518 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 22:52:17 ID:nF.oKsD60

 〜 王都ソクホウ西部 ソレイ港 〜


( ^ω^)「案外小さな港なんだおね」

( ´_ゝ`)「軍港が主とはいえ、ニューソクは水軍をほとんど持ってないからな」

( ゚д゚)「それはラウンジとの関係が良好と見ていいのか」

( ´_ゝ`)「どっちかというと、海はモンスターから不意に襲われることがあるし防ぎ辛いから」

( ´_ゝ`)「海じゃ戦いたくないってのが本音じゃないか?」
  _
( ゚∀゚)「そんな大海原に俺らは今から漕ぎ出すわけですが」

(∪^ω^)「わんお」



     第二十一話 仄暗き地の底で


519 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 22:53:32 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「まあ、襲われたら逃げの一手で行きましょうお」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

( ´_ゝ`)「うむ、それがいいだろうな」

彼の名前はアニジャさん。
王都ソクホウで武器職人をやっていて、からくり・サースガの異名を持つ人だ。

現在僕達はクエストに向かう為、アニジャさんの所有する船の前に集合した所だ。
船はさほど大きくはないが、10人ぐらいなら楽に乗れるだろう。

从 ゚∀从「で、護衛対象のお前の弟ってやつはまだ来てねえのか?」

( ´_ゝ`)「いや、もう来てるよ。船で準備をしてる。おい、オトジャ」

(´<_` )「何だい、アニジャ?」

アニジャさんが呼び掛けると、船からアニジャさんそっくりの男が降りて来た。
確認するまでもなく、このオトジャと呼ばれた人がアニジャさんの弟なのだろう。
521 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 22:54:58 ID:nF.oKsD60

( ´_ゝ`)「彼らがクエストを受けてくれた冒険者の人達だ。挨拶しろよ」

(´<_` )「これはこれは失礼した。僕の名はオトジャ=サースガ」

+(´<_` )「冒険野郎・サスガイバーと言った方がご存知かもしれないね」

(;^ω^)「えーっと……」

(´<_` )ノ「クエストを受けてくれて感謝する。まだ見ぬ遺跡の真実を目指して共にがんばろう!」

( ^ω^)「はい、よろしくですお」

やけに爽やかな口調でポーズを決めて挨拶をするオトジャさん。
感じの良さそうな人ではあるが、妙なはりきり具合からするに何だか面倒臭そうな人でもありそうだ。

( ^ω^)「しかし、何と言うか……ちょっと変わった船ですおね」

船には馴染みがなく、詳しいわけではないが、それでもこの船に違和感があるのはわかる。
どことなくフォルムが歪で、カラーリングが奇抜である。

( ´_ゝ`)「いい船だろ?」

+(´<_` )「これが僕達の船、マリン・サースガ号さ」

522 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 22:56:54 ID:nF.oKsD60

いいかどうかで言われれば、微妙と返したくなる程度には返答に困る。
アニジャさんの説明では、独自の研究で水の抵抗や風の影響等を考えての形らしい。
それにしては明らかに邪魔になりそうな突起物とか、何に使うのかわからないものが多数見受けられる。

ξ;゚听)ξ「カラーリングが何か目に痛いわね」

(∪^ω^)「わんおー」

从 ゚∀从「海の色に合ってねえな」

( ゚д゚)「衝突回避のため、目立つようにしてるのか?」
  _
( ゚∀゚)「むしろ不審船として襲撃されそうだな」

若干の不安を感じつつも、僕達は軽い自己紹介を終えて早速船に乗り込む。
海で船に乗る事すら初めての僕達は、操船に関しては完全に門外漢なので、
アニジャさん達の邪魔にならないよう作業を見守る事にした。

( ´_ゝ`)「よし、準備完了。出航するが各人、問題はないな?」
  _
( ゚∀゚)「ねえよ。出してくれ」

523 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 22:59:59 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「僕らは何かやる事ありますかお?」

( ´_ゝ`)「そうだな。目視での警戒ぐらいかな」

船は一応帆船の体をなしているが、櫂も取り付けられており、風がない時に漕いで進める事も可能なようだ。
乗ってる人数を考えると、あまり用いたくない手段ではあるが。
まあ、僕という魔法使いがいるんだし、風がないなら風を作ればいいのである。

( ´_ゝ`)「大丈夫だ。風向きを考えて今日のこの時間に出航したんだ。それに、いざという時の秘密兵器もある」

ξ゚听)ξ「秘密兵器?」

この船はアニジャさんの船らしく、機工技術で改造されているらしい。
短い時間であるが、蓄積してある電気を使って風向き関係なく進む事も出来るという。

( ^ω^)「何かすごそうですお」

( ´_ゝ`)「機工では電気を動力に変える研究が盛んだからな。その応用さ」

(´<_` )「それじゃあアニジャ、出航と行こうか」

( ´_ゝ`)「うむ、出発進行」

(´<_` )「ヨーソロー」

524 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:01:32 ID:nF.oKsD60

アニジャさんの宣言とオトジャさんの爽やかな掛け声を受けて、船は滑るように緩やかに進み出す。
僕は初めての経験に、ドキドキしながら離れ行く港を眺めていた。

( ´_ゝ`)「どんなに早く着いても半日はかかるだろう。ゆっくりしていてくれ」

ヽ(´<_` )「前方よーし! 後方よーし! 風よーし!」

基本は風任せという事で、特にやる事もないのか座り込むアニジャさんと、
対照的に忙しなく船内を走り回るオトジャさん。
多分アニジャさんに従うべきなのだろうが、オトジャさんが視界の端々に引っかかって落ち着かない。

( ^ω^)「おー、底が見えないお」
つ∪^ω^)「わんおー」

仕方なく、船べりに座って海の方に視線を向けるが、透明度の低い深い青の水面は何だか少し怖く感じる。
比較的波は穏やかのようだが、それでも結構船は揺れるので落ちないように気を付けねばならない。

( ^ω^)「わんお、絶対走り回っちゃ駄目だお?」
つ∪^ω^)「わんお!」

ξ゚听)ξ「何だか不思議な感じね」

525 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:02:27 ID:nF.oKsD60

気付くといつの間にか隣にツンが座っていた。
先ほどまで船全体の様子を確認していたはずだが、大きくない船だしもう見終わったのだろう。

( ^ω^)「海で船に乗るのは初めてだから、変な感じだお」

ボートぐらいなら昔、ヴィップの近くのモオト湖で乗った事がある。
波も穏やかで、水底も見えるぐらいの所だったから、今とは全く違う感じの揺れ方だった覚えがあった。

(´<_` )「君達は海は初めてかい? あまり海面ばかり見てると酔いやすいから気を付けるんだよ?」

( ^ω^)「そうなんですかお?」

相変わらずの爽やかな口調でオトジャさんが話し掛けてくる。
これからクエストで共に行動するわけだから、少し話をしてどんな人か把握しておいた方がいいかもしれない。

(´<_` )「うん、だからちょっと気分が悪いかなと思ったら、動きの少ない遠くの海を見るといい」

( ^ω^)「覚えておきますお。ありがとうございますお」

(´<_` )「それにしても、よくこの依頼を引き受けてくれたね。本当に感謝しているよ」

526 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:03:18 ID:nF.oKsD60

ξ゚听)ξ「ひょっとして、ギルドの方にも依頼を出されてたんですか?」

(´<_` )「うん、出してたね。しかしながら、詳細を聞くと皆、難色を示してね」

ソクホウは騎士や聖職者の数が多く、必然的にそこに住む人間はそちらを目指す事が多くなり、
冒険者の活動はあまり活発ではないらしい。

僕はフィレンクトさんがミルナさん達を騎士に誘った時の事を思い出していた。

(´<_` )「そうだね、ソクホウではモンスター討伐なんかはギルドより騎士に頼む方が一般的だろうね」

(´<_` )「だから、あまり腕の立つ冒険者はいないし、冒険者自体が積極的には寄り付かないんだろうね」

( ^ω^)「明確な目的があるならともかく、冒険者として稼ぐなら他の町が良いって事ですかお」

話してみるとオトジャさんは頭の回転が早く、加えて博識である事がわかった。
オトジャさんは主に遺跡の調査を生業としてるらしい。

(´<_` )「僕は未知という言葉が大好きでね」

(´<_` )「兄もそうなんだが、僕は兄とは違った分野で未知の物を追っているんだ」

527 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:04:29 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「知らない事を知るのはわくわくしますおね」

(´<_`*)「だろ? 未開の地に足を踏み入れる瞬間がたまらなく素敵なんだ」

僕も魔法使いで、研究者の側面も持っているからオトジャさんの気持ちはよくわかる。
新たなものを見出すためには探究心はなくてはならないものだ。

そうやって僕らは話したり休んだりしながら時間を潰し、船の旅は比較的順調に進んでいた。
当初、船の見た目で不安も感じたが、いらぬ心配だったようである。

( ´_ゝ`)「さて、残り1時間ほどで到着だが、警戒はしててくれよ」

アニジャさんによると、シーサーペントが出るならこの辺りからだという。
遭遇したら逃げるしかないので、いつでも風の魔法を使う準備はしておこう。
  _
( ゚∀゚)「警戒っつっても、何を警戒すればいいんだ? 出現の兆候でもあるのか?」

( ´_ゝ`)「不自然にデカい波とか、水中からの気泡とか、わかりやすい渦とかだな」

从 ゚∀从σ「渦ってーと、あんなのか?」

( ´_ゝ`)「どれどれ? そうそう、あんな──」

(;゚_ゝ゚)「渦ぅぅぅぅっ!?」

528 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:07:23 ID:nF.oKsD60

ハインさんが指す方向、船の進路の遥か先、右前方にこの船よりかなり大きな渦が出現しているようだ。
僕には目視ではよく見えないのだが、アニジャさんから遠眼鏡を借りて見た所、確かに渦が巻いている。

(;´_ゝ`)「進路急速変更! 取舵いっぱい!」

(´<_`;)「取舵いっぱーい!」

シーサーペントは感覚器はそれほど発達しておらず、あまり遠くまで判別出来る能力はないらしい。
距離を空ければ気付かれないで済むかもしれないと、船の進路を大きく左にずらす。

ξ゚听)ξ「あれがシーサーペント確定ってわけじゃないんですよね」

(;´_ゝ`)「ああ、だがあのサイズの渦を作るモンスターなんてそうはいないからな」

僕達は一応戦闘態勢を取り、有事に備える。
船上で重装備は万が一海に落ちた時にヤバいので、ミルナさん達も軽装で間に合わせている。

(´<_`;)「渦の方に動きあり! 出るぞ!」

オトジャさんの声に僕らは渦の方を注視する。
大量の水泡が水面に弾け、何かが海中から飛び出した。

529 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:08:55 ID:nF.oKsD60

           //////
          E/ `v-v,)
         E/  / ̄


(;^ω^)「シーサーペント!」

かなり離れた位置からでもその竜の如き顔がはっきりわかるほど巨大なそれは、紛れもなくシーサーペントである。
まだこちらに気付いた様子はなく、ゆっくりと首を左右に動かしている。

(; ゚д゚)「かなり大きいな」

从 ゚∀从「んー、あれはちょいと無理そうだな。船が持ちそうもねえな」

普段なら強いモンスターに真っ先に向かっていこうとするハインさんだが、流石に今回は諦めてくれる様だ。
前もって言い含めていた上、足場の問題もあるので条件が悪いと理解してくれたのだろう。

(;´_ゝ`)「このままやり過ごすぞ。全員、姿勢を低くして口を開くなよ」

このまま動かなければ流木か何かと認識されて、やり過ごせる可能性があるというアニジャさんは言う。
逆に言えば、感覚器の優れていないシーサーペントでも、明らかに異質な動きを感じれば襲って来るだろう。
ただ、この色合いで流木と思ってくれるか一抹の不安は感じるが、この距離なら色はよくわからないかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「匂いとかでばれんじゃねえか?」

(´<_`;)「大丈夫、やつは潮の匂いで気付かないはずだ。いいか、静かにするんだぞ」

530 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:10:07 ID:nF.oKsD60

           //////
          E/ `v-v,)
         E/  / ̄

       _
(;´_ゝ`)( ゚−゚)从 ゚−从( ゚−゚)(;^ω^)(∪^ω^)ξ゚−゚)ξ(´<_`;)


僕らは息を殺し、船が風に流れる任せてシーサーペントをやり過ごす。
いつこちらに気付かれるかもしれないという恐怖が、僕の動悸を激しくする。

(;^ω^)(ヤバ……くしゃみ出そう)

緊張の所為なのかはわからないが、急に鼻がむずむずし、思いっきりくしゃみがしたくなった。
我慢すべき時だが、こういうのは一旦意識してしまうと気になって仕方がなくなる。
しかし、くしゃみで気付かれるなんてベタな事をやるわけにはいかない。

(;^ω^)(いや、くしゃみぐらいなら波音で聞こえないお……でも、聞こえたらどうしようかお……)

そんな葛藤の最中、視線を感じたのでその方向を見ると、ツンがこちらに険しい顔を向けている。
どうやら僕の置かれている状況に気付いたのか、険しい顔のまま首を振ってみせる。

531 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:11:24 ID:nF.oKsD60
  _,
((ξ゚听)ξ)) フルフル

(;^ω^)"(わかってるお。我慢するお)

僕は頷いてみせ、くしゃみを堪える為に視線を下げる。

;;(∪^ω^);;

(;^ω^)(ちょ、わんお、お前もかお!)

;;(∪´ω`)";;

ゆっくりと頭を前後させ、今にもくしゃみをしそうなわんわんお。
僕はその口を押さえ、我慢するように声を潜めて言い聞かせる。

(;^ω^)「今くしゃみしたら駄目だお。静かにしてるお」
つ∪^⊂ フガフガ……

少し苦しそうな顔をしたわんわんおだったが、何とかくしゃみは抑える事が出来た。
申し訳ないがもう少しだけ我慢して欲しい。
あと少しでこの場を乗り切れるはずだ。

532 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:13:08 ID:nF.oKsD60

’。・ .(`<_´ )「ぶぇっくしょいッ!」

(;゚ω゚)「お前がやるんかい!!!」


           //////
          E/`v-v´)
         E/   /


(;^ω^)「あ、ヤベ……」

思わず大声で突っ込んでしまった僕は、すぐに自分の失態に気付いた。
シーサペントの視線がこちらに向いているのを感じる。

(;^ω^)「クッ……、こうなったら……」

(;´_ゝ`)「いや、待て!」

(;^ω^)「お?」

533 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:16:14 ID:nF.oKsD60

           //////
          E/ `v-v,)
       '''''''''''’'’'’'’'’'’'’''''''''''

シーサーペントはこちらに向かってくる事はなく、そのまま海中に消えていった。

(;^ω^)「助かった……のかお?」

(; ゚д゚)「どうやら気付かれずに済んだようだな……」
 _
(;゚∀゚)「流石にちょっと肝が冷えたぜ」

ξ;゚听)ξ「何やってんのよ、あんたは」

(;^ω^)「正直すまんかったお」

+(´<_` )「まあでも、常識的に考えて、この距離でくしゃみ程度の音に気付くわけないよね」
  _,    _,    _,    _,          _,
( ゚−゚)从 ゚−从( ゚−゚)( ^ω^)(∪^ω^)ξ゚−゚)ξ

(;´_ゝ`)「うん、オトジャよ、空気は読もうな」

534 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:18:02 ID:nF.oKsD60

僕らを代表してツンがオトジャさんのボディに一発を食らわせ、何とかこの場を凌ぎ切る事が出来た。
逸れてしまった進路を取り直し、僕らは島へ向けて船を走らせる。

( ´_ゝ`)「島が見えて来たぞ」

( ^ω^)「おー」
つ∪^ω^)「わんおー」

水平線の先にぽつんと深い緑の何かが見える。
この位置からでは島というよりはただの点にしか見えないが、近付くにつれ、
その姿ははっきりと認識出来るようになっていった。

( ´_ゝ`)「よし、この辺かな。オトジャ、頼む」

(´<_` )「おk、アニジャ、頼まれた」

オトジャさんは船の先端に立ち、腰のベルトに手を当てて構える。
次の瞬間、乾いた音と共にオトジャさんの腰からロープのようなものが飛び出した。

(´<_` )「よし、ヒット」

飛んでいったロープは、島の砂浜の奥にある大木に届き、絡まる。
結構な距離があったが、かなりの飛距離が出た所を見るに、これも機工技術の産物なのだろう。

535 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:19:46 ID:nF.oKsD60

(´<_` )「固定完了」

オトジャさんはロープを腰から切り離し、船に繋げる。
よくみるとそのロープはただのロープではなく、例の鉄の紐のようであった。
確かワイヤーとかいうやつだったか。

( ´_ゝ`)「浅瀬に乗り上げるわけにはいかないからな。船はこの位置に停泊だ」

アニジャさんは帆を畳み、錨を降ろして船を停めた。
どうやって陸に渡るのかと思ったら、あのワイヤーに滑車を通して渡るらしい。

(´<_` )「大した距離もないから泳いでもかまわないけどね」

まずオトジャさんが滑車を使って島に降り立ち、僕らが降りるのを補佐をしてくれる様だ。
今回は大して荷物はないが、大きな荷物送る場合も滑車が使えるようである。

从 ゚∀从「行っくぜー」

僕らの中からはいつも通りハインさんが先陣を切り、滑車に掴まり島へ向かう。
そして抱き止めようとしたオトジャさんを蹴り飛ばし、危なげなく砂浜に降り立った。

536 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:22:23 ID:nF.oKsD60

( ゚д゚)「わんおちゃんはどうする?」

次々と砂浜に降り立ち、あとは僕とわんわんおとミルナさん、それにアニジャさんがまだ船上に残っている。
アニジャさんとわんわんおは船で番をする予定だが、今日は島で一泊するので全員降りる事になる。

(∪^ω^)
(三∩( ^ω^)「魔法の紐で固定して頭に乗せて降りますお」

僕が浮遊の魔法とか使えれば楽なのだが、自分を浮かせるのはかなり高度な魔法なのだ。
物とか浮かせるのは出来るので、わんわんおを魔法で降ろす事も出来るが、もう縛っちゃったし、
一緒に降りようと思う。
      
(∪^ω^)「わんおー」
(三∩( ^ω^)∩「というわけでしゅっぱーつ!」

滑車は快調に滑り、瞬く間に砂浜に辿り着く。
僕は皆に倣って、抱き止めようとしたオトジャさんをクッションに砂浜に降り立つ。

(´<_`;)「みんな初めてなのに着地が上手いね」

何だか寂しそうに言うオトジャさんだったが、すぐに立ち直りまた張り切ってワイヤーの側に立った。
何でこの人はこんなに元気なのだろうかと少し感心する。
538 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:24:05 ID:nF.oKsD60

それから野営の準備をし、食事、就寝と滞りなく進む。
島自体は既に調査済みで、モンスターはごく僅か、それも弱いものしか目撃されていないらしいが、
遺跡から新たなモンスターが湧き出している可能性もあるので、アニジャさんとオトジャさんが交代で夜番を勤めた。

そして翌日、僕達はわんわんおをアニジャさんに預け、遺跡に向かう。

(´<_` )「ここだ」
  _
( ゚∀゚)「入り口って言うか、ただの横穴だな」

オトジャさんが発見した遺跡の入り口は正式な入り口ではないようで、
遺跡の一部が破損して入れる様になった場所らしい。
遺跡の用途にもよるが、正式な入り口以外から入るのは危険は増すと考えるべきだろう。

( ^ω^)「全体把握、用途把握、色んなものすっ飛ばしていきなり中に入るわけですからね」

( ゚д゚)「入った瞬間トラップ部屋とか笑えないにも程があるからな」

一応、オトジャさんが1度進入した場所なので、いきなり危険に見舞われる事はないが、
それが遺跡のどの辺りに位置するのかわからないのは厳しいものがある。

539 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:32:10 ID:nF.oKsD60

ξ゚听)ξ「島の文明の調査は終わってるんですよね? 遺跡の用途のはそこからわかってないんですか?」

+(´<_` )「いい所に気付いたね。結論から言うと、この遺跡に関する記述は一切なかった」

( ^ω^)「一切なし? 名前すらも? 何か不自然過ぎますおね」

(´<_` )「だから今まで見付かってなかった面もあるんだけどね」

(´<_` )「しかし、確かに不自然だ」

(´<_` )「だから僕は、最初小部屋ぐらいの広さだと思ったんだけど、思いの他長い通路があってね」

オトジャさんはそこでこのまま進むのは準備不足だと感じ、引き返したらしいが、話が本当なら不自然所の話ではない。
この地下施設が何らかの目的によって作られ、使用されていたのなら何かしら記述はあるはずなのだ。

( ゚д゚)「文明の調査はされているとはいえ、記録が全て残っているわけはないだろうからな」
  _
( ゚∀゚)「記録がなくてもおかしくはない、か」

ミルナさんの言う通り、古い文明の跡だ。
記録が欠けている可能性も考えられはする。

540 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:33:16 ID:nF.oKsD60

何にせよ、入ってみて調べるのが僕らの目的だ。
ここで議論をしていても何も始まらないので、僕らは遺跡に入る事にした。

||ヽ(´<_` )「おっと、まずは……サースガ式ライトー!」

爽やかな掛け声と共に、オトジャさんが何か棒状のものを取り出し、頭上に掲げる。
どうやら松明らしいが、金属製で火を灯して使うものではないらしい。
これもアニジャさんの発明なのだろう。

||⊂(´<_` )「これでいい、行こうか」

ξ;゚听)ξ「いや、ちょっと光弱くないですか?」

オトジャさんの持つ松明は発光しているが、通常の松明の光より少し弱く見える。
それでは足りないと感じたのか、ツンが僕に視線を向け、促す。
      {○}
( ^ω^)つ}{「ライティング」

僕は呪文を唱え、杖に少し強めの光を灯す。
長丁場になる事も考えると、なるべく魔力の温存はしたいが明かりは必須だから仕方がない。

それを見てオトジャさんが寂しそうに松明を仕舞っていたが、全体の安全を考えるとこちらの方がいい。

541 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:34:26 ID:nF.oKsD60
  _
( ゚∀゚)「で、右と左どっちだ?」

中は石造りの壁があり、左右に道が伸びている。
多分ここは通路なのだろう。
幅はそれなりに広く、僕らが横一列に並べるくらいはあり、天井もかなり高い。

(´<_` )「右だ。以前もそっちに向かい、行き止まりでない事は確認しているからな」

最終的にはどちらにも進む必要があるかもしれないが、ひとまずこちらに向かうとオトジャさんが先導する。
護衛対象が先頭なのはどうなのかと思うが、モンスター以外にもトラップ等も怖いので、
慣れているオトジャさんが先頭を行くと主張した。

ξ゚听)ξ「随分としっかりした作りよね」

( ^ω^)「うん、穴掘って終わりじゃなくて、ちゃんと石壁にしてるお」

+(´<_` )「うんうん、君達は目の付け所がいいね。そこからこの施設の目的を絞る事が出来るかもしれないね」

ξ゚听)ξ「土壁じゃ目的に対して不十分だったって事ですか?」

(´<_` )「そういう事。まあ、単にこの辺りの地盤が弱かっただけの可能性もあるけどね。でも……」

542 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:35:47 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「それなら最初から地下に施設なんか作らない」

+d(´<_` )「グゥレイト、その通りだ」

他に考えられる理由として、権力の誇示の為にわざわざ石壁にした事も考えられるが、それにしては装飾が少ないし、
記録もない事からその可能性は低いだろうとオトジャさんは言う。
流石トレジャーハンターというべきか、細かい所をよく見てちゃんと考察している。

僕達は通路を歩き続け、角を曲がる。
それから少し通路を進むと十字路に出た。
  _
( ゚∀゚)「今度は3方向か。どっちに進むんだ?」

オトジャさんはここから先はまだ未調査らしく、少し考える素振りをし、それぞれの道を調べ始める。
左右はこれまでと似たような通路が続いているが、正面は少し傾斜のきつめの下り坂になっている。

ξ゚听)ξ「どっちが中央なのかわからないのが厳しいとこね」

( ^ω^)「入ってきた場所が外壁だとすると、この正面の道っぽいおね」

( ゚д゚)「1つだけ作りが違うな。地盤沈下で下り坂になったわけでもなさそうだ」

543 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:37:20 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「中央を目指すか、先に入り口を目指して情報収集するか迷うとこですおね」

从 -∀从「めんどくせーなー。どうせ全部回るんなら適当でいいだろ?」

そう言うとハインさんは正面の道に向かう。
確かにその通りだが、単独行動は控えて欲しいと思う。

( ^ω^)「ハインさん、トラップが有る可能性もあるのであんまり1人で先に行かないで下さいお」

从 ゚∀从「わかってるよ。そんなヘマはしねえさ。これでも足元には気を付けてる」

僕はハインさんの方に歩み寄り、坂の下に視線を向ける。
かなり長い通路らしく、明かりの届く範囲だけでは先が見通せない。

(´<_` )「そうそう、こういう何度も通りそうな場所にはトラップが仕掛けられてる可能性があるからね」

+(´<_` )「逆に言えば、トラップが仕掛けられてるなら、何かしら貴重なものがある可能性もあるんだけどね」

そう言ってオトジャさんも僕とハインさんの方へ歩み寄る。

544 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:38:55 ID:nF.oKsD60

(´<_` )「でも大丈夫、この冒険野郎・サスガイバー、そう簡単にトラップに──」 カチッ
.  _,     _,
( ^ω^)从 ゚∀从「あ……」

乾いた音がしたと思った瞬間、轟音と共に石の壁がものすごい速さで降りて来て通路を塞いだ。
まずい事に僕とハインさん、オトジャさんはツン達と石壁を隔てて分断されてしまった。

从#゚∀从「お前……何やってんだよ!」

(´<_`;)「ま、まあ、僕らの上に落ちてこなかっただけマシだった──」

オトジャさんが全てを言い終えるより早く、再び轟音が響く。
僕らと壁の間に、通路の幅いっぱいはある巨大な丸い岩が落ちて来た。

(;^ω^)「坂道に巨大な丸い岩……そこから導き出される今後の展開は……」

从;゚∀从「ヤバい、走れ!」

落ちて来た岩は坂道の下方、つまりは僕達の方にゆっくりと転がり出す。
慌てて僕達は坂道を全力で駆け下り出した。

545 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:40:00 ID:nF.oKsD60

(;^ω^)「なんちゅうベタな」

从;゚∀从「いいから走れ!」

+(´<_`;)「ハッハッハ、この程度のトラップ、このサスガイバーにかかれば……」

从;゚∀从「うるせえ! 黙って走れ!」

岩が動き出す前なら魔法で壊すという手も使えた可能性もあるが、今となっては詠唱が間に合わない。
何かしらの詠唱の短い魔法であの岩の勢いを止めるのは無理がある。
ここは逃げるしか道はないが、この先が行き止まりなら最悪だ。

(;^ω^)「取り敢えずksk、ksk、ksk!」

エア・シューズの魔法を全員にかけ、速度を上げる。
オトジャさんが不慣れな魔法の所為で転ばないか心配だったが、使わないわけにもいかない。

(´<_`;)「ちょ、何、これ、うお!?」

(;^ω^)「僕の手に掴まって、バランス崩さないように気をつけて走ってくださいお」

(<_` ;)「岩! ちょ、岩! もう、すぐそこに!!!」

(;^ω^)「前見て走ってくださいお!」
547 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:41:04 ID:nF.oKsD60

(;^ω^)「ハインさん! 通路の横、やり過ごせそうな場所ありませんかお?」

目のいいハインさんなら早い段階で気付けるかもしれない。
終点が行き止まりという危険を避けるためにも、やり過ごせるならその方がいい。

从;゚∀从「あった、左だ!」

(;^ω^)「あそこに入りますお!」

(´<_`;)「把握!」

从;゚∀从「そこだ! 跳べ!!!」

僕達はハインさんの指す方向に跳び、雪崩れ込むように脇道に入る。
その背後を大岩が通り過ぎて行くのを感じた瞬間、謎の浮揚感に包まれた。

从;゚∀从(;^ω^)(´<_`;)「げっ!?」

それが自分達の足元がなくなった所為だと気付いた時には既に、僕達は真っ逆さまに落ちていた。
避けた先に落とし穴のトラップとは、何とも用意周到な事だと感心する。

548 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:42:09 ID:nF.oKsD60

(;^ω^)「なんて冷静に分析してる場合じゃないお。ウインド・バリア!」

僕は重なり合うように落ちていた2人の身体を抱き寄せ、風の障壁を張る。
その次の瞬間には、身体に衝撃を感じ、鈍い音が耳に響いた。
地面着いたはずの身体は、更にゆっくりと沈んで行く。

(;^ω^)(何かこの感覚には覚えが……)

どうやら下は地下湖か何かのようで、僕達は地面に叩きつけられて死亡という最悪の展開は避けられたらしい。
風の障壁を解除し、岸を目指して泳ぎ出す。

(;^ω^)「ふひー、何とか助かったみたいですお」

从;゚∀从「みてえだな。魔法ありがとな、ブーン」

+(´<_`;)「ここここの程度のトラップ、このサスガイバーにかかれば……」

从#゚∀从「お前は黙ってろ!」

何とか岸に辿り着いた僕達は、しばらくそのまま地面に寝転がって休んだ。
周囲の状況も把握せずにそうするのはかなり迂闊だが、展開がハードすぎて起き上がれなかったのだから仕方がない。

549 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:43:24 ID:nF.oKsD60

从;-∀从「モンスターの気配はねえ。ここ、どこだろな?」

(;-ω-)「魔力は感じませんお。どこでしょうかおね?」

(-<_-;)「先の遺跡とは作りが違うね。地面が剥き出しの岩だ」

僕はどさくさで消えてしまっていた明かりの魔法を点け直し、寝転んだまま周囲を見る。
見た感じ、天然の洞窟の様であった。

( ^ω^)「遺跡からは出ちゃったみたいですおね」

(´<_` )「その様だね。少し調べてみるよ」

オトジャさんは立ち上がり、周囲の探索を始めた。
護衛としては付き従う必要があるので僕も立ち上がろうとするが、ハインさんが僕はもう少し休めとそれを制した。

从 ゚∀从「いきなり魔法連発しただろ? この後もお前の魔法は必要になるから、休める時に休んでてくれ」

( ^ω^)「ここはお言葉に甘えておきますお」

それを言うならハインさんの戦闘力もこの先必要になるのだが、今は素直に従っておく。
まず合流を第一に考えるなら、色々と魔法を駆使する必要が出て来そうである。

550 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:45:38 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「ツンに探査出来る何かを持たせておけば良かったお……」

パーティーが分断される可能性を考えておかなかったのは迂闊だった。
ヴィップに戻ったらクーのペンダントを参考に、探査用のアイテムを作ろうかと考える。

( ^ω^)「あ、これ意外と需要ある商品になるんじゃないかお?」

道具として使うなら使い捨てか、多くても数回しか使えないかもしれないが、それでも現在位置把握には有用だ。
遺跡や洞窟探索をメインにしている冒険者には結構な需要があるのではなかろうか。

( ^ω^)「でも、携帯性と魔法の定着を考えると……うーん……」

思考が完全にそれ、頭の中で新商品開発を試行錯誤していると2人が戻って来た。
ひとまず洞窟の奥に進み、遺跡に戻れないか調べようという事になったらしい。

从 ゚∀从「落ちて来た穴に戻るのは難しそうだからな」

(´<_` )「僕のサースガ式ワイヤーを使えばいけるかもしれないけど、全員を上げるのは難しいかもしれない」

( ^ω^)「あの通路に戻った所で、また岩が落ちてきたら嫌ですしね」

551 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:47:50 ID:nF.oKsD60

僕達は方位磁石に従い、進む方角を決める。
直線的に落ちて来たのだから、現在地はまだ遺跡の下にあるのは確かだろう。

( ^ω^)「最悪、一旦地上に出るってのもありですお」

(´<_` )「むしろそっちの方がいいかもしれないね」

合流を考えるなら地上に出る方がいいのかもしれないが、ともかく道次第という事で僕達は先に進む。

从 ゚∀从「ブーンの魔法でズバーンと一気に外まで道作ったり出来ねえの?」

(;^ω^)「出来ないと言うか、下手に壁壊そうとして洞窟崩れたら嫌ですお?」

トラップで石壁が落ちて来た時も、大岩が落ちて来なければあれを壊して合流すると言う手は使えたかもしれない。
しかし、下手な事をして遺跡が崩れ、生き埋めになる危険性を考えるとあまりやりたくない手だ。

それに遺跡の保護とかそういう観点からすると、乱暴な手を使うのはよろしくない。
そうも言ってられない自体に陥った時なら止むを得ないが、なるべくなら遺跡自体への攻撃はするべきではないだろう。

(´<_` )「トレジャーハンターの世界でも、遺跡を傷つけて進むようなやつは三流扱いだよ」

552 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:50:33 ID:nF.oKsD60

从 ゚∀从「簡単にトラップに引っかかるのも三流だよな」

+(´<_` )「引っかかっても無事なら引っかかった内に入らないさ」

从:-∀从「んなわけねーだろ……」

概ねハインさんに同意だが、確かに僕らは無傷で、ある意味トラップを回避出来ている。
知識量や落ち着き具合からしても、オトジャさんがへっぽこトレジャーハンターというわけでもないとは思う。
若干、頼りなさを感じるのは否定出来ないが。

そういえばアニジャさんは、オトジャさんの事を運だけはいいと言っていた。
今なら何となくその意味がわかる気もする。

(´<_` )「む、行き止まりか?」

道なりに進んだ先は道が途切れ、切り立った崖の様になっていた。
下を除くと真っ暗で底が見えず、吸い込まれそうな闇だけが広がっている。

从 ゚∀从「向こう側に道はあるみたいだぜ?」

ハインさんの言葉通り、崖を越えた先には道が続いているようだ。
向こう側も切り立った崖で、一箇所大きな横穴があり、そこから更に奥に進めそうだ。
しかしながら向こう側に渡れるような道もなく、この距離では飛び越えるのも不可能だろう。

553 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:52:07 ID:nF.oKsD60

从 ゚∀从「魔法で自分以外なら浮かせる事も出来るんだったよな?」

从 ゚∀从「まあ、ブーンだけ置いて行くわけにはいかねえからその手は使えねえが」

( ^ω^)「そもそも重量的に厳しいと思いますお」

   ギリギリ
 从#^∀从「重量的に、なんだって?」
;;つ};^ω^{⊂;; 「ぼ、僕の魔力的に力不足なだけですお。決して体重の問題じゃ……」

何とかハインさんのぐりぐり攻撃を外し、引き返して別の道を探す方が現実的だと提案する。
もしくは、オトジャさんのワイヤーを使って崖下に降りるかだが、
これ以上遺跡からも地上からも遠ざかるのはどうだろうか。

+d(´<_` )「そう、こんな時こそサースガ式ワイヤーだ!」

( ^ω^)「お?」

(´<_` )「これで対岸へ渡ろうじゃないか」

上陸時に船から島へ撃ったようにワイヤーを使うとオトジャさんは言う。
確かにあれなら、距離は十分に届くだろう。

从 ゚∀从「対岸のどこに巻き付けんだよ? 木は勿論、使えそうな柱もねえぞ?」

554 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:54:33 ID:nF.oKsD60

( ^ω^)「岩ですし、撃ち込むのも無理ですおね?」

(´<_` )「フフフ、あれを見たまえ」

そう言ってオトジャさんが指を差す先、洞窟の天井にはいくつもの石柱が上から横からと様々な方向から伸びている。

+(´<_` )「あれにワイヤーを巻き付け、振子の要領で向こう側に飛ぶんだ」

その後、向こう側に着地したオトジャさんが再度こちらにワイヤーを撃ち込み、僕らの背後にある石柱に巻き付け、
反対側は更に奥に進んだ先にある石柱に巻き付けるか、自分がしゃがんで踏ん張れば何とかなるとオトジャさんは言う。

从 ゚∀从「確かに、こっちには石柱あるな」

( ^ω^)「行けそうな案ではありますが……」

僕はちらりとオトジャさんの顔を盗み見た。
その顔は自信に満ち溢れているが、あっさりトラップに引っかかった腕前を思うと何となく不安は感じてしまう。
この場合は身のこなしの一番優れているハインさんがやった方がいいような気もする。

(´<_` )「大丈夫、天井の柱も頑丈そうだし、僕1人を支えるくらいわけないさ」

555 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:55:55 ID:nF.oKsD60

そう言ってオトジャさんはワイヤーを天井目掛けて発射する。
ワイヤーはうまい具合に横から伸びていた柱に絡み付き、しっかりと固定されたようだ。

从 ゚∀从「この張り具合なら途中で外れるって事はなさそうか」

+(´<_` )「それじゃあ、君達はこちらで僕の華麗なる飛翔を見守ってくれたまえ」

( ^ω^)「気を付けてくださいお」

オトジャさんは親指を立て、爽やかな笑顔をこちらに向ける。
そして躊躇う事無く、中空に身を躍らせた。



      

         \         彡
          `
             (´<_` )-┐ とうっ!
 
          -ヽ ノ
              ┏┘

556 名前:名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 23:57:58 ID:nF.oKsD60

最初のジャンプの勢いを殺す事無く、オトジャさんは崖を跳び越えて向こう側を目指す。
僕達は固唾を飲んでその様を見守った。

( ^ω^)「お、これなら──」


     
| 岩          / ミ |
     |      ビターン   / ミ   |
     |     \、_,     _/  |
     |     _,       (   |
     |     )(   )ノ  ___──
     |     ┗-ヽ ノ        ̄ ̄ ̄
     |       ┏┘   ̄ ̄ ̄──
     |    ')     (`    |
     |    /'        '^\   |



从;゚∀从(;^ω^)「ちょ……!」

向こう側に到達間際、勢いが足りなかったのか、ワイヤーを結ぶ位置が近過ぎたのか、
オトジャさんは崖の横穴の少し下の岩壁に激突した。
更に悪い事に、既にワイヤーは切り離されていたようで、オトジャさんはそのまま垂直に落下して行く。

从;゚∀从(;゚ω゚)「オトジャさぁぁぁぁぁんっ!!!」

557 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:01:22 ID:8y5aHBRQ0

     
| 岩              |
     |                |
     |       | | |        |
     |                |
     |      ヽ(   )ノ ドスンッ.|
     |     ┗-ヽ ノ-     |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

从;゚∀从(;^ω^)「セーフ!!!」

運のいい事に崖に出っ張りがあり、オトジャさんはそれに引っかかって落下は免れた。
肝を冷やしたが、あのくらいの高さなら横穴まで登る事も出来るだろう。

(;^ω^)「オトジャさーん、大丈夫ですかおー?」

+d(´<_`(#)「だ、大丈夫、計算通りさ」

从;゚∀从(;^ω^)「ウソつけぇぇぇぇぇッ!!!」

膝をがくがくと震わせながらもオトジャさんは立ち上がり、こちらに笑顔向ける。
明らかに強がっているとしか思えないが、その位の元気があれば大丈夫だろう。
無事で何よりだ。
558 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:02:12 ID:8y5aHBRQ0

その後、横穴に辿り着いたオトジャさんがワイヤーをこちらに飛ばし、手はず通りにワイヤーを張り、
向こう側へ渡った。

魔法のロープで命綱を張ったとはいえ、崖を渡るのはかなり怖かった。
躊躇なく飛べたオトジャさんを少し尊敬する。

从 ゚∀从「さて、そろそろ先に行くか。この崖っ縁に止まるのはモンスターと遭遇した場合、よろしくねえしな」

( ^ω^)「もう少し進んだら、1度休憩した方がいいかもしれませんね」

(´<_` )「そうだね。そろそろ何かお腹に入れておいた方がいい時間だ」

さっきの崖渡りでオトジャさんが疲れているだろうと思い、僕は休憩を提案する。
僕も少しお腹も空いて来た。

从 ゚∀从「何か食えそうな生き物でもいねえかね」

( ^ω^)「携帯食料で我慢しましょうお」

僕達は洞窟を道なりに進む。
横道がないのは迷わなくて済む代わりに、行き止まりの不安が常にある。

559 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:04:05 ID:8y5aHBRQ0

( ^ω^)「これで行き止まりだったらまた崖ダイブですお」

+(´<_` )「何度だって華麗に羽ばたいてみせるから安心していいよ」

从;゚∀从「お前を見てると心臓に悪いから次は俺がやる」

しばらく歩くと僕の不安は幸いにも外れ、少し広い空間に出た。
ざっと見回すと、いくつかの道があるようだ。

( ^ω^)「これはこれでどこにいくか迷いますお」

从 ゚∀从σ「いや、その必要はなさそうだぜ」

( ^ω^)「お?」

ハインさんが指差す先を見ると、壁か天井でも崩れたのか、積みあがった石の山が出来ていた。
よく観察してみると、その上方に人口的な石壁が見える。

(´<_` )「どうやらあそこから遺跡に戻れそうだね」

石壁の一部も破損しており、オトジャさんの言葉通り遺跡に戻れそうである。
またワイヤーを使えばあそこまで登れそうだ。

560 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:05:06 ID:8y5aHBRQ0

( ^ω^)「それじゃあ、ひとまずここで休憩を……お?」

从 ゚∀从「気付いたか?」

ハインさんが蛮刀を抜き放ち、僕達の前に進み出る。
どうやらここには先客がいたようだ。
耳を澄ませば、キチキチと耳障りな音が響いて来る。

(´<_`;)「何の音だい?」

(;^ω^)「わかりませんお。けど、ヤバそうなんでオトジャさんは下がっててくださいお」

从 ゚∀从「……来るぞ」

キチキチと耳障りな音にカサカサという音が加わり、何かが近付いて来る。
それから間もなく、広間の横道の1つからそれは姿を現した。

         
─┐┌─
          ○・
・○
           \/


(;^ω^)「巨大なカマキリ……?」
561 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:06:24 ID:8y5aHBRQ0

褐色の体躯に4本の足、そして特徴的な2本の鎌。
その顔は僕の知るカマキリにそっくりではあるが、大きさは僕達より二回りほど大きい。

从 ゚∀从「へえ、デケえ虫だな」

恐らく、G(ジャイアント)マンティスと呼ばれるモンスターであろう。
見た目も性質もカマキリで、その突然変異と考えて差し支えないはずだ。
Gマンティスは僕達の姿を視認すると、接近速度を緩め、様子を窺うようにゆっくりと近付いて来る。

( ^ω^)「あれがバッタとかなら、その辺の草食べて満足してくれそうなんですけどね」

从 ゚∀从「カマキリなら肉食なんだろうな」

( ^ω^)「取り敢えず先手必勝! ウインド・カッター!」

まずは様子見と風の魔法をGマンティスに放つ。
杖に灯していた明かりの魔法は上空に飛ばし、固定させている。
こうすると一定時間で切れてしまうが、戦場全体を照らすならこの方がいい。

○・
・○ キチキチ
 \/

( ^ω^)「意外と素早いお」
562 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:07:49 ID:8y5aHBRQ0

Gマンティスはウインド・カッターを右に大きく跳んでかわした。
この手の昆虫らしく、機動力は高く、危険察知能力も高い様だ。

( ^ω^)「んじゃ、別の魔法を、と」

从 ゚∀从「俺には当てんなよ」

ハインさんはGマンティスに向かって走って行く。
ハインさんが近付くと、Gマンティスはリーチの差で先にその鎌を振り下ろした。

从 ゚∀从「いい振りしてんじゃねえかよ、っと」

Gマンティスの鎌をかわし、肉薄したハインさんは右の蛮刀を横に薙ぐ。
しかしその一撃は、Gマンティスのもう一方の鎌に防がれる。
続けざまに放った左の蛮刀の一撃も、先ほど空振りした鎌を戻し、防いだ。

从 ゚∀从「二刀対決ってわけだな。いいだろう、その鎌へし折ってやるぜ」

ハインさんは受け止められた蛮刀をそのまま押し込もうとするが、力比べでは分が悪いようだ。
それを察したハインさんは、二刀を軸にGマンティスの胴体に蹴りを放ち、その反動で距離を取る。

563 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:09:06 ID:8y5aHBRQ0

( ^ω^)「そこに僕のエナジー・ボルト!」

普段あまり使う事のない、コモンマジックの攻撃魔法。
精霊の力を借りないので、威力は純粋に自分の魔力だけに因る事になるが、
この魔法の特徴は速度が遅い代わりに制御がしやすいのだ。

素早く避けてもどこまでも追い掛ける事が出来る。
案の定、横に飛んで避けるGマンティスを僕は魔法を制御して追い掛けさせる。

( ^ω^)「どこまでも追ってやるから逃げても無駄だお」

ハインさんもエナジー・ボルトの性質を理解した様で、右から追うエナジー・ボルトの反対側に回り、
Gマンティスを挟み込む様に位置する。
恐らく、跳んで避けた後の着地を狙うつもりだろう。

( ^ω^)「これで──」

エナジー・ボルトが当たろうとする瞬間、Gマンティスは跳んだ。

(;^ω^)「!?」

前方に大きく、僕の方を目掛けて。

564 名前:名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 00:10:11 ID:8y5aHBRQ0

     
____  ─┐┌─
    /    \ ○・
・○ キチキチ
    
|/~~~~~~~|=|   \/


从;゚∀从「チッ! 避けろ、ブーン!」

(;^ω^)「速──」

宙を羽ばたき、瞬く間に僕の眼前に迫るGマンティス。
感情を一切感じさせない無機質な目が僕を見下ろす。

エナジー・ボルトの制御を断念し、別の魔法を詠唱するにも間に合わない。
一瞬の迷いが僕の動きを鈍らせ、僕が避けるより早く、空中から巨大な鎌が振り下ろされた。



     第二十一話 仄暗き地の底で 終

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