10 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:33:35.60 ID:i1ZurmDZ0

( ;゚ω゚)「アンノウン!」

 前触れ無く発生した黒い円。
 ブーンの頭部に搭載された情報処理システムの記憶素子と演算装置が、
 この黒い円を「過去に記憶した空間湾曲に類似している」と提示したのは、一瞬の事。
 セントラルで発生したそれとは規模と形状こそ異なるものの、発生初期のパターンは酷似していたのだ。

( ;゚ω゚)「ツン! ショボン!」

 故にシステムの回避プログラムが働き、ブーンは最も素早く攻撃に反応できたが、
 「ペルソナ」という能力以外は単なる少女であるツンは成す術無く円に捕まってしまう。
 彼女を救出しようと手を伸ばしたショボンも、今まさに引きずり込まれてゆこうとしている。

 ブーンは咄嗟に駆け出す。同時に、BLACK DOGを地上から空中へと退避させる。
 しかし黒い円は、サイボーグの肉体が追いつけないほどの速さで二人を完全に包みこみ、
 ブーンが手の届く位置に着く頃には、黒く、歪な塊と化していた。

( ;゚ω゚)「くっ、でも生体反応はまだあるお!」

 スキャンを起動するが、闇は内部を覗く事を許さない。
 それでも熱と音を拾う高感度センサーに反応はある――切開するしかない!
 ブーンはBBBladeを引き出し、腰溜めに構えた。

( ;゚ω゚)「今そこから出して――」

 いざ、黒い塊を切り裂こうとした時である。
 黒い塊は急速に元の円の形に戻り始め、遂には石畳の隙間に染み入るようにして消えてしまった。
13 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:38:55.51 ID:i1ZurmDZ0

川;゚ -゚)「消えた!? 何処に!?」

 クーは2人が消えた場所へ駆け寄りながら叫ぶ。右手には退魔刀が握られている。
 二人の気配を懸命に探るが、感じるのは黒い塊が残した禍々しい気配のみ。
 ブーンもまた、声や体温、呼吸や鼓動など、彼等を現実的な面から探るが、
 半径にして100メートルの範囲でそれらを捉える事は出来なかった。

 彼等はここから消えてしまった……いや、恐らくアンノウンに連れ去られたのだろう。
 二人がそう予想した矢先、再び黒い円が地面に出現した。
 しかも今度は多数だ。文字通り、足場も無い状況に立たされる。

 ブーンは空中に待機させておいたBLACK DOGに飛びつき、
 アンノウンの攻撃を回避したのだが、

    ⌒ ⌒ ⌒
   _⌒⌒__
  /::::::::::::::::::::::::::/
  /::川∩゚ -゚)∩/  やべえwwwwwボッシュートされるwwwwwwwww
 /::::::::::::::::::::::::::/  チャラッチャラッチャーン


 一方でクー。彼女はツンよりはマシだろうが、やはり身体は生身が為に攻撃を受ける。
 「オルトロス」とかいう化物を繰り出す間も無かったと、ブーンはセンサーを介して分かっていた。
16 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:42:10.00 ID:i1ZurmDZ0
 それにしてもだ。
 何故かクーは楽しそうな表情をしているというか……思わず舌打ちしてしまう。
 腹立たしい気分に犯され、彼女の救出を躊躇ってしまったが、
 空も多数の黒い円に侵食された今、ブーンも完全に逃げ場を失っていた。


川 ゚ -゚)「キカイダーwww助けてくれwwwwwwwww」


(;^ω^)「……ええい! どの道逃げ場が無いんなら!」


 感じの悪い女だが……。

 あちらの世界では稀少な「生きている人間」をブーンが見過ごせるはずがなく、
 BLACK DOGと共に、クーを飲み込んだ黒い円に飛び込む――――……‥
18 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:46:20.34 ID:i1ZurmDZ0



                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃
物語のページが( ^ω^)´・ω・)゚听)ξ 川 ゚ -゚)応えるようです
                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃
                   ┃【Cross part:Rebirth of Lord】
. .━━━━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━
                   ┃
                   ┃
                   ┃

19 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:49:28.61 ID:i1ZurmDZ0


「――おい。おい、目を覚ませ、キカイダー」


(;^ω^)「おっ!?」

 原因は不明だがシステムがフリーズし、自分自身も気絶していたようだ。
 その両方が回復するや否や、ブーンは咄嗟に飛び起きて銃を構える。

川 ゚ -゚)「安心しろ、我々以外に何かがいる気配は無い」

 と、クーが言い終えた直後、ブーンは天に銃口を向ける。
 我々を吸い込んだ黒い穴だ。と気づいた瞬間、黒い円は渦を巻いて消え去った。

川 ゚ -゚)「あの黒い穴を介して、ここにワープさせられた。あれ自体に殺傷能力は無いらしい」

 アンノウンの良い様に遊ばれているような気がした。
 それに、システムが検知する情報に踊らされた自分が情けない。
 ブーンは恥ずかしさを覚えると共に、銃を下ろした。

( ^ω^)「……心配かけたお。ツン達も無事だと思うけど、見事に分断されちまったお」

川 ゚ -゚)「うむ。それでだ……光が一切射さない事から察するに、
    どうやら我々は地下に飛ばされてしまったようだ。城の地下だと思うのだが……」

川 ゚ -゚)「キカイダー。お前の銃で天井に穴を空けられんか?」
22 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:54:04.85 ID:i1ZurmDZ0
 些か強引な手段のように思えたが、反対する理由も無い。
 試してみる価値は大いにある。
 こくりと頷いて、ブーンはBLACK DOGの武器庫から貫通力に富んだSniperを取る。
 右腕一つの作業に歯痒さと苛立たしい気分を覚えながら組み立て、
 色々積もった鬱憤を晴らすのも兼ねて、天井に撃ち出した。

 石造りの天井に弾丸が直撃する手前、あの憎たらしい黒い円が瞬時に現れる。
 蒼い煌きがブラックホールを思わせる空間の中に吸い込まれると、
 黒い円はまた渦を巻いて消え去った。
 天井には、穴の一つも見当たらない。

(#^ω^)「くそったれ!」

 鬱憤は晴れるどころかますます募る。ブーンは苛立ってSniperをぶんと振り下ろした。

川 ゚ -゚)「是が非でもアンノウンは、我々を“あちら”に進ませたいらしいな」

 クーの視線の先にある物を、とうにブーンも目にしていた。
 門。それは10メートルにも及ぶ巨大な石柱を左右に構えた、未知への入り口……。
 その鉄製の門は半開きであり、内から冷たい風を漏らしていた。
24 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 19:58:42.73 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「あーやだやだ」

 その風音、不気味な程太く低く、まるで亡者の声のようである。
 デビルサマナーという職柄、人一倍その手の気配に鋭いクーは、
 肌で風から伝わる危険性を察知していた。

( ^ω^)「……何がだお?」

 クーは、傍らで理解できぬような風に眉を顰めるブーンに向け、呆れるように溜息を吐き、

川 ゚ -゚)「分からんか? ならば魔を知らぬお前が理解できるように言ってやる。
     お前の世界にもゲームくらいあるんだろう? ……イベントバトルというやつだ。
     奥にはいるぞ、敵がうじゃうじゃとな」

 クーがそう言うものの、ブーンの捉えられる物は全て現実的な数値である。
 門の向こうから生物の反応は一切伝わって来ないのだ。
 確かに、先ほどデビルサマナーの力というものを目の当たりにしているが、
 しかし彼女の言う「魔」とやらはどうにも信用ならなかった。

( ^ω^)「……さっさと突破して、アンノウンの下に向うお」

 ブーンは適当に分かったような振りをして、愛機に近づく。
 その態度が、クーの癇に障った。
27 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:01:58.79 ID:i1ZurmDZ0
川 ゚ -゚)「おい貴様、私に偉そうに指示すんじゃねえ。
     そんな態度で私に指示していいのは、愛する無敵の退魔師ショボン様だけだ」

川 ゚ -゚)「貴様に妖気や魔の気配を捉えられるのか? 無理だろう。
     従って、ここではデビルサマナーの私がだな――」


(#^ω^)「知るかっつーんだおオカルト女!」


 言い切る前に怒声に遮られ、そして黒く巨大なバイクが唸りを地下に木霊した。
 更に小馬鹿にするように、土埃を上げて目の前を横切られた。

川#゚ -゚)「……あンのクッソヤロウ、オカルト女だとぉ……?」

 コートや髪に付着した埃すら無視し、クーは封魔管を取り出す。

川#゚ -゚)「オルトロス!」

∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「ウワ! ライドウ! オッカネエ顔!!」

 封魔管から呼び出されたのは金色の魔犬オルトロス。
 オルトロスは主が怒り狂っている様子が面白くて仕方ないのか、
 硫黄臭い息を漏らしてケタケタと笑っている。

川#゚ -゚)「うるせえ! さっさとあのクソヤロウを追うぞ!
     生意気な奴め! ブーンって奴はどの世界でも生意気なのか!?」

 __
31 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:06:15.96 ID:i1ZurmDZ0

( ^ω^)(魔だか妖気だか……訳のわからん講釈はもううんざりなんだお)

 門を潜り、暗闇の中を轟音を立てて疾走する。
 ヘッドライトを点ける必要は無い。
 街灯やネオンが点灯していないゴーストタウンを歩くのと同じように、
 双眸に埋め込まれた暗視装置を起動し、デジタルなグリーンカラーの世界を視界に作り出す。

 そうして暗闇は暴かれ、やはりというべきか、ワープ前の回廊と瓜二つの回廊が現れた。
 中世ヨーロッパのゴシックやロマネスク建築に習って建てられたかのような作りだ。
 左右にずらりと立ち並ぶ巨大な円柱。円柱はアーチを横断させ、アーケード構造を作り出している。

 朽ちていても洗練された回廊に黒犬の疾走音が反響して轟音と化す。
 BLACK DOGの頑強なタイヤが黴だらけのレッドカーペットを焼き尽くし、
 暗い回廊に僅かな光を齎している。

 そんな荒々しい走行音に混じり、今度は比喩ではなく、本物の犬の足音が集音装置に入る。
 BLACK DOGの後部カメラを利用して、ハンドル部に埋め込まれたモニターに映し出す。
 オルトロスと、クーだ。

( ^ω^)(あの胡散臭い犬に乗って来たかお。でもBLACKDOGに着いて来れるわけがない。
      迷宮の内部が不明なだけにぶっ飛ばして行けないから、この速度で行くしかないんだお)

 それからブーンは気にも留めず、ただ前を見据えて前進する。
31 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:06:15.96 ID:i1ZurmDZ0

( ^ω^)(魔だか妖気だか……訳のわからん講釈はもううんざりなんだお)

 門を潜り、暗闇の中を轟音を立てて疾走する。
 ヘッドライトを点ける必要無い。
 街灯やネオンが点灯していないゴーストタウンを歩くのと同じように、
 双眸に埋め込まれた暗視装置を起動し、デジタルなグリーンカラーの世界を視界に作り出す。

 そうして暗闇は暴かれ、やはりというべきか、ワープ前の回廊と瓜二つの回廊が現れた。
 中世ヨーロッパのゴシックやロマネスク建築に習って建てられたかのような作りだ。
 左右にずらりと立ち並ぶ巨大な円柱。円柱はアーチを横断させ、アーケード構造を作り出している。

 朽ちていても洗練された回廊に黒犬の疾走音が反響して轟音と化す。
 BLACK DOGの頑強なタイヤが黴だらけのレッドカーペットを焼き尽くし、
 暗い回廊に僅かな光を齎している。

 そんな荒々しい走行音に混じり、今度は比喩ではなく、本物の犬の足音が集音装置に入る。
 BLACK DOGの後部カメラを利用して、ハンドル部に埋め込まれたモニターに映し出す。
 オルトロスと、クーだ。

( ^ω^)(あの胡散臭い犬に乗って来たかお。でもBLACKDOGに着いて来れるわけがない。
      迷宮の内部が不明なだけにぶっ飛ばして行けないから、この速度で行くしかないんだお)

 それからブーンは気にも留めず、ただ前を見据えて前進する。
34 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:09:25.59 ID:i1ZurmDZ0
 長き回廊を走り抜け、大聖堂の内陣を思わせる開けた場所に出る。
 左右には二つの木造の門がある……行く先は左右二通りに別れた。
 仕方なくブーンは停止し、どちらに進むべきか考える。
 一先ず煙草を咥えて、周囲を観察した。

 鳥篭のように丸みを帯びた構造で、天井は高い。
 壁一杯に張られたステンドグラスの数々は装飾として採用されたのだろうが、
 いずれもヒビが入っており無残な姿となっている。
 壁に沿って等間隔で設置された燭台に、キャンドルは無い。

 並べられた燭台の中心、あるいはドーム状の天井の真下に祭壇がある。
 祭壇の真後ろには、不気味で巨大な絵画が掛けられている。
 城の主、若しくは建築者からすれば、内陣の美的効果を演出するのは
 このモチーフだと言いたいのかもしれないが、

川 ゚ -゚)「不気味な奴だな……にしても悪趣味な野郎がいるもんだ」

 少しばかり遅れて到着したクーがそう呟いた。
 クーは夜目がよく利き、ブーンほどクリアには見えないものの行動に問題は無かった。

 反りの合わぬ彼女だが、ブーンはクーと同感であった。
 絵画の人物はえらく猫目で、あまり人間的ではない。
 むしろセカンドや妖魔に近いと、各々感想を胸にこぼす。
37 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:13:08.43 ID:i1ZurmDZ0
( ^ω^)「この城の……主の絵かお……?」

 だとすれば、この城に仕える者達がさぞ狂信的であったか、
 主が絶対的な権力を持っていたに違いないだろう。
 どちらにしろ絵画を含む全体像が宗教的で、この世界の歴史や宗教を何も知らぬ2人は、
 ここがカルト集団の根城であったのかも、などと想像を掻き立てるのだった。

川 ゚ -゚)「その詮索はさておき、キカイダー、今我々が注目すべきは他にあるぞ」

 見ろ、そうクーが顎で示したのは祭壇だった。正確には祭壇に伏す何かだ。
 祭壇に掛けられた色褪せた赤い布に横たわる白色……あれは白骨化した死体だ。
 その手には剣が握られている。騎士だったのだろうか。
 他にも、とクーは周囲に注意を促す。よく見れば、壁際、床に、ガイコツが横たわっていた。

( ^ω^)「あれがどうだっつーん……」

(;^ω^)「だ……お……?」

 熱センサー、集音装置が感知。
 生体反応に近い。何処だ? 位置は近い。近いどころか、目の前で……。

(  ω )「……死体が生き返るなんて、胸糞悪い冗談だお」

 最後に両側頭部に備えるアンテナ型の対物感知センサーが反応し、
 白骨死体から動作を感知した。

 2人の侵入者に気づかれたと悟ったのだろうか。
 祭壇の骸骨が突然忙しなく動き出し、双眸を赤く妖しく光らせる。
 黴だらけの足で祭壇に立ち、脆そうな細腕で重厚な剣を一度振って構える。
 それを合図にしてか、内陣に眠る骸骨達が一斉に起き上がった。
40 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:16:18.13 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「ほう、ゲームで言うザコてk――」

 クーの俗っぽい言葉は爆音が遮る。
 ステンドグラスが蒼い光を反射し、祭壇を鬱蒼と照らした。
 祭壇には、首を無くして今度こそ永遠の眠りについた騎士が。

川#゚ -゚)「…………」ビキビキ

 ブーンの銃撃に怒りを覚えたのはクーだけではない。
 骸骨騎士達もまたガチガチと歯を鳴らして怒気を示し、剣を構えてブーンに殺到した。

 当のブーンは余裕で、未だ煙草などを吹かしていた。
 骸骨騎士達の動きは意外にも素早く、ブーンは一気に五つの剣戟を頭部、腕部、胸部に受ける。
 だが、飛んだのはブーンのパーツやオイルではなく、折れた五つの剣。
 切れたのはせいぜい彼の羽織る黒いロングコートくらいである。

 唖然としている素振りを見せる骸骨に向けて煙草を吐き捨て、
 そして蹴りで薙いだ。煙草の火種と共に、破砕した五つの首が粉雪のように宙を舞った。


(# ω )(ふざけんな! こんなファンタジーめいた現象、一瞬で蹴散らしてやるお!)


 背後で待ち構えていた骸骨騎士達はたじろぐ。
 恐ろしい形相をしている一人の剣士に、だ。
 ブーンは蒼く輝く刃を手に、骸骨の群れへと身を投じた。
42 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:18:55.16 ID:i1ZurmDZ0


川#゚ -゚)「オルトロス……」


 双頭の魔犬に跨るクーはブーンを見据え、妖刀赤光葛葉をゆらりと抜く。
 右手でコルトライニングも構え、刀を持つ左手でガチリと撃鉄を起こす。

∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉) 「アノ金髪ノ仔僧! マル齧リ シテイイノカ!?」

 遂にオレをペット呼ばわりした生意気な仔僧を喰らう時が?
 そう期待したオルトロスは嬉しそうに尾を振るが、

川#゚ -゚)「それも悪くないがオルトロス、アイツの邪魔をしてやれ」

 オルトロスは少し不満そうに息を吐くも、主の望みを叶えんと立ち回る。
 まさに剣を振り下ろさんとするブーンの目の前に現れてやると、
 ブーンは大きく舌打ちしてピタりと手を止めた。

 クーは下卑た笑みを浮かべてブーンを見下ろし、
 横取りした獲物をコルトライニングで仕留めた。
 バラバラに飛び散った骨は全てが氷に包まれている。
46 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:22:31.73 ID:i1ZurmDZ0

(#^ω^)「どけお! 邪魔すんな!!」

川#゚ -゚)「私にえらっそうに指示すんじゃねえ!」


 内陣の中心で、黒い風が二つ暴れ狂う。
 無慈悲なまでに骸骨どもを解体し、無造作に骨を床に散らす。
 頭蓋の二つの窪みからは赤い光は消え、ガチガチと歯を鳴らす事すら叶わなくなった。

川#゚ -゚)(こいつ、アンノウンに強い憎しみを抱いているらしいな)

川#゚ -゚)(アンノウンを倒してショボン達の行方を知りたい、と気が逸っているようだ。
     それは私も同じだから良いとしても……私を蔑ろにしようとするのは許せん)

川#゚ -゚)(自分一人でやってやる、ってのが見え見えなんだよキカイダー。
     デビルサマナー葛葉ライドウ、クー様をなめんじゃねえ!)

 刀の扱いは苛立ちを発散するかのように荒々しい。
 それに呼応して、オルトロスは主人を乗せて内陣を激しく駆け回る。
 しかしクーの剣戟と銃撃は正確であり、次々に骸骨騎士を無力化させてゆく。

川 ゚ -゚)「フン、我ながら見事な火葬だ。本望だろ?」

 コルトライニングの銃口にふっと息を吹きかけ、
 燃える内陣に対し冷酷に呟いた。
52 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:26:18.79 ID:i1ZurmDZ0

(#^ω^)「おい、どういうつもりだお? 何故邪魔した?」

 オルトロスから降りたクーに尋ねる。
 背を向けるクーから返答は無い。その態度にますますブーンは苛立つ。
 クーは自分を蔑ろにして、床に散らばる骸骨どもと虚空に目を行き来させている。

 何なんだ、こいつ。
 骸骨どもを一体残さず一掃したのにも関わらず、
 一向に刀を納めようとしないどころか切先を下げようとしない……クーは殺気立っている。
 それは魔を知らぬブーンでも見て感じ取れる、生きた人間の気配である。
 そんなクーを怪訝に思いながらも、ブーンは彼女を無視して城内探索に戻ろうと思い立つ。

 BLACK DOGに乗り込もうと踵を返した直後、動作を拾う。
 同時に風を切る音。咄嗟にブーンは体勢を低くしてクーの剣戟をかわした。

川 ゚ -゚)「ちっ、かわされたか」

 地を蹴って距離を取り、臨戦態勢を取る。
 作り物の顔面は怒りの表情を作り、ブーンは裏切り者に切先を向けて問う。

(#^ω^)「何をするんだッ――――」

(;^ω^)「お? ……おお? な、何だ……これ……?」

 憎いクーを忘れるほど非現実的な“何か”が、宙に複数いる事に気づく。
 それは輪郭こそ持つものの気体のように捉えどころが無く、
 黒々しい中身の中には無数の小さな輝点が蠢いていた。
56 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:29:27.08 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「魂、と言えば分かるか」

 「魂……?」、ブーンは首を傾げて繰り返す。

川 ゚ -゚)「お前が斬っていたのは単なる依り代に過ぎん。
     奴等の根本たる魂の破壊は退魔戦の一つであり、」

川 ゚ -゚)「我が赤光葛葉とコルトライニング、そして我が仲魔はそれを可能にする」

 背後に控えるオルトロスが得意そうに唸りを上げる。
 クーはオルトロスの仕草に口端を釣り上げた後、魔に向き合いなおった。
 緩んだ表情を締め、「次は外さん」、そう呟き、刀で浮遊する魂達を切り裂いた。
 逃げようと上空へ昇る魂に対しては、コルトライニングで撃ち抜いた。


 魂を全て無に還すと、クーは刀と銃を収め、ブーンの機械の目を睨みつける。

川 ゚ -゚)「キカイダー、貴様は生物に対する反応は良いらしいが、
     魔に関しては素人同然だな。気配のケの字も感じないとは」

川 ゚ -゚)「ああ見えて凶悪凶暴な霊だったんだ。素人同然の貴様なら、
     触れられただけで精神的に再起不能なダメージを受けていたかもしれん。
     いいか? この先、こういった敵がウジャウジャ出現してくるはずだ。
     私のデビルサマナーとしての勘がそう警告している。だから先走るんじゃない」
60 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:34:07.33 ID:i1ZurmDZ0

( ^ω^)「……魂を喰う暇も与えず、アンノウンの下までぶっ飛ばせばいい話だお」

川 ゚ -゚)「行く手も分からんこの城内をか?
     それを懸念して、貴様は最高速度を出していなかったように見えたが」

(;^ω^)「それは……」

川 ゚ -゚)「図星か。現に、この内陣から左右のどちらに進むべきかと足を止めていたようだしな」

 「ぶっちゃけ私もどっちに行けばいいか分からんが」とクーは胸中でごち、

川 ゚ -゚)「話が逸れた。まあともかくだ、あの手の強大な敵に妨害された時、
     貴様に突破できるのかと私は尋ねているんだ。んん? どうなんだ?」

 再び弱味を執拗に攻めると、ブーンは苦虫を噛んだような表情を浮かべた。
 逆に思考を探れないほど無表情なクー。その視線は実に冷徹に見えるし、
 これまでの侮辱行為に対し怒気を孕んでいるようにも見える。

 まるで刀の鋭い切先を向けられているようだ……。
 そんな気分に犯されるのをもう我慢できず、ブーンは遂に剣を下ろした。

(;^ω^)「……僕が悪かったお。ここからは協力プレイだお」

川 ゚ -゚)「うむ。ダンジョン攻略ってのはパーティを組んで楽に進むのがいい」
63 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:38:42.60 ID:i1ZurmDZ0

 「このゲーム脳め」、ブーンが罵ると、クーは不敵な笑みを浮かべた。


( ^ω^)「改めてよろしく頼むお、クーさん」

川 ゚ -゚)「お前の近未来の力、頼りにするぞ、ブーン」


 そうして結託した二人を賛美するかのように、ふと、ステンドグラスに暗い明かりが反射した。
 それは、あの憎たらしい黒い渦が発する、紫混じりの邪悪な光であった。
 突如出現した闇。二人は攻撃かと警戒するが、すぐに気を緩ませる。
 内陣から分かれた二つの道の内、左の門が隙間無く闇に閉ざされたのだ。

川 ゚ -゚)「右に進め、という事か」

(#^ω^)「本当にゲームかっつーんだお。どこまでも人を舐めたようなマネを……」

川 ゚ -゚)「ふん、大抵のゲームのシナリオってのは主人公が勝つもんだ。
     わざわざ道案内してくれた事を後悔させてやろうぜ」

 頷き、ブーンは右腕のランチャーを展開してグレネードで門を爆破させた。
 生じた穴は風の抜け道を作り出し、激しい水流の濁音を内陣に届ける。
 それが地下水である事は容易に想像でき、同時に、二人に此処が地下である事を確信させるのであった。

 __
66 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:43:18.45 ID:i1ZurmDZ0
 アンノウンに導かれた二人は、再び長い通路へと出た。
 円柱が立ち並ぶアーケード状の作りこそ同じであるが、
 両手には重厚な壁が存在せず、開けた場所となっている。
 円柱から見える内観は実に広大で、敵地だというのに二人は思わず目を奪われた。

 天蓋から釣り下がった巨大な篭の数々。篭の蓋は開いている。
 周囲を悠然と舞う骸骨鳥の群れを見て、彼等の鳥篭である事をすぐ悟る。

(;^ω^)「地下であんなでっけえ鳥を飼ってんのかお」

 信じられない光景であるが、下を覗き見て、
 我々が足をつけているのが広漠な空間の中央を貫く、一本の橋だという事に気づく。

川 ゚ -゚)「底がまるで見えんな……しかし凄い場所だな」

 アンデッドが蠢く死の地下迷宮である事に変わりは無い。
 ただ、水の流れと迷宮の構造は未だ生きて機能しているようだ。
 円柱状の空間を持つここは、内壁に地下水を張って芸術性を高めている。
 光と縁の無いステンドグラスのように、この流水もまた、単なる美的効果であろう。
 鳥篭に紛れて垂れるシャンデリアや、橋の左右に並ぶ燭台に明かりが灯されれば、
 さぞ美しい造形美を堪能出来ようものだが。
70 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:48:43.74 ID:i1ZurmDZ0

( ^ω^)「この先が元居た回廊に通じてるとは思えないお。
      アンノウンは、何の目的で僕達に迷宮を歩かせてるんだお」

川 ゚ -゚)「さてな。世界を消滅させようなんて企むサイコ野朗の考えなど想像できん」

川 ゚ -゚)「一つ言えるのは、穏便に済まぬという事だ。
     恐らく強力な霊や魔の類が待ち受けているだろうな」

( ^ω^)「ゲームのシナリオ通りなら、それで間違いなさそうだお」

( ^ω^)「……この先に生体反応や熱源反応は無いお。
      聞こえるのは風が抜ける音だけだお……ただ、妙に内部の温度が低いお」

川 ゚ -゚)「ほう、便利な機能を持ってるな」

( ^ω^)「魔の存在は捉えられないけどね」

川 ゚ -゚)「安心しろ。一先ず門の向こう側から気配は感じない」

 ブーンは安堵の息を吐き、残る右手を門に押し付ける。
 出力を一気に上昇させると、それまで固く閉ざしていた鉄の門がゆっくりと開いていった。

川;゚ -゚)「うおっ!?」

 突拍子無く溢れ出た冷気に、クーは思わず顔を苦悶に歪めた。

 垣間見える先は、凍りついた円形の広大な舞台であった。
74 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:51:41.55 ID:i1ZurmDZ0

(;^ω^)「なんだお……ここは……」

 凍りついた舞台に二人は足を踏み入れる。

 機械の身体故に寒さを厭わないブーンは、冷静に舞台を観察し始めた。
 僅かだが光がある故、まず、光源たる天蓋に注目する。
 遥か上方に張られたガラスの向こうに見えるのは、月。
 あそこから突破して地上に出る事を思いついたが、アンノウンがそれを許さないだろう。

 続いて注目したのは凍りついた床。
 氷ではなく、床に大きなヒビがいくつも走っており、これは破壊された物と推測できる。
 石造りとは言え、いくらなんでも老朽とは思えない。

 内周。先ほどと同じく、壁一面が地下水による流水で『装飾されていたようだ』。
 推測の域を出ないのは、この規模の流水が尽く凍り付いている為である。
 しかし水の落ち場を作り出している大きな溝に氷など張られておらず、一切の足場は無い。
 つまり飛行能力を持たない生物ならば、舞台から落ちれば一巻の終わりとなろう。

( ^ω^)(尤も、戦闘すればクーさんが不利、ってなだけだお。
      ここに微弱な生体反応や動作は無い……)

 と、クーを案じて横目を流して、ようやくブーンはクーが生身である事を思い出す。
 厚ぼったいコートに身を包んではいるが、耐え切れない寒さのはずだ。
78 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 20:58:00.85 ID:i1ZurmDZ0
 恐らくはこの先に居たであろう何者かの仕業であろうと、二人は容易に想像できた。
 真正面、遠くに見える、邪悪且つ面妖な人物の肖像を描かれた巨大な扉。
 肖像に顔は無い……破壊されたようだ。
 しかし門まで続いていたはず道は、どうやら落とされたようだ。

川 ゚ -゚)「ブーン、この先に何か居るぞ。一際禍々しい気配を感じる」

 魔に敏感なデビルサマナー・クーが緊張した声色で断言する。

( ^ω^)「アンノウン、かお?」

川 ゚ -゚)「かもな。だが……チッ、やはり簡単に先に通してくれそうも無い」

 突然、大気が震える。地震とも思えるとてつもない上下の振動が二人を襲う。
 舞台を覆う氷にヒビが走る。
 凍りついた流水が破砕し、水が爆発的に溢れ出す。
 激流と化した流水の装飾、しかしその流れを物ともせず、
 舞台と内壁の間の溝からどす黒い塊が現れた。

 魔について無知なブーンすらも禍々しさを覚える「それ」は、
 流水を浴び、ぴきぴきと耳障りな音を立てて流水を再び凍りつかせて、
 クーが依り代と呼んだ身体を構成させている。

《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!》

 それは産声か、それとも再生の感嘆なのだろうか。
 巨大な雄叫びを上げて、魔は「氷の骸骨」という依り代を成したのだ。
 10メートルにも及ぶ扉を上半身のみで覆い隠せるほど巨大。
 隻眼が開かれ赤き光を放ち、歪な口から冷気と共に歪んだ声をずんと響かせた。
84 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:02:16.43 ID:i1ZurmDZ0
( ‰゚) 《我が王の眠る迷宮に侵入せし者どもよ……生きては帰さんぞ!》

 対戦を宣言し、「魔」は右手を流水に入れる。
 ゆらりと引くと、流水から戻した手の中には柄が握られていた。
 「魔」は試すように握り直し、一気に引き抜く――巨大な氷刃を容赦無く舞台に滑らせる。
 一機と一匹の猛犬は咄嗟に飛び、凶刃を回避した。

(;^ω^)「おい! 気配は感じねーって言ってなかったっけ!?」


川 ゚ -゚)「知らん、お約束の中ボスだろ。ちょっと中ボスに見えねーけど」

( ^ω^)「中ボスだろうが何だろうが、こんな奴デケェだけだお。
      退魔戦のセオリー通り、依り代をぶっ壊して魂を叩く。それだけだお!」

( ^ω^)「BLACK DOG!」

 シートから飛び降りると同時、
 BLACK DOGの右サイドボディ――武器庫の一部を内臓して――が飛散する。
 BLACK DOGはバイクとしての形状を保ちつつ、オーナーの意に沿ってパーツを委ねたのだ。
 飛散したパーツ群は、失われたブーンの左腕の辺りに蒼色のマーカーを射出し、
 強力な磁石同士が引き合うが如く、集合する。

 視界の一部で文字が猛スピードで羅列する。

 左腕限定でのBLACK DOGU『アーマーシステム』起動。
 着装、神経接続及び電気系統接続を開始――完了。
 アーマーシステム開始――B00N-D1本体から電力供給を開始――左腕強制パージまで残り35m。
 システムディレイクとの同調を開始――データ更新完了。
 グレネードランチャー選択――左腕変形完了。
87 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:05:27.01 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「すげえwwwバイクの一部が腕になりやがったwwwww」

( ^ω^)b「依り代の方は任せとけお」

川 ゚ -゚)「元よりそのつもりだ。本体は私達がやる」

 銀管の一つを取り出し、封を解く。
 此度も麗しき主の剣となるべく、漆黒の剣士ダンピール・ノーマンが召喚された。

 直後、魔の氷刃が再度振り落とされる。
 ノーマンとブーンは一歩出、ノーマンは大剣を持って、ブーンは左腕で受け止めた。

川;゚ -゚)「うおっ、ナイスタイミングでノーマン召喚した!」

 悠長に自画自賛するクーに対して、ブーンは毒を吐く余裕は無かった。
 でかいだけと罵った敵だが、流石に巨躯に見合う怪力の持ち主である。
 足元に亀裂が入る程の圧力だ。さしもの二人も雄叫びを上げ、氷刃を跳ね返した。

(;^ω^)「あっぶねえ……ねえアンタ、人間に見えるけど、やっぱり違うのかお?」

 ブーンは、共に初撃を防いだ男に耳打ちするが、


ノ)) - 从「……オルトロス、喰いやすいようにカットしてやる」


( #゚ω゚)(シカトかよ……! 揃いも揃ってコイツら感じ悪いお!)ビキビキ

88 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:08:37.23 ID:i1ZurmDZ0

∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉) 「アアン? 最近ヨク喋ルジャネーカ! デモ余計ナ オ世話ダ!
          俺様ハ 生キタ奴ヲ丸齧リスンノガ 好キナンダヨ!」

 八つの目の内半分でノーマンの背を睨みつけるオルトロス。
 残る半分の目で敵対する骸骨の全身を舐めるように見回し、牙の隙間から煙を昇らす。

∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉) 「コレダケ デカケリャ 頭ガ2ツアル俺様デモ 満足!」

(;^ω^)「お前馬鹿かお? 体は1つだからどっちから食っても結局は同じじゃねーかお」

∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「仔僧 オ前ダケハ俺様ガ丸齧リシテ ブッ殺ス」

川 ゚ -゚)「おいおい、馴れ合うのは後にしてくれ。ちと手強そうな相手だ。集中しろ」

(;^ω^)「分かってるお! あー調子狂う! 行くお!」

 左腕で球型エネルギーカートリッジを放つ。
 頭部を狙った砲撃。それを合図に、全員が走り出した。
 巨人は極小の砲弾を刀身で受けたが、
 ブーンは甲高い破砕音と共に刃が砕けると想像し、不敵な笑みを浮かべた。
91 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:13:12.46 ID:i1ZurmDZ0
 が、想像する破砕音は鳴らない。
 口の端を下品に釣り上げたまま、ブーンは表情に焦りと戸惑いを混ぜて複雑にした。

(;^ω^)「マジかお……こりゃ、ドクオが知ったら落ち込むお」

 ブーンは瞬時に危険を察し、蒼の爆炎の全体を窺う。
 すると、炎の中で剣がゆらりと動いた動作を感知し、

(;^ω^)「全員飛べ!」

 咄嗟にそう叫んだ。
 炎から切先が現れると、クーもぎょっとした表情でオルトロスの髭を手前に引いた。
 横殴りに迫る分厚い氷の塊。グレネードを受けた事で刀身に無数のヒビが走っているが、
 それでもこの剣速と重量の攻撃を喰らえば、ブーンとてただで済む筈が無い。
 ブーン、オルトロス、ノーマンは一斉にジャンプして刃を飛び越えた。

川;゚ -゚)「あ、あっぶねえ……」

 眼下を一瞬で通り過ぎた巨大な刃に、クーは戦慄した。
 意外にも巨人の剣戟は鋭く、速い。熟練の剣士が放つ見事な太刀とすら、クーは思った。
 風圧で乱れたクーとブーンの頭髪がそれを物語っている。
 クーに至っては、吐いた息が尽く白くなる気温だというのに額には汗が浮かんでいた。

( ‰゚) 《お許しください魔王様! また貴方の迷宮に傷をつける事を……!》

 だが額を拭う間も与えられない。
 重圧感のある声を喉奥から響かせ、今度は縦に剣を振り下ろす。
 ブーンは後方で待機させていたBLACK DOGを呼び寄せる。
 空中走行モードで走り去ろうとするBLACK DOGに飛びつき、コクピットに身を収めた。

92 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:16:50.02 ID:i1ZurmDZ0

(;^ω^)(まずい……舞台ごと破壊するつもりかお!)

 ブーンが予想する通り、巨人は躊躇無く刀身を舞台に打ちつけた。
 凍結された舞台は音を立てて粉々に割れ、引力により底へ落ちてゆく。
 機械の黒犬は引力に逆らう事が出来るが、あの金色の化け犬はどうだ?
 鉄塊を持つ巨漢もだ。クーは、空を飛ぶ術を持ち合わせているのだろうか?

 底までの距離は3000メートルほど。
 オルトロスとノーマンならば生き残る事は可能かもしれないが、しかし這い上がれるか?

(;^ω^)「クーさん!」

 底に水が溜まっているのは集音装置を介して分かっている。
 人間のクーなら、溺れて死んでしまうはずだ。

川 ゚ -゚)「大丈夫だ! 問題ない! それより攻撃が来るぞ!」

(;^ω^)「っつっても!」

 クーを乗せたオルトロス及びノーマンは、無数に散った舞台の破片を
 次々に飛び移る事で何とか落下に抗っていた。
 問題ないと彼女は言うが、彼女はブーンが期待するような飛行能力を有する仲魔を繰り出そうとはしない。
 このままでは遅かれ早かれ瓦礫と共に底へ沈んでしまう!

 エンジン回転数を上げて彼女を救出したいが、しかし氷刃が行く手を阻む。

93 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:19:17.44 ID:i1ZurmDZ0

( ‰゚) 《おおお、お許しください魔王様。ああ、貴方が愛した舞踏の舞台を、
     今度こそ破壊してしまった……しかし私は貴方を永遠に護ると誓ったのです!》

 落下するクーに目もくれず、巨人は目の前で飛び交う小人を叩き落さんと剣と拳を振るう。
 赤の隻眼は素早いブーンの動きを正確に捉えているらしく、
 BLACK DOGのスピードを持っても情報処理システムは困難な回避行動を提示する。
 クーの救助に向う隙を与えられず、ブーンは苦渋を顔に浮かべた。

(#^ω^)「クソ! クーさん! 底で待っててくれお!
      こいつを黙らせてから救助に向うお!」

 底へと落ち行くクーに向って叫んだ。
 恐らく落下に抗っている最中であろうし、周りの濁流も喧しい。
 返事には期待せず回避行動に集中していると、ブーンにとっては古めかしい銃声が下方より鳴る。
 了解って事かお、そうブーンは捉えるが、すぐにそれを改める。

 弾丸は全く異なる役割を与えられていた。
 発射された五つの弾丸は激しい流水を突き抜け、宙に白色でラインを描いたのだ。
 弾丸が、氷の緒を引いているのだ。

 そうか、氷結弾と流水を利用し、空中に道を!
 ブーンが理解したと同時、更に三つの筋が流水より飛び出す。
 遅れて、クー達が氷の道を駆けて流水から姿を現した。

94 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:22:08.59 ID:i1ZurmDZ0
川 ゚ -゚)「だから問題ないと言っただろう。話を聞かない奴め」

 オルトロス、ノーマンが氷のラインの終端でジャンプする。
 一同は巨人の右肩に着地し、するとノーマンが先手を切って駆ける。
 オルトロスはノーマンに向けて炎を吐き、ノーマンは剣を振るって炎を刀身に纏った。

ノ)) - 从「フッ!!」

 巨人の首筋に、途方も無く巨大な剣が通る。
 深く穿たれた一文字形の切り口から灼熱の炎が走り、氷の肉体を内部から溶かす。
 皮一枚というところまで炎が首に行き渡ると、重さに耐え切れずに頭部が千切れる。

( ‰ ) 《ぐ、お……魔王……様…………》

 血や血管の代わりに、どす黒くも美しい輝きを持つガス状の物を勢いよく吹き出しながら、頭部は落下する。
 氷で成した巨人という容器の、その中身たる魂が全て放出されるのだろうか?
 天蓋に向って、止め処なく溢れる魂が上昇してゆく。
 ブーンはその様を唖然と見ている他無かった。

(;^ω^)「……全く働けてねえお。ま、いっか。エネルギーは節約できたお」

 あれは退魔の力を持たぬ自分にはどうする事も出来ないのだ。
 このままクー達が魂に引導を渡してくれるだろう。
 勝利を確信した矢先、依り代であった氷の巨人が音を立てて崩れる。
 クー達は依り代の崩壊を予感していたかのようで、既に元の氷の道に戻っていた。

川 ゚ -゚)「
ブーン! まだだ! まだ終わらんよ!」

 そしてクーは、愛刀「赤光葛葉」をノーマンに手渡し、こちらに向けて思い切り投げさせたのだ。
96 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:25:41.93 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「すまんが足場がこうも悪い! これだけデカイ魔を両断できるのは
     飛行可能なお前以外にいない! 任せたぞ!」

(;^ω^)「え、ちょ、マジかお!? 凶悪な怨霊に触られただけでヤバいっつったのアンタだお!?」

川 ゚ -゚)「ド素人が案ずるな! 安心しろ! 赤光葛葉がお前を護るはずだ!」

 急に、微弱ながらも天蓋から差し込んでいた光が途絶えた。
 依り代が魔を噴出して吹き溜まった天蓋を見上げると、魔が蠢いていたのだ。
 ただ不規則に蠢いているようではない。何かを、象ろうとしている。

( ‰゚)《私ハ コノ門ノ番人ダ! 私ハ絶対ニ屈サヌゾ!》

 躊躇して様子を窺っている内に、魔が、魂が、頭蓋骨を模った。
 円筒状の空間を隙間無く埋めるほど巨大な頭蓋骨は顎を上下に開き、
 ブーン達を飲み込まんと急降下を始めた。

( ;゚ω゚)「システムが反応しない!?」

 自身に芽生えた霊感が働き、機械で得た視覚情報を基に脳が骸骨のビジョンを作り出しているのだろう。
 これは生身の人間の視覚と全く同じ仕組みだ。
 だが対物感知センサーは魂を対象と認定しない。
 故に情報処理システムが骸骨の降下スピードを測定する事は不可能なのである。
 熱量も、音も、機械は確かに目の前に存在する骸骨から、何も拾わない。

 非現実的な光景と状況。それでも既に、己の精神的な要素がこの全てを現実と悟っている。
 ブーンは数多の戦闘経験に基づき、BLACK DOGの速度とクーとの距離、
 クーを救出して門まで逃げるまでの所要時間、骸骨の攻撃直撃までの時間を勘で推定する。

97 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:28:30.47 ID:i1ZurmDZ0

( ;゚ω゚)「だ、だめだ! 逃げれないお! こんなの僕には無理だお!」

 しかし退避は不可能。ブーンは戦慄する。

 「ナマ」である故に精神的な影響を受けやすい胃に気持ち悪さを覚える。
 吐きそうな気分だ。死の恐怖か? いや違う、そうではない。
 街で何度も味わった死の恐怖とは似て異なる恐怖だ。
 寒々しく、真に迫る何かが、自分の身体の中を駆け巡っている。
 身体がうまく動かない! 違う! 動かし方が分からない!

「おばけなんてなーいさ!」

( ;゚ω゚)「えっ!?」


川 ゚ -゚)「おばけなんてなーいさ! おばけなんてウーソさ!」


川 ゚ -゚)「おい! ノーマン! お前も歌え! ブーンを応援するんだ!」

ノ)); - 从「お……お……おばっ……」

川 ゚ -゚)「ノーマンwwwwwwwwwww」

 そのフレーズは日本生まれのブーンには聞き覚えがあった。
 いつ何処で聞かされた歌のフレーズだったか……分からないが、
 もはや思い出の中にしか存在しない日本語の歌は、ブーンに勇気を与えるのだった。
 失った冷静を取り戻すと、魔だの悪霊だのを語っていたデビルサマナーが
 おばけなんて嘘だと歌っているのが可笑しくなり、思わず噴出してしまった。
100 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:31:21.21 ID:i1ZurmDZ0

 赤光葛葉を握り直し、正眼に構えた。
 BLACK DOGがエンジンに火を入れ直すように、大きく吼える。


( ゚ω゚)「おばけなんてッ――――」


  刀が放つ赤光がブーンに纏う。



( ゚ω゚)「怖くないお――――――――!!」


 BLACK DOGのバーニアンが爆発的に噴射し、瞬時に最高速度へ達する。
 退魔刀を突き出すようにして構えるブーンは骸骨に対し斜に切り込み、
 銀河を彷彿させる空間の中を疾走した。

 暗視を起動しても暗いままの視界。
 だが、確かな手応えを感じている。

 刃で暗闇を斬り進む手応えが消えると、先ほどよりも月が近くにあった。
 陽光に目を擽られて目覚めるように、月光を浴びて我に返ったブーンは後ろを見やった。
 それまで充満していた魔は一切も存在せず、空間に月の光が行き届いていた。
 クー達の姿がはっきりと見える――拳を握って僅かに笑みを浮かべるクーが見える。

 ブーンは赤光葛葉を掲げ、それをクーへの勝利の報告と感謝の意とするのだった。
103 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:34:07.70 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「よーしよくやったー! だけど早く刀返せコラ!
     月をバックに気取ってんじゃねえ! 持ってないと落ちつか――」


 ―――――川;゚ -゚)―ゾクッ――――

 何かが今、駆け抜けた。酷く冷たくて強大で気配だった。
 気配は迷宮全体に広がり、滞留しているようだ。
 引いていた不快な汗が再び額を濡らす。
 オルトロスとノーマンも同じ気配を感じたようで、臨戦態勢を解こうとしない。

ノ)) - 从「……主よ……」

川;゚ -゚)「ああ……なんだ? 門の向こうから感じるこの気配は……?」

ノ)) - 从「パンゲアの連中でも、これほど巨大な気配を持つ者は少ないな……」

(;^ω^)「お? いきなり高エネルギー反応を検出……?
      急激な気温変化も現れた……もう魔だの霊だのは勘弁してくれお……」

 それぞれ洗練された第六感と機械が捉えた冷気。
 死霊なのか、それとも別の何かが?
 魔の専門家にも精密機械の持ち主にも特定する術は無いが、しかし確信していた。

 恐ろしい何かが、生まれたのだと。

 天蓋に見える月は、いつの間にか姿を消していた。
 この巨大な気配から逃げられる月を、クーは少し羨んだ。
105 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:37:08.29 ID:i1ZurmDZ0
  ※

 舞台の根下、最深部。
 流水が集合し、静かに排水される中、珍しくそれ以外の音があった。

 舞台とは約3キロ程の距離がある地底中の地底が故に、
 熟練のデビルサマナー葛葉ライドウことクーは
 氷の魔人を始めとする“彼等”の存在に気づけなかったのだ。

 舞台の底は、かつての戦士達の死霊が蠢く、迷宮の奈落と化していた。

 太陽が天蓋に姿を見せようとも光が届かぬこの奈落にて、
 水面の上で浮遊する彼等は念波で囁きあっていた。

 《オオ……コノ波動ハ……懐カシイ……コノ懐カシイ感ジハ……》

 《アア、我等ノ王ガ、遂ニ オ目覚メニナラレタノデス……!》

 《オオッ!!……シカシ、我等ハ……ソシテ、王ハ……》

 《ウム……嘆カワシキ事カナ……。
 王ヨ、貴方ガ永キニ渡リ眠ル間ニ、コノ世界ハ変ワッテシマッタ……。
 セメテ貴方ヲ守ル為、勇敢ニ戦ッタ戦士達ヲ、讃エテ下サレ……》

  __
108 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:40:17.71 ID:i1ZurmDZ0
  ※

 BLACK DOGに乗り込む為に、一度は封魔管にノーマンとオルトロスを戻したクーだが、
 地面らしい地面をようやく足で踏みしめると、再び魔を繰り出した。
 後ろは断崖絶壁、凍てついた門を前にして、錚々たる顔ぶれが並んでいる。

ノ)) - 从「……」

 自身の長身を凌駕する長剣を振りかざすハーフヴァンパイア、ノーマン。

∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「アンチャン 俺 腹減ッタ」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「仔僧、少しは我慢できんのか」

 双頭を持つ金毛の魔犬オルトロス。
 そして彼がアンチャンと呼び親しむ銀毛の魔犬、ケルベロス。

|||;゚ - ゚||「ライドウ様ぁ! 何故先ほどの戦いで私を呼ばなかったのですかぁ!?」

 魔槍ゲイボルグを片手に駄々をこねる戦士、クー・フーリン。

(;^ω^)「お前ら並ぶとすげえな。ホントに何の集団なんだお」

川 ゚ -゚)「そして、近未来の世界からやってきたサイボーグ、キカイダーブーン」

(;^ω^)「おいやめろ! こいつらと一緒にすんな!」
113 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:49:57.73 ID:i1ZurmDZ0
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「仔僧! サッキカラ我等ヲ コイツダトカ ペットダトカ!
          ホントニ 丸齧リ シテ 殺スゾ! 俺 腹ペコペコダシ!!」

川 ゚ -゚)「オルトロス、マテだ、マテ」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「何も知らぬ餓鬼が。
     我等は、現世に住まう下賤な人間が軽々しく口を利ける存在ではないぞ。
     ライドウの仲間でなかったら、とうに仔僧が食い殺してるところであったわ」

( ^ω^)「口が利けるなんて利口なワンチャンだと思うお。えっと、ケルベロスちゃんだっけ?
      君の方が難しい言葉を知ってるんだおねぇ。ほら、お手お手」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「……ライドウ、この餓鬼、殺してよいか?」

川 ゚ -゚)「悪いなケルベロス、こいつは異世界から来た人間なんだ。
    事が片付くまでちっと待ってやってくれ」

|||;゚ - ゚||「聞いてるんですかライドウ様!? 何故私をもっと早くお呼び下さらないのです!?
     この金髪ロンゲ野朗などより私の方がずっとお役に立てたはずです!
     ノーマン! お前からも進言してくれ! ライドウ様ぁ〜〜!」

(;^ω^)「さっきからコイツうるせえな。ノーマンもガン無視してるじゃねーかお」

川 ゚ -゚)「すまん、見ての通りウザキャラなんだ。今は猫の手も借りたい気分でね。
     あの門の向こう側で巨大な魔の気配を感じるもンでな」

 猫じゃないけど犬なら二匹も揃ってるじゃねーかお。十分じゃねーかお。
 だからせめてウザったいコイツを引っ込めてくれお……。
 と言うとまた面倒になりそうなので、ブーンは胸中でそう愚痴った。
118 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:55:01.74 ID:i1ZurmDZ0

( ^ω^)「馴れ合いはさておき……門の向こうに感じる存在って?」

 胡散臭い連中から目を移し、門を見つめるブーン。
 双眸や、頭部両脇に搭載されたアンテナ型のセンサーは確かに高度のエネルギーを感知し続けているが、
 情報処理システムは今までの記録に無い新たなデータを提示している。

 唯一判明しているのが、エネルギーの中心体が存在しているという事。
 その正体が魔なのか、モンスターなのか、あるいはアンノウンなのか……。
 判断をデビルサマナーであるクーに尋ねるが、しかし彼女も浮かない表情を浮かべ、

川 ゚ -゚)「分からん。が、霊体とは異なる気配だ」

( ^ω^)「では、生きた存在だと?」

川 ゚ -゚)「断言できんが、そうだろうな」

( ^ω^)「……アンノウンかもしれないお」

川 ゚ -゚)「まさかと思うがブーン、臆しているんじゃないだろうなぁ?」

( ^ω^)「まさか。僕は下らないゲームを早く終わりにしたいんだお。
      さっさとアンノウンを倒して、ツンを救いたいんだお」

川 ゚ -゚)「同感だ。しかしお前、元の世界に戻るよりツンを優先に考えてるのか。
     少しだけお前の事を感心したよ。意外に人情があるんだな、キカイダー」
121 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 21:57:32.19 ID:i1ZurmDZ0

( ^ω^)「人の事を機械みたいに言うなお。こう見えてもアンタと同じ人間なんだお」

川 ゚ -゚)「ちげーよ。お前の性格ひねくれてっから少しそれを改めただけ」

(#^ω^)「アンタに言われたくねえお……」

川 ゚ -゚)「でも私はお前の事、嫌いじゃない。愚直だが仲間想いの良い奴だと思うぞ」

(;^ω^)「ま、真顔でいきなり何を言い出すんだお!?」

川 ゚ -゚)「照れるなきもちわりい」

( ^ω^)「きもちわりいはコッチのセリフだお。
      ……でも僕も、アンタの事は嫌いじゃないお」

 面と面を向かい合わせる二人は、ニヤリと口を釣り上げた。
 地下に送られた数時間前は、こんなやり取りをする事とは二人とも考えもしなかった。
 現実的な存在であるブーン、非現実的な存在のクー。
 その二人の結託は氷の魔人を打倒し強くなり、そして巨大な気配と対峙する今、更に深まる……。

 深まる必要があると悟っているのだろう。
 彼等が互いに戦士である故、本能で。
125 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 22:00:46.44 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「……では、」

( ^ω^)「行くとしますかお」

 ブーンは右腕のBoosterを起動し、凍れる鉄の門を押して開ける。


 二人とも予想していた通りの冷風が一同を襲った。
 生身の人間であるクーが顔を顰めるだけで済んだのはショボンのおかげだ。
 着慣れた紺色のコートから感じる不思議な暖かみにクーは愛おしさを覚え、
 ぎゅっと袖を握り締めた。

川 ゚ -゚)(この世界のショボン……私は必ずこの戦いに勝利し、再びお前と会おう)

 風を受けて靡く二つの布切れ。
 額を飾る一つは黒く、右腕に巻かれた一つは紅い。
 スネークの遺志を今一度心に戒め、そして消えたツンの行方を是が非でも知ろうとブーンはリボンに誓う。

(#^ω^)(アンノウン……お前だけは絶対に僕が討つお……!)

 門は開き、一面が隙間無く凍りついた広大な間が現れる。
 凍りついた王座があるが、そこに鎮座する者はいない。
 だが王の間の中心で膝を付く者がいる――アンノウンか!? 全員が一斉に構えた。
128 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 22:04:11.48 ID:i1ZurmDZ0
 その者がエネルギーと気配を撒き散らしているのだと、直接対峙してすぐに悟った。
 その者は折った膝を伸ばし、床に足をしっかりと根下ろすと、
 物々しい音を立てたブーン達を鋭い猫目で睨みつけた。

川 ゚ -゚)「こいつは……肖像画の……」

(;^ω^)「迷宮の主と思われる人物だお」

 特徴的な猫目、尖った耳。
 朽ちていても品位の高さが窺える衣服と装飾品の数々が、
 この者に代わり迷宮の主である事を語っている。同時に、アンノウンでない事も。

 アンノウンは剣を持っているはずだからだ。
 眼前の人外の諸手に剣は握られておらず、特にブーンは落胆した。

 だが、二人とも警戒心は手放さなかった。
 人外そのものから放たれる解析不能のエネルギーは今も尚上昇し、
 それに比例して周囲の気温はマイナスへと進んでいるのだ。
 クーも、コートの魔法を抜けて突き刺さる冷気を、そして強い魔の気配を感じている。


( ФωФ)「人間……我等魔に近い者もいるようだが……」


 ブーン達を睨みつける目は鋭いものの、呟く声はたどたどしい。
 まるで目覚めから冷めたばかりの人間が調子を確かめるように声を発するような……。
 まさに寝起きなのだろうか、彼はゆっくりと周囲を見回す。
 そう思わされる彼の行動を窺っていると、ブーン達は彼と共に一つの氷像に気づく。
131 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 22:08:07.63 ID:i1ZurmDZ0

(;^ω^)「あの中に人が入ってる! アイツが氷漬けにしたのかお!?」

川 ゚ -゚)「かもな。氷からあの男と似たような気配を感じる」

 一つ疑問が解明されれば、また新たな疑問が頭に入り込む。
 ブーンとクーは再び思考するが、

(;ФωФ)「ふ、ふはははは! 勇者よ! 余の勝ちだ!
       いくら貴様が勇者とは言えやはり人間! 余の氷の秘術に耐える“時”は持てぬか!」

 突然発せられた快声で思考を止める。
 怪訝に思いながら、高らかに笑い続ける人外を監視した。
 ……よほど大きな勝利だったのだろう。完全に酔いしれていると、第三者たるブーン達にも分かる。
 彼は尚も笑い声を響かせて、ゆっくりと氷像に近づいてゆく。

( ФωФ)「………。誰だ、この人間の女は……?」

 しかし魔王は、氷に囚われた少女の顔を見ると笑うのを止めた。
 そして氷漬けの人間の少女を、訝しく、忌々しげな瞳で見つめた。

川 ゚ -゚)「いや、あれが勇者じゃないの?
     けどあの女、さすがに凍えて死んじまったのか」

(;^ω^)「……勇者と魔王ってかお。そして魔王は長い眠りから目覚めた……と。
      ってことは、寝ぼけて記憶が曖昧になってるのかもしれないお」
133 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 22:11:28.57 ID:i1ZurmDZ0

川 ゚ -゚)「奴の言動と挙動から察すると、そのようだな。
     迷宮の老朽を鑑みると、途方も無いほど長い時間おねんねしてたっぽいな」

(;^ω^)「こいつら化物に老朽やらを気にする趣味があれば、の話だけど」


( ФωФ)「100年だ」

 魔王は少女からブーン達に視線を移し、続ける。

( ФωФ)「100年の時を経て、余は目覚めたのだ。
       貴様等、秘術から復活した余を殺しに来た新たな勇者であろう?」

( ФωФ)「フン、馬鹿めらが。光の魔法体系の創始者たる勇者が
       帰還しなかったと知ったろうに、なぜ余に刃向かおうとする?
       最後の希望を失った貴様等人間が、この魔王に毛筋程の傷を付けられるとでも?」

(;^ω^)「ああもう! ついていけっかお! 秘術? 光の魔法体系?
      挙句の果てに僕達は勇者? 勘弁してくれお!」

川 ゚ -゚)「ものっそい勘違いをしてらっしゃるみたいだな。
     私達が討ちたいのはお前ではなく、アンノウンだ。
     このブーンが言うように私達は勇者なんてこッ恥ずかしいモンじゃねえ。っつーかお前誰?」

( ФωФ)「なるほど、勇者ではないか。単なる迷い人か?
       だが貴様等が何者であろうと、人間は我等が魔族の世から抹消せねばならん存在……」
135 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 22:14:43.55 ID:i1ZurmDZ0


( ФωФ)「せめて名誉をくれてやる、迷い人よ。
       余の復活と魔族の世の始まりを、貴様等の血で祝福してやろう」


 魔王はブツブツと口を忙しく動かす。

 集音装置でそれを聞けるブーンは、ツンの魔法詠唱に似ていると気づく。
 詠唱を終えた魔王は全身に蒼く寒々しい光を纏った。
 そして右手を掲げ、握り込むと、全身を覆う光が右手に集約していった。


( ФωФ)「ハァァァァァァァァァ……凍れる太陽、Nible Heime!!
       汚らわしき人間共よ、我が深淵の冷気に凍えよ!!」


 握った手を開くと、蒼白い球体が掌から生まれた。
 魔王が凍れる太陽と呼ぶ球体は魔王の頭上へと昇り、
 冷気と共に不気味な光を放ちながら低速回転を始めたのだ。
140 : ◆jVEgVW6U6s :2010/12/18(土) 22:17:59.18 ID:i1ZurmDZ0

(;^ω^)「あの球体……やばすぎるお……!」

 ブーンの視界で、デジタルの数字がマイナス方向へ進み続けている。
 止まらない。止まる様子が無い。
 蒼白い球体を中心に周囲が急速に凍てついてゆく……凍れる太陽がこの場を、
 あらゆる生命を凍てつかせる超低温の世界に作り変えているのだ。

(;^ω^)「戦闘から逃げる……って選択は勿論……」

川 ゚ -゚)「ゲームならボスバトルだろ。ムリムリ」

 しかしブーンは後ろを振り返ってみる――退路は、

(;^ω^)「ですよねー」

 アンノウンにより塞がれてしまっている! “にげられない!”


(;^ω^)「アンノウンめ! 僕達をこいつと戦わせる事が目的だったのかお!
     めんどくせえけどこうなった以上、やるしかないお!」

川 ゚ -゚)「肩慣らしならもう十分足りてるんだがな……まあいいだろう。
     この世界のショボン達の為に掃除してやるのも悪くない」

 アンノウンが用意したシナリオの最後をクリアする為、
 サイボーグとデビルサマナーは、復活した異世界の魔王に立ち向かう――――。
176 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:40:40.53 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「貴様らは、余の体に触れることすらなく砕けて死ぬ 」

ロマネスクは何事かを呟きながらゆっくりと右掌を掲げる。
クーとブーンはこの行為が何か知っている。
ショボンが、或いはツンが見せた魔法の詠唱に他ならない。

( ФωФ)「人間如きとの戦いなど楽しむべくもない。
        全員即座に消え失せよ!!」

言葉と同時に、掲げた右手を力強く握った。
ロマネスクの周囲に、冷たい光が輝き、次の瞬間には拳ほどの氷が浮遊している。
とんでもない数だ!!

ロマネスクは握った拳を頭上から正面に突き出す───

( ФωФ)「言葉を発することは許さぬ。
        死ね!!」


177 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:42:12.02 ID:fIc/4S7E0

弾けるように拳を開いた。
同時に100や200では納まらない雹のような礫が、理不尽なスピードで一斉にブーン達に襲い掛かる!!

(; ^ω^)「いきなりかお、畜生!!」

だがブーンはすでにBlueMachingunをロマネスクに向けていた。
そして引き金を引く。
嵐のような青い光の弾丸が、遅い来る氷群を精密機械のように正確に砕いていった。

川 ゚ -゚)「焼き尽くせ!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「噴ッ!!」

コルトライニングから火炎弾が文字通り火を噴く。
命令を聞いた二体の魔獣は灼熱を吐く。
炎の弾丸と地獄の獣の炎は、広範囲に飛来する氷の刃を即座に水と変え水蒸気と変えた。

180 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:44:18.95 ID:fIc/4S7E0

ノ)) - 从「………」

そしてあらゆるダメージを物ともしないダンピールは、氷と炎が荒れ狂う中、既に疾走している。
ロマネスクにしてみれば、氷炎の嵐の中から巨人が現れたかのように見えただろう。
そしてその巨人は、殺傷力抜群の大剣をロマネスクの頭上に食い込ませんと振り被っている。

( ФωФ)「貴様……」

ロマネスクが何かを言おうとしたが、ノーマンには一切関係ない。
全身の筋肉を凝縮し、一気に解放、巨大な鉄塊を神速で振り下ろす!!

ノ)) - 从「!!」

必殺の間合い、滅殺のタイミング。
だがノーマンの巨剣が固いものに阻まれた。

(# ФωФ)「貴様……なぜ人間などに加担している?」

ロマネスクは怒りを孕んだ声でノーマンに問いかけた。
心臓が凍りつくような恐ろしい声だ。
ロマネスクはノーマンの剣に勝るとも劣らぬ、巨大な氷の斧でノーマンの攻撃を防いでいた。

182 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:46:16.34 ID:fIc/4S7E0

(# ФωФ)「魔族の貴様が、何故人間のために戦うのかと聞いている!?」

ノ)) - 从「ッ!?」

ロマネスクはノーマンが何者か気付いた。
確かに人ではない。
吸血鬼と人間のハーフであるダンピールに、魔族の気配を感じ取ったのだ。

ノーマンはロマネスクの怒気に気後れすることはない。
だが、自分の剣に起こっている異変に気付いた。
剣と斧が触れている箇所───


───凍りついている!!


ノーマンは即座に飛退いて距離を取った。
それは賢明な判断だったと言える。
あと数秒遅かったら、剣を通して自身の体が氷の彫像と化していただろう。

184 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:48:29.96 ID:fIc/4S7E0

|||゚ - ゚||「この者を魔王の一種と断定します!!
     力だけでは倒すことは出来ません!!
     魔王を滅ぼすのは、極めに極めた技のみです!!」

ノーマンの巨体の背後から突然現れるのは、槍を既に引き、ロマネスクに照準を定めたクー・フーリン。
幻想世界の英雄が、歯を食い縛り力を込めた槍を、魔槍ゲイボルグを突く。
そこから飛び出すのは30の刺突。
八相を発破せんばかりの無双の技だ。

(# ФωФ)「貴様もか……。下らぬ技よ!!」

ロマネスクは軽く右手を突き上げる。
即座に分厚く高い氷の壁が出現し、クー・フーリンの刺突を尽く防いだ。
わけもなく、簡単にだ。

|||゚ - ゚||「チッ……、相当な使い手───」

川 ゚ -゚)「……お前、もう引っ込むか?」

|||;゚Д゚||「えぇっ!?」

87 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:50:55.16 ID:fIc/4S7E0

( ^ω^)「クーさん!!
      特にアイツの周囲50cmくらいだけど、超低温の膜みたいなのがあるお!!
      近づいたらやばい!!
      それに……!!」

ブーンはニブルヘイムに目を遣る。

( ^ω^)「アレが気になり過ぎるお!!」

気温の低下を招いている二つの元凶。
一つは凍れる魔王ロマネスクそのもの。
そしてもう一つこそ、戦闘開始時にロマネスクが生み出した極寒の太陽、ニブルヘイムだ。

ロマネスクはその場にいるだけで周囲に低温を招く。
そのリミットは-50℃程か。
しかしニブルヘイムはまさに冷気の太陽。
無限のマイナスエネルギーは、いずれ-273.15℃、絶対零度へと辿り着く。

川 ゚ -゚)「近づいたらやばいからと言って、少々の飛び道具は意味がないぞ?
     ウチの役立たずが証明して見せたが 」

|||;-Д-||「………」

川 ゚ -゚)「アレのせいでタイムリミットもあるわけか……」

189 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:52:27.94 ID:fIc/4S7E0

( ^ω^)「まぁ、この未来のテクノロジーの結晶様に任せとけおwww。
      短期決戦は接近戦に限るお。
      ちょっと美味しいとこ貰ってもいいかお?」

川 ゚ -゚)「キカイダーが言うじゃないか。
     良いだろう。この私と愉快な仲魔達がサポートしてやる 」

( ^ω^)「要らんかもね 」

ブーンは太もものホルダーからバトンのような物を手にする。
そして握り込む。
青い光のエネルギーの刃、これまでに何度も見せたBlueBlazeBladeをブーンは選択した。

( ^ω^)「ファンタジーだし、魔王に立ち向かう勇者は剣じゃないといかんおJK 」

ブーンはエネルギーの剣を軽く振る。
青い光が炎のように揺らめいた。
これを見るロマネスクは記憶の中にある、一人の人間を思い出していた。

( ФωФ)。o ○(光の……剣……?
            シースルー・インビジブルの他にも使い手が……?
            ぬぅ!!頭が……!!)
191 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:54:12.38 ID:fIc/4S7E0

≪(??「雰囲気出していかないとね!!」≫

その人間がロマネスクの頭の中で叫ぶ。
直後───

( ^ω^)「雰囲気出していくお!!」

同じセリフをブーンが叫ぶ。
ブーンは一気に距離を詰める。
構えは無い。
質量がゼロに等しいBBBladeに一切の構えは不要!!

( ФωФ)。o ○(そうだ!!
           あの勇者が戦いの中で同じ事を!!
           何故だ!?なぜ断片的にしか思い出せん!?)

戦いの中、ロマネスクの脳裏に紛れ込んでくる違和感。
だが、彼以外それを認識している者はいない。
認識しているとしれば、それはロマネスクが恐るべき敵であるということ。

( ^ω^)「ぶった切れろ!!」

天才ツン・ディレイクが技術の粋を集めた体だ。
些かの無駄もなく、ロマネスクの首を狙う。
192 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:56:30.86 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「……小賢しい!!」

だがロマネスクの戦闘能力はテクノロジーを凌駕する。
BBBladeが首を狩る軌道上に、氷の斧で迎え撃つ。
両者は激しくぶつかり合い、完全に停止した。

(; ^ω^)「あら? なんじゃこら?」

BBBladeはエネルギー噴射により、剣のように見えるだけにすぎない。
何かを破壊することは可能だが、何かを受け止めることはできない。
だが今、BBBladeはロマネスクの氷の斧と完全に鍔迫り合いの形になっている。

(; ^ω^)「これもファンタジーのなせる業だってのかお!?」

ブーンは力を込める。
エネルギーに触れた箇所は解けるも、瞬時に再び凍りつくため破壊には至らない。



193 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 18:58:39.03 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「……人間風情が!!
       余にこれほど近づいた非礼、死によって詫びるが良い!!」

ロマネスクは斧を右手一本で持ち直す。
それでも鍔迫り合いは揺るがない。
ブーンの全力を以てしてもだ。

( ФωФ)「Arkham!!」

(; ^ω^)「ゲッ!?」

その瞬間、ロマネスクの左手、その指先から凍てつく波動が迸る!!
ブーンの視界に映し出される様々なデータ。
温度の表示が、無慈悲にも一気にマイナス側へ振り切れた!!

( ФωФ)「消え失せろ!!」

指先から放たれる絶対零度の衝撃波。
ブーンは至近距離でこれをまともに食らい、大きく後ろへ吹き飛ばされた。

195 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:00:16.79 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「キカイダー!!大丈夫か!?」

(; ^ω^)「つつつ……」

クーは仲魔達にロマネスクへの牽制を命じ、ブーンの元へ駆け寄る。
ブーンは顔を顰めるも、致命傷ではないようだ。
だがそれはBOON-D1だからであって、生身の人間では既に凍りついた上に粉々に砕けているだろう。

ブーンの体は9割方凍ってしまっている……。

川 ゚ -゚)「おい、全身が凍りまくってるぞ。
     これで生きているとはふざけた存在だな、お前も 」

( ^ω^)「魔物と仲良くやってる、アンタがそれを言うかお?」

ブーンは意図的に体内のあらゆるマシンの出力を上げた。
発熱した機械が凍った体を溶かして行く。

( ФωФ)「殺すつもりでいるのだが、中々しぶといものだ。
        いや、だからこそここまで辿り着いたというべきか……」

( ^ω^)「ぎりぎりセーフ!!
      また来るお!!」

解凍が完了したブーンは、再び無数の冷気の凝縮を確認する。
言葉と同時にBulueMachingunを既に構えていた。

196 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:02:28.64 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「疲れた様子がまるでないな。
      魔王だからマジックパワーが無限なのかも知れん 」

( ^ω^)「そろそろゲームから離れたらどうだろう?」

ブーンはそろそろツッコミも板に着いてきた。
緊迫した戦いの中、どこか余裕を感じる。
相当に離れしている証拠だ。

( ФωФ)「Andromalius,Dantalion,Decarabia,Belial……」

そして魔王は魔王の所業を果たす。
こちらには冗談など一切通じない。
表情には相手を殺す意思のみが現れている。

( ФωФ)「ならばこそ、我が復活の敵に相応しい!!
        その熱き血潮、一滴残らず凍りつくまで私と闘え!!
        Amduscias!!」

ロマネスクは拳を前に突き出し、叫ぶと同時に弾くように開いた。
開幕時と同じ、氷の嵐が再び訪れる。

(; ^ω^)「芸の無い……!!
      訂正!!さっきより数が断然多いお!!」

発動前の異なる点は呪文の詠唱だ。
これにより、魔法の真の姿が体現したということか!?

198 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:04:11.29 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「我慢比べだ!!
     弾が切れるまで叩き落とす!!」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「仔僧!!」
∧_∧  ∧_∧
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「オッケー アンチャン!!」」

デビルサマナーと地獄の魔獣は、退魔の炎で魔王の氷を迎え撃つ。
ブーンはテクノロジーの結晶で、魔王の氷を砕き尽す。 

ノ)) - 从「………」

そして鬼神が動く!!
ノーマンは再び鉄の塊を叩き込まんと走る。

( ^ω^)「っ!?」

だがブーンは気付いた。
荒れ狂う氷と炎の均衡は先ほどと同じ。
だがそれらに紛れる様に、空間の到る所に激しいマイナスエネルギーが点在している。

(; ^ω^)「ノーマン、それ以上動くなお!!」

ノ)) - 从「………」

ノーマンも不穏な気配を感じて急停止。
ロマネスクを見ると、舌打ちしつつも不敵に口角を上げた。


199 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:06:25.16 ID:fIc/4S7E0

( ^ω^)「そこだお!!」

何もない空中にブーンがBlueMachingun発射。
確かに何もなかった。
しかし、ブルーエネルギーの弾丸が何かを捉え───

───爆発する。

川;゚ -゚)「うぉ!!」

俗に言う爆発と異なる点が一つ。
それは火炎と熱風のではなく、冷気と氷河の暴走だった。
優に半径10mに達するその爆発の範囲は、ノーマンの鼻先にまで達した。

( ФωФ)「これに気付くか。
       大した洞察力だ 」

( ^ω^)「それはどーも。
       聞いたらウチのツンが喜ぶか、当然だと殴られるお 」

豆粒ほどの大きさに凄まじい冷気を圧縮していた。
命を散らす冷気の地雷。
当然ながら、クー達の世界では起こり得ない現象だ。

しかしブーンは一抹の希望を覚える。
ツン・ディレイクがブーンに施した観察能力は、未知の脅威にも着いていける!!

202 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:08:57.28 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)。o ○(これもだ……。
           これもあの勇者との戦いで同じことが……)

ロマネスクの脳裏に先程から現われる人間……。

≪(??「我慢比べよ!!
      力が切れるまで叩き落とす!!」≫

今度は女だと分かる。
脳内の場面でも、ロマネスクは氷嵐を起こし、女と魔法使い、そして吟遊詩人が魔法でこれを迎え撃った。
そして……

≪(# ゚∋゚)「魔王!! オレの拳を食らえぇぇぇぇ!!」≫

この男は顔まで思い出せる。
己の肉体だけで戦う巨体の男。

そうだ───。
たった今と同じように、大柄な男が自分に迫ってきたとき、

≪(,,゚Д゚)「クックル!!それ以上動くんじゃねぇ!!」≫

吟遊試人が、ハープに仕込んでいた短剣を中空に投擲する。
そして冷気が弾け、巨体の男は散らす命を拾った。
204 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:11:11.93 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)。o ○(……思い出すぞ。
            シースルー・インビジブルとの戦いでも同じことがあった。
            あの時は吟遊詩人の機転で奴らは事なきを得た。
            だが…… )

ロマネスクは戦いの記憶をひも解いて行く。
そこに唯一つ、唯一つの違和感がある……

( ФωФ)。o ○(高々100年前の記憶が、なぜこうも薄れているのだ?)

ロマネスクの動きが止まる。
しかし異世界の戦士達は、魔王が余裕を見せているだけだと警戒した。

川 ゚ -゚)「あ〜、クッソ……。
     コイツ、思いの外───」

(; ^ω^)「強いお!!」

ブーン、戦闘データ解析。
これまで履歴から、どのセカンドクラスの戦闘力を有しているか見るのだ。
そしてブーンは溜息を吐く。

敵はギコ・アモット級の強敵───。

ブーンはボストンから追って来たギコとの戦闘を思い出している。
間違いなく死闘だった。
大切なパートナー、そして友人を失った。

208 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:13:19.00 ID:fIc/4S7E0

出来れば思い出したくなかった、心に刻まれた大きな傷。
ブーンは額に捲いたバンダナに無意識の内に触れる。
……というシリアスモードを台無しにする存在が、この時クーに近付いていた。

(*゚ー゚)≪アンタたちも中々いい線いってるけどね〜≫

川 ゚ -゚)「むっ?」

クーにいきなり何者かが馴れ馴れしく話しかけてきた。
クーは思う。
これは霊体……、いや精霊の類だ。

(*゚ー゚)≪おい、そこのデカ女。
     アンタ聞こえてるんでしょ?
     幽霊ってのは見える人は分るんだからね ≫

……と思ったら悪霊だった。
見目麗しい自分に『デカ女』などという暴言を吐くとは……。
クーは憑いて来られても困るので、反応しないことに決めた。

(*゚ー゚)≪オラ!!見えてんだろ、この無愛想女。ブス。寸胴。
     このしぃさんが話しかけてやってんだからコッチミロ。
     コッチヲミロォ……≫

ブーンには見えない、聞こえない。
だからこの精霊が何を言っているか、存在すらも分からない。
だがガン無視を続けるクーにはしっかり聞こえている。

213 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:16:03.85 ID:fIc/4S7E0

川##-#)「………」

( ^ω^)。o ○(おいおい、顔が大変なことになってんお )

クーは怒りの余りプルプルし始める。
ブーンは何が起こってるのか分からないので不思議そうにしていた。
精霊はここで作戦を切り替える。

(*゚ー゚)≪……あら、よく見ると美人ね ≫

川 ゚ -゚)「なんだ、悪霊かと思った 」

彼女はニヤリとほくそ笑む。
やはり自尊心をコチョコチョと擽ってやれば万事上手く行く。
精霊自身と同じタイプの女だ。

(*゚ー゚)≪私はシースルー・インビジブル。
     体の方はあっちよ≫

そう名乗った精霊は氷漬けの自身の遺体を指した。
ブーンは見えない何かと話し始めたクーを見る。

( ^ω^)「クーさん!! そこに何かいるのかお?」

川 ゚ -゚)「あれの霊がな 」

( ^ω^)「あの子かお?」
216 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:18:10.09 ID:fIc/4S7E0

ブーンはセントラルのテレビジョンで見た、1000年前のおとぎ話を思い出す。
程無く、凍れる魔王を倒した勇者の記憶に辿り着いた。

( ^ω^)「もしかして伝説の勇者、シースルー・インビジブル?」

川 ゚ -゚)「さっきそう言ってたな 」

( ^ω^)「伝説の勇者なんて恥ずかしい二つ名で呼ばれてどんな気持ち?」

川 ゚ -゚)「ねぇ、どんな気持ち?」

(;*゚ー゚)≪恥ずか……しい?≫

この世界では最上級の称号だが、クーとブーンの世界では厨二病の権化に他ならない。
シースルー・インビジブルは頬を染めた。

(*゚ー゚)≪それはさておき……≫

(# ФωФ)「何を呆けている!?
        よほど氷漬けになりたいと見える!!」

ロマネスクは再び戦闘態勢に入る。
冷たい闘気が殺気と共に戦いの舞台を駆け巡る。

220 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:21:01.20 ID:fIc/4S7E0

(*゚ー゚)≪あ〜、もう石頭なんだから。
     そっちのお前、っつっても聞こえねーか。
     美人さん、そのガキにしばらくアイツの相手させといて。
     アンタは私の話をちょいと聞くのよ≫

川 ゚ -゚)「ブーン!!
    ちょっと任せるわwww」

(; ^ω^)「えぇッ!?
      ふざけんな!!」

薄っすらと笑っているクーの顔を見て殺意を覚えるブーン。
大変なことを軽く頼んできやがった!!
だが、ブーンの左右に二人の戦士が歩み出る。

ノ)) - 从「………」

|||゚ - ゚||「少年よ!!一人ではありません!!
     我ら葛葉ライドウ様の忠実なる魔が、あなたの助けとなりましょう!!」

ブーンは少しだけ考えて、ノーマンに耳打ちした。

( ^ω^)「……ノーマン。
      さっきから思ってたんだけど、コイツなんかウザくないかお?」

ノ)) - 从「………」

( ^ω^)「はいはい、ガン無視ガン無視 」

222 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:23:48.75 ID:fIc/4S7E0

( ^ω^)「まぁ、いいお。
      さてさて、ではでは、ちょっとばかりギョッとさせてやるお 」

待機していたBLACK DOGが自動的に唸りを上げ、ブーンの真横に停車する。
バイクはそのボディを細かい部品に四散し、空中で更に形を変えてゆく。
それらは、プログラムされていた箇所に正確にブーンの身体に装着されていく。

【≪(??「雰囲気出していかないとね!!」≫】

何者かがロマネスクの頭の中で叫んだ。
その時勇者は光を体に纏い、その姿はさながら輝く一対の翼を手に入れたかのようだった。
だが顔はまだ思い出せない。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「雰囲気出していくお!!」

同じセリフを言うブーンは、姿をすっかり変えてしまった。
全身黒となったブーンの頭部は、獰猛な犬を連想させる。

( ФωФ)。o ○(身体に力の源を纏うだと……)

光とは対照的な黒の装甲。
しかしロマネスクは、ブーンの変身をかつての勇者と重ね合わせた。

226 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:26:15.09 ID:fIc/4S7E0

(*゚ー゚)≪あの子、中々良いセンしてるわねぇwww≫

アーマーシステムを起動したブーン、そしてノーマンとその他一名。
魔王ロマネスクと互角の接近戦を展開している。
精霊は感心するように、そして見応えのあるスポーツの試合にそうするように観戦していた。

川 ゚ -゚)「で、私に何を?
     幸福に成仏したいんならちょっと専門外だぞ?
     滅ぼすのは得意だけど 」

(;*゚ー゚)≪それはちょっと、勘弁してくれたら嬉しいかな〜≫

冗談とも本気とも付かないクーのセリフ。
多分冗談だ。
冗談だよね、とシースルー・インビジブルは話を続けることにした。

(*゚ー゚)≪アイツさ、どう?≫

ブーンたちと死闘を繰り広げているロマネスクを指さす。
三人を相手にしているというのに致命傷を正確に避け、受け止め、そして反撃している魔王。
最初から感じていることだが、相当な化け者だ。

川 ゚ -゚)「強いな。滅法強い 」

(*゚ー゚)≪でしょ〜?
     私も1000年前は苦労したんだからwww≫

230 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:28:53.82 ID:fIc/4S7E0

ころころと笑う精霊には緊張感という物がまるで感じられない。
それはクーも同様なので、二人はそれなりに気の合う同士と言える。
クーは今のシースルーの言葉に、質問を返した。


川 ゚ -゚)「ちょっと待て。
     1000年前だと?
     アイツはさっき100年間氷漬けになっていたと言っていたぞ 」

(*゚ー゚)≪そ♪
     アイツ勘違いしちゃっててさ。
     禁呪なんか使うの初めてだったみたいだし、ミスっちゃったっぽいwww≫

川 ゚ -゚)「Oh……」

ド迫力で力の暴風を振りまいている魔王だが、案外抜けた所もあるようだ。
クーは意外な発見に眉を上げた。

(*゚ー゚)≪まぁ、昔は少々やりあったけど、アイツにはアイツなりの信念があってさ。
     そんなに悪い奴じゃないってわけ≫

精霊の笑顔を見ると、まだ歳も浅い少女のそれだった。
十代半ばといった所か。

(*゚ー゚)≪今この世界にとんでもない化け物が来てるでしょ?
     私が生きてたら追っ払ってあげられたんだけどさ〜≫


231 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:30:25.74 ID:fIc/4S7E0

シースルーはクーの周りを行ったり来たり漂っている。
不意にそれを止めると、これまで一度も見せなかった真剣な表情に変わった。

(*゚ -゚)「結論から言うわ。
    凍れる魔王・ロマネスクを連れて行きなさい 」

今のシースルー・インビジブルは精霊である。
言うなればこの世界の守護者とも言える。
彼女はアンノウンが現れてからこれまで、この世界で起こった事象について承知していた。

(*゚ -゚)≪この世界に世界を救える力のある戦士はもういない。
     アイツが私たちの代表よ。
     この世界を救う戦いには、この世界の者も居なければならない≫

川 ゚ -゚)「フム……。
     だが、話が通じる相手かね?」

ちょっとお茶目な所もあるようだが相手は魔王だ。
今までの所、ロマネスクを味方に引き入れる可能性はゼロに等しい。

233 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:32:48.09 ID:fIc/4S7E0

(*゚ー゚)≪時代が変わったってことを分からせてあげれば良いわ。
     もう人と魔族が戦ってる時代じゃないことをね≫

シースルーのこの言い方……。
クーは裏にある真意に気付く。

川 ゚ -゚)「手があるんだな。
     聞かせてもらおうか。
     そういうことならアイツ等共々消耗させるべきじゃない 」

(*゚ー゚)≪話が早くて助かるわ。
     1000年前の戦いを擬似的に再現する。
     曖昧になった記憶の中に、戦う必要がないことを知るキーがあるわ≫

そしてシースルーは、クーの額に小さな手を乗せた。

(*゚ー゚)≪ちょっとごめんなさいよ≫

川 ゚ -゚)「ぅお!!」

シースルーの手が輝く。
その時、クーの脳裏に様々な映像が流れ込んできた。
勇者と三人の仲間、彼らの魔王との壮絶な戦いの記憶だ。

1000年前の魔王ロマネスクと異世界の戦士達。


───勇者の介入により、戦いは佳境に入る。

237 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:35:48.78 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「人間にしては中々やる!!」
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「お前!!全然本気出してないお!?」

ブーンは感じていた。
ロマネスクはまだまだ余力を残していると。
そして気になるのは頭上の冷気の太陽だ。

( ФωФ)「100年振りの戦いだ。
       少々体がなまっているようだが…… 」

ロマネスクは念じる。
意識を遣るのは頭上に浮かぶ魔力の結晶。
忌まわしきニブルヘイム!!

( ФωФ)「それも終わりだ 」

ゆっくりと回っていた氷の太陽だが、それの回転速度が増した。
その瞬間、ブーンのセンサーがアラームを鳴らす!!
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「なっ!?
      気温が急速に!?」

計算される気温の低下予測。
全ての原子が停止する、絶対零度まであと2分───。

239 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:37:56.05 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「よく我慢してくれた 」
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「遅い!!」

そして役者が揃い誰もが思う。
この戦いはあと僅かでに終結すると。
両者共に、自らが思う結末でだ。


川 ゚ -゚)「はっはははwww。まぁ、そう言うな。
     ところでお前、レーザー打てるよね?」
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「チャージに時間がかかるけど!!」

川 ゚ -゚)「空打ちで良い。それから耳貸せ…… 」
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「……ふんふん 」

クーは脳裏にある戦いの再現手順をブーンに話す。
目的であるロマネスクの帰属も。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「アイツが仲間になりゃ、そりゃ戦力になるだろうけどね。
      本当にうまく行くのかお?」

川 ゚ -゚)「この世界を見守っている、有難い精霊様が言ってんだ。何とかなるんじゃね?」

ちらりとシースルーを見ると、世界を見守る精霊様というフレーズを甚だしく気に入っている模様。
傍目にも分かるほどに天狗になっていた。
241 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:40:17.83 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「オルトロス!!ケルベロス!!
     サポート!!」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「応ッ!!」

オルトロスとケルベロスが腹の底から業火を放つ。
気温の低下は止められずとも、その低下速度は僅かに和らいだ。

【≪(??「ミルナ!! サポート!!」≫】

【≪( ゚д゚ )「はい!!しぃさん!!」≫】

(; ФωФ)。o ○(なんだ……?この展開に見覚えが……。
           何故思い出せん!?)

ロマネスクの脳裏に、目の前で起こっている事と同じ場面が展開される。
今度は魔法使いの男の顔も思い出せた。
だが女の顔は濃い霧がかかっているようにハッキリしない。

( ФωФ)「その程度の炎で我が冷気を防ごうとは笑止千万!!」

【≪( ФωФ)「その程度の炎で我が冷気を防ごうとは笑止千万!!」≫】

言って気付く。
この言葉も確かに自分で言った言葉だ。
243 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:45:05.00 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「少々時間が稼げれば良い。
     何も打ち消そうとは思っていない 」

【≪(??「時間が稼げれば良いの!!
       寒いのは嫌いなのよ!!」 ≫】

またしても誰かが頭の中で繰り返した。

【≪(??「攻撃に転じるわ!!」≫】

記憶の中で何者かが叫ぶ。
同時に彼女の周囲に───何者かが女だと分かる───光の玉が無数に現われた。
直後、光の球から高エネルギーの光線が放たれる。

【≪( ФωФ)「面白い!!」≫】

この時、ロマネスクはその時も頭上にあった冷気の太陽を目前に引き寄せた。
光線はロマネスクを避ける様に、後ろの壁に穴を空けた。
防御方法を知っていたわけではない。
本能のままの行動だった。


245 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:48:30.59 ID:fIc/4S7E0

───そして今、目の前で黒狗の少年が叫ぶ。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「攻撃に転じるお!!」

ブルーマシンガンの光の弾丸がロマネスクを覆う!!

( ФωФ)「面白い!!」

ロマネスクはニブルヘイムを手元に引き寄せエネルギー弾に向ける。
急速に冷えて行く空気。
ブーンの弾丸はニブルヘイムを避ける様に不自然に軌道を変えた。


ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「ちっ!!馬鹿げた冷気で空気密度を変えやがったお!!
      小さい弾じゃ曲げられる!!」

戦闘が続く以上、いかなる状況でも動き続ける鬼神がここにいる。
ダンピール・ノーマンには、既にクーの指令が下されているのだ。

ノ)) - 从「……!!」

何度防がれようが、何度撃退されようが、ノーマンは剛力を振るうのみ。
その刃が、敵の命を砕くまで。

247 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:51:09.79 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「また貴様か!?
       今度は心臓まで凍らせてやろう!!」

ロマネスクは接近する脅威を迎え撃つ。
ノーマンの巨剣を防げる腕力を持つものなど、この世にそうは存在しない。
だがロマネスクの氷の斧はそれを可能とするのだ。
単純に腕力が拮抗するのか、魔力を用いてそれを成し得ているかは不明だが……。

川 ゚ -゚)「ナイスだ、ノーマン!!」

ノーマンの巨体の影になるように、クーはロマネスクに向けて駆ける。
ダンピールの一撃は、他の何者よりも優先して防がねばならない。
それが生み出した隙を、主たるデビルサマナーが突く。


(# ФωФ)「小癪な女よ!!
    Forneus!!」

ロマネスクは空中に視線を向ける。
そこにそこに生じるのは小さな氷。
だがそれは息を飲む間に巨大な氷柱に変貌する!!

( ФωФ)「潰れろ!!」
249 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 19:54:44.79 ID:fIc/4S7E0

号令と共に、巨大氷柱がクーの脳天目がけて落下する。
避けようのないタイミングだ。
しかしクーはロマネスク一点のみから視線を逸らさない。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「そうは行くかってんだお!!」

何故ならブーンが完全と立ちはだかり、頭上の氷を排除すると分かっていたからだ。
BBBladeを氷に突き刺す。
ブルーエネルギーが一瞬の内に駆け巡り、冷気の魔力は粉々に散った。

川 ゚ -゚)「ケルベロス!!来い!!」
 ,/i/i、
ミ,,゚(叉)「GOOOOOOOAAAAA!!」

───ロマネスクまであと10歩。

その時、ケルベロスがクーに向けて炎を吐く。
クーは炎を赤光葛葉で受け止めた。
刀が業火を取り込み、激しく燃える業火の剣となる!!
253 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:02:22.24 ID:fIc/4S7E0

───ロマネスクまであと5歩。

川 ゚ -゚)「セオリーだ!!
     氷が得意な敵には、炎の一撃に限る!!」

ロマネスクは表情を変える。
この一撃は自らに致命傷を与える。
それを知っている。

記憶の中の死闘で、勇者は魔法使いの炎をその剣に宿し自らを切ったのだ。
その痛みが肩口から脇腹を駆け巡る。

(# ФωФ)「Arkham!!」

凍てつく波動でノーマンをふっ飛ばす。
確かあの時も、巨体の武道家をこうして吹き飛ばした。
記憶と現実が次々とリンクしていく。

(# ФωФ)「おおおおおおおおおお!!!!」

川 ゚ -゚)「終わりかな?魔王 」

最早刀の間合いに入ったクーに、ロマネスクは全力で凍れる斧を振り下ろす。
無論、クーも炎の剣をそこに叩きつける。
ケルベロスの灼熱を纏った、大紅蓮忠義斬を!!

256 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:06:57.02 ID:fIc/4S7E0

灼熱の刃は氷の斧を溶かして行く。
再生スピードよりも早く。

( ФωФ)「馬鹿な!?」

そして遂に真っ二つに折れた。
折れた斧の刃がスローモーションのように、クーとロマネスクの間を飛ぶ。
ロマネスクは斧が通り過ぎた時、クーの不敵な笑みを見た。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「チャンス到来!!
      ぶち抜け!!」

ブーンは既に巨大な砲門をロマネスクに向けている!!
SixBarrelBlueLazerCannon───。
BOON-D1が持つ最強最大の武器だ。

( ФωФ)「滅びの光!!Val-thか!?」

ロマネスクはその光景に向かって何かを叫んだ。
ブーンも、斧を折ってすぐにその場を飛退いたクーすらも知らない。
だが再びロマネスクは頭上のニブルヘイムを眼前に呼び寄せる。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「とりあえず撃つお?」

川 ゚ -゚)「あぁ。くれぐれも空打ちだぞ?」

そしてブーンは発射のプログラムを砲門に下した。
瞬間、激しい轟音と共に青い光線がロマネスクに発射される。

261 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:10:39.39 ID:fIc/4S7E0

(# ФωФ)「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

ロマネスクはニブルヘイムに全魔力を注ぐ。
凍結した空気で光の屈折率を歪む。
ブルーエネルギーの光線が、寸前でねじ曲がった。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「見た目は派手だけど、殺傷能力はほとんど無いお 」

川 ゚ -゚)「上出来だ!!」

その先ではロマネスクが膝を折った。
脂汗を滲ませ、呼吸は荒い。
クーとブーンは直接的なダメージを与えていないにも関わらず。

川 ゚ -゚)「記憶が肉体をコントロールしてるな。
     良いぞ。この調子で思い出せ 」

クーの頭の中には、シースルーに託された戦いの履歴がある。
これまで忠実に再現した。
残すは唯一つ。


───ロマネスクに『禁呪、エターナル・フォース・ブリザード』を使わせるだけだ。

264 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:15:07.96 ID:fIc/4S7E0
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「クーさん、最後の仕上げと行くかお?」

クーは黙って頷いた。
仲間達が皆クー達の側に帰る。
そしてブーンは高々に叫んだ。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「魔王ロマネスク!!これで最後だお!!
      全力で放つ滅びの光、受けてみろお!!」

ブーンは再びSixBarrelBlueLazerCannonを起動する。
大げさに起動音が唸っているが、当然の如くエネルギーチャージは僅かだ。
ロマネスクを殺すわけにも、こちらが負けるわけにもいかない。

( ФωФ)「よかろう……」

ロマネスクはゆっくりと立ち上がる。
再びニブルヘイムを引き寄せると、今度は掌でそれを受ける。
極寒の猛威を奮っていた凍てつく太陽は、吸収されるように掌の中に消えていった。

( ФωФ)「我が最大最強の秘術にて、この戦いを終わらせてやろう!!」

この時、空気が震えた。
そう思わせる気迫も発しているが、ロマネスクの魔力が物理的にそれを起こした。

( ФωФ)「エターナル・フォース・ブリザード……」

瞬間、これまでにない冷気の波動が空間を駆け巡った。
数回放たれた、指先からの波動と遜色ない冷気。
それは一瞬の衝撃波だったが、今は波状的に放たれている。
266 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:17:28.35 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「Yog-Sothoth,Daoloth,Ghroth,Azathoth,Azathoth……」

禁呪に十分に魔力を注入する。
詠唱が次々と進む。
進む度に温度は加速度的に下がっていく。
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「おいおい、本当に大丈夫なのかお?
      言っとくけど、このままアイツが辞めなかったら…… 」

川 ゚ -゚)「辞めなかったら?」
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「みんな死ぬお 」

川 ゚ -゚)「死んだら霊魂だ。
     そこの精霊もボコボコニ出来るぞ 」
ィ'トー-ィ、
以,[l゚疲i7「少しも嬉しかないお!!」

(*゚ー゚)≪………≫

ブーンは半信半疑で悪態を突く。
だがクーはじっと黙って戦況を見つめる精霊を大方信じていた。
頭の中に記憶を流されたとき、彼女の心もわずかに受けたのだ。
信じる根拠には十分だ。

269 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:20:17.64 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)。o ○(これを用いるのは二度目か……。
           再び100年の眠りに就くことになろうとは……。
           だが敗北よりは良い!!敗北よりは!!)

ロマネスクの脳裏に再び1000年前の戦いの記憶が蘇る。
100年だと思い込んでいる、太古の昔の輝かしい記憶。
あの時、勇者はこう言った。

【≪(*゚ー゚)「辞めなさい、その魔法を使うのは。
      何もかもが台無しよ。この戦いが台無しになるわ 」≫】

───顔を思い出した!!
ロマネスクは弾けるように氷漬けとなった少女を見る。

この女が勇者。
この女が自らを倒したシースルー・インビジブル。
何故名前だけを記憶し、顔自体は今まで忘れていたのか?
その問いに答えるものは目の前にいるが、ロマネスクはそれをまだ知らない。

あの勇者は禁呪を放つ事を辞めろと言った。
何が起こるか知っていたのだ。
だからこそ、光の魔法で仲間達を外へと避難させた。

【≪(*゚ー゚)「世界にこの事を伝えんのよ。
       もう戦争は終わり。
       これからの世の中を、くれぐれも良い世界にして頂戴 」≫】
273 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:23:11.55 ID:fIc/4S7E0

仲間達は勇者に向かって叫んでいた。
泣きながら、怒りながら。
彼らが舞台の外へ出た時、禁呪の詠唱は完了した。

【≪( ФωФ)「───Eternal force blizzard 」≫】

その瞬間全てが凍りついた。
空気も時間すらも。
勇者も当然凍りついた。

なんとも言えない、悲しげな笑みを浮かべて。

───そして凍結は自身の身にも及んだ。

【≪(; ФωФ)「なん……だと!?
         馬鹿な!?この私が凍るというのか!?
         冷気の王、凍てつく魔王たるこの私が!?」≫】

この事をおそらく勇者は気付いていた。
だから使わせまいとしたのだ。


───戦いが台無しになる。


まさにその通りだった。

【≪(; ФωФ)「なこの私が……。この……わた……」≫】
276 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:25:59.14 ID:fIc/4S7E0

(; ФωФ)「っ!?」

ロマネスクの記憶は完全に蘇る。
今、まさに現状は過去に重なる。
再び禁呪を放つ寸前だ。

敗北よりは良い……。
ロマネスクはそうではないことに気付いた。
エターナル・フォース・ブリザードは敗北よりももっと悪い、最低最悪の選択だ。

単に敗北を認める事の出来ない卑怯者が、敗北を先延ばしにしただけだった。

【≪(*゚ー゚)「仕方ないやつね……。
      良いわ。付き合ってあげる 」≫】

シースルー・インビジブルの最後の言葉を覚えている。
光の魔法だけではない。
あの女はまさしく勇者だった。

279 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:29:25.24 ID:fIc/4S7E0

凍りついた後も、ロマネスクはしばらく意識はあった。
動きの自由のない中、ずっと見ていた。
勇者の仲間の吟遊詩人が、何度も訪れた。

【≪(,,゚Д゚)「しぃ、この上にでかい城を建てたぜ?
       インビジブル城だ。
       民間人にも開放して、みんなは城の事を『しぃさん』って呼んでる。
       あぁ、オレは王様になったんだ 」≫】

あの吟遊詩人は、毎年、戦ったその日に必ず訪れた。
年を負うごとに年齢が刻まれて行ったが、最後まで力を失っているようには見えなかった。

そして50年ほどたっただろうか。
吟遊詩人ギコは老齢し、鬚を蓄えていた。
彼はある時、初めてロマネスクの前に立ち、そして語りかけた。

【≪ミ,,゚Д゚彡 「よぉ、魔王。
         こうやって話しかけるのは初めてだな。
         まぁ……、たまにはいいだろ 」≫】

ロマネスクは黙って聞いていた。

281 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:31:48.09 ID:fIc/4S7E0

【≪ミ,,゚Д゚彡 「……魔族と人間との協定が成立した。
         もうお互い争うことはねぇ。
         お前も心配事はもう何一つ残ってねぇ筈さ……」≫】

この時ロマネスクは耳を疑うと同時に、確かに気持ちが安らいだ。
共存などという手があったのかとも思う。
そしてそれを成し遂げたこの小さな人間を、そして人間全てに対する靄が晴れていったように感じた。

ギコはその後、シースルーの元へとゆっくり歩んでいく。
氷漬けとなった勇者シースルー。
年老いた吟遊詩人は、少女のままの勇者を愛しむように見つめた。

【≪ミ,,゚Д゚彡 「しぃ……。オレも、もう良いよな?
         クックルが去年そっちに逝ったはずだ。
         ミルナは……もう少し頑張るんだとよ 」≫】

ロマネスクはギコがしゃがみ込み、そして動かなくなる光景を見つめていた。
そして思う。
自らの役割は既に無く、ならば自分もこの世に留まる理由はないと。

ロマネスクはゆっくりと目を閉じ、永久となるはずの眠りに就いた……。

283 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:33:23.15 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「………」

そして今、ロマネスクは復活し禁呪を放とうとしている。
過去と違うのは、今金髪の少年が自らを撃たんと力を蓄えていることだ。
もう過たない。
もう敗北から逃げることはない。

( ФωФ)「Eternal force……」

そこでロマネスクは全ての魔力を打ち消す。
少年が放つ、破壊の光を受け入れるために目を閉じた。
魔王は勇者の一行に親しみすら感じていた。


───受け入れてくれるだろうか?


ロマネスクの心には、そればかりがあった……。


( ФωФ)「な……に……?」

ロマネスクは再び目を開けた。
いつまで経っても死の衝撃が訪れない。
目にしたのは、安堵と笑顔を浮かべるクーと、アーマーシステムを解いたブーンだった。

285 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:35:27.35 ID:fIc/4S7E0

(# ФωФ)「貴様ら………」

ロマネスクの表情は怒りに満ちていた。
誇りを傷付けられた思いだ。

(# ФωФ)「なぜ撃たぬ!?
        余を愚弄する気か!?」

怒気は魔力を含んで駆け巡る。
力の無い者ならばショックで命を失うかもしれない。

( ^ω^)「じゃ、逆に聞くけど、アンタは何で最後に魔法を撃たなかったんだお?」

(# ФωФ)「それは最早理由がないから───」

川 ゚ -゚)「その通りだ。
     私達にも、もう貴様を倒す理由はない 」

( ФωФ)「っ!!」

───見透かされていた。
ロマネスクの決死の思いは、既に知られていた。

それを彼らに教えたのは……

(*゚ー゚)≪よくやった。お疲れちゃんwww≫

精霊となった伝説の勇者、シースルー・インビジブル。

288 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:37:50.75 ID:fIc/4S7E0

( ^ω^)「ちょっと言いにくいんだけど伝えなきゃいけないことがあるお。
       聞いてくれるかお?」

ロマネスクは何も言わない。
ブーンはこれを肯定と受け取る。
そしてセントラルで得た、光の勇者と凍れる魔王の戦いを物語る。

(; ФωФ)「1000年……だと……!?」

ロマネスクの顔色が蒼白に変わる。
自らが眠ったまま超えた時間はあまりにも長い。
では部下達は───守るべき魔族たちは一体どうした?

川 ゚ -゚)「お前の部下は……、ここに来るまで多数のアンデッドの襲撃にあった。
     おそらく、あれらがそうなんだろう 」

(; ФωФ)「アンデッドだと!?」

それを聞いた瞬間、ロマネスクは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
完全に存在意義を失ってしまった───。
それ程に、ロマネスクは魔族の幸福を思い、そして彼の全てだったのだ。

シースルー・インビジブルがロマネスクを指して、『悪い奴じゃない』としたのはこういう点もある。

292 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:40:20.39 ID:fIc/4S7E0

その時だ───。

川;゚ -゚)(; ^ω^)「っ!!」

ロマネスクと正対する二人はハッキリと目にした。
ロマネスクの背後の空間が歪み、そこから邪悪を思わせる漆黒の左手が現れるのを。
アンノウンの左手が、フォックスを葬り去ったようにロマネスクを襲う!!

川;゚ -゚)「ロマネスク!!後───」

クーは叫ぶが間に合わない。
左手は正確にロマネスクの心臓を貫───

(# ФωФ)「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁー───!!」

ロマネスクは振り返ることなく怒りを爆発させた。
瞬時の内に、背中に巨大な氷の壁が現れた。
改めて凄まじい魔力だ。

(# ФωФ)「先程からチョロチョロと気配を見せていたが、我が命を狙う無礼を行うとは!!」

ロマネスクがゆっくりと振り返る。
氷の壁の中に閉じ込められ、それでも不気味にもがく腕がそこにあった。

川;゚ -゚)「先ほどから?ブーン、気づいていたか?」

(; ^ω^)「いや、全然……」

297 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:42:40.05 ID:fIc/4S7E0

(# ФωФ)「何者かは知らんが、余は今機嫌が悪い。
        運がなかったと悔やむがいい。
        永久なる氷河の下でな!!」

ロマネスクが氷の壁に魔力の満ちた拳を叩き込む。
巨大な壁が罅割れていく……。
そしてガラスと同じように音を立てて崩れ去る。
アンノウンの左手と共に。

激しい破壊音が完全に終わり、後に静寂が訪れた。
ロマネスクの怒りは、アンノウンの左手を砕くことで吹き飛んだ。
そしてクー、もしくはブーンに呟くように問いかける。

( ФωФ)「今のは何者だ?
       魔族の余ですら、いや、地獄の底ですら、あれ程の悪意はないだろう 」

凍れる魔王・ロマネスクが、アンノウンの存在を認識した瞬間だった。

川 ゚ -゚)「まずは私達が何者か、そこから話した方が良さそうだな 」

クーは語る。
この世界のショボン達に、異世界の住民である自分達が招かれたことを。
その理由、元凶たるアンノウンの存在を。

ブーンは語る。
この世界の国、セントラルがアンノウンによって目の前で滅ぼされたことを。
おそらく、ロマネスクの復活すらもその意思であろうことを。

299 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:45:11.50 ID:fIc/4S7E0

川 ゚ -゚)「お前の部下達は手強かった。
     特に巨人はヤバかった。
     アイツの口振りでは、お前への忠誠は少しも色褪せていなかったぞ 」

( ФωФ)「イヴォルブ、我が片腕か……。
        お前達が送ってくれたのだな……」

ロマネスクはゆっくりと歩く。
ブーン達は、ロマネスクがこの部屋の入口に歩いて行くのを見ていた。

ロマネスクは扉を跨ぐ。
1000年前、勇者によって破壊された扉を。
先ほどブーンが強引にこじ開けた扉を。

( ФωФ)「………」

見下ろした。
そこに集うのは元ロマネスクの部下達、幾千のアンデッド。
霊体、屍体、白骨体、様相は様々だが尽くがロマネスクの忠実な部下だ。

( ФωФ)「お前たちは役目を果たした。
       よくやってくれた。
       安らかなる眠りを享受するが良い 」

その言葉と共に、ゴーストは光の粒となり、白骨や死体はその場に崩れ落ちた。
皆、消える瞬間は満足げな顔と、主にもう仕える事の出来ない悲しげな顔をしていた。

304 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:48:35.11 ID:fIc/4S7E0

( ФωФ)「貴様らの名を聞こう、異世界の勇者達よ 」

ブーンとクーはいつの間にか、ロマネスクのすぐ後ろで待っていた。
ロマネスクと部下達の間には、何者も立ち入ることは出来ない。

川 ゚ -゚)「十八代目・葛葉ライドウだ。
     この名は世襲でな、クーと呼んでくれ 」

( ^ω^)「BOON-D1。
      ブーンでいいお 」

( ФωФ)「今は国無き王、民無き魔王だが…… 」

ロマネスクの全身から波動が駆け巡った。
この波動はクーとブーンに危害を加えるものではない。
しかし、力満ち溢れる魔王の闘気を感じるには十分過ぎる。

( ФωФ)「力を貸してやろう。
        余はロマネスク・エル・ディアブロ。
        かの愚者は目にすることになる。
        凍れる魔王、いや全ての魔族の誇り高き魂の怒りを!!」

309 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:50:40.12 ID:fIc/4S7E0


魔王立つ───。


今、ブーンたち異世界の戦士は、アンノウンを打倒すべき最大の駒を手に入れた。

その間ずっと、精霊シースルー・インビジブルがロマネスクに語りかけていたのは言うまでもない。
彼女はずっと『頑張れ魔王!!』『もうアンタしかいないのよ!!』などと喚いていた。
ロマネスクは知る由もなく、それを知っているのはクーのみ。

彼女の思いが伝わったかは定かではないが、凍れる魔王は再び戦いの舞台に舞い戻る。

川 ゚ -゚)「で、どうやって戻るの?」

(;^ω^)「あ……」

それもそうだ。
二人はアンノウンによってワープさせられたのだから、戻る術を知り得ない。

川 ゚ -゚)「そんなわけで、知恵を貸せ」

(*゚ー゚)≪お早いお帰りで≫

シリアスな空気の中で、なんとなくこうなるんじゃないかな〜とシースルーは予想していた。
当然戻る術も、考え済みだ。
313 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:53:17.92 ID:fIc/4S7E0

(*゚ー゚)≪あなたたちが飛んできたワープポイント。それを利用すればいいよ≫

川 ゚ -゚)「鍵とやらはもうないぞ?」

(*゚ー゚)≪鍵は無くても、ワープポイントはまだ残ってる。ロマネスクなら転移できるはずよ≫

川 ゚ -゚)「なるほど」

クーはシースルーの言葉をそのままロマネスクに伝える。
ふむ、とロマネスクは目を閉じて、精神を集中すると、すぐにまた目を開けた。

( ФωФ)「ほぼこの真上あたりに、そのようなものがあるのを感じるな」

川 ゚ -゚)「いけそうか?」

( ФωФ)「任せよ」

川 ゚ -゚)「頼む。人数減らした方がいい?」

( ФωФ)「まぁ、少ない方が楽ではあるな」

川 ゚ -゚)「おk。仲魔達には少し戻っていてもらおう」

クーは仲魔たちの方を向くと、次々に封魔管へ戻した。
ロマネスクが便利だな、と言うと得意そうな顔をする。

( ФωФ)「では、いくぞ」
316 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:57:51.13 ID:fIc/4S7E0

四つの異世界の戦士と、遙か昔に舞台を降りた魔王。
彼らの運命が交錯することなど、本来ならばあり得ない。
これもまた、アンノウンというイレギュラーを排除するため、大いなる力が働いた結果なのか───。


それは誰にも分からないが、彼らはアンノウン打倒へと進む。
その時、クーの肩に精霊の手が触れる。

(*゚ー゚)≪サンキュ、美人さんと元気な坊や♪
     ロマネスクにも見せ場作ってあげてね≫

クーは無言で頷くと、シースルーの手に触れる。
しぃは満足気に笑うと、その場に留まり戦士達を見送った。



アンノウンの城へと飛んだ時と同じ様な光が、クーたちを包み込んだ。
BLACK DOGもそうだ。光は膨張して球体となり、光量が増していった。

一際大きな光を放った後、彼らを包んだ光球は全てが消え果てた。






     【Cross part:Rebirth of Lord⇒END】
 
     【Next⇒Cross part:Confluence】
319 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 20:59:58.63 ID:fIc/4S7E0

(*゚ー゚)≪ふぇっふぇっふぇwww
     私、ま〜た世界のために一肌脱いじゃったわwww≫

あー、なんて素敵で優しくて可愛い勇者様、等々と精霊が独り言を言っている。
実はこの時、シースルーの後ろには霊が3人程降りてきており、話しかける機会を伺っているのだが……。
当の精霊は完全にトランス状態に入っていた。

(?≪あ〜……、え〜と……、しぃ?≫

(*゚ー゚)≪なんじゃ?≫

意外と簡単に振り向く精霊。
そこには……

(,,゚Д゚)≪よぉ。元気そうだな ≫

( ゚∋゚)( ゚д゚ )≪しぃさん!!≫

1000年前、勇者シースルー・インビジブルと共に魔王を撃破した伝説の3人。
後に世界最大の国家・ヴィップの王となった、吟遊詩人、ギコ。
極寒の北の国にて、初代賢王となった偉大なる魔法使い、ミルナ・ゲイザーサイド。
魔法を使えぬ者の為の国、セントラル初代皇帝、勇敢たるマスター・E・クックル。

(*゚ー゚)≪誰だお前ら?≫

(; ゚∋゚)(;゚д゚ )≪えぇー─────っ!!≫
329 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 21:04:44.93 ID:fIc/4S7E0

(,,゚Д゚)≪よし、お前らまずは落ち着け。
      ここはオレに任せろ ≫

ギコは懇切丁寧にシースルーに説明を始める。
何のことはない。
3人の仲間を最後まで見守っていたシースルーの中で、彼らは老人として記憶されていただけだ。

(*゚ー゚)≪なんだ、ギコ君にミルナとクックルか。
     どっかで見たことあると思ったのよねwww。
     わざわざ若い頃の姿で出てきやがって、分かりにくいのよカス共www≫

(*゚д゚ )≪しぃさん、1000年経っても変わってないっすwww。
      良いっすよ〜www。最高っすよ〜www≫

( ゚∋゚)≪おい、賢王……≫

感動的な再開となるはずが、何となく緊張感に欠ける。
彼らの旅は魔王を倒す旅。
過酷なものだったはずだが、彼らは楽しくやっていたのかもしれない。
331 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 21:07:04.41 ID:fIc/4S7E0

(,,゚Д゚)≪さて、と……。
     しぃ。もう良いんだろ?≫

こういうことは、彼ら一行の精神的支柱でもあったギコの役目だ。
ギコは3人の中でも最も古くからシースルーを知っていた。
彼は死んでから、シースルーが精霊となって世界を見守っていることも知ったのだ。

彼女の大きな懸念はロマネスクの存在だった。
いつか魔王は、氷の中から蘇る……。
だがロマネスクは巨悪と闘う最後の戦士となった。

もう何も案ずることなどないのだ……

(*゚ー゚)≪馬鹿言ってんじゃないわよ、死ね≫

(,,゚Д゚)≪はいはい、もう死んでますよ。
     お前ら分かったな。先に帰るぞ≫

ミルナとクックルは一瞬抗議したそうな顔をした。
だがすぐに辞めた。
シースルーがまだ留まっていたい理由は、火を見るより明らかだった。

(,,゚Д゚)≪1000年待ったんだ。
     長くても1日。それくらい、誤差の範囲だ≫

ギコがそれだけ言うと、3人は消え失せてしまった。
最初から何も居なかったかのように。
あとに残るは、世界を見守る光の精霊、シースルー・インビジブルのみ。
333 : ◆FnO7DEzKDs :2010/12/19(日) 21:09:07.32 ID:fIc/4S7E0





(*゚ー゚)≪……ゴメンネ、みんな。
     迎えに来てくれて、嬉しかった≫







    【Cross part another one:Spilit of Lightning⇒END】








戻る

inserted by FC2 system