1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:24:42.06 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「……完成だお」

( ^ω^)□「名付けて、薬草ラーメンだお!」

ξ゚听)ξ「あら美味しそう……って、アホかぁぁぁぁッ!」

                        ゲフゥッ!?
           ξ#゚听)ξ三⊃(#)゚ω゚).・。 ’



     第二話 北東の森の薬草採集





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:25:59.54 ID:d8FyVter0

(;^ω^)「いってえお……、いきなり何ばしよっとですかお?」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

ξ#゚听)ξ「いきなりも何もないでしょうが!」

この子はツン。
隣の武術道場の娘で、いわゆる幼馴染というやつだ。

(;^ω^)「僕はただ新商品を作ってただけなのに、何で殴るんだお?」

ここは僕のお店の中で、僕は朝も早くから新商品の開発に勤しんでいたのだが、
それを見たツンにいきなり殴られてしまった。

ξ#゚听)ξ「何よ、薬草ラーメンって! またあんた用途考えずに作ってんじゃないの!」

( ^ω^)「今度のはちゃんと日持ちはするお? 大体1ヶ月ぐらいは大丈夫のはずだお」

ξ#゚听)ξ「これ、どうやって使うの?」


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:27:20.92 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「そりゃ勿論、お湯を沸かして麺を煮込んで、添付の粉末スープ入れて完成だお」

ξ#゚听)ξ「手順が時間掛かり過ぎでしょうが! そんなんじゃ緊急時とか絶対使えないでしょ?」

( ^ω^)「……それは盲点だったお」

ツンの言う事は一理ある。
薬草にそこまで即効性は期待されてないとはいえ、緊急時に薬草ラーメンは使用手順に無理があるのは否めない。

ξ゚听)ξ「それに水に火だって、使えない時もあるんだからね?」

(;^ω^)「一々ごもっともですお……」

ξ;--)ξ「そのくらい、作る前に気付きなさいよ……」

( ^ω^)「うーん、でもやっぱり美味しい方がいいかなと思って、それを追い求めてたらこうなったお」

ξ;゚听)ξ「だから、誰も薬草に味を求めてないでしょうが」

ツンの言い分はわかるのだが、どうせなら薬草も美味しい方がいいに決まっているはずだ。
何せ、今の薬草は苦い。
子供は確実に飲むのを嫌がる味だと思う。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:29:03.39 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「子供が薬草使う事なんて滅多にないでしょうが」

( ^ω^)「だったとしても、付加要素の1つとしてはありだと思うんだお」

ξ--)ξ「薬草としての用途を阻害しなきゃね」

( ^ω^)□「だったらこれ、粉末スープかけてそのまま食べればいいかもしれんお」

ξ;゚听)ξ「絵面的に嫌だわ。戦闘中、隣でそんなもんバリバリ食われたら気が散ってしょうがないわよ」

(;^ω^)「それは確かに」

想像してみたら、何とも緊張感のそがれる絵が思い浮かんでしまった。
味も落ちるし、食べ終えるのに時間かかるしで、いいとこ無しかもしれない。

ξ゚听)ξ「まあ、前回のパンやおにぎりと違って日持ちはするんだし、キャンプ用と割り切れば売れない事もないかもね」

(*^ω^)「お! それはいいかもしれんお!」

( ^ω^)「……あれ、これ商品になるんだったら、僕、殴られ損じゃね?」

ξ;゚听)ξ「お、男が細かい事気にしないの! で、これいくら位で売るつもり?」


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:31:08.17 ID:d8FyVter0

( ^ω^)∩「そうだおね、諸々の加工の手間とか考えるとこのくらいかおね」

ξ;゚听)ξ「高ッ! それって、普通の薬草の10倍ぐらいの値段じゃないの?」

( ^ω^)「そのくらいの手間はかかってるお」

薬草の効果が麺から抜け出ないようにするのとか、じいちゃんの残した文献から使えそうな呪文を探し出したりと、
普通の薬草には使わない高度な魔法を用いてたりしているのだ。

ξ゚听)ξ「薬草としての効果が高いならともかく、こんな値段なら誰も買わないと思うわよ?」

( ^ω^)「効果は普通の薬草とそう変わらんお」

ξ;--)ξ「じゃあ駄目でしょ。私ならインスタントラーメンと薬草買って別々に食べるわね」

(;^ω^)「うーん、やっぱ駄目かお……」

残念ながらこれも商品として売り出すのは厳しいようだ。
いい線は行っていたと思うのだが、食の道はなかなか険しい。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:33:30.59 ID:d8FyVter0

ξ;゚听)ξ「だから、何で味の方を追求しようとすんのよ?」

呆れるツンを余所に、僕は薬草ラーメンを袋に詰める。
折角だから作ったものは有効利用しようと思う。

ξ゚听)ξ「どうするの、それ?」

( ^ω^)「1つはお昼ご飯にするお。残りはジョルジュさん達にでも配ろうかと」

ξ゚听)ξ「今から出かけるの? お店は?」

( ^ω^)「今日は臨時休業だお。そろそろ薬草採集に行かなきゃならんお」

現在この店で扱っている商品は全て自給自足で賄っている。
薬草は野山で採集して加工しているし、護符は自分で書いている。

故に、定期的に商品の仕入れに向かうのだが、今日はいつもと少し事情が違っている。

( ^ω^)つ□「ドクオさんからこれだけの数の薬草の注文が来てるんだお」

ξ゚听)ξつ□「何これ? 随分と多いわね」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:35:17.57 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「もうすぐ期限なんで、取ってこなきゃまずいんだお」

ξ゚听)ξ「あのブサ面、何で自分で取りに行かないのよ? あいつならすぐ集められるでしょうが」

( ^ω^)「ドクオさんにも事情があるんだお」

本当は面倒臭いからの一言で片付けられたのだが、そんな事を言うとツンが切れるのは目に見えてるので黙っておく。
それにドクオさんが薬草の注文をしたのは、ある意味僕の為な部分もあるので、ちゃんとこなさなければ申し訳ない。

ξ゚听)ξ「で、1人で行くの?」

( ^ω^)「わざわざギルド経由でクエスト出すほどの物でもないけど、暇な人がいたら誘うつもりだお」

基本的に商品の仕入れは僕1人でやっている。
等別な何かが注文として入ったりして遠出が必要だったり、
量が多くて荷馬車が必要になる時などはギルド経由でクエストを出す事もあった。

今回は多少量はあるが近場なので1人でもいいのだが、竜の話があるので念の為誰かを誘った方がいいかと考えていた。

ξ゚听)ξ「だったら私を連れて行きなさいよ」

( ^ω^)「だが断る」


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:36:47.06 ID:d8FyVter0

ξ#゚听)ξ「何でよ! 私ならその辺の冒険者に負けないぐらい役立つわよ?」

( ^ω^)「役立つかどうかの問題じゃないお」

ツンの主張通り、確かにツンは強さで言えばその辺の冒険者に引けを取らないと思う。
伊達に武術道場で師範代を任されていない。

旅慣れていないという欠点はあるが、近場に薬草採集に行くぐらいなら護衛として申し分のない腕はある。

ただ問題は、ツンは僕から護衛料を受け取らないだろうという事だ。
その事自体は幼馴染の気安さというか、お互い様な部分もあるのだが、
クエストは雇用非雇用の関係をはっきりさせておきたい部分がある。

簡単に言えば、ツンに勝手な行動を取られては困るという事だ。

( ^ω^)「ていうか、ツン、道場とか畑の仕事はいいのかお?」

ξ゚听)ξ「道場は今日は休み。畑は1日ぐらい放っておいても大丈夫よ」

適当な理由を見付けて断ろうと画策してみたが、どれもかわされてしまう。
こうなると確実に押し切られてしまうのが目に見えているのだが、できれば今回は断りたかった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:39:00.61 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「わかったお。けど、1個だけ約束してくれお」

ξ゚听)ξ「何を?」

( ^ω^)「もし万が一、竜と遭遇したら絶対に逃げる事」

ξ--)ξ「……こんな田舎で竜なんかと出会うわけないでしょ?」

( ^ω^)「万が一の話だお。いいね、ツン?」

ξ--)ξ「わかってるわよ。あんなのに戦いを挑むほど馬鹿じゃないわよ」

ツンは僕の言葉に頷いてはくれたが、目を合わせず渋々といった態度であった。
少々怖いもの知らずな所があるツンだから心配ではあるが、流石にそこまで無茶はしないだろうと思いたい。

( ^ω^)「んじゃ、頼むお」

ξ゚听)ξ「オッケー。すぐ出発?」

( ^ω^)「いや、ちょっとバーボンハウスに寄ってからだお。臨時休業って伝えなきゃだし」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:40:53.95 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「じゃあ、私は装備整えてからバーボンハウスに向かうわ」

そう言ってツンはさっさと店を飛び出す。
まだ返事をしてないのだが、準備に時間がかかる事もないだろうし、特に問題はない。

( ^ω^)「さて、僕の方も準備をしなきゃだお」

準備といってもそう大したものは必要ない。
身支度は普段着の上からベストを羽織り、ポーチを腰につける程度だ。
後は採集用の袋を準備し、持って行く道具をポーチに入れ、予備の薬草等を薬箱に詰める。

薬草は採集に持って行く物ではなく、バーボンハウスに置いておく物だ。
店を閉めるので、急に薬草が必要になった冒険者がいた時の為である。

ただし、あくまで緊急用である。
バーボンハウスで常に薬草が買える状態になってしまうと、この店を訪れる客がごっそり減ってしまいそうだ。

売り上げはうちに入るのだから問題はないと言えばないのだが、客が全然来ないのはちょっと寂しいと思う。

( ^ω^)「準備良しと。んじゃ、行って来るお」

僕はいつものように無人の店に声を掛け、魔力の込められた杖を手に取りバーボンハウスへ向かった。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:42:54.88 ID:d8FyVter0

 〜 バーボンハウス 〜


ξ゚听)ξ「お待たせ」

カウンター席に座っていた僕は、背後から掛けられた声に振り返る。
そこには支度を整えて来たツンが立っていた。

( ^ω^)「早かったおね」

ξ゚听)ξ「まあ、大した準備はいらないでしょ?」

ツンは普段着とは違う、皮製の丈夫な、しかし動き易さを重視した武術家らしい防具を着けていた。
両手に攻撃と防御両用の手甲も身に着けている。

从 ゚∀从「おやおや、随分勇ましい格好じゃねえか。ようやく俺の誘いを受ける気になってくれたのかい?」

ξ゚听)ξ「違うわよ、ハイン。こんにちは」

僕とツンの間に1人の女性が割って入る。
彼女の名前はハインさんで、ジョルジュさん行動をと共にしている人、いわゆるパーティーメンバーだ。

パーティーとは冒険者のグループの事で、宴会とかそういった意味合いではない。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:44:24.70 ID:d8FyVter0

从 ゚∀从「つれねえな。ツンなら優秀な冒険者になれるってのに」

ξ゚听)ξ「お言葉はありがたく受け取っておくわ。でも、今はそういうのには興味ないの」

ハインさんは事あるごとにツンを自分のパーティーに誘っているようだ。
ハインさんの話ではツンはジョルジュさんやミルナさんより使えるとの事だが、本当の所はわからない。

個人的な見立てだと、それはちょっと言い過ぎかなと思ってはいるが。
1対1の戦いならツンもそこそこやれると思うけど、クエスト中の様々な条件下の戦闘では、
ジョルジュさん達の方が確実に上だと思う。

多分、ハインさん以外は男ばかりのパーティーなんで、ハインさんは話の合うツンを誘いたがってるのだと思う。
年も近いし、2人はそのくらい仲が良い。

从 ゚∀从「じゃあ、たまには飲もうぜ?」

ξ;゚听)ξ「この格好見ればわかるでしょ? 今からクエストよ」

从 ゚3从「何だよ、冷てえな」

( ^ω^)「今日はジョルジュさん達はどうしたんですかお?」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:46:08.27 ID:d8FyVter0

从 ゚∀从「まだ寝てるよ。昨日は夜のクエストだったしな」

ハインさんの話では、まだ例の調査は続いているらしい。
目撃されたのが夜だから、夜にも調査しているようだ。

从 ゚∀从「見付からないに越した事はねえんだろうが、それはそれでなあ……いつまでやればいいのやら」

ξ゚听)ξ「見付かんなきゃ2週間程度で打ち切りでしょ。信憑性のない話だし」

从 ゚∀从「ま、そんなとこだろうな」

ハインさん達は僕が竜を気にしている事、じいちゃんの事は知らない。
僕はハインさんの言葉に曖昧に頷いておいた。

ξ゚听)ξ「って、あんまりだべってる時間もないわね。もう準備はいいのよね、ブーン?」

( ^ω^)「大丈夫だお。早速行くお」

僕はシャキンさんに一声掛け、いつものようにコーヒーの代金をカウンターに置いた。
まだ昼前だし、今から出発すれば日が落ちる前までに採集は完了出来るだろう。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:48:17.30 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「暇ならハインも行く? ただ働きだけど」

(;^ω^)「いや、来てもらえるならちゃんと護衛料は出すお」

無茶な誘い方をするツンを遮り、僕からも正式にクエストの提案をする。
ギルドを介してはいないが、この程度のクエストならそうする事も珍しくはないので、
シャキンさんは一々咎めたりはしない。

从 ゚∀从「んー……止めとくよ。ちょっと眠いし、邪魔するのもな」

( ^ω^)「邪魔?」

聞き返す僕の言葉には答えず、大きな欠伸をするハインさん。
見た目は美人といって差し支えのない人ではあるが、職業柄というべきか、全体的に若干男らしい、
言い過ぎればがさつな所がちょくちょく見受けられる。

ξ#゚听)ξ「そ、そんなんじゃないわよ! 行くわよ、ブーン!」

(:^ω^)「お?」

怒気を顕にしたツンに引っ張られ、僕はバーボンハウスを出る。
ツンの怒りの原因がわからない僕は視線を後方に向けるが、視界に映ったハインさんは、
何故か満面の笑顔で手を振っていた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:50:12.71 ID:d8FyVter0

 〜 ヴィップ町北東の森 〜


ξ゚听)ξ「いい天気ね」

( ^ω^)「だおね」

ヴィップの町の北口を出て約一時間半ほど、僕達は町の北東の森の中を歩いていた。
天気は上々で、柔らかな木漏れ日が心地良い。

ξ゚听)ξ「こりゃ私の出番はなさそうかな」

( ^ω^)「1種類だけちょっと奥まで行かないと取れない薬草あるから、その時だけは警戒しててくれお」

ξ゚听)ξ「りょーうかい」

そう答えるツンだが、明らかに気を抜いているのがわかる。
まあ、確かにこの森にモンスターが出る事は稀だし、出ても大したモンスターはいない。
ヴィップの町は他の町よりモンスターが多く生息しているが、この森は昔からモンスターがほとんどいないのだ。

理由は諸説あるが、本当の所はわからない。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:52:01.57 ID:d8FyVter0

古代の聖域だったとか、過去にここでモンスターを刈り尽くしたとか、モンスターの嫌う木々や植物が生えてるとか、
色々と話は聞いた事あるが、どれも真偽のほどは定かではなかった。

じいちゃんは何か知っていたのかもしれないが、その事について何も聞いた事はない。

ξ゚听)ξ「この辺だっけ?」

( ^ω^)「お、そうだおね、半分ぐらいはこの辺で取れると思うお」

何度かツンも僕と一緒に薬草の採集に来た事があった所為か、採集場所を覚えていたようだ。
僕は早速薬草の採集に取りかかる。

ξ゚听)ξ「手伝う?」

( ^ω^)「いや、いいお。つーかツン、薬草の種類見分けられないお?」

ξ゚听)ξ「あの緑のやつはわかるわよ」

(;^ω^)「どれだお。どれもほとんど緑色だお」

必要な量はそれなりに多いが、群生しているので採集はそれほど大変ではない。
僕はツンに周囲の警戒を頼み、1人で採集に当る。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:53:52.62 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「しっかし、何でこんなに量が必要なのかしらね?」

( ^ω^)「わからんお。多分、何かの魔法の実験だとは思うけど」

ツンが突っ立ったまま、僕に話し掛けてくる。
多分暇なのだと思うが、僕は一応作業中だ。
若干生返事気味に思ったままを口にする。

ξ゚听)ξ「実験ねえ。どうせまたくだらないやつでしょ?」

( ^ω^)「否定してあげられないのが元弟子として辛いとこだお」

魔法使いという人種は、程度の大小はあれど皆一様に探究心旺盛だ。
だが、その方向がどこに向くかで各人のスタンスはだいぶ違ってくる。
室内に篭り新しい魔法や道具の研究する者もいれば、冒険者として世界のあらゆる事象を見極めようとする者もいる。

ドクオさんは前者よりで、僕はお店をやってるけど素材集めで出歩く事も多いし、中間ぐらいかなと思っている。

ξ゚听)ξ「あいつ、前も何か残念な薬作ってたわよね? 何だっけ、モテ何とか?」

( ^ω^)「スゴクモテールかお?」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:55:33.52 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「そう、それ」

名前の響きからして残念な事この上ないが、効果は名前から想像出来る通りの物だ。
ドクオさんの長年の研究の成果の集大成らしいが、結果からいうと薬は完成しなかった。

( ^ω^)「正しくは完成しなかったわけじゃないらしいんだけどね。理論上は上手く行くはずだったとか」

魔法による体質改善、簡単にいえば薬を飲んだ人の纏う空気を他人から好まれるものに変質させるという、
名前の割には少し回りくどい物であった。

しかしながら服用者、この場合はドクオさんの事だが、その顔に大きな問題があったのだ。

ξ゚听)ξ「問題しかない顔だからそんな薬作ったんでしょ?」

( ^ω^)「ひどいけどその通りだお。でも、問題は顔の良し悪しじゃなくて、造りに問題があったみたいなんだお」

スゴクモテールを分類すると魅了、チャーム系の魔法の薬と位置付けられる。
しかしながらドクオさんは、生まれながらにしてその顔が魅了に対する強い抵抗を持った造りをしていたのだ。

( ^ω^)「チャームに対する天然の防御結界的な造りをしていたんだお」

その結果、ドクオさんが服用しても薬の効果は発揮される事はなかったし、
恐らくその手の薬をいくら作ろうが全て無駄だろうと言う結論にドクオさんは達する事となった。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:57:38.18 ID:d8FyVter0

ξ;゚听)ξ「笑い話なんだか悲しい話なんだか判断に苦しむわね……」

( ^ω^)「効果を発揮させる為には顔面削るしかねえなと、力なく笑ってたのを見た時は流石にかわいそうに思ったお」

ξ゚听)ξ「そういう薬に頼らざるを得ない時点で十分にかわいそうなのにね」

(;^ω^)「真理だけど、それは本人の前で言わないでおいてあげてお」

しかしながら自分のかける魔法だけでなく、相手からの魔法も抵抗、レジスト出来るのだから素質としては優れた物だ。
ドクオさんにチャーム系の魔法を使おうとする人がいるかどうかは別として。

ξ゚听)ξ「素質ねえ……。魔法って、使う為にはその素質が重要なのよね?」

( ^ω^)「まあ、そうだおね。勿論、修練も必要だけど、得手不得手は素質に因る所が大きいお」

魔法という概念は、この世界においてそれほど特別な物としての位置付けはない。
だがしかし、万人が万人とも同じ魔法を使えるわけではないのだ。
素質がない人だと、全く魔法を使えない人もいる。

ξ゚听)ξ「私は素質なかったから早々に諦めたわ」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 22:59:09.72 ID:d8FyVter0

ツンは全く魔法の素質がないというわけでもなかったが、武術家の娘という生育環境もあって、
魔法の修行より武術の修行の道を選んで来たのだ。

素質があっても皆が魔法使いになるというわけでもないから、これはそう珍しい事でもない。
先にも言ったが、魔法使いになる為には素質だけではなく、その後の修練も必要だ。
更に、魔法は強力ではあるが、使用するに当って様々な条件や制限も存在するし、万能というわけではない。

ξ゚听)ξ∩「こっちの方が私の性にあってるわ」

( ^ω^)「僕もそう思おうお」

そう言って拳を固めて見せるツン。
その威力は我が身をもってよく理解している。

実際、場面によっては魔法よりも武器や格闘技による攻撃手段が有効な場合があるし、
魔法使いには呪文の詠唱という大きな隙が出来てしまう時間がある。

ただ、魔法を有効に使えれば戦闘に有利な事は変わりないので、武器を使って戦う事を主とする冒険者でも、
一部の魔法を習得している人もいる。

ξ゚听)ξ「色々と面倒臭いわよね、魔法って。呪文とか」


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:00:17.65 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「呪文の詠唱は間違えずに言う必要あるしね」

魔法は大別していくつかの系統があるが、共通して言えるのはそれを使う為には一定の手順を踏む必要がある事だ。
もっとも基本的なものは呪文の詠唱で、順番通りに正しく言葉を紡ぐ事で魔法を制御するのである。

ξ゚听)ξ「そこなんだけど、呪文って魔法を生み出す言葉じゃないの?」

( ^ω^)「ちょっと違うお。魔法の大元はその人が持ってる力、この場合は魔力なんだおね」

簡単に説明すると、魔法自体は呪文の詠唱がなくても発動させる事が出来るが、それは単なる魔力の放出であって、
確たる効果は期待出来ず、最悪、使用者にも害をもたらす恐れもある。
それを制御し、用途ごとの正しい効果を発揮させるのが呪文なのだ。

当然、複雑な用途を持たせた呪文の詠唱はかなり面倒かつ長くなる。
更に高度な物になると、韻や音程など言葉の調子まで正しく再現する必要になる事もある。

それを独自に読み解いて、構築し直して詠唱を短縮させたりもする事も可能だが、
それが出来るのはそれなりに実力のある魔法使いだ。

残念ながら僕はまだそんな域には達していないが、知識だけはじいちゃんの残してくれた書物で多少は有してはいる。
それ故にごく一部の魔法だけは短縮詠唱も出来るものがある。

ξ゚听)ξ「いわゆる、コモンマジックってやつよね」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:02:08.29 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「そうだお。詠唱だけで唱える魔法は系統に関わらずコモンマジックって言われるお」

コモンマジック、下位魔法とも言われるそれは、比較的習得が容易な部類の魔法である。
その理由としては詠唱の短い事に加え、一般的にその術式、詠唱の手順が流布しているからだ。
ある意味魔法使いという職業の共有財産のようなものと言えるだろう。

ξ゚听)ξ「で、詠唱以外に余計な手順が必要なのが上位魔法って言われるのよね?」

( ^ω^)「そうだお。上位魔法、スペシャルマジックだお。長いから皆スペシャルって呼ぶけど」

スペシャルは呪文の詠唱の他に特定の手順を付加する事で、コモンマジックでは制御出来ない物を扱ったり、
コモンマジックの効果を高めたりした魔法だ。

ξ゚听)ξ「あれ、確か人毎にやり方が違うんだっけ?」

( ^ω^)「そうだお。……って、さっきからその辺はツンも知ってる話だお?」

ちょっとした確認だと言うツンに促され、僕はこの世界に住む人間なら当たり前の部類に入る話を続ける。

( ^ω^)「スペシャルの手順に関しては色々あるから一概には言えないお」

ツンが言ったように、その人毎でやり方が違うのだ。
もっともメジャーな例を挙げると精神統一魔法、瞑想等で集中力を高めて詠唱する方法がある。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:04:18.37 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「他に有名なのは、ニューソクの騎士団長なんかが使う舞踊魔法かおね」

ξ゚听)ξ「踊りながら詠唱するんだっけ? 騎士様の使う魔法にしては変わってるわよね」

( ^ω^)「剣舞という舞もある事だし、剣術は舞の動きとも相性いいから実戦向きではあるお」

ξ゚听)ξ「まあ、変わってるといえば、あんたの魔法も随分変わってるんでしょうけど」

( ^ω^)「あれが僕に合ってるって事で教えられたんだお」

スペシャルの手順は独自で編み出す魔法使いもいるが、大体において師やそれに当る人から伝授される事の方が多い。
例に挙げたニューソク騎士団の舞踊魔法も伝統的なものだし、僕もじいちゃんから伝授してもらった。
もっとも、じいちゃんの場合は僕とは違うスペシャルの手順だったのだが。

ξ゚听)ξ「ブーンのおじいちゃんのは精神統一魔法だっけ?」

( ^ω^)「そうだお。普通のそれと比べて恐ろしく早かったらしいけど」

天空の大賢者と称された僕のじいちゃんは、スペシャルの手順自体は珍しいものではなかったが、
その速度がとてつもなく早かったと伝えられている。
短い詠唱時間で強力な魔法を発動出来る事は、戦闘においてはかなりのアドバンテージを得る事が出来たようだ。

伝聞形なのは僕が実際に見た事がない、もしくは使っていたかもしれないけど気付かなかったからである。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:06:15.66 ID:d8FyVter0

ちなみに、じいちゃんの弟子であるドクオさんも同じ精神統一魔法ではあるが、こちらは速度は普通か、
下手すれば遅いぐらいだ。

ξ;゚听)ξ「あいつのスペシャルはもう2度と見たくないわ」

(;^ω^)「気持ちはわかるお」

過去に見たその姿を思い出したのか、ツンは露骨に嫌そうな顔をした。
まあ、確かにドクオさんのスペシャルは少々正視に堪えないものがあると僕も思っている。

( ^ω^)「コモンマジックとスペシャルの差はそんなとこだけど、ついでに系統の話も聞くかお?」

ξ゚听)ξ「そっちはいいわ。多分、関係ないと思うから」

魔法にはいくつかの系統がある。
系統とは平たく言うと、魔法を使う際の媒体によって分類された物だ。

その人本人が持つ魔力を元とする一般的な魔法、自然界に存在する精霊の力を借りて唱える精霊魔法、
信仰する神の力を借りて唱える神聖魔法等がある。

それぞれに利点、弱点はあるがツンは説明はいらないと言ったので今は置いておく。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:07:41.40 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「……で、何でツンは今更こんな話が聞きたかったんだお?」

話しながらも一通り薬草を摘み終えた僕は立ち上がり、森の奥を指差して歩き出す。
ツンは歩きながら話そうと考えた僕の意図を理解してくれたのか、同じく歩き出した。

ξ゚听)ξ「んー……まあ、ちょっとね。道場荒らしの噂を聞いたんで」

( ^ω^)「道場荒らし? 何でそれと魔法が関係するんだお?」

道場荒らしといえば、武術道場を訪れて勝負を挑み、看板を奪って行くという印象しかない。
それと魔法が僕の頭では全く繋がらなかった。

( ^ω^)「大体、武術家の人って魔法使う人は滅多にいないおね?」

武術家はどちらかといえば軽装備の利点を生かしたスピード重視の戦闘スタイルが多く、
魔法使いがサシで対峙する相手としてはかなり厄介だ。
何せ詠唱する時間を取らせてもらえない。

熟練の魔法使いなら詠唱の短縮で対応出来るかもしれないが、武術家同士の戦いの最中に、
魔法の専門家でもない武術家が魔法を詠唱するのはかなり難しい気がする。

ξ゚听)ξ「普通に考えればそうよね。でもそいつ、短時間で呪文を詠唱出来るって話なのよ」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:09:11.87 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「そりゃすげえお。ちょっと興味深いおね」

話だけを聞くと、噂の道場荒らしは優れた魔法使いでもあるようだ。
何でも、使う魔法は身体強化系の魔法のみで、その拳は鉄をも砕くとか何とか。

ξ゚听)ξ「当然、素手でね」

(;^ω^)「マジかお……」

岩砕きぐらいなら目の前のツンでも出来そうな気もするが、それは手甲を装備しての話である。
素手ともなると相当の衝撃が手に返って来るのではないだろうか。

ξ゚听)ξ「それでちょっと魔法の専門家の話を聞いてみたくなったのよ」

( ^ω^)「うーん……そうだおね、身体強化の程度にも因るけど、不可能ではないとは思うお」

魔法の専門家とツンは言ってくれたが、僕なんかはひよっ子同然で、圧倒的に経験不足の感は否めない。
僕の知識はほとんどがじいちゃんの書物からのものであり、他の人の魔法はあまり見た事がないのだ。

( ^ω^)「僕の知識の中で答えを出すなら、とことんまで詠唱を簡略化した魔法じゃないかと」

それか、手順と気付き難い舞踊魔法みたいなものか、もしくはじいちゃんの様な特殊なものかと僕は続ける。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:11:02.09 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「そっか……。じゃあ、有り得ない話じゃないのね」

( ^ω^)「ていうか、武術の試合で魔法使っていいのかお?」

戦闘スタイル以前に武術家はその身1つで戦う事を信条とし、
己が身を鍛え上げる事に専心するものだと昔ツンから心得を聞いた覚えがある。
流石に固いものを殴る必要がある時は手甲などの武器兼防具を着けるが、武術家同士の戦いは素手が基本だとか。

ξ゚听)ξ「まあ、普通はそうね。武術大会なんかは魔法禁止だし」

それが信条であり、武術家の在り様であると思ってはいるが、相手は道場荒らしだ。
勝てばそれで良いと思う輩もいないわけではないとツンは言う。

( ^ω^)「何か物騒というか、見苦しいと言うかだおね」

ξ゚听)ξ「まあ、あいつらが仕掛けてくるのは試合じゃないからね。勝ちにこだわるのも間違いじゃないわ」

純粋に武術のみで腕試しに来るやつもいるけどね、とツンは続ける。
話を聞いてると何だか不条理な気もするが、ツンは別に気にした様子はない。
1度対峙すれば相手が何であれ全力で戦う、それが武術家なのだと妙に達観した持論を持ち出された。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:13:08.24 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「よくわからん世界だお」

ξ゚ー゚)ξ「それはお互い様でしょ」

僕が武術家の考え方をわからないように、ツンも魔法使いの考え方をわからないのだと言う。
そう言われてしまえば確かにそんな物かもしれない。

( ^ω^)「もしその道場荒らしが来た時は僕を呼んでくれお。どんな魔法か分析してみるお」

ξ゚听)ξ「呼びに行く時間があったらね。まあ、道場荒らしが来ても相手するのはお父さんでしょうけど」

そんな事を話しながら歩き、途中途中で採集して僕らは森の奥へと進む。
そして大半の薬草が集まった頃、僕らは川辺に辿り着いた。

( ^ω^)「ここでお昼にするお」

ξ*゚听)ξ「待ってました!」

僕は背負っていた採集袋を下ろし、大きく背伸びをする。

( ^ω^)「まずはお湯を沸かすお」

川の水は澄んでいて、水質も問題ない。
何度も来ている場所なのでその辺りの心配はしてなったが、念の為に水を一掬いし、味を確かめてみる。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:14:54.65 ID:d8FyVter0

ξ*゚听)ξ「あー、お水美味しい」

(;^ω^)「飲むのは僕が確認するのを待ってからにしてくれお」

確認するまでもなく、水は大丈夫だったようだ。
あんたは神経質過ぎなのよとツンに窘められてしまったが、今回は竜の件もあるし、少し神経質ぐらいで丁度いいのだ。

勿論、そう思っていても口には出さないが。

石を円形に積み、持って来ていた小振りの鍋に水を汲んでその上に置く。
ツンが集めて来てくれた枯れ木を石の間に積んで魔法で火を灯した。

ξ;゚听)ξ「そういやお昼ご飯ってそれだったわね……」

沸いたお湯に沈めた薬草ラーメンを見て、ツンが不安げな様子で呟く。
商品としては成り立たなかったが、味の方は保障するから安心して欲しい。

( ^ω^)「粉末スープを足して、一煮立ちさせて……完成だお!」

出来上がった薬草ラーメンをお椀に装ってツンに差し出す。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:16:38.31 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「あら、案外いい匂いね」

( ^ω^)「食事にいおいて、匂いというのは結構重要な要素だお。薬草臭さは消えるよう試行錯誤を重ねたお」

ξ;゚听)ξ「そういえば薬草パンも薬草おにぎりもそこにはこだわってたわね」

もっと別の部分にこだわればいいのにとぼやくツンの言葉を聞き流し、自分の分もお椀に装いで早速食べ始める。

(*^ω^)「美味いお!」

ξ*゚听)ξ「確かに味は良いのよね……あれ? キノコも入ってるのね」

(*^ω^)「さっき薬草と一緒に採集しといたお」

ξ゚听)ξ「そういうとこは抜け目ないわね」

ぶつぶつと文句を言いながらも、ツンは僕とさほど変わらぬスピードで薬草ラーメンを食べ終える。
使った食器と鍋を洗って片付けて出立出来るよう準備したが、もう少し休んでからでもいいだろう。

ξ゚听)ξ「さ、行きましょうか」

( ^ω^)「お茶ぐらい飲んでからにしないかお?」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:18:16.16 ID:d8FyVter0

それは帰ってからにしましょうと、僕の意見は敢え無くツンに却下される。
食べてすぐ動くと胃が痛くなりそうだと思うのだが、ツンはそんな事お構い無しだ。

ξ゚听)ξ「それは単なる運動不足でしょ。たまには道場に顔出しなさいよ。鍛えてあげるから」

(;^ω^)「それは慎んでお断りさせて頂きますお」

ツンは運動不足と指摘したが、それは生理現象的なものではないかと僕は思う。
話の雲行きがこれ以上怪しくならない内に僕は立ち上がり、川に沿って歩き出す。
このまま川沿いを上流の方に向かった先辺りに残りの薬草の採集地があるのだ。

それからまた1時間ほど歩き、目的の場所に辿り着いた。
森の中にぽっかりと開いた草原地帯のような場所で、木々はほとんどなく、その先は高台が連なっている。

( ^ω^)「この辺だお。最近来てなかったけど、生えてるかおね?」

ξ゚听)ξ「前から思ってたんだけど、取り難い薬草は栽培すればいいんじゃないの?」

( ^ω^)「それが出来れば楽なんだけど、土壌とか水質、空気とかも含めて生育には色々条件があるんだお」

ツンが言う所の取り難い薬草、希少な部類に入るものは、生育条件が限られているから稀少なのである。
それを栽培する為には、出来るだけ生育環境の自然の状態に近付けなければならない。

( ^ω^)「前に1度やってみた時は一応それっぽく成長したけど、薬草としての有効成分がかなり少なかったんだお」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:20:10.57 ID:d8FyVter0

この辺りは未だ研究が追いついていない分野らしく、何が足りなかったのかはよくわかっていない。
一説には、モンスターの存在が必要なのではという話もある。

( ^ω^)「危険な状態にあるからこそ、薬草自体の自然治癒能力が高まるとかなんとか」

ξ゚听)ξ「へー、不思議な話ね」

確かに不思議な話ではあるが、世界にはまだ多くの不思議な話はいくつも存在している。
だからこそ魔法使いは研究を重ねるし、冒険者はまだ見ぬ地へ足を踏み入れたりするのだ。

それに個人的には、何でもかんでもわかっている世界はきっとつまらないと思う。

ξ゚听)ξ「ま、それはそうね。私も世界の色んな場所を見てみたいと思うわ」

( ^ω^)「だお? ……お、ちゃんと生えてるお。良かったお」

どうやら薬草はちゃんと育っているようだ。
僕はしゃがみ込み、採集を始める。

( ^ω^)「ツン、周りの警戒お願いだお」

ξ゚听)ξ「もうやってるわよ。今の所異常なしよ」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:22:17.95 ID:d8FyVter0

この辺りまで来ると森も端に近く、その先には山がある。
カコログ山と呼ばれるその山にはモンスターが多数生息し、時折この辺りに姿を見せる事もあるという。

幸いにも僕は出会った事はないが、先の薬草の仮説を信じるなら、いつ遭遇してもおかしくはないのかもしれない。

( ^ω^)「そういえばツン、ツンは何でハインさんの誘い断ってるんだお?」

僕は薬草を採集しながらツンに尋ねる。
先ほどの話ではツンも世界の色んな場所を見てみたいと言っていたが、その割にはツンは冒険者にはなっていない。

ξ゚−゚)ξ「何でって……まあ、色々よ」

( ^ω^)「お?」

ツンは僕から視線を逸らし、曖昧な言葉を返す。
若干不機嫌そうな顔をした様に見えたのは見間違いだろうか。

ξ゚听)ξ「まあ、道場や畑もあるからね。それに……」

( ^ω^)「それに?」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:24:09.37 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「私がハインのパーティーに入るとバランス悪過ぎない?」

ハインさんのパーティーは現在ハインさん、ジョルジュさん、ミルナさんの3人がメンバーである。

ハインさんは2本の曲刀、一般的には蛮刀と言われる刃の反った短くて丈夫な刀を使う戦士タイプだ。
ジョルジュさんは大振りの両手持ちの斧を主武器とするこちらも戦士タイプの人。
そしてミルナさんは柄付きの鎖鉄球、いわゆるモーニングスターと呼ばれる変わった武器を使う戦士タイプの人である。

ξ゚听)ξ「そこに私が入ったらどうなると思う?」

( ^ω^)「すごく脳筋パーティーです」

ツンの言う通り、バランスの悪い、少し極端なパーティーになるかもしれない。
押して駄目なら押し倒せっていうような、考える暇があったら殴るってイメージの。

ξ゚听)ξ「全員戦士ってパーティーはないわけじゃないけどね。それでも、後方支援の1人もいないのは珍しいかな」

( ^ω^)「バランス考えると、1人ぐらい弓とか魔法とかそういう遠距離メインの人入れるおね」

かろうじて、ミルナさんのモーニングスターが中距離でも戦える程度で、あとは完全に役割が被ってしまう。
しかもミルナさんが一番重装備なので盾になろうと前に出て、結局全員が同じ位置に着く。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:26:33.67 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「気の合う人間と組んだ方がいいのはわかるけど、もう少し考えた方がと思わなくもないわ」

( ^ω^)「後1人か2人、後衛を務められる人をパーティーに誘うべきだおね」

現状、それで上手く回っているのだろうから余計なお世話だと思うが、心配はしてしまう。
モンスターと戦う冒険者は危険な仕事なのだ。
いつ何時、彼らがクエストから帰って来ない日が来てもおかしくはない世界なのだから。

ξ゚听)ξ「採集、あとどれくらい?」

( ^ω^)「もうすぐ終るお。あと数本あればいいお」

ξ゚听)ξ「そう。じゃあ、ちょっと離れて採集してて!」

そう言うなりツンが僕の方へ駆けて来る。
視線は僕の後方に固定されたまま僕の横を通り過ぎて行く。

(;^ω^)「ツン!?」

しゃがんだまま、慌てて振り向く僕の目に映るツンの背中。
その更に先に、3つの小柄な人影があるのに僕は気付いた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:28:24.38 ID:d8FyVter0

    (ゴдブ) (ゴдブ)  (ゴдブ)


(;^ω^)「ゴブリンかお!?」

ゴブリン、人に近い姿形をしているが、背丈は人間の子供ぐらいで肌はくすんだ緑、顔は醜悪な鬼の様である。
人語は解さないが、道具を扱える程度には知能を有し、集団で行動する事が多い。
モンスターとしては弱い部類に入るが、数が多いと侮れない相手だ。

(;^ω^)「数は……?」

前方に3匹、その更に先に2匹の計5匹。
全員木製の棍棒と木製の盾を装備している。

( ^ω^)「ツン、援護するお!」

ツンは採集してろと言ったが、ツン1人で相手をするには5匹は多い。
弓などの遠距離武器を持ったやつがいないのは幸いだが、一斉に襲い掛かられたらツンも防戦に回らざるを得ないだろう。
僕は採集袋を後方に放り投げ、杖を構えて呪文の詠唱を始める。

ξ゚听)ξ「いいから下がってなさいってば!」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:29:39.98 ID:d8FyVter0

ツンは振り向かずに僕を怒鳴り付けると同時に中央のゴブリンに向かって一気に踏み込み、拳を放つ。
鈍い音と共に1匹のゴブリンが宙を舞った。

(ゴдブ) ゴブァァァッ!?

ξ゚听)ξ「1つ! 次ッ!」

攻撃を終えた体勢のツンに、左右から同時に2匹のゴブリンが襲い掛かる。
その連携は敵ながら見事と言わざるを得ないほど揃っていたが、ツンは既に拳を引き、迎撃体勢を取っていた。

ξ#゚听)ξ「甘いッ!」

(ゴдブ) ゴブィィィッ!?

ツンの蹴り足が右のゴブリンに突き刺さり、その足を軸にツンは右方に半回転しながら飛ぶ。

ξ#゚听)ξ「2つ! そして3つ!」

(ゴдブ) ゴブゥゥゥッ!?

着地後すぐさま前方に飛び、攻撃を外した左のゴブリンに手加減無しの拳を放った。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:31:08.15 ID:d8FyVter0

( ^ω^)「……出番ねえ」

呪文の詠唱を終え、魔法は完成したが既に目標地点にゴブリンはいない。
前方にいた3匹のゴブリンはことごとく地に伏している。
僕は仕方なく完成した魔法を維持したまま、前方に向かう。

ξ゚听)ξ「残り2匹、私だけで大丈夫よ」

( ^ω^)「僕もそう思うんですけどね、折角魔法唱えちゃったのに発動させないのももったいないし」

僕はツンから少し離れた位置に着き、ようやく射程内に捉えた左奥のゴブリンに向かって魔法を放つ。

( ^ω^)「風の精霊、力を貸すお! ウインド・カッター!」

風の精霊の力を借り、風の刃を放つ魔法ウインド・カッター。
詠唱が簡単故に威力は大した事はないが、僕の魔力と風の精霊の力を加味すればゴブリンぐらいなら十分倒せる魔法だ。

精霊魔法は詠唱者の近くにその精霊が存在しないと使えないという制限があるが、
こんな屋外の開けた場所なら風の精霊は容易に見付かる。

(ゴдブ) ゴブェェェッ!?

魔法は一直線に飛び、ゴブリンを切り裂いた。
それとほぼ同時に、右方からもゴブリンの断末魔が耳に届いく。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:32:42.76 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「4つ、と。一丁上がり」

( ^ω^)「お疲れさんですお」

いくらゴブリンが弱いモンスターとはいえ、こうあっさり片付くのは予想外だった。
そういえばツンが戦うのを見たのは久しぶりの事だ。
僕の知らない間に随分ツンは強くなっていたらしい。

ξ*゚听)ξ∩「まあ、一応師範代だしね」

そう言って拳を固めて見せるツン。
頼り甲斐のある事だが、女性に守られている僕はどうなのだろうかと思わなくもない。
ツンに護衛依頼をしてる時点でそんな事は今更なのだが。

( ^ω^)「じゃあ、残りの薬草採集して──」

視線の先に見えたものに僕は思わず息を飲む。
不自然に途切れた僕の言葉に首を傾げるツンの背後、高台の先に3つの人影。

(;^ω^)「ツン、避けるお!」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:34:11.38 ID:d8FyVter0

僕の言葉に弾かれた様に背後を振り向くツン。
それと高台の上の新たなゴブリン達が矢を放ったのはほぼ同時だった。

(;^ω^)「ksk!」

僕のもっとも得意とする魔法、詠唱を短縮したエア・シューズの魔法を自身にかけ、走り出す。
魔法の効果で僕は一気に速度を上げ、ツンを突き飛ばすように横に押してそのまま飛んでくる矢の方に向かう。

( ^ω^)「ウインド・バリア」

走りながらまた短縮された次の呪文を唱え、風の障壁を身に纏う。
僕にぶつかろうとした矢は全て風の障壁によって逸らされた。

ξ゚听)ξ「ブーン!」

⊂二二二( ^ω^)二⊃「このまま行くお! ksk!」

僕はウインド・シューズの魔法を掛け直して速度を上げ、そのままゴブリンの方へ突っ込む。
ゴブリン達が第2射を放つより早く、僕は魔法で強化された脚力で高台の上に飛び乗って、
速度を落とすこと無く体当たりをぶちかました。
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:36:11.81 ID:d8FyVter0

\  ゴブォォォォォォッ!? /
(ゴдブ)(ゴдブ)(ゴдブ)

ヽ( ^ω^)ゝ「必殺!ブーン・クラッシュだお!」

ξ:゚听)ξ「ダサ……」

ゴブリンを一網打尽にした僕は、決めポーズと呪文を解除し、ツンの元に歩いて戻る。
何かツンの呟く声が聞こえたが気にしないでおこう。

(;^ω^)「危なかったお。まだゴブリンが残ってたとは……」

ξ゚听)ξ「別にあの距離からの矢なら、余裕で避けれたけどね」

(;^ω^)「お……それはそうかもしれんおね」

ξ*゚听)ξ「でも、ま、ありがと。助かったわ」

(*^ω^)「おっおっお」

それから少し周囲を探索し、他にゴブリンがいないかを確認して薬草の採集を終えた僕らは帰路に着いた。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:37:45.90 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「しかし、ゴブリンとはいえ、この辺りでモンスターを見るとはね」

護衛としては仕事があってよかったというツンだが、モンスターと遭遇しないならそれに越した事は無いと思う。

( ^ω^)「この辺での目撃情報はありはしたんだけど、実際に会ったのは初めてだお」

ξ゚听)ξ「何かあったのかしらね……、あ……」

自分で口にしてその何かに気付いたのかツンは黙り込む。
僕もその何かに心当たりはあったが、敢えてそれは口にしなかった。

その心当たり、竜が目撃されたのはこことはだいぶ離れた西の森である。
可能性は低いが、今の所モンスターが普段と違う動きをした原因となるとそれしか思い付かない。

ξ゚听)ξ「それはそうと、やっぱりあんたのスペシャルって変よね」

ツンは話を変えるかのように、先の戦闘の事に話を戻す。
僕はそれを受け、ツンに反論した。

( ^ω^)「変とは失礼な。足の速い僕にはぴったりのスペシャルだお?」

ツンが言う所の変な僕のスペシャル、疾走魔法は詠唱者の速度が上がれば魔法の効果が増幅されるというものだ。
例えば走りながら呪文を唱えれば、立ったまま唱えるより効果が上がるというスペシャルにしてはお手軽な手順である。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:39:21.21 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「何か魔法使いっぽくないと言うか……」

ただ、走りながら言葉を途切れさせずに詠唱するというのは若干難しい部分もある。
特に魔法使いは肉体の鍛錬はあまりせず、体力の無い人が多かったりするので、
僕も日々仕事が終った後に走り込んで息切れしないよう鍛えている。

そういった点では、魔法使いっぽくないというツンの言葉はわからなくもない。

ξ゚听)ξ「ダサいと言うか……ていうか、あの必殺技の名前は文句なしでダサいわよ」

(;^ω^)「ダサくねえお! 人が3日3晩考えに考え抜いて考えた必殺技に何て事言うんだお!」

超絶カッコいい名前の僕の必殺技は、疾走魔法で増幅した風の障壁で体当たりするという極めて単純なものである。
単純ではあるが、増幅された相当の強度を誇る風の障壁を纏った身体で体当たりすれば威力はかなりのものだ。

速さとの兼ね合いで方向の制御が難しいとか、屋外でないと使い辛いとか色々と問題はあるが、
これが僕の切り札である事は確かだ。

( ^ω^)「ツンも技に名前付けるといいお。出す時叫ぶとカッコいいお」

ξ;゚听)ξ「嫌よ、恥ずかしい。それに付けなくても、一応私のは武術の技だから名前はあるわよ」

魔法使いは言葉を力にするのだから、ツンの言う恥ずかしいという感覚が僕には理解出来ない。
魔法使いでなくても、発声した方が気合は乗ると思うのだが。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/14(水) 23:41:12.06 ID:d8FyVter0

ξ゚听)ξ「それは別に技の名前じゃなくてもいいし」

( ^ω^)「何だったら、僕がツンの技に名前付けてあげようかお?」

∩ξ゚听)ξ∩「それだけは断じてお断りよ」

( ^ω^)b「そうだおね……ツン・パンチとドリル・パンチのどっちがいいかお?」

ξ#゚听)ξ「変な名前付けんな! つーかドリルって何よ、ドリルって!」

                       ド、ドリル・パンチ…
           ξ#゚听)ξ三⊃(#)゚ω゚).・。 ’


こうして、僕らは無事薬草採集を終え、ヴィップの町に帰り着いた。



     第二話 北東の森の薬草採集 終

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