476 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:38:50.47 ID:0WNQbzNL0
 
 
   ───我は汝 汝は我───
 
 
 語りかけるは、心の海をたゆたいし。
 時には神を、時には悪魔をうつし身に。
 
 
 迫り来る、冥府の刈り手を屠らんと。
 宿り手に、決して深くを語らずに。
 
 
 ───我は汝の心の海より出でし者───
 
 
 ただ、求む。
 
 汝が敵に立ち向かうことあるなれば。
 
 
 我の名を呼べ、と。
 
 
478 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:40:11.79 ID:0WNQbzNL0
 
 強固な自我を示した者のみに与えられる、異能の力。
 その全ては、『這い寄る混沌』を討つために。
 少年達は、少女達は、運命という演目の舞台に上がる。
 
 
 しかしその演目は、一旦の中断を見る。
 
 
 遠く離れた異世界で、全てを巻き込む運命を前に。
 少女は挑む。己の世界を護る為。
 
 
 舞台は転じ、再び激戦の幕が開く。
 
 
 多世界交わる空前の大舞台。
 
 然れども心の海にたゆたいし、その声に変わりなく。
 
 世界の果てにいようとも、言霊一つで馳せ参ず。
 
 
 その力こそ、即ち────
 
 

479 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:40:41.91 ID:0WNQbzNL0
 
 
 
 
 
 
 
物語のページが( ^ω^)´・ω・)゚听)ξ川 ゚ -゚)応えるようです
 
 
 
 
 
          【Single Part : Persona】
 
 
 
 
 
 
 
 
481 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:42:31.44 ID:0WNQbzNL0
 

 
 何が起きたか、わからなかった。
 わかるのは、ずきずきとする痛みと、ひりひりとする痛みだけだった。
 
 戦いから退場した私は、身を起こす事も出来ずに、倒れていた。
 ブーンとミセリさんと一緒に戦えないことが、悔しくて、悔しくて。
 それでも、どうしても全身に力が、入らなくて。
 
 必死に横を向くだけで、もう手を動かす力も無くなって。
 
 とさりと、腕が落ちた時。
 
 
 何かに、触れた。
 
 
 その直後、目の前が真っ白になって……。
 
 
ξ; 听)ξ「ここは……」
 
 
 気がつけば、さっきまで戦っていたはずの場所と、違う場所にいた。
 
483 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:45:04.54 ID:0WNQbzNL0
 
 相変わらず、体は言う事を聞いてくれなかった。
 ここのところ連日続く、非日常的な現象達には驚かされるばかりだ。
 しかし、身動きが取れない状態でもあまり警戒はしていなかった。
 
 九十度傾いている景色だけれど、見覚えがある。
 四角い部屋をくり抜いて、そのままそこに置かれたような空間。
 壁は無く、代わりにテレビや本で見た宇宙のような世界が、広がっていた。
 
 果てしなく伸びる四本の支柱が生えた床には、白黒のタイルが交互にいくつにも。
 その、中心。一段高くなっている場所があった。
 
 私が知っている景色とは、そこで違うものになった。
 
 今までに二度、ここを訪れている。
 その二度と、異なる箇所。
 
 恐らくはこの空間の主で、私にペルソナを与えた人が。
 『フィレモン』の姿が、そこになかった。
 
 私達の街に脅威が近づいていることを伝え、導いてくれた人が、いない。
 それならば、何故私はここに呼ばれたのだろうか。
 
 ブーンは、ミセリさんは、戦いはどうなったのだろうか。
 

484 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:48:09.09 ID:0WNQbzNL0
 
 そこで私は、虚ろだった意識がはっきりとしてきている事に気が付いた。
 初めて来た時もそうだったけれど、この空間は何故か落ち着くことができる。
 
ξ; 听)ξ『……ペルソナ』
 
 ぽつり、言霊を紡げばペルソナは現れた。
 ついさっき、戦いの場にいた時には、もう喚べまいと思っていたのに。
 この空間にある何かが作用したのだろうか、それは、わからなかった。
 
 何にせよ、ペルソナを喚べることは私にとって最良だった。
 
 治癒の言霊を紡ぎ、打撲と火傷の処置をする。
 温かい光に包まれて、痛みがゆっくりと引いていくことを感じつつも、
 ミセリさんに遠く及ばない治癒能力が少しだけ、焦れったく思えた。
 
ξ゚听)ξ
 
 傷を癒やして、立ち上がる。
 景色が九十度戻っただけで、他に何も変化はなかった。
 周りを見渡し、一歩、足を前に出すと、
 
ξ゚听)ξ「……?」
 
 つま先が何かに触れた。
 
487 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:51:22.90 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「これは……」
 
 落ちていた物は、デレとエクストが持っていた、『黒い箱』
 名前はたしか、黒きトラペゾヘドロン、と呼ばれていた気がする。
 でも何故これが、ここにあるのだろうか。
 
 手の平大の箱を拾い上げて観察するも、特に変わった様子は見られなかった。
 蓋があるわけでもない、揺らして音が立つわけでもない。
 『黒い箱』は手にとっても、『黒い箱』でしかなかった。
 
 視線を周囲に戻す。
 相変わらず、宇宙の様な空間がどこまでも、広がっていた。
 
 
ξ゚听)ξ「……フィレモン?」
 
 
 呼びかけには誰も答えない。
 そもそもあの人がなんなのか、私は何も知らない。
 だけど私がここにいると言う事は、きっと何か伝えたい事が────
 
 
ξ;゚听)ξ「!?」
 
 
 ふいに、遠くに見える星が、一際強く光り輝いた。
 
489 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:54:02.90 ID:0WNQbzNL0
 
 それは段々と輝きを増していき、大きく脹らんでいく。
 …………違う。こっちに、近づいてきている。
 
ξ゚听)ξ
 
 少し下がって、身構える。不思議と力は、充実していた。
 ペルソナでは戻せない体力も、精神的な疲労も快復している。
 わけのわからないことだらけだったけれど、それだけは助かった。
 
ξ; 听)ξ「っ……」
 
 眩しい光に思わず片目を瞑る。
 もし敵だとしたら、視線を外していたら危険だ。
 
 ここには私しかいないのだから。
 護ってくれる人は、いないのだから。
 
 
 やがて、中央の段を挟んだ向かい側の床に、光が『着地』した。
 着地した、と思ったのは、光が人の形をしていたからだ。
 
 輝きは徐々に弱まっていき、少しずつ容姿が確認できるようになっていく。
 
493 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:57:03.56 ID:0WNQbzNL0
 
 古めかしい、裾が所々切れている外套を羽織った姿が、
 漫画で見るようなファンタジー世界の魔法使いを連想させた。
 でもそんなことは、どうでもよかった。
 
ξ;゚听)ξ「────!」
 
 驚いた。私はその顔を、知っていたからだ。
 その名前は本当に、ごく自然に口から飛び出した。
 
 
ξ;゚听)ξ「ブーン!?」
 
 
 幼馴染みの、内藤ホライゾン。
 小さな頃から呼び続けていたあだ名が、ブーン。
 光に包まれて現れたのは、間違いなく、ブーンだった。
 
 まさかブーンも、フィレモンにここへ呼ばれたのだろうか。
 だとしてもあの格好は、一体どうしたのだろう。
 
 両手と片膝をついていたブーンはきょろきょろと周囲を見渡し、立ち上がった。
 服装以外の、違和感。よく見れば、少し大人びているように見える。
 体つきも、どことなくがっちりとしているように思える。
 

494 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 15:58:20.31 ID:0WNQbzNL0

496 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:01:42.52 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)「あ、あれ……あんまり変わらない景色だお……」
 
 その声色と口調も、まさしくブーン、そのままだった。
 
ξ;゚听)ξ「ブーン……?」
 
( ^ω^)「……ツン? ツンかお?」
 
 お互い知っているはずなのに、自信なく名前を呼び合う。
 それがなんだかおかしかったけれど、何か、何かが違う。
 私が知っている『ブーン』とは、どこかが違うような気がする。
 
ξ;゚听)ξ「ブーン……だよね?」
 
( ^ω^)「おっ、そうだお。君はツンかお?」
 
ξ;゚听)ξ「う、うん……」
 
( ^ω^)「ということは……無事に着けたってことだおね」
 
ξ;゚听)ξ「つ、着けたって?」
 
( ^ω^)「落ち着いて、聞いて欲しいお」
 
501 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:04:22.00 ID:0WNQbzNL0
 
 ブーンはそう言うと、私に近づいた。
 背が少し、私が知っているブーンよりも高い気がする。
 
 大人びている、と思えたのは雰囲気でなく、顔立ちだった。
 よく見ればうっすらと生えた無精髭があるのが、少し気になった。
 ブーンが大人になったら、この人の様になるのだろうと、なんとなく思った。
 
 いや、今はそんなことどうでもいい。
 
( ^ω^)「僕は、ブーン=ラダトスク」
 
ξ;゚听)ξ「らだ?」
 
( ^ω^)「ここは君の世界かお?」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
 返答に困った。
 
 ここはフィレモンがいた空間であって、私がいた世界とは違う、ような気がする。
 他にも、ベルベットルームみたいな、言い換えれば異次元みたいな場所。
 それを私の世界と言い切って良いものだろうか、少し悩んだ。
 
ξ゚听)ξ「……そう、だと思う」
 
503 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:07:21.88 ID:0WNQbzNL0
 
 多分それは、間違っていないと思う。
 自信はないけれど、私の世界における別次元、ということにしておいた。
 
( ^ω^)「ツンは、選ばれたんだお!」
 
ξ;゚听)ξ「え?」
 
( ^ω^)「選ばれた勇者なんだお!」
 
ξ;゚听)ξ「え? ちょ、ちょっとまって」
 
( ^ω^)「さぁ! 僕と一緒に飛び立つんだお!」
 
ξ;゚听)ξ「お願い、あのね、話を……」
 
( ^ω^)「残された時間は少ないお! さぁ! でっぱつだお!」
 
 
ξ# )ξ
 
 
ξ#゚听)ξ「話を聞きなさああぁぁぁぁあああい!!」
 
 
( ゚ω゚)「こっちのツンも凶暴でしたああぁぁぁぁぁあああ!!!」
 
506 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:10:17.88 ID:0WNQbzNL0
 
 大人びている、と思ったのはやはり外見だけだったようだ。
 ブーンはあくまで、私が知っているブーンだった。
 
 ひとまず、正座をしてもらう。
 
ξ#゚听)ξ「……あなたは、ブーンなのね?」
 
( ゚ω゚)「はい」
 
ξ#゚听)ξ「で、選ばれたってどういうことなの?」
 
( ゚ω゚)「はい、世界を救う為に、ツンさんが選ばれました」
 
ξ#゚听)ξ「……世界を、救う?」
 
( ゚ω゚)「僕の世界も、ツンさんの世界も、危ないんです」
 
ξ゚听)ξ「……どういうことなの? あ、楽にしていいわよ」
 
( ^ω^)「こほん、…………本当に、危ないんだお」
 
( ^ω^)「僕の世界やツンの世界に似た世界が、他にたくさんあるんだお」
 
ξ゚听)ξ「……?」
 
508 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:13:08.98 ID:0WNQbzNL0
 
 SF小説などで見る、パラレルワールドというものだろうか。
 自分の世界と似た様な平行世界が、いくつも存在している。
 その手のお話には、よくあることだ。
 
 でも突然そんな事を言われても、信じられるはずがないわけで。
 
( ^ω^)「聖剣は言っていたお。ツン達の世界に、異変が迫ってるって」
 
ξ゚听)ξ「……異変?」
 
 それが一体どういうことなのかは、わからなかった。
 心当たりがあるとすれば、ここにフィレモンがいないということだけ。
 それには初めから違和感があったのだけれど、ブーンの話と関係しているのかは、やはりわからない。
 
ξ゚听)ξ「聖剣って、何?」
 
( ^ω^)「僕も上手く説明はできないんだけど……世界の流れを円滑にする、と言っていたお。
       持ってる人の願いを叶える力もあるらしいお」
 
ξ;゚听)ξ「はぁ……なんだかすごい話ね」
 
( ^ω^)「だけど、信じるしかないお。実際僕らは救われたし、
       “アンノウン”の事を考えれば、説明がつくお」
 
512 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:16:05.31 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「“アンノウン”って?」
 
( ^ω^)「……僕らの敵の名前だお。アイツのせいで、世界が滅びようとしてるお。
       僕達はアイツに挑んで負けて……聖剣に助けてもらったんだお」
 
ξ゚听)ξ「……そう」
 
(  ω )「トーチャンも……アイツに……」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 ブーンはそう呟くと、とても暗い顔をした。
 明るい調子で捲し立てた時とは、真逆。
 彼にとってそのことは、とても重たく肩にのし掛かるものらしかった。
 
 あまりに突拍子も無い話だ。
 なのに何故か、ブーンの話が事実であると、いつの間にか素直に受け止めていた。
 
 今、目の前にいる彼が、私が知っているブーンでない事は、間違いない。
 それでも彼をブーンと思える事が、私に話を信じさせているのだろうか。
 
 けれど、私は思う。
 
ξ゚听)ξ「……どうして、私なの?」
 
516 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:20:05.58 ID:0WNQbzNL0
 
 私のことは、私が一番良くわかっている。
 直前の戦いも、私は足を引っ張るばかりだった。
 
 ブーンもそうだし、モナーさんやミセリさん、ジョルジュ達の方が私より何倍も強い。
 それなのに、ブーンが言う聖剣は何故私を選んだのか、それがわからない。
 
ξ゚听)ξ「ここは私の世界だと思う、ってさっき言ったけど、
       普段生活している世界はここじゃないわ。そこには私より強い人が、きっと……」
 
 元の世界がどうなっているかは、わからない。
 私がここにいることは、間違いなくフィレモンが何かをしたんだと思える。
 でも実際に、元の世界を見ていないのだから、慎重になり疑うべきだとも、思う。
 
 それほどに切羽詰まった危機が訪れているのなら、私では、とても。
 
( ^ω^)「きっと、ツンで間違いないはずだお」
 
ξ゚听)ξ「え?」
 
 
( ^ω^)「聖剣がここへ導いてくれたんだお。
       きっと、きっと聖剣が選んだのは、ツンなんだお!」
 
 
ξ゚听)ξ「…………」
 
519 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:23:53.10 ID:0WNQbzNL0
 
 そうだとしても、私には、わからない。
 今までの戦いだって足手まといのままで、いつも誰かに助けられていた。
 そんな私が選ばれても、とても。
 
 
   『────少女よ』
 
 
ξ;゚听)ξ「ッ! フィレモン!?」
 
 声が、きこえた。
 過去、二度聞いたあの時の声よりも弱々しい声が。
 でも間違いなくそれは、フィレモンの声だった。
 
 
   『────時間がない……運命は、汝を選んだ────征け……』
 
 
ξ;゚听)ξ(……そんな……本当に……)
 
( ^ω^)「お? どうしたんだお?」
 
 ブーンには、きこえていなかったようだ。
 ペルソナ使いにしか届かない声なのだろうか、でも今は、そんなことよりも。
 

520 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:26:24.61 ID:0WNQbzNL0
 
ξ; )ξ(フィレモン……)
 
 声で、心で呼びかけても、再び声が聞こえる事はなかった。
 ふと、手に持っていた黒い箱に目をやる。
 心無しか、さっきまでよりも艶がかかっているような気がした。
 
 
 私で、いいのだろうか。
 
 
 自問自答では考えるまでもなく、却下だ。
 どれだけ前向きに考えたとしても、同じ答えしか出てこない。
 そんな大事な戦いに、私が必要とされる理由がわからないのだ。
 
 でも、フィレモンは言った。
 
 運命が、私を選んだと。
 
 私にペルソナを与えた時と、同じ言葉で。
 
ξ゚听)ξ(迷惑な話、ね)
 
 本当にそう思う。私の事情など構いもしない。
 
524 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:29:25.47 ID:0WNQbzNL0
 
 あの時、ペルソナ様遊びなんてしなければ。
 違う線路の上に、私は立っていたのだろうか。
 
 でも、それでも。
 
 やはり同じ様に、この日へと続いていたのだろうか。
 だとしたら、どちらにしろ────
 
 
( ^ω^)
 
 
 ブーンはじっと、私を見つめていた。
 特徴的な柔らかい表情は、やっぱり私が知るブーンと同じだ。
 
( ^ω^)「大丈夫だお。他にも僕の仲間達が、同じ様に強い仲間を連れてくるお。
      そうすればきっと、きっと世界を救えるはずだお!」
 
ξ;゚ー゚)ξ、
 
 苦笑しか、返せなかった。
 

525 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:32:40.93 ID:0WNQbzNL0
 
 私は何度、同じ事を繰り返せば解るのだろう。
 いつか私は、私の世界のブーンに言った。
 
 
 『だから私は、モナーさんの言ったことを信じて、できることをするわ』
 
 
 『たとえ死んだって……何もしないまま死ぬよりはマシよ』
 
 
 啖呵を切っておいて、目の当たりにした敵との実力差に、何度も挫けた。
 今の私は、戦う前から自分の弱さを認め、勝負を捨てようとしている。
 こんな所で立ち止まっていたら、異変が迫っているという自分の世界も、友達も、救えない。
 
 
 私は、決めた。
 
 
ξ゚ー゚)ξ「行くわ」
 
 
 これがペルソナを与えられた私の運命だとするならば。
 
 
 全力で戦うしか、ないのだ。
 
529 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:35:42.91 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「ありがとうだお! それでこそツンだお!」
 
ξ゚ー゚)ξ「ううん、たくさん迷っちゃって……正直、まだ不安はあるかな」
 
( ^ω^)「仕方がないお、僕だって、いきなりこんなお願いされたら困るお」
 
ξ゚ー゚)ξ「あら、自覚はあったのね?」
 
(;^ω^)「おっ……こっちのツンも痛いとこついてくるお……」
 
ξ゚听)ξ「ブーンの世界にも、私がいるの?」
 
( ^ω^)「幼馴染みなんだお。同じ村で育ったんだお」
 
ξ;゚听)ξ「幼馴染み、かぁ……見事に私と一緒ね……」
 
( ^ω^)「外見も性格もそっくりだお。さっきみたいに凶暴だったり、胸が小さいとことか」
 
ξ#゚听)ξ「そう。デリカシーないとこがブーンはそっくりね。次言ったら行かないから」
 
(;^ω^)「ご、ごめんお……」
 
ξ゚ー゚)ξ「ふふ、……じゃあ、お願い」
 
531 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:38:44.96 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「よし、行くお!」
 
 いきなりブーンが私の手を握りしめる。
 少し恥ずかしかったけれどそんなことは言っていられず、平静を装った。
 
( ^ω^)「しっかり握っててくれお? 途中で離れたら帰ってこれないから」
 
ξ*゚听)ξ「わ、わかった」
 
 ぎゅ、と強く握り返す。
 私の世界のブーンよりも、逞しい手をしていた。
 その時、気がついた。彼の首に一筋の傷があることに。
 
ξ;゚听)ξ「血、出てるよ?」
 
(;^ω^)「お?」
 
ξ゚听)ξ「じっとしててね」
 
ξ゚听)ξ『ディア』
 
 治癒の言霊を紡ぎ、スアデラの手が傷跡に重ねられた。
 このくらいの傷なら、すぐに治すことができる。
 やはりというか、ブーンにはペルソナが見えていないようだった。
 
ξ゚听)ξ「……うん、もう大丈夫」
 
( ^ω^)「ありがとうだお!」
 
533 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:40:57.69 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ(不思議に思わないんだ……彼にとっては、当たり前の力なのかな)
 
( ^ω^)「それじゃ、いくお」
 
( -ω-)『───v──√レvv──……』
 
 気を取り直して、ブーンが呪文みたいなものを唱え始める。
 暖かい光が、体を包み込んでいく。
 握る手に、また強く力をこめた。
 
 やっぱり、不思議だ。
 ブーンなのに、ブーンじゃない。
 言葉に表わすと、更に頭がこんがらがってしまいそうだ。
 

 ふわりと、体が浮き始める。
 上昇直後のエレベーターの感覚に似ている気がした。
 
536 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:47:49.82 ID:0WNQbzNL0
 
 更に強く、握る手に力を込めると。
 
 視界に映る景色が、急激にぶれた。
 ぷつりと、テレビのチャンネルを切り替えた時のような暗転。
 移動していると思える感覚は一切無かった。
 
 
 視界は暗転したまま、変わらない。
 
 
 でも、握る手にはしっかりと、温もりが残っていた。
 
 
 

 
 
  
   「着いたお」
 
 
 ブーンの声が聞こえても、視界は真っ暗のままだ。
 そう思った時、自分がいつのまにか目を閉じていた事に気が付く。
 ゆっくりと、目を開けた。
 
538 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:49:06.80 ID:0WNQbzNL0
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
 小高い丘に、立っていた。
 そこにはさっきまでの宇宙のような景色はどこにもなく。
 青々とした草原が、ずっと広がっていた。
 
 青空の下、遠くに見えるのは山ばかり。
 広大な大自然とは、こういう景色のことを言うのだろうか。
 見る人により違うのだろうけど、私には間違いなく、そう思えた。
 
ξ;゚听)ξ「ここが……ブーンの世界なの?」
 
( ^ω^)「そうだお。上手くいくか不安だったけど……成功したみたいだお」
 
ξ;゚听)ξ「し、失敗してたかもしれないのね……」
 
 ゾっとすることを軽く言われた。
 疑っていたわけじゃないけど、本当に来てしまったという思いが心臓を高鳴らせる。
 不安だけは、どうにも抑えることができない。
 
ξ゚听)ξ「それで、ここはどこなの?」
 
( ^ω^)「僕の村のすぐ近くにある丘だお。
      村をイメージしてたんだけど、上手く飛べたみたいだお」
 

539 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:52:08.11 ID:0WNQbzNL0
 
 なるほど、上手くいったとはそういうことなのか。
 
ξ゚听)ξ「でも村の近くって……アンノウンはどこにいるの?」
 
( ^ω^)「アンノウンの場所へ行くにはこれを使うんだお」
 
 そう言ってブーンは懐から小さなビー玉のような石を取り出した。
 真上で輝く太陽の光を受けて、青色にキラキラと反射している。
 
( ^ω^)「夕日に向かってこれを掲げれば、アンノウンの所へいけるお」
 
ξ゚听)ξ「へぇ……便利なのね」
 
( ^ω^)「期限は、明日の夕方。その時に仲間全員で掲げなきゃいけないっていう制限があるお」
 
ξ゚听)ξ「じゃあ、仲間を待てばいいの?」
 
( ^ω^)「どちらにしろワープは夕方にしかできないし、その間は……待ってれば……」
 
ξ゚听)ξ「?」
 
(;^ω^)「と、とにかく、みんな違う場所にいたとしても、この鍵はどこでも使えるから心配ないお」
 
ξ゚听)ξ「ふぅん……」
 
 私の世界にはない不思議な力に、そんな相槌を打つ事しかできなかった。
 感心しつつも、頭を追いつかせることに精一杯なのだ。
 
ξ゚听)ξ「アンノウンがいきなりここへ現れるってことは……ないの?」
541 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:55:01.12 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「それは……わからないお。元々得体の知れない奴だけど、
      僕達の動きを知っているのかもしれないし、知らないかもしれないから……」
 
ξ゚听)ξ「そう……願いを叶える聖剣を持ってるなんて……反則よね」
 
( ^ω^)「聖剣は今、力が空っぽだから願いは叶えられないらしいお」
 
ξ゚听)ξ「そうなの……少し、安心したわ」
 
 その時、強い風が吹いた。咄嗟に髪とスカートを抑える。
 
 そういえば、ブーンの格好は私と随分違う。
 この世界がどんな文化なのかわからないけど、VIP高校の制服でおかしくないだろうか。
 ただでさえ地味な制服なのに。
 
( ^ω^)「そういえば、寒くないかお?」
 
ξ゚听)ξ「うん、言われてみれば、ちょっと寒いかも」
 
( ^ω^)「村に行こうお。外套くらい余ってるはずだお」
 
ξ゚ー゚)ξ「わかった。ありがとう」
 
( ^ω^)「お?」
 
ξ゚听)ξ「なんでもないわ。いきましょ」
 
543 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 16:58:27.17 ID:0WNQbzNL0
 
 優しい所も、鈍い所も、彼はブーンと一緒だった。
 
 この先に、世界を懸けた戦いが待っている。
 そんなことが信じられない程に、この景色は壮大で。
 
 もう一度振り返り、しっかりと目に焼き付けた後、ブーンの背を追った。
 
 
 
 

 
 
 
 十五分ほど、歩いただろうか。
 丘を下り、ちょっとした林を抜けると、木で造られた家が見えた。
 更に歩くと、ぽつりぽつりと同じ様な家が数軒見える。
 
 同じく木で造られた柵をまたいで越える。
 どうやらそこからが、ブーンの村らしかった。
 赤茶色の地面が広がり、周囲は林に囲まれている。
 
 人の姿は見えない。とても静かな所だった。
545 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:01:28.35 ID:0WNQbzNL0
 
 柵を越えてすぐの所にある家の前で、ブーンは立ち止まった。
 どうやらここが、ブーンの家のようだ。
 
 結構、大きい。
 
 木組みの外観は私の世界で言う、ちょっとした山荘ほどの大きさだ。
 正直、失礼ながら村と言われた時はもう少し質素な建物を想像してしまっていた。
 ブーンの服装から、なんとなくそんな事を予想していただけだ。
 
 同じく木で造られた階段を上がり、ブーンが入り口の戸をノックする。
 少しして、キィと音を立てながら扉が開いた。
 
J(;'ー`)し「はいはい……って、ブーン!?」
 
( ^ω^)「カーチャン、ただいまだお」
 
J(;'ー`)し「ぶ、無事だったのね!? ツンちゃんも……怪我はない?」
 
 驚いた。
 ブーンのお母さんまで、私の知っている姿をしていた。
 これが異世界、即ちパラレルワールドということなのだろうか。
 少しやつれているように見えたけれど、本当に差はそのくらいだった。
 
ξ;゚听)ξ「あ、あの……」
 
 なんと言っていいか返事を言いあぐねていると、
 
547 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:04:32.60 ID:0WNQbzNL0
 
ノハ*゚听)「おおッ!? ブーン! ツンもいるぞ!」
 
 ずさ、と走り寄りおばさんの横で急停止したのは、女の子。
 私はその子にも、見覚えがあった。
 元気いっぱいで赤い髪を揺らすこの女の子は……。
 
(;^ω^)「……カーチャン、色々事情があるんだお。とりあえず中で……」
 
J( 'ー`)し「……わかったわ。さぁ、こっちに」
 
ノハ*゚听)「あれ? ツンがひらひらしたの着てる! なにそれ!」
 
ξ;゚听)ξ「え、これは、わわ──っ! ちょ、ちょっと!」
 
 女の子にスカートの裾を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られてめくられそうになる。
 私は必死でスカートを押さえながらじりじりと家の中へ入った。
 
( ^ω^)
 
ξ#゚听)ξ「ちょっと! 見てないで止めなさいよね!」
 
 あんたはどこを見てるんだ。
 もしかすると、私の世界のブーンよりちょっと、スケベなのかもしれない。
 
549 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:07:46.97 ID:0WNQbzNL0
 

 
 おばさんが淹れてくれた紅茶を一口すする。
 口に含むと茶葉の香りがふわりと広がり、それだけで思わず「ほう」と息を吐く。
 例えるのも失礼だけれど、コンビニで売っているどの紅茶よりもおいしかった。
 
J( 'ー`)し「そう……使ったのね、“禁呪”を……」
 
 暖炉のある部屋に置かれた木製のテーブルを五人で囲み、
 ブーンが事情を説明し終えた後、おばさんは静かに、呟いた。
 向かい。おばさんの側に座る二人の少女を見つめながら、私は話を聞いていた。
 
ノパ听)
 
lw´‐ _‐ノv
 
 元気いっぱいの赤毛の女の子とは対照的な、
 落ち着いた雰囲気を醸し出している長い黒髪の女の子。
 この子の事も、私は多分知っている。
 
lw´‐ _‐ノv「お姉ちゃんは……?」
 
( ^ω^)「大丈夫だお。僕と同じ様に、きっと戻ってきてるはずだお」
 
lw´‐ _‐ノv「……」
 
551 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:11:17.52 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「お姉ちゃんって……もしかしてクーって名前だったり……?」
 
( ^ω^)「そうだお。この二人はクーの妹、ヒートとシューだお。
      旅に出てる間、カーチャンに面倒見てもらってるんだお」
 
ξ゚听)ξ「そう……」
 
 見る限り、二人は私が知っている二人よりも少し幼い気がする。
 
 ブーンとおばさんもそうだったけれど、まさかクーの家族構成も同じだなんて。
 私の世界でもクーの両親はおらず、高校に通いながら二人の面倒を見ていたはずだ。
 この様子ならきっと性格もそっくりなのだろうな、なんて思った。
 
( ^ω^)「それで、カーチャン」
 
J( 'ー`)し「?」
 
( ^ω^)「僕らは揃って、アンノウンの城に合流するお」
 
J( '-`)し「……ツンちゃんの転送魔術ね」
 
 一瞬、自分の事かと思ったけれど、すぐにこちらのツンさんの事だと理解した。
 自分の名前に「さん」を付けるなんて違和感があったけれど、それが今起きている現実なのだ。
 
553 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:14:25.81 ID:0WNQbzNL0
 
J( 'ー`)し「…………」
 
 おばさんは一瞬、目を伏せると、すぐに顔を上げて視線を移動させる。
 止まったその先には、石で造られた古めかしい暖炉があった。
 見ているのは、その上に置いてある物のようだった。
 
ξ゚听)ξ「……?」
 
 オブジェ、だろうか。素材はよく分からないけれど、銀色に鈍く光っている。
 それを見つめるおばさんの真剣な表情が、ただの美術品であると思わせない。
 手の平ほどの大きさの物が四つ並んでおり、その中の一つに、どこか見覚えがあった。
 
( ^ω^)「お守り、だお」
 
 疑問が顔に出ていたのだろう。
 隣に座るブーンが、私の求めていた答えを言ってくれた。
 振り返り彼を見ると、もう一つの“もや”も晴れた。
 
 オブジェの一つが、ブーンが羽織っている外套の留め具と、同じ形をしていたのだ。
 
 彼がつけている留め具は、タイルに筋が入ったような、シンプルなデザイン。
 暖炉の上に飾られているものは、蝶のような形、アルファベットのような形、
 そして、本で見た刀の鍔のような形から、小さな棒がぶら下がっているもの。
 
 並ぶ四つの“お守り”は、それぞれがそんな形をしていた。
 
( ^ω^)「僕たちの家に代々伝わる家紋を、模してあるんだお」
 
ξ゚听)ξ「そうなんだ……」

554 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:17:58.29 ID:0WNQbzNL0
 
 ブーンを見るに、話の中にいた仲間も、あれと同じ物を身につけているのだろう。
 ということは、仲間は彼を含めて四人以上いるということだ。
 
( ^ω^)「ツンは……こっちのツンは、あの蝶々さんをつけてるお」
 
 返事は、しなかった。
 できなかったが、正しい。
 
 なんとなく、あれかなと思っていたからだ。
 そんな気がしていただけの、全くの勘だったのだけれど、少し驚いた。
 
ノハ*゚听)「ねーちゃんのはあれ!」
 
 ヒートちゃんが指差したオブジェは、刀の鞘の様な形をしたものだった。
 とすると、残りの一つは誰だろうか。
 それを訊こうと口を開きかけた時、
 
ξ;゚听)ξ「ッ……」
 
 いつの間にかおばさんがこちらを向いていることに気が付く。
 思わず背筋を伸ばして目を合わせた。
 
556 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:21:00.85 ID:0WNQbzNL0
 
J( '-`)し「ツンちゃ……ツンさん」
 
ξ;゚听)ξ「は、はい」
 
J( 'ー`)し「……この世界を、お願いします」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 ブーンがおばさんにした話は、“禁呪”など私にはよくわからない言葉が混じり、全く理解できなかった。
 どうやらそれはとても大変なことらしく、おばさんは神妙な面持ちでずっと聞いていた。
 
 特に、“転送魔術”の話をした時に、表情が強張った気がする。
 この世界の“魔術”を知らない私にとって、“禁呪”との違いはわからない。
 でもその時の様子は、とても理由を聞けるような雰囲気ではなかった。
 
 お守りを見た後のおばさんは、幾分か表情が和らいでいた。
 
 色々な事が一度に起こりすぎて、頭がパンクしそうになっている。
 その所為で、返事をどうしてよいのか戸惑ってしまい、微妙な間が生まれてしまう。
 
 それに、躊躇した理由は会話についていけない、という事だけではなかった。
 
558 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:24:07.34 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「全力を、尽くします」
 
 そうとしか言えず。
 それでもおばさんは、にっこりと笑ってくれた。
 
 私の力がアンノウンに通用するかは、わからない。
 何故私なのか、という疑問は未だ残り続けているからだ。
 必ずとは、どうしても言い切ることができなかった。
 
( ^ω^)「カーチャン、ツンに外套を貸してやれないかお?」
 
J( 'ー`)し「あら、そうね……その服、少し寒そうね」
 
ノパ听)「ヘンな格好──!」
 
lw´‐ _‐ノv「わたしは結構好き」
 
ξ;゚听)ξ「あは、あはは……」
 
 この制服は、やっぱりこの世界では珍しい服装みたいだった。
 こっちへ、とおばさんに促され、別の部屋へと移動する。
 ヒートちゃんがぴったりと私の後をついてきていた。
 
J( 'ー`)し「私のお古だけど、大丈夫かしら?」
 
ξ゚听)ξ「はい、ありがとうございます」
 
560 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:27:17.67 ID:0WNQbzNL0
 
J( 'ー`)し「なんなら服も全部取り替える?」
 
ξ;゚听)ξ「いえ、そこまでは……」
 
J( 'ー`)し「そう。少し汚れてるみたいだけど、洗濯しましょうか?」
 
ξ;゚听)ξ「そんな、悪いです」
 
J( 'ー`)し「遠慮しなくていいのよ? 洗濯なんて十分もあれば終わるから」
 
ξ;゚听)ξ「じゅ、十分?」
 
 どう考えても十分で洗濯は終わらない。
 もしかして単位は同じでも、私の世界と時間の基準が違うのかもしれない。
 こちらの世界の十分が、私の世界で一時間だったりする可能性もあるのだ。
 
J( 'ー`)し「ツンさんの世界は知らないけど、こっちの世界では洗濯はこうするのよ」
 
 そういうと、おばさんは人差し指をぴんと立て、何かを呟きはじめた。
 すると指先にふよふよと何かが集まり、それの背景が歪んで見える。
 
ξ;゚听)ξ「み、水?」
 
 おばさんの指先に生まれたのは、人の頭ほどの大きさをした水の塊だった。
 
562 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:30:19.84 ID:0WNQbzNL0
 
J( 'ー`)し「水を召喚して、更にそこへ風を召喚して、洗うのよ」
 
ξ;゚听)ξ「……魔法?」
 
J( 'ー`)し「あら、ご存じ?」
 
ξ;゚听)ξ「いえ……私の世界にはありません……」
 
J( 'ー`)し「そう。召喚術と言ってね、乾かす時は火と風を応用するの。すぐ済むわよ」
 
ξ;゚听)ξ「へ、へぇー……」
 
J( 'ー`)し「この村の人達は召喚師の末裔でね、こういうことは誰でもできるの。
      戦いとなると……話は違うけどね」
 
ξ゚听)ξ「……それが、ブーン達ですか」
 
J( 'ー`)し「……あの子達が、この村で戦える最後の召喚師……。
      私達の村の……いいえ、この世界の最後の希望なのよ」
 
ξ゚听)ξ「そうだったんですか……」
 
ノハ*゚听)「ねーちゃんはすっっごく強いんだぞ!」
 
J( 'ー`)し「あらあら、ブーンもツンちゃんも、ショボンくんも強いわよ」
 
ノハ*゚听)「だけどねーちゃんが一番だっ!」
 
J( 'ー`)し「あらあらうふふ」
565 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:33:15.00 ID:0WNQbzNL0
 
 おばさんは水を消すと、ヒートちゃんの頭を撫でる。
 ヒートちゃんはと言うと猫のように目を細め、実に気持ちよさそうな顔をしていた。
 そんな様子を見ていると大変な戦いがこれから始まるなんて、信じられなくなる。
 
 おばさんは、ショボンとも言っていた。
 と言うことは、アルファベットのような家紋はショボンがつけているのだろう。
 
 ブーンと、ショボンと、クーと、そしてこの世界の私。
 その四人がアンノウンに敗れて、他の世界に助けを呼びに旅立ったということか。
 
 私の他にどんな人が呼ばれたのだろうか。
 案外、同じ組み合わせなのかもしれない。
 重なる私の世界との共通点に、なんとなく、そんな気がした。
 
 この世界の私はどんな感じなのか、不謹慎だと思いつつも少し、楽しみだった。
 ブーンが言うには胸の大きさまでそっくりとのことだけど、一言余計だ。
 同じ容姿の相手に、『初めまして』なんて言っている図を思い浮かべて、可笑しく思えてしまった。
 
 おばさんの厚意に甘え、制服も洗ってもらうことにする。
 私の世界の下着が珍しいのか、またヒートちゃんに引っ張られた。
 ヒートちゃんが、必死で下着を奪われまいと死守し続けている私に、
 
ノハ*゚听)「おっぱい小さいな! やっぱりツンだっ!」
 
 などと自分はつるぺたなくせにそんな事を言い、ちょっぴり凹んだことは胸の中にしまっておく。
 
J( 'ー`)し「あら……これは?」
 
568 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:36:30.17 ID:0WNQbzNL0
 
 制服を渡したおばさんが、スカートのポケットから何かを取り出した。
 胸ポケットにハンカチと生徒手帳をいれてあるだけで、そこには何も────
 
ξ;゚听)ξ「ッ」
 
 ぞくり、と言い知れない悪寒が背に走る。
 おばさんが取り出したのは、あの黒い箱だった。
 
 あの時、フィレモンの空間で手にとって……それから箱をどうしたかは、覚えていない。
 だけど間違いなく言える事は、ポケットにいれてなどいないという事だ。
 
 
 まさか、この黒い箱は、私についてきた……?
 
 
 ……口が、渇く。
 
 心配させまいと落ち着いているように努め、黒い箱を受け取った。
 冷たく、固い感触が手に伝わる。
 
 私達の敵が持っていたこの箱は、一体なんなのだろうか。
 当然のことながら、黒い箱は私に何も教えてくれない。
 
 ただ一つわかるのは、『なにもわからない』ということだけだった。
 
571 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:39:33.07 ID:0WNQbzNL0
 
 自分の世界の事ですら、わからないことがありすぎる。
 そんな状態で更に他の世界まできて、頭が追いついていかない。
 思考的な意味でなく、文字通りブーンについていくのことで精一杯だ。
 
J( 'ー`)し「ツンさん?」
 
ξ;゚听)ξ「あ、はい」
 
 箱をじっと見つめていた私の意識を、おばさんの声が現実へと引き戻す。
 と同時に、下着姿であったことを思い出し、さすがに肌寒く感じた。
 
J( 'ー`)し「これは洗っておくから、この服を着るといいわ」
 
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
 
 受け取った服は、私の世界で言うワンピースに近い服だった。
 足首まで隠す長い裾と、袖も手の平までの長さがある。私には少し大きい。
 着る時に気付いたのだけど、布自体がどの部分も伸縮して着やすかった。
 
 私の世界にはない生地でできているのだろう。とても動きやすい。
 加えてとても暖かく、これなら外套は借りる必要がないだろう。
 
ノハ*゚听)「お揃いだねっ」
 
 そう言って私を見上げ、歯を見せてにっこりと笑うヒートちゃん。
 確かにヒートちゃんも私と同じ様な服を着ていた。色も赤と、まさにお揃いだ。
 これがこの世界か、もしくはこの地域で『普通』とされている服装なのだろう。
 
573 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:42:35.59 ID:0WNQbzNL0
 
ノハ*゚听)「あたしの服は、ショボンが作ってくれたんだぞ!」
 
ξ゚听)ξ「ショボンが?」
 
ノハ*゚听)「誕生日にくれたの! ショボンは器用なんだ!」
 
ξ゚ー゚)ξ「そうなんだ、よかったね、ヒートちゃん」
 
J( 'ー`)し「ねぇ……男の子なのに、裁縫だなんてね」
 
ξ゚听)ξ「…………」
 
 おばさんの発言は、まるで裁縫は女の仕事だと言わんばかりだ。
 逆に男は、力仕事を。多分それが、この世界の常識なのだろう。
 
ξ゚ー゚)ξ「私は、素敵な事だと思います」
 
 本心を素直に言った。
 おばさんは合点がいかないようで、少し戸惑った後に微笑んだ。
 風習などはどうやら、私の世界とずれているらしい。
 
ノハ*゚听)「あたしもそう思う!」
 
 でもそれに、決して囚われているだけではないようで。
 
 ヒートちゃんの頭を撫でながら、そう思った────
 
576 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:45:42.90 ID:0WNQbzNL0
 

 
━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
  「時空の歪みが……これはもしや……」
 
 
 全ての窓に暗幕を張られた、暗い部屋の中。
 自身も黒いローブに身を包んだ男が、呟いた。
 
 足元には本や硝子瓶、得体の知れない物が乱雑に散らばり、その上を一匹の鼠が駆けた。
 しかし男は、そんなことは気にも留めずに。鼠など最早、同居“人”なのだ。
 
 室内と同じ様に隙間無く散らかる机の上。
 そこに置かれた拳大の水晶球を見つめ続けている。
 
  「現れた……異世界……古文書の通り……」
 
 男だけが知る鍵語をぽつり、ぽつりと。
 つい、と男の口端が吊り上がる。実に満足げな笑みを浮かばせた。
 
 そのままの表情で男は立ち上がる。
 散らかった本を気にも留めず踏み付け、部屋を後にした。
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
579 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:49:06.73 ID:0WNQbzNL0
 

 
 陽は、既に沈みかけていた。
 クーの妹達と自世界の事などを話していたツンはブーンの誘いを受け、
 最初に降り立った小高い丘へと訪れていた。
 
 半分以上を山に隠した太陽が、周囲の色を紅に染めている。
 遥か上空はもう夜の顔になっており、星達が競うように己の存在を見せ付けていた。
 
 ブーンが何かを呟きながら、夕日に拳を掲げる。
 手の中には、この世界のツンに渡された青い水晶球がある。
 アンノウンの城へと転移するための、鍵だ。
 
 暫くそうしていると、やがて陽は完全に沈んだ。
 
( ^ω^)「念のためと思ったけど、今日じゃなかったみたいだお」
 
 万が一、ツンの世界に行った時点でこちらの一日が過ぎていたら。
 四人の息が乱れては、鍵が発動することはない。
 それを危惧して、彼はここにツンを連れてきたのだ。
 
ξ゚听)ξ「そう」
 
 ツンとしても、制服を預けているためこのまま連れて行かれては困るところだった。
 
581 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:52:28.99 ID:0WNQbzNL0
 
 ツンの後を追うように紛れていた黒き箱は、彼女の手に持たれていた。
 自身も気味が悪いと感じていたが、もし、人間に害なす物だったとしたら。
 得体の知れない物を放置しておくわけにはいかないという判断からだった。
 
ξ゚听)ξ「……なかなかこないね、ブーンの仲間たち」
 
( ^ω^)「そうだおね。でも、みんなきっとこの世界のどこかにいるはずだお」
 
ξ゚听)ξ「そういうのはわからないの? 魔法とか何かで……」
 
( ^ω^)「こればっかりはどうにもならないお……」
 
 どうすることもできない。
 そう言った彼の言葉は、嘘だ。
 だが、ツンがそれに気付くことはなかった。
 
( ^ω^)「でもきっと、みんなももうどこかにいるはずだお!」
 
( ^ω^)「ツンとかおっちょこちょいだから、鍵なくしてたりして」
 
ξ;゚听)ξ「お、おっちょこちょいなんだ」
 
( ^ω^)「ツンは最も召喚術に精通してる、僕らのリーダーなんだお」
 
ξ゚听)ξ「……そうなんだ」
 
ξ゚听)ξ(私とは随分違うのね……)
 
583 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:55:48.68 ID:0WNQbzNL0
 
 己の力に、彼女は自信が持てない。
 その根はやはり、相当深いようだ。
 
( ^ω^)「だお。でも、一番魔術の才能があるのは、ショボンだと思うお」
 
ξ゚听)ξ「ショボン、かぁ……私の世界のショボンも、頭が良くて頼りになるかも」
 
( ^ω^)「でも、ショボンは優しいんだお。だから攻撃系の魔術は、進んで覚えようとしなかったんだお」
 
ξ゚听)ξ「そう……なんとなく、同じ所があると思う」
 
ξ゚听)ξ「クーは?」
 
( ^ω^)「クーはいつもすっごく落ち着いてて、状況を判断することに長けてるお」
 
( ^ω^)「ポーカーフェイスだけど、不思議とみんなを安心させてくれるんだお」
 
ξ゚听)ξ「へぇ……ポーカーフェイスはそうだけど、ちょっとこっちのクーとは違うかも」
 
ξ゚听)ξ「でも、妹たちにすごく好かれてるのは、一緒かな」
 
( ^ω^)「そうなのかお? やっぱり結構似てるとこがあるみたいだおね」
 
ξ゚听)ξ「そうみたいね」
 
( ^ω^)「僕はどうかお? ツンの世界の僕は、どんな僕なんだお?」
 
ξ;゚听)ξ(や、ややっこしい……)
 
585 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 17:58:48.86 ID:0WNQbzNL0
 
ξ;゚听)ξ「う〜ん……」
 
( ^ω^)「?」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
( ^ω^)「お?」
 
ξ゚听)ξ(ブーン……かぁ……)
 
( ^ω^)「??」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
( ^ω^)「おっ?」
 
ξ*゚听)ξ「…………」
 
ξ;゚听)ξ(はっ!)
 
ξ;゚听)ξ「あ、会った時にも言ったけど! デリカシーないとことか!
       鈍いとことか! いっつも脳天気な感じがそそそそっくりよ!」
 
( ´ω`)「おーん……ツンはやっぱりツンだおね……」
 
ξ;゚听)ξ「え、いや、別に悪気はないんだからね!」
 
ξ;--)ξ(はぁ……私のばか……)
 
587 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:01:57.84 ID:0WNQbzNL0
 
 同じ様に落ち込んだ二人は、気晴らしにと星空を見上げる。
 己の輝きを誇示し続ける星達の舞台に、一瞬、目も心も奪われそうになった。
 そんな景色を見つめても、ブーンの心に燻っているものは、やはり戦いのことだ。
 
( ^ω^)「明日、同じ時間に、今度こそ……」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 明日。アンノウンの元へ飛び立ち、決戦が始まる。
 
 彼女にとって、それはあまりに性急であった。
 しかし時間は、待っていてはくれぬのだ。
 鍵の制限についても、ブーンから話を聞いて理解していた。
 
( ^ω^)「そういえば……」
 
ξ゚听)ξ「うん?」
 
( ^ω^)「ツンはどんな力を使えるんだお?」
 
ξ゚听)ξ「あぁ……」
 
 世界を救うためとは言え、ブーンからすれば彼女はまだ少女だ。
 この世界へ移る前、ツンは自分の力に自信を持っていないという事を彼に伝えた。
 
 ブーンはそれを、謙遜と思っていた。
 聖剣が選んだ勇者なのだから、きっと相応の実力を持っているに違いないと考えていたのだ。
 
589 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:05:01.19 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「えっと……ペルソナ、っていってね」
 
( ^ω^)「ペルソナ?」
 
ξ゚听)ξ「……見えないと思うけど……」
 
 
ξ゚听)ξ『ペルソナ』
 
 
 心の海に、呼びかけた。
 言霊を受け、ツンの足元に白い光が集いだす。
 それらが渦を巻き上昇し、彼女を囲む円柱と成った。
 
 やがて柱が弾け、霧散した後に。
 
( ゚ω゚)「お、おおおお……」
 
ξ;゚听)ξ「あれ? 見えるの?」
 
 ツンの背後に現れた女神。
 薄布隔てた女神の体には、常人の男であるなら目を奪われてしまうだろう。
 長い黒髪を風に揺らし、真紅の唇が美麗さを引き立てている。
 
 ツンのペルソナ。愛と誘惑の女神、スアデラだ。
 
591 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:08:37.71 ID:0WNQbzNL0
 
( ゚ω゚)「これは……召喚かお!? すごい……すごいお!」
 
ξ;゚听)ξ「しょ、召喚って言うのかな?」
 
 
 『神のように慈愛に満ちた自分。悪魔のように残酷な自分』
 
 
 いつかフィレモンが彼女達に告げた言葉だ。
 それらを神や悪魔の姿に変え、現世に喚び出したものを、ペルソナと呼ぶ。
 
ξ゚听)ξ「……正直言って、私もまだこの力のことはよくわかってないの。
       ただ、ペルソナを使って戦わなきゃいけないってことしか……」
 
( ^ω^)「……そうなのかお」
 
( ^ω^)「でも、すごいお! 原理はわからないけど、こんな召喚術……僕は使えないお!」
 
ξ;゚听)ξ「でも私だって、ブーン達みたいに火や水は召喚できないわよ」
 
( ^ω^)「ブーン達のご先祖様は、悪魔を召喚して使役したらしいお。
      ツンがしてることは、それと同じ様なこと……だからすごいお!」
 
ξ;゚听)ξ「そ、そうなのかなぁ……」
 
594 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:11:45.95 ID:0WNQbzNL0
 
ξ;゚听)ξ(変に期待させちゃったかな……ていうか、今は見えるんだ……)
 
ξ゚听)ξ(この世界にきたから……見えるようになった……?)
 
( ^ω^)「僕達が使える召喚術は……自然の事象や物を呼べる程度だお。
      それに魔力を加えて、応用したりはするけど、ツンのとはほど遠いんだお」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
( ^ω^)「ツンをこっちに連れてきたのも、僕達が使える限界の召喚術だお。
      しかも実際にそこへ行って、相手に触れていないと連れてこられない……。
      でもツンは、そんなことしないですごいのを喚べる! ほんとにすごいお!」
 
ξ;゚听)ξ「あ、ありがとう」
 
 いくら褒め称えられようと、彼女は自身より力を持つ者達を知っている。
 そのせいで、とても素直に喜ぶことはできずにいた。
 落ち着く事ができずに、ツンはペルソナを消そうとした、
 
 
 
 その時────
 
 
 
 
ξ゚听)ξ(…………?)
 
598 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:14:59.21 ID:0WNQbzNL0
 ツンは振り向いて丘を見下ろした。
 陽が沈み夜となった今、不気味さを増した林が広がっていた。
 
( ^ω^)「ツン?」
 
 彼女の様子に、ブーンもどうしたのかとツンの視線の先を見る。
 二人の視界には、暗い林の木々が、手招きしているように風に揺れていた。
 
ξ゚听)ξ「……ううん、気のせいみたい」
 
( ^ω^)「そうかお」
 
ξ゚听)ξ(誰かに……見られてたような……)
 
 そう思いながら、ツンはペルソナを完全に収めた。
 それと同時に違和感も消え、首を傾げた後にまたブーンの方を向く。
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 ブーンの背後に広がるのは、ツンが自身の世界では見た事のない満天の星空。
 星が近い、と彼女が錯覚するほどに、見事に煌めいていた。
 
ξ゚听)ξ(私やブーン達がいる、同じような異世界。……でも、夜空はこんなにも違う……)
 
 彼女が住む都会の夜空とは、とても比べられない景色だ。
 
 壮大な空を見つめる彼女の目には、元の世界に残した友の姿も浮かんでいた。
 異変により何が起こっているのかは彼女の知る所ではないが、
 どうしようもない不安はやはり心の隅にあり、懐郷の念も間違いなく潜んでいた。
600 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:18:02.29 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン」
 
( ^ω^)「お?」
 
ξ゚听)ξ「私の世界には他に……ジョルジュやドクオっていう友達がいるんだけど……。
       こっちの世界にはいないのかな?」
 
( ^ω^)「……ジョルジュって人は知らないけど、ドクオは……」
 
ξ゚听)ξ「いるの?」
 
( ^ω^)「いる……けど……」
 
ξ゚听)ξ「?」
 
 言葉を濁すブーンに、彼女は疑問を感じた。
 ツンの世界では、ドクオは彼女らの親友として、共に行動している。
 怒ると少し乱暴だが、それでもツンにとっては頼りがいのある仲間だ。
 
( ^ω^)「村から少し離れた所に小屋を建てて、一人で暮らしてるお」
 
ξ;゚听)ξ「そ、そうなんだ」
 
( ^ω^)「怪しい神様を信仰してる、危ないオッサンだお」
 
ξ;゚听)ξ「お、オッサン……なのね……」
 
605 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:21:11.73 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「引きこもってなかなか見ないんだお。僕も言われるまで忘れてたお。
      トーチャンが言ってたけど、昔は真面目な召喚師だったって言ってたお。
      とても信じられないけど」
 
ξ;゚听)ξ「な、なるほど……」
 
( ^ω^)「ツンの世界のドクオは、どんな奴なんだお?」
 
ξ゚听)ξ「同級……同い年で、大切な仲間よ」
 
 ツンはこの世界のブーンに伝わるよう、言葉を選び伝えた。
 
( ^ω^)「そうなのかお。やっぱり違う部分は、あるみたいだおね」
 
ξ゚听)ξ「そうみたいね。そっくりなものばかりじゃ────」
 
 
 突如、風が吹いた。
 
 
 丘の下から二人を吹きつけ、天高く駆け抜ける。
 ただの風なら、会話はそこで中断されなかっただろう。
 
 風を受け、それが人為的なものだと気が付いたのは、ブーンだった。
 
( ^ω^)「……ツン、気をつけろお」
 
608 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:26:12.34 ID:0WNQbzNL0
 
ξ;゚听)ξ「ッ!」
 
 注意を促すと同時、ブーンは静かに身構える。
 同じ魔術を扱う者だからこそ、風に含まれた魔力を感じ取ることができた。
 視線の先に、闇と同化する黒色の外套を羽織った男が、立っていた。
 
('A`)「お初にお目にかかる。異世界からの来訪者よ」
 
( ^ω^)「噂をすれば……ってやつかお」
 
ξ;゚听)ξ「……ドク……オ……?」
 
 低く太い声とその外見は、ツンの世界のドクオとはかけ離れていた。
 加えて、夜という暗さの中で遠目に見た男の事を、彼女はドクオと思っている。
 根源的な何かが、そう思わせているのだろうか。
 
('A`)「私の名を知っているとは……流石と言うべきか」
 
 ゆっくりと、二人に歩み寄る。それに合わせ、ブーンが素早くツンの前方に立った。
 無精髭が伸びに伸びた顔が、月明かりの下に晒される。
 なんとも情景に不釣り合いな顔であった。
 
('A`)「仰る通り、私の名はドクオ。ドクオ=ウッダー」
 
 深々と、頭を下げる。
 
612 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:29:46.73 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「……引きこもりの狂人が、なんの用だお」
 
('A`)「ふん、下賤の輩は黙っていろ。私が用があるのは、そこの女よ」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
('A`)「まぁ……」
 
 ドクオが外套の下から、手を出し、
 
('A`)「もう用は済んだのだがな」
 
ξ;゚听)ξ「────ッ!?」
 
 その手に持たれていた物に、ツンは見覚えがあった。
 驚き、彼女はドクオの手を凝視する。それは、当然の行動だった。
 何故ならば、つい先程まで自分が手に持っていた物だったからだ。
 
ξ;゚听)ξ「い、いつのまに……!?」
 
('A`)「なに、風を少し、操りましてね」
 
ξ;゚听)ξ「さっきの……」
 
 黒い男の手にあるものは、謎多き黒い箱だった。
 
615 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:32:32.65 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「オッサン、それを返すんだお!」
 
('A`)「断る。私の長年の悲願が、遂にこれで成就するのだから」
 
ξ;゚听)ξ「あなたはそれがなんなのか知っているの!?」
 
('A`)「勿論ですとも。これぞ私が求め続けた、『神を呼ぶ箱』なのだから」
 
ξ;゚听)ξ「神を呼ぶ……箱……?」
 
('A`)「おやおや……何も知らないのですか?」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
('A`)「いいでしょう。お教えしましょう」
 
 ざわり、とツンの肌が粟立つ。
 ドクオの言葉は関係していなかった。
 何か、言い知れぬ『何か』の予感を、接近を、ツンは感じていた。
 
 そんなことには気付かずに、悦に浸りつつドクオは語りを続ける。
 
('A`)「私がまだ若く、召喚術の修練に明け暮れていた頃……ある古文書を発見した。
    召喚師一族に伝わる物の中でも、それは最も古い物だった」
 
('A`)「そこには他の書物に記述されていた禁呪などが書かれていたが……。
    一つだけ、どの古文書にもなかった記述を発見した」
 
( ^ω^)「……」
617 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:35:41.26 ID:0WNQbzNL0
 
('A`)「召喚術ということは、変わらない。だが対象物が大いに違っていた。
    禁呪と言っても、人間か物体、よくても低級な悪魔がせいぜいだったが……。
    その項目にあったのは、そんな下らない物ではなかったのだ」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
('A`)「そこに書かれていたのは……神の、召喚だった」
 
( ^ω^)「……神?」
 
('A`)「そう。神だ。森羅万象を操り、生命を司る、神だ」
 
( ^ω^)「妄想も大概にしとけお、狂人」
 
('A`)「何を言うか。お前も見ただろう? その女が神を召喚する様を」
 
( ^ω^)「……」
 
ξ;゚听)ξ(あの時の視線は……やっぱり……)
 
('A`)「……私は神の召喚を試みた。しかし、失敗に終わった。神は現れなかったのだ。
    だが、あの時私は確かに聞いた。神の声を!」
 
 腕を左右に広げ、声量を上げる。
 それに同調するように、二人は体を強張らせる。
 
('A`)「いずれ訪れる異世界からの来訪者から、我を喚びたくば箱を奪えと!」
 
620 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:38:42.70 ID:0WNQbzNL0
 
('A`)「あれから数年! 私は待ち続けた! そしてついに今日、それは現れた!」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
('A`)「箱はこの手の中に在る……後は、神を喚ぶだけよ!」
 
 
(;^ω^)「ッ!」
 
ξ;゚听)ξ「ッ!?」
 
 
 水面に水滴を落としたように、ドクオの周囲の空間がぶれだした。
 波紋は広がる。じわりと、その周期を早めて。
 
ξ;゚听)ξ(これは……!)
 
 波打つ鼓動が、ツンに伝わる。
 肌にでは、なかった。体の奥深く、心の海を波立てる。
 空間が歪む度に、強く、強く、彼女を叩き、伝えているのだ。
 
 
 驚異の、接近を。
 
622 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:42:12.22 ID:0WNQbzNL0
 
 ペルソナが鳴らす警笛と、彼女のこれまでの経験。
 
 それから導き出される、答え。
 
 
ξ;゚听)ξ(ペルソナの────共振!?)
 
 
 彼女を襲う感覚は、それに間違いなかった。
 この世界にもペルソナが存在するのか、それは彼女の知らぬ事だ。
 困惑するも、見据える男は更に大きく大気を揺るがしている。
 
 
('A`)「光栄に思え! お前達が……最初の目撃者だ!」
 
 
ξ;゚听)ξ「ッ!」
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
 
 
 
('A`)『現れよ……外なる神────ニャルラトホテプ!!』
 
 
 
 
627 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:45:45.13 ID:0WNQbzNL0
 
 ついには両の手を天に掲げ、高らかに叫んだ。
 空間の揺れは止まり、男から逃げるように、風すらも止む。
 
 
 やがて、場は静寂が支配した。
 
 
ξ;゚听)ξ「……?」
 
(;^ω^)「……ど、どうしたんだお?」
 
 
 
( A )「な────…………」
 
 
 
(#'A`)「何故だッ!? 何故何も起こらぬ!? 箱も手に入れ、全ては整った!
    神よ! ニャルラトホテプよ! 何故現れぬ!?」
 
 
 ドクオにとっても、それは予想外の事だったようだ。
 悲願が、宿志が叶うと確信を持ち、神を召喚しようとした。
 しかし実際は、何も起こらず。狂人は苛立ちを周囲に撒き散らすのみだ。
 
(#'A`)「何故……何故……ッ!」
 
631 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:49:14.61 ID:0WNQbzNL0
 
ξ;゚听)ξ(……共振は、確かにあった……でも今は……)
 
 ぱたりと、ツンを叩く共振は止んでいた。
 ブーンも眉をひそめ、警戒しながら男を見つめていた。
 
(#'A`)「何が……何が足りないと言うのだ!?」
 
 長年待ち望んだ神は現れず、ただただ怒りを声に変え。
 男も、ツンも、ブーンも、困惑しその場に佇むしかない。
 
 ドクオが手に持つ黒き箱は、月明かりを受け、輝いていた。
 
 ツンがそれに視線を移すと
 
 
ξ; )ξ
 
 
 体が、心が、ペルソナが。震えを通り越し、畏縮する。
 共振は起こらない。ペルソナが警告をすることも、ない。
 
 
 もう、遅かったのだ。
 
 

632 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:52:38.36 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「……オッサン、もうやめろお。早くそれを、ツンに────」
 
 と、ブーンが男に近づこうとした時。
 
 
(( A ))「な……ぜッッ  ッ ェェッ!  な?」
 
 
 大きく一つ、身を震わせた後。
 全身を痙攣させ、叫び出す。
 
 
(((( A ))))「あ、い、あ、あい、ああああああいあああ。あァァアアアアアアアああああああ
       ああな、あいあ!いあないアーらとてップ!うぐ!ウグいあいあ!ないあーラ
       トテっぷくふ!あやくぶるグとむブぐとらぐるんぶルぐとむあい!アイナイア
           ーら     と   て   ぷ         。     。        」
 
 
 
(;゚ω゚)「ッ!?」
 
 
 
( ∀ )「ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒャヒャヒャヒャヒャひ、ひ、ひ、ひニひひひひひひはははは
    ひははははははははははいいいいいいい、い、い、いイィナィィイいいいあ
    クヒックヒックヒッヒッひ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイイア
    ニャル、ニャルラ、トトットッットトトオオトとテテテテテテテテテてててててて」
 
634 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:55:27.89 ID:0WNQbzNL0
 
 
 
 
( ∀ )「ご」
 
 
 
 
(;゚ω゚)「……」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
 
 
 急に錯乱した狂人は全身を痙攣させながら、『吐き出した』
 
 吐瀉物を、ではない。
 
 口から吐き出されたものは、赤黒い肉塊だった。
 男を宿り木にするように、男の身長よりも長く伸び、いや、生え続ける。
 やがて肉塊が縦に割れる。二つに、四つに、八つにと。
 
 身を細くした肉塊────触手は、すぐに元の太さへと戻る。
 その内の数本がドクオに巻きつき、狂人の姿は肉塊に包まれた。
 
635 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 18:58:04.73 ID:0WNQbzNL0
 
(;゚ω゚)「……ツン」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
(;゚ω゚)「なんだお……あれ……」
 
ξ;゚听)ξ「……わからないわよ……」
 
 
 成長を止めたそれは、ドクオが立っていた位置を柱とし。
 柱の太さは大人二人分程、その頂点から伸びるのは六本の触手。
 触手の先には、甲虫の足を彷彿とさせる鉤爪が幾重にも重なっていた。
 
 その一つが、自身の体の中心を切り裂いた。
 
 肉の裂け目から現れたのは────
 
 
('A`)
 
 
 生気無く、無表情で現れた顔。
 神を盲信した狂人、ドクオ=ウッダーの顔。
 
 異変は異形の姿を完成させて、停止した。
 
637 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 19:00:38.29 ID:0WNQbzNL0
 
 赤黒い異形は周囲の物を物色するように、触手を泳がせている。
 あまりの面妖さに、二人は動くことすら忘れていた。
 
 その二人の意識を引き戻したものも、異形だった。
 
 
(;゚ω゚)「ッ!」
 
 
 触手の一本が伸び、ブーンに襲いかかる。
 咄嗟に後方へと跳び、それを躱す。
 触手は地面の草原に突き刺さり、すぐに元の位置へと戻る。
 
 固い地を抉り突き刺さる程の、触手による打突。
 まともに当たれば人の身など、易々と貫かれることだろう。
 
ξ;゚听)ξ
 
 ツンもブーンが動いたと同時に、距離を取っていた。
 ちら、と異形が開けた穴を見る。人の頭ほどの、大きさだった。
 
 避けられた事が気に触ったのか、六本全ての触手が二人に向く。
 
(;^ω^)「……ツン」
 
664 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 20:59:32.87 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)「やるしかなさそうだお」
 
ξ;゚听)ξ「うん、わかってる」
 
 得体の知れない存在をこのまま野放しにするわけにも行かない。
 二人はここで戦う事を決めた。
 
ξ゚听)ξ『ペルソナ!』
 
 言霊に応え現れるスアデラ。ツンは即座に次の行動を取る。
 
ξ゚听)ξ『ラクカジャ』
 
 蒼白い光が、ブーンを包み込んだ。
 
ξ゚听)ξ「物理ダメージを少なくできるはずだけど……気をつけてね」
 
( ^ω^)「ありがとう……だおッ!」
 
 礼の後、ブーンもすぐに魔術の詠唱を開始する。
 異形はそれをさせまいと、触手の二本を伸ばしブーンを襲う。
 
 威力は大地を見て然り。
 だが、単純な物理攻撃にまんまと当たるブーンではない。
 詠唱をしながら右に跳び一つを躱し、更に跳んで二本目を躱す。
 

665 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:01:48.17 ID:0WNQbzNL0
 
 そこで詠唱は完了した。
 
( `ω´)「───v──√レvv──!」
 
 手に生んだ火球を異形の柱────胴体へと放つ。
 触手は、動いていない。火球はそのまま直進し、異形に触れ盛大に爆ぜた。
 爆発音の直後、炎が拡散。触手が激しくのたうち、二本の触手も元へと戻っていく。
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
 触手は元に、戻らなかった。
 戻ると思われた触手は途中で動きを止め、再び伸びてブーンを強襲する。
 
(;^ω^)「おッ! おッ!」
 
 後方に一足、二足と小刻みに下がり一つ二つと確実に避ける。
 更にそこへ、二本が追加された。鉤爪を向け上空から振り下ろされようとし、
 
 そこへ。
 
ξ゚听)ξ『ジオッ!』
 
 穿たれる一筋の電撃。炎が燻る胴体を捉え、大きく身を揺らせた。
 それに怯み、触手の動きが一呼吸の間だが停止する。
 
 ブーンはその隙に最初と同じ様に大きく後方へと跳び、また異形を睨んだ。
 

666 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:04:30.84 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)(……当たった時は怯んでたけど……ダメージはあるのかお?)
 
 ブーンの見たところ、触手の動きに衰えは感じられなかった。
 だとすればダメージはない、と取れるのだが、戦いにおいてそれは精神面で不利である。
 人対人でない以上、精神面という話もおかしいのだろうが。
 
(;^ω^)「……数撃つしか……ないかお」
 
 終わりが見えない戦いになることは、避けられないようだ。
 
('A`)
 
 赤黒い肉塊に浮かぶドクオの姿は、相変わらず無表情のままだった。
 
( ^ω^)(あれ……もしかしたら)
 
 しかし異形は、悠長に待ってはいない。
 攻めを中断したブーン達に痺れを切らしたのか、今度は三本の触手を伸ばした。
 
(;^ω^)「ッ! ここまで伸びてくるのかおッ!」
 
 驚いたものの、触手の動きはブーンにとって避けることは容易いものだった。
 数はあれど、直線的な単純な動作と、彼が十分に目で追える速度だったからだ。
 
( ^ω^)「ツンッ! 顔を!」
 
668 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:07:28.99 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ『ジオッ!』
 
 ブーンが触手を引き付けている間に、ツンが雷撃を放つ。
 狙いは、彼の声から汲み取った箇所へ。
 
 唯一の人間であると思える部分、ドクオの顔面にツンの雷撃が命中する。
 
(;^ω^)「……くおッ!?」
 
 だが、ブーンを襲う触手の勢いは衰えず。
 怯む事すらなく、無傷であることは目に見えて明らかだ。
 
('A`)
 
 ジオを受けた顔は、尚も無表情のまま。
 はたして獲物を見ているのかすらも解らない。
 
ξ;゚听)ξ(そんなに上手くはいかないわよね……)
 
 戦いは暫く、同じ事の繰り返しとなった。
 触手を躱し、隙あればブーンが、或いはツンが攻撃を見舞う。
 負けることはないが、勝負の終わりも見えない。
 
 二人がいくら攻撃を繰り返そうと、異形に疲弊は見られない。
 
 変わるのは、空に浮かぶ月と星の傾きだけだった。
 
670 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:10:49.87 ID:0WNQbzNL0
 
 触手の一つが上方からツンを押し潰そうと迫る。
 
ξ;゚听)ξ「ふッ!」
 
 それを横へと跳び、躱して、
 
ξ;゚听)ξ『ジオッ!』
 
 幾度目かの雷撃を、触手へと放った。
 赤黒い肉片を撒き散らし、それに似た色の体液が滴る。
 しかし、それまで。胴体に比べ触手は幾分か脆いようだが、即座に肉が盛り上がり再生してしまう。
 
ξ;゚听)ξ『マリンカリン!』
 
 耐性持たぬ者を魅惑する言霊を紡ぐも。
 異形には効果無く、触手はツンを狙い、突進する。
 期待はしていなかった彼女は、先と同じ様にそれを避けた。
 
ξ;゚听)ξ「はぁ……はぁ……」
 
(;^ω^)「はッ……はッ……」
 
 疲労してきたのは、二人の方であった。
 一撃必殺の触手を躱しつつ、終わりの見えぬ攻撃を放ち続ける。
 
 緊張感溢れる単純作業。
 その二つは、確実に体力と精神力を奪っていた。
 
672 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:12:49.90 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)(……くそ)
 
 疲労はやがて、焦燥を生む。
 威力の低い遠距離魔術では、らちがあかないと彼は思い始めた。
 元々ブーンは魔術を応用した接近戦を得意としているのだ。
 
('A`)
 
(# ^ω^)(あれを思いっきりぶん殴りてぇお……)
 
 平然としている狂人の顔に、段々と苛立ってきたようだ。
 
(# ^ω^)『Cthugha,Solar,Prominence────……』
 
 拳を握り、詠唱を開始する。
 両の拳に生まれた炎を魔力で閉じ込め、圧縮。
 アンノウンにも叩き込まれた炎熱の魔拳が完成する。
 
(# ^ω^)(やってみるかお……!)
 
(# ^ω^)「ツンッ! サポートを頼むお!」
 
ξ;゚听)ξ「ッ!」
 
 ツンの返事を待たず、ブーンが駆け出した。
 今までと違う動きを警戒してか、異形は六本全ての触手をブーンへと向け、伸ばす。
 上空から、或いは地を這いながら触手が迫るも、ブーンは怯みもせず更に速度を上げた。
 
 地を這う触手の一本が、下から突き上げる様に手前で急上昇する。
675 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:17:06.20 ID:0WNQbzNL0
 
(# ^ω^)「おッ!」
 
 直線的な攻撃に、斜め前方へ進路を変えて、それを避ける。
 すかさず、ブーンが避けた触手にツンの雷撃が突き刺さり、触手は動きを止めた。
 
(# ^ω^)「ッ!」
 
 左右から押し潰そうと、二本の触手が展開し、迫る。
 不意に、ブーンが止まった。狙いを修正しながら、二本の触手は突進を続ける。
 それを見てすぐに、最大速度で前方に急発進した。
 
 獲物を見失った触手は、ブーンの背後で互いに衝突し、己の肉を潰し合う。
 直後、上空から鞭の様に振り下ろされた一撃を、更に横へと跳んで躱した。
 けたたましい音と共に砂と土が打ち上げられ、大地に振動が伝う。
 
(# ^ω^)(四つ────!)
 
 後、二本。ブーンと異形の間は、距離にして八歩程。
 横へと躱しブーンが着地した所に、逆側から横薙ぎの触手が強襲する。
 
(;^ω^)「くお……ッ!」
 
 着地した足を強く踏み込み、前方に高く跳んだ。
 直後ブーンの足を撫でる、触手が通り過ぎていく風。紙一重だった。
 胸を撫で下ろしている暇はない。宙へ逃げた事により、次の逃げ場を、失っている。
 
680 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:21:57.36 ID:0WNQbzNL0
 
 異形に知能があるのかは知る所ではない。
 だが、残り最後の一本が空中のブーンを確実に貫こうと、正面から迫っている。
 
(;^ω^)「────ッ!」
 
ξ#゚听)ξ『ジオッ!』
 
 ブーンを狙う触手へ雷撃が放たれる。
 しかし、触手は怯まず、肉を抉られつつもブーンへと迫る。
 
(# `ω´)「おおぉぉぉぉおおおッッ!」
 
 避けられないならば、迎撃だ。
 即座にそう判断したブーンは左腕を脇へ引き、眼前まで迫った触手へと左拳を突き出した。
 万全の体勢ではなかったが、そこは彼最強の術式、迎え撃つ事に成功する。
 
(;`ω´)「くおぉぉぉぉぉ……!」
 
 触手の先端、不均等に並ぶ鉤爪は触れた途端に弾け飛び、続く異形の肉が溶かされていく。
 流石に、空中にいる状態では慣性まで相殺できず、詰めた間を押しやられてしまっていた。
 
(;^ω^)「ぐ……!」
 
 そこで着地。
 更に体が押されるも、地に着いた足が土を抉り、触手の突進は弛まっていった。
 
682 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:24:13.62 ID:0WNQbzNL0
 
 やがては、止まる。
 
 だが異形は、突進を止められるまで悠長にしてはいない。
 避けられた五本全ての触手が、ブーンの背に迫っていた。
 
(;^ω^)「……ッ!」
 
 その気配をブーンは察知する。
 けれども触手に押される体は止まらない。完全に固定されてしまっていた。
 このままでは、と彼が心で呟いた時。
 
ξ#゚听)ξ『マハジオッッ!』
 
 拡散した雷撃が五本全ての触手を捉える。
 紫電奔るその身を震わせ、ブーンの背を襲う触手達は、動きを止めた。
 複数ある触手と同じく、彼とて一人で戦っているわけではないのだ。
 
 停止する時間は決して長くはない。
 それでも、ブーンには充分な時間であった。
 
(# ^ω^)「おおッ!」
 
 推力が弱まった触手を押し返し、弾き飛ばす。
 触手を地に叩きつけた直後、前方へと疾駆する。
 押され、離された距離を瞬く間に詰め、未だ魔力がこもる右腕を振り上げた。
 
685 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:27:06.51 ID:0WNQbzNL0
 
 最後の一歩を強く踏み込み、地を蹴った。
 もはや邪魔をする触手は、ない。
 不気味に座するドクオの、顔面めがけ────
 
 
( `ω´)「くらえおッッ!」
 
 
 叩き込まれた、炎熱の魔拳。
 激しい閃光を放った後、圧縮した炎を全て前方、顔面へ放出した。
 ドクオの顔が浮かぶ周囲の肉塊が沸騰し、ぶくぶくと肉が泡立っている。
 
(;`ω´)「ぐ……」
 
 肉が焼ける臭いに、ブーンが顔をしかめた。
 超高熱に、煮え立つ範囲が次第に拡大していく。
 
(;`ω´)(どうだお……!)
 
 後、少し。時間にして数秒で、ブーンは全ての炎を放出し終える。
 
 
 その時だった。
 
 
(;゚ω゚)「がッ……!?」
 

686 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:28:39.54 ID:0WNQbzNL0
 
 泡立つ肉塊から、新たな触手が生まれていた。
 最初にあったそれよりも細い。人の指程の触手が、十数本生えたのだ。
 ブーンがそれを確認したのは、その内の数本が右肩を貫いた後だった。
 
(;゚ω゚)「お……く……!」
 
 激痛を堪え、すぐに腕を引き後方へ下がる。
 再度、六本の触手がその背を貫こうとするが、
 
ξ;゚听)ξ『ペルソナッ!』
 
 ツンがそれをさせまいと、また拡散する雷撃を放った。
 血が溢れる右肩を押さえながら、その隙にブーンは更に後方へ避難した。
 
(;^ω^)「ハァッ……ハァッ……」
 
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
 
 すぐさまツンが駆け寄り、治癒の言霊を紡ぐ。
 淡い光が傷口に集まり、次第に出血が収まっていった。
 
(;^ω^)「ハァ……な、なんなんだおアイツ……」
 
ξ;゚听)ξ「……わからないわ」
 
(;^ω^)「箱……アイツにとられたあの箱はなんなんだお!?」
 
ξ;゚听)ξ「わ、わからないの」
 
688 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:30:44.39 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)「……わからないって……」
 
ξ;゚听)ξ「あの箱は、私の世界の敵が持っていた物なの。
       気が付いたらこっちの世界に持ってきていて……」
 
(;^ω^)「……そうかお」
 
(;^ω^)(……ツンは……聖剣が選んだ救世主じゃなかったのかお……?
       これじゃまるで……力も、僕の世界のツンの方が……)
 
 謙遜だと、あの時は確かに思っていた。
 だが、自分が知るツンよりも明らかに劣る力に、疑問を抱き始めることも、必然と言えよう。
 
(;^ω^)(回復術も……ショボンの方が効きが早い……。
       他のみんなが連れてきた人は、どうなんだお……?
       まさか僕は、ほんとに間違った人を連れてきてしまったのかお……?)
 
 彼の不満は、尤もであった。
 災厄とも言えるドクオの異変と、仲間達よりも劣るツンの力。
 両者は確実に彼に不安を孕ませ、疑心を助長させていく。
 
ξ;゚听)ξ
 
 彼女は彼女で、懸命に処置を行っている。
 異形に放った雷撃も、決して手を抜いているわけではない。
 
690 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:33:56.08 ID:0WNQbzNL0
 
 だからこそ、また苦悩する。
 
ξ; )ξ(やっぱり……私の力じゃ……)
 
 全力を投じているからこそ、それが通用しない現実に打ちのめされている。
 ブーンが駆使する炎の力に、自身の世界のブーンが重なっていた。
 
 この世界と、元の世界。
 彼女の力は、そのどちらの彼よりも劣っていることは、明らかだった。
 
ξ; )ξ(フィレモン……本当に、私でよかったの……?)
 
 問おうが、答えが返る事は無く。
 全力を尽くすと宣言した結果が、これなのだ。
 
ξ; )ξ(…………)
 
(;^ω^)(…………)
 
 沈黙を挿むも、
 
(;^ω^)「ッ!」
 
 異形が全てを両断する。
 ブーンの回復をさせまいと、二本の触手が二人へと襲いかかる。
 当然だ。異形にとって、今は好機であるのだから。
 

691 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:36:13.72 ID:0WNQbzNL0
 
 
('∀`)
 
 
 ブーンが拳を叩き込んだ顔は、嗤っていた。
 蔑みか、好機にか、はたまた血を見た悦びか。
 ただ一つ解るのは、彼最強の一撃も異形には通用しなかったという事実だけだ。
 
(;^ω^)「おっ!」
 
 ツンを抱え、直進してきた一つを横へと躱す。
 着地の振動で走る肩の痛みに、顔を歪めた。
 
 まだ、もう一つ。
 上方から押し潰す様に迫る触手が────
 
(;^ω^)「くッ!」
 
ξ;゚听)ξ「ッ!」
 
 ツンを突き飛ばし、ブーンが地を蹴った。
 逆方向に跳ぶ両者の間に触手が突き刺さる。
 
(;゚ω゚)「…………!」
 
 数瞬後、彼を再び激痛が襲った。
 ツンを突き飛ばした左手の中指が、あらぬ方向へ折り曲がっている。
 
692 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:39:56.03 ID:0WNQbzNL0
 
(;゚ω゚)「……く……」
 
 触手に指を、掠めていた。それだけで、指の一つが使い物にならなくなった。
 指を押さえようとするも、完治していない右肩を上げる事ができず、
 両腕をぶらりと下げ異形を睨むことしか、できない。
 
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
 
 ツンが即座に治癒を施そうと、ブーンに駆け寄ろうと動き始めた時だ。
 
(;゚ω゚)「……!?」
 
 ブーンの足元より少し前方の大地。
 地面が盛り上がったと、彼がそう思った瞬間。
 
(;゚ω゚)「ごあッ!」
 
 地面を突き破り現れたのは、中指を掠めた触手だった。
 地に刺さった触手は、地中を進み、再びブーンを襲ったのだ。
 大地という遮蔽物を介し、勢いは多少衰えていたものの、
 
(;゚ω゚)「あッ……ぐぁッ……!」
 
 打ち上げられ、地に叩きつけられたブーンは肩と指の激痛をも忘れ腹を押さえる。
 胃液を吐き出し、身をよじり地を転げ回った。
 
 ダメージは、深刻だ。
 

693 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:41:45.99 ID:0WNQbzNL0
 
ξ;゚听)ξ「ブーン! ……ッ!」
 
 近づこうとするも、触手が鎌首をもたげてツンの進路を塞ぐ。
 
ξ#゚听)ξ『……どいて! ジオッ!』
 
 雷撃を放つも、触手は一瞬身を震わすのみ。
 肉が抉られようが瞬く間に再生してしまう。
 
ξ;゚听)ξ「そんな……」
 
 彼女の行く手を阻む触手が、いつの間にか四本に増えていた。
 嘲笑うかのようにツンを向き、その身を波立たせている。
 その裏で、残りの二本がブーンを追撃しようと、静かに鎌首を持ち上げた。
 
ξ#゚听)ξ『マハジオッ!』
 
 懸命に雷撃を撃つ。が、異形にはまるで効いていない。
 
('∀`)
 
 勝利を確信したのか、狂人の顔が更に歪む。
 しかし、その変化を二人が見る余裕は無く────
 
(;゚ω゚)「ツンッ……逃げるんだ……お……!」
 

694 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:43:45.26 ID:0WNQbzNL0
 
 もがきつつ、激痛を押し殺して、ツンに退避を促す。
 そうすることしか、今の彼にはできない。
 
(;゚ω゚)(僕が間違ってたんだお……ツンを……巻き込んでしまった……。
      僕の……僕の責任だお……)
 
 地に伏せたまま、ブーンは自責の念に駆られる。
 もう既に、ツンは聖剣が選んだ者ではないと、彼は結論付けていた。
 
 最早、それ以上の言葉も吐けず。
 
ξ;゚听)ξ「ブ────ンッ!!」
 
 二本の触手が、ブーンの頭と胴を貫かんと、高く上昇し、
 停止後、空間を食い破るが如く鉤爪を立て、急下降を始める。
 
ξ;゚听)ξ「────ッ」
 
 彼女にはそれが、ひどくゆっくりと見えていた。
 そこからでは雷撃も、届かない。
 届いたとしても、あれが止まる保障もない。
 
 思考は全て、足掻くに至らず無に没っしていく。
 
 
 ブーンを死に至らしめる一撃が、もう、直ぐに。
 
696 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:46:06.50 ID:0WNQbzNL0
 
 
  『───v──√レvv──!』
 
 
  『───v──√レvv──!』
 
 
 不意に、二人の耳に飛び込んだ、二つの声。
 
 ブーンと触手の間に生まれた、水の壁。
 最初に出でた閃光は、ブーンが放っていた火球と同じ物だった。
 それに怯んだ触手の勢いが衰え、分厚い水の壁の中で触手は停止した。
 
ξ;゚听)ξ「ッ!?」
 
 ツンには何が起こったか、わからなかった。
 
(;゚ω゚)「……ヒート……シュー……!」
 
 倒れるブーンより、少し離れた位置に。
 両手を前へ突き出し、彼を救う一撃を放った二人が立っていた。
 
ノハ;゚听)「ブーン兄ちゃん!」
 
lw´‐ _‐ノv「……大丈夫?」
 
698 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:47:58.88 ID:0WNQbzNL0
 
(;゚ω゚)「お、お前達……ここは……危ないお……」
 
ノパ听)「帰って来るのが遅いからきてみたら……なにこれ!?」
 
(;゚ω゚)「いいから……逃げ……ぐぁッ……!」
 
 幼くも召喚師の血を引いた二人。多少の魔術は、心得ていたようだ。
 しかしまだ、未熟。それを知るが故に、ブーンの焦りは更に増していった。
 
 確信抱き放った必殺の一撃を阻止された異形も、黙ってはいない。
 
('A`)
 
 狂人から笑みが消え、無表情に戻っていた。
 はっきりと露わにした怒りの色に、ブーンとツンもそれを感じ取る。
 
ξ;゚听)ξ「二人とも! 逃げて!」
 
 不意の一撃を放つも、己に攻撃の手が向いたとわかると、瞬く間に二人の体は畏縮してしまう。
 
ノハ;゚听)「あ……」
 
lw;´‐ _‐ノv「……!」
 
 それが、戦い。死と並ぶという事なのだ。
 
700 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:49:58.58 ID:0WNQbzNL0
 
 ブーンを襲った二本の触手が、ヒートとシュー、それぞれ一人ずつを狙い絞る。
 不揃いの鉤爪を小刻みに揺らし、カチカチと音を立てる様は、獲物を前に歓喜しているかのようだ。
 あまりの異形に彼女らはそれを見上げたまま、ただ、呆然と見上げている。
 
(;゚ω゚)「クソッ! 動け……動けお……この……!」
 
 立ち竦む二人を助けようともがくも、体は言う事を聞かず。
 ぴくりとでも体を動かそうとするものなら、激痛がそれを阻み続けている。
 辛うじて伸びる腕も、乱れた思考では魔術を放つことも出来ない。
 
 先のツンと同じく、彼はもう見ていることしかできなかった。
 
 
ξ;゚听)ξ
 
 
 彼女に走る、既視感。
 
 ごく近いものでは、つい先程のブーンに迫った窮地。
 救ったのは、自身よりも幼い少女達だった。
 
 
ξ; )ξ(……また、私は繰り返すの……?)
 

701 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:51:14.97 ID:0WNQbzNL0
 
 既視感に見る過去は、それだけはない。
 
ξ; )ξ(ここに来る前の戦いも……デレの時も……私は……)
 
 そのどれも、彼女の力は届かなかった。
 結局仲間に、助けられた。
 
ξ; )ξ(何が……出来る事をするよ……!
        何が、全力を尽くす……よ……!)
 
 懸命を尽くした事は、間違っていない。
 彼女が手を抜いた事も、一度たりとも有りはしない。
 
 しかし力は、届かなかった。
 未熟すぎる己の力は、強大な敵を前にあっけなく、刃を折られた。
 
 何を決意しようとも。
 相応の力がなければ、何も成し得る事は出来ない。
 
 それどころか、自身の世界がもたらした異変で、この世界の人間が死の危機に瀕している。
 
ξ; )ξ(私がこなければ……あの箱を持ってこなければ……
        ブーン達がこんな危険な目に遭うことも……!)
 
 拳を、手の平を爪が抉るのも構わずに、強く握る。
 ヒートとシューを狙う触手が、動き出そうとしていた。
 
705 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:52:58.89 ID:0WNQbzNL0
 
ξ#゚听)ξ(まだ……まだよ……!)
 
 無力は三度、味わった。
 
 一度目は自世界で豹変した親友と対峙した時に。
 二度目は自世界でエクストに弾き飛ばされた時に。
 
 そして三度目は、今、この瞬間に。
 
 異形の意識は完全に、ヒートとシューに向いている。
 残る四つの触手は、その身を縮めて本体へと戻っている。
 これならば、届く。
 
ξ#゚听)ξ「ッ!!」
 
 ペルソナを降魔させ、駆けた。
 距離にして十数歩を、懸命に詰めていく。
 
('A`)
 
 ツンに気が付いた異形が、四本の触手を再びツンへ放った。
 一本でも怯ませることしかできなかった触手が、四本。
 
 それでも、彼女の足は勢いを止めない。
 スアデラが、両腕を振り上げた。
 
707 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:56:12.93 ID:0WNQbzNL0
 
ξ#゚听)ξ『邪魔よッッ!!』
 
 決死の覚悟で撃たれ、迸る、雷撃。
 今までのどの雷よりも、激しい音と光を放っていた。
 広範囲に拡散した紫電が、四本の触手を捉え、暴れ狂う。
 
ξ#゚听)ξ「ヒートちゃん! シューちゃん!!」
 
 墨と化した触手たちをかいくぐり、二人のもとへ。
 
('A`)
 
 しかし、ヒートとシューを狙う触手が、突き下ろされた。
 
ξ#゚听)ξ「させない────!!」
 
 叫びながら、跳躍。
 二人に覆い被さるように、触手から庇うように、飛びついた。
 
ノハ;゚听)「ツ……!」
 
lw´;‐ _‐ノv「ッ……!」
 
 二人の視界は、ツンの体によって遮られた。
 ツンは、間に合ったのだ。
 
 少女たちの盾と、成ることに。
 
711 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 21:59:27.78 ID:0WNQbzNL0
 
ξ#><)ξ『スアデラッッ!!』
 
 彼女たちを抱きしめたまま。
 願うように、縋るように、力の限り叫んだ。
 呼応したペルソナが、雷撃を放ち、寸でのところで二本の触手を無力化させる。
 
('A`)
 
 異形は二度も邪魔をされたことで、更に腹を立てたようだ。
 すぐさま全ての触手を再生させて、それらを高々と持ち上げた。
 
ξ#゚听)ξ「みんなは私が護る! あなたの好きにはさせないんだから!!」
 
 立ち上がり、ヒートとシューを護るように両手を広げ、叫んだ。
 
 感情の高まりが、スアデラの力を高めてくれている。
 それでも、触手を止めるのが精々だ。
 
 ────再び、今度は六本の触手が、ツンに迫る。
 
 異形を倒せるかは、彼女にも分からない。
 
 だが、彼女はそれでよかったのだ。
 
 倒せなくとも、一つ。
 
 たった一つだけのことが、できるのならば。
 
716 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:01:32.16 ID:0WNQbzNL0
 
 異形と対峙する間、ツンの時間はひどくゆっくりと流れていた。
 
ξ )ξ(ごめん……みんな……)
 
 それが本当に長い時だったのか、一瞬だったのかは、分からない。
 
ξ )ξ(私……みんなの世界に……帰れないかもしれない……)
 
 しかし彼女は、確かにその時の中で、仲間たちへの謝罪をし、そして。
 
ξ )ξ(でも……でも……!)
 
ξ )ξ(ヒートちゃんと……シューちゃん……そしてブーンは……)
 
ξ )ξ(たとえここで死んだって……護ってみせる……!)
 
 彼女をじっと、見ている者がいた。
 彼女の想いをじっと、聴いている者がいた。
 
 決意を、知りたい者が、いた。
 
 
 その者はずっと、待っていたのだ。
 
 
 純粋なる、心を。
 
 
 確固たる、決意を。
719 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:03:33.28 ID:0WNQbzNL0
 
 
 
 
 そして、その、決意は────
 
 
 
 
 
 
 
 
ξ )ξ(命に代えても!! 絶対に護ってみせる!!)
 
 
 
 
 
 
 
 ────深き心の海に、とどいた。
 
 
 
 
 
 
722 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:05:31.88 ID:0WNQbzNL0
 
ノハ;゚听)「……?」
 
lw´;‐ _‐ノv「……?」
 
(;゚ω゚)「……」
 
 ブーンが、凍り付いたように見つめる先。
 ヒートとシューも怖ず怖ずとツンの陰から顔を出し、それを見た。
 
 そこには、真の意味で凍り付いた、触手の姿があった。
 地を抉り、地を揺らした触手の全てが氷に包まれ、静止していた。
 
 
ξ )ξ
 
 
 その異変に、彼女が驚くことはない。
 彼女自身が起こした、事象なのだから。
 
 
ξ )ξ(そう……私は、求めすぎていた)
 
ξ )ξ(敵の、仲間の力にまで嫉妬して、建前ばかり綺麗事で、本当は醜い心で)
 
ξ )ξ(誰よりも強い力を求めていた……)
 
ξ )ξ(それじゃ、だめなんだ……)
 
ξ )ξ(誰かを護るための、力を……求めることが……)
725 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:08:26.98 ID:0WNQbzNL0
 
 
ξ )ξ(あんなに遠かったのに、こんなにも身近に感じる)
 
 
 心の海に手を伸ばし、指先に触れ指は絡み、手を、掴んだ。
 
 
   『半身よ、よくぞ答えを見出しました』
 
 
ξ )ξ(……やっぱり、今まで聞こえていたのね)
 
 
   『それはもう。然れど、それはとても迷いある声……』
 
 
ξ )ξ(……ごめんね)
 
 
   『しかし我は、遂に汝が信念を、想いの高みを仰ぎ見ること叶いました』
 
 
   『ならば我は、応えましょう。汝が半身として、闇を穿つ矢となりて』
 
 
ξ ー )ξ(……ありがとう)
 
730 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:11:28.72 ID:0WNQbzNL0
 
 
 
 ────あなたの名前、教えてくれる?
 
 
 
   『……我は汝、汝は我』
 
 
   『我は汝の心の海より出でし者』
 
 
   『朧なる、諸行を照らす月女神……』
 
 
   『汝、純潔なる半身よ。宿命に臆してはなりません』
 
 
   『我の名は────…………』
 
 
 
 ξ゚听)ξ
 
 
 己と己の邂逅は、そこで終わりを告げた。
 
735 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:14:17.24 ID:0WNQbzNL0
 
 最初に『異』を感じたのは、異形であった。
 
('A`)
 
 新たに数本の触手を生み出し、『異』の元凶たるツンへ向け、放つ。
 そのどれもが、先と同じ様に凍り付く結果と成った。
 もはや彼女に触れる事は叶わず。近づく悪は、絶対零度の夢に消ゆ。
 
 意に介さず、ツンは異形に向かい歩く。
 
 さなか、ツンの足元で渦を巻く、蒼い光。
 それは彼女の周囲を凍てつかせ、大地を凍り付かせていく。
 真円の月を背に、氷上に立つ少女は凛々しく、美しく。
 
 
 痛みも、恐怖も忘れ、ブーン達はその姿に見入っていた。
 
 
ξ゚听)ξ『ペルソナ────』
 
 
 やがてツンの背後に蒼の光が集う。
 蒼は冷気。重なり合い、その身を凍らせていく。
 
 音を立て凍りゆく蒼は、月に輝く銀と成り、白銀の甲冑を生んだ。
 そこから伸びた女性的な四肢が、嫋やかに美しく、月に映える。
 
738 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:16:42.35 ID:0WNQbzNL0
 
 
 闇にそよぐ長髪は、甲冑と同じ銀色に閃かせ。
 強く見据えるは宿主の敵であり、自身と対極の異形の姿。
 それを、打ち倒すために。
 
 
 象徴たる月の下、舞い降りた月女神────
 
 
 
ξ゚听)ξ『────アルテミス!!』
 
 
 
 迷いを乗り越え、欲した力に現れた彼女の新しい力。
 全てを凍てつかせる冷気は、まるで自身の怒りを鎮めるかのように。
 その矛先は、言わずもがな。
 
 
ξ#゚听)ξ『ブフダイン!』
 
 
 紡がれた言霊に、アルテミスが呼応する。
 異形は触手で迎え撃とうと蠢くが、凍り付いた触手ではそれも叶わず。
 何本もの巨大な氷柱が異形の胴を穿ち、その場に縫い付けた。
 
742 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:19:28.97 ID:0WNQbzNL0
 
 体液を噴き上げ、根本近く、凍結していない箇所の触手がのたうつ。
 
(;゚ω゚)「…………!」
 
 初めて見えた異形のダメージ、そしてツンの新しい力に、
 ブーンは驚き目を見張るしかなかった。
 
ξ゚听)ξ『ディアラハン』
 
 続き紡がれたは、治癒の言霊。
 かざす手の先には、横たわるブーンの姿があった。
 
(;^ω^)「お……?」
 
 瞬く間に消えていく痛みに、立ち上がる事も忘れていた。
 先に施された回復術、そしてそれを得意としていたショボンの比ではない。
 慌てて立ち上がるもあまりの力の変貌に、ブーンは呆然と彼女を見つめていた。
 
ノハ*゚听)「す……」
 
lw´;‐ _‐ノv「すごい……」
 
 彼女らも、また同じ。
 だが当のツンは、もがき続ける異形を真っ直ぐに見据える。
 
ξ゚听)ξ
 
 戦いを、終わらせる為に。
 
745 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:22:07.58 ID:0WNQbzNL0
 
('A`)
 
 異形が、これまでで最も大きな動きを見せた。
 本体から新たに生えた、放射状に広がる、大小様々な無数の触手。
 恐らくは、際限なく生み出せるのであろう。
 
 しかし、ツンは一切動じない。
 
 獲物を穿たんと、触手がその身を急速に伸ばしていく。
 夜空を蛇が這うような、異様な光景が広がっていった。
 
 ツンを、避けるようにしてだ。
 
 もはやこのような触手ではこの女を止められないと判断し、狙いを変えたのだ。
 それらは再び、ブーンたちに襲いかかる。
 
 快復したブーンはヒートとシューを護るように前に立った。
 だが、ブーンが力を使うことは、ない。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!!』
 
 叫ぶ、氷嵐の言霊。
 アルテミスを中心に、氷と冷気が吹き荒れる。
 触手はどれもツンの横方向、遥か頭上と、彼女を迂回するように伸びていたが────
 
ξ#゚听)ξ「私の後ろは、絶対に通さない!」
 
 その全てが凍り付き、無力化して、地に落ちた。
 
748 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:24:12.26 ID:0WNQbzNL0
 
 氷の世界と化した彼女の周囲。
 だが、中心に立つツンの、その、心は。
 
 誰よりも熱く、何よりも熱く、燃え盛っている。
 
ξ゚听)ξ
 
 高く、右手を掲げた。
 異形から見るならば、月を持ち上げるように見えていることだろう。
 そしてその月を背に、女神が踊る。
 
 半身の想いに、応える為に。
 
 氷柱に縫い付けられ、攻撃手段も封殺された異形は勿論のこと、ブーン達もただ佇立するのみ。
 動くものはツンと、そのペルソナであるアルテミスだけだ。
 
 静かに彼女が右手を下げ、手の平を異形へと向けた。
 一糸乱れず、アルテミスの手も異形へと向けられ、重なる。
 
 
 
ξ--)ξ
 
 
 
 ゆっくりと、目を閉じた後。
 
751 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:26:40.24 ID:0WNQbzNL0
 
 異形に向けたアルテミスの手に、金色に輝く弓が生まれた。
 
 弓の中央から胸元へ伸びる光は、同じくして金色の矢。
 
 アルテミスはそれを強く、強く引き絞る。
 
 
ξ--)ξ(……守ってみせる……この世界のブーン達……)
 
 
 弓弦は全ての力を集束し、黄金の弓は湾曲していく。
 
 それはさながら、真円描く満月のように。
 
 
ξ--)ξ(そして……私達の世界も……!)
 
 
 その一撃は、誓いの矢。
 
 真の力を手に入れ、新たな決意を立てる一撃。
 
 迷い無き瞳を力強く見開き、月女神の矢が放たれる。
 
 

752 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:28:57.62 ID:0WNQbzNL0
 
 
 
 
ξ#゚听)ξ『クレセント……ミラ────ッッ!!』
 
 
 
 
 叫ぶ言霊と共に、弓弦引く手が離された。
 行く手を遮る凍結した触手たちを歯牙にもかけず、貫き、光の矢が異形へと迫る。
 
 
('A`)
 
 
 狂人の顔を捉えた矢は閃光を放ち、膨れ上がる。
 膨張を続ける金色の光は異形の全てを包み込む球体と成った。
 
 その中を。
 
(;゚ω゚)「お……おぉ……」
 
lw;‐ _‐ノv「……」
 
ノハ*゚听)「……きれい……」
 
 内の壁に反射し、縦横無尽に黄金の矢が駆ける。
 異形の肉を抉り、貫いてもその勢いは衰えず、異形の体積をひたすらに減らしていた。
 
755 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:31:07.82 ID:0WNQbzNL0
 
 
 
( A )
 
 
 
 光の雨に貫かれ続ける異形の顔に、
 
 
 
 
( ∀ )
 
 
 
 
 閃光の中、笑みが浮かんだ。
 
 
 
 
 それは果たして、狂人が浮かべた笑みなのか、それとも────
 
 
 
760 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:33:46.38 ID:0WNQbzNL0
 
 光の軌跡に、やがて球体の内部が埋め尽くされた頃。
 一際眩い光を放ち、金色の柱が生まれ、その身を細くしていき……消えていった。
 
 光が無くなり、後に残ったのは人に戻りしドクオ=ウッダー。
 膝を折り、とさりと、前のめりに倒れた。
 
 
ξ゚听)ξ
 
 
 彼女は手を下げ、ペルソナを収めた後に。
 
 
ξ゚ー゚)ξ
 
 
 ブーン達を向き、柔らかに微笑んだ。
 
 
ノハ*゚听)「すっごぉぉぉぉい!」
 
 身を縛る恐怖から救われたヒートが、ツンに駆け寄り、胸に飛び込んだ。
 一歩遅れてシューも駆けつけ、ツンを笑顔で見つめている。
 ツンは「もう大丈夫」、と二人に言い、交互に頭を撫でていた。
 
763 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:36:01.69 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)「……ツン」
 
 傷は癒えたが、疲労の色を浮かばせブーンも彼女に近寄る。
 彼は少し戸惑っていたが、先の疑心は既に拭われていた。
 
(;^ω^)「ごめんお……戦いの途中で、僕はツンを疑ってたお」
 
ξ゚ー゚)ξ「いいのよ。私だって、たくさん迷ってたんだもん」
 
( ^ω^)「でも、あんなのがあるなら早く喚んでほしかったお!」
 
ξ;゚听)ξ「いや、私も初めて喚んだペルソナだったから……」
 
( ^ω^)「新しい召喚術だったのかお?」
 
ξ;゚听)ξ「う、うーん……? よくわからないんだけどね……」
 
ξ゚听)ξ「私の願いに、ペルソナが応えてくれた、ってとこかな……」
 
( ^ω^)「……」
 
ノハ*゚听)「ツン! すごく強かったんだなっ!」
 
ξ;゚听)ξ「う、ううん、私も必死だったし」
 
ノハ*゚听)「お姉ちゃんと同じくらい強いぞ!」
 
ξ゚ー゚)ξ「……ふふ、ありがとう」
 
766 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:38:02.67 ID:0WNQbzNL0
 
lw´‐ _‐ノv「……ブーン兄ちゃん」
 
( ^ω^)「お?」
 
lw´‐ _‐ノv「あれは……なんだったの?」
 
( ^ω^)「……わからないお」
 
lw´‐ _‐ノv「あの人は……?」
 
( ^ω^)「村のはずれに住んでる、ドクオって奴だお」
 
lw´‐ _‐ノv「知らない」
 
( ^ω^)「引きこもりだから……」
 
lw´‐ _‐ノv「……ふぅん」
 
( ^ω^)(結局……あれはなんだったんだお……ツンも知らない様子だったし……)
 
( ^ω^)「あ」
 
ξ゚听)ξ「ん?」
 
(;^ω^)「オッサンは……大丈夫なのかお?」
 
ξ;゚听)ξ「あ……」
 

767 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:39:30.95 ID:0WNQbzNL0
 
 一同の視線が横たわるドクオに注がれた。
 ブーンがゆっくりと近づいていき、ツン達もその後に続く。
 
 静かに風が吹き、虫の音が彼らの耳を撫でる。
 あの異変が、まるで幻だったかのように、穏やかな夜が訪れていた。
 
(;^ω^)「……」
 
 膝をつき、ドクオを間近で見つめる。
 ヒートとシューは、またあの異形を思い出したのかツンの後ろに隠れていた。
 二人が腰の辺りの服を掴むと、安心させるようにツンは二人の頭に手を乗せる。
 
(;^ω^)(怪我は……ないみたいだけど……)
 
 ドクオに外傷は見当たらなかった。
 そして、もう一つ、見当たらぬものがあった。
 
ξ;゚听)ξ(あの箱は……?)
 
 力無く投げ出されたドクオの両手は、手の平を地に向けるのみ。
 その手に在ったはずの黒き箱は、忽然と消えてしまっていた。
 
( A )「……う……」
 
(;^ω^)「ッ!」
 
772 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:41:09.53 ID:0WNQbzNL0
 
 男が呻き声を上げ、身を揺らす。
 ブーンは咄嗟に立ち上がり、距離を取った。
 ツンもそれに合わせ、身構える。
 
('A`)「……」
 
 倒れたまま目を開き、顔を起こして右、左と見た後に、
 
('A`)「……お前達は……?」
 
 正面にいた一同を見て、そう呟いた。
 頭を抱えながらゆっくりと起き上がり、服についた土を払う。
 多少ふらついているものの、ブーンの見立て通り怪我はないようだった。
 
('A`)「ここは……?」
 
(;^ω^)「……覚えてないのかお?」
 
('A`)「んん……? お前は……ラダトスクさんとこの……?」
 
( ^ω^)「ブーンだお」
 
('A`)「あぁ、そうだ思い出した」
 
(;^ω^)「……?」
 

773 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:43:00.56 ID:0WNQbzNL0
 
('A`)「それより、なんで俺はこんな所にいるんだ?」
 
ξ;゚听)ξ(……覚えてないのね)
 
(;^ω^)(さっぱりわけがわからんお……)
 
('A`)「なんだか頭がふわふわしているんだが……寝すぎて昼に起きたような……」
 
lw´‐ _‐ノv「……」
 
ノパ听)「あのバケモノがオッサンだったの?」
 
ξ;゚听)ξ「ヒ、ヒートちゃん」
 
('A`)「バケモノ? どういうことだ? 説明してくれ」
 
( ^ω^)「お……ひとまず、僕の家に行こうかお」
 
('A`)「すまないな。そういえば、親父さんは元気か?」
 
(;^ω^)「お……」
 
 反応に困るブーンは、先ずは家にと先を歩き出した。
 顔を見合わせ、ツン達がそれに続き、ドクオも一つ首を傾げた後、同じ様に続く。
 ドクオはツン達と対峙した後に異形と化したあの時の事はおろか、過去の記憶すら曖昧なようだ。
 
777 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:44:31.99 ID:0WNQbzNL0
 
 全員が訳がわからないと疑問の色を顔に浮かべ、家へと向かう。
 ドクオが嘘を吐いている可能性が、全くないというわけではないのだが。
 
(;^ω^)(……どういうことだお?)
 
 家へ戻ると提案したのは、ヒート達がここにいるため母が心配しているのではないかという理由からだった。
 万が一ドクオが嘘をついていた場合、村にまで危険が及ぶのだが、
 しかしそれでも、ブーンがそう提案した事には、ドクオの言動以外で感じたものが最も大きかった。
 
(;^ω^)(オッサンから一切魔力を感じなくなったお……)
 
 村の、ブーン達の一族に伝わる魔術を扱う人間からは、近くにいれば相応の魔力を感じ取る事ができる。
 自分達と『同種』であると見極める事ができたのだが、それがドクオから一切消えていたのだ。
 驚異はないと判断したブーンは、家に戻る事を選択したというわけだ。
 
 不安と言えば、ツンも一つ抱えている。
 
ξ;゚听)ξ(……箱は……どこに……)
 
 ドクオの手には、何も持たれていない。
 恐らくは異変を引き起こしたと思われる黒い箱が、どこにもなかった。
 肉塊に包まれるまでは手に在ったはずの箱。倒れていた時には、既に消え去っていた。
 
ξ゚听)ξ「あの……ドクオ……さん?」
 
('A`)「なんだ?」
 
779 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:46:31.87 ID:0WNQbzNL0
 
ξ゚听)ξ「何か持ってませんか? 箱みたいな……その……」
 
('A`)「箱?」
 
 ドクオは黒の外套を脱ぎ、数回ばさりと宙に泳がせる。
 厚手の布が煽られただけで、何も出てはこなかった。
 外套の下の服装はと言うと、箱を隠し持つことができる箇所は見当たらない。
 
('A`)「よくわからんが……何も持ってないぞ」
 
ξ;゚听)ξ「そう……ですか」
 
 そこに無い事が解っても、ツンの不安が払拭されることはなかった。
 黒き箱はツンも知らぬ内にこの世界に紛れ込み、つい先程異変をもたらしたのだから。
 念のためとツンはヒート達にも問うたが、やはりどこかに紛れているということはなかった。
 
 積もるばかりの謎を抱えつつ、一同は村へと進む。
 夜の林は不気味な暗闇に包まれていたが、空気は変わって穏やかだ。
 彼女のペルソナも、警告を発することはなかった。
 
 ツンも一先ずは村へ戻り、話を進める事が最善と判断する。
 新たなペルソナを得て、自信喪失からは脱したが、やはり謎はまだ多い。
 前で揺れるヒートとシューの頭を見つめながら気を引き締め、後に続く。
 
 迷いを克服し成長を遂げた少女は、凛と前だけを見つめていた────
 

780 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:48:54.49 ID:0WNQbzNL0
 

 
(;'A`)「……なんということだ」
 
 テーブルには四人、私とブーンとおばさん、それにドクオ……さん。
 話を終えてドクオさんは最初に、そう言った。
 ヒートちゃんとシューちゃんは戻って直ぐにお風呂へ行っている。
 
 丘での一連の出来事を話し終え、更にそれ以前、アンノウンの事、
 私の事、そして、ブーンのお父さんのことを話していた。
 
 驚く事に、丘での一件以前の出来事も、ドクオさんは知らないという。
 ここ数年の記憶が、すっぽりと抜けているようだった。
 
('A`)「……いや、まずは謝ろう。知らぬ事とは言え、君達を危険に晒してしまった。すまない」
 
(;^ω^)「いいんですお、ほら、こうやって生きてるし……」
 
ξ;゚听)ξ「大丈夫ですよ」
 
('A`)「ありがとう。……しかし、そんなことが……」
 
J( 'ー`)し「……」
 
 ブーンは言っていた。彼のお父さんの話では、ドクオさんは昔は真面目だった、と。
 現存する最古の古文書を見た時から、人が変わったようになったという。
 もしかしたら人が変わったのは比喩じゃなく、多分、そのままの意味だったのかもしれない。
 
782 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:52:14.28 ID:0WNQbzNL0
 
('A`)「あれを見た後、何年も……俺は……」
 
 ドクオさんは伸びに伸びた髪に触れ、俯いた。
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 この世界に来る前に、ブーンは言っていた。
 私達と同じ様な存在がいるパラレルワールド、つまり平行世界がいくつもあるのだと。
 年齢や外見が違っても、この世界のブーン達と初対面だとは思えなかった。
 
 つまりそれが、根源は同じ存在だということの証明なのだろうか。
 
 ドクオさんに異変をもたらせた黒い箱。
 あれは私の世界にあった物だ。しかし彼は、あれを待っていたと言っていた。
 そう考えると、やはりどこかで繋がっているのだろうか、と思う。
 
 フィレモンも、運命が私を選んだと言っていた。
 そして今、私が違う世界にいるという現実。
 それらが拍車をかけるのだ。私達と、他の世界に危機が迫っていると言う事に。
 
 あの箱が“アンノウン”と関係があるのかは、わからない。
 関係しているのであれば、私の世界の敵も、そうという事になる。
 でも、何か、何かが、違うような────
 
( ^ω^)「お?」
 
J( 'ー`)し「外……騒がしいわね」
 
( ^ω^)「見てくるお」
785 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:54:04.58 ID:0WNQbzNL0
 言われてみれば、確かに外が騒がしかった。
 慌てたような叫び声のようなものがちらほらと聞こえてくる。
 ふと、ドクオさんの異変を思い出した。
 
 玄関の戸をを開いて、顔だけを出したブーンがすぐにこちらを向いて、
 
(;^ω^)「か、火事だお!」
 
 そう言った。
 
(;^ω^)「ドクオさんの家の方が、燃えてるお!」
 
(;'A`)「なっ!?」
 
 すぐに立ち上がり、ドクオさんが外へと躍り出た。
 ブーンもその後を追う。
 
ξ;゚听)ξ「私も!」
 
J(;'ー`)し「気をつけてね」
 
 すぐに外へと駆け出し、二人の背中を追った。
 
 
 一目で火事だとわかる程に、向かう先の空は赤々と照らされていた。
 丘から帰る途中の林、その中にドクオさんの家があるようだ。
 
ξ;゚听)ξ「……!」
 
 間近で見た炎は、凄まじかった。
787 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:56:06.67 ID:0WNQbzNL0
 
 どの世界でも、全てを消してしまう火災とは、こんなにも恐ろしいものなのだろうか。
 現場では既に十数人の村人達が、おばさんが見せてくれた魔法を駆使して消火活動を行っていた。
 ブーンもそれに混ざり、手当たり次第に水を召喚していた。
 
 見れば年配の方が多い気がする。
 おばさんが言っていた、戦える者はブーン達しかいないという言葉を、思い出した。
 
 きてみたものの、自分の力は消化に向いていない事に気付く。
 アルテミスは強力すぎるし、スアデラでは水や氷を扱えない。
 けれど、見ていることしかできなかった人は、他にもいた。
 
(;'A`)「何故だ……召喚術が使えない……」
 
(;^ω^)「ドクオさん! 離れてるんだお!」
 
(;'A`)「……」
 
 ドクオさんは自分の両手を見つめ、立ち尽くしていた。
 私から箱を奪う時に、確かにブーン達と同じ様な魔法を扱っていたはずだ。
 それが、使えないのだと言う。
 
 またも浮上した謎に、一先ずは消化に専念しようとブーンが叫ぶ。
 私とドクオさんは、ただ見ている事しかできなかった。
 
(;^ω^)「ふー……」
 
 幸い、家のすぐ傍に木がなかった為に、火は燃え広がらずに消火された。
 でもドクオさんの家は、骨組みを残してほとんどが黒い炭と化していた。
 消火をしていた村の人達はドクオさんを一瞥しただけで、村へと戻って行った。
789 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:57:52.87 ID:0WNQbzNL0
 
(;^ω^)「……」
 
(;'A`)「……召喚術が……使えなく……」
 
(;^ω^)「変だと思ってたお。ドクオさんから魔力を全く感じなくて……」
 
(;'A`)「どういうことだ……」
 
( ^ω^)「関係してるとしたら、あの異変が、多分……」
 
(;'A`)「異変……」
 
 そう呟いて、ドクオさんがはっと燃え果てた家を見た。
 
(;'A`)「あの火から、魔力を感じたか?」
 
( ^ω^)「火から? そんなことはなかったお」
 
(;'A`)「……そうか」
 
( ^ω^)「どうしたんですかお?」
 
('A`)「タイミングがよすぎると思わないか?」
 
(;^ω^)「え……」
 
ξ;゚听)ξ「まさか……」
 

790 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 22:59:43.87 ID:0WNQbzNL0
 
('A`)「古文書を見た時から、俺の記憶はすっぽりと抜けている。そして古文書は多分、家にあったはずだ。
    手懸かりはその古文書だが……この通りだ。いくらなんでも、タイミングが良すぎる」
 
(;^ω^)「たしかに……」
 
('A`)「何者かが……古文書を見られると都合が悪い者……俺の記憶を奪った奴かは知らないが……。
    とにかく、そんな奴がいることは間違いないだろう」
 
(;^ω^)「……」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
 もしかして、無くなっていたあの箱と関係があるのだろうか。
 謎が増えていく一方で、私の頭に粘り着く一つの単語があった。
 その言霊に、地を這うような、言い知れない不気味な感覚が残る。
 
 ニャルラトホテプ。
 
 ドクオさんが召喚しようとした、外なる神の名。
 
 あの時私は確かに、ペルソナの共振を感じていた。
 だとすればそれは私の世界とも関係しているのだろうけれど、そんな名は聞いた事もない。
 フィレモンなら何か知っているのかもしれないけれど……。
 
( ^ω^)「と、ここで考えてても仕方ないお。ドクオさんも今日はうちに」
 
('A`)「……すまないな、迷惑をかけてばかりだ」
 
( ^ω^)「気にしないでくださいお」

791 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:02:31.02 ID:0WNQbzNL0
 
 そうして私達は、再びブーンの家へと戻る。
 何も知らないこの世界に、私の世界の謎も紛れ込んでいる。
 わからないこと、だらけだった。
 

 
 家に着くと、おばさんとお風呂からでていたヒートちゃん達が心配していた。
 なんでもなかったと告げて、ドクオさんの事も話した後に、今日は早く寝ようという事になった。
 お風呂に入った後、おばさんが寝間着を貸してくれた。それがなんだか少し、懐かしく思える。
 
 ヒートちゃんは寝相がとても悪いということで、シューちゃんのベットにお邪魔することにした。
 
ξ゚听)ξ「……こうして、魔王ロマネスクは勇者シースルーと共に、氷の中で永い永い眠りにつくのでした……」
 
ξ゚ー゚)ξ「おしまい」
 
lw´‐ _‐ノv「……ありがとう」
 
 ぱたんと、本を閉じた。
 
 シューちゃんがお姉さんのクーに読んでもらっていたという絵本を、読んでいたのだ。
 ベッドの横にきた私をみるやいなや、シューちゃんはぱたぱたと走って、この絵本を持ってきた。
 少し恥ずかしそうにして上目遣いで「読んで」と頼まれては、断ることなんてできなかった。
 
 私の世界と同じ日本語で書かれていたことが、不思議だ。
 言葉も通じているのだから、それは当たり前だとも思える。
 でも、もしかしたら全く違う言葉で話しているのかも知れないとも、漠然と考えていた。
 
793 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:05:19.94 ID:0WNQbzNL0
 
 不思議なことが起こり続けているせいだろう。
 この世界に来たらブーンにもペルソナが見えたこともある。
 都合の良いように、そうできている。そんな気がしてならなかった。
 
lw´‐ _‐ノv「……ツンお姉ちゃん」
 
ξ゚听)ξ「なぁに?」
 
lw´‐ _‐ノv「クーお姉ちゃんを……お願い」
 
ノハ*゚听)「お願い!」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 召喚術を少しは扱えると言っても、彼女はまだ幼い。
 この世界のツンにそっくりな私を見て、お姉さんのことを強く思い出したに違いない。
 
 ベットの中で、シューちゃん、それに隣のベットにいるヒートちゃんとお話をした。
 
 二人のこと、この世界のこと、それにお姉さん、クーのこと。
 ヒートちゃんは十二才、シューちゃんは十才だという。
 時間の概念も、どうやら私の世界と同じなようだった。
 
 この世界のことを聞いてみたけれど、しかし幼い二人、この村の外はさっぱりわからないらしい。
 尤も、ブーンのワープ魔法でアンノウンの城へ移動するなら、知っても意味はないことだ。
 ただ、二人が本当にクーのことが大好きだということは、とてもよくわかった。
 

794 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:06:52.43 ID:0WNQbzNL0
 
 その、クーを慕う気持ちを知ったからこそ、二人の本心がわかる。
 多少なりとも召喚術が扱えるから、二人も着いていきたいのだろう。
 だけど、それはできない。偉そうな事を言うけれど、二人には危険なのだから。
 
 ブーンの力も相当なものだった。
 だけど彼……クー達も含め彼らは一度、アンノウンに敗れているのだ。
 
 そんな戦いに、彼らより力の劣る二人を連れて行く事はできない。
 私が直接言わなくても、二人はそれがわかっているだろう。
 
 だからさっき、私に託したのだ。
 お姉ちゃんを、お願いと。
 
 最初は曖昧に返事をする事しかできなかった。
 でも今は、違う。
 
 当然それは、新しく得たペルソナの力に慢心しているわけでもない。
 
ξ゚ー゚)ξ「任せておいて。必ず、お姉ちゃんを連れて帰るから」
 
 必ず、アンノウンを倒す。
 
 未だ多くの謎は残っている。
 だけど明確な目標は変わっていないのだ。
 私がアンノウンを倒すために呼ばれたというのなら、全力を以て倒す。
 
 先の戦いを通じて、今はそう強く言える事が出来た。
 
797 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:09:04.29 ID:0WNQbzNL0
lw´‐ _‐ノv「……」
 
 シューちゃんが俯いて、身を寄せてきた。
 この子達にとってクーは、姉であり母親なのだ。
 そして二人は、まだまだ子どもで……。
 
ノハ;゚听)「……ぅ……」
 
ξ゚ー゚)ξ「ヒートちゃんも、こっちにおいで?」
 
ノハ*゚听)「いくっ!」
 
 私だって人の事は言えない子どもだけれど、だからこそわかる。
 きっと、まだ甘えたいのだろう。お姉ちゃんと一緒に、いたいのだろう。
 アンノウンを倒すということは、結果的にこの世界を救うことになる。
 
 でも、それよりも。
 
 二人が笑って過ごせるように、二人の為に、戦う。
 そんなのも決して、悪くない。
 
 そっと、二人の頭を撫でた。
 柔らかい髪の感触が、とても心地良かった。
 
 不安がないと言えば、嘘になる。
 だけど私は、戦える。
 
 彼女たちの優しく、柔らかな髪は、私の決意をより堅固なものに変えてくれた。
 
 護ってみせる。この笑顔を。誰もが持っている、宝物を。

798 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:11:07.86 ID:0WNQbzNL0
 

 
 
 翌日。
 
 陽も落ちかけた丘の上に、私達は立っていた。
 
 綺麗になった制服に袖を通し、体も心も、一新して。
 おばさんに、ヒートちゃんとシューちゃん、そしてドクオさんも見送りにきていた。
 
('A`)「俺も戦いたいが……これでは足を引っ張るだけだ。頑張ってくれ」
 
ξ;゚听)ξ「そんな、気にしないで下さい」
 
( ^ω^)「……」
 
J( '-`)し「……」
 
ノパ听)「頑張って! 早く帰ってきてね!」
 
lw´‐ _‐ノv「待ってるから」
 
ξ゚ー゚)ξ「うん。ありがとう」
 
J( '-`)し「……」
 
 ブーンとおばさんは、ずっと見つめ合っていた。
 自分の息子が危険な戦いに赴くのだから、やはり心配なのだろう。
 彼は彼で、おばさんを置いていく事が苦痛なはずだ。
800 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:13:00.08 ID:0WNQbzNL0
 
 でも、なんだろうか。
 
( ^ω^)「……カーチャン」
 
J( '-`)し
 
 もっと。
 
 もっと違う、違った雰囲気を、二人の間に感じる。
 二人はとても悲しげな瞳をしているような、そんな気が。
 
( ^ω^)「行ってくるお」
 
J( '-`)し「……」
 
 私が思っている通りのブーンなら、心配させまいともっと弾んだ口調で言う、と思う。
 けれどそんな調子は一切なく、静かな、本当に静かな口調だった。
 
 おばさんはすぐに言葉を発しなかった。
 発する事が、できないようにも見えた。
 
 
J( 'ー`)し「……行ってらっしゃい」
 
 
 それだけ言って、おばさんは後ろを向いてしまった。
 
 肩が、震えていた。
 

802 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:14:52.74 ID:0WNQbzNL0
 
 ブーンはそんなおばさんの背を、少しの間見つめていた。
 何を思っているのか、私にはわからない。
 
 その後に、今度は私の方を向く。
 自分の世界のブーンと変わらない、優しい表情をしていた。
 どこか、凛々しさも含まれているような気がした。
 
( ^ω^)「ツン」
 
ξ゚听)ξ「うん?」
 
( ^ω^)「聖剣の力は、願いを籠めながら剣を振り下ろせば使える……。
       聖剣がそう伝えてほしいって、言ってたお」
 
ξ゚听)ξ「……わかった。でも────」
 
( ^ω^)「ツン」
 
ξ;゚听)ξ「っ……」
 
( ^ω^)「元の世界に帰る時は、そうしてくれお」
 
ξ;゚听)ξ「……ブーン……?」
 
 それ以上、私は何も言うことができなかった。
 それきり押し黙り、ブーンはただ、夕日をじっと見つめていた。
 何かを決意したような、そんな背中を、私も見つめることしかできない。
 
 そして、その時がやってきた。

803 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:17:16.36 ID:0WNQbzNL0
 
( ^ω^)「……」
 
 ふ、と短く息を吐いて、
 
 
( ^ω^)「日没だお」
 
 
 強く、顔をあげた。
 
 私もそれに合わせて、ほとんど沈んでしまった太陽を見る。
 その輝きにもう目を焼かれる事はなく、山と空を紅に染めていた。
 雲の上にはもう星が煌めいていて、夜の訪れを報せている。
 
ξ゚听)ξ
 
 ブーンが私の手を握る。私も強く握り返す。
 いよいよ、アンノウンの元へと私達は向かう。
 
 
( ^ω^)『────────……』
 
 
 例の鍵を握り締め、ブーンが何かを呟いた。
 その手が、光り出す。温かで、柔らかな光が。
 
 それが矢のように彼方へと飛ぶと────
 
805 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:20:05.52 ID:0WNQbzNL0
 
 
ノハ*゚听)「わぁ……」
 
 道が生まれた。
 この光の道の先に、倒すべき敵がいるのだろう。
 
 ふわりと、体が浮いていく。
 この世界に来た時のような、上昇していく圧迫感はない。
 動き慣れた動作を取るように、当然のように体は順応していた。
 
 その感覚に、確信する。
 やはりこれは、決まっていたことなのだ。
 私はそこへ行き、戦うために、ここへきたのだ、と。
 
 
  「ブーン!!」
 
 
 おばさんが叫んだ声が、聞こえた。
 
 
 その、直後。
 
 
 私とブーンは光の道に吸い込まれ、全ての音は聞こえなくなった。
 
 

806 : ◆iAiA/QCRIM :2010/11/28(日) 23:22:21.49 ID:0WNQbzNL0
 
 
 心で、誓う。
 
 おばさんが言った、あの言葉。
 
 
  「……この世界を、お願いします」
 
 
 全力を尽くすと、私はあの時に言った。
 今もそれは思っている。当然のことだからだ。
 
 それに加えて、新しい誓いを立てる。
 
 
 ────必ず、護ります。
 
 
 私と、この先にいるという異世界の仲間達と共に、必ず。
 
 
 征きましょう、ペルソナ。
 
 
 みんなの笑顔を、護る為に。
 
 
                        【Single part:Persona⇒END】
 

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