- 925 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:39:57.59 ID:hlZ+Djy40
【main part : Epilogue】
- 932 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:42:05.18 ID:hlZ+Djy40
-
星々が、煌めいている。
周囲のあまりに深い闇に、抗うように。
この景色に、私は戻った。
アンノウンという巨大な闇の手から、遂に逃れることができた。
異世界を交錯させた、類い希なる戦いは、終わったのだ。
彼らは自身の世界へと帰っていった。
記憶を全て消去して。
そうしなければいけない。
今回の事を覚えていると、矛盾が生まれてしまうからだ。
もとより自身の世界を生きるために、この記憶は必要がない。
彼らからしてみれば、この戦いは寄り道でしかないのだから。
本当の戦いは、彼らが生きる世界にこそあるのだから。
私のことを思い出すことも、ないだろう。
それでいい、それが、正しい。
私はこれまで通り、ここから彼らの世界を見続けるだけで、いい。
- 936 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:44:34.74 ID:hlZ+Djy40
-
それでも、少しくらいは。
彼らが持ち帰った、小さな小さな欠片くらいは。
楽しんでも、良いだろう。
彼らはまた、熾烈な戦いへと身を投じるのだから。
この戦いを乗り越えた者として、暫しの休息の時を。
持ち帰った欠片たちと、彼らが叶えた願いを読もう。
まずは、そう。
この世界から────
【( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです】
- 941 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:47:54.05 ID:hlZ+Djy40
-
一つの大きな戦いが終わった。
謎はいくつも残っているけれど、激動の一日は確かに、終わった。
ξ゚听)ξ「はぁ……」
自室で制服を脱いで、簡素な部屋着に着替えて、コーヒを煎れに台所へ。
戻ってくる間に、色々なことを考えた。
ペルソナという力を得てから、現実離れした日々が続いている。
こんな日常的な瞬間が、なんだかひどく懐かしく思えた。
ξ゚听)ξ「…………?」
自室のドアを開けると、最初に違和感が飛んできた。
コーヒーを煎れに行く前と、何も変わっていないのに。
ξ゚听)ξ「……なんだろう」
匂い。コーヒーの薫りに混じり、太陽のにおいがした。
この暖かい感覚を、つい最近も感じた気がする。
そんな、違和感が。
ξ゚听)ξ「……あ、制服……」
ベッドに投げっぱなしだった制服を手に取る。
そのままハンガーにかけようとした時だ。
- 948 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:50:42.13 ID:hlZ+Djy40
-
ξ;゚听)ξ「わわっ」
ばらばらと何かが落ちた。
拾わなくてもそれがなんだかは分かる。
ξ;゚听)ξ「壊れちゃったんだ……無茶したからなぁ……」
ボールペンだった。
金属製で頑丈なはずなのに、壊れてしまっていた。
エクストに体当たりした時か、吹き飛ばされた時か。
ξ--)ξ「はぁ……買い直さなくちゃ……」
急激に現実へ引き戻されてしまった。
疲れとは違うため息を吐いて、ポケットの中を探る。
粉々、と言ってもいいほどに、たくさんの金属片が出てきた。
ξ゚听)ξ「…………」
何故かは、わからない。
無意識のうちに、小さな金属片を大切に集めて、見つめていた。
これがデジャヴ、というものだろうか。
見つめているだけで不思議な感覚に包まれる。
金属片をティッシュにくるみ、机の上に置く。
捨てようとは、思えなかった。
そして、ポケットにもう一つ、入っているものがあった。
- 950 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:52:52.65 ID:hlZ+Djy40
-
ξ゚听)ξ「……」
一枚の、紙。生徒手帳のメモ帳部分であることは、わかっていた。
でも、そこに書いてある文字には、やはり覚えがない。
ξ゚听)ξ(……なに……これ?)
ξ゚听)ξ「『先に行っています、ツン・ショボン』」
ξ;゚听)ξ「私の字……だよね……なんだろう、これ……」
全く、身に覚えがなかった。
でも、書いてある字は間違いなく、私のものだった。
その私の字の、下に。
誰が書いたかわからない文字が、一行、添えてあった。
ξ゚听)ξ「……『ありがとう』……?」
全く、心当たりがない。
でも、なぜか。
ξ*--)ξ「…………」
とても。
とても、暖かい気持ちになった。
- 954 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:55:03.35 ID:hlZ+Djy40
-
しばらく私はそのままでいた。
その二つを見つめて、部屋に残る薫りを感じて。
エクストとの戦いで、体は疲れ切っていたのに。
そんなものは吹き飛んでしまっていた。
まるで、力をもらったような、そんな気が。
ξ*--)ξ
今は、この感覚に身をゆだねよう。
この暖かさを、太陽のにおいを、感じていよう。
明日からは、また戦いが始まる。
さっきとは違い、それを憂う気持ちは不思議と生まれない。
この感覚──なか──にいると、何故か、そう思える。
戦える。戦い抜いてみせる。
自分を、信じて。
みんなを、信じて────……
- 956 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:57:37.19 ID:hlZ+Djy40
【( ^ω^)は街で狩りをするようです】
- 960 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
20:58:52.35 ID:hlZ+Djy40
-
叫声を上げ、異常な脚力を発揮して空まで追撃してくる騎兵達。
騎兵を思わせる姿のせいか、なんと勇ましい様だろうかと、彼等を見て僕は思う。
勇ましく己を奮い立たせねば、と……そうお前達が本能的に悟ったのなら、
お前達は随分と場数を踏んできたのか、あるいは人間の脳を喰らって知恵を付けたのだろう。
どちらにせよお前達は生物として優れている。
だからこそお前達を抹消しなければならない。一匹たりとも逃がしはしない。
お前達のような生物が地上に存在する限り、人間のまま生きる我々が、
陽光を浴びながら地上の土を踏みしめるのは、永遠に夢のままで終わろうから――――。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7(Sniperを環状に並べ両腕にガトリングを形成!
一気にカタをつけてやる!)
アーマー腕部に組み込まれた銃器の銃身。
選択されたSniperの銃身が腕の外へと展開し、計8本の銃身が高速回転する。
給弾・装填・発射・排莢のサイクルが1秒あたり2度繰り返されると、
まるでスコールのようにSniperの弾丸が敵に降り注いだ。
追撃する者も地から機を窺っていた者も次々に蒼色の光条に討たれてゆく。
蒼の雨が冷め止むと同時に宙で血肉が散華し、そして地を盛大に汚した。
臓物と血が広がる地面に降り、場を一望する。
それまで殺意と暴欲が滞留していた場は、まるで時が止まったかのように静まりかえっている。
- 965 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:03:23.98 ID:hlZ+Djy40
聞こえるのは風の音と己の心音のみ。
目に映る死骸から熱量も感知せず、グラフは独特の線を描こうとしない。
サーモグラフィが描く赤は、単に生物として残る温もりを表しているだけだ。
(;^ω^)「よし……」
この区域の安全は確保できた。
エネルギーの確保は勿論だが、まずは切れたニコチンを補給したくアーマーをパージする。
('A`)『ブーン、一服するなら今のうちだぜ。
工場地帯の多くが奴等の巣になっちまってる』
( ^ω^)「了解、そうさせてもらうお……」
愛品のマルボロを咥え、火をつけようとした時、
(;^ω^)「あっ!」
一陣の風が吹き、口元の煙草が奪われた。
突風に乗った煙草は川まで運ばれて、中腹で落とされた。
同時に、遠くで雷の音が鳴るのを耳にした。
どこかで嵐でも起きているのだろうか……冗談じゃない。
一ミリも吸っていない煙草を台無しにされてしまった!
- 970 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:07:29.56 ID:hlZ+Djy40
(;^ω^)「ああああ……どこぞの嵐め!
ふざけんなお!」
他にやり場が無いものだから、ブーンはそう遠くの空を罵ってみるものの、
虚しさが余計に募るだけであった。
更に、そんな自分を馬鹿にするようにまた突風が吹く。
(;^ω^)「風つええお今日……って、」
( ^ω^)「あれ……なんだお、これ」
右腕で、巻いた覚えの無い紅いリボンが靡いているのに気づいた。
何故だろう、突然ツン=ディレイクの顔が頭に浮かんだ。
そして不思議なほど愛しい感覚が胸の中に芽生え、
( ^ω^)「何なんだお、なんでこんな……」
瞳が機械でなければ、涙を流してしまいそうになるほどの嬉しさを覚える。
同時に酷く、安堵する。
- 974 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:09:25.09 ID:hlZ+Djy40
-
自分の弱さを戒める為、額に巻いた形見のバンダナも靡き、
顔を叩きつけるようにしてバンダナは張り付いた。
急に、スネークに会いたくなった。
たまらなく彼と煙草でも吹かしたい気分を覚える。
( ω )「オッサン……」
しかし何故だろう、今更ながら彼とは本当に永遠の別れを遂げたように感じる。
ボストンで彼を死なせたのを克明に記憶しているというのに。
彼と死別して日は浅いが、それでも何故、今になって別れを惜しんでいるのだろうか?
でも、不思議と今は誇らしい気分だった。
紅いリボンを見ても、バンダナを指でくゆらせても。
( ^ω^)「任務を続行するお……BLACK
DOG!」
愛機を呼ぶと、いつもと変わらずに静かな音を鳴らし、
BLACK DOGはオーナーに従順さを示す。
巨大な機械を操縦し、機械仕掛けの狩人は死都を進む――――――。
- 6 :
◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:12:19.25 ID:hlZ+Djy40
-
【( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです】
- 8 :
◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:13:58.51 ID:hlZ+Djy40
-
(;´・ω・)「クッ!!」
誰もが認める無敵の天才退魔師、ショボン。
彼は今、かなりの窮地に追い詰められていた。
川 ゚ -゚)「ホラホラホラホラァッ!!
早く観念しないとこのグラスがどうなるか、分かってるな?」
自称ショボンのフィアンセ、クーが今どうにかしようとしているロックグラス。
あれはショボンのお気に入りだ。
(;´・ω・)「卑怯だぞ、クー!!」
クーは左手を狙いを定める様にショボンに向ける。
そしてグラスを持った右手は、『さぁ分投げるぞ』と大きく後ろに引いた。
物凄く奇麗なフォームだ!!
これは!!
当たる!!
(;´・ω・)「諦めるしかないのか!?」
そうショボンが天を仰いだ時───
川 ゚ -゚)「む?」
クーが構えを解いた。
そのまま突き出していた左手を、穴が開くように見ている。
- 12 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:16:23.17 ID:hlZ+Djy40
(;´・ω・)「何が……起こっている!?」
ショボンは迫り来る脅威が納まっている事を怪訝に思った。
だがとにかく今は、未だクーの右手にあるお気に入りを、丁重にテーブルに置いて欲しい。
川 ゚ -゚)「そうか……。そう言うことだったのか、ショボン
」
(;´・ω・)「何が?」
川 ゚ -゚)「帰る 」
(;´・ω・)「馬鹿な!?」
目的を何も達成していないのに大人しく帰るだと!?
ショボンは、これまでの経験からは想像も出来ないクーの行動に困惑した。
凍りつくショボンを余所に、クーはせっせと帰り支度をしてそのまま出て行く。
嵐のように来て、嵐のように去って行った。
(´・ω・`)「不可解だ……。
ま、今日の所は助かったな。
さてさてと……、片付けるか
」
ショボンはうんざりしながら惨状の後を眺めた。
クーが色々投げてくれたし、箒と塵取りでも、と思っていると、
(´・ω・`)「お、ラッキー。一つも割れてない
」
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
- 17 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:20:03.43 ID:hlZ+Djy40
- △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
─── ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁー────!!
─── ちょっと!!しっかり気を持つのよ!!
─── これはもうダメかも知れんのぅ……
川 ゚ -゚)「なんだ、この耳障りな奇声は?」
クーがバーボンハウスから出てみると、誰かが絶叫を上げていた。
まぁ、この声はブーンだろう。
仰向けになり悶え苦しむブーンと、慌てまくるツンとでぃが見える。
─── 鼻が!!鼻がぁぁぁぁぁぁー────!!
川 ゚ -゚)「どうした?」
クーがひょいと顔を出す。
ブーンは顔を手で覆って転げまわっていた
ξ;゚听)ξ「気がついたらブーンが鼻血を吹き出して!!
あのバケツが当たったみたいなんだけど……」
ツンは転がっている金属のバケツを指差した。
派手に凹んでいるが、でぃすらもその瞬間を見ていなかったという。
- 27 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:22:08.51 ID:hlZ+Djy40
川 ゚ -゚)「どれどれ、ちょっと見せて見ろ
」
川 ゚ -゚)「ぅゎ…… 」
ξ;゚听)ξ「どうしよう!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)「どうしたらいいんじゃ!?」
川 ゚ -゚)「救急車呼べよ 」
- 31 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:24:16.10 ID:hlZ+Djy40
ツンは今気付いたかのように携帯を取り出した。
でぃは階段を駆け上がり、バーボンハウス内のショボンを呼びに行った。
直ぐにショボンが現れ、階段を駆け下りてくる。
ブーンはもう動かない……。
(;´・ω・)「何じゃコリャ……?」
ショボンはブーンの顔を見るなり即携帯を掛ける。
モナー財団顧問弁護士、中島バルケンの元へだ。
(´・ω・`)「よし、とりあえずあと2分でヘリが来る。
ウチの病院で手術の準備も整うさ
」
∧_∧
(*゚;;-゚)「よしよし。モナーの金は、こういうときに使わぬとな
」
ニャハっと笑うでぃ。
そうこうしていると、早くもヘリの爆音が聞こえてきた。
(´・ω・`)「オレはブーンに付き添う。
ツンとでぃさん、悪いが留守番を頼む。
クーは……、帰るの?」
川 ゚ -゚)「帰る 」
道のど真ん中に着陸したヘリに、ブーンを抱えたショボンは直ちに乗り込んだ。
あっという間に空の彼方だ。
- 35 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:26:17.29 ID:hlZ+Djy40
ξ;゚听)ξ「流石はモナー財団の現当主ね。
電話一本でヘリが来るなんて……」
よく見ると、道路にはどこからともなく交通整理の職員が現れている。
一体どういうシステムだ……?
∧_∧
(*゚;;-゚)「寒いのぅ……。ツン、中に入ろうぞ
」
ξ゚听)ξ「あ、うん。そうね。
ブーンの容体も気になるし、一緒にお留守番しよっか
」
川 ゚ -゚)「寒い?そうか?」
ツンはでぃを抱き上げ、身震いをする。
木枯らしの吹く冬の午後。
しかし、不思議とクーはそれほど感じなかった。
川 ゚ -゚)「私は用事が出来たから帰る。
大丈夫だよな?」
ξ゚ー゚)ξ「うん。でぃさんもいるし 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「ツンの家でコタツりたかったんじゃがのぅ
」
- 39 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
21:28:21.20 ID:hlZ+Djy40
ツンはでぃを抱えてバーボンハウスに戻った。
中に入る前に、クーの方を向き直り手を振る。
クーもそれに答え、ツン達が中に入るのを見送った。
川 ゚ -゚)「ショボンめ……。
私に気付かせずにこんな事をするとは可愛いヤツ。
味な事をするもんだ 」
クーは再び自分の左手を見た。
とりわけ人差し指だ。
そこには、静かに輝く銀の指輪がある───。
川 ゚ -゚)「シャイ過ぎて薬指には嵌められなかったか
」
クーは自分で指輪を付け替えた。
左手の薬指にだ。
正式に贈られたわけではないが、ショボンに貰ったという確信はある。
川 ゚ -゚)「さーて、帰って結納の準備だ
」
クーは外套を棚引かせながら帰路に着く。
温かな、先祖伝来の外套を……。
- 42 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:31:11.65 ID:s+LtfyAu0
-
【( ^ω^)ブーンがアルファベットを武器に戦うようです】
- 51 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:33:45.83 ID:s+LtfyAu0
-
――――風が、凪いでいたような気がした。
四方八方から聞こえる、風声。
奏でられる葉音。
そのいずれも、風が変わらずに吹いていたことを示している。
分かっているにも、関わらず。
(´・ω・`)「…………」
獣の遠吠えが聞こえた。
この帰らずの森には、実質的にツンが飼育している獣が何頭もいる。
夜行性の獣が多いのか、感じる気配は多い。
気配がないとしても、恐らく、眠りに就いているだけだろう。
ツンの小屋も、ちょうど明かりが消えたところだった。
(´・ω・`)(……不思議な感覚だ)
(´・ω・`)(さっきの一歩と、今から踏み出す一歩には、大きな差があるような気がする)
(´・ω・`)(しかし……)
右足を前に出す。
何も変哲のない一歩。
しかし、何故かいつもより歩幅が広かったような気がした。
- 56 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:35:50.94 ID:s+LtfyAu0
-
――翌朝――
――ヴィップ城――
寝覚めのいい朝だった。
体の疲労が、全て抜けてくれたと思えた。
( <●><●>)「おはようございます、ショボン大将」
(´・ω・`)「あぁ、ベルベットか。おはよう」
大将室を出て、階段を降りたところでベルベット=ワカッテマスに出会う。
寒風が吹き荒んでいるが、ベルベットは外套も羽織らずに、帰らずの森を眺めていた。
( <●><●>)「昨日、アルファベットSを試してみましたが、やはりまだ掴めませんでした」
(´・ω・`)「そうか。まぁ、焦る必要はない。お前ならいつか壁を越えるさ」
( <●><●>)「精進します」
相変わらず、抑揚のない喋り方だった。
非常に淡々としていて、感情をどこかに忘れてきたのではないか、と思える。
屋内に入り、朝食を摂るべく食堂を目指す。
自室で摂ることが多いが、たまには大将の姿を見せたほうが兵の身も引き締まるはずだった。
- 61 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:38:20.61 ID:s+LtfyAu0
-
( ^Д^)「ショボン大将、おはようございます」
(´・ω・`)「プギャー、戦いの準備は進んでいるか?」
( ^Д^)「はい、問題なく」
プギャー=アリストが深く頭を下げて挨拶してきた。
数日前から準備を進めさせており、進捗が気にかかっていたが、どうやら問題はないらしい。
( ><)「ショボン大将にプギャー少将、おはようございますなんです!」
(´・ω・`)「ビロードか、おはよう」
( ^Д^)「ビロードも食堂か?」
( ><)「はいなんです! ホントは家内に作ってもらう予定だったんですけど、まだぐっすり寝てたんです!」
(´・ω・`)「多少、抜けているところがあるんだったな、お前の正室は」
( ^Д^)「まぁ、そんなとこも可愛いんだろ?」
(*><)「は、恥ずかしいんです!」
将校が三人並んで歩く光景は物珍しいらしく、皆から一様に視線が注がれた。
無論、道は大きく開かれている。
そして更に、ギコ=ロワードまで現れた。
- 69 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:41:08.06 ID:s+LtfyAu0
-
(,,゚Д゚)「揃って食堂ですか? 珍しいですね」
(´・ω・`)「あぁ、お前は?」
(,,゚Д゚)「もう食べました、自室で」
(´・ω・`)「お前もあまり、食堂では摂らないほうだな」
( ^Д^)「料理の上手い嫁さんがいるとそうなりますよね、ギコ中将」
(,,゚Д゚)「まぁ、そうだな。あまり普段、城に居てやれないことだし」
(´・ω・`)「今はどこへ向かおうとしていたんだ?」
(,,゚Д゚)「訓練室です。ラウンジとの戦が近いですから」
(´・ω・`)「いつでも訓練を怠らないところは、実にお前らしいな」
(,,゚Д゚)「待ちに待った天下が、もう目の前にまで迫っています。ラウンジを打ち倒せば、掴むことができます」
(´・ω・`)「あぁ、お前はそうやって、敵だけを見据えていてくれればいい」
(,,゚Д゚)「はい。では、失礼します」
ギコが頭を下げて訓練室へと向かって行った。
そこからは三人で軽く談笑しながら、食堂へと入る。
- 74 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:43:31.09 ID:s+LtfyAu0
-
( ^ω^)「あ、おはようございますですお!」
( ・∀・)「珍しいですね、食堂で鉢合わせるなんて」
(´・ω・`)「ブーン、モララー。お前たちも来ていたのか」
ブーン=トロッソとモララー=アブレイユが同じ卓についていた。
普段から仲の良い二人だが、一緒に食事を摂ることは稀だろう。
給仕から朝食を受け取り、窓際にあるブーンたちの卓へと向かう。
ちょうど五人が座れる大きさだった。
( ^ω^)「今日の鰯は美味しいですお」
(´・ω・`)「モララー、今日は魚が食える日か?」
( ・∀・)「あんまり気分じゃないですね。まぁ、変えてもらうほどでもないですけど」
(;><)「ほ、骨が喉に刺さったんです!」
(;^Д^)「あー、ほら、米を丸飲みしろビロード」
(*><)「取れたんです!
ありがとうございますなんです!」
プギャーとビロードが軽く笑いながら箸を動かしている間に、自分はほとんどを食べ終えていた。
ブーンとモララーは完食しているが、他愛もない会話を続けており、席を立つことはない。
そんなとき、だった。
- 80 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:46:48.34 ID:s+LtfyAu0
-
( ・∀・)「ん……」
( ^ω^)「あっ……」
食堂の外を、通り過ぎていった。
僅かな時間の出来事だが、皆が会話を止めて息を呑んだ。
西塔大将のジョルジュと、中将のニダーが、並んで歩いていったのだ。
(´・ω・`)「…………」
ジョルジュは病を患っている。
命に関わるほどの重病ではないが、もはや戦場に立つことはできないのではないか、と言われていた。
皆の前に姿を現したのは、久方ぶりのことだ。
誰もが視線を注ぐのは、当然のことだった。
( ><)「……あんまり、顔色が良くなかったんです」
( ^Д^)「まぁ……病気だからな」
( ・∀・)「ショボン大将、ラウンジ戦は」
(´・ω・`)「ジョルジュ大将の参戦は、厳しいだろうな」
予想されていたことではある。
ただ、将校たちは一様に、複雑な表情を浮かべていた。
- 85 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:49:48.02 ID:s+LtfyAu0
-
( ^ω^)「……穴を埋めてみせますお。ヴィップの天下を得るために」
力強い声を発した、ブーン。
やはり、愛国心は相当に強い。
( ><)「なんです! 僕たちが頑張るんです!」
( ・∀・)「はは、頼もしいなビロード」
(;><)「モララー中将に言われると素直に喜べないんです!
なんか怖いんです!」
(´・ω・`)「モララーは嘘をつくようなやつじゃないさ」
( ^ω^)「ですお!」
ビロードが照れながら喜んでいた。
プギャーがその頭を無造作にかき回して、二人で笑いあっている。
自分は、少しだけ残していたはずの、生野菜に手を伸ばそうとした。
(´・ω・`)「ん……?」
伸ばしかけた手は、自然と止まった。
そこにあったはずの胡瓜が、なくなってしまっていたのだ。
そして、皿の上には、小さな黒い塊が乗っかっていた。
- 93 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:52:05.07 ID:s+LtfyAu0
-
( ・∀・)「ん? なんですか、それ」
( ^Д^)「炭みたいな塊ですね」
手に取ってみる。
そのまま目に近づけてみたが、やはり見覚えはない。
しかし何故か、触れたことがあるような気がした。
(´・ω・`)「食べ物のようだな」
(;><)「危険な色なんです、毒が入ってるかも知れないんです」
ビロードの言うことには一理ある。
自分が気づかない間にこっそりと置かれていた物なのだ。
ヴィップという国から見た自分の立場を考えても、毒殺は荒唐無稽な話ではなかった。
しかし――――
(;^ω^)「おっ!? 食べるんですかお?」
手のひらに乗せたそれを、口に近づける。
将校全員が、焦りを見せた。
- 99 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:54:28.43 ID:s+LtfyAu0
-
( ・∀・)「本当に毒の可能性もあります、口にすべきではないと」
(;^Д^)「ここからが本当の戦いなのに、もしものことがあったら」
(´・ω・`)「心配しなくていい」
将校たちの思いは分かるが、毒を毒と判別できるだけの見識はある。
それだけが根拠ではないが、間違いなく大丈夫だと自分には思えたのだ。
口の中に、放り込む。
(;^ω^)「ど……どんな感じですお?」
(´・ω・`)「……苦いな」
(;><)「や、やっぱり毒なんじゃ……!」
(´・ω・`)「いや、苦いが、しかし」
少し固くもある。
噛み砕くと、口の中で小気味の良い音が立った。
(´・ω・`)「これは、美味いな」
しばらく将校たちは不安げな表情を崩さなかったが、やがて何事もないことが分かると、胸を撫で下ろした。
いったい何だったのだろうか、いつ誰が置いたのだろうか、などと語り合っている。
- 107 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/26(日)
21:57:33.28 ID:s+LtfyAu0
-
初めて口にする味だった。
しかし、どこかで同じ感想を抱いたことのある味のような気がした。
経験したことがない出来事に対し、何故か既視感を覚えることが人間にはある。
恐らくは、それと同じなのだろう。
だが、自分の奥底に深く、根付いているようだった。
(´・ω・`)「さぁ、調練に行くとするか」
将校たちから、声が返ってくる。
そして自分の背に、ついてくる。
今日の空には、壮大な冬晴れが広がっていた。
- 112 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
22:00:41.02 ID:hlZ+Djy40
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────────……
異世界の彼らがそれを思い出すことはない。
それでも証は、確実に刻まれている。
彼らが何を叶えたのか。
……それは私が言わずとも、『あなた』の解釈に任せよう。
彼らが思い出さずとも、私はこの戦いを忘れない。
この物語というページを、忘れることはない。
そしてそれは、私だけではないことも知っている。
この物語を見た『あなた』という人がいることを、私は知っている。
何故なら私も、彼らの物語を追う者の一人なのだから。
『あなた』と、同じなのだから。
- 119 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日)
22:04:32.72 ID:hlZ+Djy40
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願わくば、忘れることなく、いつまでも────
────覚えていたら、また、会いましょう。
【物語のページが( ^ω^)(´・ω・`)ξ゚听)ξ川
゚ -゚)応えるようです】
END.
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