3 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 18:49:04.90 ID:6PxfiSLS0


【 第33会 「心写すは鏡炎花火」 】


ニワトリの声が似合いそうな、霧がかった空気に登りかけの陽が照らす早朝。

しかしそこに静寂はなく、あるのは、いくつもの列が連なった巨大な人の群れと、
彼等が発する叫び声と、地面を踏みしめる音が重なり、一つの景観を作っていた。


(´・ω・`)「調子はどう?」

川д川「おおシャキン様、見ての通り、みな頑張っておりますじゃよ」

(´・ω・`)「うん、でも休憩と食事はちゃんと取るようにね」

川д川「了解じゃて」

エッダの人々が、戦う気になってくれたのはありがたいが、彼らはあくまで一般人。
その為、まずはショボン指導の下、徴兵した人達の訓練が始まった。

さすがに抵抗はあるだろうと思っていたけれど、こないだの襲撃で危機感を覚えたのか、
エッダの村中からすぐに人が集まってきて、兵となる若い男から、補助する女性にそれを手伝う子供まで。
本当に一丸となって、戦う姿勢を見せている。


4 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 18:52:28.33 ID:6PxfiSLS0

しかし、疑問はある。

果たしてこれでいいのだろうか。こんな良い人たちを巻き込んで、それでいいのか。
それに、反発する声は未だに聞こえないけど、この状況を否定する者は居ないのだろうか。

何で俺たちがこんな目に、こんな事をしなければならない。

そう問われても仕方が無いのに、何故、こうまで何事もなく進むのだろう。
いっそ不思議なくらいだった、それとも、知らない場所では言われてるのだろうか。

どうしても気になって、村長に尋ねた事もある。
すると彼女は、迷うことなくこう言った。

川д川「確かにそういう声はあった、戦火の火種が見えようと、それはわし等には関係のない物じゃと、
    しかし、じゃからと言ってわし等は無抵抗主義なぞ掲げはせぬ、無論平和は好きじゃが、
    だからこそ、それを守るためにゃら剣を取ろう、自分たちの身を守る為にも、それは当然のこと」


川д川「それに……どちらにせよ、こうなってしまっては中立なぞが成り立つのは束の間の話じゃ、選択を迫られるなら、
    わしらは勇者様に組する、これがわし等の結論ですじゃ、例え、その結果がどうあっても…」

7 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 18:55:12.80 ID:6PxfiSLS0

逆に、居た堪れない思いだった。

更にショボンが言うには、この地に生きる人にとって、勇者とは言わば神みたいな存在で、
その神を崇める、つまりは宗教の信者となって従うのが当然、というのも根本にあるそうだ。

もっとも、俺は宗教とか興味ないから、そう言った部分はまったく分からないけど。
でも確かに、元の世界に居た頃、俺はむしろそういった人種を奇異の目で見ていた。
勧誘の電話などには、おかしいんじゃないのか、と一笑に伏せていた。

なのに、俺は今、その意志の強さにむしろ敬意を覚えた。
どうしてそんなに強い覚悟、あるいは信念を持てるのだろうと。


(´・ω・`)「大袈裟だなぁ……そうだね、信仰ってのがどういう物か、分かる?」

('A`)「いや……崇拝する事?」

(´・ω・`)「だいたい合ってる、でも要は、君があの炎の剣に対して思っている物だよ」

それがあるから強くなれる、それだけの、単純な話だとショボンが言った。
俺は頷き返して、腰に下げられた重みに思いを馳せる。
まだまだ、覚悟が足りないのかもしれない、そしてそう思った。

9 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 18:57:28.34 ID:6PxfiSLS0

(´・ω・`)「覚悟か……そうだね、僕も、そろそろ決めなきゃいけないかな…」

何処か遠くを見るようにショボンは呟く。
そう言う目は少しだけ虚ろで、それが少し、引っかかった。


それから半月も経った頃だろうか。

あの撃退から今まで何も無かったが、ついに遠方にて進撃する姿が発見された。
すぐさま迎え撃つ準備が始まった。村中に高揚と不安の混じった空気が蔓延する。

その全てが静かになっていく。

この地に訪れた当初にあった笑い声は最早、ここには存在しない。

やがてショボンが、列を作る集団の先頭に立ち、剣を掲げ何かを叫ぶと、すぐさま雄叫びが応える。
そうして俺達は、村長を筆頭に女衆が用意してくれた握り飯をほおばり村を出た。



10 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 18:59:51.32 ID:6PxfiSLS0

数日後、ショボンの指示で分かれた部隊が配置につき、全ての準備が終わる頃。
汗を流して駆け寄ってきた伝令が、とうとう連中が到着したと告げる。


(;'A`)「……来た」

見晴らしのいい山岳地帯に切り立った、崖のような展望台地から、俺はその姿を確認した。
地平線の手前に、人というより平坦な山が移動しているかのような、大きな塊がずらりと伸びる。

数はこちらと同等か、あるいはそれ以上か。

ショボンは、ここは何となしても食い止めると言った。
何故ならこのすぐ手前には、大きめの村が一つある。

人や家畜も沢山住んでいるし、何より食料が豊富に蓄えられている。
ここを拠点とされれば、また次、また次と、徐々に攻め込まれてしまう。
現に向こうの進行ルートも、その村を目指していた。


12 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:02:22.47 ID:6PxfiSLS0

だから、俺達はその村よりも先にて、防衛線を張ることにした。
何故なら今居るこの場所は、エッダへ到達するために越えねばならない山の一つ。
普段は何もない広大な草原だが、とある条件下によってその姿を変える、特徴的な場所であった。

そして既に、簡易的な砦が造られており、いくつもの罠も用意されている。

時に、どうやらこの世界での戦争は、人が真っ向からぶつかり合うのが常であったらしく、
それを美徳とする者からの姑息と言う声もあったが、ショボンはそれら全てを、
今より行うのは戦争ではない、守る為の戦いだ、その背に在るものを忘れるなと一蹴した。

(`・ω・´)「それじゃあドクオ、合図を」

(;'A`)「…」

黙ったまま頷き、俺は赤熱する神具を掲げた。
そして、すぐに触れあがった炎が爆ぜ、轟音と共に渓谷を染めた。

(`・ω・´)「投石開始、ただし二度までだ、その後、第一大隊は前へ」

はい、と答える声は、すぐに遠ざかっていく。
ややあって、風切音を立てながら、尖った岩石が放たれた。

13 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:05:25.29 ID:6PxfiSLS0

森のようだった人波の手前に、ポツポツと穴が開いていく、
続けて二度目、今度は後方に向かって放たれ、集団の進行がわずかに鈍る。

しかし、その流れは止まらない、投石痕がまるで川から頭を出すように残るだけで、
人波は出来た穴の周りを避け、あるいは逸れつつ、止まることなく行進は続く。


四方を山に囲まれた大草原における攻防は、こうして始まった。

まず投石が収まった事によって、敵の進行はさらに加速していく。
ショボンの指示によって、大隊の一つがまず正面から迎撃する。

遠めにではあるが、草原の中央にていくつもの閃光がちらつき、
そして集団が起こす音と音が衝突し、重低音が地響きとなって木々を揺らす。

間髪居れず、ショボンは次の指示を出す。

(`・ω・´)「ここまでは予定通り……じゃあドクオ、後はよろしく」

(;'A`)「わ、分かった…!」

14 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:07:48.25 ID:6PxfiSLS0

俺は前もって聞かされていた指示を果たすべく、駆け出した。
その後を、数人が追ってくる、手足がやけに重く、気を抜けば震えてしまいそう。
だから自分を奮い立たせるためにも、背後の仲間に向かって呼びかけてみた。

すると威勢のいい返事が返ってきて、少しだけ気が楽になった俺は、
小さく頷き、さらに力を込めて地面を蹴る、目指すは山の上だ。


その背を見送ると、ショボンは再び正面を見据え、剣を抜く。


(`・ω・´)「続けて第二第三中隊、前へ」

お、と発せられた声が混ざり、あ、の連続した怒号となる。
口伝から笛の音、それを聞いたものが次々に叫ぶのは、ここでしか聴けない戦場音楽。
その音は人の感性すらも狂わせ、やがて狂気をも含んでいく。


(`・ω・´)「突撃!!」


戦意高揚した兵たちの足は、最早止まる事はなかった。



16 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:10:22.21 ID:6PxfiSLS0

……。


「おい、見ろよあれ! 押されてるんじゃないか!? 」

(;'A`)「え?」

山の悪路を駆け上っていると、やがて後ろの一人が叫んだ。
ふりかえって見れば、ちょうど木々が開けて草原が見える。

その言葉どおり、味方と思わしき人の群れはどれも薄く、横に広がっている。
しかし、よく見ればその展開された範囲は広大で、半分以上を囲む形になっていた。

「馬鹿、だからあれでいいんだろ?」

「でもよ……あれじゃ、どっか崩れたらお終いじゃねえか」

「って、とか言ってる傍から!! あそこ穴開いたぞ!?」

(;'A`)(……!)

やがてその包囲の一部に穴が開いた、人が漏れるように飛び出すのが見える。
そして、ショボンから聞かされていた通りだった、ならばすべき事は一つ。


18 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:12:25.68 ID:6PxfiSLS0

('A`)「……急ぎましょう!!」

「お、おおう!!」

それから登っている間にも、草原に展開されていた形が変化していく。
およそ円状になっていた森が、今ではひょうたんみたいだった。

その一方で。

(;'A`)「…着いた、ここだ」

息を切らせてようやく辿り着いた先にあったのは、川を塞き止めて作られたダム。
すぐにやるべき事を行うべく、俺達はそろって手をかざし、こう言った。

接続開始。

ダムの水面に渦が生まれ、凄まじい勢いでその水量を減らしていく。
あの草原にある特徴、それは雨の後などに起こる自然現象の事だ。

曰く、雨天の後、山に溜まった水は地下を抜け、その麓にて、巨大な湖を一時的に造り出す。

つまり、それを接続によって加速させれば。




19 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:14:21.46 ID:6PxfiSLS0



………。


元より相手側の戦い方は、まとまってぶつかり合う形ではなく。
各々が走りまわって戦うという、適当な物だった。

だからこそ、一旦始まってしまえば、その進行を止めるのは難しい。
更に、個人の戦力を考えれば力の差は明白、真っ向から戦えばただ人を失うだけ。

故にまず投石で相手をまとめた、それも散らばらぬよう、敢えて中枢を避ける事で。

そして分けた部隊で壁をつくり、相手がばらつく事を防いだ。
これにより、戦いは前面同士の物となり、更に防御よりの姿勢を指示。

だがそれも時間の問題、いつかは崩されてしまう。

そうなる前に、次の一手はわざと一部から相手を解放すること。
これで包囲から逃れた者がまず目指すのは、これみよがしに設置された高台。

つまりはショボンが居る場所である。

そこに偉いのが居ると、ここを落とせばいいと匂わせ、誘い出す。



20 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:16:29.44 ID:6PxfiSLS0

(`・ω・´)「よし、いいタイミングだよ、ドクオ」

駆けて来る敵の姿を見据えながら、ショボンはそう言うと、全員に撤退を指示。
その先はちょうど、湧き水が起こる湿地帯になっていて、今まさに噴出が始まる。


そして、小さな間欠泉の如く現れた水柱が、瞬く間にちらばる人影を飲み込んだ。


更に撤退の声を聞き、逃げていく姿に調子をよくした相手側は更に高揚し、追いすがる。
だがそんな彼等の足元にも、すぐに泥水が流れ込む。

突然の事に、敵兵の側で混乱が起きる。
その間にもエッダの兵達は退避を済ませていく。

あっという間に地表を埋め尽くし、腰までを泥水が覆い隠す。

敵側もどうにか逃げようとはする物の、エッダの兵はそれも許さない。
しかもこうまで泥水に漬かっては、接続を使用するのも困難となった。



21 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:18:18.92 ID:6PxfiSLS0

こうして彼らはその機動力と同時に、攻撃力までも奪われる事になる。
そしてショボンは、これで最後と言わんばかりに、自らも前に立ち。


(`・ω・´)「接続部隊! 投石班! 総攻撃開始!!」

この場に満ちる狂気にあてられたように、冷酷なまでの宣言を叫ぶ。
既に戦いによって仲間を失い、あるいは伝染した狂気によってか、誰もがその声に応えた。


戦意を失い、助けを請う者も見えたが、最早その声は誰の耳にも届かない。

許容も、慈悲もなく、こうして、ただの虐殺が始まった。





……。





24 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:20:22.71 ID:6PxfiSLS0

初防衛の帰路、まだ興奮冷めやらぬ大衆は、己が力を褒めあうように語り合う。
あれだけの惨劇を前にしても、あるのはただ、勝利の余韻のみ。

無事で安心もしている、だけのこの狂気が、少しだけ怖くもあった。
何せ、それを指示したのはショボンなのだから。

このときの俺は、その意味を深く考えようとはせず、浅はかな考えさえも浮かべた。


('A`)(もし変な道に進みかけたら、止めてやらなきゃ)

みたいな覚悟を、恥ずかしげもなく考えていて、
夜を迎えた頃、俺はショボンと二人、今日についての話をした。

その折、ふとショボンは声のトーンを落とし、杞憂な表情を作る。
出てきた言葉は、今しがたの決意を揺さぶる代物だった。


(´・ω・`)「ねえドクオ……僕は、やっぱり危なく見えたかな」

(;'A`)「え?」

まるで考えを見透かされたようで、俺は言葉を失った。
しかしショボンはそのまま、静かに続ける。


25 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:23:29.80 ID:6PxfiSLS0

(´・ω・`)「でもね、僕はこれからも……いや、これからもっと嫌なやつになると思う、
      人を使って、利用して、ついには一つの命でさえも個ではなく群で扱うんだ、
      そのくせ自分は高みから見下し、偉そうにふんぞり返って偉そうにする、」


そしてまた、沢山の人を。
何も言わないけど、続く言葉は浮かんだ。


(´-ω-`)「でもそうしなければいけない、人が僕を慕うと言って、事実そうである以上、
     その僕が弱気だったり、頼りなさを見せる訳にはいかない」

(´・ω・`)「例え人からどんな目で見られようと、ね……」

(;'A`)「な、何でだよ、そんな」

(´・ω・`)「それが多分、僕にできる事だと思うから」

(;'A`)「いやだから、別に今まで通りでいいじゃないか、
    これまでだって皆ついてきてくれたろ? なら今のままで充分で」

(´・ω・`)「………」

そう言う俺の言葉に、ショボンは何の言葉も返さなかった。
黙ったまま、ただ俺を見据える。

28 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:27:25.54 ID:6PxfiSLS0

何時かに見たような、あまりに迷いの無い目だった。

どんな言葉も届かないんじゃないかと思える程に、明確な意思と、
少しだけ、懇願するような願いを秘めた視線。

(メメ゚Д゚)

ふと、浮かんだのは傷だらけの姿、あの人の姿。

失った事への後悔と、失うことへの恐怖が湧き上がり、背筋に冷たいものが流れる。


(;'A`)「……や、やめてくれよ、そんなの」

(´・ω・`)「駄目かな」

(;'A`)「……なら、俺も、そうするよ」

(´・ω・`)「それは駄目」

(;'A`)「は、何で!?」

(´・ω・`)「それは君には向かないし、何より君が背負うべき物はこれじゃないからだよ」



29 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:29:25.32 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「だからってなんでお前が、何でショボンが一人で背負うんだよ、そんなのおかしいだろ、
    大体、ここに来たのだって俺が巻き込んだせいじゃないか…そうだ、俺のせいなのに!」


(´・ω・`)「それは違うね、始まりは常に他者が及ぼすものだよ、
      だけど、そこから先へと続く道を決めるのは自分自身だ、
      そこで問題を誰かに押しつけたって、気晴らしにさえならない、なら」

(;'A`)「なら俺だってそうだ! 俺も、その為に戦うって決めた、その為にあの剣を手にしたんだ…!」

(´・ω・`)「でもそれは、英雄と呼ばれるような存在になる為じゃない、そうだろ?」

(;'A`)「それは…! じゃあ、ショボンは英雄になるつもりなのか?」


(´・ω・`)「うん、戦場における英雄って奴だよ、大量殺戮を犯してその果てに得る称号、
      そして全てが終わった時……争いの歴史と一緒に消えるのが定められた、ね……」


(;'A`)「……おい、何言ってんだよ」



30 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:31:34.39 ID:6PxfiSLS0

(´・ω・`)「言葉にすれば聞こえはいいけど、そんな物は業でしかない……
      仮に認められたとしても、認められたことによって何処かで綻びが生まれてしまう
      だから結局はそうなる、違いがあるとすれば…自ら世を捨てるか、世に捨てられるかだ」

(#'A`)「違う!! そんな事あるもんか!!」

(´・ω・`)「本当にそう思う?」

(# A )「だっておかしいだろ、そんな――――――」


英雄と呼ばれた人間の末路。

その活躍を約束された図式。
その身を縛るのは約束。

「…英雄なんてのは、ただ利用される為にあるような物だ」

何時だったかに聞かされた。


( A )「そんなの……おかしいって……」

(´・ω・`)「…………」

31 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:33:53.32 ID:6PxfiSLS0

しばらくの沈黙があった。
何かを言いたいのに、何も言葉が浮かばない。

(´・ω・`)「……ごめん、少し弱気になってたみたいだ」

(;'A`)「え?」

(´・ω・`)「そうだね、何かする前から諦めてもしょうがないし、
      うん、そうでなくて済むように、何とかなる方法とかも、色々考えてみるよ」

('A`)「……あ、ああ」

('A`)「俺も、何だって手伝うよ、だから……あんまり、無理はすんなよ」

そうは言いつつも、本当は分かっていた。
今のショボンの言葉は、心から出た物じゃない。

ただ、話を終わらせようとした物だった。
なのに俺は、それが分かっていながら、何も言えなかった。
伝えられるような、その奥に届くような言葉は何も浮かばなかった。
33 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:37:08.39 ID:6PxfiSLS0

ふと、ショボンが席を立つ。

俺は何も言えず、黙ったまま、その姿を見送る。

爪が手のひらを裂くほどに、気付けば拳を握っていた。
俺はいったい、何をやってるんだ。
どうして俺はいつまで経っても、こんなに無力なんだ。

悔しくて、それ以上に自分が憎らしくて、壁を殴りつける。
じんと響く痛みは、何の施しにもなりはしなかった。





そして、その部屋の外側にて、ショボンは一人。



(´・ω・`)「でもドクオ、僕はやっぱり…君はこっちに来ちゃいけないんだと思うよ……
      待っている人が居て、その先に生きる道を持っているなら"僕等"と同じ位置に居てはいけない」


「君だって、そう思うだろ?」
誰にともなく、呟いていた。

34 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:43:15.69 ID:6PxfiSLS0


……。


「報告します、予定通り、敵兵はゼクト山を迂回した模様です」

(`・ω・´)「分かった、では次は」

「あ、その前にもう一つ報告が…!」

(`・ω・´)「何だ?」

あれから更に時は流れて、通算、三度目の襲撃となった。
例によって俺たちはショボンの指示の元、防衛線を張るべく村を出た。

今回は敵の誘導が主であるらしく、今の所、問題なく進んでいる。

しかし、そんな最中に飛び込んできたのは、一つの障害。
確かに予想はできた事だが、ついに来たかと息を飲む。


(`・ω・´)「そうか……引き続き、報告を」

「了解っす!!」


36 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:45:40.59 ID:6PxfiSLS0

管理者を確認したと、報告を告げた人は確かに言った。
しかも、どうやら見たことのない相手らしい。
聞く所によれば、何か、杖のような物を持っていたらしいが。


(;'A`)「……管理者が」

(`・ω・´)「しかし杖ね、何だか……ろくでもない予感がするよ」

嫌な予感は確かにある、けど今回は、それでなくても不安が大きい。
なにせ相手の規模は、前回と比べて遥かに大きな物となっている。

前回の、全滅という結果からか、かなり本腰を入れてきている。
しかもその進行には、どこか必死さも伺えた。

事実、俺たちは既に幾度かの撤退を繰り返している程だ。

いきなり正面からやり合うには、規模が違いすぎるのもある、だが何より。

ショボンが相手のルートを予想し、多数に渡り設置した罠とも言える地点にて、
誘い込まれた敵が、こっちの集めた全火力を受けた際、逃げ出すものは一人もおらず。

40 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:48:30.30 ID:6PxfiSLS0

投石を受け、炎に焼かれ、稲光に貫かれ、人がばたばたと倒れ伏していく地獄絵図の中。


「怯むな!!」

「―――――――――ォ!!!!」

突撃を告げる声に促され、一瞬が連なる世界の狂気に魅入られたのだろうか、
その姿を泥と血しぶきで汚しつつ、それでもこちらへ真っ直ぐに進撃を続けた。

あまりの異様さと、その圧力を前に、士気を失いかけたのはこちら側だった。
これ以上この場に居ては、皆の戦意さえも奪いかねない、ショボンは退却を指示。


そして今に至る。

結局は、その攻防の最中に俺も神具を使って、沢山の人をこの手にかけた。
川辺にて、水を爆発させる事で、足止めと共に数を減らす、体のいい虐殺紛いのことまでやった。

でも、これで少しは楽になるはず。

しかし、そこでショボンは俺に下がるよう指示した。
やはり俺を戦わせないつもりなんだろうか。



41 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:51:32.18 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「……ショボン!!」

(`・ω・´)「何があるか分からない、今は待機だ」

(;'A`)「〜〜〜っ!!」

引きつつ、数を減らすジリ貧の戦い。
それを見ているだけなんて、もう耐えられそうになかった。

いい加減、ショボンの考えが分からなくなってくる。
このままじゃ泥沼だ。何とかしなきゃいけない、何とか。


と、そこへ一つの報告が入る。


(`・ω・´)「……そうか」

(;'A`)「どうしたんだ?」


45 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:56:06.18 ID:6PxfiSLS0

相手の進撃の仕方が、どうもおかしいとショボンが言った。
今回、なぜか相手は固まって進撃してきた。

前回の敗北をふまえての事だろうと思っていたが、それもどうやら違うらしい。
なんでも相手が陣形を組んでくるのは、毎回では無いと言う。
何故か要所で、他所にて争うときは一箇所のみ、統制の取れた動きを見せていたのだ。


そして、その地点には必ず、管理者らしき人間の姿が発見されている。


(`・ω・´)「指揮を執る者なのか、それとも……」

('A`)「……じゃあ、そいつさえ、どうにかすれば」

(`・ω・´)「現在置は分かるか?」

「先ほどはついに、前面に出てきたと報告が」

('A`)「俺が行くよ、ショボン」

(´・ω・`)「……駄目だよ、相手の能力も分からないのに、無茶だ」



46 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 19:58:15.72 ID:6PxfiSLS0

(#'A`)「無茶でも、無理じゃない!! 大体、もう様子見してる場合じゃないだろ!!」

(;`・ω・´)「ドクオ、待!!」


言葉も途中に、俺は駆け出した。

このまま何もしないなんて、それでいい訳がない、いられない。
そうだ、もう、あんな思いをするのも、させるのも沢山だ、

(  ∀ )

川 - )

(メメ Д )

あの時とは違う、あの頃とは違うんだ。

駆けながら剣を抜き放つ、途端に刀身は赤く染まり、陽炎が滲む。
目指すは、今も響いてくるこの歓声にも似た、地鳴りの先。



……。



47 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:01:33.23 ID:6PxfiSLS0

(    ) 「……」

男が杖を掲げる、すると彼を取り巻く集団が狂ったような雄叫びを上げた。

中には、目を血走らせ、額に青筋を浮かべ、口からは涎を垂らす者も居る、
その姿はおよそ常人とは思えず、戦場の狂気にしても、明らかな不自然な姿だった。


「―――――――――ォォ!!」

だが、それでも。この光景に意を唱えるものは居ない。
むしろ発狂した者につられるように、更に士気をあげていく。

異様な状況だが、その中心にて、一人の華奢な男は表情を変えることなく、
ぶつぶつと何かを呟きながら、群れに守られるようにしながら進む。


だが、そこで彼の前方にて異変が起きた。

「ぎ――――――ァァ!!!!!!!!」

群れの先端の一部を、巨大な炎が鞭のようにしなりを上げ、周囲を焼き払う。
その熱線に触れた者は例外なく身を焦がし、あるいは未だ消えぬ炎を消そうと地面を転がる。

(-_-) 「……なんだ?」

現れたのは、燃え盛る炎を宿した剣を握る、一人の男だった。
49 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:04:29.05 ID:6PxfiSLS0

……。


突然現れたドクオを前にして、何故か、敵の兵たちは動きを見せなず、
炎に焼かれてもがき苦しむ姿があるばかりで、関心を向ける素振りすら無い。

明らかに様子がおかしい敵兵たち、だがその先にて一人だけ、
逆に平然とする者が居た、それで確信する、異変の中で異変を持たぬ者、間違いない。


(#'A`)「…お前が管理者か」

(-_-) 「ええそうですよと、つーかだれだよ………」

(-_-) 「……あ、ああ、あんた、あれか……ふーん」

(#'A`)「……他の連中を仕切ってるのもお前だな」

(-_-) 「しきるっーか、あやつってるんだよ」

(;'A`)「操る…?」

(-_-) 「そう、こんな風に」



50 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:07:19.23 ID:6PxfiSLS0

男が杖を向ける、すると、何故か上の空だった周囲の視線が、一斉にドクオへと向かう。
続けて男は、あくまで平坦な口調で、やれ、とだけ言った。


「―――――ォォ!!!!!!!!」

周りの兵たちが揃って吼えた、気合を入れるとか、そういう類の物じゃない。
明らかに気の抜けた、しかし声量だけは大きな、不気味な叫び。

(;'A`)「っ…!」

戦慄を覚えつつも、強く握りなおした剣に、更なる水の障壁をまとい、その炎を放つ。
焼かれた姿が、その身を激しく焦がしながらのたうち回る。だがそこで、更に異変が起きた。

火達磨と化した一人が、そのまま立ち上がったのだ。

その奥で、杖を掲げた男が笑う。


(-_-) 「これは睡操の杖、ケーリュケイオン、人間んを意のままにあやつる神具さ」

(;'A`)「…な」

焼かれた身体から発生した、吐き気をともなう匂いが充満する。
ドクオは思わず息を止め、未だ立ちすくむ姿から目をそらした。

51 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:10:01.36 ID:6PxfiSLS0

(-_-) 「あとそうだなぁ、条件とか、使用法とか、その他諸々、聞く? 何でも教えるよ?」


そんなドクオに、男は何ともなしに告げる。
何故か説明をはじめた事に面食らい、ドクオは立ちすくんでしまう。


(;'A`)「ベラベラと……何考えてんだあんた」

(-_-) 「なにって、そりゃあ」


「へ」だか「ひ」だか判別のつかないような呼吸を一つ。


(゚_゚)「この連中がさあ、自分の意思じゃなくて、俺に操られて無理矢理戦わせられてると聞いたら、あんたやり辛いだろ?」

俺は、言葉を失った。

(゚_゚)「なのに焼かれて可哀想になあー、苦しいだろうに! どうよ!? あんたそれでも戦えんの!?」

代わりに、こみ上げて来るものに身を任せ、再び口を開く。
剣に宿る炎はその想いに応えるように、更に激しく燃え盛る。

(#'A`)「この……野郎…!!」

53 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:13:46.25 ID:6PxfiSLS0

掲げる剣からあふれ出る炎は、ついに身の丈をも上回り、更に伸びていく。
いくら敵とは言え、それを聞かされては確かに、手を出すのに躊躇いもある。

だけど、それでも引くわけにはいかない、それを聞いたら尚更引き下がれない。
それに今の話を聞く限り、逆に考えれば、こいつを倒せばそれでこの戦いは終わる。


(゚_゚)「あれ!? やる気? そっかあーーー!!」

轟々と燃え盛る輝きが刀身の代わりとなる、文字通り炎の剣を振るい、
ニヤニヤとしたまま固まっている男へ向けて、地面を蹴る。

そして、振りかぶった炎の塊を、今まさに放とうとした瞬間。


(゚_゚)「まあ、無駄な訳だが^^;」


その視界の全てを、赤い炎が覆い隠した。




54 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:16:40.46 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「っっ!!!」

あまりに突然の事に、動揺しながらもすぐさま水を球状に展開。
炎がまるで意思を持ったようにくねり、水の障壁にぶつかっては水蒸気を上げる。

そして、剣に宿っていた炎も消えていた。
男はそれを確認すると、大袈裟な素振りで大笑いを始める。

(゚_゚)「ばあーーーーーか、ただ炎を出す剣なんか、火の接続があれば怖くも何ともねえんだよwwwwwwwww」

(゚_゚)「昔がどうだったか知らないけどさぁ、そんな昔にちょっと活躍しただけの剣、今更使い物になるわけねえじゃんw」

(゚_゚)「勝手に自滅してろよ雑魚^^^^^^^^^」

(;'A`)「…!」

見れば、男の周りには既に兵が集まっている。
というか、取り囲まれていた。

(゚_゚)「ほれほれどうすんの、はやく神具使えよ? そうすりゃ今度こそ自分が黒こげだけどなwwwwwwwwwww^^;」

男は杖を向ける、すると、周りの兵たちがじりじりと距離を詰めてくる。
完全に囲まれ逃げ場は無い、戦おうにも剣を使うことさえできない。



55 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:20:07.15 ID:6PxfiSLS0

打つ手が無い。

殺される。

一人、こんな所で?


(;'A`)(……くそ! んな訳にいくか!!)

諦めるわけにはいかない、いかないが。

だがどうすればいい、一体どうすればこの状況を打破できる。
何かあるはずだ、だって、この剣は、あの人達が使っていた物なんだ。

クーだってそう言った、どんな状況でも、どんな相手でも、この炎は……。


そうやって幾つもの記憶を辿る内に。


(; A )「……?」

ふと、思うのは単純な疑問。



58 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:22:19.80 ID:6PxfiSLS0

そういえば、この炎は一体、何なんだろう。

剣が生み出している、それは分かる。

でもそれだけじゃ無い筈だ、何か、何かある。

何か、別の要因があった筈だ。


そうだ、さっきも、今までもそうだったじゃないか。
この剣は、炎はいつだって―――――。


すぅ、と深く息を吐き、目を閉じる。


聞こえてくるは胸の音。
そして耳障りな笑い声。


心を落ち着けて、全神経を、意識を腕の先へと向ける。
ほのかに感じるのは、まばゆさ、そして熱。


( A )「………」

もう一度、深呼吸して。

60 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:25:29.40 ID:6PxfiSLS0

「やれ」


と言う声。


「――ォォ」


それに応える声。


けたたましく響くのは、沢山の足音。


この剣は。

何時だって、思いに応えるように灯り。
その心を映し出すように輝いた。

それが、意味するのは。


( A )「……分かったような気がする」

62 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:28:30.35 ID:6PxfiSLS0

今の状況にピッタリな言葉がある。
人が自分を奮い立たせるその時に使う、とある言葉。


そう。


  ハートに火を点けろと!!



カチリ。


俺の中で、何かが噛み合う音がした。

(#'A`)「!!」

目を開くと同時、腕の先から爆発めいた衝撃音。
それでも構わず、ぐるりと円を描くように剣を振るう。


(# A )「……っ、ぅ、おらあああああああああああああああ!!!!」


放たれたのは、リング状に広がる――――――。


64 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:30:57.10 ID:6PxfiSLS0

(゚_゚)「馬鹿が、やりやがった!!」


―――――――青い炎。


放たれた炎は近寄る集団に触れると、彼等を一瞬のうちに赤い炎が包む。

更に凶悪なまでの熱を放ちながら、広がっていく青い円。
対する兵達の一部が手をかざす、接続し、止めようとしているのだ。

だが。

広がる炎は、その勢いを全く衰えさせない。
そればかりか、更に火力を強めるように爆発めいた音を立て、燃え盛り。


(゚_゚)「え」

やがて膨らみに膨らんだ蒼炎が弾け。

耳をつんざく爆発音。

その衝撃は、兵も、その男も、まとめて吹き飛ばしてしまう程。


66 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:33:37.45 ID:6PxfiSLS0

そして。


( A )「……………」

残ったのは、クレーター状に焼き払われ、煙を上げる大地と、
その中心にて息を荒げる、ドクオの姿だけだった。


(;'A`)「……青く、なった?」

と、ふと気付いたら、辺りが酷いことになっていた。
しばし、自分がやった事だと結びつかず、呆然としてしまう。

今、無我夢中だったけど、どう考えても……。


「う、ぎぎぎ……」


と、奥の茂みが大きく揺れ、擦り傷だらけの男が飛び出してきた。
どうやらピンピンしているらしい、残念だ。


(;-_-) 「な、何でだよ、どうなってんだよ今のは!!」

(;-_-) 「接続不能の炎とでも言うんか!? ざけんな!! 何だよそれ!!!」

68 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:35:44.70 ID:6PxfiSLS0

そう、確かに向こうは接続しようとしていた、なのに、あの青い色をした炎は、
まるでそれを突き破るように火力を増し、挙句にいきなり爆発をしたんだ。

(;'A`)「……」

そして今も、コツを掴んだのか、自由にその色を変えられる。
この青の力に頼もしさを覚える反面、少しだけ、不安も感じた。

しかも、これ程の威力を見せても尚、底みたいなのは感じなかった。

一体この炎は、どこまで……。


(;-_-) 「こうなったら……! おい! おまえらでてこい!!」

その時、怒りをあらわにした男が、背後のほうに向かって何かを呼んだ。

俺はふたたび剣を構えなおし、青い輝きがちらつく切っ先を向けた。
そうだ……今は不安に迷っている場合じゃない、とにかく今はこいつを使うしかない。

(;-_-) 「くそ、くそ…っ、いい気になってんじゃねえよてめぇ、雑魚の癖に…!!」

(;'A`)「……?」

やがて、茂みの奥から数人の影が見えた。
大柄の男と、細身の男。あと何人か。

72 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:38:28.43 ID:6PxfiSLS0

ただの増援か、そう思った矢先。

(; A )「………な!!」

姿を見せたその人物に、俺は驚きを隠せず、構えすら解いてしまった。
何故ならその顔は、その姿は、よく見知った物だったから。


(;-_-) 「ひへへへ、こんな事もあろうかとなぁー、ちゃんと用意してあんだよぉ」


「……」


見間違える筈もない。

その人は、俺の、いや、俺たちにとって。


 _、_
( ,_ノ` )

<_プ -゚)フ


恩人に、他ならないのだから。

74 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:41:20.09 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「渋沢、さん、それに、エクストさんまで……! な、どうして……!!」

(;-_-) 「ひひ、どうしてって、この状況見てわかんねえのお前? にっぶいやつ」

(;-_-) 「まあいいや、もう、そうだ、どうにでもなれだ」

無意識に体がかたむいて、気付けば後退していた。
うそだと心が騒ぎ、同時に違うと否定する。


無理だ、いくらなんでも、この人達に手は出せない。


(゚_゚)「お前等! 今すぐそいつを殺せ!! すぐにだ!!!!!」


更に、奥から渋沢さん達と一緒に居た人たちも、ぞろぞろと姿を現す。

俺は構えを取ることもできず、もう一歩、後退した。
だってそうだろう、攻撃なんて、できる訳が無い。

この人達が居なかったら、あの日、日陽から逃げる事もできず、捕まっていたんだ。
あの助けが無かったら、俺たちは全員、殺されていたかもしれないんだぞ。


76 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:43:51.91 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「や、やめ……」

 _、_
( ,_ノ` )


(;゚_゚)「ひひ、またさっきのを使ってみるかぁ? まあ、そいつらが死ぬぜ?」

(;゚_゚)「できねぇよな、そうだよなぁ! ぶひゃひゃひゃひゃ、いい気味だ!!」


耳障りな声が聞こえてくるが、今はそれどころじゃない。

口を開くことさえせずに、彼らは剣を手に、一歩一歩迫ってくる。
その目には何の意思も宿っていない、まるで眠りにつくように、うつろな表情。

あまりにも、その姿が虚無的で、俺は何も言えなかった。
やめてくれ、目を覚ましてくれ、そんな言葉は浮かんでも喉を通らない。

動揺したまま下がる内に、情けなくも段差につまづき尻餅をついた。
けれど、彼等の足は一向に止まる気配もなく近づき。


やがて、俺の表情に、影を落とす距離までやって来ると、ようやく立ち止まった。

78 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:46:25.74 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「あ……」

<_プ -゚)フ

無言のまま、剣を振りかざす。

俺は腰が抜けたようにへたり込んだまま、その切っ先を目で追っていた。
尖った先端が、陽を反射してぎらりと輝く、俺は何もできないまま、

ただ、見ていることしか出来なかった。

俺に向けられたその剣が。

目の前で、激しい烈音を響かせて。



透明な刃によって弾き飛ばされたのを。



(;'A`)「え!?」

(;-_-) 「何!?」

しばし唖然、この場に居る誰も、一体、何が起きたのか分からなかった。
だが、視界の隅にて、俺はこっちに近づいてくる影を見つけた。

81 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:49:07.37 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「……?」

見た事のない人だ、金髪で、線が細い、中性的な顔立ちの流麗な姿。
その手には、半透明な刀身に虹がうつりこむ、水晶の剣。

乱入者はこっちへ近づきながら、辺りを確認すると忌々しげに目を伏せた。

もうさっぱり分からないけど、この状況。
俺は、この人に助けられてしまったのか。


(;-_-)「あ、あんた、見たことあるぞ、確かツキガミの……シンとか言う…!」

ξ゚听)ξ「ツンだ、まあどうでもいい……何より、そこまで理解しているなら話は早い」

(;-_-)「はあぁああ? 何言ってんの、つーかさ、何邪魔してるわけ!?」

ξ゚听)ξ「ああ、その辺りに転がってるのは私の部下だったのだが……随分、好き勝手してくれたな」

(;-_-)「んだよお前、だから許せませんってか!? よくも僕の仲間とか言いたい訳!?」

ξ--)ξ「そこまで言うつもりは無い…が、貴様のやっている戦士達への侮辱行為、気に入らん」

84 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:51:25.46 ID:6PxfiSLS0

ξ#゚听)ξ「ほとほと愛想がつきた、もういい、この世から消え失せろ下種が…っ」

ツンと名乗ったその人は、剣を真っ直ぐに突き出しながら言い放つ。
しかし分からない、この辺に居るのがあの人の部下って事は、その敵だよ、ね。

いや、それより、その名前自体にも聞き覚えが……。


(#゚_゚)「あれあれあれあれ!? 自分何言ってるかわかってんの?! それあんた、裏切るつもりかよ!!?」

ξ゚ー゚)ξ「ふん…裏切り、それを最初にしたのは果たして誰かな?」

(#゚_゚)「そうかいそうかい、じゃあいいよ死ねよお前、目障りなんだよマジで!」

ξ゚听)ξ「安心しろ、すぐに何も見えなくなる」

(#゚_゚)「ああああああああああぁ苛つく、気に入らねぇのはこっちも同じだ、イケメンは死ね死ね死ねマジ死ね!!」

やれよ手前等、男が狂ったように叫んだ。

すると、何処からかぞろぞろ現れた集団がその姿を取り囲む。
更に、目の前で立ちすくんでいた渋沢さん達も同様に、俺に背を向けた。


まずい、直感的に思う。


85 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:53:43.79 ID:6PxfiSLS0

ξ )ξ「……」

人波の隙間から、あの人の姿が見える、剣を両手に構えなおしていた。

いけない、このままじゃ殺されてしまう、あの人がじゃない、
渋沢さん達が、一緒に殺されてしまうと、そう予感させた。

しかし、その心配はすぐに、杞憂であったと知る事になる。

何せ、取り囲んでいた人たちが襲い掛かり、手にした剣を振り上げた直後、
弾丸のように飛来した水晶の刃が、彼等の得物を弾き飛ばしてしまったから。

残ったのは、何も持っていない手を振り回す人々という、奇妙な光景。

変てこな状況の中、その隙間をツンは何ともなしに歩いていく。
しばし困惑していた杖を掲げる男だったが、それを見て、慌てて後退する。

(;゚_゚)「げっ、ぇ、えええええええ!? な、ちょ、なにそれ、どうなって、はああ!??!?」

ξ゚听)ξ「何だ、本当に自分では何も出来ないのか……」

(;゚_゚)「意味わかんね、意味わかんねえんだけど!! お、おい、お前等、俺を守れよ! 早く!!」

ツンが姿勢を低く、剣の切っ先は背後へ、転じて居合いのような構えを取る。
そうこうする間に動揺する男の前に、人の垣根ができていく。

タッ、と軽やかに、しかし目にも留まらぬ速度を以って、ツンは真っ直ぐに地を蹴った。

87 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:56:25.41 ID:6PxfiSLS0

(;'A`)「……ま、待って、駄目だやめてくれ!!」

その垣根には見知った姿が見える、反射的に叫んでいた。
だが、既にツンは距離を詰め、人壁のすぐ目の前で身を翻し。

垣根に向かって一閃、目にも留まらぬ剣筋が一過した。
その場にうっすらと剣線を残したまま、ツンは彼等に背を向け、
手にした剣をゆっくりと、小気味よい金属音と共に鞘へと収めていく。

キン、と鍔鳴りの音がして、ツンはそのまま動きを止めた。

ほんの少しの間があって、は、と何処からか声が漏れる。


(゚_゚)「は、はははっ、何だよ驚かせやがって、どうしたよ、なんかするんじゃねえのかよ!」

その男も、男を庇うように並ぶ人並みも、変化は無い。
しかしツンは首だけふりむくと、やがてこう言った。

ξ゚听)ξ「もう済んだ」

(;゚_゚)「はあぁ!? ぁガっッ!?!?」

ξ--)ξ「お前は既に、死んでいるよ」

90 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 20:59:51.23 ID:6PxfiSLS0

男は、いきなり口から大量の血を吐き出した。
咳き込んだのもあってか、赤い飛沫が撒かれ、辺りを汚していく。

ふと背中を見せたときに覗いたのは、その背に突き立つ、幾つもの刃。
男はしばし、なんじゃこりゃと騒ぎ、のたうち回った後、ぴくりともしなくなった。

同時に、操られていた人たちが、糸の切れた人形のように倒れ伏せる。

ξ--)ξ「……」

(;'A`)「……」

思い出した、そうだ、ブーンが前に戦ったっていう…湖鏡の管理者。
確かその人も、何もない所から刃を発生させたとか言ってた。

それは分かった、分かるけど、何でその人がここに居て、
この状況から察するに、俺を助けるような真似をしたんだ。


ξ゚听)ξ「おい、起きろ」

とか思ってたら、ツンは寝転ぶ誰かを次々に蹴飛ばしていく。
唖然と見ていると、うぅ、と声をあげて倒れた人が起き上がった。

<_プー゚)フ「……ぅう、なんか嫌な夢見た……」

ξ゚听)ξ「ふむ、どんな夢だ?」


91 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 21:02:51.55 ID:6PxfiSLS0

<_フ;゚ー゚)フ「ああ、それがさぁ……女の乳首がどんどん伸びていってさ、15センチ以上あんのよ……
        しかも太くてさ…マジでこれ、俺のナニよりでかいんじゃないかってどわああああああああああ!!!」

<_フ;゚ー゚)フ「え、何であんたが? ってか、ここ、あれええええ!?」

「……うーん、ん? 何処だここは……」

「って、ツン様? なんで?」

ξ゚听)ξ「うむ、お前達、聞け」

ξ゚听)ξ「私はこれよりあの連盟から抜けるつもりだが、お前達はどうする?」


「 ざわ…… ざわ…… 」

 _、_
( ,_ノ` )「寝起きに状況がさっぱりだが……湖鏡国の天才剣士様がまた、何の酔狂だ」

ξ゚听)ξ「……出来すぎている、そうは思わないか?」
 _、_
( ,_ノ` )「何がだい」

ξ゚听)ξ「全てだ、そして……お前達は今回、その犠牲になった、言えるのはそれくらいだ」
 _、_
( ,_ノ` )「ふーん……よく分からんが、まあいいか、ついて行ってやるよ大将」

94 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 21:09:27.15 ID:6PxfiSLS0

「ツン様、俺もお供しますよー!」

「俺も俺もー!」


「「わーわー!」」

<_プー゚)フ「ノリって大事だよねぇ」

こうして、その場に居た者から、ついには周辺からも続々とやってきて、
妙に和気藹々としながら、レッツ背徳だか何だか言い合っていた。

(;'A`)「……」

それを未だ座り込んだまま、呆然と眺めていた。いわゆる蚊帳の外。
すると、ツンが皆をかき分けるようにやってきて、俺の目の前に立った。

見上げる俺、気付けば周りの視線は全てこっちへ向けられていた。

ξ゚听)ξ「まあ、そういう訳だ」

(;'A`)「ど、どういう?」

ξ゚ー゚)ξ「敵の敵は味方、知らないのか?」

そう言って、先までと違いどこか柔らかい雰囲気を身にまとい、ツンは手を差し出す。
しばし迷ってから、俺は一つお礼を告げて、その手を取ることにした。

こうして、この日。まだ真意も分からないままに、俺たちは二つの頼もしい力を得るに至った。

95 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 21:11:15.85 ID:6PxfiSLS0





               【 次会予告 】ボクヲメーザメサスーヨーウニーテマーネーキーヲースルー






96 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 21:12:35.67 ID:6PxfiSLS0
ミ,,゚Д゚彡「ゲストお願いします>>97

97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/02(木) 21:13:12.72 ID:PypN9nOFO
つん
102 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/07/02(木) 21:28:50.48 ID:6PxfiSLS0

ミ,,゚Д゚彡『揺れ動く展開の嵐、さて次回のお話はー』

ξ゚听)ξ『敵だった筈の人間が味方に、だがそれによる問題も多々、まあ当然だな』


(´・ω・`)「……まあ、いい刺激にもなるんじゃないかな」


ミ,,゚Д゚彡『怪しんでいたところで、同じ釜の飯を食べればそれも変わる……のか?』

ξ゚听)ξ『何にせよ、増強された戦力によって、防衛線もより確かな物となっていく』

ミ,,゚Д゚彡『だけど、そんな最中にツンの口から語れる、驚きの真実とは!』


ξ゚听)ξ「傷? いや、あれはむしろ……」


ξ゚听)ξ『そう、奴は確かに……二人居t』

ミ;゚Д゚彡『はいそこまで!!』

ミ,,゚Д゚彡『そんな感じで次会! 異世界でもう一度 第34会 『 終末への戦い(序) 』 』

ξ゚听)ξ『読まねば斬るぞ……』

ミ;゚Д゚彡『え、何で俺を見るの……』

                                つつく、、、I

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