6.
ヒノデは夜の山をひたすら歩き続けていた。
夜の山は危険だが、山のとある場所とその周辺に関しては危険は無い。
道に迷う心配はあるかもしれないが、幼い頃から山を駆け回って遊んできた彼が山で迷うなどと言う事はまずありえない事だと思っていたし、獣に襲われる心配も無い。
獣たちは知っているのだ。
その場所に何が居るのか。

「・・・・・・・・・。

やがて、木々の間を抜けると少し開けた場所に出る。
その場所の中心には一本の巨大な木。
まるで木々がその巨木に遠慮しているかのように、巨木の周りはただ落ち葉だけが広がっている。

「なあ神様、なんで―――」
( ^ω^)「へぇ・・・、これがこの山の主かお。」
「−――――ッ!!!!!!」

いつの間にかヒノデの後ろに昼間会った内藤という男が現れていた。


27 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/12(日) 23:45:04.99 ID:QW6b7wiz0

( ^ω^)「てっきり魑かと思ってたけど木霊(こだま)かお。はじめて見たお。」

内藤の視線はヒノデのそれと同じく巨木へと注がれている。
いや、ただの巨木ではない。
見るものが見れば、その巨木の幹から人の顔のようなこぶが突き出ている事が分かる。
そう、”見える者”が見れば。
木から生えている顔は、男か女かもわからない。丁度顎の下から先が木とどうかしていて、頭部には髪の毛の代わりに細い枝がびっしりと生えている。
それらのうち、いくつかは先に葉をはやしているが、殆どの先端は木の幹へと同化している。

「な、ちょ、お、おま、なんでここに?」
( ^ω^)「とりあえず落ち着け。」
「な、な、なんで、なにしにこ、こ、ここへ?」
( ^ω^)「いや、どもりすぎだって。」

内藤の出現にそれほど驚いたのか、ヒノデの口からでる声は途切れ途切れだ。

( ^ω^)「一応言っておくと、おまいが山に入ってくのが見えたから、夜の山は危険だしなんか怪しいからこっそり後をつけてきた。」
「な、おまえ勝手に人の後を、っていうかお前、神様が見えてるのか!!?」
( ^ω^)「あの木から突き出てる顔かお?あれは木霊っていう、樹齢何百年もの巨木が蟲になったものだお。」


28 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/12(日) 23:45:44.89 ID:QW6b7wiz0
ヒノデの指と、内藤の視線の示す先には幹からでている顔、木霊があるが、その顔の方は内藤たちへと意識を向けている様子は無い。
視線も虚空を眺めるように一点から動かず、口からも鼻からも呼吸をしている様子は無い。
それは一見して、本物の人間の顔が木から突き出しているように見えるが、本当に頭部としての機能があるわけではなく、木の瘤が人間の顔のような形を取っただけだ。

「私以外にあれが見える奴は初めてだよ。皆ただの大きな木にしか見えないって言うんだ。」
( ^ω^)「まあ、蟲が見えない人間にはそう見えるんだお。そんな事より―――――」

ぐしゃり、という地面に広がった落ち葉を踏みしめる音。

( ^ω^)「――――その神様の方は僕のことをあまり歓迎してないようだお。」

ヒノデの振り向いた先、彼の背後に一丈(約3.03メートル)もある緑色の獣の上半身が、土から生えてきていた。

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