1 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:36:27.67 ID:NkwoDlTp0
平和な、一つの国に支配された世界で戦争が起こった。

世界を統一した国家に逆らったのは、独特の文化と信仰を持つ民族の国。

その戦争は熾烈を極め、戦後の復興を考えていないかのような愚行が連続で行われた。

戦争が始まったのは、頑なに、例外は認めないと迎合を押し付けた統一国の責任か。

それとも、同じく頑なに抗い、徹底的に統一国を破壊しようとした民族国の責任か。

始まった責任がどちらにあり、終わらせる義務がどこにいくかはともかくとして――。

戦場で、人が死ぬ。それは戦争の不文律として、古代から変わらず施行されていた。

だがその時代、暗黙の法則は、拳によらず、剣によらず、銃によらず。

機械の巨人によって、施行されていた。



2 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:37:38.81 ID:NkwoDlTp0

大気が振動する。群れを成して飛び交うは、白熱した鉄の塊。
戦場は機械に支配されていた。
血涙垂らして泣き叫ぶ、戦人の声は微塵も聞こえはしない。
ただただ、鉄が爆ぜ、砕け、墜落して風を切る。
青く澄んだ海は堕ちた鉄塊から滲んだ血―――いや、潤滑油で黒く染まっていく。


「……」


風のざわめきが戦場の上空で囁いた。
それは現世から遠く離れた、夢と仮定の次元の風。
現実に励む下々の戦士たちには無論、その大気の唄は聞こえない。
では、彼らには『それ』を止めることはできないのだろうか?


「……」


神の鉄槌が、下されようとしていた。



ミ,,゚Д゚彡「……デミタスゥ! 貴様、何を躊躇しておる!」


主戦場からは遠く離れた海域で年配の男性が罵声を上げる。
場所は海に浮かんだ巨大な戦艦の、外の光景がよく見えるブリッジ。
そして、幾度となく続く遠方の爆発と閃光に目を細めながらギリギリと歯を噛み締める。

3 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:38:49.89 ID:NkwoDlTp0

(・∀ ・;)  「―――デミタス大将、ご決断を! もう持ちません!」

接近するミサイルをセンサーで必死に探知しながらも、周囲の乗員がデミタスと呼ばれた男を促す。

艦のすぐ近くでミサイルが迎撃され爆風で海が、そして艦が揺れる。


(´・_ゝ・`) 「しかし……」

 ミ,,゚Д゚彡 「奴等とてこの作戦は理解している! だからこそ命懸けであの機体の相手をしてくれておるんだ! 見ろ!」


年配の男は、狼狽するデミタスを叱り飛ばし、手でモニターを示す。

遠視モニターに、赤黒く立ち上る光を纏った漆黒の機体が、自分達の友軍を次々と蹴散らすのがデミタスの目に入った。

その周囲には、千年近く前から全世界標準、つまり例外なく世界全軍で使われているロボット、ポリゴリアンが群がっている。

友軍のポリゴリアンは、明らかに勝ち目がないと分かっているだろうに、漆黒のポリゴリアンに特攻を繰り返す。

それを嘲笑うかのように、漆黒のポリゴリアンは『気』としか表現できない力で彼等をなぎ払っていく。

さらに、敵軍には数体のポリゴリアン以外のロボット、ワンオフマシンが投入されていた。

統一国軍の一個小隊が数十秒単位で次々と全滅させられていく姿が克明にモニターに映し出され、デミタスは拳を握り締める。

5 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:41:18.23 ID:NkwoDlTp0

ミ#,,゚Д゚彡「オー・パーツ・マシン……あれが一機でも我等の手中にあれば……おのれ! 邪教徒めらが!」

年配の男が吐き捨てるように叫び、立ち上がる。

ミ,゚Д゚彡「撃て! デミタス! 連中の戦力はここに残存しているので全部……。
      衛星レーザー砲を撃ち込んで終わりだ! 全てな!」

デミタスはブリッジから遥か青空を見上げ、その先にあるはずの史上最悪の被害を地球にもたらすであろう兵器を想像する。

名称は、大陸溶解破砕衛星レーザー砲。火星近域に建設された超兵器である。

その威力は、その名のとおり大陸を一つまるまる消してしまう程と推定されていた。

そもそもは地球外生物へ向けるという触れ込みで建造されていたのだが、泥沼の紛争に一瞬でケリをつけるには、絶好の兵器だった。

デミタスたちの部隊は、その射界ギリギリのところで、発射後のケアを行うことを任務としている。


(´・_ゝ・`) 「……前線兵……許せよ……!」

一拍置き、拳を固く握って言い放つ。

(´・_ゝ・`) 「世界統一国軍大将、デミタス。衛星砲起動承認! 目標、あの黒いポリゴリアンに!」

 ミ,,゚Д゚彡 「同じく世界統一国軍元帥、フサギコ。衛星砲発射承認! 発射後、直ちに放射能除去成分を散布するぞ!」

 (・∀ ・)  「了解!」
7 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:44:07.91 ID:NkwoDlTp0
乗員たちの了承点呼を聞き遂げ、頭を下げるデミタスに、年配の男が座り込んで声を掛ける。


 ミ,,゚Д゚彡 「それでいいのだ、デミタス……我等の神、●●●●●に懺悔と、忠誠を」

(´・_ゝ・`) 「……懺悔と、忠誠を」

 (・∀ ・)  「懺悔と、忠誠を」


デミタスと乗員たちも復唱する。

軍人である彼らに、選べる道は一つしかなかった。



 (・∀ ・;)  「……な、な……大将、元帥! 衛星砲のシステムがアクセスを拒否しています!」

 ミ,,゚Д゚彡 「何だとぉ!? 」

ようやくほっと一息つけた年配の男、フサギコは枯れた声で叫んで咳き込んだ。
デミタスも冷や汗を流して周囲をセンサーで見回そうとする。


( ・∀・)『……いい面の皮だな、狗ども』

8 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:46:17.22 ID:NkwoDlTp0

デミタスがセンサーに目をやった瞬間、モニターに目深のフードを被った男の顔が映りこんだ。

(´・_ゝ・`) 「何者だ!? 」

ざわめく周囲を余所に、デミタスが叫ぶ。

( ・∀・)『私はモララー、今後ともよろしく……なんてな』

道化た口調で言う男。

フサギコがハッとして遠視モニターに映る、黒いポリゴリアンを見る。

漆黒の機体は、爆撃と斬撃を物ともせず、群がる敵を完全に無視して、フサギコたちの艦を睨みつけていた。

腕を組み、赤黒い闘気を噴出させるその姿に、畏怖を感じない人間など皆無だろう。

ミ,,゚Д゚彡「ゴラァ! 貴様、邪教徒だな! どうやって衛星システムに介入を……!?」

( ・∀・)『御名答。こちらにとっては貴様等が異教の徒だがな。あの火星のオモチャは我々が有効に使わせてもらう』

(・∀ ・) 「……まさか、我が統一国の首都を?」


9 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:48:29.98 ID:NkwoDlTp0

青ざめた顔で呟く乗員の一人の声にモララーは嘲笑を返す。

( ・∀・)『心配するな。そんな矮小な事には使わん。我等は―――』

モララーがそこまで言った時だった。
艦が、揺れる。モニターの画面が乱れ、ノイズが音声に混ざった。
そして艦全体がガタガタと、何かに怯えるように揺れている。
それはモララーの側も同じようだ。

(;・∀・)『ポセイドン、どうやらこいつらは隠し玉を持っていたらしい。気をつけろ』

小声で囁く声が聞こえ、回線が切れる。

(;´・_ゝ・`) (これは……?)
13 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:51:44.33 ID:NkwoDlTp0

デミタスは好意的に解釈しようと、縋るようにフサギコを見遣るが、彼も全く覚えがないようだ。

モニターから眼を離し、肉眼で外を見れば、海も、艦隊も、空中を飛んでいる機動歩兵ですらも震えている。

戦闘が中断され、数秒の間だったが、誰もが困惑して動きを止めた。

全員が正気に帰って異常事態に対応しようとした瞬間、更なる異変が起きた。

周囲が夜になったのだ。完全に太陽が消え、暗い空には星も見えない。

「―――違う、あれは空じゃない」

誰かが呟き、その一瞬後にはそれが証明された。

太陽を覆っていた、巨大な斧とも槌とも言えるものが振り下ろされた。

同時に、天空から無数の光の束が落ちる。それは、海面に触れると同時に海を蒸発させた。


14 名前:プロローグ :2007/10/14(日) 21:53:41.74 ID:NkwoDlTp0

デミタスは、迫る『なにか』と熱戦に触れて消滅していく兵器を見ながら、呆然と呟いた。

(;´・_ゝ・`)「こんな、馬鹿な、ことが――――」


戦場の周囲50km四方が、巨大な『なにか』に押しつぶされる。

その場にいたものは全員死に、『なにか』が起こした衝撃は津波を、地震を、噴火を生み、地球の表面を舐め尽して削り砕いた。

宇宙から誤作動により放たれた衛星レーザー砲は、地球全土に放射能と破壊を撒き散らす。

死者は70億人。その日、当時の人口をおおよそ90パーセントを、人類は一日で失った―――。

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