230 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:21:41 ID:kNximWss0

 〜 ナカノヒトの町 闇オークション会場付近 早朝 〜


( ^ω^)「朝っぱら過ぎやしませんかお?」(∪´ω`) zzz
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「すまんな、時間帯の絞り込みが出来なかったんでな」

ξ゚听)ξ「その、ボルジョアという男が姿を見せるまで持ち場で待機って事でいいんですね?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ、だがいつでも動けるように身体は温めておいてくれよ」

ノリミ゚ -゚彡「この季節に暖める必要もなかろう」

(゚、゚トソン「では、我々は所定の位置に着きますね」

(-_-)「緊急時の連絡は、ブーン君が作ってくれた護符の魔法を打ち上げる事で取るんですね」



     第三十一話 動乱のナカノヒト


231 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:22:54 ID:kNximWss0

( ^ω^)「赤が緊急招集、青が発見、黄色が想定外で手の空いた者が向かうでお願いしますお」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

僕は今、ヒッキーさんから請け負ったクエストで、ツン達と共にナカノヒトの町に来ている。
今日はクエスト本番、闇オークションの開催前日だ。
ここで聖骸布を盗んだ犯人、ボルジョアという男を捕まえるのが僕らの仕事である。

ξ゚听)ξ「冴えない顔してるわよね」

           【 ( ・3・) 】

そう言ってツンは1枚の紙をひらひらと振る。
その紙には男の顔が描かれており、それがボルジョアの人相書きだ。

何でも、魔法を使ってその人の姿を紙に写したもので、写真というらしい。
多少ぼやけてはいるが、これなら僕達も、どれがボルジョアか判別は出来るだろう。

初めて聞く技術だが、なかなか面白いのでヴィップに帰ったら調べてみようと思う。

232 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:24:36 ID:kNximWss0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ、しょぼい面だが、逃げ足だけは一級品だからな、油断するなよ」

シブサワさんの言葉に頷き、僕らはあらかじめ決めていた所定の場所に移動する。
闇オークション会場は思ったよりも開けた場所にあり、劇場の地下で行われるようだ。
開けた場所故にこの場所に繋がる道は多く、配置を分散する必要があった。

まずシブサワさんは会場全体を見渡せるような高所に陣取り、全体を警戒する。
ツンとトソン君、それにヒッキーさんはそれぞれ1人で別の大きな通り周辺を見張る予定だ。

最後に僕とクーとわんわんおが、万が一逃走された場合の為に馬車を準備した上で、
商売をするふりをしながら残された大通りを見張る手筈になっている。

それ以外にも何人かシブサワさんの部下がいるらしいが、そちらは連絡や情報収集に当たっており、
;直接の見張りは行っていないらしい。

川 ゚ -゚)「さて、それでは店を開けるか?」

(;^ω^)「まだ朝早過ぎるお。のんびり準備しながら見張ってるお」

急遽そういう運びになってしまったので、昨日慌てて商売を出来る準備はした。
短い準備期間出来るものといったら、薬草パンかおにぎりぐらいしか思いつかなかったので、薬草パンを売る予定だ。
万が一の場合は取る物も取らずに追い掛ける必要もあるから、なるべく使い捨てられるものを集めている。

233 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:25:55 ID:kNximWss0

川 ゚ -゚)「よし、じゃあたまには私がパンを焼こうか」

( ^ω^)「だが断るお」

川;゚ -゚)「なん……だと……?」

( ^ω^)「サンライズのパン焼き窯でも失敗するのに、この即席窯で焼けるわけないお?」

現在、サンライズでは薬草パンと薬草おにぎりを売っているので、当然毎日その仕込みをする必要がある。
基本的にそれは僕の仕事で、何度かバイトに入ったクーやトソン君に練習がてらにやらせてみたが、
結果は惨憺たるものであった。

残念ながら商品として出すには程遠い物しか焼けないクーに、
サンライズ及び薬草パンの知名度も何もないここで売る物の仕込みを任せる事は出来ない。

川 ゚ -゚)「むう、でも最近はそれなりに食べられるものが焼けるようになって来ただろ?」

( ^ω^)「まあ、素人が朝食に食べるくらいならあれで十分だけど、商品として売るならまだまだだお」

ひとまず、生地をこねる作業とちぎって丸める作業は手伝ってもらうとして、計量と焼くのは僕がやる事に決めた。

234 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:27:58 ID:kNximWss0

( ^ω^)「パン焼きの準備の間、軽く馬車の周りを掃除しといてくれお」

川;゚ -゚)「やれやれ、結局私がやる事はナカノヒトに来てまで掃除か……」

舗装も悪い上に、あまり綺麗な道路とは言い難いので、
食料品をを売るならせめて馬車の周りだけでも綺麗にしておきたいと思う。

川;゚ -゚)「いや、綺麗じゃないと言うか、ホントに汚いな、ここ」

( ^ω^)「治安の悪さはこういうとこに如実に出るんだお」

クーは文句を言いながらも、何ヶ月か前よりはだいぶ手際良く掃除をする。
うちやバーボンハウスで鍛えられた経験は無駄ではないのだろう。

川 ゚ -゚)「これ以上は無理だ。後は水撒いて終わりでいいな?」

( ^ω^)つ呂「そうだおね。水撒いた後に、仕上げにこれ撒いといてくれお」

川 ゚ -゚)つ呂「何だこれ?」

( ^ω^)「匂い消しみたいなもんだお。芳香剤と言うべきかおね」

235 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:30:43 ID:kNximWss0

僕は薬草をブレンドして消臭力を高めた液体をクーに渡す。
臭い消しというよりは、臭いをより強い別の臭いで上書きするようなものだが。

川 ゚ -゚)「ふーん、こんなものもあったんだな」

( ^ω^)「ヴィップじゃ使うこともなかったんだけど、一応持って来といて良かったお」
   クンクン
川 ゚ -゚)呂「どれどれ……」

川;゚ -゚)「うお? 随分と青臭いな……」

(;^ω^)「そりゃ、容器から直接嗅げばそう思うお。撒けば薄まるから大丈夫だお」

クーは半信半疑の顔をしながらも、水を撒いた後に薬草芳香剤を地面に撒布する。
程なくして、青草のような清々しい匂いがほのかに漂って来た。

川 ゚ -゚)「おお、ホントだ。この位なら許容範囲だな」

( ^ω^)「だお? 悪くないお?」

川 ゚ -゚)「というか、この町ならこれを商品にした方が需要あったんじゃないか?」

(;^ω^)「そう言われるとそうかもしれんお……」

236 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:32:20 ID:kNximWss0

ヴィップでは使う機会がなかったので、その発想には至らなかったが確かにクーの言う事は一理あるかもしれない。
所変われば品変わるともいうし、こうして違う町に来ると色々と気付かされる事があって有意義だと思う。

( ^ω^)呂「まあ、準備期間が1日じゃこれは量産出来ないお」

( ^ω^)「でも、時間があればナカノヒトじゃどんなものが需要あるか調べたいお」

川 ゚ -゚)「観光には向きそうもない町だが、私も色々と見て回りたいな」

( ^ω^)「いいけど、1人で行動はすんなお?」

川 ゚ -゚)「わかってるって」

今回、クーが僕と組んでるのはこの町の治安の悪さの所為もある。
日中とはいえ、1人で道路を見張っているのは危なっかしいと思ったのだ。
それはツンやトソン君も同意見だったようで、このような配置に落ち着く事になった。

僕としては、聖騎士であったトソン君はともかく、ツンも1人じゃ危なっかしく思っていたのだが、
大丈夫だと押し切られてしまった。
ツンなら要領がいいから大丈夫だとは思うが、少し心配だ。

川 ゚ -゚)「材料は計り終えたのか?」

( ^ω^)「終わってるお」

237 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:33:45 ID:kNximWss0

川 ゚ -゚)「よし、じゃあこねて丸めるのは任せてもらおうか」

( ^ω^)「頼むお。僕は窯の準備とかやってるから。道路の方の監視も忘れんなお」

僕はクーにこの場を任せて、窯の準備に取り掛かる。
窯といっても大した物ではないので、それほどの時間はかからないだろう。

(∪^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「お、わんお、起きたのかお。おはようだお」

(∪^ω^)「わんお!」

先ほどまでぐっすり眠っていたわんわんおがいつの間にか起きていた。
いつもより起きる時間が早いのは、少し周りが騒がしかった所為かもしれない。

( ^ω^)「朝ご飯はもう少し待っててくれお。焼き立てのパンをあげるお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

わんわんおに少し離れているように言い付け、窯の準備を始める。
今日は普段よりはだいぶ少なく焼くので、窯も小さめだ。

238 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:36:46 ID:kNximWss0

( ^ω^)「こんなもんかお。それじゃあ、点火してと……」

それから程なくして窯の準備は終わったのでクーの所に向かう。
分量的にもう終わってる頃だが、これでまだ終わってなければクーは要修行という事になる。

( ^ω^)「出来たかお?」

川 ゚ -゚)「ああ、ばっちり出来てるぞ」

テーブルを見ると、程よい形に丸められたパン生地が歪に並んでいる。
並べ方はともかく、形の方は様になっているのでこれなら合格点だろう。

(∪^ω^)                                (・uu・∪)

( ^ω^)「手際良くなったおね」

川 ゚ -゚)「ブーン店長に鍛えられたからな。これならいいパン屋になれそうだ」

( ^ω^)「技術はあって損はないお」

冗談めかして言うクーに僕は真顔で答える。
今後クーが冒険者として活動するにしろ、王宮に戻るにしろ、出来る事が増えるのは悪い事ではないと思う。

239 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:37:56 ID:kNximWss0

川 ゚ -゚)「まあ、そうだな。見聞を広める為にも、私は色々な事を経験すべきだと思うし」

少なくとも、パンをこねるのに必要な力と、粉でくしゃみが出そうになるのを我慢する苦労を知れば、
無闇に穀物の税金を上げようとは思わなくなるとクーは言う。

(∪^ω^)                (・uu・∪)

川 ゚ -゚)「以前よりは食べ物に感謝する気持ちは強まったと思うな」

( ^ω^)「好き嫌いは減ったおね。ピーマンだけはまだ駄目だけど」

川;゚ -゚)「む……、いつか平然と食べられるようになって見せるさ」

( ^ω^)σ「いい心掛けだお。……ところで、さっきから気になってたんだけど、あれは何だお?」

僕はそう言って、パンが乗るテーブルの端の方を指差す。

(∪^ω^)        (・uu・∪)

先ほどからわんわんおがじっと見詰めるその先には、何だか得体の知れない巨大な何かが鎮座している。

240 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:39:40 ID:kNximWss0

川 ゚ -゚)「ああ、あれか。折角だから新商品を考えたんだ」

( ^ω^)「新商品?」

川 ゚ -゚)「といっても、形を変えただけだがな」

            (・uu・∪)
            ⊂ x ⊂)
           ⊂__⊂_)て

川 ゚ -゚)「名付けて、パンパンお! 見ての通り、うちのマスコットを模した形だ」

(;^ω^)「センスねえ名前だお……微妙に似てないし」

(∪^ω^)「わんおー」

どうやらわんわんおを模して作ったパンらしい。
パンを使ったにしてはがんばった方だとは思うが、どことなく造形がおかしい上、無駄に巨大だ。

川 ゚ -゚)「何を言う? そっくりじゃないか。なあ、わんお?」

241 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:42:30 ID:kNximWss0

(^ω^∪) プイッ

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「更に言うと、焼けば膨れたりでちょっと形変わるから、もっと似なくなると思うお」

川 ゚ -゚)「……まあ、焼けばわかるさ、この素晴らしさが」

( ^ω^)「……作っちゃったものはしょうがないけど、窯に入るかおね」

(∪^ω^)「わんおー」

中板を外して、1つだけ入れれば焼けるだろう。
クーが作ったものの出来はともかく、形を凝るというのも、
新商品のアイデアとしては悪くないので試してみたい気持ちはある。

( ^ω^)「取り敢えず普通のから焼いて開店準備するお」

川 ゚ -゚)「よし、がんばるぞー!」

(∪^ω^)「わんわんお!」

242 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:44:46 ID:kNximWss0

          (∪^ω^)    ((')W(')∪)
          /     |     C )( C)
        c( ,,O_UU_つ   <__<_))-


(;^ω^)「で、取り敢えずパンパンおも焼いてみたけど……」

(∪^ω^)「……」((')W(')∪)

川 ゚ -゚)「……」

(;^ω^)「予想以上に似なくなったおね……」

川 ゚ -゚)「……」

(;^ω^)「これ、店頭に並べるかお?」

川;゚ -゚)「……うん、ごめん。これ、私が責任もって食べるよ」

(;^ω^)「そうしてもらえると助かるお」

243 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:46:23 ID:kNximWss0

川 ´ -`)「正直すまなかった」

(;^ω^)「ま、まあ、失敗は成功のパパとも言うし、気にすんなお。前向きの失敗ならおkだお」

予想以上の出来栄えの残念さに、ひどく落ち込むクー。
想定内といえば想定内だし、新商品の方向性として僕も試してみたい気持ちもあったので、
そこまで責任を感じなくてもいいのだが。

( ^ω^)「味は美味いはずだから、あんまり落ち込むなお。取り敢えず朝食にするお」

川 ゚ -゚)「……うむ、そうしようか」

川 ゚ -゚)「そうだ、わんお、これ食べるか?」

(∪^ω^) ((')W(')∪)

(;^ω^)「何かすごく嫌そうにしてるんで、顔のとこは止めてあげてお」

僕達は道路を見ながら朝食を取る。
人通りはほとんどないが、一応この時間帯でも警戒は緩められない。
闇オークションの受付けは既に始まっているらしい。

244 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:48:18 ID:kNximWss0

川 ゚ -゚)「姿を見せるかね、ボルジョアってやつ」

( ^ω^)「わからんお」

( ^ω^)「昨日の段階では、まだ逃亡はしてないらしいって報告はシブサワさんの方に上がってたらしいけど」

川 ゚ -゚)「奪還の動きも悟られてはいないという話だったが……どうなることやら」

(∪^ω^)「わんわんおー」

道路を見ても、人通りはまばら所か先ほどから全く誰も通っていない。
シブサワさんの説明だと、今日闇オークションに品物を持ち込むのはバックのいない、飛び込みの客がほとんどらしい。

今回はナカノヒトに居を構える組織の資金集めに近いオークションだから、
そういう人間はあまりいないらしいことも聞いている。

( ^ω^)「大体、聖骸布が盗まれてから、結構な時間が経ったのに」

( ^ω^)「今頃飛び込みでオークションに出品ってのもおかしいおね」

川 ゚ -゚)「本来の処分先が使えなくなったか、依頼人と交渉決裂したか」

川 ゚ -゚)「いずれにしろ、何かしらの不測の事態にでも見舞われたのだろうな」

245 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:49:39 ID:kNximWss0

僕らは朝食を食べ終え、少し早いがお店の営業を開始する事にした。
監視がメインなので、客が来なくても問題はない。

ノリミ゚ -゚彡「で、私はどうすればいい? 客引きか?」

( ^ω^)「そんな感じで僕の目の届く範囲でうろうろしててくれお」

シブサワさんの目もあるので、クーは例のマスクを着けるようだ。
今更意味が無いと思うし、客引きにしては怪しい格好なのでどうかと思うのだが、
クーはこのマスクが気に入ってるらしい。

ノリミ゚ -゚彡「こういう怪しい町に来てるんだし、ミステリアスな雰囲気があった方がそれっぽいだろ?」

( ^ω^)「ミステリアスねえ……」

ノリミ゚ -゚彡「これで露出大目の艶っぽい格好すれば、更にそれらしくなるだろ?」

(;^ω^)「それ、違う職種の客引きっぽくなるから止めろお」

妙に楽しそうに冗談を言うクー。
クエスト本番で張り切っているのだろう。
やる気があるのはいいことだが、色々と不穏な空気でもあるので油断はしないで欲しいものだ。

246 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:51:10 ID:kNximWss0

ノリミ゚ -゚彡「来るのか、ラウンジの聖女とやらは?」

( ^ω^)「わからんお。パン焼いてれば食べに来るかと思ったけど姿見せないし、来ないかもしれないお」

そんな単純には釣れないだろうが、僕の知るあのデレならそのくらいはしそうである。
しかし、姿を見せない現状、今は僕の知らないラウンジの聖女としてこの場に臨んでいるのかもしれない。

( ^ω^)「どっちにしろ、僕らがやるのはボルジョアを捕まえて聖骸布を取り返すことだお」

( ^ω^)「ラウンジの人達と戦うことじゃないお」

ノリミ゚ -゚彡「そうだな……」

僕は自分に言い聞かせるように思いを口にする。
迷って動けなくなるのは避けたいと思う。

(∪^ω^)「わんわんお」

( ^ω^)「お、いらっしゃいませですお」

それから数人の客が店を訪れて来た。
ほとんど売れないと予想していたのだが、焼き立てパンの匂いはなかなか強烈だったらしい。
物珍しさも手伝ったのか、思ったよりは売れた。

247 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:52:27 ID:kNximWss0

ただ、ほとんどの客の人相が悪かったので、闇オークションの関係者とかそんな感じだろう。
わんわんおを撫でる客もいたり、強面でも平素は案外気さくな人達が多いようだ。

(∪*^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「ありがとうございましたお」

ノリミ゚ -゚彡「意外と売れちゃったな」

( ^ω^)「意外だお。で、そっちの方はどうだお?」

ノリミ゚ -゚彡「外れだな。まあ、客は全員不審者っぽかったが、お目当てのやつはいなかったな」

ノリミ゚ -゚彡「少し捜索範囲を広げるか?」

( ^ω^)「他のルートかもしれんお。大人しく魔法が上がるのを待った方がいいかもだお」

元々僕らの担当は追跡、及び脱出も兼ねてもっとも大きな通りに陣取ってるので、
ボルジョアが通る確率は低いと見ている。
盗品を捌くという日陰の人間の心理的に、もっと目立たない通りを選ぶのではなかろうか。

248 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:54:40 ID:kNximWss0

ノリミ゚ -゚彡「そうかもしれんな。我々はここで現状維持に務めるべきか」

( ^ω^)「だお」

ノリミ゚ -゚彡「正直、少し退屈して来たが……っと、また客か。仮面付きとは随分と変わってる」

( ^ω^)「お前が言うなお……って、仮面?」

(^o^) オワオワ

(;^ω^)「こいつは!?」

見覚えのある笑い顔の仮面が、僕の前に現れる。
例の精霊研究の失敗作、シブサワさんの話ではオワタ兵と呼ばれているという事らしかった。

ノリミ゚ -゚彡「敵か?」

(;^ω^)「まさかパンを買いに来たってわけでもないおね」

僕はわんわんおをフードに押し込み、杖を構える。
クーも剣を抜き、オワタ兵に向かって身構える。

249 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 22:57:12 ID:kNximWss0

(^o^) オワオワ

( ^ω^)「……仕掛けて来ないのかお?」

ノリミ゚ -゚彡「どうする? こちらから行くか?」

本来なら僕らが襲われる理由はないはずだ。
彼らと関わり合うつもりは今の所ないし、件の魔法使いを捕まえようとしてここにいるわけではない。
一昨日の夜の事を向こうが根に持っていなければだが。

(∪^ω^)「わんわんお!」

わんわんおが僕の背中を叩き、空に向かって吠える。
視線をそちらに向けると、向かいの建物の屋根に複数のオワタ兵の姿が見える。

ノリミ゚ -゚彡「こいつは陽動で、向こうが本隊ってとこか?」

( ^ω^)「僕らが狙われる意味がわからんけど、どうもそんな感じだおね」

ふとある事に気付き、僕は前に飛び出して背後の建物屋根の上を見る。
思った通り、そちらにもオワタ兵の姿があった。

250 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:00:14 ID:kNximWss0

( ^ω^)「馬車を出すお。挟撃は勘弁だお。それと、黄色の魔法を……」

黄色の魔法を打ち上げ、想定外の事態を皆に告げる、そう言い掛けた矢先、その黄色の魔法が空に輝く。
それが誰のものか確認するよりも早く、さらに2つの黄色の魔法が打ち上げられた。

(;^ω^)「全員襲われたくせえお」

ノリミ;゚ -゚彡「どういう状況なんだ?」

僕達は馬車に飛び乗り、急発進させる。
その背後に、次々とオワタ兵が飛び降りて来るのが視界の端に見えた。

ノリミ゚ -゚彡「どうする?」

( ^ω^)「あいつらは弱いお。でも、倒すのは簡単だけど、その目的がわからないから難しいとこだおね」

ひとまず全員と合流する方がいいと判断し、馬車を走らせる。
仮面の集団に溢れたこの状況なら、ボルジョアがこの道を通ろうとは思わないだろう。
  _、_
( ,_ノ` )「いい判断だ」

( ^ω^)「シブサワさん!」
-

251 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:01:53 ID:kNximWss0

しばらく馬車を走らせた所で、どこからともなく現れたシブサワさんが馬車に飛び乗って来た。
シブサワさんの話だと、僕らの予想通りツン達もオワタ兵に襲われているらしい。

ノリミ゚ -゚彡「どういう状況だ? お前、何かやらかしたのか?」
  _、_
( ,_ノ` )「何もしてねえさ。もしやらかしたならラウンジのやつらだろう」
  _、_
( ,_ノ` )「あのオワタ兵共、この辺りにいる人間を無差別に襲ってるようだ」

例の研究をしている魔法使いが反撃に転じたらしいとシブサワさんは言う。

( ^ω^)「それで、僕らは全員と合流するとして、その後はどう動くつもりですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )「この騒ぎじゃ、ボルジョアの野郎も簡単には姿を見せないだろうからな」
  _、_
( ,_ノ` )「まずは騒ぎを収めるしかあるまい」

ノリミ゚ -゚彡「当然、別料金だよな?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「まあ、仕方ないな」

252 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:02:56 ID:kNximWss0

馬車は一旦闇オークション会場から離れ、オワタ兵のいない辺りまで来てから曲がり、別の大通りに入る。
そしてまた会場方向に向かうと、オワタ兵と戦っている冒険者風の人間を数人見かける。

(∪^ω^)「わんお!」

( ^ω^)「あれがラウンジの人ですかお?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「その様だな。聖女達とは別の一団だろう」

ノリミ゚ -゚彡「いたぞ、ツンだ」

ξ゚听)ξ「!?」

襲い掛かるオワタ兵を次々と打ち倒すツンの姿が馬車の進路の先に見えた。
ツンもこちらの存在に気付いたようで、馬車を止めようとした僕に手でそのまま進むように指示して来た。

( ^ω^)「ツン!」

ξ゚听)ξ「ええ!」

ツンは少し速度を緩めた馬車に飛び乗り、僕達と合流を果たす。
シブサワさんがツンに現状の説明をする間、僕は次の通りへ向かって馬車を走らせる。

そのまま順調にヒッキーさん、トソン君を回収し、会場から少し離れた場所に馬車を停車させた。

253 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:04:25 ID:kNximWss0

ノリミ゚ -゚彡「で、この騒ぎの元の魔法使いはどこにいる?」
  _、_
( ,_ノ` )「残念ながらそいつは不明だ」

馬車を止めると、少し待てと言葉を残してシブサワさんが物陰に消える。
そしてすぐに戻って来ると、現状の説明を始める。

どうやら先の短い時間で情報を仕入れて来たらしい。
多分、部下の人を忍ばせていたのだろう。
  _、_
( ,_ノ` )「ラウンジが例の魔法使いの隠れ家を襲撃したらしいが、空振りに終わったようだ」
  _、_
( ,_ノ` )「どこからか情報が漏れていたようだな。で、現在その反撃にあってこの様だ」

ξ゚听)ξ「それにしてもオワタ兵でしたっけ? あれ、無差別に襲い過ぎてません?」

(-_-)「ラウンジは元より、我々や関係ない近隣の住民まで襲われているようですね」
  _、_
( ,_ノ` )「混乱を起こすだけ起こして逃亡を図るつもりかもしれんな」
モグモグ
({(゚、゚トソン「厄介ですね。一般人が襲われているのを黙って見ているわけにもいきませんし」

( ^ω^)「トソン君? 何勝手に薬草パン食ってるんだお?」

254 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:06:02 ID:kNximWss0

ξ゚听)ξ「私が渡したのよ。どうせ商売どころじゃないんだからいいでしょ?」

そういうツンの手にも薬草パンが握られている。
別にかまわないが、これから戦闘になるというのによく食べられるものだ。

ノリミ゚ -゚彡「本来の目的の方はどうだ?」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「鋭意捜索中、要するに行方はわからないってとこだ」

( ^ω^)「ラウンジの聖女、もしくは鶏仮面は誰か見てないかお?」

(-_-)「こちらは見かけてませんね」

デレ達の姿はまだ目撃されていないようだ。
僕としては、このまま出会わずに済めばいいと思うが、そう簡単には終わらないのだろう。

ξ゚听)ξ「とにかく、私達は私達で方針を決めない事にはどうしようもないわ」

ツンはシブサワさんの方に視線を向ける。
現状の僕らは雇われ冒険者なのだから、方針の決定はシブサワさんに委ねるしかない。
それに黙って従うかどうかはまた別の話だが。

255 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:08:02 ID:kNximWss0
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「俺達の目的を考えれば、宿に引き返して休むってのが正しいんだろうが……」

この状況なら、明日、闇オークションが開催されるか怪しい所で、
ボルジョアを見付けられる可能性も低いだろうからとシブサワさんは言う。

(゚、゚トソン「しかし──」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ、わかってる。こう見えても一応、俺も聖職者だからな」

たとえ教徒でなくとも、罪無き人々が襲われているのを放っておくわけにもいかないとシブサワさんは続ける。

ノリミ゚ -゚彡「そう言えばそうだったな。見た目がアレなんですっかり忘れてた」

ξ゚听)ξ「お世辞にも聖職者には見えないもんね」

(∪^ω^)「わんおー」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「お手柔らかに頼むぜ。こう見えてもおじさんは傷付きやすいお年頃なんだ」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「見知らぬ子供に口が臭いと言われてからは、日に5回歯磨きを欠かさないくらいなんだぞ?」

(;^ω^)「意外とメンタル弱いおね……」

(゚、゚;トソン「恐らく原因であろう、煙草を止めればよろしいのではないかと」

256 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:09:41 ID:kNximWss0

(;-_-)「と、とにかく、首謀者を探すという事で、何人かは馬車の守りとして……」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~「いや、そんな悠長な事は言ってられなくなったようだな」


  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)


ξ゚听)ξ「来たわね」

距離は空けたつもりだったが、いつの間にかこちらにもオワタ兵達が向かって来る。
こいつらに負ける事は考えられないが、馬車は守る必要があるだろう。

( ^ω^)「取り敢えずここは……って魔力反応!? それも大きいお!」

ひとまず馬車の守備と周辺調査の二手に別れる事を提案しようとした時、一際大きな魔力を感知した。
恐らく攻撃魔法の詠唱によるものだ。
僕は魔力を感じる方向に視線を向ける。

(;^ω^)σ「あの路地だお!」

257 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:14:17 ID:kNximWss0

僕の指差す先にツンが向かおうとするが、もう遅かった。
僕はツンの腕を掴み、自分の方へ引き寄せる。

ξ;゚听)ξ「なっ!?」

(;^ω^)「向こうの魔法が完成したお。防御魔法を張るから離れないでくれお」

だが、今から詠唱しても全員を防御するだけの広範囲の守備魔法は間に合わないだろう。
向こうの魔力にもよるが、この感じだと決して弱くは無いから簡単な魔法では防げない。

(;-_-)「ホーリー・サークル!」
  _、_
( ,_ノ` )「ホーリー・ウォール!」

そんな僕の心配を余所に、2人の聖職者が防御魔法を唱える。
ヒッキーさんのスペシャルは僕らを広く包み、シブサワさんの恐らく神聖魔法と思われるものは前面に白い壁を作った。
それから一瞬遅れて、僕らと馬車は炎に包まれる。

( ^^ω)「ホーマホマホマホマ。たわいない連中ホマ」

炎に包まれる僕達の前に、醜悪な顔の太り気味の中年男がおかしな笑い声とともに路地から歩み寄って来る。
この男が、先ほどの炎の魔法を唱えた魔法使いなのだろう。

258 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:16:01 ID:kNximWss0

魔力は大したものだが、頭はあまりよろしくないようだ。
僕らが今の魔法を防いだ事に気付いてないらしい。

ξ゚听)ξ「セイッ!」

(;^^ω)「ホマッ!?」

ツンが炎の中から飛び出し、魔法使いに攻撃を仕掛ける。
魔法使いは驚愕しながらも、オワタ兵を盾にしてそれを回避した。

(;^^ω)「何で今の魔法を食らって平気ホマ?」
  _、_
( ,_ノ` )「食らってねえからだよ、ホマ野郎」

(゚、゚#トソン「でええええりゃぁぁぁぁッ!!!」

ヒッキーさんが守備魔法を解除すると同時に僕らの周囲にあった火を吹き飛ばし、
シブサワさんとトソン君が魔法使いに襲い掛かる。

トソン君の剣が魔法使いの前に密集していたオワタ兵を薙ぎ倒し、
シブサワさんがそれを飛び越えて魔法使い目掛けて跳び蹴りを放った。

259 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:17:02 ID:kNximWss0

(;^^ω)「ホマァァァァッ!?」
  _、_
( ,_ノ` )「チッ、避けやがったか。体型の割には案外素早いな」

辛くも回避した魔法使いだが、右手で抑えているその左腕を見るとローブの袖が切り裂かれている。
よく見るとシブサワさんのブーツに刃物が光っていた。
僕を助ける時も飛び蹴りだったし、あの武器からもシブサワさんは足技が得意なのだろう。

( ^ω^)「お前、何者だお? 何で僕らを狙ったお?」

( ^^ω)「ホマホマホマ。調子に乗るなホマ。たまたまお前らが目に付いたから攻撃しただけホマ」

( ^^ω)「我が名はマルタスニム=ハーセガー。偉大なる魔法使いにして最高の研究者ホマ」

( ^^ω)「私の邪魔をする者は皆殺しホマ」

( ^ω^)「マルタスニム……こいつが……」
  _、_
( ,_ノ` )「例の精霊兵器研究者だ。俺も姿は初めて見るが」

僕はマルタスニムと名乗った男を睨み付ける。
精霊を使った研究とも呼べない非道な人体実験を繰り返す、魔法使いの風上にも置けない男。
常に薄ら笑いを浮かべたその顔は、醜悪極まりない。

260 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:19:00 ID:kNximWss0

( ^^ω)「ほほう、それを知っているという事は、単なる一般人じゃないホマね?」

( ^^ω)「お前らもあの無能なラウンジ聖教の信徒ホマ?」
  _、_
( ,_ノ` )「ま、そんなとこさ。それより、引き篭もりで逃げ回るばかりだったあんたが」
  _、_
( ,_ノ` )「こうも簡単に姿を見せてくれるとはどういう風の吹き回しだ?」

( ^^ω)「フン、言ってくれるホマね。簡単な話ホマ、もう隠れている必要もなくなったホマよ」
  _、_
( ,_ノ` )「そいつはどういう意味だ?」

( ^^ω)「ハッ、律儀にそれを教えてやる理由も無いホマ」

マルタスニムが右手を挙げると、それまで待機していたオワタ兵が一斉にこちらを向く。
自我は無くとも命令には忠実に従うらしい。
弱いとは言え、これだけ数がいると厄介だ。
  _、_
( ,_ノ` )「ならば……」

ノリミ゚ -゚彡「力ずくで聞きだしてやろう」

261 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:20:57 ID:kNximWss0

ξ゚听)ξ∩「あんたのその歪んだ面を張り飛ばしてね」

(∪^ω^)「わんわんお!」
  _、_
( ,_ノ` )「……うん」

( ^ω^)「お前ら、シブサワさんのセリフ取るなお。おっさんちょっといじけてるお」

僕はツン達に目配せをして、さり気なく後方に下がりながらシブサワさんの方を顎で示す。
実際、シブサワさんはちょっと俯き気味で肩が落ちている様に見える。
  _、_
(;,_ノ` )「おっさん言うなよ。いじけてねえし」

( ^^ω)「随分と余裕ホマね。遺言はそれでいいホマか?」

ノリミ゚ -゚彡「ああ、そんなものは必要ないからな」

ξ゚听)ξ「遺言がいるのはあんたの方よ。今のうちにお祈りでも済ませておきなさいな」

( ^^ω)「ホマホマホマ。神などという馬鹿馬鹿しいものに祈る趣味は無いホマ」

262 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:23:07 ID:kNximWss0

( ^^ω)「それに、神ならば人知を超えた研究を為し得た私が呼ばれるのに相応しい言葉ホマ」

(゚、゚#トソン「思い上がりも甚だしい悪党め。この僕が成敗してくれる」

( ^^ω)「ホーマホマホマ、やれるものならやってみろホマ!」

( ^ω^)「じゃあ、そうさせてもらうお。ksk!」

僕の言葉に、ツン達3人は一斉に横に飛ぶ。
あらかじめ距離を取っていた、僕は速度を上げ一気にマルタスニムに迫る。

(;^^ω)「ホマ!? お、オワタ兵!」

  オワオワ  オワオワ  オワオワ  オワオワ
  (^o^)  (^o^)  (^o^)  (^o^)

(;^^ω)「私を守れホマ!」

    オワー    オワー    オワー    オワー
 Σ\(^o^)/ \(^o^)/ \(^o^)/ \(^o^)/そ
                     三⊂二二二( ^ω^)二⊃「悪いけど、どいてくれお!」

263 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:25:30 ID:kNximWss0

集まってくるオワタ兵を弾き飛ばし、マルタスニムに向かい、一直線で突き進む。
こうなってくると逆にオワタ兵が密集している所為で、マルタスニムは大きく回避する事は出来ないだろう。
対抗呪文を唱える時間も与えない。

( ^ω^)「食らえお! ブーン・クラァァァァッシュ!!!」

            スッ…
           (^o^)

マルタスニムにぶつかる直前、少し小柄な1人のオワタ兵がその前に進み出る。
今更1人増えた所で、僕の必殺技が止められるはずはない。
そう判断し、僕はそのまままっすぐに突き進む。

(;^^ω)「ホマァァァァァッ!?」

(^o^)「……」

鈍い音がした。
人と人がぶつかる音。
スペシャルを使った際に聞こえる、僕にとっては聞き慣れた音でもある

ただ、いつもと違ったのは、スペシャルをぶち当てた相手が、
よろけながらも吹き飛ばされずに耐え切っていた事だ。

264 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:27:31 ID:kNximWss0

(;^ω^)「何で……」
 .,,
(^o^)「……」

僕の一撃を受け止めたオワタ兵は、ただその場に立ち尽くしていた。
受け止める姿勢を取ったわけでもなく、ただ僕の前に立っていただけだ。

だのに、よろけはしたものの全くダメージがない様子で僕の攻撃を防ぎ切った。
 .,,
(^o^)「……」

いや、全くダメージがなかったわけではないらしく、その仮面にはひびが入っていた。
仮面の方はその身体ほど丈夫じゃなかったらしい。

(;^ω^)「クッ……、これはちょっとまずったお」

必殺技を失敗してしまった驚愕から立ち直った僕は、その身が置かれている状況の悪さを理解する。
敵陣のど真ん中で1人立ち往生、オワタ兵ばかりとはいえ、一斉に襲い掛かられたら少々まずい。

( ^^ω)「ホーマホマホマ! 馬鹿め! これで──」
  _、_
( ,_ノ` )「まだだ!」

265 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:29:06 ID:kNximWss0

いつの間にか僕の背後に潜んでいたらしいシブサワさんが僕の肩に手を掛け、それを支点に中空に身を躍らせる。
僕の方に魔法を撃とうとしていたマルタスニムは、突如現れたシブサワさんの動きには付いていけず、
ただ驚愕の目を向けるだけしか出来なかった。
 .,,
(^o^) スッ…
  _、_
( ,_ノ` )「チッ、またお前か」

しかし、先のオワタ兵がいち早く反応し、シブサワさんの攻撃も防ぐ。
これまでのオワタ兵の動きからすると、考えられない素早さと力強さだ。
  _、_
( ,_ノ` )「俺の蹴りも余裕で受け止めやがる……。おい、動けるか?」

( ^ω^)「大丈夫ですお。……明らかに普通のオワタ兵とは違いますおね」

どう考えても、その他大勢のオワタ兵とは別物にしか見えない。
雰囲気はさほど変わらないが、強さは段違いである。

そして別物ならば、考えられる可能性は1つだけ思い当たる。

( ^ω^)「精霊憑依研究の完成型かお?」

266 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:32:13 ID:kNximWss0

僕の言葉にシブサワさんがゆっくりと頷く。
完成型と思しきオワタ兵は、マルタスニムの命令を待っているのか襲って来る事はない。

            .,,
           (^o^)


( ^^ω)「なかなかいい勘してるホマね。その通りホマ」、
  _、_
( ,_ノ` )「チッ……完成してやがったか」

この完成型が話に聞く通りの強さならば、相当厄介な相手だ。
しかも、本を正せばこの完成型も研究の被害者なのだ。
やり辛い事この上ないが、だからといって手を抜ける状況でもない。

( ^^ω)「どうしたホマ? かかって来ないホマ?」

(;^ω^)「……」

パチパチと何かが燃える音がする。
馬車は燃えるのを免れたが、いくつかの建物に火が付いてしまっている。
遠くの方でも煙が見える所からするに、恐らくここに来るまでにマルタスニムが無差別に攻撃して回ったのだろう。

267 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:34:15 ID:kNximWss0
  _、_
( ,_ノ` )「あの完成型は俺がやる」

シブサワさんが僕の方に身を寄せ、小声でそう告げる。
僕が頷くより早く、後は任せるとの言葉を残し、シブサワさんは駆け出した。
 .,,
(^o^)「……」
  _、_
( ,_ノ` )「お前に恨みはないが、しばらく大人しくしててもらうぜ!」

シブサワさんが放った首への上段蹴りを、避ける事無くまともに食らう完成型。
よろめきもせず、蹴り足を掴もうと手を伸ばすが、その時には既にシブサワさんは宙を舞っていた。

( ^ω^)「見惚れてる場合じゃなおいね」

その隙に僕は後方へ下がり、ツン達と合流を果たす。
数多くのオワタ兵に囲まれた状況で呪文の詠唱が出来るほど体捌きには自信がないし、
魔法を使わずに戦い抜くことも難しい。

(゚、゚トソン「参ります!」

代わりにトソン君が走り出し、僕とすれ違うように前に出た。
その後方をツンとクーも追い、オワタ兵を打ち倒してトソン君の援護を図る。

268 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:36:36 ID:kNximWss0

トソン君はガリアン・ソードを振り回し、オワタ兵を薙ぎ倒しながらマルタスニムの元へ向かう。
オワタ兵に対して手加減をしているか心配な所だが、
ガリアン・ソードを斬るというよりは殴るという使い方をしている様だ。

何度か戦ってわかったが、オワタ兵は常人に比べてかなり頑丈な様で、
殴り飛ばす程度ならすぐに戦闘復帰してくる事もしばしばだ。
それ故、弱い割には面倒な相手だが、逆に少々強く攻撃しても死にはしないだろう。

( ^^ω)「小癪なガキホマ」

マルタスニムの持つ杖に魔力が込められていく。
どうやらオワタ兵を巻き込むことを厭わず、強力な広範囲魔法を使うつもりらしい。

( ^ω^)「させるかお!」

僕は下がりつつ唱えていた魔法を先に解き放ち、マルタスニムを狙う。

( ^ω^)「サンダー・フォール!」

力ある言葉と共に、天から一筋の雷が落ちて来る。
以前使ったサンダー・ストームの変化版で、範囲は狭いが狙いを定め易い魔法だ。

269 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:38:13 ID:kNximWss0

(;^^ω)「ホマッ!? 味な真似を!」

マルタスニムは唱えていた魔法を解き放ち、雷と相殺させる。
思ったより戦闘慣れしているらしく、僕の力ある言葉から状況を判断して、咄嗟に防御に転じてみせた。

(゚、゚トソン「隙あり!」

その隙を逃さず大上段からトソン君が斬り掛かる。

( ^^ω)「甘いホマッ!」

マルタスニムの合図と共に、後方のオワタ兵が一気に雪崩れ込んで来てマルタスニムの姿を隠す。

(゚、゚;トソン「クッ、卑怯な!」

( ^^ω)「戦いに卑怯もへったくれもないホマ、この甘ちゃん共め!」

「全くその通りだな」

(;^^ω)「ホマッ!?」

頭上から聞こえた野太い声と同時に、何かがオワタ兵の集団の中に突き刺さる。
上空から蹴り飛ばされた何か、完成型はオワタ兵を薙ぎ倒しながらマルタスニムの足元で止まった。

270 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:40:51 ID:kNximWss0
  _、_
( ,_ノ` )「これ以上馬鹿げた研究を続けさせない為にも、今ここでお前を捕らえる」
  _、_
( ,_ノ` )「その方が結果的に犠牲は減るからな」

だから、自分はオワタ兵の生命を殺めるのも厭わない。
シブサワさんはそう宣言し、マルタスニム目掛けて跳躍する。

(;^^ω)「ええい、何をしているホマ! 早くあいつをぶち殺すホマよ!」

マルタスニムの命令に従い、オワタ兵は次々とシブサワさんに襲い掛かるが、
シブサワさんはそれを物ともせず突き進む。
 .,,
(^o^)「……」
  _、_
( ,_ノ` )「またお前か。もうしばらく寝てろ!」

再び立ち上がった完成型の顔面にシブサワさんの足が突き刺さる。
完成型の仮面が音も無く割れ、束ねていたらしい髪が無造作に広がった。

川:::::::::::)「ゥ……ァァ……」
  _、_
( ,_ノ` )「邪魔だ」
271 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:42:41 ID:kNximWss0

そのまま足で引っ掛けるようにして後方に飛ばす。
シブサワさんは恐らくそうしようとしたのだと思う。
  _、_
(;,_ノ` )「!?」

しかし、飛ばされたのはシブサワさんの方だった。

(;^ω^)「え?」

川 々 )「ヴァァァァァァァッ!」

完成型は突然咆哮を上げ、恐ろしい力でシブサワさんの足を掴んで放り投げた。
そしてすぐに自分もその後を追い、上空を舞う。

川 ゚ 々゚)「ヴァッ!」

その手には、いつの間にか2振りの短い刃物が握られていた。

(;゚ω゚)「シブサワさん!!!」

僕は慌てて、その後を追おうとするが、オワタ兵に囲まれて儘ならない。
オワタ兵を打ち倒しつつ上空を見ると、シブサワさんは高高度に達し、
後は落ちて行くだけの状況で体勢を立て直そうとしている。

何とか姿勢を制御し、正面を向く事に成功したその時には既に、目の前に完成型が迫っていた。

272 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:46:41 ID:kNximWss0

川 ゚ 々゚)「グルァァァァァッ!」
  、_
(;,_ノ )「グッ……」

凄まじい速さで滅茶苦茶に振るわれる鋭利なナイフが、防御もままならないシブサワさんを斬り刻む。
空に赤い鮮血が舞った。

川 ゚ 々゚)「グヴァッ!」
  、_
(;,_ノ )「かはっ……」

一際力強く振り下ろされた一撃が、シブサワさんを地面に叩き落す。
そのあまりの速さに、落下の衝撃を和らげる為の魔法を唱える暇もなかった。

(;゚ω゚)「シブサワさんっ!!!」

ようやくオワタ兵の囲みを抜け、僕はシブサワさんの元に辿り着いた。
同じく囲みを抜けられたのか、ツンの姿も見える。

ξ;゚听)ξ「息はあるわ。でも……」

(;^ω^)「出血がひどいお。どこかで手当てしなきゃ……」

273 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:48:10 ID:kNximWss0

( ^^ω)「ホーマホマホマ! やっと目覚めてくれたホマね。全く、冷や冷やさせられたホマ」

ノリミ゚ -゚彡「目覚めた? どういう事だ?」

クーとトソン君も僕達に合流し、シブサワさんの治療をする僕をかばうように前に出る。
今がどうすべき状況かわかっているのだろう。
マルタスニムに話しかけ、治療の時間を稼ごうとしてくれる。

( ^^ω)「お前達はそいつを完成型だと思ったようだが、実は違ったホマよ」

川 =々=)「グァ……ウァ……」

マルタスニムは自分の目の前に背を丸めて立つ、僕達が完成型だと思ったオワタ兵を顎で示す。
先ほどは急に暴れ出したかのように見えたが、これもオワタ兵ならマルタスニムの命令は聞くのだろう。

ノリミ゚ -゚彡「そいつは完成型じゃないのか?」

( ^^ω)「被験体名『kru』、正しくは、準完成型といった所ホマ」

マルタスニムは状況が有利になった事に気を良くしているのか、上機嫌でクーの質問に答えてくれる。
この分なら後方で馬車を守り、
退路を確保しているヒッキーさんの所までシブサワさんを担いで逃げられるかもしれない。

274 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:51:14 ID:kNximWss0

よくよく見ると、思ったよりシブサワさんの傷は深くなかった。
空中だった事が幸いしたのか、踏ん張りがきかなかったので防御も甘かったが、攻撃も同じく浅くなったのだろう。
今は恐らく落下の衝撃で気を失ってるのだと思う。

( ^^ω)「能力は通常のオワタ兵を軽く凌駕していたホマが、肝心の感情の増幅が上手くいってなかったホマ」

その所為で、生命力は高いが攻撃力の乏しい木偶坊だったとマルタスニムは言う。

( ^^ω)「それがお前達のお陰で、上手く精霊の力を引き出せたホマ」

ノリミ゚ -゚彡「私達のお陰だと?」

( ^^ω)「そうホマ。そいつに憑いていたのは恐怖の精霊シェイドホマ」

( ^^ω)「しかし、感情が抑制されている所為で、恐怖を感じる事もなく」

( --ω)「結果的に増幅どころか精霊とのアクセスすら出来ず仕舞いだったホマ」

よほど機嫌がいいのか、聞かれてもいないことをぺらぺらとしゃべってくれるマルタスニム。
わからない点も多々あるが、何となく原理のような物はわかる。
要は精霊を憑依させても、それを全く使えてなかったのだろう。

275 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:54:05 ID:kNximWss0

( --ω)「それがお前達が痛めつけてくれたお陰で、感情のないこいつにも」

( --ω)「本能的な恐怖、死の恐怖を感じる事が出来たホマ!」

( --ω)「そして恐怖は増幅され、狂気に変わる」

( --ω)「ここに精霊兵器は完成したホマ!」

( --ω)「お前達には礼を言わねばならないホマね! ホーマホマホマ」

川 ゚ 々゚)「ヴァヴァ……ヴェイァ……」

醜悪な顔を歪めて高笑うマルタスニムと、どこを見ているのかわからない虚ろな目で佇む完成型。
狂った研究者と狂った研究の結果が僕達の前に立ち塞がる。

( --ω)「さあ、被験体名『kru』、いや、我が研究の成果、精霊兵クルゥよ」

( ^^ω)「やつらを皆殺しに……」

(;^^ω)「って、いねええええええっ!?」
276 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:57:31 ID:kNximWss0

ようやくマルタスニムが気付いた時には、僕らは既に馬車の近くまで後退していた。
途中で悦に入り過ぎて全くこっちを見ていないようだったので、こっそり逃げ出したのだ。

ξ゚听)ξ「全く馬鹿で助かったわね」

(∪^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「けど、状況は最悪だお。ぶっちゃけ、逃げるしか手が無いと思うお」

ノリミ;゚ -゚彡「あのような犯罪者を前にして腹立たしいが、今はそれしかないか……」

(-_-)「シブサワさんは大丈夫です。ただ、戦えるような状況ではない事には変わりありませんが」

(゚、゚トソン「あの愚か者が近付いて来てます。すぐに撤退すべきかと──」

突如、背後で大きな爆発音が鳴り響いた。
同時に吹き荒れる熱風、立ち上る黒煙、そして崩れ落ちる家屋。
すぐにそれが魔法による攻撃だと理解は出来た。

ξ;゚听)ξ「無茶苦茶やってくれるわね、あの潰れ饅頭顔」

ノリミ;゚ -゚彡「トソン、お前も馬を宥めてくれ! 今逃げ出されたら洒落にならん」

(;-_-)「とにかく、退路を立たれる前にすぐに脱出を……」

277 名前:名も無きAAのようです:2012/05/24(木) 23:59:38 ID:kNximWss0

(;^ω^)「違うお……」

ξ;゚听)ξ「何が違うのよ? あの馬鹿の無差別攻撃に巻き込まれる前に逃げるべきでしょ?」

(;^ω^)「違う、そうじゃないお……」

今の魔法を唱えたのは、マルタスニムではない。

( ゚゚ω)

その証拠に、マルタスニムも足を止め、驚愕の表情で僕らの背後を凝視している。

ξ;゚听)ξ「じゃ、じゃあ今のは……」

誰が唱えたかわからないが、少なくともマルタスニムではないのは確かだ。
加えて、マルタスニムの様子からもそれはマルタスニムの仲間ではないのだろう。

かといって町を攻撃するような魔法使いが僕達の仲間であるとは思えない。
更にもう一点、僕はある事に気付いていた。

(;^ω^)「今の魔法、全然魔力を感じなかったお」
279 名前:名も無きAAのようです:2012/05/25(金) 00:02:28 ID:/6DQO7oY0

ノリミ゚ -゚彡「魔力を感じなかった? それがどうかしたのか?」

正しくは詠唱している気配を感じなかったのである。
建物を倒壊させるだけの高威力の魔法であるのに関わらずだ。
普通なら有り得ない話である。

しかし、その有り得ない話に僕らは聞き覚えがあった。

ξ;゚听)ξ「それって……」

(;^ω^)「灰衣の……魔法使い……」

その結論に達した僕らの言葉を掻き消すように、家屋から音を立てて一層大きな炎が上がる。
天高く燃え上がる炎は、ナカノヒトの町の全てを飲み込まんとせんかのごとく、その勢いを激しくした。



     第三十一話 動乱のナカノヒト 終

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