6 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 22:57:30.05 ID:nHhnsz/cO
〜track-ε〜

━━血だら真っ赤で腕を振り、“それ”は数秒前まで人間“だったモノ”を壁に叩きつけた。

(  )「あらあら…こんなにぐちゃぐちゃにしちゃって…随分と乱暴なのね」

暗がりから滲み出た野太い声に、“それ”は振り返る。

(  )「あんたも随分酷い顔よ。まさに修羅って感じ。おぉ怖い怖い」

闇夜の帳。真闇の路地裏。
響くのは、飄々とした声と荒い息づかいの二つ。
光が無いのは神の慈悲か。凄惨たる人肉の湿地を照らすものは無い。

(  )「そんなに、彼らが憎いの?ねぇ?」

答えの代わりにかえってくるのは、暗く狂気を湛えた眼孔。

(  )「わかんないわね…たかが男一人の為に…あんた、相当狂ってるわ」

翻る銀線。断ち切られる空気。

(  )「……悪かったわよ。だからその物騒なものを閉まってちょうだいな。えぇ」

狼狽。今までに幾たびの密会を重ねてきた中で、“声”が初めて見せた狼狽だった。

血臭の濃さも、殺意の唸りも、何時もとは違う。何時もより、尚酷い。

変化が訪れる予兆か。

7 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 22:59:53.66 ID:nHhnsz/cO
(  )「……まぁ、あんたのそのトチ狂った復讐劇も、そろそろ終わりが見えて来たわよ」

淡々とした“声”が告げる、終局。

(  )「“あの書類”が綾瀬に渡ったことで、あたしたちも彼女たちを潰す口実が出来たわ。後は黙ってても、全て上手くいく」

ぼそぼそと尋ねる狂人。

(  )「…えぇ。そっちの根回しも完璧よ。あんたの言うとおりにしたわ。あたし達の会社にかかれば、あんなところ買収するのもわけないわよ」

得意気に、しかし気だるげに返す“声”。
満足気に、しかし飢えたように口の端を釣り上げる“狂気”。
10 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:02:17.18 ID:nHhnsz/cO
(  )「…それで、これが今日の分のオクスリ」

“声”が懐から出した“それ”。

瞬間、閃く銀線。

(  )「っ━━!?」

身を翻すも時既に遅し。
“それ”は差し出した手首ごと真闇の中に消え、残ったのは赤黒い断面をさらす傷口のみ。

(  )「━━あの……ガキィィ……!」

押し殺したうめき声が孕むのは怒気と。

(  )「……“アレ”も、あまり長くないわね」

微かな憐れみだった。
13 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:05:05.77 ID:nHhnsz/cO
 ※ ※ ※ ※

━━煙草の自販機に伸びそうになる指を何とか引き戻し、オレは本日何度目かの溜め息をついた。

('A`)「…いかんですよ、ドクオ君。もう煙草に依存するのは止めにするのです」

夕暮れのラウンジ区。ロイヤルガードVIP支部。純白の積層ピラミッド状の建物の巨大な影の中に沈む、中庭。
後ろ髪引かれる思いで自販機に背を向けるも、落ち着かない。

('A`)「……無我だ。心を無我に保つのだ」

プロボディーガードライセンスの試験が終了してから、二時間とちょっと。
予定では、そろそろその合否が携帯端末に送られてくる時間なのだが……。

('A`)「試験結果は、合格通知の送信を持って変えさせて頂きます…とかだったりして」

まさかな。合否を問わず、必ず結果は送信すると試験官のおっさんも言ってたし。

('A`)「…もう、この際不合格だっていい。早く楽にしてくれ」

不安と期待と長い時間が、オレを生殺しにする。
高校受験の時だって、こんな気持ちにはならなかった。
15 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:06:53.71 ID:nHhnsz/cO
('A`)「でも、出来るなら合格通知をお願いします。いや、絶対に合格通知をお願いします」

この1ヶ月、死に物狂いで勉強した。
泥棒市で、過去問題の違法データチップまで買って、勉強した。
白兵戦用シミュレーターや、市街戦用シミュレーター、銃撃予測シミュレーター、までダウンロードして、情報端末(ターミナル)にかじりついた。

合格したかった。何が何でも合格したかった。

('A`)9m『オレ必死だなwww』

一年前のオレが今のオレを見たら、確実にそう言うだろう。
笑いたければ笑えばいい。好きなだけ嘲笑すればいい。
オレは、“お前”とは違う。

てめぇの事しか考えてない“お前”には解らんだろうよ。

オレには守らなきゃいけない人が居る。どんなことをしても、絶対に、彼女だけは守り抜かなければいけない、そういう人が居る。

だからオレは盾を持たなければいけない。盾を持てるようにならなければいけない。

('A`)「…絶対に、落ちるわけにはいかないんだよ」
18 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:13:14.66 ID:nHhnsz/cO
……なんて綺麗事を抜かしてみたものの、実際はただ“不安”なだけだ。

ツンという女は、オレにとってはあまりにも不釣り合い過ぎる。

どうして、彼女がオレみたいな男を選んだのか。彼女は本当にオレを愛しているのか。

こんなこと、彼女の前では口が裂けても言えないが、オレは常に不安だったんだ。

何か、彼女に愛されているその由縁が。彼女に愛されている男だという“理由”が欲しかった。

だから、この試験を受けた。だから、落ちるわけにはいかない。

('A`)「我ながら最低な理由だな」

裏を返せば、彼女を信じていないとも言えるだろう。

それでも、彼女を守りたいという気持ちは嘘でないから。

(;-A-)「頼む…頼むから…!」

オレは目を閉じ、何かに祈る。

どうか、オレに彼女に愛される資格をと、一心に祈る。

そんな姿を哀れと思ったのだろうか。

(;-A-)「んっ…!?」

軽快な電子音と共に、携帯端末が神の託宣を告げた。

19 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:15:19.65 ID:nHhnsz/cO
 ※ ※ ※ ※

━━夕闇の兆しが見えてきた、ニーソクの街頭。
悪徳と血溜まりの上に胡座をかいた狂人達が行き交う、橙に染まった路地。
雑居ビルの乱立する猥雑な小路の中、オレはその邸宅を睨み付けていた。

(,,゚Д゚)「……ここか」

ニーソクの煤けたビルの林の中、そこだけが枯れ山水を気取る、古き日本の様式上に成り立った和風建築の平屋。
綾瀬組、頭目、綾瀬剛蔵が本宅。情報屋にあれだけの金を払ったのだ。間違いない。

(,,゚Д゚)「……高崎…美和」

狙うは、その内縁の妻。“女郎蜘”。元凶にして仇。

(,,゚Д゚)「……これで、終わりだ」

炭色のトレンチコートの襟を立て、脊髄鞘の得物の感触を確かめる。

これで終わり。

本当に終わるのだろうか。いや、恐らくはこれが“始まり”だ。

ここを踏み出せば、もう後には戻れない。

オレは未来永劫と続く復讐劇の中に身を投じる事となる。

二度と、あの日溜まりの中で“彼女達”と笑い合う事は出来ないだろう。
23 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:18:12.26 ID:nHhnsz/cO
(,,゚Д゚)「……はっ、所詮オレは闇の住人よ。だったらこんな生き方の方が相応しいというものだ」

幼い頃より握ってきたのは刃。
もめ事を解決する術など、この研ぎ澄まされた牙より他のものなど知らぬ性分。

(,;゚Д゚)「…ぐっ…ぬっ…ぅぅおぉ…」

それに、オレは既に引き返せない場所に足を踏み入れてしまっている。

(,;゚Д゚)「あ…はぁ…はぁ…はぁ…」

懐の小瓶を取り出し、震える手でそれを開ける。
六角形の錠剤は、“獣の餌”。

24 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:20:14.49 ID:nHhnsz/cO
(,;-Д-)「……“畜生”以下だな、オレは」

脳幹の神経加速装置(イグニッション)に全身の人工筋肉置換、ケミカルセラミックの内骨格。皮膚という皮膚は特殊カーボネイドの強化外骨格。
“ヒト”を捨て、“マンマシン”となった代償は月並みにも“理性”ときたものだ。

(,,゚Д゚)「……いずれは、コレに尻尾を振るようになるわけだ」

忌々し気に睨み付ける“獣の餌”。
涎を振りまき、それにむしゃぶりつく我が未来を幻視して。

(,,゚Д゚)「……その前に…」

オレが、狂犬になる前に。

オレが、“黒狼”である間に。

(,,゚Д゚)「必ず…ケリをつける」

決意の言葉は、宵闇の中に染み込んだ。
27 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:23:53.12 ID:nHhnsz/cO
 ※ ※ ※ ※

━━母国語を聞いたのは何年ぶりだろうか。それでも、それを素直に懐かしいと思えない自分が居る。

ξ゚听)ξ「……」

ぼんやりと、そんな事を考えながら今では通い慣れた14番街の裏路地を歩く。

━━“君のお父上が、是非とも君に会いたいそうだ”

“いや、些か語弊が有るかな。君を、自分の会社で働かせたいと。そう言っておられた”

ξ゚听)ξ「……ふざけてる」

ブラウナウバイオニクス社の者と名乗る男と会ったのは、オフィスビルが立ち並ぶラウンジ区の帝国ホテル、その最上階のレストランの中だった。

昼過ぎに指定された席に着いた私を出迎えたのは、灰色の髪を刈り込んだ中年のドイツ人男性。

世間話から始まったランチタイムが本題に移り変わるにつれ、私は戸惑いを覚えずには居られなかった。

ξ゚听)ξ「……ふざけてるったらないわ」

君の仕事ぶりは聞いている。未だに失敗無しと言うじゃないか。
君のお父上も、孤児院に預けたことを悔やんでいるそうだ。
どうだい?一度、ドイツに帰ってみる気はないかい?

28 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:26:24.66 ID:nHhnsz/cO
ξ )ξ「私を…馬鹿にしてるの?」

建て前も何もあったものではない。

“使える殺し屋が欲しいから、うちの会社に来ないか?”

現金過ぎて、苦笑すら浮かばない。

ξ#;;)ξ「馬鹿にしないでよ!」

華奢な拳でビルの煤けた壁を叩く。
鈍い痛みは、拳のそれだけではなかった。

ξ;;)ξ「何年間も手紙すら寄越さないで…自分が出向くわけでもなく…挙げ句、腕を見込んで雇いたいだなんて…」

私は…私は…。

29 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:28:24.74 ID:nHhnsz/cO
ξ#;;)ξ「あんたの玩具じゃ無いのよ!」

癇癪を起こしたように、壁を打つ。

何度も、何度も、何度も、何度も。

ξ#;;)ξ「私は!私は!私は!私は…!」

やがて、拳がその痛みに耐えられなくなると、へたり込んで今度は啜り泣く。

ξ;;)ξ「私は…私は…私は…」

お前は“娘”になれないからと捨てられた。しかし殺し屋としてならと、拾いに来て。

ふざけている。馬鹿にしている。人の事を、ただの道具としてしか見ていない。

30 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:30:31.62 ID:nHhnsz/cO
確かに、私はこの何年もの間、お父様と再び会うためにと銃の腕を磨いて来た。

お父様に会いたいと言う気持ちも嘘じゃ無い。

けれど。けれど。

ξ;;)ξ「そんなのって…無いわ」

クローンか。私がクローンだからか。私が“駒”としか見られて居ないのは、“人間”じゃないクローンだからか。

ξ;ー;)ξ「……ふっ」

あぁ、そうか。つまり、そういうことか。

ξ;ー;)ξ「あはっ…あはは…あはははは…」

悔しいな。それじゃあどう足掻いたって、私はお父様の娘になれないんだ。

悔しいな。それでも私は、お父様のことが嫌いになれないんだ。

悔しいな。本当に悔しいな。

ξ;;)ξ「…どうすれば…いいのよ」

ドイツに行きたい。もしかしたら、とそんな淡い希望を抱いてしまう自分が憎らしい。

でも、それはどっくんを置いていくという事になる。

そんなの、嫌だ。どっくんの側を離れるなんて、考えなられない。考えなられないけど……。

31 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:33:44.01 ID:nHhnsz/cO
ξ;;)ξ「わかんない…わかんないよ……」

私はどうしたらいいの?

そんなの分かりきってる。

ドイツに戻ったところで、お父様が私を“娘”として受け入れてくれるわけなんか無い。だったらどっくんの隣で、彼の“恋人”であり続けた方がいいに決まってる。

それなのに、私はまだお父様のあの暖かい手のひらの感触に未練が有ると言うのか。

最低だ。

どっくんは、私を受け入れてくれたじゃないか。
私がクローンだってことを打ち明けても、構わずに受け入れてくれたじゃないか。

それを押しのけて、私は自分を捨てたお父様の所に戻りたいと言うのか。

ξ;;)ξ「でも…だって…」

分かってる。我が儘もいいところだって。それぐらい分かってる。
でも。例え、私を“駒”としか見ていないとはいえ。
私を捨てた本人だとはいえ。

お父様は私の父親なんだ。

ξう;)ξ「誰か…教えてよ…私はどうしたらいいの?」

答えのでない禅問答。
不毛な葛藤を繰り返すうち、気付けば私はどっくんの部屋の扉を開けていた。
33 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:37:04.08 ID:nHhnsz/cO
('A`)「……お帰り」

ソファーに寝転がった彼が振り返り、私を迎える。
心なしか疲れきったような声。そういえば、今日はロイヤルガードの試験を受けて来たんだっけ。

ξ゚听)ξ「…ただいま。どーだった?」

すぐさま涙を拭いて尋ねる。
赤くなった目元じゃ直ぐに泣いてたのがバレるだろうと思ったけど、どっくんは顔を戻して押し黙った。

ξ゚听)ξ「…ねぇ、どっくん?」

どうしたんだろ。釈然としないままに、私は彼の隣に腰を下ろす。
35 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:38:56.71 ID:nHhnsz/cO
ξ゚听)ξ「ねぇ、試験どうだった?」

('A`)「……」

この時点で、大体は察することが出来た。

ξ゚听)ξ「……そう」

こんな時、どう慰めたらいいのか。
言葉は沢山有るけれど、そのどれが正解なのかは分からない。
もしかしたら、考えればその答えが解ったのかも知れない。

それでも、今の私にそれを考える余裕なんか無かった。

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「……」

沈黙。

つくづく、自分が嫌になる沈黙。
37 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:42:31.75 ID:nHhnsz/cO
('A`)「……なぁ、ツン」

ξ゚听)ξ「…なに?」

('A`)「君は…こんなオレでも…側に居てくれるか?」

何と答えたらいいのか。
模範解答など大昔から存在していて、解けない人間なんかこの世に居ないだろう、そんな単純な問い掛け。

頷いて、抱き締めてあげる。

ただそれだけの事なのに。

ξ゚听)ξ「……」

ただそれだけの事を、私は出来ないでいた。

('A`)「…ツン?」

不安そうな、彼の瞳。
止めて。そんな目で私を見ないで。
39 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:44:08.58 ID:nHhnsz/cO
('A`)「…側に…居て、くれるか?」

今、まさに捨てられようとする子犬のような彼の問い掛けに。

ξ゚听)ξ「あのね…どっくん…」

私は。

ξ゚听)ξ「お父様がね…ドイツに…帰って来いって…」

考えうる限り、最悪の答えを返した。

('A`)「━━え」

何を言っているんだろう。

コイツ、ナニヲイッテイルンダ?

彼の顔は、そう言っていた。

('A`)「それは…どういう…」

ξ゚听)ξ「私の銃の腕が認められたんだって。ドイツに有るお父様の会社から、ヘッドハンティングされちゃった」
43 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:50:10.21 ID:nHhnsz/cO
(;'A`)「君こそ…なんで、こんなタイミングでそんな話をするんだよ」

分かってる。分かってるよ。こんなタイミングでする話じゃないことぐらい。

(#'A`)「オレが試験に落ちたから…だから、そんな男とは一緒に居たくないってことか?」

ξ゚听)ξ「違うわ。私は……」

(#'A`)「じゃあ何で寄りによってこんなタイミングにするんだよ!オレは…オレは…」

嗚呼、ダメだ。

もう、ダメだ。
45 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:52:02.20 ID:nHhnsz/cO
ξ゚听)ξ「じゃあ、あなたの事を慰めてあげれば良かったの?」

(;'A`)「それは……」

ξ゚听)ξ「“試験に落ちて残念だったわね、でも大丈夫。あれだけ頑張ったんだから、次はきっと受かるわ”。そう言って、あなたを慰めれば良かったの?」

(;'A`)「……」

ξ゚听)ξ「それで、私のこの悩みは胸のうちに閉まって置けば良かったと。ねぇ、そうなんでしょ?」

馬鹿だなぁ、私。本当に馬鹿だ。

ξ )ξ「私に…そんな余裕…無いわよ」

私がもう少し大人だったら。私がもう少し強かったら。
48 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:54:18.90 ID:nHhnsz/cO
ξ゚听)ξ「……ねぇ、あなたは私のことを何だと思ってるの?」

(;'A`)「何って…恋人…だろうが…」

ξ゚听)ξ「そうね、私はあなたの“恋人”ね。でもね、私はそれ以前に一人の人間なの」

もう、止めなさいよ。今なら、まだ引き返せる。だから、もう止めなさいよ。

ξ゚听)ξ「もう一度聞くわ。私はドイツに行くべき?それとも、ここに止まるべき?」

違う。

(;'A`)「……行かないで、くれ」

ξ゚听)ξ「何故?」

(;'A`)「オレの恋人として…ここに…残って、欲しいんだ」

嗚呼、神様。
50 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/27(月) 23:56:54.40 ID:nHhnsz/cO
ξ゚听)ξ「……あなたは、私のこと愛してくれているんだと思ってた」

違う。

(;'A`)「…あ、愛してるさ」

ξ゚听)ξ「……」

(;'A`)「愛してるからこそ…君が無理する姿は見たくねぇんだよ。だから、ここで止める」



━━違う。




52 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:00:15.39 ID:J7Ds1PffO
ξ゚ー゚)ξ「……違うわ」

違うのよ、どっくん。

あなたが私を止めるのは、ただ、捨てられたくないから。

ただ、自分を慰めて欲しいから。

自分を肯定してくれる、都合の良いイエスマンが欲しいから。
54 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:03:10.90 ID:J7Ds1PffO
ξ゚ー゚)ξ「……あなたは、私のことなんか愛してない」

小さな嘘。

けれど、致命的な嘘。

(;'A`)「そんなこと…」

ううん。今の一言だけで、解っちゃったのよ。

ξ゚ー゚)ξ「あなたが愛してるのは肩書き。私の“恋人”という肩書きだけ」

(;'A`)「オレは…」

やだなぁ。

何で、こんな余計な事に気付いちゃったのかなぁ。

ξ゚ー゚)ξ「自分を好いてくれて、側に居てくれるなら、誰でもいいのよ」

(;'A`)「そんなこと…」

ξ゚ー゚)ξ「だったら、それが私じゃなくてもいいわよね?」
56 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:05:02.75 ID:J7Ds1PffO
(;'A`)「違う!オレは君だから━━」

ξ#;;)ξ「“君”って呼ばないで!!」

(;'A`)「━━っ!?」

ξ;;)ξ「そう…最初から、薄々そんな気はしてたわ」

どっくん。あなたは、私の事を何時も“君”と呼んでたよね。

出逢った時から、ずっと、恋人になってからも今まで。

ずっと。

ξ;ー;)ξ「ねぇ。…言葉にも、距離って有るんだよ?知ってる?」

(;'A`)「……」

ξ;ー;)ξ「君…なんて…そんな、他人みたいな呼び方…しないでよ…」

ああ、“他人みたい”、じゃないや。
59 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:07:30.45 ID:J7Ds1PffO
ξ;ー;)ξ「ちょっと違うね。…どっくんにとって私は、最初からずっと“他人”だった。そうだよね…?」

違う。

そう言って。

嘘でもいい。

抱き締めて。

例えそれがあなたの“恋人”に向けられたものでもいい。

今が、最期のチャンスなの。

これ以上は私、あなたを許せる自信が無いの。

エゴイストなのは分かってる。

だけどお願い。

私を抱き締めて。
61 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:09:21.96 ID:J7Ds1PffO
( A )「……」

彼は、動かなかった。

ξ;ー;)ξ「そう……」

誰が悪い訳じゃない。

タイミングが悪かった。

きっと、私達のどちらかに余裕があれば、こんなことにはならなかった。

私が彼を慰めてあげられたら。

彼が私を抱き締めてくれたら。

きっと、あと少しの間だけは、私達も恋人で居られたのかも知れない。

ξ;ー;)ξ「ごめんね…我が儘な女で…」

きびすを返して駆け出す私。

未練がましくも、彼が引き止めてくれるんじゃないかなんて思ったけど。

( A )「……」

俯いてうなだれる彼の瞳には、何処を探しても“私”の姿は映っていなかった。

62 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:12:23.14 ID:J7Ds1PffO
 ※ ※ ※ ※

━━かこん。鹿威しが立てる、乾いた音。

<(- _-<人ノ「……」

かこん。鹿威しが立てる、乾いた音。

<(' _'<人ノ「……いやに、静かですね」

半眼を開け、見渡す室内。二十畳の奥座敷。静まり返った離れ。

私邸とはいえ、十人の組員が寝泊まりしているこの邸宅。
夕餉の支度の音すらしないのは、おかしい。

<(' _'<人ノ『…松平』

脳核回線を開くも、応答は無し。

明らかな異常事態。

<(' _'<人ノ「誰かおりませんの?」

声を張り、呼びかけるも返ってくるのは鹿威しの乾いた音。
64 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:14:36.92 ID:J7Ds1PffO
<(' _';<人ノ「……」

立ち上がり、襖を開ける。
本宅へと続く渡り廊下には、夕方だというのに灯り一つ灯っていない。

<(' _';<人ノ「神山!弘前!誰かおりませんの?」

着物の裾を託しあげ、小走りに渡る廊下。
薄闇が蟠る純日本家屋の中に、人の気配は無い。

━━無い、代わりに。

<(' _';<人ノ「━━っ!」

息を飲み、見下ろす足元。
宵闇の、その、濃い、黒の、中。

誰かの足先だけが、かすかに見えた。
68 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:16:45.38 ID:J7Ds1PffO
━━死体。

全てを見ずとも、漂う血臭がそれを教えてくれる。

組員の、まだ、新しい、死体が、そこに、在ると。

<(' _';<人ノ「誰か━━!」

「あぁら、やっと気付いたのねぇん、お・ば・さ・ま♪」

声。野太い声。振り返る。振り返る背後。

(  )「でも離れを出たらダメじゃなぁい。“サムライ”が居なきゃお姫様はお散歩も出来ないんでしょおぅ?」

<(' _';<人ノ『誰か━━!』

とっさに開く脳核回線。オープンにしたそれは、果たして誰かの脳核に届いたのか。

69 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:18:27.61 ID:J7Ds1PffO
(  )「知りすぎた強欲おば様には、お仕置きタイムよぉん♪」

背中を貫く灼熱の痛みに途切れた意識では、それを知る術も無い。

<(' _';<人ノ『助…け……』

(  )「はいもういっちょ」



ぶつり。




72 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:20:24.75 ID:J7Ds1PffO
 ※ ※ ※ ※

━━日の落ちた通りの中、メソメソと泣きながら歩いていると、まるで悲劇の主人公になったみたいで、少し笑えた。

ξ;ー;)ξ「はは、ばっかみたい」

自嘲の笑みを浮かべて、余裕の有るふり。
馬鹿ね。そんな事が出来るなら、さっきしておけば良かったじゃない。
そうすれば、こんなことにならなかったのに。

ξ;ー;)ξ「ホント…馬鹿……」

悔しいかな。

あんな人だって分かってるのに、私はどっくんが大好き。

どっくんの声が好き。気だるげなあの声が好き。どっくんの腕が好き。痩せているようで、本当は筋肉がついているあの腕で抱きしめられるのが好き。

馬鹿だよね、ホント。救いようが無いよね。

ξ;;)ξ「……どっくん」

思わず飛び出して来ちゃったけど、行くあてなんかない。
前に住んでた倉庫は引き払っちゃったし、家具や荷物なんかも全てどっくんの部屋に置いて来てしまった。

ξ;;)ξ「…お父様」

それならいっそお父様の話を受けて、ドイツへ行けば上手く収まる。
携帯端末を取り出して、コールするだけで迎えに来てくれるそうだから、大した待遇じゃないか。
74 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:22:38.60 ID:J7Ds1PffO
ξ;;)ξ「……でも」

でも。今はそんな気分じゃない。

あんなに迷ってたのに、いざどっくんの家を飛び出すと、凄く寂しい。

やっぱり、止めようかな。

ごめんなさいって謝って、また一緒に住もうって言おうかな。

ξ;;)ξ「……でも」

でも。どっくん許してくれるかな。

こんな我が儘な私を、どっくんは許してくれるかな。

ξ;д;)ξ「無理だよ…ダメだよ…許してなんか…くれないよ…」

へたり込んで、泣きベソ。
嗚呼、嫌だな。どうしようも無いくらいに、私はどっくんの事が好きなんだ。
こんな、みっともない涙を流しちゃうくらい、どっくんが好きなんだ。
嗚呼、こんな風にどっくんの前で素直に泣けたらな。
嗚呼、イヤだな。私って、本当に意地っ張りの馬鹿なんだな。

ξう;)ξ「そうだ…」

荷物。荷物を取りに来たって言えばいいんだ。
それなら、どっくんの家に戻る口実になるよね。
そしたら、戸口でどっくんに謝れるよね。
76 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:26:10.01 ID:J7Ds1PffO
ξ;ー;)ξ「……なんだ、簡単じゃない」

こんな所で泣いてる場合じゃない。
ここで涙を全部流しちゃったら、どっくんの前で見せる分が無くなっちゃう。

ξ;ー;)ξ「……謝ろう」

私が悪かったって。もう、ドイツに行くなんて言わないからって。ずっと、ずっと、ずーっと、どっくんの側に居るからって。

ξうー;)ξ「…うん」

ちゃんと、私、言うよ。

ごめんなさいって、言うよ。



だからどっくん、どうか私を許して下さい。





77 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:27:57.76 ID:J7Ds1PffO
 ※ ※ ※ ※

━━血しぶきを浴びて、真っ赤に染まる視界。

(,,゚Д゚)「……十人」

刀の血糊を払い、振り返る背後。
闇の帳の綾瀬邸。どす黒い血液という絵の具が塗りたくられたキャンバスがごとき、その廊下。
鬼籍に入った組員の骸の数を数える。

(,,゚Д゚)「……これで、全員か」

呆気ない。

以前にも感じた、この手応えの虚ろさ。

(,,゚Д゚)「……こんな奴らに…オヤジは…」

考えただけで憎悪が背筋を這い、憤怒がはらわたを捩る。
足りない。こんなものでは復讐には足りない。
79 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:29:43.21 ID:J7Ds1PffO
(,#゚Д゚)「るるぅぅぅおぉぉぉおぁぁあああ!」

振りかぶる刀。
憎しみを乗せた刀身で、骸を刻む、刻む、切り刻む。

(,#゚Д゚)「足りない!足りない!足りない!足りない!足りないんだよぉぉおぉぉお!」

刻む度飛び散る、血、皮膚、肉、内蔵、皮下脂肪、骨。
黄、白、赤、朱、黄土、人を形造る、肉の絵の具の醜怪なコントラスト。
ならばオレが振るうは鋭い絵筆か。
81 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:31:08.34 ID:J7Ds1PffO
(,;゚Д゚)「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

滅茶苦茶に。ズタズタに。原型を留めぬミンチとなった“それ”に気付き、手を止める。

「━━はぁい、ワンちゃん。随分とご機嫌斜めね」

背後からの唐突な声。

(,#゚Д゚)そ「━━シッ!」

振り返りざまに、とっさの薙払い。

「おおっとぅ!」

文字通り宙を薙ぎ。

(,;゚Д゚)「貴様……!」

オレが、そこに“闇”を見た、その刹那。

(  )「部外者は、退場願えるかしらん?」

腹部を生暖かい感触が貫き、オレの意識は途切れた。
84 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:33:15.33 ID:J7Ds1PffO
 ※ ※ ※ ※

━━切れかかった蛍光灯が、錆び付いたアルミのドアを頼りなく照らしている。

ξ゚听)ξ「……」

手垢で汚れたドアノブを掴んでは離して、右往左往。
そう言えば、何時かもこんな風にしてこのドアの前を彷徨いてたっけ。

ξ゚听)ξ「……どっくん」

小さく、囁くように、声に出す。
たった5センチのアルミのドアが、今はとてつもなく分厚い。

ξ゚听)ξ「どっくん……!」

勇気を振り絞って、もう一度。
裏返った声に、返事は無い。
88 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:35:38.29 ID:J7Ds1PffO
ξ )ξ「どっくん……」

涙が溢れてきそうになる。駄目だ。まだ、泣いちゃ駄目だ。

頑張って。もっと大きな声で。さぁ、もう一度。

ξ><)ξ「どっくん!」

アスファルトの壁に、反響する私の声。
残響は次第に小さくなり、やがて、静寂。
耳が痛くなる程、胸が痛くなる程、静寂。

ξう;)ξ「……やっぱり…ダメなの…?」

黙ったままのドアを見つめる視界が、涙でぼやける。

誰も返事を返してくれないって、こんなに寂しいんだな。
90 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:38:14.72 ID:J7Ds1PffO
ξ;;)ξ「……お願い…返事…してよ…」

へたり込んでしまいそうなほど、震える足。
挫けてしまいそうなほど、痛む胸。

もう、駄目なのかな。

私達、もうおしまいなのかな。

「……なんだよ」

ξ;;)ξそ「!」

そんな風に参っちゃってたから。
ドアの向こうから唐突に響いてきた声に、私は思わず息を呑んでしまった。

「……なんか、用かよ」

不機嫌で、ぶっきらぼうな、だけど、バツの悪そうな声音。
顔は見えないけど、どっくんもまだ私の事が全部に嫌いになったんじゃないんだって思えて、ちょっぴり救われた。
93 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:40:08.09 ID:J7Ds1PffO
ξう;)ξ「忘れ物…取りに来たの…」

さぁ、ツン。ここからが正念場よ。
頑張って、どっくんに謝るのよ。

「忘れ物?」

ξ゚听)ξ「うん。……ほら、あの、ウェッジウッドのペアカップ…」

「あぁ…あれ…」

ξ゚听)ξ「…私の分だけでいいから…持っていきたいなって…」

「……今か?」

ξ゚听)ξ「…うん」

長い、長い、間。

やがて。

94 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:42:11.30 ID:J7Ds1PffO
「……後で住所教えてくれれば、送るよ。今は……」

歯切れの悪い、拒絶の言葉。
“今は”何なの?今は顔も見たくないの?それとも……。

ξ゚听)ξ「ねぇ…覚えてる?私が、そのカップを買った日のこと」

「……は?」

ξ゚听)ξ「思えば、あれが初めてのデートだったんだね。あの時は、まさかあのペアカップをどっくんと一緒に使うなんて思ってもいなかったわ」

「……」

ξ゚听)ξ「だって、お互いに第一印象は最悪だったものね。
私だって、友達に背中を押されなきゃ、どっくんとまた会おうなんて思わなかったもの」

「……昔話なら、また今度聞くよ。だから…」

ξ゚ー゚)ξ「…でもね、今だから分かる。きっと、あの日から私は…どっくんに惚れちゃってたんだと思う」

思い出す、あの日の光景。

ξ゚ー゚)ξ「どっくん、骨董が趣味だって言った私を笑わないでくれたよね。多分、それがきっかけ。他にも色々どっくんを好きになった理由は有るけど、それが一番だと思う」

幸せだった、あの日の光景。

95 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:45:39.81 ID:J7Ds1PffO
ξ゚ー゚)ξ「嬉しかったんだよ、私。あの時は素直に言えなかったけど、本当に嬉しかったんだよ」

「……そうかい。そいつは良かったな」

ξ゚ー゚)ξ「ううん。それだけじゃない。あの教会で話した時もだよ。どっくんは、私がクローンだって知っても、受け入れてくれたよね」

「……それは…別に…」

ξ゚ー゚)ξ「そして、どっくんは、私に自分の過去の事も教えてくれた」

「……だから、それは別に…」

ξ゚ー゚)ξ「どっくんにとっては大した事じゃなくても、私は嬉しかったの」

「……おめでたい奴だ」

ξ゚ー゚)ξ「他にも、いっぱい嬉しいことが有ったよ。数え切れないぐらい、いっぱい。ううん。どっくんの側に居るだけで、私は嬉しかった。それだけで幸せだった」

「……」

思い出というものは、何時も都合が良い。
こんな時浮かんでくるのは、全部が全部幸せに満ち溢れていた時の光景ばかりなのだから。

ξ;ー;)ξ「……そんな幸せも、今日、ここで全部終わっちゃうんだね」

「……」
99 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:47:58.62 ID:J7Ds1PffO
ξ;;)ξ「……ねぇ、どっくん。私が悪かったわ。ごめんなさい。許して」

「……」

ξ;;)ξ「もう…何処にも行かないから……お願い…どっくんの…側に居させて…」

沈黙。永い、沈黙。

心が折れてしまいそうな程の沈黙。



それは、聞きなれた“あの音”によって破られた。




102 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:50:19.46 ID:J7Ds1PffO
 ※ ※ ※ ※

━━まさか、彼女がまた扉を叩くなどは思っていなかった。

「……忘れ物、取りにきたの」

もう、完全に愛想を尽かされたのだと思っていた。

“あなたは私のことなんか見ていない”

“あなたが愛していたのは「恋人」という肩書きだけ”

図星だった。気付かないふりをしてきたが、彼女に指摘されて嫌でも自覚せずには居られなかった。

「……ほら、あの、ウェッジウッドのペアカップ…」

現に彼女を好きになった理由を聞かれても、オレは明確な答えを用意することが出来ない。

ただ、向こうが愛していると言ってくれたから。だから、受け入れた。

不誠実な愛は、上辺をなぞるだけの愛は、結局はごまかし切れてなくて、ホンの些細なことで途切れてしまうもの。それが、今回だったというだけで。

醜い本音をさらけ出せば、ただ、「美人と付き合えてる自分」に酔いしれていた。そんな、溝の中で腐った糞便のような汚らわしい心。

そんなものが長続きする筈など無いと。思い知らされたばかりだったから。

103 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:52:25.91 ID:J7Ds1PffO
「……ねぇ、どっくん。私が悪かったわ。ごめんなさい。許して」

何故、彼女がこんな風にしてまた戻ってきたのかが、不思議でならなかった。

“私が悪かった”

そんなことは無い。君が悪かったことなど、今まで一度だってあっただろうか。

わからない。

どうして、そこまでしてオレを愛そうとするのか。

「もう…何処にも行かないから……お願い…どっくんの…側に居させて…」

わからない。

どうして。オレは、こんなにも醜くて、君の愛すら信じられない矮小な男だ。

オレは、オレと言う男は、自分にすら見切りを付けられる程に救いようの無い男だ。

それをどうして君は、好き好んでそんな言葉が言える?

何故だ?何故だ?何故だ?

( A )「……どう…して」
105 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:54:40.23 ID:J7Ds1PffO



問い掛けに答えたのは、一発の銃声だった。



109 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:56:16.91 ID:J7Ds1PffO
(;゚A゚)そ「なっ━━!」

背後で、窓ガラスの砕け散る音。
刹那、頬を掠める鉛の感触。

(;'A`)「銃撃…!?」

どういう事だ。理解不能。とっさの事態に追い付かない思考。
辛うじて、本能が腰のデザートイーグルを引き抜き、姿勢を低くさせた。
112 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:58:17.38 ID:J7Ds1PffO
(;'A`)「……な、何が起こってやがる」

割れた窓から吹き込んでくる夜風が、頬の傷口を撫でる
狙撃。恐らくは向かいのビルから。しかし、何故。

(;'A`)「オレが狙われるような理由なんて、心当たりは……」

「どっくん!ねぇ、どうしたの?何があったの!?」

まさか。

「今の音、何!?ねぇ、開けて!どっくん!どっくんったら!」

いや。そう考えると、納得出来る。
114 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 00:59:30.54 ID:J7Ds1PffO
( A )「……なるほど、そう言う訳か」

どうりで、おかしいと思っていたんだ。

「……どっ…くん…?」

( A )「思えば、出会いの時点であまりにも出来過ぎてたんだよなぁ」

「どっくん?…ねぇ、何を言ってるのか…」

( A )「毎日のようにオレの部屋に通ってたのは、オレの生活パターンを調べる為か」

そして、オレの警戒心を解いて。

( A )「忘れてたよ。君が、ヤクザのお抱え殺し屋だってことをな」

「どっくん?…何…言ってるの…?」

(#゚A゚)「バックレてんじゃねぇ!最初から、オレを殺すつもりで近付いてやがったんだろ!」

カスタムデザートイーグルの咆哮。
117 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 01:02:05.46 ID:J7Ds1PffO
「きゃっ━━!」

ドア越しに悲鳴。だが、もう騙されない。

(#゚A゚)「おかしいおかしいと思ってたよ…あぁ…どうして君みたいなのが、オレと付き合ってんのかってな…」

「どっくん!?何言ってるかわかんないよ!」

アルミのドアのその向こうへ目掛けて、カスタムデザートイーグルの引き金を引く。

(#゚A゚)「だがやっとわかった。今の狙撃でわかった。最初から…最初から君は!オレを殺すつもりで!」

発射、発射、発射。弾装が空になるまで、何度も、何度も、何度も引き金を引く。

「違うよ…わけ…わかんないよ…どっくんが…何言ってるのか…私…わかんないよ…」

そうだ。前もそうだった。
愛していると耳元では囁いて、実際の所は常にオレの心臓を狙ってやがる。
女って生き物は、みんなそうなんだ。

(;A;)「君は…君だけは…違うと思っていたのに…」

「どっくん…ねぇどっくん…痛い…よ…」
121 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 01:03:56.26 ID:J7Ds1PffO
(#;A;)「うるせぇ!気安くオレの名前を呼ぶんじゃねぇえ!」

どっくん。

かつて、オレをそう呼んだ女の顔が脳裏をよぎる。

甘く、酸っぱい、初恋の思い出。

初めて人を好きになって。初めて恋を知って。

それで。それで。



裏切られた。





122 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 01:06:08.78 ID:J7Ds1PffO
(#;A;)「消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!オレの前から消え失せろぉぉぉおぉお!」

“自分の身も守れないのなら、軽々しくその盾を持つな!”

“嘘だったのよ。全て、あなたを騙す為の”

“滑稽よね。あなたも。…そして、私も”

(#;A;)「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!」

“さようならの時間よ、どっくん”

(#;A;)「あぁぁぁぁあぁぁあああぁぁああぁぁぁぁあぁぁあああぁぁああぁぁぁぁあぁぁあああぁぁあ!」

絶叫、咆哮、後、慟哭。
軽くなった引き金の感触に残弾が尽きた事を知ると、オレは力無くその場にへたり込んだ。
124 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 01:08:15.36 ID:J7Ds1PffO
(;A;)「あぁ…はぁ…」

目の前には、穴だらけになったアルミのドア。
硝煙の中、足元に転がるのは無数の空薬莢。

(うA;)「うっ…あぁ…はぁ…ぁっ…」

次第に冷静さを取り戻していく思考。嗚咽を引きずりながら立ち上がり、ドアを開ける。

(;A;)「……」

ドアの向こう。蛍光灯の明かりの中に、人影は無い。
床に幾つも穿たれた銃創と、点々と零れた紅い血が、彼女の存在を物語っていた。

( A )「……ツン」

愛していたのか。オレは、果たして彼女を愛していたのか。

わからない。

今となっては、もう、わからない。

ただ、確実に言えることは一つ。

( A )「……もう、誰も信じるもんか」

腹の奥。残った憎悪だけが、ふつふつと煮えたぎっていた。
128 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 01:10:44.41 ID:J7Ds1PffO
 ※ ※ ※ ※

━━虫の息。経験してみて、初めてわかる。これは、本当に虫が息をしてるみたいだ。

ξ;;)ξ「ひゅ…はっ━━ぁっ━━かっ……」

胸を貫いた鉛玉の感触を思い出す。痛いんじゃない。あれは“気持ち悪い”。

ξ;;)ξ「━━っひゅ━━はっ…あ……」

彼の突然の暴挙。どうして。何故、彼は半狂乱になって銃を乱射したのか。
ヒントさえ存在しないその難問は私に解ける筈も無く。

ξ;;)ξ「あぁ━━はっ━━あ……」

私は謝ったのに。私は悪くないのに。どうして私を許してくれないの?どうして私が撃たれなきゃいけないの?

考えれば考えるだけ、“理不尽”に対する怒りは増すばかり。

ξ )ξ「……許さ…ない…」

こんな仕打ちは間違っている。こんな暴挙が許されていい筈が無い。絶対に。何があっても、許されざるべきだ。

ξ )ξ「……絶対に…許さな…い…」

あなたが私を殺そうとするなら、いいだろう。
ならば私も、あなたを殺すつもりでこれからの人生を生きよう。
130 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/04/28(火) 01:12:28.11 ID:J7Ds1PffO
ξ )ξ】「……私よ。ツンよ」

血に塗れた手で懐をあさり、携帯端末を取り出すとコール。

ξ )ξ】「えぇ…そう…この間の話…受けようと思って…」

いつか。いつか必ず、この手で殺してあげる。

だから、その日まで決して死なないでいて。

それが、私があなたに贈れる最後の愛。

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