110 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:47:34 ID:eSCkcEbY0

 〜 魔法道具屋サンライズ 〜


( ^ω^)「……完成だお」

( ^ω^)□「薬草パスタ、お待ちどうさまだお」

ξ゚听)ξ「……見事に緑ね」

( ^ω^)「麺に練り込んであるお。あ、わんわんおのは麺の代わりにお肉だお」

(∪*^ω^)「わんわんお!」



     第十五話 幼き夢は今も僕らに


111 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:48:36 ID:eSCkcEbY0

( ^ω^)「さあ、早速食べるお」

僕の名前はブーン。
ヴィップの町で魔法道具屋サンライズを営む魔法使いだ。

ξ゚听)ξ「まあ、これは商品じゃないしね。……あら、案外いい匂いね」

彼女の名はツン。
隣の武術道場の娘で、いわゆる幼馴染というやつだ。

(∪^ω^)「わんわんお!」

この子の名前はわんわんお。
僕のペットというか家族で、見た目は子犬だが実は元竜だ。

( ^ω^)「匂いもいいけど味もいいお。いただきますお」

時刻はお昼頃、いつも通りのサンライズで僕達はお昼ご飯を食べようとしていた。
いつぞや食べ損ねていた薬草パスタは、あれから更に改良を重ねて僕としては自信のある味に仕上がっている。

また無駄な部分に力を入れてるとツンに言われるかと思ったが、
これは商品じゃないし趣味の部分なので大目に見てくれているようだ。

112 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:50:19 ID:eSCkcEbY0

ξ*゚ー゚)ξ「あ、ホントだ。これ美味しいわね」

(*^ω^)「だお? 薬草のお陰で結構さっぱりするんだお」

僕は薬草パスタの出来栄えに満足し、麺をすする。
次回は具にもこだわりたい所だ。

( ^ω^)「ごちそうさまだお。ツンもお茶飲むかお?」

ξ゚听)ξ「相変わらず食べるの早いわね。頂くわ」

僕は沸かしておいたお湯で温かいお茶を淹れ、ツンに差し出す。
お腹いっぱいでお茶を飲み、くつろぐこの一時がこの上なく幸せである。

安い幸せだと言われるかもしれないが、人の幸せって案外そんなもんじゃないかなと思ってる。

ξ゚听)ξ「まあ、ここ最近騒がしかったから、こういうのもたまにはいいわね」

( ^ω^)「最近ってか、主にトソン君の件だけどね」

ξ#^竸)ξ「そうね。随分とやらかしてくれちゃって」

(;^ω^)「正直すまんかったお」

(∪;^ω^)「わんおー」

113 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:51:47 ID:eSCkcEbY0

トソン君がやらかしてくれた器物破損の件は、一応の対応は済んでいた。
ツンの家の畑の物置は大工さんに頼んで建ててもらったし、サンライズのドアは仮の物を付けている。

ただ、あくまで一応の処置で、仮のものだ。
物置に関してはちゃんとしたものを立て直してもらったが、その支払いは僕が立て替えている。
原因を追求した結果、責任の半分は僕にあるというツンの糾弾を受け、支払いの半分だけをクーの借金に乗せた。

多少の異議はなくもないが、確かに僕の逃げ方にも問題あったので、これは甘んじて受け入れる事にした。

ξ゚听)ξ「いくら相手が聖騎士だったとはいえ、もうちょっと周りを見て戦いなさいよね?」

(;^ω^)「返す言葉もございませんお」

トソン君は若いとはいえ聖騎士だ。
実戦経験は少ないらしいが、対人戦の訓練もしっかりとやっていたらしく、かなり手強い相手だった。
おまけにあの得体の知れない武器である。

ξ゚听)ξ「案外、聖騎士ってそういうの自由なのね」

( ^ω^)「むしろ普通の騎士より聖騎士の方が自由らしいお。強さ至上というか」

114 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:53:00 ID:eSCkcEbY0

僕の思っていたより、聖騎士というのは型にはまらず自由らしい。
型にこだわる人はとことんこだわるらしいが、基本的に強さと心意気がちゃんとしていれば、
武器や戦い方は各人の判断に任されるとの事だ。

もっとも、自分の様に奇を衒った武器を使うものは、
自分の力の無さを小細工で補っているようなものだとトソン君は言っていたが。

ξ゚听)ξ「強い人は普通の騎士剣と盾だけで十分って事ね」

( ^ω^)「そうみたいだおね。トソン君が弱いとは到底思えないけど」

トソン君の場合は、体格が小さいというハンデもあるためあの剣を使っているのだろう。
あの戦いの時は、トソン君も色々と驚いてたり混乱してたりと、浮き足立っていた部分もあったので勝てた様なものだ。
正式な場で1対1の戦いをしたなら、今度は僕が勝てるかどうかはわからない。

一応の殺さない程度の手加減もしてくれてたのだろうし。

ξ゚听)ξ「なかなかいいもの持ってるわよね。うちの門下生に欲しいぐらいだわ」

( ^ω^)「力有り余ってるおね。無駄に」

ξ゚听)ξ「ええ、無駄にね」

(∪^ω^)「わんおー」

115 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:54:28 ID:eSCkcEbY0

力の有り余っているトソン君に、うちやバーボンハウスでのバイトをやらせてみたが、はっきり言って向いてなかった。
皿を割ったり棚を壊したり、どうも細かい作業は向いてないらしい。

適材適所という言葉もあるので、今は教会やツンの畑の手伝いが主にこの町での仕事となった。

( ^ω^)「がんばってくれてるのはわかるんだけどね」

ξ--)ξ「何と言うか、不器用な子よね」

不器用で一途である。
とてもいい子だが、少々世間知らずな面があるのはその育ちを考えれば仕方がない事か。

( ^ω^)「折角聖騎士にまでなっておいて、簡単に辞めちゃうのはもったいない気もするお」

ξ゚听)ξ「そうね。でもまあ、本人がそうしたいのならいいんじゃないの?」

聖騎士ともなれば、将来は安泰のはずだ。
その道を容易く蹴るのはいかがなものかと僕は思うのだが、トソン君はクーの側にいる事を選んだ。

ξ゚听)ξ「あの2人、過去に何かあったみたいだしね」

116 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:55:47 ID:eSCkcEbY0

( ^ω^)「何でトソン君みたいないい子が、あの駄目人間クーを尊敬してるのかおね」

駄目人間扱いは少々ひどいかもしれないが、しばらく付き合う内に、
世間知らずという言葉では擁護出来ないクーの駄目さを少なからず目にして来た。

今回の件も僕にも責任の一端はあったとはいえ、無駄に騒ぎを大きくしたのは主にクーの所為である。

ξ^ー^)ξ∩「まあ、その件についてはしっかりと根性叩き直してあげたけどね」

(;^ω^)「8時間耐久組手は流石にやり過ぎだお」

物置を壊されてトソン君に対して怒っていたツンだが、事の次第を詳しく知ると、怒りの矛先はクーにも向いた。
友達のよしみで練習に付き合ってくれたら許してやるとツンはクーに提案したらしいが、
それが先ほど言った組み手である。

ξ゚听)ξ「怒る代わりに心身ともに鍛え直してやったのよ? 礼を言われてもいいくらいだわ」

( ^ω^)「だったら借金も帳消しにしてあげればいいのに……」

ξ゚听)ξ「それはそれよ」

(∪^ω^)「わんお」

117 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:57:07 ID:eSCkcEbY0

何ともドライな物言いだが、多分、ツンには別の意図もあるのだろう。
すぐに借金を返して別の町に旅立つ前に、2人とも世間知らずという状況は何とかしたいと考えているのだと思う。
借金を返しつつバイトをする事で、その辺りを緩和させるつもりなのだと踏んでいる。

( ^ω^)「まあ、クーにとってはトソン君が来て良かったおね」

ξ゚听)ξ「そうね。クー1人じゃこの先不安だったし」

普段の生活、バイト、そしてクエストと、1人でやるよりはトソン君がいた方が何かと安心だ。
同じ世間知らずながらも、楽観的なクーを慎重派なトソン君がブレーキをかけてくれるだろう。

若干、押し切られたり振り回されたりするトソン君が気の毒ではあるが。

ξ゚听)ξ「しかし、少し気になる事も出て来たわね」

( ^ω^)「だおね。クーの立場なら問答無用で連れ帰されてもおかしくないと思うお」

今回、トソン君が口にした事でこれまで敢えて触れずにいたクーの身分がはっきりした。
ニューソク王家に現在そう呼ばれる立場の人間は1人しかいないのだ。

前も少し考えた事だが、現在ニューソク王家にはクーの上に2人の兄がいるから、
王家の存続とかそういった話にはクーがいなくても影響はないはずだ。

118 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:58:12 ID:eSCkcEbY0

政略結婚とかそういった話も、単一国家状態であるニューソク王国には必要ないのだろう。
王宮内の派閥とか別の大陸、ラウンジとの関係とかを考えるとその限りではないのかもしれないが。

それにしたって全くの放置というこの状況は不自然なものがある。
だからトソン君が来たのかもしれないが、クーが王宮を出てからだいぶ間があった。

ξ゚听)ξ「ま、そこは考えたって私らにはわかりようはないと思うんだけどね」

( ^ω^)「でも、クーは……」

ξ゚听)ξ「友達だから、でしょ?」

( ^ω^)「お……」

ξ゚ー゚)ξ「わかってるわよ。私だってあいつの友達だから、何かあったら手を貸すわ」

( ^ω^)「ありがとう、心強いお」

本来ならこういう時一番頼りになるはずのドクオさんが、クー絡みの話に関しては頼れないので、
ツンの言葉は本当にありがたい。

別にニューソク王家に正面からケンカを吹っかける真似をしたいわけではないが、
何かしらの思惑でクーが問題を抱える羽目になるのなら、微力ながらも力を貸したいとは思っている。

119 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 22:59:42 ID:eSCkcEbY0

(∪^ω^)「わんわんお!」

ξ゚ー゚)ξ「わんおも力を貸してくれるって」

( ^ω^)「ありがとうだお。期待してるお」

(∪*^ω^)「わんわんお!」

僕はわんわんおの頭を撫で、食器を片付ける。
そろそろお昼休みを終えて、午後の業務を開始しよう。

ξ゚听)ξ「じゃあ、私も畑の方に行こうかしら」

( ^ω^)「今日はツン1人かお?」

ξ゚听)ξ「トソンは教会よ。また何か壊してなきゃいいけど」

( ^ω^)「大雑把で済むものとか神聖魔法絡みの仕事をさせてくれるようにヒッキーさんには頼んであるお」

ξ゚ー゚)ξ「それでも、何かやらかしそうなのがトソンなんだけどね」

( ^ω^)「……あとでちょっと様子見て来ようかおね」

120 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:00:56 ID:eSCkcEbY0

冗談だと言うツンだが、僕にはあながち冗談には聞こえない。
無理を言ってヒッキーさんに頼んでいるのに、更に迷惑をかける事になっては申し訳ない。

ξ゚听)ξ「流石にトソンもそこまで不器用じゃ……無いとも言い切れないかしら?」

(;^ω^)「そこは無いって言い切ってくれお」

ξ゚听)ξ「冗談だってば。それじゃあね……っと、そうだ」

ツンがドアに手をかけた状態で立ち止まり、こちらを振り向く。

ξ゚听)ξ「このドアはどうするのよ?」

( ^ω^)「お……」

現在、トソン君が粉々に打ち砕いたサンライズの入り口のドアは、適当な板に取っ手を付けた程度の簡易のものだ。
これだと流石に防犯の面から見てよろしくないので、出かける時は魔法を仕掛けて出るようにしている。

( ^ω^)「暇な時に作り直すつもりだお」

いちいち魔法をかけるも手間だし、作りもみすぼらしいので近い内に作り直すつもりはあった。
ここ数日はトソン君のバイトの斡旋とかで時間を取られていたので、その暇が無かったが、
もうそろそろ作り直してもいい頃だろう。

121 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:02:35 ID:eSCkcEbY0

ξ゚听)ξ「材料はどうするの?」

( ^ω^)「買うって手もあるけど、これ以上2人の借金を増やすのもかわいそうだから採って来るお」

クーの借金に上乗せした代金は仮のものだ。
店のドアは魔法がかかっていたし、色々と魔法鉱石なんかも使われていてて凝ったものだったので、
同じレベルのものを新調するとなると確実に金額は上がる。

故に、それなりに丈夫だったはずなのだが、それを爆散させるトソン君はやはり強いのだろう。

ξ゚听)ξ「手作りなの? 作れるの?」

( ^ω^)「多分。このドア自体も、じいちゃんが作ったものだったし、作れるはずだお」

ξ゚−゚)ξ「あ……」

( ^ω^)「大丈夫だお。形ある物はいつか壊れるんだし、気にしてないお」

ツンは気の毒そうな顔をするが、それほど気にしていないのは本当の事だ。
この建物自体、じいちゃんが作った、作らせたものだけど、破損した箇所もあれば、
僕が使いやすいように直した場所もある。

想い出は大切だけど、それに引きずられる様な事はしたくない。

122 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:04:30 ID:eSCkcEbY0

( ^ω^)「トソン君には言っちゃ駄目だお? 多分、またものすごく謝られるから」

ξ゚听)ξ「……このお店、居心地いいわよね」

( ^ω^)「だお。僕は大好きだお」

ξ゚ー゚)ξ「私もよ。これからも大事に使わなきゃね」

(∪^ω^)「わんわんお!」

ツンは笑顔で手を振り、店を出ていった。
僕も笑顔でそれを見送る。

( ^ω^)「さてと、それじゃあ午後の営業の前に、ドアについて書いた本ないか探しておくかお」

(∪^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「わんおはここにいて店番頼むお」

(∪^ω^)「わんお!」

123 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:05:51 ID:eSCkcEbY0

僕は、わんわんおをカウンターの上に上がらせ、書庫に向かう。
ドアそのものの作り方について書いた本はないかもしれないが、板の強化や木の話なんかの記述くらいはあるだろう。

( ^ω^)「まあ、無かったらドクオさんのとこ行けば何とかなるおね」

ドクオさんの所にも蔵書はある。
結界魔法が得意なドクオさんが集めた本なら、似通った性質のドアの強化に必要な部分が載っている可能性が高い。

( ^ω^)「直接、ドクオさんが教えてくれれば話は早いんだけど……」

僕の魔法の師匠は、じいちゃんとその弟子であったドクオさんだ。
特殊なものはじいちゃんから習ったが、基本的な物はドクオさんから習ったのがほとんどだ。

しかし、ある時からドクオさんは僕に魔法を教えてくれなくなった。
その理由を聞いても、もっともらしい事を言って濁されただけであった。

( ^ω^)「もう教える事は無い……ってのは流石に嘘だおね」

僕の知らない魔法をドクオさんはまだまだいくつも知っている。
こないだの教会の魔法もそうだし、結界魔法に関しては僕は知識はあれどほとんど使えない。

124 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:06:47 ID:eSCkcEbY0

向き不向きもあり、それを見極め、自分で研鑽し、
新しいものを編み出して行くのが魔法使いの本分だとドクオさんは言った。

確かにそれは正しい。
しかし、僕はそこに不自然なものを感じてもいた。

( ^ω^)「師匠と呼ばせてもらえなくなったし……」

それについても理由がはっきりしない。
教える事がなくなったからだとドクオさんは言ったが、師弟関係なんてそんな簡単に切れるものじゃないと思う。

( ^ω^)「あの時は、ちょっと寂しかったおね」

じいちゃんとドクオさん、そして僕。
昔は3人で暮らしていた時もあった。
この魔法道具屋サンライズで一緒に暮らしていたのだ。

ドクオさんは仕入れとかでいない時も多々あったが、それでも僕らは一緒に暮らす家族であった。

しかし、じいちゃんが亡くなって、ドクオさんはここを出ていった。
その時にドクオさんに、もう師匠と呼ぶなと言われたのだ。

125 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:10:49 ID:eSCkcEbY0

( ^ω^)「でも、当初はちょくちょく様子見に来てくれたし、今でも昔と変わらない接し方はしてくれてるおね」

呼び方や住む場所は変わったが、僕とドクオさんの関係はさほど変わったわけでもない。
それでも少し寂しく思うのは何故だろうか。

( ^ω^)「わかってるお」

理由はきっとわかっている。
だから、それ以上は考えても仕方がないので考えない事にするのだ。

< ワンワンオ!

( ^ω^)「っと、お客さんだお」

わかってはいるし、僕には新しい家族も増えた。
今はそれを大事にして行こうと思う。

ツンとあんな話をしたから、僕はちょっとだけセンチメンタルな気分になってたのだろう。

( ^ω^)「さて、お仕事お仕事だお」

僕は急いでお店の方に戻る事にした。

126 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:13:15 ID:eSCkcEbY0

 〜 バーボンハウス前 翌日 〜


( ^ω^)「というわけでショボン、ちょっと手伝ってくれお」

(´・ω・`)「君はいつも唐突だね……。まあ、かまわないけど」

(∪^ω^)「わんわんお!」

(*´・ω・`)「よしよし、わんおちゃんも行くのなら、お弁当も用意しないとね」

翌日、僕は朝からバーボンハウスを訪れていた。
今日、ショボンが仕事を休みと聞いてドアの作成の手伝いを頼みに来たのだ。

(´・ω・`)「しかし、何でまた僕に」
つ∪^ω^)

( ^ω^)「ショボンが一番向いてるからだお」

(´・ω・`)「でも、木を切り出す所からやるんだよね? 力仕事なら僕より適役はいそうだけど」

( ^ω^)「いるにはいるけど、力加減の出来ないやつ多いんだお」

127 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:14:23 ID:eSCkcEbY0

ツンやトソン君なら、木を切り出す所までなら適役な気もするが、必要な部分までへし折ってしまいそうな危険性もある。
特にトソン君は、ドアの修理と聞いたら汚名返上とばかりに張り切り過ぎて、空回って更に名誉を返上しそうである。

ツンはそうでも無いのだが、別の理由で今日は来て欲しくなかったりするのだ。

(´・ω・`)「そういう事ならいいけど、今日は僕、教会に行くつもりだったんだけどなあ」

文句を言いつつも、手早く支度をしてバーボンハウスを出て来るショボン。
僕は再度礼を述べ、北東の森へ向かう。

( ^ω^)「神聖魔法に関して、こないだヒッキーさんからちょっと話聞いたんで、道すがらショボンにも教えるお」

(´・ω・`)「そりゃありがたいね。あとで僕のコモンマジックも見てもらっていいかな?」

( ^ω^)「任せろお。ついでにちょっと稽古に付き合ってやろうかお?」

(´・ω・`)「そのつもりで木剣も持って来てるよ」

相変わらずショボンは時間がある時は修行をしている。
多分、騎士学校に入れる程度の基本的な剣技は既に習得出来ているのではなかろうか。

128 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:15:32 ID:eSCkcEbY0

(´・ω・`)「入学試験自体はそれほど厳しくないらしいけどね。いきなり騎士団にとかならともかく、学校の方はね」

身元がはっきりしていて、一般的な身体能力があれば問題ないはずだとショボンは言う。
むしろ入ってからが大変で、その為に今の内に鍛えておく必要があると。

( ^ω^)「今度その辺もトソン君に聞いてみるといいお」

トソン君の素性はクーの事も含めると相当ややこしいので、一部の人にしか知らせていない。

もっとも聖騎士という言葉に食い付くであろうショボンには既に教えていた。
クーの素性は明かしていないし、トソン君の事も元聖騎士という曖昧な紹介だけだが。

(´・ω・`)「あー……、いや、それはもう聞いたんだけど……」

( ^ω^)「お?」

(∪^ω^)「わんお?」

(´・ω・`)「あの人、騎士学校行ってないらしくってさ」

( ^ω^)「おー、それはそれは……」

129 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:17:00 ID:eSCkcEbY0

騎士学校に行かずに騎士になるなら、相応の実力と、冒険者としての実績が必要だ。
トソン君は冒険者にはなった事はないらしいから、実力はともかく実績はないはずである。

となると考えられるのは、家柄であろう。
例外的に、高い家柄の人間なら騎士学校に行かずに騎士になった可能性はある。

もっとも、その場合は学校に行かずとも騎士としての常識や振る舞いを既に身に着けている事が前提ではあるが。
つまりトソン君は、子供の頃から騎士になるべく育てられて来たという所であろう。

(´・ω・`)「学校の雰囲気とか聞きたかったんだけど、まあ仕方ないかな」

学校の事は聞けなくとも、騎士自体の事はいくらでも聞けるだろう。
スペシャルはあれだったが、神聖魔法の事も僕よりは何倍も詳しい。
聖騎士を目指すショボンにとって、トソン君との出会いはこの上もなく幸運な事のはずだ。

     グルグル
(((^ω^∪三∪^ω^)))「わんわんお! わんわんお!」

( ^ω^)「こら、ここは町の外なんだから、あんまり離れちゃ駄目だお」

相変わらずわんわんおは元気いっぱい走り回っている。
話しながら歩く僕らがまどろっこしいのか、催促するようにこちらに吠えては走り出す真似をする。

130 名前:名も無きAAのようです:2012/03/05(月) 23:18:50 ID:eSCkcEbY0

(∪^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「これから作業しなきゃなんないんだから、今から疲れたくは……」

(*´・ω・`)「よーし、わんおちゃん、競争だね? 行くぞー!」

(∪*^ω^)「わんわんお!」

( ^ω^)「……ないんだけどなあ」

全てを言い終えるよりも早く、ショボンはわんわんおを追って走って行く。
目的地は告げているからはぐれる事はないだろうけど、後でちゃんと手伝ってくれるか若干不安である。

( ^ω^)「やれやれ……」

< ワンワンオ! マテー! アハハ!

( ^ω^)「……走りで僕に勝とうとは、100年早いお!」

僕は、わんわんおとショボンを追い、全速力で森を駆け抜けた。
137 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:04:58 ID:D9XkAUpo0

( ^ω^)「とーうちゃーく、だお!」

そんなこんなで、僕達は目的地である北東の森の東の奥に辿り着いた。
こちらは薬草採集ではあまり来る事はないが、モンスターもほとんど出てこないので、
ショボンはいつもこの近くで修行をしている。

(;´・ω・`)「君ってさ、基本的に大人気ないよね……」

額に汗を浮かべつつ、息の上がったショボンが姿を見せる。
僕に走りで勝負を挑むからそうなるのだ。
身の程というものを知れ。

(;´・ω・`)「いや、君、途中で明らかに魔法使ってたじゃん」

( ^ω^)「ええ、魔法使いですからね!」

僕は爽やかに敗者のクレームを聞き流す。
魔法使いが魔法を使わずして何の魔法使いというのだろうか。
むしろ、騎士がこの程度で根を上げていてはどうしようもないと思う。

聖騎士であるトソン君はずっと僕について来れたというのに。

138 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:07:08 ID:D9XkAUpo0

(;´・ω・`)「そう言われちゃうと、返す言葉もないけどさ」

〜(∪;´ω`)「わんわんおー……」

それから更に遅れて、ふらふらになりながらわんわんおが追い付いて来た。
飼い主を置いて行くからこういう事になるのだと言おうとしたが、我ながら少々やり過ぎたと思う。

( ^ω^)「がんばったおね。ほら、お水だお」

  ゴクゴクオ __
(∪;´ω`)\_/

僕は水を飲むわんわんおの横に腰を下ろし、しばしの休憩を取る。
ショボンは既に地面に寝っ転がっていた。

(´-ω-`)「あー、風が気持ちいいなあ……」

( ^ω^)「これから作業あるって事忘れんなお?」

(´-ω-`)「わかってるさ。少し休憩するだけだから」

( ^ω^)「ま、今日も天気はいいし、確かにこうやってると気持ちいおね」

139 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:08:18 ID:D9XkAUpo0

僕はショボンに倣い、地面に寝転がる。
わずかに吹く穏やかな風が汗ばむ身体に心地良い。

(´-ω-`)「ここはいい所だよね」

( ^ω^)「ヴィップは暮らすにはいい町だと思うお」
つ∪^ω^)

水を飲み終えて寄って来るわんわんおを撫でながら、僕はショボンの方を見ずに答える。
森の木々を縫って差す陽の光が程よく僕らを照らす。

(´-ω-`)「最近ちょっと考えるんだ……」

( ^ω^)「お?」

(´-ω-`)「騎士になる事」

ヒッキーさんが来てトソン君が来て、色々未知の事だらけだった騎士になる為の必要な話を聞けて、
これなら行けそうだという自信もだいぶ湧いて来たとショボンは言う。

騎士学校の入学試験はもうすぐだが、入る為のお金もずっと昔から貯めていて金銭的にも問題はない。
年齢的にはもう1年余裕はあるが、受けようと思えば今年受ける事も可能だ。
騎士になる事は夢物語ではなく、もう現実の延長線上にあるのだと感じていると。

140 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:09:20 ID:D9XkAUpo0

( ^ω^)「いい事じゃないかお。それはお前ががんばった結果だお」
つ∪*´ω`)「わんお〜……」

(´-ω-`)「ありがとう」

いつもの様な軽口は帰って来ず、神妙な言葉だけがショボンから紡がれる。
それの意味する所に、僕は何となく気付いていた。

( ^ω^)「怖いのかお? それとも……」

(´-ω-`)「……寂しいのか? そうだね、どっちも……、いや、寂しい気持ちの方が強いのかな?」

騎士の道を選んだ時にきっと浮かぶであろう、漠然とした将来の不安、そしてここを離れるという寂しさ。
ショボンはその2つの想い、特に後者を上手く処理出来ずにいるのだろう。

( ^ω^)「そういう気持ちになるのは当たり前だと思うお」

(´-ω-`)「うん、それに、今更な話だよね、わかってた事だし」

そう、今更の話だ。
けれど、つい最近まで現実感のない、ずっと先の話の様に捉えていた事が一気に現実味を帯びたのだ。
ショボンが戸惑う気持ちもわかる。

141 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:11:02 ID:D9XkAUpo0

僕が何か言うまでもなく、ショボンは既に何度も自問自答し、答えを出そうとしたのだろう。
それでもまだショボンは決め切れずにいる。

だからショボンは、どちらにでもいいから誰かに背中を押して欲しがってるんじゃないかと思う。

( ^ω^)「どっちを選ぼうが、僕は応援するっていつも言ってるお?」

(´-ω-`)「……どっちがいいと思う?」

( ^ω^)「それは聞いちゃ駄目だと思うお?」

しかし僕は、直接的に背中を押すような事はしないでおこうと思う。
相談には乗るが、最終的な決断は自分でやるべきだ。

自分の人生なんだし、なるべく後悔のないようにして欲しい。

(´-ω-`)「だよねえ……」

(´-ω-`)「ごめん、馬鹿な事聞いたね。ちょっとナーバスになってるのかな」

(∪^ω^)「わんお!」

142 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:12:14 ID:D9XkAUpo0

( ^ω^)「気にすんなって、わんおも言ってるお」

(´・ω・`)「フフ……、ありがとう、わんおちゃん。ブーンもね」

うつぶせに体勢を変え、上体を起こしてわんわんおの方に手を伸ばすショボン。
僕はわんわんおをショボンの方に軽く押しやった。

(*´・ω・`)「ここを離れるとなると、わんおちゃんとお別れになるのがなあ……」
つ∪^ω^)

( ^ω^)「騎士になると、自分で犬飼えるかもしれないお?」

(´・ω・`)「そういう問題じゃないんだけど……あ、その時はわんおちゃんを僕にくれる?」

( ^ω^)「家族を渡せるわけないお」

(´・ω・`)「冗談だよ。いや、気持ちは本気だけどさ」

( ^ω^)「まあ、もしお前が王都に行くなら、遊びに行く時はわんおも連れて行くお」

(´・ω・`)「うん、よろしく頼むよ」

143 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:13:36 ID:D9XkAUpo0

ショボンは立ち上がり、作業を始めようと提案してくる。
僕も立ち上がり、頷こうとしたが、ショボンがまだ迷っている様なので、
その前にあちらの方を先に済ませておこうと思う。

( ^ω^)「その前にショボン、覚えてるかお?」

(´・ω・`)「何をだい?」

(∪^ω^)「わんお?」

( ^ω^)「子供の頃、僕らとツンと3人でこの辺までよく遊びに来たおね」

(´・ω・`)「ああ、勿論覚えてるよ。覚えてたからこの辺が安全って事でここで修行してるんだし」

( ^ω^)b「じゃあ、あれも覚えてるかお?」

(´・ω・`)「あれ?」

( ^ω^)σ「あの木だお」

ショボンは僕が指差す先、一際大きな木の方に目を向ける。
僕らが子供の頃は、よくあの木の周りで遊んでいた。

144 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:15:24 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「遊んだねえ。あの木に登ってブーンが落ちたり、紐でブランコ作ったらブーンの時に紐が切れたり」

(;^ω^)「そんな事あったっけかお? つーか、よくそんな変な事まで覚えてるおね」

(∪^ω^)「わんわんお」

(´・ω・`)「君が少し忘れ過ぎな気はするけどね。しかし、また1つ思い出したよ。君が言いたい事はあれだろ?」

そういってショボンは木の根元を指差す。
どうやらショボンも覚えていたらしい。
昔あの木の根元にタイムカプセルを埋めた事を。

(´・ω・`)「懐かしいな。あれ、誰が言い出したんだっけ?」

( ^ω^)「あんまり覚えてないけど、そういう話を誰かに聞かされて僕達もやってみようってなったような」

(´・ω・`)「そんな感じだったかな?」

( ^ω^)「というわけで、あれ掘り出してみないかお?」

(´・ω・`)「何で急に? ……そういえばあれ、いつ掘り出すって決めてなかった気がするな」

( ^ω^)「何でって、ショボンにとって丁度いい機会じゃないかお?」

145 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:16:58 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「僕にとって?」

ショボンは僕の言葉に首を傾げて考え込む。
どうやらタイムカプセルに何を入れたか思い出さないようだ。
僕もあんまり覚えていないのだが、1つだけ入れたものを覚えていた。

( ^ω^)「あの時、将来何になりたいかを紙に書いて入れたお?」

(´・ω・`)「ああ……そういえば……」

それが何で自分に関係あるのかと言いたげだったショボンだが、すぐに僕の意図を察してくれた様だ。
自分が何を書いたかすら覚えていないが、だからこそ自分の気持ちを見詰め直すいい機会じゃないだろうか。

(´・ω・`)「君にしてはいい考えかもしれないね」

( ^ω^)「これで全然違うこと書いてたら笑うしかないけど、まあ、見てみても損はないお」

(´・ω・`)「そうだね。しかし、それならツンも誘うべきだったんじゃない?」

( ^ω^)「……ツンは多分、自分のは素直に見せてくれないと思うんだおね」
147 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:18:08 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「まあ、ツンなら有り得るね。……書いてる事があの事なら確実に」

( ^ω^)「あの事?」

(´・ω・`)「ああ、気にしないで。で、何でツンに内緒でツンの将来の夢を知りたいのかな?」

僕はショボンに、ニゲット山へ向かう馬車の中でツンと話をした事を説明する。
ツンが本当になりたいものを押し隠し、今の生活をしているのではないかという危惧も含めて。

(´・ω・`)「うーん……それはどうだろうな」

( ^ω^)「でもツン、クエスト中はすごく生き生きしてるんだお? きっと冒険者になりたいと思うんだおね」

(´・ω・`)「いや、それは……まあ、君ならそう思ってもしょうがないか」

( ^ω^)「お?」

(∪^ω^)「わんお?」

(´・ω・`)「うん、わかった掘ってみようか」

( ^ω^)「そう来なくっちゃだお!」

148 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:20:39 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「ただし、ツンのを勝手に読んだら確実に殴られる事は覚悟しておかないと」

( ^ω^)「元より2、3発は殴られる覚悟だお!」

(´・ω・`)「まあ、僕はブーンが無理矢理……って言い訳するけどさ」

(;^ω^)「友達甲斐のないやつだお」

僕達は大木の根元に向かい、生めた場所の大体の見当を付ける。
所詮は子供の遊びだ。
それほど深くは掘っていないだろう。

( ^ω^)「確か、鉄の箱に入れたはずだから、魔法で探査も出来るはずだお」

(´・ω・`)「僕もそんな記憶あるよ」

( ^ω^)つ\「というわけで、恐らくこの辺だお」
           ゚''
(∪*^ω^)「わんわんお! わんわんお!」

( ^ω^)「おー、ここ掘れわんわんおだお」

149 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:21:45 ID:D9XkAUpo0

僕達が掘り出すと、わんわんおが一緒に掘り始めた。
流石犬というべきか、なかなかの速さである。

(*´・ω・`)「よーし負けないぞー。わんおちゃんが危ないからこっちの小さなスコップで掘ろうか」

( ^ω^)「穴掘りブーンと呼ばれた僕に敵うと思ってるのかお?」

(;´・ω・`)「いや、そんな風に呼ばれた事ないでしょ?」

(∪*^ω^)「わんわんお! わんわんお!」

( ^ω^)「掘って掘って掘りまくるお!」

それから3人で座ってひたすら穴を掘り続けた。

(∪*^ω^)「わんわんお! わんわんお!」

(*´・ω・`)「よっ、はっ、とっ」

( ^ω^)「おっおっお」

150 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:23:05 ID:D9XkAUpo0

ひたすら穴を掘り続ける。

(∪^ω^)「わんわんお! わんわんお!」

(´・ω・`)「よっ、はっ、とっ」

( ^ω^)「おっおっお」

ひたすら穴を掘り続ける。

(∪;^ω^)「わんわんお わんわんお」

(;´・ω・`)「よっ、はっ、とっ……」

(;^ω^)「おっおっお……」

ひたすら穴を……

(∪;^ω^)「わんわんお……わんわんお……」

(;´・ω・`)「よっ……、はっ……、とっ……」

(;^ω^)「おっおっ……って、いや、流石に深すぎないかお?」

151 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:24:27 ID:D9XkAUpo0

そう思って再度探査魔法をかけてみるも、未だに地中を指し続けている。
場所が間違っていないという事は、更に深い位置にあるという事になる。

ひょっとしたら、この下に巨大な鉱石が眠っていて、そっちを指している可能性もあるが、
この辺りで鉱石が採れるという話は聞いた事がない。

(∪;´ω`)「わんわんお……わんわんお……」

(;^ω^)「何で……こんなに……深いんだっけかお?」

(;´・ω・`)「そんなの……僕に……言われても……あ……」

(;^ω^)「お?」

(;´・ω・`)「穴が深い理由思い出した。ツンだよ」

ショボンの話では、張り切り過ぎたツンがものすごくは深い穴を掘った覚えがあるという。
そう言われればそんな事もあったような気がするが、これを埋めた当時僕らはまだ7つぐらいだった。
そんな子供にこれほど深い穴が掘れたのかと疑問はあるが、現に深いのだからしょうがない。

(;´・ω・`)「覚えてない? いざ、埋めようって時に深過ぎてどうしようって話になってさ」

152 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:25:57 ID:D9XkAUpo0

(;´・ω・`)「君が穴に落ちて、タイムカプセル置いたはいいものの、上がれなくなって……」

(;^ω^)「ああ、何かうっすらと思い出して来たお。主にあの時の恐怖を」

確かツンが段階的に埋めてって、少しずつ上がってくればいいじゃないとか言い出して、
ものすごい勢いで土を穴に放り込み始めて僕が埋められかけたのだ。

最終的に僕らの帰りが遅いと探しに来たドクオさんに助けてもらって事無きを得たのだが、
あの時は本当に出られないんじゃないかと思って怖かった。

(∪;´ω`)「わんわんお……わんわんお……」

(;´・ω・`)「あの頃のツンって、ものすごくやんちゃだったよね」

(;^ω^)「だったおね。今も結構やんちゃだけど」

(∪;´ω`)「わんわんお……わんわんお……」

(;´・ω・`)「君の側ではそうかもしれないけど、普段は結構……って、わんおちゃん、もういいから!」

ひたすら無心で掘り続けるわんわんおだが、最初の勢いはもうどこにもない。
よくがんばってくれたが、流石に限界だろう。

153 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:27:11 ID:D9XkAUpo0

(;^ω^)「わんお、もう休んでるお。つーか、この掘り方止めて大きなスコップと魔法使って……」
      コツン
(∪;´ω`)「わんわんお……わんわん……お?」

(;^ω^)「お?」

(∪;^ω^)「わんわんお! わんわんお!」

急に元気になり、掘るスピードを上げるわんわんお。
何事かと考えるより早く、わんわんおが何かを掘り出した。

(∪*^ω^)□「わんわんお!」

(*^ω^)「それだお! でかしたお、わんお!」

(*´・ω・`)「わんおちゃん、偉い!」

僕達は穴から出て、わんわんおに水を与えて休ませる。
よほど疲れていたのか、わんわんおは水を飲むとすぐに眠ってしまった。

(∪*´ω`) zzz

(´・ω・`)「さて、それじゃあ……」

( ^ω^)「開けてみるかおね」

154 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:29:19 ID:D9XkAUpo0

タイムカプセルは10年ほど埋まっていた割には損傷も見られず、錆などもない。
あの時は深く考えなかったが、箱を用意してくれたドクオさんが何かしら魔法を施してくれていたのだろうか。

( ^ω^)「中も綺麗な……何だお、この乾燥した葉っぱは?」

(´・ω・`)「君が入れた薬草じゃないかな?」

(;^ω^)「そんなの入れたっけかお?」

そんなものを入れた覚えはなかったが、ショボンが言うのならきっとそうなのだろう。
それ以外にもよくわからない石ころや金属片、得体の知れない真っ黒な何かなど、
いかにも子供の発想らしいものがいくつも入れられていた。

(;^ω^)「何だろうかおね、この黒いの?」

(;´・ω・`)「何だっけかなあ……」

しばらく考えてみるも、思い出したキーワードが、ツン、料理、悶絶というような、
何か思い出してはいけないものな気がして来たので思い出すのは諦めた。

( ^ω^)「それよりも本題だお。どこかに手紙らしきものはないかお?」

155 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:31:26 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「それなら多分、これだろうね」

いつの間にかショボンの手の中に、3つの折り畳まれた紙が握られていた。
ショボンはその内の1枚を開いて目を通す。

(;^ω^)「ちょ、自分ばっか先に見るなお。それ誰んだお?」

(´・ω・`)「ふむ……ああ、はいはい……」

(;^ω^)「気になるお。僕にも見せて──」
    ビリッ
(´・ω・`)「あ……」

(;^ω^)「ちょ、何やってんだお? 破くなお! 大事に扱えお!」

(´・ω・`)「大丈夫だよ。端っこの方がちょっと破れただけだし」

(´・ω・`)「それよりこれ、ツンのだよ。見たいんだろ?」

そういってショボンは僕に紙を手渡す。
言葉通り、破れたのは紙の下の方の一部だけのようだ。

156 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:32:58 ID:D9XkAUpo0

(*^ω^)「さてさて、ツンの夢は何だったっけかお」

(´・ω・`)「……君、勝手に見る罪悪感とか一切ないんだね」

(;^ω^)「お、お前も見たじゃねえかお。それに、これはツンの為を思って……」

(´・ω・`)「冗談だよ」

嫌なタイミングで見辛くなる事を言うショボンだが、実際これはツンの為でもある。
ツンが何かしら自分を押し殺し、夢を諦めているのだったら相談に乗るぐらいはしてあげたい。
その為にも昔のツンの夢を僕は知っておきたいのだ。

決して面白い事が書いてあるのを期待して、それをネタに弱みを握ろうというわけではない。
断じてない。

(´・ω・`)「何でもいいから早く読みなよ」

(;^ω^)「わかってるお。別に疾しい気持ちはこれっぽっちもないお」

僕は、意地の悪い笑みを浮かべるショボンから視線を外し、紙に目を落とす。

157 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:34:45 ID:D9XkAUpo0


             _      _  _
       ─┼─ / /     |─| |─|     ─┬─
        /|\   メ      | ̄   ̄ |     -┼-
         |   ノ \    | 豆寸. |       │
         |    口     |       |    -─┴─-


                             |
                             人
                           /  \
                           |    |
                 ξ*゚ー゚)ξノ⌒).(^ω^) | ← さんどばっぐ
         わたし →  と    と /`´⊂    ⊃
                    )  / バキッ!.     |
                   ( /    |     |
                  (,,ノ        ̄ ̄ ̄ ̄



( ^ω^)「……え?」

158 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:35:59 ID:D9XkAUpo0
    ゴシゴシ
( ∩ω∩)"「あれ、何か予想と全然違う変な文字が見えたような……」

( ^ω^)「多分、見間違いだおね。女の子の夢が格闘王とかあるわけないお。どれどれ……」

再び紙に目を落とすも、そこにはやはり子供らしい下手な文字で大きく書かれた格闘王の文字がある。
ご丁寧に恐らくツンであろう女の子がサンドバッグに蹴りを入れているイラストまで描かれている。

何故かサンドバッグが毎朝見ている誰かに似ている気がするのだが、それも気の所為だと思いたい。

(;^ω^)「いや、格闘王ってあんた……それ、小さな女の子の夢じゃないだろ」

(;^ω^)「てか、よく格闘王なんて難しい漢字知ってたおね」

だからといって冒険者というのもどうかと思うが、格闘王はあんまりだと思う。
いくら武術道場の娘とはいえ、あまりにこれは小さな女の子の夢とは思い難い。

(;^ω^)「あっれー? これ、僕はどうすればいいんだお?」

(´・ω・`)「いや、知らんがな」

予想を遥かに越える事態に、僕は混乱し切っていた。
取り敢えずわかった事は、ツンは別に夢を諦めたわけでもなければ変えたわけでもないのだろうという事ぐらいだ。
格闘王はともかくとしても、ツンは日々強くなる為に修行をしているのだし。

159 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:37:25 ID:D9XkAUpo0

(;^ω^)「えーっと、じゃあ、僕はツンに対して出来る事はないって事かおね?」

(´・ω・`)「うん、まあ、そうかもしれないけど……」

ξ  )ξ ユラリ…

(;´・ω・`)「サンドバッグにはなれるんじゃない?」

(;^ω^)「へ?」
       ポンッ
ξ^竸)ξつ(;^ω^)!?

(;゚ω゚)「ツ……、いや、違うお! これは、その、あの……」

ξ#^竸)ξ∩「あら、こんな所にいいサンドバッグが」

(;゚ω゚)「NOOOOOOOOOOOO!!!」

いつの間にか背後に立っていたツンから、逃げる間もなく電光石火の一撃をボディに食らい、その場に崩れ落ちる。
弁明しようと口を開こうとするが、今の一撃で呼吸が苦しく、言葉を発する事が出来ない。

160 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:39:02 ID:D9XkAUpo0

ξ#゚听)ξ「全く……なに勝手なことしてくれてんのよ……」

(;゚ω゚) パクパク……

(´・ω・`)「その位にしてあげてよ。一応、ブーンもツンの為を思ってした事なんだから」

ξ#゚听)ξ「何言ってんのよ? あんたも同罪よ、ショボン? 大体……」

(´・ω・`)「はい、これ」

ξ゚听)ξ「何よ、これ? 紙? 何の……」

ξ///)ξ「!?」

(;゚ω゚)「?」

ショボンがツンに何かを手渡すと、ツンの動きがピタリと止まった。
鈍痛で意識朦朧の僕には何が起こっているのか全く理解できない。

ξ///)ξ「あ、あんたこれ……」

(´・ω・`)「大丈夫。見てないよ、僕しかね」

161 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:40:04 ID:D9XkAUpo0

ξ;゚−゚)ξ「そ、そう……それじゃあ……」

(´・ω・`)「取り敢えず、この辺で許してくれるかな? 僕も、ブーンも」

ξ;゚听)ξ「クッ……ま、まあ、いいわ。ただしこの事は……」

(´・ω・`)「わかってるよ。サンドバッグのおyξ#゚听)ξ「それ以上言ったら記憶がなくなるまで殴るわよ?」

∩(´・ω・`)∩「やれやれ……了解了解」

何だかよくわからないが、ショボンがツンの怒りを静めてくれたようだ。
これ以上のお咎めはないらしい。

( ^ω^)「それで、ショボンのは何て書いてあったんだお?」

ようやく呼吸の整った僕は身を起こし、ショボンに尋ねる。
本当は今の流れの事を尋ねたかったが、ツンの無言の圧力でそれは断念した。

(´・ω・`)「これから読むよ」

そう言ってショボンは1枚の紙を開き、それに目を落とす。
僕もツンも、何も言わずにそれを見守った。

162 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:41:57 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「……フフッ、なるほどね」

( ^ω^)「何て書いてあったんだお?」

(´・ω・`)「それは内緒かな」

ショボンは紙を大事そうに再び折り畳み、自分の懐に仕舞った。

ξ゚听)ξ「何よそれ? 他人の勝手に見て、自分のは内緒って」

(´・ω・`)「まあ、いいじゃないか。それほど面白い事は書いてなかったし」

そう言うショボンだが、先ほどは明らかに笑っていた。
しかし、何だか少し晴れやかな顔をしているショボンを見て、僕はそれ以上聞くのは止めにした。

( ^ω^)「少しは役に立ったかお?」

(´・ω・`)「うん、ありがとう、ブーン。それにツンもね。勿論、わんおちゃんも」

ξ゚听)ξ「私は何もしてないわよ?」

(∪*´ω`) zzz

163 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:43:26 ID:D9XkAUpo0

(´・ω・`)「君達はいてくれるだけでいいのさ。僕にとっては、それだけで……」

(´・ω・`)「ここが僕の居場所で、帰る場所で……」

( ^ω^)「ショボン……」

ショボンは僕らに背を向け、大木を見上げる。
その表情は窺い知れないが、その背は紛れもなく僕が知るショボンの姿だ。
幼い頃から見続けて来た、僕の親友であるショボンの。

(    )「だから僕は、どこにでも行ける」

(    )「ブーン、ツン、僕は騎士になろうと思う」

( ^ω^)「お……」

ξ゚听)ξ「いいの、それで?」

( ´・ω)「うん、決めたよ。それが僕の夢の一部だから」

振り向いたショボンの顔は、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。
一点の曇りもない、無邪気な子供の様な笑みだった。

164 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:45:22 ID:D9XkAUpo0

ξ--)ξ「そう。それなら私からは何も言う事はないわ。がんばりなさいよ」

( ^ω^)「ショボンがそうすると決めたなら僕は応援するお。がんばれお」

(´・ω・`)「ありがとう。今日にでも父さんに話してみるよ」

僕らはショボンの決断を受け入れ、素直にそれを歓迎した。
それから僕らは日が暮れるまで、子供の頃の思い出を語ったりして時を過ごした。

(´・ω・`)「さて、そろそろ帰らないとね」

ξ゚听)ξ「もうだいぶ日が落ちて来たわね」

( ^ω^)「何だか子供の頃に戻ったみたいで楽しかったお」

(∪*^ω^)「わんわんお!」

その代わりに全くドアの製作作業に取りかかれなかったが、それはまた今度にしようと思う。
こうやって皆で話せる機会も今後は減るのだろうし。

ξ゚听)ξ「そういえばあんたの夢って何が書かれてたのよ?」

165 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:47:44 ID:D9XkAUpo0

(;^ω^)「お、そういえばすっかり忘れてたお。ショボン」

(´・ω・`)「うん、僕も忘れてた。はい、これ。こっちは僕もまだ見てないよ」

僕はショボンから紙を受け取り、恐る恐るそれを開く。
正直、何と書いたか全く覚えがない。

ξ゚听)ξ「まあ、魔法使いか魔法道具屋かでしょ」

(´・ω・`)「どうかな? ブーンの事だし、もっと変な事書かれてるかもね」

ξ゚听)ξ「あり得るわね」

(∪^ω^)「わんおー」

ξ゚听)ξ「でも、いくら変な事っていっても、薬草なんてベタな事書かれてたら取り敢えず殴ろうかと思う」

(;^ω^)「そこ、うるさいお! てか、いくら子供でもそんな変な事書かないお」

僕は馬鹿にした視線を向けてくるツンを無視し、開いた紙に目を落とす。
そこに書かれていたのは……

166 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:49:24 ID:D9XkAUpo0

    ─┼─       |          \__ ヽヽ  |   |
      |    ヽ    |   ──    ̄ \_      レ  |
    / | ̄ ̄\     |           ̄ \         |
    \ |   /     レ  ──    ヽ__       ノ


                    /⌒ヽ
                  (*^ω^*)
                   o   o
                      し--J


( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「ブーン?」

(´・ω・`)「何て書いてあったんだい?」

(∪^ω^)「わんおー?」

ツンとショボンは、僕の返事を待たずに僕の手元の紙を覗き込む。
2人は顔を上げると、何ともかわいそうなものを見る目で僕の方へ視線を向けた。

167 名前:名も無きAAのようです:2012/03/06(火) 23:52:09 ID:D9XkAUpo0

ξ゚听)ξ「まあ、人の夢なんて好き好きだから……」

(´・ω・`)「うん、そういう夢もありなんじゃないかな……」

( ^ω^)「……何で僕、こんな事書いたんだおね?」

ξ゚听)ξ「……お腹でも空いてたんじゃない?」

(´・ω・`)「……ブーンはおにぎり好きだったよね」

( ^ω^)「うん、おにぎり美味いおね……」

(∪^ω^)「わんわんお!」

僕は、何とも言えないやるせない気持ちで2人の言葉に頷き、紙を折り畳んで懐に仕舞う。

幼きあの日に見た夢が何であったのか、僕にはまるで覚えはないが、
取り敢えず今日の晩ご飯はおにぎりにしようと心に誓った。



     第十五話 幼き夢は今も僕らに 終

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