9.
あれから、どのようにして山を降りたのか、正確に覚えている者は居ないだろう。
内藤はまだ呆然としていたままのヒノデを拾い上げて抱えて、山の麓まで走ってきた。
村のあったあたりや山の殆どが山頂付近から流れ出した溶岩で埋まっている。

( ^ω^)「なるほど、山にあった岩の種類から火山らしいとは思ってたけど、活火山だとは思わなかったお。火山岩だらけだったのにあんなに木々が生い茂ってたのは光脈筋の影響かお。」

見事に草木の一本一本まで無くなってしまった土地を眺めながら、内藤が言った。
村の者達には奇跡的に被害者は居ない。
山に火を放って居た男たちも、全員山の麓付近に居たためだろう、噴火が始まってからすぐに下山して逃げ出すことができた。

( ^ω^)「で、おまいは何時までそうやってウジウジしてるんだお、糞ガキ。」
「・・・・・・・・・・・・だって、私のせいで山の神様を狩ろうなんて事にって・・・・・・。」
( ^ω^)「山の主は最初から死ぬのを覚悟でおまい等に警告していたんだお。もうすぐ噴火するぞ、って。」


42 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:08:14.23 ID:UqUBwYH90
あの時、山の麓で火を放って居た男たちだけでなく、村に居る者達も素早く逃げ出すことができた。
山の主の緑の獣たちが村を”襲っていた”ためだ。
もし、村人たちが寝たままであったら、被害は村が埋まるだけでは済まなかっただろう。

( ^ω^)「きっとあの主はずっと山の噴火を抑えてきたんだお。だからここ十年は人里に下りてきて村を助ける事ができなかった。」
「・・・・・・・・・・。」
( ^ω^)「それでも何時抑えられなくなるかわから無いから、緑の獣でおまいらを襲って山に近づかないようにしてた。」
「でも、結局山の神は・・・・・・・・・。」
( ^ω^)「完全に居なくなったってわけじゃないみたいだお。」

そう言った彼の指差す先を眺めて、ヒノデがハッとなる。
二人の視線の先、よたよたと歩いてくるものがあった。
あの緑色の獣だ。
緑色の獣は二人の前で倒れこみ、力尽きたのかバラバラと葉へと戻っていった。
その中心につるりとした表面の殻に包まれた大きな木の実があった。

「これは・・・・・・?」

ヒノデがふらふらと近づいていく。

( ^ω^)「あの木霊の巨木の実だと思うお。」
「・・・・・・じゃあ・・・。」

ヒノデは両手を伸ばすと、恭しいともいえる手つきでその大きな木の実を拾い上げた。
壊れ物を扱っているかのように、繊細で優しい手つきで。


43 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:08:46.42 ID:UqUBwYH90
( ^ω^)「うん。この土地の下には光脈筋が流れてるから、草木が育つのも田畑が戻るのも早いと思う。何年、何十年かかるかわからないけど、いずれはその木の実から新しい木霊が育つお。」
「・・・・・・・・・・・・ッ!!!」

ヒノデは両手ですくうように拾い上げた木の実を自分の顔の前に持っていった。
その顔から、手の中の木の実へと涙が流れる。
喉からは押し殺したような泣き声。

( ^ω^)「今度はおまいらが山の主を守ってやればいいと思うお。」

声を押し殺して、尾さえ切れなかった喜びが漏れ出すかのように、静かに涙を流し続ける少女にむけて内藤が言った。
それを聞いてさらに少女の涙は溢れ出す。
その少女の手の中で、涙に濡れた木の実が光に照らされて輝いた。
少女の名前と同じ光、悲しみに塗れた夜の世界を打ち消すように登った太陽の放つ、日の出の光に。



inserted by FC2 system