3 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:14:20.99 ID:FmIydxpz0


('A`)が異世界で出会う以前のようです 





「ドクオ…かお」


「僕は内藤ホライゾンだお、よろしく」



4 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:15:10.14 ID:FmIydxpz0

高校生活初日、俺の前の席に座るそいつはそう言った
どうせすぐに話をする事も無くなるだろう

そう思っていた

けれどそいつはいつまで経っても俺に話しかけてくれた


毎日、毎日、いつだって


休みの日には二人で遊んで、学校に行けば当たり前のように一緒に居た


そんな幸せを初めて手にして、ようやく全てを知った
自分がいかに馬鹿で、愚かで、弱虫だったか


5 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:16:36.05 ID:FmIydxpz0

記憶、重なる過去と現在

思い出す度に辛い記憶

思い出す度に傷ついていく心


あれは…遠い昔


両親が共働きだった俺の家は日中無人
誰も居ない家で、たった一人


幼い頃…いつからだろう、ずっと暴力を受けて育ってきた

思えばそれは虐待だった
けどそこには愛情があるんだと言われた

7 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:18:03.73 ID:FmIydxpz0


愛情があるから僕を殴る

愛情があるから僕を蹴る


でも実際は愛情よりも世間体が大事なだけ

それを理解してしまった時から

きっと俺は壊れているんだと思う


それに気付いたのは…えっと、いつだったかな…





8 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:20:13.11 ID:FmIydxpz0




「第0話 ドクオとブーン」




小学生時代

その頃から兆候はあった

低学年の頃はまだ楽しい記憶があったと思う

けど…それも今では掠れて思い出せない


「じゃあね〜」

「うん、ばいばい」


表面だけの付き合い、表面だけを取り繕う
それでも友達『?』が全く居ない訳じゃ無かった


ただ俺は誰かに自分から近づく事が出来なかった
誰かが遊んでいる中に自分から進んで入っていく事をしなかった


9 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:22:36.68 ID:FmIydxpz0

それは空気の読めない事だと思っていたから

でも…実際にはそういう時に入っていかない方が空気の読めない物らしい

まあ、元々あまり他人に関心が無かったのもある


だから気付けば…俺は孤立していた


登下校 いつだって一人で家までの短い距離を歩いた

夏休み 一人で家に居た記憶ばかりだ


最初は仲良くしていた友達も、いつかは離れていく、気付けば嫌われていく
自分でもどうすればいいのか分からない


そして…家に居れば、親が居た

俺にとっての恐怖の象徴



10 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:24:01.23 ID:FmIydxpz0

でもその頃は…辛いと思う事は無かった

だって俺にとって普通だったから、暴力を振るわれる事も、一人で居る事も当然だった

みんなそうだと思っていた

楽しい家族の団欒はテレビや漫画の中の物だと思っていた


だから自分の境遇が不幸なものだと気付いてすらいなかった


なんかで見たけど
『子供の内は子供らしい遊びをしておけ、しないとひねくれた大人になる』


うん、その通りだ…今更だけどな


…………。


中学時代

できれば思い出したくない事しか無い

11 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:26:02.52 ID:FmIydxpz0

入学当初、運動も勉強も普通以上にこなした

けど日が経ち、ある時期を境に俺は堕ちて行く

すると親からの暴力はエスカレートしていく、俺は毎日泣いていた

学校では友人と呼べる者は居なかった


向こうから俺に話しかける事も無く

俺から向こうに話しかける事も無い


いつからか…教師に目をつけられた


俺のせいじゃない事も全て俺のせいになる

遠足は景色を眺めていた記憶しかない
現に当時の写真には景色の写真ばかりが写されている


やがて俺にとって運命の日が訪れた

12 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:28:15.07 ID:FmIydxpz0
よくあるゴタゴタで夜遅くまで残されたあの日

…あの日に言われた事は今でもはっきり思い出せる


「お前はみんなから嫌われているんだ」


信じられなかった

信じたくなかった

だってそれでも毎日挨拶して話をするクラスメイトが居たから

俺はその場を逃げ出した

涙を堪えて必死に夜の闇の中、自転車を漕いだ

前が見えない、胸が苦しい


でも誰にも頼れない、頼る者も居ない


もう学校には行きたくなかった


13 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:30:12.14 ID:FmIydxpz0

けどそれは親が許しはしなかった

俺に出来るのは…ただ一人耐える事だけ


………。


後日 もう一度俺は残される事になる

そうしてその教師は、念を押すように言った


「みんなに確認取ったけど、やっぱりみんなお前が嫌いだってよ
 まあ…何も言わない子も居たけどね」


もう、ショックは無かった

ただ納得した、パズルのピースが揃った
長年の謎がようやく解けた

14 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:32:04.17 ID:FmIydxpz0

何も言わない、それは肯定も同じ

俺が最後に信じていた物も無くなった

友達だと思っていたのは片思いだったと知る
確かに、話をするのは学校に居る時だけだった

イジメも無かった、ただ俺の存在は在って無かった

要するに空気、無視されてたって事


そこまでされなきゃ気付けない…俺は本当に馬鹿だ
こんな馬鹿は嫌われて当然だよね


16 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:34:00.83 ID:FmIydxpz0

そうしてまた、夜闇の中で自転車を漕いだ

見上げた空は星が綺麗で、余りにも綺麗で、俺は見とれた

胸の重みは無くなった

もう苦しくない

涙は出ない


俺の居場所は…どこにも無い


後は耐えるだけ、覚悟は決めた


きっとさ…俺は幸せにはなれないんだね



17 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:36:51.91 ID:FmIydxpz0


………。


この世から消えてしまいたかった


でも死ぬのは怖い
何度か死のうとして、死ぬ恐怖みたいなのが分かった


別に誰を恨んでもいなかったし、誰かに迷惑をかけるのも嫌だった
だから自殺する気は無かった

というよりは…
まだちゃんと自覚してなかったんだ、自分がどういう状況か


だから…ただ、毎日消えたいと願い続けた



18 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:38:22.19 ID:FmIydxpz0


雨が好きだった、理由は無い
雨に打たれるのが好きだった、自分があまりにも惨めで、心が安らいだ


夜が好きだった、まるで違う世界に居るようだから
星空があまりにも綺麗だから


よくある怪談話を思い出す
ねえお化けさん、もしも本当に居るのなら


誰か俺を殺してくれない?

…なんてね


…………。


20 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:40:58.65 ID:FmIydxpz0

その間にも、やはり寂しさに耐え切れず
何度か友達を作ろうとした

「昨日は楽しかったな」

「え? ああ、昨日あいつの家に皆で泊まりに行ったんだよ」


けどそれもすぐに消えた


やっぱり分からない…友達ってどうやったら出来るんだろう

そんな事を繰り返す内に、俺は人の本音に恐怖を持つようになった
人の深い所に触れる話は避けるようになった

自分がいつの間にか人間不信になっていた事に気付く


やがて…人に深入りせず、人に気を使い、尽くせば嫌われないと知る



21 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:42:19.37 ID:FmIydxpz0

要するに他人にあまり関わらず、ほいほい頼みを聞いている事が最良って事だ
事実、それから俺の周りは少しずつ変わっていく、周りに人が増えた


本当の自分じゃない、作られた自分、俺は俺の演技をする
その内俺は自分を客観的に見るようになっていた

そんな俺を見て教師は言う


「利用されてるだけだってわからないの!?」


(ふーん…それがどうかしたの?)

表面上はそう思いつつ、内面はずたぼろ

どうしてこの人はここまで俺が友達を作る事を否定するんだろう
俺はただ居場所が欲しかっただけなのに…



22 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:44:01.65 ID:FmIydxpz0


とにかく毎日を耐えた


傷つく日々に

苦しい日々に

消えたい日々に

死にたい日々に

泣きたい日々に

無理に笑う日々に


そんな惨めで、痛々しい日々に耐えた


そうしていつからか…感情が出なくなった

24 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:46:03.67 ID:FmIydxpz0

殴られてもそれほど痛いとは思わなくなった

何をされても怒る事は無かった

何があっても涙は流れなかった


俺は……狂ってるのかな…


そして迎える高校受験

とてもじゃないがまともに勉強なんて出来る精神状態じゃ無い
そんな俺を親は縛り付けた

何もしたくなかった、そもそも行きたくなかった
そんな俺が真面目に勉強なんてできる訳がない

勉強するふりだけを続けた

25 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:48:15.14 ID:FmIydxpz0

成績は下がる一方、親も何度も呼び出され、俺の前で何度も泣いた

本当は言いたかった

どうでもいいと、放って置いてくれと

でも死ぬ度胸も無い俺はただ従う事しかできなかった

うん…単に逆らえなかっただけ、かな

…………。


そして俺は受けた高校に二つとも合格した

まあ、自分で言うのも何だけど、基本はできている人間だったし
別に学力の高い場所じゃなければそう難しい話じゃ無い
そこは中々の底辺校だったからね

でもその結果を知った教師の顔が面白かったのはよく覚えている
まさに「こんなはずじゃ…」って顔だ




26 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:50:01.84 ID:FmIydxpz0



…………………。



時を経て、俺は無事この地獄から卒業

今日からこの隣町のVIP市にある高校に通う事になった
幸い同じ中学の連中は数えるほどしか居ない

同じクラスには一人も居ない

俺は空虚な心でそれを喜んでいた

「おいすー」

そんな時だ、たまたま俺の前の席に座った奴が話しかけてきたのは

('A`)「…え?」

(;^ω^)「いやプリントを…」

ぼーっとしていた俺に何枚かの用紙を突きつけてきた
見れば教師と思われる人間が一番前の席に次々と紙を置いていき
それを各生徒が後ろの席の人間に渡していく

28 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:52:07.09 ID:FmIydxpz0

(;'A`)「あ、ごめん」

(;´ω`)「今…寝てたのかお?」

(;'A`)「いや、そういう訳じゃ」


この瞬間が、俺とブーンの出会いだった


…………。



( ^ω^)「ドクオ…かお」

('A`)「…」

( ^ω^)「僕は内藤ホライゾンだお、よろしく」

('A`)「ああ、よろしく」

30 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:54:26.90 ID:FmIydxpz0

時間は流れていく


( ^ω^)「何聴いてるんだお?」


あいつと色々な事を話した


( ^ω^)「あ、じゃあ今度から一緒に学校まで行くお!」


あいつと色々な事を知った


(;^ω^)「しかしドクオって僕の名前まったく言ってくれないお」

('A`)「じゃあ…なんて呼べばいい?」

(;^ω^)「変な事聞くNE……うーん、じゃあブーンでいいお」

('A`)「ブーン?」

( ^ω^)「お、僕は前よくそう呼ばれてたお、だから…」
33 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:56:05.67 ID:FmIydxpz0

その日々が、あまりにも楽しくて、幸せで


( ^ω^)「明日はゲーセン行くお」

('∀`)「…またかよ」

(;^ω^)「そう言いつつ行く気まんまんじゃないかお!」


恐怖を覚えた


あの頃しなかった事をする度に、当時の自分がどういう状態だったかを知る
あの頃無かった者を手にする度に、当時の自分の不幸を知る


初めて親を本気で憎んだ
同時に自分を今度こそ殺してやりたかった

34 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 10:58:02.83 ID:FmIydxpz0


ナンテ オロカデ ミジメニ イキテキタンダ


そしてやがて自分の中にある精神的外傷を知る


( ^ω^)「ドクオ! 遊びに行くお!」

('A`)「…悪い、俺用があるから」

(;^ω^)「お? それなら僕も付き合うお?」

(♯'A`)「……じゃあな」

(;^ω^)「え、ちょ…」



(;´ω`)「……ドクオ…?」


俺は…幼い頃の親から受けた愛情故の暴力がトラウマになっていた
人から受ける好意に対して体が拒絶反応を起こす
36 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:00:15.50 ID:FmIydxpz0

胸の奥が妙にムカムカして、吐き気がして、イライラする

自分じゃあどうにもならない感情

人の情、それが信じられない


そんな行為がいかに間違ってるかは分かってる


だから後で嫌というほど後悔する


辛い、全てが辛い、けどもう涙は出てくれない



37 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:03:10.62 ID:FmIydxpz0


俺は…『キチガイ』なんじゃないか

普通じゃない、普通になれない、普通が分からない


いやだ、いやだ…


そんな俺に


( ^ω^)「ドクオ、おいすー」


あいつは何度も救いの手を差し出してくれた

どんなに酷い対応をしても、それでもあいつは側に居てくれた
39 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:05:03.54 ID:FmIydxpz0

何度も何度も、俺の名を呼んでくれた


だから…俺はようやく歩き出せた


いつもの帰り道、いつもの川原沿いの道で俺はあいつに全てを白状した


全ては話していないけど、自分の持つトラウマを、自分の異端さを

('A`)「おかしいだろ…? 俺きっと頭逝かれてるんだよ」

そして言ってくれた

( ^ω^)「そんな事ないお! 僕から見たらドクオは普通だお!」

嬉しかった、本当に嬉しかったんだ


40 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:07:22.88 ID:FmIydxpz0

話しかけてくれるだけで、それだけで俺は幸せだった

なのに…

( ^ω^)「僕も…話してくれて嬉しいお、僕等は」


「親友だお」


そう…言ってくれた


感謝…そんな言葉じゃ割り切れない

自分の愚かさは散々知っていたはずなのに

結局俺は馬鹿なままだったんだと思い知らされた


41 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:09:09.53 ID:FmIydxpz0

変わりたい、そう思った

いや

変わるんだ、そう決めた


「うん…ありがとう、ブーン…」


親友の為に、親友で居てみせる



そんな決意を胸にした時、少しだけ


…少しだけ俺も普通の、ただのちっぽけな人間なんだって思えた



42 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:11:08.00 ID:FmIydxpz0








そして…今俺は







44 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:13:06.01 ID:FmIydxpz0

異世界、DEN王国の中心にある大きな建物
そこのテラスで夜景を見つめていた


川 ゚ -゚)「どうしたドクオ、眠れないのか?」

(;'A`)「え…?」

川 ゚ー゚)「なんだ、また考え事か」

('A`)「…うん」

川;゚ -゚)「まったくいつもいつもボケーっとして、何を考えているやら」

('∀`)「…大した事じゃないよ」

川 ゚ -゚)「ふむ…早く寝た方がいいぞ? 明日もまたしごかれるだろうからな」

(;'A`)「あ、ははは…」

苦笑いする俺の手をクーがそっと握る

川 ゚ -゚)「…ボロボロだな」


45 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:15:35.06 ID:FmIydxpz0

俺の手は今や火傷だらで酷い有様だ
炎の剣…レーヴァテインを使う特訓は死と隣り合わせ

下手をすれば自分を襲う炎を水でどうにか抑えなければいけない
ここ数日はずっとその特訓をしている

俺は何やら接続速度と容量が他の人に比べて凄いらしい
その持続時間には新巻さんも驚いていたくらいだ

…大変だけどやりがいを感じる、強くなりたい

俺を救ってくれたあいつの様に…俺も守りたい

だから俺は笑顔で答えた

そして少しの間を置いて、彼女も笑った


川 ゚ー゚)


さあ、今夜はもう遅い、いい加減眠ろう


46 名前: 噺家(栃木県) :2007/03/15(木) 11:18:24.93 ID:FmIydxpz0

俺は…これから先、きっと何度も振り返る

けどその度に思い出すのは悲しい過去じゃ無い

それは色々な物を背負って歩き出す為の、たった一つの誓いだ


…今、こうしていると思う事がある

もしかしたら、これは神様がくれたプレゼントなんじゃないか、と
だって俺はこうしてあの辛かった世界から離れ、ここに居る

だから…この宝の様な日々を

今を、この握った手を

失くさないように


守り続けよう


              糸冬


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