181 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:20:56 ID:Aka3RU3A0

 〜 バーボンハウス 深夜 〜


( ^ω^)「シャキンさん……」

(`・ω・´)「……薄々、そんな気はしてたんだ」

(`・ω・´)「あいつが、何か別のものになりたがってるんじゃないかって」

(`・ω・´)「それが騎士とは思いもしなかったけどな」

( ^ω^)「僕は……」

(`・ω・´)「わかってる。お前の事だ。ショボンが自分から言い出すまで黙ってたんだろ?」

(`・ω・´)「俺とあいつがちゃんと話し合って決めるべき事だから、ってな」



     第十六話 宇宙を砕く螺旋の拳


182 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:23:13 ID:Aka3RU3A0

( ^ω^)「それでも、知ってて黙ってたのは申し訳なく思ってますお」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

(`・ω・´)「気にするな。むしろ感謝しているさ」

彼の名前はシャキンさん。
バーボンハウスという酒場を営んでおり、僕の親友であるショボンの父親でもある。

( ^ω^)「感謝……、ですかお?」

タイムカプセルを掘り出した翌日、僕は客もだいぶ少なくなっているであろう深夜のバーボンハウスを訪ねていた。
ショボンがシャキンさんに騎士になる事を話し、了承も得たという事はショボンから既に聞いていた。

僕はずっとショボンの気持ちを知っていながら黙っていたのを謝罪しようと思ってここに来たのだが、
シャキンさんからは意外な言葉が帰って来る。

(`・ω・´)「先にその話を聞いてたら、恐らく俺は色々と余計な事をしてただろうしな」

(`・ω・´)「少なくとも、不自然な態度を取ったりしてしまっていたと思う」

183 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:24:27 ID:Aka3RU3A0

驚いたし、混乱もしたが、まっすぐにショボンと向き合って話す事が出来たので、
結果的に良かったとシャキンさんは言う。

(`・ω・´)「それにな、あいつが言い出さなくても、俺はあいつに1度旅に出る事を勧めるつもりだった」

( ^ω^)「旅にですかお?」

(`・ω・´)「世界は広い」

シャキンさんは店の天井を見上げ、呟くように言葉を続ける。

(`・ω・´)「そんな広い世界を知らず、ヴィップの町で見たものだけで自分の道を決めてしまうのは勿体無いからな」

シャキンさんの言葉は、僕にというよりはどこか自分に言い聞かせてるようにも聞こえた。
僕はただ、黙ってそれを聞いていた。

(`・ω・´)「しかしあいつはそんな狭い世界にいながらも、ちゃんと広い世界を見ていたんだな」

(`・ω・´)「その為に身体を鍛え、金を貯めて、それでいて店の手伝いも愚痴1つこぼさずにやってくれていた」

( ^ω^)「僕には時々愚痴ってましたけどね」

(`・ω・´)「まあ、そうだろうな」

184 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:26:34 ID:Aka3RU3A0

僕の冗談交じりの言葉に、シャキンさんも笑う。
愚痴を聞いてくれる友達がいる事はいいことだと。

(`・ω・´)「愚痴に限らず、ずっと相談相手になってくれてたんだろ?」

(`・ω・´)「ありがとう。あいつの親としてブーン、お前にはとても感謝している」

( ^ω^)「ショボンとは友達ですから当たり前ですお。ショボンも僕の愚痴や相談を聞いてくれましたしね」

シャキンさんは満足げに頷き、僕に優しい視線を向ける。
それはきっと親が子に向けるそれと同じ様なものだったのかもしれない。

(`・ω・´)「まあ、とにかく、俺はショボンの決断を受け入れるし、嬉しくも思っている」

(`・ω・´)「あいつ自身が自分で決めた道だ。親としては当然の事だ」

僕は無言で頷く。
シャキンさんの言葉は、きっと本心から出ていると僕には思えた。

(`・ω・´)「……けどなあ、わかってるんだけど、何だろうな、この……寂しさは」

( ^ω^)「お……」

185 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:28:19 ID:Aka3RU3A0

(`・ω・´)「ショボンの夢は応援している。バーボンハウスはあいつが継がなくてもどうとでもなる」

(`・ω・´)「子はいつまでも親の元にいるより、自分で自分の道を歩むべきだ」

(`・ω・´)「俺はそう思っている。心からな」

(`・ω・´)「でも、何でこんなに寂しく思うんだろうな……」

シャキンさんはうめく様に思いを吐露する。
また天井を見上げるその姿は、涙がこぼれ落ちない様に、必死に堪えているようにも見えた。

( ^ω^)「それはきっと、シャキンさんがショボンの親だからですお」

(`・ω・´)「親……」

( ^ω^)「親が子と別れる事を寂しく思うのは当たり前の事ですお」

( ^ω^)「親として子を愛しているから、そう思うんですお」

(`・ω・´)「……」

シャキンさんは何も言わず、僕に背を向け、カウンターの奥に引っ込む。
僕はそれを目で追いながら、漠然とじいちゃんの事を思い出していた。

186 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:32:27 ID:Aka3RU3A0

(`・ω・´)つUU「……付き合ってくれるか」

戻って来たシャキンさんは僕にグラスを手渡す。
反対の手には、普段のお店では見たことのないお酒の瓶が握られていた。

( ^ω^)つU「頂きますお」

僕はグラスを傾け、お酒を注いでもらう。
そして酒瓶を受け取り、シャキンさんのグラスにも注いだ。

(`・ω・´)「何に乾杯すべきかな?」

( ^ω^)つU「そりゃ勿論……」

(`・ω・´)つU「そうだな、ショボンの前途に……」

( ^ω^)つU「乾杯」

僕はシャキンさんとグラスを合わせ、お酒を勢いよく呷る。
お酒をそれほど嗜んでいない僕だが、いいお酒のようで随分美味しく感じた。

187 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:34:40 ID:Aka3RU3A0

(`・ω・´)「寂しくて当たり前か……」

( ^ω^)「僕だって、友達が遠くに行くのは寂しく思いますお。それも当たり前の事ですお」

(`・ω・´)「そうだな。うん、そうだよな……」

( ^ω^)「そうそう、僕はショボンを王都まで送ろうかと思ってますお」

(`・ω・´)「それは流石にやり過ぎじゃないか? 俺としては有り難いが……」

( ^ω^)「いえ、僕も1度王都に行ってみたかったんで、丁度良い機会かなと」

(`・ω・´)「そうか……。それじゃあ、よろしく頼むかな」

あくまでついでの事だと主張したが、シャキンさんは多分、それが僕の照れ隠しだと思われたのかもしれない。
実際、いい機会だと思うので、ついでというのはあながち嘘でもないのだが。

(*`・ω・´)「よし、じゃあ、その間うちでわんおちゃんは預かろう」

( ^ω^)「いえ、わんおも一緒に連れて行きますお?」

(´・ω・`) ショボーン

やっぱり親子だなあと、僕は微笑ましい気持ちでグラスに残っていたお酒を一息に飲み干した。

188 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:36:11 ID:Aka3RU3A0

 〜 魔法道具屋サンライズ 数日後 〜


( ^ω^)「これはこうして……この辺はそのままでいいかおね……」

(∪^ω^)「わんおー」

ショボンを王都に送る日を1週間後に控え、僕はお店の在庫の整理を行っていた。
随分と急な話になったが、この機を逃せば騎士学校の入学試験はまた1年後だ。
決めたのなら行動は早い方がいいと、ショボンもシャキンさんも今年の試験を受けるべきだという考えに至った。

王都まで馬車で約6日、滞在期間や途中でメシューマに寄る事も考えると、
少なく見積もっても2週間以上は店を空ける事になるだろう。
これほど長期間店を閉めるのは、僕が店長になってからは初めての事だ。

( ^ω^)「これはそのままでもつから、これでいいおね」

(∪^ω^)「わんわんお」

流石にそれはヴィップの町でのクエストの方に影響が出るからという事で、
普段閉める時よりはかなり多めにシャキンさんの所に薬草等を置いて行く予定ではある。

189 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:38:27 ID:Aka3RU3A0

今回の旅には同行しない、クーが代わりに店を開けると主張しているが、
まだ1人で任せるには厳しいものがあるので、どうするかは検討中である。

トソン君もいる事だし、僕としてはやらせてもいいかとは考えてもいる。
仕事をきっちり分担し、解呪などの難しい依頼は受けなければ何とかなるのではなかろうか。

( ^ω^)「トソン君に細かい仕事をやらせないで、金銭管理をクーにやらせなければ大丈夫だおね」

(∪^ω^)「わんお!」

問題は商品の供給が一切出来ないので、あらかじめ大量に薬草とか作っておく必要がある事だ。
これに関しては店を開けない場合でも必要ではあるので、これから1週間、忙しくなりそうである。

( ^ω^)「まあ、最近のヴィップの町の感じなら、そんなにいらないとは思うけど」

(∪^ω^)「わんおー」

最近のヴィップの町は静かなものである。
ジョルジュさん達がいなくなってからは、クエストの受注の数も減っているとシャキンさんは言っていた。

ジョルジュさん達はヴィップに長くいたわけではないが、実力もあり、目立つ存在であった。
残った冒険者の人達も、競い合う相手がいないとやる気が出なかったりするのだろうか。

190 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:41:03 ID:Aka3RU3A0

とはいえ、生きるためには稼がねばならないだろうから、皆その内またクエストには向かうのだろう。
つい先日、バーボンハウスに行った際にも薬草とかの大量注文をしてくれた冒険者の人もいる。

( ^ω^)「で、その受け渡しが今日なんだおね。昼頃って話だけど、まだ来ないおね」

(∪^ω^)「わんわんお」

時刻は既に昼は過ぎたが、今日は別段予定もないので特に問題はない。
受け渡しの準備は既に出来ており、あとは品物を渡し、代金を貰うだけだ。

そんな事を考えているとベルが鳴り、店のドアが開かれる。

( ^ω^)「いらっしゃいませー……って、トソン君かお」

(゚、゚トソン「こんにちは、ブーン店長」

(∪^ω^)「わんわんお!」

店を訪れたのは待っていた冒険者ではなく、トソン君であった。
今日はツンの手伝いで畑仕事のはずだが、何の用事だろうか。

191 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:44:20 ID:Aka3RU3A0

(゚、゚トソン「あれ? クー様はいらっしゃらないのですか?」

( ^ω^)「臨時でバーボンハウスの方に入ったお」

クーは今日はサンライズのバイトの予定だったが、
急遽シャキンさんに頼まれてバーボンハウスの方に回る事になった。
バーボンハウスもショボンが抜ける事で色んな仕事の引継ぎが発生し、今はバタバタしている。

(゚、゚トソン「そうですか……では……」

( ^ω^)「ちょっと待ってくれお。トソン君、今日は畑の方はどうしたんだお?」

クーがいないと知るとすぐにバーボンハウスに向かおうとしたトソン君を引き止め、質問をする。
クーならともかくトソン君がサボったとは思わないが、ツンの方に何かあったのか気になる所だ。

(゚、゚トソン「臨時でお休みになりましたので」

( ^ω^)「休み? ツンに何かあったのかお?」

トソン君の様子から、緊急を要する何かがあった様な雰囲気ではないのはわかるが、
急に畑仕事を休みにする原因は何なのだろうか。

192 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:46:47 ID:Aka3RU3A0

(゚、゚トソン「はい、何でも道場破りの方がお見えになりましたので」

(;^ω^)「道場破り?」

軽い調子で言うトソン君だが、何かあった所の騒ぎではない気がする。
しかも今日はツンの両親がいないらしく、ツンがそれを受けたという。

(;^ω^)「それ、大丈夫なのかお?」

(゚、゚トソン「はい、ツンさんは余裕だけど、ちょっとは時間かかるだろうからって畑の方は休みになりました」

本人がそう言うのならと、トソン君は素直に従ったらしいが、僕としては少し気になる。
ツンの性格上、弱音は絶対吐かないだろうし、立会人も無しで戦うのはどうなのだろうか。

( ^ω^)「トソン君、ちょっと頼みがあるんだけど」

(゚、゚トソン「はい、何でしょう?」

( ^ω^)「ツンの様子見て来たいんで、店番頼めないかお?」

僕は今日、この後商品の受け渡しあるので店を閉められないことを説明し、トソン君に店番を頼む。

193 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:49:30 ID:Aka3RU3A0

(゚、゚;トソン「えー……でも、僕は今からクー様の働きぶりを見届けるという使命が……」

(;^ω^)「いや、それ特に用事ないのと同じだおね? そこを何とか頼むお」

(-、-;トソン「うーん……でも、クー様が働いてるのを見守りながらお茶を飲むのは至福の時なんですよね」

( ^ω^)「あ、そうだ、この試作品の薬草キャンディあげるから」

(゚、゚*トソン「キャンディですか? うーん……でも薬草って苦そうな……」

( ^ω^)「いや、これは薬草だけど甘いんだお。ただ、甘み強くし過ぎて、薬草としての効果が薄れちゃったけど」

(゚、゚*トソン「甘いんですか? それなら……いや、でもクー様……キャンディ……クー様……キャンディ……キャンディ」

浮かない表情のトソン君だが、借りが山積みな僕の頼みは断り辛いのか、渋々頷いてくれる。

(゚、゚トソン「仕方ありません。他ならぬブーン店長の頼みですからね。しかし……」

( ^ω^)「しかし、何だお?」

ヽ(゚、゚トソン「その、彼も一緒ですか?」

彼と、トソン君が指差す先にはカウンターで丸くなっているわんわんおがいる。

194 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:52:14 ID:Aka3RU3A0

( ^ω^)「そのつもりだけど、何か問題あるかお?」

(∪^ω^)「わんおー」

(゚、゚;トソン「その……僕、動物とか苦手というか……何というか……」

( ^ω^)「お?」

トソン君が言うには、自分は動物が苦手、というよりは動物が自分を苦手としている様で、懐かれる事が全くないらしい。
トソン君は動物が嫌いなわけでもないのだが、嫌われるので近寄るのは自重しているという。

言われてみれば、前にサンライズでバイトした時トソン君はわんわんおに近寄っていなかった気がする。

( ^ω^)「わんおなら大丈夫だお。すっごく人懐っこいお」

僕はわんわんおに目配せをする。
それを察してくれたのか、わんわんおはトソン君に擦り寄って行く。

(∪^ω^)「わんわんお!」

(゚、゚*トソン「わ、わんお君、君は逃げないでくれるのかい?」

(∪^ω^)「わんお!」

195 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:55:26 ID:Aka3RU3A0

(゚、゚*トソン「フフフ……よしよし……」
つ∪^ω^)

( ^ω^)「じゃあ、そういう事で……」

( 、 *トソン「フフ……よしよしよし……フフフフ……よしよしよしよしよしよし……フフ……ウフフ……」
つ∪;^ω^)っ"

恍惚の表情でひたすらわんわんおを撫でまくるトソン君の姿は若干怖いものがあったが、まあ、問題はないだろう。
わんわんおが何となく助けて欲しそうな顔をしていたが、少しの間なので仲良くしていて欲しい。

( ^ω^)ノシ「それじゃ、あとは頼むお。品物はそこに置いてあるやつだから」

( 、 *トソン「フフフ……よしよしよし……いってらっしゃーい……フフ……ウフフ……よしよしよしよしよしよし……」
つ∪;^ω^)ノシ 「わんわんおー!?」

僕はサンライズを飛び出し、ツンのいる道場の方へ走る。
既に試合は始まっている可能性が高いので、急ぐ必要があるだろう。

( ^ω^)「お? ツン?」
197 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:57:46 ID:Aka3RU3A0

そう思って急いでいたが、道場の遥か先、町の外に続く道の方にツンの姿が見えた。
まさかもう終わってしまったのだろうか。

ξ゚听)ξ「あら、ブーンじゃない。どうしたの、こんなとこで?」

( ^ω^)「どうしたの、はこっちの台詞だお。道場破りはどうなったんだお?」

ξ゚听)ξ「今からよ。場所を変えてやろうって話になってね」

ツンの話では道場ではなく、町の外れの広場で戦う事になったらしい。
何でそんな話になったのか気になる所だったが、道場が壊されるのは勘弁願いたいからだとツンは言う。

(;^ω^)「そんなに強い相手なのかお?」

ξ゚听)ξ「多分ね。ほら、前に話したでしょ、鉄をも砕くとか言われてる道場破りの話」

( ^ω^)「ああ、何か魔法使うとかいう……」

以前、ツンからそんな話を聞いた覚えはあった。
超短時間で詠唱出来るのか、詠唱をそれと気付かせないのかわからないが、魔法を使う道場破りがいると。

198 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:04:26 ID:Aka3RU3A0

ξ゚听)ξ「あれから、名前だけは風の噂で聞いてたのよ」

ξ゚听)ξ「で、今日来たやつがその名を名乗り、見た感じ結構やるようだったから場所を変える事にしたの」

( ^ω^)「なるほど、把握」

であるなら丁度良いタイミングで僕は来た様だ。
その道場破りが使う魔法とやらがどんなものか見極めたいと思っていたし。

( ^ω^)「で、その肝心の道場破りはどこだお?」

ξ゚听)ξ「場所教えたら全力で走って行ったわ。何だか忙しないやつだわ」

( ^ω^)「それはまた……」

僕らはのんびりと話しながら町外れに向う。
ツンはこれから闘うというのに随分と落ち着いたものだった。

( ^ω^)「ここだおね。お……あれかお」

ξ゚听)ξ「待たせたわね」

199 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:07:09 ID:Aka3RU3A0

ノパ听)「遅い!!!」

広場の真ん中に仁王立ちする人影が1つ。
真っ赤な胴着を纏い、真っ赤な髪の道場破りは意外な事に女性であった。
それも僕やツンとそう変わらないであろう年頃の。

( ^ω^)「あれが道場破りなのかお?」

ξ゚听)ξ「そうよ。ヒート=オネスティー、それがあいつの名前よ」

ツンは僕に向かってそう説明すると、道場破り、ヒートさんの方へ1人向かう。

ξ゚听)ξ「あんたが急ぎ過ぎなのよ。常に平常心を保つ。武の基本でしょ?」

ノパ听)「知らん! 私はただ闘いたいだけだ! ……で、そいつは何だ?」

そいつと、ヒートさんは僕の方を指差す。
僕は自分の名と見学兼立会人として来た事を告げ、勝負の邪魔はしないと答えた。

ノパ听)「わかった。けど邪魔だけはすんなよ! 邪魔したらぶっ飛ばすからな?」

200 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:08:37 ID:Aka3RU3A0

( ^ω^)「しませんお。それに、邪魔したらヒートさんの前にツンからぶっ飛ばされますお」

ξ゚ー゚)ξ「よくわかってるじゃないの」

ツンは微笑み、拳をヒートさんに向ける。

ξ゚听)ξ「さあ、それじゃあ、始めましょうか」

ノパ听)「応!」

ツンの拳にヒートさんも拳を合わせ、2人同時に後方に飛ぶ。
どうやら今のが開始の合図らしい。

ノパ听)「破!」

まずはヒートさんが先制攻撃とばかりに跳躍して一気に距離を詰め、拳を打ち下ろす。
力が入り過ぎたのか、空を切った攻撃は大地に刺さり、土を巻き上げる。

(;^ω^)「なんちゅう威力だお……」

そのまま連撃に転ずるヒートさんの攻撃を、ツンは受ける事無く回避に専念した。

201 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:10:50 ID:Aka3RU3A0

噂が本当なら、鉄をも砕く拳だ。
今の地面への一撃を見る限りでも、まともに防御するのは得策ではないだろう。

ξ゚听)ξ「せいッ!」

何発目かの拳をかわした辺りでツンが攻撃に転じる。
足元目掛けて放ったローキックは見事にヒットする。

ノパ听)「お?」

ξ゚听)ξ「はッ!」

足が止まるヒートさんに、今度は顔面目掛けて拳を振りぬくツン。
攻撃は綺麗に決まり、ヒートさんは後方に吹っ飛んだ。

( ^ω^)「容赦ねえな……」

ξ゚听)ξ「真剣勝負に手加減する方が失礼でしょ?」

思わず漏れてしまった言葉に、ツンが耳聡く反応する。
こちらに注意を向ける余裕があるくらい、楽勝という事か。

202 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:12:40 ID:Aka3RU3A0

ξ゚听)ξ「そうでもないんだけどね……」

( ^ω^)「お……」

ノパ听)ヾ「あたたた、なかなかやるな、お前!」

ツンの拳をまともに食らったはずのヒートさんだが、
全くダメージがあるようには見えない素振りで立ち上がって来る。
その顔には、笑みらしきものまで浮かんでいる。

ノパー゚)「久々に全力でやれそうだ!」

ξ゚听)ξ「最初から全力で来なさいよ。負けた時の言い訳ぐらい後で考えてあげるから」

ノパ听)「応、よろしく頼む! 行くぞッ!」

ξ゚听)ξ「皮肉が通じないとか……。まあ、いいけど」

2人ともほぼ同時に前方に踏み込み、距離を無くす。
至近距離で肉迫した2人だが、ヒートさんがその場にどっしりと腰を沈めた構えに対し、
ツンは軽快にステップを踏む。

203 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:15:12 ID:Aka3RU3A0

ノパ听)「破! 破! 破ッ!!!」

ξ゚听)ξ「遅い!」

素人目には何が何だかわからない速さでの攻防が繰り広げられているが、
1つわかるのはツンが優勢という事だ。
ヒートさんの重そうな一撃は空を切り、ツンのシャープな一撃は的確にヒートさんを捉えている。

( ^ω^)(こりゃ心配するまでもなかったおね……)

この分ならツンの勝ちは揺ぎ無いだろう。
破壊力勝負ならわからないが、体捌きや技術の面でツンは圧倒的に優位だ。

噂の道場破りにここまでの差を見せ付けるとは、格闘王の夢もあながち冗談じゃないのかもしれない。
その際にはサンドバッグになる事だけはぜひとも避けねばなるまい。

( ^ω^)(あ、でも、まだ魔法を使って来てないおね)

先ほどから見ている限りでは、ヒートさんは魔法の類は一切使っていないと思う。
魔法の発動時には必ず魔力を感じ取れるはずだから、それは間違いない。

温存しているのか、それとも噂が間違いなのかと考えていると、またもヒートさんが後方に吹き飛ばされる。

204 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:17:32 ID:Aka3RU3A0

ξ;゚听)ξ「ふぅ……」

( ^ω^)「勝負あったかお?」

カウンター気味の拳がまたも顔面を捉えた。
これは流石に立ち上がれないのではないだろうか。

ノハメ゚听)「おおう……こりゃすごい。速いな、お前!」

ξ;゚听)ξ「お褒めに預かりどうも」

殴られた箇所こそ赤く腫れているものの、さしたるダメージはないような元気さで立ち上がるヒートさん。
むしろ攻撃をかわし続けていたツンの方が呼吸は荒い。

これは少しヒートさんのタフさを侮っていたかもしれない。
このまま長引けば、ツンの方が徐々に体力的に不利になる可能性もある。

ノハメ゚听)「すまん! 今度こそ本気の本気で行く!」

ξ;゚听)ξ「言い訳は……」
206 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:20:12 ID:Aka3RU3A0

ヽノハメ゚听)ノ「宇宙魔法・発動!!!」

ξ;゚听)ξ「宇宙!?」

(;^ω^)「魔法!?」

ヒートさんは両手を天に向け、突如謎の言葉を叫ぶ。
魔法と聞こえたが、それが何なのか見極めるより早くヒートさんはツンに飛び掛っていた。

ノハメ゚听)「食らえッ!!! 守兵主散打ァァァァッ!!!」

目にも留まらぬ高速の突きを放ちながら空中から襲い掛かるヒートさん。
かわし切れないと悟ったのか、ツンは途中から防御に転じた。

ξ;゚听)ξ「クッ……」

ヽノハメ゚听)ノ「止めたか! ならば!」

ノハメ゚听)「打武流ゥッ覇亜ァァァァ拳ッ!!!」

両手を握り合わせ、思いっきり振りかぶって叩き付けるヒートさん。
辛くもその場から飛び退るツン。
その場にはヒートさんが叩き付けた地面から巻き上がる土埃に包まれた。

207 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:22:22 ID:Aka3RU3A0

(;^ω^)「今の……」

ノハメ゚听)「そこか! 氾獣力凄投ォォォォ武ッ!!!」

様子を見ようと1歩動いた僕の元に、何かがものすごい勢いで飛んで来る。
それがヒートさんが放った技だと考えるより早く、僕はその場に伏せる。

(;゚ω゚)「ちょ、こっちじゃねえお!」

ノハメ゚听)「うぉッ!? すまん! だが、邪魔すんなよ!」

どうやら砂埃の中、動く気配に向けて適当に放ったらしい。
僕に非があるかは微妙なとこだが、邪魔するつもりはなかったので勘弁して欲しい。

(;^ω^)「つーか今の何だお?」

ノハメ゚听)「魔法だ!」

(;^ω^)「え? 魔法? いや、でも……」

即答するヒートさんだが、今のが魔法かどうかと言われたら、多分違うのではないだろうか。
少なくとも、今の攻撃から魔力は感じ取れなかった。

208 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:23:36 ID:Aka3RU3A0

ξ゚听)ξ「どこ見てんのよ。相手は私よ」

ノハメ゚听)「む、そこか! 行ッくぞォォォォッ!」

僕との会話で隙だらけだったヒートさんにいきなり殴りかかるような事はせず、ツンはヒートさんの注意を惹く。
2人は再び攻防を開始するが、ヒートさんの言う魔法で形勢はかなりツンが不利だ。
原理はどうあれ、ヒートさんの攻撃は鋭さを増し、ツンも全てはかわし切れなくなっている。

素人目に見ても、このままではジリ貧であると判断せざるを得ない。

ヽノハメ゚听)ノ「もういっちょ! 打武流覇亜けェェェェんッ!!!」

( ^ω^)(つーかあれ、魔法でも何でもないおね……)

魔法だと即答したヒートさんだが、何度見てもヒートさんから魔力の放出は一切感じられない。
あれが魔法なら、僕が知ってる魔法は何だというのだろうか。

( ^ω^)(大体、宇宙魔法って何だお、宇宙って)

概念的にいえば、空の上にある世界とされる場所で、その定義とかはよくわかっていない。
その宇宙から力を借りるために両手を挙げてるのかもしれないが、色々と無理がある。

209 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:24:39 ID:Aka3RU3A0

理解の及ばないものから力を借りるなど、魔法使いからしてみれば狂気の沙汰だ。
神よりなおアバウトな概念だ。

そうなると、この魔法の正体として考えられるのは……

( ^ω^)(思い込み……?)

すごく馬鹿馬鹿しい結論になってしまうが、現状、考えられるのはそれしかない。
思い込みと言ってしまえば軽いが、自己暗示と言い換えると少しはそれらしくなるか。

( ^ω^)(すっごく馬鹿らしい答えだけど、実際それで強くなってるっぽいしなあ……)

自分は強いと思い込み、この一撃は速いと思えば加速し、この攻撃はきかないと思えば立ち上がれる。
勿論、基礎となる能力高いから出来る事なのであろうが、それにしたって正直これは無茶苦茶だ。
多分、ヒートさんはものすごく根が単純で、信じやすい人なのではなかろうか。

(;^ω^)(しっかし、これ、からくりがわかったとして、どうやって倒せばいいんだお?)

思い込むにも限界があるだろうから、何度も何度も倒せば勝てるのかもしれないが、現状、
それは厳しいかもしれない。

210 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:26:35 ID:Aka3RU3A0

ξメ゚听)ξ「クッ……」

ノハメ゚听)「どうしたッ! 動きが鈍いぞ!」

ヒートさんの攻撃を受け、後方に吹き飛ぶツン。
まともに受けたかと思いきや、防御には成功していた様だ。
しかし、ヒートさんの攻撃の勢いを殺せず、防戦一方だ。

(;^ω^)(力の出所が思い込みなら、その心を折る……思いで凌駕出来るなら、あるいは……)

対抗手段がないわけではない。
すごく馬鹿らしい発想だが、理には適っているかもしれない。
問題はそれをツンに伝えたとして、それに乗ってくれるかどうかだが。

ヽノハメ゚听)ノ「これで決める! 凄駆竜暗射亜ァァァァ拳ッ!!!」

ξ;メ゚听)ξ「しまッ──」

避け切れず、ガードしようとしたツンの腕を弾き、ヒートさんの拳がツンの胸を打つ。
ツンは派手に地面を転がった。

211 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:28:28 ID:Aka3RU3A0

(;^ω^)「ツンッ!!!」

ξメ-听)ξ「1対1の勝負よ。それ以上近寄らないで……、つッ……」

慌てて駆け寄る僕を、ツンは強い言葉で制す。
もう止めるべきかもしれないが、ツンの目は未だ強い光を放っており、全く諦めた気配はない。

( ^ω^)「あの宇宙魔法ってやつのからくりがわかったお」

ξメ-听)ξ「そう……流石ね……」

( ^ω^)「でも、正直それをどうにかするのは無理っぽいんだおね」

ξメ゚听)ξ「元から、自分で何とかするつもり……」

( ^ω^)「……けど、1つだけ、僕を信じてくれるなら、手があるかもしれないお」

ξメ゚听)ξ「?」

僕は、自分が思い付いた手段をツンに告げた。
ツンは鳩が豆鉄砲を食らったようなぽかんとした顔をした後、眉をひそめて僕を睨む。

212 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:30:23 ID:Aka3RU3A0
  _,
ξメ゚听)ξ「何よ、その馬鹿馬鹿しい話は?」

(;^ω^)「いや、まあ、僕も馬鹿馬鹿しいのは重々承知だお」

( ^ω^)「でも、多分それで何とかなるんじゃないかなあと」
  _,
ξメ゚听)ξ「……」

訝しげな視線を僕に向けていたツンだが、大きく息を吐くと勢いよくその場に立ち上がった。

ξメ゚听)ξ「ま、考えとくわ……」

そのままゆっくりとヒートさんの方に向かい歩いて行く。
ヒートさんも立ち上がって来るのは想定済みだったのか、嬉しそうな目をツンに向ける。

ノハメ゚ー゚)「楽しいなあ! お前、すごくいいな!」

ξメ゚ー゚)ξ「殴られて楽しくはないけど、まあ、あんたと闘うのは面白いわね」

ツンとヒートさんは最初の様に拳を合わせ、再び闘い始める。
一進一退の攻防に、見ている僕も思わず拳を握り締めていた。
214 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:32:18 ID:Aka3RU3A0

ノハメ゚听)「楽しい時間だが、そろそろ終わりにさせてもらう!」

ξ;メ )ξ「!?」

ヒートさんの攻撃を捌き切れず、よろめいたツンの隙を突き、ヒートさんが数歩距離を取る。
両手を挙げ、宇宙魔法を唱え、ヒートさんは一気に踏み込んだ。

ノハメ゚听)「凄駆竜暗射亜ァァァァッ──」

ξメ 听)ξ「かかった!!!」

(;^ω^)「!?」

どうやらよろめいたの様に見えたのは、ツンの誘いだったらしい。
覚束ないように見えた足取りはしっかりと地面を掴み、重心を低く落として構えを保つ。

狙いは恐らくカウンター。
しかし、これまでと同じならこの一撃で倒すのは難しいかもしれない。

ξメ 听)ξ「必殺!!!」

ノハ;メ゚听)「!?」

215 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:34:52 ID:Aka3RU3A0


   「ドリルパンチッ!!!」   「なん……だと……!?」

           ξメ゚听)ξ三///つ#)д゚)ハ


捩り込む様に放ったツンの一撃が綺麗にヒートさんの顔面を捉える。

ヒートさんは宙を舞い、後方に倒れ込んだ。

ξ;メ゚听)ξ∩「手応えは……あったわ……。けど……」

恐ろしいまでのタフさでこれまで何度も立ち上がって来たヒートさんだ。
ツンは構えを解く事無く、倒れ込んだヒートさんを睨み付ける。

そんなツンを余所に、僕はヒートさんの方に駆け寄る。
僕の考えが当たっていれば、恐らくは……

( ^ω^)「……」

216 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:36:16 ID:Aka3RU3A0

ノハ;x凅) キュゥ……

( ^ω^)× バッ!

ξ;メ゚听)ξ「え……?」

( ^ω^)ノ「死亡確認! じゃなかった、戦闘不能確認! 勝者、ツン!」

ヒートさんは今の一撃で完全に意識を失っている様で、立ち上がる事は不可能だ。
よってこの勝負はツンの勝ちである。

ξ;メ゚听)ξ「へ……? 嘘……ホントにあれで……?」

どこか納得のいかないといった風な顔を見せるツンに、僕は親指を挙げて見せる。

( ^ω^)b

ツンは少し首を捻った後、苦笑いを浮かべながらもそれに答えてくれた。

ξメ゚ー゚)ξb

217 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:39:23 ID:Aka3RU3A0

ξ゚听)ξ「で、どういう事なのか説明してもらえるかしら?」

傷の手当てをし、一息吐いた所でツンが僕に尋ねる。
ヒートさんはまだ目を覚ましていない。

( ^ω^)「順を追って説明するお」

僕はヒートさんが言う宇宙魔法が思い込みの産物である事をツンに説明する。
ツンは呆れた顔をしていたが、一応は納得してくれた様だ。

ξ;゚听)ξ「しっかし、そんなんで強くなれるものなのかしらね……」

( ^ω^)「信じる物は救われるというか、アホの一念岩をも通すというかだお」

馬鹿馬鹿しい話だが、実際に闘ったツンがその効果は身を持ってわかっているはずだ。
それに、あの魔法の効果は実は自己暗示だけというわけでもない。

ξ゚听)ξ「どういう事?」

( ^ω^)「あれでツンも少なからず動揺したお?」

218 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:41:15 ID:Aka3RU3A0

( ^ω^)「威力や速さも、実際より上がってると錯覚した部分もあると思うんだおね」

ξ゚听)ξ「……それはそうかもしれないわね」

ヒートさんがそこまで考えていたとは思えないが、何にせよ、ツンはそれに惑わされた部分もある。
そしてそれこそが僕のアドバイスの根拠ともなる所だ。

( ^ω^)「まあ、至極単純な話なんだけど」

( ^ω^)「思い込みで攻撃を耐え切れてるのなら、その攻撃を耐え切れない攻撃だと思わせればいいんだお」

それ故の必殺技である。
思い込み易いヒートさんの性質を逆手に取ったのだ。

ξ゚听)ξ「ホントに単純ね。しかも馬鹿馬鹿しい」

( ^ω^)「でも、実際きいたお?」

勿論、ツンのカウンターのタイミングとか、これまでにないほどの強烈な一撃だったのもあるが、
あの掛け声でヒートさんが動揺し、耐え切れる自信が揺らいだのも勝因の1つだと思う。

219 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:42:45 ID:Aka3RU3A0

( ^ω^)「それに前にも言ったけど、必殺技は声に出した方が気合が乗るお」

ξ--)ξヾ「まあ、それで倒せたんだし、文句を付けるつもりはないけどね」

ξ゚ー゚)ξ「アドバイスありがとう、助かったわ」

ツンは頬を掻き、肩をすくめながらも僕に礼を述べる。
僕の手を借りた事は不本意かもしれないが、アドバイスぐらいならセーフという事にしといて欲しい。

( ^ω^)「ツンも格好良かったお、ドリルパンチ……」

;;(* ω );;「でも、ドリルパンチって……ホントに言うとは……ドリル……ブフォッ」

ξ゚ー゚)ξ


          ハヲクイシバレー!!!     ドリルパーンチ!!!
           ξ#゚听)ξ三///つ(#)゚ω゚).・。 ’
221 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:44:38 ID:Aka3RU3A0
   ガバッ
ノハ;゚听)「宇宙・スペース・ナンバーワン!?」

ξ゚听)ξ「あ、目が覚めたみたいね」

ヒートさんは勢いよく立ち上がり、状況が掴めないのか周りをきょろきょろと見回す。
そして視線がツンの顔で止まり、不意にポンと手を打ち合わせた。

ノパ听)「そっか、負けたんだな、私」

ξ゚听)ξ「ええ、私の勝ちよ。紙一重だったけどね」

ツンの言葉にヒートさんは悔しさなどは一切感じさせない、清々しい表情で大きく頷いていた。

ノパ听)「強いなー、お前。恐れ入ったぞ」

ξ゚听)ξ「あんたもね。もうちょっと攻撃に無駄をなくせば、次はどうなるかわからないわ」

先ほどまで拳を交えていた相手だが、そこに遺恨などは全く感じさせない。
苦しい闘いだったはずだが、2人とも闘ってる最中は楽しそうでもあった。
お互い納得のいく闘いだったのだろう。

222 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:46:34 ID:Aka3RU3A0

( ^ω^)「ところで、ヒートさんは何で道場破りなんかしてるんだお?」

ノパ听)「道場破り? 何だそれ? 私はただ、強いやつと闘いたいだけだぞ?」

ノパ听)「強いやつがいそうな道場に勝負しに回ってるだけだ」

ξ゚听)ξ「それを道場破りと言うのよ」

多少、認識に齟齬があるようだが、道場破りといってもヒートさんは負けた道場の看板を持っていったり、
ましてや潰したりはしていないらしい。
どうやら噂に勝手に尾ひれが付いて広まっただけのようだ。

ノパぺ)「むぅ、しかし世界は広いな! 私もまだまだ修行が足りんようだ」

ξ゚听)ξ「そうね。それは私にも言える話だけどね」

ノパ听)「それにしても最後のあの技はすごかった! ドリルパンチ! 私は生涯あの技を忘れないぞ!」

ξ゚听)ξ「それは今すぐ忘れろ」

;;(* ω );; ドリ……プッ…グホォッ

ξ#゚听)ξ

223 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:47:58 ID:Aka3RU3A0

ノハ;゚听)「と、取り敢えず私はこれで失礼する」

ξ゚听)ξ「精進しなさいよ」

(#)^ω^)「まだダメージ残ってるはずだから、あんまり無理しちゃ駄目だお」

ノハ;゚听)「お前、丈夫だなあ……」

(#)^ω^)「慣れてますから」

ヒートさんは改まった態度で、勉強になりましたとツンに大きく頭を下げる。
ツンも軽く一礼をし、拳を前に突き出す。

ξ゚ー゚)ξ「またいつか、あんたとは闘いたいわ」

ノパー゚)「望む所だ! 次は大座亜流の奥義を極めてから、改めて勝負を挑みに来るぞ!」

ヒートさんも拳を突き出し、2人はまた拳を軽く合わせる。
再戦を誓い、ヒートさんは去って行った。

224 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:51:40 ID:Aka3RU3A0

ξ゚听)ξ「さて、私も帰ろうかしら。流石にちょっと疲れたしね」

( ^ω^)「ツンも結構殴られたし、ゆっくり休んだ方がいいお」

ξ゚听)ξ「このくらい大した事ないわよ。それよりブーン、お店の方はいいの?」

( ^ω^)「トソン君に頼んであるから大丈夫だお」

ξ゚听)ξ「本当に?」

( ^ω^)「まあ、頼んであるからこそ大丈夫じゃないかもしれないけど」

店番だけしか頼んでないので、物が壊されるような心配はないと思うが、
トソン君が気を利かせて掃除とかやってたりすると、惨劇が繰り広げられたりしてる可能性がないとは言い難い。

( ^ω^)「早めにお店に戻るかお」

ξ゚听)ξ「それがいいんじゃない?」

( ^ω^)「でもそれは、ツンを家まで送ってからだお」

ξ゚听)ξ「別に私は大丈夫だって……」

225 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:54:13 ID:Aka3RU3A0

早く店に戻れと言うツンの言葉を聞き流し、僕はツンの隣を歩く。
いつも通りの風景だ。

ξ゚听)ξ「そういえば、1つ気になった事があるんだけど」

( ^ω^)「何だお?」

ξ゚听)ξ「ヒート、自分の流派名乗ってたわよね?」

( ^ω^)「名乗ってたおね。大座亜流とか何とか」

ξ゚听)ξ「って事は、ヒートにも師匠とかいるのかしらね」

( ^ω^)「自分で立ち上げた流派じゃなきゃいるんじゃないかお?」

ξ゚听)ξ「となると、あのアホな魔法教えたやつがいるのよね」

( ^ω^)「そうなるおね。だいぶアホな人がいるって事になるお」

ξ゚听)ξ「うちはまともな流派で良かった……」

心から安堵した様子で言うツンに、僕は思わず噴き出してしまった。
アホだとは思うけど、あれはあれでヒートさんには合っていたと思う。
アホだと思うけど。

226 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:57:22 ID:Aka3RU3A0

ξ゚听)ξ「私も再戦に備えて、また鍛え直さないとね」

( ^ω^)「新しい必殺技を編み出せばいいお」

ξ#゚听)ξ「その話はもういい!」

( ^ω^)「ツン・ウルトラ・スーパー・デラックス・ドリルパンチとか」

ξ#゚听)ξ「長いわ! 戦闘中にそんなの叫んでたら舌噛むわよ!」

( ^ω^)「魔法の詠唱はもっと長いお?」

ξ#゚听)ξ「そういう問題じゃないわよ」

僕達はくだらない話をしながらツンの家に向かった。
いつも通りの自分達でいられるのは、もうすぐこの町を出るショボンを思えばすごく掛替えのない事なのだと感じる。

ξ#゚听)ξ「大体、何でドリルなのよ?」

( ^ω^)ノ「そりゃ、この髪の毛の巻き具合は見事にドリルだお」

ξ#゚听)ξ三///つ「ふざけんな!」

僕は、この穏やかな時がずっと続く事を、大地を背に青く澄み渡る空を見ながら願った。



     第十六話 宇宙を砕く螺旋の拳 終

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