285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 23:21:29.44 ID:oCXz0maLO










          さんにんめ:へたくそな鏡











290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 23:35:56.93 ID:oCXz0maLO



 学校。お昼休み。

(;´・ω・`)「先生こっちこっち!」

(;^ω^)「もー何なんだおー」

 ショボンが先生の手を引っ張って走り、
 その後を、ツン達女の子が追い掛ける。

ξ゚听)ξ「何なの?」

(*゚ー゚)「鏡がどうこう言ってたよね」

('、`*川「割れちゃったとか?」

(;∴)「あわわ、ツン、もっとゆっくり走って」

 事の始まりはついさっき、教室でみんなと遊んでいたとき。
 トイレに行っていたショボンが何か叫びながら飛び込んできて、
 先生を引っ張っていってしまったのだ。

(;´・ω・`)「ここ! ここ!」

 どれくらい走ったか、目的地に到着したらしい。
 ――男子トイレだ。


292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 23:47:14.12 ID:oCXz0maLO

( ^ω^)「トイレの鏡がどうかしたのかお?」

(;´・ω・`)「いいから入ってよ!」

 ショボンにぐいぐい背中を押され、先生は転びそうになりながらも
 なんとかトイレの中に足を踏み入れる。

(*゚ー゚)「どうしよう」

ξ゚听)ξ「男子トイレに入るのはなー……」

('、`*川「いいじゃん、誰かが使ってるわけでもないし」

 ツンとしぃはちょっと躊躇っていたけれど、ペニサスが堂々と入っていくと、
 2人も後に続いた。



 ショボンは、一つの鏡の前で立ち止まった。
 至って普通の鏡に見えるけど。

(;´・ω・`)「……ほら、見て」

 少し震える手で、鏡に指を向ける。
 みんな覗き込み――先生が、情けない悲鳴みたいな声をあげた。

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/14(火) 23:54:59.29 ID:oCXz0maLO


(;´・ω・`)  |(`・ω・´)|


 鏡に映るショボンの顔が、少しだけ違う。
 ショボンだけじゃない。

(;^ω^) |( ^^ω)|

 先生も、

ξ゚听)ξ |ζ(゚、゚*ζ|

 ツンも、

(*゚ー゚)  | (゚∀゚*) |

 しぃも、

|o川*゚ー゚)o| ('、`*川

 ペニサスもだ。
 ペニサスに至っては、完全に別人じゃないか。

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 00:10:51.32 ID:JrjYigTBO


( ∴)  |(∵ )  |


 僕の顔も違う。
 上下逆さまになっちゃってる。

(;´・ω・`)「ねっ?」

(;^ω^)「な……何なんだお、これ……」

 先生が鏡に手を触れた。軽く叩いてみる。
 こんこん、硬い音。

(;^ω^)「感触は、ただの鏡だお……」

 変なのは、そこに映るものだけ。

(;*゚ー゚)「なんか気味悪い……」

ξ゚听)ξ「面白いと思うけどなあ」

('、`*川「うんうん」


312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 00:22:56.37 ID:JrjYigTBO

 そのとき、チャイムが鳴った。
 午後の授業が始まる。

(;^ω^)「あー……とりあえず授業だお、みんな教室に戻った戻ったー」

(;´・ω・`)「えー」

 先生がみんなをトイレの外に出す。
 僕は、ツンにお願いをした。

( ∴)「ツン、僕、ここに残っていい?」

ξ゚听)ξ「ん、いいよ」

 ツンは頷き、もう一度トイレに戻ると、
 僕をあの鏡の前にある洗面台に乗せてくれた。

( ∴)「ありがとう」

ξ゚听)ξ「どーいたしまして!」

( ^ω^)「ツンー、早くするおー」

ξ゚听)ξ「はーい! ……じゃ、ゼア、行ってきます」

( ∴)「行ってらっしゃい」

 手を振り合う。みんながいなくなって、僕は一人ぼっちになった。
314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 00:35:05.99 ID:JrjYigTBO

( ∴)  |(∵ )  |

 鏡の中の僕は、やっぱり逆さまだ。

( ∴)「ねえ」

 声をかけてみる。

( ∴)「ねえ……君」

 返事は無い。
 ちょっぴり変な鏡ってだけ?

|(∵ )  |

( ∴)

|(∵ )ノシ |

( ∴)「!!」

 手、振った。


318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 00:54:08.08 ID:JrjYigTBO

( ∴)「君、ただの鏡じゃないんだね」

|(∵ )  |「……うん」

 喋った。

( ∴)「名前は?」

|(∵ )  |「ビコーズ」

( ∴)「ビコーズ?」

 名前、ちゃんとあるんだ。

( ∴)「ビコーズは前から鏡だったの?」

|(∵ )  |「違う」

( ∴)「……?」

 どういうことかと首を捻っていると、
 ビコーズは、鏡の中からこっちに手を伸ばしてきた。

( ∴)「あ」

 その手が、鏡面を突き抜ける。


321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 01:16:44.74 ID:JrjYigTBO

(;∴)「わ、わ」

 鏡の中から外へ、どんどん腕が伸びてくる。
 肩から先が、全てこっち側に現れたところで、ビコーズは動きを止めた。

 ちょっと、間を空けて。

(∵ )「えいっ」

 一気に、体全体を傾けてきた――



( ∴)「……あれ?」


 ――その一瞬の直後。
 ビコーズが、見当たらなくなってしまった。

 鏡にも、こっちにも、どこにもいない。

( ∴)「ビコーズ?」

   「――僕には、体が無いんだ」

(;∴)「わっ」

 かと思えば、すぐ傍でビコーズの声がした。
 びっくりして、体が跳ねてしまう。
325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 01:31:18.41 ID:JrjYigTBO

(;∴)「ビコーズ、どこ?」

   「君の隣」

(;∴)「見えないよ」

   「そういうもんなの。僕には顔も体も無いから」

 そういうもんらしい。

( ∴)「それは、鏡と何か関係があるの?」

 訊きながら鏡を見ると、正しい向きの僕がいた。
 ビコーズがいなくなると、鏡は元に戻るみたいだ。

   「――僕、体が欲しいの」

( ∴)「体?」

   「昔、土で体を作ろうとしたけど、僕は不器用だから、出来なくてね」

( ∴)「……うん」


328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 01:40:31.96 ID:JrjYigTBO

   「だから、昨日、鏡の中に入ったの。
    そうすれば、鏡の前に立った人の姿を借りられるかと思って」

( ∴)「……ちょっと、見た目が違うけどね」

   「……不器用なんだもん」

( ∴)「それで、その作戦、上手くいってる?」

   「あんまり」

( ∴)「あんまり?」

   「さっき気付いたけど、みんな手を洗ったらさっさと出ていっちゃうから、
    ほんのちょっとの時間しか体を借りられないんだ」

( ∴)「……」

   「……不器用なんだもん」

 それは不器用というより、
 ちょっと頭が良くないだけじゃないだろうか。


334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 01:49:11.07 ID:JrjYigTBO

( ∴)「どうするの? これからも鏡に居るの?」

   「いい方法が浮かぶまでは、ここに居ようかな」

( ∴)「ん、頑張って」

   「頑張るよ」

 鏡の中の僕が、また逆さまになった。

|(∵ )  |「お話、聞いてくれてありがとう」

( ∴)「どういたしまして」










*****


339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 02:13:30.73 ID:JrjYigTBO


 次の日、例の鏡に生徒達が群がっていた。
 違う姿が映るのが面白いんだろう。

 怖がる子もいたけれど、殆どの生徒はけらけら笑っていた。
 この学校どうなってるんだ。

( ^ω^)「やべえwww改めて見ると何だこれwwwww顔面崩壊wwwww」

 中でも、先生が一番はしゃいでいる。
 見てるこっちが恥ずかしい。

ξ゚听)ξ「あれ、ビコーズだっけ?」

( ∴)「うん」

(´・ω・`)「いっぱい人が来たから喜んでるかもね」

 ツン達には、ビコーズのことを話しておいた。
 ショボンの言う通りに、喜んでるのかな。だといいんだけど。

('、`*川「……うーん」

( ∴)「どうしたの?」

('、`*川「……何でもないけど」

 難しい顔をして、ペニサスが唸る。
 何なんだろう?
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 02:32:55.66 ID:JrjYigTBO



('、`*川「あんまり、ビコーズに近付かない方がいいかもしんないね」

 教室に行くなり、ペニサスがそう言った。

(*゚ー゚)「え?」

( ∴)「どうして?」

 昨日はペニサスも面白がってたのに。

('、`*川「ビコーズは、物に取り憑けるんだよ。
     いつか、誰かの体を乗っ取っちゃうかもしれない」

(;´・ω・`)「……こわい」

('、`*川「『かもしれない』、だからね。絶対ってわけじゃないよ」

( ∴)「……」

 そっか。土で体を作ろうとしたってことは、
 体さえあれば、それを操れるようになるってことだ。


348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 04:33:52.92 ID:JrjYigTBO

( ∴)「……でも、そんなこと、するように思えないよ」

('、`*川「そう?」

( ∴)「うん」

('、`*川「んー……」

 ビコーズは、そんなのしない、と、思いたい。
 ……しないよね。





*****


|(∵ )  |「こんにちは、今日も来たんだ」

 みんなは授業を受けてる時間。
 僕は、昨日のように、ビコーズの所に行った。
 自力で洗面台に上るのにはなかなか苦労した。

( ∴)「こんにちは。ビコーズ、体が欲しい?」

 挨拶もそこそこに、直球で訊ねてみる。



349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 04:38:18.03 ID:JrjYigTBO

|(∵ )  |「急だね」

( ∴)「気になるから」

|(∵ )  |「……欲しいよ」

( ∴)「じゃあ、誰かの体を欲しがったりする?」

|(∵ )  |「?」

( ∴)「……人の体を、奪おうって、思う?」

|(∵ )  |「……」

( ∴)「……」

|(∵ )  |「そっか」

|(∵ )  |「そういう方法も、あるね」

( ∴)「……ビコーズ」

|(∵ )  |「自分で体を作る必要も無いし、こんな鏡に居なくてもいいね、それなら」



350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:00:15.34 ID:JrjYigTBO

|(∵ )  |「でも、しないよ」

( ∴)

|(∵ )  |「それじゃあ、体の持ち主が可哀相じゃない」

( ∴)「……そっか」

|(∵ )  |「だから、しない」

( ∴)「……ビコーズがいい人で、良かった」

|(∵ )  |「えへへ」










*****




351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:07:26.87 ID:JrjYigTBO


 ――次の日。

 ビコーズは、鏡の中から消えていた。


|(∴ )  |

( ∴)

|(∴ )  |

( ∴)「……ビコーズ?」

|(∴ )  |

 鏡に映る僕は、顔が、ちゃんと正しい向きになっている。
 僕が手を挙げれば、鏡の僕もしっかり手を挙げる。

 話し掛けても、答えてくれない。


 ビコーズが、いない。



353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:30:28.96 ID:JrjYigTBO





ξ゚听)ξ「いなくなっちゃったの?」

(;∴)「うん」

 教室に戻って、ツンにビコーズが消えたことを伝えた。
 授業中だったけど、気にしない。

(;´・ω・`)「……誰かの体に入っちゃったのかな」

(;^ω^)「え!? 何!? 入るって何!?」

(;*゚ー゚)「そ、そうなの? ペニサス」

('、`*川「私には分かんないよ」

ξ゚听)ξ「……ゼア、どうする?」

( ∴)「……どうしよう」

 探したいけど、ビコーズは姿が見えない。
 誰かの中に入ってるとしても、そんなの調べようもない。

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:40:08.37 ID:JrjYigTBO

ξ゚听)ξ「……せんせー」

(;^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「私、ちょっと、ゼアと一緒にビコーズ探してくる」

(;^ω^)「授業中だお!?」

ξ゚ -゚)ξ「行くったら行くの!!」

 僕を抱えて、ツンは教室を飛び出した。
 後ろから先生の声がしても、止まらなかった。



*****


爪'ー`)y‐「……で、何で俺のところに来んの」

 校舎の裏、端っこ。
 僕とツンは、祠の前にやって来た。

 この間まで雑草だらけだった一帯は、すっかり綺麗になっている。
 祠を直した後、先生が、他の教師達に祠の存在を教えてあげたのだとか。

 今じゃ、教師と生徒が交代で祠のお手入れをしている。



356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 05:53:21.49 ID:JrjYigTBO

 その祠の上に、フォックスは座っていた。
 初めて、泣いてない彼を見た気がする。

 小さな祠なのに、大人――の姿――のフォックスが座ってもびくともしない。
 丈夫、というより、フォックスの方に何かあるのかな。
 たとえばとても軽いとか。神様だし。本体は小さな木彫りの狐だし。

( ∴)「フォックスなら、何か分かるかなって思った。神様だから」

爪'ー`)y‐「安易な理由だなあ」
 _,、_
ξ゚听)ξ「……たばこ、けむい」

 ツンが顔を顰める。
 ――フォックスは、何故か煙草を吸っていた。

( ∴)「それ、どうしたの?」

爪'ー`)y‐「お供えされてた。美味い」

 ぷかぷか、煙を浮かべるフォックスは、本当に嬉しそうだ。

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 06:09:34.69 ID:JrjYigTBO
 _,、_
ξ゚听)ξ「むううう」

 ツンが、ぱたぱた手を振って煙を散らす。
 煙草、嫌いなんだなあ。

爪'ー`)y‐「――ま、お前らには世話になったし。
      助けてやらないこともないよ」

( ∴)「本当?」

爪'ー`)y‐「ああ」

 祠の上で立ち上がり、フォックスは、辺りをきょろきょろ見渡した。
 そして、飛び下りる。
 音も立てず、僕らの隣に着地した。

爪'ー`)y‐

 すう、と、煙草を一気に吸い込む。

 ――そのまま、斜め上を見上げ、煙を吹き出した。



361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 06:24:03.71 ID:JrjYigTBO

( ∴)「――おお」

ξ゚听)ξ「おー!」

 煙は空気に溶けることなく、するする、紐が風に吹かれるように流れていった。

爪'ー`)y‐「ほら」

 フォックスが、煙の向かう方向に顎をしゃくる。
 追い掛けろってことかな?

( ∴)「ツン」

ξ゚听)ξ「うん」

 ツンも分かったようで、僕を抱えたまま駆け出した。
 ありがとう、と声を張り上げると、
 おう、というフォックスの返事が微かに届いた。



*****


363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 06:34:18.71 ID:JrjYigTBO



 ――煙は、校庭の隅っこに来ると、ふんわりと渦を描き始めた。
 何かを包むみたいに。

 すると、煙の中から、けほけほ、咳込む声がした。

( ∴)「……ビコーズ?」

 呼び掛ける。
 途端に煙は霧散し、そこには何も無くなった。
 いや、無くなったように見えるだけで、
 ちゃんとビコーズがいる。

   「――……見付かっちゃった」

 どこかしょんぼりした様子で、ビコーズが言う。
 ツンが、「ほんとにいた」と呟いた。


365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 06:47:05.84 ID:JrjYigTBO

( ∴)「逃げないでね」

 念のため、ビコーズに釘をさす。
 逃げられたら、またフォックスのところに戻ってお願いしなきゃいけない。

   「……うん」

( ∴)「じゃあ、訊いていい?」

   「いいよ」

( ∴)「――どうして、鏡から消えちゃったの?」

 問い掛ける。
 返事が、なかなか来ない。
 沈黙。

( ∴)「……ビコーズ、いる?」

 僕らには、ビコーズが見えない。
 だから逃げられても分からない。

 ちょっと、不安になった。

   「いるよ」

 ほっ、と、僕とツンが同時に息をついた。



366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 07:01:53.72 ID:JrjYigTBO

 また、少し沈黙が流れて。


   「……恐くなった」


 ぽつり、言葉が落ちた。


   「君から、誰かの体を奪うかって訊かれたとき、
    僕は初めてその方法に気付いた」


   「でも、昨日言った通り、そんなことしたら相手が可哀相だ」


   「だから、やっちゃいけないでしょ。
    分かってるよ。駄目だって」


   「……分かってるけど……」



369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 07:08:54.10 ID:JrjYigTBO


   「考えれば考えるほど、魅力的に思えるんだ」


   「どんな人を狙えばバレにくいかなんてことさえ、考え始めた」


   「……恐くなった。本当に実行しちゃいそうで」


   「あのまま鏡にいたら、誰かが鏡の前に立ったとき、
    その人の体に入り込んでしまいそうで」


( ∴)「……それで、鏡から離れたの?」


   「……うん」



370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 07:24:44.85 ID:JrjYigTBO

( ∴)「……ごめんね。僕が余計なこと言ったから」

   「ううん。どうせ……いつか、同じことを思いついてたよ、きっと」

ξ゚听)ξ「……ねえねえ」

 不意に、ツンが僕の頭を指先でつついた。

( ∴)「なあに?」

ξ゚听)ξ「体、作ってあげようよ」

( ∴)「……どうやって?」

ξ゚听)ξ「分かんないけど」

( ∴)「……」


*****


 というわけで。

爪'ー`)y‐「また来たのかよ」

 今度はビコーズを連れて、再びフォックスのもとを訪れた。


373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 07:42:54.39 ID:JrjYigTBO

爪'ー`)y‐「体ねえ……」

 煙草を咥えて、フォックスは考え込む。
 ちらちら視線を僕らの後ろに向けるが、もしかしてビコーズが見えるのだろうか。

 気になったので訊いてみるが、「居るのが分かるだけだ」と返された。
 それも充分凄いけど。



 ――しばらく経って。

 フォックスは、ぽんと手を叩いた。

爪'ー`)「ちょっと、こっち来い。ビコーズとかいうの」

 煙草を指で弾く。
 地面に落ちる前に、煙草は跡形もなく消えた。

   「……どうするの?」

爪'ー`)「そこに座れ」

 祠の下を指差して、フォックスは言う。

 フォックスの目が、上から下へゆっくり移動したところを見ると、
 ビコーズは言われた通りに座ったようだ。


375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 08:04:52.95 ID:JrjYigTBO

爪'ー`)「どんな姿になりたいのか、強く思い浮かべろよ」

 ビコーズが居るであろう場所に掌を翳し、フォックスは目を閉じる。

 ――そのとき、土が、僅かに盛り上がった。

 上に向かって形を変えていく土。

ξ゚听)ξ「……あれって」

 徐々に出来上がるそれを見て、ツンはぽかんと口を開けた。


( )

( .)


 小さな、人間を簡略化したような形。
 ぽつんと穴があく。

 見覚えがある。

 あれは――

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 08:23:02.07 ID:JrjYigTBO


( ∵)


 僕を映したときの、ビコーズの姿。

 大きさも、僕と同じくらい。

爪'ー`)「……何だ、そんなのでいいのか」

( ∵)「これがいいんだ」

 ビコーズは、茶色い両手を見比べる。
 彼の頭のてっぺんをフォックスが叩くと、
 ビコーズの体が薄い黄色に変わった。
 綺麗な色だ。

爪'ー`)「俺の家の下にある土だからな、ちょっとやそっとじゃ壊れないし、
     水に濡れてもへっちゃらだ」

( ∵)「……ありがとう」

爪'ー`)「ふん」



378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 08:32:27.04 ID:JrjYigTBO

( ∵)「……みんな、ありがとう……」

( ∴)「ううん。――良かったね、ビコーズ」

( ∵)「うん。……うん……」

ξ*゚听)ξ「ゼアが増えたみたい!」

 ツンが、ビコーズと僕をまとめて抱きしめる。
 何度も頬擦りを繰り返し、
 _,、_
ξ゚听)ξ「……ビコ、柔らかくない」

 不満そうな顔をした。

爪'ー`)「そりゃあ土を固めて出来てるからな」

ξ゚听)ξ「あっ」

 ツンの手からビコーズを奪い、フォックスはビコーズを肩に乗せた。

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 08:41:41.14 ID:JrjYigTBO

爪'ー`)「俺が作ってやったんだ。
     礼代わりに、しばらく俺と一緒に居てもらうぜ。
     ここ、祠の手入れ以外にゃ滅多に人が来ないから、退屈なのさ」

( ∵)「うん。……僕も、1人じゃ寂しいから、是非」

爪;ー;) ブワッ

( ∴)「あーあ」

 せっかく、今日は全く泣かなかったのに。

(;∵)「な、何、何なの?」

( ∴)「泣き虫なだけ」

爪;ー;)「やっと一人ぼっちから解放された……」

(;∵)「そんなことで泣いてるの……よしよし」

 そのとき、チャイムが鳴った。たしか、これから給食の時間だ。

ξ゚听)ξ「あっ、ゼア、戻ろう! フォックス、ビコ、またね!」

( ∴)「またねー」

 ツンが走り出した。
 落とされないように踏ん張りながら、僕は2人に向かって手を振る。
382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/15(水) 08:46:49.24 ID:JrjYigTBO

 ビコーズは、まるでそう出来るのが嬉しくて堪らないかのように、ぶんぶん手を振った。


 へたくそな鏡は、自分の体を手に入れられたのだ。










*****




戻る

inserted by FC2 system