6 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:07:37.34 ID:sQQIGPrz0
 ショボンの視界が明るんだときにはもう、地面まで僅かな距離しかなかった。
 それでも真っ先に地へと向かっていた頭を瞬時に働かせ、ショボンはツンを抱きかかえる。
 
 腹筋を強引に引っ張ると、天を向いていた足が下がった。
 着地の衝撃を和らげるべく、膝を少しだけ曲げる。
 
(´・ω・`)「ッ……」
 
 それほど高い位置からの落下ではなかったが、二人分の体重は決して軽くはなかった。
 ショボンの脚に、僅かな痛みが走る。
 
ξ;゚听)ξ「わっ……! ショボンさん、大丈夫ですか!?」
 
 ツンが心配そうにショボンの表情を確かめたが、既にショボンの視線は周囲へと向いていた。
 落下中はとても安全を確認する余裕はなかったが、一度着地してしまえば話は別だ。
 
(´・ω・`)(……何もない、か)
 
ξ;゚听)ξ「だ、大丈夫なんですか……?」
9 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:10:40.24 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「ん……俺のことか?」
 
ξ;゚听)ξ「も、もちろんそうです」
 
(´・ω・`)「多少脚が痛むが、問題ない」
 
ξ;゚听)ξ「問題なくないです! 治療します!」
 
 両腕のなかにしっかりと保持したツンを、ショボンがゆっくり離した。
 突如として何かに襲撃されたとしても守れるよう、深く抱え込んでいたのだ。
 
ξ゚听)ξ『ディアラハン』
 
(´・ω・`)「……ほう」
 
 ペルソナの力で、ショボンの脚の痛みは瞬時に引いた。
 元よりそれほど戦いに影響は及ぼさないであろう程度の痛みだったが、あるよりはないほうがいい。
 ショボンにとっては、助かることだった。
 
(´・ω・`)「ありがとう」
 
ξ;゚听)ξ「いえ、守っていただいてすみません……」
 
(´・ω・`)「気にしなくていい」
 
ξ゚听)ξ(……大人な人だなぁ……いくつぐらいなんだろ?)
 
(´・ω・`)(しかし……)
13 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:13:56.47 ID:sQQIGPrz0
 ツンがショボンに視線を向けている間、ショボンはずっと周囲に気を配っていた。
 落下の瞬間は、完全に無防備。不意討ちを喰らってもおかしくないとショボンは思っていた。
 しかし、ショボンが懸念したようなことは、何もなかった。
 
(´・ω・`)(……と、いうよりも……これは……)
 
ξ゚听)ξ「何もない空間、ですね……」
 
(´・ω・`)「……何もなさすぎる」
 
 二人が、降り立った場所。
 
 それは、ただ広漠な雪原が広がっているかのような空間だった。
15 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:15:09.04 ID:sQQIGPrz0
 
 
 
 
 
 
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物語のページが( ^ω^)´・ω・)゚听)ξ 川 ゚ -゚)応えるようです
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16 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:18:23.41 ID:sQQIGPrz0
 地平線を、声もなく見つめつづけるショボンとツン。
 前後左右を見回しても、二人の視界に何ら変化はなかった。
 
(´・ω・`)「見通しはいいが……これでは目標の定めようもないな」
 
ξ゚听)ξ「どうやったらさっきの場所に戻れるんでしょうか……?」
 
(´・ω・`)「まったくもって、見当もつかない」
 
 ショボンは空を見上げた。
 自分たちをこの空間に落とした穴がないかどうか、確かめるためだ。
 しかし、ショボンが諦念のなかで予想したように、ただ雲海が広がっているかのような景色が見えただけだった。
 
ξ;゚听)ξ「すみません……私が、穴から逃げられなかったせいで……」
 
(´・ω・`)「いや、どのみち全員引きずり込まれていたさ」
 
ξ;゚听)ξ「え……?」
 
(´・ω・`)「穴が小さかったから一時的に逃げられただけで、あれが巨大ならとても回避しきれなかっただろう」
 
(´・ω・`)「四つの穴を同時に出現させられたということは、恐らく穴も巨大化させられたはずだ」
 
(´・ω・`)「四人全員が分断されることなく、こうやって一緒になれたことを良しとすべきなのかもしれない」
 
ξ゚听)ξ「そう……ですか……」
 
 ショボンが、気遣いからそう言っているのか、それとも単に自分の考え方を述べているだけなのか。
 ツンには、よく分からなかった。
 そこまで相手のことを理解できるほどの時間は、まだ過ごしていない。
19 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:21:49.17 ID:sQQIGPrz0
ξ゚听)ξ「ブーンさんとクーさんは、どうなったんでしょうか……?」
 
(´・ω・`)「分からない、確認する余裕はなかった。一緒だといいが」
 
ξ゚听)ξ「そうですね……一人より二人のほうが絶対にいいですよね」
 
(´・ω・`)「――――いや、必ずしもそうとは限らない」
 
 ショボンの右手が、動いた。
 ツンがそう感じたときには、もう止まっていた。
 
ξ;゚听)ξ「ッ……!?」
 
 アルファベットZを握り締めた右手は、ツンの目の前にあった。
 歪曲した刃は、ツンの首の半分を覆っている。
 
(´・ω・`)「相手が、どんな力を持っているかは分からないんだ」
 
 首筋をZの刃に覆われていても、ツンがペルソナを召喚することはなかった。
 ショボンの真剣な眼差しを、同じような目で見つめ返している。
 
(´・ω・`)「肉体、あるいは精神を操られて、同士討ちさせられるかもしれない」
 
(´・ω・`)「もしくは、いつの間にか姿形を模倣されて騙し討ちを喰らうかもしれない」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
(´・ω・`)「二人ともアンノウンの許に辿り着く。それが理想だ」

(´・ω・`)「しかし、場合によっては、切り捨てなければならない可能性もある」
21 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:25:03.80 ID:sQQIGPrz0
 風の吹かない空間では、何も動かない。
 ツンの髪も、ショボンのアルファベットの刃も。
 
(´・ω・`)「最低でも、どちらか一人はアンノウンとの戦いに臨めるように――――」
 
(´・ω・`)「――――互いの殺し方は、考えておくべきだ」
 
 ツンが、乾いた口の中の僅かな唾を飲み込む。
 ショボンは、ゆっくりアルファベットZを引き戻した。
 
ξ゚听)ξ「……はい」
 
 ツンが微動だにしなかったのは、ショボンがあまりにも素早かったから、ではなかった。
 ショボンのアルファベットに、全く敵意や殺気などが込められていなかったからだ。
 現にショボンは、ツンの金色に輝く髪を一本たりとも斬り落としてはいない。
 
 戦いに不慣れであることを自覚しているツンでも、これまでに何度か死線を潜り抜けている。
 本人が自覚できない範囲で、確かに成長しているのだ。
 
 だからこそ、大きな差はなかった。
 ショボンが感じ、そして、ツンもすぐに察することができたのだ。
 
 今度は、明確な敵意を。
 
(´・ω・`)「ッ……!」
 
ξ;゚听)ξ「わっ……!」
 
 二人の視界に、溶け込むことのない影。
 徐々に大きくなり、拡大しきったとき、地に降り立った。
25 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:28:15.10 ID:sQQIGPrz0
 白く染まった身体は子供ほどの背丈で、頭だけが身体に不釣り合いなほど大きい。
 身体のところどころが角ばっており、石人形のような姿をしている。
 
 そして両手に、小さな身体を軽く凌駕するほど大きな棍棒を持っていた。
 
(´・ω・`)(数が、多すぎるな……)
 
 二人は、囲まれていた。
 敵の姿形は、全て同じ。それが、ショボンが目算した限りでは三百ほどいる。
 完全に包囲されたのだ。
 
(´・ω・`)(一体一体は、それほど手強くないかもしれないが……しかし、この数では)
 
ξ゚听)ξ「ショボンさん、私から離れないでください」
 
(´・ω・`)「ッ……?」
 
 ショボンが確認した、ツンの表情。
 それは、凛としていて、決然としていた。
 
ξ゚听)ξ『ペルソナ――――"アルテミス"』
 
 ツンの背後に、現れたアルテミス。
 甲冑を身に纏った、女のようなペルソナだった。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!』
 
 ツンの周囲を冷気が包み込む。
 小さな氷の粒が強風を伴って、二人を取り囲んだ敵すべてに向かっていく。
28 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:31:32.42 ID:sQQIGPrz0
 二人を狙おうとしていた敵は、身動きひとつ取らなかった。
 正確には、氷づけにされたことで、身動きできなくなったのだ。
 
ξ;゚听)ξ「全部凍らせた……かな?」
 
(´・ω・`)「解氷してしまう心配はないか?」
 
ξ゚听)ξ「あ、はい。多分……」
 
(´・ω・`)「ならば、とにかく前に向かって進もう。ここに留まっていても、利はなさそうだ」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
(´・ω・`)「どっちが前なのかは、分からんが」
 
 ショボンは、足を踏み出した。
 口にした言葉は本心で、渺茫たる雪原が延々と広がっているようなこの空間には、前進という言葉は相応しくない。
 とにかく歩いてみよう、とショボンは思ったのだ。
 
ξ゚听)ξ「本当に何もないですね……」
 
(´・ω・`)「心を強く持とう。途中で挫けてしまわないように」
 
ξ;゚听)ξ「は、はい」
 
 目標もなく歩き続けるのは、体力的にも精神的にも辛い。
 それは、ツンにも分かっていることだった。
31 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:35:47.06 ID:sQQIGPrz0
 しばらく、二人は無言で歩き続けた。
 いつしか凍らせた数百の敵は、ショボンが振り返っても見えなくなっている。
 この空間は球体で、いつかはさっきの場所に戻るのだろうか、という推測が自然とショボンのなかに生まれた。
 
(´・ω・`)「……さっきの力」
 
ξ゚听)ξ「え?」
 
(´・ω・`)「あれが、ペルソナか。大したものだ」
 
 ツンの細脚には、疲労が蓄積されつつあった。
 足取りは重くなり、足を踏み出すたびに膝に軽い痛みを覚えるようになっていたのだ。
 
 できれば少し、休息を取りたい。
 心の中でツンがそう思い始めた頃、ショボンは足を止めてツンに話しかけた。
 先ほどツンが見せた力、ペルソナについて。
 
(´・ω・`)「そっちの世界では、誰しもが当然持ち得ている力なのか?」
 
ξ゚听)ξ「いえ、一部の人だけ……だと思います」
 
(´・ω・`)「戦いには不慣れなようだが、会得したのは最近のことか?」
 
ξ;゚听)ξ「会得というよりも……与えられた、が正しいですね……」
 
(´・ω・`)「そうか。だったら、余計に、か」

34 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:38:30.88 ID:sQQIGPrz0
 ツンの力は、大きい。
 有効に活用する必要がある。
 
 ショボンは、そう考えていた。
 しかし、肝心のツン自身が臆してしまうようでは、どうにもならない。
 
 自分の世界では、幾多もの戦場を経験してきたショボン。
 その経験を活かして、ツンの力を最大限、引き出してやる必要がある、と考え始めていたのだ。
 
ξ゚听)ξ「……ショボンさんは」
 
(´・ω・`)「なんだ?」
 
ξ゚听)ξ「昔からずっと、戦ってきたんですか……?」
 
(´・ω・`)「まぁ……そうだな」
 
 ショボンが腰を下ろしたのに合わせて、ツンも膝を曲げた。
 臀部に手を回し、スカートを内側に巻き込んでから座る。
 ショボンは姿勢を崩した体だが、その気になれば一瞬で立ち上がれる体勢だった。
 
(´・ω・`)「そっちの感覚でどう感じるかは分からんが、何千もの人を斬った」
 
ξ;゚听)ξ「ッ……」
 
 ツンが自分の世界で生きる地に、戦争はない。
 ツンにはツンの戦いがある。しかし、何千もの人を殺すことはないのだ。
 
 最近までただの女子高生でしかなかったツンには、上手く把握できない数だった。
36 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:41:48.87 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「まぁ、俺の世界でお前が力を使えば、似たような数に到達するかもしれんが」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
(´・ω・`)「お前以上の人間もいるのか? そっちには」
 
ξ゚听)ξ「それは、もちろん……」
 
(´・ω・`)「恐ろしいことだな。そっちに生まれなくてよかった」
 
ξ;゚听)ξ(この人ならペルソナ使い相手でも戦えちゃいそうだけどなぁ……)
 
 ショボンの言葉は、ある意味では本心だった。
 しかし、ある意味では、欺瞞に満ちていた。
 
 それを、ショボンは蟠りとして抱え続けている。
 
 そのあと二人は、それぞれが得た知識を全て伝え合った。
 曖昧で断片的な情報も、二人で摩り合せれば見えてくる真実もある。
 この世界のこと、アンノウンのこと、聖剣のこと。知りうる限りを、互いに話した。
 
ξ゚听)ξ「……そういえば……」
 
(´・ω・`)「なんだ?」
 
ξ゚听)ξ「私たちをここに連れてきてくれた、この世界の人たち……」
 
(´・ω・`)「……あぁ……突然、消えてしまったな」
39 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:45:48.87 ID:sQQIGPrz0
ξ゚听)ξ「……いったい、どうして……?」
 
(´・ω・`)「分からん」
 
 一時的にどこかへ消えただけ。
 そう思おうとしても、二人とも、思えなかった。
 彼らが残した言葉は、人生最後の台詞であることを感じさせるものだったからだ。
 
(´・ω・`)「アンノウンの力ではない気がするが」
 
ξ゚听)ξ「もしアンノウンの力だとしたら……」
 
(´・ω・`)「勝ち目がない。俺たちは、アンノウンの掌の上を転がり続けるしかなくなってしまう」
 
(´・ω・`)「だから恐らくアンノウンの力ではないと思うし、そう信じるしかない」
 
(´・ω・`)「俺たちの力は、必ず通じるんだと」
 
ξ゚听)ξ「……はい」
 
 それぞれ、自分にしかない力がある。
 信じられる力がある。
 
 だから、戦いの場へと赴けるのだ。
 
(´・ω・`)「そろそろ、行くとするか」
 
ξ゚听)ξ「あ、はい」
43 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:50:16.88 ID:sQQIGPrz0
 ショボンが差し伸べた手を掴んで、ツンが立ち上がる。
 その足先は少し痺れており、直立できずに蹌踉いてショボンに凭れかかった。
 
ξ;゚听)ξ「すみませ……」
 
 そう、謝りかけた。
 
 しかし、ショボンはツンに対し、全く視線を向けていなかった。
 ツンからは完全に死角である背中の方向を、ただじっと見ていたのだ。
 
 鋭い眼光を放ちながら。
 
ξ;゚听)ξ「!?」
 
(´・ω・`)「…………」
 
 ツンが慌てて振り向く。
 ショボンは、寄りかかってきたツンを守るように、左腕のなかに収めていた。
 
 その二人の視線は、一人の男に注がれている。
 
 
(‘_L’)「…………」
 
 
 一人佇む長身の男には、左腕がなかった。
 唯一残されている右手にも、何も握られてはいない。
 
(´・ω・`)(フィレンクト……)
45 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:53:26.96 ID:sQQIGPrz0
 ショボンは、その男に見覚えがあった。
 自分の世界では、かつて部下として活躍した男だ。
 同じように、片腕を戦場で失っていた。
 
(´・ω・`)(姿形は、同一にしか見えんが……)
 
 しかし、自分の世界のフィレンクトではない、とショボンは確信していた。
 あの世界は時間が停止しており、自分以外は全て動きを止めている、とショボンが認識していることが理由のひとつだ。
 
 だが、それ以上に。
 
(´・ω・`)(――――これほどの覇気を、感じたことはなかった)
 
 ショボンの部下であったフィレンクトは、優秀な将だった。
 しかし、武力には長けていなかった。
 
 ショボンとツンから、およそ数十歩の距離を取っているあの男は、違う。
 底知れぬ何かがある。
 ショボンは、一目見た瞬間に感じ取っていた。
 
(´・ω・`)「ツン、お前はあの男を知っているか?」
 
ξ;゚听)ξ「いえ、見覚えがありません」
 
(´・ω・`)「そうか」
47 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 20:56:24.55 ID:sQQIGPrz0
 ショボンは、少しだけ安堵した。
 もしツンにとって見知った姿をしている相手ならば、ツンが全力を出せない恐れがある。
 戦いにはまだ不慣れであるからこそだ。
 
 ショボンにとっては、何ら障害にはならないことだった。
 
(‘_L’)「初めまして」
 
 ゆっくり、フィレンクトは距離を詰めた。
 ショボンは既にアルファベットを抜いている。
 
(‘_L’)「私、この『迷宮』を管理しております、フィレンクトと申す者です」
 
(´・ω・`)「…………」
 
ξ゚听)ξ(迷宮……?)
 
 ただ広大で、純白で、およそ一般的な迷宮とは似ても似つかない場所だった。
 だからこそツンは戸惑ったが、深く考える余裕などどこにもなかった。
 
(‘_L’)「誤解なきよう、最初に申し上げておきましょう」
 
(´・ω・`)「……なんだ?」
 
(‘_L’)「私、話し合いなどに応じるつもりは一切ございません」
 
 また、一歩。
 フィレンクトは、二人に歩み寄る。
52 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:00:10.59 ID:sQQIGPrz0
(‘_L’)「私は、貴方たちが私に勝てるかどうか? を試さなければなりませんので」
 
(‘_L’)「ですから、私を倒しさえすればこの場からは脱出できますよ」
 
ξ゚听)ξ「……何のために、こんなことを……?」
 
(‘_L’)「理解する必要はありませんよ、お嬢さん」
 
(´・ω・`)「あぁ、そうだな」
 
 ショボンのアルファベットZが、分離する。
 右手、そして左手に、双剣が握られる。
 
(´・ω・`)「余計な気を遣う必要はないさ、フィレンクト」
 
(‘_L’)「ふむ?」
 
(´・ω・`)「こっちも、お前たちと話し合うつもりなんてない」
 
 ショボンが左足を大きく踏み出した。
 一定の速度で歩み寄りつづけていたフィレンクトが、すかさず後退する。
 
 ショボンのZが、鋭く空を裂いた。
 
(´・ω・`)「お前たちが話し合いで済む相手なら、俺たちがここに居るはずはないからな」
 
(‘_L’)「えぇ、誠にそのとおりでございます」
 
 ショボンが再び構えた。
 ツンも既にアルテミスを召喚し終えている。
54 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:04:02.77 ID:sQQIGPrz0
 しかし、二人が盤石の体勢になっても、フィレンクトは全く身構えなかった。
 
 余裕を見せられているようで、攻め込みづらい。
 ショボンは少し、そう感じていた。
 
(´・ω・`)「ツン、俺が行ってみる。好機と思ったときは、迷わず攻めてくれ」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
 小声で言葉を交わし、ショボンは瞬時に駆けだした。
 そして、アルファベットZを伸ばす。
 
 フィレンクトは、しゃがみこんだ。
 回避するつもりか、とショボンが感じたのは当然だ。
 しかし、フィレンクトはすぐに立ち上がり――――
 
(´・ω・`)「ッ!?」
 
 何らかの動きはあるだろう、とショボンは予測していた。
 フィレンクトが立ち上がったとき、右手に何かを握っているのも見えていた。
 だが、物理的な攻撃なら、左手のZで強引に弾いてやるつもりでいたのだ。
 
 そしてフィレンクトの攻撃は、物理的なものだった。
 ショボンは、余裕を持って弾けるはずだった。
 
 しかし、実際には動きを止められてしまっていた。
 
(‘_L’)「ほう、なるほど」
 
(´・ω・`)(これは……!)
58 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:06:58.89 ID:sQQIGPrz0
 長大な刃には、大きな穴が空いていた。
 処刑刀のような形状の武器。
 
 それは、ショボンの世界では、アルファベットUと呼ばれていた。
 
(´・ω・`)(今の手応えは……)
 
 間違いなく、アルファベットとしての威力を発揮している、とショボンは感じた。
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん、あれは……」
 
(´・ω・`)「俺の世界の武器だろうな」
 
 フィレンクトは、重い刀身を持するアルファベットUを片腕で軽々と振り回していた。
 ショボンの世界のフィレンクトは、それほど腕力のある男ではなかったため、ショボンが違和感を覚えたのは当然だ。
 ツンも、標準的な太さの腕が自由自在に武器を操る様に、言葉を失った。
 
(´・ω・`)「強さでいえば俺のZのほうが強い。ただ、俺の世界の武器と完全に同一であるかどうかは、分からない」
 
 いや、同じではない、とすぐショボンは思い直した。
 フィレンクトが握っているアルファベットは、形こそショボンが知るものと同一だが、決定的に違う点がある。
 刃先から柄尻まで、全て白に染まっているという点だ。
 
 この空間と完全に同化して、ショボンの視界から消えてしまいそうなほどの白さだった。
 
(´・ω・`)「ともかく、俺が攻め込んでみる」
 
ξ゚听)ξ「私が、戦い方を変える必要は……」
 
(´・ω・`)「ない。さっきと同じでいい」
62 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:10:32.10 ID:sQQIGPrz0
 いったん距離を取ったショボンが、再びフィレンクトに攻め寄る。
 身体を捻ったショボンから、まず左のZがフィレンクトに襲いかかった。
 
 フィレンクトはアルファベットUを縦に構えて受け止める。
 そこに重ねて、ショボンの右のZがUの刃を叩いた。
 
(‘_L’)「おや」
 
 多重攻撃を受けたフィレンクトのアルファベットが、砕けた。
 
(´・ω・`)「なるほど」
 
 威力は本物だ。
 しかし、強度がない。
 
 ショボンは、確信したと同時にフィレンクトに蹴りを見舞った。
 木の幹のような太さの脚が、苦痛に顔を歪ませたフィレンクトを軽く宙に浮かせる。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!!』
 
 ツンは、好機を見逃さなかった。
 先ほど、数百の敵を一瞬にして全滅させた吹雪が、一点集中でフィレンクトを襲う。
 
 純白の世界に舞う、白銀の粒。
 ショボンとツンの視界からフィレンクトが霞み、やがて見えなくなった。
 
(´・ω・`)「…………」
64 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:13:35.54 ID:sQQIGPrz0
 ツンよりも、手応えを感じていたのはショボンのほうだった。
 渾身の力を込めた蹴りは、無防備なフィレンクトの左脇腹に直撃したのだ。
 身動きが取れなくなったところへの、ダイアモンドダスト。回避しようがない、とショボンは確信した。
 
 ――――確信、しているのに。
 
 何故かショボンは、ずっと構えを解けないでいた。
 
ξ;゚听)ξ「ど、どうなったんでしょうか……?」
 
(´・ω・`)「気は抜くな。いつでも追撃できる体勢を取っていてくれ」
 
ξ;゚听)ξ「は、はい」
 
 ダイアモンドダストが、彼方へと消えていく。
 やがて、そこからフィレンクトの姿が――――
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 二人の目に、映った。
 そう感じた瞬間には、二人の眼前にまで迫っていた。
 
 十字剣のような形状の、アルファベットXを携えて。
 
(´・ω・`)「くっ!」
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん!」
 
 ショボンがフィレンクトを目で捉えたときには、既にXを振り上げていたのだ。
 守備体勢を取る時間は、僅かしかなかった。
70 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:16:56.97 ID:sQQIGPrz0
 それでもショボンは、辛うじてXを受け止めていた。
 
(‘_L’)「素晴らしい。よくぞ受け止めました」
 
 ショボンが、Xを弾く。
 そして素早くフィレンクトとの距離を取った。
 
(´・ω・`)(全くの無傷……か?)
 
 髪一本、凍ってはいない。
 フィレンクトは、ダイアモンドダストを完全に凌ぎきった、ということになる。
 
ξ;゚听)ξ「効いてない? そんな……」
 
(´・ω・`)「いや、分からん。一時的にその場から消えたのかもしれない」
 
 ただ、もしそうだとすれば、フィレンクトが蹴りを受けたこととは矛盾する、とすぐショボンは考えを改めた。
 蹴りが入ったとき、フィレンクトの顔は確かに苦痛に歪んでいたのだ。
 
(´・ω・`)(一瞬消えられる技があるなら、あのとき使っていておかしくない……)
 
ξ;゚听)ξ(もしあの状態でも消えられる技があるとしたら、全く勝ち目がない……戦う意味もないってことに……)
 
 消えて回避したわけではないのだ、と二人とも同じ結論に達した。
 しかし、そうだとすれば、今度は凍ったのが地面だけであることの説明がつかなくなる。
 
(‘_L’)「おや、どうしました? なにやら、戸惑っているようですが」
 
 表情も、口調も、嘲りが込められているわけではなかった。
 ただ、ショボンは俯瞰的だと感じた。
73 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:20:26.36 ID:sQQIGPrz0
ξ゚听)ξ(消えたわけじゃないなら……何か、防御するバリアみたいなものを使った……?)
 
ξ゚听)ξ(この人がどういう存在なのか、よく分からないけど……そういう力を持ってる可能性も)
 
(‘_L’)「ひとつ、教えてさしあげますよ」
 
 ツンの思考を読んだかのようなタイミングで、フィレンクトが言葉を発した。
 
(‘_L’)「私には大した力などありません。むしろ、私自身は何もできないと言ってもいい」
 
ξ;゚听)ξ「じゃあ、どうやってダイアモンドダストを……!」
 
(‘_L’)「さて、どうしてでしょうか?」
 
(´・ω・`)「惑わしだ、ツン。耳を傾けるな」
 
(‘_L’)「おや、心外ですね。私なりに目的を達するための助言なのですよ、これは」
 
(‘_L’)「何しろこのままでは、貴方たちに全く勝機がありませんので」
 
 癇に障る言い方も、ショボンを動揺させることはなかった。
 ただ、フィレンクトの言ったことに、反論することもできない。
 
(‘_L’)「一方的な戦いになっては困るのです。もっと底力を引き出してください」
 
(‘_L’)「でなければ、こうして戦っている意味がありません」
 
(´・ω・`)「こっちとしては、最初からお前と戦う意味なんてないんだがな」
 
(‘_L’)「えぇ、そうかもしれませんね」
76 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:24:01.01 ID:sQQIGPrz0
(‘_L’)「ですが、アンノウン様の定めた運命なのですよ。貴方たちが『迷宮』に迷い込んだことは」
 
(´・ω・`)「ッ……?」
 
 フィレンクトの言葉を、さほど意識せずに聞いている最中に、ショボンはふと気付いた。
 弄ぶようにフィレンクトが左右に動かす、アルファベットXの刃のことに。
 
 その刃が、凍りついていることに。
 
(´・ω・`)(どういうことだ……? 何故、アルファベットだけが……?)
 
(´・ω・`)(アルファベットXでダイアモンドダストを防いだというのか……?)
 
(´・ω・`)(しかし、盾型のアルファベットOならともかく、あの細い刃で防ぎきれる吹雪ではなかった)
 
(´・ω・`)(形状がOからXに変化したのか? 普通はありえないが、このフィレンクトならやってのける可能性もあるな……)
 
(´・ω・`)(だが、本人が『大した力はない』と言っていた……容易く信じるつもりはないが、嘘にしては下らない)
 
(‘_L’)「……さて」
 
 フィレンクトがXを鋭く振り回し始めた。
 反射的に、ショボンとツンは身構える。
 
(‘_L’)「いま見せている力が全てだというのなら、すぐに死んでいただきますが――――よろしいですか?」
 
 ほぼ助走なしで、大きく跳躍した。
 フィレンクトのアルファベットXが、襲いかかる。
 
ξ;゚听)ξ「ッ!!」
78 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:26:57.29 ID:sQQIGPrz0
 無防備なツンに。
 
(‘_L’)「ッ……」
 
 そのフィレンクトの前を、一本の線が横切った。
 跳躍から着地してアルファベットを振るいかけたフィレンクトが、強引に動きを止める。
 
(´・ω・`)「射抜くつもりだったが」
 
 ショボンがWから放ったFは、白き空間の奥へと消えていった。
 そしてすぐさま、ショボンはツンの前に立つ。
 
(‘_L’)「いい一撃でしたね、お見事です」
 
(´・ω・`)「下らない。こんな遊びをずっと続けたいのか?」
 
(‘_L’)「いえいえ、立派な殺し合いですよ、これは」
 
ξ;゚听)ξ(……余裕綽々だ、ずっと……なんで?)
 
 口では殺し合いと言っていても、遊ばれているようにしかツンには思えなかった。
 それを受け入れきっているわけではなく、釈然としない思いを抱えてもいたが、動くことはできない。
 先ほど、完璧なタイミングで放ったダイアモンドダストをツンは防がれているのだ。
 
ξ゚听)ξ(だけど、このままじゃ負ける……攻め方を変えないと……)
 
 ただ、踏み切れない。
 それは、ツンが戦いに不慣れであることに起因している。
 だがその上に乗るのは、フィレンクトが見せる余裕だ。
81 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:30:20.62 ID:sQQIGPrz0
 ショボンの一撃は、フィレンクトの鼻先を掠めていた。
 それなのに何故、焦りがないのか、とツンは考えさせられていたのだ。
 
ξ;゚听)ξ(……まだこんなもんじゃないんだ、きっと。まだ、あの人は本当の力を見せてない)
 
 それが、ツンの辿りついた結論。
 しかし、答えとしてはあまりに曖昧だった。
 
(‘_L’)「しかし貴方がたは、なかなか悪くない力を持っているようですね」
 
 そう言ってフィレンクトは、アルファベットXを捨てた。
 最初と同じように、完全に無防備になっている。
 ただそれでも、ショボンもツンも、攻めることはできない。
 
(‘_L’)「ここまではいいでしょう。さて、問題はここからです」
 
 フィレンクトが、背を向けた。
 ショボンは、本能で咄嗟にアルファベットWを構えたが、Fを番えはしなかった。
 
(‘_L’)「先ほど私は言いましたね。『大した力は持っていない』と」
 
(‘_L’)「これは紛れもない事実です。先ほどの貴方の蹴り、相当痛かったですよ、あれは」
 
(´・ω・`)「…………」
 
(‘_L’)「大して頑強な身体を持っているわけでもありません。しかし、"二つだけ"無二の力が私にはあります」
 
 逃げる狼のように、フィレンクトは顔だけを後ろに向けた。
 そして、僅かに口角を釣り上げさせる。
83 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:33:17.99 ID:sQQIGPrz0
(‘_L’)「さぁ、この力で、貴方たちの全力を把握すると致しましょう」
 
 そう言ったフィレンクトに、動きはない。
 だからこそ、ショボンもツンも、全身に緊張感を走らせて警戒していた。
 
 だが――――
 
 
(´・ω・`)「ツンッ!!」
 
ξ;゚听)ξ「ッ!?」
 
 
 突然ショボンから発された大声に、ツンは一瞬、思考力を失った。
 しかし、次の瞬間には地面に倒れ込んでいた。
 
 そして、ツンの真上を白い"何か"が通過していった。
 
ξ;゚听)ξ「な、な、な……」
 
 錯乱したツンの身体は、ツン自身の意思に関係なく動き回る。
 正確には、覆い被さったショボンがツンを抱えながら地面を転がっていたのだ。
 
 ショボンは、転がりながら回避していた。
 地面から突き出てくる、得体の知れない連続攻撃を。
 
 やがて攻撃の気配が消え、ショボンは右腕一本でツンを脇に抱えて膝立ちした。
 視線の先には、先ほどから全く姿勢を変えていないフィレンクト。
 
(‘_L’)「よくぞ躱しました。これならば、楽しめそうですね」
89 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:37:06.69 ID:sQQIGPrz0
 ショボンは、ツンを脇から離せなかった。
 反応の速さという点で、ツンはまだショボンの域には達せていないのだ。
 
 実際には、アルテミスを召喚しているため生身の防御力ではない。
 それでも、仮に一撃を受けていた場合、ダメージを受けることは間違いなかった。
 
 咄嗟にツンを守ったショボンの判断は正しい。
 ショボンでもツンでもなく、フィレンクトがそう感じていたのだ。
 やはり僅かに、唇に笑みを含ませながら。
 
 ショボンとツンを、見下しながら。
 
(´・ω・`)「……なんだ……?」
 
ξ;゚听)ξ「うそっ……」
 
 物理的に、フィレンクトは高みへと昇っていた。
 二人を、俯瞰していた。
 
 正確には、石版のような白い石が、フィレンクトを浮かび上がらせていたのだ。
 
(‘_L’)「名前は、紹介しておきますよ」
 
 徐々に、フィレンクトの足場が大きくなっていく。
 地面から離れた白石が、集合していっていた。
 
 やがて、フィレンクトは白い人型の巨像の頭上に立つ形になった。
 
 
(‘_L’)「この空間の支配者、【ラストスノー】」
91 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:40:34.05 ID:sQQIGPrz0
 巨体が分裂し、四方八方に飛び散った。
 
(´・ω・`)「ふんッ!!」
 
 頭ほどの大きさの白石が飛来し、ショボンを狙った。
 ショボンは、叩き落とすようにしてZで縦に斬り裂く。
 
ξ;゚听)ξ「ダイアモンドダスト!」
 
 強烈な吹雪を周囲に浴びせ、十を超える石の攻撃をツンは防いだ。
 凍りついた白石はそのまま地面に力なく落ちていく。
 
(´・ω・`)「ツン、恐らくこれは、相当厳しい戦いになる」
 
(´・ω・`)「恐らく、俺たちがいま踏みしめている地面も、ラストスノーの一部だ」
 
ξ;゚听)ξ「ッ……!」
 
 白い石が集まって、巨人が生まれた。
 しかしあれも、ラストスノーの一部に過ぎない、というのがショボンの考えだった。
 
(´・ω・`)「この空間すべてが、敵。そう考えたほうがいい」
 
ξ;゚听)ξ「石が集まったり散らばったりして……襲ってくるんですね」
 
(´・ω・`)「あぁ、あれを見てくれ」

92 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:43:29.86 ID:sQQIGPrz0
 ショボンが指差したのは、先ほどアルファベットZで斬り裂いた石だ。
 完全に分断されており、常識的な感覚ならば、あの石を撃破したと捉える。
 
 しかし、二つに分かれた石は、更に細かく分裂し、やがて小石ほどの大きさになって四散した。
 
(´・ω・`)「どうやら、分裂と集合は完全に自由らしい」
 
ξ;゚听)ξ「斬っても効果がないなんて……そんな……」
 
(´・ω・`)「だが、どこかに弱点はあるかもしれない」
 
 そう言われてツンが思い浮かべたのは、核のようなものがないかどうか、だった。
 人間の心臓のように、ラストスノーにも核があり、見つけ出して破壊すればラストスノーを撃破できるのではないか。
 
 しかし、"でも"とすぐに思い直す。
 
ξ;゚听)ξ(この空間すべてがラストスノーのものなら……核なんて、いくらでも隠せちゃうよね……?)
 
ξ;゚听)ξ(いったい、どうすれば……?)
 
(´・ω・`)「ツン、今の時点でひとつ、確かなことがある」
 
ξ;゚听)ξ「た、確かなこと?」
 
 フィレンクトは宙を舞いつづける石を見ているだけだった。
 不意を打って二人を襲ってくることは、今のところない。
 
(´・ω・`)「ペルソナの有用性だ。お前が凍らせた石は、再結合していない」
 
ξ゚听)ξ「あっ……!」
95 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:46:25.31 ID:sQQIGPrz0
 アルテミスのダイアモンドダストの餌食となった石は十数個あったが、すべて地面に落ちたままだった。
 そのまま地中に消えることもなく、再び浮かび上がることもなく、ただ黙している。
 
(´・ω・`)「斬るのは無駄だが、凍らせることには充分、意味がある」
 
ξ゚听)ξ「じゃあ……襲ってくる石を手当たり次第凍らせていけば」
 
(´・ω・`)「勝利への道が、見えてくるかもしれない」
 
 頃合いを見計らったかのようなタイミングで、再びラストスノーは形を大きくしはじめた。
 石が縦に結合し、巨大な柱、あるいは巨人が使うための槍のような形状へと変化を遂げる。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!!』
 
 二人めがけて突進してきたラストスノーを、ダイアモンドダストで容易く凍らせるツン。
 ショボンの言ったとおり、完全に凍りついた石は集合も分裂もしない。
 ツンは、確かな手応えを感じていた。
 
 すぐさま地面からまた石が浮かび上がり、小さな白い槍が幾つも生まれる。
 ツンは迎撃すべく、じっと狙いを定めた。
 
 ――――その、攻防に気を取られた瞬間を狙って。
 
(´・ω・`)「はぁっ!!」
 
 ショボンが、すかさずフィレンクトにアルファベットを向けていた。
 
(‘_L’)「……これはこれは、見かけによらず素早いことですね」
 
(‘_L’)「しかし、無駄です」
98 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:50:02.58 ID:sQQIGPrz0
 駆け寄ったショボン、振るわれたアルファベットZ。
 その前に立ちふさがったのは、白い壁だった。
 
 ラストスノーが、フィレンクトを守ったのだ。
 
(´・ω・`)「なるほどな」
 
 ショボンのZは壁を斬り裂くも、再び結合していく壁はやがて原状を回復した。
 フィレンクトからショボンが離れ、再びツンの隣へと戻る。
 
(´・ω・`)「さっきの攻撃で一つ、分かったことがある」
 
ξ゚听)ξ「え?」
 
(´・ω・`)「フィレンクトは、嘘をつかない男だ」
 
ξ;゚听)ξ「??」
 
 先ほどの一撃で、何故その推察が出てくるのか。
 ツンには、あまりにも突拍子のない思考だとしか思えなかった。
 
(´・ω・`)「あいつがさっき言ったことだ。『私には大した力などない』」
 
(´・ω・`)「あれは本当だ。今の戦い方を見ると、まるでフィレンクトがラストスノーを操っているかのように見えるが、違う」
 
(´・ω・`)「ラストスノーは、『フィレンクトに危害を与えない』だけだ」
 
ξ;゚听)ξ「どうしてそれが分かるんですか?」
103 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:53:45.43 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「さっきの一撃さ。フィレンクトは確かに、お前とラストスノーの攻防に気を取られていた」
 
(´・ω・`)「俺の動きに、全く気付いてなかった」
 
 それは、ショボンが逆に動揺してしまうほどだった。
 白い壁が出現する直前まで、試しにやってみたつもりの奇襲が成功すると思えていたのだ。
 
 油断させて迎撃するために、気付いていないふりをしているだけかもしれない。
 ショボンはそうも思った。
 しかし、ラストスノーの取った行動は攻撃ではなく防御だった。
 
(´・ω・`)「もしあいつがラストスノーを操っているなら、さっきの俺の一撃は防げなかったはずだ」
 
(´・ω・`)「つまり、あいつはラストスノーに命令してるんじゃない。ただ見てるだけだ」
 
(´・ω・`)「しかしラストスノーは自発的にフィレンクトを守った。それこそがあいつの力だ」
 
ξ゚听)ξ「ラストスノーに身を守らせる力……」
 
(´・ω・`)「それに加えて、『ラストスノーの攻撃が自分には当たらないようにする力』だな」
 
ξ゚听)ξ「あ、さっきショボンさんが言った、『危害を与えない』っていうのは……」
 
(´・ω・`)「二つの意味を込めてある。お前が言ったことと、俺が言ったことの、二つの意味だ」
 
ξ゚听)ξ「それが、あの人の"二つだけ"の力……」
 
 しかし、フィレンクトの力を推測できたところで、二人にとって戦況が好転するわけではなかった。
 むしろ、この空間においてフィレンクトを討つのは限りなく難しい、ということが分かってしまったのだ。

104 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:56:45.11 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)(ただ、不可解な話ではあるな)
 
 先ほど導き出したフィレンクトの力は、あまりにも無意味だ、とショボンは感じていた。
 ラストスノーにただ身を守らせるだけならば、この場にいる意味もないのだ。
 
(´・ω・`)(フィレンクトを倒せばこの空間から出られるらしい……ならば、筋は通らなくもないが……)
 
(´・ω・`)(守ってもらうことしかできないなら、"倒す"のはフィレンクトではなくラストスノーだ)
 
(´・ω・`)(フィレンクトは何のためにここに居るんだ……?)
 
 フィレンクトの適当な一言を、深く考えすぎているだけかもしれない。
 ショボンは、それが分かっていながらも思考をやめられなかった。
 
(´・ω・`)「……ツン、あと二つ、現時点では推測に過ぎないことだが、一応言っておく」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
(´・ω・`)「ラストスノーの分裂には、恐らく限界がある。最小は、人の爪程度の大きさだ」
 
ξ゚听)ξ「その推測は、どこから……」
 
(´・ω・`)「限りがないなら、砂粒程度の大きさになって目の前から消失してもいいはずだ」
 
(´・ω・`)「しかし今のところそれはない。だから、地上に姿を現した石は必ずまた地中に消える」
 
ξ゚听)ξ「あっ……」
108 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 21:59:48.63 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「この推測は、もし当たっていれば多少、戦いに有利に働く可能性がある」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
(´・ω・`)「もう一つは、もっと戦いに役立つ可能性がある。ラストスノーの、別の限界だ」
 
ξ゚听)ξ「別の……?」
 
(´・ω・`)「さっき俺は『俺たちがいま踏みしめている地面もラストスノーの一部』と言った」
 
ξ゚听)ξ「それは、間違いないと思います」
 
(´・ω・`)「あぁ、間違ってはいないんだが、正しくもない」
 
ξ;゚听)ξ「?」
 
(´・ω・`)「全てがラストスノーではないんだ。ラストスノーは、あくまで地面に身を隠せるだけだ」
 
 二人の視界からは、ラストスノーは一時的に消えていた。
 
(´・ω・`)「これは、フィレンクトの発言が根拠だ。ラストスノーのことを、『空間の支配者』だと言った」
 
(´・ω・`)「つまり、この空間そのものがラストスノーではないんだ」
 
ξ゚听)ξ「……それは、フィレンクトが嘘をつかない、という推測からですか?」
 
(´・ω・`)「そうだな」
 
 多少、危険な推察かもしれない、とツンは感じていた。
 アンノウン側の男であるフィレンクトが嘘をつかない保証など、どこにもないのだ。
110 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:02:47.83 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「それと……ラストスノー自体はかなり巨大な敵だと思うが、今のところ、地上に現れる石の数はそれほど多くない」
 
ξ゚听)ξ「……出てこられる数に限りがある?」
 
(´・ω・`)「そんな気がする」
 
ξ゚听)ξ「でも、そうだとしたら、やっぱりこの空間の地面は全てラストスノーかもしれません」
 
(´・ω・`)「同じことさ。丸ごと飲み込まれたりしなければそれでいい」
 
ξ゚听)ξ「それは……確かに、ショボンさんの言うとおりです」
 
 地上に現れている姿は一部に過ぎない、という点に関して二人の意見は一致している。
 考え方が分かれたのは、ラストスノーがこの空間すべてなのかそうでないのか、だった。
 しかし、一部しか出てこられないのならばどちらでも同じだ、とショボンは考えていた。
 
 二人が敵に対する考察を進めている間に、また地中から石が浮かび上がりはじめた。
 ひとつひとつが結合を繰り返し、巨大化していく。
 四つの脚が生まれ、鋭く尖った角が姿を現した。
 
 巨象ほどの大きさはあろうかという白い獣。
 
(´・ω・`)「これは……」
 
ξ;゚听)ξ「ユニコーン……!」
 
 石で造られた一角獣の白い瞳が、二人を捉える。
 
(´・ω・`)「ツン! 攻撃の方向に気をつけてくれ!」
113 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:05:39.49 ID:sQQIGPrz0
 ラストスノーが動き出すよりも先に、ショボンは駆け出していた。
 敵の、足元に潜り込むべく。
 
 ラストスノーは、それを見逃さない。
 ショボンに、天を貫かんばかりの長角を向けた。
 
(´・ω・`)「遅い」
 
 角が、地面を抉る。
 ショボンは軽い跳躍と共に、躱していた。
 
 そして、一角獣となったラストスノーの右前脚を斬る。
 
(´・ω・`)(やはり、分裂には限界があるようだな)
 
 今までショボンも気づいていなかったが、切断した石は、更なる分裂の後で元に戻るのではない。
 すぐさま他の石と結合するだけだ。
 
(´・ω・`)(この情報が役立つかは分からんが、ひとつひとつ弱点を探っていくしかない)
 
ξ゚听)ξ「ショボンさん! いきます!」
 
 脚を切断され、膝を折ったラストスノー。
 ツンは好機を逃すまいと必死だった。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダ……ッ!』
 
 その好機を掴むべく発した言葉が、途切れる。
 
(´・ω・`)「ッ……」
115 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:08:16.61 ID:sQQIGPrz0
 ラストスノーは素早く分裂した。
 小石ほどの大きさの石が、無数に宙を舞う。
 
 その様子が、今までと何か違うことを、ショボンもツンも感じていた。
 
(‘_L’)「ほう、これは……来ますか」
 
 先ほどまで一角獣を形成していた石だけではない。
 地面からも、次々に浮かび上がってくる。
 
 上空を覆い尽くすほどの、石。
 
ξ;゚听)ξ「こ……こんなに……」
 
(´・ω・`)(馬鹿な……もしこれでもまだ一部だとしたら、とても勝ち目は……)
 
(‘_L’)「私の言葉の意味を、知るときが来たようですよ」
 
 空を埋め尽くしたラストスノーが、やがて動きを止めた。
 そして、少しずつ結合しながらゆっくりと降りる。
 
 ショボンもツンも、警戒しているが、どう警戒すればいいのか分かっていない。
 降り注いでくるのか、それともまた形を成して襲ってくるのか。
 変幻自在な敵を相手にして、対応の取り方を決められないでいた。
 
 結果として、二人は、いずれの対応でも間違いであることを知る。
 
(‘_L’)「ラストスノー【迷宮モード】」
117 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:11:12.74 ID:sQQIGPrz0
 石のひとつひとつが、煉瓦のような形になった。
 そして、地面に降り立ち、積み重なっていく。
 
(´・ω・`)「ツン!!」
 
 ツンを引き寄せようとして手を伸ばす。
 その右手に、ラストスノーの一撃が降り注いだ。
 
(´・ω・`)「ぐっ……!!」
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん!!」
 
 ツンは、ショボンに駆け寄ろうとし、同時に空へ向けてダイアモンドダストを放とうとした。
 しかし、どちらも叶わない。
 
ξ;゚听)ξ「うぇっ……!」
 
 ショボンを襲ったような一撃が、ツンの背中にも狙いを定めていた。
 衝撃でふらつき、そのまま地面に押し倒される。
 
 そして二人の間には、三メートルはあろうかという白い壁が聳え立った。
 
 やがて周囲にも壁が出来上がっていく。
 空を覆い隠していた石が全て降りたときには、迷宮が完成していた。
 
 しかし、それだけでは終わらない。
 
ξ;゚听)ξ「きゃっ……!」
 
(´・ω・`)(ッ、地面が……!?)
120 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:13:26.96 ID:sQQIGPrz0
 自動歩道のように、動き始めた。
 しかも、歩く程度の速さではなく、馬の全力疾走を遥かに上回る速度だ。
 二人とも、とても立ってはいられず、地面にへばりつく。
 
 ショボンは、堪えようとして壁にZを突き刺した。
 しかし、壁もラストスノーの一部でしかない。
 ショボンが刺した箇所が、素早く分裂した。
 
 Zが抜けてしまったショボンに抗う術はない。
 
 
 
 一方、ツンは周囲をひととおり凍らせることで、移動を食い止めていた。
 
ξ;゚听)ξ「ハァ、ハァ……」
 
 壁と地面の繋ぎ目が凍ってしまえば、ラストスノーは動けない。
 ツンの見立ては、正しかった。
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん! ショボンさん!」
 
 絞り出せる限りの大声で叫んだが、返事はない。
 ラストスノーが動いている気配は、まだある。
 
ξ;゚听)ξ(分断された……! 完全に……!)
 
 フィレンクトが言っていたとおり、正に迷宮。
 ツンは今、曲がり角に立っているが、進んだ先は十字路になっているのが見えていた。
 
 壁は高く、常人の跳躍力では越えられそうにない。
123 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:16:13.83 ID:sQQIGPrz0
ξ;゚听)ξ(だけど、さっき空に浮いてた石の量から考えると……)
 
 相当な大きさの迷宮であるはずだ。
 そのツンの予想は正しく、直線距離で出口まで歩いても数十分はかかる規模になっていた。
 
 
 ショボンとの合流は、絶望的。
 
 
 それでもツンはすぐに立ちあがって、歩き出した。
 
ξ゚听)ξ(……行かなきゃ。分断されたままじゃ、私もショボンさんも苦しい)
 
ξ゚听)ξ(それに……出会ってからまだ少しだけど、私はもう、何回も助けられてる)
 
ξ゚听)ξ(今度は、私がショボンさんを助ける番!)
 
 目の前の十字路を、真っすぐ進む。
 その先は丁字路になっていたが、ツンは迷わず右に曲がった。
 迷ったところで、どちらが正しいのかなど今の状況では分からないからだ。
 
 しかし、その道には白い石人形が立ち塞がっていた。
 
ξ゚听)ξ(……大丈夫、落ち着いて)
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!』
 
 ペルソナ・アルテミスから放たれた吹雪は、石人形とその周囲を凍らせる。
 一度凍らせてしまえば、再び動き出すことはない。
125 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:18:34.04 ID:sQQIGPrz0
ξ゚听)ξ(よしっ)
 
 ツンは、自分自身の力に、確かな手応えを感じ始めていた。
 
 
 
 しかし同じ頃、ショボンは苦戦を強いられていた。
 
(´・ω・`)「ふんッ!!」
 
 迷宮の動きは、止まった。
 そして動き出したのは、地面から湧き出る白い獣たちだ。
 
 虎や狼、獅子など種別は様々。
 共通しているのは、石でできているという点だけだ。
 
 ショボンは、分離させたアルファベットZで次々に斬り伏せた。
 しかし、完全に動きを止めることはできない。
 斬られたところをまた再結合させて、獣たちは襲いかかってくる。
 
(´・ω・`)(普通の獣なら、頭をやれば一撃だが)
 
 ラストスノーの一部であるこの獣たちは、むしろ脚を狙ったほうが効率的だった。
 脚ならば、一時的に動けなくなるためショボンは時間を稼げる。
 
(´・ω・`)(しかし……脚は頭よりもかなり狙いにくい)
 
 それが、苦戦の原因。
 頭を斬り砕いたところで、獣は影響など感じさせない様子でショボンに襲いかかるのだ。
127 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:21:12.80 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)(……結合不可能になるくらいまで、斬り砕ければ……)
 
 ラストスノーの結合と分裂には限界があり、一定以上の小ささになった石は制御できなくなる。
 それは既に予測したことであり、戦いのなかで、間違いないとショボンが確信したことでもあった。
 
 そして、ラストスノーは地面から出てきて何らかの形を作るのには時間を要している。
 先ほどの一角獣も、迷宮も、完成には時間がかかっていた。
 
(´・ω・`)(……つまり、この獣も全身を粉々に斬り砕けば実質的には倒したことになる)
 
(´・ω・`)(しかし……厳しいな)
 
 アルファベットをいかに素早く振るったところで、全身を粉々にすることはできない。
 砕いている最中に再結合が始まってしまうだけだ。
 
 それでもショボンは敵を斬り続けたが、獣と化したラストスノーは際限なく蘇った。
 耐えきれず、飛びかかってきた獣の群れを一閃して、一時的に動けなくなった隙に駆け出す。
 
 ラストスノーは正に『迷宮』を構築していた。
 ショボンが進んだ先は十字路になっており、どの方向に進んでも更に十字路になっているのが確認できた。
 ショボンの付近は、碁盤目状の道になっているのだ。
 
 あえて右左折は行わず、ひたすらショボンは真っすぐ進んだ。
 石の獣たちの動きは、それほど素早くはなく、途中まではショボンを追っていたがやがて諦めた。
 
 しかし、逃げることに意味などないと、ショボンは最初から分かっていた。
 
(´・ω・`)(地面から出てくる相手だ……逃れる術はないな)
131 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:24:28.92 ID:sQQIGPrz0
 一時凌ぎに過ぎない行動。
 それでも、ショボンは僅かな休息の時間を得た。
 
 だからこそ、冷静に考えてしまったのだ。
 
(´・ω・`)(……これがツンなら、周囲を凍らせれば敵の出現を防げる)
 
(´・ω・`)(凍らせながら進めばほぼ間違いなく安全だ)
 
 ペルソナの有用性。
 戦う前から、ショボンは分かっていた。
 ラストスノーが出現したあとは、更にその理解を深めた。
 
(´・ω・`)(この戦い、鍵を握っているのはツンだ)
 
(´・ω・`)(ツンのペルソナでラストスノーを凍らせることが、勝利への唯一の道だ)
 
 無論、ショボンは自分にしか果たせない役割を考えていた。
 そのうちの一つが、敵の弱点を探ることだ。
 
 戦い慣れていないツンは、戦闘中に敵の特徴や弱点まで探る余裕はない。
 故にショボンはひたすらラストスノーに探りを入れていた。
 
 その甲斐あって、ラストスノーの弱点も徐々に見え始めている。
 ただ、決定打となりえる情報はまだ得られていない。
 
(´・ω・`)(……あとは、なんとかフィレンクトの不意を突くくらいか……)
 
(´・ω・`)(しかし、それも厳しい。さっきの不意討ちは完璧だったが、ラストスノーに防がれた)
133 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:27:35.14 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)(フィレンクトを討つためには、フィレンクトの周囲を広範囲にわたって凍らせておく必要があるな)
 
(´・ω・`)(ただ……こんな迷宮を出現させられては、それさえも厳しい)
 
(´・ω・`)(ツンのペルソナの技は強力だが、凍りつかせるほどの威力を出そうとすれば範囲は狭まってしまうようだな)
 
(´・ω・`)(相当に広い範囲を一気に凍らせることができれば、勝機もあるが……)
 
 ショボンは思考しながらも周囲を警戒しつづけていたが、ラストスノーに動きはない。
 ラストスノーにも疲労はあるのかもしれないな、とショボンは曖昧な推測を頭に浮かばせた。
 
(´・ω・`)(……あるいは、今この迷宮がラストスノーの全てに近く、もう獣などを作ることはほとんどできないのかもしれない)
 
 迷宮を作る前に空を舞っていた石の数は、膨大だった。
 相当な規模の迷宮であるはずだ、とショボンは予測しているのだ。
 
(´・ω・`)(……獣などを作れなくなっている可能性は、高い気がする)
 
(´・ω・`)(でなければ、俺はもっと襲われていておかしくないはずだ)
 
(´・ω・`)(今はツンが襲われているから、こっちには来ないのだと解釈することもできるな……)
 
 そうだとしても、今のショボンは助けには行けない。
 ツンの居場所さえ全く掴めていないのだ。
 
(´・ω・`)(かなり長い距離を運ばれてしまった……ツンとの合流は難しいな)
 
(´・ω・`)(……音は何も聞こえない。戦っていないのか、この壁に遮られているのか……)
135 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:30:58.64 ID:sQQIGPrz0
 思考しながら、ショボンは歩き続けた。
 碁盤目状の道は終わり、ひたすら岐路のない道が続いている。
 道幅は狭く、挟撃された場合は逃げられないかもしれない、とショボンは思った。
 
(´・ω・`)(……ラストスノーについて分かったことを、整理してみるか)
 
 迷わないよう、壁か地面に傷をつけながら進みたい。
 そうショボンは思っていたが、ラストスノーが相手ではすぐに修復されてしまう。
 諦めて、何もせずにただ直進した。
 
(´・ω・`)(ラストスノーは、定形を持たない敵だ)
 
(´・ω・`)(小さな石のひとつひとつがラストスノーであり、分裂と集合が大きな武器になっている)
 
(´・ω・`)(意思はあるみたいだな。どの程度のものなのかは分からないが……)
 
(´・ω・`)(とりあえず、俺たちを苦しめようという気持ちはあるらしい)
 
(´・ω・`)(こんな迷宮を作ったのも俺たちの底力を引きだすため……全力を知りたいがためか)
 
(´・ω・`)(あとは……結合と分裂には限界があり、小石程度の大きさからは分裂できない)
 
(´・ω・`)(その大きさ以下になると自力で結合もできなくなる。あとは他の石に結合してもらうか、そのまま地面に消えるか、だ)
 
(´・ω・`)(大規模な結合には時間もかかる。また、一度に地上に出せる石の数にも限りがありそうだ)
 
(´・ω・`)(凍らせてしまえば結合も分裂もできない。地面に消えることもできなくなる)
138 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:34:13.94 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)(……凍ったものを斬った場合はどうなる? これはまだ試していないな)
 
(´・ω・`)(ただ、利点はなさそうだ……消えることもできないのだから、凍らせたまま放置したほうがいい)
 
 フィレンクトは迷宮構築と同時に姿を消した。
 内部に入り込んでいるのか、外部から二人が苦しむ様を見ているのか。
 いずれであるかはショボンには分からない。
 
(´・ω・`)(……ラストスノーを倒すには、全ての石を凍らせる必要があるのか?)
 
(´・ω・`)(もしそうだとすれば、やはりフィレンクトだけを狙ったほうがいいか……)
 
(´・ω・`)(しかし、この迷宮に隠れてしまったとなれば……)
 
 状況は、輪をかけて絶望的。
 今のショボンには、打開策が思い浮かばなかった。
 
 やれることは、やはりツンを探すこと。
 それしか、なかった。
 
 
 
 そしてツンは、ひとつの打開策を思いついていた。
 
ξ゚听)ξ『ブフダイン!』
 
 ペルソナ・アルテミスが氷の塊を生み出す。
 しかしそれは、誰かを攻撃するためではなかった。
 
ξ゚听)ξ(……よし)
140 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:37:12.30 ID:sQQIGPrz0
 既に七回、ブフダインを使った。
 ツンの目の前には、積み上げられた氷の塊たち。
 
 氷の塊は、それぞれ少しずつ大きさを変えてあった。
 最初に生み出されたものが一番大きく、高い位置に向かうにつれて氷塊は徐々に小さくなっている。
 
 結果、ツンは氷の階段を生み出すことに成功した。
 
ξ゚听)ξ(滑るかな……滑るよね、ちょっと溶けかかってるし……)
 
ξ゚听)ξ(慎重に……)
 
 一段ずつ、手と足をかけながら上がっていく。
 壁の高さは、大人二人分ほど。
 途中で足を滑らせれば、無事では済まない高さだ。
 
 時間をかけながら昇り、やがてツンは壁の上に立った。
 
ξ;゚听)ξ(うわっ……)
 
 景色を一望した瞬間、ツンの膝が折れかけた。
 
 ツンの視界の端までを埋め尽くす、膨大な迷宮。
 それは、正に言葉通りに、果てしなかった。
 
ξ;゚听)ξ(こんな……これじゃ、ショボンさんとの合流なんて、とても……)
 
(‘_L’)「ふむ」
 
ξ;゚听)ξ「ッ!?」
144 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:41:00.15 ID:sQQIGPrz0
 空間の果てを見続けていたツン。
 その姿を見上げる、フィレンクト。
 
(‘_L’)「なるほど、氷塊を使って上に」
 
ξ;゚听)ξ「わーっ!! ちょ、ちょ、ちょっと!!」
 
(‘_L’)「?」
 
ξ;゚听)ξ「し、下から見上げないで!!」
 
(‘_L’)「何故ですか?」
 
ξ;゚听)ξ(……あ、全く関心なしだ。それもそっか……)
 
ξ;゚听)ξ(ほっとしたような、悲しいような……)
 
 ツンを見上げるフィレンクトに動きはない。
 隙を狙っているのか、それとも別の狙いがあるのか、ツンは判断がつかなかった。
 
ξ;゚听)ξ「……とりあえず、降りてもいい?」
 
(‘_L’)「賢明とは言えませんね。そこから仲間を探すべきでは?」
 
ξ;゚听)ξ「そうなんだけど、この状況すっごく落ち着かないから……」
 
ξ゚听)ξ「……それに、聞いておきたいこともあるの」
 
(‘_L’)「……ふむ」
148 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:43:28.05 ID:sQQIGPrz0
 フィレンクトがその場から数歩下がった。
 警戒しながら、ひとつ大きな氷塊を生み出し、壁の上から飛び降りるツン。
 
ξ;゚听)ξ「きゃっ!!」
 
 しかし、氷の上に上手く立つことができず、滑り落ちる。
 そのまま地面で尻餅をついた。
 
ξ;--)ξ「うぅ、痛い……」
 
ξ;--)ξ(っていうか、せっかく見えないように抑えてたのに、結局意味なかった……)
 
ξ;--)ξ(興味ないみたいだからもういいけど……)
 
(‘_L’)「して、聞きたいこととは?」
 
 ツンが臀部を摩りながら立ち上がる。
 フィレンクトからは、十歩ほど距離を取っていた。
 
ξ゚听)ξ「……何のために、こんな戦いを仕掛けてきたのか」
 
(‘_L’)「またその質問ですか。答えは、先ほどと同じです。『知る必要はありません』」
 
ξ゚听)ξ「それは、答えると不都合があるから……?」
 
(‘_L’)「重ねて言いましょう。知る必要は、ありません」
 
ξ;゚听)ξ(……ダメだ、ぜんぜん答えてくれない……)
 
ξ゚听)ξ(アンノウンに関する質問は多分、答えないって決めてるんだ……)
150 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:46:16.69 ID:sQQIGPrz0
ξ゚听)ξ(……だったら、次は質問を変えてみれば……)
 
 下手な質問を重ねすぎると、答えてくれるはずだった質問まで答えてくれなくなるかもしれない。
 そう思ってツンは、慎重に言葉を探す。
 
ξ゚听)ξ「……どうして」
 
(‘_L’)「ふむ?」
 
ξ゚听)ξ「私の前に、姿を現したの?」
 
 迷宮に天井はなかった。
 だからツンは、壁の上からショボンを探そうとしていた。
 
 そこに現れたフィレンクト。
 一瞬、ツンは危機感を覚えた。
 
 しかし、本当は好機なのだとすぐに気づいたのだ。
 
ξ゚听)ξ「この空間から抜け出す唯一の方法は、貴方を倒すこと」
 
ξ゚听)ξ「だったら、姿を見せずに迷宮のどこかに隠れてたほうが絶対有利なのに……」
 
(‘_L’)「それは簡単な話ですよ。ここでは、貴方たちの力を見なければならないのですから」
 
(‘_L’)「そもそも、脱出の条件が『ラストスノーを倒すこと』ではなく、『私を倒すこと』になっているのも不思議でしょう?」
 
ξ゚听)ξ(……確かに……)
155 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:49:18.73 ID:sQQIGPrz0
(‘_L’)「勝ち目がないからですよ。ラストスノーを倒すのは、土台無理な話だからです」
 
ξ;゚听)ξ「ッ……!!」
 
 厳しい相手だと認識はしていた。
 それでも、至極当然であるかのような口ぶりで言い放ったフィレンクトの言葉は、今のツンには重かった。
 
(‘_L’)「これは、何も貴方がたが弱いから、というわけではありません」
 
ξ;゚听)ξ「……?」
 
(‘_L’)「"倒せないようになっている"のです。推測できているようですが、私たちが踏みしめている地面のほとんどがラストスノーですから」
 
(‘_L’)「心臓のようなものもありません。物理的に、ラストスノーに勝つのは不可能なのです。そういう存在なのです」
 
(‘_L’)「ですから、私はラストスノーを倒せるかどうかを見たいのではありません」
 
(‘_L’)「ラストスノーの攻撃を掻い潜って、私を倒せるかどうか。それを知りたいのですよ」
 
ξ;゚听)ξ「……待って……貴方もラストスノーも、アンノウンに従ってるんでしょ……?」
 
ξ;゚听)ξ「だったら……」
 
(‘_L’)「お察しのとおりですね。アンノウン様は、ラストスノーよりも遥かに強大な力をお持ちです」
 
 疲労の溜まったツンの膝が、折れかけた。
 ラストスノーに苦戦している。しかし、この後、更に強いアンノウンと戦わなければならない。
 精神的なダメージが、重く圧し掛かってきたのだ。
161 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:53:45.54 ID:sQQIGPrz0
(‘_L’)「当然でしょう? ラストスノーはアンノウン様によって作り出されたのですから」
 
(‘_L’)「アンノウン様のほうが弱いということなど、ありえないのですよ」
 
 言われてみれば当然だ、とツンは思った。
 しかしツンも、アンノウンのほうが弱いと考えていたわけではない。
 ただ、ラストスノーで精一杯の戦いのなかで、先のことまで考える余裕がなかっただけだ。
 
 でも、と思い直す。
 
ξ )ξ(……きっと、ショボンさんはとっくに気づいてた)
 
ξ )ξ(アンノウンはもっと強いだろうって……)
 
ξ )ξ(でも、挫ける素振りなんて見せなかったし、実際、挫けてなかったはず)
 
ξ )ξ(相手がどれだけ強くても……戦わなきゃいけないから。倒さなきゃいけないから)
 
ξ )ξ(そう覚悟できるだけの強い信念が、ショボンさんにはあるから)
 
 力強く前を見据えるツン。
 背後に佇む、アルテミス。
 
ξ゚听)ξ「……私だって、私なりにあるつもり」
 
ξ゚听)ξ「だから……挫けたり、しない!」
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!!』
164 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 22:57:31.08 ID:sQQIGPrz0
 フィレンクトを襲う猛烈な吹雪。
 相手がただの人間ならば、一瞬にして全身が凍りつく。
 
 しかし、フィレンクトの前には白い盾が出現していた。
 
ξ゚听)ξ(……ラストスノーが守った?)
 
ξ゚听)ξ(違う……確かにラストスノーはあの人を守ることを最優先にしてるけど)
 
ξ゚听)ξ(ショボンさんの急襲を防いだときと同じなら……多分、"もっと違う状況"になってるはず)
 
ξ゚听)ξ(つまり――――)
 
(‘_L’)「どうかしましたか?」
 
ξ゚听)ξ「……勘違いに気づいたの」
 
(‘_L’)「ほう」
 
 アルテミスが再びダイアモンドダストを放つ。
 当然のごとく、フィレンクトは同じ盾で攻撃を防いだ。
 
ξ゚听)ξ「貴方が持つ、二つの能力」
 
ξ゚听)ξ「それは、ひとつはラストスノーに自分の命を守らせる力」
 
ξ゚听)ξ「これはホントに命の危険があるときだけ。ショボンさんの蹴りには発動してなかったから」
 
(‘_L’)(……鋭いですね)
167 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:00:11.61 ID:sQQIGPrz0
 ラストスノーに身を守らせる力は、ツンの言ったとおりだった。
 命に関わる攻撃でなければ、ラストスノーはフィレンクトを守らない。
 尤も、守らせることも強制ではなく、あくまでラストスノーに戦う意思があるときだけだった。
 
ξ゚听)ξ「そして、もうひとつは、"ラストスノーの一部を借りる力"」
 
(‘_L’)「……ふむ」
 
ξ゚听)ξ「最初にショボンさんと戦ったあの武器もそう。いま出してる盾もそう」
 
ξ゚听)ξ「ずっとラストスノーが"貴方を守る"という大きな意味の元で出してる武器や防具だと思っていたけど……違う」
 
(‘_L’)「何故、そう言い切れるのですか? 少々、強引な論理かと思われますが」
 
ξ゚听)ξ「断言できる理由は、貴方がここにいるから」
 
ξ゚听)ξ「わざわざ姿を現したことに、納得がいくから」
 
 フィレンクトは、空気が変わったのをすかさず察知していた。
 ツンが語った二つの能力は正にそのとおりであり、強烈なダイアモンドダストも防げるようにと更に大きな盾を生み出そうとしていたのだ。
 
ξ#゚听)ξ『ダイアモンドダスト!!』
 
 先ほど放たれた二発より威力は増して、フィレンクトを襲う。
 だが、フィレンクトには予測できていたことだった。
 余裕を持って防ぎ、ツンに視線を送ろうとし――――
 
 ――――フィレンクトは、自分の影が濃くなったことに気づく。
 
(‘_L’)「!!」
169 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:03:37.61 ID:sQQIGPrz0
 危機感を伴った影の濃さは、更に深みを増すことでフィレンクトに安心感を与えた。
 それは、生あるものとして当然抱く、本能から出ずる感情だ。
 
 だが、安心感を持った時点で、ツンの狙いどおりの展開になっているのだとフィレンクトは分かっていた。
 
ξ゚听)ξ「やっぱり……そっか」
 
(‘_L’)「……少し、油断しましたね。というよりも、思い込まされていましたか」
 
(‘_L’)「今まで攻撃に使った技は全て『ダイアモンドダスト』だった。それは、このためだったわけですね」
 
ξ゚听)ξ「この展開を読んでたわけじゃないけど……どこかで不意を突けたら、くらいはね」
 
 フィレンクトにダイアモンドダストを放ったツンは、即座に『ブフダイン』で追撃した。
 そのまま正面からぶつけるのではなく、フィレンクトの上空に氷の塊を出現させてから落としたのだ。
 
 フィレンクトの身の危険は、即座にラストスノーが察知する。
 氷の塊も、分厚い石版がフィレンクトの頭上を覆ったことで、フィレンクトに命中することはなかった。
 
 しかし、ツンにとってはそれで充分だったのだ。
 
 
 ツンは、"迷宮の崩壊"を見ながら、確かに前進したことを感じていた。
 
 
(‘_L’)「迷宮の突破法にも気づいたわけですね。だから、私が現れたことにも納得がいったと」
 
ξ゚听)ξ「ショボンさんのおかげ。迷宮ができる前に一回、ラストスノーが貴方を守るところを見せてくれたから」
 
ξ゚听)ξ「あのとき、私を狙ってた小さな槍が、いつの間にか消えてた」
172 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:06:08.72 ID:sQQIGPrz0
ξ゚听)ξ「ショボンさんは気づいてなかったと思うし、私は気にも留めてなかったけど、あそこで槍を消す理由なんてない」
 
ξ゚听)ξ「あるとしたら、"割り込み"。優先度の高い行動を取るべき瞬間が訪れたから」
 
ξ゚听)ξ「その行動を起こすためには、他の行動をキャンセルしなきゃいけない。それが、あの槍を消さなきゃいけない唯一の理由」
 
ξ゚听)ξ「つまり、貴方を守るためには、形作ったものも全て崩す必要がある」
 
(‘_L’)「…………」
 
ξ゚听)ξ「ここから先は、悔しい話になるけど……私たちが迷宮から脱出できる見込みがないと判断した貴方は、私の前に姿を現した」
 
ξ゚听)ξ「貴方を危機に追い込むことができれば、迷宮は崩壊するから。つまり、私の力を見たいから姿を見せた」
 
ξ゚听)ξ「結果として……こうやって迷宮が崩壊してるところを見ると」
 
(‘_L’)「えぇ。全て正解ですよ、お嬢さん」
 
 迷宮を構成していた白い壁が崩れていく。
 しかし、二人が瓦礫に埋もれることはない。
 全て地面に溶け込んでいくためだ。
 
(‘_L’)「そろそろ判断の頃合ですね。アンノウン様の視界に入る資格があるかどうか」
 
ξ゚听)ξ「…………」
 
 やがて壁がツンの腰の位置くらいまで崩れた。
 ツンはすぐさま周囲を見回す。
 
ξ゚听)ξ「あっ……!」
176 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:09:10.78 ID:sQQIGPrz0
 すぐさま、ツンの視界に入った。
 巨躯だからではない。ツンが思っていたより、遥かに近い位置に居たからだ。
 
ξ゚听)ξ「ショボンさん!」
 
(´・ω・`)「ツン、迷宮を打破してくれたか」
 
 ショボンは、ラストスノーに襲われ僅かに手傷を負っていた。
 ツンがアルテミスのディアラハンで傷を癒やしながら、手短に情報を伝え合う。
 
ξ゚听)ξ「ショボンさんがこんなに近くに居るなんて思いませんでした」
 
(´・ω・`)「戦っている気配を感じて、そこを目指していたんだ」
 
ξ゚听)ξ「あ、そっか……そうですよね」
 
 傷を癒し終えたあと、二人は見据える。
 いくらか距離を取った、フィレンクトを。
 
(‘_L’)「"ラストスノーを私が操っているわけではない"」
 
(‘_L’)「これは、貴方がたが推測したとおりのことです」
 
 右に、左に。
 フィレンクトは、その場をぐるぐると歩き回る。
 何か意図があるのかと二人は勘繰ったが、フィレンクトに他の力はないはずだという推論は既に出ていた。
180 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:12:43.86 ID:sQQIGPrz0
(‘_L’)「ラストスノーは、ラストスノー自身の意思で貴方たちの力を試しています」
 
(‘_L’)「ここまでの戦いで、おおよそは把握できてきたようです」
 
(´・ω・`)「どうでもいいことだ、ラストスノーの心境など」
 
(‘_L’)「えぇ、そうです。貴方がたにとっては関係ない」
 
(‘_L’)「ですが、ご安心ください。お二人にとって無益でしかない戦いは、もう長くは続きません」
 
(‘_L’)「ラストスノーが持する、最強の攻撃を放つときがやってきたようですから」
 
 フィレンクトは、嘘をつかない。
 二人は今までの戦いで、それを確信している。
 
 だからこそ瞬時に身構えていた。
 しかし――――
 
ξ;゚听)ξ「わっ……!」
 
(´・ω・`)「ッ……」
 
 二人はずっと、地面を警戒していた。
 今までの攻撃は、全て地中から浮かび上がった石によるものだったからだ。
 
 しかし、既に空には無数の石が浮かび上がっていた。
 
(´・ω・`)(そうか……遠方で地面から出現して、こっちまで飛来してきたか)
 
(´・ω・`)(これでは、例えこの辺りの地面を凍らせていたとしても出現を防ぐことはできないな)
184 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:16:11.58 ID:sQQIGPrz0
 フィレンクトは、集結するラストスノーの欠片を見上げていた。
 それを見て、微笑むこともなく。
 
(‘_L’)「ラストスノーには定形がありません。自由自在に形を作れることが強みです」
 
(‘_L’)「しかし、最強の形は、何も形を作らないこと」
 
 迷宮を構築する前も、ラストスノーは上空に無数の石を浮かばせていた。
 そのときと、ほぼ同じ状態になっている。
 
(‘_L’)「まさに、貴方たちにとって、"最後の雪"となることでしょう」
 
(‘_L’)「さぁ、凌ぎきることができるでしょうか?」
 
 フィレンクトが距離を取った。
 その背中は無防備に近かったが、二人はフィレンクトを攻撃できない。
 この程度の隙では、不意は突けないと分かっているからだ。
 
 やがて、上空を浮遊していたラストスノーの動きが、止まる。
 
ξ゚听)ξ(何が来るの……?)
 
(´・ω・`)(最後の雪……どういう意味だ……)
 
 "最強の攻撃"が来るまで、二人は、極力多くの可能性を探ろうとしていた。
 相手の出方は、予測できていたほうが対処しやすい。
 戦いの原則を経験から、あるいは本能から理解していたためだ。
 
 しかし、ほとんど猶予を与えることなく――――ラストスノーは、動いた。
187 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:18:59.07 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「ふんッ!」
 
 ショボンは、瞬時に反応した。
 空から降下してきた石を、真っ二つに斬り裂いたのだ。
 銃弾ほどの大きさと速さだったが、ショボンならば迎撃することは難しくなかった。
 
 先ほど降りてきたのは、たった一つだけ。
 しかし今度は、二つの石がツンに襲いかかる。
 
ξ゚听)ξ『スアデラ――――』
 
 アルテミスが姿を消す。
 入れ替わり、現れたスアデラが、雷撃を放つ。
 
ξ゚听)ξ『ジオ!』
 
 襲い来る石を、雷撃で消滅させた。
 アルテミスの技は、ひとつひとつの消耗が激しく、このままでは自分が保たない、とツンは判断したのだ。
 スアデラはアルテミスに劣るものの、先ほどの攻撃ならばスアデラでも充分だった。
 
 初撃と、二撃目を、二人は容易く防いだ。
 そこに、いくらか安堵感を抱かせる原因はあった。
 
 しかし、二人はすぐさま、本当の危機に気づく。
 
(´・ω・`)(ッ、今度は四つ……!)
 
 相手は、小さな石だ。
 ショボンは両手のZを上手く使って四つとも斬り裂いたが、決して容易くはなかった。
189 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:22:41.13 ID:sQQIGPrz0
 そしてツンには八つの石が振り注ぐ。
 今度はこれをマハジオで全て消滅させた。
 
 しかし、十六個の石が襲ってきたときは、ショボンには回避という選択肢しかなかった。
 
(´・ω・`)(まさか……)
 
ξ;゚听)ξ(倍ずつ攻撃が増えていくの……!?)
 
 ツンは慌ててスアデラを引っ込め、アルテミスを呼び出した。
 倍増していくのであればマハジオでも防ぎきれなくなる、と判断したのだ。
 
 三十二個、六十四個はツンがブフダインで氷壁を生み出し、防いだ。
 だが、百二十八ともなると相当な威力だ。
 氷の壁は、罅だらけになっていた。
 
 遥か上空からの攻撃は、ひとつ頭に受けるだけでも致命傷となるだろう。
 二人は、それが分かっているからこそ、必死だった。
 
 一度に降る石の数は、既に二百五十六に達している。
 毎回新たに氷の壁を生み出しても、極力厚みを増させても、もはや受け止めるのは限界に近かった。
 
 そして――――
 
ξ;゚听)ξ「わっ!」
 
(´・ω・`)「ツン!!」
 
 一点集中で降ってきた五百十二個の石が、壁を突き破った。
 ショボンは瞬時にツンを引き寄せ、辛うじて攻撃を躱す。
193 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:25:25.87 ID:sQQIGPrz0
ξ;゚听)ξ(ど、どうすれば……)
 
(´・ω・`)(これは……厳しい……)
 
 打開策を、ショボンはずっと考えていた。
 しかし、相手は無数。しかも、標的が小さい。
 ショボンのアルファベットでは、防ぎきることは不可能だ。
 
 一方ツンのアルテミスも、ブフダインで氷の壁を生み出すことが精一杯。
 ダイアモンドダストで凍らせることはできても、降下してくるのを防ぐことはできない。
 数が多くなれば凍らせきることさえ困難になる。
 
 アルテミス最強の技『クレセントミラー』は、威力こそ抜群だが範囲は広くない。
 数百の石を砕くことは可能だが、上空に浮いているのは、その数百万倍はあろうかという数だ。
 
 このまま続けば、いずれは数万、数十万といった数が一気に降ってくることになる。
 それを凌ぐ術が、二人とも、全く思い浮かばなかった。
 
ξ;゚听)ξ「ハァ、ハァ……!」
 
 ツンは、ブフダインを放ちつづけている。
 もはや打ち破られることは分かっているが、一時的に動きを止めることはできるのだ。
 その間に全力で回避する。それをずっと繰り返していた。
 
 しかし、いつまでも通用する対策ではないことを、二人とも理解している。
195 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:29:03.09 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「ツン、もう少し壁を大きくできるか……?」
 
ξ;゚听)ξ「できます……けど、そうすると厚みが……」
 
(´・ω・`)「そうか……」
 
 壁が薄くなれば、動きを止める時間が短くなってしまう。
 しかし、壁が小さいと今度は、数の多さに対応できなくなってくるのだ。
 
 ラストスノーは、石を降らすときに方向を変えることはない。
 ただ一直線に地面に向かって降りていくだけだ。
 そうすることしかできないのか、それとも"あえて"なのか、二人には判断がつかなかった。
 
ξ;゚听)ξ『ブフダイン!!』
 
 天から降り落ちるは、二千四十八の石。
 フィレンクトが言ったように、その様は、速度が遅ければ雪のように見えただろう。
 
 ツンが集中力を高めて生み出した氷壁は、二千を超える攻撃を辛うじて防いだ。
 連続で技を撃ち続けることで、ツンの疲労も蓄積されはじめていたが、それでも集中していた。
 
 諦めないことを学んだ。
 強い意志があれば、どのような状況であれ戦えるのだと知った。
 
 三千だろうと、四千だろうと、防いでみせる。
 いつかはきっと、活路が見えると信じて。
 
 ツンの強い思いは、今の的確な守りに繋がっていた。
 
 ――――しかし、その強固な思いが、揺らぐ。
198 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:31:56.02 ID:sQQIGPrz0
(´・ω・`)「ッ……!!」
 
 先に気づいたのは、ショボン。
 上空の石は、降る直前に必ず、少しだけ上に動く。
 そのおかげで二人は、これから来る攻撃の数をおおよそだが把握できていたのだ。
 
 その、予備動作を行なった石の数が、突如として万を超えた。
 
ξ;゚听)ξ「そ……そんな……」
 
 いつかは防ぎきれなくなるときが来ると、二人とも分かっていた。
 しかし、それまで凌ぎつづければ、対策が思い浮かぶかもしれないと期待していたのだ。
 つまりツンは、必死で時間を稼いでいたことになる。
 
 そこに、痺れを切らしたかのような、万を超える攻撃が行なわれようとしている。
 
(´・ω・`)(何か……何か、手は……!)
 
 あらゆる対抗策を模索するショボン。
 しかし、ひとつとして頭には浮かんでこない。
 
ξ;゚听)ξ『ブフダイン!!』
 
 ツンは、心を折らずに氷の壁を上空に生み出した。
 極力小さく厚く、二人が壁の下に収まれるギリギリの大きさだ。
 当然、壁の枠外にも石は降るため、壁が破られれば二人に逃げ場はない。
 
 やがて、石が降り落ちてきた。
203 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:34:40.09 ID:sQQIGPrz0
 壁を厚くしたことの効果は、確かにあった。
 先ほど破られたときと同じくらいの時間は、持ち堪えることができたのだ。
 
 二人は反射的に、壁の下から飛び出そうとした。
 だが、上空からやはり石が降ってきている。
 
 瞬時に止まったが――――氷の壁は、既に破られていた。
 
 降り注ぐ石と、二人の間に、遮るものは何もない。
 僅かな時間の間に、二人は脳を全力で回転させ、打つ手を考えた。
 ツンはブフダインをもう一度放つことを思いついたが、もはや、その時間さえない。
 
 ショボンはアルファベットを構えていたが、やはり標的は小さい。
 いくつかを斬り裂くことはできても、焼け石に水だ。
 
 打つ手は、何もなかった。
 
ξ;゚听)ξ「ッ!! ショボンさ……!!」
 
 効果的な策は何もない中で、ショボンが取った行動。
 それは、ツンを守るために、ツンを抱きかかえて覆いかぶさること。
 
 ショボンの巨躯ならば、ツンの全身を覆うことができる。
 ショボンが攻撃を全て受け止めれば、この一回に限ってはツンは無傷で済むのだ。
 
 例え、ショボン自身がどうなろうとも。
207 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:39:02.95 ID:sQQIGPrz0
ξ;゚听)ξ「待っ……!!」
 
 ツンは、必死に抵抗しようとした。
 しかし、ショボンの力に抗えるはずもない。
 
 この一回を凌いだ先に、希望があるのか。
 ショボンには、分からなかった。
 それでも、ここで二人とも死ぬよりはまだいい、と直感的に判断したのだ。
 
 やがて、石がショボンの背中の間近まで迫る。
 
 ショボンは、より強くツンを抱きかかえた。
 ツンが全く抵抗できなくなるほどに。
 
 覚悟を、決めた。
 それでもショボンは最後まで、目を閉じずに前を見続けた。
 
 
 ――――その視界に、"何か"が入ってきた。
210 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/11(土) 23:41:59.55 ID:sQQIGPrz0
 白ければ、ラストスノーの一部だとショボンは思っただろう。
 しかし、決して空間に溶け込むことはない色。
 
 漆黒の、小さな箱。
 
 
 ショボンは、無心でその箱に手を伸ばし、掴んだ。
 
 
 
   『……縋るほどに求めるか、力を』
 
   『いいだろう、お前に切っ掛けを与える』
 
   『ただし……どうなるかはお前次第だ、人の子よ』
 
 
 
 ショボンに、声が聞こえ――――周囲の空間が歪み、大気が、震えだした。
284 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:10:17.08 ID:u1aAQ4ek0
  ・
  ・
  ・
 
 
 暗闇のなかに落ちていった。
 ショボンは、そう思った。
 
 実際には、目を閉じていただけなのかもしれない、とも感じていた。
 ショボンが自分のなかに意思を感じたとき、視界には先ほどと同じような一面純白の世界が広がっていたからだ。
 
 決定的に違うのは、本当に、純白でしかないということ。
 ツンがいない。フィレンクトもいない。
 ラストスノーも、いない。
 
 またどこかに転移させられたのか。
 それとも、夢のなかにでも落ちてしまったか。
 ショボンは思考するが、分からなかった。
 
   『汝、力を求めるか』
 
 また、声が聞こえた。
 しかし、箱を手にしたときの声とは違った。
 
 高くはない、低くもない。
 大きくもない、小さくもない。
 
 ショボンのなかに自然と溶け込んでくるような声だった。
289 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:13:57.93 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)「……力はいつでも必要だ。どれほどあっても困ることはない」
 
(´・ω・`)「これまで鍛錬は欠かさずに続けてきた。向上心も、失ったことはない」
 
   『それは、あくまで努力で得られる範囲の力だろう』
 
 何故、自然と問いに答えてしまっているのか。
 それも、ショボンには分からなかった。
 
   『汝は知ったはずだ。異なる世界には、異なる力があると』
 
   『汝の力でこそ捻じ伏せられる相手もいよう。しかし、そうでない相手もいる』
 
(´・ω・`)「…………」
 
   『再び、問おう。汝、力を求めるか』
 
 ショボンは、自分の両手を確かめようとした。
 しかし、何故か視線が向かない。
 
 できることは、問いに答えることだけなのだと知る。
 
(´・ω・`)「……ラストスノーを倒すには、アルファベットだけでは不充分だ」
 
(´・ω・`)「あまりにも、相性が悪すぎる。ツンに比べると、打つ手はかなり少ない」
 
(´・ω・`)「しかしそれでも、俺は戦わなければならないんだ」
 
(´・ω・`)「元の世界に戻るために。志のために」
292 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:17:12.33 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンは、自分の真上に視線を向けた。
 声がどこから発されているのかは把握できていないが、どこであろうと届くように。
 
(´・ω・`)「俺は、力が欲しい。例え一時的であっても構わない。代償を支払っても、構わない」
 
(´・ω・`)「ラストスノーを倒すために。アンノウンを、倒すために」
 
(´・ω・`)「力が、欲しい」
 
 心の内を、ショボンは全て吐露した。
 平素ならば、力を望むとしても口にはせず、黙々と鍛錬を積んできた男だ。
 神頼みをしたことはない。努力せずに結果だけを欲したことも、ない。
 
 その、男が、願った。
 
 力が、欲しいと。
 
   『……汝の想いは、しかと受け止めた』
 
 淡々と物を語る、謎の声。
 ショボンは、冷静な気持ちで聞いていた。
 
   『これから我は、お前の心を見るとしよう』
 
   『果たしてお前は、呼ぶことができるかどうか』
 
(´・ω・`)「……何をだ?」
 
   『我の、名を』
296 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:20:26.57 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンは、全身に不思議な浮遊感を覚えた。
 しかしそれは、体に括り付けられた縄が急に引き上げられたような感覚にも似ていた。
 
   『我は汝、汝は我』
 
 
   『――――我が名は――――』
 
 
  ・
  ・
  ・
 
 
 どうして、とツンは小さく呟いた。
 
 ラストスノーの攻撃は、間近まで迫っていた。
 ショボンが覆いかぶさっていたが、身を挺して守ったとしても、ツンに全く衝撃がないということはありえない。
 音さえ聞こえないということは、もっとありえないのだ。
 
 しかし、その疑問は一瞬で消え去る。
 
ξ;゚听)ξ「!!」
 
 二人に迫っていた万を超える石が、彼方へと吹き飛んでいたのだ。
 何故、どうして、とまた疑問がツンのなかに生じる。
 
 そして、ツンが感じたもの。
 
 それは、ペルソナの――――共振。
303 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:24:32.84 ID:u1aAQ4ek0
ξ;゚听)ξ「うそっ……!」
 
 信じがたい気持ちと同時に、ツンは、"誰"と考えた。
 自分の世界から、もう一人誰かが召還されてきたのだと。
 それは一体、誰なのだと。
 
 しかし、違った。
 あまりに強い共振。距離を、全く感じなかったのだ。
 
 つまり――――ツンに、覆いかぶさっている、その存在。
 他ならぬ、ショボン=ルージアルなのだとツンはすぐに気づいた。
 
 何故、とまたも疑問を抱く。
 どうやってペルソナを、と思考を巡らせる。
 
 その疑問が解決する前に、ツンの視界は明るんだ。
 ショボンが、ゆっくりと立ち上がったのだ。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 ツンは、声を掛けようとした。
 "大丈夫ですか"、"何か声を聞きましたか"。
 ショボンに掛けたい言葉は、幾つもあった。
 
 しかし、声が出なかった。
 
 
 ショボンの、光のない瞳を見て、戦慄してしまったために。
307 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:28:32.83 ID:u1aAQ4ek0
ξ;゚听)ξ「……ショボ……ンさん……?」
 
 震えた声が、勝手に漏れた。
 その要因は、現在だけではなく、過去にもあった。
 
 恐怖が、鮮烈に蘇ってきたのだ。
 忘れもしない、あの恐怖が。
 
 ツンは、自分の唇が震えていることに気づいた。
 
(´・ω・`)「……破砕する……」
 
(´・ω・`)「何もかも……邪魔だ……全て、打ち壊すのが早い……」
 
(´・ω・`)「全部、無に帰させて……俺は、自分の世界に戻ろう……」
 
 小さな独り言は、ツンにもよく聞こえなかった。
 ただ、はっきりと感じたこと。
 それは、明らかに先ほどまでのショボンとは違うということ。
 
 ショボンが握り締める黒きトラペゾヘドロンから、黒煙のようなものが立ち上る。
 それは徐々に渦を巻いて、竜巻のようになり、ショボンを覆う。
 
 やがて、ショボンの背に現れたペルソナ。
 
ξ;゚听)ξ「そ……んな……」
 
 充分だった。
 ツンの、心を砕くには、充分すぎた。
311 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:31:59.54 ID:u1aAQ4ek0
 全く一緒だったのだ。
 あのときと。
 
 ツンが、自分の世界で、かつての親友に襲われたときと。
 デレという女の子が、ペルソナを召還したときと。
 
 そのときデレは、あまりに強大すぎるペルソナを御すことができず、ペルソナに心を支配されてしまった。
 
 ショボンの様子を一目見た瞬間、ツンの脳内には過去がフラッシュバックしていたのだ。
 しかし、"そんなはずはない"、"違っていてほしい"という願いも、虚しく散った。
 ショボンは、明らかにペルソナに支配されてしまっていた。
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん!! 聞いて!!」
 
(´・ω・`)「全て……破砕する」
 
 ショボンのペルソナが、その手に持つ槍を構える。
 
ξ;゚听)ξ「ッ――――!!」
 
 狙いは、ツン。
 ショボンの周囲にいたのは、ツンのみであるためだ。
 
ξ;゚听)ξ『ブフダイン!!』
 
 ラストスノーの攻撃を防いだ氷の壁が、ツンの前に生み出される。
 槍による一撃は壁を貫いたが、ツンはその間に後ろへと回避行動を取っていた。
313 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:35:30.90 ID:u1aAQ4ek0
ξ;゚听)ξ(完全に、ペルソナに支配されてる……!)
 
ξ;゚听)ξ(あのペルソナは……初めてのペルソナとしては、強力すぎる……!)
 
 ショボンの、心の強さ。
 それを、ツンは充分に理解している。
 
 だからこそ、ペルソナも強力なのだ。
 ペルソナはもう一人の自分。意志が弱くては強いペルソナを得ることなどできない。
 
ξ;゚听)ξ(でも……こんな、こんなときに……!)
 
 まだ、フィレンクトもラストスノーも健在だ。
 二人で戦い合っている場合ではなかった。
 
 ラストスノーから繰り出された、絶体絶命とツンには思えた攻撃。
 あれは、ショボンが黒きトラペゾヘドロンに触れた際に、全て吹き飛ばされた。
 ニャルラトホテプの力によるものだが、今のツンにはそこまで把握する余裕はない。
 
 今、ラストスノーは空に浮かんでいる。
 フィレンクトは、遠方から二人の戦いを見守っていた。
 
(‘_L’)(……何故、あの男が突然ペルソナに目覚めたのかは分かりませんが……ラストスノーには動きがありませんね)
 
(‘_L’)(しばらく展開を見守ろう……ということですか)
 
(‘_L’)(二人の力を最大限引き出し、見極める……その役目からも、ここで様子見をすることは、正しい選択ですね)
 
(‘_L’)(私も、じっくり見守ることとしましょうか)
316 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:38:37.49 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンのペルソナは、連撃を繰り出している。
 ツンは、的確な大きさと充分な厚みの壁を生み出すことで、それを防ぎつづけていた。
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん!」
 
 必死で呼びかけるも、ショボンが応える気配はない。
 力ない瞳は、どこを見ているのかツンには分からなかった。
 
ξ;゚听)ξ(このままじゃ、二人ともただ消耗するだけで……下手したら、同士討ちに……!)
 
 
 ――――互いの殺し方は、考えておくべきだ。
 
 
ξ; )ξ「ッ……!!」
 
 ショボンの言葉が、ツンの頭に去来する。
 
ξ; )ξ(……共倒れになるくらいなら……せめて、どっちかだけでも……)
 
ξ; )ξ(ショボンさんは……そう言ってた……)
 
ξ )ξ(……今のショボンさんがアンノウンに挑んでも、きっとダメ……ブーンさんとクーさんまで攻撃しちゃう……)
 
ξ )ξ(だったら、せめて私だけでも……)
 
ξ )ξ「…………」
 
 アルテミスが、冷気を蓄える。
 これまで、ラストスノーに向けてきた技を、別の標的目掛けて放つべく。
320 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:41:48.47 ID:u1aAQ4ek0
ξ#゚听)ξ『ダイアモンド……ダスト!!』
 
 ツンは、的確に狙いを定めた。
 突き出される槍。その先端が凍り付いて、穂先は氷のなかに隠れる。
 
 ショボンのペルソナは、構わずに槍を突ききった。
 ツンはすぐさまブフダインでまた氷壁を作る。
 
 先ほどまで破壊されていた壁は、凍りついた槍では破壊されなくなった。
 
ξ;><)ξ「ショボンさん!」
 
 ツンは、腹の底から出た大声で呼びかけた。
 
 どちらかだけでも、ではない。
 二人揃って、アンノウンに挑むために。
 
 それを成し遂げることが、勝利への最善の道筋だと信じて。
 
ξ;><)ξ「ショボンさん!! 負けないで!!」
 
(´・ω・`)「…………」
 
ξ;><)ξ「心を強く持って!! ショボンさんなら、きっと制御できるから!!」
 
ξ;><)ξ「ペルソナを、自分のものにできるから!!」
 
 励ましにも似た言葉を、必死で投げかけた。
 ショボンの心に、届くことを信じて。
322 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:45:10.60 ID:u1aAQ4ek0
 そのショボンの瞳が、微かに動く。
 
ξ;゚听)ξ「う、わっ……!」
 
 ショボンのペルソナが、槍で地面を突く。
 先端の氷が弾けた後、すぐさま鋭く槍が振るわれた。
 
 ツンは際どくもブフダインで防ぐ。
 
ξ;--)ξ「ハァ、ハァ……」
 
 ツンの肩は呼吸の度に上下していた。
 アルテミスの技を、この戦いで相当数放っている。
 膝は振るえ、視界は霞み、もはや戦いの続行は困難な状況に陥っていた。
 
 それでも、ツンは倒れなかった。
 
 ショボンと共に過ごした時間は、まだ短い。
 生い立ちも、思想も、ツンは理解できていない。
 
 しかし、信じていた。
 ショボンならば、必ずペルソナの支配に打ち勝つと。
 
ξ;--)ξ(絶対大丈夫……ショボンさんは、大丈夫……!)
 
ξ;--)ξ(だから、私は粘らないと……ここで倒れたらやられちゃう……)
 
ξ;--)ξ(ショボンさんが勝ってくれるまで、少しの辛抱!)
325 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:48:36.86 ID:u1aAQ4ek0
 ツン本来の実力からすれば、もう技は放てなくなっていてもおかしくない。
 それでもブフダインと唱えれば目の前に氷の壁が現れた。
 気力のみで、ショボンのペルソナの攻撃を防いでいるのだ。
 
ξ;><)ξ「ショボンさん! 頑張って!」
 
 ツンの声は枯れ始めていた。
 叫ぶたびに喉が痛み、咽そうになる。
 しかし、大声を張り上げつづけていた。
 
ξ;><)ξ「二人一緒じゃないと、ラストスノーは倒せません!」
 
ξ;><)ξ「ここまで戦ってこれたのも、二人一緒だったからです!」
 
(´・ω・`)「…………」
 
 ツンの声を聞いているのか、聞いていないのか、分からないような無表情のままショボンは突っ立っている。
 視線は宙を彷徨っているが、ツンが喋っている間は攻撃が止んでいた。
 
ξ;><)ξ「ショボンさんは何度も私を守ってくれました! 助けてくれました!」
 
ξ;><)ξ「私が戦えているのはそのおかげです! ショボンさんがいたからです!」
 
 ショボンの眉が、僅かに動いた。
 
ξ;><)ξ「私だって元の世界に帰りたい! でも、そのためにはショボンさんの力が必要です!」
 
ξ;><)ξ「だから……!!」
 
(‘_L’)(……ふむ……)
327 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:51:51.93 ID:u1aAQ4ek0
 フィレンクトは、ツンの声が少し聞きづらいような、二人からは離れた位置に立っていた。
 依然としてラストスノーは宙に浮いている。
 
 しかし、そのラストスノーに突如として動きがあった。
 
(‘_L’)(痺れを切らしましたか、ラストスノー)
 
(‘_L’)(このまま待っても新たな展開は生まれないだろう……という考えでしょうか)
 
(‘_L’)(まぁ、私も同感です)
 
 石と石が結合していく。
 人の頭ほどの大きさはある、棘のついた石が徐々に形作られていた。
 
ξ;゚听)ξ「あっ……!!」
 
 ツンも、それに気づいた。
 しかし、ショボンにも狙われている状態では、ラストスノーだけを警戒することはできない。
 
 同時に攻撃を受ければ、防ぎきることは恐らく不可能。
 そう判断したツンは、とりあえずショボンの方向に氷の壁を生み出した。
 上空から降りてくるラストスノーのほうが、まだ猶予はあるだろうと考えたためだ。
 
 ラストスノーは動き始めている。
 ツンは急いで、上空にも氷壁を出現――――させようと、した。
 
ξ;゚听)ξ「あっ……えっ……?」
 
 震える、指先。
 荒ぶる、吐息。
334 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:55:28.53 ID:u1aAQ4ek0
 ツンの天への視界は、変わらずにクリアなままだった。
 降り落ちて来るラストスノーが、よく見えていた。
 
ξ;゚听)ξ(あ……だ、だめ、だ……)
 
 限界に、到達したのだ。
 既にツンは、実力以上に技を撃ち過ぎていた。
 
 気力のみで戦いつづけてきたが、遂に一発たりとも放てなくなったのだ。
 瞬間、膝までが大きく震えだし、まともに立ってはいられなくなった。
 
 そのときショボンのペルソナも、氷壁を破壊して、ツンへと槍の穂先を向けていた。
 
ξ; )ξ(ダメ……だった……)
 
ξ; )ξ(抵抗……したい、けど……なんにも……できない……)
 
ξ; )ξ(諦めずに……戦って、きたのに……)
 
 抗えない、限界点。
 気力だけではもはや、立ち上がれないところに来てしまった。
 
ξ; )ξ(ショボン……さん……)
 
 ツンは、最後までショボンを信じていた。
 戦いのなかで得たショボンへの信頼を、抱きつづけていた。
 
(´・ω・`)(……ツン……)
336 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 20:58:39.18 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンの意識は、混濁していた。
 上手く、思考が働いていない。
 ただ何もかも、打ち壊してしまいたい、とだけ思っていた。
 
 その思いが、揺れている。
 
(´・ω・`)(俺は……俺は、元の世界に、帰らなければ……)
 
(´・ω・`)(そのためなら……ラストスノーもフィレンクトも……)
 
(´・ω・`)(……ツンも……)
 
 ショボンのペルソナが、槍を後ろに引いた。
 強く、強く、突き出すために。
 
(´・ω・`)(……違う……!)
 
(´・ω・`)(元の世界に帰りたいから、ツンを狙ってるんじゃない……)
 
(´・ω・`)(俺は……俺は、転嫁しているだけだ……!)
 
(´・ω・`)(自分の弱さを……ひとりではどうすることもできない、弱さを……その罪を……!)
 
(´・ω・`)(俺は……)
 
 ラストスノーの攻撃が降り落ちてきている。
 その下でツンは、地面に倒れ込んでいた。
340 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:01:55.92 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)(ツンを狙っているのは、目を背けたいからだ……逃げたいからだ……!)
 
(´・ω・`)(しかし……俺は、分かっているはずだ……!)
 
(´・ω・`)(現実から目を逸らしても、何も変わらないと……!)
 
(´・ω・`)(分かっているから、これまでずっと、戦ってきたんだ!!)
 
 ショボンの心に、声が響く。
 自分のものではない。しかし、内側から聞こえてくる声だ。
 
   『……自分の本心と向き合うのは、難しいことだ』
 
   『それに立ち向かうのは、もっと、遥かに』
 
   『……しかし、汝は戦うのだな」
 
(´・ω・`)「俺は、自分の弱さから逃げない」
 
(´・ω・`)「そうしなければ強くなれないことを、知っている」
 
   『……本当の強さというのは、難しいものだ」
 
   『膂力も強さ。しかし、腕一本では壊せない壁もある』
 
   『そのとき、自分に足りないものを、誰しもが考えなければならない』
 
   『得ようとしなければならない』
 
   『――――大切なのは、弱さと強さを知ろうとする、"心力"だ』
345 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:06:02.39 ID:u1aAQ4ek0
   『そしてお前には充分、その力がある』
 
(´・ω・`)「……お前の力を、俺も把握したつもりだ」
 
(´・ω・`)「この戦いに必要になる。間違いなく、お前の力が」
 
 一瞬、ショボンの耳に何も聞こえなくなった。
 集中していたからなのか、本当に何も音がなかったのかは、今のショボンには分からない。
 
   『互いに、認め合うことができたのだな』
 
 やがて聞こえたのは、静かな声。
 
   『今こそ、我が認めた汝の名を、訊こう』
 
(´・ω・`)「俺は――――ショボン。ショボン=ルージアルだ」
 
   『我の名はもう、分かっているな』
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
 
 
 
 
(´・ω・`)「今こそ、力を貸してくれ――――『オーディン』!!」
 
 
 
 
354 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:10:58.07 ID:u1aAQ4ek0
 ツンの背中を目掛けて降りてくる、ラストスノー。
 希望を抱きながらも、抗えない絶望感に支配されたツン。
 
 その、背中に、衝撃が走る。
 
ξ;゚听)ξ「……えっ……?」
 
 "その瞬間"を、ツンは自分の目で確かめることはできなかった。
 ただ、何かが近づいてきたと思ったら、何かが背中の真上を駆け抜けていったのだ。
 
 しかし、確かめずとも考えれば分かった。
 そして、ショボンに――――いや、ショボンのペルソナに目を向けることで、確信に変わった。
 
 金色の兜を被り、グレーのベールに身を包んでいる。
 その手に持つ槍は、大げさな飾りなどはない。ただ純粋に、攻撃のためだけに存在しているのだと誰しもに思わせる。
 
 それは、先ほどまでツンが見ていたものと変わりはなかった。
 決定的に違うのは、ショボンが目を向けていること。
 
 
 自分自身のペルソナ、オーディンを、完全に支配化に置いていることだった。
 
 
(´・ω・`)「すまなかった、ツン」
 
 ツンの許へ歩み寄り、声をかけるショボン。
 そこに、先ほどまでの不穏さは欠片もなかった。
358 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:14:08.07 ID:u1aAQ4ek0
ξ;゚ー゚)ξ「信じてました……ショボンさんなら、大丈夫だって……」
 
(´・ω・`)「あぁ、そのおかげだ」
 
 ツンを狙っていたラストスノーの攻撃は、オーディンが全て吹き飛ばした。
 しかしまだ、上空には無数の石が浮いている。
 
(´・ω・`)「あとは、俺に任せてくれ」

 ショボンは、力強く天を睨みつけた。
 
(‘_L’)「……素晴らしい」
 
 そのショボンに、手を叩きながらフィレンクトが近寄ってくる。
 
(‘_L’)「異世界の力を物にしたのですね。実に、素晴らしいことです」
 
(´・ω・`)「随分、余裕だな」
 
(‘_L’)「最終的には、それでいいのですよ」
 
 会話が、噛み合っていないようにショボンは感じた。
 或いは、フィレンクトが言葉を聞いていないように。
 
(‘_L’)「しかし当然、ラストスノーによる試練は続きます」
 
(‘_L’)「さぁ、見せてください。貴方の力を」
 
 ラストスノーが上空で変形する。
 小さな石の集合が、巨大な岩になる。
363 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:17:44.37 ID:u1aAQ4ek0
 そのまま、猛スピードでショボン目掛けて降り落ちてきた。
 しかし、ショボンは慌てず、冷静に――――
 
(´・ω・`)『デスバウンド』
 
 ―――― 一閃。
 槍から繰り出された斬撃によって、巨大な岩が粉々に砕けた。
 
 ラストスノーは再び形を作る。
 今度は、細長い槍のような形状。
 そして、その数は優に百を超えていた。
 
 一斉にショボンを攻撃してくる。
 先ほどまでならば、防ぐのは非常に困難だった攻撃。
 
(´・ω・`)『マカカジャ』
 
 その、攻撃を――――
 
(´・ω・`)『雷の洗礼』
 
 ――――雷撃で全て、消滅させた。
 再結合が困難になるほど、完璧に。
 
ξ;゚听)ξ「凄い……!」
 
 ツンは、腹を地面につけたままで、しかし顔だけは上を向いていた。
 スアデラでは雷を操るツンも、マハジオの一撃でラストスノーを迎撃したことがある。
 だからこそ、分かったのだ。
370 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:23:08.33 ID:u1aAQ4ek0
 オーディンの一撃の凄まじさが。
 
ξ;゚听)ξ(マカカジャで威力を上げてたことも大きいけど……それにしても、凄い広範囲に強力な雷撃……!)
 
ξ;゚听)ξ(ラストスノーが空から降ってくる限りは、『雷の洗礼』さえあれば……)
 
 そう考えたツンの裏を突くように、ラストスノーは地面に降りてきた。
 ただし全てではなく、空と地面、それぞれに半分ずつ石を置く形だ。
 
 地面に降りたラストスノーが形を作る。
 巨躯のショボンの三倍はあろうかという、巨人。
 両手に、禍々しい刃を持する剣を握り締めていた。
 
 その巨人が、十体。
 ショボンとツンを、取り囲む。
 
ξ;゚听)ξ(ショボンさん……?)
 
 ツンは、ショボンの背中を見ながら、どうして、と心の中で問いかけた。
 ラストスノーが何かを形作る際、時間がかかってしまうのは、今までの戦いからも分かっている。
 そして今のショボンには、形成途中でもその場から攻撃できる手段があるのだ。
 
 しかし、ショボンはただじっと見ていただけだった。
 
ξ;゚听)ξ(時間稼ぎ……? それとも、別の思惑が……?)
 
 下手に声を出すこともできず、ツンはただ思考した。
 その間に、白い巨人たちが襲い掛かってくる。
 
 しかし、巨人たちはショボンに平伏した。
376 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:26:47.91 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)『グラダイン』
 
 ショボンが、そう唱えた直後のことだった。
 重力に押し潰された巨人たちが倒れ込み、形を崩していく。
 再結合も困難な大きさにまで潰されたあと、ラストスノーは為す術なく地中へと消えていった。
 
 そして今度は、空の石が動く。
 
(´・ω・`)「最後の雪、か」
 
 二人を大いに苦しめた、ラストスノー最強の攻撃。
 それが、『最後の雪』だ。
 
 小さな弾丸のような石が天から降り注ぐ。
 一発一発は銃弾に匹敵する威力があり、それが数百や数千といった単位で同時に繰り出されるのだ。
 ペルソナに覚醒する前のショボンも、一度は死を覚悟した。
 
 そして、オーディンを従えた今でも、オーディンの攻撃では防げない技だと分かっていた。
 
(´・ω・`)(デスバウンドじゃ防ぎきれない。雷の洗礼も有効範囲が足りないな)
 
ξ;゚听)ξ(重力系のグラダインじゃ、却って降り落ちる速度が増すだけだし……)
 
 ツンも懸念していた。
 今は、まだアルテミスを使えるほど回復していない。
 氷の壁で防ぐことはできない。
 
 その、ツンの焦りをよそに――――ショボンは、冷静だった。
 
(´・ω・`)「"最後の雪"は確かに強力だった。単純な攻撃だからこそ、防ぎにくかった」
381 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:29:46.42 ID:u1aAQ4ek0
 フィレンクトが、僅かな反応を見せる。
 
(´・ω・`)「最強……その名に、相応しい技だったろうな」
 
(´・ω・`)「さっきまでは」
 
 ショボンが、顎を軽く上げる。
 その仕草が、まるで癇に障ったかのように、ラストスノーは一斉に動き出した。
 
 先ほどのような、少しずつ増えていく攻撃ではない。
 空に浮かんでいる全ての石が、ショボンに向かって降り落ちてきたのだ。
 
 瞬く間にショボンとの距離が詰まる。
 ツンは、反射的にアルテミスの技を唱えようと口を開きかけた。
 
 しかし、ツンが何かを口にする前に、ショボンが技の名を言葉にした。
 
(´・ω・`)『テトラカーン』
 
 それは、物理的な攻撃を跳ね返す反射壁を生み出す技。
 
 例えば、巨人の剣ほどの質量を持った攻撃ならば、防ぐことはできない。
 しかし"最後の雪"は、ひとつひとつは小さな攻撃だ。
 
 反射壁が、石をひとつずつ跳ね返していく。
 数にしておよそ数十万はあったであろう石は、全て空へと返された。
 
(´・ω・`)「今となっては、最弱の攻撃だな」
 
 ショボンは、フィレンクトにも聞こえるように言い放った。
387 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:33:40.30 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)「今度は石を大きくしてみるか? その場合は、デスバウンドの餌食になるが」
 
 ほとんど苦なく防ぎきったあとのショボンの言葉は、決して嘲るためのものではない。
 挑発するためのものでもない。
 
 "あの一言"を、覆すための言葉だった。
 
(‘_L’)「……どうやら、今度こそ、でしょうか」
 
 フィレンクトが独り言のように漏らした台詞は、ショボンにも届いていた。
 そうだろうな、とショボンは心のなかで呟く。
 
 ラストスノーは、ゆっくり空から降りてきた。
 そして、ひとつひとつを丁寧に結合していく。
 
(‘_L’)「ラストスノー最強の攻撃は、"最後の雪"。それは変わりありません」
 
(‘_L’)「しかし、相手が一人だけならば、このほうが強いでしょう」
 
 ラストスノーが形作ったものは、あくまで造形が似ているだけに過ぎなかった。
 元となる石が大きいため、獣であれ巨人であれ、傍目からも"石で作られた"と分かる造形物だったのだ。
 
 だが、今度は一つ一つの石を、極力小さくしている。
 そのぶん完成には時間がかかるが、限りなく実物に近くなった。
 
 全身が白いことを除けば、正に人間そのものだった。
 
(‘_L’)「ラストスノー【剣豪モード】」
 
(‘_L’)「今度こそ、最後の戦いです」
392 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:39:54.23 ID:u1aAQ4ek0
 その手に握り締めた白い刀を、静かに構える。
 ラストスノーは、ショボンからかなり距離を取って、機を伺うかのようにじっとして動かなかった。
 
 しかし、次の瞬間にはショボンの眼前に迫っていた。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 振り下ろされた刀を、アルファベットZで強引に弾く。
 それほど重みはない、とショボンは感じた。
 しかし、人ではありえない速度だ、とも。
 
 石には脳も神経も筋肉もない。
 だからこそ生み出せる速度だろう、とショボンは思った。
 
 攻撃を弾かれたラストスノーの懐には隙があった。
 すかさず、ショボンはZを突き出す。
 だが、今度は素早く後退することでラストスノーはアルファベットを回避した。
 
(´・ω・`)(……最初、フィレンクトが握っていた偽アルファベットと似ているな)
 
(´・ω・`)(相当威力はありそうだが、衝撃は軽い。弾くことは容易い)
 
(´・ω・`)(しかし、目にも留まらない速度の攻撃……弾き損ねたら、間違いなく討たれる)
 
 ラストスノーがまたもショボンとの距離を詰める。
 突き出された刀を、ショボンは体を開くことで回避し、逆襲した。
 左のZでラストスノーを狙う。
 
 だが、一瞬でラストスノーは遠ざかっていた。
 ショボンのアルファベットは、虚しく空を切る。
394 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:43:25.88 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)(……あれだけ素早いと、オーディンの攻撃も全部回避されるな)
 
(´・ω・`)(テトラカーンもあの刀の一撃を跳ね返すのは難しいか……)
 
 ショボンは、視線をツンのほうに向けた。
 身を守ることもなく、ただ倒れているだけのツンを、ラストスノーが狙うことはない。
 恐らく、ここまで主として戦ってきたツンの実力は、おおよそ把握できたからだろう、とショボンは考えていた。
 
(´・ω・`)(ラストスノーとしては、ペルソナに覚醒した俺の実力を全て把握しておきたい、ということか)
 
(´・ω・`)「…………」
 
 再び、ラストスノーがショボンに刀を向ける。
 ほとんど予備動作のない素早い動きに対し、ショボンは反撃することができなかった。
 一撃、二撃、三撃と、ラストスノーが攻撃を重ねていく。
 
(´・ω・`)(適当に振り回すだけでも、この速度なら充分脅威だな)
 
 一瞬でも気を抜けばやられる。
 ショボンは、それを理解していながらも、頭のなかは冷静だった。
 
 だからこその、別方向からの反撃。
 
(´・ω・`)『デスバウンド!』
 
 斬撃が、ラストスノーを襲う。
 至近距離。ラストスノーが回避に当てられる時間は、ほとんどなかった。
 
 それでもラストスノーは易々とデスバウントを躱した。
 そしてその方向が、ショボンの想定から大きく外れていた。
397 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:46:44.09 ID:u1aAQ4ek0
ξ;゚听)ξ「そ、空に……」
 
(´・ω・`)(そうか……今までも浮いていたのだから、この姿でも空に行けるのはおかしくない)
 
 二人は、今まで散々、ラストスノーによる空からの攻撃に苦しめられてきた。
 それでも今のラストスノーが空へと逃れたことに違和感を覚えたのは、やはり人の形をしているからだ。
 石像のような不自然な形ではなく、動きも滑らかな、正に人であるとしか思えない姿だからだ。
 
(´・ω・`)(今までにない素早さも、この精密な造形があってこそか)
 
(´・ω・`)(あの刀も、フィレンクトの偽アルファベットより耐久性があるようだ……)
 
(´・ω・`)(おまけに、刀と手が融合している。あれでは、刀を手から弾き落とすことも不可能……)
 
(´・ω・`)(フィレンクトの言ったとおり、一対一ならこの姿が最強だろうな)
 
 ショボンは、アルファベットの力でラストスノーを倒すのは厳しい、と感じていた。
 攻撃を防ぐことはできる。今の戦いでは、ショボンの元々の実力が発揮されている形だ。
 この局面で、ラストスノーの超高速の攻撃を防げているのは大きかった。
 
(‘_L’)(……剣豪モードのラストスノーに対抗するために、必要なもの)
 
(‘_L’)(それは、『己が身で』『自分と同等程度の存在を相手に』『超高速の接近戦で戦える』こと)
 
(‘_L’)(……ショボンというこの男、やはり相当場数を踏んでいるようですね。ここまで攻撃を防ぐとは)
 
 だが、ショボンは反撃に出られないでいた。
 そうなるとペルソナ・オーディンの力を使うことになるが、それも先ほど回避されている。
 
(´・ω・`)(他の技は試していないが、試しても無駄だろうな)
399 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:49:52.93 ID:u1aAQ4ek0
 すぐに諦めがつくほど素早く、遠くへとラストスノーは回避行動を取ったのだ。
 それは、ショボンの手詰まりを意味していた。
 
 
 ――――残されたのは、"不確実な手"だけだった。
 
 
(´・ω・`)(……やってみるしかない、か)
 
(´・ω・`)(失敗すれば、確実にやられるが……)
 
 しかし、それが戦いだ。
 今までもずっと、ショボンはそうやって生きてきた。
 
 ラストスノーが攻め込んで来なかったため、ショボンは自分から駆け出した。
 アルファベットZを、大きく振り上げる。
 しかし、振り下ろした先にラストスノーの姿はなかった。
 
 素早く、側面に回りこんでいたのだ。
 ショボンはすぐさま左のZで白い刀を受け止める。
 弾いて、右のZを薙ぐが、ラストスノーは身を浮かすことで刃から逃れた。
 
 上空から、滑空するようにしてショボンを狙うラストスノー。
 ショボンは両方のZを同時に刀に叩き込むことで、ラストスノーの攻めを逸らした。
 しかし、ラストスノーは空中で方向を転換し、刀を振り上げる。
 
 ここが、好機。
 ショボンは、瞬時にそう判断した。
 
(´・ω・`)「ふんッ!!」
401 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:53:06.25 ID:u1aAQ4ek0
 右のZで刀を上から叩く。
 しかし同時に身を屈めて、掬うように左のZで刀を押し上げる。
 
 そしてショボンは、Zの特殊な形状を活かし、ラストスノーの刀を挟み込んだ。
 
(´・ω・`)「こうするより他にない、が――――終わりだ、ラストスノー」
 
 ――――もし、剣豪モードでなければ。
 そうだとすれば、ラストスノーは、刀を分裂させてショボンから逃れることができる。
 しかし、造形に精密さを要する剣豪モードでは、分裂後の再結合には時間がかかりすぎてしまう。
 
 それを、ショボンは理解していた。
 だから、刀を挟み込むだけで充分だったのだ。
 
 ラストスノーが抵抗するべく微動するよりも早く、ショボンは、口を開く。
 
 
 
(´・ω・`)『――――闇の審判』
 
 
 
 二人の周囲を、闇が包み込み始めた。
 
(‘_L’)「ッ!?」
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん!?」
 
 対象を、闇に引きずり込む技。
 それが『闇の審判』だ。
403 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:56:21.23 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンとラストスノーは、刃を交えた状態だった。
 ラストスノーを対象とした技でも、自然とショボンも闇に包まれることとなる。
 
(´・ω・`)「すまない、ツン」
 
(´・ω・`)「しかしどうやら、こうしなければ勝てないようだ」
 
 闇に、溶け込んでいくショボン。
 その両手から既にアルファベットZは離れていた。
 
(´・ω・`)「『闇の審判』で捉えることができれば勝てるのは分かっていた」
 
(´・ω・`)「しかしこの技は、発動させてから完全に対象を捉えきるまでに、僅かだが時間がかかる」
 
(´・ω・`)「剣豪モードのラストスノーでは、普通にやっても逃げ切られてしまうと分かっていたんだ」
 
(´・ω・`)「だから、こうするしかなかった」
 
 ラストスノーの全身が、闇に絡めとられていく。
 もはや身動きは取れず、分裂することさえできなくなっていた。
 
(´・ω・`)「悪いが、あとは託した、ツン」
 
ξ;゚听)ξ「ショボンさん……!」
 
(´・ω・`)「必ず、アンノウンを倒してくれ」
 
 徐々にショボンとラストスノーを取り囲む闇は隙間を埋めていく。
 足が、腰が、腕が、ツンから見えなくなっていく。
412 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 21:59:46.50 ID:u1aAQ4ek0
 
 
 やがて、顔までもが闇に覆われ、ショボンとラストスノーは、完全に闇の中へと消えた。
 
 
(‘_L’)「……道連れ、ですか」
 
 離れた位置から戦いを見守っていたフィレンクトが、呟く。
 
(‘_L’)「まったく……馬鹿な真似をしたものですね……」
 
 剣豪モードになったラストスノーとの戦いを、フィレンクトは、最後だと言った。
 しかしそれでも、ラストスノーはまだ地中に潜んでいるのだ。
 時間はかかるが、その気になればまた剣豪を作り出すことができるのだ。
 
 そして、ペルソナを使えなくなっているツンには、取れる手段もなかった。
 
(‘_L’)「残念な結果ですが、結局、貴方たちは不適格だったということです」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
(‘_L’)「アンノウン様に挑む資格がないのであれば、即刻、消えてもら――――」
 
 
 ――――その先の言葉を、フィレンクトは強引に遮られた。
416 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:03:35.05 ID:u1aAQ4ek0
(;‘_L’)「はっ……!?」
 
 最初、何が起きたのかを、フィレンクトは理解できなかった。
 ただ全身の衝撃で後ろへと倒れ込み、自然と手を腹に当てていた。
 
 そしてその手は、鮮血に染まっていた。
 
 フィレンクトは自分の体のことなど構わずに、頭を上げた。
 そこにはまだ先ほどの闇が残っている。
 
 そして、そこから――――
 
 
 
(´・ω・`)「俺たちの勝ちだ、フィレンクト」
 
 
 
 ――――現れたのは、ショボン。
 左手に、アルファベットWを握り締めたままで。
 
(;‘_L’)「……なるほど、分かり、ました……」
 
(;‘_L’)「あの闇は……単に、身を隠すだけのもの……ですね……」
 
(´・ω・`)「自分のペルソナの技は喰らわんさ」
 
 ツンの戦い様からも、オーディンの技が自分には効かないであろうことをショボンは確信していた。
 しかし、敵と一緒に攻撃を喰らえばどうなるのか。
 同じように闇に吸い込まれてしまうのではないか、と懸念していたのだ。
421 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:07:31.13 ID:u1aAQ4ek0
 結果として、ショボンに何ら影響はなかった。
 闇のなかで悠々とアルファベットWを構え、フィレンクト目掛けて放つことができたのだ。
 
 決して距離は近くなかったが、フィレンクトには油断があった。
 それは剣豪モードのラストスノーの強さに起因している。
 あのラストスノーを倒すためならば、道連れの策を取ってもおかしくはない、とフィレンクトは納得していたのだ。
 
 しかし、本来、ショボンにはフィレンクトを闇討ちする必要性などなかった。
 
(´・ω・`)「お前がFに射抜かれたということは、間違いないようだな」
 
 温血で白い地面を赤く染めつづけているフィレンクトに、歩み寄るショボン。
 平静さをほとんど崩すことのなかったフィレンクトの表情も、さすがに苦痛に歪んでいた。
 
(;‘_L’)「何が……でしょうか」
 
(´・ω・`)「ラストスノーは、お前を守ることを最優先にしているはずだ」
 
(´・ω・`)「しかし、さっきの一撃、確かに不意をついてはいたが、ラストスノーはお前を守れただろう」
 
(´・ω・`)「だが、それがなかった。つまり、ラストスノーは」
 
(;‘_L’)「……お察しのとおり、ですね……」
 
(;‘_L’)「剣豪モードまで打ち破られたラストスノーは……敗北を、認めました……」
 
 それを確かめるための、不意打ちだった。
 
 岩のように分厚い白い壁が出現した場合、アルファベットといえど貫けない。
 もしラストスノーにまだ戦う意思があれば、フィレンクトを守るだろう、とショボンは考えたのだ。
423 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:11:31.59 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)「迷宮がもう一度来るか、とも思ったが」
 
(;‘_L’)「二度目は、分断が難しい……二人一緒ならば、突破されてしまうでしょう……」
 
(´・ω・`)「まぁ、そうだな」
 
 今のショボンにはペルソナがある。
 デスバウンドの一撃で一気に壁を貫けば、迷宮を打破することも可能な状況だ。
 
 また、ツンにも今回の戦いでは温存したクレセントミラーがある。
 ショボンと離れていたため容易には使えなかったが、間違って攻撃してしまう可能性がなければ壁を貫くために使うことができたのだ。
 
(´・ω・`)「剣豪を二体以上出すことも、どうやら出来ないらしいな」
 
(;‘_L’)「動きが、緻密ですからね……二体以上は制御できません……」
 
 大量の石を出現させたときに動きが単調になることには、早くから気づいていた。
 それと同じように、緻密さが要求される剣豪も複数体は操れないのだろう、という推測がショボンにはあったのだ。
 
(´・ω・`)(後は、突然地面に穴が開いて飲み込まれてしまう、という展開……これはずっと警戒していたが……)
 
(´・ω・`)(それがなかったということは、やはり地面の形は維持しなければならないということか)
 
 石が何度地面から浮かびあがっても、穴ひとつ開かなかった。
 ショボンは、落とし穴を警戒していたが、結局は杞憂だったのだ。
 
(´・ω・`)(……あるいはあえて飲み込まなかったか……それは分からんが……)
 
 いずれにせよショボンとツンは、覆した。
 フィレンクトがツンに言ったという、『ラストスノーに勝つのは不可能』という言葉を。
428 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:14:51.75 ID:u1aAQ4ek0
 それは、戦いに生きる者にとって、屈辱でしかない言葉だ。
 何よりも、ショボン自身が勝利への道筋を見出せていなかった状況だからこそ、フィレンクトの言葉は重かった。
 覆さなければならない、とショボンはずっと思っていたのだ。
 
 ラストスノーが繰り出す技を、尽く防いだ。
 何をやっても倒せない、と思わせることに成功したのだ。
 
 ラストスノーに勝てないようでは、アンノウンに勝つことも到底不可能。
 だからこそ、この戦いの勝利にもショボンは拘っていた。
 
(‘_L’)「ゲートが開きます」
 
 いつしかフィレンクトは、アルファベットに貫かれる前と同じ表情に戻っていた。
 しかし、傷口が塞がることはなく、血も変わらずに流れつづけている。
 
 そのフィレンクトの側に、黒い穴が開いた。
 
(‘_L’)「このゲートを通れば、ここから脱出できます」
 
(´・ω・`)「……随分、余裕そうに見えるな」
 
(‘_L’)「アンノウン様の部下として、無様な顔を見せるわけにはいきませんから」
 
(‘_L’)「とはいえ先ほどは、苦痛を隠しきれておりませんで、これではアンノウン様にお見せする顔もありません」
 
 何故、アンノウンに従っているのか。
 ショボンは一瞬、そう聞こうと思ったが、口を開きかけてやめた。
 いかなる理由であれ、元の世界に戻るためには倒さなければならない敵だからだ。
430 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:17:55.40 ID:u1aAQ4ek0
(‘_L’)「もし私の余裕が不安なのであれば、とどめを刺しておきますか? どのみち、永くはありませんが」
 
(´・ω・`)「仮に快活になったとしても、ラストスノーが敗北を認めた今、お前に為せることは何もないだろう」
 
(‘_L’)「えぇ、仰るとおりです」
 
(´・ω・`)「だが、少し体と気を休めておきたい。悪いが、ここから消えてもらう」
 
(‘_L’)「どうぞ。敗者の処遇は、勝者の自由ですから」
 
(´・ω・`)『闇の審判』
 
 フィレンクトの体を、闇が包み込み始める。
 
(‘_L’)「結局のところ、私は間違っていましたね」
 
(´・ω・`)「何が、だ?」
 
(‘_L’)「ラストスノーには勝てない。そう言いましたが、私の誤りです」
 
(‘_L’)「ただ、もうひとつの言葉は間違いではありませんよ」
 
 
(‘_L’)「貴方たちは、アンノウン様には勝てません」
 
 
 フィレンクトは、笑った。
 口元だけを緩ませたようで、微笑に近いものだった。
440 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:22:46.85 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)「……その言葉も、同じ命運を辿ることになるさ」
 
(‘_L’)「さて、どうでしょうか」
 
 最後は、不敵な笑みに変わった。
 ショボンはそこでフィレンクトに背を向ける。
 
 やがて闇は収束し、フィレンクトは、その場から消え去った。
 
(´・ω・`)「大丈夫か? ツン」
 
ξ゚听)ξ「あ、はい……」
 
 地面に伏したままだったツンに、ショボンは手を差し伸べる。
 立ち上がるのではなく、そこに座らせるために、だ。
 
(´・ω・`)「少し休もう。ブーンとクーはもうアンノウンと戦っているかもしれん、と考えれば、早く戻ったほうがいいが」
 
(´・ω・`)「俺もお前もペルソナの力を使ったことで、体力と気力を消耗している」
 
(´・ω・`)「完全な回復を待つほどの時間はないだろうが、少しでも休息を取っておきたい」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
 ショボンとラストスノーが戦っている間に、ツンは多少なり回復できている。
 ただ、完調には程遠い状態だ。
 
 ショボンも、初めて使ったペルソナの力に慣れておらず、今までに感じたことのないような倦怠感を覚えていた。
 早く戻るべき理由があり、時間をかけて休息するべき理由もある。
 兼ね合いが難しい状況で、ショボンは少しだけ休むべきだ、という結論を出した。
437 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:21:21.22 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)「これは、この世界のクーに貰ったんだが」
 
ξ゚听)ξ「?」
 
(´・ω・`)「チョコというものらしい」
 
 ショボンが懐から取り出した、二つの黒い塊。
 そのうち一つを、ツンに手渡す。
 
(´・ω・`)「食糧はこの程度しかないんだが、ないよりは良いだろう」
 
ξ゚听)ξ「貰っていいんですか? ありがとうございます」
 
(´・ω・`)「少し、苦いかもしれんが」
 
 アンノウンの城に来てから、それほど時間は経っていないが、二人は不休で戦ってきた。
 疲れを取るためにも、何かを口にすることは有効だろう、とショボンは考えていた。
 
(´・ω・`)「俺の世界にはないものだが、ツンの世界には?」
 
ξ゚听)ξ「あります。私の世界のより、少し苦いですけど……」
 
ξ゚听)ξ「でも、美味しいです」
 
 そうか、と短くショボンは答え、ツンと同じように口へ放り込んだ。
 苦味が先に口に広がり、それから後を追うように、うま味が充満した。
 
ξ゚听)ξ「ショボンさんが『闇の審判』を使ったときは……びっくりしました」
444 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:26:39.05 ID:u1aAQ4ek0
 正座を崩した形で座るツン。
 ラストスノーが敗北を認めた今、ショボンも最低限の警戒心しか持たない状態で、できる限り楽な姿勢を取っていた。
 
ξ゚听)ξ「自分のペルソナの技でやられるわけないって……そう分かっていても、不安で……」
 
(´・ω・`)「すまない。できれば説明しておきたかったが、その機はなかった」
 
ξ;゚听)ξ「いえ、そんな、謝ってもらうようなことじゃ……」
 
(´・ω・`)「それよりも謝りたいのは、俺の弱さが原因で、お前を攻撃してしまったことだ」
 
 ショボンとツンの視線は、交わっていなかった。
 ツンはショボンを見ていたが、ショボンが視線を地面に落としているためだ。
 
(´・ω・`)「俺は、俺ひとりでどうすることもできない状況に苛んでいた」
 
(´・ω・`)「アルファベットだけではラストスノーを倒すことができない。それが早々に分かってしまったからだ」
 
(´・ω・`)「結果的にはペルソナの力を得たが、途中まではずっとお前に頼りっぱなしだった」
 
(´・ω・`)「率直に言って、俺は、お前の力を羨んでいたんだと思う」
 
 ショボンの顔は、変わらずに俯き加減だった。
 
(´・ω・`)「自分に力が足りないからと言って、努力もせずに無いものを強請るのは、弱者の思考だ」
 
(´・ω・`)「今回、正に俺がそうだった。俺の心は、あまりに弱かった」
 
(´・ω・`)「そしてそれが原因で、お前を危険に晒してしまった。すまなかった」
451 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:30:15.64 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンの前髪が、垂れ下がる。
 自責の念で重くなった頭は、自然と下がっていったのだ。
 
 そのショボンの顔を、下から覗き込むツン。
 
(´・ω・`)「ッ……?」
 
ξ゚听)ξ「ショボンさん、私は以前、自分の世界で同じような目に遭いました」
 
ξ゚听)ξ「私を強く憎む女の子が強力なペルソナを召還し、私を攻撃してきました」
 
ξ゚听)ξ「私は、何とかしたくて……でも結局、彼女はペルソナに操られたままでした」
 
(´・ω・`)「…………」
 
ξ゚听)ξ「ショボンさん、本当に心が弱い人は、自分の弱さと向き合うことなんてできません」
 
ξ゚听)ξ「ショボンさんは強い人です。だから、自分の弱さを真っ直ぐに受け止められるんです」
 
 ショボンがゆっくり顔を上げる。
 ツンの瞳が、それを追う。
 
ξ゚听)ξ「それに、私が戦えたのもショボンさんのおかげです。ショボンさんが、強い意志さえあれば戦えるって教えてくれたからです」
 
ξ゚听)ξ「ペルソナの支配から逃れられたのも、強い心があったから……そうじゃなきゃ、ラストスノーだって倒せませんでした」
 
ξ゚听)ξ「だから、謝らないでください。強さを求めるショボンさんが居たからこそ、こうやって私も生きていられるんですから」
 
 そう言ってツンは、華やかさをショボンに感じさせるような笑顔を見せた。
 ショボンは、軽く頭を掻いて、息を吐く。
457 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:33:28.82 ID:u1aAQ4ek0
(´・ω・`)「フィレンクトが、言っていたな」
 
ξ゚听)ξ「?」
 
(´・ω・`)「ここは、迷宮だと」
 
 ラストスノーの迷宮モードを表す言葉。
 それはショボンもツンも、迷宮で苦しめられたときに気づいたことだ。
 
 しかし、とショボンは思った。
 
(´・ω・`)「あいつの言ったとおりだ。俺は、ここで迷宮に迷い込んだ」
 
(´・ω・`)「そして、どうやって抜け出せばいいか分からないまま戦っていた」
 
(´・ω・`)「そんな迷いを抱えたままでは、アルファベット遣いも鈍るに決まっている」
 
 戦っている最中は、気づかなかったことだ。
 しかし、後になって思い返せば、ショボンは全力を出し切れていなかったことに気づいた。
 
(´・ω・`)「迷宮から抜け出すには、鍵が必要だった。俺は今、やっとそれを手に入れたんだと思う」
 
ξ;゚听)ξ「……わ、私の言葉ですか?」
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
ξ゚听)ξ「でも……もちろん、私だってショボンさんから貰ったものがたくさんあります」
 
(´・ω・`)「だからこそ、思うんだ。この勝利は、二人だからこそ得られたんだと」
459 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:37:29.10 ID:u1aAQ4ek0
 ショボンは一瞬だけ、優しい目でツンに視線を送った。
 それを見てツンの表情はまた明るくなる。
 
ξ*゚ー゚)ξ「私も、そう思います!」
 
(´・ω・`)「ありがとう、ツン」
 
ξ*゚ー゚)ξ「こちらこそです、ショボンさん」
 
 異世界の力に触れた。
 だからこそ、補い合うことの大事さをショボンは知った。
 
 異世界の思いに触れた。
 だからこそ、信じ抜くことの大事さをツンは知った。
 
 アンノウンがどれほど強いのか、まだ二人には分からない。
 しかし、どれほど強くとも、戦える。
 二人は、そう確信している。
 
 必ず、戦い抜けると。
 
(´・ω・`)「行こう、ツン」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
 力強い一歩を踏み出す二人。
 白き空間に浮かぶ、黒い穴へと。
463 : ◆azwd/t2EpE :2010/12/12(日) 22:39:59.94 ID:u1aAQ4ek0
 離れ離れにならないよう、ショボンがツンの手を引いた。
 ツンが固く握り返し、二人同時に、黒い穴へと入り込む。
 
 そして二人は、この空間から消え去った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     【Cross part:Sublation⇒END】
 
     【Next⇒Cross part:???】

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