268 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 18:02:31.48 ID:qYMU+dVZ0
('A`)と( ^ω^)は異世界でもう一度出会うようです





    第28会 「ヒルトの闘技場」


船体に布を被せて、車輪を変えて、すっかり雪道仕様になった陸船に揺られて、
一面に広がる白い世界を横目に、凍えるような寒さの中をひた進む。

せめて天気よく晴れていたなら、陽光がきらめく銀世界だったろうが、
残念ながら空は、どこまで行っても灰色の、厚い雲に覆われているので薄暗い。
しかし、地上は雪の白さによって、不思議と柔らかな明るさに包まれていた。


道中、いくどか立ち寄った集落によれば、この道を行けばヒルトへ着くらしいが、
行けども行けども、それらしき場所は見えてこない。

269 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 18:04:04.26 ID:qYMU+dVZ0
そうして、僕らはかじかんだ手を暖めながら、
刺すような寒さに、ひたすら堪えるばかり。



だったんだけど。

ずっと一人で、ゴソゴソ何かを弄っていたハインによって、
それについては、どうやら解決の兆しを見た。


从;゚∀从「で、できたあーーー!!」

(;^ω^)「なんだお、その変な棒は?」


从 ゚∀从「たらららったら〜、ねつでんどーぱいぷ〜」


ζ(゚ー゚;ζ「ななな、なんですかそれれれ」

从 ゚∀从「これはな、電気を流すとあったかくなる魔法の棒だ」
277 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 18:31:08.44 ID:qYMU+dVZ0
ζ(゚Δ゚*ζ「あ、暖かく!?」

从 ゚∀从「そうだ、こうして……雷珠と繋げれば…」

 _,
(;゚∀゚)「っておおい!! それ俺の神具じゃねえか!!!」


見れば、確かに鉄パイプとケーブルの先には、ジョルジュさんの白い槌が見えた。

どうやら、これがヒーターの電源になっているようだ。

すると、みるみる内に赤く発光して、陽光のような暖かさを運んでくる。

そうなると、流石に寒い気持ちが勝ったのか、抗議の声もなくなって、
こぞって赤灯のまわりへ集まっては、身を寄せ合い、暖をとった。


(;゚∀゚)「なんつーか、複雑な気分だぜ……」


278 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 18:32:22.84 ID:qYMU+dVZ0
ζ(;ー;*ζ「ああぁ…あたたかい……」

( ^ω^)「あ、これの周りをさらに光物で囲うといいお」

从 ゚∀从「なるほど、熱を反射させるわけか」

そして、充分にヒーター周りの空気が熱された所で。
僕は閃いたように、そっと手を伸ばした。


( ^ω^)(……接続)

あたりの風と接続して、その暖かさを巻くように、
緩やかな空気の流れを作り出してみた。

思いのほか、それは上手くいって暖かなそよ風が周囲を巻く。
休憩しながら続ければ、この程度はそこそこ長く持つだろう。

こうして、凍えによる恐怖はどうにか乗り切って。
赤ランプのような、淡い光を灯した船は、更に北を目指す。

そして進むにつれて、段々と雪量が減ってきているのに気が付いた。
ふりむけば、そこには連なる広大な山々の姿がある、
どうやら今まで、山道を進んでいたらしい、そりゃあ寒いわけだ。
300 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 21:17:36.84 ID:qYMU+dVZ0
それを証明するように、雲はボロボロの布の端くれみたいにちぢれ始めて、
隙間からは微かに差し込む光と、向こう側にある空の面影を見せた。

けど地上は相変わらず雪に覆われていて、所々にみえる岩陰の黒さと、
積もった雪の重みで、枝葉を斜めに垂れ下げた変な木々が並んでいるばかり。


(;^ω^)「はー……しかしこりゃすげえお」

从 ゚∀从「だなあ」

雪自体はさして珍しくも無いが、流石にこうまで広域にわたり、
誰にも踏み荒らされていない、純白の雪景色というのは圧巻の一言。


そんな中を進み続けること、半日が過ぎた頃だろうか。

302 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 21:18:09.74 ID:qYMU+dVZ0
ζ(゚ー゚*ζ「あ、明かりが見えますよ!」
 _,
(;゚∀゚)「やれやれ……やっと到着かい…」


僕らはとうとう、ヒルトの国の入り口へとやってきた。
山岳を切り取った、崖のうえにそびえ立つ、天然の要塞。

第一印象は、そんな感じ。

街と思わしき場所が、崖を隔てていくつもあって、
そこに巨大な橋がいくつもかけられ、見果てぬ先まで続いていた。

雪の白色のせいか、人が蠢く姿から、家屋の灯りまでよく見え、確かな営みが感じられた。
その内の一つの橋へとやってくると、物珍しさからか、ジロジロと道行く人に見られている。

そういえば、外交を嫌う、とか言ってなかったか。
……大丈夫なんだろうか、少し不安に駆られる。

306 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 21:30:17.88 ID:qYMU+dVZ0
从 ゚∀从「いやいや、別に余所者を嫌って、見つけたら追い出すとか、
     そういう閉鎖的な意味じゃないから」

(;^ω^)「ならよかったお」

( ゚∀゚)「剣術とかも、ここが発祥の地なわけだしな」

そして、何だかんだで街中へと車輪を進めた僕らだったけど。
聞いていた話とはまるで違う、華やかな町並みに面食らっていた。

暖かそうな厚着を着た人々が行き交う道は、炎珠の明かりに照らされ。
ぼんやりとライトアップされた中を、子供から老人まで、ゆったりと流れていく。

耳をすませば、声を張り上げる物売りの威勢のいい声。

見渡せば、宿屋に食べ物、雑貨に武器まで、たくさんの看板が目に付いた。


なんというか、ここに来て、すさまじい慨視感におそわれる場所だ。


(;^ω^)「平和そのものじゃないかお……」

ζ(゚ー゚;ζ「ですね…もっと殺伐としてるものかと」
314 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 22:01:19.63 ID:qYMU+dVZ0
ひとまず僕らは、あのまま移動してたら目立ってしょうがない、と。
適当な広場を見つけて、そこに陸船を隠し置き、この先は徒歩で向かう事にした。

しっかし実際に、自分の足で歩くと尚更、なんて活気あふれる場所だいと思う。

少なくとも、この光景を見せられて武力大国、と言われてもぴんと来るわけがない。
そう思っていたのだが、残る二人は「それはどうかな」とでも言いたげに含み笑った。


从 ゚∀从「俺からしたら、何かしらの刺激があるからこそ、この活気なんだと思うね」

ζ(゚ー゚;ζ「そういうものですか」

从 -∀从「ものともさ、何もなけりゃ人はただ、自堕落していくばかりだからな」

( ゚∀゚)「それに、連中の格好、よーく見てみ」

(;^ω^)「……?」

言われるままに、道行く人を凝視してみる。
もこもこの固そうなコートに、頭まで覆うフード。
特におかしな点は無い、と思いきや、腰まわりに何かが見えた。

315 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 22:01:41.04 ID:qYMU+dVZ0
( ^^ω)(…短刀だな)

(;^ω^)(やっぱり…?)

( ^^ω)(それにどいつもこいつも、何かしら武器を持っている)

それが意味するのは、この平穏な光景は、ここに敵が居ないからある物で、
もしここで一悶着あった日には、辺りの人間が一斉に牙を向けてくる、かもしれないと。

こういうのを、裏の顔とでも言うのだろうか、確かに怖いところかもしれない。
けど、活気があると言うことは、言わば人々が胸を張って生きている事だ。
それを形にした物が、あの武器という存在なのかもしれない。


( ^ω^)(……)

怖い場所である事は間違いないけど、それと同時に、
ここは良い国なんだな、と確信する自分が居た。


しばらく歩くと、空の暗さが増しているのに気付いた。
始めての場所にくわえて、相変わらず青空なんて見えやしないから、
どうにも、時間の感覚ってのを忘れてしまいそうだが、そろそろ夕暮れ時らしい。
327 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 22:31:12.19 ID:qYMU+dVZ0
ひとまず宿を取ろう、という事になって、適当に見つけた場所に入ると、
髭を生やした気前の良さそうな店主に案内され、寝床となる部屋へと到着。

アルコールランプが照らす部屋は、既に暖まっていて、
僕らは、ここまでの旅疲れを吐き出すように、腰を落ち着けた。
やはり船の上と違って、とても心が落ち着くというものだ。


ζ(゚ー゚*ζ「あ、外また雪が降ってますよ」

从 ゚∀从「ほんとだ」

二人は窓の前を陣取って、外の様子をしげしげと眺めている。
そして僕らは、ベッドの上で足を投げ出して、一旦の休憩。

しばらくすると、エプロンドレスを着た若い女の子が、料理を持ってきた。

  _
( -∀-)「宿はいい、心が洗われるようだ」

( ^ω^)「わかります」


328 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 22:33:56.68 ID:qYMU+dVZ0
つい数時間前までは、寒さに打ち震えていた苦労を思うと、
今はまるで楽園にでも居るかのような、そんな安らぎを覚えていた。


「きゃ、ちょ、どこ触ってるんですか!!」

その時、部屋の奥から籠もった黄色い声が聞こえてきた。
デレとハインの声だった、ちなみにその方向はいわゆるお風呂場だ。

「ほら、長旅で疲れただろうから、揉んであげようかと」

「いいです、いりませひゃあ!? あ、やだやだあ!」

「うーんいいねぇ、こんだけ大きいと、肩こるだろう?」

「だめ、放してくださ………っあ」





( ^ω^)「………」
  _,
( ゚∀゚)「………」

聞こえてくる声に、僕らは顔も合わさず、何も言えずにいた。
反応に困るなぁこういう時って……。
341 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 23:00:38.65 ID:qYMU+dVZ0
果たして、丸聞こえなのに気付いているのか居ないのか、
風呂場の声は、ますます盛り上がっていく。

しかも時折聞こえてくる卑猥な単語がまた、変な想像をさせる。

けど何が気まずいって、隣に居るのは、デレのお兄さんな訳で、
下手な冗談さえ言いづらくて、ただ沈黙が続くばかり。

と思ってたら、ジョルジュさんが何ともなしに呟き。


( ゚∀゚)「なあ」

( ^ω^)「……なんですかお?」

( ゚∀゚)「覗きでもすっか?」

本当にかるーく、そんな問いかけをされた、さも当然であるかのように。
くそ、さっきまでの僕の苦悩はなんだったんだ。
345 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 23:02:49.14 ID:qYMU+dVZ0
思わずいろいろ挙動不振になりかけたけど、平静を装いお断りしますした。

だって、実際にそういうのをしたら、なんか気まずくなりそうなので、
するしないよりも、なるべく意識しないよう、心がけているのだ。


(;^ω^)「……いや、止めておきますお」

( ゚∀゚)「不健康なやっちゃなあ、見たくねーの?」

(;^ω^)「そ、そりゃあまあ……男の子ですし…」

( ゚∀゚)「じゃあいいじゃねえか、視姦しようぜ、鼻血たらそうぜ」

(;^ω^)「ええい何でそんなに覗きをプッシュするんだ
       ていうか、よりによって妹の裸をそんなに見たいのかお?」


( ゚∀゚)「ばっかだな内藤おまえ、大事なのは裸を見ることじゃねーんだよ」
366 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 23:31:00.75 ID:qYMU+dVZ0
(;^ω^)「…ていうと?」

( ゚∀゚)「覗きをしているって行為が肝心なんだよ、わかるか?」

(;^ω^)「いや、いまいち…」

( ゚∀゚)「よし、なら来い! 実践をもって教えてやる!!」

(;^ω^)「ちょ、実践て……あ、ちょっと引っ張らないで!」

(;゚∀゚)「ほれ静かにしろ! ばれるだろうが!!」

こうして、僕はジョルジュさんに引き摺られるように、部屋の奥こと、
お風呂場を隔てる、木製の扉の前へとやってきた。

相変わらず騒がしい声がして、隙間からは中の明るさが漏れ出している。
ジョルジュさんは物音を立てぬよう、慎重に扉の前に張り付いた。
373 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 23:35:01.66 ID:qYMU+dVZ0
(; ω )「……」

ごくり、と喉がなって、それすらも聞こえやしないかと恐怖になる。
未だかつて無いような緊張感に、心臓はやかましく早鐘をうつ。

けど、それとは裏腹に、この先に広がる空間に思いを馳せれば、
目に浮かんでくる、水をはじく玉の肌と、揺れる二つの山。
見慣れたはずの人の、普段は布地に隠された、その先にある姿。

下半身に疼きを感じて、異様なまでの興奮が、気付けば胸まで熱くさせた。


そうか、これか。


分かりましたよジョルジュさん、これが、覗くという行為なのですね。
これこそ生命の鼓動、僕らが生きている証拠そのものだ。

そう確信した瞬間、僕らは視線を交差させて、強く頷きあった。


もはや言葉は要らなかった。


男同士、真の意味でわかりあえた瞬間である。


376 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/01(木) 23:37:04.78 ID:qYMU+dVZ0
僕はすばやく隣に陣取って、様子を伺った。
そして、ささっと脱衣所を経由して、欲情、否、浴場の前へ。


中の二人は、まるで気付いた素振りはない。

無邪気にはしゃぐような、他愛無い声だけが聞こえてくる。


音を決して立てぬよう、細心の注意を払いつつ、扉の取っ手に触れると、
ゆっくりと、少しずつ少しずつ、隙間をつくっていく。
ほのかに、内部の暖かさが漏れ出してくるような、ほんの湿気を感じる。

だがまだだ、これでは見えない、もう少し開ける必要がある。
気が焦り、一気に扉を引いてしまいたい衝動に駆られるが、それは堪える。

出てきたらアウトだ、あまり時間はかけられないが、かと言って焦るのは禁物だ。


この計画に、失敗は許されない。

鼓動に合わせて、自然と息が上がりそうになるが、
それすらも今は自殺行為だと、必死に気配を殺し続ける。
404 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 00:30:09.95 ID:wJScm9b00
やがて、中の灯りがわずかに覗き見えて、動く影まで補足した。

しかしまだ中は見えない、だが、これ以上開けるのは危険なのではないか、
そんな迷いが、胸中に津波のように押し寄せて、耳鳴りすらし始める。

僕らは一度、顔を合わせた。

アイコンタクトで、出されたのはGOサイン。
そうだ、ここまで来たら、引き下がるわけにはいかない。
僕らは再び、戸を慎重に引くべく、姿勢を整える。


しかし、それがいけなかった。

すぐ側にあった小さな棚に体がぶつかって、その上に置かれた小瓶が2、3個倒れ、
小さいながらもよく響く、甲高い音を鳴らしてしまったのだ。


まるで、首筋にナイフを当てられたような、凍てつくような恐怖。
407 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 00:36:18.99 ID:wJScm9b00
しまった、そんな言葉が悲鳴となって、内心を揺さぶる。


「――――っっっ!!」

しかも、瓶なので転がるは必然、カラカラと音は続き、僕らは凍りついた。
一気に血の気が引いていくのを感じ、ずしりと全身が固まって身動きも取れない。

やがて、転がった瓶が何かにぶつかって停止するまで、
息をする事さえ忘れ、その場で嫌な汗がにじみ出るのを感じながら、
あまり知りたくはないが、扉の向こうの気配に意識が向かう。










なぜか、風呂場は静まり返っていた。






416 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:01:53.97 ID:wJScm9b00
心臓が跳ね上がって、喉から飛びでそうな程に高鳴る。


何だこの静けさは、ばれたのか、どうなんだ。


ぐるぐると思考が巡るが、あるのは圧倒的な恐怖。


今すぐ、逃げるべきだ、そうは思いつつも。

もしこの静けさが、こちらの様子を伺っているものだとしたら、
下手に動けばすぐに察知されてしまう、だからまだ動けない。

だがしかし、怪しまれているなら、じきにこっちを確認してくる。
そうなれば、どちらにせよ発見されて全ては終わりだ。

ならどうする、逃げるべきか、まだ様子を見るべきか。


417 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:02:59.91 ID:wJScm9b00
もう耐え切れないと、助けを求めるようにジョルジュさんへ視線を向けると、
僕と同じように、目を泳がせ、来るやもしれない恐怖におびえていた。



それで悟ってしまった、もう、どうしようも無いのだと。



それと、同時に。








「……なあ、いんだろ」


浴室内から反響がかった声が、はっきりと聞こえてきた。
たった一言だけなのに、ずっしりと背中に圧し掛かるような重さだ。
427 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:30:51.98 ID:wJScm9b00
終わった、これで、何もかも終わりだ。
そう思いながら、諦めと共に返事をしかけた、その時。


「え?」

「ここがいいんだろ!」

「きゃっ!? もう、またそういう事を!!」


聞こえてきたのは、水の跳ねる音と、二人の騒がしい声。

それが意味することは、たった一つしかない、あり得ない。


( ゚∀゚)( ゚ω゚)(うおおおおおおおおおおおおおおおおおお)


なんてこったい、どうやら、まだばれて無かったんだ。

強張った体から、力がふと抜けていき、腹にたまった重たさが消えていく。


428 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:31:33.60 ID:wJScm9b00
深く息を吸い込んで、ふと隣をみればジョルジュさんが手を胸に当てていた。
そして、死地から生きて帰ったことを喜ぶように、僕らは顔を見合わせ拳を握った。

さて、それはいいがどうするか。

折角拾った命だ、ここは退くべきでは、と理性が言う。
しかし、ここで退いていいのか、と本能が叫ぶ。


しかし、そんな迷いは数秒にも満たない内に。


「体を洗ってあげよう」

「自分でやりますーー」

「遠慮すんなって」

「してませんーー!」


聞こえてきた声によって、続行を選択した。


429 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:32:39.30 ID:wJScm9b00
どうやら先程まで湯船に浸かっていた、というのが予想される。
そして、これから身体を洗う、と言っているのだ。

つまりどういう事か、分かるはずだ。

魂が震えて、理解できるはずだ。


この一枚の扉を隔てた向こう側で、何かが僕らを呼んでいる。
最早ためらいは不要、この目は既に、裸を見るためだけにある。



ユートピアを見つけた、こんな所にあった、あったんだ!!!!!!!



( ^ω^)b 行きましょう、ジョルジュさん!!

( ゚∀゚)b ああ、この命、ともに尽きるまで!!


言葉にせずとも、意思は伝わる。


それが仲間ってもんだ。
431 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:34:04.95 ID:wJScm9b00
「あ、そうだ」



ああ、僕はこの時のために、異世界へやってきたのかもしれない。
ありがとうみんな、ありがとうおっぱい、全ての愛しきものにありがとう。

僕らはもう一度顔を見合わせると、しっかりと頷き合ってから、
待ち受ける楽園へと思いを馳せ、今、扉へ手を添えて、少しずつ力を加えていく。

あんなに重く感じた扉は、今はこんなに軽い。
ほら、どんどん開いていく、隙間からほのかに湯気が漏れる。

そして充分に隙間が開いたら、そこへ顔を寄せていく。
大丈夫、ばれた様子はない、あとはただ覗くだけ。



今まで……本当に大変だった、命の危機さえ何度も味わった。



だけどこれで報われる、全ては、この時のためにあったんだって、心から思える。
433 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 01:36:11.36 ID:wJScm9b00
中が見えてきた。


さあ、あと数センチ。


影が見えてきた。


あとほんの少しずれれば、辿り着く。



そして、視界が開けた。



( ゚∀゚)「へ?」
( ^ω^)「え?」



いや待て、それはおかしいだろ。

何で視界が開けちゃってんの。



从 ゚∀从「タオルがなきゃ洗えないー……………って」
444 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 02:01:08.68 ID:wJScm9b00
从 ゚д从「……」

ζ(゚ー゚;ζ「へ?」



从 ;∀从「……ぃ、い、い」





     最後に見えたのは。




     目の前に突如として現れた。




     曲線美と、張りのある膨らみに実った、さくらんぼ。





「「いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ」」

445 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 02:01:55.11 ID:wJScm9b00
……。



(メメメメ゚)「いやーひでー目にあったなー」

(メメメメメメ^)「いやまったくですお」

僕らは傷だらけでベッドに横たわり、痛みをどうにか堪えながらも、
確かな信頼感と、口惜しさの中にある種の達成感を感じながら、笑いあった。


(メメメメ゚)「つーかやり過ぎだろこれ、誰だかわかんねーじゃねえか」

ζ(゚- ゚#ζ「自業自得でしょ!!」


从 ;∀从(……むしろデレが怖かった…)


(メメメメ゚)「しかし、まあ、あれだな」

ζ(゚、゚#ζ「なによ」
447 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 02:05:15.22 ID:wJScm9b00
(メメメメ゚)「デレ、お前もうちょっと痩せた方がいいんじゃないか?」


その時、空気が張り詰めるのを感じた。

あまりの緊迫感に、ハインが逃げるように僕の側へ隠れた。
ビリビリと痺れが走るような、圧迫した空気が沈黙となって流れる。


ζ( ー *ζ「……うん?」


(メメメメ゚)「胸で勝ってるのはいいけどよ、それ以外は完全に負けてるじゃねえか
    まあ、相手が単にやたらスタイルいいってのもあるが」


从//д从「〜〜〜っ」


ζ( ー *ζ「……ふ」



(メメメメ゚)「ずんぐりとスレンダーじゃ……なあ?」

(メメメメメメ^)「すいません後生ですから僕に振らないでください」
466 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 04:11:11.99 ID:wJScm9b00
ζ( ー *ζ「……うん、そうだねお兄ちゃん、私も、そう思うよ」


(メメメメ゚)「ん、ああ、そうだろ? 俺も兄として言ってやらなきゃなーと思ってよ」

ζ( ー *ζ「うん、うん、そうだね」

(メメメメ゚)「って、おいデレ、そんなテーブルを持ち上げたら危ないってお前」

(メメメメ゚)「ちょふりかぶ」


「このクソ兄がああああああああ」

「ぎゃーーーーーーーーーー!」


(メメメメメメ^)「ひぃ…」

从;゚∀从「ひぃ…」

そうして残されたのは、見る影もなく叩きのめされたジョルジュさんの姿。
笑い声と、悲鳴のコラボレーションは、ある意味、狂気的な美しさがあった。とか何とか。
468 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 04:28:32.70 ID:wJScm9b00
……。



翌日の早朝、僕は何となく目が覚めて、こっそりと一人、宿を抜け出した。

どうやら朝方まで降り続いた雪は、前日のできごとを隠すように降り積もり、
正に新たな一日を示すように、まっさらな世界を見せていた。


まだ少ない足跡の合間を歩けば、すでに働き始めた人々がちらほら見える。
僕はそんなまどろみの町を、特に行く当ても無いまま、適当に見て回ってみた。


ちなみに、どこもかしこも、しているのは雪かきや、雪下ろし。

お客さんがやってくる前に、店の辺りはしなきゃいけないのだろう。
大変そうだなぁ、なんてのん気に考えながら歩いてると、時折、挨拶も交わす。
それ自体はそう意外でもないが、何よりその自然さが目に付いた。


( ^ω^)(……剣を持ってても、誰も気にしないんだ)

思い返せば、僕らを受け入れてくれた、エッダの村の人々でさえ、
こうして剣を腰に下げていたら、少なくとも物珍しそうに観られていたんだ。
だと言うのに、それがない。改めて、ここの人々がいかに武器を見慣れているかを感じた。
487 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 09:34:57.77 ID:wJScm9b00
けど、一つ気になるのは、言葉を交わした人との別れ際、
去り行く僕を見て「さんかしゃなのかね」と、口にする人が居た事だ。


(;^ω^)「……酸化?」

(;^^ω)(錆びる!?)

気にはなったけど、その台詞は僕に向けられた物ではなくて、
首をかしげながらも、早朝の雪景色をながめる作業は続いた。


しばらく大通りを進むと、道が交差する大きな広場に出た。


雰囲気からして、この区画の中心に位置するのかもしれない、
そう思いながら見渡せば、井戸端会話を勤しむ人たちの姿があった。
吐く息の白さも、4人も並べば大きく広がって、雲みたいだ。


488 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 09:35:36.58 ID:wJScm9b00
しかし気のせいか、この辺りはいい匂いがする。

と、そこでようやく、その誰もが紙コップめいた物を手にしている事に気付いた。

しかも暖かそうな湯気を膨らませている、気になって目で追っていると、
少し先に、温泉でもあるかの様に、大きな白煙をあげているところがある。

どこの家からも似たような煙は出ているが、そこのは異様なほどだ。
小さなコテージの様な場所だ、屋台か何かだろうか。
ちょっと期待しながら近寄ってみると、今も中の人が誰かにコップを渡していた。


( ^ω^)(売り物なんだろうか……)

(;^^ω)(おい、そんな物乞いみたいな目で見るなよ)

(;^ω^)(〜〜……見てないお)

( ^^ω)(くれないかなーとか考えてたじゃないか)

(;^ω^)(それくらい普通でしょうに…)
490 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 09:36:20.77 ID:wJScm9b00
とその時、こっちを見ながら寄ってくる、一つの人影に気が付いた。
手にはコップを二つ持ち、白の中に輝くような赤髪を揺らす女性だった。
そこまで理解する間に、僕の前までやってきたその人は、おはようと言って。


ノパー゚)「どうぞ?」

と続けて、手にした紙コップを僕へと手渡した。
あちち、と受け取れば、湯気にまざって唐辛子のような匂いがした。


( ^ω^)「いいんですかお?」

ノパー゚)「支給物だから気にしなくていいよ」

山菜のスープだから、大した物じゃないけど、と続けた。
一口すすれば、舌がピリッと刺激される中に独特の甘さが広がる。
ああこれは暖まりそうだと、そんな風に感じた。

一息ついた所で、ふと見れば、先の女性が微笑みを浮かべていた。
何というか、上品さを感じるような、そんな仕草だった。

500 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 10:00:48.66 ID:wJScm9b00
ノパー゚)「あなた、旅の人?」

( ^ω^)「…わかりますかお?」

ノパー゚)「うん、見ない服装だし……それに…」

( ^ω^)「…?」

ノパー゚)「あれだけ物珍しそうに、見つめてれば、ね」

(;^ω^)「あ…ははは……」

くすりと笑って彼女は続ける、それからちなみに、
ほれ見ろ、と言って来る声があったけど、そっちは無視しておいた。


ノパー゚)「ここへは何しに?」

( ^ω^)「えと」

普通の質問なんだけど、何て答えたらいいんだろう。
やはり、この国の王様に会って、話がしたいとか、そんな感じだろうか。
とまで考えて、こんなの言える訳がないと気付いて、僕は口ごもった。

521 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 13:00:40.11 ID:wJScm9b00
観光……ってのもおかしいか、立ち寄っただけってのも変だ。
色々考えてはみるけれど、なかなか言葉が見つからない。


ノパー゚)「もしかして、何か悪いことでも企んでるの?」

(;^ω^)「いやいや、決してそんな事は!」

ノパー゚)「ふふ、そうよね…そんな感じには見えないもの」

すると迷っている僕を見かねたのか、冗談めかして彼女は言う。
しかしそんな感じって、どんな感じに見えると言うのやら。

だから物乞いだろう、と声が聞こえたけどまた無視した。


ノパー゚)「まあ、うん、そんな無理して話す必要はないわよ」

( ^ω^)「すみませんお……えーと」

ノパー゚)「あ、私はヒートよ」

( ^ω^)「ヒートさん、僕は内藤ホライゾンですお」

522 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 13:00:59.09 ID:wJScm9b00
そんな当たり障りのない会話から、話はそこそこ弾んで、
僕は彼女から、この国についてを色々と教わった。


中でも一番重要だったのは、まず僕らが目指すべき場所。


どうやら崖で区分けされた町の一番奥地に、王が住む城砦があるらしい。
試しに会うことは出来るのかな、とさりげなく聞いてみれば、無理ねと返された。


( ^ω^)(そりゃそうか)

( ^^ω)(そりゃそうだ)

考えてみればそうだ、今までのようにコネは無いし、どうするんだろう。

何気に手詰まりである事を感じて、なんだか先行きが不安になってくる、
思わずため息が漏れそうになるのを堪えて、再び前を向きなおす。

すると、ヒートさんが伺うように僕を見ていて、はっとした。
話の勢いでつい聞いてしまったけど、流石に怪しまれてしまったらしい。
524 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 13:01:37.41 ID:wJScm9b00
ノパー゚)「どうして? 王様に用事でもあるのかしら?」

(;^ω^)「いや、ちょっと気になっただけですお」

ノパー゚)「嘘」

(;^ω^)「え…」


ノパー゚)「隠さないでもいいわよ、あなたの目的、わかるから」


ギクリとした。


彼女は相変わらず微笑みを浮かべたままだけど、目が笑っていない。


しっかりと開かれた眼光は鋭く、全てを見透かすような瞳にすっかり飲まれて、
やましい事がある訳でもないのに、身じろぎも取れずに固まった。

541 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 14:53:09.75 ID:wJScm9b00
この感覚は、この押し潰されそうなプレッシャーは、どこかで感じたような。
そこでふと脳裏をよぎったのは、とある管理者と戦った時のこと。



そうだ、これではまるで、ツンの眼を見てしまった時と同じ――――。



(;^^ω)(おい内藤!)

(;^ω^)(…っ!)


ノパー゚)「あなたも、あれに参加するつもりで来たんでしょう?」

(;^ω^)「……参加…?」

ノパー゚)「あら、違うのかしら?」


542 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 14:53:27.84 ID:wJScm9b00
ノパー゚)「そんな……護身用にしては、随分な代物をぶら下げておきながら」

彼女はそう言うと手のひらを返し、僕の腰に下げられた剣を指す。

太陽が見えない今、抜けば切れ味の悪そうなボロっちい姿とは言え、
そこは神具と言うべきか、柄の部分には豪勢な金色の装飾がされてるから、
確かに目立つと言えば目立つ、しかし、それに何の関係があると言うのだろう。


ノパー゚)「?」

困惑する僕を見つめて、くすくす、と笑う姿はある種の妖艶さを帯びていて、
もしこんな状況でなければ、きっと見惚れてしまうだろう。

だけど、そんな状況なのでそれ所ではなくて。

僕はわけもわからず、ただオウム返しに聞き返すことしか出来なかった。


ノパー゚)「そう……その様子だと、本当に知らないのね」

(;^ω^)「……何の話なんだお?」

ノパー゚)「いいわ、教えてあげる」
562 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 16:52:09.01 ID:wJScm9b00
着いてきて、彼女はそう言って背を向けた。
ひるがえった赤髪がさらりと揺れる。


そして彼女は振り返らずに、前を向いて歩き出した。


その時、どうする、と内心に呟きかける声がした。


( ^ω^)(……行くしか、ないと思う)

少しだけ迷ったけど、すぐにそう返事をした。

すると、それを後押しする声が聞こえてきて、僕はひとり頷き、
早くも離れはじめた彼女の背中を、駆け足で追いかけた。


……。




563 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 16:52:41.43 ID:wJScm9b00
ノパー゚)「ほら、あれを見て」

(;^ω^)「……こ、これは」


迷路のような町の雑踏の中、僕は彼女の背を必死に追いかけ、
やがて、岩肌をくりぬいた階段を上り、登って、昇ってまた上り、

ようやく、辿り着いたのは、辺りを一望できる展望台だった。


ヒートさんが何かを指し示すけど、まるで耳に入ってこない、
僕はただ、この視界いっぱいに広がる、素晴らしい景色に見入られていた。


雪色に染められた絶壁の岩山。


谷底の見えない巨大な渓谷には、今も煙のような霧が漂い。


浮かぶ孤島のような町並みと、それらを繋ぐ巨大な橋。


そう、まさに言うなれば空中都市。



564 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 16:58:48.69 ID:wJScm9b00
目に映る全てが壮大で、絵画のような幻想観を持ちながら、その鮮明さに目の奥が熱くなる。
例えれば、古代遺跡が蘇ったような、そんなロマンとファンタジーがそこにあった。


ノパー゚)「どうしたの?」

(;^ω^)「……いや、眺めが、あんまり綺麗でつい…」

ノパー゚)「そう? ありがとう、でも古びてボロボロなだけよ」

ほら、あっちこっち崩れかけてる、と言って指を向けるけど、
僕にしてみれば、それとて景観をつくる要因にしか思えなかった。

そうしてすっかりここに来た目的を忘れ、しきりに感動する僕を見て、
はにかむ様に笑うと、そろそろいいかしら、と幼子を叱るように問うた。


(;^ω^)「あ、はい、そうでしたお」

ノパー゚)「あの丸い大きな砦みたいなの、わかる?」

( ^ω^)「…ん、あー…わかりますお」

ノパー゚)「あそこはね、ヒルトに古くからある闘技場なの」
577 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 18:12:37.62 ID:wJScm9b00
見えるのは、遥か遠い先、霧で霞みかけた景色の中にぼんやりと浮かぶ、
瓦礫で建てられたような風貌の、縦長ドーム状の巨大な建造物だった。


(;^ω^)「闘技場…? ていうと、そのままの意味で…?」

ノパー゚)「ええ、そのままの意味で」


( ^ω^)「今も使われてるのかお?」


ノパー゚)「もちろん、今現在もトーナメントが組まれて、毎日毎日、
    終わることなく、飽きずに戦い続けているのだわ……」


参加資格はとくに無く、誰でも登録すれば混ざることはできるらしい。


ルールは特になし、接続でも、どんな武器でも使用可能、
とにかく相手をKOするか、降参させれば勝ち、次に進める。

578 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 18:12:59.29 ID:wJScm9b00
一応、殺しはご法度になっているが、気休め程度にしかなっておらず、
もし相手を殺した場合は、殺した奴の技量不足ということで、両者失格になるそうだ。


( ^ω^)「……トーナメントって事は、その先に何かあるって事、かお?」

ノパー゚)「察しがいいわね、その通りよ」

この戦いは、脱落してもまた挑める為、トーナメント表はいつも満員御礼。
そのせいもあって、既に予定だけでも一ヶ月先まで組まれている。

そうして何十日にも渡る、長い闘いを制し。

勝ち抜いて、頂点を掴んだ者には、ある物が与えられる。



一つは、最強である事の証明、そしてもう一つは……。




579 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 18:14:08.19 ID:wJScm9b00
(;^ω^)「……もう一つは?」

ノパー゚)「…全てよ」

(;^ω^)「全て?」

ノパー゚)「そう、全て、富も名声も、人間でさえ、どんな事でもいい
     望むもの全てを我が物とできるの」

広がる景色の前に立ち、両手を広げて彼女は言う。
まるで、その背景にある物がそうであるかのように。


何だか大袈裟だけど、つまり……どんな願いも叶えてくれる、って事だろうか。


ノパー゚)「もちろん、王に会って何を話すのだって出来るわ」

(;^ω^)「……」
600 名前: ◆aYo30Ks4N6 :2009/01/02(金) 21:01:47.14 ID:wJScm9b00
僕は息を飲んだ、もしそれが本当なら、この国の協力を得られるかもしれない。
これでも、僕らは管理者だ、普通の人間を相手に負けるとは思えない。

しかも話しを聞く限り、一対一。

僕とジョルジュさんが二人で挑めば、きっと、どちらかは勝ち残れる。

クーとショボが言っていた通りだ、この国の性質が僕らの背を押す。

進むべき道が、希望が見えてきた。

すぐに戻って伝えれば、きっとジョルジュさんも話に乗るはずだ。
高揚していく心を抑えきれず、僕は拳を握っていた。


ノパー゚)「……挑んでみたくなったかしら?」

( ^ω^)「……ちょっとだけ」

ノパー゚)「じゃあ、もう一つ教えてあげる」


601 名前: ◆aYo30Ks4N6 :2009/01/02(金) 21:02:18.91 ID:wJScm9b00
ヒートさんは含み笑うように、唇の端を吊り上げた。
その表情はどこか満足気で、そして悪戯めいている。

ふと、嫌な予感がした。


ノパー゚)「毎日トーナメントが行われているのに、勝ち残る人は誰も居ないの」


ノパー゚)「どうしてだか、わかるかしら?」

(;^ω^)「そりゃ……あれ……言われてみれば妙な?」

ノパー゚)「それはね、ただ勝ち残って終わりじゃないからよ、むしろ、本番はそこから」


勝ち進み、トーナメントを制した者には、新たな資格が与えられる。

それは、ミッシングエースと呼ばれる、4人の選りすぐりの精鋭達と、
ヒルトに住まう全ての者達の頂点に立つ、最強の管理者、紅牙への挑戦権。
603 名前: ◆aYo30Ks4N6 :2009/01/02(金) 21:02:38.66 ID:wJScm9b00
(;^ω^)「4人の精鋭と、管理者に……?」

ノパー゚)「そうよ、その5人を打ち倒した者だけが、栄光を手にする事ができるの」

しかし、4人の戦士を倒すことすら困難は極まり、それに加えて管理者の存在。
故に、未だかつて、それを破りて栄誉を掴んだ者は存在しない。


(;^ω^)「誰も…って、言うかずっとその人らは居るのかお?」

ノパー゚)「ええ、彼らはその立場に選ばれると同時に、名前と仮面を先代から受け継ぐの」

そんな彼らは現在、6代目と7代目が入り混じった状態にあるそうだ。

ちなみに変わる時というのは、先代が破られた時と、死した時。
つまり、代を乗り越える程に、彼らと言う存在は強くなってきたのだと言う。


(;^ω^)「……」

ノパー゚)「それでも、腕に自信があるのなら、参加してみるといいわ」
607 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 21:05:41.69 ID:wJScm9b00
先程までの浮ついた気分が、一気に冷めていくのが分かる。
まあ、確かに話が旨すぎるとは思ったけど、これは確かに厄介だぞ。

4人の精鋭とやらはまだ、何とかなるとは思う、けど問題は管理者だ。


神具には大抵、何かしらの超常的能力が付加されているが、

中でも、特に厄介なのは、契約型とか呼ばれる代物だ。

そういうのは、こちらの強さ如何に関わらず、変てこな力を使ってくる。
持ち主の不死身化やら、打ち合うだけで相手を衰弱させるやらと。


僕はそれで過去、何度か痛い目にあっている。


もし、その相手もそういった能力を行使してくるとすれば、たたじゃ済まないばかりか、
同じ管理者とは言え、力押しだけが取り得の僕らでは圧倒的に不利だ。


608 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 21:06:52.93 ID:wJScm9b00
希望が見えたかと思えたけど、やはりその道は相応に険しい。
ショボが居れば、また違ったのかなとは思えど、それは考えても仕方が無い。

不安ばかりが募る。


けど。


それを思い出した時、あの時の光景がふと頭をよぎる。
それを合図にして、波のように溢れる思い出。

これが最後だと問われて、それでも戻らないと決めた、あの離別の日。
そしてここへ来るまでに出会った人々、失ったもの、夜空の下で約束した言葉。


(  ω )「………」

ああ僕は、自分でも気付かない内に、少しは強くなれたみたいだ。


でもそれは、僕自身によるものではなくて、この胸の熱さが。

信じた道を歩むと決めた、そんな決意を支えられるだけの記憶が、
ここまで進んできた全ての出来事が、くじける心のつっかえ棒になる。

609 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2009/01/02(金) 21:07:17.16 ID:wJScm9b00



だから、大丈夫。



ノパー゚)「怖くなった?」

( ^ω^)「いや、全然ですお」

ノパー゚)「……へえ」


( ^ω^)「それで、どうすればいいんですかお?」

ノパー゚)「何がかしら?」



( ^ω^)「そのトーナメントへの、参加の仕方、ですお」







 

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/02(月) 07:01:00.26 ID:ZByHoT/o0
…………。


  _,
( ゚∀゚)「んで、お前はそれにエントリーして来た…ってか?」

( ^ω^)「ですお」

あれから、最寄の登録場とやらに連れられて、早くも参加登録を済ませた僕は、
トーナメントの基本的なルールから準備するもの、手順などの説明を受けた後。
彼女の案内で町を見て回り、遅めのお昼を頂いて、それからようやく宿へと戻ってきた。

帰り着く頃にはすっかり時間も経って、既に時刻は夕暮れ時。
しかしエントリーの件で、すっかり舞い上がっていた僕は、
意気揚々に詳しいことを話せるだけ、包み隠さず話したのだった。

その間、三人とも唖然、と言った様子で耳を傾けていたけど。
話しが終わる頃には、それぞれ困惑した表情でうーん、と唸っていた。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/02(月) 07:04:40.20 ID:ZByHoT/o0
(;^ω^)「あれ……駄目だったかお?」

ζ(゚、゚;ζ「ダメと言いますか…」

从 ゚∀从「まあ、こっちもこっちで色々調べてまわってみたんだがな、実際問題、
     普通に王様に会うことさえ出来ないっぽいし、それしか今は手がない…か」

( ^ω^)「うん、まあでも大丈夫、心配いらないお」

ζ(゚ー゚;ζ「それは、まあ、ブーン様の実力はわかってますけど……」

从 ゚∀从「デレは心配性だなぁ、それくれー信じてやんなよ」

ζ(゚、゚;ζ「だって、こうまで毎回一人で突っ走られたら心配もしますよぉ」

从 ゚∀从「む、それもそうだぞ内藤! 俺たちに相談もしないで決めるなよ!」

(;^ω^)「……ごめんお」

ずい、と身をのりだしたハインが僕の鼻頭に指を向け、思わずのけぞってしまう。
コロコロと移ろいゆく態度はともかく、それを言われるとぐうの音も出ない。
今までにも色々心配かけてるのに加え、やはり話だけでも先にしておくべきだったかもしれない。
8 :月曜?ぼこぼこにしてやんよ:2009/03/02(月) 07:08:07.39 ID:ZByHoT/o0
  _,
( ゚∀゚)「まあ、それは分かったけどよ……だが内藤、一つだけ聞かせろ」

(;^ω^)「え……は、はい?」

とか思ってたら、ジョルジュさんが僕を睨むように見据えたまま、低い声で問いかけてきた。
若干どもりながら応えると、言葉を溜めるように間が生まれた。

場の空気が一気に重くなる。

宿屋の一室に静寂が訪れ、外から聞こえてくる喧騒がやけに遠く感じた。
それから一呼吸の間をおいて、ジョルジュさんが口を開く。


  _,
( ゚∀゚)「そのエントリーってのは、てめーだけがしてきたのか?」

( ^ω^)「いえ、もちろん二人分ですお、僕と、ジョルジュさんの分」

 _,
(*゚∀゚)b「ならよし! ていうかよくやってくれた!!」

( ^ω^)b「えへへ」

ジョルジュさんは少年のような笑顔で、目をキラキラさせて親指を立てた。
分かりきった事だ、ここで僕だけエントリーなんてしたら、この人が納得するはずがない。

9 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:10:15.14 ID:ZByHoT/o0
続・男の友情、魂でわかりあった僕らからすれば、あまりに当然の事なのだ。
差し出された手を強く握り締めれば、僕の左手の骨がみしみしと悲鳴をあげる。

つい左手でのシェイクハンドに応じてしまったが、そっちは強化の布が巻かれた側。


(li゚ω゚)「ぎゃあああああああ骨が、骨があああああああ」
  _,
(;゚∀゚)「ああっ、すまんつい力入りすぎた!」

( ;ω;)「ぐう……神具の力が身にしみる……ッ」


从;゚д从(ダメだこいつら……早く何とかしないと……)

そんな一悶着を済ませ、更に話は続く。

早くもやる気満々のジョルジュさんの押しもあって、残る二人も納得してくれたが、
まだ不安気ではあるようで、大丈夫なのかと似たような質問が続く。
流石に自分で何を見たわけでも無いし、実際がどうなのか不明な以上、それも当然だった。


( ^ω^)「ほんとに平気だってば、だって僕クウガだもん」

从*゚∀从「答えになってないぞ…! けど、この安心感と胸の高鳴りは何!?」

10 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:13:02.93 ID:ZByHoT/o0
ζ(゚、゚*ζ「それに…ほら、そのヒートって人も…大丈夫なんですか?」

( ^ω^)「ていうと?」

ζ(゚、゚;ζ「初対面の相手をいきなりそんなのに誘うなんて…ちょっとその、怪しいというか…」

从 ゚∀从「だなぁ、どんな不審者だったんだそのヒート的な輩は?」

(;^ω^)「不審者て…いや普通の人だお、それどころか言葉遣いもすごい丁寧で、
       なんていうか大人の女性って感じの…」


从 ゚∀从ζ(゚、゚*ζ「オトナノ……ジョセイ?」


(;^ω^)「…ん?」
 _,
(;゚∀゚)「あー? なんだ、ヒートって女なのか?」

(;^ω^)「……あれ? 言わなかったですかお?」

11 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:15:18.39 ID:ZByHoT/o0
( ゚∀゚)「ああ、てーか名前からして男だと思ったわ」

( ^ω^)(ヒート…ひぃと……緋色、緋斗? ああ、確かに男っぽいかも)


( ゚∀゚)「そうか……てっきりライバルかと思ったが、違ったんだな」

( ^ω^)「あ、もしかして、それでそんなに心配してたのかお?」

  _,
( ゚∀゚)「たりめーだろ、そういうのは早く言えってんだ
     ほら、お前を蹴落とすとか、そういう何か企んでんだと勘繰っちまったじゃねーか」

( ^ω^)「いやいや、大丈夫だお、身体つきだってほっそりしてたし、
       そういうのとは無縁そうな、こう、綺麗な赤い髪の美人さんだお」

  _
( ゚∀゚)「お? なんだなんだ色気づきやがって、そんなにお前好みの女だったのか?」

(;^ω^)「ちっ違いますお! そうじゃなくて、ただ怪しくないって言いたいだけでですねぇ!?」
13 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:17:58.61 ID:ZByHoT/o0
  _
( ゚∀゚)「まあまあ、そうムキになるなって、んでおっぱいはあったのかい?」

(;^ω^)「背の高さの割にはあんまり……って、だから!」
  _,
( ゚∀゚)「見るとこは見てんじゃねーか、このむっつりめ」

(;^ω^)「〜〜〜っ……とにかく、大丈夫だお、なんか罠があるとかそういうのは」



ζ( ー *ζ「……怪しい」



( ^ω^)「なぃ…………え?」


14 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:20:06.76 ID:ZByHoT/o0
从 ∀从「……ああ、怪しいぜえ」



(;^ω^)「……ええ? いやだから」



ζ( 、 *ζ「確か……お昼もご馳走になったんでしたよね……その人に?」

从 ∀从「……そうかぁ、そんなかわいこちゃんと二人っきりでねぇ」


( ^ω^)「かわいこちゃんて、そんなもう誰も使わないような表現を……」

(;^ω^)「って、そうじゃなくて、案内してもらう流れでそうなっただけで、別に何も」

从#゚Д从「ふんだ、どうせ鼻の下のばしてたんだろ! もう知らない!!」

ζ(゚、゚;ζ「もしかして、年上が好みとか……?」


Σ从;゚∀从(あれ!? しまった、ここはツンデレする場面じゃないのか!?)

15 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:23:28.51 ID:ZByHoT/o0
ζ(-、-liζ「それともやっぱり…細いのが好みなんですか……」

(;^ω^)「いや、だから、さっきのはただ普通である事を伝えようとしただけで、他意は何も」

从 ゚∀从「あー……わーってるよそんなの、空気も読み損ねたし、俺おまえの妻だし」

( ^ω^)「ごめん最後なに言ったかわからなかった」


从 ゚∀从「んん、お前にそんな甲斐性ないって言ったんだよ」

ζ(゚、゚*ζ「ぁ……それもそうですね」


从 ゚∀从(ほんとにさ……そんなのがあるなら)

ζ(゚、゚*ζ(こんなに苦労しませんよ……)


从;-∀从ζ(-、-;ζ「はあ……」


(;^ω^)「……なんなの?」

( ゚∀゚)「もっとマメになれって事だろ」

(;^ω^)(……豆?)ナンノコッチャ


16 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:29:28.98 ID:ZByHoT/o0
从 -∀从「……けど、まあ細いのを綺麗と称した事実は変わらないわけだが」

ζ(゚ー゚#ζ「……む…」


ζ(゚、゚*ζ(……ランニングでもしようかな…)

( ゚∀゚)「ダイエット頑張れよマイシスター」

ζ(゚д゚#ζ「うるさい黙れ」



…まあ、そんな感じで。


何はともあれ、新たに見え始めた進むべき道は、果たして正しいのだろうか。
そんな不安が見え隠れするも、いつも通りの光景がそれを誤魔化すように場を和ませていく。
僕は苦笑しつつ、肩の力が抜けるのを感じてほっと一息ついた、のだが。

18 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:33:57.79 ID:ZByHoT/o0
頭の中に響いてくる声だけは、それとは正反対に重苦しい物だった。


( ^^ω)(……ヒート、だったか)

( ^ω^)(ん? どうしたんだお?)

( ^^ω)(確かに、どうも怪しい女だったと思ってな)

(;^ω^)(ええ……そうかなぁ? 普通にいい人っぽかったけど)

( ^^ω)(いや、いい人かどうかは知らんが、そういう類の話じゃないホマ)

( ^ω^)(ふむ?)

( ^^ω)(最初に展望台へ向かった時だ、あの入り組んだ道なりを走っていたにも関わらず、
      着いてみればあの女、息一つ切らしてなかったんだぞ? しかもお前を先導したままな)


19 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:39:51.47 ID:ZByHoT/o0
(;^ω^)(そ、そうだったかな…そんなことまで覚えてないお)

(;^^ω)(どこ行ってもお気楽なやっちゃ…ああ、それにあの身のこなしもな、只者じゃなさそうだ)

( ^ω^)(よく見てるねぇ……けどあまり人の身体をじろじろ見るのはどうかと思うよ?)


( ^^ω)(風呂覗くやつに言われたくないホマ)

(;^ω^)(ぐ……あー、でもこの国は逞しい人が多いらしいから、それでじゃないの?)


( ^^ω)(だからおかしいんだろ、ていうかお前、それさえ気付かなかったんだな…)

(;^ω^)(え、なにを?)

( ^^ω)(あの女……この町で見かけた人間のなかで唯一、何も武器を持っていなかったんだよ)

( ^ω^)(ん……あ、そういえば…)


20 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:43:05.61 ID:ZByHoT/o0
( ^^ω)(単に隠しているだけだったかもしれんがな、だが他の連中がひけらかしてる中で、
      一人だけそんな事をしているのもよく分からん)


そして、もう一つ思い出したのはそれ以前、広場での出来事だった。

ヒートさんが、僕に参加者なのかを問いかけた時の、あのぞわりとした感覚。
ただ見られているだけだった、なのに僕は身じろぎすらとれなかった。

恐怖でもなく、ただの動揺にも似てるけど、それとも違う感覚。

ただただ気圧されるような、不思議な瞳だった。
あれはいったい、何だったのだろう。

特に悪い感じでは無かったから、すっかり忘れていたけど、
そう思い返せば確かに、どうにも不審な点がいくつも浮かんでくる。


( ^ω^)(……普通の人ってわけじゃ無さそうだお)


21 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:45:24.00 ID:ZByHoT/o0
けど、それを考えた所で何がわかる筈もない。
多少の警戒はすべきかもしれないけど、それも何だか失礼な気がするし。

そもそも、別に参加を勧められただけで、それ以上何をどうこうと言う訳でもない、
楽天的な考えかもしれないけど、やっぱり悪い人じゃないという確信もある。

だから今は、とりあえず明日からの事を考えよう。


( ゚∀゚)「んで、初戦はいつなんだ?」

( ^ω^)「三日後の正午、みたいですお」
  _,
( ゚∀゚)「んじゃ、それまでに色々用意しとかねーとな!」

( ^ω^)「はいですお!」


22 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:48:45.47 ID:ZByHoT/o0
 _
(*゚∀゚)「んん、しっかしたのしみだなぁ! もう今日から寝れねーかも俺!」


(;^ω^)(遠足前の子供かお……)

ζ(-、-;ζ「……お兄ちゃん…」

从 ゚∀从「嬉シソウダナー」






………。






川 ゚ -゚)「行ったか……しかし、本当に大丈夫なんだろうか」

('A`)「どうだろ、けど…」

時は戻ってもう一方、場所は変わって豊穣の地エッダにある、アルスターの村。
ヒルトを目指し、旅立ったブーン達を乗せた陸船を、ドクオ達は見えなくなるまで見送っていた。

23 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:52:52.07 ID:ZByHoT/o0
川 ゚ -゚)「けど?」

('A`)「ブーンが居るから、きっと…」

川 ゚ー゚)「……信じているんだな」

(;-A-)「いや、うーん、でも…何とかなる、とは思わないんだけど、
    きっと大丈夫だろう、と思うというか」

(;'A`)「何ていうんだろなぁこれ……うーん」

(´・ω・`)「まあ、信用ってのはまた違う気がするよね、危なっかしいし」

(;'A`)「あー…そうなんだよなぁ」

(´・ω・`)「能天気な癖に、一度考え込むと一つのことしか見えずに突っ走るからねぇ
      僕と会ったばかりの頃だってさ、何回変な言いがかりをされた事か……」


ショボンは舌打ちを一つに、最後のほうはどこか忌々しそうに呟いていた。


24 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 07:59:39.86 ID:ZByHoT/o0
……何かあったのだろうか、何となく仲間はずれ感があって、一抹の寂しさが胸を駆ける。
でも、そういえば、ブーンとショボンっていつの間にか仲良くなってたけど、
その辺については何故か、聞いても答えてくれない。


(´・ω・`)(……あからさまに人をホモ扱いした事、絶対に許さないよ)

しかも、本人は気付かれないよう遠まわしにしている事が、余計に腹立たしい。
ショボンのブーンに対する態度があれなのも、そこに起因している事は誰も知らない。


川;゚ -゚)「信用があるのかないいのか」

(;'A`)「でも、まあ、最後にはどうにかなるんだろうな、ってさ
    そういう変な安心感みたいなのがあるんだよ」

(´・ω・`)「あれで結構しつこいからねぇ、馬鹿だからあんまり引く事もしないし」
29 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 08:49:41.53 ID:ZByHoT/o0
川 ゚ー゚)「……なるほどな」

二人で陰口めいたものを言い合っていると、不意にクーがくすりと微笑んだ。
そして、そう言うなり、一人で何かを納得するように頷いている。


(;'A`)「なるほどって……何が?」

川 ゚ -゚)「……ちょっと悔しいから、教えてやらん」

(;'A`)「ええ?」

けど訪ねたら、何故か口を尖らせてそっぽ向いてしまった。
どう見ても拗ねている様子だ、俺か、俺のせいか。
そうは思っても、どこに怒らせる要因があったのかさっぱり分からない。

30 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 08:52:07.00 ID:ZByHoT/o0
何が何だか分からなくて困っていると、やがてショボンが続けた。


(´・ω・`)「まあ、それは置いておいてさ、そろそろ準備を始めようか」

(;'A`)「準備?」

(´・ω・`)「うん、迎撃の準備だよ」

(;'A`)「迎撃って…? どうしてそんな、まだ攻めちゃこないんだろ?」

川 ゚ -゚)「……本格的には、だな」

(´・ω・`)「そう、ブーン達には向こうで頑張ってもらうために言わなかったけど、
      いくら何でも完全にスルーしてくれる、なんて事はまず無いと考えた方がいい」


(;'A`)「そう……やっぱり、そうなのか?」
32 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 08:56:20.55 ID:ZByHoT/o0
(´・ω・`)「…向こうにしてみれば、僕らは怨敵なんだよ、
      なのに、足並み揃うのをいつまでも待てるはずがない」

(´・ω・`)「団結してくるのか、それとも別働でくるのかは分からないけど、
      近いうちに必ず、もう一度どこかしら攻めてくるよ」


その気持ちだけは、俺もわかるつもりだ。
大事な何かを壊されて、それを黙っているなんて出来るはずがない。

気持ちだって、やがては薄れてしまう、そうなる前にと感情はいつも昂ぶるものだ。
事実はどうあれ、その感情だけは決して否定できるものじゃない。けど。

('A`)「かたき、か……誤解なのに…」

('A`)(……誤解?)

今しがた、不安めいた思いが胸をざわつかせた。
かたきが誤解だった、なんて、真実を知る術がなければ誰も知りようが無い。



なら、俺は?


33 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 08:58:28.62 ID:ZByHoT/o0
(;'A`)(……)


俺にとっての仇。

浮かぶのは一つだ。

だけど、本当にそうだったのかな。
それは、本当に怒りだけだったんだろうか。


「そうでなければならない」


そういう使命感が、迷いを断ち切ろうとする心を奮わせたのが、
あの湧き上がる激昂だったのではないのか。


ずっと思っていた事がある、あの日、ジョルジュさんから弟であった事を聞かされた時から。
そして、神具の力によって人が操られる……ぺニサスさんの例を見て、更に強まったこの思い。



あの人も、

34 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 09:04:01.95 ID:ZByHoT/o0
誰かに、操ら川д川「じゃから、わし等はシャキン様の下迎え撃つのじゃよ!」

(;'A`)「っ!?」

(;´・ω・`)「ねえ、そのノリさ、いつまでやるの?」

川*д川「それはもちろん、救世主が闇を切り裂き、光をもたらすまでじゃよー」


川 ゚ -゚)「…ドクオ?」

(;'A`)「……あ、ちょっとぼーっとして…」

いつの間にか入り込んでいた、思考の海。
たぶん呆けていた俺を、貞子さんの元気のいい声が現実へ引き戻した。
思わず見回すと、クーの顔が目に飛び込んできた。

穏やかで、ほんの少しだけ微笑むような表情、そしてその凛とした声。
その全てがこの胸を温かくさせる、けど、それも最近になってからだ、
ちょっと前までは、本当にまるっきり別人だったんだ。

35 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 09:07:41.02 ID:ZByHoT/o0
そして、元の彼女がどういう人だったか、もう俺以外は誰も知らない。

この世界に、もう誰も居ない、誰も……明るい彼女の笑顔を、知らない。
それを思うと……あまりの豹変ぶりに、見ているだけで辛くて、苦しかった。


それは誰のせいだ。


脳裏をよぎるのは、あの日の、感情さえも失くした様に、ただただ、涙だけをこぼす泣き顔。


(; A )(……馬鹿か俺は…理由なんかどうでもいいだろ、そんなの関係ねえよ)


( A )(……関係…ねえよ……)



36 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 09:17:09.85 ID:ZByHoT/o0


それなのに、この淀んだ迷いを振り切れない自分が居た。

漫画の登場人物のように、想いの一つも貫けないこの弱さが嫌で、
悔しさにひとり拳を握り締めれば、手のひらを抉る爪がやけに痛かった。






だから。



受け継いだ剣に宿るあの炎が、その心を写すように暴れている事にさえ、
この時の俺は、気付いてすら居なかった。





39 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 09:29:43.32 ID:ZByHoT/o0
川 ゚ -゚)「……」

そして、そんなドクオを見据えて、思うのは。


川 ゚ -゚)(…ドクオは気付いているのだろうか)

どうにも彼は、内藤の存在を心の支えにしている節がある。

そして、自分の中にある物から目を背けている。
まるで少し前の自分を思わせる姿だった。
こうして外から見てみれば、その危うさを感じずにはいられなかった。


川 ゚ -゚)(なら、もし、その内藤が居なくなったら……)

どう転んでも、悪いほうにしか考えが浮かばない。
自分とてそうだった、依存か、拒絶か、あるいは現実からの逃避か。

川  - )(私は……私に、それを支えられるような存在に…なれるのだろうか…)





 そうして、様々な不安と、思惑を重ね合わせ、時は続く。
 
 もうじき訪れるであろう、二つの戦いを予感したままに―――――。

40 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 09:33:41.41 ID:ZByHoT/o0





             【 次回予告 】カウンゼローカメンライダーアギィトォーー






41 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 09:42:02.92 ID:ZByHoT/o0
ミ;゚Д゚彡「ぬわあ、128規制がこうまで厄介な代物だったとは…」


ミ,,゚Д゚彡「けどこのスレを見た時、え? という疑問を感じたと思う、
      月曜の朝だからこそ、そんな気持ちを忘れないで欲しい」

ミ,,゚Д゚彡「とりあえず予告は入れるけど、このまま次の話までながら投下は続くのであった」

ミ,,゚Д゚彡「そんな感じで次回予告、ゲストお願いします
>>42
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/02(月) 09:55:38.50 ID:x3dKqykN0
川 ゚ -゚)
43 : ◆6Ugj38o7Xg :2009/03/02(月) 10:19:38.71 ID:ZByHoT/o0
ミ,,゚Д゚彡『意外に早かったな……それはさておき保守を兼ねた次回のお話は!』

( ,,゚Д゚)『ブーン達ははやくもトーナメント戦開始、まずは軽く予選突破…と思いきや』


(;^ω^)「え、真剣は使っちゃ駄目ってことかお!?」

( ,,゚Д゚)『どうやら神具を使って戦うことはできないようだな』

ミ;゚Д゚彡『ていうかギコ? あれ、ゲスト違くね?』

( ,,゚Д゚)『知らん』
ミ;゚Д゚彡『知らんておま』


(´・ω・`)「どうせバレてるんだ、なら使わせてもらうよ…名高い破壊の剣の名前をね」

( ,,゚Д゚)『そして、エッダの地を守るべく立ち上がるドクオ達、その時ショボンは?』

ミ;゚Д゚彡『…まあいいか、えーと次回、異世界でもう一度 第29会 「双戦」』

ミ,,゚Д゚彡『読んでく( ,,゚Д゚)『うし、次が突っかえてるから撤収すんぞミ;゚Д゚彡『あるぇー!?』

………。

川 ゚ -゚)「あれ……誰も居ない?」

川  - )「……けど、何だろう……」              

                   「………懐かしい、感じがする……」  つづく、、、I

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