- 437 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:46:18 ID:l6Jj2O2I0
〜 メシューマ近郊の街道 〜
( ^ω^)「メシューマまではもうすぐだおね」
ξ゚听)ξ「まいごのまいごのわんわんお〜♪」
(∪^ω^)「わんおー」
ξ゚听)ξ「あなたのおうちは♪」
(∪^ω^)「わんわんお!」
ξ゚ー゚)ξ「ちょっと鳴くのが早かったわねー」
( ^ω^)(何か妙にツンの機嫌がいいお……)
第四十六話 穏やかに加速する時
- 438 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:47:18 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「しっかし、いい天気だおね」
僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。
ξ゚ー゚)ξ「そうね、絶好の旅日和って感じがするわ」
彼女の名はツン。
サンライズの隣の武術道場の娘で、いわゆる幼馴染というやつだ。
(∪^ω^)「わんわんお!」
この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。
( ^ω^)「まあ、もうすぐ着いちゃうけども」
僕とツン、そしてわんわんおの3人は馬車でメシューマの町へ向かっていた。
今回は商売や人の送迎ではなく、例の闘技大会を観に行くのが目的だ。
ある意味観光の様なものだが、そんな浮かれ気分で観られる大会にはならない可能性が高いので、
それなりの備えはして来た。
- 439 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:48:21 ID:l6Jj2O2I0
ξ゚听)ξ「メシューマも案外あっという間ね」
( ^ω^)「馬車だし、僕らがだいぶ旅慣れしたのかもしれんお」
(∪^ω^)「わんわんお」
そうかもねとにこやかに微笑みながら答えるツンから視線を外し、僕は馬車の進行方向に目を向ける。
もうそろそろ、メシューマの町が見えて来る頃だろう。
( ^ω^)(結局、ツンも巻き込んじゃったおね……)
今回、僕はここに1人で来るつもりでいた。
しかしながら、ツンは僕がどういうつもりでメシューマに行くのか見抜いていたのだ。
当然、フィレンクトさん達の事は話したし、彼らが闘技大会に参加する理由もツンは知ってはいたが、
まさかこうも簡単に僕の行動が読まれるとは、ひょっとして自分はすごく単純な人間なのかと考えてしまう。
( ^ω^)(でも、いてくれた方が助かるのは事実なんだおね)
僕はわんわんおに歌の合いの手を入れさせようと教え込むツンを盗み見る。
行動を完璧に読まれたのは悔しい部分もあるが、それでも僕の意を汲んで手伝ってくれるのはありがたくもある。
- 440 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:49:52 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)(戦闘に参加するだけが目的じゃないし)
今回、僕は闘技大会見物という建前の元、万が一の時の為にメシューマに向かっている。
灰衣の男とマルタスニム、2人の危険な犯罪者が参加する大会だ。
何事もなく終わるとは考え辛いので、有事の際には戦闘に加わったり、見物客を避難させたりするつもりだ。
そんな時にツンがいてくれるとかなり助かるので、最終的に押し負けてツンの同行を許可する事になった。
危険性を考えると巻き込みたくはなかったのだが、僕にツンを止め切れるだけの器量はない。
魔法使い1人より、護衛がいた方がいいというツンの言い分はもっともなのだ。
ξ゚ー゚)ξ「ホント、いい天気。クー達も来ればよかったのにね」
つ∪^ω^)「わんお!」
( ^ω^)「しょうがないお。状況が状況だけに、騎士団とか王家の関係者が来てる可能性も高いお」
クーはサンライズの店番、トソン君は教会とそれぞれ後事を託してある。
トソン君の方は若干不安はあるが、クーはもうサンライズの仕事を十分任せられるくらいにはなっている。
製造や鑑定なんかは無理だが、販売だけなら何の心配もしていない。
( ^ω^)「それに、クーまで付いて来たらサンライズの店番頼む人がいなくなっちゃうお」
ξ゚听)ξ「それもそうね。今回は都合良くシューが来てくれるって事もなかったし」
- 441 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:51:12 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「今回は近いし、そんなに長旅にはならないだろうから、閉めちゃってもよかったんだけどね」
ξ゚听)ξ「まあ、クーもだいぶ使える用になって来たんだし任せても大丈夫でしょ」
(∪^ω^)「わんわんおー」
そうこう言っている内に、メシューマの町が遠くに見えて来た。
メシューマに着いたらジョルジュさん達が泊まっている宿を探し、それから少し町を見て回ろうと思っている。
ξ゚听)ξ「お祭りってことで、人は多そうよね」
( ^ω^)「ここの祭りには来たことなかったからわからんけど、もともと賑やかな町だから多そうだおね」
ξ゚听)ξ「ま、観光に来たってわけでもないし、その辺は気にしてもしょうがないわね」
ツンが言う様に、町を見て回るのは観光目的ではない。
町の地形や状況の把握、不審な物や人など、色々と問題のありそうなものを事前に見ておきたかったのだ。
そういうのは多分、フィレンクトさん達もやってるのだろうけど、
有事の際には僕達もすぐ動ける様に把握はしておくべきだろう。
- 442 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:52:37 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「でも、見回りついでにちょっと美味いもの食べるぐらいはいいおね」
(∪^ω^)「わんお!」
大きな町のお祭りだ。
色々と屋台が出てるのではないかと思う。
わざわざ出向いて来てるのだし、それを見過ごすのはあまりに惜しい。
こういう時だが、いや、むしろこういう時だからこそ美味い物を食べて英気を養うべきだろう。
ξ゚ー゚)ξ「そうね、それくらいはいいんじゃない?」
(∪^ω^)「わんわんお!」
(*^ω^)「そう来なくちゃだお!」
僕は手綱を握り直し、馬車の速度を上げる。
前方には、もうはっきりとメシューマの町の姿が見えていた。
ここで何が起きるのか、それとも起きないのか今の所はわからないが、何が起きてもいいように備えておこうと思う。
まずはやはり腹ごしらえだと決め、僕は未だ見ぬ立ち並ぶ屋台の景色に思いを馳せた。
- 443 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:54:20 ID:l6Jj2O2I0
〜 メシューマの町 コーマノリ軒 〜
( ^ω^)「確かこの店だったはず……お、いたいたお」
(∪^ω^)「わんわんお!」
僕達はメシューマの街中で軽く腹ごしらえをした後、落ち合う約束していた場所へ辿り着く。
1階が酒場、2階が宿屋になっているらしい店の、酒場の右奥辺りに約束していた顔があった。
_
( ゚∀゚)「よう、来たか」
(-_-)「長旅、お疲れ様です」
そこにいたのはジョルジュさんとヒッキーさんという、あまり目にしたことのない組み合わせだった。
フィレンクトさん、ミルナさん、シブサワさんは明日に備えてそれぞれ別々に町の様子を確認しているらしい。
ハインさんはちょっと体調が優れないということで部屋で休んでいるとのことだ。
ξ゚听)ξ「そうなの? それじゃ、ちょっとハインの様子見て来ようかしら」
_
( ゚∀゚)「今は寝てると思うぞ。さっき声かけても反応なかったしな」
ハインさん本人も大した事ないから少し寝ればすぐ治ると言っていたらしいので、
僕達はそのまま2人と同じテーブルに着く。
- 446 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:56:30 ID:l6Jj2O2I0
(-_-)「我々は留守番です。何かあった場合に備えるという事で」
( ^ω^)「お疲れ様ですお。今の所は変わった事はなさそうですかおね」
(-_-)「恐らくは。しかし、街中が平素と既に変わっている状態ですので、断言は出来ませんが」
ξ゚听)ξ「私達も見ました。街中の至る所に大きな柱が立っていましたね」
(∪^ω^)「わんおー」
闘技大会は街中で行われるので、街中の一角を結界で囲み、他に被害が及ばないようにすると聞いている。
一角といっても、かなり広いスペースのようだが、その柱は結界用の柱ということはわかっている。
( ^ω^)「パッと見、普通の術式に見えましたけど、実際に発動してみたらって事もありますからね」
(-_-)「自分も不審な点はなかったと思いましたが、本職ではないので絶対とは言い切れませんね」
僕達は、今見てきた街中の様子についてヒッキーさんと話し合う。
流石に灰衣の男やマルタスニムがメシューマと繋がっている可能性はないとは思っているが、
それでも用心をするに越したことはないだろう。
- 447 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 21:58:14 ID:l6Jj2O2I0
- _
( ゚∀゚)「皆ちょっと神経質過ぎると思うんだがな。ここまで来たら腹括ってどっしり構えとけばいいのによ」
僕達が話し合うのを横目に見ていたジョルジュさんがポツリとつぶやく。
しかしながら、そう言うジョルジュさんも、今日は珍しくアルコールを取っていない様だ。
状況の厳しさは理解して、明日に備えて万全を期そうとしているのだろう。
( ^ω^)「備えあれば嬉しいなだお」
( ^ω^)「それに僕らは大会に参加しないんだし、今の内に出来る事はやっておかないと」
_
( ゚∀゚)「そういうもんかね。まあ、何もなきゃそれでいいさ」
ジョルジュさんはコップを傾け、中を空にする。
ヒッキーさんがそれにおかわりを注ぐ。
_
( ゚∀゚)「サンキュー」
(-_-)「いえ」
言葉少なげな2人だが、仲が悪いとかそういうのはないらしい。
性格や職業的に共通な話題はなさそうな2人だから仕方がないのかもしれない。
- 448 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:02:17 ID:l6Jj2O2I0
- _
( ゚∀゚)「案外話は合うもんだぜ? ヒッキーは意外と酒強いしな」
( ^ω^)「そうなんですかお?」
(-_-)「いやあ、嗜む程度ですけどね」
そういえば、ヴィップで飲んだ時もヒッキーさんはずっと平然とした顔をしていた気がする。
あの時は結構な時間まで飲んでいたのだが、翌日も朝からちゃんと教会を開けたらしい。
( ^ω^)「それで、この後ですけど……」
(∪^ω^)「わんわんお!」
( ^ω^)「お?」
不意に、わんわんおが椅子からテーブルの上に飛び乗り、テーブルの端の方に置いてあった紙束を突付く。
その様に何か気付いたのか、ツンが口を開く。
ξ゚听)ξ「忘れてた、予選、どうだったの? まあ、聞くまでもないと思うけど」
(;^ω^)「お、そういえばそうだったお」
- 449 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:03:32 ID:l6Jj2O2I0
わんわんおが突付いたのは、大会の案内やルールが記載された用紙だった。
明日の事ばかり話して忘れていたが、明日開催されるのは闘技大会本戦で、
本戦に参加する為には予選を勝ち抜く必要があるのだ。
そしてその予選はもう既に終わっている。
_
( ゚∀゚)「勿論、余裕で突破してるさ」
( ^ω^)「ですおねー」
忘れるぐらいだから心配はしていなかったのだが、予選で灰衣の男やマルタスニムと当たる可能性もあったのだ。
幸いというべきか、残念ながらというべきなのか、予選ではその2人とは当たらなかったらしい。
(-_-)「予選は代表者2名のタッグ戦でしたから、単体戦闘能力の高いその2人と当たらなかったのは幸いでしょうね」
_
( ゚∀゚)「当たってりゃ、俺とミルナで叩き伏せてやったのによ」
ξ゚听)ξ「あら? 予選はミルナさんと2人で出たの?」
_
( ゚∀゚)「ああ、年寄りを休ませてやる為にもな」
( ^ω^)「魔法防御とか一切考えてないおね」
- 450 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:05:02 ID:l6Jj2O2I0
(-_-)「試合の形式状、どのチームも魔法使い以外が出て来ると見越しての事なんですよ」
予選は本戦と違い、狭い区画での戦いになるから、
距離が取り辛いという理由で魔法使いはあまり出てくることはないと判断したらしい。
それは正しい判断だと思うし、距離を物ともしない魔法使いが出てくるならそれは誰が出ても苦戦するだろう。
(-_-)「ええ、ですから予選で灰衣の男達と当たらなかったのは運が良かったと思います」
_
( ゚∀゚)「ま、そういう事にしといてやるさ」
ξ゚听)ξ「決勝には何チーム進んでるんです?」
(-_-)「8チームですね。本戦はその8チームでバトルロイヤルという形になるらしいです」
( ^ω^)「8チーム、意外と多いんですおね」
ξ゚听)ξ「灰衣の男やマルタスニムは勝ち進んでました?」
(-_-)「予選は別々の場所で開催されたので、別のブロックの事はよくわからないのですが」
そこで言葉を切り、ヒッキーさんは先ほどわんわんおが突付いた紙束を取り、
とあるページを広げてテーブルの上に置いた。
- 451 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:06:35 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「あ、出場チームとメンバーの名前が載ってるんですおね」
ξ゚听)ξ「ヒッキーさん達は……あった、これですね? チーム・ヴィップ」
( ^ω^)「ヴィップってチーム名にしたんですかお」
(-_-)「ええ、チーム結成の地の名を借りようって事になりまして」
チームヴィップの下には、参加者の名前、ヒッキーさんたちの名前が並んでいる。
ただ、フィレンクトさんとシブサワさんは偽名を使っているようだ。
その辺はあまり厳しくないらしい。
ξ゚听)ξ「となると、向こうも馬鹿正直に本名を名乗ってる可能性は少ないでしょうね」
_
( ゚∀゚)「いや、大会に出て勝てば名が売れるわけだから、案外名乗ってるのかも知れんぜ?」
ξ゚听)ξ「冒険者ならともかく、犯罪者は名を売りたがらないでしょ」
( ^ω^)「それに、マルタスニムはともかく、灰衣の男は本名だったとしてもどれかわからんおね」
ξ゚听)ξ「予選落ちしてたら笑えるけど」
- 452 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:08:24 ID:l6Jj2O2I0
(;-_-)「それはそれで、出会えるチャンスがなくなるから困るんですけどね」
( ^ω^)「また潜伏されるよりは、本選に出て来てくれる方がいいですおね」
(-_-)「はい。一応、この中で気になっているチームはあるのですが……」
(∪^ω^)「わんおー?」
ヒッキーさんが指差した先には、チーム・コフィンとあった。
( ^ω^)「コフィン? 変わった名前ですおね」
(-_-)「ええ、棺桶という意味ですからね。あまり縁起の良い名前でもないでしょう」
(-_-)「で、チーム名は置いておいて、私が気になっているのはここです」
再度ヒッキーさんが指差した先は、チーム名の下の参加者の欄であった。
そこに書かれている名前は1つだけだ。
ξ゚听)ξ「これって、1人で予選突破して来たって事ですよね?」
(-_-)「そうなりますね」
- 453 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:09:27 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「となると相当の使い手ですおね」
(-_-)「はい、ですからこのチームが怪しいかなと」
確かに、聞き及んでいる灰衣の男の力なら、1人で予選突破ぐらいは難なくこなしそうではある。
違っている可能性もあるが、どちらにしろ強敵には変わりないので注意しておいて損はないだろう。
ξ゚听)ξ「えっと、名前は……デミタス=ヘルピングヒル……聞いたことない名前ね」
( ^ω^)「うーん……、ごく普通の名前だおね」
(-_-)「ですね。偽名かどうかもわかりません」
( ^ω^)「取り敢えず、名の知れた冒険者とかじゃなさそうだおね」
(∪^ω^)「わんお」
_
( ゚∀゚)「そういうこったから、ミルナ達は今そいつの事も探りに行ってるぜ」
流石に宿所まではこの紙には載ってないが、予選を1人で突破した猛者だ。
その事で噂になって、探してみると案外居場所が知れるかも知れないと判断したとの事だ。
- 454 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:10:32 ID:l6Jj2O2I0
- _
( ゚∀゚)「無論、偵察だけだ。もし大会前に仕掛けるなら全員で行く予定だが……」
ξ゚听)ξ「大会前だと逃げられる可能性があるから、大会中の方がいいかもね」
(-_-)「ええ、我々もそう考えています」
( ^ω^)「灰衣の男の方は目星がついてるとして、マルタスニムはどうですかお?」
そうヒッキーさんに問いかけながら、僕は再びテーブル上の紙に目を落とし、出場チームを見ていく。
しかし、僕が全てを見終わる前にツンがあるチームの名を指し示した。
ξ゚听)ξ「ひょっとしてこれじゃない?」
( ^ω^)「どれだお? えっと、チーム・ゴージャス魔法使いとその下僕……」
ξ゚听)ξ「メンバーがグレート=マジシャンにK、O1、O2、O3、O4……」
. _,
( ^ω^)「これはひどい」
_,
ξ゚听)ξ「多分これでしょうね」
(∪^ω^)「わんおー」
- 455 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:13:24 ID:l6Jj2O2I0
(;-_-)「私もそれかなとは思ったのですが、あからさま過ぎるので迷ってました」
あからさま過ぎるが、名前からしてこれで間違いないだろう。
自尊心の強そうなやつだったし、やつならやりかねないと思う。
ξ゚听)ξ「ということは、2人とも本選に出ると見てよさそうですね。どう戦うつもりです?」
( ^ω^)「こいつら2人を潰し合わせられたら良さげですおね」
(-_-)「私も、それが最良だとは思いますが……」
(∪^ω^)「……」
_
( ゚∀゚)「フィレンクトのおっさんは、灰衣だけは自分の手で捕まえてえと思ってるようだな」
シブサワさんは誰が捕まえようが構わないと考えているらしいが、フィレンクトさんは違う様だ。
騎士団を辞めてまでこの大会に臨んでいるフィレンクトさんの気持ちを慮れば、それも無理のないことだと思う。
とはいえ、フィレンクトさんは元ニューソク騎士団長だ。
全員の生命を危険に晒してまで無茶なことはしないぐらいの判断は出来るだろう。
_
( ゚∀゚)「そいつらを引き離せりゃいいが、最悪、二手に分ける事になるだろうな」
ξ゚听)ξ「それはちょっと厳しくならない?」
- 456 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:14:31 ID:l6Jj2O2I0
- _
( ゚∀゚)「ま、何とかなるさ。うちには優秀な司祭様もいらっしゃるしな」
そう言ってジョルジュさんは力強くヒッキーさんの肩を叩く。
ヒッキーさんは前につんのめりながらも、がんばりますと引きつった笑顔を返す。
( ^ω^)「大丈夫ですかお? だいぶ緊張してるみたいですけど」
(-_-)「私の場合は、スペシャルの性質上、少し緊張してるくらいが丁度いいので……」
(∪^ω^)「……」
( ^ω^)「そういえばそうでしたおね」
ヒッキーさんのスペシャルはネガティブな感情で増幅されるものだ。
適度な緊張はむしろ望むべきものであろう。
胃とか痛くなりそうだけど。
( ^ω^)「お、それで思い出しましたけど、あの子はどうしてるんですかお?」
(-_-)「サダコですか? 勿論いますよ」
- 457 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:15:32 ID:l6Jj2O2I0
〜川д川 フワフワ
!!
(-_-)∩ (^ω^∪)
ヒッキーさんが片手を挙げると、どこからともなくサダコが姿を現す。
その様子からするに、だいぶヒッキーさんに馴染んでいる様である。
( ^ω^)「さっきからわんおが一点を見詰めてると思ってましたけど、その辺にいたんですおね」
サダコのことはジョルジュさん達にも話してあるという。
流石に驚かれたが、多分、闘技大会のルール上は問題ないだろうということで話は収まったらしい。
ξ゚听)ξ「サダコが駄目なら、マルタスニムのとこも駄目でしょうしね」
( ^ω^)「そうなるおね。向こうは精霊が見えないけども」
〜川д川 フワフワ
ε三(∪^ω^)っ
わんわんおがふわふわと浮かぶサダコを追いかけてテーブルの周りを走っているが、サダコは高く飛んでいるし、
届かないから大丈夫だろう。
しかし、他のお客さんの迷惑になりそうなので、僕は走るわんわんおを捕まえて膝の上に置いた。
- 458 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:18:30 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「取り敢えず、明日の準備は万端そうですおね」
つ∪^ω^)
(-_-)「不安材料はいくつかありますが、今出来る事は限られてますし、後はもう本番に臨むだけですね」
_
( ゚∀゚)「出たとこ勝負だ。なに、全員ぶっ倒せば済む話さ」
いつも通りの楽観的なジョルジュさんだが、ここまで来たらそれしかないのも確かだ。
それに、その自信を示すかのごとく、いつの間にか腕回りとか以前より逞しくなっている様に見える。
灰衣の男を追う間、フィレンクトさんと過ごした時間は無駄ではなかったのだろう。
ξ゚听)ξ「状況は大体わかったわ。どうする、ブーン?」
( ^ω^)「そうだおね。僕もちょっと街を見てくるかおね」
今聞いた情報を元に、魔法使いの視点から見て何か発見できる事があるかもしれない。
あくまで観光を装い、それとなく探る分には危険もないだろう。
ξ゚听)ξ「それじゃあ、私も行くとして、わんおは?」
( ^ω^)「そうだおね、お留守番かお?」
つ∪>ω<)))「わんお!」
- 459 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:19:26 ID:l6Jj2O2I0
ξ゚ー゚)ξ「お留守番は嫌だって」
( ^ω^)「まあ、危険な事をするつもりはないからいいかお。でも、はぐれちゃ駄目だお?」
(∪*^ω^)「わんわんお!」
僕達はヒッキーさん達に街に出る旨を告げ、酒場を後にした。
時間は昼をだいぶ回っているが、繁華街はかなり賑わっている。
( ^ω^)「まずはどこに行くかおね?」
相談の結果、まずは会場を見ようという事で町の中心部に向かう事にした。
僕としても、もう1度結界をちゃんと見ておきたかったのでこの決定に異存はない。
( ^ω^)「賑やかだおね。祭りって感じだお」
ξ゚听)ξ「そうねー。楽しそうでいいわね」
(∪^ω^)「わんわんおー」
街頭には遠方から来たと思われる旅装束の人達や、現地の人と思われる華やかな衣装を着飾って、
客引きをする人達で溢れ返っていた。
- 461 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:21:34 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「僕らもただ遊びに来ただけだったら良かったおね」
ξ゚听)ξ「ま、それは仕方ないでしょ。そういうのは、また今度ね」
( ^ω^)「お、そうするかお」
(∪^ω^)「わんお!」
僕達3人は一列に並んで街中を歩く。
至って平和な光景だが、今回の件は町ぐるみで何かが画策されている可能性もあるので油断は禁物だ。
( ^ω^)「おー、あれ美味そうだおね」
ξ゚听)ξ「お昼食べてからまだそんなに経ってないわよ?」
( ^ω^)「祭りの屋台は別腹だお」
ξ;゚听)ξ「そんな言葉初めて聞いたわよ……」
(∪^ω^)「わんおー」
- 462 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:23:17 ID:l6Jj2O2I0
祭り独特の喧騒と、芳しい匂いに誘われて右往左往しつつも、僕達は町の中央付近に辿り着いた。
この区画が明日の闘技大会会場になるはずだが、そこは公園などの公営の施設の他、普通の民家も立ち並んでいる。
( ^ω^)「こんなとこで戦うのかお。これだと民家に被害及びそうだおね」
ξ゚听)ξ「そこは町が保障してくれるらしいわよ。さっきヒッキーさんに見せてもらった紙にそんな事書いてあったわ」
既に会場内には入れないようにロープが張り巡らされてあった。
今はまだ物理的なものだが、明日にはこれが結界による魔法的なものに変わるのだろう。
ξ゚听)ξ「事前に何か仕掛けられないようにしてるんでしょうね」
( ^ω^)「でも、この程度の警備なら楽に入れそうだお」
(∪^ω^)「わんわんお!」
( ^ω^)「だからって中に入っちゃ駄目だお」
ぽつりぽつりと、警備らしき人が立ってはいるが、厳重に警戒しているという感じではない。
主催者側が灰衣の男やマルタスニムの危険性を認識していないのなら、それも仕方のないことかもしれないが、
それは考え難いと思う。
- 463 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:24:43 ID:l6Jj2O2I0
ξ゚听)ξ「まだフィレンクトさんが騎士団長だった時に話は行ってるはずだもんね」
( ^ω^)「やっぱメシューマの上層部も何かおかしいと思うべきかおね」
僕達は更に会場の方へ近付き、巨大な柱の根元に歩いて行く。
先ほどはざっと眺めただけだったが、今度はもう少し詳しく調べてみた。
ξ゚听)ξ「何かわかる?」
( ^ω^)「わかるお。あんまり高度なものじゃないっぽいおね。ちょっとだけよくわからないとこもあるけど」
書かれているのはごく普通の防護結界であろう。
ただ、この大きな柱いっぱいに書かれているので、強度は結構なものになるはずだ。
これだけの量を書いたとなると、かなり前から準備されていたのだと思われる。
( ^ω^)「物理と魔法と別々に、大量に書かれてるお。結構準備に時間かかってると思うお」
ξ゚听)ξ「両方を防ぐのね。まあ、そうしないと観客が安全に見れないでしょうしね」
だとしても、会場が広すぎて全体が見えないし遠いから、
あんまり見物に適した競技じゃないんじゃないかとツンは言う。
- 464 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:25:57 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)σ「それはほら、あれがあるお」
ξ゚听)ξ「あれって……どこかで見た気がするわね」
( ^ω^)「覚えてないかお? まあ、ツンはあの時選手だったからよく見てなかったかもしれんおね」
(∪^ω^)「わんわんお!」
( ^ω^)「わんおは覚えてるかお? あれはカメラって行って、遠視用の魔法道具らしいお」
ξ゚听)ξ「あ、イチサンの町の!」
( ^ω^)「そうだお。シィさん達が用意してたあれだお。ここでもそれ使うみたいだおね」
あの時シィさんはギルドに協力してもらって設置したと言っていたから、
あれはイチサン独自のものというわけではないのだろう。
ξ゚听)ξ「なるほどね」
ξ゚听)ξ「じゃあ、下手に会場近辺に近付くより、映像が見やすい場所探した方が見物には良さそうね」
とはいえ、僕らはただ見物に来たわけでもないので有事に備えて会場近辺にいた方がいいと思う。
出来れば状況把握の為、何とかあのカメラの映像を引っ張って来て何かに投影出来ないだろうか。
- 465 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:27:09 ID:l6Jj2O2I0
(;^ω^)「流石に解析する時間はないからそれは難しそうだお……」
ξ゚听)ξ「会場に近い、映像を見れそうな場所を探した方が早そうね」
それから会場周辺をぐるりと回り、いくつかの柱を見たり周辺を観察してみたが、これといって気になる所はなかった。
途中、大会の事を話している参加者らしき人達ともすれ違うことがあったが、マルタスニムは見かけなかったし、
灰衣の男でもなさそうだった。
ξ゚听)ξ「一周して何もなさそうなら他へ行く?」
( ^ω^)「そうするかおね。明日見物する場所を探すお」
(∪^ω^)「わんお!」
そのまま歩き続け、一回りしたがこれといって何もなかった。
町は活気に溢れ、まるで僕らのやっている事が全くの杞憂に感じられるほど平和そのものだった。
ξ゚听)ξ「ま、話に聞く様な実力を備えているのなら、小細工は必要ないのかもね」
( ^ω^)「そうかもしれんお」
- 466 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:29:26 ID:l6Jj2O2I0
僕達は最後の1本となる柱の方へ視線を向ける。
これも同じような柱なので詳しく見る必要もないだろうと思ったが、そこに人が立っているのに気付いた。
(´・_ゝ・`)
ξ゚听)ξ「誰かいるわね。参加者かしら?」
(∪^ω^)「わんおー?」
そこにいたのはごく普通の旅装束を身に纏った取り立てて特徴のない男だった。
たぶん、どこかですれ違っていても気付かないくらいの。
( ゚ω゚)
しかし、僕はある事に気付いてしまった。
その男の先にある、うっすらと見える物に。
ξ;゚听)ξ「どうしたの、驚いた顔して?」
( ゚ω゚)「ぱ……ぱ……」
僕はこの場にあってはならない物を見付け、視線を微動だに出来ず、ふらふらと前に進む。
どうやって混み合った街中で人を避けたか覚えてない。
ただそれに引き寄せられるように僕は歩いた。
やがてそれは、僕らの前にその姿をはっきりと現した。
- 467 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:32:52 ID:l6Jj2O2I0
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│ ── 、 ┌┐ ┼┼ ┼┼ / \
○ \ / . │
│ ─── ス.├┤ 白 E三ヨ / \
ノ . │
│ ノ |_ | ├┤ 木
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└─────────────────────────┘
(゜д゜@「いらっしゃいませー! ご存知、元祖薬草パン、美味しいわよー」
( ゚ω゚)「パクられてるぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」
ξ;゚д゚)ξ「うわー……」
(∪;^ω^)「わんおー」
そこにあったのは、元祖薬草パンという看板を大きく掲げられた屋台であった。
威勢のいいおばちゃんが呼び込みをしているその屋台は、それなりに客が付いている。
(;^ω^)「流石商売人の町、油断ならないお……」
- 468 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:34:35 ID:l6Jj2O2I0
いいものは即取り入れる。
評価されたのは光栄だし、その柔軟な姿勢には感服するが、流石にそのままパクられるのは複雑な心境だ。
ξ゚听)ξ「いいの、あれ?」
( ^ω^)「まあ、こういうのは言ったもん勝ちなとこあるお」
ここでずかずかと乗り込んでって、うちが本家だ、なんて阿漕な商売してるんだとかクレームを付けたとしても、
その正当性を証明する手立てはない。
そもそも薬草パン自体発想は単純なものなので、ひょっとしたら僕の知らない町で既に売られている可能性だってある。
( ^ω^)「ヴィップでやられてたら考えるけど、別の町なら仕方ないお」
ξ゚ぺ)ξ「何か納得出来ないわね……」
(∪^ω^)「わんお」
憤るツンを宥め、僕は少し離れた位置で屋台を観察する。
見た目はうちの薬草パンと同じ様な形だが、若干向こうの方が緑が濃く、まさに薬草パンといった色合いだ。
( ^ω^)(見た目のインパクトは向こうが上……しかし、うちは敢えて色は抑えてるんだお!)
- 469 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:36:28 ID:l6Jj2O2I0
向こうと同じように緑を前面に押し出すことも可能だがそれは避けている。
パン本来の色合いの方が食欲を誘うし、自然なパンの感じを保つことによって身構えさせず、
口に運んだ時に感じる薬草の仄かな苦味で、これは薬草のパンなのだと新鮮な驚きで迎えられる様にしたいのだ。
( ^ω^)(後は味だおね。それで負けてたら、どんな理由をつけた所でうちの負けだお)
僕は渋るツンに薬草パンを3つ買って来てもらう。
値段はうちより少し高い。
ξ゚听)ξ「買って来たわよ? どうするの?」
( ^ω^)「勿論食べるお。わんおにもあげるお」
(∪*^ω^)「わんわんお!」
僕はパンを半分に割り、断面を観察する。
内部もかなり緑が濃い。
色のみならず、匂いもかなり薬草を主張している。
( ^ω^)「食べれるかお?」
(∪^ω^)「わんお!」
- 470 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:37:39 ID:l6Jj2O2I0
半分に割ったパンの片方をわんわんおに渡し、残りの半分を自分の口に運ぶ。
口の中いっぱいに広がる薬草感に、僕は思わず笑みを浮かべた。
ξ゚听)ξ「美味しいの?」
未だ薬草パンを手に持ちながらも食べるのを躊躇していたツンが僕に尋ねる。
僕はそれに大きく首を振って答えた。
(*^ω^)「うちの方が断然美味いお!」
(∪^ω^)「わんわんお!」
それを聞いたツンも薬草パンを一口かじり、納得した様に頷いた。
どうやらツンも僕と同じ意見らしい。
( ^ω^)「これで安心したお。さ、行こうかお」
僕達は屋台から離れ、ジョルジュさん達がいる宿の方に向かう。
途中で明日の為のいい場所を探しながら戻り、今日の調査は終わりにする予定だ。
( ^ω^)「途中で会うかと思ったけど、フィレンクトさん達とは出会わなかったおね」
ξ゚听)ξ「まあ、この人手だしね」
- 471 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:39:14 ID:l6Jj2O2I0
ツンは薬草パンをちぎってはわんわんおの方に投げ与えている。
このパンはツンのお気に召さなかったらしい。
わんわんおも食べてはいるが、あまり嬉しそうには見えない。
ツンがくれたものを食べないわけにもいかないので、渋々食べている風に見える。
( ^ω^)「ちょっと味がきついお?」
ξ゚听)ξ「そうね。パンの旨味を消しちゃってるとこあると思うわ」
僕はそんなツンにこの薬草パンの問題点と、自分が作っている薬草パンで気を付けている所を事細かに説明する。
しかし、途中まで真面目な顔で聞いていたツンが、何故か急に吹き出した様に笑う。
(;^ω^)「お? 僕何か変なこと言ったかお?」
ξ゚ー゚)ξ「ううん、そうじゃないの。随分真面目に考えてたんだなって思ってね」
至極真面目に薬草パンについて語る僕がおかしく、しかし同時に感心もしたらしい。
最初薬草パンなんて商品を出された時はどうしたものかと思ったが、
今ではちゃんと商品として成り立ってるとツンは言う。
- 472 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:40:54 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「そういや、最初に薬草パンをツンに見せた時はいきなりぶっ飛ばされたおね」
ξ゚听)ξ「魔法道具屋の新商品としてパンなんか出されたら、そりゃ誰でも手が出るわよ。ふざけてんのかって」
そんなのはツンぐらいだと思うが、僕としてはあの当時から真面目に考えて薬草パンを考案したのだ。
確かにあの時、ツンに指摘されたような問題点が薬草パンには多々あったが、売る層や用途を変えて、
今ではちゃんと商品として売ることが出来ている。
ξ--)ξ「わざわざ魔法道具屋で売るようなものでもないとは思うけどね」
(∪^ω^)「わんおー」
ξ゚听)ξ「でも、シャキンさんも感心してたわよ? この頃は味が完成されて来てるって」
( ^ω^)「それは初耳だお」
あれだけ美味い料理を作るシャキンさんに味を褒められるのは素直に嬉しく思う。
発売後も試行錯誤して改良を重ねていった成果が現れていた様だ。
ξ゚听)ξ「今度、ブーンに相談してバーボンハウスで出す朝食用に仕入れようかって言ってたし」
( ^ω^)「おー、そりゃ嬉しい話だお」
- 473 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:43:29 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「てか、何でそれを僕じゃなくてツンに言うんだお?」
┐ξ--)ξ┌「さあ?」
僕の質問に肩をすくめて返すツン。
まあ、ツンに言えば自然と僕の耳に入る事はシャキンさんも折り込み済みだったのだろう。
( ^ω^)「そうなると増産しないといけなくなるかおね。ちょっと朝が早くなりそうだお」
ξ゚听)ξ「シャキンさんはそんな無茶言わないでしょ。朝食をちゃんと取る冒険者も少ないでしょうし」
( ^ω^)「それもそうかもしれんお」
(∪^ω^)「わんわんお」
もしシャキンさんからそういう依頼があっても、当面はサンライズで売っている分を回せば済むくらいの量だろう。
万が一薬草パンが評判になって、バーボンハウスが大盛況になるようならその時にまた考えよう。
( ^ω^)「流石にそれはないと思うしね」
ξ゚听)ξ「あら、案外人気になるかもよ? このパンの味に、シャキンさんの料理の腕が加わればわからないわ」
( ^ω^)「おー、ツンがそう言うのなら可能性はあるかもしれんお」
- 474 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:44:34 ID:l6Jj2O2I0
珍しく薬草パンの肩を持ってくれるツンに僕は笑顔を向ける。
何だかんだ言ってても、僕がツンにお昼ご飯用に薬草パンを持っていくか聞くと、
まず断らなかったし気に入ってはくれてるのだろう。
( ^ω^)「あれ? 宿ってこっちであってたっけかお?」
もう日はだいぶ傾いていたが、昼ごろより更に人では増えている様に感じる。
その所為で周りの建物がよく見えず、この道であっているのか自信がない。
ξ゚听)ξ「あってると思うわよ。あそこを右でしょ」
僕達は喧騒の中を歩く。
祭りのメインイベント前夜は人で賑わい、盛り上がるものなのだろう。
時々、明日の大会の予想らしきものが聞こえて来るが、たまにチーム・ヴィップの名前も挙がっているようだ。
面子を考えれば優勝候補筆頭でもおかしくないから当然といえば当然なのだが、
フィレンクトさんが顔と名を隠しているので、それほどのネームバリューはなく、
純粋に予選の強さが評価されているようである。
( ^ω^)「って事は、灰衣の男の戦いぶりを見た人もいるのかおね?」
ξ゚听)ξ「確か予選は非公開だったはずよね」
ξ゚听)ξ「でも、予選の戦いぶりとかで判断されてる所を見ると案外抜け道があったのかもね」
- 475 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:46:13 ID:l6Jj2O2I0
もしそうならば失敗したかもしれない。
早めに来ていれば灰衣の男が誰か、どういう戦い方をするのか見れたかもしれないのだ。
ξ゚听)ξ「けど、あんまり名前挙がってないわよね、例の灰衣の男らしきやつ」
聞こえて来る大会の予想に耳を傾けても、確かにあの予選を1人で勝ち抜いた男についてはあまり名前が挙がらない。
予選を見た人もいるようだが、強いと印象を与えずに勝ってきたという風に聞こえる。
1人で勝ち抜いたことは評価されているようだが、それだけの様でもある。
ξ゚听)ξ「ちょっと聞いてくるわね」
( ^ω^)「お? 何を……」
(∪^ω^)「わんお?」
僕の質問には答えず、ツンは大会の予想している人達の元に向かう。
そこで何か尋ねている様だが、すぐに僕の方に戻って来た。
ξ゚听)ξ「その1人で勝ち抜いた男の特徴聞いて来たわ」
( ^ω^)「おー」
- 476 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:47:33 ID:l6Jj2O2I0
ツンが聞いた所によると、その男、確かデミタスという名前だったと思うが、
ごく普通の体型の30代ぐらいの男だったらしい。
薄茶色の旅装束を身に纏い、武器は所持していなかったという。
ξ゚听)ξ「印象に残らない、普通の人って感じだったと言ってたわ」
( ^ω^)「灰色じゃないのかお……」
ξ゚听)ξ「武器を持っていないなら、武術家か、もしくは……」
( ^ω^)「魔法使いか、だおね」
後者であるならば、そのデミタスという男が灰衣の男である可能性は高いが、灰衣は着ていなかった様だ。
ただその灰衣という姿は、最初に目撃した騎士の証言によるもので、それ以降灰衣の男の姿を見たものはいないのだ。
その時たまたま灰衣を着けていただけの可能性もある。
今更な話だが、当然その事はフィレンクトさん達も考慮した上で捜索は続けていた。
灰衣に拘る必要はなく、単に便宜上の呼称の様なものだ。
( ^ω^)「そう考えると、やっぱ可能性は高いかおね」
ξ゚听)ξ「よくわからないけど、何か危なげなく勝ってた話だったし、実力は相当のものかもしれないわ」
- 477 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:48:31 ID:l6Jj2O2I0
実際に見てみないと何とも言えないが、1人で勝ち上がったのは事実なのだ。
このデミタスという男に注意を払っておいても損はないだろう。
ξ゚听)ξ「明日はどうなるでしょうね?」
( ^ω^)「何事もなく終わる……っていう風にはいかないだろうおね」
(∪^ω^)「わんおー」
灰衣の男にマルタスニム、メシューマとニューソクの関係、そして魔王の朱玉。
これで何も起こらない方がおかしいぐらいの状況だ。
そういう状況でここに来たことは後悔していないが、ツンを巻き込んだ事はやはり申し訳なく思っている。
( ^ω^)「何かあったら、まず観客の避難が最優先だお」
ξ゚听)ξ「わかってるわよ。参戦するならその後ね」
人道的な側面だけでなく、戦いやすさを考えれば周囲に人はいない方がいい。
向こうはお構いなしに攻撃してくる可能性は高いが、こちらはそういうわけにもいかない。
ツンとは事前にそういう風に打ち合わせていたが、もし何か起こったのが結界内であったら、その心配はなくなる。
ただ、今度はこちらが結界内に入る手段が問題になってくるのだが。
- 478 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:49:44 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)「解除は無理っぽいというか、時間かかりそうだし、そもそも解除はしない方がいいおね」
それほど難しい術式で書かれてはいないのだが、時間をかけて書かれたようで、幾重にも記述が重ねてある。
それを解くのは僕の腕では時間がかかるだろう。
更にいえば、解除してしまうと被害が外に広がる恐れが出てくるので、出来れば結界は維持しておきたい。
ξ゚听)ξ「部分的に解除して、私達だけ入った後に閉じたり出来ないの?」
(;^ω^)「簡単に言うけど、それ、結構高度なことだお」
既に発動している結界に、術式を影響ないように書き足すなんて事は、
結界のことを相当熟知していないと出来ないだろう。
一旦止めたり、別のものに書き換えるのならまだしも、他人の術式を保ちつつ効果を替えるのは難度の高い技だ。
( ^ω^)「ドクオさんなら多分出来るだろうけど、僕じゃ無理だおね」
ξ゚听)ξ「……あいつ、結局姿見せなかったわね」
(∪^ω^)「わんお」
ドクオさんはまだ庵には帰って来ていない。
万が一、なんてことは心配していないが、色々と相談したいことも山積みだったし、会えないのは寂しいものがある。
- 479 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:50:41 ID:l6Jj2O2I0
( ^ω^)つ||「この杖の使い方も、まだよくわかってないしお」
僕は携帯していた賢者の杖を眼前に掲げる。
色々調べたり使ってみた結果、見た目よりは遥かに頑丈で、何らかの機能があると思うのだが、
それがよくわかっていない。
( ^ω)「全く、肝心な時にいないんだからおー」
僕は顔をそむけ、勤めて明るくつぶやいたつもりだったのだが、それを見たツンの顔が少し曇る。
どうやら事の他、寂しそうに聞こえたのかもしれない。
( ^ω^)つ||「戻って来たらこれで一発ぶん殴ってやるお!」
僕は満面の笑顔を浮かべ、大袈裟な素振りで杖を振る。
今はドクオさんの事は忘れて、明日の事に集中しよう。
ξ゚ー゚)ξ「そんな勢いで殴ったら、ドクオの顔が……まあ、これ以上潰れようもないわね」
( ^ω^)「あんだけツンに殴られて平気なんだし、あの人かなり頑丈だおね」
(∪^ω^)「わんわんおー」
- 480 名前:名も無きAAのようです:2012/10/20(土) 22:53:19 ID:l6Jj2O2I0
僕達は顔を見合わせて笑い合い、宿に向かって歩き出す。
ドクオさんが戻って来たら、思う存分不満をぶつけ、僕らの武勇伝を聞かせてあげよう。
ξ゚听)ξ「今日は早めに休んで、明日に備えないとね」
僕はツンの言葉に頷き、空を見上げる。
東の空は既に夜の色に染められつつあった。
( ^ω^)「明日は……まあ、ここまで来たら色々考えてもしょうがないおね」
今度はツンが僕の言葉に頷く。
願わくば何も起きない事を祈るばかりだが、ここまで来たら腹を括って何が起きても臨機応変に対応するしかない。
あれこれ調べたり考えたりしたが、結局ジョルジュさんと同じ結論に達する様だ。
( ^ω^)「今日の晩ご飯は何にしようかおね」
(∪^ω^)「わんわんお!」
僕達は平和で活気溢れるメシューマの町の夕暮れ時を、たわいもない事を話しつつ宿屋へ戻った。
第四十六話 穏やかに加速する時 終
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