256 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:17:36.65 ID:hlZ+Djy40
 
 そして、思考する間も、与えられない。
 
爪 ゚W〉《さて……少し、強くいくぞ》
 
 動いた。
 先のように、尾だけが、ではない。
 黒獣本体が、前方へと駆けたのだ。
 
 即ち、ブーンたちに向かって。
 
(´・ω・`)「!!」
 
 本体よりも先行するのは、触手たち。
 一尾が百二十八にまで増えた触手の束が、その身を伸ばして襲い掛かる。
 ケルベロスが大きく横方向に跳躍して、それを躱す。
 
 百本近くの触手が、石床に突き刺さった。
 一つ一つは細くなったが、元々の強度はZの刃すら通さなかったのだ。
 当たれば致命的なダメージがあることは、変わらなかった。
 
(´・ω・`)「はぁッ!」
 
 大半は地に刺さっていたが、すれすれで回避した十数本の触手がショボンに迫っていた。
 ペルソナではなく、両手で握る双剣のZで斬りつける。
 二本、四本、八本と切断し、十二本目はそれに至らなかった。
 
(´・ω・`)(細くなった分耐久性は落ちたが、弾力性が生まれたか)
 
 だが、数本であればZだけでも切断できることを知った。

257 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:21:18.48 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)(この戦いの前にZに上がれて、本当に助かったな)
 
(´・ω・`)(……むしろそれを待っていたのか……まぁ、どうでもいいことだ)
 
(´・ω・`)(こんなことの為に目指したZではないが、今は全力を尽くすだけだ)
 
 ショボンの少し後ろでは、ツンを乗せたオルトロスが同じように触手を回避している。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!!』
 
 アルテミスが力を放つ。
 広範囲に放出される冷気を、躱したばかりの触手の束へ集束させた。
 触手はたちまち、凍り付く。
 
ξ;゚听)ξ(凍らせれば……大丈夫なのかな……?)
 
 ラストスノーの時は、そうすることが有効だった。
 しかし、ダイアモンドダストを免れた数本の触手が、凍結した箇所へ向かう。
 戒める氷を穿ち、何度かそれを繰り返すと、やがて全てを打ち砕いた。
 
ξ;゚听)ξ(一時的でしかない……か)
 
ξ;゚听)ξ(ロマネスクさん……あの人の力なら、もっと凍結できるかも)
 
 ツンはそこまで思考して、はっと顔を上げて、首を左右に振った。
 
ξ゚听)ξ(ううん、私は私にできることをしなくちゃ!)
 
ξ゚听)ξ(足手まといにだけは、ならないように……!)

258 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:24:45.87 ID:hlZ+Djy40
 
 ショボンが触手の束を躱した時、右方の上空では。
 
(;゚ω゚)「BLACK DOG!!」
 
 触手から逃れようと、黒狗が空を駆けていた。
 空、といっても高度は低い。
 建物の三階ほどの高さを、低空で舞っていた。
 
川 ゚ -゚)「おい、これじゃ的がでかすぎる。いずれ捕まるぞ」
 
(;^ω^)「たしかに……あの触手、小さくなって小回りがきく分、あぶねーお」
 
川 ゚ -゚)「そんなわけで私は降りる。お前はお前でなんとかしろ」
 
(;^ω^)「えぇ!? 降りるって!?」
 
 そう驚いた時、既にクーはBLACK DOGから飛び降りていた。
 彼女の身体能力ならば、その高さから飛び降りることは問題ない。
 速度もあまり出ていない。彼女にしてみれば、本当に問題ない行為だった。
 
 しかし今は、戦闘中なのだ。
 触手の束が自身を狙い、迫っている最中なのだ。
 戦いに生きる者なら、彼女の行為は隙を生むことだと気がつくのは、当然だった。
 
 そこを突かれることは、必然だ。
 BLACK DOGから身を乗り出したクーに、触手が迫る。
 一つ一つが人の体など簡単に貫く威力を持っている、触手の束が。
 
(;^ω^)「クーさんッッ!!」

259 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:27:56.92 ID:hlZ+Djy40
 
 危険な行為であることは、クー自身も気がついているはずだ。
 でも、どうして、わかっているのに。
 空で触手を躱しながら、ブーンはその間、気が気ではなかった。
 
 そして触手がクーに触れることは、なかった。
 
 隙を突かれることは、彼女は当然、承知していた。
 それでもクーは、迷わず飛び降りた。
 事実触手は、彼女に届かなかった。
 
 ブーンが危険だと当たり前に案じたように。
 クーからすれば、それも当たり前の事だったのだ。
 
 仲魔が、助けてくれることは。
 
川 ゚ -゚)「ノーマン、ありがとう」
 
 着地してすぐに、触手を断ち切ったノーマンに礼を述べた。
 仲魔ならば、必ず自分を助けてくれる。
 だから彼女は、飛んだのだ。
 
ノ)) - 从「……主よ、あまり無茶はするな」
 
 たしなめたノーマンだったが、それを苦と決して思っていない。
 彼にしても、主を守ることは当然の行為だからだ。
 
|||゚ - ゚||「ライドウ様! お怪我などはありませんか!?」
 
川 ゚ -゚)「あぁ、ありがとうな、ノーマン」

260 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:30:59.06 ID:hlZ+Djy40
 
 口をぽかんと開けたクー・フーリンを更に無視して、赤光葛葉を強く握りしめる。
 
川 ゚ -゚)「どんどんくるぞ! 構えろ!」
 
ノ)) - 从「…………」
 
|||#゚д゚||「さぁ、生意気にも我らの命を奪おうという愚かな蛇よ!!
     かかってきなさい! 数瞬ののち、その行為が無駄だと悟ることでしょう!」
 
 大袈裟な口上をのたまっているクー・フーリンをガン無視して、二人は駆けた。
 クー・フーリンも「ライドウ様ぁ〜」と情けない声を上げて、それに続くのだった。
 
( ^ω^)「…………」
 
 漫才はともかく、信頼という力を実際に見たブーンのメモリーには、似たような物があった。
 超大型セカンドと化したセントラルの王、イトーイ増井を倒した時。
 この世界のツンとスネークも、同じようにしてくれた時のことだ。
 
 こうしてほしい、と望んだ時に、一撃を放ってくれた。
 今のクーは、その時の自分と同じ。仲魔を信じて動いたのだ。
 
 異世界の力を得たショボンも、今のブーンと同じ事を学んだ。
 自分にしかできないこともあれば、自分にはできないこともある。
 彼が学んだ、補い合うことの大切さというものに、ブーンもたった今、触れたのだ。
 
 だからこそ、共に戦う仲間を信じる。信じ合う。
 今になって、互いの力を見せたあの時のやり取りが、如何に大切だったかと気がついていた。
 
 恐らくは、一期一会の仲間たち。だからこそ、信じてみるのも良いだろう。

261 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:34:02.75 ID:hlZ+Djy40
 
 そして。
 
(  ω )「……」
 
 信じた一撃を放ってくれた、この世界のツンは、もういない。
 何故消えてしまったのか。その謎は、まだ解明されていないのだ。
 
 アンノウンは曖昧なことを話していた。
 自分たちのせいだと、言っていた。
 だが、ブーンがそんなことを信じられるわけがなかった。
 
(  ω )(アンノウン……!)
 
 何度も仲間たちに押さえつけられたが、ツンの事を考えると、彼の胸にどうしようもない怒りが沸き上がってくる。
 
( #゚ω゚)「邪魔だッ!!」
 
 怒りを叩きつけるように。
 グレネードを放ち、回避し切れない触手を焼き尽くす。
 大きな煙が巻きあがり、火薬の匂いが風に流れた。
 
 それを突き破るもの。
 黒い風が、現れた。
 
( #゚ω゚)「アンノウンッッ!!」
 
 巨躯を誇る黒獣の頭に座するアンノウンは、丁度彼と同じ高さにあった。
 再び、深紅の眼とブーンの視線が絡む。
 同時に、ブーンの怒りもボルテージを振り切った。
264 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:37:05.96 ID:hlZ+Djy40
 
 焼き切れた触手は既にその規模を取り戻し、ブーンの左右から迫る。
 手が増えたとはいえ、根本は四本の尾のままだ。
 一尾が一人を追っている状況だった。
 
 そこに、黒獣が追加された。
 最も脅威である、本体が。
 
 黒獣が大口を開けて、急加速する。
 BLACK DOGごと飲み込まんと。
 
(#^ω^)「BLACK DOG!!」
 
 更に上空へ高く上がることで、それを回避した。
 すれ違いざまにグレネードを放つが、体に当たるだけでは意味をなさない。
 上空に逃げても、伸縮自在の触手は尚もブーンを追い続けていた。
 
川 ゚ -゚)「はぁッ!」
 
 一方の、クー。赤い軌跡を生み出して、退魔刀、赤光葛葉が踊る。
 細くなったことで、クーも触手を両断せしめることができている。
 
ノ)) - 从「シィッ!」
 
 クーを助ける時に触手を切断したが、彼の場合、ショボンやクーとは性質が違っていた。
 斬ることに特化していない彼の斬撃は、凄まじい勢いで触手を巻き込み、引き千切るのだ。
 
 伸縮は意思によって行われている。
 それを上回って切断させているのは、彼の圧倒的な暴力に他ならない。
 

265 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:40:04.65 ID:hlZ+Djy40
 
川 ゚ -゚)「チッ……手が増えた分、余計に厄介になったな」
 
 どれほど触手を切断しても、すぐに再生してしまう。
 厳密には長さを取り戻しているだけだが、それなら同じ事だ。
 百二十八全てを両断することも難しい。
 
 束ねれば元の尾と同じ太さだろうが、そうそうそんな機は訪れない。
 そうでなくても、あの太さを両断することは骨だ。
 
川 ゚ -゚)「本体は……ブーンが相手をしているか」
 
 矢継ぎ早に迫り来る触手を対処しつつ、戦況を把握する。
 やられることはないが、このままではいけないと、彼女は思った。
 
川 ゚ -゚)「ツンたちと合流するぞ」
 
 それだけ仲魔に言って、彼らは逆側に駆けだした。
 
 
(´・ω・`)『オーディン!!』
 
 ペルソナを降魔させた。
 力は行使しない。喚びだしただけだ。
 それだけで身体能力が向上することを、彼は学んでいた。
 
(´・ω・`)(両断できる数が、倍近くになったな……これは……)
 
 ただ単に筋力が増しただけでは、アルファベットの性能が変わることはない。
 そこまで劇的に威力が増すことは、普通では有り得なかった。

266 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:43:11.92 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)(ペルソナ、か……アルファ成分が反応しているのか……)
 
 ショボンの頭脳を以てしても、とても答えに到達はできないだろう。
 彼の世界で最もアルファベットに精通している職人、ツン=デレートですら未知の部分は多いのだ。
 数十年触れ続けているとはいえ、専門外であることは分からなかった。
 
(´・ω・`)(感情に左右されるあたり、アルファベットに通じるものがあるのかも知れないな)
 
 アルファベットのランクは肉体の強さが占める部分が多い。
 ペルソナの強弱は心の強さが占める部分が多い。
 そして、少なからずその逆も時として有り得る。
 
(´・ω・`)(どちらにせよ、俺にとっては好都合だ)
 
 ペルソナの力を使用すれば、体力や精神面に負担が蓄積されていく。
 思わぬ恩恵のおかげで、それを回避することができるのは、有り難かった。
 
(´・ω・`)(ツンは……)
 
 触手に注意を払いながら後ろを見やると、オルトロスが忙しなく動いていた。
 時折、回避しきれなかった触手をペルソナで以て防御している。
 大丈夫だ、とは言い難い状況だった。
 
 あのままではまたいずれ疲弊してしまう。
 彼がそう思った矢先。
 
ノ)) - 从「ムンッ!」
 
 ツンを遅う十数本の触手を、鉄剣に巻き込んで一気に引き千切った。
268 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:50:02.57 ID:hlZ+Djy40
 
川 ゚ -゚)「ツン、大丈夫か?」
 
ξ;゚听)ξ「う、うん」
 
 触手はノーマンとクー・フーリンに任せ、クーはツンに駆け寄った。
 よく頑張ってるな、とオルトロスを労った後に、
 
川 ゚ -゚)「おいマッチョ! ちょっとこい!」
 
 ショボンを呼んだ。
 恐らく自分のことだろうと判断したショボンは、触手を処理しつつ後退する。
 
(´・ω・`)「どうした?」
 
川 ゚ -゚)「アンノウンについて話がある」
 
川 ゚ -゚)「あの上半身、力を使ったわけだが、どう思う?」
 
(´・ω・`)「……予想が当たっているとしたら、攻撃は通じるだろうな」
 
川 ゚ -゚)「だよね。私たちもそう思ったんだが、いっちょアレを攻めてみるか?」
 
(´・ω・`)「まぁ、それはそうなんだが」
 
川 ゚ -゚)「なんかあんの?」
 
(´・ω・`)「俺はやはり、この戦いの鍵は聖剣の奪取にあると思う」
 
川 ゚ -゚)「理由は?」

269 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:53:19.62 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「アイツがあの姿になる前のことだ」
 
 Zを振るいながら、続ける。
 
(´・ω・`)「腕を、体を切断しても、平然としていた」
 
(´・ω・`)「あの体、どう考えても普通ではないだろう」
 
川 ゚ -゚)「……そうだな。まるで実体がないようだった」
 
 『これが私だ』とアンノウンが言っていたことを、クーは思い出していた。
 彼女の理屈からすると、いわゆる悪霊に近い存在だ。
 ならば私の役目ではないかと、赤光葛葉を握る手に力が入る。
 
(´・ω・`)「頭を潰せば死ぬかも知れん」
 
(´・ω・`)「しかし聖剣なら、と思う」
 
(´・ω・`)「どちらも確証はない。単に可能性の問題だ」
 
川 ゚ -゚)「私にはどっこいどっこいにしか思えんが」

(´・ω・`)「まぁ、そう言う気持ちも分かるが」
 
川 ゚ -゚)「聖剣での攻撃がアンノウンに効果がある保証はないだろう?
     人間だけは斬れる、ということも証明されていないはずだ」
 
(´・ω・`)「いや、そこは大した問題じゃない。単純に願いを叶えるということだ」
 

270 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:56:04.34 ID:hlZ+Djy40
 
川 ゚ -゚)「願いを?」
 
(´・ω・`)「そうだ。アンノウンを消滅させろと、な」
 
ξ;゚听)ξ「でも聖剣は、今願いを叶えられないんじゃないですか?」
 
 触手への対応は、ノーマンとクー・フーリンが担当している。
 ショボンとクーも時折抜けてきた触手を両断していた。
 ツンを間に挟むような位置取りでだ。
 
(´・ω・`)「力は補充してやればいい」
 
ξ;゚听)ξ「どうやって……」
 
(´・ω・`)「俺を連れてきたクーが言っていた。
       アンノウンが実体化する時に、力を失ったと」
 
(´・ω・`)「そして、聖剣の力でアンノウンの手から逃れることができたとも言っていた」
 
川 ゚ -゚)「……待て、それはおかしくないか?」
 
ξ゚听)ξ「力がからっぽなら、聖剣自身も力は使えないんじゃ……」
 
(´・ω・`)「そこだ。つまり、戦いの過程で聖剣は力を得て、それをすぐに使ったことになる」
 
(´・ω・`)「アンノウンが力を使用する隙を与えないほどに、瞬間的にだ」
 
(´・ω・`)「そう考えると……条件は限られる」
 
272 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 08:59:11.36 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「一つ聞くが、お前たちの前に現れた者の誰かが、怪我をしていなかったか?」

ξ;゚听)ξ「そういえば……ブーンが、首に怪我をしてました」
 
(´・ω・`)「どんな傷だ?」
 
ξ;゚听)ξ「刃物で切られたような、切り傷でした」
 
(´・ω・`)「そうか……ブーンにも話を聞いてみないとわからないが、恐らくそれだろうな」
 
川 ゚ -゚)「そんなんで補充できるの?」
 
(´・ω・`)「絶対、とは言い切れんところだが、頭にいれておいても損はないだろう」
 
 ショボンの予想は、概ね当たっていた。
 しかし、それを証明してくれるものはない。
 だから聖剣がその手にあれば、全て証明できるのだ。
 
(´・ω・`)「試すなら、自分の体のどこかを斬ってやればいい。ツンがいるから問題ない」
 
(´・ω・`)「……力の使い方は、わからんが」
 
ξ゚听)ξ「……私、聞いてます」
 
(´・ω・`)「本当か?」
 
ξ゚听)ξ「はい。願いを込めて、聖剣を振ればいいって……」
 
(´・ω・`)「そうか……なるほどな」

273 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:02:58.02 ID:hlZ+Djy40
 
ξ゚听)ξ「そうやって自分の世界に帰れって……言われました……」
 
(´・ω・`)「…………」
 
川 ゚ -゚)(それは……やはり、自分たちが消えることを知っていたから、か……)
 
 クーの疑問は、ツンとショボンも考えていた。
 やはり、そうなることを察していたのだと、確信した。
 何故だ、と考えても、それは解決されなかった。
 
川 ゚ -゚)「……まぁ、理屈はわかった。しかし簡単には聖剣を奪えそうにないぞ?」
 
(´・ω・`)「ああ、問題はそれだ」
 
川 ゚ -゚)「本体はブーンが引きつけてるが……ッチ、この触手も厄介だな」
 
(´・ω・`)「俺がなんとかしてみよう」
 
川 ゚ -゚)「どうするつもりだ?」
 
(´・ω・`)「触手の根本さ。生え際は束のままだろう」
 
川 ゚ -゚)「そこを一気に両断するわけか」
 
(´・ω・`)「そうだ。まぁ、どうせすぐに伸びてくるだろうが、隙は生めるはずだ」
 
川 ゚ -゚)「では、私も手伝ってやろう。
     オルトロス!」
 
275 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:06:16.31 ID:hlZ+Djy40
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ナンダ ライドウ」」
 
川 ゚ -゚)「交代だ。私を乗せてくれ」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「アオーン……」」
 
川#゚ -゚)「なんで渋々なのかは後で問い詰めてやるから今は代われ」
 
ξ゚听)ξ「……気をつけて」
 
川 ゚ -゚)「ああ、すまないな。
     ノーマン、最初に言ったとおり、ツンについていてくれ」
 
ノ)) - 从「…………」
 
川 ゚ -゚)「……お前もだ」
 
|||゚ - ゚||「承知致しました! 少女よ、安心なさい!
     敵の毛一本も通さぬ事を約束しましょう!!」
 
ξ;゚听)ξ「あ、はい」
 
川 ゚ -゚)「ウザかったら凍らせてやれ、な? 今とか」
 
ξ;゚听)ξ「あ、あはは……」
 
 冗談とは思えない、真顔で言ったクーに彼女は苦笑を返した。
 そんなやり取りの半面、ツンはクーの前で冷気の力を使ったことを自覚していない。
 彼女の発言は戦況を冷静に見ていた証拠だと、ツンに思わせたのだった。

276 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:11:45.23 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「いくぞ」
 
川 ゚ -゚)「ツン! 気をつけるんだぞ!」
 
 触手をかいくぐり、或いは切断しながら、二人と二頭が駆ける。
 ショボンはZを、クーは赤光葛葉を携えて。
 クーも触手を両断しているが、切断できる量はやはりショボンよりも劣っている。
 
(´・ω・`)「大丈夫か?」
 
川 ゚ -゚)「大丈夫だ、問題ない、とは言い難いな」
 
 二人は併走している為に、百二十八の束が、二つ迫っている。
 二人で二百五十六を相手取らなくてはならない。
 例えその全てを止めても、すぐにまた襲い掛かってくるのだ。
 
 ショボンよりも切断できる本数が少ない、クー。
 二刀だからというわけではなく、左右一本よりも、少ないのだ。
 彼がそれを案じることは、仕方のない、必然だった。
 
(´・ω・`)「ッ……」
 
 ショボンを襲う触手の波が、突如として緩やかになる。
 単純に数が減っているのだ。
 減った分は、クーの側に追加されている。
 
 彼女を案じたことが必然だったように。
 そこを突くこともまた、必然と言える。
 戦いにおいて、敵の穴を突くということは────

277 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:15:05.94 ID:hlZ+Djy40
 
川#゚ -゚)「はっはっはwwww 私を穴と判断したか?」
 
 口調と表情は真逆だ。
 クーは明らかにキレていた。
 
川 ゚ -゚)「オルトロス!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「GYAWWWW!!」」
 
 合図の直後、双頭の魔獣から二筋の炎が発せられた。
 地獄の業火は触手を飲み込み、一部を消し炭へと変える。
 デビルサマナーの真骨頂は、仲魔と共に発揮されるのだ。
 
(´・ω・`)「ほう」
 
 更にクーは、オルトロスの炎を刀に絡めた。
 炎はまるで意思があるように刃に吸い付いていく。
 地獄の業火を纏った炎の刀が、完成した。
 
川 ゚ -゚)「ペルソナ使いのお前たちを真似るとしたら────」
 
 灼熱の赤光葛葉を手に、迫る触手を見て、叫んだ。

川 ゚ -゚)『紅蓮忠義斬ッ! こんな感じか』
 
 赤光葛葉の血のように深い赤と、業火の猛々しい赤が夜の闇の中に舞う。
 美しいコントラストもさることながら、その威力も凄まじいものだ。
 刀身に触れただけで、触手たちは黒炭に変わっていた。
 

278 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:18:02.24 ID:hlZ+Djy40
 
 仲魔を使役するだけがデビルサマナーではない。
 忠義を誓った仲魔の力を最大限まで発揮、利用することこそが彼女の力である。
 
(´・ω・`)(……武器に異能の力を集束させたのか……なるほど)
 
川 ゚ -゚)「一気に抜けるぞ! いい加減触手にも飽きた!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「アオオオオオオン!!」」
 
(´・ω・`)「あぁ、行こう」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「仔僧め……調子に乗りおって」
 
 二人と二頭は進む。
 黒獣まで、人の足で後十歩といったところだ。
 クーの指示で、ケルベロスも炎を吐きながら進む。
 
 オルトロスよりも強力な炎だ。
 もはや触手では、この二人を止めることはできないだろう。
 
 そんなことはまるで問題ないといった様子で、黒獣はブーンだけを襲っていた────
 
(;^ω^)(……)
 
 機を窺う為に、更に上空へと逃れた。
 触手はそれでもついてくるだろうと、予想して。
 彼の予想は間違っていなかった。
 
 予想外だったことは、黒獣も目の前の高さにいることだ。

279 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:21:11.69 ID:hlZ+Djy40
 
(;^ω^)(こいつ……羽もねーのに普通に飛べるのかお……)
 
(;^ω^)(あのドラゴンといい……ファンタジーってのは悉く物理法則無視しやがる!)
 
爪 ゚W〉《どこに逃れようと同じ事だ。全てが無と悟れ》
 
(;^ω^)(……ええい、うざったいお!)
 
 敵の手数が多く、こうも小さくては空中戦は不利だ。
 そう判断したブーンはBLACK DOGに命じ、下降する。
 広範囲を巻き込むグレネードを連発して、その隙にBLACK DOGから飛び降りた。
 
(;^ω^)(BLACK DOGは……今は下げておくべきだお)
 
 本体も尾も、変わらずに着地したブーンを襲っている。
 万が一BLACK DOGを破壊された場合、彼の戦力は大幅にダウンしてしまう。
 それだけは、避けなくてはいけない。
 
( ^ω^)「BLACK DOG! 行け!」
 
 一声で、主人の指令を理解する。
 発声はただの合図。情報を送信する合図なのだ。
 周囲十数メートル以上に退避するよう、指令を飛ばした。
 
(;^ω^)「さーて……」
 
 左腕はアーマーシステムで造り出したグレネードランチャー。
 右手にはBBBladeを握りしめ、彼を追い着地した黒獣と対峙する。
 彼の狙いは、攻撃が有効と思われる上半身だ。

280 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:24:41.42 ID:hlZ+Djy40
(;^ω^)(…………)
 
 黒獣の頭にあるとはいえ、しっかりと視覚できている。
 彼の機械の瞳に映し出されている姿に、照合できるデータは皆無。
 網膜に並ぶ文字は揃って、Unknown、Unknown、Unknown────
 
 標的までの距離は、具体的に表示されている。
 直線距離で、13.54メートルと。
 
 間違いない。自分の体はどこにも異常がない。
 それでも、遠く感じられたのだ。示されるデータ以上に。
 
 人ですらない。生物であるかすらわからないことが、更に拍車をかける。
 届く距離にあるのに、彼には果てしなく遠く感じられていた。
 
爪 ゚W〉《────……》
 
(;^ω^)「ッ!!」
 
 アンノウンがブーンに向けた手、五指から雷撃が走る。電撃はブーンにとって味方であり、天敵だ。
 
 故に絶縁効果を持つ人口皮膚と装甲を装備されているが、
 しかし魔の電撃をあちらの世界の技術で防げるかどうか、否応無く懸念してしまう。
 是が非でも避けなければ。用途を外れた電撃は、システムに多大な影響を及ぼしてしまう。
 
 側方に跳躍し、それを回避した。
 見れば見るほどツン=ヴィラートが使用していた雷撃によく似ている。
 それだけで彼の心に苛立ちが積もっていくのだが、それと同じように。
 
(;^ω^)「あああもう! しつこいんだお!!」
284 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:43:13.15 ID:hlZ+Djy40
 
 一つ避ければ、数十の触手が迫ってくる。
 グレネードで大量に破壊しても、BBBladeで切断しても。
 触手、或いは本体が追撃をしかけてくる。
 
 BlueLazerCannonならば一網打尽にできるかもしれない。
 しかし、エネルギーを充填する隙がない。
 苛立ちは募るばかりだった。
 
 直情的な性格は短時間で修正できるものではなく、ブーンは何度も怒りをなだめられた。
 そして今回、それをするのも、やはり。
 
(;^ω^)「ッ……!」
 
(´・ω・`)「大丈夫か?」
 
川 ゚ -゚)「ったく、触手触手って変態かこいつは」
 
(;^ω^)「クーさん……ショボンさん……」
 
 二人が握る武器は、BBBladeよりも多くの触手を切断させている。
 近接武器においては、ブーンも一歩譲らねばならないようだ。
 
(´・ω・`)「ブーン、あの尾は俺に任せろ。お前はアンノウンを討て」
 
( ^ω^)「お……」
 
川 ゚ -゚)「私がフォローしてやろう」
 
( ^ω^)「…………」
287 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:46:19.59 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「“雷撃”が合図だ。それと同時に動いてくれ」
 
川 ゚ -゚)「おk」
 
( ^ω^)「了解!」
 
 三人が互いの背を向けるように立つ。
 ショボンとクーは魔獣に騎乗したままだ。
 その三人に向け、細かく分かれた三百八十六の尾が一斉に襲い掛かった。
 
 夜空を異質の黒が染める。黒の雲と成ったその全てが漆黒の触手だ。
 触手はばらけ展開し、三人を包み隠すように迫っていた。
 
(´・ω・`)「好都合だ」
 
 ぽつり、呟き、
 
(´・ω・`)『雷の洗礼』
 
 ペルソナ、オーディンが掲げる神槍グングニルの切っ先から、雷が迸る。
 広範囲に飛散した雷撃は、漆黒の雲を貫き、焼き尽くした。
 
 合図、だったが、
 
(´・ω・`)「ッ!」
 
爪 ゚W〉《────》
 
 アンノウンが先に、動いた。

288 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:49:33.42 ID:hlZ+Djy40
 
 アンノウンは両腕を前方に差し出している。
 同時に出現したのは、魔方陣だ。
 先ほどよりは小さく、青白い光が浮かび上がっている。
 
(´・ω・`)「ロマネスクの力か!」
 
 全員が一度見た力だ。当然次にくるものも、分かっていた。
 あの凄まじい雪崩がくるとしたら、直進するわけにはいかない。
 
 出鼻を、挫かれた。
 ショボンがそう思い、踏みとどまった時。
 
川 ゚ -゚)「おいマッチョ! ケルベロスから降りろ!」
 
 いつの間にかオルトロスから降りていたクーが、叫んだ。
 何故だ、とは問いかけずに、ショボンは勢いよく飛び降りた。
 
川 ゚ -゚)「ケルベロス! オルトロス! お前らの力、見せてやれ!」
 
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「久々だな、これも。仔僧、足を引っ張るなよ」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「任セロ! アンチャン!!」」
 
 二頭は雄々しく揃い立ち、アンノウンへ向け最大量の炎を吐きだした。
 それと同時に、アンノウンの力も完成する。
 青白い光が一層強まり、魔界の雪が地を揺らして召還された。
 
(´・ω・`)「ッ……!」
291 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:53:14.21 ID:hlZ+Djy40
 
 魔獣の炎と言えど、対する雪崩の規模と勢いを比べると些か心許ない。
 自分が、とショボンが身構えた時に、
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「征くぞ! 仔僧!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「アオオオオオオオン!!!」」
 
 二頭の魔獣は、炎を噴出しながら前進した。
 思い切り、全力でだ。当然二頭は、自身の炎に突っ込んだ形になる。
 
川 ゚ -゚)「ショボン! あいつらに続くぞ!」
 
(´・ω・`)「……!」
 
 ショボンの心には少しの迷いが生まれていた。
 しかし、クーは全く意に介さず走り出している。
 彼女の姿を見て迷いは払拭され、すぐに追従する。
 
(´・ω・`)「!!」
 
 地獄の業火に身を包んだ二頭の魔獣は、そのまま雪崩にぶつかった。
 凄絶に燃え上がる炎の毛並みに触れた雪が、一瞬で蒸発していく。
 ショボンには二匹の魔獣が、三頭一体の赤い異獣のように見えた。
 
川 ゚ -゚)「“ピュリプレゲトン” あいつら兄弟の……アレだ。要するに必殺技だ」
 
(´・ω・`)「なるほどな」
 
 彼らの後ろを進めば、雪崩に呑まれることはないだろう。
293 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:56:35.14 ID:hlZ+Djy40
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「ガァッ!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「アオオオオオオン!!」」
 
 炎の塊と化した二匹は、難なく雪崩を打ち破った。
 そのまま術者のアンノウンへと────
 
(´・ω・`)「ッ!! 下がれッ!!」
 
 アンノウンの真下には黒獣の頭がある。
 それが、口を開けた。
 二頭を呑み込まんばかりに大きく。
 
 そして、ショボンとクーも見た。
 喉の奥に、聖剣があることを。
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「チッ……仔僧」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「了解! アンチャン!」」
 
 黒獣の口、寸前で炎の塊が二つに割れた。
 直後、その口が閉じ、歯と歯が合わさって甲高い音を立てる。
 
(´・ω・`)「クー! 任せた!」
 
川 ゚ -゚)「おう!」
 
(´・ω・`)『オーディン!!』
 

294 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 09:59:50.02 ID:hlZ+Djy40
 
 ペルソナを降魔させ、ショボンは黒獣の裏側へと駆ける。
 その時には消し炭となった触手が、またその身を伸ばしていた。
 狙いは当然、ショボンだ。
 
(´・ω・`)『遅い!』
 
 神槍一閃、デスバウンド。グングニルから赤い斬撃が飛んだ。
 右側の二本が切断され、地に落ちる。
 
 まだ尾は、二本────
 
(´・ω・`)『止まっていろ』
 
爪 ゚W〉《ッ!?》
 
 黒獣の足下に、黒い闇が広がった。
 アンノウンが生み出した闇に似ている。
 闇から粘り着くように黒い波が伸び、黒獣の動きを止める。
 
 全てを深い闇に吸い込むオーディンの力、『闇の審判』だ。
 黒獣の足が泥にはまったように、ずぶりと沈んでいく。
 が、何故か闇の波は体に触れることはしなかった。
 
(´・ω・`)(体にはやはり聖剣の力があるのか……だが、足には届いていないようだな)
 
 動きを止めただけでも、上々だ。
 すぐさまショボンは、残りの尾に向けて力を放つ。
 
(´・ω・`)『デスバウンド!!』

295 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:03:26.68 ID:hlZ+Djy40
 
 完全に黒獣の後方に回り、赤い斬撃を放つ。
 接近していなくとも、デスバウンドの一閃は対象に届くのだ。
 赤い衝撃波は、そのまま残りの尾を両断せしめることに成功した。
 
 デスバウンドを使ったことで、闇の審判は解除されていた。
 だが、目的は達成されたのだ。
 尾が再生する前に、アンノウン本体を打ち倒せばいい。
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「乗れ!」
 
(´・ω・`)「すまない」
 
 ショボンが大きく側方から回り込んできたケルベロスに騎乗する。
 同時に、また闇の審判を使用し、黒獣の足を縛った。
 突如として尾が再生してくるかもしれないと考え、彼はひとまず、そこに留まった。
 
 二回目の闇の審判が発動する前に、クーは動いていた。

川 ゚ -゚)「オルトロス!」
 
 主の一声で全てを理解し、炎を吐く。再び完成した、紅蓮忠義斬。
 刀身に炎を纏わせた赤光葛葉を握りしめ、デビルサマナーが駆けだした。
 
爪 ゚W〉《チィッ!》
 
 アンノウンが両手から交互に、光のレーザーを撃ち出す。
 光魔法のレイだ。シースルーがしていたように、連射で以て迎え撃つ。
 クーは器用に小さく動き、それを躱していた。
 
297 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:06:32.34 ID:hlZ+Djy40
 
川 ゚ -゚)「どうした!? こんなものでは私は倒せんぞ!」
 
 高らかにアンノウンを挑発する。
 側方ではオルトロスが炎を吐き、援護している。
 彼女の狙いは、アンノウンの意識を自身へと向けることだ。
 
川 ゚ -゚)「ほれほれ、そんなんじゃ当たらんぞ?
     昔の赤い人が言っていた。当たらなければ……
     どうということはないとな!!」
 
 ドヤ顔でちょろちょろ動き、華麗に躱し続けている。
 一撃食らえば致命傷を生む光の雨の中をだ。
 それを成す彼女の身体能力も、流石と言えよう。
 
川 ゚ -゚)「イソギンチャクがなければそんなものか!?
     触手プレイが趣味なようだが、そんなもんは二次元でしていろ!!」
 
 ノリノリである。もはや彼女は絶好調だ。
 
爪 ゚W〉《ッ……!》
 
 苛立ったアンノウンが、大きく手を広げた。
 同時に出現したのは、あの巨大な魔方陣だ。
 
川 ゚ -゚)「あー、それは正直やべえからやめろ」
 
 彼女のそんな言葉は当然無視だ。
 本気なのか余裕なのか、普通ならば判断のつかない台詞だったが────
 どうやら今回は、余裕の方だったようだ。

298 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:09:53.53 ID:hlZ+Djy40
 
爪 ゚W〉《!!》
 
 上空。
 
 空を駆ける、黒狗。
 
 それを駆るは、BOON-D1、ブーンだ。
 
(#^ω^)「喰らえッッッ!!!」
 
 BlueLazerCannon────
 出力は、50%と表示されていた。
 
川 ゚ -゚)「こっちを……向いていろ!!」
 
 アンノウンが上方を見た後に、クーが跳躍する。
 黒獣の鼻に、赤光葛葉を振り下ろした。
 
川 ゚ -゚)(やはり手応えはないか……だが)
 
 BlueLazerCannon、発射。
 蒼い閃光が三つの砲門から迸る。
 直下のアンノウンへ、空間を縮めたような速度で、一気に。
 
爪 ゚W〉《むううううッ!!》
 
 クーに向けていた魔方陣を、すぐに上方へと移動させた、が。
 充分な魔力は蓄積されていない。先程の威力は、望めない。
 それでも構わずに、アンノウンは上方へVa-lthを放った。
302 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:14:00.96 ID:hlZ+Djy40
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ライドウ!」」
 
川 ゚ -゚)「おう、ありがとうな」
 
 黒獣の鼻を斬りつけたと同時に、側方から跳んだオルトロスが現れた。
 そのまま空中で、魔獣は主をさらい、退避する。
 
 そして、蒼と白のレーザーが、衝突した。
 
(#^ω^)「────!」
 
爪 ゚W〉《ぬうう!!》
 
 近代兵器最強の光と、魔法世界最強の光がぶつかり合う。
 蒼と白の衝撃が波となり、リング状に、断続的に周囲へと広がっていく。
 互いに100%での放出でないとは言え、凄まじいエネルギーのぶつかり合いだ。
 
 アンノウンのVa-lth、後の先とは言い難い。
 ぎりぎりで射出が間に合ったといった様相だ。
 
 かく言うブーンも、不意を突くタイミングを図る以上、全力まで充填する時間はなかった。
 今更100%射出で生じる負担などは考えていなかったが、仕方がなかった。
 
 不完全な力同士の押し合いは、奇しくも互角。
 そこに投じられた、一矢。
 
ξ#゚听)ξ『クレセントミラ────!!』
 
 ペルソナ、アルテミスの一撃。
304 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:17:21.48 ID:hlZ+Djy40

 触手はショボンが目を光らせている。
 もはや彼らの足を止めるものはいないのだ。
 解放されたツンは、迷わずその一撃を放っていた。
 
(#^ω^)(……ほんとにツンってやつは……どいつもこいつも僕を助けてくれるお!!)
 
爪 ゚W〉《ッ────!!》
 
 迫る、黄金の矢。
 数秒でそれはアンノウンへと到達するだろう。
 
 その、短い時の中で。
 一人だけ、ひどくゆっくりと時間が経過している錯覚に陥っていた者がいた。
 
(´・ω・`)「…………?」
 
 違和感。
 
(´・ω・`)(なんだ……なんだ、これは……)
 
 尾が生えていた箇所に、変化はない。
 そことは、別のもの。
 
(´・ω・`)(なぜ……消えないんだ……?)
 
 地に横たわる、切断された尾、触手。
 黒獣から切り離された今までの尾は、触手は。
 黒の粒子を撒き散らして、消えていたはず────
 

305 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:20:25.60 ID:hlZ+Djy40
 
 突如、その全てが、動き出した。
 
ξ;゚听)ξ「ッ────!?」
 
 クレセントミラーは、起き上がった尾に軌道を阻まれ、その尾に対して力を発動してしまっていた。
 光の球体に閉じ込めたのは、そのまま上に起き上がった一本の尾だけだ。
 
(´・ω・`)「今まで消えていたのは惑わしか……!?」
 
川 ゚ -゚)「オルトロス! 焼き尽くせ!」
 
 咄嗟に動き出した尾に対応する。
 しかし、今までただ突進を繰り返していただけの尾が、突如として変則的な動きを見せた。
 
 一本はツンの力で消え去った。
 だが、残る三本────三百八十四の触手が、一斉にツンへ向かった。
 
(´・ω・`)「くっ……!」
 
 このまま闇の審判を解除すれば、ブーンのBlueLazerCannonが無駄になる。
 だが、今はツンが窮地に陥っている。
 
(´・ω・`)(あの仲魔たちに期待するしかないか……)
 
 ツンのそばには、まだノーマンとクー・フーリンがいる。
 彼らに託す。そうすることしか、ショボンにはできなかった。
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
308 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:23:24.84 ID:hlZ+Djy40
 
 空を覆い隠すような闇の波が、ツンに迫る。
 全てが触手だ。一つ一つの威力は、嫌と言うほど理解していた。
 それでも、彼女が怯むことはない。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!』
 
 一度触手を凍結させた力を、再度放った。
 広範囲に渡り、絶対零度の嵐が吹き荒ぶ。
 
ξ;゚听)ξ「なっ……!」
 
 触手が見せた、今までと違う動き。
 凍結はした。だが、一部だけ。十数本だけだ。
 力を放たれようが切断されようが、ただ突進を繰り返していた触手が、ここにきて回避行動を取ったのだ。
 
ノ)) - 从「……気をつけろ」
 
|||゚ - ゚||「まるで意思を持ったような……たかが触手の分際で!!」
 
 その変化に、ノーマンとクー・フーリンも手を焼いていた。
 攻撃が当たれば、結果は同じだ。ただ切断されるだけだ。
 その切れ端も、今まで通り黒の粒子となり、消え去っていた。
 
 だが、動きが違う。
 単純に回避行動を取るというだけで、攻め倦ねていた。
 一つ一つが独自に動くことはもちろん、数が多いことも起因している。
 
 このままでは、やがて────
 
310 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:26:25.72 ID:hlZ+Djy40
 
 力と力を押し合うブーンにも、限界が近づいていた。
 
(;゚ω゚)「エネルギーが……!」
 
 今回のBlueLazerCannon発射に要したエネルギーが、底をつきかけていた。
 延々と放出できるわけではないのだ。
 第二波を放つには、再びBLACK DOGの武器庫に収めてエネルギーを補給するしかない。
 
 しかしアンノウンは、底無しの魔力を持ち得ている。
 長時間の押し合いは、明らかにブーンの分が悪かった。
 
(´・ω・`)「……」
 
 ツンの力を遮った尾は、完全に消滅した。
 すぐに新たな尾が伸びていたが、オーディンの闇に絡み取られている。
 ショボンは、自分がここから動いてはいけないことを理解していた。
 
(´・ω・`)(……まずいな)
 
 アンノウンによって、窮境に誘導されたのだ。
 彼にはそうとしか考えられなかった。
 
(´・ω・`)(完全に裏をかかれた……尾を残すも消すも、意思一つということか……!)
 
(´・ω・`)(ブーンは……頑張ってくれているが、かなり厳しくなってきているな……)
 
(´・ω・`)(俺は動けない……だが、一つだけ……)
 
爪 ゚W〉《ッ!》
314 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:29:21.63 ID:hlZ+Djy40
 
 アンノウンに向けて、弾丸が飛んだ。
 黒獣が頭を揺らし、額でそれを受け止める。
 一瞬、着弾点に氷が広がり、すぐに溶け消えた。
 
川 ゚ -゚)「ちっ」
 
 コルトライニングを掲げたクーが、舌打ちをする。
 
川 ゚ -゚)「あの頭、邪魔すぎるな」
 
 言いながら、連射。
 装填されている弾丸は、全てが氷結弾だ。
 その悉くが、防がれる。
 
(# ω )「だ────……」
 
 そして、ブーンに訪れた。
 
(;^ω^)「だめだ……!」
 
 限界点。
 
 BlueLazerCannonが途切れる前に、離脱。
 BLACK DOGはバーニアンを最大噴射して、Va-lthから逃れた。
 
(;^ω^)「くそっ……せっかくのチャンスなのに……!」
 
 後一歩、届かなかった。
 一つ上を行っても、更に別の手で上回られてしまう。
316 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:32:39.53 ID:hlZ+Djy40
 
 それこそが、アンノウンの狙いだ。
 一つ一つの希望を、絶望に塗り替えることが、喜びなのだ。
 
爪 ゚W〉《上手く逃れたな……だが!》
 
 再び腕を振るい上げる。
 
川 ゚ -゚)「ちっ!」
 
 弾丸も、届かない。
 打ち上げではどうしても頭に遮られてしまう。
 的確に狙い撃てるのはやはり、上空からでしか不可能だろう。
 
 アンノウンの次の手を必死で止めようとするクーであったが、彼は意に介さず。
 振り上げた手が取った行動は、ブーンへの追撃ではなかった。
 
爪 ゚W〉《チョロチョロと目障りだ……そろそろ出てきたらどうだ?》
 
(´・ω・`)(……なんだ? 何を言っている……?)
 
 破壊者の手から、光撃、レイが放たれた。
 一直線に伸びる光は、分離した触手を貫き、その先にいる標的を的確に狙い撃つ。
 ペルソナ使い、ツンに向かって。
 
ξ;゚听)ξ「ッ────!」
 
 触手の影から、唐突に現れた光に反応することが、できなかった。
 
川;゚ -゚)「ツンッ!」

317 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:35:43.75 ID:hlZ+Djy40
 
ξ; )ξ「は……うぁ……っ……」
 
 体を、胸の下辺りを何かが通過した。
 そう彼女が思った直後に、噴出する赤色。
 暖かい、鮮血。
 
ξ;゚ )ξ「……ペ……ペルソ……」
 
 再び襲う光線が、今度は右膝を穿つ。
 支えを失い、地に倒れた。
 うつぶせになった彼女の腹部、膝が触れている床が、赤く染まっていく。
 
 あまりの激痛にペルソナを呼ぶことも出来ず、彼女は意識を失った。
 
川;゚ -゚)「ツン! おい! 返事しろ!!」
 
 返事は、彼女の耳に届かない。
 
川;゚ -゚)「オルトロス!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「アオオオオオン!!」」
 

318 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:38:54.51 ID:hlZ+Djy40
 
 急ぎクーが、跨ぐ魔獣に命令しツンの元へと駆けようとした。
 しかし、触手が進路をふさぐようにして、彼女の邪魔をする。
 
川#゚ -゚)「ち……どけッ!」
 
 彼女の頭に浮かんでいたのは、自分を助けるため重傷を負った、この世界のショボンの姿。
 彼を思い出したことがクーを更に焦らせ、冷静さを奪っていった────



──インビジブル城・地下──
 
 
(*゚ー゚)『今のアンタとなら、うまいことやっていけたと思うんだけど。惜しいなぁ』
 
( ФωФ)「…………」
 
 光の雨の中、ロマネスクはシースルーの話に耳を傾けていた。
 
( ФωФ)(……うまいこと……か……)
 
320 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:42:01.98 ID:hlZ+Djy40
 
 彼女の言葉に、ロマネスクは今の自分と重なるような感覚を抱いた。
 記憶を取り戻し、好敵手とも言えたシースルーはこの世から去り。
 かつて自分に従っていた魔族達も、大半が死に、或いは己の道を歩んでいた。
 
 それを知った時の虚無感は、途方もない風が心を吹き抜けたような。
 ロマネスクにそんな錯覚を覚えさせるほどのものだった。
 
( ФωФ)(……それに似たようなものか)
 
(*゚ー゚)『それがね────』
 
( ФωФ)「……?」
 
(*゚ー゚)『悔いと言えば、そうなるのかな』
 
( ФωФ)「…………」
 
(*゚ー゚)『旅も、アンタとの闘いも楽しかったけど、やっぱり死んじゃったからね〜』
 
(;ФωФ)「死んだわりにはさっきからノリが軽すぎるぞ……」
 
(*;ー;)『ううっ! あたし死んじゃった! 死んじゃったよ〜!!』
 
(;ФωФ)「やめろ! 気色悪い!」
 
(*゚ー゚)『ね、キャラじゃないし、メソメソするのは嫌いなのよ』
 
(;ФωФ)「傍若無人を体現したような奴だ……」
 

321 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:44:48.69 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『それよかさ、見てみなよ、あれ』
 
 言われずとも、ロマネスクは光線を避けるために前方を見ていた。
 実体のシースルーの、表情もだ。
 
(* ー )
 
 実に楽しそうに、力を放っている。
 自我が離れていても、彼女はやはり、シースルーであるのだ。
 自身の体のことは、彼女が一番分かっているのだろう。
 
( ФωФ)「まったく。魂が別離しているというのに、お前はお前のままなのだな」
 
(*゚ー゚)『そ♪ 私はどーなっても私を失わない。自分が大好きだからね』
 
( ФωФ)「ふん……」
 
 でも、と言い。
 
(*゚ー゚)『それでも、私はもう死んでる。この大事な戦いに、加わることができない』
 
( ФωФ)「……?」
 
(*゚ー゚)『これがさ、結構悔しいんだwww
     ……って! 危ないよ!』
 
( ФωФ)「わかっておるわ!」
 
324 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:47:10.57 ID:hlZ+Djy40
 
(# ФωФ)「はぁッ!」
 
 数十度目かのレイを躱し、ロマネスクは攻撃に転じる。
 シースルー周辺の空気を凍結させ、彼女をその中に閉じ込めようと力を放った。
 それに動じず、尚もレイを打ち続けている。
 
 空気中の水分が凍り付き、シースルーに纏わり付こうと迫る。
 が、光の翼が覆う魔力のコーティングに触れるだけで、氷は蒸発してしまう。
 それでもロマネスクは、力を送り続けた。
 
 執拗に迫る氷が、実体シースルーの視界を塞ぐ。
 それを鬱陶しく思ったか、レイの連続射出を停止した。
 代わりに、右腕を振り上げて、そのまま袈裟に振り下ろす。
 
( ФωФ)「む……!」
 
 それだけで、周辺に浮かんでいた氷の全てが、吹き飛んだ。
 その手に握られていたのは、魔力を圧縮させて生み出された光の剣。
 ツン=ヴィラートの雷の剣と原理は同じだが、威力は段違いである。
 
 そして、疾駆。
 再び光の羽を舞い上げて、笑みを浮かべた女が滑走する。
 剣を突き出し、超速度で突進してきた彼女を、ロマネスクは正面から迎え撃った。
 
 ロマネスクの手には、同じ様にして創られた巨大な氷の斧があった。
 
 刀身を重ね、軌道を逸らし、受け流す。
 その一撃で彼の氷斧は、粉々に砕け散ってしまった。
 

325 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:50:43.11 ID:hlZ+Djy40
 
( ФωФ)「もう少し……か」
 
 言い、ロマネスクは右腕を振る。
 その直後、既に新しい斧が生まれていた。
 
 シースルーは彼の後方で砂塵を巻き上げながら停止。
 そのまま再び、地を蹴った。
 
 今度は上段から打ち下ろす一撃だ。
 といっても、ロマネスクとは相当の身長差がある。
 そのまま振り下ろされれば、脳天ではなく顔面を割られるだろう。
 
(# ФωФ)「これなら────どうだ!?」
 
 光と氷が、交錯する。
 今度は破壊されずに、拮抗していた。
 互いに十字を挟んで、睨み合う形になった。
 
(# ФωФ)「シースルー! 体に戻ったりはできんのか!?」
 
 そのままの状態で、叫ぶように問いかける。
 刃部分を交差している状態で、彼は氷斧に魔力を送り続けていた。
 そうしなくては、また破壊されてしまうからだ。
 
(*゚ー゚)『無理だね〜。もうそれは完全にアンノウンの操り人形。
     っていうかもう私は死んでんのよ? どうせ戻ったって、状況は変わらないわよ』
 
(# ФωФ)「ええい! 使えん奴め!」
 
327 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:53:48.95 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『…………』
 
(# ФωФ)「……?」
 
 すぐにまた何かを言い返すだろうと、ロマネスクは思っていた。
 返ったのは、無────……沈黙、だった。
 彼の耳に聞こえるのは、刃と刃を交え、そこに生じる魔力が爆ぜる音だけだ。
 
 少しの間、その状態が続いた、後に。
 
(*゚ー゚)『ロマネスク』
 
(# ФωФ)「ッ……なんだ……?」
 
(*゚ー゚)『さーっさとそれ、倒しなさいよ』
 
(# ФωФ)「ッ────!!」
 
 すぐに、地を蹴った。
 前ではなく、後方へ飛ぶために。
 斧は既に、破壊されていた。
 
 ロマネスクの心に僅かな動揺が走り、斧が砕かれたのだ。
 一瞬のことだったが、破壊されることを察知して、その前に退避した。
 実体シースルーはすぐに追撃をかけたが、新たに創った斧でまた、受け止める。
 
( ФωФ)「……できるものなら、既にそうしている」
 

328 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 10:56:53.69 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『嘘、だね』
 
 ロマネスクの言葉を、さも当然のように真っ向から否定した。
 
(*゚ー゚)『アンタは心の何処かで、憂えてる。怯えてる』
 
( ФωФ)「……何を言っている……」
 
(*゚ー゚)『再び現れてくれた私という好敵手を失う。そのことを、恐れてる』
 
(# ФωФ)「自意識過剰……だ……!」
 
 斧を握る力と、送る魔力の量が、増した。
 
(*゚ー゚)『ロマネスク……今アンタは、選ばれつつある』
 
(*゚ー゚)『アンノウンを倒す者の一人として、この場を切り抜けないといけない』
 
(# ФωФ)「シースルー……お前、何を知っている?」
 
 自分と同じタイミングで王の間に着いたなら、
 アンノウンについて持ち得る知識は同等のはずだ。
 だが、シースルーはどう見ても自分以上の知識を持っている。
 
 それが、彼が抱いた違和感だった。
 
(*゚ー゚)『そうねぇ…………聖剣って、あったでしょ?』
 
330 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:00:07.24 ID:hlZ+Djy40
 
 ロマネスクの脳裏に、全ての力を無効化した大剣の姿が浮かんだ。
 
( ФωФ)「あれが、どうした?」
 
(*゚ー゚)『私はアンタの禁呪を受けて死んだあと、こうして精霊になったの』
 
(*゚ー゚)『どうやってなったか? 知らねぇwwwwww』
 
 と、茶化したシースルーだったが、それには当然理由がある。
 
 千年前の戦いでシースルーが受けたエターナル・フォース・ブリザード。
 光魔法を以てしても防ぐことが不可能と悟り、彼女は別の手を打っていた。
 それが、魂の別離、精霊化だったというわけだ。
 
 実体シースルーが、光の剣を引いた。
 すぐに、下から掬い上げるような一撃がロマネスクの左脇に迫る。
 氷の斧の頭を下に向け、それを止めた。
 
(*゚ー゚)『で、美の女神と化した私は、人の思念を読み取る力を得たわけよ』
 
(;ФωФ)(精霊じゃなかったか?)
 
(*゚ー゚)『ただ、それだけ。それを知って現世に何かをするってことは、できないのよ。
     こうやって意思を伝えることはできるんだけどね〜』
 
(*゚ー゚)『例えば悪い奴を見つけても、それをブチのめすってことはできないわけ』
 
 ぺらぺらと喋り続ける彼女の前では、激しい力比べが行われている。
 実にシュールな光景だが、ロマネスクは既にかなり慣れてきていた。

331 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:03:57.39 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『そんなわけでアンノウンって奴の思念を、チョチョイっと、ね♪』
 
( ФωФ)「なるほど……なッ!」
 
 強く、シースルーの剣を弾いた。
 光の魔力を圧縮した剣は、硬質化しておりはっきりとした質量がある。
 力で勝るロマネスクはそれを弾き、斧を小さく動かし首を目がけて振り上げる。
 
(* − )
 
 それを、受け止めた。
 ロマネスクは、振り抜けない。
 力押しすれば斧が破壊されてしまうからだ。
 
 呼吸を読み、魔力の波長を合わせねば、攻めに転ずることが難しい状況だった。
 
(*゚ー゚)『アレがどんなのかってのは、大体察しがついてるわよね?
     よーするに悪霊みたいなやつなんだわ』
 
( ФωФ)「……それが何故実体化したのだ?」
 
(*゚ー゚)『そーこ! そこで聖剣がでてくるのよ』
 
( ФωФ)「ふむ……」
 
(*゚ー゚)『聖剣は願いを叶える力を持ってる。どんな願いでもよ』
 
( ФωФ)「それはまた……大袈裟なものだな」
 
333 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:07:15.74 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『例えば────無敵の力をくれだとか、永遠の命、とかもね』
 
( ФωФ)「ッ────!!」
 
 予感が、過ぎった。
 それは本当に、例えなのかと。
 斧を支える魔力は、途切れさせずに。
 
 シースルーは表情こそ崩さなかったが、どこか真剣味が増していた。
 
(*゚ー゚)『実体がなかったアンノウンは、聖剣に触れて肉体を手に入れた。
     それがアイツが叶えた、最初の願いよ。
     まぁそれで大半の力を使用しちゃったみたいなんだけどねwww』
 
( ФωФ)(……誤魔化した……のか?)
 
 そう考えて、すぐに却下した。
 シースルーはそこまで器用な性格ではないと、断じたのだ。
 それでも、シースルーが言った例えは、彼の頭から離れなかった。
 
(*゚ー゚)『で、アンノウンも聖剣の力が使えないままじゃ困るわけだ。
     滅ぼすつもりなのはこの世界だけじゃないからね。
     異世界のあの子達の世界も、滅ぼそうとしてる……のは、聞いたでしょ?』
 
( ФωФ)「ああ、聞いている」
 
(*゚ー゚)『だから、力をチャージしないといけないわけなのよ』
 
336 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:11:07.42 ID:hlZ+Djy40
 
 その理由こそが、ショボン=ルージアルが辿り着けなかった答え。
 主人公格という存在を、聖剣で斬りつけること。
 それが、聖剣へ力を送ることになるのだ。
 
 主人公格とは。
 主人公格へと昇華する為に、ロマネスクは試されている。
 そのことを、シースルーは語った。
 
( ФωФ)「……そういうことか」
 
(*゚ー゚)『そーゆーこと』
 
(*゚ー゚)『主人公格として、せか……聖剣、がね。認めないと、力にはならない。
     強いだけじゃだめなんだよ。そんだけなら、私の体ぶった切ればいいことだし』
 
( ФωФ)「異世界の戦士達が危険だな……一刻も早く伝えねば」
 
 ロマネスクはまだ、ブーン達が聖剣では何も斬れないと勘違いしていると思っていた。
 丁度その頃、ショボンがそれは間違いであると指摘していた時だった。
 
(*゚ー゚)『あ、それは大丈夫。一人鋭い子……子じゃねーかなあれはwwwww
     鋭いオッサンがいたから、多分気が付いてるよ。っていうか気付いたみたい』
 
( ФωФ)「なるほど。ショボン=ルージアルと言ったか……あの男あたりだな?」
 
(*゚ー゚)『正解! 魔王、物覚え良いな』
 
( ФωФ)「一応は、力を認めているからな」
 
339 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:14:49.03 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『そういうわけで、ほら。とっととやっちまえwwww』
 
( ФωФ)「…………」
 
(*゚ー゚)『……ダメだよ。迷っちゃ』
 
(*゚ー゚)『アンタにはやるべき事がある。するべき事がある。
     復活して、アンタのしもべはみんな死んでしまっていた。
     魔族と人間がうまくやっていることも知った』
 
(*゚ー゚)『これじゃアンタは、お払い箱だよね。復活損wwwww』
 
( ФωФ)「……そうだな。たしかに、余がいる意味はないだろ────」
 
(*゚ー゚)『それでも! 理想的な世界になったこの世界を守ることはできる。
     この戦いの役者として、アンタは舞台に立つことができる!!』
 
(*゚ー゚)『…………私に遠慮も、いらない』
 
( ФωФ)「…………」
 
 思念を読み取ることができる。
 シースルーがそう言っていたことを、彼は思いだした。
 どう取り繕っても、やはり胸の内は知られているのだ、と。
 
 千年前、ロマネスクはシースルー達との戦いの最中、変わっていった。
 信頼という力を見、脆弱なはずの人間に思わぬ力を見せつけられた。
 それに対し、自身も全力を尽くして戦うことの爽快感は、大いに心を満たしていったのだ。
 
341 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:19:13.81 ID:hlZ+Djy40
 
 ロマネスクにしてみれば、シースルとの戦いの直後と変わらない。
 禁呪がもたらした凍結は、千年という時の経過すらも凍結していたのだ。
 人並み外れた力を持っていたとは言え、人間であるシースルーは耐えることができなかったのだが。
 
 目覚めた時、記憶は曖昧であったが肉体は戦いを覚えていた。
 加えて、戦いの決着も彼は認めていない。
 禁呪の思わぬ副作用は、相打ちしかもたらさなかったためだ。
 
 できることなら、決着をつけたい。
 それと同じくらい、闘いを楽しみたい。
 充実したこの瞬間を、味わいたい、と思っていた。
 
 シースルーを完全に殺せば、その時を味わえることはもうない。
 同胞も全て、いない。魔族の王国を創ることも、最早する必要がない。
 
 この闘いが終われば、彼は完全に一人になってしまうのだ。
 
 それが、憂え。それが、恐れ。
 最高の好敵手を失う。
 そのことが、彼の胸の奥にいつまでも蟠り続けていた。
 
(*゚ー゚)『……悪いとは思ってるよ。アンタに全てを託してるみたいだしさ』
 
( ФωФ)「…………」
 
 氷の斧に、一筋の罅が走った。
 

342 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:22:02.31 ID:hlZ+Djy40
 
( ФωФ)(世界を救うため……か……)
 
( ФωФ)(魔王たるこの余が……)
 
( ФωФ)(…………いや)
 
 考え、即座に却下した。
 
 そう考えるのは転嫁でしかなかったからだ。
 心のつかえはシースルーに指摘された通りなのだから。
 
 斧が、砕けた。
 先と同じ様に、後方へ下がる。
 
(* − )
 
 追撃。それも受ける。
 危なげなく、余裕をもって。
 
 ただ、防ぐ。
 意識さえ集中していれば、斧は破壊されない。
 
 三、四、五合と────
 
 
 
(*#゚皿゚)『オイまおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおお!! お前やる気あるんかあああぁぁぁぁぁ!!』
 
346 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:25:07.65 ID:hlZ+Djy40
 
 粉々に砕け散る。
 ロマネスクの驚きを、氷の斧がその身を以て表現した。
 
(;ФωФ)「ッ!?」
 
 今回の動揺は、少しの間続いた。
 追撃の刃を、防げない。
 ロマネスクは躱すことで対処した。
 
 マントの端が斬られ、切れ端が光の魔力を受け消滅する。
 
(*#゚皿゚)『こんな闘いをいつまで続ける気なの!?
     世界の危機だっつってんだろうが! バカ魔王! カス魔王!』
 
(;ФωФ)「だ、黙らんか!!」
 
(*#゚皿゚)『やだね! 自分と世界を天秤にかけてぐらついてるような奴、見てられねぇ!!
     この世界の代表がウジウジしてんじゃないよ!! 私と変われ! 無理だけど!』
 
 シースルーは憤怒の形相で支離滅裂なことを捲し立てる。
 実体の彼女は相も変わらぬ笑みを浮かべ、光の剣撃を見舞っていた。
 なんとか立て直し、ロマネスクは再び斧を生み出して、それを受ける。
 
(*#゚−゚)『フゥー……フゥー……フシュゥゥゥゥゥ……』
 
 まるで煙でも吐き出しそうな息を吐いて、呼吸を整えた。
 精霊でも疲れを感じるものなのだろうか。
 答えはノーだが、雰囲気を重んじるシースルーには大切な事のようだ。
 
348 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:28:29.12 ID:hlZ+Djy40
 
 千年前の闘いで、シースルーはロマネスクの禁呪を受け入れた。
 禁呪の使用は魔王自身をも封印してしまうデメリットに、気付いたからだった。
 あの時、彼女はそうすることしかできなかった。
 
 光魔法を以てしても、ロマネスクを打ち倒す事は不可能だったからだ。
 やられはしない。しかし、倒す手段も見出せない。
 エターナル・フォース・ブリザードを受け入れたのは、苦肉の策だった。
 
 できることなら決着をつけたかった。
 当然彼女は、今でもそう思っていた。
 
 だがそれよりも、世界の平和を選んだ。
 後は上手くやるようにと、仲間であるギコ達に託して。
 託された彼らは、彼女の犠牲を無駄にせず、現代という時代の礎を見事に築き上げた。
 
 それに比べて、ロマネスクは少し違う。
 彼女からしてみれば、決着をつけることを渋っているだけなのだ。
 
 シースルーと同じ思いがあることは、間違いない。
 それでも、前者の思いが上回っている。
 
 加えて、仲間達が作り上げた世界の終焉も、迫っているのだ。
 
 彼女の怒りも、尤もである。
 
(*゚−゚)『……ロマネスク』
 
 その口調は、一転して静穏そのものだった。
 
352 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 11:32:04.34 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚−゚)『私はもう死んでるんだよ?』
 
(;ФωФ)「…………」
 
(*゚−゚)『この姿でいられるのも、あと僅かなの』
 
(*゚−゚)『アンタに見えるように、残された力を全て使って、私はここにいる』
 
(*゚−゚)『その後は、普通の人間と同じ。ただのオバケになって、天国に帰るだけ』
 
 ふ、と悲しげな笑みを浮かべて、
 
(*゚ー゚)『だから────…………』
 
 できる限り、いつものままの笑顔で。
 自身の思い全てを、伝えた────
 

 

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