OPムービー(youtube)
http://www.youtube.com/watch?v=DUOShstFXQc
 
8 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 21:54:15.23 ID:j4yhzbnQ0
 
 夜の闇と同化するほどの黒獣を前に、並び立つは主人公格たち。
 世界を越えて彼らは出会い、遂にその時を迎える。
 
 全ての雌雄を、決する時を。
 
 進む道は、前にしかない。
 戻る道は、残されていない。
 
 ならば、その道を塞ぐ障害は全て屠るのみ。
 
 思い描いた未来を迎える為に。
 自身の世界でも、戦う為に。
 
 武器を握る。或いは構え、地をしかと踏み付ける。
 瞳に宿す決意の光を、星にも劣らぬ輝きを滾らせ。
 光と対極たる巨凶、アンノウンを強く睨む。
 
 
 風が吹く。
 
 
 冷えた夜の風程度では、彼らの熱を冷ますにはあまりにも弱すぎた。
 当然だ。燻る戦いの火は、どちらかの死を迎えぬ限り、消えぬのだから。
 
 
 ────…………時は、来た。
 
12 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 21:56:15.37 ID:j4yhzbnQ0
 
 
ξ゚听)ξ
 
 ───撃ちつけろ。
 
 心の海に揺蕩いし、神の力を現世に以て。
 
 
( ^ω^)
 
 ───解き放て。
 
 機械の体に秘められし、熱き想いとその力を。
 
 
川 ゚ -゚)
 
 ───喚び熾せ。
 
 悪魔を滅する“異”なる能力の、根元まで。
 
 
(´・ω・`)
 
 ───斬りつけろ。
 
 信念を力に変えて、肉体と想いに応えるその武器で。
 
14 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 21:57:31.47 ID:j4yhzbnQ0
 
 
 
 
 
 
 ────────想いに、応えよ。
 
 
 
 
 物語の、ページ達よ────────
 

 
 
                   【Cross part:Pages】
 
 

17 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:00:01.19 ID:j4yhzbnQ0
 
(´・ω・`)「決して孤立するな」
 
 アンノウンを見据えながら、ショボンはそう言った。
 
 敵はもう、人の姿をしていない。
 一人だが、一つではないのだ。
 
 彼らが確認しただけでも、四つの尾と頭に生えた上半身と、攻め手は五つ。
 誰かが単独になれば、その一人が集中砲火を食らう事になる。
 言葉の意図は、そういうことだった。
 
 理由まで語らずとも、他の三名は意を汲んだ。
 勿論、クーの仲魔たちもだ。
 
川 ゚ -゚)「オルトロス」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ドウシタ ライドウ」」
 
川 ゚ -゚)「ツンについていろ。そして、ツンを私と思え」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ワカッタゾ」」
 
川 ゚ -゚)「ツン」
 
ξ;゚听)ξ「は、はい」
 
川 ゚ -゚)「もしもの時は、オルトロスの背を借りろ。人より素早いから」
 
ξ゚听)ξ「……わかった」
22 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:02:27.39 ID:j4yhzbnQ0
 
 ツンは、少しの間だったが、休むことが出来た。
 だが、本調子にはまだ遠い。
 十回もアルテミスの技を使えば、ツンの体はまた悲鳴を上げてしまうだろう。
 
 彼女自身、万全であっても戦いについていけるか、不安があった。
 ペルソナを用いても、大きく身体能力が上がるわけではない。
 アルテミスが、接近戦に向いていないからだ。
 
 自身が扱う力に沿った恩恵を与える。
 ペルソナとはそういう存在だ。
 
 そこまではクーの知るところではない。
 単に彼女の身体能力と疲労を案じてのことだった。
 
ξ゚听)ξ「よ、よろしくね?」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オマエ ライドウヨリ ヤワラカソウダナ!」」
 
川#゚ -゚)「ほう……良い度胸だなお前……」
 
|||;゚ - ゚||「落ち着いて下さいライドウ様……」
 
 そんなクーだったが、既に頭の中では戦闘のイメージが出来ている。
 オルトロスをツンに充てたことが、何よりの証拠であった。
 
 巨躯の後方で天を指し聳え立つ、四本の尾を見た。
 先に見た圧倒的な破壊力。単純に突進するだけでも多大な被害をもたらすであろう。
 要するに、オルトロスに騎乗して尾を躱せと言っているのだ。
 
26 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:05:29.82 ID:j4yhzbnQ0
 
(´・ω・`)「ツン。出来るだけ回避に専念してくれ」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
 ツンの攻撃に期待できない、ということではない。
 彼女が扱う治癒能力を、皆は大きく捉えているのだ。
 
(´・ω・`)「誰かが負傷した時は、頼んだ」
 
( ^ω^)「攻撃は僕達に任せてくれお!」
 
川 ゚ -゚)「うむ。すぐに終わらせてやろう」
 
ξ゚听)ξ「…………」
 
 戦いたい、という思いは彼女の中に当然あった。
 しかし、戦いを有利に進めるにはこれが最適であることも自覚していた。
 申し訳ないという気持ちを膨らませつつも、
 
ξ゚听)ξ「みんな……頑張って」
 
 自身を押し殺すことが、今は最善であると悟る。
 
 皆の言葉と気持ちの裏に隠れた心算を見落とさずに。
 回避に専念、つまり、自分で避けろということだ。
 暗に庇う余裕はないと、言っている。
 
 黒獣は、未だ彼らを見つめているだけだ。
 
28 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:08:50.50 ID:j4yhzbnQ0
 
 アンノウンの胸中には──果てしなき欲望の傍らに、昂揚感があった。
 主人公格を手にかける事の、力を奮える事の喜びが、そうさせている。
 
爪 W〉《(ついにその時が……その時がやってくるのだ……)》
 
 眼前の者達を屠れば、最早自身を止められる存在はいないのだ。
 意思を奪われた聖剣が抗うことも、有り得ぬのだから。
 
 彼の障害は、今というこの時、一つのみ。
 
爪 ゚W〉《異世界の主人公格達……貴様らを屠り、我は更なる高みへと征こう》
 
 言葉の、直後。
 
 四つの尾が上空へ伸び、弧を描いてブーン達に襲いかかる。
 その威力は既に全員が見ている。
 
(;^ω^)「くおっ!」
 
 跳躍、展開。
 左方にブーンとツンが、右方にショボンとクーが跳び、巨大な尾を躱す。
 目標を失った尾は、四人が立っていた位置に突き刺さり、まさに柱のように聳え立っていた。
 
川 ゚ -゚)(近くで見るとやはりぶっといな……躱すしかなさそうだ)
 
 その太さは、巨躯のショボンですら腕が回らない程あるだろう。
 受け止めることが出来るかどうか。そんなことは誰も試す気になれなかった。
 
31 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:10:56.37 ID:j4yhzbnQ0
 
( ^ω^)(グレネード!)
 
 右手をアンノウンの本体へ向け、折れた手首に生まれた砲門からこぶし大の砲弾が撃ち出される。
 黒獣が僅かに、頭を引いた。直進するグレネードは首の付け根、胸元に着弾し、爆音を生む。
 ただそれだけだ。傷を与えるには、至らない。
 
(;^ω^)「くそ……」
 
ξ;゚听)ξ「やっぱり……聖剣の力が……」
 
 黒獣へと姿を変える前に聖剣を呑み込んだ。
 それにより聖剣の力を取り込んでいる可能性がある。
 誰もがそう考えていたが、それだけが答えではないと思う者がいた。
 
(´・ω・`)(確かに、聖剣を取り込んだことで、全てを無効化する能力も付与されたと考えるのが普通だ)
 
(´・ω・`)(だが……)
 
川 ゚ -゚)「ッ!」
 
 ショボンが地を蹴った。
 石床に突き刺さったままの、尾に向かって。
 アルファベットZを高々と振り上げて、風を切り振り下げる。
 
(´・ω・`)「むんッ!」
 
 甲高い音が弾け、夜風に流れ掻き消える。
 ショボンの腕に伝わったのは、高位同士のアルファベットを交えたような衝撃だった。
 尾と邂逅したZの刃が、少しだけ尾の黒い体表を抉っている。
34 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:15:48.71 ID:j4yhzbnQ0
 
 それを確認した直後、四つの尾はまた急激に上昇し、元へと戻る。
 黒獣の頭の左右に陣取り、鎌首をもたげそれぞれが獲物を狙うように、待機している。
 
(´・ω・`)「体は分からんが、尾には攻撃が通じるようだ」
 
川 ゚ -゚)「ほんとか?」
 
(´・ω・`)「あぁ、ただ頑丈なだけだ」
 
 傷が生まれた。つまり、聖剣の力が及んでいないということだ。
 なまじ聖剣の能力を知ったが為に、攻撃が通用しない事が聖剣の能力に直結してしまう。
 先のブーンとツンが、その思考に陥っていた。
 
 彼の言う通り、ただ頑丈なだけということも有り得るのだ。
 
(´・ω・`)(Zで両断できない程に頑丈だとは思わなかったが……)
 
 尾に攻撃が通じるとショボンが思った切っ掛けは、アンノウンが尾を使い天井を破壊した時だ。
 彫刻の石すらも破壊できなかった物で、あれができるとは到底思えない、と考えたのだ。
 三名は見逃していたが、ショボンだけは違っていた。
 
(´・ω・`)「聖剣を取り込んだからと言って、体の全てに付加が及んでいると安直に考えるな」
 
(;^ω^)「…………」
 
(´・ω・`)「まぁ、まだ分からんことは多いが……」
 
(´・ω・`)「一先ずは、攻撃が通じる箇所を狙うぞ」
 
36 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:18:35.35 ID:j4yhzbnQ0
 
川 ゚ -゚)「おk、つまりシッポだな?」
 
(´・ω・`)「そうだ。伸縮自在ということが気になるが、遮二無二攻撃するよりはマシだ」
 
 攻撃が通じる箇所を攻めていく中で、見える物があるかもしれない。
 今までの戦いがそうだったように、特異な力であるからこそ、見極めることが肝要なのだ。
 
( ^ω^)「了解、シッポを狙っていくお!」
 
(´・ω・`)「…………」
 
 この中で最も火力に優れているのが、ブーンだ。
 彼の銃器に頼るしかないと考えながらも、ショボンにも矜恃がある。
 
 自世界では最高峰であるアルファベットZに、唯一到達しているのだ。
 それが、通じない。全力の斬撃が、一筋の傷を生む事しかできない。
 
(´・ω・`)(全く……異世界という所は、恐ろしいな)
 
 だが、彼にもできることはある。
 弱点を探ることに集中すればいい。
 それにまだ、温存している物もあるのだ。
 
(´・ω・`)(その時は存分に振るわせてもらうぞ)
 
 瞳の色は、未だ燃えている。
 誰もがそうだ。劣る者は、一人もいない。
 そしてまた、四つの尾が動いた。
 
40 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:21:48.26 ID:j4yhzbnQ0
 
 一矢一殺。
 
 一尾が一人を穿たんと、迫る。
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ノレ!」」
 
ξ;゚听)ξ「あ、はい!」
 
 返事をした時には、既にオルトロスに跨っていた。
 振り落とされまいと、しっかりと背を掴む。
 
川 ゚ -゚)「ツン! 鬣を握れ!」
 
ξ;゚听)ξ「い、痛くない?」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「痒イクライダ 問題ナイ」」
 
 そして、跳躍。
 上空からでなく、前方から突進してきた尾を、それぞれが躱した。
 制限無く伸びる尾はそのまま横に、或いは上に反転し、追撃を計る。
 
(#^ω^)「喰らえ!」
 
 ブーンは尾の二撃目を躱しながら、自身を襲った尾へグレネードを発射させた。
 直進の軌道は爆撃に押され、地を削りながらやがて止まる。
 煙が巻き上がる砲撃の着弾点が、三分の一ほど大きく抉られていた。
 
( ^ω^)「おっ! 確かにダメージあるお!」
 
43 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:24:47.88 ID:j4yhzbnQ0
 
 全体的に見てそのダメージがどの程度の比率なのかは、分からない。
 一割程度か、それとも毛を抜かれた程度なのかもしれない。
 だが、攻撃が通用するという事実は、大きい。
 
川 ゚ -゚)「ノーマン!」
 
 尾は執拗に主人公格だけを狙っている。
 その恩恵で、仲魔たちは攻めに集中することができる。
 
 上空から押し潰すような一撃をクーが躱した後、仲魔達が動いた。
 
ノ)) - 从「ふッ!」
 
 ノーマンが鋭く息を吐く。放たれた一撃は、漆黒の大剣ではなかった。
 尾に向けられたのは左腕。数十の矢が充填されている、ボウガンだ。
 一斉射撃された数十の矢が、空気を貫き尾へと迫っていく。
 
|||゚ - ゚||「はッ!」
 
 白き甲冑を纏う魔、クー・フーリンも、同時に槍撃を放った。
 魔槍ゲイボルグから生まれた三十の刺突が、同じく尾を狙い撃つ。
 
ノ)) - 从「…………」
 
 ボウガンの矢は、全て弾かれてしまった。
 人や低級の魔程度なら軽く射貫く威力を誇ってはいたが、今回は些か届かないようだ。
 ショボンのZを以てして、刃を食い込ませることすら叶わなかったのだから、仕方がないと言えよう。
 
 それを確認し、ノーマンは鉄剣を強く握り締めた
47 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:27:52.89 ID:j4yhzbnQ0
 
|||゚ - ゚||「思ったより、頑丈ですね」
 
 貫くつもりだった。
 だが、ゲイボルグの刺突は貫くに至らず。
 体表を削り取るのみに、とどまった。
 
|||゚ - ゚||「しかし、皮膚とは言い難い体表ですね。
     どちらかと言うと金属を突いたような感触がありました」
 
 金属程度なら貫けぬわけはありませんが、と付け加えた。
 
川 ゚ -゚)「まぁ、ダメージが全く見えないよりはマシだろう」
 
 言い、クーは赤光葛葉を握る手に、力を籠める。
 数百年の歴史を歩んだ退魔の剣は、赤い輝きを放っていた。
 
川 ゚ -゚)「ヤツの口振りから、つまり怨念の集合体みたいなもんだとは思うが……」
 
 嫉妬、強欲、憤怒、そして殺意。
 それらを膨らませ生まれた存在であると、アンノウンは言っていた。
 
 彼女はそんな存在を、良く知っている。
 
川 ゚ -゚)「だとすれば、退魔師たる私の専門だな、コレは」
 
 そういった存在たちを今まで相手にし、打ち払ってきたのだ。
 クーは、改めて自身の世界が選ばれた事に少しの因縁を感じていた。
 
51 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:31:29.98 ID:j4yhzbnQ0
 
 因縁と言えば、彼女が思い当たるもう一つのこと。
 尾を躱し、攻撃放つ仲魔たちを見つめながら、彼女は思う。
 
川 ゚ -゚)(私を連れにきたのがショボンというのも……そうだったのかもな)
 
 クーとたった一日だけを共に過ごした、この世界のショボン。
 少ない時間だったからこそよぎるのか、それとも他に何か理由があるのか。
 それは分からないが、彼女は彼との時を鮮明に思い出すことが出来た。
 
 酒に酔い、頬を赤らめながら夢を語った姿が。
 自身の命すら顧みず、自分を救うために立った姿が。
 誰にも言えずにいた不安を受け止め、打ち払ってくれた、姿が。
 
川 ゚ -゚)(ショボン……)
 
 彼女が愛するショボンとは違う。
 それでも、彼はショボンだった。
 
 掛け替えのない、存在だったのだ。
 
川 ゚ -゚)(ショボン達が消えたのは、私たちの所為だとアンノウンは言っていたが……)
 
 その意味を彼女は知らない。知る術がない。
 だが、虚言であろうと真実であろうとも────
 
川 ゚ -゚)「奴を倒すことに変わりはない。…………だよな、ショボン」
 
 誰にも聞こえる事のない声で、呟いた。
 
53 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:34:18.51 ID:j4yhzbnQ0
 一方、ブーン。
 
(;^ω^)「……」
 
 躱し、すれ違い様にグレネードを放つ。
 単調な動作を三度、繰り返したところだ。
 先端に向けて円錐に近い形をしていた尾は、所々が抉れている。
 
 それでも、勢いは止まらなかった。
 
(;^ω^)(本当にダメージあるんかお……!?)
 
 彼の心に生まれたのは、そんな懐疑だ。
 例え切断したとしても、伸縮自在の尾である。
 すぐさま同じ長さを取り戻し、同じ事の繰り返しになるのではないか。
 
( ^ω^)(チッ……)
 
 五度目の砲撃。
 ブーンはできるだけ同じ箇所を、狙い撃っていた。
 巨大な尾の先端は、次の一撃で切断できそうだ。
 
 その後に、どうなるか。
 
 ブーンの頭に過ぎったのは、宙に浮遊していた左腕だ。
 切断することで同じ状況になり、攻め手が増えることがないか。
 そんな予感がしてならなかった。
 
(;^ω^)「くそっ……!」
 
57 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:41:18.27 ID:j4yhzbnQ0
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
 眼前に尾が迫っていた。
 ブーンはその尾を避けようとした時に、自身と尾の間を、一陣の風が通りすぎていった。
 風はそこで止まると直角に曲がり、ブーンの隣に並び立つ。
 
(´・ω・`)「やれやれ、単調な攻撃だが、躱し続けるのも苦労するな」
 
(;^ω^)「ショボン……さん」
 
 横切ったものは、ショボンだった。
 無論、彼の後ろには尾が追従していた。
 
 だがショボンを追っていた尾は、彼がブーンの前を通り過ぎた後に、ブーンに迫った尾に真横から衝突したのだ。
 
(´・ω・`)「はぁッ!!」
 
 振り上げたのは、左右のZ。
 狙いは、ブーンのグレネードを受けていた尾だ。
 
 大きく抉られた箇所に、双剣を叩き込んだ。
 完全な状態の尾には傷を付けるだけに止まっていたが、
 損傷が蓄積された箇所に二本の刃が加えられたことで、尾は両断されることとなった。
 
(;^ω^)「ッ……!」
 
 ショボンは、躊躇わなかった。
 分離した体の一部が攻め手と成り得る事は、彼も見ていたはずだ。
 しかし、一切の迷いを見せずに、斬撃を叩き込んだ。
61 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:47:31.28 ID:j4yhzbnQ0
 
(;^ω^)「だ、大丈夫なのかお……?」
 
 何に対してそう言ったのか。
 同じ危惧を持ち得ていなければ、それに気付くことはないが、
 ショボンはブーンの言葉の意味を理解していた。
 
(´・ω・`)「最初は俺も危惧していたが、恐らく大丈夫だろう」
 
 跳躍し、ブーンの隣に戻ったショボンが、そう言った。
 
(´・ω・`)「あれを見ろ」
 
 右のZで指された先。
 切断され本体と離れた尾の先端が、石床に横たわっている。
 
 少しの後。
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
 黒い粒子を風に流し、その姿を消してゆく。
 十秒も要さずに、切断された尾の先端は、この世から消え去った。
 
(´・ω・`)「お前が腕から撃っていた砲撃が当たり、尾の破片が散った」
 
(´・ω・`)「その破片が同じ様に消えていたんだ。ならばと思ったが、正解だったな」
 
(;^ω^)「なるほど……」
 
(;^ω^)(この洞察力……武器は地味だけど、さっきからとんでもねーお)
65 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:52:09.45 ID:j4yhzbnQ0
 
 だが、休まる暇はない。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
(;^ω^)「やっぱりかお……」
 
 尾の先端が切断された程度で、異獣が活動を停止するはずはなかった。
 歪な形を残した頭をもたげ、ショボンを追っていた尾も踵を返し、また迫る。
 
(´・ω・`)(厄介だな……)
 
 そしてまた、同じ事を繰り返すことになる。
 攻撃はただの突進で、単調と言える。
 ただ、現状を維持するだけで突破口が見えるとは、思えなかった。
 
 ショボンだけではない。皆がそうだ。
 体力も永久に続くわけではない。
 いずれは、疲弊するのだ。
 
(;^ω^)「クソッ……!」
 
 ブーンの心に、苛立ちがつのっていく。
 現状がそうさせていることは間違いないが、突破口が見えないこと以外にも、理由があった。
 
 アンノウンの異獣化は、似ていたのだ。
 セカンドウィルスによって人の姿を失った、自世界の人々に。
 この世界にもあった、自世界と同じ名の街に起こった、悲劇に。
 
71 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 22:59:20.98 ID:j4yhzbnQ0
 
(#^ω^)「…………」
 
 メモリーを介し、脳裏に鮮明にフラッシュバックする異獣達の姿。
 人だったものが、人だったものを食らう、地獄絵図。
 そんなおぞましいことが現実に起きている、自分の世界。
 
 全てが、重なるのだ。
 
( ^ω^)「ショボンさん!」
 
(´・ω・`)「?」
 
 二人は今の間も尾を躱し続けている。
 ショボンは視線を送るだけで、返事とした。
 それだけでも充分に、通じ合う。
 
( ^ω^)「“根本”を、攻めてみるお」
 
(´・ω・`)「……!」
 
 それはショボンも考えていたことだった。
 根本とはつまり、尾の付け根。
 アンノウンの体を、掻い潜る必要がある。
 
 加えて、危険を察知し全ての尾が向かうかもしれない。
 アンノウン自ら手を下してくる事も考えられる。
 危険性を考慮すると、一歩を踏み出すに至れぬ手であった。
 
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 23:05:57.39 ID:j4yhzbnQ0
 
( ^ω^)「BLACK DOG! 行くぞ!」
 
 呼びかけに機械の黒狗はすぐに応えた。
 ブーンの後方に停止し、主の指令を待っている。
 尾の突進をまた躱し、ブーンはそのまま跳躍して乗り込んだ。
 
(´・ω・`)「ブーン! ……くっ!」
 
 すぐさま後を追おうとするが、人の足で尾を躱しながらBLACK DOGを追うことは、不可能であった。
 
川 ゚ -゚)「む」
 
ξ;゚听)ξ「あっ!」
 
 二人が見た、変化。
 尾はクーたちを狙うことを止め、突然踵を返した。
 ブーンを追う為だ。
 
(´・ω・`)「やはりか……!」
 
 予想通り、全ての尾がブーンに向かっていった。
 本体は未だ微動だにしていない。アンノウンも、ただ見つめているだけだ。
 
(´・ω・`)「クー!」
 
川 ゚ -゚)「おう。なんだ?」
 
(´・ω・`)「頼みがある」
 
82 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:09:44.48 ID:j4yhzbnQ0
 
 アンノウンは迫る黒狗を見つめ、黒獣はブーンを向いた。
 BLACK DOGの後方からは四つの尾が追従しているが、追いつけていない。
 
爪 ゚W〉《痺れを切らしたか……まずは、一匹……!》
 
 それをじっと見つめ、呟いた。
 
爪 ゚W〉《……さて、あちらも始まったぞ》
 
爪 ゚W〉《間に合うか……クク……》
 
 呟きは、誰にも届かない。
 
(#^ω^)「アンノウンッッ!!」
 
 周囲に木霊したのは、ブーンの叫びのみであった。
 BLACK DOGは右方に大きく旋回し、黒獣の側面から突っ込む態勢をとる。
 その間を、四尾が詰めた。
 
( ^ω^)「BLACK DOG!」
 
 声に呼応。巧みに軌道を変え、側面から迫る二本の尾を軽々と避ける。
 次いで、上方と下方から挟み込むように、迫る。
 
 止まらず。尚も加速。
 
(#^ω^)「おおおおおお!!」
 
 ブーンの後方で、尾と尾がぶつかり合う音がした。
86 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:14:45.05 ID:j4yhzbnQ0
 
 だが、その程度で尾が止まることはない。
 それは全員が分かっていたことだ。
 
 辿り着いても、追撃が止まぬことは。
 
爪 ゚W〉《…………》
 
(#^ω^)「ッ────!」
 
 一瞬、二人の視線が交わる。
 途端、眉間に皺を寄せて、ブーンが強く睨んだ。
 
(#^ω^)(余裕かましてろ……すぐに消滅させてやる……!)
 
 破裂しそうな怒りを、また胸の内で押し止める。
 まだその時ではないと、必死に自分に言い聞かせながら。
 
 ブーンは止まらずに、付け根の上空で尾を躱し続けている。
 攻撃の手に選んだ得物は、BlueLazerCannonだ。
 三つの砲門は既に前方へと向き、エネルギーの充填を開始している。
 
 確実性を求め、それを至近距離で放つつもりだった。
 しかしまだ、発射に至るまで時間を要する。
 
爪 ゚W〉《クク……》
 
 それを見つめる、謎深き破壊者。
 仮面から外れた真紅の瞳が、残酷に歪んでいた────
 
88 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:18:08.72 ID:j4yhzbnQ0
 ──開戦前──
 
 ──インビジブル城・地下──
 
 
 彼が目を開けた時に飛び込んだ景色は、見覚えのあるものだった。
 薄暗く、闘争の傷痕を残したままの、埃が充満する大広間。
 
( ФωФ)「……ここか」
 
 周囲を見渡すこともなく、ロマネスクが呟いた。
 千年の時を超え、千年の眠りから覚めた場所だ。
 
( ФωФ)「アンノウンと言ったか。なるほど、相応の力を持っているということか」
 
 自身をここへと飛ばした存在を思い出した。
 次に手を開き、また握る。
 何度かそれを繰り返した後、意識も力もはっきりしている事を自覚した。
 
( ФωФ)「別段、何かをされたわけでもないか……」
 
( ФωФ)「……何を企んでいるのか」
 
 意図が全く見えなかった。
 彼にすれば、ただ単に振り出しに戻されただけだ。
 戻ることは苦ではない。それこそ念じるだけで済む話だ。
 
( ФωФ)「ふむ……」
 
 少しの思考を挟み。
95 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:25:09.30 ID:j4yhzbnQ0
 
( ФωФ)「付き合う道理はないな」
 
 すぐさま戻る事を選択した。
 
( ФωФ)(……あまり長く居たくもないし、な)
 
 ちらと、視線を投げる。
 その先には、一つの氷塊があった。
 
( ФωФ)(……シースルー……)
 
 氷漬けの勇者、シースルー。
 千年前の姿のままで、ロマネスクを見ていた。
 もはや、物言わぬ氷像と化し……
 
(*゚ー゚)『呪ってやる────!!!』
 
(;ФωФ)「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 
 突如背後からした声に、盛大に驚いて飛び退いた。
 着地の後、勢いをつけて振り返る。
 
(;ФωФ)「シースルー!?」
 
(*゚ー゚)『魔王wwwwwwびびりすぎwwwwww』
 
 紛う事無き、勇者シースルーが、そこにいた。
 何故、彼女がここに。そう思った彼はまじまじと彼女を見つめる。
 すぐに違和感に気付くと、それをぶつける為に、口を開いた。
90 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:21:40.38 ID:j4yhzbnQ0
 
(;ФωФ)「……霊体……か?」
 
(*゚ー゚)『お、一発で分かるとは、さーすが♪』
 
 クーならば、それを知っている。
 彼女は既に会話を交わしていたのだから。
 
(;ФωФ)「ふむ……まぁ、そうじゃないとおかしいのは分かるが……」
 
 シースルーの体は、氷漬けのままだ。
 その筈なのに彼女が実体でそこにいるのは、如何にもおかしい。
 そう自分を納得させると、次の疑問を投げ掛けた。
 
( ФωФ)「……で、お前はなんでここに?」
 
(*゚ー゚)『アンタの戦いを見届けようと思ってね〜』
 
( ФωФ)「……なるほど」
 
(*゚ー゚)『一応は世界を救う為? に戦ったからね〜。
     こんなんなっちゃっても、やっぱり気になるよ』
 
(*゚ー゚)『世界の命運かかった戦いは、さ』
 
( ФωФ)「……そうか……そうだな」
 
 彼女なりに、この戦いがどれ程のものであるか、理解しているようだ。
 何故それを知っているのか、ロマネスクは疑問に思ったが、それは言わなかった。
 
98 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:27:59.03 ID:j4yhzbnQ0
 
(*゚ー゚)『実は、アンタがアンノウンにここへ飛ばされる前から見てたんだよ』
 
( ФωФ)「そうなのか?」
 
(*゚ー゚)『限りなく現世に影響を及ぼさない姿でね。それはどうでもいいんだけど』
 
( ФωФ)「ふむ……しかし何故、また急に姿を現したのだ?」
 
(*゚ー゚)『それがまたメンドーなことになりそうでさー』
 
( ФωФ)「面倒なこと……?」
 
 面倒なこと。その答えを彼女は言わなかった。
 代わりに視線をロマネスクから外すことで、それを伝えた。
 
 シースルーの視線の先。
 彼もそちらを見る。
 そこには、彼がついさっきまで見ていた物があった。
 
( ФωФ)「お前の体が、どうした?」
 
 見つめたままで、問うた。
 シースルーはただ、氷塊を見つめている。
 
 先と変わらぬ沈黙が、暫く続き。
 
 
 ────そしてそれが、始まった。
 
101 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:30:56.91 ID:j4yhzbnQ0
 
 最初に、音がした。
 地下に位置する大広間に、その余韻が響き、消える。
 
 段々と音の立つ頻度が、増えてゆく。
 徐々に間隔も狭まり、やがては余韻が消え去る前に、次の音が、また。
 
(;ФωФ)「なっ……!」
 
 音の発信源は、シースルーを閉じ込めた氷塊であった。
 使用者すら氷の中へ閉じ込める、エターナルフォースブリザードの結界が。
 解かれようとしていた。
 
(;ФωФ)「これは……」
 
(*゚ー゚)『そーいうこと』
 
 シースルーは、自身の肉体に何が起きるか予測していたのだ。
 それを告げるために、彼女は再びその姿を現した。
 あくまで、表向きは。
 
(*゚−゚)『アンタの時と同じ。アンノウンが封印を解こうとしてる』
 
(;ФωФ)「それは、つまり」
 
(*゚−゚)『────アンタと戦え、ってことね』
 
106 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:35:10.78 ID:j4yhzbnQ0
 
 
──インビジブル城・王の間──
 
 
(;^ω^)(クソッ……!)
 
 勇んで向かったブーンだったが、攻め倦ねていた。
 自在に宙を泳ぐ四つの尾は、躱し続けることができている。
 だがそれでは、BlueLazerCannonを撃つことができない。
 
(;^ω^)「BLACK DOG!!」
 
 幾度目かの主人の叫びに、既に飛行型へと変型していた黒狗は旋回する。
 
(;^ω^)(隙……それさえあれば……!)
 
 左腕を失ったことが、ここにきて災いしていた。
 単純に攻め手が一つ減ったのだ。片腕があれば、体を支えることも出来る。
 
 またも、尾の一つがブーンに迫った。
 
108 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:37:19.47 ID:j4yhzbnQ0
 
(;^ω^)「ッ! BLACK────」
 
 同じ指令を下そうとした、瞬間だった。
 尾が突然、停止したのだ。
 何らかの壁に衝突したような音を発して。
 
(;^ω^)「……?」
 
 空中に停滞し、ブーンが下を見る。
 
(´・ω・`)「やはり、弾き飛ばすまでは無理だったか」
 
 彼の視界の先には、ショボン=ルージアルがいた。
 ブーンを狙った尾を止めたのは、他ならぬショボンだったのだ。
 
爪 ゚W〉《…………》
 
(´・ω・`)(……俺を狙ってこい、アンノウン)
 
110 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:41:47.06 ID:j4yhzbnQ0
 
 文字通りアンノウンを頭上に冠した姿の黒獣が、ショボンに向いた。
 ショボンの後方には、クーとツン、仲魔達が立っている。
 ツンは力の温存の為、他の者は巻き込まれないようにする為だ。
 
(´・ω・`)「頼むぞ。ケルベロス」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「振り落とされても拾わんぞ?」
 
 ショボンを背に乗せたケルベロスが、疾駆する。
 直後、尾の二本がショボンに向かい、残りの二本がブーンを襲う。
 
(;^ω^)「うわっ……と、ショボンさん……大丈夫かお?」
 
 ブーンからすれば、ショボンは何ら特殊な力を持たない普通の人間なのだ。
 尾を弾いた一撃は、ツンのペルソナか、仲魔の力と思っていた。
 彼はショボンがどうやって尾を弾いたのか見ていないのだから、当然と言える。
 
 躊躇わず、ショボンを乗せたケルベロスは尾に向かい突進した。
 
 どうする、助けるか、とブーンは思ったが────
 数瞬後、それが杞憂だったと知る事になる。
 
(´・ω・`)「出し惜しみは、もう終わりだ」
 
 
(´・ω・`)『征くぞ────オーディン』
 
113 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:47:21.93 ID:j4yhzbnQ0
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
 突如、ショボンの背に黒い竜巻が巻き起こる。
 それを裂いて現れたのは、ショボンのペルソナ、オーディンだった。
 象徴たる神槍グングニルをその手に持ち、武人である彼に相応しい猛々しさを放っている。
 
(´・ω・`)『テトラカーン』
 
 ショボンの前方に、物理攻撃を跳ね返す赤い壁が生まれた。
 尾はそのまま壁に突進し、自身の威力で折れ曲がる。
 ブーンへの一撃を防いだのも、テトラカーンによるものだった。
 
川 ゚ -゚)「おお……A・Tフィ────」
 
|||;゚ - ゚||「ライドウ様! それ以上は言ってはいけない気がします!!」
 
 後方のクーがそれを見て何やら呟きかけたが、即座に黙らされた。
 
(´・ω・`)「これだけ巨大な質量では、止めるのが精々か」
 
(´・ω・`)「だが、それでいい。止まってくれるだけでいいんだ」
 
 ケルベロスが、地に落ちた尾を跳び越えるように、前方に跳躍した。
 その上を通り過ぎる途中、ショボンは別の力を放つ。
 
(´・ω・`)『デスバウンド』
 
 神槍、一薙。
 戦神の力を籠めた赤い剣圧が、一刃の衝撃波と成り、二本の尾を両断した。
118 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:50:52.96 ID:j4yhzbnQ0
 
(;゚ω゚)(な、あんな力が……)
 
 一瞬の出来事に、ブーンはただ驚くしかなかった。
 
 ────────…………
 
 時間は少し、前のこと。
 
(´・ω・`)「クー!」
 
川 ゚ -゚)「おう。なんだ?」
 
(´・ω・`)「頼みがある」
 
 単身、黒獣へ向かったブーンを見て、ショボンはそう言った。
 如何に彼の身体能力が高かろうが、全ての尾が自分に向かった時、避けきる自信がなかったからだ。
 勿論、他にも理由があったのだが、打開策を考えたショボンは、クーに乞うた。
 
(´・ω・`)「ケルベロス、と言ったか。そいつの背にも乗ることはできるか?」
 
 ツンを乗せたオルトロスを一瞥して、早い口調でそう言った。
 
川 ゚ -゚)「……問題ないが、どうした? まさかお前が乗るのか?」
 
(´・ω・`)「そうだ。できるだけ、攻めに集中したい」
 
 自身の足だけでは心許ないということよりも、そちらを重視していた。
 一撃が、硬い石を貫くほどの威力を有している。
 その雨の中で意識を集中することは難しい、と判断してのことだ。
121 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:54:32.32 ID:j4yhzbnQ0
 
 何よりも、ペルソナの使用にまだ慣れていないことが、大きかった。
 
 不安は、それなりにあった。
 だが、それを上回る自信があった。
 
 しかしショボンがそう思おうとも、クーは不信感を抱いていた。
 
川 ゚ -゚)「お前が行ってどうするんだ? 何が出来ると言うんだ」
 
(´・ω・`)「まぁ、そう思う気持ちも理解できるが」
 
川 ゚ -゚)「洞察力、身体力は大したもんだ。その武器もな」
 
川 ゚ -゚)「だが、それだけだ。悪いが、お前が行っても────」
 
(´・ω・`)「前に、言っただろう?」
 
川 ゚ -゚)「……?」
 
(´・ω・`)「武器を見せた時だ。隠しておくべき力があれば、それは任せると」
 
川 ゚ -゚)「……まだ話していなかった力があると?」
 
(´・ω・`)「そういうことだ。信じろ。……いや、信じてくれ」
 
川 ゚ -゚)「……」
 
 無論、咄嗟についた嘘。体のいい、口実だった。
 ショボンにとっては結果的に力を得たのだから、それを示せばいいだけのことだ。
123 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/25(土) 23:57:57.55 ID:j4yhzbnQ0
 
川 ゚ -゚)(……ショボン……か……)
 
 彼女の頭には、三人のショボンが浮かんでいた。
 
 一人は、自身が愛する自世界のショボン。
 一人は、自身を励ましたこの世界のショボン。
 そして、もう一人は、眼前に立ち熱い瞳を向ける、異世界のショボン。
 
 この世界のショボンが、言っていた。
 どの世界のショボンも、本質的には同じである、と。
 
 今のクーにはその意味が、漠然とだが、分かったような気がしていた。
 
ξ゚听)ξ「……クー」
 
川 ゚ -゚)「……ん?」
 
ξ゚听)ξ「私からもお願い。私がここに立っていられるのも、ショボンさんがいたからなの」
 
ξ゚听)ξ「ショボンさんなら、必ずなんとかしてくれるから……」
 
(´・ω・`)「…………」
 
川 ゚ -゚)「……そうか」
 
 途中で、二組に分断された。
 二人が過ごした時間は、自分がブーンと過ごした時間と、同じだったはずだ。
 その時間は、決して永くはなかった。だが、ツンはここまでショボンを信じている。
 それは、今自分が抱いた感覚と同じなのかもしれないと、クーは思った。
126 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:02:47.60 ID:hlZ+Djy40
 
川 ゚ -゚)「ケルベロス」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「……ライドウ、あまり気が進まんが」
 
川 ゚ -゚)「あぁ。お前が、見極めろ。その背を許すに足る男かを、な」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「やれやれ……」
 
 雄々しき魔獣は、それでも主の意思を汲み、ショボンの前に立った。
 その背は、巨躯のショボンの胸の高さまである。
 足も太く、馬などとは比べものにならない力漲る体躯をしていた。
 
(´・ω・`)「ありがとう。そして必ず、期待に応えよう」
 
 一跳びで、ケルベロスの背に跨いだ。
 異世界の魔獣に騎乗する姿は、有り得ぬ事象であるに拘わらず、違和感を与えない。
 比肩する者なき唯一無二の猛将、ショボン=ルージアルだからこそ、だ────
 
 
 ────────…………
 
 そうして、今に至る。
 
 アルファベットZを以てして、刃先を食い込ませることすら叶わなかった。
 それを、一閃で両断した。まとめて、二本の尾を。
 
(´・ω・`)(Zが霞んで見えるというのも、少し心悲しいな)
 

127 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:05:50.51 ID:hlZ+Djy40
 
 そんなことを思っていたショボンだったが、通用しないのでは仕方がないと、切りかえた。
 両断された二つの尾は、そのまま床に沈んでいる。
 切り離された先は数メートルあったが、先と同じ様に黒い粒子となり、掻き消えた。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 すぐに尾は、動き出すだろう。
 そうなる前に自分は何をするべきかを、ショボンは考えていた。
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「……おい」
 
(´・ω・`)「なんだ?」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「どこに向かうか言え。お前の好きに動いてやろう」
 
(´・ω・`)「……そうか」
 
 ケルベロスはそう言った。
 ペルソナ・オーディンという異能の力を見せたショボンに従うと。
 誇り高き魔獣も、彼の力を認めたということだ。
 
(´・ω・`)「……」
 
 ショボンが上方を見た。
 変型したBLACK DOGが、尾を回避し続けている。
 避け続けているのは、BlueLazerCannonの砲撃準備をしているからだ。
 
 ブーンは迎撃ができない状況にあった。
 
129 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:09:00.13 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)(ブーンを狙っている尾を斬り落とすことは容易い……)
 
(´・ω・`)(……だが)
 
爪 ゚W〉《…………》
 
 黒獣、アンノウンがまだ控えている。
 やがては残りの尾も動き出すだろうが、それは切り捨てれば問題なかった。
 
(´・ω・`)(全ての尾を俺に引き付けたかったが……そう上手くはいかないか)
 
 黒獣は呻り声を上げ、ショボンを睨んでいた。
 ショボンはその上の、アンノウンを見つめている。
 
(´・ω・`)(聖剣はどこにいったんだ……?)
 
(´・ω・`)(ブーンとロマネスクの攻撃は頭を含めた体に当たったが、効果がなかったな)
 
(´・ω・`)(尾より頑丈なのか、それとも聖剣の恩恵か……)
 
川 ゚ -゚)「おい、ショボン」
 
(´・ω・`)「ッ……?」
 
 いつの間にかクーはショボンの隣にいた。
 同じ様に、アンノウンを見つめている。
 
川 ゚ -゚)「ブーンの方へ行ってやれ」
 
132 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:12:45.12 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「……分かった」
 
川 ゚ -゚)「うむ。ここは私とノーマンに任せろ」
 
|||;゚ - ゚||「ライドウ様!? 私もいますよ!!」
 
川 ゚ -゚)「あー、うん、そうだね」
 
|||;゚ - ゚||「ライドウ様ぁ〜!」
 
 ショボンは何も言わず、クー達から離れた。
 ケルベロスが両断した尾を蹴り、跳躍した時。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 二本の尾が、後方からショボンに襲いかかった。
 横たわる尾は動けなかったのではなく、動かなかったのだ。
 不意を打ったつもりだろう。しかし────
 
(´・ω・`)『まだ、寝ていろ』
 
 ショボンは振り返らずに、力を放つ。
 オーディンが手をかざすと、見えない力に二本の尾はまた、床に叩きつけられた。
 重力の塊を対象にぶつける、グラダインだ。
 
 猛将を乗せた魔獣は、尚も止まらない。
 向かう先は、ブーンを襲い続けている残りの尾。
 その、根本。
 
136 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:16:22.29 ID:hlZ+Djy40
 
(;^ω^)「!!」
 
 BlueLazerCannonのエネルギー充填は、完了していた。
 出力は50%を示している。この尾さえ、どうにかなれば。
 ブーンがそう思った時だった。
 
(´・ω・`)『デスバウンドッ!』
 
 擦れ違い様に言霊を紡ぐ。
 オーディンの槍から生まれた斬撃が、残り二つの尾を両断した。
 天に向かっていた尾は支えを失い、風化していきながら床へと落ちた。
 
(´・ω・`)「ブーン!」
 
( ^ω^)(サンキュー!)
 
 BLACK DOGが転回した。
 BlueLazerCannonの砲口が向くのは、アンノウンだ。
 ショボンの力を見て、尾はどうにでもなると判断してのことだった。
 
(#^ω^)(消し飛べ────!!)
 
 空中からそのままで、BlueLazerCannon、発射。
 三つの砲門から蒼のエネルギーが空間を切り裂いて、アンノウンへ向かう。
 出力に押されぬよう、BLACK DOGは後方にバーニアンを展開している。
 
川 ゚ -゚)「む!」
 

137 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:19:45.16 ID:hlZ+Djy40
 
 尾だけを動かしていた黒獣が、大きく動いた。
 ブーンの方を振り向いたのだ。
 その時には既に、蒼のレーザーが黒獣の鼻先にまで────
 
(;^ω^)「ッ!?」
 
(´・ω・`)「!!」
 
 黒獣が咆哮を上げ、口を開いた。
 アンノウンの瞳と同じ、血のように赤い口内をブーンに向けて。
 
(;゚ω゚)「なっ……呑み込む気かお!?」
 
 当然、三条の蒼いレーザーは黒獣の口へと突き進む。
 同規模のセカンドなら、間違いなく死する一撃なのだ。
 彼が困惑するのも、仕方がない。
 
 そして、喉の奥に直撃する。
 
 遅れて、集束された膨大なBlueEnergieは爆音を放ち対象を粉砕する────
 
(;゚ω゚)「ッ!?」
 
 はずだった。
 発せられた音は、最初の射出音のみ。
 ブーンが想像していた光景は、描かれることがなかった。
 
(;゚ω゚)「なん……で……」
 
139 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:23:47.77 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)『デスバウンド!』
 
(;^ω^)「ッ!」
 
 振りかぶり、オーディンが槍を薙ぐ。
 狙いは、尾ではない。黒獣の体だ。
 脇腹に、オーディンから放たれた斬撃の衝撃波が叩き込まれた。
 
(´・ω・`)「……!」
 
 しかし、尾を断った槍撃は傷をつけることすら叶わず。
 風を切り裂いた赤い刃は、黒獣の肌に触れると甲高い音を放ち、力を失った。
 
(´・ω・`)(傷はない、か……やはり、聖剣の力が付加されているのか)
 
(´・ω・`)(だが、ブーンの攻撃を口で受けたのは何故だ……?)
 
( ^ω^)「……あっ!」
 
 ショボンがそう考えていた時、ブーンが声を上げた。
 未だ開け放っている口の、奧。
 何かを、見つけていた。
 
(´・ω・`)「ッ! 気をつけろ!」
 
 そのすぐ後に、ショボンが自世界の戦場で発するものと変わらぬ大声を、張り上げた。
 黒獣が初動を見せた。小さく足を曲げたのだ。
 何かしらの行動をとる。ショボンはそう直感していた。
 
142 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:27:00.80 ID:hlZ+Djy40
 
(;゚ω゚)「!」
 
 取った動きは、跳躍。
 黒獣は地を蹴り、中空にいたブーンを遥か越えた。
 その身の色の所為で夜の闇に紛れ、常人では視覚することが困難であろう。
 はっきりと見えていたのは、ブーンだけだった。
 
(;゚ω゚)(ヤバイ!)
 
 見えていたのは、黒獣の姿だけではなかった。
 天に手をかざすアンノウン。そして、上空に集うエネルギー反応。
 それが、しめすもの。
 
(;゚ω゚)(ツンの、最強の魔法……!)
 
 自世界で己の力を見せる為に放った、ツン=ヴィラートの召喚術。
 あの時と同じ反応を、彼のセンサーは感じ取っていた。
 自身の兵器と同威力の雷が、脳裏にフラッシュバックする。
 
(;゚ω゚)「みんな! 雷がくるおッッ!!」
 
 叫ぶ。対処する案は、浮かばない。
 彼には注意を促すことしかできなかった。
 
(;゚ω゚)(クソッ! BlueLazerCannonは再装填中!
     アンノウンの攻撃を妨害するのは間に合わない!)
 
(´・ω・`)「ブーン! 下がれッ!」
 
144 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:30:16.34 ID:hlZ+Djy40
 
 迷うブーンの耳に、力強き声が届いた。
 自分ではどうしようもない。だが、ショボンが何かを見出した。
 迷いを振り捨て、BLACK DOGに命じ地に降り立った。
 
(;^ω^)「って、どうするつもりだお……?」
 
ξ;゚听)ξ「大丈夫、ショボンさんに任せて」
 
(´・ω・`)「雷がくる、そう言ったな?」
 
(;^ω^)「だお。ツンが使ってた、最強の召喚術……」
 
(´・ω・`)「そうか」
 
 そう言って、ショボンはケルベロスに騎乗したまま、更に前へ出た。
 アンノウンの上空に黒雲がわだかまり、時折紫電が迸る。
 後数秒で、放たれることだろう。
 
(´・ω・`)『頼むぞ、オーディン』
 
 再び現れたペルソナ、オーディン。
 全能の戦神は空を見やり、その手に持つグングニルを高く掲げた。
 
川 ゚ -゚)「そんな槍で大丈夫か?」
 
(´・ω・`)「問題ない。大丈夫だ」
 
川 ゚ -゚)「逆だ!」
 
149 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:33:22.83 ID:hlZ+Djy40
 
 何が逆なのかショボンは分からなかったが、碌でもないことだろうと断じた。
 
 そして、閃光が空を覆う。
 
爪 ゚W〉《────ッ!》
 
ξ;><)ξ「っ……!」
 
 思わず目を閉じてしまう雷光が、撃ち落とされる。
 誰を狙っているわけでもない。
 周囲全てを灰燼に帰そうと、稲妻が迫る。
 
 その中心点で一際高く、オーディンが槍を構えた。
 
 稲妻が、槍に触れる。
 途端、耳を劈くような音と衝撃が周囲に拡がった。
 揺れる地に、一同は強く足を踏み締めて抗う。
 
 それだけ、だった。
 
 彼らを襲ったものは、音と振動だけだった。
 雷撃が彼らの体を穿つことは、なかった。
 
ξ;゚听)ξ「……ショボンさん……」
 
 ツンが目を開けると、そこには目を閉じる前と同じ。
 魔獣に乗ったショボン=ルージアルと、ペルソナの姿があった。
 ショボンは真っ直ぐに、アンノウンを見上げている。
 
154 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:36:43.27 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「……」
 
 ショボンの目に映る黒獣の姿が、次第に大きくなっていった。
 重力のまま落下しているのだ。
 そのまま黒獣は、ショボン達から少し離れた場所へ地鳴りと共に着地した。
 
(;^ω^)「尻尾が……」
 
 四つの尾は、当初のサイズに戻っていた。
 先端は切り取られたままの断面を残している。
 
川 ゚ -゚)「しかしあいつ、雷をどうしたんだ?」
 
ξ;゚听)ξ「……多分、聖剣と同じ。雷を無効化した……」
 
川 ゚ -゚)「そんなことできんの?」
 
ξ゚听)ξ「ショボンさんのペルソナの特性だと思う。オーディンは雷が効かないみたい」
 
川 ゚ -゚)「なるほど。ケルベロスに火が効かないのと同じ道理か」
 
ξ゚听)ξ「うん、そうだと思う」
 
 同じ『魔』を知るクーは、理解が早い。
 だがショボンはそうではなかった。
 異能の力など、全く触れた事がなかったのだ。
 
ξ゚听)ξ(さすがショボンさん……ペルソナの力をもう理解してる)
 
156 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:40:03.48 ID:hlZ+Djy40
 
 それを知るツンは、感嘆するしかなかった。
 一度は弱さを見せたショボンだったが、それすらも別の形へ昇華させた。
 
 真の強さへと。
 常に高みを目指し、強くある為に生きてきたショボン。
 彼にすれば当然のことだったが、戦いに身を投じてまだ日の浅い彼女とは、やはり違う。
 
 それを知っているからこそ、彼女もまた、戦いの意識を高めるのだ。
 
ξ゚听)ξ(……そういえば、クーの仲魔ってペルソナにそっくり……)
 
 相違点と言えば、自我を持ち、自ら動くこと。
 横に立つオルトロスなどは彼女の仲間、ジョルジュのペルソナに酷似している。
 ふと、ツンはそんなことを思いながら、アンノウンを見つめていた。
 
(´・ω・`)(使ったな……力を)
 
(´・ω・`)(黒獣から出ている本体には、聖剣の力が及んでいないのか)
 
(´・ω・`)(聖剣の"無効化の力"を付加すれば無敵だが、同時にこちらを攻撃することもできない……か)
 
(´・ω・`)(……いや、必ずしもそうではないはずだ)
 
( ^ω^)「ショボンさん」
 
(´・ω・`)「ん……どうした?」
 
( ^ω^)「あのバケモノが僕のレーザーを呑み込んだ時……見えたんだお」
 
159 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:43:11.68 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)「見えた?」
 
( ^ω^)「喉の奥に、聖剣が見えたお」
 
(´・ω・`)「……なるほど」
 
 やはり体内に取り込んでいたか、と確信した後に、新たな疑問が浮かび上がる。
 
(´・ω・`)(なぜ、わざわざ口を開けて聖剣で受けたんだ……?)
 
(´・ω・`)(力が体に付加されているのなら、そんなことをする必要はないはずだ)
 
川 ゚ -゚)「つまり、のどちんこが聖剣なの?wwwwww」
 
(;^ω^)「まぁ、位置的にはそうだお」
 
川 ゚ -゚)「珍妙奇天烈なヤツだな」
 
(´・ω・`)「…………」
 
 必要な情報以外は、右から左へと流していた。
 ショボンはアンノウンを倒すことだけに、全力を注いでいる。
 無論それは、全員が同じ事なのだったが。
 
ξ゚听)ξ「……聖剣を奪うことは、できないんでしょうか?」
 
川 ゚ -゚)「ああ、私も同じ事を考えていた」
 
162 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:45:43.92 ID:hlZ+Djy40
 
( ^ω^)「確かに、聖剣を奪えば無敵効果も無くなるはずだお」
 
(´・ω・`)「…………」
 
 そう考えるのが、自然と言える。
 
 だが、ショボンにはそれが誘われているとしか思えなかったのだ。
 
(´・ω・`)「聖剣をさらけ出せば、俺達がそう考えると読んだのかも知れない」
 
(´・ω・`)「それこそが、罠だという可能性もあるはずだ」
 
( ^ω^)「じゃあどうしろって……」
 
(´・ω・`)「聖剣は破壊される事もなければ、それで破壊する事も出来ない」
 
(´・ω・`)「その推測に、アンノウンはその通りだと言った」
 
川 ゚ -゚)「手の内をさらけ出すあたり、やはりバカだったか」
 
(´・ω・`)「いや……それを鵜呑みにするのは危険だ」
 
(´・ω・`)「一つ、矛盾がある」
 
ξ;゚听)ξ「矛盾……?」
 
(´・ω・`)「ブーン、アンノウンと斬り合った時、聖剣で攻撃はされたか?」
 
164 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:48:27.47 ID:hlZ+Djy40
 
( ^ω^)「まぁ、何度か……」
 
(´・ω・`)「俺の時も、ノーマン達が攻めた時も、あいつは聖剣で斬撃を放ってきた」
 
( ^ω^)「そりゃ剣だし当然じゃないかお?」
 
(´・ω・`)「普通の剣なら、な。よく考えろ。何も破壊できない筈の聖剣で、何故斬ろうとする?」
 
(;^ω^)「あ……」
 
(´・ω・`)「……たった一つだけ、聖剣でも破壊……斬れるものがあるということだ」
 
川 ゚ -゚)「……人間、か?」
 
(´・ω・`)「そうだ」
 
(;^ω^)「……そんな都合いいもんかお……?」
 
(´・ω・`)「ならあの口に飛び込んで、聖剣を奪ってみるか?」
 
(´・ω・`)「聖剣の力が今までの認識通りなら、無傷で取ってこれるぞ」
 
( ^ω^)「遠慮します」
 
(´・ω・`)「まぁ、聖剣の力が獣の体全体に及んでいることも、まだ確定したわけじゃない」
 
ξ゚听)ξ「……でも、そんなに都合がいいってだけじゃ、ないかも……」
 

165 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:50:37.57 ID:hlZ+Djy40
 
 気が付いたのは、ツンだった。
 勿論ショボンも、彼女が達した結論に到達している。
 アンノウンは未だ静かに彼らを見つめていた。
 
爪 ゚W〉《(そこまで達したか……だが、それで手が変わるわけでもない……)》
 
爪 ゚W〉《(行き着く先は同じ……そこにあるのは、絶望だけなのだから)》
 
 既に月が、高い位置にあった。
 破壊者はそれを見上げる。
 まるで、思いを馳せるかのように。
 
( ^ω^)「……どういうことだお?」
 
 問いかけは、ツンに向けてだ。
 
ξ゚听)ξ「ブーンさんが言ってましたよね?」
 
ξ゚听)ξ「力の摂取方法は、強い人間の生命って……」
 
( ^ω^)「こっちの世界のツンがそう言ってたお」
 
川 ゚ -゚)「なるほどな」
 
ξ゚听)ξ「だから多分、聖剣で斬ることが、そうなんじゃないかな……?」
 
(´・ω・`)「その通りだろう」
 
168 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:53:33.11 ID:hlZ+Djy40
 
 それが矛盾から辿り着いた、答えだった。
 しかしその推測は、少しだけ間違っている。
 
 『召喚士を始めとする力を持つ人間の生命』
 この世界の召喚師ツン=ヴィラートは、そう言った。
 ブーンはそれを力ある者と解釈し、それを伝えたのだ。
 
 そしてそれを伝えたツン自身も、自己解釈というフィルターを通していた。
 正確には、そうではない。力ある者だけでは、満たされない。
 
 聖剣は言っていた。
 『主人公格』でなくてはならない、と。
 
川 ゚ -゚)「おk、ちょっと待てよ」
 
 戦い続けた彼らなら、その違和を感じることは、必然と言える。
 
川 ゚ -゚)「強いヤツなら別に私達じゃなくていいんじゃないか?
     ロマネスク然り、私が戦った爺様然り、力を持つだけなら他にいるんじゃないか?」
 
 それが、違和感。
 ブーンの言葉通りなら、クーが言ったことで事足りるはずなのだ。
 わざわざ異世界の戦士たちの力を試す必要もないはずだ。
 
 全てを打ち消すのは、あの鍵語でしかない。
 
(´・ω・`)(力を持つ者……それが、主人公格……?)
 
 アンノウンが時折口にしていた、主人公格という言葉だ。

169 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:56:02.12 ID:hlZ+Djy40
 
 聖剣を得たアンノウンは、それを知る。
 聖剣に触れたこの世界のブーン達はそれを伝えられていたが、消えてしまった。
 
 加えて、もう一人。
 アンノウンの力に触れ、意識を見た者がいたのだが……。
 
(´・ω・`)「!!」
 
 距離にして、ショボンらと三十歩ほど離れた位置で対峙する黒獣が、動いた。
 頭を低くし、獲物に襲いかかるような態勢だ。
 離れていても巨躯が有する威圧感が、彼らに叩きつけられ────
 
 黒獣の前方に大きな魔方陣が出現した。
 それと同時に、両脇から押し潰す様に、左右二本ずつの尾が、迫る。
 
(;^ω^)「ッ! 膨大なエネルギー反応が……さっきの比じゃねーお!」
 
(´・ω・`)「気をつけろ!」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「仔僧、ついてこい」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ワカッタ! アンチャン!」」
 
 魔獣に騎乗するショボンとツンは、右方へ向かった。
 
川 ゚ -゚)「よし、乗せろ」
 
(;^ω^)「もう乗ってんじゃねーか!」
 
173 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 00:58:41.20 ID:hlZ+Djy40
 
 BLACK DOGに搭乗しているブーンの隣──座席部分に──左足で立ち。
 右足で彼の肩を踏み付けてから、クーが言った。
 文句を言いながらも、ブーンはBLACK DOGを変型させて空へと舞い上がる。
 
ノ)) - 从「…………」
 
|||゚ - ゚||「ノーマン! 何をしているのですか!?
     ライドウ様の忠実なる魔として、ライドウ様を追いかけなくては!」
 
ノ)) - 从「……よくしゃべる奴だ」
 
 二人の魔も、BLACK DOGに追従。左方へと駆ける。
 
 黒獣の前方に浮かんだ魔方陣。
 クーとその仲魔達だけが、それに見覚えがあった────
 
 
──地下迷宮──
 
 罅に覆われた氷塊は、中のシースルーの姿を視覚することが出来ない程になっていた。
 ぴしり、ぴしり、と、未だその数を増やしていく。
 
176 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:01:27.01 ID:hlZ+Djy40
 
( ФωФ)「……彼奴は、こう言っていた」
 
(*゚ー゚)『ん?』
 
( ФωФ)「“資格ある者”、とな」
 
(*゚ー゚)『…………』
 
( ФωФ)「余を相手取って見定めるとは、嘗められたものだな」
 
( ФωФ)(だが────……)
 
 今封印を解かれ、現世に再び現れようとしている者は。
 千年前に死闘を演じ、漸く相打ちに至った存在だ。
 
 それが、目覚める。
 
 一際、大きな音がした。
 黒獣の首が現れた時と同じ、厚い硝子板を盛大に叩き割ったような音が、木霊した。
 音の発信源に立つのは、ロマネスクが予想していた者の姿。
 
(* − )「…………」
 
 紛う事無き、勇者シースルーだった。
 少し湿った髪が目を覆い隠し、瞳の色は窺えない。
 何を思っているのか、どこを見ているのかすら、ロマネスクには分からなかった。
 
178 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:03:51.27 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『うわ、さすが私wwwwww可愛いすぎるwwwwww』
 
(;ФωФ)「こいつは……」
 
 目の前に立つシースルーは、彼の記憶に残る姿そのままだ。
 この展開に、ショボン達が話していたあることを思い出す。
 
( ФωФ)「たしか、アンノウンが何やらこういう力を使うと言っていた」
 
(*゚ー゚)『“異世界の住人を具現化する”ってヤツ?』
 
( ФωФ)「聞いていたのか?」
 
(*゚ー゚)『見てたよ。聞いてただけじゃなくて』
 
( ФωФ)「ふむ……そうだ。もし、その類だとすれば────」
 
(*゚ー゚)『ロマネスク』
 
( ФωФ)「……なんだ?」
 
(*゚ー゚)『残念だけど、その可能性はないんだよね〜』
 
( ФωФ)「…………」
 
(*゚ー゚)『私が霊体としてここにいるから、そう思うのも分かるよ』
 
(*゚ー゚)『でも違う。私が一番分かってるから』
 
182 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:13:52.30 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『だ・か・ら。私はそれを伝えに現れたってわけ』
 
( ФωФ)「…………そうか」
 
(*゚ー゚)『気をつけな。ロマネスク』
 
 
(* ー )「────……」
 
 
(*゚ー゚)『アレは私、そのものよ』
 
 閃光。
 霊体のシースルーの言葉を皮切りに、実体のシースルーから何かが、放たれた。
 ロマネスクが素早く身を屈め、頭上を何かが通り過ぎていく。
 
 それは後方の壁に当たり、筒状の穴を生み出した。
 
(*゚ー゚)『見た見た!? あれ”レイ”だよ!!
     スッゲー奇麗じゃん!! さすが私テンション上がるー♪」
 
(;ФωФ)「……」
 
 千年前の記憶が、昨日のことのように彼の脳裏に浮かび上がる。
 人の身でありながら、魔王たる自身と互角以上に渡り合った。
 それをさせたのは、光魔法という比類無き魔術だった。
 
 それがまた、千年の時を超えて再び立ち塞がっている。
 
184 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:16:48.91 ID:hlZ+Djy40
 
( ФωФ)「なんというか、またお前と闘うことになるとはな」
 
(*゚ー゚)『ねwwwwww運命感じちゃうね?wwwwww』
 
(;ФωФ)「何を言ってるのだお前は……」
 
(*゚ー゚)『冗談だよばか』
 
 そんなノリのシースルーに、邪魔をしにきたのかとロマネスクは思った。
 実体のシースルーが両腕を大きく広げ、何かを唱え始める。
 
(;ФωФ)「ッ!」
 
 呪が進むに連れて、大きな力がシースルーへ集っていく。
 体の表面が薄い光の膜に覆われ、光り輝いていた。
 その背には放射状に光の束が広がっている。
 
 ロマネスクにはそれが、翼のように見えていた。
 
(*゚ー゚)『“光の翼”! なんて美しいの……さすが私!』
 
 身体能力を劇的に高める光魔法を施して、実体のシースルーが地を蹴った。
 光の羽毛が舞い上がり、力を失い掻き消える。
 それをロマネスクが確認した時には、既に眼前に迫っていた。
 
( ФωФ)「むう!」
 
 およそ十数歩の距離を、一瞬で詰めていた。
 

185 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:21:00.79 ID:hlZ+Djy40
 
 霊体のシースルーが言う光魔法は、名称まで知らずとも戦いを通じて知っていた。
 
(* ー )「ッ!」
 
 眼前で踏み込み、掌打を繰り出した。
 勇者と言えど人間の、しかも女の一撃など、ロマネスクにとっては脅威ではない。
 だが、シースルーには光の翼による身体強化の恩恵がある。
 
 まともに受ければどうなるかも、知っていた。
 
( ФωФ)「ッ!」
 
 下から突き上げるような一撃を、身を引いて躱した。
 鼻先を通りすぎた掌から見えない力が放出され、天井に突き刺さる。
 触れた瞬間、或いは直前で圧縮させた魔力を撃ちつける技だ。
 
( ФωФ)「ちぃ……!」
 
 ロマネスクが指を鳴らした。
 それに呼応し、シースルー周辺の空気が凍り付いていく。
 アンノウンが使った魔術だが、これは元々ロマネスクの力である。
 
 常人であればあの時のショボンのように、忽ち体温を奪われてしまう。
 しかし、光の翼を纏っているシースルーは、違った。
 身体強化だけでなく、魔力への耐性も格段に上がっているのだ。
 
( ФωФ)(やはりか……!)
 
190 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:24:08.52 ID:hlZ+Djy40
 
 以前の戦いでも、それは防がれていた。
 試しに撃ってみた。それだけのことだ。
 
 
( ФωФ)(シースルーの言う通り、か)
 
 次々に繰り出される突き、蹴りを捌きながら、思考する。
 千年前に戦ったシースルーそのものというのなら────
 己の力は、彼女に届かないと言う事になる。
 
 一つの呪法、以外は。
 
( ФωФ)(……また使うしかないのか……)
 
 エターナル・フォース・ブリザード。
 自身すらも千年の封印に閉じ込めた、ロマネスクが持ち得る魔術の中で最も高位の力だ。
 尤も、アンノウンがいなければ更に永い時を眠っていたことだろう。
 
 それこそ永遠と言える時を。
 
( ФωФ)(……だが)
 
 過去に使用したことは、後悔していない。
 だが、今はロマネスクの心に蟠るものがあった。
 アンノウンの存在だ。
 
( ФωФ)(シースルーを止めても、後の戦いがまだ残っている……)
 
193 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:28:08.78 ID:hlZ+Djy40
 
 異世界の戦士達が、戦っている。
 しかし彼らが打ち勝つかどうかは、わからない。
 ロマネスクは、自分の力で少しでも勝利に貢献できれば、と考えているのだ。
 
 ロマネスクがこの世界の住人であることも関係していた。
 全ての世界の危機であるということは、この世界の危機でもあるのだ。
 エターナル・フォース・ブリザードを使えば、結果として異世界の戦士たちに丸投げしてしまうことになる。
 
 かつての彼なら、そんなことは毛ほども考えなかった。
 魔族の世界を創ること決心し、人間達に矛を向けた。
 しかし、彼は変わった。一人の人間が、変えたのだ。
 
 その事に彼は、自分自身でまだ気が付いていない。
 
( ФωФ)「……シースルー」
 
 問いかけた。
 どちらのシースルーとも言わずに。
 
(* − )「…………」
 
 実体のシースルーは、返事をせず。
 ただただ同じ様に、攻撃を繰り出すのみだった。
 
(*゚ー゚)『呼んだ?』
 
 幽体であるシースルーは、ロマネスクにも実体のシースルーにも触れられない。
 ロマネスクの少し後方で、悠々と展開を見守っていた。
 
196 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:31:50.61 ID:hlZ+Djy40
 
( ФωФ)「あ、あぁ、シースルー」
 
 連続して見舞われる実体のシースルーの攻撃を難なく躱していくロマネスク。
 攻撃そのものは強力だが、ロマネスクは躱しやすいとさえ思っていた。
 自我が離脱している所為か、シースルーが放つ打撃は単調だったのだ。
 
 だが、隙を突いて力を放っても、光の翼を打ち破ることはできない。
 別の突破口を見出そうと、幽体のシースルーへ続き問いかけた。
 
( ФωФ)「何かないのか? お前しか知らない弱点のような」
 
(*;゚ー゚)『私の体を探る気……? このスケベ魔王!!』
 
(;ФωФ)「真面目に答えろ!」
 
(*゚ー゚)『はーいはいっ……って、そう言われてもねぇ』
 
( ФωФ)「っと……、自分のことだろう?」
 
(*゚ー゚)『考えられるとしたら、力を使い続けることによる疲労……かな』
 
(*゚ー゚)『でもこれは多分、無理。何故なら私がここにいるから』
 
( ФωФ)「…………」
 
 シースルーが言っていることの意味は、すぐに理解した。
 単調な攻撃を繰り返すその様は、まるで傀儡といった印象を彼に与えている。
 だからこそ、シースルーの言葉に同調したのだ。
 
198 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:34:45.50 ID:hlZ+Djy40
 
 脳が体力の限界を感じようとも、操られているのであれば動き続けるだろう。
 
( ФωФ)(だが、限界が来る前に何かしらの手を打つだろうな……)
 
 体が悲鳴を上げれば、傀儡と言えど動作は鈍り制限されるだろうが、
 そうして自滅する前に、アクションを起こすに違いないと考えていた。
 つまり、更に強力な光魔法をだ。
 
( ФωФ)「操られているとすれば、その元を断つのが早いが……」
 
(*゚ー゚)『アンノウン、か。ま、難しい話だね』
 
(;ФωФ)「お前はどっちの味方なんだ」
 
 アンノウンを倒せば、このシースルーは止まるであろう。
 だが、シースルーの実力はロマネスクが最もよく知っている。
 元の場所に戻る事は簡単だが、二人を相手取ることは、彼も避けたいところだった。
 
(*゚−゚)『アンタさー、変わったね』
 
(;ФωФ)「…………?」
 
 何が、と彼が聞き返す事は、出来なかった。
 実体のシースルーが、変化を見せたからだ。
 
 大きく後方に跳躍し、また何かを紡いでいる。
 
( ФωФ)「あれは……」
 
201 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:38:39.39 ID:hlZ+Djy40
 
 光の翼は、纏ったままだ。
 その前方に、彼女の小さな体を覆い尽くすほどの魔方陣が生まれていた。
 
(*;゚−゚)『うーわ、Va-lthって……光の翼を纏ってアレを使うって、無茶苦茶するなぁ』
 
( ФωФ)「やはりあれはそうなのか……」
 
 ロマネスクが知る限りで、シースルー最強の一撃と思われる光魔法。
 それが、“Va-lth”という力だった。
 
 ロマネスクの背丈ほどもある魔方陣が、強く発光し始める。
 光の魔力を、その中に閉じ込めているのだ。
 千年前も、ロマネスクはその力に手を焼いた、が。
 
( ФωФ)「やってみるか」
 
 ロマネスクが両腕を広げ、同じ様に魔力を前方に結集させる。
 蒼と白の粒子が渦を巻き、巨大な物体を形作っていく。
 
(*゚ー゚)『お! 何すんの!?』
 
 当時の戦いで、シースルーには見せなかった力だった。
 
( ФωФ)「如何に強力と言えど、何度も見れば突破口は見える」
 
 自信に満ちた表情で、そう言った。
 魔力によって生まれたものは、巨躯である彼のまた数倍はありそうな、氷の壁だった。
 一見すれば、ただの氷。しかし、魔王の魔力を帯びたそれが、ただの氷であるわけがない。
 
203 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:44:26.26 ID:hlZ+Djy40
 
 厚みは高さとほぼ同じ。
 壁というよりは、巨大なキューブ状の氷塊と呼ぶべきだろうか。
 それよりも特筆すべきは、その表面。
 
( ФωФ)(よし……)
 
 果たして、最新鋭の機械を用いてもここまで精巧な『面』を造ることができるであろうか。
 彼が創りだした氷塊はそれほどまでに、一面が“真平面”と言える四面体だった。
 
(* − )
 
 実体のシースルーは、無論それを見据えているはずだ。
 眼前の魔方陣には変わらずに魔力が集束しつつある。
 氷塊を避けて放出することは不可能な段階にきていた。
 
(* ー )
 
 実体のシースルーが、笑みを浮かべた。
 上等だと言わんばかりに。
 その直後、魔方陣は完成に至る。
 
(* − )「────Va-lth」
 
 閃光一閃。
 巨大な魔方陣から極太のレーザーが、放たれた。
 光ったと知覚した時には、既に到達している。究極の光魔法が。
 
(;ФωФ)「ッ────!」
 
205 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:47:50.00 ID:hlZ+Djy40
 
 発動には、少しの時を要する。
 その時に直線上から逃げ切れば回避は間に合う。
 だがそれだけでは、実体のシースルーの打倒に至らないのだ。
 
 光の翼による耐魔性能は、ロマネスクも嫌と言うほど熟知している。
 あれを打ち破るには、己が持つ最大級の術法しかないことも。
 そこで今回、彼が取った手段が────
 
(;ФωФ)「……少しばかり無茶だったか……?」
 
(*゚ー゚)『いいセンいってたけどね〜。惜しかったよ』
 
 精巧に造られていたのは、表面だけに非ず。
 その実は内側にあった。
 
 アクリルのような平面であるにも関わらず、反対側を透して見る事が出来なかった。
 透明度が低いというわけでなく、内側が複雑に構成されている為だ。
 
 光魔法は魔力を介し生まれる光であることを、利用しようとした。
 ロマネスクは光の屈折を利用し、そのまま反射させようとしたのだ。
 単純な平面体だけでは、光は透過してしまう。
 
 その為に内部を細工し、屈折を以て跳ね返そうと。
 
( ФωФ)「やはり跳ね返す事は難しいか……」
 
 巨大な氷塊はその身の七割ほどを溶かされ、或いは破砕されていた。
 破壊に至る手前で上方に屈折し、天井近くの壁を貫いていた。
 

206 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:51:27.28 ID:hlZ+Djy40
 
 過去の戦いで、単純な厚みだけの氷壁で防ごうともしたが、不可能だった。
 熱量に耐えることもできず、脆くも崩れ去ってしまったのだ。
 
(*゚ー゚)『如何に強力と言えど、何度も見れば突破口は見える!』
 
(;ФωФ)「う、うるさいわっ!」
 
 わざと声を低くして、ロマネスクの声真似をしたシースルー。
 即座に突っ込んだ瞬間も、彼は実体の彼女から視線を逸らさずにいた。
 
( ФωФ)「あの厚みでもだめか……熱量もやはり、相当な物だな……」
 
( ФωФ)「衝撃と熱に耐えるために魔力でコーティングしたというのに……」
 
(*゚ー゚)『その努力が虚しく散った理由は、実に簡単』
 
( ФωФ)「む?」
 
(*゚ー゚)『そんだけ強いのよ。光魔法ってのは』
 
(;ФωФ)「…………」
 
 さも、当然のように言った。
 しかしシースルーの口調から慢心や自負などをロマネスクが読み取ることはなかった。
 今回と過去の戦いで、シースルーの言葉を認めることしかできなかったのだ。
 
 そしてまた、実体のシースルーから閃光が走る。
 
208 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:55:04.13 ID:hlZ+Djy40
 
(;ФωФ)「ぬぅッ!」
 
 ロマネスクは即座に屈んで、それを躱した。
 今度はすぐに、追撃があった。
 先に見せた“レイ”の、連続射出だ。
 
(;ФωФ)「チッ!」
 
 左右に跳躍し、或いは小さな氷壁を出現させて防ぐ。
 レイ程度の魔法なら、魔力を集中して練らずともそれで防ぐことが出来ていた。
 だが、反射となるとそれなりに時間を要する。
 
(;ФωФ)「む、と、と、むっ!」
 
 その時間を与えてはくれなかった。
 最も厄介と言えるのはその速射性と、連射性能だ。
 ロマネスクは次々と撃ち出される光線を躱すことで、手一杯だった。
 
(;ФωФ)「むぅ……光魔法とは一体なんなのだ!?」
 
 過去も今も、魔王たる自分が、攻め倦ねている。
 矜恃を折られる現状に、理解の及ばぬ力に向けて、ロマネスクは八つ当たった。
 回答など求めていない。誰に言うともなくただ叫んだだけのことだ。
 
(*゚ー゚)『はっはー。我ながらすごい魔法を編み出しちゃったわ♪』
 
(;ФωФ)「こいつ……」
 
211 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 01:58:12.06 ID:hlZ+Djy40
 
 完全に他人事なシースルーは、けらけらと笑っていた。
 ひたすら回避行動を続けるロマネスクの後方を、漂いながら。
 
(*゚ー゚)『ロマネスク。それでもアンタは、こいつを倒さないといけないんだよ』
 
(;ФωФ)「む、ほ……っと……どういうことだ?」
 
(*゚ー゚)『アンノウンを倒すには、絶対に必要なのさ。アンタの力が』
 
(;ФωФ)「……シースルー?」

 飛び交うレイを躱しながら、ロマネスクはちら、とその顔を見る。 
 笑みを絶やさぬ顔は相変わらずだったが、真剣味が増しているような。
 そんな表情のままで、大きな瞳を真っ直ぐに己の体へと向けていた。
 
(*゚ー゚)『見定める、そう言ってたんでしょ?
     癪なのはわかるけど、だったらとっとぶちのめて、アンノウンもぶちのめす!』
 
( ФωФ)「…………」
 
 シースルーは、何かを知っている。
 先程から彼女の言葉は、それを匂わせるものばかりだ。
 そう思った彼は、ひとまず彼女を喋らせることにした。
 
(*゚ー゚)『しかーし! 私は強いわよ。きばんなさい』
 
( ФωФ)「……それは知っている」
 
214 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:01:18.55 ID:hlZ+Djy40
 
 光線は尚も止まない。
 ロマネスクはそれを撃ち続けるシースルーを見た。
 
(* ー )
 
 聞こえる声と同調しているような笑みを浮かべていた。
 
(*゚ー゚)『蘇ったってどーせすることないんだし、がんばれがんばれ−!』
 
(*゚ー゚)『ね、昔みたいにバカなことしてるより、有意義でしょ?』
 
(# ФωФ)「ッ────! シースルー……!」
 
 一瞬、ロマネスクの瞳がかつての魔王の、それになる。
 魔族の世界を創る為、人間を虫けらのように殺戮していた、あの頃の。
 彼自身、いつの間にか忘れてしまっていた感情だった。
 
(*゚ー゚)『ほらほら、戦いに集中しないと死ぬよ?』
 
(# ФωФ)「…………」
 
 この女の魔力は無限にあるのか。
 ロマネスクがそう思うほどに、レイは止まなかった。
 一応は“Va-lth”を防げた為に、消耗するのを待つのも手か、と彼は考えていた。
 
 それは甘かったかと、考えを改め始める。
 

215 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:04:54.58 ID:hlZ+Djy40
 
(*゚ー゚)『アンタは基本的に、いいヤツなんだよ。自覚ないだろうけど』
 
( ФωФ)「魔王にいいも悪いもあるものか……」
 
 シースルーの本意は分からないが、目障りにしてもただの霊体なのだ。
 触れることができなければ、触れられることもない。
 もとより放っておくしか、彼にはできなかった。
 
(*゚ー゚)『正義ってヤツは、定義によって変わるんだけどさ』
 
(*゚ー゚)『私の定義じゃぁ、アンタはいいやつカテゴリなのよ』
 
( ФωФ)「……そうか。是非とも除外してくれ」
 
(*゚ー゚)『照れてんの?wwwwww』
 
(;ФωФ)「違うわ! 少し黙らんか!」
 
 シースルーの軽いノリに、ロマネスクは調子を狂わされっぱなしだ。
 同じ笑みを浮かべているとはいえ、実体シースルーは必殺の魔法攻撃を仕掛けてくる。
 そのギャップが、更に彼の調子を狂わせているのだった。
 
 しかし、傀儡とも言える実体の彼女がそんな表情をしていることが、気にかかった。
 かつて戦った、記憶の中にいるシースルーも同じ様に笑っていた事を、思い出す。
 
(*゚ー゚)『でもやっぱり、アンタ変わったわね〜』
 
 そう言ったシースルーの口調は、先程までとはどことなく違っていた。
 
218 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:09:32.25 ID:hlZ+Djy40
(*゚ー゚)『今のアンタとなら、うまいことやっていけたと思うんだけど。惜しいなぁ』
 
 表情はそのままに、次は間違いなく少し調子を落として言葉を吐いた。
 放たれる“レイ”は、彼女の口調と裏腹に勢いは衰えず。
 まるで、見せたくないものを隠すように。
 
( ФωФ)(……うまいこと……か……)
 
 彼女の言葉に、彼の心の中で同調する想いがあった。
 それはまだ、胸の内に留めていた。
 
(* ー )
 
 光を放ち、傀儡は踊る。
 
 実に満たされた笑顔を咲かせて────
 
 
 
 
 ──インビジブル城・王の間──
 
 
 風を切る、いや、抉る音を立てながら二尾が迫る。
 二人と二匹の魔獣へと。
 
(´・ω・`)『むんッ!』
 
 ペルソナ・オーディンが神槍グングニルを一閃。
 赤い衝撃波が突き進み、迫り来る二本の尾を両断した。
220 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:12:41.78 ID:hlZ+Djy40
 
(´・ω・`)(アルファベットを振るうようにした方が、力が入るな)
 
 ペルソナを使用する時の諸注意を、ツンに訊いていた。
 力を行使する時、彼にはこちらの方が合っているようだった。
 
(´・ω・`)「ケルベロス、このまま突っ込んでくれ」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「承知した。仔僧! 遅れるなよ!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「合点! アンチャン!」」
 
(´・ω・`)「ツン! 危険を感じたらすぐに下がれ!」
 
ξ;゚听)ξ「は、はい!」
 
 後方では慣性のまま地を滑り、黒の粒子を巻き上げて尾の先が掻き消えた。
 切断された尾はすぐにまた長さを伸ばし、ショボンらに襲い掛かる。
 黒獣まで、丁度半分までの地点にきていた。
 
 ──左方、ブーンとクーも同じように黒獣へ向かっていた。
 
(;^ω^)「あの魔方陣……とんでもねぇエネルギーが集まってるお!」
 
 近代科学の結集、BOON-D1の視界ではそれを示すデータが羅列していた。
 
川 ゚ -゚)「それよりもまずはシッポだシッポ」
 
(;^ω^)「わかったから蹴んじゃねーお!」
 
223 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:15:34.80 ID:hlZ+Djy40
 
 ブーンの肩に乗せた足を上げ、頭をげしげしと踏みつけて言う。
 広大な地下迷宮をともに攻略した二人は、いいコンビになっているようだ。
 
川 ゚ -゚)「ノーマンは……よしよし、ちゃんとついてきているな。さすが」
 
( ^ω^)「最初はうさんくせーと思ってたけど、『魔』ってのも身体能力ぱねーお」
 
川 ゚ -゚)「当然だ。私の仲魔を甘く見てもらっては困る」
 
( ^ω^)「ついてこられるかなんて、ノーマンの心配はしなくてよさそうだおね」
 
 勿論、クー・フーリンもついてきているのだが、見事にハブられていた。
 元々クーは彼を苛めていたのだが、ブーンもいつの間にかそうしていた。
 
川 ゚ -゚)「くるぞ!」
 
( ^ω^)「突っ込むだけのシッポなんて今更こわかねーお! グレネード!」
 
 右手首を折り曲げて出現した砲門から、球型カートリッジが打ち出される。
 充填数は三発までだが、構わずに連射。すぐにまた補充する。
 同じ箇所を狙い撃たれた尾はその身を断たれ、地に落ちた。
 
(;^ω^)(さすがに、エネルギーもカートリッジも残り数減ってきたお……)
 
 アンノウンとの戦いも、これまでの戦いも熾烈を極めたものだった。
 BLACK DOGに積んでいるカートリッジも、充填されているブルーエネルギーも、限界が近かった。
 
 セントラルは名前こそ似ていたが、文明は根本から違う。
 例え街が壊滅していなくとも、エネルギー補充には端から期待していなかった。

224 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:18:50.31 ID:hlZ+Djy40
 
 まだ一本、尾は残っている。
 
ノ)) - 从「シィッ!!」
 
 猛るノーマンが放つ、剛気と、剛刃。
 
 残像が黒の帯を引き、漆黒の旋風が生まれたような錯覚を周囲に感じさせた。
 突進の推力と遠心力、隆起する筋肉を最大活用させ巨剣を振り抜く。
 尾と接触すると、コンクリートを爆撃したように肉とも思えぬ黒の破片が飛び散った。
 
 ノーマンの鉄剣は、斬ることに重きを置いていない。
 叩き潰す。その一点のみだ。
 
 その、生まれた傷に向けて、
 
|||゚ - ゚||「つあああッ!」
 
 八相発破。阿修羅の如き刺突が、繰り出された。
 ノーマンが残した傷跡に三十の槍が的確に抉り、深度を進めていく。
 そして尾は、二本になった。
 
 つまり、切断されたのだ。
 
|||゚ - ゚||「見ましたか! これぞ力と技の融合と言えるでしょう!!」
 
 ゲイボルグを高々と掲げ、勝ち鬨をあげる。
 ノーマンは無視して走り去り、BLACK DOGも遙か前方へ進んでいた。
 自分が置いていかれていると自覚して、クー・フーリンは焦って走り出すのだった。
 
226 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:21:21.25 ID:hlZ+Djy40
 
爪 ゚W〉《(……大分、慣れてきたか)》
 
 尾を撃破し、自身に迫るショボンらを見ていた。
 更に尾で追撃するも、悉くを打ち落としている。
 果たしてその言葉は、彼らのことを指しているわけではなかった。
 
 アンノウン、自分自身のことだ。
 異獣と化し、今いる世界の力を行使する。
 それ以前に、まだ肉体を手に入れて日が浅い。
 
 追い詰められたように見せかけ、敵に希望を見せる。
 それを残酷に握り潰すことで、敵に絶望を与える。
 彼はそう言っていたが、戦いに慣れる為ということも、少しだけあった。
 
 この場を制した後、飛び立つ他の世界でも戦いは起こる。
 その時は聖剣の力がチャージされているだろうが、それを使うだけというのも味気ない。
 この戦いはいい機会だ、とも思っていた。
 
爪 ゚W〉《(これ程までに主人降格が集うことは、もうないだろうがな)》
 
 最初で最後の大戦。そんな予感がしていた。
 つまりこれに勝てば、自分を止める存在は有り得ないというわけだ。
 彼にしても、この戦いは大きいものだった。
 
 その感情は、ロマネスクが抱いていたものに近いかもしれない。
 しかし、根本の部分で違う。アンノウンの目的は、まだ何も達成されていないのだから。
 
爪 ゚W〉《(……もはや凍れる魔王を待つこともあるまい)》
 
230 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:26:21.85 ID:hlZ+Djy40
 
 できるだけ多くの力をと思い、ロマネスクにも試練を与えた。
 それがどうやら戦うことに迷いを感じている様子を、察知していた。
 しかし、アンノウンはもはや興味も失せたようだ。
 
 魔方陣が、一際大きな光を発する。
 この世界最強の光魔法が、完成した。
 
爪 ゚W〉《さぁ、足掻け! 異世界の主人降格たちよ!!
     その先には絶望しか残されていないことを知れ!!》
 
 神の一撃、Va-lthが発動する。
 出現した魔方陣の直径と同じ規模のレーザーが射出される、はずだった。
 
川;゚ -゚)「やべぇ! 避けろ!!」
 
(;゚ω゚)「おおおおおおおお!!」
 
ノ)) - 从「…………!」
 
|||;゚ - ゚||「ッ!!」
 
 実際に放たれた光魔法は、魔方陣の倍はあろうかという極太のレーザーだった。
 触れずとも全員が直感で悟る。巻き込まれれば、命はないと。
 
 いかに幅があろうとも、直線的なレーザーだ。
 横へと躱せば、巻き込まれることはない。
 但し、一瞬の遅れが、命取りになるのだが。
 
(´・ω・`)「凄まじいな……ツン、怪我はないか?」
233 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:29:20.46 ID:hlZ+Djy40
 
ξ;゚听)ξ「だ、大丈夫です……オルトロスは……?」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「アッブネー! 尻尾ガ焦ゲタゾ!!」」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
 オルトロスの安否を確認した後、ツンの背にいい知れない悪寒が走った。
 後ろを、振り返ったからだ。
 
(´・ω・`)「……」
 
 ショボンは後方を一瞥しただけで、すぐに前を向いた。
 尾が部屋を破壊した時、後方にはまだ壁があった。
 それが円状に大きく抉られていた。
 
 その先に連なる城壁も、屋根も、直線上にあったもの全てがだ。
 
ξ;゚听)ξ(なんて力……あんなのに当たったら……跡形も……)
 
 驚愕しているのは、彼女だけではない。
 
(;^ω^)(……SixBarellの全力放射並の……いや、貫通力ならそれ以上……)
 
川;゚ -゚)「これほどの力……私の世界でも思い出すのが少し難しいな……」
 
爪 ゚W〉《クク……少し、強すぎたか》
 
 体を吹き飛ばしてしまったら、聖剣を突き立てることができない。
 当然それを理解してVa-lthを使ったのだが、躱されることも読んでいた。
235 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:31:57.93 ID:hlZ+Djy40
 
 ただ単に、力の差を見せつけようとしただけのことだった。
 しかし彼らとて、それだけで諦めるような者たちではない。
 
(´・ω・`)(やはり聖剣を奪うことが鍵になるか……)
 
(´・ω・`)(聖剣があれば、俺たちの攻撃は届くはずだ。逆に防ぐことも容易になる)
 
(´・ω・`)(だが、口の中か……厳しいな……)
 
 
( ^ω^)「あの上半身、力を使ってるけど、攻撃通じるんじゃないかお?」
 
川 ゚ -゚)「その可能性はあるな。幾らか攻撃を防いでいたが、防御しただけかも知れん」
 
( ^ω^)「ショボンさんが言ってたことが当たってるなら、
      無効化する力だけを適用するってのは、無理だろうし」
 
川 ゚ -゚)「恐らく、無理だろうな。聖剣では破壊できないし、聖剣を破壊できない、じゃない。
     二つで一つだ。破壊されないように作られた結果、何も破壊できない。どっちが欠けても成り立たん」
 
( ^ω^)「そう言われるとわかりづれーけど、ニュアンスは汲み取れるお」
 
川 ゚ -゚)「思うに、体内の聖剣を奪うよりは、あの本体を潰した方がラクそうだ」
 
( ^ω^)「確かに。注意するべきは魔法だけでよさそうだし、シッポは別に……」
 
 そう、言いかけた時だった。
 四つの尾が、突如として天高く舞い上がった。
 その身を、縦に割りながら。
237 : ◆iAiA/QCRIM :2010/12/26(日) 02:34:45.66 ID:hlZ+Djy40
 
(;^ω^)「シッポは別に……避ければ……って……」
 
川 ゚ -゚)「まじかよこれ」
 
 一つが、二つに。二つが、四つに。
 巨大な柱を彷彿とさせる直径を持つ尾は、その身を細くしていった。
 数を、増やしながら。
 
 縦に裂けて、分裂を繰り返す尾は、もはや尾とは言い難い。
 常人では数を把握することができない、触手へと変貌を遂げた。
 ブーンのセンサーだけは、その過程を分析し、数を弾き出している。
 
(;^ω^)「七回分裂! 一本が百二十八本になりやがったお!」
 
 太さを考えると、それが限界だったのだろう。
 それでも、一本一本の太さは人の指よりもまだ太い。
 夜の闇に蠢く触手は、異形の姿を更に不気味なものへと変えていた。
 
ξ;゚听)ξ(……ドクオさんの時と……同じ……)
 
 ツンの脳裏に浮かんだのは、それだった。
 同じく異形と化したドクオと、同じような状況。
 酷似している点は触手の一点だけだったが、あまりにも似ていた。
 
ξ;゚听)ξ(まさか、ドクオさんの時もアンノウンが……)
 
ξ;゚听)ξ(でもあの箱は……私の世界の……)
 
 彼女が見た共通点は答えに届きそうで、届かない。

 

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