14 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:12:11.02 ID:mi7wLlb/0
 車の騒音の一つも鳴らず、この途方も無く巨大な街は寂寞としている。
 風はまるで亡霊の声のように、人の体温を忘れきった街を吹き抜ける。
 至る箇所に埋め込まれたオートメーションもそうだ。人による定期メンテナンスを受けられず、
 半永久的機構というアイデンティティを時の経過で失い、静かに息を引き取った。
 かつて眠らぬ街と呼ばれた街はゴーストタウンとなって眠りにつき、全機能を停止しているのだ。

 ニューヨーク、マンハッタン。
 かつて、合衆国の中枢を担っていた大都市という肩書きを持っていた街。
 煌びやかな光と音を浴び、迷路のような構造の中を歩く無数の人間達……
 大都市を構成し象徴する数多の存在は、2054年を境に全て消え去っていた。

 不発のミサイルでも突っ込んできたかのような、大穴。
 ジェット機の翼が切り込んできたかのような、斜の切り口。
 そういった傷をこさえたビルの数々は癒される事無く、朽ちるのをただじっと孤独に待つ。

 まるで市街戦でも起こったかのようなこの荒廃だが、最強の軍国アメリカが
 2050年以降も中枢として使い続けた街に対し、敵国の攻撃を許すはずは無い。

 そう、この破壊は人為的な物ではないのだ。
18 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:14:52.69 ID:mi7wLlb/0
 だが実際に2030年頃に戦争はあった。
 無視できぬ人口問題を解決する為、国々はこぞって領土を巡り、世界規模で争ったのだ。

 戦争は、特に先進国で高度な科学技術を生み出した。
 合衆国とその連合各国は地球上の資源と領土を欲しいままにし、
 人の欲望を広大な領土に反映していった。
 当然、空気は汚れ、土地は枯れ、すると人々はますます機械に依存するようになった。

 機械の利便性を感じたのは最初の一時、次第に募る息苦しさに人々は疲弊し、
 世界の中で唯一広大に存在する空を仰いだのである。
 太陽の背後に存在する、もっと遠くの世界を空想して……。

 2035年。数え5年に渡り数々の犠牲を生み出した戦争は、
 「テラフォーミング」という火星移住計画を実行レベルに移せる宇宙開発技術を生み出した。
 2052年、「テラフォーミング」を終えた人々は、意外にも早く宇宙空間における長航行を
 可能にする技術「ワープ」を生み出し、ようやく人類は戦争の規模を縮小させて
 宇宙開発を本格的にスタートさせるのだった。

 流血以外の手段で人口と環境の問題を解決すべく、
 地球から火星へ、そして太陽系外へと、人類は希望を胸に旅立った。


 2054年、人類は遂に、後に“セカンドアース”と名づけられる水と酸素の惑星に辿り着く。
23 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:19:19.38 ID:mi7wLlb/0


 『テラフォーミングを施した火星だけでは、加速度的に増え続ける人間を抱えきれないだろう』
 『しかし、セカンドアースの発見で、人類は千年先も生きていけるだろう』

 そのように判断していた人類は、セカンドアースの発見を大いに喜んだ。


 それが悪夢の始まりになるとは知らず。


 当時、至高の科学力を実現し、有頂天の更に絶頂に居た人間達には、
 人類の滅亡など想像だにしなかった未来なのであった。

 荒廃した街、人間の絶滅。
 この大規模な破壊の原因は、戦争のような人為的なものではなかった。


 ウィルスである。


 後に、生き残った僅かな人類が「セカンドウィルス」と名づけた太陽系外のウィルスは、
 あらゆる生命体から理性と感情を奪い、肉体を変異させる強力なウィルスであったのだ。

 「セカンドウィルス」とは、星を食い潰さんとする生き方しか
 出来なくなった人間への天罰なのかもしれない。
 しかし、それでも生き残った人々は今も尚抗い続けているのである。


 異形の惑星へ生まれ変わろうとしているのが、仮に運命だとしても―――。
27 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:22:41.26 ID:mi7wLlb/0
 ――2059年。

 相変わらず光の一つも発さないニューヨーク・マンハッタンの都市の上では、
 荒廃とは似つかわしくない濃厚なブルーの空が広がっていた。
 肌を突き刺すような冷たい風が舞う、冬の寒空である。
 太陽を遮る雲は無い。轟音を上げて飛行する飛行機のような乗り物も……。
 B00N-D1は澄んだ空気を吸う度、ここが大都市という名を欲しい侭にしていた頃の
 記憶が薄れていくような気がしてならなかった。

 シリアルナンバーB00N-D1、本名をホライゾン・ナイトウという青年の網膜には、鋭い光が射し込んでいる。
 だが彼は眩しさに顔を顰めることも無く、目を細めようともしない。
 更に彼は巨大バイクを猛スピードで走らせて強い風を顔面に受けているのだが、
 それも平然と受け流せているのは彼の身体の8割以上が機械仕掛けだからである。

 システム・ディレイク。サイボーグ技師、フィレンクト・ディレイクが
 2050年に提唱した最高水準の戦闘用サイボーグシステムをホライゾン・ナイトウは持つ。
 彼はセカンドウィルスに対する強力な免疫を持つ稀少な人間でもある。
 単独で街へ行ける唯一人の人間である彼は、あらゆる任務を遂行し続けてもう6年目を迎える。


  二月の澄んだ冬の日。今日も彼は“奴等”を狩りに、街を走る。


『ブーン、念のためミッション内容を確認しておこう』

( ^ω^)「お、頼むお、ドクオ」

 通信相手はドクオ・アーランドソン。メカニックの一人だ。
 ブーンというのは、B00N-D1という英数字の並びから幼馴染でありメカニックの
 ツン・ディレイクが付けた愛称である。
30 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:28:40.49 ID:mi7wLlb/0
『今回の作戦はニュージャージー湾岸の工場地帯の安全確保と、
 同地より3キロ離れた地点に位置するニュージャージー宇宙センター、その内部の安全確保だ』

 ブーンは一つの画像を視界に呼び出す。衛星アルドボールで事前にリサーチし、
 作製した作戦域の詳細なマップを見、ブーンは難しい表情を浮かべた。

( ^ω^)「ドクオ、奴等はどうかお?」

 張り詰めた声でドクオに返す。
 ここ、マンハッタンにおいては完全に近い掃討を行った為に“奴等”の反応を察知する事は無い。
 対してニュージャージーは、生存者達にとって未開の地なのである。
 ニュージャージーでどのような生態系が築かれ、どのように発展しているのか……。
 単独で制圧行動を行うブーンにとって、これは死活問題になる。

『衛星アルドボールで撮影しているが、まだ本作戦域に奴等の姿は見当たらない。
 その手前、ニューヨークとの境ではまずまずの数を確認している。
 楽しい歓迎パーティを開催してくれそうだぜ……』

( ^ω^)「そいつは楽しみだお」

 冗談を交えているものの、ドクオの声色は緊張を滲ませている。

『で、だ……目的のナノマシンは後日改めて探索する。
 センターの電源やらの整備もしなくちゃなんねーし、あくまで今日は安全確保って事で』

( ^ω^)「了解……それにしてもドクオ、本当にナノマシンなんかあるのかお?」

『ナノマシンもしくは、それに関する資材や研究は残ってんだろうよ。
 なんせ、長距離航行を可能にしたのはナノマシンなんだ。
 それに、アルドボールで見る限り、地上階の破壊状況は軽いし』
33 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:33:58.62 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「ナノマシン、かお……。ナノマシンも、
      セカンドウィルスが地球にやって来た原因の一つと言えるお」

 宇宙空間での長航路航行「ワープ」は人体に悪影響を及ぼす。
 それを防いだのがナノマシンを利用した技術、「ナノバリア」だ。
 ナノバリアの実現こそが、遥かなる宇宙の旅を可能にしたと言えよう。

『なるほど、そうとも言えるな……うーん、考えもしなかった』

『まあ……こればかりは何とも言えないな。でも今度は奴等に対抗する為の武器になるんだ!
 ナノマシンがありゃあ、お前の戦闘力は格段にアップするんだからよぉ!』

 遠く離れた『セントラル』にいるドクオに見える訳が無いが、
 ブーンは軽く頷いて「だお」と返した。

( ^ω^)「まずは、現地のセカンドの掃討だお」

『我等が『セントラル』にとっちゃ、それが最重要任務だからな。
 ジョージ・ワシントン・ブリッジは崩れているし、ニュージャージーとは距離もある……
 かといって安全な位置関係とも言えねえからなぁ。
 今までマンハッタンに流れてこなかったのが奇跡とも言えるぜ』

( ^ω^)「なら、完全に脅威を絶ってやるまでだお」

 ブーンの言葉に迷いは感じられず、ただただ力強さで満ちている。
 頼もしさを覚えたドクオは、口の端をやんわりと釣り上げた。
36 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:37:24.67 ID:mi7wLlb/0
 空陸両用可変型バイクBLACK DOGで街を行くこと数十分。
 ニューヨークとニュージャージーの州境となっているハドソン・リバーが姿を現した。

( ^ω^)「BLACK DOG!」

 道路から飛び出した瞬間、脳のコンピュータからバイクに指令を飛ばして飛行モードへ移行させた。
 川に突っ込む寸での所でBLACK DOGは変形を完了し、水面すれすれで車体を安定させる。
 数メートルの助走の後、車体下のバーニアンを一気に噴射させてBLACK DOGは上昇した。

 愛機の名を呼ぶ必要は無いが、愛機故に彼は愛情を込めて名を呼ぶ事を心がける。
 AIも搭載されていない機械に話し掛けるという行為は、傍から見れば
 ポストや自販機に話し掛けるのと同等の行為に見えるかもしれない。

 それを自覚して愛機に話し掛けるのには意味がある。
 人の気配を断った街の独特な圧迫感を払拭したり、緊張感を緩和させる為もあるが、
 何よりバイクに寄せる信頼をより強くする為である。

 無機質で物事を考えないBLACK DOGは、それでも意思を持ったかのように
 軽快に空間を斜へと切り、ブーンを更に上空へと連れてゆく。
 眼下で、ハドソン・リバーの全貌が露になる……あの巨大な橋は、残骸すら川底に沈んでしまったらしい。
39 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:41:18.19 ID:mi7wLlb/0

 マンハッタンからニュージャージーへ向うには、リンカーン、ホランドの2つのトンネルと、
 ジョージ・ワシントン・ブリッジの橋のいずれかを通る必要がある。
 火星への移住が本格化してからは、殺人的とまで謳われていた通勤ラッシュも
 陰りを見せ始めていたが、やはり慌しいという形容が適切であった。
 火星という新たなステージを得た後でも、特に工業の大部分は地球上で行われていたからだ。
 人間が出すゴミを掃き溜める惑星。それが火星移住計画実行後の地球の位置づけであった。

 そんな働き蟻達の通路を担うジョージ・ワシントン・ブリッジは数年前に川の底に沈められていたのだ。
 両親と、そして幼馴染のツン・ディレイクと共に橋を往ったのは、良い思い出だ。
 人工的な輝きを灯し始めたマンハッタンの摩天楼は、背後に壮麗な夕空を持っていた。
 紅色と夜色のグラデーションの美しさは、何度見ても沁みる光景であった。

 一方、対岸のニュージャージーの景観は武骨、と言うべきであった。
 マンハッタンからニュージャージーを見ると、海岸線に沿って見渡す限りの煙突と
 煙しか見えず、観光客からすれば、いかにも工業地帯だというイメージしか持たないだろう。

 工業地帯を抜ければ、アメリカ最大級のウィローブルック・ショッピングセンター、
 ニューヨーク郊外の高級住宅街モントクレヤー、エセックスフェルスが見えてくる。
 そこだけは唯一、美しい自然に囲まれている。
 つまり工業地帯は別世界への入り口、という役割を担っているのだ。

 街の一つ、プリンストンはホライゾン・ナイトウ、ツン・ディレイクが育った街だ。
 名門プリンストン大学は天才ツン・ディレイクの母校であり、
 彼女の父親、フィレンクト・ディレイクが教鞭を振るっていた大学でもある。
41 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:44:56.81 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)(思えば、6年ぶりかお)

 過剰なまでの愛郷の想いは任務には不要な私情とも言えるが、
 なんせ6年ぶりの帰郷である。
 この気を禁じるのは命令を下されようとも無理な話だ。

 しかしブーンは胸中を複雑に滲ませる。
 6年前と変わりない街があるはずが無い事を思い出して……。

 身近な工業地帯という意味では、ニュージャージーより資源調達に長けた場所は
 ニューヨーク州近辺に存在しないはずであった。が、それはあくまで予想であった。
 此度、彼等『セントラル』が資源調達に踏み切れたのは、近日打ち上げに成功した衛星アルドボールの存在がある。
 この衛星により、事前に作戦域のリサーチが可能になった事で、
 『セントラル』が抱える資源問題を解決出来るとセントラル新議会は期待している。

 衛星とは別にニュージャージーの調査を行えなかった理由がある。交通路の損失だ。
 ウィルスの蔓延と侵入を防ぐ為、、軍がジョージー・ワシントン・ブリッジを川に落としたのだ。
 リンカーン、ホランドの両トンネルも、軍が分厚い合成金属で防いだ為、
 マンハッタン島は孤立に近い状態となったのだ。
 とはいえ空を行くのは隠密行動には不向きである為、
 『セントラル』は大規模な戦力を空より投入するのを考えた事が無かった。

 今回、チーム・ディレイクが単独任務を許可された最大の理由として、
 この6年間、マンハッタン島の調査任務を遂行し続けたというB00N-D1の功績があった。

 それと『セントラル』の総統を担うモナー・ヴァンヘイレン本人が、ブーンを高く評価しているのだ。
 故に彼の恣意的な判断も関与していたのは事実であるが、大規模な編隊を導入するよりも、
 まず単独隠密調査の経験が豊富なブーンに現地調査させるのは理に叶っている為、
 他の議員も総統の判断には納得している。

42 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:49:55.17 ID:mi7wLlb/0

『ナイトウ、6年ぶりの故郷に行く気分はどうかしら?
 あ、そうだった、貴方にとっては第二の故郷、よね』

 川の中腹に差し掛かると、通信が入った。
 相手はブーンの幼馴染にしてチーム・ディレイクのリーダー、ツン・ディレイクだ。
 彼女は14歳にして亡き父親に代わり、システム・ディレイクを
 実戦レベルにまで洗練した自他共に認める天才少女である。
 少女と言ってもそれは外見を意味しているだけで、実は今年で20歳になる。

( ^ω^)「あのウザったかった煙突すら懐かしく感じるのは、不思議だお」

 「あ、ツン」と、ブーンは彼女が何かを言い返す前に割り込む。

( ^ω^)「ミッションが終わったらプリンストンに行っていいかお?」

『いいわよ。いま衛星でチェックしてるけど、安全そうだし。
 ただ、日が沈む前には帰ってらっしゃいよ』

( ^ω^)「ウチがどうなったか、この目で見てくるお……さて。
      そろそろお喋りは止めて、戦闘に備えるお」

 いよいよハドソン川を渡り終える。
 両目のレーダーに、警告の意を孕む赤色の輝点がぽつぽつと浮かび始めてきた。
 奴等が持つ独特な熱量を示した反応だ。
45 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:53:59.83 ID:mi7wLlb/0
 BLACK DOGの飛行モードを終え、コンクリの地面を散らして派手に着陸した。
 目の前には早くも巨大な工場が聳え立っている。
 だが、改めて空を見上げてみても、鼻につく苦い煙は一帯も昇っていない。
 ここにあるのは廃工場が醸し出す哀愁のみだ。

 ここはニューヨーク同様、人は消え去り、機能を失った地なんだな……。
 衛星による映像などではなく、故郷の変わり果てた姿をこの目で見て、
 ブーンは胸を締め付けられるような気分を味わうのだった。

 胸ポケットのジッパーを開けて煙草を取り出している最中、
 コンクリの地面を打ち鳴らす幾数の物音が工場内から流れた。
 ブーンは排除していた嫌な緊張感を否応無く取り戻し、小さく息を呑む。


( ^ω^)「さーて、来やがったお」


 煙草に火をつけて、高ぶる気を落ち着かせようと胸いっぱいに煙を入れる。
 バイクの騒音を聞きつけ――意図的にエンジンを吹かせて誘き寄せた――、
 奴等は……『セカンド』と呼ばれる異形の生物は、工場から姿を現したのだ。
48 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 17:57:08.86 ID:mi7wLlb/0
 火をつけたばかりの煙草を指でピンと弾き、
 煙草が地に落ちるまでに、ブーンの赤い機械の両目は敵の特徴を体内まで捉え終わる。

 皮膚を裂いて突出したその頭蓋は、兜のよう。
 大きく発達した口には、硬そうな牙がずらりと並び。
 肩からは折り曲げが可能な「褐色の長剣」が4対……
 突く、刺す、といった攻撃に特化した腕だ。

 剣がどうしても目に付くが、奴等の最大の特徴は馬のように発達した四足と思われる。
 前足二つ、後ろ足二つ、どちらも血管が浮き出た黒い皮膚の下に、
 尋常でないほど隆起した筋肉が詰まっている。恐らく、速い。

 身体の作りだけ見ても手強い部類に入るだろう。
 それとは別に、単純に強さと直結する要素が敵に有る。数である。
 この身の丈3メートル程の中型セカンドは、既に30もの姿をブーンの前に見せているのだ。

 口元からだらしなく涎を零す様より、真にブーンを戦慄させるのは、
 足の蹄を鳴らして興奮と攻勢を表現する様である。
 ブーンがホルダーからBBBladeとBlueMachingunを取り出したと同時、
 “黒肌の騎兵”は一斉に雄叫びを冬空にあげて、獲物に飛び掛った。

( ^ω^)「ちょ、速っ――」

 「速い!」、そう言い終わる前に、反射的に一人の“騎兵”の首を刎ねた。
 危うく敵の剣が自分の喉元を通るところであったと、遅れて心臓が跳ねているのをブーンは感じる。
51 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:01:32.32 ID:mi7wLlb/0
 このセカンド達は仲間を殺された事に対し動揺しなかった。
 ウィルスが狂わせた思考のままに食欲と暴力を発散させるべく、
 ブーンの盾になってしまっている首の無い仲間を一瞬で薙いだ。
 四分割になった“騎兵”の遺体は色の悪い臓器を宙に投げ出しながら、
 数十メートル離れた海に落下した。

 やはり、かなりの破壊力を有した敵だと判断しなければならない。
 一撃貰えば、強化ラバーと合成金属で覆われたこの身体でも一溜まりも無いだろう。

(;^ω^)「ちょっと甘く見てたお……もっと距離を取るお! BLACK DOG!」

 愛機に指示を出すと同時、跳躍して串刺しにせんとする“騎兵”目掛けてBBBladeを投擲する。
 同時にBLACK DOGの操縦部中央のタッチパネルが蒼く輝き、
 バイクは唸りをあげて急転換、急発進を行う。

 軽く助走を付けた後、BLACK DOGは空に躍り出た。
 だがしかし、空中が安全だと思えたのは一瞬だった。
 “騎兵”はその脚力を駆使して高速のジャンプを繰り、上空の獲物の位置に
 瞬きほどの間で到達したのだ。

52 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:06:31.02 ID:mi7wLlb/0

 敵の斬撃をBBBladeで切り払おうとするが、

(;^ω^)「き、切れない!?」

 敵の剣に皹すら入らない。ウィルスに強化されているとは言え、完全に拮抗してしまうなんて!
 交わってしまった瞬間、圧倒的な力に押され負け、体勢を崩した。
 その状態でもう一撃を受け止めると、バイクごとブーンは地上への落下を始めた。

 流転する視界の中、地上から飛んで来た多くのセカンドを捉える――
 ――この状態で、この数を相手にする事は不可能!

( ;゚ω゚)(仕方がない! BLACK DOG!!)

 咄嗟にそう判断し、脳のコンピュータを介してバイクに「システム起動」の命を下した。
 上昇しながら、BLACK DOGはブーンの乗るコクピットを中心にパーツの変形と飛散を開始する。
 飛散したパーツ達は蒼色のマーカーをブーンの身体各位に射出しつつ、
 セカンドの躍動を遥かに上回る速度で変形を終えた。

 ブーンの、背まで隠す金の長髪の一本一本までが、蒼く光り輝いていた。
 異形達はあまりの眩さに瞼を閉じていた。
 ただ、この強烈な光が瞼を撫ぜたのはほぼ一瞬。
 異形は、すぐに目を開けて獲物の位置を確認しようとする。
54 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:10:01.81 ID:mi7wLlb/0
 すると、先ほどまで視界の中心に居たはずの獲物がいない。
 いや、「変貌した」というべきか。それも、瞼を閉じていた一瞬の間に。

「行くぞ!!」

 アーマーシステム。
 ドクオ・アーランドソンが設計した、BLACK DOGU最強の戦闘形態。
 数多の機構を施しながらも端整な顔立ちを持つ人間の青年は、
 爪先から頭の天辺までを余地無くソリッドなフォルムの人狼に変貌させたのだ。

 鮮烈な蒼は巨大な漆黒に閉じ込められたかのような――そんな印象をセカンドは本能的に感じ取る。
 事実、両腕が細筒の形を作り、そこから線状の蒼色を
 遥か上空にまで射出させたのだ。異形の身体に流れる黒色の血液を纏って。
 あの蒼は、危険だ。そのようにセカンドは再び本能的に学習した。

 ブーンを空まで追いかけたセカンドが、次々に蒼色の光条に討たれてゆく。
 これ以上同胞を殺させてなるものか、と、怒りに任せて地を蹴る異形が十数匹。

 その動きを360度カメラで察知していたブーンは、腰を飾る四つの尾のような管と、
 ガトリングに変形させた両腕でレーザーの雨を降らせた。
59 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:13:44.32 ID:mi7wLlb/0
 ようやく追撃を断ったようだ……それどころか、敵セカンドは動こうともしない。
 恐怖の余り、身体が震え上がって動けなくなったのだろうか。


(――――違う、これは……おかしいお……)


 スキャニングで計測した敵は、いずれも生命活動を停止させているのだ。
 抗体を浴びたり、注入された痕跡が無いにも関わらずだ。
 活性が過ぎた細胞が肉体を崩壊させた、という「感染者ミルナ・アルドリッチ」の実例があるが、
 それを考慮して推測しても、ウィルスがこの突然死の原因に繋がるとは思えない。


(まるで時間が止まってしまったかのようだお……)


 「故障か?」、そう思い、視界に表示させた自分自身のデータを
 凝視している内に、ブーンは実に不可解な現象に気づいた。
 透過性の高い画像や数字と蒼いホロの向こう側で、
 己の放った弾丸の数々が尽く停止しているという、なんとも摩訶不思議な光景だ。
62 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:16:45.23 ID:mi7wLlb/0
「これは……」

 敵を貫いた弾丸もある。
 硬い皮膚に突き刺さり、内包する肉や筋繊維を切断している様を「一時停止」しているかのようだ。
 花のごとく開いた肉からは蜜とは比喩するには程遠い量の血が噴出され、
 しかし、それもまた「空中で固定」されたままだ。

 なんとも痛々しい姿であるが、彼等は声の一つも上げない。
 激戦で舞ったコンクリの破片も、空に飛散したまま地に落ちる様子が無い。
 完全なる停止――まるで、時間が止まったかのような……。

 停止した世界の中、ブーンのみが地に下りる事を許された。
 ふと、彼は足元の血溜りに目が行った。
 血液の鏡が映し出した自分は、それまで想像していたフォルムとは懸け離れた物であった。


ィ'トー-ィ、て
以;゚益゚以 そ「なんだこりゃあああああ!? こんなぶちぎれた市松人形みたいな
        デザイン、とうにドクオが直したのに! 調子が悪いのかお!?」


 何でこんな訳の分からない不具合が発生するのだ!?
 ひょっとするとBLACK DOGか自分自身が、深刻なダメージを負っている可能性がある。
 ブーンはBLACK DOGをパージし、元のバイク形態に戻した。
67 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:21:01.81 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「……バイクに外傷は見あたら無いお」

 次に、BLACK DOGのコントロールパネルを弄くるが、特に問題は無い。
 自分のシステムにも問題が無い事は、自分自身がよく理解している。

 とは言え、自分では気づけない問題が発生している可能性は否めない。
 ミッション遂行に支障が出る恐れがあると思い、ドクオに通話を入れた。

( ^ω^)「ドクオ、BLACK DOGか僕の調子が悪いお。調べてくれお」



『ザアアアアアア…………』



(;^ω^)「どうなってんだお……」

 返って来たのはノイズ。いつまで経っても、
 不安を煽るだけの砂のようにザラついた音が、延々と流れ続けるだけだ。
 獣すらいなくなってしまった街に存在するのは自分唯一人……そう思うと、
 異様な孤独感を覚え、恐怖を感じ始めるのだった。

68 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:25:31.92 ID:mi7wLlb/0
 何故、このような不可解な現象が発生しているのだろうか。
 不可解な現象をどうにか現実的に立証させなければ頭がどうにかなりそうだ。
 己を救うべく必死に思考を巡らせていると、現実的な存在として頼みの綱である
 BLACK DOGが、ディスプレイの明かりを落としたのだ。

 慌てて呼びかけてみるが応じようとしない。愛機の安否を確かめようと
 コントロールパネルを手で触れた瞬間、BLACK DOGが何事も無いように起動する。
 ほっと胸を撫で下ろし安堵するが、すぐにまた言い様の無い恐怖が脳を支配し始める。

(;^ω^)「まさか……」

 目の前のセカンドの停止、BLACK DOGのシステムダウンと起動。
 『セントラル』の通信が突然遮断した事――そして、自分だけが正常に機能している事。
 先ほどの予感――時が止まっているという予感――が、的中したのだろうか?
 そんなファンタジーめいた現象が起こりえるのだろうか?

( ^ω^)「――わけわかんねーけど、好都合だお」

 ホルダーのBBBLADEの柄を取って握りこむと、光刃が突出した。
 どうにも不可解であるが、やはり自分の触れている機器ならば正常に機能するようだ。
 でなければ、頭部に搭載された情報処理システムや光学機器はシャットダウンして、
 今頃は目も見えぬ状況に立たされていたであろうから。
 未だに理解に及ばない。理解しようとも分からない。
 どうせならと、これは狩りの絶好の機会だと、ブーンは現象をそう捉えるのだった。

____
70 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:30:05.67 ID:mi7wLlb/0
 殲滅行動は、ここ6年で経験したどの戦闘も比較にならぬほど、順調だ。
 なんせ的が微動だにしないのだから、近づいて心臓か頭部を破壊するだけ。
 もはや狩りとは言えぬ、単純な解体作業だ。

(;^ω^)「硬いな……いつまで時間停止してくれてるのかお?」

 とは言え、如何なる弾丸をも弾く硬い肌を持つセカンドを殺すのは難儀である。
 BBBLADEの刃を中々通さないので、この怪力を持って胸や頭の皮膚をどうにか剥ぎ、
 軟い部分が露出したところでBBBladeを突き刺して抗体を流す……。
 機械の体に疲労は募らないが、それでも手間暇が掛かるので精神的に参るものがある。

 “Booster”という攻撃支援プログラムを起動すれば楽になるだろうが、
 それに使用するカートリッジをこの状況下で消費してしまうのも勿体無い。
 『セントラル』まで補充に戻るよりも、皮を剥ぐ方が効率が良いと踏んだのだ。

(;^ω^)「うええ、血でベットベトだお……一服するかお」

 時間が止まっていようと、血管を切れば血は勢い良く噴き出そうとする。
 半魚人を思わせる醜い異形を解体し終える頃には、全身が血塗れだった。
 このような風貌では、理解あるツンやドクオでも怯えてしまうだろうなと、ブーンは思う。
72 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:34:47.86 ID:mi7wLlb/0
 BLACK DOGから手を離さずに降り、ボディサイドのロックを解除して収納を引き出した。
 中から取ったのは水と煙草だ。

 なにはともあれ、まず一服。
 停止した時間の中で1時間ぶりというのもおかしいが、1時間ぶりの喫煙である。
 次々に固定されてゆく煙の様子は、ずっと見ていても飽きが来ないだろう。

 一方で、宙に固定された死体の方は実に猟奇的に見えた。
 ばらした異形の死体を空間に捨てていると、まるで空間に死体を展示する
 猟奇的な展覧会を開いているような気分になる……不快だ。

 自作の悪趣味な展覧会を眺め、随分と狩ったものだと感想を胸に零す。
 それも、容易に狩ったものだと。

( ^ω^)「このまま時間が止まってればいいのに……なんて」

 この場だけでなく、世界中の時間が止まっていると確信できたのは、空の様子だった。
 今日は晴れ晴れとしながらも、雪山のように大きな雲が動いていた事を覚えている。
 記憶メモリからその映像を引っ張り出して、確認もしている。
74 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:37:24.22 ID:mi7wLlb/0
 時間が停止し続ければセカンドを全滅させる事が出来る。
 しかもノーリスクで殲滅できるだけでない。
 皆がセカンドウィルスの恐怖をこの間だけは忘れ、そして時間が再び動き出せば、
 そこはセカンドウィルスのいない世界となっているのだ。

( ^ω^)(確かに僕達『セントラル』は戦う決意こそしたお)

( ^ω^)(でも、怯えながら朝も夜も無く働き通して、
      いざ戦いに行けば死の危険もある……こんな過酷な世界の中じゃ、)

( ^ω^)(今は生きても死んでもいないし、不安も安堵も覚えない状態なんだろうけど、
      きっと皆にとって幸せな一時になっているに違いない。
      少なくとも僕だったらそう思える。それに、誰かがセカンドを倒してくれるんだお)

 その役割は、唯一動く事が出来る自分の物だ。
 それにしても損な役回りが多いものだと、ブーンは最後の煙を吐いた。
 生まれながらの免疫、そして今回の時間停止――いずれも闘争絡みの事ばかりだ。
 だが戦いに嫌気を射すのはおこがましい事である……許されないのだ。
 奴等セカンドを狩る事が、自分に残された唯一つの贖罪方法なのだから……。
76 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:41:23.84 ID:mi7wLlb/0
 今は任務に集中しなければ。散漫な気分をしていると命取りになる。
 いつ時間が動き出すか分からないのだ。
 ジョルジュ隊長が戦地でよく吸っていたというラッキー・ストライクをよく味わって吸う。

 ボトルの蓋を開けて水を被ろうとするが、水は落下してこない。
 おかしな話だが水を手にとって、ブーンは頭に塗りたくった。
 これでは水浴びをしている気分にはならず、余計なフラストレーションを募らせるのだった。
 大雑把に顔と髪を擦ると、血を含み真っ赤になった大粒の水が周囲の空間に散らばった。
 相当な量の血を被っていたようだ。1.5リットル程度の水で髪を洗うのは無理かもしれない。

「――v―w――」

( ^ω^)「おっ――!?」

 そんなことを考えながら、面倒な洗顔と洗髪を続けている時だった。

 突然、妙な物音を拾った。
 余りにも唐突だったのでブーンは驚いてボトルを落としてしまったが、
 ボトルが地面に転がる事は無かった。水も零れようとしているだけで、地を打たない。

( ^ω^)「そこの倉庫の奥だお。聞き間違いなんかあるもんか。
      呻き声のようだったお」

 停止した時間の中で動けるセカンドがいたのか?
 それとも時間停止が終わろうとしているのか?

(;^ω^)(もう時間停止が終わるのかお? そんな……)

 ともかく、動作の正体を突き止めなければ。
78 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:44:10.92 ID:mi7wLlb/0
 BBBladeとBlueBulletGunを手に、慎重に倉庫の中へ侵入するブーン。
 ひしゃげたコンテナの影に隠れて音の発生地点に近づいてゆく。足音を殺し、
 血生臭さと饐えた臭いが充満する倉庫を、更に奥へと進む。


(;^ω^)「……う、嘘だお?」


 やがて倉庫の中央で、生体反応を感知する。


 ――信じられない。僕が今捉えている反応は……


「う……」


(;^ω^)「に、人間がこんな所にいるはずが……」


 その心音。その呼吸音。
 その体温。その体内外の形態と構造。
 そして喉奥から聞こえる擦り切れた声こそが、対象を人間の女と特徴付けているのだ。
81 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:48:26.13 ID:mi7wLlb/0
 馬鹿な、ここはセカンドの巣と化していた。
 それに、どの巣も隅から隅までチェックしたのだ。


 こいつは……何なんだ?


( ;゚ω゚)「い、意識はあるかお……!? 両手を挙げてこっちを見ろ!」

 警告し、銃口を頭部に向けながらジリジリと
 近づく――このまま撃つべきか、否か、迷いながら。
 ブーンは、自分の慎重すぎる行動を、誰かに正否の判断を付けて欲しい気分であった。

 どう見ても人間の女性……しかも華奢な体付きの少女である。
 スキャンして覗く体内は人間の構造をしているし、サーモグラフィがウィルスの熱量を示す事も無い。
 「あまりにも人間すぎる」。だからかえって不気味なのだ。
 自分が今、願望に似た感情を抱いているのが分かる。
 これは機器の不具合であって欲しい。それで、彼女はやっぱりセカンドなんだ……と。

 この過酷な世界を歩き渡るのは、自分のように機械の身体を持っていても難しい事だ。
 だというのに、サイバーウェアの一つも見当たらない単なる少女に、それが出来るはずが無い。
 街を30分も歩く事すら許されないだろう。

 出来たとすれば、それは人間を超越した「何か」別の存在、という事になってしまう。
 例えば超能力者、ミュータント、宇宙人……etc。
 彼女がそういった類の生物だとは思いたくない。せめて「ギコさんのような感染者」であれば……

82 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:52:25.81 ID:mi7wLlb/0

(っつう……聖剣も荒っぽいわね。ここは……ちゃんと来れたみたいね……)

 後頭部を擦りながら、彼女が身体を起こそうとしている。


( ;゚ω゚)「動くなって警告してんだお!……言葉が分からないのかお?
      みょ、妙な動きをしたら――」



ξ;   )ξ「っ! アンタがこの世界のブーンね!?」


( ;゚ω゚)「撃つ!……って、え?」



 思わず、誤射せぬように銃口を天井に向けてしまった。

 ここに彼女がいるはずがないのに。
 別人であるはずなのに、人でないかもしれないのに。

 それでも彼女が上げて見せた顔は、自分がよく見てきた「彼女の顔」と一致していたのだ。
 甲高い声も、ふわりと揺れた金の髪も。
87 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:55:32.10 ID:mi7wLlb/0

 彼女は、ツンは、動揺して固まるブーンに駆け寄り、


ξ;゚听)ξ「お願い! 力を貸して!!」


 有無を言わさぬ調子で、ブーンの左手を握ったのだ。


( ;゚ω゚)「ツン……!? い、いや、似てるけど何か違うお……!?」

 だが、彼女はツン・ディレイクではなかった。
 彼女の猫目も小さな手も、二つに結った巻き毛の金髪までそっくりであるが、
 それらから伝わる物はいずれもツン・ディレイクと一致しない。
 自分の記憶のツン・ディレイクが「彼女はアタシじゃない!」と訴えているのだ。

ξ;゚听)ξ「お願いよ、この世界のブーン!
       貴方の助けが必要なの! だからアタシと――」

ξ;///)ξ「――ご、ごめんなさい! 初対面だってのに手なんか握っちゃって!
       かかかか勘違いしないでよね! 別にアンタの事なんて(ry」

 その少女の反応や挙動は実に見慣れたものだった。安心感すら感じる。
 未だ正体不明で、人間である事も定かではないの、ブーンは警戒心を解いて銃を下ろした。

(;^ω^)「うーむ……別人だけどこれはツンの反応だお……。
      アンタ、何者だお? この世界って、一体アンタは何を言ってるんだお?」

__
88 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 18:58:56.46 ID:mi7wLlb/0
93 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:03:42.35 ID:mi7wLlb/0


( ^ω^)「……なるほど。君はやっぱり、ツンなのかお」


 2人は血と腐乱臭が充満する倉庫を出て、
 BLACK DOGに乗ってまだ血に染まっていない穏やかな港まで来ると、
 そこで桟橋を見つけて腰を下ろした。

 道中、ツンは巨大な金属の建造物に目を丸くしていた。
 にも関わらず、セカンドを見ても驚かなかった様子から察すると、
 彼女はモンスターの類を見知っているのかもしれない。

ξ゚听)ξ「そう。別次元からやって来た別のツン、ツン=ヴィラート。
      顔や声は似て異なっても、本質的には同一のツンなの。
      アタシもこの世界のツンも、ツンが持つ無限の可能性の一つってワケ」


 しかし彼女の言葉に偽りは無いのだろう。
 彼女の真剣な瞳を見ればそれは分かるし、この世界に対する彼女の反応を見て分かる。

 それに出で立ち。
 裾や袖に情熱的な紅色で染められた薄布のローブを纏い、
 何の革か分からないが黒色のベルトを細い腰に巻き、
 そこに杖と思われる赤色の細い棒を差している。
95 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:06:55.89 ID:mi7wLlb/0

(;^ω^)(まるで魔法使いじゃねーかお)

 装飾品の一つ取っても、この世界の物ではない物質である事を、
 ブーンの情報処理システムとメモリーが明らかにしている。
 もっとも、当のブーンは未だ半信半疑であるが。

 しかし、時間停止している事を考えれば、彼女を含め全てが
 現実の物なのだと納得せざるを得ず。
 ブーンは、思いつくままに疑問をぶつけていく事にした。

(;^ω^)「って事は、僕もツンも、ドクオも複数いるって事なのかお……」

ξ゚听)ξ「そうなるみたいね。アタシもアンタを見た時は驚いたわ。
      もう一人のブーンが本当にいるなんて……。
      それにアタシの知るブーンとは全然似てないのに、何故かブーンって理解できたのよね……」

( ^ω^)「僕も同じような感覚を覚えたお。だから君が異世界から来たって事は信じるお。
      時間を停止させたのも君か聖剣の仕業なのかお? だったら何の為に?」

ξ゚听)ξ「……時間を止めたのはアタシでも聖剣でもない」

ξ; )ξ「アンノウンの仕業よ……」

(;^ω^)「あのうんこ? どのうんこだお……?」

 別世界のツンは語る。
 世界に迫っている危機を――――
99 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:11:03.03 ID:mi7wLlb/0

(;^ω^)「はあ。つまり……世界のバランサーたる聖剣がアンノウンに奪われ、
      全世界の時間が一斉に停止してしまった……と」

 それはまた途方も無いというか、荒唐無稽というか……。
 そう胸中で呟きながらも、理解したような口ぶりでブーンは話す。

ξ゚听)ξ「ええ。そしてアンノウンは聖剣の力を蓄える為に、
       アタシのような召喚士を始めとする力を持つ人間の生命を、
       次から次へと奪っていった……」

ξ゚听)ξ「アタシの両親も殺されたわ……それで仇を討とうと挑んだけど、惨敗。
      聖剣が異次元に逃がしてくれてなかったら、本当に犬死だったわ」

 時間停止で凍りついたハドソン川を見つめるツン。
 表情こそ気丈だが、身は小さく震えている。
 心拍数が上昇した事を、情報処理システムが捉えている。
 ……やっぱり、ツンの言っている事は全て真実なんだ。

( ^ω^)「しかし何故、アンノウンとやらは聖剣の力を蓄えているんだお?」

ξ゚听)ξ「奴が望むのは全ての世界の破壊。
      あいつが別世界に行くには聖剣の力を利用するしかない……って、」

ξ--)ξ「……聖剣がアタシ達にそう教えてくれたわ。
       聖剣はもう、アンノウンに完全に支配されてしまったでしょうね……」

100 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:16:16.83 ID:mi7wLlb/0

 ツンは立ち上がり、視線をブーンの赤と蒼の瞳に移した。

ξ゚听)ξ「アンタがこの時間停止から免れたのは、聖剣のおかげなの。
       そして聖剣は時間停止から免れた存在を探せと、アタシ達に告げたわ」

ξ゚听)ξ「その存在の一人がアンタ、この世界のブーンだったの」

( ^ω^)「…………」

 ブーンが思案顔を浮かべるも意に介さず、ツンは続ける。


ξ;゚听)ξ「お願い……今すぐアタシと一緒に、アタシの世界に来て!
       そして一緒に戦って!
        アンノウンを倒すにはアンタの力が必要なの!」


 必死な叫び声が停止した空間に一瞬だけ響く。
 声の反響すら時間停止は許さないらしく、
 無言の重苦しい余韻がすぐに彼等を包みこんだ。
102 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:19:06.35 ID:mi7wLlb/0
 ブーンはBBBladeの柄を擦っている。
 ツンには、その様子が戸惑っているようにも、考えているようにも見えたが、
 本質的に同一であるブーンなら――あのブーンなら、
 きっと「はい」と答えてくれるだろうと、疑わなかった。


(  ω )「断るお」


ξ゚听)ξ「え……?」


 だが、返答は拒否。予期せぬ答えにツンは、
 自分の時間さえ止まってしまったような錯角に陥る。


(  ω )「この世界はね、人々をモンスターに変える病原体が蔓延していて、
     世界中の人々が恐ろしいモンスターになっちまったんだお。
     もう死骸だったけど、君が現れた工場の外で化物がいたお? あれだお」


 頭が上手く回ろうとしないが、どうにかツンは冷静さを保って聞く。

103 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:22:40.49 ID:mi7wLlb/0

(  ω )「ツン、君の話は信じよう。でも僕は、生き残っている人々の為に
     奴等を狩らなければならないんだお。
     この時間停止は好都合……悪いけど君の世界に行く時間が惜しい」

ξ;゚听)ξ「み、見捨てるっていうの……?」

(; ω )「そういう事になるお」

 そこで、ツンが僅かに保っていた冷静さが、怒りで蒸発してしまった。

ξ#゚听)ξ「言ったでしょう!? アタシの世界が滅ぼされれば、アンノウンは
       別の世界を滅ぼしに行く! もしかしたら明日にはアンノウンが
       この世界にやってくるかもしれない!」

ξ#゚听)ξ「アタシの仲間がアンタみたいな戦士を連れて来てくれる!
       だから今こそ奴を倒す絶好の機会なのよ!」

( ;゚ω゚)「……じゃあそいつらに任せればいい!
      そいつらが負けてアンノウンがここに来た時は、
      この世界がアンノウンを片付けてやる!」

 ブーンは荒々しく立ち上がり、BBBladeの光刃を放出させる。
 呆然とするツンに背を向け、何も言わずにその場を去ろうと歩き始めた。

(; ω )「僕は狩りで忙しい。さっさと帰れお」

ξ# )ξ プッツーン

104 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:25:35.37 ID:mi7wLlb/0

ξ# )ξ「Intrex...Azurel...Moniganuerex....」


(;^ω^)「えっ――?」

 上空で高エネルギー反応を検知。見上げると、黒色の雲が発生していた。
 雷雲を除いて他の雲は動こうとせず、そしてツンが紡ぐ聞きなれぬ言語。
 時間停止した世界で動ける雷雲……つまり、あれはツンによる物だろう。

(;^ω^)「つ、ツン?」

 何が起こる? 何をする?
 口を薄く開けて雷雲を眺めていると、一方は予想の通りで、
 一方は予想外の現象が発生したのだ。

 そう。予想の通り、落雷である。
 しかし、形状は予想と異なる――まるで大剣の刃だ。
 暗雲から生まれし刃は徐々に規模を増し、


ξ# )ξ「ThunderBlade(ツンデレブラーデ)!!」


 ツンが杖を振ると、地上にその剣は落とされた。
 巨大な雷の大剣は遠く離れた地面に落ち、一帯の建物と地面を粉々に破壊したのだ。
 空中に爆散した欠片はどれも紫電を帯びており、黒々と焦がされている。
 自分の重火器に匹敵する破壊力だ。
109 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:31:42.56 ID:mi7wLlb/0

( ;゚ω゚)「な、な……何だお今の――!? 」

ξ#゚听)ξ「魔法よ! アタシが出来る最高位の魔法!
       フン、驚いてくれたみたいで良かったわ!
       でもね! こんな魔法! アンノウンには通用しなかったわよ!」

ξ#゚听)ξ「……帰るわ。本質的に同一だとばかり思ってたけど、
       この世界のブーンはアタシの知るブーンとは似ても似つかない……見損なったわ!!」

 ――本当に聖剣はこんな奴を選んだっていうの!?

ξ#゚听)ξ「Gate(ガーテ)!」

 何も無い空間にツンは杖で輪を描いた。
 すると空間が歪み、歪の中心から黒い光が漏れ始める。
 出来上がったのは人一人が通過できる幅の小さなトンネルだ。
 トンネルの先には、宇宙を思わせる暗黒と光点の世界が広がっている模様だ。


ξ# )ξ「聖剣はアンタの事を必要としてたけど、
       アンタなんかいなくたってどうにかしてやるわよ……」


 ツンは異空間への道に足を踏み入れる。
111 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:34:42.84 ID:mi7wLlb/0

「……ま、待てお。一つ聞かせてくれお」

 背後から投げつけられた言葉に、ツンの足が止まる。
 踵を返さず、続く言葉をそのまま待った。

(;^ω^)「アンノウンってのは……そんなに強いのかお?
      君があんなに強力な魔法を扱えるってのに……」

ξ )ξ「そうよ! アタシのような一流の召喚士が束になっても勝てなかった!」

(;^ω^)「そして……聖剣は僕を必要としている……のかお……?」

ξ# )ξ「……」

   たとえセカンドを滅ぼしても、この世界が消滅するのなら。
   その可能性があるのなら――神のような存在が、そう導いているのなら――

(;^ω^)「ちゃんとここには戻ってこれるんだお!?」

ξ# )ξ「……ちゃんと帰らせるわよ!」

( ^ω^)「分かった、行くお。
      僕が行かないと倒せないんだったら、行く他無いお」

 ブーンはBLACK DOGのコクピットに飛び乗り、別世界への入り口に近づいた。
115 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:38:39.09 ID:mi7wLlb/0


ξ゚听)ξ「……ふん、それが正しい判断だと思うわ。
      きっと、一つの世界だけじゃ奴は倒せない……
      あらゆる可能性が集わないと奴には勝てないのよ」

ξ゚听)ξ「だから、全ての世界を統べる聖剣が、このように導いたのよ」


 振り向き、小さな手を差し伸べるツン。


( ^ω^)「……聖剣を見るまで聖剣の凄さが分からんお。
      とりあえず……今は、世の中甘くないって事で納得しておくお……」


 ブーンは機械の手で彼女の手を取り、ひょいと膝に乗せた。



ξ;///)ξ「ちょ、ちょちょちょちょちょちょッ――――」


(;^ω^)「おっと喚くなお。ここしか乗せられる場所がねーんだから我慢してくれお」


 二人はゲートを潜り、黒いバイクを走らせてツンの世界へと旅立った。
117 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:42:10.81 ID:mi7wLlb/0





            物語のページが( ^ω^)´・ω・)゚听)ξ 川 ゚ -゚)応えるようです



                      【single part:Virus Buster】





120 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:45:28.47 ID:mi7wLlb/0

(;^ω^)「……マジかお……」


 ゲートを潜った後は記憶が殆ど無い。
 銀河によく似た暗い空間に出て、それから意識を失ってしまったのか、
 それとも瞬間的に移動を終えたのか――。

 定かではないが、気がつけばニュージャージーとは懸け離れた世界にいたのだ。

 自分が今立っているのは自然とは無縁の工場地帯ではなく、見渡す限りの大草原。
 目の前には大きな丘がある。
 かなりの傾斜になっている為に、後ろの光景しか見る事が出来ないくらい丘は大きい。
 なので振り返ってみると、今度は思わず溜息が出てしまうほど
 荘厳で壮麗な山々が遠方で聳えていた。

( ^ω^)「……凄い景色だお」

 その山は眩い金の肌を持っている。
 自分の知る山と共通しているのは、山頂の雪化粧くらいだ。
 背景にするのは星々と月で賑わう、ネオン街顔負けの美麗な夜景。
 そこでは白く巨大な怪鳥達が、夜空より降り注ぐ美しい光を浴び、飛び回っているではないか。

 生態系は異なると思っていたが、セカンドさながらのモンスターが視界に入ろうとも
 ツンが騒がないので、これがこの世界の常識であり世界観、という事なのだろう。
 のどかで、美しい世界だ。
126 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:49:46.38 ID:mi7wLlb/0

ξ゚听)ξ「あの山は……ミスリルマウンテンかしら。
      となると、ここはブンゲイ地方の南のようね」

 黄金の山を眺めているブーンの背後で、ツンが補足した。
 この世界について無知のブーンは、今の現在地よりも山に関心を惹かれた。

( ^ω^)「ミスリルマウンテン?」

 鋭い眼つきでツンが睨む。
 随分と嫌われたようだ、とブーンは自分の言動を悔やむ。

ξ゚听)ξ「……そ。伝説の山。ミスリルってのは剣や鎧の素材になる超レア鉱物よ。
       ミスリルの成分が土に混じってるから、山肌が銀色に見えるみたい。
       そして夜になって月光を浴びれば、ああやってミスリルが金色の光を放つんだとか」

 誰かに聞いたような言い方に、ブーンは眉間を寄せる。
   _,、_
( ^ω^)「みたい、とか、だとか、って……じゃあ、ここはツンの知らない場所なのかお?」

ξ゚听)ξ「ええ、初めて来る場所よ。
      なんつったって、ここはアタシの村がある地域とは正反対に位置するんだから」


( ^ω^)「初めて来る場所って……何でこんな所に?」

ξ;゚∀゚)ξ「それは……えっと……」
130 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:52:49.81 ID:mi7wLlb/0
 ツンはブーンの視線から逃れながら、後頭部を掻く。
 「こいつ、何か失敗したな?」と感づいたブーンは、今こそツンに対し攻勢に躍り出る機と見、
 口元と目元ににうっすらと笑みを浮かべて、

( ^ω^)「それは?」


ξ#///)ξ「あ――もうウッサイわねッ! 魔法に失敗したのよ!!
       あの魔法使ったの初めてだから不慣れなの――!」


 再三つっこむと、ツンは顔を紅潮させ、激しく地団駄を踏みながら
 金きり声を辺りに広げた。こういう所は自分の知るツンに似ていると、
 ブーンは呆れながらも安心感を覚えるのだった。いじめるのはよしてやろう。

( ^ω^)「まあそれは良いとして……それでアンノウンとやらは何処に?」

ξ゚听)ξ「この大陸からだと……船で3年は掛かるかしら。
       このご時世だから船なんて出てないでしょうし、3年も経てば世界はとうに滅んでるわね」

(;^ω^)「3年!? 勿論、瞬間移動的な魔法あるんだおね?」

 この世界の文明レベルと船の速度がどれ程のものかは不明だ。
 しかしブーンは、地球とは比較にならない規模の惑星を一瞬想像してしまった。

 船が役に立たないのならBLACK DOGの出番となるが、
 BLACK DOGのエネルギーを移動で費やしてしまうのは、
 エネルギー補給の効かないこの世界では好ましくない事だ。
 そこで咄嗟に尋ねてしまったのが、瞬間移動魔法というアイディアである。
134 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 19:56:53.11 ID:mi7wLlb/0

ξ゚听)b「甘く見ないでよね! アタシにまっかせなさい!!
     ワープキーを使えば、アンノウンの根城に中に一ッ飛びよっ!」

( ^ω^)「おお! 魔法使い凄いお!!」

 小さな胸を張って自信満々に断言したツン。
 この世界と彼女がファンタジックな存在で良かったと、ブーンは深く息を吐いた。

ξ゚听)ξ「んで、そのワープキーってのがコレなんだけど……えーっと」

ξ;゚听)ξ「……あるぇ?」 ゴソゴソゴソゴソ

(;^ω^)「まさか……ツンさん……」


ξ゚听)ξ「……なんてこったい……」



ξ;゚∀゚)ξ「キー失くしちゃったーwwwwwやべえwwwwww」


(;^ω^)「失くしちゃったーじゃねえお! ホントに戦う気あんのかお!!」

ξ;゚听)ξ「あ、あるわよバカ! アンタって本当に酷い事言うわよね!
       うーん……行き帰りしてる時に、この世界の何処かに落としちゃったのかな……」
138 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:00:11.55 ID:mi7wLlb/0

ξ;゚听)「で、でも大丈夫よ! キーには魔力を込めてあって、
     アタシはキーが発する魔力を感じる事が出来るから!」

(;^ω^)「なんだ、焦らせるなお……それで、キーは何処にあるのかお?」

 「ちょい待ち」と、ツンは目を瞑り、左手の指先で虚空を水平に泳がせた。
 ちょうど180度の辺りで、ツンは左手をぴたりと止める。

ξ--)ξ「こっちの方角ね……位置は……」

 目的地はミスリルマウンテンとは間逆の方向、
 この目の前の丘を越えた先のようだ。

ξ;゚听)ξ「幸いこの大陸にあるけど、この距離を歩いたら一歳老けちまうわね……。
       それにキーは明日の夕方にしか使えないから、急いで見つけないと……」

 しばらくして、ツンが目と口を同時に開いた。
 ひとまず、キーの位置が明らかになってブーンは安堵する。
 その内容が、自分の想像していたような楽な物であれば尚良かったのだが。

(;^ω^)(まったく、さっそく出番って訳かお……)

 脈絡を含め察するに、移動手段は彼女の視線を受けている黒い機械のみ、らしい。
141 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:04:49.48 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「まあ任せておけお魔法使いさん。召喚士さんだったっけ?」

 ブーンは得意気な表情でBLACK DOGを起動させる。
 BLACK DOGも力強くエンジンを回転させた。

ξ;゚听)ξ「これが乗り物って事はここに戻る前に知ったけど……
       あの鳥より早く走れるの?」

 ツンが指し示す怪鳥を見て、ブーンは鼻でせせら笑う。
 彼女の不安を払拭すべく、ブーンは自信を持って言い放つ。

( ^ω^)「僕の世界の力を舐めんなお、この世界のツン。
      ブーンと一緒で本当に良かった!って思わせてやるお!」

ξ゚听)ξ「……ふん、ちょっと期待しちゃおーじゃない」


ξ;゚听)ξ「あ! またアンタの膝の上に乗らなきゃならないじゃない!
       恥ずかしいし、ってかアンタの膝の上ってのが嫌……うーん……」

(;^ω^)「急いでるんならさっさと乗れお! ったく、この世界のツンも面倒臭いお!!」
143 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:08:35.83 ID:mi7wLlb/0
 渋々とブーンの膝に乗るツン。
 BLACK DOGこそバイクと言えない程大きいものの、座席は一人用である。
 その為、必然とツンは、同一とは言えど見ず知らずの男と
 身体を密着させなければならず、耳まで赤く染めあげてしまう。

ξ;///)ξ「うう……これも世界を救う為よ……!」

(;^ω^)「そんな嫌がらなくても……僕だってブーンだお?」

ξ;///)ξ「アンタなんて別人だし! っていうか、ぶ、ぶぶブーンだからって何!?
       べべべ別にアタシはブーンなんかどうとも思っちゃいないんだからね!?」

( ^ω^)「はいはい……ああ、そうだ。ブーンは当然、仲間なんだお?
      ちゃんと愛しのブーンに逢わせてあげるおwwwwww」

ξ;///)ξ「ちょっ、愛しのとか、そんなんじゃないっつってんでしょ!?」

( ^ω^)「はいはいwwwwwww
      まあそれは置いておいて、僕もこの世界のブーンには会ってみたいお。
      本質的に同一っていっても別人なんだお? どんな奴なのか、楽しみだお」

ξ − )ξ「…………」

( ^ω^)「どうしたお、ツン?」

ξ;゚听)ξ「あ、えっと、別に……出発しましょう!」
146 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:13:49.52 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「よし……BLACK DOG、時間が無いらしいから飛んでいくお!」

 ブーンの声に反応して――正確には彼の意思と――BLACK DOGの
 ハンドル部中央に埋め込まれたパネルが蒼く輝く。
 デジタルで表示された各メーターが徐々に上昇するに連れ、
 後部に搭載されたエンジンの唸りも音色をシャープに変えてゆく――飛び出すように走り出した。

ξ;゚听)ξ「そういえば、ずっと不思議に思ってたけど、
       この乗り物やアンタの武器って魔法じゃないの!?
       一体どうやって動いてるのよ!?」

 エンジンに負けないよう、声を張り上げて尋ねるツン。
 ブーンは笑って答えた。

( ^ω^)「僕の世界に魔法なんか存在しない! 後ろのミスリルもだお!
      これは、この世界における魔法を模した道具って思って欲しいお!
      だから僕はミスリルの輝きに虜になってたんだお!」

ξ゚ー゚)ξ「なるほどね! じゃあ、この世界の美しさを堪能するといいわ!
      悪いけど、アンタの世界はゴミゴミしていて綺麗だとは思わなかったもん!」

( ^ω^)「……堪能してる場合じゃないお」

147 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:16:51.97 ID:mi7wLlb/0
 言葉とは裏腹に、ブーンの返答は嬉々としていた。

 己の世界で果たさねばならぬ、セカンド狩りという使命。
 それは忘れてはならず、そして忘れる事など出来ようもない、己に架した罪滅ぼしだ。

 だが、ミスリルマウンテンと夜空の美しさは、
 その責務と罪の意識をも、一瞬、奪い取ってしまったのだ。

 前触れ無く訪れた時間停止。
 成り行きで始まってしまった異世界への旅。
 人知れず始まろうとしているブーンの旅は、後にも先にも戦いの日々を
 続けるブーンにとっての、一時の逃避の旅と言って過言ではない。
 彼自身も今、『セントラル』という重圧からの解放を感じているのだった。

( ^ω^)(僕は何を思ってるんだお……この旅の終着点だって戦いなんだお。
      しかも飛び切り強い敵との……負けたら僕の世界だって……)

 BLACK DOGは芝を焦がして傾斜を昇る。
 猛スピードで峠に差し掛かると、ツンが思わずブーンを制そうと、叫び声を上げた。

ξ;゚听)ξ「ちょおおおおおおおおおおおお!!
       飛び出しちゃうから速度落としてえええええええええええ!!」

(;^ω^)「え? あ、ぼーっとしてたお」

148 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:20:15.82 ID:mi7wLlb/0

 丘の頂点から、彼等は宙へと飛び出た。
 まるで星空の中へ飛び込んでいるような……そんな錯覚に2人の意識を奪われ、
 ツンは叫ぶ事を、ブーンはバイクの操作を忘れてしまった。

ξ;凵G)ξ「って、ぎゃああああああ!! 落ちてる! 落ちてるって――――!!」

 身体が気持ちの悪い浮遊感を覚えると、ようやくツンは
 落下している事に気づいて、再び喚き始めたのだった。
 ツンをきっかけにブーンも我に帰ると、「BLACK DOG!」と声を張る。
 するとバイクは変形を開始し、バーニアンを噴出させて再び空を昇っていった。

(*^ω^)「おお……」

ξ*゚听)ξ「ほわああ……」

 そうして丘を越え、二人は夜空から地上に埋め込まれた巨大な鏡に目を奪われた。
 湖は夜空を映し出し、2人に地と空という概念を取り上げてしまったのだ。
 上下問わずに輝く大粒の星と巨大な月、周囲にはミスリルを含んだ山々……
 空と湖が作り出した、黄金の世界である。
152 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:24:06.63 ID:mi7wLlb/0

ξ*゚听)ξ「これがブンゲイより伝わる、伝説の「黄金の海」ね!」

( ^ω^)「黄金の海? 確かに金の海を行ってるようだけど」

ξ*゚听)ξ「うん! んでね、この秘境には屈強な守護者が居てね、
       そいつはこの黄金の海を守る為に侵入者を一切許さないんですって!」

( ^ω^)「屈強な守護者ァ? んな奴が何処に――」

 突如、遥か上空から雄叫びが降り注ぐ。
 まるで質量を持っているかの如き雄叫びが、二人を押し潰さんと降り注いできたのだ。
 分厚く重い金属板が、若しくは鋭利な剃刀が、あるいはその両方が落ちてきたと
 思わせる雄叫びは、一聴して獣のものではないと判断できる。

 ロマンティックな時間は一時中断、血生臭い戦闘の開始である。

 それにしても、どれほどの高度で飛行していたのだろうか。
 ブーンの聴覚と視覚の“利き”は実に広範囲に及ぶのだが、そのセンサーに今まで
 反応しなかったとなると、「屈強な守護者」とやらはセカンド並に非生物的な存在に違いない。

(;^ω^)「言ってる傍から……来るお!」

ξ;゚听)ξ「さ、さっさとズラかるわよ!」

 ツンの言う通りかも、と反射的にアクセルペダルを踏み込もうとした時である。
 一筋の巨大な光が目の前を斜に過ぎり、かと思えば光は来た道を戻り、
 再び降下し、縦横無尽に飛び回って我々侵入者の退路を阻みに掛かる。
157 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:28:33.92 ID:mi7wLlb/0

 ブーンは後退しながら、バイクの武器庫から手早く“Sniper”を取り出す。
 そして目の前を鬱陶しく飛び回る「守護者」に銃口を向け――正しくは
 ブーンが予測する敵の軌道――、瞬く間に3発の弾丸を射出する。

 超高速で放たれた蒼い弾丸は見事に「守護者」の首筋に命中したが、
 致命傷はおろか、皮膚を貫く事すら出来なかった。
 しかしながら、驚かせて敵の動きを止める事は出来た。

 光の正体は、余りにも巨大な黄金のドラゴンであった。

 ミスリルと同じ輝きを持つ分厚い皮膚。
 その皮膚が張り裂けんとするほどに隆々と躍動する筋肉。
 ミスリルの山をも切り崩せそうな太長の鉤爪。
 全てを噛み砕いてしまいそうな暴力性を頭部は振り撒くが、
 靡く白い髭、鮮やかな赤の瞳が、ドラゴン特有の高い知能を想像させる。


ξ;゚听)ξ「や、やっぱりドラゴン! ドラゴンはヤバいわ! 逃げま――」

ξ;゚听)ξ「――ちょっ、ブーン!? どこ行ったの!?」

 一瞬、黒い風が吹いた。そんな錯覚を覚えたと思うや否や、
 気づけば異質の椅子に座らされていた。
 まさかと思いながらも、ツンはドラゴンの身体を隈なく見る――背中、翼の中心!
165 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:34:13.36 ID:mi7wLlb/0

(;^ω^)(Sniperが効かないんなら、Boosterで鱗を剥ぐしかねえお!)

 銃撃と同時に、ブーンは目にも止まらぬ速さでバイクから飛び出していたのだ。
 敵は「驚いて動きを止めた」程度のつもりかもしれないが、ブーンにとっては好機。
 右腕に搭載された攻撃支援プログラム“Booster”を起動し、
 出力最大の力で鱗を肉から引き剥がす。

ξ;゚听)ξ「す……凄い……」

 花弁の如く舞った黄金の鱗を見て、ツンは思わず呟いた。
 ブーンは剥き出しになった赤肉に容赦なくBBBladeを突き刺す。
 流石のドラゴンも強烈な痛覚を覚えて暴れ狂うが、
 ブーンは振り落とされんと鱗を手で掴んだ。

 人ならば触れた瞬間に切り傷を負う程、鱗は鋭利である。
 が、ブーンの全身はその硬度を上回る金属製のもの。
 ありったけの力で鱗を掴むも問題無し。肉を抉り出すようにして傷口を広げてゆく。
 ドラゴンは激痛の余り、身を捩じらせて金切り声を上げた。
 瞬間、ブーンは頭の中で鋭い痛みを感じるのだった。

( ;゚ω゚)「う、ぐっ……こ、こいつ……」

 近距離で聞く竜の叫び声は、人が耐え切れる音ではない。
 鼓膜は勿論、臓器に多大なダメージを与える音波攻撃と言ってよい代物だ。

ξ; )ξ「ぷ、Protec(プロテク)! Bafalin(バファリン)!!」

 意識を断たれる前に、ツンは防護と治癒の魔法を自分とブーンに施す。
 ――竜の声が小さく聞こえる! 身体を動かせる!
177 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:38:02.33 ID:mi7wLlb/0

( #゚ω゚)「喰らえッ!」

 “Booster”が稼働停止する寸前にBBBladeを投擲し、竜の後頭部に突き刺す。
 だが、分厚い頭蓋骨に守られ、BBBladeが脳を損傷させるには至らず。
 しかし本命は別、傷つけた背への攻撃だ。
 ブーンの右腕が物々しい音を立てて、瞬時に変形する。
 手首がブラりと折れ、隠された射出口が姿を現したのだ。

 射出口を竜の背の傷口に向け、

( #゚ω゚)「グレネード!」

 “Booster”のエネルギーを兼ねる球型カートリッジは、爆弾として射出される。
 同時、ブーンは竜の背を蹴り、天空へとグレネードの破壊力から逃れた。
 カートリッジは硬い筋繊維を強引に断って進み、肺の周囲を固める肋骨に
 衝突した刹那、爆発を引き起こした。

 赤い目玉が飛び、
 沸騰した血液が喉奥から吹き出し、
 蒼炎が突き破った丸い腹から、焼け焦げた臓器が地上に放り出される。

 ドラゴンは断末魔を上げる事も、
 最後の心音を聞く事さえ許されずに絶命し、その金色の身を同色の湖へと沈めていった。
188 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:43:06.74 ID:mi7wLlb/0

 その様を、ドラゴンの熱い血を僅かに浴びながら見ていたツンは、
 己の存命に安堵しつつも、一方でブーンの戦いぶりに震えていたのだ。

ξ;゚听)ξ「なんて奴なの……ドラゴンを倒しちゃったわ……」

 彼女が呟いたのとほぼ同時に、ブーンが天空より戻る。
 「どうしたのかお?」と、ブーンが無神経に聞くと、ツンは早口でまくし立てた。

ξ;゚听)ξ「どうしたのかお? じゃないわよ! アンタ凄い! 凄いわ!
      アタシの魔法支援があったっつっても、一人の人間が
      ドラゴンを殺すなんて、物語でない限り有り得ない事なのよ!?」

 興奮するツンをなだめようと、ブーンはたっぷりと間を置いてから言う。

( ^ω^)「僕のような人間が、こうして君の世界にいる事自体、
      物語のようなもんじゃないかお。僕自身、夢を見ているような気分だし」

ξ;゚听)ξ「……それもそうね……」

 未だ、唖然とした様子でツンは言った。

( ^ω^)「なら、何にも不思議な事じゃないお。
      この程度の妨害で躓いているようじゃ、とても世界を救うなんて
      大業は成し遂げられないはずだお」
193 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:46:38.87 ID:mi7wLlb/0

ξ゚听)ξ「……それもそうね!」

 最低な奴だと思ってたけど……信じてみていい、かも……。

ξ゚听)ξ「よーし! アンタの力も分かった所で、とっとと鍵のある場所に向うわよ!」

( ^ω^)「了解! それでは鍵の探索を再開!」

 BLACK DOGが再び闇夜を駆ける。
 ツンなら耐寒の魔法をかけていなければ身を凍えさせてしまう程の速度で。

ξ゚−゚)ξ「…………」

 ふと、ツンは後ろを振り返る。
 黄金の海の美しさを、目に焼き付けようと。

( ^ω^)「去るのが惜しいくらい、美しい光景だお」

ξ゚听)ξ「……でも、行かなきゃ」

 そう、行かなければならないのだ。
 たとえ死が――己の消失が辿るべき運命だとしても。

ξ − )ξ(行かなきゃ……ブーンを連れて……)

 未練は無い。

         これほど美しい光景を最後に見れたのだから――
203 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:51:24.99 ID:mi7wLlb/0
  ※


 ツン達がこの世界に帰還した際、漣の如き微弱な波動が世界中に及んでいたのだが、
 一端の魔術師とてそれを感知するのは難しい。

 それ故に現行世界の召喚士のリーダーたるツンは、
 今回の作戦が完璧だと思い込んでいた。
 その者気づかれぬよう、ラストアタックに向けて異界の戦士達を招集する作戦を。

《この世界に集結している……順調に》

 しかし、その者はあらゆる力に長けた者。
 剣も、知も、魔も、頂点を極めたと言っていい。

 何より、彼もまた異界の戦士達の来訪を待ち望んでいた者の一人。
 失われし聖剣の力を回復させる為には、強い人間の血が必要。
 即ち、異界の戦士の血こそ最も相応しいエネルギーとなるのだ。

 ツン達にとって最大の皮肉であると同時、聖剣にとって最大の苦策であったのだ。
208 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 20:57:05.63 ID:mi7wLlb/0
 従って、彼は鋭敏な集中力を持って、召喚の波動を待ち構えていたのである。
 そして彼は見事波動を察知し、戦士達の来訪を欣喜したのだ。

《異界より召喚されし、機械の武器を操る漆黒の戦士か》

 彼は手に持った黒いクリスタルから一時も目を離さないでいた。
 監視である。本当に待ち侘びた者であるかどうかの、見定めの為の監視だ。


 クリスタルの中心に映した男を睨み、


《ブンゲイの守護者を撃破したその実力……もっと見せてみろ》


 __
214 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:02:02.10 ID:mi7wLlb/0
  ※

( ^ω^)「ねえツン、あそこは?」

ξ;゚听)ξ「うーん……通称、“迷いの森”……かな。
       キーはこの森を越えた先にあるっぽい」

 二人が向う方角に、霞がかかった柱の群れが立ち尽くしている。
 「あれ、森なのかお?」と疑問したブーンはズームして見る……確かに樹木だ。
 樹木だが、いくらなんでも巨大だ。

(;^ω^)「あれが木とか……ファンタジーも休み休みにしてくれお……」

 幾万、幾十万年の樹齢を、あるいは特殊な生態系に身を置いている事を、
 木々の背丈が物語っていた。
 ブーンの目を持っても、天辺は見えない。

 ブンゲイ地方南部に広大な樹海があると、ツンは
 エスカル=ゴ=カタツムーリという冒険者が綴った冒険記を読んで知っていた。
 作中、ブンゲイの商人から「決して入ってはならぬ」と忠告を受けるのだが、
 ツンは実際に目の当たりにして、商人の忠告を素直に聞き入れたい気分になった。

( ^ω^)「切れ目も天辺も全く見えない……飛び越えるのも迂回も無理かお……?」

 高さもあれば、外周も相当なもののようだ。
 まるで世界と世界を隔てる巨大な壁のようである。
 森を飛び越えるのは可能かもしれないが、しかし生身のツンには耐えられそうにない。
227 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:07:59.47 ID:mi7wLlb/0

ξ゚听)ξ「アタシの好きな冒険記の話なんだけど、冒険者エスカルは
       この樹海を抜けて黄金の海を見たの」

ξ゚听)ξ「エスカルも最初は迂回を試みたんだけど、行けども行けども
      終わりは見えてこなかったの……実はそれに関する伝説があって、
      この森はブンゲイ地方はおろか、この大陸を北と南に隔てる境界になっているんだとか」

( ^ω^)「じゃあ、迂回は可能って事かお?」

ξ゚听)ξ「迷いの森を恐れて迂回を試みた冒険者は数知れない。
      でも、迂回に成功したっていう話は一切残ってないの。
      BLACK DOGは凄く速いけど、それでも危険だと思う」

( ^ω^)(ふむ……無意味に燃料を消費してしまうのは良くないお……)

( ^ω^)「冒険者エスカルは樹海を抜けるのに何日掛かったのかお?」

ξ゚听)ξ「2ヶ月。それをアタシ達は一日で抜けないと……」

( ^ω^)「……やるしかねーお。しかし、迷いの森と言っても
      僕達が進むべき方角は分かってる。迷う事は有り得ないお」

ξ゚听)ξ「……そうよね! よし! 進みましょう!
       行け! BLACK DOG! ……って、この子走らないじゃない!!」

(;^ω^)「はいはい、走らせますお」

 __
239 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:13:11.29 ID:mi7wLlb/0

(;^ω^)「で、見事に迷った訳ですが。ツンさん、何が起こったのか説明を頼む」

 森を奥深く行った所で、二人は迷いの森たる由縁を思い知る。
 どうやらこの森には、外界に漂う魔力の流れや波動を遮断する性質があるらしく、
 つまり鍵が放つ波動もその例外ではなかったのだ。

 念のためメモリに方角を記憶させていたブーンだが、
 ツンが魔力を感じなくなったと同時にシステムに不具合が起き、
 彼もまた進むべき方角を見失ってしまったのだ。
 これも恐らく森の持つ特殊な性質のせい……と、納得する他無かった。

ξ;゚听)ξ「思い出した……エスカルの心を折ろうとしたのが、森の魔力。
       森の深部に差し掛かると、コンパスの類が一切効かなくなるって話、本当だったのね」

ξ;゚∀゚)ξ「ごめん!!」

(;^ω^)「ごめんじゃねえー! 早く思い出せっつーの!!」

 二人は道中、結構な数の白骨死体を確認している。

 黄金の海を夢見る冒険者達を期待させて森の深き所にまで誘い、
 そして白骨になるまで閉じ込める……それが、迷いの森の役割のようだ。

(;^ω^)「ええい、仕方ない……進むお」

 オーナーの沈んだ気分と同調しているかのように、
 BLACK DOGもまたエンジンの唸りを静かに響かせた。
245 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:19:12.93 ID:mi7wLlb/0

ξ;゚听)ξ「うう……こんな所で迷ってる場合じゃないってのに……」

( ^ω^)「元はといえば、お前が鍵を落としたり魔法に失敗したのがいけねーんだお」


   プロテク、パンチ! ξ#;凵G)三○)ω^) ぐああああああああああああ!


ξ;凵G)ξ「アタシだって気にしてるわよ! 反省してるわよ!
       お願いだからみなまで言わないで……ぐすっ」

(;^ω^)「ぐおお、あっちのツンのパンチ並に効いたお……」

( ^ω^) グウー
ξ゚听)ξキュゥーン

ξ;--)ξ「……お腹空いたぁ……はあ、踏んだり蹴ったりね……ごめんね」

(;^ω^)「あ、いや、悪かったお! そうだ! 食料は持ってるんだお!」

 BLACK DOGに指示を飛ばし、ボディサイドから収納を出す。
 そこから二つの小さなパックを取り出し、蓋を開けてツンに渡してやった。
 ツンはパックを取るが、顔を顰めてまじまじと観察する。
253 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:25:03.80 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「ほら、こうやって吸うんだお」チュー

ξ;゚听)ξ「ほうほう……」チュー

ξ*゚听)ξ「あら、美味しい苺ジュースじゃない!
      でもこれだけでお腹一杯になんかならないわよ」

( ^ω^)「大丈夫。液体化食料、通称ゲロは一本で
      一回分の食事に値する栄養があるお。これ以上飲んだらピザになっちまう」

ξ゚听)ξ「ピザ……? よくわかんないけど、なんだか忙しそうね、アンタの世界って」

( ^ω^)「あの化物達に負けないよう、毎日必死に働いてるんだお。
      働きづめの後の一杯が最高だって、ドクオはよく言ってるお」

ξ゚听)ξ「ふーん……なんだかアタシが知ってるドクオとは大違い――」

 突然、ツンはブーンに口を手で塞がれた。

ξ;゚听)ξ「モゴモゴモゴォ!?(何すんのよ急に!?)」

( ^ω^)「シッ――、近くに何かいるお……」

 ツンは目を凝らして辺りの暗闇を見渡すが、とても何かがいるとは思えなかった。
 しかし、「機械」と呼ばれる物で身を包むブーンが断言するのだ。
 先のドラゴンとの戦いで彼の能力を見たツンは、
 たとえ自分の目が利かなくとも、脅威が迫り来るのだと確信してそっと杖を取り出す。
259 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:30:00.61 ID:mi7wLlb/0
 ブーンも音を立てずにBlueBulletGunを右腿のホルダーから引き抜く。
 既に敵の位置は、最初の動作と呼吸音で特定済み。
 しかし正体不明な今、安易に撃つべきではない。無害な動物かもしれないのだ。
 我々に害を与える存在であれば、容赦無く撃つのみ――。

《キキィッ!!》

 猿に似た――いや、猿そのものの声を発して、そいつは襲い掛かってきた。
 動きは中々早いが、撃つまでも無いと判断し、
 ブーンは咄嗟に銃を収めてそいつの首根っこを捕まえてみせた。

《ウキィ――――!》

(;^ω^)「ツン、なんだコイツは」

ξ;゚听)ξ「……エスカル冒険記に登場する“ピポザル”かな。名前の由来は不明。
       食料を奪われた詰んだ、なんてエスカルは嘆いていたけど……」

 顔と身体の形状は猿である。
 この生物を猿とは異質の存在であると決定づける象徴が、
 煌々と赤く輝く頭部の水晶だ。

(;^ω^)「この猿、どうやらツンの液体化食料を狙ってたらしいお」

 捕まっている事も意に介さず。ピポザルは苺の芳醇な香りが堪らないらしく、
 届きもしないのにツンの持つパックをひったくろうと手を伸ばしている。
267 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:35:43.96 ID:mi7wLlb/0


「……――ッチュ……」


(;^ω^)「――ッ! 今、遠くの方で人の声がしたお!」

ξ;゚听)ξ「え!? こんな所に人が!?」

(;^ω^)「間違いない、猿の声も多数! 少し遠くの方だお!」

 ブーンはピポザルを木に投げつけて気絶させた後、BLACK DOGを急発進させる。

 二人の考えは違い無く一致していた。
 その人間は、森を抜ける手掛かりになるかも、と。
 それは期待ではなく、そうであって欲しいという願望だ。

 でなければ、永遠に森を出る事無く、飢えて死ぬ。
 その前に、アンノウンが世界を滅ぼしているかもしれない。


( ^ω^)(何処の誰だが分からないけど、頼むお……!)


 ブーンは、声の主に全てを託す思いでBLACK DOGを走らせた。
276 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:39:48.86 ID:mi7wLlb/0
 その声の主は猿の群れに襲われていた。
 やはりピポザルの狙いは男の持つ食料である。
 この広大な森を行く者にとって食料とは生命線そのもの。
 食料を奪われる事が死に直結すると過言ではない故、男は必死に抵抗する。

 男はピポザルの頭部で輝く赤水晶目掛け、柄付きの網を振るう。
 ひとたび網がピポザルの赤水晶を捕えると、赤水晶は忽然とその姿を消してしまう。
 赤水晶を失ったピポザルはばったりと倒れ、ピクリとも動かなくなる。

 しかし、外見からは想像できない程に、ピポザルの学習能力は高い。
 男の振るう網が最強の脅威であると見なすと、果敢に網を掻い潜り、
 そして網を狙って攻撃し始めるのだった。

《キキー!!》

 時にはフットワークし、時には網を振るい、男は猛然と抵抗し続けるが、

「チィ、ゲットアミが……!」

 如何せん数が多すぎる。
 無情にも網は破壊され、これで男は最も効果的な攻撃方法を失ってしまった。
 そして迫り来る大波のような猿の壁。
 圧倒的な人海戦術の前に、男は飲み込まれる事を覚悟した。
282 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 21:44:30.93 ID:mi7wLlb/0
「Thunder(ツンデレ)!!」

 まさに飲み込まれる寸前、何処からか迸った電撃がピポザルを蹴散らした。
 強烈な電流が多くのピポザルの身を黒々と焦がし、無力化する。
 男は、生じた隙の間に新たな網を迅速に組み立てた。

ξ#゚听)ξ「Thunder! Thunder! っておい!
       ブーン! 見てないでお前も働かんかい!!」


(; ω )「いや、そんな、まさか……」


ξ#゚听)ξ「そんなもまさかも今は置いといて! 数が多いわ! 撃って!」

(; ω )「りょ、了解!」

 本質的に同質の者が、並行して存在する各世界に、一人いる。
 名や顔が違えど「ブーンという性質」を持つ自分に似た人間が
 他の世界に存在するように、ツンが、ドクオが、ショボンが、ジョルジュが、皆が存在する。

 ブーンは――B00N-D1ことホライゾン・ナイトウは、考えもしなかった。
 それは次々に展開するファンタジーのせいかもしれない。
 もしくは世界の命運を背負ったプレッシャーのせいかもしれない。

 彼が、ここにいるなんて事を。

(; ω )(信じられないけど、あの声、あの姿は――――)
327 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:00:08.50 ID:mi7wLlb/0
__
_

  LOG 数日前、ブーンの世界のボストンにて


「俺が生きている限り、バイクは走り続ける。
 なに、安心しろ。ちゃんとニューヨークまで連れて行ってやるさ」

(; ω゚)『オッサン、何を言って――』

『俺もすぐに追いつく。必ずニューヨークに向かう』

『ところで俺はオッサンでもソリッド・スネークでもない。
 俺の名前はデイビッド。お前の名前を教えてくれ、相棒よ』


(  ω゚)『……ホライゾン・ナイトウ』


『ホライゾン……いい名前だ。
 その名にちなんで、地平線に向かって走らせてやるさ!』

 あの日、ソリッド・スネークは、恋人の死を切欠に暴走したギコから
 ブーンとビロードを救う為に、自ら犠牲になる事を選んだ。
337 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:04:01.95 ID:mi7wLlb/0


スネーク『一時パートナーは休止だ、若いの』

(; ω゚)『オッサン! バイクを戻せ! ふざけんなお!』



スネーク『ビロードを、頼むぞ』


(;//‰゚) 《き、貴様……ぶ、ブーンを……!》

 二人をボストンから脱出させ、一人その場に残るスネーク。
 しかし、新たな種として進化したギコと、旧時代のサイボーグであるスネークとでは、
 余りにも大きな戦闘力の差があった。

スネーク「がはっ! ぐお……っがあ…………」

(//‰゚) 《ハハ、いいぞいいぞ! そろそろ喰らってやる!
      恐ろしいだろうスネーク! こんな経験は傭兵時代にも無かっただろう!?》

 一方的な戦いとなる事は分かっていた。
 それでもスネークにはギコを倒す勝算があったのだ。
340 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:07:11.51 ID:mi7wLlb/0

スネーク『俺は国に作られた兵士であり、抑止力でもある。
      巧みに組み込まれた“とある機関”を除去するには、国家機密レベルの
      パスワードを入力する必要がある。探したんだが見つからなくてな、このままだ』

(;//‰゚) 『何を言っている!?』

スネーク『そう質問ばっかりじゃ成績は1だな、元大学生。
      そろそろタイムオーバーだ。さあ、答えられるかな?』


(;//‰゚) 『ま、まさか……抑止力とは……?』



 己の体内に内臓された「核爆弾」を起動させる――自爆だ。



スネーク「“それ”を起爆させるのは、俺の意思でも可能でな」

(;//‰゚) 『うおおおおおおおおおおおおおお!!』


スネーク『時間切れ。そして焼却処分のお時間だ』


   LOG 数日前、ブーンの世界のボストンにて――――
342 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:10:38.03 ID:mi7wLlb/0


(; ω )(信じられないけど、あの声、あの姿は――――)







スネーク「ゲッチュ!ゲーッチュ!」






(; ω )(オッサン! オッサンだ!
      スネークが……デイビッドのオッサンが、この世界にも居たんだお!!)
347 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:14:11.76 ID:mi7wLlb/0

ξ#゚听)ξ「ツン……デッ! ルェ――――!!」

 決死の声で紡がれる魔法。
 杖の先端に着けられた黄色の水晶から紫電が迸る。
 だが、それは今までの物よりも明らかに弱弱しく、ピポザルを痺れさせただけで
 その役目を終えた。

ξ;--)ξ「ハァハァ……も、もうだめ……魔力ゼロだっつーの……」

 力の入らない体をブーンに預けるツン。
 思えば、彼女はアンノウンとの決戦から今まで戦い通していたのだ。
 疲弊しきっているのが当然だった。

( ^ω^)「そこで隠れてるお、ツン!」

 座席にツンを座らせ、ブーンはBLACK DOGのフロントボディに膝をつく。
 右手には剣、左手には銃を持ち、赤水晶の群れへと跳躍した

 背面の姿勢で敵の上空へ。
 ピポザルは男を取り囲む形で構えているが、BLACK DOGの方にも注意が行っている。
 空中から見下ろすピポザルの群れは意外にも奇怪で、
 不気味な赤色の光を放つ蟲が蠢いているように見える。
350 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:19:59.53 ID:mi7wLlb/0

(#^ω^)「蹴散らしてやる!」

 BlueMachingunのトリガーを絞り、ブルーエネルギーの散弾を射出する。
 前触れなく発生した光の豪雨から身を守る術は無く、ピポザルは
 肉片を飛び散らせて地面に伏す。

 男のいる中心点に着地するブーン。
 二人は互いに顔を見る事無く、背と背を合わせて敵の出方に備えた。


(;^ω^)「お、オッサン……大丈夫かお?」

スネーク「油断するな……見ろ、ピポザルが肉体を修復するぞ」

 赤水晶が一際眩い光を放ち、主の身体を包み込んだ。
 すると痛々しい傷口から無数の血管と筋繊維が“生え”、
 やがて太く纏まった肉は皮膚を持ち、失った腹部や四肢、心臓までも再生するのだった。
353 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:22:28.49 ID:mi7wLlb/0

(;^ω^)「なんだこいつら……ツンが焼いた奴等まで完全回復してやがるお」

 このような強靭な回復力を生物に与えられるのは、
 自分の世界に存在するセカンドウィルスのみ。
 まさかと思いつつもサーモグラフィで熱量を確認すると、やはりウィルスの熱反応は窺えなかった。

 回復を終えたピポザルが一斉に飛び掛った。
 ブーンは銃と剣で猿どもを軽々と一蹴する。
 心臓や脳を的確に捉えるブーンの攻撃は、生物の生命活動を完璧に奪取しているといえる。
 だが、それはあくまで「生物」という条件の下であり、ピポザルはそうもいかなかった。

 ピポザルはどういう原理か不明だが、傷を再生して何事も無かったように立ち上がったのだ。
 ブーンは自分の目を疑いそうになるが、赤水晶の異変に気づけた。
 再生の際に輝きを増す赤水晶、あれを破壊する事が対ピポザル戦術であろう。

スネーク「頭部の水晶を狙え! あれが奴等の魔力源だ!」

( ^ω^)「ビンゴ、了解だお!」

 そこからは一方的な戦いであった。
 漆黒の戦士達は迅速に敵の魔力源を破壊し、停止した猿で一山築き上げたのだった――

__
356 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:26:46.96 ID:mi7wLlb/0
  ※


(;^ω^)(オッサン……本当にあのオッサンだお……)

 改めて見る男の容姿は、とにかく黒一色だ。
 身を包んでいるのはツンが着ているようなローブではなく、
 ブーンの着るラバーとレザーを合わせたかのような質感の物だ。
 膨れ上がった筋肉にぴっちりと張り付いている様も、ブーンの容姿と合致している。

ξ゚听)ξ(なーんかブーンみたいに変な格好してるわねぇ)

 こちらの世界の住民らしくない風貌である。
 それどころか、ブーンの世界に居た方が自然かもしれない。
 そう思い、スキャンを試みたが、彼を覆うスーツの材質がそれを許さなかった。
 やはり彼は「こちらの住人」なのだ。

スネーク「ふー……」

 黒尽くめの男は懐から煙草を取り出し、先端に火をつけた。
 その一挙一動、声、顔。
 見れば見るほど、自分の知るデイビッド・スネークそのものである。

 異なるのは、彼のトレードマークであった
 “くたびれた黒いバンダナ”が、額に無い事くらいだろうか。
360 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:30:17.21 ID:mi7wLlb/0

スネーク「支援に感謝する。危うくこちらが狩られるところだった」

 黒尽くめの男は煙草の紫煙を漂わせて二人に言った。

 男が香らせる煙草のニオイを嗅いだブーンは、急に乾きを感じ始めた。
 向こうからこっち、ツンが休み無く戦っていたように、
 ブーンはニコチンを摂取していなかったのである。

 ブーンはすぐにバックパックからマルボロを取り出し、
 ジッポライターで火をつける。オイルと煙草の独特な香りが立ち上るが、
 ツンには不評の様子だ。
  _,,_
ξ゚听)ξ「いえいえ、旅先で困ってたら助け合うのが当然ですって。
      アタシはツン。んで、こっちが、」

(;^ω^)「……ホライゾン・ナイトウ。ブーンでいいお」


「俺の事はスネークでいい。お陰で命拾いした、若いの」


(;^ω^)(やっぱり、スネークなのかお。それに、このオッサンも……
      若いのって呼んでくれるのかお……)
363 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:34:36.75 ID:mi7wLlb/0

スネーク「何だ? 人の顔をまじまじと。言っとくが俺にそっちの趣味は無いぞ」

(;^ω^)「ち、ちげーお! そういう事じゃなくて……」


( ^ω^)「何でも、ねーお……」

 ブーンは苛立ちにも似た心地悪い気分に犯されていた。

 目の前のスネークは、スネークでありスネークではない存在。
 そうだと分かっているのだが、容姿から声、
 性格までも一致しているこの男を別人だと思いたくないのだ。

( ^ω^)(いや、別人ではないんだお。本質的に同一なんだから、
      このオッサンもまたスネーク……ただ、僕とは何の関わりも無い人間なんだお)


ξ゚听)ξ「ところで、貴方はここで何をしているんですか?」

スネーク「ああ、ピポザルの赤水晶を集めていたんだ。こいつの魔力は便利でな。
      このゲットアミで水晶を覆えば、俺の住む街に瞬間転送される」

ξ;゚听)ξ「街!? それって、この近くにあるんですか!?」

スネーク「ん? ああ、この森を北の方角に抜けて、すぐな」
365 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:39:08.95 ID:mi7wLlb/0

ξ;゚听)ξ「良かったら森の出口まで案内して頂けませんか?
       アタシ達急いでいるんです!」

スネーク「構わないが……しかし、見たところ
      そっちの若いのは俺の街の戦士かと思ったのだが、違うのか?」

( ^ω^)「オッサンの街の? 戦士?」

スネーク「地下都市『セントラル』の、俺と同じ魔導戦士じゃないのか……?」

(;^ω^)「せ、セントラルゥ!?」

 各パラレルワールドに異なる自分がいる、それは納得出来たのだが、
 まさか我が地下都市まで存在し得る可能性の一つだとは、ブーンは露にも思っていなかった。
 その驚きようを見て、スネークは改めて「ブーンを変な奴」だと評価する。

スネーク「なんだ、違うのか。別部隊の所属かと思ったんだが……うーむ、
      まあいいだろう。今、世を騒がすアンノウンの手先にも見えんしな」

スネーク「立ち話もなんだ。今夜は俺の野営地で休もうじゃないか。
      アンタ達の事情も是非お聞かせ願いたいしな」
373 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:43:37.19 ID:mi7wLlb/0

ξ;゚听)ξ「申し訳ないのですが、悠長に話している時間が無いんです。
       明日の昼までには森を抜けないとならなくって」

 スネークは懐から何かを取り出して、狼狽するツンに突きつけた。
 時計に似た形状の小さな機械、レーダーの類だろうとブーンは予想する。

スネーク「ソリトンレーダー。セントラルで開発された特殊なコンパスだ」

スネーク「この樹海は見た目こそ広大だが、実は正しい順路で歩けば
      3時間で外に抜けられてね。魔力で出来た迷宮って訳だ。
      このコンパス無しじゃ、よほど運が良くなけりゃ森を出られないだろう」

 そこまで聞くと、ツンは糸を切られた人形のように地に膝を付いた。
 呆然とした表情で、ぶつぶつと「じゃあエスカルは運が良かっただけ?」と呟いている。

ξ;゚听)ξ「はあああ……とにかく助かって良かったわ。これも聖剣のお導きかしらね」

( ^ω^)「……まったく、同感だお」

 呆れたようにブーンは呟く。
 聖剣がこの世の全てを統べる神だとしたら……いや、実際そうなのだろう。
 でなければ、よりによってデイビット・スネークと再会出来るはずが無い。
 ブーンはそう思いたかった。

 この再会が本当に偶然であるとは、ブーンには思えなかったのだ。
 そうであるならば、別のスネークと引き合わせた聖剣の意図とは何だろうか――
375 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:47:00.15 ID:mi7wLlb/0
 スネークに着いて行くこと20分、入り組んだ木々の道を抜けると、
 樹海の中のオアシスとも言える場所に野営地はあった。
 一人で寝るには大きすぎるテントと、それから純度の高い水で出来た池もある。

 ブーンを再び驚かせたのは、スネークが黒いバイクを所有していた事だった。
 正確には自動二輪車の可能性の一つ――なのだろうが、ともかくバイクの形状をしている。

ξ゚听)ξ「それも走るんですよね? 動力は何なんですか?」

 ツンは、テントの近くに停まっているバイクを指差して尋ねた。

スネーク「魔力だ。ピポザルの赤水晶から取った、な。
      ここいらはアンタのような魔術師が生まれない代わりに、“魔導機”と呼ばれる
      魔法を模した道具を産み出して何とかやってるって訳だ」

スネーク「若いの、お前のバイクや武器の動力は、ここで採れる魔力じゃないな?」

 その言動から、スネークの乗り物もバイクという名称だとブーンは理解した。
 それにしても、電力をどのように説明すべきなのだろうか、とブーンは回答に迷った。

 「うーん」と濁らせながら十数秒、ようやくブーンは明朗に話し始める。

( ^ω^)「ツン、そこら辺も含めて僕達の成り行きと、世界の現状を説明するべきだお」

ξ゚听)ξ「あ、そうね」
378 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:50:35.20 ID:mi7wLlb/0

 ツンの魔法で焚いた火を囲い、3人はスネークの淹れた茶を嗜んでいる。
 それでもツンとブーンが抱える不安と焦燥は、頭を引っ込めようとしなかった。
 ありのままにツンが語る恐ろしき現状と経緯を、スネークは首を傾げたり、
 眉をひそめたりしながらも、静かにそれを傾聴していた。

スネーク「聖剣に導かれし異世界からの来訪者……。
      お嬢ちゃんの友人のブーンではなく、もう一人のブーン、か。
      フッ、信じられんな。何か悪い物でも口にしたんじゃないのか? ん?」

(;^ω^)(信じられないのはこっちだっつーの……)

 だというのに、聞き終わった後の一言がこれだ。
 この世界でもスネークが皮肉屋な性質であると知り、ブーンは思わずニヤけてしまった。

 が、2人のいきさつなど何も知らぬツンは、顔を紅潮させて吠える。

ξ#゚听)ξ「ちょっとねえ! こっちは大真面目なのよ!
       本当に命懸けでアンノウンと戦って、このバカ連れて帰還したんだから!」

( ^ω^)「大事な鍵無くしたバカにバカって言われたくねーお、バカ」


   悪かったって言ってんでしょうがバカ!ξ#゚听)三○)ω^)ぎゃああああああああ
381 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:53:24.91 ID:mi7wLlb/0

スネーク「なに、冗談だ。そう怒りなさんな。俺も大真面目に信じてるさ」

 スネークは、ツンらが数え5本目となる煙草に手をつける。
 打って変わって、その顔は神妙だ。

スネーク「奴が……アンノウンが大陸一つ消し飛ばしたって話は聞いている。
      その目的が世界征服などではなく、世界の破壊だとはな……欲の無い男だ」

( ^ω^)「それにしても、何の為に全世界を破壊しようなんて思ってんだお?」

ξ゚听)ξ「全ての破壊と消滅が存在理由だからよ」

(;^ω^)「いまいち要領を得ないお。どういう事なんだお?」

ξ゚听)ξ「んーと……そうね、聖剣が言うには“存在する事が出来なかった存在”の集合体が
       アンノウンの実態なの。存在したかったけど出来なかった存在、
       って言った方が正しいのかもしれないわね……だから、んと、」

( ^ω^)「つまり嫉妬、って事になるのかお?」

ξ゚听)ξ「かもね。そんな理由で全てを無に還そうってんだから、たまったもんじゃないわよ」

 「まあともかくだ」と、スネークが切り出す。

スネーク「夜も更けてきた。明日は早く出発するから、とっとと寝ろ。
      聞けばお嬢ちゃんは戦い通しだったんだろう?」

ξ゚听)ξ「そうよ。そう言われてみれば……眠いかも……」
388 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 22:57:13.52 ID:mi7wLlb/0

ξ--)ξスピー

 ツンは切り株に座ったまま寝てしまった。
 憔悴した寝顔を見て、ブーンは「よほど疲れていたんだろう」と察する。
 時間に追われていたとはいえ、少し彼女の身を気遣うべきだったと、自分の唇を噛む。

 ブーンは彼女を抱え、スネークのテントに寝かせてやった。
 テントの底は厚くて柔らかいので、疲れも取れるはずだ。

 テントから出ると、また新しい煙草を咥えているスネークと目が合った。
 何故かブーンは顔を熱くし、心音を高鳴らせた。
 照れなのか緊張なのか、よく分からない気分だ。
 ブーンは頭を掻きながら、スネークの対面に腰を下ろした。

 2人は、めらめらと燃える火を眺めながら、煙草を黙々と吸う……。
 沈黙を破ったのはスネークだった。

スネーク「なあ、若いの、お前の世界はどんな所なんだ?」

 意外な、――いや、この場合なら、そう尋ねるのが普通なのかもしれない。
 少し温くなった茶の残りを啜り終えてから、ブーンは言う。
390 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 23:00:48.23 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「うーん……ずっと戦争ばっかりしてた世界だお。結局、戦争を止めたのは
      人間の意思じゃなく、凶悪な病原体だったお。
      病原体は強い感染性があって、次々に人々は理性と感情の無い化物になって……
      それで世界から大勢の人がいなくなったお」

( ^ω^)「生き残った人達は地下都市『セントラル』に隠れながら
      武器を作って、化物に立ち向かってるお。
      もっとも……大多数の人は戦いに行ったりしないけど」

スネーク「セントラルが存在するのか。しかも地下にな」

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの顔で、スネークは笑いながら返した。

( ^ω^)「僕も『セントラル』があるって聞いた時は耳を疑ったお」

スネーク「そりゃそうだ。まさか街まで可能性の一つだと思わんだろう。
      となると、もう一人の俺も当然いるんだろうな。知らんか?」

(;^ω^)「それは……」

スネーク「会った事があるのか?」
391 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 23:03:09.39 ID:mi7wLlb/0

( ^ω^)「……僕の戦闘パートナーだったお。たった数日の間だけだったけど……」

スネーク「死んだのか……さっきのお前の戸惑いようも、そういう事だったか」

 俯いて無言を保つブーンの様を、肯定とスネークは受け取った。
 ブーンはおもむろに左腕に巻いていたバンダナを取り、
 懐かしむようにバンダナをくゆらせた。

( ^ω^)「オッサンの形見だお。オッサンのトレードマークだから、
      アンタも着けてるもんだとばかりに思ってたお」

スネーク「別世界とはそういうものなのか? なにも趣味まで同じという事はなかろう」

 「ヘヴィスモーカーってところは同じだお」と答えて、ブーンは静かに続ける。

( ^ω^)「……今でも、死に際にオッサンが
      何を思ってこのバンダナを僕に託したのか、分からないんだお」

( ^ω^)「分からないけど、あの過酷な世界で誰かを守る為に、
      迷い無く戦ったデイビッド・スネークのように、僕はなろうと思ってるんだお」
396 : ◆jVEgVW6U6s :2010/11/24(水) 23:06:12.98 ID:mi7wLlb/0

スネーク「デイビッド・スネーク……」

( ^ω^)「デイビッドはあっちのオッサンの名前なんだお」

スネーク「ああ。名前まで同じだと奇妙な感じでな」

( ^ω^)「なんだ、同じ名前だったのかお」

スネーク「何だか分からんが、因果なものだな……さて、そろそろ俺も寝るとする。
     俺は外で寝るか……お前達2人の邪魔はできんしなぁ」

(;^ω^)「おい、何で僕達をカップル扱いするんだお」

スネーク「何だ、違うのか。てっきり出来てるもんだとばかりに思ってたが……
      遠慮なくテントを使わせてもらおう。ふっ、性欲をもてあます」

( ^ω^)「近づかない方がいいお。あれは、凶暴だから」

スネーク「……外で寝る」


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