7 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 18:57:26.87 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

( ゚━゚)「お嬢さん、そろそろ閉めますよ 」

川 - -)「……あん……ダメ……」

( ゚━゚)「もしもしお嬢さん?」

川 - -)「ダメよ……ショボン……。入れちゃ……らめぇ……」

( ゚━゚)「おーい 」

川 ゚皿゚)「だから猫を鍋に入れちゃらめぇー──!!」

(;゚━゚)「うひぃ!!」

酒場の中では、やっとクーが目を覚ました。
魔族の店主は驚いて固まってしまっている。
クーはこれを不思議そうに眺めた。

川 ゚ -゚)「ん?人の寝起きに何だ貴様は?」

(;゚━゚)「いや、カウンターで寝てるもんだから……」

10 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 18:59:36.73 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「おー、そうだったな。
     話の途中で寝てしまったか 」

店主の言葉でようやく事情を悟る。
そしてキョロキョロと周囲を見回した。
店内に客は自分1人しかいない。

川 ゚ -゚)「連れはどこに行った?」

( ゚━゚)「少し風に当たってくると言っていましたが……。
    随分遅いですね。
    先に宿に帰ったのかも 」

クーはその言葉に早急に立ち上がる。
慣れた手つきで外套を羽織ると、

川 ゚ -゚)「邪魔したな 」

一言だけ残し店を出た。
店の外は少し明るくなり始めている。
クーはその場に立ち尽くした。

12 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:01:26.28 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)。o ○(あり得ない……)

まず思った事はこうだ。
ショボンは非常に女を丁重に扱う。
自分を1人残して、宿に帰ることがあるだろうか。

クーは何気なく周囲を見回した。
手がかりが無い為の、無意識な行動だったが……

川 ゚ -゚)。o ○(これは……)

足元の不審な痕跡に気付く。
スッとしゃがみ込み、そこに手を触れた。
調度大人程の大きさで、積もった雪が凹んでいる。

川 ゚ -゚)「………」

クーは立ち上がり指を見た。
ショボンに貰った指輪が、鈍い銀色に輝いている。
それが確かにある方向へと、クーを弱く導いていた。

その先には、天空高くまで巨大な塔が聳え立っていた───。

 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
14 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:03:49.25 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

(;´・ω・)「クッ……」

ショボンは暖かく、煌びやかなホールで椅子に縛られていた。
壁にも柱にも天井にも、気の遠くなるような細かい彫刻が施されている。
尤も、そのホールはあまりに広く、ショボンの居る場所からは壁を目視する事すら出来ない。
頭上遥か高くにあるであろう天井も同様。
ここからきめ細かな彫刻類を眺める事は不可能と言える。

もし正式に門を叩き、ここに通されていたら溜息を吐きながら芸術を堪能しただろう。
だが、残念ながらショボンは拉致されてここに来た。
状況を整理するに、事態は最悪と判断する。

(?「そう怖い顔をしないでくれるかな?」

(´・ω・`)「僕が怖い顔をしているって?
      言っておくけど、僕は仲間内では優男で通ってるんだ。
      もしそんな顔をしているのなら、原因は貴方にある 」

余裕の微笑を浮かべた老人が、じっとショボンを見ていた。
それに答えるショボンの声は、怒りに震えている。
味方となると期待していただけに、この現実に大きなダメージを受けた。
16 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:05:26.05 ID:K2OKmfFN0

(#´・ω・)「お久しぶりですフォックス様。
      いや、悪いけど敬称も敬語も無しだ、フォックス 」

爪'ー`)「ククク。君のそういう所は好きだよ、ショボン。
     君は才能に溢れていたからね。
     『あの魔法』を体現してくれたら、もっと好きになっていたが…… 」

ゆっくりと近付いてくる老人。
その顔に冷笑は絶えない。
彼こそが、部下に命じショボンを拉致した張本人だ。

(#´・ω・)「僕は生まれて初めて……、心から失望している!!」

爪'ー`)「その言葉、私を真に尊敬してい”た”と受け取ろう。
     有り難う 」
 
フォックス。
北の大地を納める魔導王にして、『紐解く者』の字名を持つ者。
彼はその身に秘める魔力の全てを、この世の森羅万象を解析することにのみ費やした。

フォックスが知らない物は存在せず、それは時系列や空間に左右される事は無い。
遠い過去から未来に至るまで、その英知は網羅している。
統治術にも長けており、民衆からは『賢王』と慕われているはずだが……。


17 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:07:12.14 ID:K2OKmfFN0

(#´・ω・)「僕を捕まえてどうするつもりだ!?
      答えろ、フォックス!!」

フォックスの表情は、ショボンが慕った『賢王』のそれと変わらない。
つまり『 正 常 』であるという事。

爪'ー`)「勿論そのつもりだよ。
     まずはこれを見せてやろう。
     感謝しなさい。
     私の英知の源を垣間見た人間はショボン、君が初めてなのだから 」

フォックスがゆっくりと両手を広げ、何らかの呪文を唱えた。
するとどうだろう。
両手を結ぶ空間の中心から光の粒子が発生し、渦を巻くように旋回する。

(´・ω・`)「何をするつもりだ!?」

光の粒子は次々と溢れ出し、フォックスの両手では収まり切れない。
光の旋回はフォックスを離れ、部屋中を縦横無尽に駆け巡る。
同時に発光は強さを増し、突き刺さるような刺激を受けショボンは思わず目を閉じた。

21 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:09:27.52 ID:K2OKmfFN0

爪'ー`)「目を開きなさい、ショボン。
     そして平伏すが良い。
     君は全知全能の前にあるのだ 」

(´・ω・`)「これは……!?」

目を開いたショボンは、そのまま瞠目し言葉を失った。
先程まで居た部屋とは様相が全く異なっていたからだ。

───本が浮いていた。

それも途方もない数の本だ。
広大な空間を、天空遥かまで無尽に埋め尽くす本と本と本……。
それらが空中をゆっくりと旋回している。

あるいは規則正しく、あるいは不規則に……。
しかし互いに接触し合う事無く、ゆっくりとゆっくりと漂っていた。

爪'ー`)「私は自身の力を『知ること』にのみ費やしてきた。
     これがその結果だよ、ショボン。
     私の魔力が本となり具現化したのだ。
     何が書かれていると思う?」

(´・ω・`)「さぁね……。
       童話にしては少々大袈裟だ 」


22 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:11:42.80 ID:K2OKmfFN0

爪'ー`)「ここにはあらゆる知識が揃っている。
     文字通り『あらゆる』知識だ。
     この世に私が知らぬ事象は無い。
     ショボン……。君達がどこへ行っていたかも、私は承知している 」

(;´・ω・)「まさか!?」

爪'ー`)「あのお嬢さん……、随分と元気が良いようだ。
     この塔に真っ直ぐ向かって来ている。
     異世界の強者。実に興味深い 」

(#´・ω・)「貴様っ!!クーに手を出すな!!
      彼女は本来、この世界とは関係の無い女性だ!!
      何をす──」

ショボンはフォックスに飛びつこうとするも、生憎縛られたままだ。
それは叶わない。
フォックスはショボンの声に被せるように、慇懃無礼に笑った。

爪'ー`)「 君 が 巻き込んだのだ。
     この世界で彼女の身に何が起ころうと 君 の 責 任 。
     私が彼女に危害を加えても  君 の 責 任 」

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/27(土) 19:14:44.33 ID:K2OKmfFN0

まさにその通りだった。
ショボンは分かっている。
自分が連れて来なければ、クーが危険な目に会う事は無かったはずなのだ。

(#´・ω・)「ク……!! 貴様は最低だ!!」

爪'ー`)「それは見方によるだろう。
     私も興奮しているのだよ、ショボン?

フォックスは静かな声でショボンに語りかけると、手を目の前に翳した。
フォックスの掌が僅かに発光する。
同時に何億もの本の内の一冊が、ショボンの遥か頭上から吸い寄せられた。

爪'ー`)「少々私の力を応用してみよう。
     彼女がどう行動するか、実に楽しみだ 」

フォックスは手に取った本を片手に乗せて開くと、空いた片手でその上をなぞった。
本に書かれた文字が一字一字発光していく。
やがて光は次々と本から飛び出し、壁や天井に突撃して行った。

27 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:17:06.69 ID:K2OKmfFN0

(;´・ω・)「何を……しているんだ……?」

爪'ー`)「もちろん迎撃だよ、ショボン。
     私が兵を持たない理由を知っているかね?」

フォックスが、ショボンの信ずる正義に属していない事はハッキリと分かる。
光が飛びこんだ場所には、無数の彫刻。
それらが徐々に色を持ち、鳴動を始める。

爪'ー`)「まずはお手並み拝見という所か。
     私の所へ、早めに辿り着いてくれると嬉しいのだがね 」

(#´・ω・)「だったら案内でもしたらどうだ?」

爪'ー`)「ふっふっふ……。
     まぁ、落ち着いて待つと良い。
     自力で辿り着くか、そうでなければ首が届くだろう 」

壁や天井から、次から次へと武装した兵が沸き出す。
断った今まで、ただの彫刻に過ぎなかった兵達だ。
一目では数え切れない。

(;´・ω・)。o ○(クー……。すまない……)

続々と外へと向かって行く兵達を、ショボンは歯軋りしながら見るだけだった。

 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
29 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:20:03.50 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

クーがフォックスの城に着いたのは、太陽が真上から少し西に傾いた時刻。
ショボンの魔力が宿った指輪が、この場所まで導いてくれた。
一面の雪に陽光が痛いほど反射し、周囲は光に包まれている。
だが、この幻想的な光景の中、デビルサマナーの女は固く表情を結んでいた。

川 ゚ -゚)「お前達、いけるな?」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オレサマ ジュンビ イイ!!」」

ノ)) - 从「……ああ 」

2体の心強い仲魔も明らかに意気軒昂。
そもそも、デビルサマナーが使役する魔とは、召喚された瞬間から臨戦態勢なのだ。
クーは決意と強い光を湛えた大きな茶色の瞳を城に向けた。

川 ゚ -゚)「アレは本物のショボンじゃないが、姿形は全く同じだ。
     私の未来の夫を模った人間を、傷付けさせるわけにはいかないよね。
     常識的に考えて 」
32 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:22:41.69 ID:K2OKmfFN0
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オレサマ マル齧リ出来ルナラ ブッチャケ 何デモ イイ!!」」

ノ)) - 从「……」

オルトロスは食う事ばかりを考えている。
だが、敵を食うという事は即ち危害を加えること。
願ってもない。

ノーマンは返事の代わりに、背中に背負った大剣を一気に引き抜いた。
筋骨隆々で聳える巨体のノーマンよりも、さらに幾分か巨大な漆黒の剣。
その鉄塊は目にするだけで寒気がする。
 
川 ゚ -゚)「今日の私は、ショボンが居ないからやる気が無いぞ。
     お前達、その分頼んだ 」

言葉とは裏腹に、端正な顔には怒りと殺気が滲んでいた。
クーは右手に刀を、左手に拳銃を持つ。
先祖伝来の外套を颯爽と靡かせ、2体の魔と一気に駈け出した。

 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
35 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:24:28.71 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

この日、フォックスは城に兵を配置していた。
本来はこの巨大な城には僅かな使用人しかいない。
皆に慕われていた賢王に敵など有る筈もなく、兵に守らせる必要が無いのだ。

だが、今クーは殺気立った多数の兵に包囲されていた。

川 ゚ -゚)「何だ?いきなり出てきたな。
     誰だお前らは?何者だ?」

従って、クーが直面したこの兵は特殊な存在であると言える。
フォックスが自らの本の中から具現化した兵達。
召喚とは似て非なる魔法だ。
フォックスは有事の際には、この様な兵を自在に繰り出す事が可能だった。

そして、そういう兵達が城中に配備してクーを待ち構えていた。
フォックスが用意した兵数は、たった1人と2体の侵入者を倒すには充分過ぎる数。


──だが残念ながら、それは間違った判断だ。


37 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:26:48.52 ID:K2OKmfFN0

兵「なんだ!? 何だこいつらは!?」

兵「引くな!! 陣形を整え──ぎゃっ!!!!」

何らかを指図しようとした兵の頭が、オルトロスに食い千切られた。
『ブチブチィッ』としか表現のしようのない不快な音と共に、
胸から上の無い死体が床に転がった。
その光景を目の前で見た兵の視界に、黒い何かが迫ってくる。

兵「ぐっ……げはっ!」

ダンピール・ノーマンの巨剣が胴を貫き、ついでに後ろの数名も貫いた。
黒いマントを靡かせ剣を振るう様は、さながら黒い竜巻のようだ。

陣形など関係ない。
薄紙のように破られてしまうからだ。
兵数など関係ない。
その上から簡単に踏み潰されてしまうからだ。

この二体の暴力に、フォックスが用意した兵は恐慌を起こした。
壊滅と言って良い。
逃げ出した兵は数多くいるが、これらは全て無視された。
41 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:29:15.71 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「行くぞ 」

クーはショボンを迅速に救出するためだけにここに来た。
他の問題に時間をかけている暇はない。
だからこそ、最初の敵を残酷に殺す事をノーマン達に許した。

川 ゚ -゚)「胸糞悪い……」

最初に圧倒的な力と恐怖を植え付ければ、残りの兵は戦わずして落ちる。
クーは倒れた兵を悲しげに眺める。

川 ゚ -゚)「ん?」

その時、死体に変化が現れる。
体中に妙な文字が浮き上がり、その次の瞬間──
何事もなかったかのように消え、後には砕けた彫像が残ったのだ。

川 ゚ -゚)「この彫刻は……。
     あれ?もしかして生き物じゃぁなかったのか?
     魔術か何かで構築された式神の様なものか……」

その時、クーの脳裏にある事が閃く。

川 ゚ -゚)「なんだ。全然後味悪くないじゃないか 」

クーはサッパリした顔で先へ進んだ。

44 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:31:27.25 ID:K2OKmfFN0

クーはここで仲魔への命令を切り替える。
” 好 き に や れ ”
この瞬間から、フォックスの城は地獄と化した。

クーの仲魔とは言え元々は魔性の者。
そう言われて綺麗に戦う筈など無い。
兵達は散々に食い千切られ、切り飛ばされ、酷い有様の死体を晒す。

暫くすると死体はただの彫刻に戻るのだが、それを見せられた者は堪らない。
自分の未来をそこに見た者は、誰も彼もが士気を失い逃げに走る。

川 ゚ -゚)「その様子を見ると感情はあるようだな。
     誰に作られたかは知らんが、趣味の悪い事だ。
     怖ければ逃げろ。
     時間が惜しい。逃げる者は追わない 」

仲魔が切り開いた無人の城内を、悠々と歩いて行くクー。
それでも銃と刀を手放さない。
何が起こるか分からない異世界だ。
一瞬の隙が命取りになる可能性はある。

47 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:33:43.21 ID:K2OKmfFN0

兵「う……ぅぅぅ……」

兵「オレは逃げるぞ!! こんなのどうしようもない!!」

クー達は行く先々で新たな兵の集団と遭遇した。
そして進む先々で兵達に恐怖を植え付け、蹴散らした。


充分に離れた距離へ逃げた兵は、振り返ってクーの歩みを見た。
鉄の女──その言葉が最も当て嵌まる。
無双の力を振り回す魔獣と鬼神。


──それらよりたった一太刀すら放っていないこの女。

   この女の方が、遥かに恐ろしく感じた。


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
50 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:37:02.18 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
幾つかの戦闘を終え、クーは動く者の気配が消えた城を歩いていた。
ノーマンとオルトロスが手加減せずに暴れ回った結果だ。
まともな思考を持つように作られたフォックスの兵。
それ故に残る者は居ない。

川 ゚ -゚)「こっちか……ふぅ。それにしても広いな、この城は。
     おい、オルトロス 」

クーはオルトロスの背中に乗り、指輪が放つ信号に意識を集中していた。
ショボンの位置を指し示す方向は一貫している。
外からも見えた巨大な塔に違いないだろう。
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「ライドウ。オレノ 鼻ガ アマリ 利カナイ。
          コノ世界 ナンダカ 変ダ 」

川 ゚ -゚)「心配するな、オルトロス。
     お前は暴れ回って、たまに私を背中に乗せてくれたら良い 」
 
クーはオルトロスの筋肉で覆われた脇腹を優しく叩いた。
最早襲ってくる者など皆無。
だが、クーは一抹の違和感を拭う事が出来ない。

川 ゚ -゚)。o ○(嫌な気分だ。まるで誘導されているような……)

ノ)) - 从「………」

クーの予感に同調するように、ノーマンは無言で剣を握り直した。
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
52 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:39:32.87 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

歩き続けたクーが唐突に城の外に出た時、既に日が傾きかけていた。
クーは遥か上空を見上げる。
更に左右へ交互に顔を向けた。

川 ゚ -゚)「なんじゃ、こりゃ……」

どれほど目を凝らしても頂上も端も目視する事は不可能。
そこに聳える物は、ここからでは巨大な壁にしか見えない。
城に入る前、遠くに見えていた塔に違いなかった。

川 ゚ -゚)「ショボンはこの中だろうな 」

目の前には、規格外の建造物の入り口と思わしき扉がある。
塔のサイズを思えば、随分と常識内の扉だ。
と言っても、目も眩むような金色に輝くゴージャスな扉だ。
高さはざっと見積もっても3メートルはある。

ノ)) - 从「主よ……」

こんなに巨大な建造物を建てる見栄っ張りは、どんな奴だろう……。
呑気にそんな事を考えていたクーに、珍しくノーマンが話しかけた。
55 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:41:15.47 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「どうした?」

ノ)) - 从「奇妙な気配を感じる……。
      居るのか居ないのか掴み所のない気配だ。
      数も……はっきりしない。
      こういう時は、気を付けるに越した事は無い…… 」

川 ゚ -゚)「お前が三行以上喋ったの、初めて見たぞオイwww」

ノ)) - 从「………」

クーが茶化すとノーマンはスッパリと黙る。
だが、クーの前に岩のように仁王立ちした。
何が何でも、主に危害を加えさせまいという意思表示だ。

川 ゚ -゚)「ノーマン 」

ノ)) - 从「………」

川 ゚ -゚)「有り難う 」

それきり、クーもノーマンも口を閉じた。
心なしかクーの目に映る大男の背中に、力が籠ったように見える。
煌びやかな扉に手をかけたダンピールは、怪力でゆっくりと押し開いて行った。

 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
58 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:45:34.64 ID:K2OKmfFN0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

ノ)) - 从「………」

ノーマンはその塔の内部を見て、僅かに力を抜いた。
性急に襲いかかってくるような敵は居なかったからだ。
だが、展開されている異常な光景に警戒を解く事は無かった。

川 ゚ -゚)「中はどうだ、ノーマン?」

ノーマンの背後から顔を覗かせるクー。
軽い気持ちだったが、それを見た瞬間クーは絶句する。

川 ゚ -゚)「……もう一回言うが、なんじゃこりゃ……?」

何よりも先に目を引いたのは、空中を漂う本の群れ。
半端な数では無い。
視界の殆んどを、本ばかりが埋めているのだ。

本を辛うじて度外視すると、左右遥か遠くまで壁が伸びている。
壁には、細々とした彫刻が施されているようだ。
だが先が全く見えない。

61 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:48:09.00 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「ふぅ……。この塔を登るのは骨だと思っていたが……」

クーは上を見上げる。

入る前は確かに天空高く聳え立つタワーだった。
しかし扉の向こうの空間には天井が無い。
代わりに、遥か上空の方にまで本が浮遊している。

即ち、この塔には上に登る必要が無い。
この場が到達点なのだ。

川 ゚ -゚)「ショボン!!ここに居るんだろう!?」

クーの声が本の合間を縫って屋内に浸透して行く。
それとほぼ同時だった。
不規則に浮遊していた本達が、一斉に左右に別れる。

クーの視線上に遮る者が無くなった時……。

爪'ー`)「ようこそ、異世界の戦士よ 」

(;´・ω・)「クー!!」

椅子に縛られたショボン。
そして、柔らかだが不快感を煽る笑みを浮かべた老人がそこに居た。
63 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:50:53.91 ID:K2OKmfFN0

本が両脇に散った事で、建物内の様子が分かる。
いや、分かっても大して意味があるとは思えなかった。

冗談のように広い以外は、これと言って特徴の無いただの空間だ。

川 ゚ -゚)「ショボンを返してもらう 」

不敵に笑う老人が、この一件の首謀者である事は既に承知。
そして彼こそが、ショボンとの会話に何度も登場したフォックスに違いないだろう。
クーの脳裏に、フォックスは敵として認識された。

爪'ー`)「元気の良いお嬢さんだ。
     いや、名を呼ばせて頂こう。
     十八代目・葛葉ライドウ 」

(;´・ω・)「何故その名を……!?」

爪'ー`)「ここにあるのは全知全能だと言ったはずだよ、ショボン。
     異世界の事象ですら、私は充分に知り得るのだ。
     無論、彼女の世界も例外ではない 」

65 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:52:45.45 ID:K2OKmfFN0

しかし、クーはそれを聞いても何ら臆する事は無い。

川 ゚ -゚)「それがどうした爺様。
     私の名を知っている程度で付け上がるなよ?
     さっさとショボンを解放するならば良し。
     そうしないならば…… 」

クーは静かに刀を構える。
同時にノーマンとオルトロスが一歩踏み出した。
凄まじい殺気が込められている。

爪'ー`)「十八代目・葛葉ライドウ、通称クー。
     魔を打ち倒す者、『退魔師』という輩の世界から来た 」

フォックスが掌を上に向けると、どこからか本が舞い降りた。
ページをパラパラとめくりながら、その内容を読み上げて行く。

爪'ー`)「ほぅ……。魔物を支配下に置き、その力で魔を滅する悪魔召喚師か……。
     力の源たる魔物は、その『ダンピール』と『オルトロス』の2体。
     既に召喚しているという事は……かなり本気のようだな。
     ショボン、随分と君に入れ込んでいるらしい 」

(;´・ω・)「まさか……異世界の存在を知っているだけじゃないのか!?
      その中身までも見通せるというのか!?」

66 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:54:52.46 ID:K2OKmfFN0

爪'ー`)「その通りだ、ショボン。
     この本には彼女の世界の全てが書いてある。
     私に分からない事は無いのだ 」

全てを見透かす快感をフォックスは存分に堪能していた。
相手の手を、先回りして潰していく。
膨大な知識から裏付けされた詰将棋の様な戦法を、フォックスは実に好んだ。

(;´-ω-)「勝てる……はずがない……」

情報が敵に回ることの意味を、ショボンは理解し狼狽した。
誰も知らない異世界の強者は、誰も知らない力で戦況を覆してくれるはずだった。
しかし、こちらの出方は、文字通りフォックスの手の内にある本に晒されている。

爪'ー`)「ふふふ……ふははははは!!
     全能なる知識の前には、あらゆる者が首を垂れ─── 」

絶望するショボン。
それを見て、自身の強大な力を自覚し高笑いするフォックス。

川 ゚ -゚)「そこに私の事が書いてあるのか?」

フォックスが楽しそうに笑っている所を、クーは無遠慮に突っ込んでいった。

68 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:56:35.19 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「その本、実に興味があるな。
     調査書の様なものか?」

自らに憎しみや怒りを抱いているショボンとは真反対。
クーはフォックスに対して、全く気後れしていない。
突然突っ込まれたフォックスは、逆に気圧された。

川 ゚ -゚)「言ってみろ。どんな本だ?」

爪;'ー`)「どんなって……、小説形式で───」

川 ゚ -゚)「ほぅ……。
     もちろんショボンが主役で、私がヒロインなんだろうな?」

何故か偉そうなクーに対し、フォックスは戸惑う。

何だこの女は?
どうして自分に対して、このような態度が取れるのだ?

しかし、フォックスはこの高圧的な態度に、つい素直に答えてしまう。

爪;'ー`)「いや、主人公は内藤ホライゾンで、ヒロインはツ───」

川 ゚ -゚)「何だと?」

71 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 19:58:22.19 ID:K2OKmfFN0

フォックスはクーの顔色が変わったのを見てはっとした。
機嫌を損ねる事を言ってしまったのだろうか……。

だが思い直した。

何故この女の機嫌を取らねばならないのか。
自分は『賢王』だぞ?
自分の知識の前には、誰もが平伏すのだ。

しかし、どうやらそうでもない女がここに居るらしい。

川#゚ -゚)「はっはっはは。どうやらそれには随分と間違いがあるようだな。
     私が加筆修正してやる。速やかに寄越せ 」

声は笑っているが、目が据わっている。
クーは一切の遠慮なく、真っ直ぐに近付いて来る!!

爪;'ー`)「そ、そこまでだ!!
      それ以上近づくんじゃない!!」

何とか気力を振り絞り、フォックスはクーに叫んだ。
クーは足を止める。

フォックスの大声に身が竦んだからではない。

76 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:00:37.15 ID:K2OKmfFN0

(;´・ω・)「ク……」

ショボンの首筋に、フォックスは小さなナイフを当てていた。

爪;'ー`)「君は何かを勘違いしているようだな!!
      ショボンの命は私の手の中にある!!
      そして言わせてもらうが…… 」

フォックスは気力を取り戻した。
クーにペースを奪われていただけだ。
圧倒的に有利なのはフォックスであり、それを誇示するかのように言う。

爪'ー`)「私は全知全能の『賢王』だ!!」

まさに王の威厳。
フォックスは言葉と共に尊厳を取り戻し、目には爛々と力が宿った。








川 ゚ -゚)「で?」

爪;'ー`)「……は?」

80 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:02:28.79 ID:K2OKmfFN0

熱くなっているフォックスとは真反対。
クーの目はあまりにも冷めていた。

川 ゚ -゚)「要するに、お前の力はその本なんだろう?
     その本には、何でもかんでも答えが載っていると 」

実の所、クーは自分の能力を散々自慢しまくっている老人にイラついていた。
よくよく聞いていると見た目が大袈裟なだけだ。

爪#'ー`)「その態度や言い方……。
      まるで私の知識が矮小な物だとでも言いたそうだな 」

クーは明らかに白けた顔をしている。
これはフォックスにとって初めての経験だった。
賢王フォックスに向けられる人々の顔は、どれも尊敬と畏怖に塗れていた。

83 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:04:39.57 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「言っておくがな、私の世界では全てを知ることなど容易いことだ。
     ネット環境さえあれば、中学生でも簡単に出来る。
     グーグル先生は偉大だからな 」

爪#'ー`)「私の……本が取るに足らないだと……!?」

フォックスは、自らの能力の結晶である数億の本の群れを見渡した。
力の象徴であり、誇りだった。
それを異世界の者が踏み躙ったのだ。

軽蔑するような視線を、フォックスは向けられた事など無い。
それ故、全くと言って耐性がなかった。
怒り心頭のフォックスは、怒りのあまり言葉を失った。

(;´・ω・)「クー……、君は一体……」

言葉を失ったのはショボンも同じだった。
心が折れかけてしまう程のフォックスの力。
しかし、クーは一切動じない。

希望が涌いて来たように感じる。

87 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:06:20.21 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「大丈夫だ、ショボン。
     私がお前に危害など加えさせない 」

ショボンはクーの戦力を良く知らない。
しかしこの女の精神の強さ。
そして両脇を固める2体の魔物の強烈な迫力。

もし敵に回っていたならば、最上級の警戒をしていただろう。

川 ゚ -゚)「私は使命を帯びてこの世界に連れて来られた。
     案内人はそのショボンだ。
     悪いが、力ずくでも救出させてもらう 」

手にした刀の切っ先を真っ直ぐにフォックスに向ける。
そして揺るぎない意志を伝えた。
クーの意志は、即ちノーマンとオルトロスの意志でもある。

これらの意志に、不可能など無いような錯覚を起こさせる。
それだけの力を十分に備えた者達だ。

爪'ー`)「……不可能だ 」

切っ先の鋭さをを喉元に、鉄塊の重圧を脳天に、
そして爪牙の熱気を首筋に感じながら、フォックスはようやく口を開く。
その声には、怒りが満ち満ちていた。

89 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:08:28.74 ID:K2OKmfFN0

爪'ー`)「無知なる異世界の者よ。
     君が私を倒せない理由は2つある……」

(#´・ω・)「うっ……。放……せ……」

フォックスはショボンの首をねじ上げる。

爪'ー`)「1つ目はこのショボン。
     君は自らの世界でショボンに恋慕している。
     この世界の彼でも、こうして人質にとれば
     君の動きを封じる事が可能というわけだ 」

川 ゚ -゚)「………」

クーを挑発するようにフォックスが薄ら笑いを浮かべた。
賢王の不遜な態度を見て、オルトロスが即座に構える。
だがクーが片手を出してこれを制した。

川 ゚ -゚)「だから何だ?それがどうした?
     私の婚約者は私の世界で、良い子にして待ってるぞ。
     同じショボンでも同一人物ではない 」

クーは挑発に乗らない。
あくまでクールに振舞っている。
完全にクーのペースだ。
93 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:10:23.97 ID:K2OKmfFN0

爪'ー`)「婚約者なんて……自分で勝手に言ってるだけのくせに 」

完全にクーのペース……

川#゚ -゚)「何だと!? このクソジジイ!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,;>|<;゚(叉)「ライドウ!! 落チ着ケ!!」

ノ)); - 从「……!!」

フォックスがボソッと何かを言うと、クーは一気に噴火した。
顔を真っ赤にしてフォックスに飛び掛かろうとするクー。
オルトロスとノーマンが、これを必死に宥める。

川#゚ -゚)「放せっ!! このジジイを老人ホームに放り込んでやる!!」

逆鱗に触れたというヤツだ。
2体の魔は、主を何とか落ち着かせようと躍起になっている。

爪;'ー`)「………」

だが、一番戸惑っていたのはこのフォックスだった。
効果的な一言にご満悦だが、
ちょっぴり悪い事を言ってしまったなとも思った。

99 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:13:41.29 ID:K2OKmfFN0

爪;'ー`)「ふ……、ふふ。
      随分痛い所を突かれてしまったようだな。
      私は全て知っているんだよ?」

川#゚ -゚)「うっせぇ!! ぶっ殺すぞ!!」

ノ)); - 从「主よ……。ビー・クールだ、ビー・クール 」

フォックスは再び本を紐解き始めた。

爪'ー`)「今ので確定的だな。
     君は君のショボンを深く愛しているのだろう?
     果たして、これをどうするかな?」

そういうとフォックスは開いた本のページをなぞる。
触れた先から、書かれた文字が青白く発光していく。

爪'ー`)「君が私に勝てない2つ目の理由は……」

そう言って、フォックスがクーに目を向けた途端───

川 ゚ -゚)「ん?なんだ?」

本から光が飛び出した。
強く輝く青白い光が地面に落ち、じわじわと形となり始める。
クーはこれに似た光景をよく知っていた。

102 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:15:31.46 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「これはまさか……悪魔召喚!?」

クーと2体の魔は瞬時に身構えた。
この光が収束する時、クー達にとって喜ばしくない何者かが現れるだろう。
それを裏付けるように、光の中に気配を感じる。

爪'ー`)「話を続けよう。
     君が私に勝てない理由とは……!!」

───そして光が急速に収束した。

川 ゚ -゚)「っ!? お前はっ!!」

そこに現れた者は、濃いグレーのスーツをスタイリッシュに着こなしていた。
髪は一糸乱れぬオールバック。
真っ直ぐに伸びた背中は、身長以上に体を大きく見せる。

(;´・ω・)「これは……!? クーの世界の……!!」

左手には白木の鞘に納められた刀。
『百足丸』と銘打たれたこの妖刀は、魔を切りつけると忽ち命を喰らい尽くす。

(´・ω・`)「クー 」

自信に満ち溢れた眼力の、無敵の『退魔師』が現れた。

109 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:18:14.58 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「ショボン……」

クーの目が潤む。
愛しい男が目の前に突然現れたのだ。
縋りつくような声でその名を呼んだ。

(´・ω・`)「クー、こんな所にいたらダメじゃないか。
      オレ達の式を挙げるんだろう?
      さぁ、一緒に帰るぞ 」

ショボンは刀を持っていない方の手を出す。
その甘い囁きに、クーは自然に吸い寄せられて行った。
思い続けていた男が、自分を連れて行ってくれるというのだ。

川 ゚ -゚)「本当かショボン?本当に婿に来てくれるのか?」

(´・ω・`)「クー……良い子だ 」

退魔師のショボンはクーを優しく抱き寄せた。
抵抗する事無く、クーはショボンの胸に顔を埋める。


110 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:20:17.75 ID:K2OKmfFN0

爪'ー`)「彼女が私に勝てない理由その2……。
     どうかね、ショボン?
     彼女は彼を傷付けることなど出来んよ 」

2人の様子を満足そうに眺めながら、フォックスは縛られたショボンに言う。
こちらのショボンは歯噛みするだけだ。

爪'ー`)「私は、私の本の中のモノを自在に取り出す事が出来る。
     尤も、あまり大きな物は無理だがね。
     しかし、人間一人程度なら……」

───御覧の通りだ。

そう言わんばかりに大袈裟に手を広げて見せるフォックス。
クーを包み込むように抱く、ショボンがそこに居る。
しかし───。

(;´・ω・)「クー!!しっかりするんだっ!!」

椅子に縛られたままショボンは叫ぶ。
その視界には、自分と同じ顔をした男が映っている。
刀を振り上げたショボンが!!

抱かれたままのクーは、背中に迫る刀が見えていない……。

114 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:22:33.07 ID:K2OKmfFN0
ノ)) - 从「………!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ライドウ!!」」

二体の仲間が駆ける。
───間に合うか!?

しかし無情にも、妖刀の刃がクーの背中に……。



川 ゚ -゚)「……馬鹿が 」

その瞬間、クーは顔を上げ退魔師ショボンの顔を痛烈に睨んだ。
表情には一切の惑いが無い。
同時に右腕を振るった。

刀を持った右腕を!!
激しい金属音と共に弾かれた退魔師の妖刀は、空中を回転しながら大きく飛ぶ。

(;´・ω・)「危っっ!!」

爪;'ー`)「この……女……!!」

そして縛られたままのショボンのすぐ側の床に突き刺さった。

そしてクーは更に刀を振る───!!

119 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:24:26.92 ID:K2OKmfFN0

爪;'ー`)「な……なんだと!?」

余裕の表情を見せていたフォックスが、大きく目を開いてこの光景を見る。
冷たい刃が肉と骨を断つ音。
ショボンの首が、宙を舞い地面に落ちた。

川 ゚ -゚)「邪魔だ偽物 」

残った体は、切り口から噴水のように血の雨を降らす。
クーが左手で軽くこれを押すと力無く倒れた。

爪;'ー`)「何という女……!? この女、悪魔か!?」

川 ゚ -゚)「身を守っただけだ。文句あるか?」

それは確かにそうだ。
確かにクーの言う通りなのだが、たった今この女が切り殺したのは……

123 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:26:27.61 ID:K2OKmfFN0

爪;'ー`)「この男を愛していたんだろう!?
     なぜ躊躇なく殺せる!? 血も涙もないのか君は!?」

川 ゚ -゚)「いや、だって……」

切っ先で死体を指すクー。
生々しい血と肉に文字が浮かび、不気味に蠢くと一気に飛び出した。
飛び出した文字はフォックスの本に還る。

後には、依代となった小さな人形だけが残った。

川 ゚ -゚)「偽物じゃん?
     言っておくがな、本物のショボンはもっとこうダンディで……
     ……あと、凄く毒がある 」

ふいっと顔を反らすクー。
若干頬が染まっているようにも見える。

爪;'ー`)「しかし!!
      しかしこの男を救いに来たのは、愛する男と同じショボンだからだ!!
      傷付けることなど、君には出来ないはずだ!!」

フォックスは顔を青くして負け犬のように叫んだ。

125 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:28:29.86 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「はぁ?
     勘違いが甚だしいぞ、爺様 」

言葉を切って、クーは刀を肩に担いだ。
ツンと顎を上げ、見下したようにフォックスを見据える。
そして力強く言い放つのだ。

川 ゚ -゚)「私は理不尽に攫われた友人を救いに来た。
     顔がどうこうなど、関係有るものか 」

その意思を証明するかのように、刀を振り下ろした。
空を切る刃は、鋭い風を生んだ。
フォックスはその風を頬に冷たく感じ、自信が冷や汗を流している事に気付いた。

ノ)) - 从「………」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「GUrururururururuu……」」

二体の仲魔がクーの前方に立つ。
殺気を全身に漲らせて。
立ちはだかるこの二体は、何よりも厚く高い壁に見える。

129 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:32:32.57 ID:K2OKmfFN0

136 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:34:52.61 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「ショボン。私が直ぐに助けてやるからな 」

巨体を誇る魔物に隠れてその表情は読めない。
しかし何かのスイッチが入った。
どこか恍けた態度だったクーが、一気に戦闘態勢に入ったのをフォックスは感じた。

爪'ー`)「とんでもない女を連れてきたな、ショボン!!
     しかし冷徹な振りをしているだけかもしれん!!
     その真の心、この私が暴いてやろう!!」

フォックスは再び本を開く。
その知の深淵はまだ見せてはいない。
本からは3つの光が飛び出す。

先程、ショボンが現れた時と同じだ。
徐々に形を形成していく。


('A`)
一つは凶悪な刃に───。

ξ゚听)ξ
一つは地獄の業火に───。
∧_∧
(*゚;;-゚)
最後の一つは黒い爪牙に───。
139 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:36:39.89 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「お前ら……」

クーは見知った者達の出現を改めて確認した。
信じ難い事に、それぞれ自分に殺気を向けている。

ノ)) - 从「主……」

川 ゚ -゚)「分かっている。当然、偽物だ 」

ノーマンが低く強い声で注意を促すが、クーには必要なかったようだ。
後ろからオルトロスが鼻を押し当てた。
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「オレ、アノ 猫ガ イイ 」

二頭の魔犬は小さな黒ネコにご執心の様だ。

川 ゚ -゚)「ノーマン、ツンを 」

ノ)) - 从「………」

無言で巨剣を担ぐ。
無双の剛力を持つ剣士は、炎の少女に照準を定める。

川 ゚ -゚)「私はドクオをぶちのめすとしよう 」


そして3つの戦闘が同時に開始された───。

144 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:38:43.24 ID:K2OKmfFN0

(#'A`)「このどブスがぁ!!
     すました顔しやがってコラァ!!
     ワシが腹抉ってやるけぇのう!!」

川 ゚ -゚)「なんだ。完全に偽物じゃないか 」

仲間と同じ姿の敵を、有無を言わさず倒すのはやはり気が引ける。
まずは偽物であると決定的な物が欲しい。
とりあえずクーが知っているドクオは、これほど仁義なき話し方はしない。

川 ゚ -゚)「私の腹を抉るという提案、悪いがきっぱりと断る。
     内臓がはみ出てたら、ちょっと都合が悪いからな 」

落ち着いた表情、呼吸、鼓動。
左手にはコルトライニング。
右手の刀は先祖代々伝わる赤光葛葉(しゃっこうくずのは)。
彼女の曽祖父が、神をも滅ぼしたという恐るべき退魔刀だ。

川 ゚ -゚)「さぁ、かかって来るが良い 」

(#'A`)「おどれ!! シゴウしたるぞ!!」

川 ゚ -゚)「日本語でおk 」

ドクオは目を見開き、汚い言葉を吐きながら突っ込んで来た。

149 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:41:41.10 ID:K2OKmfFN0

(#'A`)「ヒャッハァー─!!」

ドクオは走りながらコートのポケットに手を突っ込む。
引き抜いた右手には無数の護符、左手には苦無が握られている。
まずは護符を前方に投げつける。

(#'A`)「丸焼きにしちゃるけぇのう!!」

空中に舞った護符は、突然激しく燃え広がった。
法力が込められた、不動明王の炎の護符だ。

(#'A`)「串刺しじゃけぇのぅ!!」

更に燃え盛る空中に左手の苦無を投げつける。
数本の苦無が燃える護符を正確に貫き、そのスピードとともに、炎がクーに迫る!!

(#'A`)「極道を舐めとったらこうなるんじゃい!!」

そしてドクオは炎に飛び込む。
同じスピードで走り、姿が炎に消えた。
その右手はコートの裾を握っている。

ドクオの最強の武器───、
鋸の様な細かい刃が仕込まれたコートによる斬撃で止めを刺す腹積りだ。

151 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:43:43.82 ID:K2OKmfFN0

(#'A`)「このど素人がぁぁっ!!」

炎がクーの目前に迫ったとき、ドクオが炎の中から跳躍した。
空中から必殺の斬撃を振り下ろす。

(;'A`)「え……あら?」

だがコートは虚しく宙を切り裂くのみだった。
炎は何事もなく通り過ぎて行く。
直後、両手両足が凍てつく氷に包まれた。

川 ゚ -゚)「弱い。弱過ぎる 」

全く関係の無い場所からクーの声が聞こえる。
まだ硝煙を燻らすコルトライニングの銃口がドクオに向いていた。

(;'A`)「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁー───!!」

氷に包まれ自由の利かなくなった両手を見て、ドクオは悲鳴を上げた。
激しい凍傷になった足には、既にどす黒く変色が始まっている。
神経が死に、痛みすら感じない。

153 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:45:29.29 ID:K2OKmfFN0

川 ゚ -゚)「私はデビルサマナーだ。
     普通じゃない銃弾も、結構使ったりするんだぞ?」

言いながら銃の弾を入れ替えるクー。
同時に2発発砲した。

(;'A`)「ぎゃぁぁぁぁー───!!」

両足に弾を撃ち込まれるや否や、一瞬で足の氷が溶ける。
しかし溶けるに留まらない。
いきなり発火し、今度は激しく燃え始めた。

川 ゚ -゚)「さっきのは氷結弾。そしてそれは火炎弾だ。
     どうだ、中々面白いだろう?」

ドクオはそれ所では無い。
必死にのた打ち回り、凍った両手で足の火を消そうと躍起になっている。
クーは静かに銃をホルスターに仕舞うと、退魔刀を両手で持った。

川 ゚ -゚)「キモい顔はそっくりだが、本物のドクオはもっと速い。
     その仮初めの体に、少しでも退魔師の魂は脈打っているのか?」

156 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:47:32.77 ID:K2OKmfFN0

クーは流れるように距離を詰める。
そしてドクオの頭を蹴り上げた。

(;゚A゚)「ぶふぅっ!!」

その勢いのまま、地面でもがいていたドクオは、強制的に立ち上がる事になる。
それと同時に、クーは袈裟切りに刀を振り下ろした。
更に逆の肩口からもう一撃の袈裟切り。
ドクオは為す術もなく、胴体にXの字を刻まれた。

川 ゚ -゚)「私の仲間は、魔を討つために命をかけて強くなっている───。
     貴様の様な劣化コピーが、面白半分に使って良い力では無い 」

(;゚A゚)「ガッ……てめ……」

棒立ちの胸の中心を、クーが一直線に貫いた。
赤光葛葉は、鍔元までドクオの体に埋まっている。
赤く塗らした刀身を、背中から覗かせながら。

川 ゚ -゚)「フンッ、偉い人が言っていたぞ。
     『我輩を倒せるのは、魂の込められた拳のみ!!』
     私もまた、然りだ 」

クーは足の裏でドクオの体を蹴り倒した。
その反動で刀がズルリと抜け、クーは刀身の血を振り払った。
……が、最早そこに赤い物は無い。

倒れたドクオがただの彫刻に戻ると同時に、消え失せてしまった。

160 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:51:37.60 ID:K2OKmfFN0

ξ#゚听)ξ「ギャッ!! 放せ!!放せよ木偶の坊!!
       放さないとお前の○○○を○○○して食い千切ってやる!! 」

ノ)) - 从「………」

一方、ツンを相手にしているダンピール・ノーマン。
何と左手でツンの頭を鷲掴みにし、そのまま片手で持ち上げていた。
ツンは可愛らしい口から似つかわしくない、惨めな悪態を吐いている。

頭を万力の如きパワーで掴むノーマンの左手。
そこに両手の爪を立てて、更に炎を噴出するツン。
しかし、阿修羅の地獄の業火は、ダンピールの肌を焼くに留まる。
それも半吸血鬼の皮膚は直ぐに治癒するため、実質ダメージはゼロ。

ξ# 々)ξ「ガっ!!ガガ……ガッ……!!」

ノ)) - 从「………」

頭を絞める音がメリメリと不気味に響いた。
ツンの頭蓋骨は、既に指の形に変形している。
そして剛力のダンピールは、空いている右手の巨剣を無言で振りかぶった。

164 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:54:18.11 ID:K2OKmfFN0

ノ)) - 从「ふっ!!」

力を振り絞った瞬間、肺から空気が漏れ出る。
ゆうに2mを超える、剣の形をした鉄の塊が目にも止まらぬ速さで払われた。
同じ速さでそこから何かが弾け飛ぶ。

……5m程先で、『グシャッ』と何かが潰れるような音。

ξ#゚々。)ξ「あ……あ……あ……あ……ぁ 」

締め付けられた頭部からは、血だか体液だか分からない物が滲んでいる。
腰から下は……無い。

ノ)) - 从「………」

無表情、そして無言で、ゴミにそうするように左手に引っかかっていた物を投げ捨てる。
空中で胎の中に入っていた物を、下に零しながら弧を描くツンの上半身。
グロテスクなそれも、地面に着くころには白い石膏に戻っていた。
167 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:56:49.98 ID:K2OKmfFN0
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ライドウ!! オレ様ノ エモノ 燃エタゾ!!」」

オルトロスが不満を言いながらクーの元に駆けて来た。
全くの無傷で、戦った気配すらない。
クーが不思議そうに見ていると、オルトロスが再び抗議した。
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オマエノ トコカラ 飛ンデ来タ 火、
          アノ猫 焼イチャッタ ゾ 」」

川 ゚ -゚)「火なんか知らんぞ 」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オ前ガ 避ケタカラ 飛ンデ来タンダゾ!!
           ドウシテ クレル!?」」

確かにオルトロスが戦って居た辺りに、焦げ跡のラインがあった。
ラインを辿ると、どうもさっき偽ドクオが何も考えずに放った炎の様だ。
あろうことか偽でぃは、外野から飛んで来た炎に巻かれて勝手に倒れたのだ。

174 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 20:58:47.82 ID:K2OKmfFN0
川 ゚ -゚)「これでハッキリしたな 」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オレ様ノ 腹ハ ハッキリ言ッテ 満足シテナイ 」」

ノ)) - 从「………」

クーの元に二体の魔が集う。
凍てつく八つの眼光が睨んでいるのはただ1人の敵。
仲間達の姿を弄んだ、賢王・フォックス。

川 ゚ -゚)「本物のドクオならもっと速い。
     本物のツンなら、ノーマンの剣など一瞬にして溶かす。
     本物のでぃさんなら、私たち全員の喉笛を食い千切っている 」

クーはこれでもかとフォックスを睨み付けた。

川 ゚ -゚)「貴様の召喚は不良品だ。
     不完全な術を、これ見よがしに使ってご満悦か?
     何の役にも立たない耄碌ジジイが 」

爪;'ー`)「クッ……、悪魔め!!」

悪魔だと言うフォックスの言い分は、自分にだけ都合の良いただの言いがかりだ。
だから仲間に黙って殺されろと言っているに過ぎない。

クーは偽物だからこそ簡単に倒して見せた。
しかし、仲間の姿を破壊させられたこと。
これに関しては、ハッキリ言ってブチ切れだ。

187 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 21:57:16.82 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「もう分かっただろう?
     お前は私に敵わない。
     さっさとショボンを返せば、少々躾ける程度で済ませてやるぞ 」

爪'ー`)「………」

(;´・ω・)「クー……」

圧倒的な強さを見せつけるクーだが、ショボンは一抹の不安を抱いていた。
フォックスは仮にも賢王として畏怖される存在だ。
異次元の力を見せつけるクーは確かに強い。
だが、ここまで全く太刀打ち出来ていないのが、逆に何かを感じさせる。

爪'ー`)「私は『あの男』が現れてから、他の世界という物を認識した。
     その瞬間、数億の本が新たに生まれたのだ……」

川 ゚ -゚)「何だ、爺様?はっきり喋らないと聞こえないぞ。
     遺産なら、ごっそり貰ってやるから寄越せ 」

翻弄され続けていたフォックスだが、声のトーンは恐ろしく落ち着いていた。
上空に手を翳すと、何冊かの本がページをめくりながら降りて来る。
本は開いたまま、フォックスの目前で静止した。

爪'ー`)「ある世界の私は、神の炎を思わせる武器で世界を制した。
     ある世界の私は、あらゆる世界を渡り、全てを滅ぼそうとした。
     しかしこの私はどうだ……?」
190 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 21:58:32.29 ID:8gupFyVO0

フォックスは目を瞑る。
堪え難い苦痛に顔が歪んだ。

爪'ー`)「私は無能なる民の為に、人生の大半を失ってしまった……。
     絶大なる力を持ちながら、その殆んどを脳無しの弱者に捧げてしまったのだ……」

フォックスはカッと目を見開いた。
同時に正面に浮遊していた本を叩き落とす。

爪゚Д゚)「他の世界の私は、私の野望に忠実だった!!
     恐るべき力を、恐るべき自由の為に使った!!
     何故私は、そうではない!?
     何故私は、不自由に心地良さを感じていたのだ!?」

(;´・ω・)「貴方は……!!
      貴方は他の世界の自分を見て、それを羨んだのか!?
      他の世界は他の世界だ!!
      そんな簡単な分別も付かないのか!?」

ショボンは渾身を込めて叫ぶ。
だがその瞬間、大きく目を見開いたフォックスが、ショボンの顔を両手で掴んだ。
ショボンの眼前には、常軌を逸したフォックスの顔がある。

爪'ー`)「君はまだ分かっていないのか!?
     何故どの世界の君もショボンという名なのだ!?
     何故どの世界の私もフォックスという名なのだ!?
     私は悟った!!この世界の真理を悟ったのだ!!」

195 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:01:08.40 ID:8gupFyVO0

爪'ー`)「全ての私が本質的には同一なのだ!!
     全ての君も然り!!
     ならば他の私と同様、この私が思うが儘に振舞う事こそが真理なのだ!!
     私はこの世界を制し、『アンノウン』を制し、他の世界を制す!!
     それこそが真理!!それこそがフォックスたる私の真理なのだ!!」

(;´・ω・)「何て哀れなんだ……。
      貴方はもう……、おかしくなってる!!」

ショボンの哀れみに満ちた視線など意に介さない。
フォックスは唯一の道を明確に見ている。
他の全てが、自分の世界とは関係を断ったのだ。

川 ゚ -゚)「決定だな。あの爺様、痛い目を見せて黙らせよう 」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「食ッテモ 良イ?」」

川 ゚ -゚)「食っちゃダメだ 」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「何ダヨ ケチ……」」

ノ)) - 从「………」

クー達が静かに殺気を纏った。
フォックスはそれを待っていたかのように振り返る。

爪'ー`)「決着を付けようか、十八代目・葛葉ライドウ!!」

199 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:04:33.49 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「勝負はもう見えているがな 」

爪'ー`)「君は一つ思い違いをしているね。
     私の術が不完全だと思っているだろう?」

川 ゚ -゚)「ぶっちゃけ 」

フォックスのテンションは完全にクライマックス!!
だがクーは白け切っていた。

爪'ー`)「フハハハハハ!!馬鹿め!!
     私の術は召喚では無い!! 映し出すのだ!!
     依代が石膏の木偶人形では、本来の力など出るわけがない!!
     では、この世界で最上級の依代を与えればどうなるか…… 」

(;´・ω・)「最上級の……まさか!?」

ショボンは全てを理解する。
フォックスは笑いながらずっと手に持っていた本を開いた。
ドクオ達を呼び寄せた本……、クーの世界、退魔師の世界の本だ。

爪#'ー`)「君の世界の戦士を呼び寄せる!!
      最強の戦士を!!
      今度の依代はこの私だ!! 果たして勝てるかな!?」

開いたページの文字が脈動する。
そして不気味に発光し始める。
そして光は本から飛び出し……

204 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:06:11.60 ID:8gupFyVO0

爪#'∀`)「クククク……、ハハハハハ……!!
      ハァーハッハッハッハ!!!!」

禍々しい光が、猛々しく笑うフォックスを包み込む。

川 ゚ -゚)「ち……眩しいな……」

クーは平静を保ちつつも、これまでとは異なる気配を感じ取った。
何百ものフラッシュを一気に浴びたような刺々しい光。

高笑いはまだ聞こえる。
しかし、中から聞こえる声が次第に変化する。
老人とは思えないような、若々しい声に変わっていく。

川 ゚ -゚)「……お前か 」

光が薄れ、何者が現れたかを察した時、クーの警戒は最高点に達した。
空間が、光の支配から解き放たれる。
フォックス……、いやあの男が姿を現した。

(?「これが……。
   ふっふふふ……、力が溢れている!!
   これが……これがそうなのか!?」

川 ゚ -゚)「ノーマン!!オルトロス!!
     一切の油断を許さん!!
     アイツを倒すまで、髪の毛一本に至るまで集中しろ!!」

208 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:08:36.25 ID:8gupFyVO0

緊迫した空気は、はち切れんばかりの圧力を醸し出す。
現れたのは……

( ゚ω゚)「これが……異世界の力か!?」

元裏高野・退魔師─── 内藤ホライゾン!!

ブーンと化したフォックスは、半ば惚けたように中空に目を泳がせた。
口元には緩んだ笑みが浮かんでいる。

───陶酔しているのだ。

たった今、我が身に受け入れたパワーに。

(;´・ω・)「クーの世界のブーンか!?」

ショボンはその姿を確認し、見たままを言う。
ショボンが見た事のない衣服を着たショボンが良く知る顔。
もう一つ初めて見るのは、ブーンの顔に張り付いた邪悪な笑みだ。
213 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:10:33.58 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「漲る……!!漲るぞ!!
     何という力だ!!
     ある世界の主人公の力とは、これ程までにも猛々しいのか!!」

狂ったようにブーンとなったフォックスが笑う。

クーの世界のブーンはこんな風に笑わない。
ショボンの世界のブーンはこんな風に笑わない。

その違和感がもたらすのは不吉な予感、ただその一つのみ。

( ゚ω゚)「破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああアアアアアアァッッー────!!」

ただその場で気合一閃。
その瞬間、フォックスの全身から青い光の波動が迸る!!
法力のパワー、発勁の光が、激しいエネルギーを帯びて弾け出す!!

川 ゚ -゚)「っ!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ライドウ!!」」

位置的に最も近くにいたクーを、発勁の衝撃がまともに襲う。
タイミングは完全に取られた。
クーの視界の全てが、迫り来る破魔の光によって覆われ尽くす。

───そこに飛び込む黒い巨大な影───

217 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:12:57.41 ID:8gupFyVO0

ノ)) - 从「ムゥッ!!」

間一髪───。
ダンピールの巨剣が、クーと発勁の間に立ちふさがった。
電話帳ほどもある分厚い鉄の塊は、盾としての役割も十分に果たす。

ノーマンの背後からひょっこりと顔を出すと、余裕の笑みを浮かべるフォックスが見えた。
クーは思った。
実に不愉快だ。

川 ゚ -゚)「ふぅ……。当然、法力も使用可能というわけか。
     厄介なヤツになったものだ 」

( ゚ω゚)「 そ の 通 り !!
     果たして、君はこの男相手にどこまでやれるのかな!?
     君の世界の 主 人 公 相手に!!」

優しげで緩〜い笑みをいつも湛えているブーンは、決して見せない表情。
フォックスは力に取りつかれている。

クーは思った。
……やはり、実に不愉快だ。

220 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:15:11.41 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「だから言ってるだろう?
     そいつが主役だと言うのは間違いだ。
     脇役相手に、ヒロインの私が負ける道理など……」

クーは真っ直ぐにフォックスを指差す。
一瞬何の事かと気を取られるフォックス。
フォックスは直ぐに気付けなかった。


これは合図だ───。


川 ゚ -゚)「……道理など───無い!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「GYAWW!!!!!」」


───デビルサマナーが自らの仲魔に攻撃を許す合図だ!!


クーの忠実なる僕、双頭の魔犬オルトロスは、その二つの大顎から炎を吹き出す。
途轍もなく激しい火炎だ。
二つの炎はぶつかり合い、炎の竜巻と変わる。
225 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:18:02.91 ID:8gupFyVO0

魔物が放つ火炎。
恐るべき熱量が一切の慈悲なくフォックスを襲う───。

( ゚ω゚)「フハハハ!! 炎か!?
      炎には氷だ!!」

炎に身を焦がされんとする瞬間、フォックスは一瞬で印を結んだ。
そして真言。
氷の世界を司る、月光菩薩の法力───。
      オン  サナラ   ブラバヤ  ソバカ
( ゚ω゚)「淹 賛捺羅 鉢羅婆野 莎訶!!」
      月光菩薩・冷光破!!」

両手の印から溢れ出す冷気の塊。
極寒の法力は魔犬の炎を造作もなく凍てつかせる。
恐るべきブーンの法力、恐るべきフォックスの技。

だが、そんな事は百も承知とばかりにクーは次なる一手を打つ。

川 ゚ -゚)「ノーマン!!」

ノ)) - 从「………!!」

黒衣を纏った死神が、巨大な鉄塊を手に疾走する!!
229 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:22:08.99 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「その剣、目障りだ!!
      だが金属で出来ている事に違いはあるまい!?」

嫌でも目に着くのは竜でも一撃で殺し兼ねない大剣だ。
フォックスは次なる印を結ぶ。

      インドラ   ヤ ソバカ
( ゚ω゚)「因陀羅 耶 莎訶!!雷帝インドラ印!!」

今や自在に退魔の法力を操るフォックス。
放つのは驚天動地の稲妻の雷光。
電撃は直ちに手近な金属の塊、即ちノーマンの剣に突進するが───

ノ)) - 从「……くれてやる 」

初めからそうするつもりだっかのように、簡単に剣を手放すノーマン。
剣に喰らいついた雷は、激しい光を周囲に巻き散らす。
その突き刺す様な光の中、ノーマンは既に新しい武器を手にしていた。

( ゚ω゚)「ッ!?」

フォックスは大きく目を見開いた。
ノーマンの左腕に仰々しく装着されている機械の様な物。
弓と弦、そして歯車と多数の矢を装てんした箱で出来ているそれ───

それから放たれるのは、数十のボウガンの矢、同時発射!!

237 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:26:38.37 ID:8gupFyVO0

無機質で容赦の無い機械のボウガン。
それらが縦横無尽に広がり、フォックスに突き刺さらんと迫り来る。
少々の手数で全てを叩き落とす事は明らかに不可能だが……!!

( ゚ω゚)「ハァァァァ!! 大発勁!!」

フォックスは瞬間的に法力を練り込み、爆発的にそれを解放した。
圧縮、そして蓄積した法力は巨大な光の柱となる。
フォックスの大発勁はノーマンのボウガンを全て蹴散らした。

───だが!!

川 ゚ -゚)「こっちが3人いる事を忘れるなよ?」

背後に詰めたクーが、退魔刀・赤光葛葉を振り下ろす。
しかし刃はフォックスの身に届く前に、甲高い金属音に阻まれた。

( ゚ω゚)「知っているとも!!
     君が小賢しくも私の後ろを狙っていたことなどね!!」

川 ゚ -゚)「チッ……。そういえば武器も持っていたな 」

クーは自分の刀と、フォックスの手に握られている奇妙な刃物を見た。
独鈷杵と呼ばれるそれは、グリップの上下にナイフの様な刃を持つ小振りの武器だ。
こんな小さな物で、刀を受け止めるには相当な戦闘センスを要する。

239 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:27:40.50 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「君の刀を受け止めたぞ?
     良いのか?そんなに近くに居て良いのかね!?」

川 ゚ -゚)「っ!?」

フォックスは独鈷杵の刃をクーの刀に滑らせた。
刃の間に火花を散らしながら、上半身を強烈に回転する。
遅れて鞭のようにしなやかで重い回し蹴りがクーのボディをまともに襲った!!

川 ゚ -゚)「ちっ!!」

クーは放たれた蹴りを、被弾寸前で肘と膝で挟むようにガード!!
しかし相殺し切れぬ強烈なパワーで吹き飛ばされる。
クーは飛んだ先で、両足を踏ん張って体勢をキープした。

川 ゚ -゚)「チッ……。体術が得意なんだったな 」

脇腹に鈍い痛みを感じる。
アバラに皹くらいは入ったかもしれない。
クーは努めて痛みなど無いかのように無表情を決め込んだ。
239 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:27:40.50 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「君の刀を受け止めたぞ?
     良いのか?そんなに近くに居て良いのかね!?」

川 ゚ -゚)「っ!?」

フォックスは独鈷杵の刃をクーの刀に滑らせた。
刃の間に火花を散らしながら、上半身を強烈に回転する。
遅れて鞭のようにしなやかで重い回し蹴りがクーのボディをまともに襲った!!

川 ゚ -゚)「ちっ!!」

クーは放たれた蹴りを、被弾寸前で肘と膝で挟むようにガード!!
しかし相殺し切れぬ強烈なパワーで吹き飛ばされる。
クーは飛んだ先で、両足を踏ん張って体勢をキープした。

川 ゚ -゚)「チッ……。体術が得意なんだったな 」

脇腹に鈍い痛みを感じる。
アバラに皹くらいは入ったかもしれない。
クーは努めて痛みなど無いかのように無表情を決め込んだ。
245 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:29:25.27 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「素晴らしい……。
     異世界のパワー!! 異世界の強者!!」

そもそも法力とは神の力の一端を借り受ける事。
フィジカルの強さ無くして、それを自在に使いこなす事は到底不可能。
内藤ホライゾンの強さとは、法力以前に強靭な肉体にこそ裏付けされるのだ。

( ゚ω゚)「無限のパワー……さぁ、内藤ホライゾンよ。
     君は他に何が出来る……?」

川 ゚ -゚)「む?」

フォックスは退魔師・ブーンの力の深淵を覗かんと、脳裏に浮かぶ力を読みとる。
だがここにクーは一抹の違和感を覚えた。
249 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:31:50.75 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「不動明王・火焔呪!!」

フォックスが結んだ印から荒れ狂う炎が噴き出す!!
一切の不浄を焼き払うと言われる不動明王の正義の炎。
味方である限りこれ以上心強い力は無いが、敵に回ればこれ以上恐ろしい力もない!!
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「GAAAAAAAAWWWWWWW!!!!」」

この炎に対してオルトロスの二つの口から灼熱の吐息がぶつけられる。
二つの火炎が真っ向からぶつかり、灼熱の均衡が生まれた。

ノ)) - 从「フッッッ!!!!」

そこに巨剣を振り上げ飛びこむノーマン。
黒いマントを炎に巻きあげられながら、業火に身体を焼かれるのも意にも介さず。
文字通り巨大な鉄槌が垂直に叩きつけられる。

最上級の物理攻撃が不動明王の灼熱を切り裂く───。

絶妙なバランスにあった二つの炎。
この一撃でそれは完全に台無しとなる。
無双の外力を加えられた業火の熱量は、爆発したかのように弾けた……。

 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
255 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:33:51.35 ID:8gupFyVO0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

ノ)) - 从「フゥゥゥゥゥ……」

さしものダンピールも、魂を込めた渾身の一撃の直後は息の一つは吐く。
自身の剣撃で巻き上げた炎は、火の子と砕けて周囲に豪雨が如く降り注いだ。
それらが充分な火種となり、塔内に広大に敷かれた絨毯に小さな火が燻ぶる。

ノ)) - 从「………」

無言の内に何事もなかったかのように直立不動。
巨大な剣を肩に担ぐと、己が守るべき主に害為さんとする愚者を見下ろした。
炎に照らされ深い陰影が生まれたノーマンの巨体は、恐怖を煽るに充分な威容を放つ。

川 ゚ -゚)「ノーマン、無理をするな 」

ノ)) - 从「………」

ノーマンは何も言わないが、たった今不動明王の炎を相殺したのだ。
ただの炎では無い。
一切の不浄を焼き払う天界の浄化の炎だ。

身一つでまともに切り込んだ体が無事なはずはない。
事実、ノーマンの黒いマントの内側は激しい火傷で焼け爛れていた。
半吸血鬼の治癒力でも簡単に追いつくものではない。

258 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:35:29.04 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「ムカつく……」

クーは心底こう思った。
クーとノーマン、そしてオルトロス。
この面子をして互角に戦うのがやっとという現状。
いや、寧ろ押されていると言った方が正しい。

そして改めて思う。
内藤ホライゾンという男の強さを。

そして忌々しく思う。
その内藤ホライゾンを選択し、不遜な顔をしているフォックスを。

( ゚ω゚)「炎に氷と稲妻、そして光が破裂するような魔法か。
     この男は中々使えるな。
     今後、使用する駒の一つに加えよう!!」

クックック、と不敵な笑みを絶やさない所を見ると、さぞお気に召したらしい。
気に入ったのはブーンの能力だけではない。
強力なパワーで、相手を圧倒している現状も然りだ。

─── しかし……

川 ゚ -゚)。o ○(なんだ、この言い方は……?)

先程感じた違和感が再び顔を出す。

260 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:37:29.75 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「さて、力の確認はこれにて終了としよう。
     君の役割はこれで十分だ。
     安心して天に帰るが良い。
     気が向けば、君の力も使ってやらんでもないぞ 」

川 ゚ -゚)「おい、ちょっと待ってくれないか?」

( ゚ω゚)「え?どうして?」

いよいよクライマックスを決め込もうとしたフォックスの出鼻を、クーはコロッと挫いた。

川 ゚ -゚)「右も左も分からん異世界で、偽物とはいえ顔見知りに会ったんだ。
     もう少し、ブーンの力を見せてくれよ。
     冥土の土産というヤツだ 」

ニヤニヤするフォックスを見据えながら、クーは腕を組んで顎に手を当てた。
フォックスは余裕などかましていないで、警戒すべきだった。
口から出す言葉を、良く選別するべきだったのだ。

264 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:39:50.97 ID:8gupFyVO0

( ゚ω゚)「ふっふふふ……。心配する事は無いよ。
      もちろん『彼』の力で葬ってあげよう。
      炎か、氷か、稲妻か……」

だがフォックスはしなかった。
何も考えず、軽々しく言葉を吐いてしまったのだ。
この言葉が、フォックスの力の全貌をクーに教える事になる事を知らずに……

川 ゚ -゚)「炎か、氷か、稲妻か?」

( ゚ω゚)「そうだよ?炎か───」

川*゚ -゚)「ブフォッ wwwwww」

クーはもう我慢できなかった。
この期に及んで自分の絶対的優位性を疑わない、馬鹿で間抜けな愚か者。

( ゚ω゚)「何?」

フォックスは理解し難いという顔をして固まっている。
そして、小馬鹿にするような目で笑うクーを、信じられないというような目で見つめた。
267 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:41:50.75 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「ふっふっふっふwww。
      あー、オッケーオッケー。
      炎か、氷か、稲妻ねwww。リョーカイリョーカイwww 」

( ゚ω゚)「何を笑って……?」

川 ゚ -゚)「そう言えばさっき、こんなことも言っていたな、爺様。
    『力の源たる魔物は、その『ダンピール』と『オルトロス』の2体』
     2 体 だと言ったよな、爺様よ 」

( #゚ω゚)「その通りだろう!?
      何がおかしいというのだ!?」

フォックスは激怒した。
見下していたはずの女に、逆に見降ろされている事実。

川 ゚ -゚)「では……」

そして、クーの次の行動でフォックスは仰天する。

川 ゚ -゚)「こう言うのはどうだろう?」

(;゚ω゚)「なっ!?」

271 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:43:48.62 ID:8gupFyVO0

フォックスの顔から一気に血の気が引いた。
知識を極めた賢王。
更に異世界の知識を詰め込んだ自身に、最早知らぬものなど無い。

だがフォックスが直面している現実はどうだ?

川*゚ -゚)「ふっふっふwww」

憎たらしい程にドヤ顔。
ショボン伝来のS気質のクーなら、狼狽しているフォックスを見れば無理もない。
そのフォックスの凍りついた視線の先には、白くすらりとしたクーの指がある。

───その指には、新たに2本の封魔管が握られている!!

川 ゚ -゚)「その表情、やはりそうだったか 」

フォックスの表情に浮かんでいるのは恐怖。
無知から来る恐怖に他ならない。
知識こそが力と、信じて疑わないフォックスにとって『知らない』と言う事は何より恐ろしかった。
274 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:46:48.61 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「その本に私の世界の事が全て書いてあると言ったがな。
      どうやら全部読んでいないな?」

( #゚ω゚)「ふざけるな!!
     私は全て読んだ!!
     ただの一字も余すことなく読み尽くしたぞ!!」

川 ゚ -゚)「では、こう言う事だ。
      さっきも言ったが、その本、つまりお前の力は『 未 完 成 』だ。
      私が生きる今のブーンは、幾千の法力を自在に操るぞ 」

( #゚ω゚)「なん…だ…と……ぉ!?」

フォックスは打ち震えた。
怒りに───、そして何よりも恐怖に───。

川 ゚ -゚)「知らんようだな。
    そして私もまた、貴様の知らぬ2体の魔を使役しよう 」

クーは最早この戦いを終わらせる。
開かぬ埒を開く、次なる仲魔を召喚して!!
279 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:49:13.92 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「冥府に潜む鋼の牙。一切の者、この凶より逃れる事能わず。
     我、葛葉ライドウの名において命ずる!!
     底無き穴の獣よ、我に従いて共に戦え!! 」

その瞬間、クーが持つ封魔管の1本から淡いグリーンの光が漏れる。
光は次第に強くなり、同時に恐ろしい気配が現れる。
その気配の主が現れるのを待たず、クーは次の仲魔に呼びかけた。

川 ゚ -゚)「影の国より舞い戻りし英雄。その魔槍に貫けぬ物無し。
     我、葛葉ライドウの名において命ずる!!
     獰猛なる騎士よ、我に従いて共に戦え!! 」」

もう1本の封魔管より、同じくエメラルドグリーンが発光する。
二つの気配は色濃くなり、その姿を遂に現した。

川 ゚ -゚)「地獄の番犬『ケルベロス』!!
     クランの猛犬『クー・フーリン』!!」

その名を呼ぶ。
一つは、銀に輝く体毛・鬣の、強靭な筋肉に包まれた獅子の様な魔獣。
オルトロスより更に一回り大きく、威嚇に満ちた咆哮を上げる。

もう一つは、美しく白い甲冑に身を包んだ黒髪の騎士。
彼が持つ白い槍は、『ゲイ・ボルグ』と呼ばれる一突きで30の敵を貫く魔槍だ。

284 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:50:50.66 ID:8gupFyVO0
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「アンチャン!!アンチャン!!」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「じゃれ付くな、仔僧 」

|||゚ - ゚|| 「お怪我などはございませんか、ライドウ様?
      何故だ……?
      何故どのライドウ様も私を直ぐに呼んで下さらない……?」

( #゚ω゚)「クッ!!忌々しいが認めよう……!!。
      私の本に書かれていない事があるとは……。
      それは認めよう。だが……」

フォックスは殺気を一気に頂点にまで高めた!!

( #゚ω゚)「それがどうした!?
      月光菩薩・冷光破!!」

フォックスは瞬時に印を結ぶと、先手必勝とばかりに氷の法力を放つ!!

先ほどオルトロスの火炎の息を防いだ氷の法力だ。
フォックスの両手から、氷河のような冷気が迸る。
全部まとめて氷漬けにする魂胆だ。

293 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:54:41.67 ID:8gupFyVO0
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「ライドウ!!」

川 ゚ -゚)「許す。やれ 」

ケルベロスが悠然と迫り来る冷気に立ちはだかる!!
そして顎を大きく開き、咆哮一閃。
ケルベロスの口から炎が噴き出し、フォックスの冷気とまともにぶつかりあった!!

( #゚ω゚)「また同じことを繰り返すのかね!?
      先程、そこの頭二つの犬の炎は跡形もなく───!!」

フォックスは余裕の笑みを浮かべたが、直後形相を凍りつかせた。
そして真横に飛ぶ!!
自分が居た場所を、全ての氷を溶かし、蒸発させた業火が焼いた。

( #゚ω゚)「何だとぉっ!!」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「仔童の炎を描き消した程度で、我が一族の業火を制した気か!?
     愚か者めが!!
     その無礼、万死に値する!!」
300 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 22:58:36.36 ID:8gupFyVO0

身が縮み上がるようなケルベロスの怒声。
フォックスは今起こった事を頭の中で整理しようとした。
先程通用した技が今は通用しな───

|||゚ - ゚|| 「悠長に物思いにふける余裕は有りませんよ……。
     このビチグソ野郎が!!」

美しい顔に似つかわしくない汚い言葉を吐く白槍の騎士。
クー・フーリンがその槍・ゲイボルグをその場で一突き。
同時に30の刺突がフォックスを襲う!!

( #゚ω゚)「おぉぉぉぉぉッッッ!!」

フォックスは素早く印を結ぶと、そこから気を解き放った。
発勁を連発。
飛翔するゲイボルグの刺突が、間一髪、青い気弾に阻まれる。

|||゚ - ゚|| 「一突きで気を抜くようでは私の好敵手とは言えません!!
     脳味噌涌いてるのですか?
     このクサレ脳味噌がぁ!!」

川 ゚ -゚)「お前にはまだ許しを出していないぞ 」

|||;゚ - ゚|| 「ちょっ、ライドウ様ぁ〜 」

クーはクー・フーリンを苛めていた……。

305 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:02:03.87 ID:8gupFyVO0
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「アンチャン!!サッスガー 」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「だからじゃれ付くな、仔僧 」

|||;゚ - ゚|| 「ライドウ様、私は良かれと思って攻撃を!!
      単に自主性を発揮しただけであって……。
      あれライドウ様? 無視しないでライドウ様!!」

ノ)) - 从「………」

火傷の治癒も進んだノーマン、そしてクーを含めて───

川 ゚ -゚)「5対1だ。
     よもや、卑怯だとは言うまいね?」

( #゚ω゚)「卑怯だぞ貴様!!」

クーの言葉とフォックスの泣き言は、ほぼ同時に発せられた。

川 ゚ -゚)「悔しかったらさっきみたいに呼べば良い。
     出来損いの偽物を 」

クーを中心に4体の仲間がフォックスを囲む。
彼らは最早何も言わない。
無言の圧力を持って静かに、だが確実に逃れられぬ敗北が迫る。

310 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:04:55.15 ID:8gupFyVO0

( #゚ω゚)「コケに……」

川 ゚ -゚)「ん?またキレたかな?」

突如、周囲の気温が跳ね上がった。
燻っていた絨毯の炎が、一気に燃え上がる。
フォックスの両手は、再び不動明王の印を結んでいる。

( #゚ω゚)「コケにしやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

だが先程の火焔呪とは異なる。
不動明王の真の炎、迦楼羅炎を招来するのだ。

( #゚ω゚)「全方位の……、一切如来に礼し奉る……」

川;゚ -゚)「熱っ!!」

フォックスの真言に呼応するかの如く、炎は激しく揺らめく。
この世のあらゆる不浄を焼き払う不動明王の真の炎。
全ての障害を打ち砕き、全ての悪魔を降伏し、全ての災厄を打ち払う───

フォックスが使う今、障害、悪魔、災厄とは紛れもなくクー達を指す。

313 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:06:47.38 ID:8gupFyVO0

( #゚ω゚)「この術はこの男の最高の術!!
      何匹いようが、いくら強かろうが関係ない!!
     一切の不浄を焼き尽くす……!!
     これはそういう術なのだ!!」

川 ゚ -゚)「ち……、真の不動明王の炎というヤツか。
     実に面倒だ 」

炎が、その場の様々な物に乗り移っていく。
美しかった絨毯、芸術性の高い彫刻類、そしてフォックスの本すらも……。

( ゚ω゚)「一切時、一切処に残害破障したまえ!!
      最悪大忿怒尊よ!!
      一切障難を滅尽に滅尽し、残害破障したまえ!!」

フォックスが口にする火界のマントラ。
それに伴い吹き荒れる熱風と踊る炎。
物理法則を超えた神界の炎が、フォックスの印から放たれようとしている!!

川 ゚ -゚)「ケルベロス。お前、火は得意だろ?
     私達を庇え 」

と、ここでクーがいきなりの無茶振り。
ケルベロスの方は大慌てでクーの顔を二度見した。
320 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:09:39.31 ID:8gupFyVO0
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「アレは普通の炎ではないぞ、ライドウ!!
     メギドの炎に似ている!!
     だが遥かに強力だ!!」

川 ゚ -゚)「防御は無駄だと言う事か。う〜ん……」

なんとなく分かってたけどね、というような顔で首を傾げるクー。
何か手は無いか……。
思慮を巡らせた結果は……

川 ゚ -゚)「どうしようwww、やべぇwwwwww 」

4体の仲魔はギョッとしながら全員クーを見た。
だが次の瞬間、4体全てが示し合せていたかのようにクーの前に歩み出る。
我が身を放り出してでも主は守る。
それがデビルサマナーの仲魔だ。
325 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:11:36.08 ID:8gupFyVO0

( #゚ω゚)「ハァーッハッハッハ!!
      灰燼に帰せ!!邪悪なる者共よ!!」

フォックスは既に正気を失ってしまったのか。
身に余る力に狂ってしまったのか。
度重なる屈辱を狂気で塗り潰したのか。

そしてフォックスは最後の引き金に手をかける。
不動明王の炎を招来する、真言の詠唱を開始する!!

      ナウマリ サンマンタ バサラタン カン
( #゚ω゚)「南莫 三曼多 縛日羅赧 憾!!不動明王・火えn───」

その時、さながら時が止まったかのように感じた。
クーもフォックスも。
4体の魔さえも。

328 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:13:09.09 ID:8gupFyVO0

(´・ω・`)「僕は……神を憎む……。
      こんな才能を、僕に与えた神を……」

( #゚ω゚)「ショッ!!」

川;゚ -゚)「ショボン!!」

一同瞠目する。
縛られ無力と化していたショボンが、両の足で立ち上がり、力強く詠唱していた。

(´・ω・`)「安心するんだ、クー……」

ショボンは一言だけ言うと再び詠唱に入る。
何か吹っ切れたような、迷いを捨てたような力強さ。
クーはそこに荘厳さを感じる。
何処か頼りなかったショボンが、今では違う男のように感じた。

(:::´-ω-)「Lite,Latvarita,Ulth,Ariarous,Val,Netrie ……」

( #゚ω゚)「その詠唱……、まさか!?」
      
その中、一人狼狽するフォックス。
ショボンが使おうとしている魔法に対し、明らかに怖れを抱いている。

334 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:15:32.11 ID:8gupFyVO0

( #゚ω゚)「体現していたのか!?
      伝説の勇者が生み出した光の魔法を!?」

ショボンは眉根を寄せた。
見ようによっては泣き出しそうな顔にも見える。

(:::´-ω-)「出来れば一生使いたくなかった。
       最強の攻撃魔法、誰かを傷着ける魔法なんて……。
       僕は村の子供達に綺麗な服を作ってあげられたら、それで良いのに…… 」

その時、強烈な光と共にショボンの前方に光の輪が現れた。
直径2m程の輪の中に、ショボンの詠唱に従って次々と図形や文字が刻まれていく。
魔法陣の様相を醸し出した光の輪は、ゆっくりと回り始める……。

( #゚ω゚)「あり得ぬ!!あり得ぬっ!!!!
      私ですら体得出来なかった魔法を、こんな辺境の小童が!!」

フォックスは魔法陣から発する太陽の様な光を顔に受けた。
光から感じるエネルギーは、これまでに感じた事のない強大さ。

焦り、恐怖、嫉妬……。
フォックスの心中には、様々な感情が渦巻いている。     

337 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:17:32.67 ID:8gupFyVO0

(:::´-ω-)「Lu,Thita,Toel,ul,Laputa ……」

1000年の昔……。
この世界は人と魔族が派遣を争う大戦争を経験した。
その時、人側に現れた勇者シースルー・インビジブル───。

勇者は誰も為し得なかった光の魔法を使い、少数の仲間と共に凍れる魔王を打ち倒したと言う……。
フォックスが知を求めた根底にあるのは、この光の魔法を手に入れる事。


───だが光は、フォックスを選ぶ事は無かった。


(:::´・ω・)「我を助けよ!! 光よ蘇れ!!」

ショボンは目を見開き叫んだ。
最強の攻撃魔法の詠唱が完了する。
魔法陣は回転速度を増し、それに伴って光の強さも撥ね上がる!!
341 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:19:23.82 ID:8gupFyVO0

(;#゚ω゚)「チクショォォォォー────!!!!」

フォックスは結んだ印をショボンに向けた。
直後、元裏高野退魔師、内藤ホライゾンの法力を解き放つ!!

      ナウマリ サンマンタ バサラタン カン
(;#゚ω゚)「南莫 三曼多 縛日羅赧 憾!!不動明王・火焔呪!!」

あまりにも濃い炎───いや、炎と呼ぶには度が過ぎている。
朱墨を大量に零したような、地獄の様な灼熱に飲み込まれた。
あらゆる不浄を焼き払う、天界の浄化の炎が真っ直ぐにショボンに襲いかかる!!

川;゚ -゚)「ショボン!!逃げろー───!!」

クーが叫ぶも逃げるには遅すぎる。
そして当のショボンもそんな気は一切なかった。
不動明王の炎が目の前に届いたとき、ショボンは最後の呪文、滅びの言葉を唱えた───。

(:::´・ω・)「Va-lth!!」

魔法陣と同じ直径2mの光線───。
眩い光と衝撃波と共に放たれた極太のレーザーが、炎の中に放たれた。
その軌道にある全ての物を、無に帰す絶大な魔法が……。

351 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:21:05.01 ID:8gupFyVO0

川;゚ -゚)「クッ!!ショボン!!」

クーは荒れ狂う炎の中に走ろうとする。
だが何者かに腕を掴まれた。

ノ)) - 从「……ダメだ 」

クーに向かって首を振るノーマン。
そんな事はクーにも分かっていた。
だが、反射的に友人を救おうと走り出したクーを、一体誰が責められようか。

巨大な力同士がぶつかり合った───。

広範囲を一気に焼き尽くすフォックスの法力。
恐るべき破壊のパワーを一点に集めたショボンの光の魔法。
どちらが勝ったかなど想像もつかない。

炎と光に目が眩み、クーはその瞬間を見届ける事は出来なかった。

徐々に目が慣れて来る……。
激しい熱と轟音と光と衝撃波……。

……そして、遂に光が炎を貫いた───。

357 :訂正:2010/11/27(土) 23:25:46.55 ID:8gupFyVO0

川;゚ -゚)「ショボン!!」

暴君の如き炎は、一通り猛威を振るった後、中空へと消えて行った。
聖なる光は、壁に大穴を開け消え去った。

後にはショボンとフォックスが倒れている。
クーは即座にショボンの元へと走る。

(:::´-ω-)「クー……。無事かい?」

クーはしゃがみ込んでショボンの上半身をそっと起こす。
炭化した衣服がボロっと崩れ、ショボンの体を目の当たりにするクー。
クーは顔を背けたくなった。

川 ゚ -゚)「ああ。私は大丈夫だ。
     ショボン……。無茶をしたな 」

クーは無理矢理笑みを浮かべた。

(:::´-ω-)「良かった……。君を、、、、
       君を君の世界の僕の所に……無事に帰さないと……。
       君には、、、、幸せになって欲しいから…… 」

息も絶え絶えにそこまで言うと、ショボンは苦痛に顔を歪めた。
そして苦しそうに笑う。
クーの視界が若干霞んだ。

359 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:27:24.10 ID:8gupFyVO0

この時、クーの中で自身でも驚くべき変化が生まれた。

川 ゚ -゚)「その話だがな……。
     実は……」

クーは自分でも何故言ったのか分からなかった。
強い女の心を何重にも包んだ殻が、少しだけ剥がれたのか……。

川 ゚ -゚)「実はショボンが私の婚約者だと言うのは、私が勝手に言ってるだけなんだ……。
     本人から愛の言葉を聞いたことなど一度もない……。
     私は……自信が……」

その時、クーの頬にショボンの手が触れた。
殆んど炭と化してしまっている指だ。
動かすだけでも相当に苦痛のはず。

だが、ショボンは弱々しくも笑い、そして少しだけ強く言った。

(:::´-ω-)「そんな事は絶対にないよ……。
      言った、、だろ……?どの世界のショボンも……本質的には同じだって。
      だったら、、、、君の世界の僕が、、、、
      君の事を好きじゃないなんて絶対にあり得ない……」

その瞬間、ショボンの表情から一瞬だけ全ての苦痛が消え去ったかに見えた。

(:::´・ω・)「僕が言うんだから間違いない 」
362 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:29:31.30 ID:8gupFyVO0

それを最後にショボンは気を失った。
死んではいない。
どうにか命は取り留めているようだ。

クーはそっとショボンを寝かすと、仲魔達に彼を託した。
そして力強く立ち上がる。
見据える先には……

爪;'ー`)「ハァハァハァハァ……。
      私は賢王……こんな所で終わってたまるか……。
      アンノウンを……奴の力を手に入れて……」

フォックスはクー達の元から離れようと必死に這っていた。
左肩から先を失い、全身に激しい損傷。
まともに当たらずとも、伝説の魔法の衝撃波が充分に命を奪い得る威力を持っていた。

爪;'ー`)「ハァハァ……
      恐ろしい……恐ろしい……!!
      異世界に干渉など……してはならなかったのだ……!!」

その時、這い続けるフォックスが何かにぶつかる。
フォックスは息も絶え絶えに顔を上げた。

川 ゚ -゚)「………」

爪;'ー`)「ヒィッ!!」

氷のように表情を固めた、クーが冷徹なる眼差しで見下ろしていた。

365 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:31:44.23 ID:8gupFyVO0

爪;'ー`)「うぁっ!!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

川 ゚ -゚)「 黙 れ 」

クーはフォックスの焼け残った髪を無慈悲に掴み上げる。
フォックスの目は恐怖一色に濁った。

川 ゚ -゚)「存在価値の無い貴様に仕事をくれてやる。
     ちょっと実家に忘れ物をしてな。
     それをこの空の魔封管にコピーしろ。
     貴様の力ではどうせ不良品だろうが、何かの役には立つだろう 」

爪;'ー`)「ぐ……。化け物……」

川 ゚ -゚)「 黙 っ て 言 う 通 り に し ろ  」


・・・・・・

・・・


369 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:34:32.51 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「ショボン。行くぞ……」

(:::´-ω-)「あぁ……。すまない 」

時刻は日没。
ショボンはクーに夕陽の見える場所へ連れて行ってくれと願った。
クーはショボンを背に、知識の塔を出る。

(:::´-ω-)「クー……、鍵を……夕陽……に…… 」

川 ゚ -゚)「良し、これだな?
      ショボン、お前は喋らなくても良い。
      私がちゃんとやるから、な?」

息も絶え絶えに、命を振り絞るように声を出すショボン。
ショボンの震える指が頼りなく握っている水晶玉。
クーはそっとショボンの指に自分の手を添え、そのまま高く持ち上げる。


時空転移の鍵が今、夕陽に向かって翳された……。


しっかりと背筋を伸ばし、彼女の表情から鍵を持つ指先に至るまで真剣な様子が見て取れる。
クーの全身は夕陽を正面から受けオレンジに染まった。
うっすらと目を開けたショボンは、その荘厳で美しい姿に一瞬全ての苦痛を忘れた。

372 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:36:42.81 ID:8gupFyVO0

(:::´-ω-)。o ○(あぁ……、何て素晴らしい女性なんだ……)

激痛の走る自分の体に、クーの静かな鼓動が響いている。
柔かな体温も感じる。
ショボンは今、生まれて初めて芽生えた感情に身を任せた。

心地良い緊張感が、心臓の真から徐々に溢れて来る。

この感情をもたらしてくれたクー……。
ショボンは思う。
『この後起こる事を彼女は許してくれるだろうか?』

(:::´-ω-)。o ○(すまない……すまない、クー。
           君は悲しんでくれるだろう。
           でもきっと君は、そんな感情を必死に覆い隠して、気丈に振舞うんだろうな……)

ショボンは確信している。
己がクーに対して抱いている感情。


───これは『恋』だ。


魔法の才能に恵まれたためか、幼い頃から自分より年上も含めて子供たちのまとめ役だった。
保護者の様な役割のショボンにとって、同年代の少女は恋愛の対象とはならなかった。
ブーンやツンがやたらと盛り上がっていたが、その感触が訪れることはなかった。

374 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:39:23.18 ID:8gupFyVO0

川 ゚ -゚)「お!?成功か!?」

クーは珍しく大きな声を出す。
夕陽の光を浴びた水晶が、一気に輝き始める。
クーの顔に当たる光は、オレンジから白銀に変わった。

そしてクーはショボンの顔を見て微かに微笑んだ。
クーの内面より溢れる光は、ショボンの心を隅々まで明るく照らす。

川 ゚ -゚)「やったな、ショボ──、おぉ……」

クーは言葉を飲み込んだ。
白銀の光が一瞬フラッシュのように弾けた後、目の前には遥か彼方まで続く光の道が現れた。
真っ直ぐに伸びたそれは、幾何学的な美しさと、神々しさを併せ持つ。

だが、ショボンはそれよりもクーを美しく思う。
女の身でありながら、異世界の住民だなどと言う戯言を信用し、単身知らぬ世界に来てくれた。
一つの信念を確信的に持っている揺るぎのない美しさ。

見た目の美しさよりも寧ろ、ショボンはそこに強く惹かれている。
389 :374−379の間、抜けてました:2010/11/27(土) 23:51:03.26 ID:8gupFyVO0

(:::´-ω-)「クー……」

川 ゚ -゚)「ん?」

ショボンは体力を振り絞る。
決まりきった自分の運命。
せめて一言、クーに言ってしまいたい。

(:::´-ω・)「クー……」

クーは優しい表情で、ショボンが何か言うのをじっと待っている。
クーは何時も自分の話を聞いてくれる。
きっと……

そしてショボンは力を振り絞って言うべき事を言った。

(:::´-ω-)「……ありが、、とう……」

その言葉が終わる時、二人の体を光の道が受け入れた。
極寒の国に居ながら、体に心地良い温度と風が顔に当たった。
光の流れに身を任せ、クーとショボンは進む。


アンノウンが待つ決戦の地へ───。


379 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:40:57.62 ID:8gupFyVO0

ショボンはもっと別の事を言いたかった。
だが、『ありがとう』という言葉も間違いでは無い事を知っていた。
クーも知っている。


何と返すべきか知っている……。


川 ゚ -゚)「お前に会えて良かった 」


ショボンの耳には確かに届いた。
あぁ……やはり素晴らしい女性だ……。
クーは、自分がひた隠していたことなど感づいているに違いない。

ショボンの瞼の間から、二筋の涙が零れた。
彼を支えるクーの腕に、注意していなければ気付かない程、わずかに力が入る。


そして光は加速し、視界の全て、五感の全てが光に包まれた───。


 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼
385 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:46:52.09 ID:8gupFyVO0
 △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


……残されたフォックスは、外に柔かい発光を見た。

直後、クー達の気配が掻き消える。
フォックスは完全に一人取り残された。


賢王フォックス───。


偉大なる知識の王フォックスは、最初から最後まで見下された。
力に魅入られ、己を見失った性根を見透かされていたのか。
そして最後にクーはこう言った。

川 ゚ -゚)『殺しはしない。死ぬなら勝手に死ね 』

───歯牙にも掛けられない。

390 :385の続き:2010/11/27(土) 23:51:54.93 ID:8gupFyVO0

爪;'ー`)「クックック……」

この世界でトップクラスの魔力を持つと言っても過言ではないフォックス。
それ故に、人民の尊敬の念を一身に集めていた。
その自分が、塵芥の如く扱われた。

爪;'ー`)「クハハハハハハハ!!」

フォックスは今、より強大な力を持つ存在を認識した。
同時に歓喜に打ち震えた。
我が身に宿る魔力を使えば、異世界の力すら制する事が可能。

───そう。
あの女が最後に自分に取り寄せさせた、『あの化け物』すらも───
あの赤い光を放つ銀の筒に封印された化け物をも倒せる……。

爪;'ー`)「先程は読みが足りなかっただけだ!!
      ハハハハ!!
      次は過たぬ!!」

フォックスは焼けただれた手を空中に翳す。
残った右手を……。
淡い光が収束し、一冊の本が現れた。

394 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:53:10.02 ID:8gupFyVO0

爪;'ー`)「フッフフフフフフフ……『アンノウン』!!
      何故気付かなかったのだ。
      あの男を読みさえすれば、私は何物をも凌ぐ存在になれたのだ。
      今こそ私はアンノウンとなるのだ!!」

そしてフォックスは禁断の本を開いた。

爪;'ー`)「フハハハハ!!分かる!!分かるぞ!!
      これがアンノウンの!!
      並行世界か!! これが並行世界を征服する……!!」

パラパラとページを捲る。
フォックスの口元は、醜く歪んでいた。
この力が我が物となる……。

爪;'ー`)「さぁ、もっと見せろ!!
      私にその力をもっと……」


 ─―─―wwヘ√レvv――─― 


爪;'ー`)「何だ……?」
395 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:53:59.43 ID:8gupFyVO0

フォックスの脳に次々と詰め込まれるアンノウンについての知識。
そこに今、何らかのノイズが紛れ込んだ。


─―wwヘ√レvwwヘ√レwwヘ√レvwwヘ√レv
   √レwwヘ√レvw√レwwヘ√レvwwヘ√レvvvv――─―

爪;'ー`)「何……だ?これは……?」

ノイズは次第に大きくなる。
今や頭蓋をかち割らんばかりに、脳を掻き毟る。

─―wwヘ√レvwwヘ√レwwヘ√レvwwヘ√レv
   √レwwヘ√レvw√レwwヘ√レvwwヘ√レ
    √レwwヘ√レvw√レwwヘ√レvwwヘ√レ
   √レwwヘ√レvw√レwwヘ√レvwwヘ√レvvvv――─―


爪;'ー`)「もういい……!! 
      もう辞め───!!」

フォックスが悲鳴にも似た懇願の声を上げた時だった。
ノイズの中に立った一言、明確に聞き取れる言葉が混じった。

399 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:56:41.70 ID:8gupFyVO0






─── 『 死 ね 』 ─── 







爪; Д )「ガァッ!!」

その瞬間、フォックスは胸に激しい痛みを感じる。
地獄のような痛みを。
フォックスは目を飛び出さん程に見開き、ゆっくりと、コマ送りのようにゆっくりと自身の左胸を見下ろした。
402 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/27(土) 23:59:56.13 ID:8gupFyVO0

───赤黒い肉の塊が、ドクン、ドクンと脈動している。
胸が内側から爆ぜ、肋骨を突き破り、自身の心臓がそこにある。


爪;゚Д゚)「馬鹿……な……」

そしてフォックスは見た。
心臓を鷲掴みにしている漆黒の腕が、己の体の内から突き出している!!


爪;゚Д゚)「アン……ノ……ウ………」

全知全能のフォックスは、この腕の主が何者か知っている。
今この瞬間、フォックスが望んだ力が確かに自身の内にある。
……だがこんな事を望んだのではない……。


爪;゚Д゚)「 ア ン ノ ウ ン ー─────!!!!」


それがフォックスの断末魔となった。
漆黒の血染めの腕は無慈悲に握られる。
フォックスの心臓は、持ち主の目の前で血飛沫を撒き散らせながら、粉々に弾け飛んだ。

405 : ◆FnO7DEzKDs :2010/11/28(日) 00:02:19.78 ID:jNqT3cak0





     【Single part:Devil buster⇒END】

     【Next⇒Single part:Persona】




戻る

inserted by FC2 system