタコン「はっ。男は魔導戦士に酷似していますが、確かに外界の者のようです。
     女の方は見てくれの通り、遠方からやって来た魔術士だそうです」

「ふーん……」

 王はずかずかと大股開きでブーン達に近づいた。
 スネーク、オタコン、複数の兵士が後に続く。


ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「余がセントラル第16代皇帝、イトーイ増井だお!」


ガイル「執務官のガイルでございます」


『ハイル! イトーイ!! ハイル! イトーイ!!』


(  ω )  ゚ ゚

 現れたのは、何処かで見た事がある顔の王と、
 執務官と名乗る男に関しては確実に「もう一人のガイル」だった。
 DJテーブルのような髪型的にも。
74 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:50:06.85 ID:u4tH23zq0
ξ;゚听)9m「ああああああああああ―――――ッ!!」

ィ'トー-ィ、て
以;゚益゚以そ「な、なんだお!? いきなり余を指さして大声出して!
       ってか無礼だお! 無礼すぎるお!!」

ガイル「ええい無礼者め! 陛下! この者を銃殺刑に処しますか!?」

ξ;゚听)ξ「そそそ、その胸に下げてる水晶!」
ィ'トー-ィ、
以;゚益゚以「な、なんだお……これが何だってんだお?」

(;^ω^)「まさかツン……もしかしてあの水晶が……」

ξ;゚听)ξ「そうよ! なんでアンタが持ってるのよ!?」

ガイル「こここここッ! 言葉を慎みなさいッ! 無礼ですぞッ!」

スネーク「皇帝陛下の御前だぞ……上手くやりたいならバイクから降りろ」

 怒り狂う執務官を見て、すかさずスネークが2人に耳打ちした。

ξ;゚听)ξ「し、失礼しました……」

(;^ω^)「失礼しましたお」
78 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 19:54:53.73 ID:u4tH23zq0
 2人は慌ててバイクを降りる。
 その際、ツンが魔法を使って宙に舞うと、
 皇帝を含めセントラルの人々は声を上げて驚いた。
 スネークが言った通り、ここは魔法とは無縁の国のようだ。

 ブーンとツンは潔く跪いた。

ξ;゚听)ξ「その、皇帝陛下。私めにその水晶をお返しして頂けませんか?
      それが無いと私達、とても困るんです」
ィ'トー-ィ、
以;゚益゚以「ええー……これ余が庭で拾ったんだけど。超気に入ってるんだけど」

オタコン「陛下、彼等にも深い事情があるようです。
     彼等の経緯をお聞きになられては如何でしょう? 退屈しないと思いますが」

ガイル「陛下! 外界からの侵入者は銃殺するのが掟! 話を聞く必要など、」

ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「聞くお! 面白いなら余は聞きたいお!!」

ガイル「イトーイ様!?」

ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「ガイル、お前ちょっと椅子になれ」

ガイル「ははーッ! ただちにッ!」
86 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:01:15.81 ID:u4tH23zq0
  ※

  ィ'トー-ィ、
  以`゚益゚以「聖剣とアンノウン、召喚士……そして異世界からの来訪者、かお……」
_( つoと)_
\ U  U/
 (┓━ )TL

ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「にわかには信じ難い話だけど、そこの戦士は
      確かにセントラルの魔導戦士ではないんだお?」

オタコン「はっ。彼が身に付けている物を改めましたが、全て
     セントラルが開発した魔導兵器ではございません」

ξ;゚听)ξ「お願いです。水晶が無いと、今日中に奴の根城に行けないんです」

ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「……条件があるお」


( ^ω^)「条件?」
ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「お前等2人の身体を調べさせて欲しいお!」

ξ;゚听)ξ「身体ァ!?」(^ω^;)
ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「だお! 聞けばツンは召喚士という我が国にとっては希有な存在!
      そしてブーンは異世界の魔導戦士!
      セントラルにとって、この上無い研究資料と言えるお!」
93 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:09:00.92 ID:u4tH23zq0
ξ;゚听)ξ「でも、鍵は夕方にしか使えないので、」
ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「だから調べるのは夕方のちょい前までだお!
      時間になったら水晶は返してやるお! これでどうだお!? だおだお!?」

ξ;゚听)ξ「……痛くなんかしませんよね?」

オタコン「そ、そんな手荒な事しないよ! 魔法を使ってみたり、
      少し武器の構造を見せてくれるだけでいいんだ!」

ξ;゚听)ξ「そのくらいなら……じゃあ早速っ――」

オタコン「ああ、待って待って。それは研究所の方でやるからさ、
     それに準備もあるし、準備が終わるまで街でも見てきなよ。
     あ、でも銃の一つくらいは先に貸してもらおうかな」

 「構いませんお」と、ブーンはBlueBulletGunをオタコンに手渡す。

オタコン「ありがとう! っと……よろしいですよね? 陛下」
ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「別にいいんじゃね? アンノウン倒してくれるんだし」

ガイル「陛下! こ奴等はアンノウンの手先かもしれませぬぞ!
    人間を根絶やしにする為に送られてきた兵かもしれませぬ!」

ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「うるせえなテーブル頭が。減俸すんぞ」

ガイル「くつろぐがよい客人達よ」
102 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:14:31.86 ID:u4tH23zq0
ィ'トー-ィ、
以`゚益゚以「さて、話もまとまったし、謁見終わるお。お腹減ったお。
      おらガイル! さっさと我がマスイ宮殿に帰るんだお!!」

ガイル「はっ!!」

 ガイルはテーブルのような頭に皇帝を乗せたまま、王宮へと這いずった。
 なんとも低速な動きであるが、兵士達は「ジーク! イトーイ!」と叫びながら皇帝の後に続く。
 スネークの忠告の通り傲慢で癖のある王のようであるが、兵達の忠誠は厚いらしい。

オタコン「さて、と」

 その場に取り残されると、まずオタコンが始めた。

オタコン「じゃあスネーク、街の案内でもしてあげなよ」

スネーク「そうだな」

 バイクを取りに行くスネーク。
 彼が離れると、ツンはオタコンに尋ねた。

ξ゚听)ξ「スネークと仲がいいんですね」

オタコン「うん? ああ、そうだね……知り合ったのはつい最近だけど、馬が合うんだ」

( ^ω^)「へえ、最近なんですかお。てっきり旧知の仲かと」
106 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:19:33.41 ID:u4tH23zq0
オタコン「うん。彼と会ったのは迷いの森の中だった。
     彼は重傷を負っていてね。すぐにセントラルに運んで治療したんだけど、
     彼の身体は魔導機化を施さなければ助からないほど深刻だったんだ」

オタコン「それで彼は無事に意識を取り戻したんだが――」


スネーク「おいオタコン、勝手に余計な話をされては迷惑だ」

 いつの間にか出発の準備を終えたスネークが、オタコンの背後から割って入る。

オタコン「あ、ああ、すまない……じゃあ、後ほど連絡するよ」

 スネークが急に走り出したものだから、ブーンとツンは軽くお辞儀をして挨拶を済まし、
 すぐにバイクに乗ってスネークを追った。
 オタコンは、そんな慌しい3人に手を振って別れを告げた。


オタコン「……君の記憶が戻ろうとも戻らなくとも、
     君が良い奴である事には変わりないよな、スネーク」

__
108 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:23:42.42 ID:u4tH23zq0
  ※

 スネークの案内の仕方は素っ気無かったが、
 特にツンは街を眺める事を退屈だとは思わなかった。
 ブンゲイ南部で見た黄金の海の美しさは未だ鮮烈に記憶しているが、
 セントラルの人工的な光の魔術もそれと劣らず美しく見えた。

 バイクで一通り街を回り終えると、スネークは自分の行き付けのカフェに
 2人を案内した。ここは珍しく木造で、ここでは田舎臭いとされる
 ツンの格好の方が店に映えているとブーンは思う。ツンも落ち着きを戻したように見える。

ξ゚听)ξ「ピポザルの赤水晶の魔力って、色んな事が出来るんですね」

スネーク「まあな。ただ赤水晶だけでなく、ミスリルも重要な素材として重宝されている」

( ^ω^)「ミスリル? 迷いの森に来る前、僕達ミスリル山を見てきたお」

スネーク「あそこを通ってきただと!? 守護者に遭遇しなかったのか?」

( ^ω^)「ああ、あの金色のドラゴンなら倒しちまったお」

スネーク「……なんて奴だ。あの難敵を倒すとは……」

ξ;゚听)ξ「もしかして、あの竜を殺すのはいけない事でした?」

スネーク「逆に感謝するくらいだ、お陰で採掘が楽になるからな。
      しかしますます、お前が異世界の人間という事が現実味を帯びたなぁ」
111 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:27:56.43 ID:u4tH23zq0

( ^ω^)「なんだ、アンタまだ信じてなかったのかお?」

スネーク「そうじゃないが……お前だって、お嬢ちゃんが異世界から来たと
      聞かされた時、すぐには信じられなかったろう?」

( ^ω^)「そうかも。あの時は時間が停止してたから信憑性があったけど、
      そうじゃなかったら、ただのかわいそうな子、としか思わなかったはずだお」

ξ;゚听)ξ「おいっ」

ξ゚听)ξ「あ、ねえスネークさん。あの、ほら、あれさ、」

 「えーと……」、と上手く説明出来ず、ツンは「あれって何?」と人差し指で指す。
 彼女が示したかったのは街頭テレビだ。

スネーク「テレビジョンだな。内容は君も知ってるだろう?」

ξ゚听)ξ「そりゃもう! 有名な御伽話よね。子供の頃に散々聞かされたもん」

( ^ω^)「へえ、あれって、この世界の御伽話なのかお」

ξ゚听)ξ「うん。この世界の人なら知らない人はいないってくらい、有名なお話」

 一同は会話を一度切り上げ、テレビジョンに注目する。

112 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:32:09.26 ID:u4tH23zq0
 内容はこうだ。

 『かつて、この広大な世界は人と魔による二つの勢力に分かれ、凄惨な争いを繰り広げた。
 血を吸い紅く染まった木々と土。火で葬られた死者の悔念が暗闇の雲と成り、大いなる太陽を隠した。
 魔族の長である凍れる魔王の名を捩り、世は“氷河期”と題される暗黒の時代を迎えたのだった。

 しかし、神秘的な光が空を覆っていた暗闇を払い、大地は再び暖かみを取り戻した。
 “光の勇者シースルー=インビジブル”一向が、凍れる魔王ロマネスク=エル=ディアブロを倒し、
 戦局的優位に立った人々は魔族と和平協定を取り付けたのだ。
 それが今日まで続いている黄金の時代の幕開けである。

 さて、協定締結から1000年目となる今年は、
 魔導国家セントラルの建国が1000年目を迎える記念すべき年でもある。
 かつての勇者の仲間であるセントラル初代皇帝クックル・増井が
 魔法を使えない者の為に魔導機を発明したのがセントラルの始まりであり――」

ξ;゚听)ξ「え、ええ!? クックル・増井って、もしかして魔王との戦いで消息不明になった、
       あのマスター・E・クックルのこと!?」

スネーク「ああ。勇者シースルーの伝説は御伽話じゃないんだよ。
      歴史上の戦いが本当にあったんだ。名をクックル・増井と改めた初代皇帝が
      建国したこのセントラルは、歴史と彼等勇者達の存在を証明する史跡でもあるのさ」
114 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:35:25.18 ID:u4tH23zq0

ξ;゚听)ξ「……冒険者エスカルはこんな街を見たなんて一行も書いてない。
       彼がこの秘密都市を発見していれば、歴史は変わってたのかもねぇ」

 この世に生を受けて十余年、世界の真相を知ったツンは
 開いた口が塞がらず、ぼーっとテレビジョンを見つめている。
 反して異世界の歴史にピンと来ないブーンは、映し出された勇者の肖像画を
 見て「勇者って割にはスマートすぎる。どこぞのゲームかお」と胸中にごちる。

( ^ω^)「あ、ところで、オッサン」

スネーク「なんだ?」

( ^ω^)「さっき、オタコンさんが言っ――」


   『――――……界の戦士よ……――――』


 前触れ無く、セントラルに地鳴りのような薄気味悪い声が響く。
 発生源は街の天井の辺り。誰もがそこに目を向けると、
 どす黒く染まった空気が渦を巻いている。

(;^ω^)「うおっ!? 急にバカでかい音で何だお? 建国記念のイベントかお?」

スネーク「いや、祝祭は明日の予定だが」

ξ; )ξ「う、嘘でしょ……?」

( ^ω^)「ツン?」
116 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:39:35.98 ID:u4tH23zq0
ξ; )ξ「この声は……アイツの……」


     『……――我は、アンノウン――……』


(;^ω^)「あ、アンノウン!?」

 瞬間、轟音と共に渦の中心に大穴が開く。

(;^ω^)(いきなり本命のお出ましかお……こんなの聞いてねーお、ツン。
      しかしこんな大規模な空間湾曲を起こすなんて……魔力ってやつかお?)

 大穴の向こうでは暗闇の空に漆黒の雷が鳴り響いており、誰もが不吉を予感した。
 寒気がするのは気のせいではなく、大穴から流れる瘴気が体温を奪っているのだ。

    『異界の戦士よ……漆黒の戦士よ……』

(;^ω^)「なっ……僕の、ことかお……?」

 渦から出現したのは、巨大な人間の左手だった。
 左手は街の中心である王宮の辺りに降りると、蒼白な肌の下で血を
 ぶくぶくと沸かせ、五指をそれぞれあらぬ方向へ曲げながら痙攣した。

 焼き石のように赤く肌が染まってゆき、それに同期するようにして
 手そのものが見る見る膨れ上がってゆく。

 異常な光景。そして、『アンノウン』と、確かに声はそう名乗りを上げた。
 「世を混沌に陥れようとする恐怖の存在が、遂にこの閉鎖都市に…!?」
 恐慌に陥った市民は他人を押し倒し、殴り、ひたすら我が身を案じて街を奔走した。
119 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:43:36.01 ID:u4tH23zq0

スネーク「若いの! お嬢ちゃん! 臨戦態勢を取れ!」

 スネークの怒鳴り声で奪われていた冷静さを取り戻すブーンとツン。
 ブーンとスネークはバイクに跨り、ツンは杖を構えた。
 気づけば街は騒然としていた。
 市民は逃げ惑い、セントラルの全戦闘員が「左手」に銃口を向けている。

ξ;゚听)ξ「あれ、やけに馬鹿でかくなってるけどアンノウンの手に違いないわ。
       何をする気なの……?」

スネーク「何にしろ、無事ではすまんだろうな」

(;^ω^)「撃たないのかお!?」

スネーク「ダメだ。対象が王宮の上空にある為、発砲許可が下りん」

 スネークが言う通り、司令官は王の身を案じて攻撃命令を出せずにいたのだ。
 たった今、戦闘員が王の救出作戦を展開し、王宮に突入したとの情報が入ったが。
124 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:47:13.00 ID:u4tH23zq0
 それに、こうして様子を窺っている今も、アンノウンの左手は異常さを増している。
 もはや針で突けば破裂してしまいそうなくらい、膨れ上がっているではないか。
 これでは発砲出来る状況であろうと、迂闊に撃ってはかえって危険を被るだろう。

 しかし、先に動きがあったのはアンノウンの方であった。
 膨張の限界に達した左手は爆散し、五指を街の各所に突き刺したのだ。
 その一つは王宮。千切れ飛んだ指が、不気味に王宮の天井にのめり込んでいる。

 「陛下!」 「マスイ宮殿が!」、誰もがそう叫んだ。
 そして遂に我慢の限界を迎えたのか、指への攻撃命令が司令部から発せられた。
 アンノウンの指に目掛け、街中から光線が発射される。

ξ;゚听)ξ「なんでアイツ、ブーンの存在に気づいてたのよ!?
       まさか、監視されてたって言うの!?」

(;^ω^)「知るか! 撃つおツン!」

 そんなスネークとセントラルの動向を見て、ブーンとツンも攻撃する。
127 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:52:48.46 ID:u4tH23zq0
 が、攻撃は命中せず。
 数多の銃光線は透明になった対象を通過し、内壁を抉るに終わる。

ξ;゚听)ξ「なにあれ!?」

 直撃の寸前で五指は、その姿を赤い霧に変えたのだ。
 赤い霧が、各所で立ち上っている。
 霧に攻撃のしようも無く人々は戸惑い、攻撃は誰の命令を伴わずに止んだ。


     『聖剣より選ばれし異界の戦士よ……その力、もっと見せてみろ――――』


 渦から強烈な黒い閃光が迸り、街全体が包み込まれた。
 その光が赤い霧に化学反応を起こしたのか、
 霧はあたかも自我を持ったかのように人々を襲い始めたのだ。

(;^ω^)「ツン! オッサンもかわせ!」

 咄嗟にバイクを動かし、ツンを拾い上げるブーン。
 スネークと共にバイクを荒々しく操縦して霧から逃れた。
129 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 20:56:41.08 ID:u4tH23zq0
 霧は窓を割り、脆い壁ならば幾万の穴を開けて屋内に侵入し。
 人々の衣服をすり抜け、または破り、肌にべっとりと付着した。
 霧は目すら覆い、髪の一本一本まで赤く塗りたくった。

 霧が街中を蹂躙し終えると、渦からアンノウンの低い声が漏れた。


     『さあ思い浮かべるがいい……異界の戦士よ……。
     貴様が真に恐怖する存在を、現象を、最大の敵を……』


 それが最後の言葉か、渦が閉じた。
 渦が発する禍々しい気配は消えた。
 だが、ツンだけはセントラル中に充満する高い魔力を感じていた。
 そして「恐らく強力な魔法が発生する」と察知していた。

(;^ω^)「真に恐怖する存在……現象……?」

ξ;゚听)ξ「バカ! 耳を貸しちゃダメ! 」

 前触れ無く、半壊したカフェのドアが吹き飛ぶ。
 霧に塗れて呼吸に苦しむ客達が、店外へと雪崩れた。
136 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 21:14:50.38 ID:fhhuxF8Q0
 アンノウンに言われるまま、ブーンは何かを思い浮かべたりするつもりは無かった。
 だがしかし、アンノウンの言葉はブーンの意識の底に根付いてしまっていた。
 ブーンが霧に塗れた人々を見た時、彼の脳裏に「自分が最も恐怖する存在」が走ってしまった。


 街中に蔓延した赤い微粒子が一瞬、輝いた。


( ;゚ω゚)「そ、そんな……こ、この反応は――」


 人々は触媒、赤い霧は媒介。
 そしてアンノウンの言霊が最後の材料たるブーンの心を操作し、
 その魔法は完成となるのである。



 黒水晶が映す映像を見て、アンノウンは仮面の下で薄笑いを浮かべた。


爪 ゚W〉《生命と精神は表裏一体のエネルギーだ。
     聖剣の糧と成り得る精神を――異界の戦士よ、貴様が
     主人公格ならば我にそれを見せてみろ》


爪 ゚W〉《ミスリルの守護者を躊躇無く殺したように、人々を化物として殺すのか、
     其処から逃げ出すのか、あるいは殺されるのか……さて……》
145 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 21:52:05.21 ID:KBtnrkLp0

《ウう、うぐア、ア゙ア゙アアアアアアあああああああああ》

 叫喚。カフェの店員と客だけではない。
 セントラル中で、喉を切らんばかりの悲痛な叫び声が一斉に上がった。
 恐怖、苦痛、快楽が交錯した感覚が全身を駆け巡り、
 「自己」という感覚が排除された頃、人々は人の姿をしていなかった。

ξ;゚听)ξ「こ、こんな魔法が存在するなんて……」

 知恵、記憶、理性、一部の感情を失った彼等に残ったのは、本能である。
 本能――食欲や性欲と、それらを満たす為の暴力の事だ。
 知恵という名の武器を失くした彼等は、知恵を持っていたからこそ
 手に入れられなかった能力と機能を発現させるのだ――無尽蔵の欲求を満たす為に。

スネーク「これは……」

 即ち発現するは、翼や牙といった防衛や捕食の為の機能。
 ブーンが思い浮かべた「それ」は、人間をモンスターに変異させる、
 凶悪獰猛なウィルス――――セカンドウィルスであった。

( ;゚ω゚)「そんなバカな……」

 6年前、街で見た光景。6年の間、見続けた悪夢が現実で模されている。
 ブーンは戦慄し、視界に出現したレーダーマップ上で点滅する数多の輝点を認識出来ていなかった。
148 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 21:58:35.64 ID:KBtnrkLp0

 幻覚に違いない、有り得ない、夢か何かだと思いたい……。
 3人がそう願っている内、変異を遂げた人々が――セカンドが互いを喰らい始める。
 発達した爪を無造作に突き刺して血と油と肉を地面に噴出させ、
 血溜りと肉塊に彼等は群がり、夢中で啜った。
 あるいは硬い筋繊維を牙でぶちぶちと千切り、剥き出しの腹の中に手を突っ込んで
 柔らかな内臓を手に入れると、口の中に放り込んで、なんとも満足そうな表情で咀嚼した。

 単なる食事ではない。生物を喰らう事で養分とDNAを摂取しているのだ。
 養分を利用し、参照した情報から更なる機能を発現……。
 更に得るのは機能だけではない。喰えば喰うほど、失った知恵を取り戻してゆく。

  ツン・ディレイクが提唱する、セカンドウィルスの特性である。

 強者が弱者を無慈悲に喰らう。
 弱者もまた死を恐れず、果敢に喰らいにかかる。
 その暴虐な共食いを前に、二人の戦士は攻撃するべきか迷い、少女は吐き気を催す。

ξ; )ξ「うっ!」

 光景と臭いに耐え切れず、ツンが胃の中身を吐き出した。
 友が吐瀉物を地面に散らす耳障りな音を聞いて、ようやくブーンが我に帰る。
 ――これは紛れもなく現実の光景であると。
150 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:02:16.44 ID:KBtnrkLp0

( ;゚ω゚)「ツ、ツン! 大丈夫かお!?」

ξ; )ξ「え、ええ……それより、攻撃しないと!」

 ツンは口を袖で拭うと、杖を握り直しながら顔を上げた。
 恐怖で手足を震わせているが、双眸だけはいつに無く鋭く輝いていた。

( ;゚ω゚)「ま、待てお! 彼等は、」

 今にも攻撃しそうなツンの前にブーンが立ち、ツンの杖を遮った。
 が、同時にブーンも言葉を遮られる。

スネーク「罪無き人間、とでも言いたいのだろうが、そうもいかん」

 スネークはブーンの肩を乱暴に掴み、ぐいとツンの前からどかした。

( ;゚ω゚)「お、オッサン!?」

スネーク「お前が最も恐れる物……アンノウンは、
     お前の世界の病原体を魔法で模したようだな」

スネーク「アンノウンを倒せば人々は元に戻るかもしれない。
     しかし、そんな悠長な事をしている間に病原体が蔓延してしまう」

ξ;゚听)ξ「同感ね。攻撃したほうが良さそうだわ。
      なんだか連中、物凄く強そうになってるし」

 ブーンとスネークも視線をセカンドの群れに戻す。
153 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:06:00.72 ID:KBtnrkLp0
 カフェテリアで発生した多量の感染者も、気づけば一人となっていた。
 この場の弱肉強食は、全長を4メートルまで一気に成長した異形の巨人が制したのだ。
 目玉ばかりを顔中に並べた頭部を三つ、四対の長い手足、裂けた腹からは
 腸を元に作り上げた触手が無数に伸びている。

 数多の目玉から血を流しながらセカンドが天に吼え、
 3人を捕えんと、その触手を操る。

ξ#゚听)ξ「Thunder(ツンデレ)!!」

 ツンは咄嗟に杖を振り、先端から稲妻を放出させて迎撃する。
 稲妻は触手を焼き、超高圧の電流は触手を伝って本体にまでその威力を及ばせた。
 黒く焼け焦げた触手はドスンと重く鳴らして地面に落ち、セカンドもまた
 全身から煙を上げて沈黙した。

( ;゚ω゚)「な、なんてことを……彼等は人間なんだお!?」

ξ;゚听)ξ「どこがよ!? 姿形も違えば心だって無いじゃない!
      スネークさんの言う通り、あんなの放っておけないわよ!」

( ;゚ω゚)「だから! 今すぐアンノウンを倒しに行くんだお!
     奴が魔法で模した現象なら、奴を倒せば元に戻るんだお!?」

ξ;゚听)ξ「その可能性は高いけど、夕方にならないと鍵は使えないのよ!?」

( ; ω )「そうだったお……クソッ!」
155 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:11:36.29 ID:KBtnrkLp0
 その時ブーンの頭は怒りや恐怖などが交錯し、冷静とは程遠い状態にあった。
 彼が通常の戦闘時と同じテンションを持ち合わせていれば、
 いくら街中で熱源反応を感知していようとも、目前の敵の生死は確認出来ていたはずだ。

ξ;゚听)ξ「きゃっ!?」

 銃を、杖を持つ手を下げて、戦闘態勢を解いた瞬間だった。
 突然動き出した触手の2本が、ツンの両足と、杖を持つ右手を巻き締めたのだ。

スネーク「お嬢ちゃん!」

( ;゚ω゚)「はッ――」

 セカンドは生きていた。
 冷静なブーンなら聞き分けられる、その微かな心音を鳴らして。
 更に、ウィルスはツンの魔法攻撃では死滅に至らず、
 損傷した肉体を着々と再生させていたのだ。

 触手で捕えられたツンがセカンドの腹の方へ引きずり込まれようとしている。
 腰から柄を引いて赤い刃を放出させ、スネークが飛び出した。
157 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:17:11.04 ID:KBtnrkLp0
 同時、黒こげだったはずの触手全てが血の気を取り戻し、スネークに襲い掛かる。
 スネークは触手を切り伏せ、薙ぎ、掻い潜り、ツンの元へ走る。
 その体捌きとナイフ術が常人を凌駕しているのはブーンから見て明白であるが、
 しかしスネークの速度をセカンドが圧倒的に凌駕しているのも、明々白々である。

スネーク「は、早すぎる!」

 遂にスネークも捕らわれる。
 手を絡み取られた瞬間、スネークの全身を、黄色の液が滴る触手が覆った。

スネーク「しまッ――」

 ツンも同様、毛の一筋はみ出す事を許されない程、徹底して全身を覆われている。
 触手は捕食と同時に消化管の役割も務めているのだ。
 表面で消化液を分泌し、ゲル化した獲物を吸収して栄養分を摂取する。
 これがこのセカンドが選択した食事方法であった。

 が、おぞましい食事は未然に終わる。
 蒼い光が触手を裂き、ツンとスネークを解放したのだ。
 断面から侵入した抗体は触手の機能を瞬時に停止し、消化液が分泌されるのも防いでいる。

( ;゚ω゚)「ちくしょう!!」

 左手に銃、右手に剣を持ったブーンは発砲と同時に跳躍していた。
 着弾の直後、セカンドの心臓部に刃を突き刺し、
 そのまま触手の根元に向って切り込んだ。
161 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:20:44.65 ID:KBtnrkLp0
 刃が根元まで到達すると、そこに刃を刺したまま、柄を離した。
 蒼き光のメインとなる要素――抗体を流す為に。
 感染者が抗体を流された時の痛みは、まさに激痛。
 頭部を破壊していなければ、聞きがたい絶叫を発せられただろう。

( ;゚ω゚)(……僕はこの世界でも人間を殺さなきゃいけないのか……)

 左手のBlueMachingunをセカンドに向ける。
 が、ブーンは引き金を引く事に躊躇った。
 彼等は人間、アンノウンの魔法によって一時的にセカンドにされてしまった
 だけで、セカンドと呼ぶべき存在ではない。

( ; ω )(ああそうだお! アンノウンを倒したとしても、死んだ人は生き返らないんだお!)

 一瞬、スネークや、死んでいった……否、
 ――――殺してしまったボストンの人々の顔が、ブーンの脳裏に浮かんだ。

( ;゚ω゚)「う、うああああああああああああああああっ!!」

 ブーンは遂に引き金を引いた。脳髄と目玉の破片がミンチとなり混じりあって弾け飛ぶ。
 目の前の罪無き命が己の銃で消える瞬間を見届けようと、
 叫び声を上げて自分を奮い立たせ、決して瞼を閉じさせなかった。
165 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:24:37.54 ID:KBtnrkLp0
 ツンとスネークが身体を起こす。

ξ;゚听)ξ「き、気持ち悪かった……」

 「おぞましい」を、全身を駆使して表現するツン。
 一方、スネークは顔に焦りを浮かべて、ブーンの胸倉を掴んだ。

スネーク「アンノウンが現象を模したというのなら、感染も再現するはず!
     奴と接触した俺とお嬢ちゃんもバケモンになるんじゃないのか!?」

ξ;゚听)ξ「えッ!?」

( ;゚ω゚)「う、ウィルスに感染している反応は無いお!」

スネーク「本当だな!?」

( ;゚ω゚)「か、身体の隅から隅までチェックしたお! 間違いない!
     お、オッサンは感染性がある事聞いてんだから、今みたいに不用意に突っ込むなお!」

 数秒、ブーンを睨み続けた後、スネークが手を離した。
 胸ポケットからくしゃくしゃの煙草ケースを取り出し、
 見事に折れ曲がった煙草を一本咥えた。

スネーク「ふー……すまん、感染性については失念していた……しかし若いの。
     先程のように撃つのを躊躇っていては、出なくてもいい死人と
     感染者を更に出してしまうぞ。お前に、彼等を撃てるのか?」
167 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:27:58.70 ID:KBtnrkLp0

(; ω )「僕に彼等を殺す権利なんか無い。
     ……だけど、僕がここに来た事で蔓延してしまったウィルスなら、
     僕が始末しなければならないはずだお……撃つお、オッサン」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと待ってよ! アタシ達が来たからって……?」

(; ω )「言葉の通りだお! 僕達がここに来なければ、
     アンノウンが人々を化物にする事なんて無かったはずだお!」

ξ; )ξ「……そっか。そうようね、そうなるわ」

ξ; )ξ「元はと言えば、アタシが鍵を落としたりしなければ……。
       ちゃんと魔法に成功していれば、こんな事に……」

(;^ω^)「あ、いや、ツン。別に僕は君を責めてるわけじゃ……」

スネーク「……遅かれ早かれ、世界は滅亡するんだ。
     セントラルが強力な魔導機を開発できようとも、肝心の人材を
     こうも一瞬で無力化してしまうんだからな……」

(#^ω^)「馬鹿言うなお。滅亡なんて阻止する! この街だって救う!」

スネーク「うむ。肝心のヒーローが、そのくらい言ってくれなければな」

ξ;゚听)ξ「ブーン、スネークさん……」
170 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:32:07.34 ID:KBtnrkLp0


( ^ω^)「そうだ、これを」

 腰のバックパックをパチンと弾き、取り出したのは細長の蒼い筒。
 その輝きが内容物の液体が放つ物と気づくや、スネークは目を丸くして尋ねた。

スネーク「それは……」

( ^ω^)「病原体を防ぐ抗体だお。これを体内に注入して欲しい。
      首筋の辺りに強く押し付ければ注入されるから……」

ξ;゚听)ξ「これで化物にならないのね?」

 ブーンがこくりと頷くのを確認した後、ツンは指示の通りに注射器をあてがった。
 圧力は感じたが、痛みは無い。液体が体内に入っていった感覚を覚えなかったので、
 ツンは空になった容器を見ても今ひとつ「これで感染が防げる」と実感は沸かなかった。

スネーク「……」

 一方、スネークは注入しようとせず蒼い揺らめきをじっと見つめていた。

( ^ω^)「オッサン、さっさと抗体を入れておけお」

スネーク「あ、ああ」

 促され、慌ててスネークは首に注射器を押し付けた。
 ぐっと押される圧力を感じた瞬間――彼の脳裏に映像が走った。
173 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:37:01.97 ID:KBtnrkLp0


 ――――か弱い光の下、5人でテーブルを囲う映像


    ( ><)「スネーク! 今日もゲームするんですー!」

                黒髪の少年に袖を引っ張られる感覚――

 (*゚ー゚)「はいっ! コーヒー! 今日も頑張ってね!」

       美しい女性がそっと差し出す、コーヒーの苦い香り――

     (,,゚Д゚)「スネーク、行くぞ」

         肉体を包む機器以上に、声に纏う冷たさ――

            ( ´_ゝ`)「さーて俺は下に行ってくる。誰も入ってくるなよなー」

      おどけた声と顔。その裏側から感じる違和、不信感――


 映像は倍速再生するように素早く流れ、再び速度に戻ると、そこは日の下であった。
176 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:40:19.82 ID:KBtnrkLp0


 ――――そこは大都市。だが、灰色の塔に住人は存在しない。


「ビロード、後でブーンに渡してやってくれ」

  その声は特に酷く聞き覚えのある声……いや――

          (俺の声だ。それに、そのバンダナは……)

      (; ω゚)『オッサン、こんな時に何言ってんだお!
            何やってんだお! このままじゃ殺されるお!』

    自分が抱きかかえているのは、片目を失ったブーン――

                (ブーン、だと……?)

「俺が生きている限り、バイクは走り続ける。
 なに、安心しろ。ちゃんとニューヨークまで連れて行ってやるさ」

『ところで俺はオッサンでもソリッド・スネークでもない。
 俺の名前はデイビッド。お前の名前を教えてくれ、相棒よ』


     (  ω゚)『……ホライゾン・ナイトウ』


『ホライゾン……いい名前だ。
 その名にちなんで、地平線に向かって走らせてやるさ!』
180 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:45:01.16 ID:KBtnrkLp0

        (;><)「スネーク! 何でスネークも乗らないんですか!?」

スネーク『一時パートナーは休止だ、若いの』

  (; ω゚)『オッサン! バイクを戻せ! ふざけんなお!』


スネーク『ビロードを、頼むぞ』




      ビロード……酷く見覚えのある少年だが……――




      (;//‰゚) 『うおおおおおおおおおおおおおお!!』


スネーク『時間切れ。そして焼却処分のお時間だ』



    腹部から瞬間的に広がる爆炎に視界が遮られると、
    スネークの映像はブラックアウトして終了した―――――。
182 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:48:14.88 ID:KBtnrkLp0

「――ッサン! オッサン!!」


スネーク「ッ……」

(;^ω^)「何ぼーっとしてんだお!?」

スネーク「……若いの」

 意識が戻り、最初に目にしたのはブーンであった。
 不可解な映像で見たブーンと、瓜二つのブーン……。
 衣服、装備、髪の色、声まで、このブーンと映像のブーンは一致していた。

 何より強烈な既視感を覚えるのは、ブーンの左腕に巻かれた黒いバンダナだ。

スネーク「若いの……お前はこの世界の住人ではないんだよな……?」

(;^ω^)「ハア? 僕は別の世界からやって来たブーンだお?」

 考えられるのは、セントラル以外に「魔導」か同等の技術を有する“他国”が
 この世界に存在する事……で、あるが、“このブーン”とツンが知り合ったのは昨日だという。
 更に、魔術師であるツンが「魔導」やそれに準ずる技術を知ったのは今日。
 故に、ブーン(ホライゾン=ナイトウ)がこの世界の住人だという可能性は潰える。

スネーク(じゃあ今、俺が見た映像は何だというのだ!?)

 他に心当たりは無い。が、この事を逆に考えれば――
 映像が自分が失っていた“記憶”の断片だとすればだ……しかし、
186 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:51:24.40 ID:KBtnrkLp0

( ;゚ω゚)「オッサン! ツン! 何か……デカいのが現れるお!!」

 ブーンの大声がスネークの思考を中断させた。
 同時、ブーンの視界のずっと先――王宮の方角から、轟音が響いた。

《オ゙オ゙オ゙オ゙オオオオオオオオオオオオオオオ!!!》

 それは王宮の外壁が崩れる音でもあり、生物の雄叫びでもあった。
 王宮の天井を破って出てきたのは、ガイル執務官を想起させる平たい白色の頭。
 次に、黄色くまばゆい光を放つ切れ長の双眸。
 鼻と唇を切り落とした痛々しい口元。
 セントラルのどの建物よりも強靭だと思わせる巨腕と巨脚。

 降りかかる瓦礫を、四つの黒い尾が血液と共に吹き飛ばす。
_____
\|||||||||||||/
 以`゚益゚以《イ゙ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオイイ!!!》

スネーク「ガイル執務官? ……いや、あれは王か……!?」

 黒く生々しい血に汚れ、正気とは程遠い顔だが、確かに王その人である事が分かる。

 赤い霧に隅々まで蹂躙された王宮は、化物を産み出す子宮と変貌したと言えよう。
 霧に塗れ新たなる生物と化した兵士と臣下の者達。
 彼等もまた異常に高まる食欲と暴欲を満たさんと産まれたかったのだが、
 皆“王”に喰われ、忠誠心無くとも王の力添えをする事となってしまったのだ。

 そうして成長した“王”は急速的に世界に出る準備を終え、
 彼の胎動と成長、出産という役割を果たした子宮を内側から破り、産声を上げのだ。
191 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 22:57:25.41 ID:KBtnrkLp0
 人々は恐怖のどん底に叩き落された気分であった。
 何せ、目線を何処に向けようと化物か“食い残し”が目に映る上、
 “王”までもが奴等と同じ自制の無い野獣に――それもとびきり大きな――なってしまったのだから。

 専制君主制で統治されていたセントラルは、しかし代々の増井皇帝は暴君ではなかったのだ。
 人々が不満を漏らす事もなく、それどころか何時の時代も皇帝を慕っていた。
 アンノウンが地上に恐怖をばら撒こうとも、この地下世界だけは平和を保てていた。
 だが、統治者たる王は最大の異形と化し、「増井王朝」は瓦解してしまった。
 いや、もはや統治がどうと言っている状況ではないのだ。

 ――セントラルは今日、滅亡する……。
 今、市民が膝をつき頭を垂れるのは忠誠の前ではない。圧倒的で原始的な力の前だ。
 この都市に立ち並ぶどの建造物よりも高く聳える肉体は、神々しくも見える。
 今、人々を支配するのは聡明な王による恒久的平和ではない。
 異形の王が放つ、生物の本能に直接まとわりつく真の恐怖である。

( ^ω^)「オッサン、ツン。これ使ってくれお」

 2人が異形の王に目を奪われている間、そして市民が絶望している中。
 唯一人ブーンは冷静で、BLACK DOGに搭乗してエンジンを起動させていた。
 ブーンが2人に渡したのは銃であった。ツンには拳銃を、スネークには大型の銃を。

( ^ω^)「あれは僕じゃないと倒せそうにない。
      2人は市民を安全な場所に避難させてくれお」

ξ;゚听)ξ「あ、あんなバカデカイのを一人で!? いくらなんでも無茶よ!」

(#^ω^)「まだ無事な市民がいる! あれは僕が何とかしてみせるお!」
193 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 23:01:29.03 ID:KBtnrkLp0
 ブーンは左腕の黒いバンダナを解いて、それを額にきつく縛った。
 スネークから“少年”と共に託された古びたバンダナ……。
 スネークが何を思ってこのバンダナを託したのかは、ブーンにはもはや知る由も無い。

 だが、ブーンはバンダナに誓ったのだ。
 ウィルスは命を賭しても殲滅する。決して躊躇せず、迷わず、と。

スネーク(あのバンダナ……)

 そこでスネークは、ブーンのバンダナが映像の物であると気づき、ブーンを引きとめようとするが、

スネーク「ま、待て! 若いの! 俺は――」

(#^ω^)「オッサン! ツンを頼んだお!!」

 しかしBLACK DOGはスネークの声を掻き消して、ブーンを王宮へと走らせた。
 スネークはブーンを制そうと伸ばしていた手を降ろし、舌を打った。

スネーク(俺は、俺は何者なんだ……!?)

 “目覚めてから数週間”、スネークが自問自答しなかった日は無い。
 軍部を含むセントラルの何所にも自分を証明するデータは無く、
 オタコンに言われるまま“兵士としての暮らしに戻ろうとしてきた”。
 自分はセントラルの兵士だった――それが真実だと信じていたのだ。

 それが突然、頭にかかっていた靄が晴れようとしている。
 スネークは戸惑っていた……そして歯痒かった。

    見えそうで見えず、届きそうで届かない答えが――。
196 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 23:05:03.89 ID:KBtnrkLp0


ξ;゚听)ξ「スネーク! 状況が知りたいわ! 軍はまだ機能しているの!?」

 ツンに急かされると、スネークは我に返った。
 インカムが生きている事を確認し、状況を瞬時に整理する。

スネーク「いや、しばらく応答が無い。恐らく司令部は壊滅している。
      指揮官もいないか……各自取るべき行動を取れ、といったところだろう」


『スネーク、聞こえるかい!?』

 間髪いれず、それまで無反応だったインカムが点滅する。


スネーク「オタコン! 無事か!?」

オタコン『なんとかね……幸い僕が居た研究施設の方は被害が少なかったんだ。
     ……それよりスネーク、すぐに格納庫まで来てくれないか!?』
198 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/25(木) 23:08:29.83 ID:KBtnrkLp0

スネーク「格納庫……まさか、アレを街の中で!?」

オタコン『……軍部からの最後の指令だ。軍はセントラルを放棄する
     つもりだったらしい……あの霧には感染性があるようだからね……。
     心配はいらない。生き残っている兵が市民を避難させている』

スネーク「何故俺を選んだ、オタコン」

オタコン『君の戦闘のセンスを買っている、じゃ不満かい?』

スネーク「オタコン……俺は今、俺自身を何より信じる事が出来ない。
     俺は本当にセントラルの兵士だったのか?」


オタコン『スネーク……わかった。格納庫で、僕の知る限りの事を話さそう』


 やはり俺には何か秘密があるのだろうか。スネークは胸中で独りごちる。
 お互い、無言で通信を切った。
 スネークはそのままバイクを急発進させた。

 自分が何者なのか知りたい、その一心で――――。


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