339 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:05:24.85 ID:1WYtezIk0
――世界暦・527年――
 
――帰らずの森――
 
 壁を、手で撫でる。
 古い、乾燥しきった木材だ。
 
 今日は空気も乾燥していた。
 小屋のなかは充分に暖が取られているが、そのせいで余計に空気は乾いているのだ。
 
 喉が潤いを求めたことに呼応して、杯に手を伸ばす。
 茶は温くなっていたが、ちょうどよい熱さだった。
 杯を傾けて、一気に飲み干す。
 
(´・ω・`)「……ふぅ」
 
 杯を卓上に置いた音も、やはり乾いていた。
 
 背凭れに軽く体重をかける。
 軋む音が小さく鳴った。これもやはり、相当古い代物だ。
 
 このツンの小屋は、母親である先代のときから使用されているという。
 強靭な武器であるアルファベットをヴィップが使用しはじめたのは、世界歴491年のことだ。
 仮にその年に建てられたのだと計算すると、もう三十六年ほど経過していることになる。
 
 小屋は狭いが、女が一人で暮らすには充分だろう。
 アルファベットを製作する工場も、城のそれと比べれば段違いに小規模だ。
 ただ、無駄が全くない。作成されるアルファベットの質が高い理由の一つは、そこにもあるのだろう。
 
ξ゚听)ξ「お待たせしてすみません」
342 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:08:01.63 ID:1WYtezIk0
 額の汗を拭いながら、机の向かいに腰掛けた。
 ツン=デレート。世界一と称されるアルファベット職人だ。
 
(´・ω・`)「いや、いいんだ。いくらでも待つさ」
 
ξ゚听)ξ「確認しましたが、問題ありません。アルファベットの性能は、今後も充分、発揮することと思います」
 
(´・ω・`)「念入りなんだな、随分と。今までにはなかったことだ」
 
ξ゚听)ξ「最高位のZですから、不安にもなります」
 
 アルファベット、Z。
 その最高峰に、遂に到達することができた。
 
 現代では、稀代の英傑と称されたベル=リミナリーでさえ届かなかったのだ。
 他にもハンナバルやミルナ、ジョルジュなど、アルファベットの才に優れると評された将が何人もいる。
 その誰もが手にしていない高み。
 
 ようやく、掴んだ。
 最高位にまで上り詰めることができたのだ。
 
(´・ω・`)「まぁ、試し斬り程度で刃が毀れでもしていたら、確かに困るが」
 
ξ゚听)ξ「はい。それも含めて全て、確認しました」
 
(´・ω・`)「三本とも問題なし、か」
 
 ツンからZの製作完了連絡を受け、すぐこの小屋へ向かった。
 逸る気持ちを、どうしても抑えられなかったのだ。
 理屈ではなく、完全に感情で動いていた。
346 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:11:02.23 ID:1WYtezIk0
 アルファベットを掴み、掲げた瞬間の思いは、言葉にできない。
 何年も訓練を積んできた。時には吐くまでアルファベットを振るいつづけた。
 Xを超えてからは碌に睡眠も取らずに鍛錬していた。
 
 全ての苦労が、報われたのだ。
 試し斬りを行い、Yとの判然たる差を確認した瞬間、そう思った。
 このアルファベットさえあれば、全てを蹂躙できる。そうも思った。
 
 試し斬りのあと、ツンはすぐさまアルファベットの確認作業を実施した。
 Y以下では行わなかった作業だ。さすがにツンも、Zには不安があったらしい。
 だが、自分の感触では、三本とも問題はないだろうという気がしていた。
 
(´・ω・`)「一気に三本も、すまなかった。肉体的に辛い日々を送らせてしまったと思うが」
 
ξ゚听)ξ「いえ。未知のアルファベットは複数作って試しますので、どのみち同じことです」
 
(´・ω・`)「そうか。そう言われてみれば、そうだな」
 
ξ゚听)ξ「ですが、三本同時は初めてで、少し驚きました」
 
(´・ω・`)「あぁ、もうすぐラウンジとの大戦が始まるからな」
 
ξ゚听)ξ「いざというとき、予備をすぐ使えないと困る……ということですか」
 
(´・ω・`)「北の城を攻めている場合、新しいアルファベットをこっちまで取りに来るのは難儀だ」
 
ξ゚听)ξ「そうですね、三日という期間内で受け取ろうと思えば、近隣の城まで来ていただかないと……」
349 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:13:54.16 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「致命的になってからでは、いかにも遅すぎる。先に手を打っておくべきだ」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
(´・ω・`)「念を入れて三本。これで、心置きなくラウンジと戦える」
 
 遂に、戦を終わらせるときが来たのだ。
 宿願を達成するときが来たのだ。
 
 長年、天下を目指してきた。
 覇道を歩むことに専念してきた。
 
 結実する時が、来る。
 あと、少しだ。
 
(´・ω・`)「そうだ、前に頼んでおいたWはどうなっている?」
 
ξ゚听)ξ「あ、はい」
 
 慌てて立ち上がり、ツンが工場へと駆けていく。
 大きな箱を抱えて、またすぐに戻ってきた。
 
ξ゚听)ξ「完成しています」
 
(´・ω・`)「ありがとう。Wなら確かめる必要もないな」
 
ξ゚听)ξ「念のため、城に戻ったら確認してみてください。問題ないとは思いますが……」
 
 遠距離から絶大な威力を発揮する、弓型アルファベットW。
 Fと組み合わせれば、遥か遠方の標的を討つことも可能だ。
354 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:16:29.60 ID:1WYtezIk0
 アルファベットWは、既に所有しているものが壊れたわけではない。
 しかし、アルファベットは触っているだけでも老朽化していく。
 ツンからアルファベットを受け取れなくなる前に新調しておいたほうがいい、と考えたのだ。
 
ξ゚听)ξ「おまけと言ってはなんですが、アルファベットFもつけておきました」
 
(´・ω・`)「弓型を依頼したときは、いつもそうだったか」
 
ξ゚听)ξ「はい。たまには下位も作っておいたほうがいいと思いますので、ついでに」
 
(´・ω・`)「はは。まぁ、ありがたい。ツンさんのFなら仕留め損ねることもないだろう」
 
 Wの箱には、五本のFが同梱されていた。
 やはり、城で大量生産されるものに比べると、質が違う。
 見るだけでもはっきりと分かる差だ。
 
 双剣のアルファベットZ、弓型のWと矢型のF。
 これで、必要なものは全て揃った。
 
(´・ω・`)「急かしてすまなかった、ツンさん。そろそろ失礼する」
 
ξ゚听)ξ「はい……あ、ショボン様」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
ξ;゚听)ξ「あ、あの……」
 
 何かを、言い淀んでいる。
 ツンには珍しいことだが、何となく言葉の先が読めた。
358 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:19:25.99 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「なんだ、ブーンの様子でも気になるか?」
 
ξ///)ξ「!!」
 
(´・ω・`)「やれやれ。ツンさんは若いな」
 
ξ;--)ξ「も、もう若くはないですよ……」
 
(´・ω・`)「見目と気持ちだな。まぁ、いいんじゃないか。そんな一面があっても」
 
ξ////)ξ「からかわないで下さい……」
 
(´・ω・`)「まぁ、ブーンのことは直接会って確かめればいいだろう。そのうち来るさ」
 
ξ///)ξ「そ、そうですか……分かりました……」
 
(´・ω・`)「じゃあ、失礼するとしよう」
 
 外套を羽織って、小屋の扉を開けた。
 ツンが、温かみを感じる微笑みで見送ってくれることに礼を言う。
 
(´・ω・`)「あぁ、そうだ。ひとつ言い忘れていた」
 
ξ゚听)ξ「はい?」
 
(´・ω・`)「俺がZに達したこと、まだ誰にも言わないでおいてくれ」
 
(´・ω・`)「自分の言葉で、皆を驚かせてやりたい」
 
ξ゚ー゚)ξ「ショボン様にも、そんなところがあるんですね。分かりました」
364 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:22:32.98 ID:1WYtezIk0
 本当の意図は、少し違うところにある。
 しかし、そこまでをツンに語る必要はなかった。
 
(´・ω・`)「じゃあ、また」
 
ξ*゚ー゚)ξ「はい。それでは、また」
 
 手で別れを告げて、扉を閉めた。
 
(´・ω・`)(寒いな……)
 
 年が明けたばかりで、まだ春暖は遥か遠い。
 空気も乾燥しきったままだ。
 
 この時期に戦を行う場合、真っ先に警戒しなければならないのは、火計だ。
 空気が乾燥しやすく、風も強いため、火は一気に燃え盛る。
 消火も非常に困難を極めるのだ。
 
 ひとたび火がつけば、逃れる術はない。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 一度、振り返る。
 ツンの小屋はもう、かなり遠ざかった。
 
 再び前を向き、歩き出す。
 強風に森の木々が揺れ、葉音を奏でていた。
 自分の外套や髪も、風に靡いている。
369 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:25:36.33 ID:1WYtezIk0
 風が、収まった。
 髪と外套は、また、自分の体に戻ってくる。
 
 それが、当然だ。
 
 しかし――――
 
(´・ω・`)「ッ……!?」
 
 なんだ。
 あれは、どういうことだ。
 
 風に揺られていた、木々が、葉が。
 戻らない。そのまま、固まってしまっている。
 
 風は既に止んでいるのに。
 
 まるで時が止まったかのように――――
 
 
川 ゚ -゚)「……無事に到着したようだな」
 
 
 夜の闇が、一層深まった。
 そう思える空間から、突如、姿を現した。
 
 紛れもなく、自分が抱える間者である、クー=ミリシア。
 一瞬、何事だ、と言いかけた。
377 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:28:38.85 ID:1WYtezIk0

379 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:29:25.92 ID:1WYtezIk0
 しかし、見紛うはずがない。
 どれほど姿形が似ていても、自分がクー=ミリシアを別人と間違えるはずがないのだ。
 
 だが、一体こいつは何なのか。
 
川 ゚ -゚)「聖剣……ありがとう」
 
 クーだが、クーではない。
 その矛盾をはっきりと認識しながら、他の答えを出せないでいる。
 
 何もかもが、明らかにおかしい。
 
川 ゚ -゚)「突然のことで動揺させてしまったなら謝りたい。しかし、今はその時間さえ惜しいんだ」
 
(´・ω・`)「……やはり、クー=ミリシアではないのだな」
 
川 ゚ -゚)「それは、この世界のクーのことか?」
 
 この世界。
 その一言で、大まかな謎は解けた。
 
(´・ω・`)「別世界からの来訪者、というわけか。時が静止したようなこの状況は、そのせいか」
 
川 ゚ -゚)「利に聡いようで助かる。それに、冷静さも兼ね備えているな」
 
(´・ω・`)「信じたくはない。さっきまでの俺なら、発狂しても"別世界"などとは口にしなかっただろう」
 
(´・ω・`)「しかし、この状況では、信じざるをえない」
392 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:36:12.50 ID:1WYtezIk0
 自分や、自分が身に纏っているもの以外は、最初からそうであったかのように動かない。
 木も、葉も、木蔭の白い犬も、全てだ。
 
 自分の常識にはなかった。
 停止したのが動物だけならばまだ、理屈をつけて自分を納得させることができたかもしれない。
 しかし、自然物はどうにもならないはずだ。
 
 超常現象と一言で片をつけるのは容易いが、それでは何の解決にもならない。
 目の前に、原因に関わっていると思われる者がいるのならば、耳を傾けるしかなかった。
 
川 ゚ -゚)「信じてもらえたようなら、すぐに出立しよう。さっきも言ったとおり、時間がない」
 
(´・ω・`)「待て、いくつか質問したい」
 
 事情があるらしいことは分かるが、あまりにも性急すぎる。
 得体の知れない相手に、出立しよう、と言われてすぐ頷けるはずもない。
 
(´・ω・`)「まず、行く先はどこだ?」
 
川 ゚ -゚)「私の世界だ。そこに、倒さなければならない敵がいる」
 
(´・ω・`)「何故だ?」
 
川 ゚ -゚)「世界が、崩壊の危機に陥っているんだ。私の世界も、この世界も」
 
(´・ω・`)「ッ……」
 
川 ゚ -゚)「この世界にまで影響を及ぼすというのは、時が止まった状況を見れば、何となく理解できると思う」
 
(´・ω・`)「……まぁ、そうだな」
398 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:39:23.32 ID:1WYtezIk0
 理解したというよりは、理解させられたのだ、と感じた。
 もっとも、口ぶりからするに、時間の静止はこの女のせいではないようだ。
 責めたところで何の意味もないだろう。
 
川 ゚ -゚)「二つの世界だけではなく、他の世界も……全部、崩壊してしまう。"アンノウン"のせいで」
 
(´・ω・`)「アンノウン……それは、敵の名前か?」
 
川 ゚ -゚)「そうだ。"聖剣"を使って全てを消滅させようとしている」
 
(´・ω・`)「それは何だ? どういった代物だ?」
 
川 ゚ -゚)「細かく説明すると複雑なんだが……使用者の願いを叶える剣だと思ってくれていい」
 
(´・ω・`)「……なるほど。それはまずいな」
 
川 ゚ -゚)「悪用された結果が、この有様だからな……」
 
 クーの右手が、衣服の裾を握り締める。
 顔を俯かせており、長い髪に表情は隠れてしまっていた。
 
(´・ω・`)「……悪用、か」
 
 悪用、という言葉が、正しいのかどうかは分からない。
 ただ、この別世界のクーと善悪論を交わそうという気にはならなかった。
 
川 ゚ -゚)「聖剣の力でこの世界は止まっている。だが、君だけが動けているのも聖剣のおかげだ」
401 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:42:25.91 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「……アンノウンによって悪用されたが、聖剣が抗った、というところか」
 
川 ゚ -゚)「そこまで推察できるのか、大したものだな」
 
(´・ω・`)「まぁ、だいたいの事情は察したが……」
 
(´・ω・`)(……世界の崩壊、か……)
 
 一つ、小さく息を吐く。
 
 このままならば、朝が訪れることもないのだろう。
 そう思いながら、夜空を見上げた。
 
 クーの言葉すべてを信じていいものか。
 分からない。自分自身を納得させるには、あまりに判断材料が少なすぎる。
 
(´・ω・`)(しかし……)
 
 ゆっくり迷う時間など、与えてはくれないらしい。
 ならば、前へと進むより他ないだろう。
 今までも、そうしてきたように。
 
(´・ω・`)「分かった、行こう」
 
川 ゚ -゚)「よし」
 
 クーの右手が自分の手を掴む。
 時には敵を闇に葬り去り、時には敵を籠絡してきたクー=ミリシアのそれとは、明らかに違う。
 やはり、別人でしかない。
405 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:45:28.72 ID:1WYtezIk0
 そんなことを考えている間に、いつしか、自分とクーは淡い光に包まれていた。
 
(´・ω・`)「ッ……」
 
 内臓が浮くような、不愉快さを覚えさせられる浮遊感があった。
 今までの自分の常識には、存在しない感覚ばかりだ。
 異なる世界とやらは、不可思議なものらしい。
 
 やがて、視界は暗くなった。
 月や星の微弱な光さえ感じられなくなったのだ。
 
 しかし、不意に、また戻ってきた。
 元の場所に、ではない。視界が、戻ったのだ。
 星々が見えた。
 
 実際に星かどうかは分からない。
 ただそう見えるだけなのかもしれない。
 
 恐らくはここが、世界と世界の繋ぎ目だろう。
 次元の狭間とでも呼ぶべきか。
 
 また、浮遊感が去来した。
 そして今度は、視界が一気に明瞭になった。

406 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:47:54.46 ID:1WYtezIk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   物語のページが( ^ω^)´・ω・)゚听)ξ川 ゚ -゚)応えるようです
 
 
 
        【Single part : Alphabet】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
412 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:51:37.95 ID:1WYtezIk0
川 ゚ -゚)「着いたぞ」
 
 茫洋たる荒野。
 断雲の広がる空。
 
 緑はあまりない。
 人の姿も見えない。
 
 元の世界だ、と言われても信じたかもしれない。
 しかし、突如として昼になることなど、ありえない。
 
 別の世界に、やってきたのだ。
 
(´・ω・`)「……不思議なものだ」
 
川 ゚ -゚)「さっきまでそっちに居た私にも、似たような感覚があった」
 
 吹き抜ける風の匂いも、空の色も、決して特異ではない。
 自分の世界と、それほど差異はないようだ。
 
(´・ω・`)「さて、これからどうするんだ?」
 
川 ゚ -゚)「あぁ、とりあえず――――」
 
 
 ――――月の無い夜の匂いがした。
 
 鼻腔から入り込んできて、胸の奥をかき乱すような。
415 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:54:57.59 ID:1WYtezIk0
 
 
川;゚ -゚)「ッ!!」
 
(´・ω・`)「!!」
 
 
 アルファベットZを、クーに向けた。
 正確には、クーの後ろに、だ。
 
 空を斬る。
 僅かに、届かない。
 
 即座にWとFを構えた。
 しかし、引き絞った頃にはもう、視界には映っていなかった。
 
 ただの高速な移動ならば、別のアルファベットを構えている最中でも目で追える。
 何らかの特殊な力か、あるいは自分の想像を凌駕するような、超高速の移動だったか。
 
 いずれにせよ、突如として現れた敵は、突如として姿を消した。
 
川;゚ -゚)「しまった……!!」
 
 クーが、軽く膝を折る。
 右手で懐の辺りを探りながら。
 
川;゚ -゚)「奪われてしまった……鍵を……!!」
 
(´・ω・`)「鍵……?」
420 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 20:57:52.34 ID:1WYtezIk0
 それが何なのかは、当然気になるが、それよりも気に掛けるべきなのは安否だ。
 鍵が奪われた。その鍵は、果たして無事なのか。
 
(´・ω・`)「鍵がどうなったか分からないか? どこにあるのか、まだ存在しているのか」
 
川 ゚ -゚)「……おおよそは分かる。もうかなり遠ざかってしまったみたいだが……」
 
(´・ω・`)「壊されてはいないんだな?」
 
川;゚ -゚)「ん? そういえばそうだ……なぜ破壊していないんだ?」
 
(´・ω・`)「……誘っているんだ。鍵が欲しくば、取り返しに来いと」
 
 罠である可能性は高い。
 しかし、クーは努めて冷静さを保とうとしているようだが、それを為し得ていない。
 表情からするに、よほど大切な鍵であるようだ。
 
 アンノウンを倒すのに、不可欠なのだろう。
 奪還しなければならない。
 
(´・ω・`)「敵を追うぞ。いつ壊されるか分からん」
 
川 ゚ -゚)「あぁ、すまない……急ごう」
 
 クーが指差した方向に向かって、動き出した。
 
 この世界にはどうやら、便利な移動手段はないらしい。
 あるいは、この近辺にないだけか。
 クーは徒歩を選択している。
422 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:00:42.50 ID:1WYtezIk0
川 ゚ -゚)「すまない……完全に油断していた……」
 
(´・ω・`)「いや、あの一瞬では、防ぐ手立てもなかっただろう」
 
 敵が、あまりにも速すぎたのだ。
 あれでは、Wで狙っても厳しいかもしれない。
 遠距離ではまず駄目だ。近距離でなければ仕留められないだろう。
 
(´・ω・`)「何の鍵を奪われたんだ?」
 
川 ゚ -゚)「……私たちがアンノウンに挑んだ際に作っておいた、ワープポイント――――アンノウンの城へと飛ぶ鍵だ」
 
(´・ω・`)「……そうしなければならないほど、アンノウンへの道のりは険しいのか」
 
川 ゚ -゚)「そうだな……それもあるし、ワープを使えばアンノウンの不意も、多少なり突ける」
 
(´・ω・`)「アンノウンの眼前に飛ぶわけではないんだろう?」
 
川 ゚ -゚)「そうだな。しかし、近いところまでは行ける」
 
 アンノウンの所在は、どこであろうが、どうでもいい。
 ただ、アンノウンを倒すために、無用な体力消費は避けておくべきだろう。
 
(´・ω・`)「しかし、"私たち"という言葉からするに、他にも仲間がいるようだが」
 
川 ゚ -゚)「そうだ、他に三人の仲間がいる。私と同じように、仲間たちも別世界へと飛び立った」
 
(´・ω・`)「同じように、助けを求めにいったわけか」
 
川 ゚ -゚)「あぁ。そしてその『仲間全員が揃って日没の瞬間に鍵を使う』ことで、アンノウンのいる城へとワープできる」
429 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:03:36.36 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「それは、いつの日没だ?」
 
川 ゚ -゚)「明日だ。もうほとんど時間はない」
 
 随分と、利便性の悪い鍵だ。
 だが、別世界の事情にけちをつけても始まらない。
 
川 ゚ -゚)「鍵の期限のこともあるが、急ぐ理由はそれだけじゃない……早く倒さないとアンノウンは世界を滅ぼしてしまう」
 
(´・ω・`)「さっきの敵の場所までは、遠いのか?」
 
川 ゚ -゚)「いや、歩いても二時間くらいあれば着く。相手は止まっているみたいだ」
 
(´・ω・`)「時間の単位がこっちと違うな。まぁ、さして時間がかからないと分かればそれでいいが」
 
川 ゚ -゚)「何かと相違はあるようだな、当然ながら」
 
(´・ω・`)「いま見ている風景だけなら大差ないが、文化にも差はあるんだろうな」
 
川 ゚ -゚)「そうだと思う」
 
 文化や文明の差を理解したところで、それほど役立つとは思えない。
 何かしらアンノウンに有効な手立てがあれば、この世界のクーたちは試しているだろう。
 別の世界に頼ったということは、この世界に存在する力ではどうにもならなかった、ということだ。
 
 だが、そもそも願いを叶えるような剣の持ち主が相手なのだ。
 もし何の制限もなければ、勝算などあるはずもない。
 
 『目の前にいる人間を消せ』。
 そう命令するだけで、事が済んでしまう。
432 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:06:24.56 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「……聖剣を」
 
川 ゚ -゚)「ん?」
 
(´・ω・`)「聖剣を、封じる手立てはないのか?」
 
 クーは、間を置いてから軽く息を吐いた。
 それだけで答えは分かったようなものだったが、後のクーの言葉は、それほど単純ではなかった。
 
川 ゚ -゚)「基本的には、ない。聖剣にエネルギーが残ってる限りは」

(´・ω・`)「エネルギー……チカラ、か」

川 ゚ -゚)「そうだ」
 
(´・ω・`)「なるほど……エネルギー枯渇が弱点というわけか」
 
川 ゚ -゚)「あぁ。そして今、聖剣には全くエネルギーが残されてない」
 
(´・ω・`)「何故だ? 願いを叶えすぎたか?」
 
川 ゚ -゚)「アンノウンが実体化するときに、膨大なエネルギーを消費したらしい」
 
(´・ω・`)「実体化……? アンノウンは、元々亡霊だったとでもいうのか?」
 
川 ゚ -゚)「"存在することのできなかった存在"とでも言うべきか……」
 
(´・ω・`)「まぁ、アンノウンを倒すのに必要ない情報なら、どうでもいい」
 
川 ゚ -゚)「そうだな。アンノウンが元々なんだったかなんて、関係のないことだ」
437 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:10:53.37 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「しかし……聖剣の力がなくとも、アンノウンは強大か」
 
川 ゚ -゚)「あぁ……聖剣に"願いを叶える力"がなくても、聖剣自体、相当の武器だ」
 
(´・ω・`)「ほう」
 
 それは、興味深いことだ。
 自分の世界で最強の武器とされる、このアルファベットZ。
 それと、果たしてどちらが上なのか。
 
 干戈を交えてみるのも、悪くはなさそうだ。
 
川 ゚ -゚)「それだけではなく、身体能力や特殊能力も優れている……私たちも全容は把握できていないな」
 
(´・ω・`)「身体能力で負けるつもりはないが」
 
川 ゚ -゚)「確かに、君ならまともに戦えそうな気がする。体はアンノウンより大きい」
 
 こんなことのために鍛え上げた体ではなかった。
 全ては、自分の野望のためだ。
 祖国の天下のためなのだ。
 
 とんだ邪魔が入ってしまった。
 しかし、やらねばならないことだ。
 
 覇道を塞ぐ者は、いかなる存在であろうと、斬り伏せる。
 国のために立ったときから、そう決めていた。
446 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:14:04.86 ID:1WYtezIk0
川 ゚ -゚)「ちょうどいいな」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
 駝鳥のような鳥が、ゆっくりと歩いていた。
 それを見てクーはすぐさま駆けだした。
 
川 ゚ -゚)「乗っていこう。歩くよりは楽だ」
 
(´・ω・`)「耐荷重は?」
 
川 ゚ -゚)「心配いらない、力持ちだ。それに、大人しくて従順なんだ」
 
 随分、被支配的な生物がいるものだ。
 弱肉強食の世界で生き残れるとは思えない。
 生存競争は、あまり厳しくないのだろうか。
 
 二羽並んで歩いていた鳥に跨る。
 抵抗はない。確かに、従順だ。
 
 頭の後ろから背中にかけて、長い鬣が生えている。
 クーは、それを軽く掴んで、指で指示を出した。
 鳥は勢い良く駆け出す。
 
 同じように自分も駆け出した。
 こうやって人を乗せて走ることに、慣れているらしい。
 見たところ無駄な肉もない。人の食糧にされることはほとんどないのだろう。
448 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:17:00.40 ID:1WYtezIk0
 小さな岩なら、軽い跳躍で飛び越えていく。
 自分の世界の馬よりは遅いが、人の疾駆よりは充分速い。
 申し分なかった。
 
(´・ω・`)「この調子なら、もうすぐ着くか?」
 
川 ゚ -゚)「あぁ、相手はずっと同じ場所に留まっているみたいだ」
 
(´・ω・`)「罠の可能性は、高いな。でなければ、動かないのは不自然だ」
 
川 ゚ -゚)「……そうだな。警戒しよう」
 
(´・ω・`)「警戒だけでは後手に回る。先手を打ちたい」
 
川 ゚ -゚)「ううむ、そうだな……敵はどうやら森に潜んでるみたいなのだが、外から攻めてみようか?」
 
(´・ω・`)「外から、どうするつもりだ?」
 
川 ゚ -゚)「私は召喚士だ。こういったものを召喚することもできる」
 
 鳥が、怯えないようにだろうか。
 それとも、これが限界の大きさなのか。
 後者ならばわざわざ示したりしないだろう、と考えれば自ずと答えは出る。
 
川 ゚ -゚)「本当は"風"のほうが得意なんだが――――」
 
 クーの掌の上で、小さな炎が自由に踊っていた。
453 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:19:52.95 ID:1WYtezIk0
川 ゚ -゚)「この炎で一気に森ごと燃やしてしまう、というのはどうだ?」
 
(´・ω・`)「……鍵は、問題ないのか?」
 
川 ゚ -゚)「この程度で消滅したりはしない」
 
(´・ω・`)「相手は、お前が炎を操れると知っているのか?」
 
川 ゚ -゚)「ん? 何故そんなことを訊くんだ?」
 
 自分の質問の意図を、できればすぐに受け取ってほしい。
 だが、それを万人に求めるのは傲慢だと分かっていた。
 これが自分の世界のクー=ミリシアだったら、と嘆いても始まらないのだ。
 
(´・ω・`)「……知っていたら、それこそが罠の可能性もあるだろう」
 
川 ゚ -゚)「なるほど、そうだな……可能性のひとつとして把握しているかもしれない」
 
(´・ω・`)「だったら、安直には賛成できんが……」
 
 森を燃やす、か。
 標的を仕留めるならば、確かに枠から潰すのが確実だ。
 しかし、相手の力は読み切れていない。
 
 迂闊な行動に出るべきではない、とも思えた。
 
(´・ω・`)「……森に無関係の人がいる可能性もある。炎は、とりあえず止めておこう」
 
川 ゚ -゚)「ん……それもそうだ、巻きこんでしまうのは駄目だ」
457 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:22:57.22 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「正面から、堂々と行くか」
 
 クーが鳥から降り、次いで自分も降りた。
 小高い丘から見下ろす。それほど大きくはない森だ。
 ただ、もし中でクーと逸れるようなことがあれば、再会には時間がかかるだろう。
 
川 ゚ -゚)「相手は、私のことは把握してるとしても、君の力については分からないはずだ」
 
(´・ω・`)「そうだろうな」
 
川 ゚ -゚)「私が翻弄して、君が討つ。そういう形が最上かと思う」
 
(´・ω・`)「とはいえ、お前も俺の力を正確には把握できていないだろう?」
 
川 ゚ -゚)「そうだな。でも、さっき敵に一瞬で鍵を奪われたときの反応を見れば、相当の手錬だということは分かる」
 
(´・ω・`)「……そうか、分かった」
 
 どうやら、信頼されているらしい。
 ここで自分がクーを裏切る理由などない。当然といえば、当然か。
 
 しかし――――
 
(´・ω・`)「…………」
 
 ――――自分が、クーを信頼する理由にはならない。
 最初から、それは変わらない思いだった。
462 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:26:06.54 ID:1WYtezIk0
――森――
 
川 ゚ -゚)「君の言ったとおりか。さすがだな」
 
(´・ω・`)「何がだ?」
 
 森の入口は狭く、しかも内部の道は複雑に入り組んでいるようだ。
 罠には、充分警戒しなければならないだろう。
 
川 ゚ -゚)「私の術を反射する防御壁が張ってある。あのまま炎を放り投げていたら、二人とも黒焦げだ」
 
(´・ω・`)「周到な相手だ。一筋縄ではいかんだろうな」
 
川 ゚ -゚)「あぁ」
 
 クーは、敵の情報をほとんど出してくれない。
 恐らく、クーにも素性の知れない相手なのだろう。
 出し惜しみする必要はないはずだからだ。
 
 森のなかに、踏み入る。
 敵の気配は、まだない。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 アルファベットは、Zを構えておいた。
 相手が超高速で移動できる場合、Wでは二の矢を放つ前にやられる可能性がある。
 もし相手が遠距離で攻撃を仕掛けてくるようなら、Wを使えばいい。
468 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:29:05.54 ID:1WYtezIk0
 ただ、Fの本数を考えれば、決して無駄射ちはできない。
 そもそも、遮蔽物が多い森では敵に命中する確率も低いのだ。
 できれば、使いたくはなかった。
 
川 ゚ -゚)「……この森に鍵があることは確かなんだが」
 
(´・ω・`)「鍵だけがある可能性も、なくはないな」
 
川 ゚ -゚)「森に誘い込んで、一網打尽、か」
 
(´・ω・`)「用心しすぎるくらいで、ちょうどいい状況だ」
 
川 ゚ -゚)「……君は」
 
(´・ω・`)「なんだ?」
 
川 ゚ -゚)「随分と、戦い慣れているみたいだな」
 
 森のなかには陽が届かず、数歩先の石さえ見えないほどの暗さだ。
 闇に紛れて攻撃されることも、警戒しておかなければならない。
 
川 ゚ -゚)「鍵を奪われたときの反応にしてもそうだが……戦い慣れていなければ為し得ない芸当だ」
 
(´・ω・`)「……俺の世界は、そういう世界だ。気を抜いた瞬間に死ぬ」
 
川 ゚ -゚)「過酷な世界で生きてきた、というわけか……」
474 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:32:13.81 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「生と死が、常に隣り合わせだ。それが過酷なのかどうかは、分からんが」
 
川 ゚ -゚)「それが当たり前の世界だから、なのか?」
 
(´・ω・`)「分からん。ただ、世界は数多くあるんだろう?」
 
川 ゚ -゚)「あぁ」
 
(´・ω・`)「もっと過酷な世界も、きっとどこかにあるんじゃないか、と思うだけだ」
 
 縁のない世界のことなど、どうでもよかった。
 ただ、いつまでも別世界に居るわけにはいかない。
 自分の世界を、あのままにしておくわけにもいかない。
 
川 ゚ -゚)「……気になるな」
 
(´・ω・`)「何がだ?」
 
川 ゚ -゚)「君の――――」
 
 
 ――――また、あの匂いだ。
 
 本当は何も匂いなどないはずなのに、何故か、鼻腔から入り込んでくる。
 
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 一瞬で、眼前に現れた。
 それよりも前に、自分はZを振るっていた。
480 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:36:51.64 ID:1WYtezIk0
 甲高い音が鳴り響く。
 しかし、手応えはほとんどなかった。
 
川 ゚ -゚)「……やはり速いな」
 
 倒れこむようにして、クーは攻撃を躱していた。
 敵の姿がようやくはっきり見えた。恐らくは、人だろう。
 ただ、動物のように長く鋭利な爪を備えている。
 
 自分のZを受け止めてきたのは、あの爪だ。
 クーを襲ったのもそうだった。
 振るうのは素早く、そして鋭い。単純な武器だが、だからこそ厄介だ。
 
 敵が、クーを追撃する。
 転がるようにしてクーは爪から逃れた。
 クーの身のこなしは軽い。だが、それ以上に敵は素早い。
 
 敵の背後を、即座に襲った。
 しかし、屈むようにして回避される。
 
 首の後ろに、目がついているのだ。
 比喩ではなく、本物の目が、ひとつ。
 
 異形の存在であっても、今さら驚いたりはしない。
 ただ、多くの存在にとって死角である背に弱点がないというのは、こちらとしては辛い。
 
 クーは窮地を脱した。
 だが、今度は自分を襲ってくる。
483 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:39:37.22 ID:1WYtezIk0
 敵の爪を防ぎつづけた。
 硬度も相当にある。Zでも一撃で破壊することはできなかった。
 リーチは自分に分があるが、素早さでは明らかに負けている。
 
 だが――――
 
(´・ω・`)「調子に乗るなよ」
 
 弾いた。
 敵の右手が、頭上まで浮く。
 
 右のZで、敵の左手を防いだ。
 そして、左のZで、爪ではなく、手首を斬り裂いた。
 
 手が、地面に落ちる。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 安堵したわけではない。
 何があってもおかしくない、と考えていた。
 
 だが、体から離れた手が、再び自分を襲ってくることは、予想の範囲外だった。
 
(´・ω・`)「くっ!!」
 
 再び弾く。
 右手は、暗闇へと消えた。
 
 そして、敵の右腕には、右手が戻っていた。
487 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:42:43.67 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)(再生能力か……!)
 
 これでは、斬り離しても不利にしかならない。
 弾き飛ばした右手も、再び戻ってきているのだ。
 
 敵の攻め手は、三つになった。
 
川 ゚ -゚)「調子に乗るなよ――――と私も言わせてもらおう」
 
 森が一瞬、明るくなった。
 蛇のように細長い炎が、敵を喰らい尽くそうとしていた。
 
 火線は、自分を避けている。
 挟撃の基本はクーも心得ているらしい。
 
 そうでなければならなかった。
 敵の素早さは、炎など軽く凌ぐ。
 そして、背にも目があるのだ。
 
 炎は回避された。
 敵の真上を通りすぎた直後、炎は消え去る。
 出現も消滅も、クーの意思ひとつらしい。
 
川 ゚ -゚)「ダメか……!」
 
(´・ω・`)「躱せ!! 手が迫ってるぞ!!」
 
川 ゚ -゚)「ッ!!」
492 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:45:55.57 ID:1WYtezIk0
 手を斬り落としたのは、とんだ失策だ。
 敵は、自分たちを同時に相手にできるようになってしまった。
 
川 ゚ -゚)「頭を貫くんだ! そうすれば確実に討てる!」
 
 分かった、と答える余裕はない。
 間断なく続く攻撃を防ぐことで精一杯だ。
 
 だが、不意に――――
 
(´・ω・`)「ッ……!?」
 
 消えた。
 敵が、目の前から姿を消した。
 
 消える直前、敵は明らかにおかしな挙動を見せた。
 体がふらつくような、足元が覚束ないような、そんな挙動だ。
 しかし、反撃の機か、と思った直後には消えていた。
 
 もうひとつおかしいと感じたのは、敵のリーチが徐々に短くなっていたことだ。
 どうやら、あの武器は連続使用に耐えうるものではないらしい。
 
 疲労を感じたとも見えた挙動と、消耗する武器。
 穴は、どうやら少なからずあるらしい。
 
川 ゚ -゚)「消えた……のか?」
 
(´・ω・`)「高速移動ではないらしいな。あいつ自身、充分に素早いが」
 
川 ゚ -゚)「不可解だ、と思わないか? 何故、攻撃するときは姿を現すんだ?」
494 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:49:29.79 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「あの爪も、何らかの特殊能力なんだろう。徐々に縮んでいたところを見ると」
 
川 ゚ -゚)「……そうか、二つ同時に能力を発動できないのか」
 
(´・ω・`)「恐らくな」
 
 それと――――もうひとつ、気になっていることもある。
 まだ推測に過ぎないが、恐らくは、間違いないことだ。
 
(´・ω・`)「……手分けして敵を探そう。あいつは疲労していた。どこかで体力を回復させているはずだ」
 
川 ゚ -゚)「まとまっているよりは、そのほうが良さそうだな」
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
 自分の読みが正しければ、そうだ。
 しかし、間違っていれば、この別行動が致命傷になる可能性もある。
 
 いつも、綱渡りを続けてきた。
 そう考えれば、これしきのことなど、危なくもなんともない。
 
(´・ω・`)「どうしようもない危機が迫ったら、森の外へ。互いのことは、構わずに、だ」
 
川 ゚ -゚)「了解した」
 
 クーと別れて、駆けだした。
 なるべく早く、クーから遠ざかるべく。
497 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:51:58.48 ID:1WYtezIk0
 自分は、辿ってきた道を正確に戻れる。
 だが、クーはどうか分からない。
 だからこそだ。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 二刻ほど経っただろうか。
 どうやら、この森には自分たち以外は誰もいないらしい。
 鳥の囀りさえ聞こえなかった。
 
 自分は、円を描くようにして、また元の場所に戻ってきた。
 
 そこに、クーもいた。
 
川 ゚ -゚)「居たか?」
 
(´・ω・`)「いや、見つからないな」
 
川 ゚ -゚)「もしかしたらもう、外に出てしまったのかもしれない」
 
(´・ω・`)「そうかもしれん」
 
川 ゚ -゚)「いったん出て様子を窺いたい。外までの道は覚えているか?」
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
川 ゚ -゚)「すまないが、前を歩いて案内してほしい。後ろは私が警戒する」
 
(´・ω・`)「分かった」
506 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:55:59.59 ID:1WYtezIk0
 森の入口へと向かうべく、前に出た。
 そしてそのまま、数歩進む。
 
川 ゚ -゚)「しかし、どこに行ってしまったんだ? 厄介だな……」
 
(´・ω・`)「分からないのか?」
 
川;゚ -゚)「……どういうことだ? ショボン、君には分かるのか?」
 
(´・ω・`)「分かるさ」
 
 ――――血はない。
 人では、ないらしい。
 
 咄嗟に爪を前に出してきたのは見事だ。
 しかし、磐石の体勢で斬りかかれば、一撃で破壊できるものらしい。
 
 そいつからは、血よりも遥かに濃厚な、液体とも固体とも言い難い何かが溢れ出ていた。
 しかし、それよりも驚いたのは、まだ意識を保っていたことだ。
 頭をZで貫かれても、なお。
 
川; - )「な……お前、は……」
 
(´・ω・`)「少しでも同じ時を過ごせば、見紛うはずがない。見縊られたものだな」
 
川; - )「分かって……いたのか……?」
 
(´・ω・`)「透明化の仕組みに察しがつけば、簡単だ」
511 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 21:58:55.76 ID:1WYtezIk0
 擬態なのだ。
 こいつの能力は。
 
 透明化は、景色との同化。
 それが為せるならば、自分たちにも成り済ますことはできる。
 すぐに察しがついたことだ。
 
 だから、クーと離れて、機を作ってやった。
 自分を狙ってきたのは、恐らく自分が別世界の人間だからだろう。
 クーならば擬態について察しがつくかもしれない、と思ったはずだ。
 
(´・ω・`)「鍵は、返してもらうぞ」
 
 Zを、振り下ろした。
 顔から、下腹部までを一気に斬り裂く。
 
 クーに擬態化した敵が、まるで泡のようになって消滅した。
 
 だが、しかし。
 
(´・ω・`)「……?」
 
 笑った。
 消滅する直前、僅かに、しかし確かに、敵は笑っていた。
 
 そして、消滅した敵から、鍵が零れ落ちてくることもなかった。
 
(´・ω・`)(……まずいな、もう一匹いるのか)
513 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:02:11.49 ID:1WYtezIk0
 自分だけを狙ったわけではなかったのだ。
 敵は、両方を狙った。
 
 だとすれば、クーが――――
 
 
(´・ω・`)「ッ……!!」
 
 
 悪い予感ほど、当たりやすい。
 大きな火柱が立ち上った瞬間、駆けだしながらそう思った。
 
 それほど遠くはない。
 Zを構えながら全力で駆けた。
 
(´・ω・`)「クー!」
 
 戦っている姿が、木々の隙間から見えた。
 クーは、全身に炎を纏っている。
 
川;゚ -゚)「本物か!?」
 
(´・ω・`)「どっちを信じるかはお前次第だ!」
 
 外套を脱いだ。
 同じ格好をしていると、入れ替わっても分からなくなってしまう。
 
 自分に擬態した敵を狙う。
 やはり素早い。反撃まで速い。
 躱され、すかさず胴体を爪で狙われる。
520 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:05:31.89 ID:1WYtezIk0
 左のZで防いだ。
 押し返して、右のZ、左のZと連続攻撃を見舞う。
 敵は回避せずに、両手の爪で受け止めてくる。
 
 炎を纏っているクーも拳を繰り出していた。
 体術もある程度、心得ているらしい。
 しかし、敵に拳は届かない。
 
 得意と言っていた風を使っていないのは、森での戦いだからか。
 ここは薄暗く、目の訓練を行なっていなければ敵を視認することは難しい。
 だが、不得意な召喚で勝てる相手でもないはずだ。
 
 森を照らしていなければ、敵の透明化能力を容易にしてしまう恐れもある。
 クーがそれに気付いているかどうかは分からないが、今の戦い方が最善であることは間違いなさそうだ。
 ただ、いつまでも戦い続けているわけにもいかない。
 
(´・ω・`)(――――暗いと、容易に……?)
 
 不意に、自分の言葉が引っかかった。
 何かの手がかりになりそうな、曖昧な予感。
 
 だが、それはすぐに自分の頭のなかで姿を明確にしはじめる。
 手順、そして結末までもが浮かんできていた。
 
(´・ω・`)(……やってみるか)
 
 ひたすら攻め続けた。
 敵は、余裕を持って防いでいる。
 だが、こいつが先ほど討ったやつと同等の存在ならば、それそろ限界が訪れるはずだ。
525 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:08:22.40 ID:1WYtezIk0
 爪は、徐々に短くなりはじめている。
 Zも、もうすぐ敵の喉元に届きそうだ。
 
 しかし、そこで敵は不意に消えた。
 
川 ゚ -゚)「また消えた……!?」
 
(´・ω・`)「クー、炎だ!! ありったけの炎を放て!!」
 
川;゚ -゚)「!?」
 
 冷静さを一瞬失い、当惑していた。
 それでも、クーは即座に炎を膨らませた。
 
 そして、周囲に火柱が立ち上る。
 
(´・ω・`)「完璧だ、よくやってくれた」
 
 自分の両手に、既にZはない。
 代わりに、弓型のW。そして、アルファベットF。
 
 右手から、鏃を放した。
 アルファベットFは、そのまま大木の幹に突き刺さった。
 
 
 正確には、敵の頭を貫いてから、木に刺さったのだ。
 
 
533 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:11:31.28 ID:1WYtezIk0
川;゚ -゚)「討ったのか!?」
 
(´・ω・`)「もういいぞ、消してくれ」
 
 周囲の炎が消え去る。
 一部、木に燃え移ったものもあったが、その炎も消えた。
 ただ、焦げ跡はついている。全てを"なかったこと"にできるわけではないらしい。
 
川 ゚ -゚)「どういうことだ、何故、敵の場所が……?」
 
(´・ω・`)「あいつらの透明化は、周囲との同化だからな」
 
 木に刺さったFを引き抜いて、矢立てに収めた。
 このクーもそれなりの頭脳は持っているらしい。さっきの一言で、全てを理解したようだ。
 
 少し動くたびに、背景との同期化を図る。
 素晴らしい能力だが、ひとつだけ弱点があった。
 
 周囲が不動の闇であれば、一瞬ごとに同化していくのも困難ではないだろう。
 木であっても岩であっても、即座に背景に溶け込めていた。
 
 しかし、不意なる炎には対処できていなかった。
 一瞬だが、闇に染まった体が確認できたのだ。
 
 本当に一瞬だった。
 すぐさま炎と同化したことに、賛辞を送るべきなのかもしれない。
 だが、自分とWには、一瞬で充分だったのだ。
539 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:15:27.09 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「やれやれ。手強い相手だった」
 
川 ゚ -゚)「あぁ、でも」
 
 クーが屈んで、拾い上げた。
 青く光り輝く、掌の上でも転がせそうなほど小さい玉だ。
 
川 ゚ -゚)「鍵を取り戻せた。ありがとう、ショボン」
 
(´・ω・`)「まぁ、ちょうど良かった。この世界での戦いに、少しでも触れられたことは」
 
 鍵が壊されていなかったということは、実力を試されたのか。
 あるいは他に目的でもあるのか。
 
 どちらでもいい。
 最終的には、アンノウンを倒すより他ないのだから。
 
川 ゚ -゚)「ちょうどいい、この森で一泊することにしよう。鍵を使うのは明日の夕方だから」
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
 他には誰もいないことを確認している。
 また敵に襲われる可能性はあるが、それはどこで休んでも一緒のことだ。
 
川 ゚ -゚)「ちょっとした食糧くらいはあるぞ。味気はないが」
 
(´・ω・`)「貰っておこう」
544 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:19:24.73 ID:1WYtezIk0
 干し肉を受け取って、齧った。
 自分の世界のものより、品質はいいようだ。
 街並みなどは見れていないが、恐らく、文明は自分の世界より進んでいるのだろう。
 
(´・ω・`)「これはなんだ?」
 
川 ゚ -゚)「チョコレートだ、食べたことないか?」
 
(´・ω・`)「初めて見たな」
 
川 ゚ -゚)「栄養価が高いんだ、チョコは。食べておくといい」
 
 掌ほどの大きさで、板状のものだった。
 硬く、噛み砕く際に小気味のいい音が鳴る。
 口の中にはほろ苦い味わいが広がっていった。
 
(´・ω・`)「……美味いな」
 
川 ゚ -゚)「苦くないか?」
 
(´・ω・`)「苦いが、美味い。持って帰りたいくらいだ」
 
川 ゚ -゚)「そうか。じゃあ、私が持ってるチョコは全部君にあげよう」
 
 先ほど貰ったものより小さいチョコを、三個受け取った。
 女でも一口で食べられそうな大きさだ。
 もっとも、板状のものは収納しておく余裕がない。
 
 三つのうちの一つを、軽く上に放り投げてから口に入れた。
 多少、甘みを感じた。
549 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:22:13.35 ID:1WYtezIk0
川 ゚ -゚)「聞いてもいいか?」
 
(´・ω・`)「なんだ?」
 
川 ゚ -゚)「そっちの世界にも、私はいるんだろう? どういう人だ?」
 
(´・ω・`)「クーか」
 
 私はいるんだろう、とは、随分と違和を感じる言葉だ。
 自分にとって、クー=ミリシアは唯一無二の存在だった。
 
(´・ω・`)「俺が抱えている間者だな」
 
川 ゚ -゚)「間者……スパイか」
 
(´・ω・`)「そっちの言葉は知らんが、敵の情報を調べたり、謀略を仕掛けたりする」
 
川 ゚ -゚)「ふむ……何となく、私と似ているかも知れない」
 
(´・ω・`)「そうか?」
 
川 ゚ -゚)「いや、まぁ、君が違うと感じるなら違うんだろうが……」
 
(´・ω・`)「クー=ミリシアは従順な手駒だ。こうやって言葉を通さねば意志を疎通できない時点で、随分と違う」
 
川 ゚ -゚)「……深く長い付き合いのようだな」
 
(´・ω・`)「そうだな」
555 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:25:45.86 ID:1WYtezIk0
 果たして何年になるのか。
 まだ幼かったクーが、仕事を与えてほしいと言って来た、あの日から。
 
 クーはずっとクーだった。
 一瞬たりとも、クーらしさを失ったことはない。
 
 だからこそ、この別世界のクーと過ごす時間は、何となく落ち着かないのだ。
 早く自分の世界に戻りたい、と余計に思うのだ。
 
川 ゚ -゚)「軽く炙って食べてみようか」
 
 そう言って、干し肉の上に、小さな炎を乗せた。
 すぐに香ばしい匂いが漂ってくる。
 
 クーの力があれば、火を熾す必要はなかった。
 消すときも土を被せる必要などない。
 同じ力を持っていたら、恐らく戦も楽になるのだろうな、などと考えていた。
 
(´・ω・`)「……クー」
 
川 ゚ -゚)「ん?」
 
(´・ω・`)「さっき、何を言いかけたんだ?」
 
川 ゚ -゚)「さっきとは、いつのことだ?」
 
(´・ω・`)「敵と戦う前さ。俺について、何か気になってたようだが」
 
川 ゚ -゚)「……思い出した、あのときのことか」
561 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:29:30.19 ID:1WYtezIk0
 二人で囲んでいる炎が、ゆらめく。
 陽が届かない森でも、寒さは感じなかった。
 
川 ゚ -゚)「芯の強さ、だな。戦い慣れてることに関しても、だが」
 
(´・ω・`)「……芯か」
 
川 ゚ -゚)「敵を狙うときにも、躊躇がなさすぎる。邪魔するものは全部捻じ伏せる、という姿勢に見える」
 
(´・ω・`)「まぁ、そのとおりだな。進路に障害物があれば、破壊していくべきだろう」
 
川 ゚ -゚)「違う世界のことを、とやかく言うつもりはないが……殺しにも慣れているようだな」
 
(´・ω・`)「討たなければ討たれる世界だ」
 
川 ゚ -゚)「やはり、過酷だな」
 
(´・ω・`)「貫きたい意志を貫く。それができれば、過酷ささえ捻じ伏せられる」
 
川 ゚ -゚)「君は、自分の世界で何を成そうとしているんだ?」
 
(´・ω・`)「天下の統一だな。分かりやすくいえば、世界征服か」
 
川 ゚ -゚)「それは、また……大事だな」
 
(´・ω・`)「しかし、成さねばならん」
 
 なるべく早く、だ。
 いつまでも待たせてはならないことなのだ。
563 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:32:57.16 ID:1WYtezIk0
 自分の世界は時が止まっている。
 それでも、逸る気持ちは抑えられない。
 一刻でも、一瞬でも、早く。自然と、そう考えてしまうのだ。
 
(´・ω・`)「お前は、どうなんだ?」
 
川 ゚ -゚)「ん?」
 
(´・ω・`)「強大な敵に挑む理由だ。世界を、守りたいからか?」
 
川 ゚ -゚)「……まぁ、大雑把にいえばそうなるかな」
 
(´・ω・`)「仔細は?」
 
 少し、気恥ずかしそうな表情に見えた。
 実際には、クールな様子を崩してはいない。
 雰囲気が変わったように感じられたのは、何故だろうか。
 
川 ゚ -゚)「……妹たちを守りたいから、かな」
 
(´・ω・`)「家族、か」
 
川 ゚ -゚)「あぁ……私たちには親が居ないから、私が妹たちを守らなければならない」

(´・ω・`)「…………」

川 ゚ -゚)「何物にも代えがたい宝だ、と思っているんだ。家族を守るためならば、私は全てを躊躇わない」
569 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:35:52.65 ID:1WYtezIk0
(´・ω・`)「…………」
 
川 ゚ -゚)「あの笑顔は、絶対に守り抜いてみせる……この世界を滅ぼさせはしない」
 
(´・ω・`)「……そうだな」
 
 家族を、守りたい。
 そう言ったクーの気持ちは、自分にもよく分かる。
 
 人によっては、希ったとしても得られるとは限らない。
 無論、恋人であれ友人であれ、それは同じかもしれないが、人によって比重は違う。
 クーの場合は、家族。そして、自分も同じだ。
 
 誰かのために。
 そんな理由で起こす行動があってもいい。
 
(´・ω・`)「クー」
 
川 ゚ -゚)「ん?」
 
(´・ω・`)「アンノウンを倒すぞ。必ずだ」
 
川 ゚ -゚)「……あぁ」
 
 木に寄りかかって、目を伏せた。
 深く眠れはしないだろう。僅かでも疲れが取れればいい。
 睡眠のなかでも、敵は警戒しなければならないのだ。
 
 クーの火は、ずっと燃え続けていた。
573 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:38:32.33 ID:1WYtezIk0
川 ゚ -゚)「……必ず……な……」
 
 
 
――翌日・夕方――
 
川 ゚ -゚)「日没だ」
 
 森の側の、小高い丘に立つ。
 遠方に見える山に、夕陽は沈みかかっていた。
 
川 ゚ -゚)「これを使ったら一気にアンノウンの城まで飛ぶが、準備はいいか?」
 
(´・ω・`)「問題ない」
 
川 ゚ -゚)「……じゃあ、行こうか」
 
 夕陽が、沈んでいく。
 クーが、何かを呟きながら鍵を夕陽に向かって掲げる。
 
 昂りはない。
 不安も、さほどない。
 ただ無心で、夕陽を見つめつづけていた。
 
 やがて――――日が沈みきる直前。
 
(´・ω・`)「!!」
 
 道が、生まれた。
 そして、体がゆっくり浮かび上がる。
577 : ◆azwd/t2EpE :2010/11/21(日) 22:41:09.41 ID:1WYtezIk0
 現れた道に、吸い込まれるようにして。
 自分の体は、進んでいく。
 
 アンノウンに、果たして勝てるのか。
 他の世界の住人たちは、どのような力を持っているのか。
 
 分からないことだらけでも、落ち着いていた。
 自分を、信じられたからこそだ。
 
 やるべきことは、ただひとつ。
 アルファベットを振るうことだけなのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                       【Single part:Alphabet⇒END】
 
                       【Next⇒Single part:???】

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