- 7 :
◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:18:12.74 ID:1vy98Ll3O
- 僕は正直に言って焦っていた。
テデベイアに来て3日の間、何も見つからなかったのだ。
−−そう何もだ。
出納帳から運営計画書、市場の実地検分、そして尋問。
あらゆる方法で綻びを探すも、糸口すら見えて来ないのだ。
ある意味で、異常とも言うべき事態が起こっていた。
出納帳や計画書を見れば、1サーブル※注釈 のズレも見当たらない。
注釈−−※サーブル=お金の単位−−
これではカマを賭けるにも、材料が無さ過ぎる。
半世捨て人の自分でも、家名に傷を付けてしまえば何を言われるかは解らない。
何としてもそれだけは避けたい。
- 8 :
◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:21:57.60 ID:1vy98Ll3O
- −−ブーン・ホライゾン−−
業名を持たぬ自分にも、ホライゾンと言うエリートの家名を守る義務はある。
自覚は無くともね。
( ^ω^)は落ちこぼれのようです
第四話
「嘘」
−−前編−−
- 10 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:24:54.68 ID:1vy98Ll3O
- この三日で解った事と言えば、安定した経済と、土地の防備という範疇で収まる程度の軍隊。
奴隷身分解放制度の、しっかりした業績。
前領主からアサピーへと変わった際の、国家貢献の度合いの推移。
これらを見る限り、アサピーが名君として国に貢献している事を指し示す物しか出て来なかった。
( -ω-)「こりゃ本気で手詰まりだお〜」
あまりの手応えの無さに、僕は机に突っ伏してしまった。
城にあるこの会計官の詰め所や、領主の私室でこの三日間書類を見ていたが、何も疚しい部分が見つからないのだ。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/04(月) 00:30:44.67 ID:1vy98Ll3O
- ( ^ω^)「少し疲れたおね。昼飯を食べるついでに街に出るかお?」
一人言を呟きながら、鈴を鳴らす。
−−チリンチリン。
するとツンが、額に汗を流しながら詰め所に入ってくる。
ξ;゚听)ξ 「この忙しいのになんの用よ!」
( ^ω^)「昼飯はいらないって、言おうと思っただけだお」
ξ#゚听)ξ「んな事で一々呼ぶんじゃないわよ! 最近人手が足りなくて大変なんだから!」
( ^ω^)「人手が足りない? なんで?」
中々大きな城だ。
人員が不足するとは考えづらい……。
ξ゚听)ξ「なんか最近領主様に、別宅の方を任された人が増えたのよね〜。じゃ! 忙しいけどご飯の事は伝えといて上げるわ」
( ^ω^)「おっ! 頼むお〜」
- 12 :またトリップ…… ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月) 00:34:23.31 ID:1vy98Ll3O
- そう言うとツンは、部屋を去っていた。
しかし別宅とは初耳だ……。
当たりを付けていた闇市の資料は、もしかしたらそこにあるのかも知れない。
ただ問題が一つある。
( ^ω^)(どうやって調べるかだおね〜)
一筋の光明を見付けたが、動くにはまたしても手札が足りない。
流石に城は調べる事が出来ても、別宅となると、然るべき手続きを踏む必要がある。
−−ぐ〜ぎゅるる。
( ^ω^)「まっ! ゆっくり考えるかお!」
僕は問題を先送りにして、食欲を満たすために街に繰り出した。
- 14 :>>13ゆっくり休んでくれ ◆YW8tTr3Ies
:2010/10/04(月) 00:37:24.19 ID:1vy98Ll3O
- 街に出るために石段を降っていると、強い地響きが階段の下から起こる。
( ゚ω゚)「なっなっなんだお!」
その音で、僕は尻餅をついてしまった。
( +ω+)「いってぇお〜」
僕は尻を摩りながら立ち上がり、原因であろう庭に降っていく。
すると庭の角の方の修練場にジョルジュが立っていた。
ジョルジュの視線の先には、中心辺りから横一文字に真っ二つになった高さ5メーター程の岩がある。
パチパチパチ−−
( ゚∀゚)「なんだぁ? ブーンか」
僕は軽い拍手を送り、長岡に話し掛けた。
- 15 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:39:43.61 ID:1vy98Ll3O
- ( ^ω^)「ただの変態じゃなかっただおね〜。錬気術が使えるとはね」
ジョルジュは少し照れていた。
( *゚∀゚)「使える訳じゃねーさ! ただ領主様の親衛隊ならこんくらいは出来ねーとな!」
( ^ω^)「でもスゲーお! こんなでかい岩を切るなんて」
( ゚∀゚)「中央じゃこんくらい普通だろ?」
( ^ω^)「そんな事ねーお! 斬撃を飛ばせるだけでも中々のもんだお!」
またしてもジョルジュは少し照れて、顔を少し上気させる。
( *゚∀゚)「そっそうか?」
錬気とは魔法の使えない騎士達が、魔法に対抗するために作った技術だ。
己の体力や精神力を剣に乗せる事により、遠距離攻撃や物理的な攻撃力の増加を目的として物だ。
切れた岩を見る限り、ジョルジュが放ったのであろう錬気術は、中央でも一流クラスにしか出来ない芸当だ。
- 16 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:43:08.76 ID:1vy98Ll3O
- それだけに僕としては、最悪と言う感情が首を擡げていた。
( ^ω^)(こいつともやり合わなきゃならないのかお……)
しかし、戦う可能性があるなら仕方ない。
僕はジョルジュがどの程度使えるのか確かめるために、もう一度錬気を放って貰う様に頼む事にした。
( ^ω^)「ジョルジュよかったら、もう一度錬気術をやってくれないかお?」
( ゚∀゚)「あぁ? 構わねーけど、俺様のかっこよさに惚れてもしらねーぞ?」
( ^ω^)「黙れ変態」
( #゚∀゚)「……ちっ」
- 18 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:46:49.33 ID:1vy98Ll3O
- ジョルジュは僕の返答に納得が行かなかった様だが、それでも先程の岩に向かって剣を垂直に構える。
( ^ω^)(なんだかんだで、扱い易いおね)
ジョルジュと岩の間は10メートル程、ジョルジュは眼を瞑っている。
周りの空気はまるで流れを止めたかの様に、重くのしかかる。
そして一瞬空気が揺らぐ、その刹那、ジョルジュは眼を見開き剣を振り下ろす。
( -∀-)「ふぅ……」
( ゚∀゚)o彡゜「はぁ!」
発声と共に剣から、赤みがかった光が縦に一本飛び出した。
その光は真っ直ぐ、大岩に向かいそして通り過ぎて行く。
一瞬時が止まったかと思う程の静寂が過ぎると、大岩は音を立てて縦に割れた。
( ゚∀゚)「どんなもんよ?」
ジョルジュはニカリと笑い、こちらを振り向いた。
( ^ω^)「やっぱりスゲーお!」
僕もにこやかに返したが、内心は焦りを禁じ得ない。
( ;^ω^)(こりゃ、一個大隊の騎士団長でも勝てるかわかんねーお)
- 19 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:50:55.31 ID:1vy98Ll3O
- 直接やり合うのは避けたいが、最悪……追いかけ回されるのは覚悟しなければならないだろう。
まぁ間違いなく、このままじゃ真っ二つだけど……。
( ゚∀゚)「んでブーン? お前こんな所でどうしたんだ?」
( ^ω^)「お? 市で飯でも食べようかと思ってお」
( ゚∀゚)「領主さまが、飯を用意してくれてるだろ?」
( -ω-)「そりゃそうだけどお……」
( ゚∀゚)「息が詰まるってか? 贅沢なもんだぜ」
ジョルジュの口調は嫌みたらしいが、表情は笑っていた。
( ^ω^)「まぁね。 少し息抜きしたいんだお」
( ゚∀゚)「まぁ……そりゃっそうか!」
ジョルジュは少し目を伏せる。
- 20 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:53:38.73 ID:1vy98Ll3O
- すると一言僕に提案してきた。
( ゚∀゚)「どうだい? ブーン一緒に行かねーか?」
( ^ω^)「え? 良いのかお?」
( ゚∀゚)「おれは非常勤みたいなもんだからな、普段は仕事はねーのよ」
( ^ω^)(完全に用心棒ってやつだおね〜)
ジョルジュとは数日前の一件より、親密な中になりつつある。
仕事を抜きに考えれば断る理由はないのだが……。
( ^ω^)(まぁ断るのも不自然かお)
( ^ω^)「ジョルジュよろしく頼むお!」
- 21 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:56:08.46 ID:1vy98Ll3O
- ( ゚∀゚)「よしきた!」
そう言うと修練場の奥に、ジョルジュは引っ込んで行った。
服でも着替えるのだろう。
ジョルジュが稽古着から着替える間、僕は岩を調べながら待つ事にした。
よくよく観察すると、不可思議な部分が目立つが−−
( ^ω^)「時計わすれちまったのはミスったお」
( ゚∀゚)「おいブーン行くぞー」
修練場の奥から、ジョルジュが声を掛けてくる。
もう少し調べたかったが、仕方ない。
( ^ω^)「おいすー! 今いくお〜!」
僕はジョルジュの後をついて、城下へと続く門をくぐった。
- 22 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
00:59:21.59 ID:1vy98Ll3O
- ( ・3・)「おー馬鹿面のにーちゃんとジョルジュさん! お出かけですかぃ?」
相変わらず失礼な門兵に、腹を立てそうになるが食欲が制した。
( ´ω`)「ブーンで良いから、馬鹿面とか言わないでくれお」
( ゚∀゚)「wwwwwww」
後ろでジョルジュは、腹を抱えていた。
死ね!
( ´ω`)「なんで、僕はいつも馬鹿にされるんだお」
城下町のメインストリートを歩きながら、僕はジョルジュに愚痴を零す。
( ゚∀゚)「にやけ面でお人好しそうだからじゃね?」
( ^ω^)「ズケズケ言うなおまえ。一応僕は貴族だお?」
- 24 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
01:02:48.26 ID:1vy98Ll3O
- ( ゚∀゚)「でもお前気にしてねーだろ?」
( ^ω^)「? 解るのかお?」
( ゚∀゚)「お前から平民に溶け込もうとしてる雰囲気があるかな」
( ^ω^)「わざとらしいかお?」
( ゚∀゚)「少しな。 お前は打算でやってる事だろ?」
( ^ω^)「よく解らんおっおっお!」
( ゚∀゚)「喰えねぇやつだなw おっし着いた!」
( ;^ω^)「なんだおここ……?」
ジョルジュが指指す店は、ボロボロの看板を掲げた小さな小屋だった。
( ;^ω^)「ここやってんのかお?」
( ゚∀゚)「まぁ店構えはひでぇが味は保証するぜ!」
そう言うとつかつかと、ジョルジュは店の中に入っていく。
- 25 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
01:06:08.63 ID:1vy98Ll3O
- 僕は怖ず怖ずと、ジョルジュについて行った。
店に入っても、何も音が聞こえてこない。
店は閑散としていた。
( ^ω^)「店員とかいねーのかお?」
( ゚∀゚)「気にすんないつもの事だw」
ジョルジュはそのまま、奥のテーブルに座る。
席に着くと、調理場の方へ大声でランチ二つと頼んだ。
ジョルジュはテーブルの脇に置いてある水差しから、水をコップに容れるとぐいっと喉に流しこんだ。
( ゚∀゚)「ぷは〜! ん? どうした?」
- 26 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
01:08:26.17 ID:1vy98Ll3O
- ( ^ω^)「落ち着かねーんだお」
( ゚∀゚)「ひゃはははw 気にすんなつったろ!」
( ^ω^)「だからって店員が居ない店ってのは可笑しいだろお」
( ゚∀゚)「まぁその内出てくるから待ってろよ」
すると店の奥の方から、影が現れる。
その影はゆらゆら揺れると、全容が明らかになっていった。
川д川「……」
( ;ω;)「ひぃ!」
- 29 :語感が良いので怖ず怖ずを採用しました意味は同じです
◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
01:13:07.12 ID:1vy98Ll3O
- それは長い髪が腰まで伸びた化け物だった。
髪が顔を覆い表情は窺いしれない。
川д川「……」
その化け物は、真っすぐ僕達の席へ向かってくる。
手には赤い血が満たされた皿を持っていた。
( ;ω;)「ひぃ……くっ来んなお!」
化け物は僕らの目の前に、血の入った皿を置く。
そして−−
川д川「ランチのスープでぇす☆ 今日は裏ごしトマトのピューレスープですよ〜♪」
( ;ω;)「え?」
( ゚∀゚)「wwwww」
ジョルジュによると今のが店主らしい……。
変わり者だが、良い人だと聞かされた。
ちなみに、スープも含め味は中央でも通用する腕だった。
- 31 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
01:20:04.02 ID:1vy98Ll3O
- ( ゚∀゚)「びwびwりwww」
( #^ω^)「誰だってびびるわ! あんなもん!」
( ゚∀゚) 「ひぃwww」
( ゚ω゚)「んがぁぁぁ!」
僕が散々ジョルジュにからかわれ、爆発すると少しジョルジュが真面目な顔になる。
( ゚∀゚)「ブーン。お前領主様の事嗅ぎ回ってるだろ?」
( ^ω^)「? そりゃあ仕事だし」
( ゚∀゚)「いや。
お前は何かしら掴んでるだろ?」
( ^ω^)(揺さぶりかお?)
僕は慎重に言葉を選んで発言する。
( ^ω^)「まぁ何か無いかは、探してるお」
( ゚∀゚)「ふーん? 例えば闇市とかだろ?」
( ゚ω゚)「……!?」
ジョルジュは何か知っている。
そして理由は知らないが、僕に情報を渡すつもりの様だ。
- 34 : ◆YW8tTr3Ies :2010/10/04(月)
01:24:46.58 ID:1vy98Ll3O
- ( ゚∀゚)「まぁ良いや。夜にまた此処にきな。少し話そうぜ」
そう言うと会計を置いて、ジョルジュは立ち去った。
( ^ω^)(何が目的か解らんおね……)
薄暗い店の中、僕はジョルジュの話を反芻していた。
第四話
「嘘」
−−前編−−
了
戻る