- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:08:51.04 ID:r6iRxxRh0
- 「さあ、さあ、わが友よ!」
ボロミアが前より優しい声で言いました。
「なぜそれを厄介払いせんのかね? なぜ疑念や恐怖から自由にならんのかね?
よければ、わたしのせいにしたっていい。わたしの力が強くって無理矢理取られてしまったといえばいい。
なぜって、わたしはお前のような小さい奴なんか敵いっこないほど強いんだからな。」
J・R・R・トールキン/指輪物語 「旅の仲間」より
- 3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:10:46.15 ID:r6iRxxRh0
第四話 「黄昏る街」―前編―
- 4
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:12:57.57 ID:r6iRxxRh0
- 盗賊の襲撃から三日が経ち、三人の旅の仲間は白の丘陵を越えました。
怪我をしたジョルジュとモララーのこともあって、その道程は実に慎重なものでした。
途中で亜獣を見かけたときは、遠くへ行ってしまうまで隠れてやり過ごし、夜はジョルジュが遅くまで火を焚き、番をしてくれました。
(;^ω^)「ジョルジュ、具合が悪そうだお・・・少し休んだほうがいいお」
顔色の悪いジョルジュを心配して、ブーンが聞きました。
_
(;゚∀゚)「心配はいらねえよ。ありがとうな、ブーン」
そう言いながらも、ジョルジュは辛そうに足を運んでいます。
ブーンが心配するのも、もっともなことでした。
夜、見張りのために眠れないジョルジュは、昼の休憩のときにだけ少し眠り、はっと目を覚ましてまた歩きだす、というのを繰り返していました。
肩に負った怪我も、まだ治っていないようでした。
その疲労と痛みに耐えながら旅をすることは、どんなに強い大人でも大変なことだったのです。
(;^ω^)「でも・・・」
( ・∀・)「休んでる暇なんてないんだよ。村を出て、もう何日経ったと思ってるんだ」
食い下がるブーンに、モララーが口を挟みました。
( ・∀・)「『ドラゴンの眼』を盗んだ亜獣の手がかりは、まだ何もないんだ。一日でも早く目的地に行かなきゃならない。
手がかりを得るためにな」
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:16:04.33 ID:r6iRxxRh0
- ( ・∀・)「口じゃなくて足を動かせ。ブタの不快な声は、できるだけ聞きたくないんだよ」
( ^ω^)「・・・」
_
( ゚∀゚)「大丈夫だ、ブーン。もうそろそろ街に着く。今夜は暖かいベッドで眠れるぜ」
( ^ω^)「・・・分かったお」
彼らは大陸の西へ向かって、歩き続けました。
背後には緑の山脈が遠くそびえ、ブーンとモララーの故郷を覆い隠しています。
進んでいくにつれ、道は固く、しっかりとしたものになっていきました。
それは広い大地の上を延々と伸び、曲がりくねって地平線の向こうに続いていきます。
時々、行商人や他の旅人達とすれ違うこともありました。
_
( ゚∀゚)「もし、そこの旅の方」
[`@ - @]「なんだい?」
_
( ゚∀゚)「聞きたいことがあるんだが」
少しでも『ドラゴンの眼』に近付くために、ジョルジュは道中で人に出会う都度、彼らに話しかけました。
_
( ゚∀゚)「最近、何か変わったものを見なかったか?」
[`@ - @]「ふうむ・・・どうだろうな」
_
( ゚∀゚)「珍しい宝の噂とか、見たことのない亜獣がいたとか」
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:18:30.95 ID:r6iRxxRh0
- [`@ - @]「・・・」
[`@ - @]「残念だけど、私には分からんな」
しかし、価値のある情報を得ることはなかなかできませんでした。
勢いのない答えを聞くたび、三人は肩を落とし、重い体を引きずって歩き始めるのでした。
[`@ - @]「ああ・・・そうそう」
[`@ - @]「近頃、王都の動きが活発になってきているそうだ。騎士団が、いつにも増して目と剣を光らせていると。
あちこちの街や村に師団を引き連れ、金持ちの邸宅をあら探ししているらしい」
_
( ゚∀゚)「ほう・・・」
[`@ - @]「目を付けられないよう、気をつけたほうがいい。亜獣が大人しくなったと思ったら、今度は騎士団だ。
争いが少なくなってきた今、力を持て余しているんだろうよ・・・」
( ・∀・)「・・・」
_
( ゚∀゚)「そうか・・・実のある話をありがとう、旅の方。あなたの旅が無事であるように」
[`@ - @]「ああ、お互いに・・・」
別れ際、その旅人はジョルジュに聞きました。
[`@ - @]「しかし、珍しいな・・・子連れで長旅かい?」
_
( ゚∀゚)「・・・まあ、な」
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:20:46.73 ID:r6iRxxRh0
- 時刻は正午を過ぎ、彼らは少しばかり休憩をとりました。
太い幹と長い枝を持った樹に背を預け、ブーンは重い荷物を地面に降ろしました。
(;^ω^)「疲れた・・・脚が棒のようだお」
( ・∀・)「おいブタ。言っとくが、地図を確認したらすぐに行くんだからな。
眠ったりしたら、置いてくぞ」
(#^ω^)「わ、わかってるお!僕だって、今の状況をちゃんと把握してるんだお!」
( ・∀・)「ふん、どうかな。ブタの言葉を信じるのは難しいぜ?」
_
( ゚∀゚)「おい、二人とも。ちょっとこっちこい」
地図を片手に手招きするジョルジュに、ブーンとモララーは互いに睨み合いながら近づきました。
_
( ゚∀゚)「なんだお前ら、また喧嘩してんのか。飽きないねえ」
(#^ω^)「モララーが悪いんだお」
( ・∀・)「ブタがムカつくんだ」
_
( ゚∀゚)「そうかそうか・・・それより」
_
( ゚∀゚)「さっきの旅人の話、どう思う?」
( ^ω^)「何がだお?」
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:24:07.82 ID:r6iRxxRh0
- ( ・∀・)「亜獣の鎮静化と、騎士団の活性化、だろ」
_
( ゚∀゚)「そう。その二つに、何か関係があると思うか?」
ブーンはいつも通り、何も分かっていないようでした。
しかし、モララーは頬に手をあて、視線を地面に落としながら言いました。
( ・∀・)「騎士団が亜獣を制圧しているのかもしれないな・・・だが、今まで騎士団はそんなことはしなかった。
亜獣の存在は害悪なだけじゃあないからな」
( ^ω^)「そうなのかお?」
_
( ゚∀゚)「ああ、亜獣の骨や毛皮は強くてしなりがある。良質な素材なんだ。
そして人間たちに適度な恐怖と警戒心を与え、団結力というものを高めてくれる。
亜獣ってのは、この世界になくてはならない存在なのさ」
( ^ω^)「ほーう」
( ・∀・)「しかし・・・騎士団が金持ちの家を荒らす理由も分からないな」
ジョルジュは自分の荷物の中を探りながら言います。
_
( ゚∀゚)「まあ、今は『眼』を探すことだな。騎士団なんかほっとけばいい。
奴らは王都の権力にしがみつく、ただの高慢チキさ。相手にすることはない」
ブーンはその言葉を聞いて、少し腹が立ちました。
ジョルジュが仲間になる前に、旅で最初に出会った王都の騎士であるギコを、悪く言われた気がしたからです。
ギコはブーンとモララーの命を救い、迷っていた二人を導いてくれた恩人なのです。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:27:06.14 ID:r6iRxxRh0
- ( ・∀・)「いいか、ブタ」
(;^ω^)「おうっ!?」
文句を言おうと口を開きかけたブーンの襟首を引き寄せ、モララーが囁きかけました。
( ・∀・)「ギコの話は、ジョルジュにはするな」
(;^ω^)「な、なんでだお?」
( ・∀・)「ジョルジュは盗人。ギコは騎士」
( ^ω^)「お・・・」
( ・∀・)「はぐれ者のジョルジュは、王に仕える騎士をよく思ってない。
正直言って、俺もそうだ。主人の命令に尻尾を振って従うなんて、犬畜生のやることだからな」
(#^ω^)「でも、ギコはいい人だったお!」
( ・∀・)「大きな声出すな。ブタには分からないかもしれないが、大人の事情ってのがあるんだよ。
俺たちが『騎士の白馬に乗ったことがある』なんて言ったら、ジョルジュの奴、旅の仲間をやめるかもしれないだろ」
( ・∀・)「今は、あの盗人の力が必要なんだ・・・分かったか?」
( ^ω^)「・・・分かったお」
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:29:18.79 ID:r6iRxxRh0
_
( ゚∀゚)「おい、お前ら」
ひそひそと話をしていた二人に、ジョルジュは呼びかけました。
彼はすでに立ちあがって、人一倍大きな荷物を背負っていました。
_
( ゚∀゚)「お前らの荷物を、少し俺のほうに移しておいた。これで前よりも早く旅を進められるぜ」
(;^ω^)「だ、大丈夫なのかお?」
_
( ゚∀゚)「おうとも。大人の体力をなめんなよ。それと、ほら、これ」
( ^ω^)「おっ!?」
ジョルジュが放り投げた二つの干し肉の片方を受け取り、ブーンは驚きの声を上げました。
_
( ゚∀゚)「食っとけよ。足りねえかもしれねえが」
(* ^ω^)「まだ肉あったのかお?」
_
( ゚∀゚)「これが最後だ。今日中に街に着くからな。食糧の心配はねえよ」
ブーンは嬉々として口の中に干し肉を詰め込みました。
しかしモララーは、受け取った干し肉をじっと見つめ、それからジョルジュに聞きました。
( ・∀・)「・・・お前は食ったのか?」
_
( ゚∀゚)「ああ、もう食ったよ。腹一杯だ。さあ、行くぞ!」
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:31:57.07 ID:r6iRxxRh0
- しかしモララーは、盗人の嘘をすぐに見破りました。
ここ数日、ジョルジュが食べ物を口にしたところを、彼は見たことがありませんでした。
( ・∀・)「・・・ふん」
干し肉を口の中に放り込み、モララーは歩き出したブーンとジョルジュのあとを追いました。
西の太陽が赤く染まり、東の空が藍色に沈んでいく頃。
( ^ω^)「お・・・?」
彼らの視界の向こうに、妙なものが見えてきました。
( ^ω^)「人・・・かお?」
太陽の逆光を浴び、俯いて座っている人がいるのです。
ブーンが特に奇妙に思ったのは、その人が、近づくにつれてどんどん大きくなっていくことでした。
_
( ゚∀゚)「着いたな・・・」
( ^ω^)「ジョルジュ・・・これは」
_
( ゚∀゚)「黄昏る街。お前が人だと思ったのは、岩だ。街の真ん中に聳える、『黄昏る岩』。
遠くから見ると確かに、俯いて物思いにふける人に見える。面白いだろ?」
- 16
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:34:32.73 ID:r6iRxxRh0
- ( ・∀・)「まあ、あれを人と見間違えるようなバカはお前くらいだがな。なあバカ?」
(#^ω^)「バカって言うなお!」
( ・∀・)「いちいち声がでかいんだよ、この腐った糞」
(#;ω;)「ジョルジュ!モララーがいじめるお!」
( ・∀・)「ほーら、すぐ人に頼る。お前は典型的な弱虫だな」
(#;ω;)「おっ!」
_
( ゚∀゚)「ははっ!元気だなあ、お前らは。いいかクソガキ共、騒いで迷子になるなよ」
門をくぐり、一行は街の中へと入っていきました。
街に入った彼らの前には、大通りが続いています。
煉瓦造りの建物が立ち並び、道が交錯し、人々が行き交っていました。
老人や若者、子供や赤ん坊、男や女。
様々な人間がその街には溢れています。
_
( ゚∀゚)「ほら、あれが『黄昏る岩』の根元だ」
彼らの数メートル先に、大きな一枚岩が立ちつくしていました。
それはあまりに巨大で、見上げる空を埋め尽くすほどでした。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:37:02.55 ID:r6iRxxRh0
- (;^ω^)「すごく・・・おおきいです・・・」
( ・∀・)「へえ、話には聞いていたが・・・これはなかなか」
_
( ゚∀゚)「すごいだろ?」
ブーンはそこで、あるものに気がつきました。
( ^ω^)「お?ジョルジュ、あそこに立っているのは・・・」
( 十)
_
( ゚∀゚)「ああ、警備の騎士だ。この岩によじ登ろうとするイカれた人間の首を、自慢の剣で刎ねるために見張ってるのさ」
彼らの視線の先に、重々しい雰囲気の騎士が立っていました。
常に視線を左右に動かし、道行く人々を睨みつけています。
_
( ゚∀゚)「さて、宿屋を探すか。この岩は、この街のどこにいても見えるからな。もういいだろ」
( ^ω^)「おっ」
三人は『黄昏る岩』に背を向け、宿屋へ向かいました。
夕暮れの空は赤く、ピンク色に染まった雲が、岩の頭の上に、帽子のように漂っていました。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:39:53.72 ID:r6iRxxRh0
- 宿屋に入り、部屋を二つとったあと、ジョルジュはブーンとモララーに言いました。
_
( ゚∀゚)「俺は少し外に出てくる。お前らはもう部屋で寝ろ。二人とも同じ部屋だが、喧嘩するなよ」
( ^ω^)「ジョルジュはどこに行くんだお?」
_
( ゚∀゚)「俺か?そりゃあ、決まってんだろ」
( ^ω^)「?」
_
( ゚∀゚)「浪漫を探しに行くのさ」
( ^ω^)「・・・」
ジョルジュが宿屋を出て行ったころには、もう外には夜の帳が下りていました。
宿の外からは、虫の声や人の声、足音や物音がひっきりなしに聞こえてきます。
(;^ω^)「・・・」
(;^ω^)「うるさくて眠れやしないお・・・」
( ・∀・)「でかい街だからな。それだけ栄えているということだ」
ベッドで横になって眠る努力をしているブーンを尻目に、モララーは何やら部屋の隅で荷物を探っていました。
( ^ω^)「モララー、何してるんだお?」
( ・∀・)「おいブタ」
- 19
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:41:55.87 ID:r6iRxxRh0
- ( ^ω^)「・・・なんだお?」
腰にナイフをくくり付け、お金の入った袋を手に持って立ち上がったモララー。
それを見て、ブーンは苦々しい表情を隠せませんでした。
( ・∀・)「外に行くぞ。ついてこい」
夜の街というのは、子供にとって、妙にわくわくとしてしまう場所でもあります。
嫌々ながらモララーに連れられて街の中を歩くブーンでしたが、赤々と光る街灯やお店の窓、囁き合いながら固まっている若者たち、建物の狭間に続く細い路地。
それらの見慣れない光景に心躍らせているのも事実でした。
( ^ω^)「ところで、どこに行くんだお?」
ブーンは頭を四方八方に動かしながらモララーに聞きました。
( ・∀・)「情報収集だ。栄えている街には、いろんな人間が集まってくるからな。情報量も多い」
( ^ω^)「明日でもいいんじゃないかお?なにも夜に聞き込みなんかしなくても・・・」
( ・∀・)「俺たちが求める情報は、アンダーグラウンドなものだ」
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「こういう時間帯のほうが、情報を持ってるやつが多く集まる。あまり公にできない情報を。まあ、リスクは高まるけどな」
( ^ω^)「ふーん」
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:44:21.36 ID:r6iRxxRh0
- 亜獣用の武器や防具を売る店。王都で流行している洒落た服を売る店。子供なら誰もが目を光らせて覗きこんでしまう玩具を売る店。
ブーンはそれらの輝かしい建物から無理やり視線を引き剥がし、前を歩くモララーについていきます。
( ・∀・)「・・・」
( ^ω^)「・・・」
( ^ω^)「ギコは・・・」
( ・∀・)「分かってるよ。俺は騎士は嫌いだが、ギコは気に入っている。だが、仕方がないんだ」
( ^ω^)「・・・」
( ・∀・)「できることなら、ギコにも旅を共にしてもらいたかった。そう思ってるのは、お前だけじゃない」
モララーは前を向いたまま言います。
( ・∀・)「仲間ってのは、道具と同じだ。使えないより、使える方がいいからな」
( ^ω^)「そんな言い方って・・・ないお」
( ・∀・)「使えなくなったら切り捨てる。足りなくなったら補充する。仲間ってのは・・・」
( ・∀・)「道具と、同じなのさ」
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:47:31.44 ID:r6iRxxRh0
- ( ^ω^)「・・・それなら、仲間じゃなくて」
( ^ω^)「僕は、友達の方が・・・ほしいお」
( ・∀・)「・・・」
( ・∀・)「・・・けっ」
しばらくの間、言葉もなく、二人は黙々と黄昏る街を歩きました。
二人は路地に入りました。
煤けた煉瓦の壁の間を歩き、より光の届かない場所へと進んでいきます。
臆病者のブーンはモララーのあとをビクビクしながら追い、時々後ろを振り返ります。
(;^ω^)「モララー・・・」
( ・∀・)「・・・」
(;^ω^)「誰か・・・いるお」
( ・∀・)「・・・」
(;^ω^)「僕らの後ろを・・・ついてきてるお」
( ・∀・)「・・・何人だ?」
(;^ω^)「たぶん、一人だお・・・どうするんだお?」
( ・∀・)「・・・ふん」
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:51:46.57 ID:r6iRxxRh0
- 鼻を鳴らして、モララーは立ち止まります。
彼の視線の先で、二つの影が動きました。
それはゆっくりと立ち上がり、ブーンとモララーの方へ向かってきます。
モララーはナイフの柄に手をやり、ブーンは後ろからついてくるもう一つの影に、身構えました。
「おまえら、よそ者でちね?」
「田舎者が、私たちの縄張りを荒すなよ」
モララーの前を遮る二つの影が、言いました。
どちらも高い声で、敵意に満ちていました。
「持ってるもの全部置いて、今すぐこの街から出ていくなら、命だけは助けてやるでち」
「きゃははは」
やがて月明かりに照らされて現れたのは、二人の子供でした。
(,,・д・)「さあ、さっさと素っ裸になるでち」
(*゚听)「私たちに逆らうと、大変なことになるよ」
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:53:57.44 ID:r6iRxxRh0
- どうやら、この街に住む悪ガキ達のようです。
彼らは大抵、親を持たない子供たちの集まりで、どの街や村にもこういったグループは存在していました。
( ・∀・)「・・・」
(;^ω^)「モララー・・・」
早くも服を脱ごうとしているブーンをひと睨みし、モララーは口を開きました。
( ・∀・)「お前ら・・・」
(,,・д・)「ん?」
( ・∀・)「この俺に命令したな?この俺に」
( ・∀・)「ガキのくせに、脳無しのくせに。ムカつくな、お前ら」
ブーンは恐怖に震えました。
モララーが、今にもナイフを鞘から抜き出そうとしていたからです。
モララーなら、人殺しもやりかねない。
ブーンは本気でそう考えました。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 19:56:11.75 ID:r6iRxxRh0
- (,,・д・)「・・・今、こいつなんて言ったでち?」
(*゚听)「ガキとか、脳無しとか」
(,,・д・)「俺たちの恐ろしさを知らないようでち。さすが田舎者でち」
(*゚听)「きゃははは」
(;^ω^)「あ、あの・・・」
(,,・д・)「んん?」
(;^ω^)「それ以上は・・・やめたほうがいいお・・・」
(,,・д・)「なんでち?そのブタは。なんで人間の言葉がしゃべれるんでち?」
(*゚听)「ブタだって!だっせぇー!くっせぇー!きゃははは!」
その時、ブーンはカチリという音聞きました。
モララーが、ナイフの鞘のベルトを外した音でした。
(#・∀・)「ぶっ殺す」
(;^ω^)「モララー!」
(,,・д・)「ドクオ!」
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:00:04.26 ID:r6iRxxRh0
- ブーンのすぐ後ろにまで迫っていた、もう一つの影。
それは鞘に覆われたままの剣を振りかぶる、一人の子供でした。
(;゚ω゚)「!」
(#・∀・)「ブタ!伏せろ!」
ガチッと硬質な物質同士が衝突する音が、屈んだブーンの頭上で響きました。
モララーが、鞘を被ったままの魔法のナイフで剣を受け止めた音でした。
(;・∀・)「ぐっ・・・!」
('A`)「・・・」
(,,・д・)「ドクオ、そのまま田舎者をやっつけるでち!」
ドクオと呼ばれた少年は、頭を抱えて震えるブーンを飛び越え、モララーに更なる追撃をかけました。
気弱そうなその少年は、体格に似合わない長剣をまるで手足のように操り、モララーを追い詰めていきます。
なんとかナイフで剣をかわすモララーでしたが、圧倒的な剣技に押され、流れ落ちる汗を隠せませんでした。
(;・∀・)「うおっ、く、くそっ!」
('A`)「・・・」
(;・∀・)「こいつ・・・!」
- 30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:02:35.24 ID:r6iRxxRh0
- (,,・д・)「ほらほら、背中が隙だらけでち!」
モララーの後ろには、あの二人の子供が木剣を持って待ち構えていました。
三対一で挟み打ちの状況では、いくらモララーでもなす術がありません。
(;・∀・)「ぬあっ!」
とっさにしゃがんだモララーの頭上を、木剣が通り過ぎました。
それは勢いあまって壁に突き刺さり、モララーの頭に煉瓦の欠片をパラパラと降りかけました。
(;,,・д・)「く、くそっ!避けるんじゃないでち!」
(;・∀・)「黙れ!」
(*゚听)「えいやっ!」
もう一人の子供が放った突きが、モララーの脇腹をとらえました。
たまらずモララーは地面に膝をつきます。
(;・∀・)「うぐっ・・・!」
(,,・д・)「よし、ドクオ!トドメでち!」
少年の剣がモララーの真上にかかげられました。
痛みに動けないモララーは、それでも、俯けた顔をにやりと歪めました。
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:05:37.51 ID:r6iRxxRh0
- (; A )「うわっ!?」
ドクオという少年の頭に、突然、布がかぶせられました。
彼の背後にいるのは、服を脱いだブーン。
ドクオにかぶせた布は、ブーンの長旅の汗と涙が染み込んだ服だったのです。
(; A )「うえっ!く・・・くっさ・・・!」
(#^ω^)「臭いって言うなお!僕どんだけ空気なんだお!主人公なのに!」
(; A )「い、いや、ちょ・・・くっさ・・・くっさ!おぇっ!」
(#^ω^)「モララー!今だお!」
(#・∀・)「おるぁっ!」
ナイフを鞘から抜き取り、モララーは宙を一閃しました。
月明かりに光るその軌道は、ドクオの握る剣を鞘ごと通り抜け、
(;'A`)「えっ!?」
切り取られたドクオの剣の刃先が、ゴトリと音を立てて地面に伏しました。
(,,・д・)「・・・」
(;゚听)「・・・」
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:07:56.88 ID:r6iRxxRh0
- 呆然と立ち尽くす三人組。
(;,,・д・)「な、なんなんでち・・・そのナイフ・・・」
(;゚听)「ドックンの剣が・・・切られた?」
(;'A`)「・・・」
モララーはナイフを鞘に収め、服を払いました。
立ちあがって、放心状態の三人組を睨みつけます。
(#・∀・)「ったく、ムカつく奴らだぜ。こんなんじゃあ、腹の虫がおさまらねえ」
(#・∀・)「死ぬまで残る傷と苦しみを与えてやらないとな・・・このゴミ虫共」
(;゚听)「う・・・」
('A`)「・・・」
ドクオは未だに声を失ったまま、手の中に残る剣の柄を見つめていました。
(#,,・д・)「腹の虫がおさまらないのは・・・こっちでち」
(#・∀・)「・・・あぁ?」
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:10:30.66 ID:r6iRxxRh0
- 少年が言いました。
(#,,・д・)「よくも・・・ドクオの剣を・・・ドクオの父ちゃんの、たった一つの形見を!
返すでち!今すぐ、返すでち!」
('A`)「・・・べつに、いいよ」
(#,,・д・)「よくないでち!こいつは、取り返しのつかないことをしたんでち!」
(;^ω^)「な、なんだお・・・最初にしかけてきたのはそっちだお!」
(#,,・д・)「ブタは黙ってるでち!」
(;^ω^)「フヒッ」
(#,,・д・)「このままお前らを逃がすわけにはいかないでち!この落とし前は、しっかりつけてもらうでち!」
(#,,・д・)「もう一度、正々堂々と勝負するでち!」
少年はモララーに指先を向け、怒りの眼差しを送っています。
モララーは冷めた視線で彼を一瞥し、ふん、と鼻を鳴らしました。
( ・∀・)「・・・いいぜ」
(;^ω^)「お?」
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:13:11.81 ID:r6iRxxRh0
- ( ・∀・)「勝負を受けてやる。俺が負けたら、このナイフをくれてやろう」
(,,・д・)「・・・どういうつもりでち?」
( ・∀・)「金もやるよ。俺たちの旅の資金だ。お前らにとっては大金だろう」
ジャラジャラと小気味のいい音を立てる袋。
モララーはそれを彼らの目の前にかかげて見せました。
(,,・д・)「・・・」
(,,・д・)「・・・いいでち。勝負するでち」
(,,・д・)「ただし、勝負の方法はこっちで決めさせてもらうでち!」
( ・∀・)「なんでもいいぜ。どんな勝負だろうと、俺が負けるわけがないからな」
(,,・д・)「ドクオ!お前がやるでち!お前なら、絶対に勝てるでち!」
('A`)「う・・・うん」
( ・∀・)「・・・」
( ・∀・)「・・・そう言うと思ったぜ」
- 43
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:15:55.24 ID:r6iRxxRh0
- 太陽はずいぶん前に沈み、子供が起きているには、もう遅すぎる時間でした。
しかし、少年たちは互いのプライドを震わせながら、決戦の場へと向かい始めました。
やれやれとブーンが空を仰いだ先、月を背後に、あの『黄昏る岩』のシルエットが浮かんでいました。
(,,・д・)「勝負の内容は、この街の不良たちの伝統にのっとるものでち」
(,,・д・)「『黄昏クライム』。黄昏る岩を競って登り、先に頂上にたどり着いた者が勝者でち。
ルールは特になし。何をしても、何を使ってもオーケーでち。」
( ・∀・)「ふん、偉そうに。うぜえんだよお前」
(#,,・д・)「説明してやったんでち!お前、口が悪すぎるでち!」
ブーンとモララー、それと悪ガキ三人組は、街の中心に佇む『黄昏る岩』の近くにある建物の影に、潜んでいました。
彼らの視線の先には、岩を見張る、一人の警備の騎士。
(,,・д・)「あの警備に捕まったら、その時点でアウトでち。ドクオ、絶対にヘマするなでち」
('A`)「・・・分かってる」
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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:17:54.56 ID:r6iRxxRh0
- ( ^ω^)「モララー・・・大丈夫かお?」
( ・∀・)「誰の心配してる?」
( ^ω^)「・・・ドクオくんの」
(*゚听)「それじゃあ始めるよ」
少女の声に、モララーとドクオは目を細め、一歩足を踏み出しました。
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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/14(火) 20:20:29.57 ID:r6iRxxRh0
- (*゚听)「レディッ!」
( ・∀・)
('A`)
(*゚听)「ゴッ!」
二人の少年は、『黄昏る岩』へ向かって、同時に走り出しました。
第四話 「黄昏る街」―前編― 終わり
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