- 895 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:25:40 ID:Dn379DoI0
〜 イチサンの町北東の海域 幽霊船甲板 〜
( ^ω^)「やっぱり霧が薄くなってますお」
(´<_`;)「急に甲板に戻るって言い出した理由はこれかい? どうしてわかったの? 薄くなった理由は?」
( ^ω^)σ「あれだと思いますお」
(´<_` )「あれ? あれって……」
( 、 ;トソン「ウフフフフフ……ハァハァ……やりましたよ、クー様……ハァハァ……」
(´<_`;)「……ひょっとして、あれからずっと踊ってたのかな?」
(∪^ω^)「わんおー」
第四十話 大海の波瀾
- 896 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:27:30 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「でしょうおね。それで浄化が成功して、骸骨が崩れたんだと思いますお」
僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。
(´<_` )「なるほどね。そういう事だったのか」
彼の名前はオトジャさん。
アニジャさんの弟で、トレジャーハンターをやっていて、冒険野郎サスガイバーの異名を持つ人だ。
( 、 ;トソン「ハァハァ……やりましたよ、クー様……ハァハァ……僕は……ハァハァ……僕は……」
彼女の名前はトソン君。
元聖騎士だったが現在はヴィップの町で冒険者兼アルバイトをやっている、腕は立つが少々不器用な人だ。
僕達は魔王の頭骨を探すクエスト受け、イチサンの町の北東の海域に出現するという幽霊船に乗り込んでいた。
現在僕らは何人かずつでバラバラに行動し、魔王の頭骨を捜索している真っ最中だ。
(;^ω^)「えーっと、トソン君?」
(゚、゚;トソン「ブーン店長!」
- 897 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:29:47 ID:Dn379DoI0
(゚、゚*トソン「僕はやりましたよ! ちゃんと踊り切って! スペシャルを! 浄化を!」
(;^ω^)「わかってるから、ちょっと落ち着くお。はい、お水だお」
(゚、゚*トソン「ありがとうございます! 頂きます!」
長時間踊り続けた疲れからか、それとも成功させた高揚からか、異常な興奮状態にあるトソン君を落ち着かせるべく、
僕は持っていた水を渡す。
トソン君はそれを一気に飲み干すと、大きく息を吐いた。
( ^ω^)「少しは落ち着いたかお?」
(゚、゚トソン「あ、はい、えっと……」
( ^ω^)「お疲れ様だお。こっちはまだ目的の物は見付けてないけど、これで捜索が楽になりそうだお」
(∪^ω^)「わんわんお!」
(゚、゚*トソン「そ、そうですか? お役に立てて幸いです」
トソン君はにっこりと微笑み、その場に座り込む。
流石にこれだけ長い時間踊り続けたので疲れたのだろう。
- 898 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:32:09 ID:Dn379DoI0
(´<_` )「何だか嫌な気配も薄まってるように感じるね」
( ^ω^)「実際、薄まってると思いますお」
そう言って僕は周囲を見回す。
濃かった霧は薄まり、だいぶ視界が開けていた。
( ^ω^)(上の方はまだ霧が濃いけど、結構な広範囲を浄化したおね……)
(∪*^ω^((゚、゚*トソン
僕は上機嫌でわんわんおに頬擦りをするトソン君を見る。
技術は下手だが、潜在的な魔力は高いのだろう。
聖騎士団に伝わる舞踊魔法の増幅力が高いのもあるのかもしれない。
( ^ω^)(これが実戦で使えるようになったら相当のもんだお)
あのリズム感では前途は多難だが、修練を積めばいい所まで行くかもしれない。
(´<_` )「アニジャには状況を説明して来たから、また船内に戻るよ」
( ^ω^)「僕も行きますお」
- 899 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:34:17 ID:Dn379DoI0
(゚、゚トソン「それでは僕もクー様の所へ向かいますね」
( ^ω^)「まだ休んでなくて大丈夫かお?」
ヽ(゚、゚トソン「はい、もう元気いっぱいですよ!」
そう言ってトソン君は勢いよく立ち上がり、剣を担ぐ。
今の状況なら危険は少ないだろうし、好きにさせてあげるべきだろう。
僕らは船内に入り、階段を降りる。
僕とオトジャさんとわんわんおはトソン君と別れ、再び船室の調査に戻った。
(´<_` )「お、この部屋は個室のようだね」
( ^ω^)「他とは明らかに違って、物も多いですお」
調査を再開して数部屋目で、これまでとは造りが違う部屋を見付けた。
ここも船員の部屋だとすると、明らかに上の待遇の人の部屋だろう。
(´<_` )「ここなら何か見付かりそうだね」
( ^ω^)「それじゃあ、探しましょうかお」
- 900 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:37:20 ID:Dn379DoI0
僕らは二手に別れて室内を探っていく。
程なくして手際良く机の辺りを物色していたオトジャさんが何か見つけたようだ。
+d(´<_` )「おk、航海日誌ゲット」
( ^ω^)b+「流石ですお」
早速僕らは机の上に日誌を広げ、中を確認する。
日誌は半分ぐらいまで書かれているようだ。
(´<_` )「この船は豪商の持ち物だったようだね」
( ^ω^)「商船、貿易用ですかおね」
(´<_` )「その様だね。ただ、扱うのは嗜好品が多かったみたいだ」
(´<_` )「工芸品がメインで、一部値の張る美術品なんかも運んでいたようだ」
(´<_` )「この船の持ち主は結構な好事家だった様だね。美術品は商売目的じゃなかったらしい」
( ^ω^)「しかし、この船が美術品とか、珍しいものを扱ってたとすると……」
(´<_` )「うん、魔王の頭骨も積んでいた可能性はある」
- 902 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:39:49 ID:Dn379DoI0
全部読んでいる時間は無いと思うので、僕らはこの船がどんなものだったかの把握を終えると、
日記の最後の方のページから読む事にした。
(´<_` )「この辺りからが最後の航海の日誌みたいだね。なになに……」
最後の航海は目的も航路も、普段とそう変わらない旅であったようだ。
ラウンジ大陸の工芸品をニューソク大陸に持ち帰るといった具合の航海だったらしい。
(´<_` )「ただ、珍しい美術品も積んでいたようだね」
( ^ω^)「日誌には魔除けの兜とありますおね」
魔除けの兜と魔王の頭骨、どちらも頭に関係するが用途は正反対な気がする。
僕らはその正体を知るべく、日誌を読み進める。
(´<_` )「ええっと、その魔除けの兜について書いてあるのは……」
何でも、この船の持ち主である豪商、ブルジョア=アルェが直々に出向き、
ラウンジの奥地の村で祀られていた物を買い取ったらしい。
( ^ω^)「微妙に聞き覚えがあるような名前だお」
(∪^ω^)「わんおー」
(´<_` )「有名な商人なら、今に名が伝わっていてもおかしくはないさ」
- 903 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:42:38 ID:Dn379DoI0
その線も考えられるが、僕としてはオトジャさんが言ったような類の耳にし方ではなく、
結構最近にそれっぽい名前をどこで見たような気がしたのだ。
まあ、今はどうでもいいような事なので、ひとまず気にしないでおく。
(´<_` )「とにかく、それなりに由緒というか曰くがあった物みたいだね」
日誌には、一目見ようとしたが厳重に封をされ、貨物室に保管されていたので、
見る事が適わなかったという船員の嘆きも記載されていた。
(´<_` )「で、その後の話だね」
往路は順調だった航海だが、日誌によると復路はかなり荒れたようだ。
嵐に会うはモンスターに会うはと、散々だった様子が見て取れる。
( ^ω^)「で、この普段とは違う状況に、船員達の中で不満や疑いの気持ちが溜まっていくわけですね」
(´<_` )「その矛先は魔除けの兜に向くと」
曰く、あれは魔除けの兜ではなく魔寄せの兜だった。
いや、住民を騙してあくどい方法で入手したから呪われたのだとか、様々な憶測が船員の間に広まっていった様だ。
- 904 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:43:25 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「でも、もしこの魔除けの兜が魔王の頭骨だったとしても、当時は力は失ってたはずですおね?」
(´<_` )「時期的にはそうなるだろうね。でも、結局最終的にはこの魔除けの兜の所為だったかもしれないね」
( ^ω^)「それはどういう事ですかお?」
(∪^ω^)「わんお?」
船員達が言うように、あくどい手段で手に入れて呪われた可能性もあるだろうが、魔除けの兜という、
普段の航海とは違う物があった所為で、ただの偶然で済ませられた物が作為性を帯びてしまったとオトジャさんは言う。
(´<_` )「本来なら何でもないはずの事が、魔除けの兜という具体的な物があるお陰で」
(´<_` )「船員達に不安と恐怖を植え付けるのを助長した可能性はあると思う」
( ^ω^)「なるほど。この日誌見ても、明らかに後半は恐れてる風ではありますお」
そうして読み進めて行くと、日誌の最後のページに辿り着いた。
どうやら事件は丁度日誌を書いてる最中に起こったらしく、最後の方だけ殴り書きの様にになっている。
(´<_` )「この段階では状況がよくわかってないようだね。天候が悪かった事は記述されているけど」
( ^ω^)「すごく船が揺れ出したとありますし、この海域で何かあったんでしょうおね」
- 905 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:45:11 ID:Dn379DoI0
船員が書いたの最後の記述は、船から逃げる、しかし助からないかもしれないという悲壮なものであった。
具体的に何があったのかはわからないが、この日誌を置いていった事からも、かなりの緊急性を要し、
かつ持ち出せるものも限られたのだろう。
(´<_` )「脱出艇がなかったのはその所為かもね」
( ^ω^)「助かった事を願いたいですお」
現実問題、多数の骸骨戦士が見られる事からも、助からなかった人がその数いるのはわかっている。
それでも、出来るだけ多くの人に助かっていて欲しいと願うのは人間として普通の事なのだと思う。
(´<_` )「さて、結論から言うと、ここには魔王の頭骨と称される物はなかったようだけど……」
( ^ω^)「魔除けの兜があり、それが魔王の頭骨だった可能性はあるわけですおね」
(∪^ω^)「わんわんお!」
(´<_` )「となると僕らもクーさん達を追うべきかな?」
( ^ω^)「貨物室に行きますかお」
そう結論付け、部屋を出ようとした僕達だが、突然船が大きく揺れたので、思わずその場で身を低くした。
- 906 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:47:14 ID:Dn379DoI0
(´<_`;)「高波かな? だとしたら、問題は何でそんな波が起きたのかという事だけど……」
(;^ω^)「甲板に向かいましょうお」
揺れは収まらないが、このままここに止まっているのは得策ではないので、何とか立ち上がり、部屋を出る。
一応、航海日誌だけは持って行く事にした。
通路に出た僕達の視界の端に、僕達と同じように壁に手を当ててバランスを取りつつ、
階段の所から出て来るツン達の姿が見える。
ξ゚听)ξ「この揺れは?」
( ^ω^)「わからんお。だから、今から甲板に戻るところだお」
川 ゚ -゚)「こちらも理由はわからんし、奥の方から何かミシミシと船体が軋む嫌な音がしたから上がって来た」
ツン達の方も僕達と状況はそう変わらないようだ。
やはり甲板に出てみるしかない。
そう考えていると、不意に船外で大きな音が鳴り響いた。
- 907 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:49:26 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「アニジャさんからの合図だお」
ξ゚听)ξ「どうやら急いで戻らないとまずそうね」
(´<_` )「お三方、貨物室には辿り着けたかい?」
(゚、゚トソン「はい、それらしき部屋には入りました。ですが、魔王の頭骨らしき物は見付かっておりません」
( ^ω^)「この航海日誌によると、魔除けの兜って言われてるそれっぽいのが貨物室にあったらしいお」
ξ゚听)ξ「残念ながら、兜も頭の骨もなかったわよ。モンスターも無し」
(´<_` )「価値がありそうな物も皆無だったのかな?」
川*゚ -゚)「良さそうな剣は貰っておいた」
(;^ω^)「迂闊に抜くなお? 呪われてる可能性もあるお」
僕達は合流し、揃って甲板の方へ向かう。
その間も揺れが収まる事はなく、むしろひどくなっている気配がある。
- 908 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:50:55 ID:Dn379DoI0
川 ゚ -゚)「結局、この船は外れか」
(´<_` )「かもしれないね。ただ、まだ見付かってないだけで、どこかに隠されている可能性もあるけど」
(゚、゚;トソン「その場合、もしこの船が沈んで二度と出て来なくなったらどうなるんでしょう」
( ^ω^)「魔王の頭骨が二度と人目に触れないならそれでいいお。本来の目的を考えれば問題ないお」
ξ--)ξ「それだと、ちゃんと確証を取らない限り私らが一生このクエスト終えられないでしょうが」
(∪^ω^)「わんおー」
川 ゚ -゚)「幽霊船ならまた出て来るんじゃないか? 原因は何の解決もされてないんだし」
( ^ω^)「まあ、それは……」
僕は階段を登りつつ、ちらりとトソン君の方を盗み見る。
クーが言う様に、この幽霊船現象の根本を解決しない限りまた出て来る事は考えられるが、
先のトソン君の魔法で原因が浄化されてしまった可能性もある。
その場合はもう、この船は幽霊船ではなく、ただの難破船が浮かんでいるだけという事になり、直に沈む可能性もある。
- 910 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:52:21 ID:Dn379DoI0
階段を登り切った僕らは、ドアを開け、甲板に出る。
霧はほとんどなくなっていたが、風が強く、遠くの空には黒い雲が見える。
(´<_`;)「嵐の前という感じだね」
ξ゚听)ξ「急に天候が変わりましたね。この場を急いで離れた方が良さそうですね」
川 ゚ -゚)「そうしようか。よし急ぐ──」
突如船が大きく傾いた。
船尾の方が海に沈み込み、甲板は急勾配の坂に変わる。
(;^ω^)「ちょ、わんお、フードに!」
(∪;^ω^)「わんお!」
慌ててわんわんおを掴み、フードに押し込む。
そして甲板に伏せ、転がり落ちない様に踏み止まった。
川;゚ -゚)「何だこれは? おい、一体全体どうなってる」
ξ;゚听)ξ「わかんないわよ! けど、風で揺れたにしては不自然過ぎるわ……」
- 911 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:53:46 ID:Dn379DoI0
同じ様に甲板に伏せたツンとクーが怒鳴り合う。
状況はよくわからないが、早いとこアニジャさんの船に戻るべきだろう。
川;゚ -゚)「戻ると言っても我々の船は船首の方だぞ? この坂を登るのか?」
(;^ω^)「それしかないんじゃないかお? アニジャさんが気をきかせて側面に回ってくれると助かるけど」
(゚、゚トソン「空気の読めなさには定評ある人ですから、それは難しいかと」
(´<_`;)「それに、いったんワイヤーを外すと、この揺れでは再度固定するのは難しいだろうしね」
ξ゚听)ξ「そもそも、船首にワイヤー繋ぎっ放しだったんなら、こっちの船自体がまずい事になってません?」
(´<_`;)「そこはアニジャがワイヤーを緩めて対処してくれたと信じるしかないね」
(;^ω^)「とにかく、船首まで行くしかないお」
川;゚ -゚)「行くったって、さっきより傾斜が急になってないか?」
こうして話している間にも、船はどんどんと傾いていく。
これ以上傾くと、甲板に伏せている程度じゃ耐え切れないかもしれない。
- 912 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:55:15 ID:Dn379DoI0
(∪^ω^)「わんわんお!」
(゚、゚トソン「船の揺れが止まりました! 今がチャンスかもしれません」
(´<_` )「よし、今の内に登って……」
(;^ω^)「いや、これは……」
船の傾きは固定されたが、船自体は小刻みに震えている。
何というか、耐えているが決壊寸前といった風に見え、とてつもなく悪い予感がする。
ξ;゚听)ξ「これ、ひょっとして……」
(;^ω^)「ウインド・バリア!」
僕は全員に風の結界を張り、次に来るであろうその瞬間に備える。
そう身構えた矢先、不意に足元がなくなるような感覚を覚えた。
川;゚ -゚)「んな!?」
(;^ω^)「船が落ちるお! 何かに掴まってろお!」
- 913 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:56:58 ID:Dn379DoI0
落ちる、そう叫んだが正しくは元に戻るであろう。
沈み込んでいた船尾に掛かる力が外れ、その結果傾いていた船が元の水平な状態に戻ろうとしているのだ。
(゚、゚;トソン「わわわ!?」
当然、高く上がっていた反動で、今度は船首の方が一時的とはいえ海に沈みこむ事になる。
甲板の傾斜が逆になり、僕らは頭を下にした体勢で甲板から落ちないように掴まっていなければならない。
(´<_`;)「サースガ式ワイヤー! 皆、掴まって!」
ξ;゚听)ξ「いっそここで滑り降りるべきじゃない?」
(;^ω^)「船首で止まれるならそうしてくれお」
ツンの言う手段は僕も考えたからこそ、全員に風の結界を張ったのだ。
このまま滑り降りて、船首の内壁にぶつかって止まるのも有りだと。
しかし、勢いが付き過ぎて海に放り出される可能性もあるので、全員にそれを勧めるのは無謀かもしれない。
ξ゚听)ξ「わかったわ、先行して私達の船の様子を見て来るわ」
(;^ω^)「頼むお!」
- 914 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:58:28 ID:Dn379DoI0
ツンは急勾配の甲板に立ち上がり、船首に向かって走り出す。
こんな時だが見事なバランス感覚だと感心する。
(;^ω^)「さて、こっちはどうするかおね。そもそもこの原因は何なんだお?」
(∪;^ω^)「わんおー」
僕は徐々にまた逆に傾いて行く船上で後方を見やる。
このまま船が水平に戻ってくれれば御の字だが、あまり揺れがひどいと今度は横転しかねない。
川;゚ -゚)「水平になったら、全員で走るぞ」
(;^ω^)「だおね。全員にエア・シューズの魔法を……」
(´<_`;)「おいおい、何の冗談だい?」
前後に揺れていた船だったが、また船尾の方が海の中に沈み込んでいく。
横転は避けられたとしても、これでは船首に向かうのは難しい。
(;^ω^)「ツン! 大丈夫かお!」
ξ;゚听)ξb「大丈夫よ! ワイヤーも繋がったまま! アニジャさんが上手く操船してくれてるみたい」
- 915 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:59:57 ID:Dn379DoI0
ツンは既に船首に辿り着いていた。
サースガ号もワイヤーを緩めてこの船から距離を取り、待ってくれているようだ。
(;^ω^)「またこの船傾くっぽいお! ツン、先に戻ってろお!」
ξ;゚听)ξ「そういうわけにもいかないわよ。大丈夫、落ちたりしないから!」
ツンの運動神経なら、またこの船がさっきくらい傾いても落ちずに掴まっていられそうだが、問題は船が落ちる時だ。
船の中ほどにいる僕らより、舳先にいるツンの方がその影響を受けるだろう。
落下の勢いで宙に放り出されないとも限らない。
(´<_`;)「こちらも各自踏ん張ってくれた方が良さそうだね」
(゚、゚;トソン「ワイヤーに掴まったまま身を任せていると、振り回されそうですね」
オトジャさんはワイヤーをメインマストに引っ掛けていて、オトジャさんとクーとトソン君はそれに掴まっている。
交互に傾くなら、ただ掴まっているだけだと逆に危険かもしれない。
(;^ω^)「なんて人の心配ばっかりしてられる状況じゃないおね」
(∪;^ω^)「わんお」
- 916 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:02:01 ID:Dn379DoI0
現状を打破する為には、素早く脱出するか、この揺れの原因を突き止めるかだ。
霧がだいぶ晴れたお陰で船の周囲の見晴らしはよくなっているが、未だマストの頂点付近は霧が残っている。
(;^ω^)「まだ雨雲は距離があるし、風とか嵐の所為で揺れてるとは考え難いお」
その他地震とか、局所的な自然災害の所為も考え辛い。
それにしてはあまりにも揺れ方が不自然だ。
(;^ω^)「何かに引っ張られてるってのが、一番それっぽいおね……」
何か、などと濁した言い方をしたが、この場合考えられるのは1つしかない。
恐らくはモンスターの仕業であろう。
( ^ω^)「仕方ないお。オトジャさん!」
(´<_`;)「うん? なんだい?」
( ^ω^)「これ、お願いしますお」
僕は魔法でロープを作り、オトジャさんに投げ渡す。
そしてそれをワイヤーに結び付けてもらい、船尾の方にゆっくりと滑り降りる。
- 917 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:02:56 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「ちょっと様子見てきますお」
(´<_`;)「大丈夫かい?」
( ^ω^)「少し近付くだけですお。無茶はしませんお」
僕は少し甲板を滑り降りた辺りで止まり、船尾に向けて目を凝らす。
船尾はまた海の中に沈み込んでいるが、その中央辺りに何か盛り上がった白っぽいものが見える気がする。
( =ω=)「何だお、あれ?」
(∪=ω=)「わんおー?」
多分あれが船尾を引っ張っているのだと思うのだが、それが何なのかはわからない。
船の大きさを考えると、結構な大きさだ。
( =ω=)「盛り上がって……いや、その先にも繋がってるおね。白っぽい……腕?」
その腕が持ち上がり、船から離れる。
持ち上がった腕には、びっしりと丸い突起が付いていた。
腕といっても人のそれではない。
ただ、この形状のものも腕と呼ぶし、正式な名称だと触腕とかいったはずだ。
- 918 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:06:50 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「タコ……いや、あの形状はイカだおね」
勿論、あの大きさだ。
ただのイカではないだろう。
(;^ω^)「巨大なイカのモンスター……嫌な予感しかしねえお」
僕は再び逆に傾く甲板の上で考えをまとめる。
やはりこの揺れは自然現象ではなく、別の要因、あのイカの腕によってもたらされたものだ。
その理由まではわからないが、あのイカはこの船を沈めようとしているのだろうか。
( ^ω^)「それにしては中途半端だお」
船を沈めたいなら、あんな端を掴んで揺らすのではなく、船を壊すなり全体に絡みつくなり手段は他にあるはずだ。
( ^ω^)「仮に、それが出来ないとしたら理由は何だお?」
(∪^ω^)「わんおー」
イカがこの船を襲う理由、端の方しか掴めない理由、どちらも推測の範囲でしかわからないし、
考えても仕方のない事かもしれない。
しかし、僕の中ではある仮説が組み上がっていた。
- 919 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:09:36 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「……魔除けの兜?」
魔除けの兜があるから、あんな風に端の方にしか近付けないのかもしれない。
( ^ω^)「もしそうなら、魔除けの兜を手に入れれば追い払えるのかもしれないお」
ただ、残念ながら魔除けの兜がこの船のどこにあるのかわからない。
先の僕の仮説が正しければ、まだこの船のどこかに存在はするのだろう。
( ^ω^)「近づけない理由は魔除けの兜として、そもそもあのイカが近付いて来る理由は何だお?」
(∪^ω^)「わんわんおー」
これも推測だが、1つ思い当たる物はある。
この船内にあり、モンスターが好むような魔力を放出するもの。
( ^ω^)「魔王の頭骨かおね」
船内にあるのは確定ではないが、もしあるとすれば、僕の推測は正しいかもしれない。
( ^ω^)「けど、それだと問題もあるお」
- 920 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:11:43 ID:Dn379DoI0
僕やオトジャさんの推測では、魔除けの兜が魔王の頭骨ではないかと考えていたのだ。
その推測をこれに当てはめると、魔を呼び寄せつつ魔を避けるという、矛盾したものになってしまう。
( ^ω^)「ま、今は考えてても仕方ないお。取り敢えず……」
僕は伏せたままで呪文の詠唱を始める。
まだわからない事は多々あるが、少なくとも船が揺れている原因はわかったのだから、それは排除しよう。
( ^ω^)「サンダー・フォール!」
僕は力ある言葉を唱え、天から一筋の雷を落とす。
狙いは寸分違わず船の船尾を掴むイカの腕に直撃した。
( ^ω^)「当たり、っと!?」
イカの腕は弾かれた様に船を放して高く上がり、海中に水没していった。
中途半端な高さまで上がっていた船の船首は、そこから下降を始める。
( ^ω^)「みんな、今の内に船首へ走るお!」
- 921 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:13:47 ID:Dn379DoI0
これまでよりは傾きも勢いも小さいので、船首まで行くのは可能だろう。
僕達は慎重に足を運びつつ、急いで船首の方へ向かう。
川;゚ -゚)「っとと!?」
(;^ω^)「慌てるなお、慎重にかつ大胆に、ゆっくりと急げお!」
(゚、゚;トソン「それ、どうすればいいのかさっぱりですよ?」
僕は足がもつれて転げ落ちそうになったクーの腕を掴む。
そのまま引っ張られて僕も転びそうになったが、何とか踏ん張った。
川;゚ -゚)「すまん……ん?」
(;^ω^)「大丈夫かお?」
僕は倒れたクーを引き起こそうとしたが、クーは四つん這いのまま、上空をじっと眺めている。
釣られて僕も首を捻り、同じ方向を凝視した。
( ^ω^)「マストがどうかしたかお?」
- 922 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:16:31 ID:Dn379DoI0
川 ゚ -゚)「いや、あの周りだけまだ霧が濃いなって」
( ^ω^)「多分、トソン君の魔法の効果範囲外だったんだお」
( ^ω^)「マストの上の方とか、船底辺りには届いてないんじゃないかお?」
川 ゚ -゚)「かもしれないが、それにしては不自然じゃないか?」
( ^ω^)「お?」
そう言われて再度凝視するも、マストの周りに霧がかかっているだけで特に不自然な点はない。
相変わらずマストの先は見えなくなっている。
川 ゚ -゚)「それだよ! 何で先が見えないんだよ? これだけ傾いてるのに、何であそこだけ霧が晴れない?」
( ^ω^)「あ……」
そうだ、船が傾いているのだから、必然的にマストも傾いている。
しかしあの霧はずっとマストに付いて回っている様に見え、マストの先が見えないのだ。
(;^ω^)「ひょっとして、あそこにあるのかお?」
(∪^ω^)「わんおー」
- 923 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:18:02 ID:Dn379DoI0
探していた魔除けの兜、もしくは魔王の頭骨は、どうやらマストの上にあるらしい。
どちらかといえば、霧の発生原因であろうことを考えると魔王の頭骨である可能性が高い。
川 ゚ -゚)「かもしれないな。まさかあんな所にあったとは」
( ^ω^)「どっちにしろ、行くしかないかお」
+(´<_` )「それじゃあ、僕の出番かな?」
そう言ってオトジャさんはワイヤーを構える。
確かに、オトジャさんのワイヤーがマストを登るには最適だが、僕は少し待って貰うように頼んだ。
( ^ω^)「未だ霧に包まれてる所を見るに、結構な魔力を放出してる可能性がありますお」
解呪ないし、魔力を抑える必要がある可能性もあるので、ここは僕が行くべきだと主張する。
(´<_` )「しかし、危険だよ?」
( ^ω^)「誰が行っても危険は変わらないと思いますお」
( ^ω^)「それなら一番危険を抑えられる可能性のある僕が行きますお」
- 924 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:19:30 ID:Dn379DoI0
心配そうな顔で僕を見詰めるオトジャさん。
実際の所は、たぶんマストを登るのはオトジャさんが一番上手く登れると思うので、
総合的な危険度は五分五分だと思う。
しかし、今回のクエストは僕が引き受けたものなので、五分五分なら僕が行くのが筋だ。
( ^ω^)「ワイヤーを貸してもらえますか?」
(´<_` )「……わかった。気を付けるんだよ? 無理だと思ったら早めに見切りをつけて逃げるんだ」
+d(´<_` )「トレジャーハントは引き際が肝心だからね」
( ^ω^)「把握ですお。ありがとうございますお」
僕はオトジャさんから借りたワイヤーを腰に巻く。
そしてフードの中のわんわんおをオトジャさんに渡した。
( ^ω^)「先にサースガ号に戻ってて下さいお」
(´<_` )「ああ。ブーン君の帰りを待ってるよ」
つ∪^ω^)「わんお!」
船首に向かうオトジャさん達を背に、僕はマスト目掛けてワイヤーを飛ばす。
一気に登るのは無理だから、帆をかける横柱を段階的に登るつもりだ。
- 925 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:20:42 ID:Dn379DoI0
(;^ω^)「腐ってて折れるのだけは勘弁してくれお」
僕はワイヤーを巻き上げ、自分の身体を引っ張り上げる。
幸いにも横柱が折れる事はなく、順調に登って行けた。
(;^ω^)「天辺に近付くにつれて、またあの嫌な空気が充満して来たおね」
なれない浮揚感とこの空気で少し気分が悪くなって来たが、あまりのんびりもしていられない。
またあのイカが出て来ないとも限らないのだ。
さっきみたいに船を揺らされると、登るのも降りるのも一気に難度が増す。
( ^ω^)「とにかく、行ってみるしかないお」
僕は再びワイヤーを飛ばし、マストを登って行く。
なるべく下は見ない方が精神衛生上は良さそうだ。
( ^ω^)「ラスト!」
僕はマストの天辺付近、濃い霧の中にかろうじて見える檣楼らしき場所にワイヤーを引っ掛ける。
霧の濃度からも、恐らくここにあるのだろう。
- 926 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:23:35 ID:Dn379DoI0
(;^ω^)「到着、って、危ね!?」
何かが壊れる音がしたと思ったら、先ほどまで僕が乗っていた横柱が折れて甲板に落下して行くのが見えた。
あと十数秒遅かったら危なかった。
( ^ω^)「それはさておきと……」
僕は檣楼に乗り込み、身をかがめる。
ここまで来れば、この目で見ずともそれがどこにあるかははっきりと感じられる。
( ^ω^)「そこまで強力な魔力ってわけでもなさそうだけど、何だか嫌な感じだおね」
僕はゆっくりと霧の中心にある物に手を伸ばす。
魔力の放出は感じるが、それ自体が攻撃的な性質を持っているわけではなそうだ。
( ^ω^)「白い……骨? 兜の様にも見えるけど、結局どっちだお?」
人間のそれよりは一回り大きい、左右に2本の角が生えた頭骨。
恐らくこれが魔王の頭骨なのだろう。
ただ、大きいし中は空洞のようになっているので、被る事も出来そうだ。
- 927 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:24:46 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「ひとまずこの霧をどうにかするべきだおね」
頭骨から放出された魔力が、大気中で拡散して霧になっているらしい。
どういう原理かはよくわからないが、魔力の放出自体を抑えればどうにかなるだろう。
( ^ω^)「最初にクーのペンダントに施してあった護符の応用で行けそうだお」
僕は何枚かの羊皮紙を取り出し、手早く術式を記述し、魔力を込める。
応急的なものなので長くはもたないが、イチサンに戻るぐらいまでは大丈夫だろう。
( ^ω^)「これでよし、と。……完全に遮断は出来てないけど、このくらいなら許容範囲だお」
僕は頭骨をフードに仕舞い、口を閉める。
わんわんおが落ちないように改造してた甲斐があった。
( ^ω^)「それじゃ、早いとこ降りますかお」
僕はワイヤーを入って来た方とは反対側のマストの横柱にワイヤーを引っ掛ける。
そして檣楼から飛び出そうとした瞬間、突如船が大きく揺れた。
(;^ω^)「うおっ!?」
- 928 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:26:13 ID:Dn379DoI0
船尾が沈み、船が斜めになるのは同じだが、今回の揺れはこれまでと違い、一気に船が傾いた。
その理由を考えるより早く、振り向いた僕の目にその原因が飛び込んで来る。
__ __
/○○\ /○○\
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
\○○/ \○○/
| |
| |
(;^ω^)「ちょ、ちけえっ!」
今まで船尾の端辺りを掴んでいただけだったイカの腕が、マストのすぐ近くまで迫っていた。
しかも1本ではなく、2本もだ。
(;^ω^)「あ、他の短い腕、足? も来てるお。これ、ひょっとして大ピンチじゃね?」
何故急にとのんびり理由を考えている暇もないが、1つだけ思い当たる事がある。
先ほど魔王の頭骨からの魔力の放出を抑えた事だ。
これにより、船の端までしか近づけなかったイカが、遮るものがなくなってもっと近くに来れた可能性はある。
- 929 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:28:20 ID:Dn379DoI0
(;^ω^)「今更解呪するわけにも行かないし、ここはさっさとずらかるお」
僕はワイヤーの張りを確認し、檣楼から飛び降りる。
その次の瞬間、何かが折れるような大きな音が僕の耳に届く。
嫌な予感がして首を後方に捻ると、たった今離れたはずの檣楼が僕を追いかけるようにして近付いて来る。
(;゚ω゚)「マスト折りやがったああああっ!」
気付いた所で既に空中にいる僕にはどうしようもない。
ワイヤーを巻いていた横柱も、ぽっきりと折れてマストから離れ、たただの棒と化している。
(;^ω^)「このまま落下はちょっと厳しいお」
役に立たなくなったワイヤーを横柱から外し、風の結界を張る。
近くにあったまだマストに繋がっていた別の横柱にワイヤーを飛ばし、巻き上げて落下速度を落としつつ、
倒れてくるマストやその他諸々に潰されない位置を目指して跳んだ。
(;^ω^)「だああああっ!!!」
何とか甲板に着地し、痺れる足を必死で動かし、マストの崩落地点から離れる。
しかし、そんな僕の背後にイカの手足が迫っていた。
- 931 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:33:39 ID:Dn379DoI0
(;^ω^)「こっち追って来てね? やっぱこの頭骨狙いかお?」
マストを倒したのも、僕というよりは魔王の頭骨を落とす為にやったのだろう。
最初に船を揺らしていたのも、近付けないながらもマストから落とす為に揺らしていたのかもしれない。
(;^ω^)「なんにせよ、逃げるお!」
(;゚ω゚)「って、危ねええええっ!」
船首に向かい走る僕の背後に叩き付けられるイカの足。
そして前方には背後から飛来したマストの破片が落ちて来る。
どうやらイカの腕が器用に破片を掴んで投げているようだ。
(;^ω^)「急がないと退路を塞がれてしまうお!」
エア・シューズの魔法を重ね掛けし、船首に向かって全力疾走する。
いくら大きい船とはいえ、甲板が膨大に広いわけではない。
僕は何とか船首に辿り着いた。
(;^ω^)「よし、後はワイヤーに……いっ!?」
真上から振り下ろされるイカの足を横に転がってかわす。
あと少しという所で完全に追い付かれてしまった。
- 932 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:35:11 ID:Dn379DoI0
-
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/○○\ /○○\
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
∧ |○ ○ ○|
|○ ○ ○| ∧
| |. |○ ○ ○|
|○ ○ ○| | |
| | \○○/ \○○/ | |
| | | |
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(;^ω^)「あとちょっとの所で……」
身を起こし、背後を睨む。
巨大なイカの手足が天高く振り上げられ、今にも叩き付けられ様としている姿が見えた。
(;^ω^)「あれを防ぐのは無理っぽいおね……」
今から攻撃魔法を詠唱し、破壊するのは無理だろう。
ただ、サンダー・フォールの魔法にはダメージを受けていた様だったから、僕の魔法がきかないわけでも無いと思う。
(;^ω^)「まずは全部かわしてから、一撃食らわせて離脱するお」
僕は雪崩の様に振り下ろされるイカの手足を待ち構える。
1本目の足をかわし、2本目3本目と順調に着弾点を見切って足を運んだ。
- 933 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:37:28 ID:Dn379DoI0
(;^ω^)「次は左! そんで右っ!」
次々と落ちて来るイカの手足。
僕はそれを1つ1つ確実にかわし、甲板を走り回る。
こいつがイカなら手足は10本しかないはずだ。
直にこの猛攻も収まるだろう。
(;^ω^)「すぐに次の攻撃に移られてエンドレスってのは止めてくれお」
僕は最後であるはずの10撃目をかわし、呪文の詠唱を始ようと足を止めた。
しかし、先ほど避けた攻撃はどうやら足の一撃ではなかったらしい。
(;^ω^)「マスト!? チッ、もう1撃来るかお」
更に落下してくるマストの破片。
1撃どころではなく、多数の破片がそこかしこに降って来る。
(;^ω^)「避け……切れねえええええっ!」
かわすのを諦め、防御魔法を張るべく身構える。
風の結界で重量的にマストの破片は防げると思うが、イカの足は難しい所だ。
- 935 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:40:01 ID:Dn379DoI0
<「伏せなさい!」
(;^ω^)「お!?」
後方から聞こえて来た声に、思わず振り向きつつその場に伏せる。
そんな僕の目に、ワイヤーの上から飛び立つ、1人の姿が見えた。
三ヽξ#゚听)ξ┌┛ 「でえええりゃあああッ!!!」
ワイヤーの上から跳躍したツンは、そのまま僕の上空まで飛び、マストの破片を次々と蹴り落としていく。
(;^ω^)「ツン! 助かったお! ありがとだお!」
ξ#゚听)ξ「そういうのはあと! 今の内に逃げて!」
(;^ω^)「けど、ツンだけ置いていくわけには……」
ξ゚听)ξ「私も逃げるから心配しなさんな。それに、私1人じゃないわよ?」
(;^ω^)「お?」
- 936 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:42:20 ID:Dn379DoI0
ツンの言葉の意味を理解するより早く、後方から大音声が響き渡る。
ノハ#゚听)「どいてろ、ツンッ!」
ツンよりは少し不安定ながらもワイヤーの上を走って来たヒートは、ツンと同じくワイヤーから飛び立ち、宙を舞う。
その手には見慣れぬ金色の大斧を抱えていた。
ノハ#゚听)「いっくぞおおおッ! イグニッション!」
ヒートが叫ぶと金色の斧の刃が赤く染まる。
ヒートは斧を両手で持ち、高々と振り上げた。
ノハ#゚听)「ヒィィィトォォォッエンドオオオオッ!」
上段から振り下ろされた斧がマストの破片に触れると、破片は砕け、炎を上げる。
どうやらあの斧は高熱を放っているらしい。
(;^ω^)「派手な武器だおね」
ξ゚听)ξ「完成したジョルジュさん依頼の武器らしいわよ。その試運転がてらってとこみたいね」
- 937 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:44:10 ID:Dn379DoI0
付けておいたギミックが役立ちそうな場面だったので、アニジャさんがヒートに持たせたらしい。
ヒートだと武器自体を使い慣れてないだろうが、適当に振り回しても効果は出るから問題ないと。
( ^ω^)「なるほど。ヒートの力なら、振り回すだけなら問題なさそうだおね」
体勢を整え、ツンと共にワイヤーの方に後退する。
その間に甲板に着地したヒートは滅茶苦茶に斧を振り回している。
ノハ;゚听)「おろ?」
ξ;゚听)ξ「調子に乗りすぎよ、馬鹿! あんたも下がりなさい」
振り回し過ぎて甲板に刃が突き刺さり、斧が抜けなくなったらしいヒートをツンが援護する。
その間にイカの攻撃範囲から外れた僕は、呪文の詠唱を始めた。
( ^ω^)「天なる空を漂う雷の精霊よ、我が矛となりて全てを貫け」
完成した呪文を維持し、2人に下がるように告げる。
2人ががりで何とか斧を引き抜き、ツン達はこちらに走って来る。
( ^ω^)「2人とも、ワイヤーに! サンダー・ストームッ!」
- 938 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:46:44 ID:Dn379DoI0
落雷の魔法を解き放ち、すぐ様ワイヤーをに滑車をかけ、掴まって船から跳ぶ。
ツンは僕に掴まり、ヒートは斧をワイヤーに乗せ、両手で持って滑車代わりにして滑って行く。
( ^ω^)「何とか逃げ切ったお!」
ξ;゚听)ξ「まだよ!」
(;^ω^)「お!?」
急にがくんと身体が揺れる。
何かに引っ張られた様に感じたが、僕自身がイカに掴まれたわけではない。
(;^ω^)「げっ!? とうとうぶっ壊されたのかお?」
どうやら船首部分がイカによって破壊されたらしい。
ワイヤーを繋いでた部分が海に落下していくのが見える。
僕の魔法ではわずかに動きを止めるくらいしか出来なかった様だ。
ξ;゚听)ξ「船まで届く?」
(;^ω^)「ギリギリだおね」
- 939 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:48:41 ID:Dn379DoI0
徐々に滑走速度は下がっていく。
このままではサースガ号までは届かず、海に落ちる事必至だ。
それでも手を離さなければ引き上げてもらえるだろうが、着水の衝撃に耐え切れるかわからない。
ノハ;゚听)「斧、海に落としたら怒られそうだよなー」
(;^ω^)「ならば……」
僕は急いで呪文の詠唱を始める。
届かないなら無理矢理にでも届かせればいい事だ。
(;^ω^)「ツン、しっかり掴まってるお! ヒートも斧から手を離すなお!」
ξ;゚听)ξ「ええ!」
ノハ;゚听)「おお!」
( ^ω^)「ウインド──」
片手を海面に向け、魔法を解き放とうとした瞬間、水中から何かが飛び出して来る。
- 940 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:53:08 ID:Dn379DoI0
-
__
/○○\
ザパァッ!
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
\○○/
| |
'''''''''''’'’'’'’'’'’''''''''''
飛び出して来たイカの腕が、僕達目掛けて迫って来る。
しかしながらもう、魔法の発動に入ってしまっている僕は、そのまま言葉を紡ぐ他に手はない。
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
(;^ω^)「──ブロウッ!」
僕の手から放たれた突風が、ワイヤーごと僕達の身を浮かす。
どうやら僕の試みは上手くいったようで、これでサースガ号まで届くだろう。
だが、そんな僕達に、風の魔法にも怯まなかったイカの腕が襲い掛かる。
(;^ω^)「もう1度雷の魔法を──」
- 942 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:54:34 ID:Dn379DoI0
再び呪文の詠唱に入ろうとしたが、如何せん時間がなさ過ぎる。
イカの腕はもう目の前まで迫っていた。
__
/○○\ グワッ!
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
|○ ○ ○|
\○○/
| |
ノハ;゚д゚)ξ;゚д゚)ξ(;゚ω゚)「だああああああっ! 間に合えお!!!」
無我夢中で詠唱も完成し切ってない内に左手を突き出す。
その瞬間、雷鳴が轟いた。
(;^ω^)「へ……?」
びくりと震え、海中に沈んでいくイカの腕。
どうやら雷が当たったらしいが、腕には当たったようには見えなかったので、イカ本体に当たったのだろう。
- 943 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:57:22 ID:Dn379DoI0
ノハ;゚听)「ナイスだ、ブゥゥゥゥンッ!!!」
(;^ω^)「え、いや? 今のは──」
ξ;゚听)ξ「着くわよ!」
(;^ω^)「え? あ──」
(;゚ω゚)「うぼあッ!?」
いつの間にか僕達はサースガ号に辿り着いていたようだ。
着地の間際、ちゃっかり甲板に飛び降りたツンとは違い、
呆けていた僕はそのままワイヤーが結ばれていたマストに激突する。
風の結界を張っていなければ骨の何本かは折れていただろう衝撃に、僕はその場に倒れ込んだ。
(;゚ω゚)「いってえお……」
(゚、゚;トソン「大丈夫ですか!?」
ξ;゚听)ξ「何やってんのよ!」
- 944 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:58:38 ID:Dn379DoI0
僕は慌てて駆け寄って来る皆を制し、立ち上がってアニジャさんに向かって叫ぶ。
(;゚ω゚)「アニジャさん、急速離脱! 頼みますお!」
(;´_ゝ`)「了解! オトジャ!」
(´<_`;)「ああ! ジェットブースト、オン!」
オトジャさんの掛け声と共に急発進するサースガ号。
そのすぐ後に、先ほどまでサースガ号がいた位置にイカの足が浮上して来た。
川;゚ -゚)「まだ生きてたのか?」
(∪;^ω^)「わんわんおー」
(;^ω^)「とんでもないタフさだおね……」
ξ;゚听)ξ「逃げ切れる?」
(;´_ゝ`)b「安心しろ、こんな事もあろうかとジェットブーストの燃料は満タンにしておいた」
d(´<_`;)「流石だな、アニジャ」
- 945 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:59:45 ID:Dn379DoI0
それでもあのイカがずっと追い掛けて来るようなら安心は出来ないが、イカならそこまで早くは泳げないだろう。
オトジャさんの計算によると、限界までジェットブーストを使い、
その後通常航行で逃げ切れるのではないかという話だった。
川 ゚ -゚)「ってことは、これでクエスト達成か。終わってみれば案外呆気なかったな」
(;^ω^)「こっちはガチで何度か死に掛けてんだお。呆気なくねえお」
ξ゚听)ξ「回収出来たの?」
( ^ω^)「出来たけど、これが魔王の頭骨かどうかはわからんお」
( ^ω^)「モンスターを引き寄せたり、遠ざけたりする力はあるみたいだけど、よくわからんお」
(∪^ω^)「わんお」
(゚、゚トソン「あの様子では、幽霊船も沈んだんでしょうね」
(´<_` )「もう少しあの船について知りたかったけど、仕方ないか」
( ´_ゝ`)「持ち主はわかったんだろ? なら調べられる事もあるさ」
(´<_` )「そうだね。ソクホウに帰ったら調べてみるよ」
- 946 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 23:01:44 ID:Dn379DoI0
ノパ听)「それより腹減ったぞー」
(∪^ω^)「わんわんお!」
(;´_ゝ`)「おい、ヒート? お前これ、どんな使い方をしたんだ? 柄の部分に小さな傷がびっしりだ」
各自思い思い勝手な事を述べる中、僕は甲板に横たわって考える。
これが魔王の頭骨かどうかはわからないが、1度これを持ってソクホウに帰るべきだろう。
こちらには鑑定手段がないので、ここは依頼主の判断を仰ぐべきだ。
( ^ω^)(てか、これ、どういった基準でモンスターを引き寄せてんのかおね?)
ひょっとしたら無差別で引き寄せてるだけかもしれないが、それならそれで帰り道に支障が出そうではある。
ソクホウに移送する前に、完全に魔力を遮断する処置を施した方がいいかもしれない。
( ^ω^)(そしてさっきの雷だお)
当然、僕が放ったものではないし、自然現象にしてはあまりにタイミングが良過ぎた。
誰かが助けてくれたと考える方が筋は通るが、あんな海のど真ん中で誰が助けてくれたのだろうか。
( ^ω^)(状況が状況だったから魔力感知出来てなかったけど、何か色々と不自然だったお……)
- 947 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 23:03:32 ID:Dn379DoI0
気になる事は多々あるが、現状では答えは出そうにもない。
今は助かった事を素直に喜んでおく事にする。
( ^ω^)「おっと、これ、取り出しておくかおね」
僕は手に入れた頭骨をフードから取り出し、甲板に置く。
先ほどマストにぶつかってしまったが、背中はぶつけていないので破損はしていない。
やはり完璧には魔力を遮断し切れていないのか、周辺にうっすらと黒い霧が発生している。
(´<_`*)「これが魔王の頭骨かい?」
( ´_ゝ`)「何かすごいな。妙に禍々しく見える」
川 ゚ -゚)「やっぱり小さかったんだな」
(゚、゚トソン「角がありますね。本物の骨なんですか?」
ノパ听)「わんお、被ってみるか?」
(((∪:^ω^)))「わんわんお!」
ξ;゚听)ξ「止めなさい!」
- 948 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 23:05:35 ID:Dn379DoI0
( ^ω^)「曰く付きなのは間違いないから、無闇に触らない方がいいお」
僕は頭骨を取り返し、船内に持ち込む。
取り敢えずは船内に安置しておく事にした。
ξ゚听)ξ「ま、何にせよこれで一段落かしら?」
( ^ω^)「そうだおね。ちょっと疲れたから一休みしたいお」
例のジェットブーストとやらは既に切れ、船は通常航行に移行している。
陸地までもうしばらく時間はあるから、一眠りぐらいは出来るだろう。
川 ゚ -゚)「うむ、後は我々に任せてしばらく休むといい」
( ´_ゝ`)「そうそう、大船に乗ったつもりでのんびり……」
不意にアニジャさんの声を遮るような大きな音がした。
高く上がる水飛沫がその音の発生源で、何かがこちらに向かって飛来する。
_____/|_____ _ ザパーン!
\
。 \//
vvvv ───────
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/ > / \|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
川;゚ -゚)(;゚_ゝ゚)「ちょ、何かデカい魚来た!?」
- 949 名前:名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 23:07:12 ID:Dn379DoI0
海上に飛び出した巨大なサメに似た魚は、サースガ号の上空を飛び越え、反対側の海中に沈んでいった。
よく見ると海面にいくつも似たような背びれが見え隠れしている。
(;^ω^)「ひょっとして、これも頭骨が呼び寄せたモンスターかもしれんお。すげえ効果だお」
ξ;゚听)ξ「なんて感心してる場合じゃないでしょ? オトジャさん!」
+(´<_`;)「残念ながらジェットエンジンは燃料切れだね。何とか凌いで貰うしかなさそうだ」
(゚、゚トソン「仕方ありませんね。守りながら逃げましょう」
川;゚ -゚)「船にダイレクトアタックされたらどうすんだよ?」
ノパ听)「大船に乗ってるから大丈夫じゃないのかー?」
川;゚ -゚)「いや、こんな小船、あの大きさの魚に何度も体当たりされたら沈むだろ」
(;^ω^)「やれやれ、まだ休めそうにないかお……」
(∪^ω^)「わんおー」
僕は風の魔法を唱え、帆に風を送る。
僕達はそれから何度も訪れたモンスターの襲撃を防ぎながら、辛くもイチサンの港へ帰り着いた。
第四十話 大海の波瀾 終
- 954 名前:四十話までの登場人物:2012/07/21(土) 23:14:21 ID:Dn379DoI0
- 【登場人物紹介・簡易版】
■ヴィップの町の人々 ■ニューソク王家の人々
( ^ω^)ブーン=ナイトウ ( ´∀`)モナー=ニューソク
主人公。魔法道具屋兼魔法使い ニューソク国王
ξ゚听)ξツン=ディレード (´・ω・`)ショボン=バールボー (
<●><●>)ワカッテマス=ニューソク
幼馴染の武術家 騎士を目指す幼馴染 ニューソク国第一王子
(∪^ω^)わんわんお ( ><)ビロード=ニューソク
ブーンのペットで元竜 ニューソク国第二王子
_
川 ゚ -゚)クー=スナオ ( ゚∀゚)ジョルジュ=ナガオカ (
∵)ビコーズ=バラナゼナ
ニューソク王国第一王女 ( ゚д゚)ミルナ=コッチオ ニューソク王国宮廷魔術師
(゚、゚トソントソン=トソン
从 ゚∀从ハインリッヒ=タカオカ (‘_L’)フィレンクト=ドレイク
元聖騎士でクーの友人
ヴィップを拠点とする冒険者
ニューソク王国騎士団長
(,,゚Д゚)ギコ=ニャーハン
(`・ω・´)シャキン=バールボー (-_-)ヒッキー=コーモーリ
ニューソク王国聖騎士団長
酒場バーボンハウスのマスター
ヴィップの教会の司祭 _、_
( ,_ノ` )シブサワ=リナイオ
('A`)ドクオ=ボッテューツ
ニューソク王国所属エージェント
ブーンの師匠で東の賢者
■その他 ■ラウンジ教国の人々
( ´_ゝ`)アニジャ=サースガ (*゚ー゚)シィ=ダンヴォール ζ(゚ー゚*ζデレ
ソクホウの町の武器職人 イチサンの町長 ラウンジの聖女
(´<_` )オトジャ=サースガ
( ^^ω)マルタスニム=ハーセガー ( ・∀・)モララー=トスリラモ
トレジャーハンター 精霊兵器研究者 デレの先生で西の賢者
ノパ听)ヒート=オネスティー lw´‐
_‐ノvシュー=パールライス ( ゚∋゚)クックル=クックドゥー
武術家で自称ツンのライバル
魔法農具屋。正体は悪魔
デレの御付の戦士
ミセリ (???)
ミセリ 灰衣の魔法使い
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