- 3 :
◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
19:50:29.15 ID:OmsJtZVdO
- 僕が生まれた時、世界は混沌の時代を迎えていた。
誰もが世界の展望に深い不安を抱き、
希望よりも絶望を見出だしていた。
そして、僕の父親はそれを誰よりも喜んでいた。
何故なら、僕の父親は世界を混沌に陥れた張本人だったからだ。
- 4 :
◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
19:51:46.57 ID:OmsJtZVdO
- 僕の父親は残虐性で他の追随を許さないほどの極悪非道だった。
気にいらない奴は殺せばいいとか、気まぐれで町一つ吹っ飛ばすとか、まあ最低な奴だったが、
僕の回りでは絶賛されていた。
そして、そんな父親は僕に英才教育を施した。
もちろん、「残虐性」における「英才」教育だ。
僕はそんな父親の教育と、父親そのものを、へどが出るほどクソつまらないと感じていたが、
何しろ奴は世界最強だったので、手も足も出ない僕は内心うんざりしながら父親の手ほどきを受け、
残虐性を身につけていくフリをしていた。
- 5 :
◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
19:53:38.05 ID:OmsJtZVdO
- しばらくして。
父親は死んだ。
というより殺された。
父親を殺したのは一人の人間で、
馬鹿みたいに強かったらしい。
でも、ウチのクソ親父も世界最強だったので、二人は相打ちして両方とも命を落としたと聞いた。
父親の部下が大慌てでそれを僕に伝えに来たとき、僕はざまぁみろ、と思った。
- 9 :
◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
19:56:16.61 ID:OmsJtZVdO
- 部下達が盛大な葬式を上げているとき、僕はそれを冷めた目で見ると同時に、
あのバカバカしい「えいさいきょういく(笑)」から解放された事に喜びを感じていた。
が、それもつかの間だった。
- 10 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
19:58:42.36 ID:OmsJtZVdO
- (;´∀`)「ショボン様ー!」
(´・ω・`)「何さ」
僕が生まれてこの方数える程しか外へ出ていない住み処の中、僕の部屋でエロゲーを楽しんでいたその時、
元父親の部下で、現「自称」僕の部下であるモナーが焦りを浮かべた表情で扉を開けた。
- 11 :◆L66fmP/Ue6:2008/01/03(木)
20:00:18.73 ID:OmsJtZVdO
- (;´∀`)「少しお耳に入れたいことが……」
(´・ω・`)「今セクロスシーンだから後にしてくれない?」
(;´∀`)「いえ、出来れば今、聞いていただきたいのですモナが」
(´・ω・`)「……分かったよ」
僕は画面に映る、全裸で恍惚の表情を浮かべている眼鏡っ娘に一時的に別れを告げて、
モナーの方を向いた。
- 13 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:03:49.85 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「で、何?」
(;´∀`)「実はですモナね……ま……いえ、ショボン様の父上様の命を奪った男に……」
(´・ω・`)「もったいぶらずにさっさと言ってよ、萎える」
(;´∀`)「スイマセン、少々ショッキングな内容で……」
(´・ω・`)「どんな内容だって、言うの躊躇ってたら一緒じゃないのさ」
(;´∀`)「は……。
その憎き人間が……、子孫を作っておりましたモナ」
- 14 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:06:44.56 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「……そんなどうでもいい事を言う為に僕の至福の時を止めたのなら、
ぶち殺される覚悟は出来てるよね?」
(;´∀`)「いえ、本題は、その子孫達が貴方様を倒そうとしているらしいということなのですモナー」
(´・ω・`)「はぁ?また何で?」
( ´∀`)「それは、ショボン様は紛うことなき魔王の血を引いていらっしゃるのですモナから……」
モララーが言った言葉に、僕の耳がピクリ、と動いた。
- 16 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:08:43.15 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「魔王、ね。
こんなエロゲとニコ動とラノベと漫画だけが生き甲斐の引きこもりが、
魔王と名乗って何の得になるのやら」
( ´∀`)「重要なのは体裁ではありませんモナ。
貴方様はあの大魔王のご子息……」
(´・ω・`)「はいはい分かった分かった。
用事は済んだでしょ、早く出ていってよ」
( ´∀`)「……お言葉ですがショボン様。
呑気に遊んでいらっしゃる場合ではないと存じ上げますモナ」
- 18 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:12:21.79 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「……んもー、しつこいなあ。
僕に何をしろっていうのさ」
( ´∀`)「すぐさまその子孫らを滅ぼすべきモナかと」
(´・ω・`)「何で?話と僕の記憶が正しければ、
その子孫達とやらはどれだけ早く子作りして、どれだけ早く早産で生まれても、
まだティーンエイジの青春真っ盛りじゃないの?
いくらなんでもまだ来ないでしょ」
( ´∀`)「懸念は早めに無くしておくべきですモナ。
ましてや相手は大魔王様を相打ちとはいえ屠った人間の子孫ですモナ」
(´・ω・`)「……しつこいなぁ」
- 20 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:14:38.99 ID:OmsJtZVdO
- バカバカしい。
一体全体この僕が何をしたと言うのだ。
住み処からほとんど出たことの無い引きこもり。
趣味はさっきも言った通り、ゲーム全般とニコ動とプラモデル作りと読書(主にラノベと漫画)。
時々性欲発散。
そんな人間として考えれば底辺な僕を、たかだか血統の問題で、長い旅の末に殺すなんて、
ご苦労な事をしたがるものだ。
- 21 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:16:52.29 ID:OmsJtZVdO
- ( ´∀`)「貴方はいずれ大魔王様の意志を継ぎ、世界を手に入れられるお方ですモナ。
邪魔者は容赦無くお切り捨てになってこそ、大魔王様もお喜びに……」
(´・ω・`)「いい加減うるさいぞ、モナー」
僕は少し口調を険しくして言った。
(´・ω・`)「僕の前であのクソ親父の話をするな。
二度とだ。いいな。
分かったら失せろ。本当にぶち殺されたいのか?」
モナーは少し苦い顔をして、「失礼しました」と言って去って行った。
- 22 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:18:22.92 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「……全く」
僕は溜め息をついて後ろに寝転んだ。
何が世界征服だ、くだらない。
そんなことするくらいなら、メイド服を世界制服として、全女性にその着用を絶対義務付ける方がよっぽど素晴らしい。
大体、僕は根本的にあのクソ親父と何処かが違うと常々思っていたのだ。
そして多分そのカンは正しいだろう。
- 24 :あちゃー、まただスンマセン:2008/01/03(木) 20:20:26.02 ID:OmsJtZVdO
- クソ親父のように無駄な殺生は好まないし、他人を屈服させて服従させようとも思わない。
至って平々凡々な平和主義者なのだ。
それが何の因果か魔王の息子に生まれ、ウン代目魔王継承者ときたもんだから笑えない。
僕は引きこもりで十分だ。
- 25 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:23:35.50 ID:OmsJtZVdO
- ……ただ、だからといって僕を殺しに来る輩を放っておいたら、
それこそ先代の魔王、クソ親父と同じ轍を踏むハメになってしまうだろう。
それはそれで困る。
僕の部屋にはまだ未プレイのゲームや未読の漫画、ラノベがうず高く積まれたままなのだ。
少なくともこれらを満喫するまでは絶対死ねないし、これから発売されるであろう新ゲームや新刊の為にもなるだけ生きていたい。
となれば、殺すとまではいかなくとも、何とかしなくては行けない。
(´・ω・`)「何か良い案は無いものかなぁ……」
思案していると、再び部屋のドアが開いた。
- 26 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:25:44.59 ID:OmsJtZVdO
- 川 ゚ -゚)「失礼致します」
入ってきたのは僕の世話係兼その他色々を担当している部下の一人、クーだった。
川 ゚ -゚)「昼食をお持ちしました」
(´・ω・`)「ああ、うん。
そこに置いておいて」
川 ゚ -゚)「……どうかなされましたか?
何か不満でも?」
(´・ω・`)「いや……」
川 ゚ -゚)「性欲の発散を望まれておられるなら、ふつつかながらお相手をさせて頂きますが」
一般にサキュバスと呼ばれている種族である彼女は、恥ずかしげも無くそう言い放った。
(´・ω・`)「……それはまた今度で良いや……」
僕は断る。
確かにさっきまではそういう気分ではあったが、
今はもうそんな気分にはなれなかった。
- 27 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:26:27.95 ID:OmsJtZVdO
- 川 ゚ -゚)「では何がご不満なのですか」
彼女は頭も切れるし、魔術を使わせれば、一応は魔王である僕に匹敵するほどの力を持つエリート魔族だが、
時々融通が聞かないのが玉に傷だ。
こういう場合は適当に話をずらしてしまうに限る。
(´・ω・`)「クーは、さ」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・ω・`)「僕がこんな魔王で良いと思う?」
- 28 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:26:57.75 ID:OmsJtZVdO
- ある意味僕の事を僕以上に知っているであろう彼女にそんな質問をしたすぐ後、
僕は質問する内容をもっとか考えるべきだったと後悔した。
クーは僕が最も信頼している、
言わば側近だ(モナーも立場的にはそうだが、彼は僕に伝統的な魔王であることを強要する節があって、あまり好きではない)。
だから彼女の事は気に入っているし、
彼女は思ったことはハッキリと言うタイプだから、
彼女にもモララーと同じようなあり方を要求されたら、
僕は少し凹む。
- 29 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:27:42.22 ID:OmsJtZVdO
- しかし、彼女の返答はそんな悩みなど一蹴してしまった。
川 ゚ -゚)「よろしいのでは?」
(´・ω・`)「え?」
川 ゚ -゚)「私はショボン様の魔王としてのあり方について、
どうのこうのと、言うつもりなどありません」
(´・ω・`)「……そう、か」
川 ゚ -゚)「はい。
ショボン様がどのような生活をお送りになられるおつもりでも、
例え誰にも知られないような場所でひっそりと暮らそうとも、
私は何処までも付いていきます」
そう言って彼女は少しはにかんだ。
そして、僕は少し、いやかなり嬉しい気持ちになりながら、
突然閃いた。
(´・ω・`)「そうか……!」
川 ゚ -゚)「どうかなされましたか?」
(´・ω・`)「……少し手伝ってくれ、クー。
面白いこと思い付いた」
川 ゚ー゚)「……もちろん、喜んで」
- 32 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:29:14.05 ID:OmsJtZVdO
- ( ´∀`)「本当ですモナか、ショボン様!」
(´・ω・`)「うん、マジマジ。
ちゃっちゃと世界征服しちゃうから、さっさと準備して」
(*´∀`)「おお……。
このモナー、この日をどれほど待ち望んだか……!」
ゴメンよ、モナー。
本当はそんなつもりさらさら無い。
- 33 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:31:29.88 ID:OmsJtZVdO
- モナーの嬉しさは半端無かったらしく、
軍は瞬く間に編集され、世界征服に向け動き出した。
僕の率いる魔王軍は、実にスムーズかつ順調に侵攻を開始した。
- 34 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:32:10.34 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「あ、一つ命令ね」
( ´∀`)「は。何でしょうか」
(´・ω・`)「必要以上に街ブッ壊したり大虐殺とかすんなよ。
街は僕の恐ろしさを思い知らせるために適度に壊していいけど、人は出来る限り殺すな」
( ´∀`)「と、申しますと……?」
(´・ω・`)「あんな奴らでも多少の労働力にはなるだろ?
世界征服したら、それなりに奴隷が必要になるんだから、
出来る限り生かしておけばいい」
( ´∀`)「分かりました……では、そのように」
(´・ω・`)「頼んだよー」
- 35 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:34:38.55 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「……クー。そっちの方はどう?」
川 ゚ -゚)「順調です」
(´・ω・`)「OK。引き続きよろしく」
川 ゚ -゚)「畏まりました」
- 37 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:36:31.55 ID:OmsJtZVdO
- 僕の思惑は、軍の世界侵攻とは別の場所で静かに進んでいた。
それからしばらくして、軍は世界中を侵攻し、適度な具合で世界をドンヨリとさせた。
あまりやり過ぎても困る。
僕の目的はそこにあらずだ。
そしてそれから更にもうちょっとしばらくして、
一息ついてエロゲーをしていた時にクーから知らせが入った。
- 40 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:39:16.12 ID:OmsJtZVdO
- 川 ゚ -゚)「ショボン様。
大方シミュレートが終わりました」
(´・ω・`)「おお、出来たの?
「勇者ご一行 適当にレベルアップしつつ人々を救いながら世界中を回る魔王打倒の旅ガイド」」
川 ゚ -゚)「はい。後は臨機応変に微調整していけばよろしいかと」
(´・ω・`)「ご苦労様。
念のため聞くけど、誰にも知られてないだろうね?」
川 ゚ -゚)「勿論です。
その辺に抜かりはありません」
- 41 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:41:43.60 ID:OmsJtZVdO
- ここら辺でバラしてしまおうか。
僕の目的はただ一つ。
勇者に魔王……つまり僕を倒させることだ。
それも完璧な形で。
今や世界中に蔓延る魔物共を、流星のごとく現れた伝説の血を引く勇者がバッサバッサと薙ぎ倒し、
苦しむ全ての人々を救い、そして諸悪の根源である魔王を倒す。
ようするにド〇クエのストーリー再現だ。
それも超イージーモード。
最後に、僕は倒された振りをして適当に逃げ、
素晴らしきノーバディキャンストップ引きこもり生活へと入るのだ。
正に一石二鳥。
モナー達には悪いが、僕は夢と欲望を捨てられない男だ。
- 43 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:43:06.07 ID:OmsJtZVdO
- (´・ω・`)「分かった。
……いやー、結構骨が折れるもんだね、魔王ってのは」
川 ゚ -゚)「それはそうでしょう。
他に類を見ないほどのワンマン経営者ですから」
(´・ω・`)「経営者って……。
まぁいいや。
後はアッチが「勇者」になるのを待つばかりかな」
そして、それは大して先の事ではなかった。
- 44 : ◆L66fmP/Ue6 :2008/01/03(木)
20:45:53.93 ID:OmsJtZVdO
(;´∀`)「魔王様ー!」
僕が呑気にあくびをかますと、モナーが部屋に飛び込んで来た。
(´・ω・`)「君が血相を変えて飛び込んで来た理由を当てて見せよう。
「皆の希望を背負い、勇者が立ち上がったのだ!!」
ジャジャーン!!」
(;´∀`)「そ……その通りですモナ」
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