46 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:13:31.82 ID:UqUBwYH90
10.

(;^ω^)「・・・これで三つ目かお・・・。」

そう呟く内藤の目の前には、発芽したばかりであろう植物の芽があった。
その植物の周りには、あの山の中で見た木霊の葉がちらばっている。
しかも芽は、まだ発芽したばかりだろうにやたらと大きい。
まず間違いなくあの木霊の芽だろう。

(;^ω^)「あの緑の獣は種子を運ぶのと、運んだ種子の栄養になるためのものなのかお・・・。」

彼がこれと同じ形の新芽を見つけたのはもう三つ目だ。
おそらく、あの噴火の後にあちこちに緑の獣が木の実を運んでいったのだろう。
この広い山々のうちの山道をひとつ歩いただけで三つも見つけたのだ。
この土地の中にどれほどの数の種子が存在しているのか。

(;^ω^)「ここらへんに木霊の森が出来る日も遠くないかもしれないお・・・・・・・・・。」

冗談めかしてそう言いつつも、彼は昨日発った村の事を考える。
あの後、少女と老人連中は嬉しそうに、心底嬉しそうに笑いながらも、あの木の実をどこに植えるか話し合っていた。
だが、山狩りをしていた男達はそれを遠巻きに、すこし苦々しげに眺めるだけだった。
48 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:13:58.58 ID:UqUBwYH90
この国より遙西、大陸の清の国よりもさらに西にある南蛮の地では、神は人を塵から造ったと信じられているのだという。
塵、すなわち風が吹けば容易に吹き飛び、風の吹く方向のままに流されるものたち。
軽い衝撃で揺れ動き、右往左往するものたち。
積みかげても積み上げても、簡単に崩れ去り、散らばってしまうものたち。
そう、あの村の若衆達のように。

人の心は脆い。
感情に、欲望に、恐怖に、あっというまに流され、これまで大切にしていたものも手のひらを返したように捨ててしまう。
これまで恵を与え続けてきた山の主も、その恵みが無くなれば彼等にとってはただの不思議な力を持った得体の知れない化け物でしか無いのだろう。

きっと、しばらくはあの村の若衆と老人達、ヒノデの間にはぎくしゃくとしたふいんき(←何故か変換できない)が続くだろう。
これから先、彼等はあの新芽を、それが木になっても、あの日の事を思い出し、罪の意識にさいなまれなければならないだろう。
だがあの木霊の新芽を彼等の山からどかすことは出来ない。
あの土地で彼等が暮らしていくだけの豊かさを、山が、土地が取り戻すのには、山の主である木霊のあの新芽が必要だからだ。
この土地でとれた作物を口に運ぶたびに、彼等は思い出すだろう。
自分達を救おうとした存在を、駆り立てようとした事を。


49 :無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/02/13(月) 00:14:24.19 ID:UqUBwYH90

( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」

だがそれでも人は忘れてしまう。
やがて彼等も、木霊の巨木を眺めても何も感じないようになってしまう。
「時間が全てを癒してくれる」とは陳腐な言葉だが、まさにその通りだ。
人は塵なのだ。簡単に運ばれて、流されてしまう。
深い後悔と、自責の念さえも。

内藤は後ろを振り返った。
木々が一本も無い、溶岩が冷えて固まった火山岩だけが残った、素っ裸の山が見えた。
数年後、数十年後にはきっとあの土地には再び木々が生い茂っている事だろう。
そしてあの日、優しく木霊の木の実を照らし出していた、あの光の名前を持つ少女も、村人全員で木霊の巨木を眺めて笑い合う事のできる日が来るだろう。

空には上ったばかりの太陽があった。
周囲には夕日のように鮮やかで、優しい光。朝焼けだ。
その光は、この地に生きる全ての者達へと注いでいる事だろう。
この地に生きる、塵のもの達に。

明日は雨だな。
その朝焼けを眺めながら、内藤はそう思った。


『塵に注ぐ光』・完
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