32 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:03:33.33 ID:UqUBwYH90
7.
その威容をなんと表せばいいのか。
かろうじて虎に近い姿をしているが、それとも微妙に違う。
地面から少しづつ生えて姿を現しているそれの手足は、まるでヒグマのように太く、全体の印象として力強い感じがある。
いや、地面から生えているわけではない。
地面に散らばった落ち葉がその獣の体を少しずつ構成しているのだ。

( ^ω^)「成る程、自分から離れた葉を操れるのかお。」

獣を構成していく葉は、あの川辺で獣が撃たれた後に残ったもの、木霊の樹上から生えているものと同じだ。
今や完全に姿を現した緑色の獣は牙を剥いて内藤を威嚇する。

「な、なあ神様、ちょっと待ってくれよ!なんで―――」

ヒノデが巨木に向けて何か叫んだ瞬間、彼女に緑の獣が飛び掛ってきた。

(;^ω^)「危ない!!!」

咄嗟に内藤が飛び出し、ヒノデを突き飛ばす。
緑の獣は先ほどまでヒノデが立っていた場所に着地。
そのまま横を眺め、顔だけをヒノデを突き飛ばした内藤へと向ける。
両者はそのままにらみ合う。


33 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:03:55.98 ID:UqUBwYH90
(;^ω^)「・・・・・・・・・?」

だが、内藤の顔に浮かんだのは警戒でも恐怖でもなく、疑問の表情だった。
緑の獣は何かに怒って暴れているわけでも、体に異常があって暴れているわけでもない。
緑の獣の目はやけに澄んでいて、知性あるもの特有の輝きを放っていた。
怒りに我を忘れていたり、異常のあるものにこんな目はできない。
にらみ合った一瞬、その事をわずかに、だが確かに内藤は読み取っていた。
だが、両者のにらみ合いは唐突に終わりを告げた。
巨木の周りにさらなる足音が響いてきたからだ。
やがて、木々の間から内藤の前の前にいる獣と寸分たがわぬ姿をした緑色の獣達が現れる。
その数は十や二十ではきかない。

「こ、こんなに居たのか・・・・・・。」

驚きに口を空けて立ちすくむヒノデへ、内藤が声をかける。

(;^ω^)「おい、糞ガキ・・・。逃げるお。」
「え?」


34 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:04:19.15 ID:UqUBwYH90

瞬間、言うが早いが内藤がヒノデを脇に抱えて走り出す。
背後から獣たちの追ってくる気配は無い。
途中の木々をかいくぐり、盛り上がった木の根を飛び越えてがむしゃらに走る。
山のふもと付近まで来たところでようやく足を止めると、内藤はその場に座り込む。

「おい!放せ!何時まで抱えてんだ!」
(;^ω^)「うっせ、人に抱えてもらっといて何言ってんだお。」
「誰も逃げてくれなんて言ってない!!あれは何かの間違いだ!山の神が私達を襲うはずが無い!」
(;^ω^)「多分、おまいの言う事は正しいお。」
「は?」

まさか賛同を得られるとは思っていなかったのだろう、少女は内藤の思わぬ返事に目を丸くする。

(;^ω^)「あの木霊からは人を襲うような敵意は感じなかったお。むしろ、人に何かを伝えようとしていたお。」
「ならなんで逃げたんだよ!!!」
(;^ω^)「よくわからないお。けど、あいつは僕等にあの場所から離れて欲しがっていた。」
「どういうことだよ。」
(;^ω^)「だから、わからないって言ってるお。」
「・・・・・・。役に立たないオッサンだな。」
( ゚ω゚)「オッサンではない。」

オッサンと呼ばれて、怒鳴り返されると思っていた少女は、その内藤の声にびくりとした。
感情をそぎ落としたような平坦な声色と表情だった。

35 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:04:36.94 ID:UqUBwYH90

( ゚ω゚)「オッサンでは、ない。警告する。次は無いぞ。」

聞き分けの無い子供に無理やり言い聞かせるように、もう一度言った。
口調もがらりと変わっている。よほど頭にきたらしい。

「・・・・・・。(ていうか、顔怖ッ!)」

ヒノデは感情を感じさせないが、目だけは本気の内藤に、「大人の癖に子供相手に本気になるなよ」と、大人気なさを感じた。
多少呆れつつも、コクコクと内藤に向けて何度も頷いた。


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