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名前:第一話 :2007/10/14(日) 21:56:03.09 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)はオーパーツと戦うようです
〜第一話【怪物】〜
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 21:59:46.04 ID:NkwoDlTp0
その町は、かって交易の中心地であり、有用な情報と最新の資材、有識な人材が集まっていた。
町の入り口には、『バーボンラック』と書かれた看板が立てられている。ファンシーな動物キャラクターが脇に描かれた、華やかな看板だ。
だが一歩街に入ると、倒壊した建物が最初に目に入り、華の都会に期待される美観は崩れ落ちてしまう。
風化した紙くずが風に煽られて舞い、チリと共に轟々と巻き上がって、視界を遮る。
伸び放しの植物は、花壇を越え、道路を越え、果ては民家、商店の中にまで侵入していた。
そんな蔦の一本を指で弄りながら、男が一人、街の片隅の廃墟でヘッドホンを付けて座り込んでいた。
『――――そうして、僅かに生き残った人類は地下に移り住んだ。地上を放棄することがどれだけ愚かな――――』
『邪教徒――――異常な戦果と性能――――オーパーツ――――うっかり神ハッスル』
『オゾンを食い荒らす怪鳥の襲来――――戦死者に哀悼を――――』
『幾千の時を越え、進化した異形の怪物が――――生態系の頂点に――――』
『なお、神という言葉は当時の――――現地の状況から判断――――演出部分はあくまでフィクション――――』
ヘッドホンから漏れる、途切れ途切れの荒れた音声が止まった。
(´・ω・`)「……御伽噺のテープか。ぶち殺すぞ」
男は、テープにそれ以上音声データがないことを確かめてからヘッドホンを外した。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:02:20.58 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)「『歴史の憶測的真実』……。数十年前に大ヒットしたとは言え後から見りゃつまらないものだね。
大体憶測と真実って合わせるのおかしくない?」
物憂げな表情を作った男は、誰に言うでもなく呟いた。
溜息をついて、蔦を手放す。
ラベルが剥がれたテープを大きなバックにしまい、開かなかったので蹴り壊した箪笥を一瞥して家を出る。
男はまだ調べていない家がないかどうか見渡して確認する。
家の前に止めておいたバイクからグレネードランチャーを取り出し、弾薬を装填し、空中に向けて発射する。
風を切る音の直後、上空で爆音が発生。有色の煙が雲のように漂っていく。
トリガーを引ききって自動的に排莢された薬莢が、地面に落ちて土に埋まる。
強風と土埃に目を顰めながらも、懐から懐中時計のようなものを取り出す男。
(´・ω・`)「この街に来てもう六日と10時間……あと数時間で見つけないと……」
備えられたスイッチを素早く五回押すと、丸く小さい懐中時計の表示部分が時刻からセンサーのような画面に変わる。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:04:53.17 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)「喰い付いてきた……距離は……300……280……早いな……それに建物が倒壊する音がしない」
ならば飛空型か、と呟いて空を見上げる。
だがそこには白んだ空と月しか見えない。
(´・ω・`)「……」
センサーの光点が、中心に近づく。
その表示はすでに彼の50m以内に『獲物』が接近していることを示している。
微かに地鳴りが男の耳に届いた。
(´・ω・`)「……地下か!」
叫ぶと同時に男が飛びのいた瞬間、今までいた場所をドリルのような回転する物体が貫通しながら地上に飛び出した。
/ ゚皿。 /「ギャオオオオオオ!!!」
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:07:04.56 ID:NkwoDlTp0
現れたのは、尖った鼻の先の薄く横に切れた口から涎を垂らし、十二本の巨触腕を細長い体から生やした怪物。
触腕を振り回し、廃墟の壁に次々と穴を開けていく。
(´・ω・`)「もぐら……いやミミズか?
でかい……」
男の蚊の泣くような小声に空を見上げていた土竜ミミズはぎょろり、と四つある目玉を動かし、男を睨みつけて這いよりはじめた。
(´・ω・`)「……もう一度潜って襲う知恵はないようだが……耳は存外に良いようだ。だがこれもハズレだ」
男は余裕を感じさせる口調ですこし残念そうに呟くと、踵を返して走り出した。
/ ゚皿。 /「―――ぐるああああ」
咆哮しながら追いかける怪物だったが、その触腕が伸びる前に男は、横転したバイクを起こし、跨って逃走していた。
/ ゚皿。 /「―――ぎぎぎぎぎぎ」
歯軋りのような音を立てながらも、わしゃわしゃと触腕をはためかせながら怪物はバイクを追撃し始めた。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:14:08.69 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)(あの怪物は獣型だろうな……神獣型なら死体をこっそりコレクターに横流せたんだけど……)
男はバイクで街を疾走していた。舗装されていない道路だが、男が乗るバイクはまるで揺らぐ様子を見せない。
バイクの駆動音を聞きつけ、人間の影がバイクの進路上に現れる。だがその姿は、人間と呼ぶにはあまりに生気を失っていた。
「ウレシイ……」
「カングルナ……」
「ハリーハリーハリーハリー……」
などと意味の通らない言葉をあげながらにじり寄る人影。
嫌悪感を覚えながらも、男は人間とほぼ同じ姿、だが所々腐っていたり他の生物の物と思しき器官を持つ怪物を轢き倒していく。
その中に、他の怪物よりしぶとく、蜘蛛のような足で執拗に追いかけてくる怪物がいた。
男が追る蜘蛛男に振り向くと、土竜ミミズが蜘蛛男に飛びついて噛み付き、地面に潜り始めていた。
(´・ω・`)「食事はマイホームで、か……いい夫になれそうだな」
だが数秒で地面に上がってきて、咥えていた蜘蛛男を投棄する。
同時に周囲に轢き倒されていた人間型の怪物を触腕で叩き潰し、ミンチにし始めた。
調理というわけではなく、単に怒りをぶつけているような叫びを上げながら。
(´・ω・`)「納豆は嫌いなようだ」
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:17:17.36 ID:NkwoDlTp0
男は嘲笑を洩らし、カーブを曲がりながらクラクションを鳴らす。
逃げ出した残りの人間型も潰そうとしていた土竜ミミズはけたたましい音響に振り向き、新鮮そうだとみた獲物を追い始めた。
男と怪物の距離は非直線で600m弱。
バイクを追い、這いずりながらカーブを曲がる怪物。
捕食のために口を大きく開いて―――。
突如、その頭を巨大な手が掴んだ。
/ ゚皿。 /「づ……!? 」
驚きと取れる奇声を上げながら、土竜ミミズは掴まれた腕の先を見る。
その瞳に映ったのは―――機械的な印象を与える姿。
頭部を除く上半身は赤と白、下半身は藍の混じった金に塗装された、威風の機械巨人。
男は携帯機器で巨人を簡易遠隔操作しながら、巨人の足元に近寄る。
足の先が展開し、巨人はバイクごと男を体内に受け入れた。
バイクから降り、備え付けられた椅子に座った男が、エレベーター方式でコクピットまで運ばれていく。
コクピットに搭乗者が辿り着いたことを認識し、ロボットのモノアイに光点が踊る。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:19:13.92 ID:NkwoDlTp0
『ポリゴリアン……正常機動』
機械音声が無人の街に響いた。
同時に、急激な横向きのGに怪物が目を見開く。
起動音を上げながら、ロボットは土竜ミミズの頭を掴んだまま走り出したのだ。
一瞬で向かいの廃墟ビルに到達し、土竜ミミズはビルに押し込まれる。
/ ゚皿。 /「ぎイッ」
怪物は身体を鉄材で傷つけられながら、ビルが倒壊する音にも負けない悲鳴を上げてビルに埋め込まれた。
堪らず触腕を振りかざすが、ロボットは直撃を避ける為に脚部のブースターを吹かして宙に逃れる。
空中で巨体を横回転させ、すかさず腰から取り外した大口径のショットガンを放つロボット。
数十発の弾丸が、ビルに封じられて身動きを取れない怪物を襲う。
全身を撃ち抜かれ、それでも土竜ミミズは触腕を宙に伸ばした。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:21:42.14 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)「くっ……! 」
不意を打たれて宙で触腕に捕らえられたロボットは、左腕を展開させて多薬室の火砲を出現させた。
目標は怪物の頭部。
多薬室砲――通称『ムカデ砲』である――の、砲身側面の15の装薬燃焼システムが発動。
ガスが砲身に溜まり、点火。15の連鎖爆発によって圧力と熱が発生し、砲弾を押し放つ――!
はずだったが、稼動させるための電圧を流す一瞬前に地面に投げられ、ロボットは俯けに叩きつけられる。
(;´・ω・`)「! 百足砲がイカれたか、不味いな……」
ロボットのコクピット内で、男が火器管制システムの異常を示す警報を聞いて、吐き捨てるように言う。
さらに衝撃で機体が揺さぶられ、機体のオートバランス・システムに異常をきたしている。
立ち上がらせるにはしばし時間が必要だった。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:30:39.59 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)「出来れば距離を取って仕留めたかったけど……」
男が愚痴っている間に、土竜ミミズは身を激しくよじってビルを破壊し、戒めから解放された。
細長い口を盛大に開けながら、巨大な機人を噛み砕かんとにじり寄る。
モニターにはシステムの正常化を図る構文が高速で走っている。
(´・ω・`)「……」
呼吸を整える。タイミングを完全に捉えるため、土竜ミミズの動きを背中部の第三カメラで注視する。
そして、流れるような手つきでいくつかのボタンを押した。
ロボットが右腕の収納部から長い刃物、ナイフ……というよりむしろ錐に近い形状の武器を取り出す。
左腕ががこん、と音を立てて大きく開き、杭打ち器のような機構を露出させる。
/ ゚皿。 /「ぐぐるぎぎゃあああああああああああ!!!」
勝ち鬨のような土竜ミミズの声を聞き、十分接近していることを確認。
男は機体前面の姿勢制御バーニアに火を噴かせた。
そのまま勢いに任せて機体を跳躍させ、目の前に飛び出た土竜ミミズの無感情な貌を目にしながら―――。
その目に、右手に構えた錐を突きたてた。
/ ´皿、 /「♪¨∀аБ――――――――――――!」
(´・ω・`)「やかましいぞ、怪物」
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:32:38.35 ID:NkwoDlTp0
もはや声にもならない音響をあげる土竜ミミズ。
だがロボットはそれに構わず、土竜ミミズの顔の横に付いた反対側の目から錐が飛び出すまで差し込む。
さらにダメ押しと言わんばかりに、自分の側に引き抜いた。
顔の前面にあったもう二つの目も錐によって潰され、土竜ミミズは顔面から夥しい緑色の血液を飛び散らせながらもんどりうつ。
返り血を浴びるロボットは、怪物の頭上に鉄拳を打ち込んだ。
/ ´皿、 /「ギャウアウ!!」
男は地面に這いつくばった土竜ミミズをロボットの足で踏みつけ、上から下まで観察する。
(´・ω・`)「ムカデ砲は高くつくんだけどね……。頭部に大奇形脳もない……ただの獣か」
憎憎しげに呟き、男はロボットの右腕を突き上げて杭打ち器を怪物の細長い身体に叩き込む。
しかしそれから飛び出したのは杭ではなく、ロボットのサイズにしてもなお極太の注射針だった。
何らかの液体が怪物に注入され、暴れていた土竜ミミズは動きを止めた。
触腕もだらりと垂れ下がり、土竜ミミズはバタリと地に巨体を落とし、停死する。
(´・ω・`)「……ジジイの発明は役に立つが、どうもケレン味が過ぎるな」
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:35:48.21 ID:NkwoDlTp0
右腕の機構を仕舞い、完全に活動を停止した土竜ミミズを見下ろすロボット。
細長い身体に繋がる首を、念のために踏み千切って切断する。
首を右腕に抱え、身体を右腕で引き摺って、数百m離れた、白いシーツを被せられた巨大な檻の位置まで運んでいく。
その檻の周囲には、強烈な異臭が漂い、野生の動物も近づけないでいた。
一旦土竜ミミズの体を離し、異臭の発生源であるシーツを取り外す。
そこには、土竜ミミズとほぼ同じサイズの様々な怪物の死体が数体重ねて納められていた。
(´・ω・`)「1、2……えーと、こいつで8体だな。ノルマは6体……ムカデ砲を修理するほどのボーナスはもらえ……ないか」
溜息をつきながら、土竜ミミズの体を檻に放り込む。
首の方も入れようと手を振りかぶったが、思い直して、周囲を見渡す。
そして怪物の死臭に寄せられて少し遠くで屯っていた、野犬の群れを見つけて放り投げてやった。
檻に手を出せずに焦れていた野犬たちは、極上の大きな餌に喰らいつき、一心不乱に貪り始めた。
(´・ω・`)「よしよし……これでお前らも次来るときには怪物だ。共食いせずにできるだけ増えろよ」
不穏当なことを言いながら、コクピットから降りた男は懐中時計で時間を確認してから携帯を取り出し、十六桁の番号を押す。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:38:05.08 ID:NkwoDlTp0
('A`) 『……はい、こちら人類府、異星鳥及び土着畜生撲殲滅科、期間契約部でございます。どのようなご用件でしょうか?』
(´・ω・`)「アルバイトのショボンです。バーボンラック街での巨大異形収獲、定刻どおりに、ノルマやや超過で完了しました」
業務的に淡々と聞く声に、同じく淡々とした声が返る。
('A`) 『ああ、ショボン君か』
突然相手がくだけた口調になる。
(´・ω・`)「7日ぶりですね、オペレーターさん」
('A`) 『ドクオだよ……名前ぐらい覚えてくれ』
嘆く相手の声を聞きながら、伸縮ワイヤーで檻をロボットの背部に接続し、ショボンはもと来た場所に帰る準備を始める。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:40:44.35 ID:NkwoDlTp0
('A`) 『放射線は大丈夫だったか? 』
(´・ω・`)「ええ、この辺はまだ人が住めそうですね。怪物がいなければ、だけど」
('A`) 『実際、物好きな人たちが百年位前に上がって住んでたらしい。生存者とか、いた?』
(´・ω・`)「さあ? 怪物しか探してないから……じゃ、戻ります」
('A`) 『いつも通り報酬は現物を見てからで。
ああ、内藤卯官がなんか言ってたな……忘れた。帰ってきてから聞いてくれ』
投げやりな言葉を最後に、相手の側から通話は切られる。
ショボンは携帯を仕舞い、同時に檻の接続作業を完了した。
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名前:第一話 :2007/10/14(日) 22:43:32.21 ID:NkwoDlTp0
(´・ω・`)「内藤のおっさん……仕事の斡旋か、ヤケ酒の付き合いか……一応話は聞いてみようか」
頭部モニターに土竜ミミズの血痕が残っているのをみて憂鬱な表情を浮かべるショボン。
(´・ω・`)「ムカデ砲を壊した上に機体も汚しちゃった……簡単に血が落ちれば良いけど」
コクピットに戻り、燃料を確認する。帰還には十分な量。
ショボンはロボットの長距離飛行ユニットを展開し、早々にその場を飛び去った。
爆音と共に無人の街に騒乱を巻き起こした元凶が去り、空気を切って巨鉄が遠ざかる音が響く。
後にはシンと静まった街と、撒き散らされた緑の血痕、怪物の首を貪る野犬の群れだけが残った。
野犬の群れは我先にと怪物の肉と血を食している。
腹を膨らませた一匹の犬が他の犬を置いて一足先にその場を離れた。
ふらつく足取り、蠕動する肢体。
その瞳にはうっすらと緑が滲んでいた。
第一話完
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