214 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:16:58 ID:JD3qxqAM0

 〜 魔法道具屋サンライズ 午前 〜


( ^ω○)、「……」

川 ゚ -゚)「どうだ、何かわかったか?」

( ^ω○)、「うーん……、結構古い物だおね。綺麗だし、痛んではいないようだけど、何か変な感じがするお」

川 ゚ -゚)「変? それはどういう意味だ?」

( ^ω○)、「魔力的に見て何か不自然な感じだお」

川 ゚ -゚)「つまり、ぶっちゃけて言うとどういう事だ?」

( ^ω^)「よくわからんお」



     第四十三話 その身に想い、その手に力


216 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:19:35 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「でも、確信はないけど、ちょっと危なげな感じだおね。古代文字びっしりだし」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

川 ゚ -゚)「おいおい、そんな漠然とした解答で済ませるつもりか?」

彼女の名前はクー。
新米冒険者だが僕に借金がある為、普段はサンライズのアルバイトもやっている。

(∪^ω^)「わんおー」

この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。

( ^ω^)「だから鑑定料取ってないお?」

僕は今、クーがイチサンの幽霊船で見付けた剣の鑑定をしていた。
しかしながら、剣に違和感はあれど、その正体まではわからずにいる。

川 ゚ -゚)「じゃあ、鑑定料払うからちゃんと調べてくれよ」

217 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:20:40 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「いいけど、高いお?」

川 ゚ -゚)「いくらだ?」

( ^ω^)「このくらいだお」

僕はクーの借金が再び膨れ上がるであろう金額を提示する。

川;゚ -゚)「いくらなんでも高過ぎるだろ?」

( ^ω^)「そのくらい難しそうなんだお」

本当の所を言うと、理由はそれだけではない。
何となく、この剣に得体の知れない所があるから、詳しく調べない方がよさそうな気がしたのだ。

ドクオさんがいたら相談する事も出来たが、残念ながらまだ庵に戻って来ていない。
蛇の道は蛇でこういった魔法の武具に詳しいかもしれないシューもいないし、調べるのは難航するだろう。

川 ゚ -゚)「じゃあ、調べないとしたらブーンはこれ、買い取ってくれるのか?」

( ^ω^)「買い取ってもいいけど、安いお?」

218 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:22:43 ID:JD3qxqAM0

川;゚ -゚)「何だそれ? 何で悪徳商人みたいな応対なんだよ」

( ^ω^)「買い取っても使い道がないからだお」

川 ゚ -゚)「じゃあ、どうしろと?」

( ^ω^)「教会にでも奉納して、清めて処分するとか」

川 ゚ -゚)「金払って処分したらまるっきり赤字じゃないか」

( ^ω^)「変に呪われるよりはいいお?」

僕の提案にクーは酷く顔を歪め、僕を睨む。
それが一番安全な解決策だと僕は思っているのだが、クーは折角お宝を見付けて来て、
損をするのは納得がいかないらしい。

川 ゚ -゚)「いっそ抜いてみれば何かわかるか?」

( ^ω^)「無理だお」
  _,
川 ゚ -゚)「実際の効果を見てもわからんのか? どんだけへっぽこ鑑定士なんだよ」
220 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:24:11 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「そういう意味じゃないお。抜けないって言ってるんだお」

川 ゚ -゚)「何だと?」

僕はクーに剣を抜いてみると促す。
クーは訝しげな顔をしながらも、剣を抜こうとする。

川;゚ -゚)「クッ……何だこれ? かったいなあ?」

( ^ω^)「だから言ったお? 抜けないって」

こういったものの場合、抜くと危険な事が多いが、少し動かすぐらいなら大丈夫だろうと思い、
僕も弄ってみたのだが、刃が鞘と一体化したかのごとく、ぴくりともしなかったのだ。

川 ゚ -゚)「鞘じゃなくて、単に抜き身のなまくらな剣ってオチはないよな?」

( ^ω^)「何とか無刀みたいなのかお? そういうんじゃないと思うお」

( ^ω^)「鞘と刃の間が離れているのは確かだお。ちゃんと空洞があるお」

川 ゚ -゚)「じゃあ、何で抜けないんだ?」

221 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:25:35 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「それがわかんないから危険かもって言ってんだお」
  _,
川 ゚ -゚)「ぬう……」

クーは眉をひそめ、また僕を睨む。
睨まれても僕にどうにか出来る話ではないのだが、クーはバイトに行くからと僕に剣を預けてサンライズを出ていった。
どうせ暇だろうから、明日まで色々調べてくれと言い残してだ。

( ^ω^)「別に暇なわけじゃないんだけど……」

(∪^ω^)「わんわんおー」

( ^ω^)「いや、ちゃんとお客来るから、きっと忙しくなるお」

魔法道具屋業を再開して数日、ぼちぼち客の入りはある。
クエストに出る前とさほど変わらないくらい客が来てくれるのは、シューががんばってくれたお陰もあるのだろう。

( ^ω^)「けど、売り上げの向上を図る為には、現状維持で満足してては駄目だお」

(∪^ω^)「わんおー?」

( ^ω^)「うん、かねてからの懸案事項であった、新商品の開発をここらで1つ何とかしたいんだおね」
223 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:27:16 ID:JD3qxqAM0

以前旅先でツンと話していたが、結局、新商品開発の話はずっと先延ばしになっていた。
薬草パンや薬草おにぎりはあるが、もうちょっとツンが言う様な魔法道具屋っぽい新商品も発売したいのだ。

( ^ω^)「アイデア集めに関しては、ちょっとした秘策も考えているんだお」

( ^ω^)「何を作るかはそれが上手くいってから考えてもいいおね」

( ^ω^)「それ以外だと、やっぱあの位置特定用の護符なんかが最有力候補かおね」

(∪^ω^)「わんお!」

( ^ω^)「ただ、今のままだとちょっと護符が大きめになりそうなんだおね」

(∪^ω^)「わんおー」

( ^ω^)「もうちょっと高度な、情報量の多い術式を記述できるようになれば、もっと出来る事は増えそうだけど」

以前、クーのペンダントを見た時に書いてあったじいちゃんの術式は、ものすごく細かい字で書かれていた。
単純に術式の省略以外にも、ああやって細かい字を書く事で記述量を増やす事も出来る。
地味だが意外と有用な技術だ。

( ^ω^)「というわけで、ちょっと細かい字を書く練習をしてみるかお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

何事も小さな一歩から始まる物だ。
僕は客が来ない間、紙片に細かい字を書く練習をし続けた。

224 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:28:48 ID:JD3qxqAM0

 〜 魔法道具屋サンライズ 午後 〜


ξ゚听)ξ「で、この紙束がその練習の成果ってわけね」

そう言ってツンはそれなりの厚さを誇る紙束を抱え、パンパンと叩く。
その目には明らかに呆れの色が窺える。

( ^ω^)「我ながらちょっとは上達したと思うお!」

(∪^ω^)「わんわんお!」
  _,
ξ゚听)ξ「そりゃ働きもせず、ずっと書き取りしてれば少しは上手くもなるでしょうね」

(;^ω^)「たまたま客が来なかったから、つい没頭しちゃったんだお。別にサボってたわけじゃねえお」

残念ながら今日は客の入りが悪く、練習の止め時がなかった結果、そうなったに過ぎない。
どうせならそれだけ続けられた僕の集中力を褒めて欲しいぐらいである。

ξ--)ξ「はいはい、そういう事にしておきましょ。そんなことよりもさあ……」

ツンは露骨に溜め息をつき、この話は終わりとばかりに僕に紙束を突き返す。
どうやらツンは新商品の開発の手伝いに来てくれたわけではなく、何か話があって来たようだ。

225 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:29:41 ID:JD3qxqAM0

ξ゚听)ξ「あんたクーに何言ったの? ものすごくブーたれてたわよ?」

( ^ω^)「何って、魔法道具屋としての見解に基づいた妥当な意見を提示しただけだお」

僕はクーとの剣の鑑定のやり取りをツンに説明する。
大体の事はクーに聞いていたようだが、恐らく大きく誇張されているだろうから、
クーには伝えなかった僕の見解も含めて話をした。

ξ゚听)ξ「なるほどね。まあ、確かに妥当な意見かもだけど……」

( ^ω^)「お宝を見付けたと喜んでる新米冒険者が、簡単に納得出来る意見ではないおね」

(∪^ω^)「わんお」

ξ゚听)ξ「わかってるならもうちょっと何とかしてやりなさいよ」

( ^ω^)「だから突き返さずに、一応剣は受け取っておいたお?」

仕事として調べるつもりはないが、仕事後に調べてみようと思ってはいたのだ。
可能なら、解呪も込みでやるつもりだ。

ξ゚听)ξ「それなら鑑定依頼を普通に受けてやればいいじゃないのよ」

( ^ω^)「まあ、そうなんだけど、なんとなく嫌な予感もするんだおね。あった場所があった場所だし」
227 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:30:46 ID:JD3qxqAM0

好事家の船内と考えれば、価値のある物であった可能性は高いが、現在は幽霊船と化していた船だ。
僕が不安になるのも無理のないことだと思う。

ξ゚ぺ)ξ「確かにこの剣、うまく言えないけど、何かちょっと変な感じね……」

( ^ω^)「単に魔法が施されてるだけとは思えない、違和感があるんだお」

ξ゚听)ξ「つまり、あんたはそれを、魔王の頭骨の影響だと考えているわけ?」

流石に付き合いが長いだけはあって、ツンは僕が不安に思っている点を即座に理解してくれた。
魔王の頭骨の力は、はっきり言って僕にはよく理解出来ていない。

ξ゚听)ξ「でもあんた、イチサンでは魔王の頭骨の力を抑えたわよね?」

( ^ω^)「かなり力技だお。あれ自体に何か出来たわけでもないんだお」

イチサンからソクホウに帰る際、問題となったのは魔王の頭骨の持つ、モンスターを引き寄せる力だ。
結局の所、あの力が何なのかは解明出来ていない。

だから僕は、それが発揮されないようにする為、結界を張ることでそれを抑えた。

( ^ω^)「正しくは、外に出さないようにしただけなんだけど」

228 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:32:13 ID:JD3qxqAM0

抑えたというよりは、広い部屋を用意してその中にあの力を垂れ流させただけだ。
だからソクホウに付いた際、魔王の頭骨を取り出そうとすると、
ソクホウにモンスターが大量に寄って来る危険性もあったのだが、それはビコーズさんが何とかしてくれた。

ξ゚听)ξ「流石は、ってとこかしら?」

( ^ω^)「あらかじめ何か用意してたっぽいとこが気に入らないのかお?」

ξ゚听)ξ「別に。宮廷魔術師殿が魔王の頭骨の力を知っていてもおかしくはないでしょうしね」

( ^ω^)「……まあ、知ってたなら最初っから教えておいてくれよってのはあるおね」

(∪^ω^)「わんおー」

クーの言う所の、教育方針的なものだと理解はしたが、一歩間違えれば死ぬ危険性もあるクエストだ。
それで納得出来るかと言われれば難しい所である。

クーの成長に期待していたのだとしても、度が過ぎていないだろうか。

ξ--)ξ「期待されてるのは、クーだけじゃないのかもね」

( ^ω^)「そういう話は正直勘弁して欲しいおね」

229 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:33:33 ID:JD3qxqAM0

ビコーズさんが、自分の師であるじいちゃんの孫の僕に目をかけてくれる理由は理解出来る。
ただ、少々目をかけ過ぎ、期待し過ぎ、過大評価し過ぎではないかと思いもしている。

ξ゚听)ξ「あの人、ブーンのおじいさんの事、ものすごく尊敬してるわよね」

( ^ω^)「うん、それはまあ、孫としては嬉しいと思うお」

ξ゚听)ξ「信奉というか、その……熱心なファンというか」

( ^ω^)「ちょっと大袈裟な感じだおね」

ツンは言葉を濁したが、何となく言いたい事はわかる。
僕はそれを笑って受け流し、少し話の方向を変える事にした。

( ^ω^)「あの剣が何かしら魔王の頭骨の影響を受けてるとすると、変に弄って似た効果が出ちゃうと怖いお」

ξ゚听)ξ「変に弄らなきゃいいんじゃない。ちゃんと弄れば」

(;^ω^)「それが出来れば悩まないお」

(∪^ω^)「わんおー」
231 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:34:27 ID:JD3qxqAM0

ξ゚听)ξ「それに、魔王の頭骨の影響を受けてない可能性だってあるんでしょ?」

( ^ω^)「それはそれで、逆に全く手がかりがなくなって難解なんだおね」

どっちにしろ、かなり厄介な代物であるという事だ。
逆に考えれば、それだけ価値がある可能性もあるのだが。

ξ゚听)ξ「で、調査の方針は決めてるの?」

( ^ω^)「似た様なのが載ってないか、じいちゃんの蔵書を虱潰しに見ていくしかないかなと思ってるお」

ξ゚听)ξ「大変ね」

( ^ω^)「大変だお」

(∪^ω^)「わんわんお」

( ^ω^)「でもまあ、引き受けちゃった物はしょうがないお。一応、友達の頼みだお」

ξ゚ー゚)ξ「そう。……じゃあ、今日はこれから暇だから、店番しててあげようか?」

ξ゚听)ξ「その間に調べててもいいわよ?」

232 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:35:33 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「お、そりゃ助かるけど、何か申し訳ないお」

ξ゚听)ξ「別に、店番といっても何かあったらあんたを呼ぶだけだし」

ξ゚听)ξ「初めてってわけでもないし、今更申し訳なく思うようなことでもないでしょ?」

( ^ω^)「そう言われるとそうだけども……」

ξ゚听)ξ「どうせ暇でしょうし」

(;^ω^)「どうせって何だお? 午後からは暇とは限らんお!」

僕はツンの申し出に感謝し、店番を頼んだ。
そして書庫に篭り、武器に関する書物を漁る事にした。

( ^ω^)「それじゃ、申し訳ないけど頼むお。その……」

ξ゚听)ξ∩「私は適当にわんおと暇潰してるから気にしなくていいわよ」

(∪^ω^)∩「わんおー」

(;^ω^)「暇とは限らないから! 忙しかったら呼んでくれお」

233 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:37:13 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「さてと、どこから見ていくかおね……」

適当に本を選ぼうかと思ったが、思い直し、まずはもう1度剣をよく診る事にする。

( ^ω○)、「今、魔王の頭骨以外に手がかりになる物があるとすれば、やっぱりこの文字だおね」

僕は剣というよりはそこに書かれている文字に注目し、詳しく調べる事にした。
ベースは古代文字の様だが、若干以上違う様な気がする。

( ^ω○)、「うーん……時代は古代文字が発達した時代であってるけど、地域が違うのかおね」

古代文字は古代文字なのだが、ニューソク大陸で発見される遺跡なんかにある古代文字とは異なる様だ。
元は同じものが、別の地域で独自の変化を遂げた可能性もある。

( ^ω○)、「わかんないとこを飛ばして見ると……うーん……駄目っぽいお」

わかりそうな単語を繋げてみると、なんとなく何かを抑えてるような意味合いに取れる。
どうやら僕の予想通り、何だか危険な代物かもしれない。

( ^ω○)、「こりゃ触らない方がいいかお? ……でもなあ、そうするとまたクーがうるさいおね」

234 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:39:13 ID:JD3qxqAM0

( ^ω○)、「お、何か他と違う感じの文字が……なになに……ディ……オーダー?」

( ^ω○)、「何だお? 剣の名前かお? それともこの剣に掛かってる魔法か何かの名前かお?」

( ^ω^)「他には……うむ、わからんお。まあ、こんなとこかお」

剣を調べ終え、取り敢えずの方針を定めてじいちゃんの蔵書を何冊か取り出す。
ラウンジや、それ以外と考えられている地域の伝承とか魔法に関する考察が書かれている本だ。

(;^ω^)「うは、埃がひでえお。もうちょっと掃除しなきゃだお」

僕は本に付いた埃を払い、本の目次に目を通す。
それらしい記述がないか探し、時に興味が惹かれた関係ない記述を読みつつ調査を続けた。

しかしながら、これといった目ぼしい発見はなく、店の閉店時間を過ぎ、ツンも家に帰った。

その後、僕は食事や入浴を済ませ、再び調査を続けていた。

( ^ω^)「これでもないおね……」

(∪-ω-) zzz....

(;^ω^)「お、わんお寝ちゃってるって思ったら、もう結構な時間だったお」

235 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:40:23 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「そろそろ寝ないと明日に響くおね」

(;^ω^)「けど、成果ゼロだと、また明日クーがうるさそうだお……」

僕はもう一踏ん張りし、別の本を調べる事にする。

(;^ω^)「うへえ、これは難解な本だお……」

開いた本は、過去の資料、古代文字で書かれた文面がそのまま載っているような物だった。
これを読み進めるのは大変だろう。

しかし、この辺りの本でも載ってないなら、ドクオさんが帰ってくるのを待った方が賢明かもしれない。

( ^ω^)「なになに、古来ニューソク王国の前身である……」

(∪-ω-) zzz....

( ^ω^)「当時……であった……族の……」

( ^ω-)「であるからして……隆盛の…………お……で……」

(∪-ω-) zzz....

( -ω-)「お……zzz...」
237 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:41:31 ID:JD3qxqAM0

 〜 ??? ? 〜


いつかどこかで見た景色が、眼前に広がる。
あの頃に見た空、山、川、町、そして人々。

これは僕の育った場所。
僕が生きて来た場所。

そして……

( ^ω^)「これは夢だお」

明晰夢というやつだろう。
僕はこれが夢であることを知覚していた。

いつの頃からか、何度となく見た夢。
ただそこに、僕が生きて来た世界が広がっているだけの夢だ。

( ^ω^)「しっかし、何でこう何度も同じ夢を見るんだろうおね?」
239 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:43:36 ID:JD3qxqAM0

単なる記憶の再現でしかない夢。
それが嫌なわけではなく、むしろ景色だけなら心地良い夢なのだが、繰り返し見る意味はわからない。
この、過去にあったごく当たり前の風景に何の意味があるのだろうか。

もっとも、夢に意味を求める事自体が無意味なのかもしれないが。

( ^ω^)「夢なら夢でもっと自由に動き回らせて欲しいおね」

この夢の間、何故か僕は決まって同じ行動を取る。
記憶が曖昧なのか、部分部分時間が飛ぶが、基本的には同じ流れに沿う。

ξ*゚ー゚)ξ(´・ω・`)

ある晴れた日の話。

('A`)

ある曇りの日の前日の話。

ミ `ω´)

僕が最後にじいちゃんを見た日の話。
241 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:45:20 ID:JD3qxqAM0

 〜 魔法道具屋サンライズ 研究室 深夜 〜


( ^ω^)「……お?」

その日の夢は途中で終わってしまった。
不意に覚醒した頭が、眠りから抜け出したのだろう。

(;^ω^)「むしろ身体が痛いからかお? 変な体勢で寝ちゃったおね」

どうやら調べ物をしながらそのまま椅子で眠ってしまっていたらしい。
身体の節々が痛むし、何か目の前を白い物がちらついている。

( ^ω^)「……白い物?」

僕は首を捻り、机の上の端の方を見る。

(∪-ω-) zzz....

そこに白い物はぐっすり眠っていて、僕を起こそうとはしていなかったようだ。
しかしながら今も何か白い物が視界の端をちらついている。

242 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:46:23 ID:JD3qxqAM0

(;^ω^)「ええっと……」

視線を正面に戻すと、棚引く1枚の白い布。
どこからも風は吹き込んでないし、白い布にも見覚えがない。

( ^ω^)「まだ夢の中だったかおね……」

そう割り切ってもう1度机に突っ伏そうとしたが、させじとばかりに白い布が音を立ててはためく。
あまりうるさいとわんわんおが起きてしまうので、僕は諦めて白い布に向かい合う事にした。

( ^ω^)「何だおね、これ?」

僕は宙に浮かぶ白い布に手を伸ばす。
一応、用心はして、魔法はいつでも唱えられるように構えている。

/ ゚、。 /「止めよ」

( ^ω^)「お?」

不意に静止を求める声が聞こえ、布に何かが浮かぶ。
丸が2つと横棒が1つ。
配置は歪んでいるが、どことなく顔に見えなくもない。

243 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:47:51 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「今のは君の声かお?」

/ ゚、。 /「うむ」

( ^ω^)「君は何だお? モンスターかお? それとも精霊かお?」

/ ゚、。 /「ふむ、難しい質問だが、今となっては後者に近いのかもしれんな」

魔法による遠隔通話的な物かとも考えたが、この布自体が意思を持っているらしい。
それも、口ぶりからするとかなり理性的なようだ。
色々と聞きたい事が山積みだが、まずは自己紹介でもしておこう。

( ^ω^)「僕はここ、魔法道具屋サンライズの店長、ブーン=ナイトウだお」

/ ゚、。 /「某は……名はなくした。……が、そうだな、仮にダイオードと名乗っておこうか」

( ^ω^)「ダイオード……」

僕はその名を反芻するように呟く。
初めて聞く名前のはずだが、どこかで聞いた事がある気がする。

244 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:48:38 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「あ、ディ・オーダー? それと響きが似てるんだお」

ディ・オーダー、クーから鑑定依頼を受けている剣から読み取れた文字。
多分読み方によっては、ダイ・オードとも読めるはずだ。

/ ゚、。 /「察しが良くて助かる」

( ^ω^)「なるほど、つまりこれは……」

/ ゚、。 /「うむ、つまり……」

( ^ω^)「まだ夢なんだおね。おやすみお」

そう宣言し、僕は机に勢いよく突っ伏す。
多分根詰め過ぎて疲れているのだろう。

( -ω-)「……お!?」

不意に柔らかい感触が首の辺りにしたと思ったら、次の瞬間一気に首を絞められていた。
慌てて起き上がり、首に付いていた白い布を引き剥がそうとすると、布はするりと抜け出し、また宙に浮いていた。

245 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:49:52 ID:JD3qxqAM0

/ ゚、。 /「残念ながら紛う事無き現実だ」

(;^ω^)「みたいだおね。つーか無茶すんなお」

咳き込みながら睨み付けるも、白い布、ダイオードはどこ吹く風でさらりとしたものだ。
どうやら僕はこの現実と向かい合わねばならぬようだ。

(;^ω^)「悪い予感はしてたけど、それが的中するとは……」

こんな事ならクーに無理にでも突き返しておけばよかったと思う。
というか、こんな風に出て来るのなら僕にではなくクーの枕元に立てばよさそうな物だが。

/ ゚、。 /「クーとは某を拾った女性の事か?」

( ^ω^)「そうだお」

/ ゚、。 /「それならば何度か枕元に立った事はあるが……」

( ^ω^)「が?」

/ ゚、。 /「1度も目覚めなかったな」

( ^ω^)「ああ……」

246 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:51:01 ID:JD3qxqAM0

僕はなんだか申し訳ない気持ちになりながらも、クーらしいとも思っていた。
昼の話だとツンはこの剣にあった違和感に気付いていたが、クーは全くだった。
恐らくそういったものに対する勘が鈍いのだろう。

/ ゚、。 /「貴殿が気付いてくれて本当に助かった」

( ^ω^)「こっちとしてはいい迷惑なんだけど……まあ、バイトの不手際を挽回するのも店長の務めだお」

見た所、悪い事を企んでいる感じでもないし、悪霊という風ではない。
その気になれば僕を絞め殺す事も出来たのにそれをしなかったのだから、
持ち主を憑き殺す様な呪いの剣というわけでもないのだろう。

( ^ω^)「それで、君は何者で、どうしたいんだお?」

/ ゚、。 /「話せば長くなる……と言いたい所だが、某自身もよく覚えておらぬ」

(;^ω^)「じゃあ、何で出て来たんだお。それ思い出してから出て来いお」

等と言ってしまったが、僕から見ると出て来てくれたのは幸運だったのかもしれない。
場合によっては、剣の調査がこれで完了するかもしれないのだ。
本人も覚えていないような事を調査するとなると、いったいどれだけ時間が掛かるかわかった物ではない。
248 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:52:34 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「取り敢えず、覚えていることだけでいいから教えてくれお。あと、この剣が抜けない理由も」

/ ゚、。 /「そうだな……まず……」

比喩ではなく本当に長くなったダイオードの話を要約すると、
かつて彼はニューソクでもラウンジでもない大陸に住む人間で、名のある剣士であったらしい。
理由は覚えてないが、死んで剣として打ち直され、今に至るという。

(;^ω^)「うん、まあ、話が長かった割にわかった事少ないおね」

/ ゚、。 /「そうか? なるだけ覚えている事を多数詰め込んだつもりだったが」

(;^ω^)「生前の食べ物の好みとか、そういうどうでもいい情報はいらないお」

ダイオードの話を聞いていると、ダイオードが住んでいた所はこの辺りとだいぶ風習が違う様に感じた。
惜しむらくは、その大陸や国や町の名前をダイオードが一切覚えてないという事だ。
何かしら固有名詞が上がればそこから何かしら探しようもあったのだが。

( ^ω^)「剣として打ち直されたというのもよくわからんおね」

/ ゚、。 /「なに、簡単な話だ。死した我が身を鉱石と……」

(;^ω^)「おk、理解出来たから詳しい描写はしなくていいお」

249 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:54:09 ID:JD3qxqAM0

さらりと恐ろしい事を言おうとするダイオードを制し、机の上に置いていた剣に視線を向ける。
正直、狂気の沙汰だと思うし、どうしてそうしたかの理由はわからないので考えても無駄だろう。
風習か宗教か、そう考えるに至る何かしらの慣習か教義か何かがあったのだろう。

( ^ω^)「で、この剣が抜けない理由なんだけど」

/ ゚、。 /「信念だな」

( ^ω^)「信念?」

/ ゚、。 /「うむ」

(;^ω^)「いや、満足気に頷かれても、それだけじゃ何のこっちゃでさっぱりポンだお」

要領を得なかったが、漠然と理解した所によると、要するにこの剣を抜くには信念、想いの力が必要ということらしい。
ただ、その想いの力の意味がよくわからなくはあるのだが。

/ ゚、。 /「覚悟と言い換えてもいいだろう」

( ^ω^)「覚悟……」

250 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:55:00 ID:JD3qxqAM0

言い換えられても結局よくわからないのだが、要するに確固たる想いがなければこの剣は使えないという事らしい。

( ^ω^)「ひとまずそれで納得するにしても、何でそんな事になってんだお?」

( ^ω^)「何のためにそんな仕組みにしたのかとか」

/ ゚、。 /「この剣を振るうのに相応しい人物を選別するためだ」

( ^ω^)「って事は、かなり強力な剣なのかお?」

/ ゚、。 /「うむ。某の国の稀代の名工の手による物……のはずだ」

( ^ω^)「ほう……」

とにかく、僕の知る魔法とは違う原理の力でこの剣は封印されているらしい。
僕のやり方では解呪は難しそうなので、もしこれを使うならダイオードの言う、
想いの力とやらを発現させねばならないようだ。

( ^ω^)「って事は、ここで僕がその想いの力ってやつでこれを抜いてもいいんだおね?」

/ ゚、。 /「かまわぬ……が」

( ^ω^)「が?」

251 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:56:01 ID:JD3qxqAM0

/ ゚、。 /「もし貴殿が剣を抜く事が出来たら、某は生涯貴殿に付き従う事になる」

( ^ω^)「手放せないし、持ち主も変えられないってことかお」

この剣の本来の持ち主はクーだし、如何に強力な剣でも、魔法使いである僕が帯剣していてもあまり意味がないので、
僕が抜くのは止めておいた方が良さそうだ。

( ^ω^)「持ち主は誰でもいいのかお?」

/ ゚、。 /「力あるものならば誰でもかまわぬ」

( ^ω^)「その言い方だと、悪人でもいいみたいだおね」

/ ゚、。 /「力は力だ。所詮剣は道具に過ぎぬ」

( ^ω^)「使い手次第って言いたいのかお?」

感情を感じさせない、無機質なしゃべり方をするダイオード。
それは死して精霊のような存在になったからではなく、ひょっとしたら元からこういう感じの人なのかもしれない。

( ^ω^)「まあ、悪用されるのはよろしくないので、がんばってクーに抜いてもらうしかないかお」

252 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:57:14 ID:JD3qxqAM0

/ ゚、。 /「頼む。このまま鞘の中で朽ち果てていくのは本意ではないのでな」

( ^ω^)「ただ、正直に今の話をするだけだから、クーが引き受けるかどうかはわからんお」

( ^ω^)「めんどくさいって、そのまま放置とか僕に丸投げされる可能性もあるお」

/ ゚、。 /「その時はそれも運命と受け入れよう」

/ ゚、。 /「どちらにしろ、彼の女性に拾われなければ海の藻屑であったのだ」

( ^ω^)「わかったお。クーが諦めた時は僕が別の持ち主を探してあげるお」

そろそろ夜更けどころか夜明けが近くなって来たので、そこで話を終え、寝る事にした。
ダイオードも今度は起こさないでいてくれるようだ。

ただ、頼むと一言告げ、白い布は跡形もなく消えていった。

( ^ω^)「さて、寝るかお」

(;^ω^)「……明日は朝起きれるかおね?」

僕はうっすらと明るくなっている東の空に目をやりつつ、わんわんおを抱えて自室に戻り、床に就いた。
254 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:58:00 ID:JD3qxqAM0

 〜 魔法道具屋サンライズ 午後 〜


( ^ω^)「……という事があったんだお」

川 ゚ -゚)「ふむ……なるほどな」

(∪^ω^)「わんお」

翌日、案の定寝過ごした僕は慌てて店を開け、午後には通常営業出来るように間に合わせた。
まだ若干眠気が差し、だるかったが、何とか業務をこなせていたと思う。

そんな時にクーがやって来たので、昨日の深夜の話を包み隠さず説明した所だ。

川 ゚ -゚)「夢でも見ていたのだろうと言いたいとこだが……目にクマまで作って法螺話もないだろうしな」

( ^ω^)「信じる信じないは任せるけど、鑑定は終了って事にするお」

そう言って僕はクーに剣、ダイオードを手渡す。
剣自体の銘を聞き忘れていたので、剣の名前もダイオードという事にした。

255 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 21:59:32 ID:JD3qxqAM0

川 ゚ -゚)「想いね……正直よくわからんが、とにかく抜いても呪われるような事はないんだな?」

( ^ω^)「多分。呪われるような剣なら、あんな悠長に会話してる間に呪い殺されててもおかしくないと思うお」

川 ゚ -゚)「ならば抜いてみるか」

(∪^ω^)「わんお!」

そう言ってクーは剣を帯び、柄に手を掛ける。
そしてそのまま力を入れた様だが、剣はぴくりとも動かなかった。

川 ゚ -゚)「やはり普通にやっても駄目か」

( ^ω^)「何かしらの想いを込めてやんなきゃ駄目だと思うお」

川 ゚ -゚)「それはどんな想いでもいいのか?」

( ^ω^)「ダイオードの話しぶりではそうみたいだおね。あんまりくだらない事だとどうかと思うけど」

(∪^ω^)「わんおー」

川 ゚ -゚)「ふむ、ならば……」

256 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:00:59 ID:JD3qxqAM0

川 ゚ -゚)「私はブーンに対する借金を滞りなく返済する事を誓おう!」

クーはそう宣言し、力を入れて剣を抜こうとするが、やはり剣は抜けないようだ。

川 ゚ -゚)「やはりいい加減な気持ちでは駄目なようだな」

( ^ω^)「ちょっと待てお。いい加減な気持ちって何だお? 借金はちゃんと返せお」

その後もクーは色々と宣言しては剣を抜こうとするが、一向に剣が抜ける気配はない。
時折り聞き捨てならないセリフもあったが、取り敢えずは保留にしておく事になった。

川 ゚ -゚)「常に帯剣しておけば、何かの際に抜けるかもしれん」

( ^ω^)「ホントにピンチの時に抜けませんでしたじゃ笑えないから、あんまその剣を過信すんなお」

未知数な所が多過ぎる武器なので、実戦に使うのはあまりお勧めしないのだが、
クーはダイオードを気に入っているようだ。

ダイオードをというよりは、冒険者として初めて自分で見付けた珍しい武器という事で思い入れが出来たのだと思うが。

( ^ω^)「もし抜けたとしても、使い辛かったり弱いと感じたらすぐ切り替えろお」

( ^ω^)「切迫した場面だったりしたら、一瞬の迷いや隙が命取りになるかもしれんお」

257 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:02:43 ID:JD3qxqAM0

川 ゚ -゚)「わかってるさ。それ以前に自分の腕も磨かないといけないしな」

自分の力不足は身に沁みてわかっているとクーは言う。
自分の力の無さで、僕やトソン君たちに迷惑を掛けたと。

( ^ω^)「まあ、前回のクエストはちょっと規格外のとこあったから」

( ^ω^)「もっと身の丈にあったクエストにいけば、クーもまともに立ち回れると思うお」

(∪^ω^)「わんお!」

川 ゚ -゚)「それもわかってはいるが、それでもな、やはり力の無い自分が歯痒いと思うさ」

真顔でそう言い切るクーが、一瞬誰かに重なって見えた。
ごく最近、似たようなセリフを聞いたはずだ。

( ^ω^)「……あんまり似てないおね」

川 ゚ -゚)「ん? 何の話だ?」

( ^ω^)「クーとクーのお父さん、モナー王だお」

川 ゚ -゚)「ああ、よく言われるよ。私は母親似だってな」

258 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:04:13 ID:JD3qxqAM0

しばらく前にクーの父親であるモナー王から、先ほどのクーと同じような言葉を聞いたのだった。
外見はあまり似ていなくても、やはり親子という所だろうか。

川 ゚ -゚)「うちはあまり顔が似ない家系なのか、少なくとも父親似はいないんだよな」

そういわれると確かに、クーの兄であるワカッテマス王子もビロード王子もモナー王にあまり似ていない。
あの2人は兄弟としては似ているが、父親とも母親ともあまり似ていないのだとクーは言う。

川 ゚ -゚)「私だけが母親似で、唯一親に似たと言われてたよ」

そう言ってクーは胸元のペンダントに手を当てる。
そういえばあれは母親の形見だったはずだ。

川 ゚ -゚)「しかし、突然どうした? 何故急に父上の話が出て来る?」

僕はクーに王宮であった事を説明する。
その話の切っ掛けになった、僕自身の噂については特に触れなかった。

川 ゚ -゚)「そうだな……、私も似たような発言を聞いた覚えはある」

川 ゚ -゚)「それで幼心に、王族とはそういうものなのだと意識もした」

( ^ω^)「いわゆる帝王学ってやつかおね? まあ、僕は正直、あんまりよくわからないんだおね」

(∪^ω^)「わんおー」

259 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:05:22 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「王ならむしろ、上手く人が使えれば、腕力とか魔力とか、そういった力はいらないと思ってたお」

川 ゚ -゚)「治世の王ならそうかもしれんな」

川 ゚ -゚)「ただ、国民の先頭に立つという立場を考えれば、ある程度は力が無いと示しが付かないと思っている」

( ^ω^)「そういうもんかお」

(∪^ω^)「わんわんお」

川 ゚ -゚)「そういうものらしいな。まあ、私もよくわかってはいないんだがな」

川 ゚ -゚)「実際に先頭に立っているわけでもないし、今後も立つ事は無いわけだからな」

( ^ω^)「お……」

クーは自分が王家を継ぐ事は有り得ないと思っているようだ。
モナー王のあの話しぶりだと、有り得ないわけではないのだが、有り得ないと思う方が普通であろう。
なんせクーの上には2人の兄がいるのだし。

僕はモナー王に口止めされているので、その事はクーには言わないでおく。

川 ゚ -゚)「ただ、その理屈でいくと、兄上達は少々頼りないんだよな……」

260 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:06:50 ID:JD3qxqAM0

それはモナー王もそう言っていたし、クーもそう感じているとなるとその見解は正しいのであろう。
上のお兄さんであるワカッテマス王子とは話していないが、下のビロード王子と話した印象では、
あまり頼り甲斐のある人という感じではなかったと思う。

( ^ω^)「てか、ビロード王子はクーの弟かと思ったお」

川 ゚ -゚)「やさしい人ではあるのだがな。どうも威厳や頼り甲斐は一切無い兄だ」

( ^ω^)「今、ショボンが付いてるって話はしたおね」

川 ゚ -゚)「ああ、聞いてるし、いい判断だと思う。ショボンはよく気が付くやつだしな」

( ^ω^)「もう、すっかり仲良しだったお。若干、主従関係逆転して見えたけど」

(∪^ω^)「わんおー」

僕の言葉にクーは軽く微笑む。
どちらの事も知っているクーには、その姿が容易に思い浮かぶらしい。

川 ゚ -゚)「それで兄上が少しでも成長してくれるなら願ったり叶ったりだ」

261 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:08:07 ID:JD3qxqAM0

ビロード王子には、行く行くは国王になるであろうワカッテマス王子をサポートして欲しいとクーは考えているようだ。
普段はいい加減にしか見えないクーも、国の行く末は王族としてちゃんと考えているらしい。
  _,
川 ゚ -゚)「失礼な。私は常に真面目に生きてるぞ?」

( ^ω^)「最初にここに来た時にぶっちゃけたじゃねえかお」

とはいえ、ずっと今の様な生き方をするつもりもなく、王宮に戻るという事も言っていた。
クーもその辺りの事を蔑ろにする気はないのだろう。

川 ゚ -゚)「そりゃ王族として生まれた責務はあるからな」

生まれは選べない物だが、王族として生まれてこれまでいい暮らしをさせてもらって来たのだから、
その分は還元する必要があるだろうとクーは言う。

随分と割り切っている様に見えるが、そこに行き着くまでにもう、いくつもの葛藤を越えて来たのかもしれない。
その結果、今この時期を逃せば、今後自由に世界を見る機会がないと判断したからこそ王宮を抜け出したとしたら、
今更僕なんかがその心情を慮るのも野暮というものか。

川 ゚ -゚)「何だ、妙に神妙な顔をして? 言いたい事があったらはっきり言ってくれよ」

(;^ω^)「あ、いや、別に。大変だおねと……」

(∪^ω^)「わんわんおー」

262 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:09:45 ID:JD3qxqAM0

僕は考えていたことを悟られぬよう、適当に誤魔化して話題を変えようとした。

( ^ω^)「そういえば、クーは今回の一連のクエストの事はどう思ってるんだお?」

川 ゚ -゚)「どう、とは?」

(;^ω^)「あ、その……えっと……」

しかし、変えた先の話題もあまりよろしくなかった。
何気なく持ち出した話題だったが、この話はどちらかといえば王宮の事を疑っているという話でもあるので、
それをクーに聞くのはまずいだろう。

川 ゚ -゚)「ふむ、そうだな、王家の役割としては間違っていないと思うが……」

川 ゚ -゚)「多少気になる点もあるんだよな」

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、クーは自分の考えを述べていく。
そこに不快だとかの感情的なものはなく、ただ単にあった事を自分なりに分析した結果という風に感じられた。

川 ゚ -゚)「時期は千年紀とやらの都合にしても、中途半端な秘密主義というか、冒険者を使う意味とか色々とな」

( ^ω^)「だおね。経済的な面とか、風評の面で軍が動かせなかったとしても、もう少しやりようはあったおね」

263 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:11:08 ID:JD3qxqAM0

いい機会なので、僕はモナー王やビコーズさんの事をよく知っているであろうクーに、
ツンが心配しているような事をそれとなく聞いてみる。

川 ゚ -゚)「そうだな。しかし、父上やビコーズさんが間違った事をするとは思えないが、少し気になっている」

( ^ω^)「何か僕らの知らない理由があるのかおね?」

川 ゚ -゚)「その可能性もあるのだろうな。まあ、何かしらそうする理由があるのだろう」

クーの話しぶりだと、モナー王の事もビコーズさんの事も信頼しているというのがよくわかる。
ツンの危惧が考え過ぎだと思えるぐらいには。

川 ゚ -゚)「何にせよ、最後の1つは所在もわかっているし、もうこの件は片付いたようなもんだろ」

( ^ω^)「まあ、そうだおね」

(∪^ω^)「わんお」

若干、まだそう簡単には終わらないかもしれないという不安はあるものの、それに僕が直接関わる事はないだろう。
関わるならばそれが終わってから、魔具が3つ揃ってからだ。

またドクオさんに怒られそうな事を考えているが、既に関わっているのだから仕方がない。

264 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:12:32 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)(ただ、何かあるとしたらそれはクーにとっては辛いことだおね……)

万が一があった場合、クーはどうするのだろうか。
そして僕はもまた、どうするのだろうか。

川 ゚ -゚)「何だ、また神妙な顔して? やはり寝不足か? すまなかったな、無茶な依頼して」

( ^ω^)「いや、そういうわけじゃないから気にすんなお」

川 ゚ -゚)「そうか? ならばどうした? いかにも心配事がありますって顔されると気になるだろうが」

(;^ω^)「そんな顔してたかお? すまんお、大したことじゃないお」

川 ゚ -゚)「大したことじゃないなら言ってみろ。何かしらアドバイスぐらいしてやれるかもしれんぞ?」

川 ゚ -゚)「それに、何を言われても私は怒らないさ。ブーンが考え無しに物をいう人間ではないと知っている」

( ^ω^)「お……」

どうやらクーは僕が何かしらクー絡みで考えていた事に気付いている様だ。
ダイオードに枕元に立たれても気付かなかったという鈍さを発揮していたくせに、たまに妙に鋭い時がある。

265 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:13:55 ID:JD3qxqAM0

( ^ω^)「クーはもしニューソクが、モナー王達が間違った道へ進もうとしたらどうするお?」

川 ゚ -゚)「それは千年紀の王絡みの話か? まあ、事の大きさを考えれば危惧したくなるのもわかるが」

川 ゚ -゚)「私は父上が道を間違う事は無いと信じているよ」

( ^ω^)「そうかお。まあ、そうだおね」

川 ゚ -゚)「それに、もし万が一、間違った場合は私が何とかするさ」

川 ゚ -゚)「立場上、私は国を、父上を支持せねばならないのかも知れないが」

川 ゚ -゚)「国は人だと、かつて父上は言っていた」

川 ゚ -゚)「その父上が国を、人を傷付けるような事をするのならば止めねばなるまい」

( ^ω^)「クー……」

川 ゚ー゚)「私に大した力は無いが、それが王族として生まれた私の義務だからな」

クーはそう言って軽く微笑むと、ダイオードに手を掛ける。
柄と鞘をそれぞれの手で持ち、眼前に掲げるとその手に力を込める。

266 名前:名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:16:08 ID:JD3qxqAM0

川 ゚ -゚)「私はこの国、ニューソク王国の恒久なる安寧の為に剣を振るう事を誓おう」

クーはそう宣言すると、両腕に力を込め、左右に広げた。

( ^ω^)「……」

(∪^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「……締まらんおね」

(∪^ω^)「わんお」

川;゚ -゚)「まあ、何だ、その気はあるけど、腕が無いんでイマイチ自信が……」

僕とわんわんおは冷ややかにクーの手にある鞘に納まったままのダイオードに目を向ける。
鞘から剣が抜けたわけではなく、単に片手からすっぽ抜けただけだ。

川;゚ -゚)「なに、このくらいすぐ抜いてみせるから、大船に乗った気でな……」

僕は必死に弁明するクーの言葉を聞き流し、店の商品の補充に取り掛かった。



     第四十三話 その身に想い、その手に力 終

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